ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 05月 22日

中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由

なぜこれほど多くの中国人観光客が(こともあろうか!)日本国内で白タクを利用するようになったのか?

彼らが利用しているのは、「越境EC」ならぬ、「越境白タク」とでも呼ぶべきサービスです。つまり、自国内で普及している配車アプリサービスを、海外の法を無視して勝手に運用しているわけです。それが可能となったのは、中国でいち早く配車アプリが普及し、身近なサービスとして定着したこと。そしてこれが決定的なことですが、サービスの担い手である在外華人が多くの国々で暮らし、ドライバーをしているからです。

成田空港で中国系白タクの摘発が始まる!?
http://inbound.exblog.jp/26867015/
日本国内で増殖している中国の配車アプリとはどんなサービスなのか?
http://inbound.exblog.jp/26867237/

日本ではUberに代表されるライドシェアサービスはそれほど普及していませんが、今日の中国では日常的に利用されています。なぜ中国で配車アプリサービスが普及したのか。その理由を理解するために、ここ数年の中国におけるライドシェアの流れについて、以下簡単に説明します。

アメリカ発ライドシェアのマッチングサイト、Uberがサービスを開始したのは2009年。早くも3年後の2012年には、かつて中国2大配車アプリサービスだった「滴滴打車」と「快的打車」が事業を始めています。

配車アプリサービスは、それまでの問題の多かった中国の交通事情にとって待望のサービスでした。

もともと中国のタクシーの評判はよくありませんでしたし、渋滞の原因になることから、大都市への人口集中がどれだけ進んでも、台数はそれほど増えていませんでした。地下鉄などの公共交通機関はこの10年で著しく整備されていきましたが、自家用車の普及が進み、都市生活の移動のスピードが速くなればなるほど、以前のように路線バスに長い時間待たされることなく、すばやく車を乗り継いでいくようなニーズが求められるようになったのです。

この切実さは都市交通に恵まれた日本人には理解しにくいかもしれません。車の台数が増加し、日に日に渋滞が激しくなるばかりの都市に暮らす中国の人たちにとって、モバイル上で自分の位置する場所に最も近いタクシーを捜してコンタクトを取り合うことができるというUberのサービスは画期的なものでした。

それまで中国では、白タクはボッタクリの代名詞で、「黒車」と呼ばれていました。それが飛躍的にイメージチェンジしたのは、配車アプリで身元が割れることから、ドライバーは乗客に対してあくどい商売ができなくなったこと。モバイル決済によって、現金のやりとりをする必要がないという利便性からでした。小遣い稼ぎに自家用車を走らせる「黒車」のドライバーにとっても、きわめて合理的な商売となったのです。こうして利用者とドライバーの両者にとってメリットが大きかったことが、配車アプリが中国で急速に普及した理由といえるでしょう。

中国は国土が広いので、その後、地域ごとに多くの配車アプリ事業を行う企業が生まれたのですが、それも徐々に淘汰されていきます。

その理由は、「滴滴打車」が中国版SNSのWeChat(微信)を運営するテンセント系であり、「快的打車」がアリババ系であることから、それぞれWeChatPay(微信支付)、アリペイ(支付宝)という中国における最強の資本力を持つモバイル決済と連動していることが圧倒的な優位性を持ったからです。

安くて快適な「白タク」配車サービス(Newsweek2015年12月07日)
http://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2015/12/post-5.php

こうして上海や北京などの経済先進都市では、いまどきタクシーの支払いを現金でするのは外国人くらいで、地元の人たちはモバイル決済が普通です。ECの普及は明らかに日本よりも進んでいて、キャッシュレス社会といってもいいほどです。

こうした中国の先進性を伝える話題は、数年前から日本でも報道されていましたが、2015年頃からさらに配車アプリ市場は変化していきます。

まず2015年2月、ライバル関係にあった「滴滴打車」と「快的打車」が経営統合することが発表され、中国の配車アプリは事実上の「滴滴打車」一強支配となります。
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滴滴打車
http://www.xiaojukeji.com

この当時、ぼくのような配車アプリを使えない外国人が上海でタクシーを拾うのは至難の業でした。合併する前の2大中国配車アプリにUberの現地法人としてスタートした「優歩」も加わり、各社は激しいサービス競争を繰り広げていたためです。

ここでいうサービスには、利用者からみた値下げ競争もありましたが、それ以上に有効だったのはドライバーに対するものでした。配車アプリ利用客の場合、運賃とは別にアプリ会社からチップがもらえたからです。こうなると、アプリ予約でない路上の客を乗せたがらなくなるのは当然です。あの頃、どれだけタクシーを乗車拒否されたことか…。

