2017年 10月 25日
ここ数年、中国、特に上海などの経済先進都市に行くと、街にバイク便があふれている光景を見かけます。 いま上海で通りに並んでいるのは、シェアサイクルの自転車か、各社のバイク便ばかりです。 中国のECは世界でいちばん進んでいると言われますが、それが可能となるのも、バイク便兄ちゃんの数が世界でいちばん多いからともいえます。 日本より進んでいる中国ECサービス 支えているのは誰か? (2016年03月28日) http://inbound.exblog.jp/25584174/ 第19回中国共産党大会が終わり、今日はこんな報道もありました。 「ネット出前」中国爆走 遅配は罰金、配送員の事故多発(朝日デジタル2017年10月25日) http://www.asahi.com/articles/ASKBM4SR2KBMUHBI014.html 習近平(シーチンピン)政権が2期目を迎える中国経済。24日に閉幕した共産党大会の期間中に発表された2017年7~9月期の国内総生産(GDP)成長率は、年間目標の6・5%前後を上回り、国家統計局は「経済は穏やかさを増している」と自信を深める。消費主導の経済への移行が順調に進むが、新たなひずみも目立ってきた。 お昼時の北京。赤、青、黄色のジャンパーをまとった人々が街中を電動バイクで駆け抜ける。スマートフォンで注文したレストランの料理を配達してくれるネット出前の配送員だ。 16年時点でネット出前の利用登録をしているのは全国で2億人を超える。スマホで決済まで完結できる便利さが受けている。 配送員の収入も悪くない。中国中央テレビによると、1回6~7元(102~119円)の配送を1日30~40回繰り返し、1カ月休まず働けば、業者が保証する賃金4千元程度と合わせて収入は1万元を超える。働いただけもうかる仕組みに、地方から出稼ぎに来た人々が飛びついた。 しかし、配送員の表情は浮かない。 「遅配や苦情があれば、給料から罰金を引かれる。バイクも自分で用意しなければならない」。東北部出身の20歳代の男性は、取材にそう語った。一定時間内に届けられないと20元、苦情があれば500元の罰金をとられるという。 遅配を避けたい配送員が猛スピードで運転するため、交通事故が頻発している。新華社ネットによると、江蘇省南京市では今年1~6月、出前によるバイク事故が3242件起き、3人が死亡。2473人がけがをした。 ■習政権推進の新ビジネス、「格差」前提 ネット出前は、1期目の習政権が推進してきた技術革新による経済成長を象徴する新ビジネスだ。16年は全国で1千万人以上が配送員として登録していたとされ、大量の雇用を生み出している。 新ビジネスの発展について、李克強(リーコーチアン)首相は9月の政府の会議で「経済発展の新たな原動力をもたらしただけでなく、雇用をしっかり支えた」と称賛した。 とはいえ、低賃金で配送を請け負う出稼ぎ労働者がいて初めて成り立つネット出前は、「格差」が前提だ。大手の管理部門に勤める若手社員は、「安い労働力がないと成り立たない」とこぼす。 強まる批判を受けて、大手の一角の美団外売は9月、上海紙の取材に、配送員の労働環境を改善すると表明した。配送員の受け持つ量を減らし、バイクのスピードを監視するという。 「我が国の主要な社会矛盾は、日増しに増大する素晴らしい生活への人民の要求と発展の不均衡、不足との矛盾に変化している」 18日に開幕した共産党大会では、習総書記(国家主席)が今後5年の方針を示す政治報告でそう分析し、「より質が高く、より十分な雇用を図る」との目標を掲げた。 成長がもたらす新たなひずみにも配慮できるか。ネット出前の労働環境の行方は、習体制2期目を占う一つの指標になりそうだ。(北京=福田直之) この記事では、中国のEC市場の拡大は「格差」前提の新ビジネスに支えられていると指摘しています。つまりは、「低賃金で配送を請け負う出稼ぎ労働者がいて初めて成り立つ」のが出前&宅配ビジネスなのです。では、彼らが背負う「格差」はどこから来るかといえば、中国の地方出身者に対する戸籍差別にあるといっていいと思います。これは共産党が建国当初から続けてきた政策によるものです。差別によって国を統治するのが彼らの伝統的なやり方です。 今年3月、上海を訪ねたとき、街を疾走するバイク便兄ちゃん(もちろん、中高年のおじさんもいます)の姿を知らず知らずのうちに追っていたので、その一部を紹介します。 朝早く通りを歩いていると、ブルーのジャケットを身につけた集団がいます。 朝礼のようなことをしているようです。 彼らこそ、朝日の記事に出てくる出前サイト「饿了吗(おなかすいた?)」の配達人です。 饿了吗 https://www.ele.me/home/ これは市内のどこにいても近所の飲食店からお弁当や飲み物などを宅配してもらえるECサービスです。さすがは「食の国」中国らしく、地方都市でもかなり普及していて、いまや中国は「出前パラダイス」です。 配達人の姿は真新しいショッピングモールの中でもよく見かけます。ショップ店員さんたちが注文しているからです。 ある麺屋さんに入ったときも、その店では「饿了吗」と契約して出前をやっていました。上海ではほとんどの飲食店が「饿了吗」に限らず、なんらかの出前サービスと契約しているようです。 オレンジ色のジャケットは、中国検索サイト大手「百度」の運営する「百度外卖」。 黄色は「美団外卖」。町の食堂のような店でもどこかと契約しています。 これらの出前サービスは、当然WeChatPayやアリペイで支払われます。この中国の2大決済アプリは現在、猛烈な加盟店獲得競争を続けているため、売上に応じて店にチップを渡すなどのインセンティブ合戦が起きており、町の果物屋さんでも「支付宝(アリペイ)」が使えるようになっています。 これがよくいう「中国がキャッシュレス社会になっている」といわれるゆえんです。もちろん、地方に行けば、ここまで普及しているとはいえませんけれど。 とはいえ、中国のEC社会の実態はこんな場面にも現れています。たまたま通りを歩いていて、運送会社の前を通ることがありました。配送前の荷物が地面に放り出されており、これでは相当きちんと荷造りしないと大変です。 バイクの後ろにこんなに荷物を積めば、事故も起きるでしょう。 これなんか、走っていて荷崩れしないのかしら。 最後に、これもたまたま上海駅近くの食堂で見かけたバイク便兄ちゃんたちの食事の光景です。 みなさんスマホは手にしています。 この種のローカルな食堂では、一品10元も出せばすみます。 上海など大都市部の建設労働がひと段落した後、地方からの出稼ぎ労働者を待っていたのはバイク便兄ちゃんになる道だったというわけです。 【追記1】 以下のネット記事には、配送人たちの姿を映した動画が配信されていました。まさにこんな感じですね。 <上海だより>悲惨な労働環境の“闇”──激戦、中国宅配業界の配達員事情(The Page2017.05.12) https://thepage.jp/detail/20170512-00000001-wordleafv 【追記2】 配送人の置かれた環境は、中国に限らず、欧州でも同じようです。欧州では周辺国から来た移民労働者が、中国では他の省や農村から来た都市戸籍を持たない外地人がこの仕事を担っているわけです。その意味で、中国をはじめとしたEC市場の拡大は彼らの存在抜きでは考えられないのです。 欧州のイケア運転手、トラック内で長期生活 低賃金で(BBC Japan2017年03月16日) http://www.bbc.com/japanese/39276687
by sanyo-kansatu
| 2017-10-25 11:23
| のんしゃらん中国論
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