ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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カテゴリ:やまとごころ.jp コラム( 49 )


2014年 05月 01日

29回 好調!訪日タイ個人客のつかみ方~人気ガイドブックから学ぶ“おもてなし”

先ごろ発表された日本政府観光局(JNTO)のプレスリリースによると、今年1~3月までの訪日タイ客数は前年度比64%増と過去最高を記録しています。4月も桜の花見シーズンとタイの旧正月「ソンクラーン」の休暇が重なり、多くのタイ客が日本各地を訪れました。

タイ客の手配を扱うランドオペレーター、株式会社トライアングルの河村弘之代表取締役によると、「今年もタイ市場は勢いがあります。昨年の観光ビザ免除で、日本ツアーが出発ギリギリまで販売されており、日本側のランドは手配が大変です。ホテルの客室やバスの不足も懸念されている」とのこと。先日もタイのLCC、エアアジアXが7月から成田と関空に就航するニュースが出たばかり。この勢いはさらに加速しそうです。

観光ビザが免除された訪日タイ客の特徴は、個人旅行者の比率が高いこと。彼らの旅行意欲を盛り上げるポイントは何か。日本に来て何を楽しみ、また不便を感じているのか。それを知るうえで参考になるのが、現地の各種メディアや旅行書のコンテンツです。

タイ人の訪日旅行を盛り上げるメディア作品

2月21日、タイの国際トラベルフェア(TITF)開催に合わせて、日本政府観光局(JNTO)が訪日旅行促進に貢献した団体・個人を表彰する「Japan Tourism Award in Thailand」の授賞式がありました。同賞には、タイのトップスターから映画、テレビ番組、CMのプロモーションなど、多彩な関係者が選ばれています。これを見ると、どんな作品がタイ人の訪日旅行を盛り上げているか知ることができます。

以下、同事務所の2月24日付けリリースをもとに受賞者を紹介します。それぞれ動画で作品の概要もわかるようにしてみました。

●Thongchai McIntyre (Bird)/ トンチャイ・メーキンタイ氏
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『Praew』 2013年 5月 10 日号「沖縄特集」の表紙

トンチャイ・メーキンタイさんといえば、「バード」の愛称で知られるタイの国民的スターです。1990年代にタイを訪ねた頃、街でよく彼の曲が流れていたことを思い出します。

トンチャイさんが受賞した理由は、精力的な訪日プロモーション活動への貢献です。昨年2月に「HBC国際親善広場大使」として第64回さっぽろ雪祭りへ参加。3月には沖縄県の招請で人気女性誌『Praew』の表紙撮影のために沖縄を訪問。11月にはタイ代表として東京で開催された『日・ASEAN音楽祭』へ参加するなど、日本での活動の様子がタイでも大きく報じられたといいます。これは日・ASEAN音楽祭で歌うトンチャイさんです。
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Bird Thongchai - ASEAN-Japan Music Festival 2013【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=Q1KMd2Paki0

さらに、彼は東日本大震災支援のためにチャリティーソング『明日のために』をリリースし、日本の震災復興支援に貢献しています。以下、チャリティーソングの動画です。一部日本語でも歌っています。

明日のため- Bird Thongchai【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=9EmtcjNuLac

今回の表彰式のために寄せられたトンチャイさんの受賞メッセージが、日本政府観光局バンコク事務所のHPのトップページに掲載されています。タイ語のサイトなので詳しい内容はわかりませんが、彼は動画の中で日本の魅力について語っています。

トンチャイさん受賞メッセージ【動画】
http://www.yokosojapan.org/

●ジャルン・ポカパン・フード社

タイを代表する食品会社ジャルン・ポカパン・フード社(C.P.Group)は、昨年日本行きのツアーが当る消費者向けプロモーション『CP Surprise!』を実施し、大ブームとなったそうです。以下の動画はタイのテレビで放映された同社のCMフィルムです。映像を見るだけで、コミカルな楽しさが伝わってきます。

CP Surprise!【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=d5zOEexrraU

●タイのホラー映画『Hashima Project』

2013年10月に公開されたタイのホラー映画です。タイの若い男女5人のグループが、超常現象を撮影しようと近年話題の長崎県の歴史的廃墟である軍艦島(端島)を訪ねるというストーリーです。

西日本新聞2013年5月1日によると、昨年4月18日から長崎市の平和公園や軍艦島で同作品のロケが行われたそうです。監督のピヤパン・シューペット氏(42)は、インターネットで見た端島(軍艦島)を一目で気に入り、長崎ロケを決めたといいいます。吹き替えや字幕はないため、これも内容を詳しく知ることはできませんが、これまでタイ人にまったく知られていなかった「軍艦島」の名を認知させたことは確かでしょう。ロケ地を訪れたいと実際に軍艦島に足を運ぶタイ人も出てきており、軍艦島訪問を含むツアーも造成されているそうです。以下は、同映画のプロモーションフィルムです。

Hashima Project 【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=jQ8ZaSlVBtg

軍艦島上陸クルーズ
http://www.gunkan-jima.net/

●テレビ番組『MAJIDE JAPAN』

昨年4月よりタイのBang Channelで毎週木曜夜11時から放映されている日本旅行をテーマにした人気バラエティ番組です。受賞の理由は、中国地方(鳥取、岡山、山口)や鹿児島、新潟、群馬など、まだあまりタイで知られていない地域を紹介していることです。
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MAJIDE JAPAN【動画】
https://www.youtube.com/playlist?list=PLRVsMETJm4bXsotg7I45xLtG7famnJI9D

もともとタイでは、日本のテレビ局から版権を買ってグルメ番組や旅行番組を深夜枠で毎日のように流していたそうですが、最近は自前の番組も増えています。もしタイ語がわかれば、出演するタレントさんたちが日本の何に驚き、面白がっているのか、わかって面白いことでしょう。それがタイ人誘客のヒントにつながるに違いありません。

人気旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』

訪日タイ客たちの多くは前述したように、個人旅行者です。彼らは日本でどんな不自由を感じているのでしょうか。それを知るうえで参考になるのが、昨年の「Japan Tourism Award in Thailand」受賞作の旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』です。
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タイの人気旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』

タイ人女性カメラマンのBASさん(本名:オラウィン・メーピルン)が執筆した実践的な旅行案内書です。同書は2タイトルあり、彼女が実際に訪ねた日本全国31か所の観光地について見どころや食事、宿泊施設などを詳しく紹介しています。彼女の撮影したユニークな写真(タイ人には、日本がこんな風に見えるのかという新鮮な発見が多数あり)や女性らしいイラストを多用し、日本語がわからないタイ人でも個人旅行が楽しめるような情報が満載です。

もっとも、タイ語が読めないと、詳しい内容はお手上げです。そこで、今回知り合いのタイ人留学生にこの本を読んでもらい、コメントをもらいました。その結果、見えてきたのは、タイ人の日本旅行にとってどんな情報が有用なのか、でした。これを理解すれば、タイ客の“おもてなし”に役立つはずです。
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以下、タイ人留学生ジャムジュン・モンティチャーさんとの同書をめぐる問答集です。ちなみに、彼女はタイのペチャブリー出身で、都内某大学院で観光学を専攻する若手研究者です。

四季の違いやコーディネイト例を詳しく解説

―『一人でも行ける日本の旅』は面白かったですか?

