2016年 06月 19日
為替が円高に振れ始めたと思ったら、メディアは中国客の「爆買い」にも影響が出てきたと報じ始めました。 「爆買い」に急ブレーキ インバウンド 変わる風景(日本経済新聞2016/6/18) http://www.nikkei.com/article/DGXLZO03780060Y6A610C1SHA000/ 5月の大型連休明け。家電量販店のヤマダ電機はJR新橋駅前(東京・港)の店舗をひっそりと閉めた。不採算60店を一斉閉店する一方、新たな「戦略店」として2015年春に開いた免税専門店だった。 ■1年で見切り 「インバウンドは経営の核にならない」。山田昇会長は1年あまりで見切りをつけた。1台10万円近い炊飯器を何台もまとめ買いする中国人客。一本調子で増えてきたこんな「爆買い」にブレーキがかかった。 中国は経済成長が鈍り、15年夏には上海株が急落。円高・人民元安が進み、この1年で日本の商品の“お得感”は2割近くも失われた。ただ、爆買いがしぼむ理由をこれだけで片付けることはできない。 訪日観光ビザの4割を発給する上海の日本総領事館では1~4月の発給件数が前年同期比15%増。日本への旅行熱が冷める気配はない。沿岸部中心に給与水準は上昇。2桁成長が続く中国の消費市場では依然、日本製の人気は高い。実際、16年1~3月期に訪日中国人客の旅行消費額は客数の伸びが寄与し、前年同期を4割強上回った。ただ、1人当たりに換算すると、12%近くも減っている。 「税制が変わってコストが合わない」。九州に住む中国人の主婦、高園園さん(29)が話す。ドラッグストアなどで買い付けた商品を本国の客に販売してきた代購(代理購入)。いわゆるブローカーだ。 中国政府は4月、越境EC(電子商取引)に関する税制を変更した。事実上免税だった個人輸入扱いの荷物に一般貿易並みの税金が課される。税制の抜け道を使って荒稼ぎするブローカーを締め出し、正規の貿易業者の不公平感をなくすことが狙いとみられる。人海戦術で商品を調達してきた代講は関税引き上げと円高でうまみがなくなった。 日本百貨店協会がまとめた4月の全国の百貨店のインバウンド向け売上高は3年3カ月ぶりに前年割れとなった。客数は7%以上増えたにもかかわらず、単価が16%近く落ち込んだ。三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は「ブローカーが減った」とみる。 ■大きな振れ幅 免税店大手のラオックスは5月まで全店売上高が4カ月連続で前年割れとなった。店舗数は増やしても単価下落が補えない。8月をめどに日本行きのクルーズ船が発着する上海港に展示場を設ける。家電や化粧品など1000点超をそろえて、訪日前に予約販売。日本の店舗で手渡す。クルーズ旅行の富裕層を店舗に呼び込む苦肉の策だ。 免税販売は想定ほど伸びない。家電量販店のビックカメラは16年8月期の連結売上高を下方修正した。宮嶋宏幸社長は「インバウンドは1割程度が適切」と強調する。単体売上高に占める免税販売の比率は15年12月~16年2月期ですでに11%程度となっている。 15年には3兆4000億円に達し、百貨店や家電量販店を潤したインバウンド消費。振れ幅の大きさはリスク要因となりかねない。 この記事の興味深いところは、中国政府が「越境EC(電子商取引)に関する税制を変更」したことで、「爆買い」のもうひとりの重要なプレイヤーだったブローカーたちが「人海戦術で商品を調達してきた代講は関税引き上げと円高でうまみがなくなった」と指摘していることです。同様に、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長も「ブローカーが減った」とみていること。なんだ、これは観光客の話ではないじゃないですか、とつっこみを入れたくなります。 しかし、中国団体客ご用達免税店のラオックスが「5月まで全店売上高が4カ月連続で前年割れ」であるとしたら、中国客の買い物手控えは、すでに春節頃から始まっていたことがわかります。 昨年から中国政府があの手この手で中国客の「爆買い」阻止に動いていたことは知られています。決定的となったのは「事実上免税だった個人輸入扱いの荷物に一般貿易並みの税金」が課されたことでしょう。 