ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 04月 25日

「澤の屋」に次ぐ都内人気旅館の支配人が語る民泊被害とこれからの宿経営

駅前で偶然見かけた外国人旅行者が縁で、豊島区椎名町のユニークなゲストハウス兼カフェ「シーナと一平」を訪ねた話を前回書きましたが、今度はそこで聞いた「トリップアドバイザーの都内の旅館人気ランキングで老舗の澤の屋に次ぐ2位」という宿をその足で訪ねることになりました。

立ち食いうどん屋の外国人と豊島区椎名町のインバウンドの話
http://inbound.exblog.jp/26812925/

ところで、豊島区椎名町駅周辺は一見なんの変哲もない住宅街ですが、かつて「池袋モンパルナス」と呼ばれたアート関係者が多く住む町でした。豊島区のHPによると「1930年代、豊島区西部旧長崎町を中心に、絵や彫刻を勉強する学生向けにアトリエ付借家群が生まれました。これは、アトリエ村と呼ばれています」とのこと。
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池袋モンパルナス
http://www.city.toshima.lg.jp/brand/montparnasse/index.html

学生時代にある講義を受けて親しくなった先生が椎名町に住んでいて、お宅に呼ばれて食事会をしたことがあったのですが、確かにこの界隈には古い文化住宅がかつては多く残っていました。いまは、実際のところ、区がいうような面影がどれほど残っているかわかりませんが、駅を降りると、東横沿線のような気取った感じのない、温もりのある商店や食堂があって、悪くないんです。

そんな商店街を抜け、静かな住宅街の中にその旅館はあります。「ファミリーイン西向」といいます。

ファミリーイン西向
http://www.familyinnsaiko.com/
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正直なところ、たどりつくのにずいぶん道に迷いました。日本の住所表示は、海外のようなストリート名+番号ではなく、区画(丁・番地)によるため、たとえ規則性があるにせよ、初めてその町を訪れた人にはわかりにくいものです。よくこれで外国人旅行者がここまでたどり着けるものだと思ったほどです。

ようやく見つけたと思ったら、玄関の前に支配人の大野政道さんがいたので、声をかけることにしました。あとで知ったのですが、この旅館にはこれまでメディアの関係者や自分も同じような外国人向け旅館を始めてみたいという人が話を聞きに訪ねてきたので、いきなり声をかけられるのは慣れているのだそう。

たとえば、ネットで以下のような記事が見つかりました。

「日本最強のおもてなし」は池袋近郊にあった
無名の小さなホテルが、外国人に大人気のワケ(東洋経済オンライン2015年05月01日)
http://toyokeizai.net/articles/-/68145

家族経営のぬくもり ファミリーイン西向(毎日新聞経済プレミヤ2015年12月24日)
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20151221/biz/00m/010/020000c

ファミリーイン西向を紹介する記事のポイントは、旅行者による口コミサイトのトリップアドバイザーで無名の旅館が人気上位にあることを知り、その秘密を探りにいくというものです。で、その理由は「池袋まで1駅」という立地と「困ったらすぐ助けてくれるサービス」。ん? これが「日本最強のおもてなし」? 単にそういう話だけではないんじゃないでしょうか。

これらの記事は、日本を訪れる外国客が1年で600万人以上増えた2015年のものでした。この年、45年ぶりに訪日外国人の数が日本人海外旅行者数を越え、大都市を中心にホテルの客室不足が話題となっていました。

大野さんに客室や共同風呂などを見せてもらった後、少し話を聞きました。

現在、同旅館の客室は14室。すべて和室の畳敷き。平均単価は1名7000円ほど。開業は6年前で、昭和40年代に建てた自宅の改装にあたり、何か新しいことを始めてみようと考えた。椎名町界隈には単身者向けのアパートやマンションが多いので、同じことをやってもつまらないし、何よりかつては自宅の前の通りも商店街だったことから、そのにぎわいを残したいという思いが、外国人向け旅館を始めようと思った理由だといいます。日本人相手にこの町で旅館をつくっても仕方がないので、最初から外国人向けをつくるつもりで始めたところ、いきなり東日本大震災が起きて大変だったけれど、すぐに外国客は急増したそうです。

大野さんが最近懸念しているのは、椎名町界隈でも急増している民泊だといいます。近所でも、マンションの一室で民泊を始めたオーナーがいるそうで、客足に影響がないとはいえないといいます。豊島区ではまだはっきりした方向性が出されていないのです。

