2017年 04月 21日
外国人向けのパンフレットやポスター、看板、案内表示、手書きのポップ、webサイトに間違いだらけの外国語があふれている。その何が問題なのか。どうすれば解決できるのか。日本に住む外国人やインバウンドの現場の関係者に話を聞いた。 今年のイースター(復活祭)は4月16日。これから初夏にかけて、多くの外国人観光客が日本を訪れる季節を迎える。だが、ちょっと気になる光景がある。外国人向けのパンフレットやポスター、看板、案内表示、手書きのポップ、さらにはwebサイトに間違いだらけの外国語があふれていることだ。たいていの場合、それを知っているのは外国人だけ。日本人の大半は気づいていない。これはかなりマズいことではなかろうか。 中国人に聞く間違いの実例 「爆買い」が収束し、量販店やドラッグストアの店内にうるさいほど貼り出されていた外国語表示も、以前に比べ控えめになっているようだ。むしろ、最近気になるのは、自治体や公共交通など公的機関の外国語表示に間違いが多く見つかることだ。地名を表記するだけならいいのだが、何らかのメッセージをテキスト化した途端、ボロが出てしまう。 筆者は最近、日本に住む中国の友人とおかしな中国語表記をチェックする以下のブログを始めた。 街で見かけた《お恥ずかしい》中国語表示 http://ramei.exblog.jp/ 同ブログでは、知り合いの中国人留学生などにも呼びかけて、街で見かけた間違い中国語の写真を送ってもらっている。いくつかの例を紹介しよう。 1:街の看板 これはある留学生が中国から遊びに来た友人を連れて浅草を案内していたとき、見つけたもの。「ようこそ、台東区へ」の中国語が「欢迎悠来台东区!」となっている。一瞬、どこが間違っているのか気がつきにくいが、よくみると、「您(あなた)」と「悠」の誤植が起きているのだ。「悠」は「悠久の大地」の「悠」で、確かに「您」とよく似ているが、中国語の発音は違うため、入力の間違いは考えられない。なぜこんな単純な誤植が起きたのか? 実は、この誤植、他の場所でも何度か目にしたことがある。よくある間違いなのだ。これを見て文句を言う中国人はいないと思うが、区の信用に関わるといったら言いすぎだろうか。 2:トイレの貼り紙 さらに、初歩的な中国語のミスの例。あるトイレにこんな貼り紙があったという。 「谢谢你总是漂亮地使用厕所」 「いつもトイレを綺麗にご利用していただき、ありがとうございます」と言いたいのだが、「綺麗に」の中国語が「漂亮」。これは「美しい」という意味だが、女性やファッションなどに使う。子供でもわかるおかしな使い方に失笑を禁じえないだろう。「清潔に/きれいに」を意味するのは「干净」。正しくは「请干净地使用厕所」だ。 この貼り紙の写真を送ってくれた中国人は「安易に翻訳ソフトを使ったのではないか。どうして中国人の誰かにチェックしてもらわなかったのだろう」と不思議に思ったという。 3:「ながら歩き」ストップキャンペーン 最後は地下鉄にて。東京メトロでは、数年前から携帯の「ながら歩き」ストップキャンペーンを始めている。そのポスターの中国語が、ある中国人の目に留まってしまった。 ここでは「ながら歩きは危険です」の中国語訳が「走路分散注意力是非常危险的」となっている。「走路」(歩く)、「分散注意力」(気を散らす)、「非常危险的」(とても危険です)というそれぞれの表現はともかく、その組み合わせは中国語としてありえないという。もっとシンプルに「走路看手机非常危险的」(携帯を見ながら歩くのはとても危険です)でいいだろう。日本語を厳密に直訳しようとした結果、中国人には何が言いたいのかわかりにくい奇天烈な文章になっているというのだ。 間違った表示が、日本への失望につながりうる!? こうした間違い外国語表示はいまや全国至るところで散見される。では、その何が問題なのだろうか。 国内の商業施設や観光地における中国向けコミュニケーション環境の調査やアドバイスを行ってきた日中コミュニケーション株式会社の可越さんは以下のようにいう。 「大切なコミュニケーションツールである外国語表示が間違いだらけということは、“おもてなし”を重んじているはずの日本の面目が丸つぶれであるだけでなく、個別の観光地や商業施設にとってのブランドイメージや信用に関わります」。 一般に中国やアジアからの訪日客は「日本の商品は高品質でニセモノがない」」「接客がていねい」「街が清潔である」など、高い期待値を持っている。ところが、間違いだらけの母国語表記を目にした途端、「なんだ、日本もこんなものか」と軽い失望を味わうかもしれないというのだ。 可越さんは、こうした間違い中国語が多くなる理由として以下の4点を挙げている。 1 翻訳ソフトに頼りすぎ 2 (翻訳は)中国人なら誰に任せてもいいという誤解 3 日本人的な発想は外国人には伝わらない(日本語の直訳はNG) 4 外国人は日本のことを知らないという認識の欠如 先ほどのトイレの例でも、実際に某翻訳サイトを使うと “綺麗に” ⇒ ”漂亮” と訳されてしまう。現状では翻訳ソフトは完璧ではなく、間違い外国語を量産するサービスと考えたほうがいい。そうである以上、中国人によるチェック態勢が必要だが、中国人なら誰でもいいというのは間違いだ。出身地の方言の影響を受けやすく、世代や学歴によって、その人の使う中国語は大きく違っているからだ。 中国語の文章のクオリティもおざなりにできない。若者やファミリー向けのスポットでは、新しい感覚や遊び心のある表現が求められる一方、高級なブランド店では品格ある落ち着いた文章でなければならない。商品のキャッチコピーも、顧客の対象に合わせて洗練された表現にしなければ、ブランドイメージを悪くするだけだ。おかしな中国語を使うくらいなら、むしろ英語と日本語だけで通したほうがいい。 