「はい、この本はよくできているなと思いました。日本語ができないタイ人でも旅行が楽しめるよう、いろいろな工夫があります」。

―それはどんなことですか?

「まず四季の違いの解説です。タイには日本のようなはっきりした四季がありませんから、何月から何月までが冬という基本的なことから、それぞれの季節に何が見られるかなど、わかりやすく説明しています」。

―タイ人に人気があるのはどの季節ですか?

「いちばん人気は春ですね。桜の季節です。タイ人にとって満開の桜は憧れです。次は冬。タイ人は一度雪を見てみたい、触ってみたいと考えているんです。日本旅行にいつ行くべきかを決めるためには、まず四季を理解しなければなりません」。

―これは持ち物チェックリストですね。日本の旅行ガイドブックにもよくあります。右のページは何でしょうか?
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四季を経験したことのないタイ人にとって季節別のコーディネイトは必須

「季節別のコーディネイト例です。タイ人には日本の寒さや暑さの程度がよくわかりませんから、季節ごとにどんな衣類を用意し、何枚くらい重ね着すればいいのかという目安をイラストで説明しています」。

―行く時期を決めたら、次はどうやって行くか、でしょうか。

「最近、タイの旅行会社はさまざまな日本ツアーを販売しているので、そこから選ぶのもいいのですが、いまは観光ビザも免除されているので、若い人たちはツアーに参加せず、個人旅行をしたいと考えています。

ただし、日本を個人で旅行するとき、大変なのは移動手段です。交通運賃がタイに比べて高いので、JRパスのような外国人向け割引券の情報は欠かせません。成田や関空から都市圏へのアクセスや、新幹線に乗って日本各地に行く場合の大まかなルートや所要時間も知りたいです。また東京の地下鉄は複雑なので、うまく乗りこなすためには、自動販売機やスイカの使い方などを知っておくと便利です」

―確かにこの本では、交通の利用法についてたくさんのページを割いているようですね。HyperdiaやJorudanのような乗換サイトの使い方も詳しく説明されています。

「ホテルについても、5ツ星クラスからビジネスホテル、ゲストハウス、旅館、民宿と分けて解説しています。日本に住むタイ人家庭にホームステイする方法も書かれていますよ」。

撮影ポイントや温泉の入り方もイラスト入りで

―タイ人は写真を撮るのが好きだそうですね。それぞれの観光地で、どのポイントから写真を撮ればいいか、そういう細かい情報が必要だと聞きます。

「タイ人は真似するのが大好きなんです。日本旅行に行った友達のFacebookを見て、自分も同じ写真が撮りたい。その点、この本はカメラマンが書いているので、撮影のポイントについて細かく触れているのが人気の理由ではないかと思います」。

―後半には、コンビニの商品や自動販売機の使い方などもありますね。
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コインロッカーやウォシュレットにタイ語の説明があると喜ばれる

「タイにも日本のコンビニはあるのですが、日本でしか売られていない商品も多いので、タイ人は気になるのです。また個人旅行する人に欠かせないなのが、駅のコインロッカーの使い方です。そして、何より日本語のわからないタイ人が知っておきたいのは、ウォシュレットの使用法でしょう」。

―確かに、ボタンがいろいろあってわかりにくいですよね。ここではボタンごとに機能を説明しています。

「いまタイ人がいちばんほしいのはウォシュレットといわれるくらいなんです。ようやくバンコクの新しいショッピングモールなどで導入が始まっていますが、まだ一般的でないので、ウォシュレットと一緒に記念撮影するタイ人もいるほどです。それから日本の和式トイレの座り方がわからないタイ人も多い。実は、日本と逆に座るので……」
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温泉の入り方の説明もこうしてイラストにするとわかりやすい

―タイでは便座のないトイレの場合、扉のほうを向いて用を足すけど、日本の和式トイレは背を向きますものね。なるほど、トイレの使い方は重要ですね。それからこのページでは、温泉に入る作法や浴衣の着方などもイラストでわかりやすく解説しています。

「水着はNGとか、お湯につかる前に掛け湯をするといいとか、お風呂の中で日本酒を一杯というのはダメですよと」。

タイ人は日本のステーショナリーが大好き

―さて、少し話題を変えたいと思います。実はこの『Omiyage』という本は、バンコクの日系出版社が制作した都道府県別のお土産案内です。とても詳しく全国のお土産が紹介されているのですが、実際のところ、いまタイ人は日本でどんなものを買っていくのでしょうか?
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『Omiyage』(Marugoto(Thailand)CO.Ltd刊)
http://www.marugoto.co.th/

「女性の観点でいうと、まず化粧品です。資生堂とDHCのサプリメント。お菓子も大好き。なかでも抹茶味のキットカットが人気です。東京バナナやロイズの生チョコ、タイ人はイチゴが好きなので、イチゴ入りのチョコレートにも目が離せません」

―なぜ抹茶味が人気なんですか?

「なぜでしょう。ほかにも桜味やワサビ味などがありますが、こちらの人気はいまいちです。最近、ブルーベリーチーズケーキ味のキットカット(上・甲信越限定ご当地商品)が出て、これはおいしいですね。キットカットはタイにも売っているけど、少し高いので、日本のコンビニで買えば安いことをみんな知っています。空港でまとめ買いする人も多いです。私もタイに帰省するときは、荷物のほとんどがお土産で、お菓子や化粧品がいっぱい詰まってしまいます。向こうに帰っても着るものはそんなに必要ないからですが、友達に頼まれるので、仕方ないんです」。

―他にも何かありますか?

