2016年 09月 13日

中国客の「爆買い」はこうして終わった で、今後はどうなる?

中国人観光客の「爆買い」が終わったと多くのメディアは指摘している。本当にそうなのだろうか。では、その理由は何なのか。探っていくと、そこには3つの理由があることがわかった。
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7月上旬、中国南方航空の成田・ハルビン線の機内の大半は中国客だった。彼らは日本人に比べればずいぶん多くの買い物をしているようだが、昨年までのように炊飯器を5つも6つもまとめ買いするような人は見かけなかった。

現地到着後、預け入れ荷物を受け取った中国客の多くは、X線検査装置にそれを通さなければならない。そのため、買い物を手控えているのだろうか。少なくとも、その光景を見る限り、「爆買いが終わった」というのは本当のようだった。
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■電化製品やカメラの購入額が減少

いくつかの経済指標がそれを裏付けている。

たとえば、2016年7月の全国百貨店売上高概況によると、免税品売上高が前年同月比で21.0%減少。購買客数は継続して拡大しているが、購買単価の下落によるものだ。

全国百貨店売上高概況(2016年7月)
http://www.depart.or.jp/common_department_store_sale/list

中国人観光客ご用達免税店ともいえるラオックスの7月の売上高も、前年同月比44%と大きく減少。前年度比マイナスは今年2月から続いている。

ラオックス月次状況報告(2016年7月)
http://www.laox.co.jp/ir/upload_file/library_05/getsuji_201607_jp.pdf

観光庁が四半期ごとに実施している訪日外国人消費動向調査(2016年4−6月期)では「訪日外国人旅行消費額は9533億円で、前年同期比7.2%増加。ただし、1人当たりの旅行支出は15万9930円で、9.9%減」と報告している。
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国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額と構成比(2016年4-6月期)観光庁プレスリリース(2016年7月20日)より

なかでも中国の1人当たり支出は21万9996円で22.9%減。トップは中国を抜いたベトナムの23万8000円だった。観光客数が多いぶん、国別の消費額のシェアは中国がトップで37.0%を占めるが、比率は前年の40.3%から下がっている。

「爆買い」の主人公と目される中国人観光客の消費は、明らかに昨年に比べ減退していることがわかる。

さらに報告書では、消費される費目について「“電気製品”や“化粧品・香水”では中国、“医薬品・健康グッズ・トイレタリー”では台湾と中国の購入率が高い」と指摘する。

だが、中国客の「電気製品」の購入者単価は前年同期の6万2316円から3万6630円へ、「医薬品・健康グッズ・トイレッタリー」も4万1225円から3万3479円へと減少。

特に「カメラ・ビデオカメラ・時計」は10万3920円から6万246円に大きく減少した。

訪日外国人消費動向調査(観光庁)
http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

こうした具体的な費目の調査からも、中国客の日本での消費シーンが様変わりしていることがうかがえる。

※購入率(その費目を購入した人の割合)、購入者単価(その費目を購入した人における当該費目の1 人当たり平均支出)を指す。

■「爆買い」が終わった3つの理由

その一方で、訪日中国客数は相変わらず伸びている。日本政府観光局(JNTO)の8月17日付プレスリリースによると、今年7月の訪日中国客数は前年同月比26.8%増の73万1400人。

単月として過去最高を記録している。

こうした客観情勢をふまえ、「爆買い」が終わった理由を検証してみたい。

以下の3つの理由があると筆者は考えている。

①中国の景気低迷による消費者心理の変化
②メディアが誘導した愛国的反発心
③転売できなければ「爆買い」なし


まず①「中国の景気低迷による消費者心理の変化」について。

筆者は7月上旬から約1ヵ月間、中国の地方都市(東北三省や内蒙古自治区)を視察する機会を得たが、各地で聞かれるのは「景気がよくない」という声ばかりだった。

特に地方都市では、急ピッチで進む高速鉄道網の拡充に代表される政府のインフラ投資が盛んに見られたが、民間経済の押し上げには必ずしもつながっていないようだった。

一方、深圳や上海、北京などの経済先進都市で特徴的なのは、政府の規制緩和策により再び始まった不動産価格の高騰とEC市場の拡大だ。ECについては明らかに日本より各種のサービス面で進んでいる点も多い。

だが、それは手放しで喜べる話でもないようだ。

不動産価格の高騰は一部の利得者に恩恵を与えるとしても、国民生活にもたらす影響が懸念される。また、「いまの中国人はショッピングモールで洋服の試着はするけれど、実際に買うのはネット。そのほうが安いから。でも、これは中国の経済全体にいい影響を与えていない」という声もある。

共通するのは、もはやGDP2桁成長が続いた2000年代の中国ではないという認識だ。

もうひとつ別の観点を付け加えれば、日本の百貨店の免税売上の購買単価が下がり、高額商品の売れ行きが落ちた背景には、習近平政権が推し進める「反汚職キャンペーン」の影響も考えられる。汚職に対する社会の目が厳しくなったことから、役人への贈り物や接待需要が激減したからだ。これが経済へのマイナス影響を与えているとの指摘も多い。