これでは、以前のように、知人友人親族のために、あるいは自らの面子のために、炊飯器を6つも7つも買って帰るなんて、したくてもできません。高い関税がかけられたのでは、中国で購入するのと変わらなくなりますし、周囲に自分は「こんなに安く買ってきたのだ」と得意げに言い張ることができません。海外から帰国した中国人が周囲に土産物をばらまくときに見せる、あのご満悦の表情にケチをつけたのは、中国政府です。内需を拡大することが至上命題である中国の深刻な事情を知ってか知らずか、どこか浮かれた気分だった自国民に冷水を浴びせたというべきではないでしょうか。 気になるのは、中国の旅行会社から訪日客を預けられる在日中国人のガイドたちです。これまでのように売上がたたなければ、免税店から十分なコミッションをもらえないわけですから、ホテルやバス、食事の支払いに窮することになると一大事でしょう。仕事を放りだす人たちが出てくるかもしれません。 それでも、訪日中国客は増え続けています(16年1~5月の中国客はすでに249万人。前年度比45.3%増)。熊本地震も、いまのところ影響はないようです。 今年2月、四川省を訪ねたとき、現地の若い中国人たちが口をそろえてこう言っていたことを思い出します。「日本ではさかんに中国人の爆買いを報道しているようだけど、なんかバカにされている気がする」。 「べつにバカにしてるんじゃなくて、驚いているんだよ。だって、日本人はそんな買い方をしたことがないので、見ていて面白いし、商売人も売上アップでうれしい。盛り上がらないわけがないでしょう」 そうぼくが言うと「べつに日本で買わなくても…。これじゃ中国に買うものがないみたいじゃないですか」と答えるのです。 みんながそうだとはいいませんが、一部の中国人は、日本の「爆買い」報道で自尊心が傷ついた面があるようなのです。 確かに、日本の「爆買い」報道に一種のあざけりのようなニュアンスが含まれていなかったかといえば、ウソになるでしょう。長期デフレに沈む多くの日本人にとって、景気よく買い物をする中国客の姿を見るのは面白くない、という感情もあるはずです。これは上海に在住する日本人の友人がよく言うのですが、「日本のメディアの中国報道には、妬みが入っている」と。そうかもしれませんね。 一方、ネットでこんな記事もありました。 「日本製」買う中国人に、悩む中国人 「同じ物作れるのに」=中国メディア(サーチナ2015-12-10) http://news.searchina.net/id/1596727 中国人が海外で「爆買い」する背景には「自国製品への不信」があることは、当の本人たちは自覚しています。しかし、それは自国の面子を失わせることでもある。そんなことをわざわざ外国人に言われたくない…。 彼らの複雑な心理を知ると、ちょっと気の毒に思えてくるところがあります。彼らには、買い物が単なる個人の楽しみとしての消費行動にはならないところがあるのです。中国政府もメディアを使って、そのようにうまく誘導してきたと思います。 その点、台湾の人たちは、実におおらかに「爆買い」を楽しんでいます。今年2月、日本薬粧研究家の鄭世彬さんと一緒に『爆買いの正体』(飛鳥新社)という本をつくったときも、彼は日本でたくさんの買い物をすることが自尊心に関わる問題だなどとは想像もつかないことのようでした。 『爆買いの正体』という本は、昨年新語・流行語大賞を受賞した「爆買い」はどうして起きたのか。その背景を台湾人の目を通して語ってもらうというもので、「爆買い」の当事者である華人自身が語る本質を突いた指摘があふれています。要するに、華人にとって「爆買い」は本能だというのです。 さらに、この本は台湾人によるあふれんばかりの日本愛の告白書です。なぜ台湾の人たちがこれほど日本の製品を愛好してくれるのか、その理由を熱く語ってくれています。 やはり、台湾人と中国人はまったく違うのですね。 とはいえ、「爆買い」が本能であるのは、中国人も同じ。本当は彼らにも気持ちよく買わせてあげたいものですが、一度ケチがついたら、これはけっこう長引くかもしれません。
by sanyo-kansatu
| 2016-06-19 18:59
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