「日本のステーショナリーが人気です。ふつう人からボールペンをもらっても、何これって感じですが、日本のシャーペンとか、消えるペンをあげるとみんな喜びます。だから、最近のタイ人のツアーでは、ロフトとか東急ハンズに連れて行ってくれというお客さんのリクエストが多いそうです」。

―日本の文房具のどんなところがいいのでしょうか?

「すごくよくできているのと、タイ人は小さくて細かくて、カラフルでいろいろあるという世界が好きなんです。日本のステーショナリーを見ていると、ワクワクします」。

日本旅行ブームを支える背景

―タイ人の感性は日本人と似ていますね。

ところで、タイの皆さんは日本の旅行情報をどのようにして知るのでしょう。どんな話題があると日本に旅行に行きたいという気持ちになるのですか。

「やはり影響力が大きいのはテレビ番組です。日本を紹介する番組は昔から多かったですが、最近はタレントが実際に日本に旅行に行ってレポートする番組が増えています。たとえば、『I am Maru』とか、去年の春から放映している『MAJIDE JAPAN』。おなべの子が日本を訪ねるバラエティです。あの番組、メチャメチャ面白いです。『MAJIDE JAPAN』の影響力はマジですごいです。日本にいても、ネットで視聴できますよ」。

―その番組は、日本政府観光局から訪日旅行促進に貢献した番組として表彰されたんです。みんな観てるんですね。

最後に、モンティチャーさんにタイの観光研究者のひとりとしてご質問があります。いまのようにタイ人が海外旅行にたくさん行くようになってきたのはいつ頃からでしょうか。

「4~5年前からです。LCC(格安航空会社)が飛び始めた頃からで、タイ人の所得がだいぶ上がったことが大きいです。私が大学を卒業した頃は、新卒の初任給は日本円で2万円相当でしたが、いまは約5万円と聞きます。ですから、半年とか1年とかお金を貯めて、海外旅行に行きたいと考える若者が増えています。自分のための1年1回のプレゼントとして。最初は近場の香港やシンガポールに行くけど、本当は日本に行ってみたい」。

―日本旅行ブームの背景には何があるのでしょうか。

「これまでヨーロッパと同じように敷居の高かった日本が観光ビザを免除したり、円安になったりして、行きやすくなったことが、ブームの背景だと思います。なにしろ以前は、特にタイの女性の場合、日本に行くには、半年分の銀行口座の残高証明だとか、いろんな書類を用意しなければなりませんでした。いまはその必要がなくなったのですから。

バンコクなどの都市に暮らす一般の人たちがクレジットカードをつくりやすくなったこともあります。海外旅行ローンも気軽にできるようになった。年に2回のトラベルフェアなどで安いツアーや航空券が買えるようになり、海外旅行のチャンスが広がっているのです」。

実は、今年の「Japan Tourism Award in Thailand」でも、以下の2冊が「訪日旅行の促進に貢献した旅行ガイドブック」として受賞しています。
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●ガイドブック『ガイドやツアーに頼らずに歩く日本』
●ガイドブック『123美味しい関西』

上記2冊はまだ入手していませんが、いずれも個人旅行者向けのガイドブックのようです。さまざまな角度から日本旅行の面白さを伝え、読者に旅を楽しんでもらおうという意欲を感じさせるハイセンスなガイドブックが次々と登場してくるのがいまのタイです。機会があれば、これらの本がどんな内容なのか、確かめてみたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-05-01 17:01 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2014年 03月 29日

28回 100年前の外客誘致はどうだった? 戦前期からいまに至るインバウンドの歴史の話

訪日外国人数1000万人達成や東京オリンピック開催の決定で、今年に入ってますますインバウンド振興の機運が盛り上がっています。ところで、日本の外客誘致は、いまから100年前に始まっていたことをご存知でしょうか。

思いがけない話かもしれませんが、日本の外客誘致には戦前期から継続的に取り組まれてきた歴史があります。今回はその歴史を通して、ニッポンのインバウンドの理解を深めてみたいと思います。
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いまでこそ「インバウンド」ということばや「訪日外国人の旺盛な消費への期待」から外客誘致の必要性に対する理解が広まってきましたが、歴史を振り返ると、日本の外客誘致はいまから100年前に始まっています。

それは、1912(明治45)年3月に当時の鉄道院によって設立されたジャパン・ツーリスト・ビューロー(現在のJTBの前身)の活動によってスタートしました。今日の「観光立国」政策や外客誘致のためのプロモーション活動も、すでに戦前期にひな型があったのです。

JTB100年のあゆみ
http://www.jtbcorp.jp/jp/100th/history/

100年前の訪日外国人数は約2万人


設立当時のジャパン・ツーリスト・ビューローは、今日の日本を代表する旅行会社JTBとは実態がかなり異なるもので、むしろ現在の日本政府観光局(JNTO)に近い存在でした。

では、戦前期の外客誘致とはどんなものだったのでしょうか。

それを知るうえで格好の資料となるのが、ジャパン・ツーリスト・ビューローが発行した「ツーリスト」(1913年6月創刊)です。同誌は外客誘致の促進を目的に創刊された隔月刊の機関誌で、1943年まで発行されていました。

ところで、100年前の訪日外国人数はどのくらいの規模だったのでしょうか。同誌創刊号の「発刊之辭」ではこう述べられています。

「漫遊外客の来遊するもの年々二萬人内外を有し、其費す金額も一年大略一千三百萬圓を下らずと云ふに至りては、是を国家経済上より見るも亦決して軽々に看過すべからざる事實たらずんばあらず」。

1912(明治45)年当時の訪日外国人数は約2万人、外客による消費額は約1300万円でした。つまり、2013年に訪日外国人数が1000万人を超えたということは、この100年で市場が約500倍に拡大したことになります。

もちろん、当時といまではさまざまな面で大きく事情が違っていました。たとえば、当時の外客は基本的に客船で来日しています。戦前の資料をみると、1940年代(昭和10年代後半)になってようやく航空機による訪日外客が現れていますが、「500倍」という数的拡大は、いうまでもなく、本格的な航空機時代を迎えた戦後の輸送量の飛躍的増加があってこその話です。
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※100年前の訪日外国人の状況については、中村の個人blog「100年前(1913年)の訪日外客数は2万人、消費額は1300万円」を参照。

