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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 02月 15日

「モノ」から「コト」消費へ移行というのはデータからみれば、俗説じゃないかしら

日本のインバウンド市場に関する話題で、ずっと違和感をおぼえていたことがあります。

それは、外国人観光客の消費が「モノからコトへ」移ったという話です。これ、メディアもそうですが、皆さんけっこうよく口にしています。たとえば、「最近の外国人はもうモノを買うより温泉に入るなど、コト消費に変わった」とかなんとか。

本当にそうなんでしょうか。そもそも温泉に行くのが「コト」消費? そうではないですよね。

観光庁が四半期ごとに発表する「訪日外国人消費動向調査」の中に「訪日外国人旅行消費額の費目別構成比」というデータがあります。外国客が日本滞在中に消費した額を「宿泊」「飲食」「交通」「娯楽サービス」「買い物」「その他」に分類し、構成比を集計したものです。この分類によると、温泉は「宿泊」に分類されるはずです。

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観光庁が今年1月中旬に公表した2016年の「訪日外国人消費動向調査」によると、「訪日外国人全体の旅行消費額(速報)は3兆7476億円と推計され、前年(3兆4771億円)に比べ7.8%増加」したそうです。

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一方、「1人当たり旅行支出(速報)は15万5896円と推計され、前年(17万6167円)に比べ11.5%減少」しました。「国籍・地域別にみると、オーストラリアが最も高く(24万7千円)、ついで中国(23万2千円)、スペイン(22万4千円)の順で高い。中国においては、1人当たり旅行支出が前年比18.4%減少し、全国籍・地域の中で最大の減少幅となった」といいます。

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それでも、国籍・地域別の総額でみると、「中国が1兆4754億円(構成比39.4%)と最も大きい。次いで台湾5245億円(同14.0%)、韓国3578億円(同9.5%)、香港2947億円(同7.9%)、米国2130億円(同5.7%)の順となっており、これら上位5カ国で全体の76.5%を占めた」とあります。

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さて、「訪日外国人旅行消費額の費目別構成比」についてですが、「買い物代(38.1%)が最大となったが、前年(41.8%)に比べて減少した。一方、宿泊料金(27.1%)、飲食費(20.2%)及び交通費(11.4%)が前年に比べ増加した」とあります。

これだけみれば「モノからコトへ」という話につながりそうにも思えますが、依然として最大の構成比は「買い物代(38.1%)」で、宿泊費よりも多いというのもそうですし、一般にアクティビティ消費ともいわれる「娯楽・サービス費」は全体のわずか3.0%。これは外国客が訪日後、参加するバスツアーや体験ツアー、テーマパークなどの、いわゆる「コト」消費を指すのですが、あまりにささやかすぎないでしょうか。実は、2016年10~12月期のデータでは、「娯楽・サービス費」の比率は2.7%に下がっているくらいです。

データをみる限り、外国人観光客の消費が「モノからコトへ」移ったというのは俗説にすぎない気がしてきます。

それにしても、「モノからコトへ」だなんて、誰が言い出したのでしょうか。そして、ここでいう「外国人観光客」とは誰のことを指しているのでしょうか。

欧米客についていえば、彼らは以前から「モノ」より「コト」消費でした。つまり、巷でいうこの俗説と彼らは関係ありません。昨年1人当たりの旅行支出トップとなったオーストラリア人は日本でスキーを楽しんでいることが知られていますが、これこそ「コト」消費の代表例でしょう。

では、アジア客はどうか。旅行関係者に聞くかぎり、「アジア客の関心のメインはいまでも買い物にある」という声が聞こえてきます。もともと彼らは中国客のような「転売」まがいの買い方はしておらず、いまでもお菓子やらドラッグストア商品などをあれこれ買い込んでいます。

じゃあやっぱり、「モノからコトへ」移ったというのは「爆買い」で鳴らした中国客のことでしょうか。

確かに、彼らはもろもろのお国の事情もあって、昨年「爆買い」は終息しています。

中国客の「爆買い」が“強制終了”した3つの理由
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/101800023/
「爆買い」終了で、訪日プロモーションの目的や中身を変える必要あり
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/102500024/

お国事情の最たるものは、2016年4月に中国の税関が海外旅行者に対する荷物開封検査を開始し、関税を取り立てるようになったことです。せっかく海外で安く購入しても、帰国時に高率の関税をかけられてしまうのでは、「爆買い」する意味はなくなるからです。

つまり、中国客の場合も、消費が「モノからコトへ」移ったというよりも、政府によって買い物額に上限を課せられた以上、たくさん買い物しても仕方がないから、買い物額が減ったというのが実情なのです。先ほどの観光庁の調査で「中国においては、1人当たり旅行支出が前年比18.4%減少し、全国籍・地域の中で最大の減少幅となった」というのは、そういうことです。

では、中国客は本当に買い物する意欲を失ったというのでしょうか。そうでもないようです。昨年11月に訪日した中国の友人はこう話しています。「日本に行くとなったら、友人知人にあれを買ってきて、これを買ってきてと頼まれて困る。いま中国の税関では、1人8万円(=5000人民元)までは関税を取らないので、それ以上買わなければならないときは、郵便局から送っているんです」。

いやはや、ご苦労さまです。彼の泊まるホテルの客室を訪ねると、巨大なスーツケースが2つあり、持ち帰る分と郵便局で送る分の仕分けで大変そうでした。こういうのが、いまでもよく見かける中国客の姿です。べつにご本人が買い物したくなくても、買って帰らなければならない事情があるのです。だったら、いっそできる限りたくさん買って帰って転売することで小遣い稼ぎをしてしまおう。そう考えるのが中国の人たちです。そういう自分以外のために大量購入したのが「爆買い」の正体だったのであり、政府の税関検査でそれが急にできなくなったという話です。

もちろん、リピーターが増えている上海人のように「何度も日本に来るから、もうまとめ買いは必要ない」などと、うそぶいている中国客も最近は増えています。彼らはお土産をいっぱい買って帰る中国の地方出身の団体客をどこか小バカにしているところもあります。

今後は中国客の「コト」消費実況レポートが出てくるのでしょうか? ある人が言うには「エステとか、ネイルサロンとか」だそうですが、その種のものはすでに中国にも普通にあります。それでも、医療検診のために日本を訪れる中国客はそこそこ増えているようです。「コト」消費が起こるためには、日本でしかできない体験でなければならないのです。

そのようなわけで、彼らが我々日本人の期待するような「コト」消費を始めているかというと、大いに疑問です。にもかかわらず、なぜこのような俗説が広まったのでしょうか。

ネットをみると、これからはグルメだ「自然体験」が注目だと、なんでもかんでも「コト」消費に結びつけようとしていますけど(まあ、そんなに厳密に区別するような話じゃないからいいんですけど)、それらも「爆買い」は終わったけど、次は「コト」消費があると、世間のインバウンドに対する関心をこのままキープさせたいと願う関係者が発信源? それとも、これはかなりうがっていますが、自国民の「爆買い」を苦々しく思っていた中国政府の意向を忖度した誰かの……???

ともあれ、もっと「コト」消費を盛り上げていかなければならないことは確かでしょう。海外旅行は国籍を問わず、そこでどんな体験をしたかで訪れた国の印象は決まるものだからです。

by sanyo-kansatu | 2017-02-15 15:46 | “参与観察”日誌


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