2017年 05月 24日
今日の朝日の朝刊を見て、ついにこの話が出たなと思いました。 「訪日外国人数は増えているのに、宿泊者数が伸び悩んでいる」 インバウンド関係者の間では、昨年からすでに大きな問題となっていたからです。 東日本大震災の翌年の2012年以降、好調に推移していた外国人の宿泊者数の伸び率が、15年(46.4%)から16年(8.0%)にかけてガクンと減ったのです。「外国人延べ宿泊者数は、7,088万人泊となり、調査開始以来の最高値」であるにもかかわらずです。 宿泊旅行統計調査(平成28年・年間値(速報値)) http://www.mlit.go.jp/common/001174513.pdf 記事では、なぜこうしたことが起きたのか、その背景についてさまざまな観点から検討しています。 ユー、夜はどこに? 訪日客は増加でも宿泊者は伸び悩み(朝日新聞デジタル2017年5月24日) http://www.asahi.com/articles/ASK5R55GBK5RULFA01M.html 日本を訪れる外国人客は増え続けているのに、国内での外国人の延べ宿泊者数が伸び悩んでいる。ホテルや旅館に泊まらないのだろうか。「夜に消える訪日客」の実態をつかみあぐね、観光立国をめざす政府は困惑している。 4月中旬、深夜の成田空港のロビー。欧米系の外国人10人ほどがソファに寝転び、上着やタオルを顔にかけてまどろんでいた。 フランス人の玩具デザイナー、レマル・アモリさん(31)は、この日はここで朝まで過ごすと決めた。「日本のホテルは狭いのに宿泊代が高すぎる」。7日間の日本滞在中、夜はインターネットカフェや友人の家に身を寄せるつもりだ。 関西空港の24時間営業ラウンジでも、朝まで過ごす訪日客が目立つ。個室状のブースは連日満席。空港も仮眠用に無料で毛布を貸し出している。 観光庁によると、今年の訪日外国人客数は13日に1千万人を突破。過去最速のペースだ。1~3月の累計は653万人で前年同期より約14%増えている。ところが、同じ期間の国内の外国人延べ宿泊者数は累計1803万人で、約2%増どまり。訪日客の日本の平均滞在日数は9・5日。前年同期(10・2日)から大きく減っているわけでもない。 背景にあるのは集計方法の違いだ。客数は法務省の入国管理統計から日本に住む人を除いて出すが、宿泊者数は1・5万軒前後のホテル・旅館へのアンケートをもとに推計する。空港やネットカフェは対象外だ。 観光庁は当初、住宅に泊まる「民泊」と、船内に泊まれるクルーズ船の利用増の影響が大きいとみていた。民泊仲介サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」の昨年の延べ利用者数は、前年の2・7倍の370万人超に達した。昨年のクルーズ船による訪日客は199万人で、前年より8割増えている。 だが、最近は「それだけではなさそうだ」(観光戦略課)という。都市部でのホテル不足から宿泊料金が高止まりし、訪日客が「宿代わり」になる安価な施設を探しているという。ネット上での情報交換も盛んになっている。 夜通し営業する東京・新宿の温浴施設「テルマー湯」は今年、外国人客が前年より10~15%増えているという。観光庁が「宿泊主体ではない」と調査対象外にしているラブホテルも、低価格で日本独特の宿泊先として訪日客に人気だ。 移動で深夜に走る高速バスを利用するケースも増えている。高速バス大手のウィラーエクスプレスジャパン(大阪市)では、昨年に専用サイトから申し込んだ外国人客が前年比4割増の14万人だった。 訪日客向けビジネスを支援する「やまとごころ」(東京)の村山慶輔社長は「個人のリピーターや中所得層の訪日客が増え、旅の仕方が多様化しているのに、統計は実態をとらえきれていない」と話す。 政府は2020年までに、年間訪日客数を16年実績の約7割増の4千万人にするほか、地方での外国人延べ宿泊者数を同約2・5倍の7千万人にする目標も掲げる。国土交通省幹部は「政策の効果を確かめるためにも、統計の精度をもっと上げないといけない」。(森田岳穂、石山英明) この記事では、訪日客数の伸びに見合わない宿泊者数の背景に「住宅に泊まる「民泊」と、船内に泊まれるクルーズ船の利用増の影響が大きいとみていた」が「それだけではなさそうだ」(観光庁)と考えるようになったとあります。 その例として、国際空港のラウンジで仮眠したり、都内の温浴施設に寝泊りする外国人の増加、ラブホテルや深夜バスの利用などを挙げています。ちなみに風営法扱いでこの統計には入らないラブホテルや温浴施設とは違い、外国人利用の多いカプセルホテルは「簡易宿所」にあたり、統計に含まれているため、記事には触れられてはいません。 確かに、羽田空港国際ターミナルの深夜便利用客は想像以上にいて、ロビーのソファで横になる外国人の多さに驚いたことがあります。