アジア客より欧米客が圧倒的に多かった

旅客機の利用が現在ほど一般的ではなかった戦前期において、訪日外客は国際客船の寄港する港から入国していました。
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現在、横浜港に停泊する氷川丸(1930年竣工。北太平洋航路で運航した客船)

ツーリスト6号(1914年4月)の「大正2(1913)年中本邦渡来外人統計表」によると、当時の入国地としての以下の14の港が記されています。

横浜、神戸、大阪、長崎、函館、門司、下関、敦賀、小樽、七尾、青森、唐津、厳原(対馬)、室蘭。

統計表には、それぞれの港ごとに国籍別の入国者数が記載されています。入国者数のトップは横浜で、次いで神戸、長崎、下関、敦賀、門司、函館の順になっています。100年前の日本の玄関口は、成田や羽田ではなく、横浜や神戸でした。

さらに、この統計表によると、1913(大正2)年の訪日外客数は21886人。国籍別にみると、トップが支那(この時期は辛亥革命直後で「中国」という国家は存在しているとはいいがたい状況であったため、当時の中国大陸を指す一般的な呼称として「支那」が使われています)で7786人、次いで米国5077人、英国4123人、ロシア2755人、ドイツ1184人の順になっています。これら中米英露独のトップ5の占める数は圧倒的に高く、他の国々とは比較にならないほどでした。ちなみに、上位5か国の順位は、1926(大正15)年まで変わっていません。

今日と比べると国籍別比率の観点で大きく違うのは、アジア系旅客よりも欧米系旅客が多かったこと、なかでもロシア人の比率の高さが注目されます。

※当時の訪日外国人の国籍別数の詳細については、中村の個人blog「戦前期、外国人はどこから入国したのか?」を参照。

当時も日本のキラーコンテンツは温泉だった

では、100年前の訪日外客は日本のどこを訪ね、滞在を楽しんでいたのでしょうか。

ツーリスト3号(1913年10月)では、この年の7、8月「避暑地、温泉及び都会等に滞在せる外人旅客数」を国籍別に調査しています。同調査に挙げられた滞在地は以下のとおりです。

東京、横浜、鎌倉、熱海、伊東、修善寺、京都、神戸、宝塚、有馬、宮島、道後、別府、長崎、小浜、温泉(雲仙)、伊香保、草津、日光、中宮祠(中禅寺湖)、湯本(箱根)、鹽原(塩原)、松島、大沼公園、登別温泉

なかでも外客滞在数のトップは、日光で6256人。次いで鎌倉3368人、京都3008人、東京1738人、中宮祠1593人、横浜1127人、湯本1067人、小浜1039人、神戸878人、雲仙765人と続きます。
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1878(明治11)年創業の富士屋ホテル(箱根・宮ノ下)は日本人経営による初めての本格的外客向けホテル

当時の日本では、国内全域を短時間で移動できるような鉄道網や自動車道は発達していなかったので、滞在型の旅行形態が一般的でした。現在の東京・大阪5泊6日コースのような周遊旅行はありえませんでした。そのため、多くの外客は東京や京都といった大都市以外は、国内各地の温泉地や避暑地、また鎌倉や日光、宮島など主要な観光地の周辺に生まれつつあった外国人経営の洋式ホテルや日本式の温泉旅館に滞在していたようです。当時から日本のキラーコンテンツは温泉だったことがわかります。
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昭和7年の雲仙での滞在欧米客のパーティ風景

ここでちょっと興味深いのは、トップ10の中に長崎県の雲仙温泉が入っていることです。これは前述した横浜、神戸に次ぐ3番目の入国地が長崎だったことと関係しています。中国大陸と日本をつなぐ長崎・上海航路で訪日した上海租界在住の欧米人(なかでもロシア人の比率が高かったようです)が避暑のため、長崎に渡り、雲仙温泉に滞在したからです。いまではちょっと想像つかない話ですが、当時雲仙には多くの欧米客が滞在していた記録が残されています。

※当時の訪日外客の滞在事情については、中村の個人blog 「100年前の夏、外国人は日本のどこに滞在していたのか?」を参照。

インバウンドのイロハは西欧から学んだ

もっとも、1912(明治45)年当時の日本には、海外から訪れる外国人客を受け入れるためのインフラが、ハード、ソフトの両面でほとんど整備されていませんでした。

そのため、「ツーリスト」誌においても、外客誘致のためには何が必要かを啓蒙するため、海外事情の紹介に努めています。

それらの海外レポートの多くを執筆しているのは、ジャパン・ツーリスト・ビューロー幹事の生野圑六です。生野は鉄道院の役人で、のちに京浜電気鉄道社長になる人物ですが、ヨーロッパ諸国を中心に海外を視察し、各国の外客誘致の現状について報告しています。彼は日本のインバウンド黎明期に最も積極的に啓蒙活動に取り組んだ論客です。

生野がシベリア鉄道経由でヨーロッパ視察に出かけたのは、1912年6月末から9月末にかけてです。ベルリンで開催された国際旅客交通会議に出席するためでした。

「欧州各国に於ける外客誘致に関する施設」(ツーリスト創刊号(1913年6月))という報告の中で、彼はヨーロッパで見聞した多くのことに驚き、感心しています。以下、ポイントを整理してみます。

①当時のスイスではすでに外客受入態勢が完備していたこと

「瑞西は何度参りましても實に心地善い處であります。外客に対する遊覧設備の完備せること、案内上の用意の行届いていること、廣告印刷物等の豊富なること、山水風光明媚なると共に、隅々まで清潔なること、停車場などに長さ数間の大写真などが掲げてあること、ホテルの空室の有無を停車場内に掲示する設備などもあること」。

「外客に対する遊覧設備の完備」もそうですが、彼は何より外客の「案内上の用意の行届いていること」に感心しています。

②ヨーロッパでは国境を越えたドライブ旅行が始まっていたこと

「近時欧米に於ける自動車の発達は非常なもので、従て自動車で自国内のみならず、外国に旅行に出掛ける者は甚だ多いのであります。此道路の如きもツーリストを招致するのが目的であります。鉄道会社も夏期は乗合自動車を運転して、一定の賃金を以て旅客の需に応じております。吾国に於いても将来或地方には、自動車道路を設けることなども一の問題であろうと思ひます」。

これはフランスのエビアンからニースまでモンブラン山脈を横断する約700㎞の自動車専用道路を視察したことに対する感想ですが、日本では戦後を待たなくてはならなかった本格的なモータリゼーションによる観光市場の促進が、ヨーロッパではすでに戦前期から始まっていたことがわかります。