こんなひどいこともあったそうです。Airbnbに同旅館に似た名前をつけて、マンションの一室を民泊として運営しているオーナーが近所に現れたそう。部屋の写真もよく似ていて、日本をよく知らない外国人ならファミリーイン西向と間違えても仕方がないほどだったといいます。大野さんは繰り返しAirbnb側にクレームを入れたところ、ようやく削除されたそうですが、「彼らはこんなやり方を平気でするんだな」と呆れたとか。

「オリンピックまであと3年で投資を手早く回収してしまおうというような考えなんだろうけど、宿泊業はそんなに簡単じゃない」と大野さんはいいます。多くのホテルや旅館関係者が、安易に民泊を始める関係者に批判的になるのも当然でしょう。

だいたい「訪日外国人は東京オリンピックの2020年までは増える」などという俗説が大手を振っているのがおかしな話です。オリンピックはあくまで日本の都合であって、これまで訪日客が増えてきたのは、オリンピックとはまったく関係ない理由からです。その意味では、国際環境などの外的要因によっては、オリンピック前に失速してしまうかもしれませんし、実際のところは、訪日客の動向は、今後もアップダウンはあるものの、基本的にしばらくは増加基調にあることは変わりません。増えているのは、日本側の事情からではなく、海の向こうで大きな環境の変化が起きているからです。だからといって、政府目標の「2020年までに4000万人」にどれだけ実現性があるのかわかりませんけれど。

2015年当時、客室不足が騒がれた大都市圏の宿泊事情が、昨年夏頃から少し落ち着いてきたという話をよく聞きますが、その理由はズバリ、民泊利用者の急増があると指摘されています。外国人旅行者の中には、安ければ施設はいまいちでもかまわないという人たちは多くいます。訪日客急増とホテル代の高騰で、緊急避難的に民泊に流れた経緯があります。当時、民泊は新しもの好きの流行という面がありました。

その国の住宅事情を反映する日本の民泊のクオリティは、世界的にみると最低ランクの評価であることは否定できません。とにかく日本の物件はワンルームが多く、狭すぎるのです。でも、日本を訪れる外国人観光客のニーズは、むしろ家族や小グループ数名で泊まれる広い物件です。一度目は安さを理由にマンション民泊を選んだカップルたちも、せっかく旅行に来てるのに、こんな部屋で過ごすのはどうなんだろうと思い始めているのです。これから民泊を始めようとする人は、この点をもっと知っておく必要があるでしょう。

実際、こうした低い評価ゆえに民泊離れの動きも出ているようで、まったくインバウンド市場の変化は早すぎるほどです。

これはどんなビジネスでもそうでしょうが、相応のリスクを負い、利用者の声に耳を傾け、不断の品質向上を心がけないようでは、うまくいかないものです。特別に魅力的な物件でもないかぎり、ワンルームマンションの狭い一室を貸し出す家主不在型民泊は、いっときのあだ花みたいなところがあるのです。

バケーションレンタルって何?
http://inbound.exblog.jp/26802073/

だからといって、投資コストを増やすことは簡単ではない以上、できることは、宿泊客が何を望んでいるか、日々接しながら知ろうとする努力でしょう。

フロントの前に数本の国旗があったので、大野さんに尋ねると、「その日、宿泊される方の国旗を歓迎の意味で、置いているんですよ」とのこと。欧米の主要国の人たちはともかく、アフリカや中南米などから来た宿泊客は、大いに感激したそうです。現在、100カ国近い国旗を特注で用意しているとか。
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同旅館の魅力は、このような気取らず、無理のない家族的なサービスにありそうです。そして、椎名町の商店街も魅力でしょう。

ファミリーイン西向では、オリジナルの英語によるこんな周辺地図を用意しています。この地図には、同旅館を訪れる外国人客が知りたい情報がコンパクトにまとめられています。
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同じことは、新宿歌舞伎町にある外国客に人気のデザインホテル「グランベルホテル新宿」でもありました。

自家製地図でわかる外国人ツーリストが知りたいこと(新宿グランベルホテルの例)
http://inbound.exblog.jp/24708078/

ところで、冒頭に書きましたが、この旅館は最寄の駅から10分くらい離れていて、住宅地の中を迷わずたどり着くのが大変だと思われます。にもかかわらず、外国人が訪れるのは、ネットのおかげです。無名であっても、外国客があとを絶たないホテルとしては、台東区池之端にある知る人ぞ知る隠れ家宿のホテルグラフィー根津もそうです。

シェアハウスのホテル化で外客受入に成功=「ゲスト交流型ホテル」とは?
http://inbound.exblog.jp/24596922/

これらの事例をみていると、いまの時代の宿経営のひとつの方向性が見えてくると思います。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-25 12:58 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)


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