ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 05月 28日

ロシア・北朝鮮間を結ぶ「万景峰号」の乗客はわずか10名足らず。定期航路化は難しい?

国際社会が注視するなか、今月18日、万景峰号の北朝鮮の羅津港とロシアのウラジオストク港間の定期運航が始まりました。そして、今週25日(木)、2度目のウラジオストク入港がありました。

万景峰号の羅津(北朝鮮)からウラジオストク(ロシア)の運賃は片道9800円から
http://inbound.exblog.jp/26886405/
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しかし、乗客はほんのわずかな人たちだったようです。
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現地関係者によると「羅津港から乗船したロシア客に話を聞いたところ、船内ではレストランやショップが営業していたが、乗客は少なかった」とのこと。
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翌26日(金)夜の羅津港に向けた出港時も「乗客は7~8名で、中国の旅行会社の関係者と若い個人旅行者1名、ロシア人3名、朝鮮人2名ほど。ただでさえウラジオストク港の入管手続きは遅いが、数名の外国人に対して1時間半もかかり、予定では20時発が、結局は21時30分に出港した」といいます。
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↑万景峰号の背後にウラジオストク港に架かる金角橋のネオンが見えます
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↑ウラジオストクを出港する万景峰号

こんなに少ない乗客では、とても定期運航どころではないのではないか。それが率直な印象です。

ところで、前回、中国で万景峰号を利用したロシア・北朝鮮の周遊ツアーが販売されていると書きました。

現地関係者から入手した同ツアーのパンフレットを紹介します。
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「万景峰号に乗る中国発ロシア・北朝鮮3ヵ国周遊3泊4日の旅」です。

これが日程です。
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初日朝7時に延吉集合。バスでロシア国境の町・琿春へ。ロシアのイミグレーションを抜け、一路ウラジオストクへ。翌日は、市内観光。3日目も夕方まで市内観光で、2012年のAPEC会場になったルースキー島などを訪ね、8時に万景峰号乗船。翌朝6時に北朝鮮の羅津港に到着。北朝鮮の経済貿易特区である羅先を市内観光し、午後には中国へ出国。夕方までにはバスで延吉に戻るというものです。

ちなみにツアー料金は、万景峰号の船室のランクによって違います。5月発については、以下のとおり(上段/下段は2段ベッドのこと)。

8人部屋 上段 1880元 下段1930元
6人部屋 上段 1980元 下段2030元
4人部屋 上段 2080元 下段2130元
ツイン 2230元
シングル 2330元

みやげ物店からの売上に対するキックバックで費用を補填するおなじみの中国式ビジネス慣行により、驚くほど安価なツアーになっています。そのため、参加費用は3万円からと安いのに、オプションは別料金で、ウラジオストク港の1時間のボートクルーズ代400元(6500円)、ロシア民族舞踊のディナーショー500元(8200円)、ロシアのタラバガニ料理500元(8200円)など、暴利をむさぼるしくみです。

※ちなみにウラジオストク港のボートクルーズの料金は、個人で行けば1時間700ルーブル(1400円)です。いかに中国の旅行会社がボッタクリしているかわかるでしょう。
http://urajio.com/item/0559

この料金表からわかるのは、このツアーのコストの内訳です。前回、万景峰号の片道運賃は「600元から750元」であることを伝えましたが、この運賃額を差し引いた金額は、これまで中国東北三省の旅行会社が催行してきたウラジオストク2泊3日ツアー料金の1200元相当します。つまり、「万景峰号に乗る中国発ロシア・北朝鮮3ヵ国周遊3泊4日の旅」は、従来のウラジオ2泊3日に万景峰号クルーズと朝鮮観光を加えたものだといえます。

万景峰号の羅津(北朝鮮)からウラジオストク(ロシア)の運賃は片道9800円から
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ツアーパンフレットには、旅行会社がツアーコストの原資を得るために立ち寄る免税店が記載されています。ウラジオストク市内にあるロシア産の紫金の宝飾店、ロシア産のチョコレートやウォッカ、タバコをなどを売る免税店、万景峰号が入港する国際ターミナルの免税店の3つです。2013年に施行された新旅游法により、中国ではツアーで立ち寄る免税店についてはパンフレットに情報公開することが義務付けられています。

一方、羅先には、いわゆる免税店はありませんが、こちらでも北朝鮮産の海産物などを法外な価格で売る店に連れていかれます。なぜなら、先ほどのツアー料金からみると、中国の旅行会社は朝鮮側に支払うコストに見合う金額を旅行客からもらっていないと考えられるからです。金を払わない代わりに、中国客にみやげ物を買わせて、その上がりで1日のバス代と観光手配は朝鮮側に請け負わせているわけです。

これは中国では定番ともいうべきボッタクリツアーです。残念ながら、このようなやり方でしか、客を集められないのが現状なのです。これは中国人の日本ツアーやクルーズでも同じです。