③パリには観光客を惹きつけるさまざまなインフラが充実していたこと

「巴里には其近郊に風光明媚なる處や、名所旧蹟が沢山ありますが、外客を惹付けるには寧ろ人工的設備、或は人為的方法が興つて力あることと思ひます。即美術博物館の完備せる、公園の大規模なる、市内交通機関の便利なる、市街の美観を保つが為に用意周到なる、皆之であります。暇令ば、公設建造物、廣場、凱旋門、スタチュー、橋梁等一として美術的ならざるはなく、電柱などは一本もなく、電車も高架式は許されて居ません。ホテルの設備は完全にして、而も比較的低廉である。劇場には国立竝に準国立とも称すべきものも四ヶ所を始め、多数あり、名優少なからず、他の諸国に於いては夏時は大劇場は休業する例なるに、巴里は無休で、料理や葡萄酒は廉価にして、而も美味である。尚巴里人はコスモポリタンで、外国人を外国人扱ひせず、吾々の如き異人種でも、白人同様に扱ふ等、其他外国人の為に特に利便を計っていることは、列挙すれば沢山あることと思ひます。之等のことは必ずしも吾国に於いて総て模倣すべきでもないが、又中には大に学ぶべきことがあると思ひます」。

ほとんど手放しの称賛ぶりですが、これが100年前の日本人の正直な実感だったと思われます。

④ヨーロッパでは新聞広告による外客誘致が広く行われていたこと

「(ヨーロッパ各地で発行される英国のデーリーメール新聞は)英米人の大陸旅行者に中々よく読まるるのでありますが、此新聞社は倫敦竝に巴里の中心に、立派なる案内所を持っておりまして、欧州のみならず世界各国の鉄道、汽船、ツーリスト・ビューロー、ホテル等は固より、静養地、遊覧地、シーズン、遊覧設備、自動車旅行、飛行、学校、貸家、貸別荘等に関する報告を與ふること」。

この視察を通して生野が得た最大の収穫は、外客誘致のために宣伝媒体(メディア)がいかに効果的であるかを知ったことでした。今日の日本では当たり前になっている海外に対する訪日プロモーションは、100年前に学んだものだったのです。

生野は帰国後、「ツーリスト」誌において繰り返し外客誘致のための広報機関の運営や宣伝方法、案内所の設立、ツーリスト業者の組織のあり方などを提言しています。それらの報告は、この時期ニッポンのインバウンドが、西欧をモデルに一から形成されていった過程が生々しく伝わってくる内容となっています。

※生野圑六の海外レポートについては、中村の個人blog「100年前、日本は欧州から外客誘致のイロハをこうして学んだ」、「大正期にスイスから学んだ観光宣伝のさまざまな手法」を参照。

外客誘致の目的はいまも昔も変わらない

100年前の日本は、日露戦争に勝利し、世界デビューを果たしたばかりでした。しかし、国民経済は西欧諸国に比べるとまだ貧しく、彼らから学ぶべきことが山のようにありました。

そもそも当時の外客誘致の目的は何だったのでしょうか。

ツーリスト創刊号(1913年6月刊)の巻頭には、「ジャパン、ツーリスト、ビューロー設立趣旨」なる以下の文章(一部抜粋)が寄せられています。

「日本郵船会社、南満州鉄道会社、東洋汽船会社、帝国ホテル及我鉄道院の有志聯合の上『ツーリスト、ビューロー』を設立せんことを期し、諸君の御会合を請ひたるに、斯く多数其趣旨を賛成して、御参集を辱ふしたるは、我々発起人一同の感謝とするところである。抑も漫遊外客は、我日本の現状に照らし、各種の方面より大いにこれを勧誘奨励すべきは、今更贅言を要せない次第である、外債の金利支払及出入貿易の近況に対し、正貨出入の均衡を得せしめんが為め、外人の内地消費を多からしむるに努め、又内地の生産品を廣く外人の耳目に触れしめて、我輸出貿易を発達せんが為め、国家経済上の見地より、外国漫遊旅客の発達を促すは、刻下焦眉の急たること申す迄もなく、更に一方により考ふれば、東西交通の利便開け、東西両洋の接触日に頻繁を加ふるの際、我国情を洽く海外に紹介し、遠来の外客を好遇して国交の円満を期すべきは、国民外交上忽にすべからざる要点である」。

ここでは、当時の外客誘致を提唱する基本的な考え方として、以下の3つの目的を挙げています。

①「外人の内地消費」
②「内地の生産品を廣く外人の耳目に触れしめて、我輸出貿易を発達せんが為め」
③「遠来の外客を好遇して国交の円満を期す」

①「外人の内地消費」とは、文字通り「訪日外国人の消費による経済効果」のことです。まだ貧しかった当時の日本にとって、国際客船に乗って訪日する富裕な欧米客の消費力に対する期待は今日以上に高かったことでしょう。

興味深いのは、②「内地の生産品を廣く外人の耳目に触れしめて、我輸出貿易を発達せんが為め」です。これは、そもそも外客誘致の目的は、日本滞在中多くの外客に国内産品を消費してもらうためだけではなく、その良さを広く知ってもらうことにあるという輸出立国的な認識です。インバウンド促進の目的をツーリズム産業内の市場拡大や地域振興とみなすだけでなく、それを輸出産業につなげてこそ意味があるという論点は、すでに戦前期からあったことがわかります。むしろ、「訪日外国人の旺盛な消費への期待」ばかりが語られがちな今日よりも、当時のほうが物事の本質が明確に意識されていたようにも思います。

③「遠来の外客を好遇して国交の円満を期す」は、外客誘致の目的は国際親善にあるという認識です。

「ツーリスト」誌上では、その後、外客誘致に対する「経済効果」論争が繰り広げられます。外客による消費を重視する立場と、国際親善こそ重要で経済効果は二義的なものだという主張に分かれるのです。後者の主張が生まれた背景には、1914年に始まった第一次世界大戦で戦場となったヨーロッパ諸国からの訪日旅行者が減ったことや、その後の長い日中対立がありました。