こうしたことから、中国の消費者心理は以前に比べ変わらざるを得ない。特に団体ツアー客を多く送り出している地方都市ほどその影響は大きそうだ。

■日中炊飯器論争と愛国

次に②「メディアが誘導した愛国的反発心」だが、これを象徴する事例がある。昨年春頃に始まった「日中炊飯器論争」だ。

論争を仕掛けたのは国営大手メディアだった。日本製と中国製の炊飯器で炊いた米の味の比較実験を始めたのである。

中日両国の炊飯器の性能を徹底比較 勝つのはどっち?(人民網日本語版2015年3月2日)
http://j.people.com.cn/n/2015/0302/c94476-8855374.html

ここでは大真面目に「中日の炊飯器で炊いた米の味を比較」した結果、「中国製の炊飯器で炊いた米の方が美味しいと答えた人は5人、日本製の方が美味しいと答えた人は3人、「ほとんど同じ」と答えた人は2人だった」と票決している。

これはテレビの比較広告ではない。比較の対象は企業ではなく、国家である。

その後も日中炊飯器論争は続くのだが、さすがにこれではあからさますぎると思ったのか、自国の製造業の問題をいかに克服するかという議論に移っていく。

全人代代表、製造業めぐり熱い議論 炊飯器が出発点(人民網日本語版2016年3月10日)
http://j.people.com.cn/n3/2016/0310/c94476-9028195.html

「日本の電気炊飯器現象」が中国家電企業に刺激、家電大手が新たな展開(人民網日本語版2016年3月14日)
http://j.people.com.cn/n3/2016/0314/c94476-9029652.html

こうした奇妙な論争が起こる背景には、従来の投資に頼る経済から消費主導の社会に転換していかなければならないという中国の大命題がある。

自国の製造業が発展すれば、なにも海外で炊飯器を買う必要はない。そう訴えかけることで、海外で買い物ばかりしている自国民に警鐘を鳴らしたのだ。

中国政府は近々、自国の製造業の品質を向上するために「消費品標準・質量向上計画」なる施策を公表するようだ(朝日新聞2016年8月30日)。

こうした一連の動きから、海外での「爆買い」によって消費が国外に逃げることを政府がいかに問題視しているかわかる。その意味でも、中国メディアは巧みにナショナリズムを利用して国民の意識を誘導したのだといえる。

そして、この議論に余計な刺激を与えたのが、日本での中国人観光客「爆買い」報道だった。

筆者はこれまで多くの日本をよく知る中国人と「爆買い」について話をしたが、決まって彼らはこう言う。

「爆買い、爆買いって、なんだか私たち、バカにされている気がする。中国にだっていいものはあるわ」。

ほんの数年前まで中国では、なにかにつけて「日本商品不買運動」を提唱する声がネット上にあふれたものだが、さすがに消費社会化が進むと、その無意味さに多くの国民が気づくようになる。だが、今回に限っては、日本の報道が彼らの自尊心を刺激し、反発心を引き起こした面もあるようだ。
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中国人はこんな光景はもう観たくない!?

■「爆買い」とは何だったのか
 
こうしてみると、一部のメディアが報じた中国人観光客の旅行支出が「モノからコトへ」と変わるという説明はいかにも単純すぎるだろう。

ここであらためて「爆買い」とは何だったのかについて確認したい。

その問いに明快に答えてくれるのは、台湾出身の日本薬粧研究家の鄭世彬氏だ。彼が今春上梓した日本での初の著書『爆買いの正体』(飛鳥新社)によると、「爆買い」の背景には以下の3つのポイントがある。

①華人にとって買いだめは本能
②面子や血縁を大切にする文化的特質
③誰もが転売業者のような買い方をする


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『爆買いの正体』(飛鳥新社)は、中国人の買い物の特徴について詳しく解説している。同書を読むと、彼らが「爆買い」した理由がよくわかると同時に、急ブレーキがかかってしまった理由も見えてくる。

鄭氏によると、歴史的に変動の大きな社会を生きてきた中華圏の人たちは買いだめが本能だという。つまり、買えるときにたくさん買っておきたいという消費心理が身についているというのだ。

旅行に行くと、お土産を広く配る習慣が残っているのは、人間関係を重視する社会ゆえだ。

さらに、根っからの商売人気質ゆえに、誰もが転売業者のような買い方をする。それがネットやSNSによって想像を超えた拡散効果と購買の連鎖を生んだのが「爆買い」の正体だった。

この指摘が興味深いのは、日本のメディアを通じて我々が思い描いていた「爆買い」に対する理解は、少し的外れだったかもしれないことに気づかされるからだ。

中国人観光客の多くは「富裕層」などではなく、自分のためだけにお土産を買っていたのではなかった。

直接代償としての金銭を受け取るかどうかはともかく、帰国後、購入した商品が多くの人の手に広く渡っていくことが前提だったのである。だからあれほど大量に、転売業者のような買い方をしたのだった。