このツアーを催行しているのは、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉にある延辺中鉄国際旅行社です。現在、予定されている6月までのツアー出発日は、5月24日、31日、6月7日、14日、21日、28日です。

延边中铁国际旅行社有限公司(※ただし、同社のウエブサイトには掲載されていません)
https://ztlx1.package.qunar.com/

とはいえ、東南アジアのゴールデントライアングル(タイ、ラオス、ミャンマー)と同じく、中国、ロシア、北朝鮮の3ヵ国が接する国境地帯を周遊できるという、この斬新かつ魅力的なツアーも、これまで述べた客観状況や現状の乗客数をみるかぎり、今後参加者が現れるかどうかはかなり疑問です。

もうひとつの中朝国境の町、遼寧省丹東の旅行関係者によると「これまで両国往来の旅を楽しんできた中朝国境沿いの住民も、昨年の核実験以降、さすがに北朝鮮に対する国民感情は悪化している」とのこと。新義州への日帰りツアーも昨年に比べ、半減以下に落ち込んでいるといいます。

※2016年9月9日に実施された北朝鮮による5度目の核実験は、中国吉林省延辺朝鮮族自治州と国境を接する咸鏡北道吉州郡豊渓里付近だったことから、中国側でも地震が観測されています。

さて、この中国発の周遊ツアーが催行されないとなると、万景峰号の定期運航にも影響を与えることになりそうです。

ある中国メディアは、今回万景峰号の定期運航を企画したロシア側の関係者の「(初運航の際に乗船した)中国の旅行会社7名は船内のレストランや施設を視察した。今後運航を続けられるかは、中国客が乗船するかどうかで決める」とのコメントを紹介しているからです。

中国旅行社测试从朝鲜到俄远东的海上路线(2017年05月18日)
http://sputniknews.cn/china/201705181022655579/

(一部抜粋)「赫梅利还表示:"本次航行是测试,因此船上没有游客,也没有货物。船上只有7名中国旅行社的代表,他们为了保险起见决定亲自考察路线,评估船上的饮食和设施。虽然有中国游客希望乘坐,但是决定先不搭载游客」

先ごろウラジオストクを訪れた現地通によると、「現在ロシア沿海地方には約8000人の北朝鮮労働者がいる。彼らは主に建設現場や水産加工工場などで働いており、北朝鮮への帰省は、鉄道を利用する場合が多く、割高な万景峰号をわざわざ利用することはない」とのこと。一方、「北朝鮮旅行に行くロシア人もいないことはないが、少ない以上、万景峰号の定期運航は中国客にかかっている。しかし、中国人の多くは安かろう悪かろうで、免税店に連れまわされるボッタクリツアーに嫌気が差しているので、どれだけ参加者がいるだろうか」と疑問を呈しています。

中国側でこのツアーを企画しているのは、延辺朝鮮族自治州・延吉の旅行会社です。中国政府は万景峰号に中国客が乗ることについて、朝鮮族による民族交流の一環であるなどとして、制裁違反との批判に対して一定の言い訳ができると考えていると思われます。

現在のウラジオストクには、北朝鮮人労働者のみならず、中国や韓国の観光客が多く訪れています。つまり、北朝鮮を訪れることのできない韓国国民も、この町に行けば、好むと好まないにかかわらず、北朝鮮国民と普通に話を交わすことができるのです。またモンゴル人や彼らと同じ顔をしたブリヤート系ロシア人もいるなど、ウラジオストクは、今日の北東アジアを象徴する国際都市といえます。

日本のメディアは、国連による対北制裁とロシアの思惑という大がかりな視点から万景峰号の動向を理解しがちですが、こうした現地のローカル事情をふまえると、まったく別の視点も見えてきます。

【追記その1】
その後、FNSが4回目の万景峰号の羅先・ウラジオストク航路に乗船したようです。

北朝鮮「万景峰号」内部をTV初取材(FNS2017/06/07)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00360574.html
「万景峰号」に初乗船 船内は?(FNS2017/06/08)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00360643.html

特に目新しい発見はないようですが、「TV初取材」を謳っているわりには、とてものどかな船旅だったようです。

同スタッフは万景峰号の船内を動画で撮っています。

万景峰号をメディア初取材。北朝鮮の「謎の船」の実態を詳しくレポート(ホウドウキョクJun 15, 2017)
https://www.houdoukyoku.jp/posts/13418

正直なところ、何のために行ったのかよくわからないようなレポートでしたね。

【追記その2】

その後しばらくして、中国発のツアー募集は終わってしまいました。今度は、7月からロシア発の万景峰号ツアーが始まるようです。

「ウラジオストクから万景峰号で行く北朝鮮(羅先)6泊7日」ツアーも始まり、定期運航は続く!? (2017年07月08日)
http://inbound.exblog.jp/26975951/
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by sanyo-kansatu | 2017-05-28 11:58 | 日本に一番近いヨーロッパ 極東 | Comments(0)


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