たとえば、ツーリスト10号(1914年12月)では、「(第一次世界大戦で)欧州方面に失ひたるものを米国方面に補ひ」(「時局と外客誘致策」)というようなヨーロッパに代わる外客誘致先としての米国への取り込みを促す論考。またツーリスト26号(1917年7月)では、「日支两国民間に繙れる空気を一新し、彼の眠れる友情を覚醒し以て日支親善の楔子(くさび)たらん事を期す」(「日支親善の楔子(支那人誘致の新計畫)」と、悪化する当時の日中関係を中国人の訪日誘致によって相互理解を深め、改善しようと提言しています。国際情勢がいかに外客誘致に影響していたかがわかる話ですが、今日においてもそれが同様であることは、ここ数年の近隣諸国との関係悪化で私たちもあらためて理解したばかりです。

こうしてみると、戦前期の外客誘致の目的や課題は、今日となんら変わらないものであることがわかります。現在の日本政府観光局や観光庁が主導する官民挙げたインバウンドの取り組みは、すでに100年前に企画され、実施されてきた事業だったのです。
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1935(昭和10)年に開業した雲仙観光ホテル

その後、昭和に入り、ニッポンのインバウンドは進展を見せます。国策として全国各地に外客のためのホテル建設が積極的に進められました。日本の名立たるクラシックホテルの多くはこの時期建てられたものです

しかし、時局は戦時体制に向かい、結局のところ、外客誘致どころではなく、敗戦を迎えます。それでも、戦後の混乱期を抜けると、再び外客誘致が始まります。その契機となったのが、1964年の東京オリンピックでした。

そして、いま私たちは2020年開催予定の東京オリンピックをひとつの目標として見据え、インバウンド促進を進めています。こうして歴史を振り返ると、日本はすでに外客誘致に関してそれなりの経験を積み重ねてきたことを知ると同時に、いいことも悪いことも含め、これから先も似通った経験をしていくことになるのだろう、という気がします。

それだけに、過去の歴史には、今日から見ても学べる多くの知見があります。今後は、ツーリスト創刊号で提唱された外客誘致の目的のうち、②や③の視点がより重要になってくると思います。すなはち、外客の消費を期待するだけでなく、それを日本のものづくりと直結させていく動きを促進させる必要。さらに、近隣諸国との関係も含め、訪日旅行プロモーションをいかに国際親善につなげていくかという点でしょう。

大正期に一から始まった日本の外客誘致の取り組みを知り、先人の思いや心意気を思うと、その尽力を断絶することなく、きちんと受け継いでいく必要がある。そんな殊勝な気持ちになったものです。

※やまとごころ.jp 28回 100年前の外客誘致はどうだった? 戦前期からいまに至るインバウンドの歴史の話

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by sanyo-kansatu | 2014-03-29 12:33 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2014年 02月 13日

27回 ラオスでは片田舎でも東京よりWi-Fi環境は進んでいます(改題)

昨年、史上初の訪日外国人数1000万人を達成し、今年の春節は中国からの訪日客も戻ってきました。街角でよく見かけるようになった外国人ツーリストは、日本でどんな風に過ごし、何を不便に感じているのか。海外の事例と比較しながら日本の受け入れ態勢の課題を検討し、訪日外客にとって居心地のいいツーリストタウンの条件について考えます。
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昨年8月、インドシナ北辺の国境地帯を1週間ほど旅しました。タイの首都バンコクから夜行列車でラオス国境の町ノーンカーイに向かい、国境の橋を渡ってラオスの首都ビエンチャンへ。そこからラオ航空の国内線でルアンナムターという少数民族の集落のトレッキングで知られる町を訪ねました。中国国境(雲南省)からも近い町です。

ルアンナムターでは、ひとりの外国人ツーリストとして、とても居心地のいい時間を過ごせました。

なぜだったのか。

ツーリストに必要なインフラがすべて揃う町

ラオスといえば、昨年11月に安部首相が訪問し、同国との経済協力を約束したことが報じられましたが、アセアン諸国の中では最貧国として知られる途上国です。目覚ましい経済発展が続く他のアセアン諸国と比べると、のんびりしたアジアの風情が残っていて、世界遺産に登録されたルアンプラバーンの仏教遺跡や少数民族の集落を訪ねるトレッキングなどが海外のツーリストの間で人気となっています。

でも、ルアンナムターの居心地がいいのは、それだけが理由ではありません。ツーリストの身になって考えれば、東京よりはるかに便利で快適な滞在が楽しめるからなのです。

どういうことでしょうか。

なぜなら、この小さな町にはツ-リストに必要なすべてのインフラがコンパクトに揃っているからです。

ツーリストに必要なインフラとは何か。それは「住(アコモデーション)」「食(グルメ)」「足(トランスポーテーション)」「観光(アトラクション)」という4つの要素です。

そこで、この小さなツーリストタウンの4つのインフラの中身を見ていきましょう。
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ルアンナムターのゲストハウス兼カフェレストラン

まず「住(アコモデーション)」から。ルアンナムターの市街地は南北2km、東西1kmの範囲にほぼ収まっていて、ほとんどのホテルがメイン通りに沿った100mほどのエリアに並んでいます。市街地から7kmの空港からバスに乗って町に降りたツーリストは、その気になれば、歩きながら料金や客室の快適度などを比較して、ホテルを選ぶことができます。町の規模にしてはホテル数が多く、選り取り見取り。選択肢の自由が多いことで、ホテル選び自体が旅の楽しみにつながります。そういうのが面倒くさい、またホテルの予約なしで旅行するのは不安という人も心配ご無用。この町のホテルにはたいてい英語のHPがあって、ネットで事前に予約ができます。ホテルのスタッフは簡単な英語は話しますから、予約なしでも問題ありません。
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この町のホテルはWi-Fiが完備

外国人ツーリストのホテル選びの条件として、Wi-Fiが使えるかどうかはとても重要です。その点、この町のホテルはどこでもWi-Fiが完備しています。Wi-Fiが使えなければ、ツーリストからスル―されてしまうからです。実際、ぼくはこの町から東京の友人にラインを使って通話したのですが、音声はクリアでまったく問題がありませんでした。Wi-Fiはチェックインのとき、オーナーに渡されたカードに書いてあるパスワードを入れるだけ。無料です。いまどきアセアン諸国のツーリストが多く訪れる町では、これは常識といっていいでしょう。こんなこと、あまり言いたくはないのですが、アジアの片田舎ですら東京よりずっと通信環境は進んでいるのです。

次は「食(グルメ)」です。ホテルの部屋で荷を解き、シャワーを浴びたら、誰でも町を歩いてみたくなるものです。食事をどこで取ろうか、ミネラルウォーターや軽食はどこで買えばいいか。この町にはコンビニはないけれど、ツーリスト向けの雑貨屋が数軒あります。
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これがラオスの屋台そば

