ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 09月 08日

投資や返還の話の前に、北方四島ツアーが気になります

ウラジオストクで開催されていた東方経済フォーラムにおける昨日の安倍プーチン会談、メディアは冷淡な書きぶりです。

「温度差」浮き彫り、「肩すかし」の訪ロ 日ロ首脳会談(朝日新聞2017年9月8日)
http://digital.asahi.com/articles/ASK975TSYK97UTFK00W.html

安倍晋三首相が訪問先のロシア・ウラジオストクで7日、プーチン大統領と会談した。経済連携の強化を弾みに、北方領土交渉を動かす糸口をつかみたいと臨んだ19回目の会談だが、ロシア側から投資活動の鈍さを指摘されるなど「温度差」が浮き彫りに。「肩すかし」の訪ロとなった。

「北海道とサハリンを結ぶ回廊のような巨大事業ができれば、クリル諸島(北方領土と千島列島のロシア側呼称)に、より柔軟な環境をつくれる」

7日、ロシア政府主催の「東方経済フォーラム」であった日ロのビジネスイベント。日本の経営者を前に、ロシアのシュワロフ第1副首相はこう切り出し、日本の対ロシア投資の規模の小ささに不満を示した。

日ロの経済連携は、北方四島以外での「8項目の経済協力プラン」と、北方四島での「共同経済活動」。この両輪を通して信頼関係を醸成し、領土交渉につなげる戦略を描いてきた。

首脳会談で、両氏は日本側が「平和条約締結に向けた重要な一歩」(首相)と位置づける「共同経済活動」について、海産物の増養殖▽温室野菜栽培▽島の特性に応じたツアー開発▽風力発電の導入▽ゴミ減容対策、の5分野に具体的に取り組むことで合意。10月初旬をめどに現地調査を実施することで一致した。

「8項目の経済協力プラン」の具体化では、医療・健康やエネルギー開発など56本のプラン文書に署名し、事業を進めていくことを確認。日ロ両国に進出した企業の収益にかかる税金を免除したり、税率を下げたりする日ロ租税条約を改正し、日本企業のロシア進出への環境も改善した。

また、人道的理由から日本側が重視してきた北方四島への初めてとなる空路による墓参を今月下旬に実施し、高齢の元島民らへの配慮から、訪問先の島で宿泊することで一致した。日本としてはこうした成果も領土交渉へのテコにしたい考えで、安倍首相は共同記者発表で「ともに利益を享受する形として結実するよう私たちの努力は続く」と前向きな姿勢を強調した。

ただ、ロシア側が領土交渉の前提となる経済協力に期待するのは、橋やトンネル、パイプライン、送電網など国家規模のプロジェクト。日本側は今回の会談で経済連携の成果を強調したが、ロシアの評価とはほど遠い。8月にメドベージェフ首相が北方領土で経済特区「先行発展地域」を創設する決定に署名したのも、日本の投資を待ち続けるより中国や韓国などの投資を呼び込む方が得策との判断があった可能性もある。

首脳会談前のフォーラムで、プーチン氏は同じ壇上にいた安倍首相を横目に、客席にいた中国の汪洋(ワンヤン)副首相を指して「汪氏に友好勲章を与えた。極東地域への投資の8割が中国だ」と披露。続いて安倍首相に、冗談交じりで語りかけた。

「(日本の)対ロシアの経済協力担当の大臣の地位を、副首相に格上げしたらどうか」(小野甲太郎、ウラジオストク=中川仁樹)


基本的に、北方領土の返還を背負ってのロシアとの交渉は、そもそも無理筋に近く、しんどいものだと思います。相手に見透かされていますし、ロシアは日米同盟のあるかぎり、手放さないでしょう。そのうえ、今回は「極東の投資の8割は中国だ」とあてこすりを言われたようで、安倍さんがどうのこうのではなく、日本は立つ瀬がないですね。

ロシアとの経済交流について、現地在住の日本人たちはどのように考えているのでしょうか。ある関係者は、以下のように整理してくれました。

①日露の経済協力では 資源(原油・ガス・石炭・鉱石)分野ではすでにお互いにメリットを見つけていますので これらについての協力はWinWinの関係にあります。しかしほとんどが大手に握られており、新規参入が出来ない状況。

②ところが、他の分野では日本側からみて新しく興味を持てる対象がない。すなわち、通常の輸出入で協力できるものがないということ。加えて、経済協力となると、日露間格差が大きく、ほとんどの場合、ロシア側が「おんぶにだっこ」の状況。これでは日本側のリスクが大きすぎ。特に日本の中小企業では手に負えず、一方大手にとってソ連時代の不良債権などネガティヴな事例が多く、社内の法務・審査部門の許可が出ず、前に進めない。