さらに、観光客以外にも多くの「爆買い」の担い手がいたことは知られている。

それは日本に住む中国系の人たちの代購(代理購入)業者だった。

一部の企業にとって観光客の買い物より代購による売上が大きかったとの指摘もある。

あるトイレタリー企業の関係者も「売上のピークは2015年10月。その多くは代購によるものだった」と証言している。

この点について、ある中国の旅行関係者もためらうことなく、こう話す。

「日本では中国人が「爆買い」をしなくなったと言っているようだが、その理由をひと言でいえば、代購が難しくなったからだ」。

背景には、海外の輸入商品が街場のショップより安く買えるというふれこみで広がった中国の越境ECの普及がある。所詮ブローカーにすぎない代購業者たちは、それ以降、もう利益が見込めないとみてあっさり商売替えしてしまったのだ。これは日本に限らず、欧米諸国でも同様に起きていたことなのである。
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「出勤中に買って、出社時に受け取る。その日に届き、その日に使える」。購入手続きの簡便さと早さをうたう中国越境ECサイトの「T-mall(天猫)」の地下鉄広告(上海)


■とどめを刺した荷物の開封検査

こうしたなか、今年に入って「爆買い」にとどめを刺したのが、4月6日付け文書で7日交付、8日には執行と、日本ではあり得ないスピードで着手された中国の税関による海外旅行者への荷物の開封検査の強化だった。 
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海关总署公告2016年第25号(关于《中华人民共和国进境物品归类表》和《中华人民共和国进境物品完税价格表》的公告)
http://www.customs.gov.cn/publish/portal0/tab65598/info793342.htm

この通達の添付資料には、食料品(15%)から酒(60%)、電気製品(30%)、化粧品・医薬品(30~60%)など、中国人が好んで買いそうな、さまざまな商品に関する免税枠と関税率が事細かに記されている。

ある中国の訪日ツアーの担当者によると、関税率自体は2012年に出されたものと大きく変わっておらず、要はこれまでスルーされていた旅行者の荷物の開封検査を税関が抜き打ち的に始めたことが事態を大きく変えたのだという。

まさに中国式のショック療法である。

これでは、海外での買い物に対する事実上の課税と受け取られても無理はない。

その後、旅行客の反発から、検査は少しゆるくなってきたとも聞くが、せっかく日本で安く買っても、帰国時に高率の関税をかけられてしまうのであれば、安値で転売することができない。同じことは個人輸入の託送便でも実施されたため、代購の意味もほぼなくなった。

「転売できなければ「爆買い」なし」とはこのことだ。

中国側は、2014年10月に日本が実施した外国客に対する免税枠の拡大とは真逆の手を打ち、「爆買い」を沈静化しようとしたのである。

その効果はてきめん。

中国の人たちにとって人より安くモノを入手できるということは賞賛に値することで、そこにケチをつけられたようなもの。こうして中国人観光客は「爆買い」する意欲を急速に失っていったと考えられる。

■今後どうなるのか

では、今後はどうなるのか。

注目すべきは、中国客の影に隠れて見えにくい存在であった台湾客の存在だろう。

彼らはいまでも無理なく「爆買い」を楽しんでいる。繰り返していうが、「爆買い」は「富裕層」の専売特許ではない。華人ならではの購買の連鎖が生んだものだ。それは本来、彼らにとって景気のいい、喜ばしき体験なのである。

台湾の人たちは長く日本の商品に親しみ、その価値を知っている。だから、彼らが選ぶ商品は、中国の消費者の先取りをしている。彼らは日本の魅力の雄弁な語り手なのである。

実は、そこが中国の消費者とのいちばんの違いだ。

中国人観光客の多くは、これまで実際に日本の商品を手にしていたわけでも、正確な商品知識を持っていたわけでもなく、ただSNSや口コミを頼りに購入していただけだった。

特定の商品だけが大量に売れるという事態が起きたのはそのためだ。

前述したように、今日の中国にはいくつもの相反する事態が同時進行で起きている。大都市圏の不動産価格は高騰し、ECに誘発されて消費市場が活性化しているかに見える一方、民間経済の低迷を懸念する声は強い。政府があの手この手で「爆買い」のストップをかけようとしたのも、そのためだ。

こうした将来に対する不透明な情勢は、日本のバブル崩壊以降に起きたことと同様に、中国の消費者の成熟化をもたらすと考えられる。

消費者に確実に支持された商品だけが売れるという日本では当たり前の状況にだんだん近づいていくはずだ。

特に、中国の若い世代は生まれた頃から消費社会を知っており、自分の目で価値判断ができる人たちだ。すでに彼らは団体ツアーではなく、個人客として訪日するのが普通になっている。

今後はこうした個人客に向けた取り組みが求められるが、そうなるとこれまでのやり方では足りない部分が出てくるだろう。

その点については、別の機会にあらためて検討したい。

※やまとごこと特集レポート
前編 http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_27.html
後編 http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_28.html
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by sanyo-kansatu | 2016-09-13 17:47 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)


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