この地を訪ねた8月は雨季にあたるので、日本人の姿は少なかったですが、ぼくの泊まったゲストハウスの隣のカフェレストランには、欧米から来た若いツーリストが大勢いました。そこはこの町でいちばん有名なゲストハウスで、ちょっとにぎやかすぎると思ったので、隣の宿にしたのです。朝食だけ隣でとればいいからです。ハムエッグ付きのイングリッシュ・ブレックファストが食べられます。もちろん、近所の屋台で地元のそばを食べるのも自由です。

観光(アトラクション)の手配もストレスなし

「住(アコモデーション)」と「食(グルメ)」の問題がこうしていとも簡単に解決してしまうと、人はたいてい満足してしまうものですが、ツーリストの場合はちょっと事情が違います。「足(トランスポーテーション)」と「観光(アトラクション)」の課題が解決されなくては、旅人としての根本的な欲望が満たされたとはいえません。それがうまくはかどらなければ、ツーリストはストレスを感じるものです。

少数民族の集落へのトレッキングツアーに参加するにはどのトラベルエージェンシーに頼めばいいのか。近郊の町に移動するためのバスや飛行機のチケットはどこで買えばいいか……。だいたいこういった内容ですが、これはツーリストにとって重要な“仕事”といえます。

その点、ルアンナムターのメインストリートには、ホテルやレストラン以外に、トラベルエージェンシーやツーリストオフィス(観光案内所)などの施設が並んでいます。つまり、この町ではツーリストにとって肝心の“仕事”も、徒歩圏内でストレスなく段取りできてしまうのです。
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トラベルエージェンシーの前に置かれたトレッキングツアーの告知

ルアンナムターにはトレッキング以外にも、サブ的なアトラクションがいろいろあります。たとえば、市街地にはルアンナムター博物館があります。この地域に暮らす少数民族の歴史や風俗を展示しています。誰しも旅に出ると、異文化に対する知的好奇心が刺激されるものです。

もうひとつのポイントが、夜をどう過ごすか。ツーリストにとってナイトライフは大切なアトラクションです。都会であれば、繁華街に繰り出せばいいのですが、こんな片田舎では何をすればいいのか。でも大丈夫。ルアンナムターには、夜になると屋台が並ぶナイトマーケットがあります。夕食はここで地元料理を味わえばいいのです。もちろん、前述のカフェレストランでは簡単な洋食が食べられますし、町のいたるところにある屋台そばでしめることもできます。
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ルアンナムターのナイトマーケット

こうした4つのインフラが過不足なく揃った環境こそ、居心地のいいツーリストタウンといえるでしょう。

整理してみましょう。外国人ツーリストにとって居心地のいい町の条件とは?

①ツーリストにとって快適なホテルがあること。Wi-Fi整備は必須。
②ホテルの周辺で「食(グルメ)」「足(トランスポーテーション)」の手配がストレスなく可能なこと。
③メインの観光以外に、知的好奇心を満たしたり、ナイトライフを楽しんだりするためのアトラクションがあること。

はたして日本の観光地はこれらの条件が十分揃っているといえるでしょうか。

※ルアンナムターについての詳細は、中村の個人blog「外国人ツーリストにとって居心地のいい町の必要十分条件とは?」を参照。

東京にはいくつかのツーリストタウンがある

もちろん、ルアンナムターのような小さな町と東京のような大都市では、ツーリストの動線やニーズは違うところもあるでしょう。でも、基本的にツーリストに必要なインフラはそう大きく変わるものではありません。

先日、東京観光財団を取材しました。テーマは「東京“インバウンド”事情 その実態は?」。2020年オリンピック開催決定で注目される東京都の外国人旅行者の実態や受け入れの課題について話を聞きました。以下、東京観光財団観光事業部アジアプロモーション担当課長の田所明人さんへのインタビューの一部抜粋です。

――東京を訪れる外国人の数はどのくらいいるのですか?

「日本を訪れる外国人観光客のうち、70%が東京都を訪れています。昨年は訪日外国人数が過去最高でしたが、それは同時に東京を訪問した外国人数も最高だったことを意味しています。つまり、訪日外客の7がけが大まかに東京を訪れる外国人数と考えていいと思います(※だとすれば、2013年に東京都を訪れた外国人は約700万人)」。

――東京都を訪れた外国人の多くはどこを訪ね、どこに泊まっているのですか?

「東京都が実施した国別外国人旅行者行動特性調査によると、訪問先のトップは渋谷。スクランブル交差点はもはや定番観光スポットです。宿泊エリアのトップは新宿。買い物もでき、歌舞伎町などのナイトスポットも充実。交通の便がよく、比較的低価格のホテルも多数あり、客室数の多いエリアといえるでしょう」。

■訪日外国人観光客の訪問先・宿泊エリア
順位訪問先宿泊エリア
1位渋谷    新宿
2位新宿    東京・丸の内
3位銀座    赤坂、六本木、浅草
4位秋葉原  ―
5位浅草    銀座
(平成24年度国別外国人旅行者行動特性調査より)

この調査から明らかなのは、東京にはホテルの集中するいくつかの地区があり、外国人ツーリストの大半はそこをベースに行動していることです。具体的にいうと、新宿や池袋、東京・丸の内、赤坂、六本木、銀座、品川、浅草などが考えられますが、客室平均単価やロケーション特性の異なるそれぞれの地区に集まるツーリストのタイプや行動形態には違いがありそうです。

つまり、東京のような大都市圏の場合、ホテル集中地区ごとに、今回紹介したラオスの小さな観光の町と同様、ひとつの個性を持ったツーリストタウンとして捉え、それぞれの内実に見合った個別の受け入れ態勢を検討する必要があると思うのです。

東京の滞在で不便なことは?

――外国人旅行者は東京での滞在でどんなことに不便を感じているのでしょうか。東京のウィークポイントは何ですか?