日本人は表向き礼儀正しいのに、中国語表示になると、急に命令口調になると感じる中国人もいるらしい。たとえば、「銀聯カードが使用可」を中国語に直訳すれば「可以使用银联卡」だが、「欢迎使用银联卡(銀聯カードの利用を歓迎します)」とするだけで、ずいぶん印象が変わる。表現をちょっと変えるだけで、その店の印象が良くなったり、悪くなったりすることもあるのだ。 伝えたいメッセージを、その言語で一から考える さらに、知っておくべき重要なことがあると可越さんはいう。 「一般に翻訳会社は、用意された日本語の文章を中国語に直訳するよう頼まれることが多いのですが、これが問題をはらんでいます。日本人と中国人の思考回路は違うので、日本語をそのまま直訳するだけでは中国人に意味が伝わらないことが多いからです。日本人的な発想は外国人には伝わらないと知るべきです。ですから、翻訳を頼む場合も直訳はNGで、日本語のニュアンスを忠実に伝えることより、中国人にわかりやすい表現に大胆に変換してもらったほうがいい。翻訳というより、相手に伝えるべきメッセージを中国語で一から考えて書いてもらうようにしてはどうでしょう」。 外国人は日本を知らないという認識の欠如 では、4つ目の、外国人は日本のことを知らないという認識の欠如とはどういうことだろうか。先日、都営地下鉄に乗っていて、こんな広告ポスターを見つけた。 「かつて偉大な漫画家たちが描いた景色が、ここにはあります」(PROJECT TOEI 013 日暮里・舎人ライナー) というコピーが書かれている。英語やハングルも併記されていて、中国語はこうだ。 「以前那些伟大的漫画家们插绘出来的未来的景色,在这里都可以看到」 ここでは中国語の文章の問題については触れないが、考えなければならないのは「偉大な漫画家たちが描いた景色」とは何なのか。この文章だけでは、大半の中国人、いや英語を話す人たちも同様に、まったくわからないだろうということだ。それを理解するための手がかりは、高層ビルの合間を抜けるように走る高架電車の1枚の写真だけなのだから。 多言語化の取り組みにおいて、前提としなければならないのは、外国人は日本の社会や文化、歴史の背景をほぼ知らないということだ。その認識に、多くの日本人は気づいていないのではないか。ある日本在住の外国人によると、国内の観光地の外国語の解説の多くが、日本人向けの文章をただ翻訳しただけで、外国人にはまったく伝わっていないという。これは英語やタイ語など、すべての言語について共通している。 これまで挙げた例によって、筆者は誰かの揚げ足を取ったり、貶めようとする意図はない。 外国人たちから、いま日本で見られる多言語化のお寒い現状を指摘されることは残念であり、これをいかに改善できるか、筆者自身がもっと知りたいのである。 外国人によるチェック態勢を構築 では、どうすればこの問題を解決できるのだろうか。 外国客に対する情報発信の場合、日本人にとって当たり前のことでも、一からていねいに説明するという手間が必要で、これを惜しんではいけないということだ。ポイントは、外国人によるチェック態勢をいかに構築するか。前述したとおり、外国人であれば誰でもいいというわけではない。現場の環境や顧客対象、伝えるべき内容や目的を明確にしたうえで、外国語表示を担当する外国人との綿密な打ち合わせが必要だろう。 さらにいえば、外国語表示をどこまで進めるかも再検討し、なにがなんでもやらなければならないという考え方は見直すべきかもしれない。これまでみてきたとおり、中途半端な外国語は逆効果で、イメージダウンをもたらすこともあるからだ。 多言語表示対応が進むビックカメラの取り組み この点、日々多くの外国客と接している量販店は対応が進んでいる。なかでも多くの外国人スタッフがいるビックカメラの外国語表示には定評がある。たとえば、都内の同店に行くと、商品によって中国語の簡体字と繁体字が使い分けられている。つまり、中国客が好んで買う商品には簡体字、台湾客がよく買う商品は繁体字の説明があるのだ。 この点を最初に指摘したのは、台湾の日本薬粧研究家の鄭世彬氏だが、こうしたことが可能になるのも、売り場のスタッフが国別の売れ筋商品を把握しているからだろう。 株式会社ビックカメラ広告宣伝部インバウンド室の松本真室長によると「個別の商品の多言語表示については、どの国からの来店が多いのか、店舗の特徴に合わせて表記しています。限られた時間の中でいかにお客様に買い物を楽しんでいただけるか。インバウンド客向けの取り組みのポイントは、何より会計回りの対応です。いかに現場の声に応えていくかが大事」という。 2014年10月、外国客向けの免税枠が拡大され、翌15年5月には最低購入額の引き下げの改正があるなど制度面での変更、突然の中国客の「爆買い」の収束など、小売業を取り巻く環境の変化は激しい。同社は日本ではまだ普及していない海外の決済サービスとして、中国のアリペイ(2016年6月)やウイチャットペイ(2016年10月。ただし一部店舗)などの導入もいち早く進めている。 こうした現場で揉まれる量販店の多言語表示が進化するのは当然だろう。一方、自治体や公共交通などの公的機関の場合、外国客にどこまでメッセージが届いているかを検証する機会は少ないかもしれない。筆者が始めたブログでは、今後も多言語化の現状を観察していきたいと考えている。ぜひアクセスしていただきたい。 ※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/report/3857/
by sanyo-kansatu
| 2017-04-21 14:43
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