こんなにお得で便利なサービスなのに、外国人には使えないのは困ったことです。もし配車アプリを利用しようとしたら、現地に銀行口座を持ち、WeChatPayかアリペイをスマホで使えるようにしておかなければならないからです。中国出張に年中来るような人ならともかく、スマホを中国仕様に変換するか、中国用のスマホを購入しなければならないなんてメンドウな話です。以下の記事は、中国出張者が利用する方法を紹介しています。

「中国版Uber」の「快的」「滴滴」は中国出張に使えるか試してみた
https://c-study.net/2016/04/didi-dache-taxi/

その後、2016年3月には、白タクのネット配車を政府が容認する方針を示します。かつてのボッタクリの代名詞だった白タクは、配車アプリを使う場合に限り、合法的な存在となったのです。

中国 「白タク」のネット配車を容認へ(NHK2016.3.14)
http://archive.fo/46Bvu

さらに、同年8月、本家アメリカの配車アプリUberは、「滴滴打車」との激しいサービス合戦による消耗戦に耐えられず、撤退します。

なぜ米Uberは中国市場から事実上の撤退を余儀なくされたのか?(ハーバードレビュー2016年09月06日)
https://hbol.jp/108305

こうして中国で白タク黄金時代が到来したかに思えたのですが、その後、中国政府は意外にも、その流れに逆行するような規制を始めます。

10月、中国政府は配車アプリのドライバーを地元の戸籍を持つ者に限定するなどと言い出したのです。

7.5兆円市場、中国「配車アプリ」に急ブレーキ 壊滅的規制案の行方(フォーブス2016/10/14)
https://forbesjapan.com/articles/detail/13922

この記事には以下のように書かれています。

「上海では41万人の滴滴ドライバーがいるが、上海の戸籍を持つ者は3%以下だ。現在登録されている車両の8割以上は新規制に適合しない」と滴滴の女性広報担当者は語る。配車アプリ市場に詳しいリサーチ会社iiMediaは地元戸籍のドライバーは北京では3.6%、杭州市では10.8%とリポートしている」

もともと大都市圏のタクシーや白タクのドライバーは、地元出身ではなく外地から出稼ぎに来た人たちが多いのは周知のことでした。それなのに、なぜこのような理不尽な規制を始めたのでしょうか。

そして、上海ではその規制の実施を伝える以下のような報道もありました。

上海、「白タク」1100台を摘発(大紀元2016/10/21)
http://www.epochtimes.jp/2016/10/26291.html

※これは根拠のない余談ですが、こうした政府の手のひらを返したような規制は、過熱気味だった配車サービスの適正化のためとも考えられますが、アリババ系の「快的打車」が競争に敗れ、テンセント系の「滴滴打車」の一強となるに至ったいま、双方のバックにいる政治グループの関係性(テンセント系=共産党青年団、アリババ系=習政権)が影響しているのではないかと思わないではありません。

今年3月、上海を訪ねたとき、去年に比べ、タクシーが簡単に拾えるようになっていました。その理由について、上海の友人はこう説明してくれました。

「私はもう以前のように配車アプリはあまり使わなくなった。去年までのサービス合戦が終わり、必ずしも白タクが安いわけではなくなったから。やっぱりタクシーのほうが安心だもの」

要するに、タクシーのドライバーたちはげんきんなもので、アプリ会社からのチップなどのインセンティブがなくなったため、これまでどおり路上の客を乗せるようになったのです。こうして過熱していた白タク市場も以前に比べ、沈静化していったといえます。

とはいえ、結果的に、中国では配車アプリサービスというモバイル決済と連動した交通インフラが定着したことは確かです。合法かどうかなどは気にせず、猛烈な投資合戦が始まったこともそうですし、サービスの担い手と利用者がともにインセンティブを得られるしくみをプロセスの中に巧みに導入していくことで、一気に普及させていったというのは、いかにも中国的といえます。コンプライアンスを守るなんて、中国では意味がないのです。
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この種の便利なインフラを定着させるやり方としては、昨年秋頃から中国各地で始まったシェア自転車サービス「共享単車」もそうです。GPSですべての自転車の位置情報が管理され、市内どこでも乗り降り自由というのですから、これは斬新すぎます。

次回は、このように中国においては優れたサービスである配車アプリをそのまま日本に持ち込まれると、どんな問題が起こるのか考えてみたいと思います。

中国配車アプリを利用した「越境白タク」の何が問題なのか?
http://inbound.exblog.jp/26876191/
タクシー運転手に聞く「日本のライドシェアが進まない理由」と今後すべきこと
http://inbound.exblog.jp/26891045/
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by sanyo-kansatu | 2017-05-22 18:32 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)


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