③加えて、ロシアのさまざまな理解しにくい国内法が妨げとなっている。

また別の関係者は率直にこう話します。

「ウラジオストクではJETROや地方自治体経由で中小企業の視察や現地企業とのマッチングが盛んに行われていますが、まず実を結ばない。

極端な言い方かもしれませんが、日本からみると、ロシアは投資先でなく上納先。外交上、ロシアと日本政府は仲良くやりたいので、そのための上納です。

実際、ロシア人も日本から投資の話があると、それは日本が儲けるための投資でなくて、自分たちのために勝手にやってくれるもんだとみなす傾向があります。

ロシアの場合、プロジェクトが大きくなればなるほど国が絡んできて、そこでごっそりもっていかれるようなシステムらしく、そこを押さえるような関係性を築くのは生半可なやり方ではできません。

そもそも貿易も支払いや関税、運輸の問題など、一般企業にとってコストが高くつきすぎます」。

極東ロシアへの投資はリスクが大きすぎて、いまは彼らの望むようなことはすべきではないというのが現地の関係者の声です。そもそもウラジオストクといっても人口60万人の都市。極東全域あわせても数百万人。本格的な商売相手としては規模が小さすぎるのです。

ですから、日本側は北方四島以外での「8項目の経済協力プラン」には及び腰になりますし、北方四島の「共同経済活動」についても「海産物の増養殖▽温室野菜栽培▽島の特性に応じたツアー開発▽風力発電の導入▽ゴミ減容対策、の5分野」に取り組むというような、曖昧模糊としたしょぼい話にならざるを得ないわけです。

ただし、気になるのは「島の特性に応じたツアー開発」をどう進めるのか。6月にサハリンに行ったとき、北方四島へのツアーがいくつも催行されていることを知りました。択捉や国後へは同じサハリン州に属するユジノサハリンスクからのみ定期便が飛んでいて、豊富な北方の自然を生かしたエコツアーでした。

現地ではこんなパンフレットもできていて、国後島や択捉島、歯舞群島の地図の上には観光スポットが紹介されています。

ロシア側が打ち出す北方四島ツアーのキャッチフレーズは「手付かずの大自然」や「冒険」。オフロード車に乗って択捉島の指臼岳の温泉を訪ねたり、ボートで美しい入り江に繰り出し釣りをやったり。晴れた日には北海道から見えるという国後島にある北方四島の最高峰、爺々岳(標高1882m)や泊山の美しいカルデラ湖に歩いて登ったり。魅力的なスポットは盛りだくさんです。

もうそういう時代なのです。
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↑国後観光MAP&スポット紹介
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↑択捉観光MAP&スポット紹介
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↑色丹観光MAP&スポット紹介

※詳しくは、以下のウエブサイトを参照。

Amist. Tourism(Амист - Экскурсии на Сахалин )
http://amist.ru/upload/2017.pdf

現地の旅行会社を直接訪ねたところ、これらの北方四島ツアーは、グループに限り、日本人も参加できるといいます。サハリンで特別な入境許可書を発行するのに2ヵ月かかるそう。もっとも、ロシア側はウエルカムですが、日本政府は主権の問題がからむため、これまでどおり、北方四島へ入境しないよう自国民に要請するという立場でしょうか。

今月下旬に予定されている元島民の空路による墓参(当初は6月の予定が、濃霧で中止)では、初めて日本からチャーター便で国後島の空港に日本人が降り立つことになりますが、この件を「人道的」扱いとみるロシア側と北方領土返還の布石に見せたいという日本側の認識はかけ離れています。

なぜなら、ロシア人の頭には、サハリン州はこのクリル(千島)諸島とサハリン島のV字型のシルエットとして焼きついています。サハリンで売られているチョコレートのパッケージの地図にも、しっかり北方領土もサハリン州の一部として組み入れられていますし、昨年の戦勝70周年の記念ポスターもそう。すでに70年以上たっているのです。
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こうした現実を皮肉まじりではなく、まっすぐ受けとめたいものです。

リスクの大きい経済交流はともかく、観光を通じた人的交流を進めることは、現地の親日的な雰囲気を合わせて考えると、双方にとって意味はあると思います。現状では誰のための「ツアー開発」なのか判然と市内のですが、日本の手にかかれば、ロシア側の北方四島ツアーも、もっと多彩で面白い企画を打ち出せるはずです。特にウラジオにはさまざまな人材もいそうなので、交流が進むと、想像してなかった相乗効果が生まれるかもしれません。

日本に一番近いヨーロッパ「ウラジオストク」の意外な素顔(ForbesJapan2017/09/06 )
https://forbesjapan.com/articles/detail/17595

投資や返還の話はひとまずおいて、北方四島ツアーについて考えたい。そう思う今日この頃です。

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by sanyo-kansatu | 2017-09-08 10:55 | 日本に一番近いヨーロッパの話 | Comments(0)


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