また羽田空港に近い蒲田などのスーパー銭湯を利用する羽田深夜着や早朝便利用の外国人が多いことも知られています。同じような話は、関空や中部空港などの大都市空港の周辺にもあります。 LCCを使えば片道5000円で日本を訪れることができる時代です。なるべくお金をかけずに日本旅行を楽しみたいというニーズは高まるばかりで、こうした宿泊形態の多様化が進むのはもっともな話でしょう。 そのため、2015年頃まで外国客の利用比率が高かった都内のホテルほど、去年は客室を埋めるのに苦心するという事態が起きていました。記事には「都市部でのホテル不足から宿泊料金が高止まり」とありますが、むしろこれらのホテルでは宿泊料金のディスカウント合戦が始まっています。問題は日本のホテル料金にあるというより、やはり民泊による宿泊相場の価格破壊が起きたと考えるべきでしょう。「それだけではない」のは確かですが、影響は大きいのです。 先日も海外在住の知人が帰国し、東京に立ち寄る際、試しにAirbnbで民泊を探したところ、最安値は2000円だったそうです。1泊しかしないので、話のタネにと泊まったところ、そこは五反田にある賃貸マンションの1室で、ワンルームに2段ベッドが6つ置かれており、若い外国人が何人も泊まっていたそうです。 不特定多数の外国人を1室に押し込むドミトリー式の民泊の話を聞き、まるでウォン・カーウェイ 監督の『恋する惑星』の舞台だった重慶マンションではないかと思ったものです。五反田のケースはフロントもなければ、スタッフもいないわけですから、もっと劣悪な環境だといわざるを得ません。「これでは盗難が起きても誰にも訴えられない。二度と泊まる気にはなれなかった」と話してくれました。 団体から個人へと移行したアジアからの観光客の多くは、家族や小グループで日本を訪れます。彼らはどんなに狭くても、民泊でマンション1室にグループごと雑魚寝して泊まれば、ホテルの客室を複数利用するのに比べると、はるかに割安です。これも宿泊相場の価格破壊をもたらした大きな理由だと考えられます。 (このような物件ばかりではないという反論はあるでしょうが)結局のところ、民泊の実態はこういうものでしょう。 そうである以上、監督官庁は「それだけではない」などと逃げないで、明らかに問題のある民泊の存在をこのまま許すかどうか、そろそろ判断しなければなりません。記事にあるように、「統計の精度」は実態の把握のために必要ですが、はっきり言って、この種の違法営業はなにも宿泊関連だけでなく、無資格ガイドや違法バス、白タク、ブラック免税店などの問題も含めて決して最近の話ではなく、広く知られていなかっただけで、10年以上前からずっと起きていたことだからです。背後に存在するモグリの事業者たちがやることは、いまも昔も変わりません。 ちなみに、2016年の国別訪日客数と延べ宿泊者数のトップ5の伸び率を以下に挙げてみます。(左:訪日客数、右:延べ宿泊者数) 中国 27.6%増 3.3%増 韓国 27.2 %増 15.7%増 台湾 13.3 %増 1.3%増 香港 20.7%増 8.2%増 アメリカ 20.3%増 14.3%増 これをみるかぎり、すべての国で訪日客数より延べ宿泊者数の伸び率が低いのですが、特に数の開きが大きいのが中国です。中国の伸び率の開きは、九州を訪れるクルーズ船の増加の影響もあるのですが、やはりここには「途家」などに代表される中国系民泊の影響が感じられます。 都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた http://inbound.exblog.jp/25579904/ AISO(一般社団法人アジアインバウンド観光振興会)の王一仁会長は「昨年、Airbnbの国内の利用者が前年比2.7倍の370万人超になったというが、『途家』などの中国系民泊の利用も、同じように増えている。彼らは統計を公開していないが、それがホテル市場に与えた影響は想像以上に大きいといわねばならない」と話しています。 確かに、民泊市場の拡大分は、昨年の訪日外国人の伸び分を超えて、呑み込んでしまっていることが考えられます。一部のホテルに空きが出てきたのはそのためではないかというのです。 世界でいちばん安さにこだわる彼らですから、民泊がホテルより安いとわかれば、そちらに移るのは自然の流れです。なにしろ日本には民泊を経営する中国人も多いからです。 【追記】 2017年5月下旬、民泊ならぬ「バケーションレンタル」の商談会が都内で開かれました。民泊関係者が集結しており、非常に面白いイベントだったので紹介します。 中国系民泊サイトが続々出展「バケーションレンタルEXPO」って何? http://inbound.exblog.jp/26889680/
by sanyo-kansatu
| 2017-05-24 11:50
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