「いくつかありますが、なかでも最大のウィークポイントといえるのは、Wi-Fi整備の遅れです。海外発行のクレジットカードでのキャッシングがどこでできるかもよく知られていません。セブン銀行や郵便局、CITI BANKなどで利用できるのですが、外国人にもわかるような表示がきちんとされていないと指摘されています。羽田の深夜便を利用した外客の都心へのアクセスの問題もあります」。

日本政府観光局と観光庁が実施した調査に、以下のデータがあります。

■いつ、どこでインターネットを利用したいか?(複数回答)
1位宿泊先88.9%
2位空港43.1%
3位街頭40.9%
4位駅・バス停30.5%
5位公共交通機関28.8%
6位観光や買い物時25.9%
(平成24年度TIC利用外国人旅行者調査報告書(JNTO)より)

■日本滞在中に得た旅行情報で役に立ったもの(複数回答)
1位インターネット(PC)45.0%
2位観光案内所(空港を除く)21.3%
3位日本在住の親戚・知人21.2%
4位宿泊施設19.8%
5位空港の案内所19.5%
6位旅行ガイドブック(有料)15.6%
7位フリーペーパー10.1%
8位インターネット(スマートフォン)6.4%
(平成22年度訪日外国人の消費動向(観光庁)より)

これを見てわかるのは、外国人ツーリストが日本を訪れた後、どのように滞在中の情報を入手しているかという実態です。空港やホテルに置かれたフリーペーパーのような紙媒体からではなく、圧倒的にネット経由で情報を探していること。また移動中に街頭でインターネットを利用したいという要望はあるものの、基本的にはホテルでじっくりパソコンを使って情報を探している姿が見えてきます。

それだけに、ホテルのWi-Fi整備の遅れは“おもてなし”という観点からも致命的といえます。逆に言えば、いち早くWi-Fi整備を手がけることが、外国客の集客にきわめて効果的であるということです。

※東京観光財団へのインタビューの詳細は、中村の個人blog「致命的な東京都内のホテルのWi-Fi整備の遅れ」を参照。

急増するアジアFIT客のためのインフラ整備

今年の春節は中国客が戻ってきたようです。

日本経済新聞2014年1月30日によると、「日本向け査証(ビザ)発給のほぼ半分を占める上海の日本総領事館では、個人観光ビザの発給が過去最高のペース」。「昨年12月に発給した個人観光ビザは約1万4400件」で「前年同月の3.6倍」。「今年1月に入ってからも順調に伸びている」(上海の総領事館)といいます。

同紙では、中国の個人ビザ客の実態として「私費旅行」が増えたと分析しています。「習近平指導部が進める綱紀粛正」により、「今年1月から共産党員や公務員を対象に公務を名目とする視察旅行を禁じ」ているが、それでも訪日客数が増えたのは、「欧米よりも割安な日本に私費で旅行する人が増えたとみられる」からだといいます。

中国のFIT客の訪日が本格化することで、アジアの訪日旅行市場も大きく変わっていくことが予測されます。今後ますます増えるであろう海外のFIT客を取り込むためには、アジアの近隣諸国と比べて遅れが指摘されるツーリストのためのインフラ整備は急務となっています。

先日、水道橋の「庭のホテル」を取材しました。同ホテルは外国人宿泊客の多さで知られています。

総支配人は、外国人ツーリストの特性として「よく歩くこと」を指摘されていました。

「うちから都内のいくつかの観光ポイントは徒歩圏内で、外国の方は皇居や秋葉原などへ歩いて行かれるんです」(「庭のホテル」木下 彩総支配人)

この興味深い指摘から、訪日外客の受け入れ態勢を考えるうえで、行政単位とは別の視点が求められること。つまり、ホテルを中心とした「徒歩圏内」で形成されるツーリストタウンという発想が重要であることがわかります。

急増するアジアFIT客に対するインフラ整備を検討するうえで、ホテル集中地区ごとにタウンマップをつくってみるのは意味があります。ホテルを中心とした「徒歩圏内」に、今回ラオスのツーリストタウンで指摘した4つのインフラのうち、どれだけ揃っているのか、地図に落として調べてみるのです。もとより大都市圏では、海外の小さな町のようにすべての要素がコンパクトに揃うというわけにはいかないでしょう。それでも、わが町にはどの要素が足りないのか。またどの要素が弱く、どこを補充しなければならないのか、といったことを確認できるはずです。もちろん、強みも見つかるでしょう。

訪日外客に対する“おもてなし”で大切なのは、ツーリストの身になってわが町を考えるということです。今後は、都内のそれぞれのツーリストタウンの特性を分析していきたいと思います。

※中国からの訪日客の回復の背景については、中村の個人blog「今年の春節に中国客が戻った理由は、上海の訪日自粛がとけたから」、「庭のホテル」総支配人のインタビューは、やまとごころ企業インタビュー「なぜ「庭のホテル」は外国人客に選ばれたのか」、ホテルを中心にしたタウンマップづくりについては「外国人ツーリストにとってうれしい地図とは?」を参照。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2014/column_150.html


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by sanyo-kansatu | 2014-02-13 09:26 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 12月 26日

26回 祝!訪日外客1000万人達成。その理由と来年の展望は?

12月20日、成田空港で訪日外国人旅行者1000万人の達成を記念するセレモニーがありました。太田昭宏国土交通省大臣は「東日本大震災もあり、政府目標だった2010年から3年遅れたが、東京オリンピックの開催される2020年には、さらなる高みの2000万人を目指したい」とコメント。インバウンド関係者のこれまでの努力が報われる日が来たことを心から喜びたいと思います。
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1000万人目となったのは、タイから来たパッタラプラーシットご夫妻。「今年来日するのは3回目。ニューヨークに留学した娘と日本で合流し、北海道でスキーをする予定です」とのこと。タイ人観光客の存在感が目立ったこの1年でした。
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今年は、富士山のユネスコ文化遺産登録やオリンピック開催決定、また今月に入り「和食」の無形文化遺産登録も決まり、訪日外客数の統計も毎月のように過去最高を更新。関係者を大いに勇気づけました。.

ポスト訪日外客1000万人時代を迎えたいま、2013年の総括とともに、今後の課題や展望について整理してみたいと思います。

1000万人達成、観光庁の公式見解は

まず今年の総括です。11月27日~29日、横浜みなとみらいのパシフィコ横浜で開かれた「Visit Japan Travel Mart 2013」の報告から始めましょう。トラベルマートは、海外の旅行会社やメディアを招聘して行う観光庁主催のB2B商談会です。

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トラベルマート2013開会式

主催者発表によると、今回海外から304社(21カ国・地域)の日本旅行を企画販売している「バイヤー」が来日。彼らに日本を売り込む国内の観光業者や自治体などの312社・団体が出展したそうです。

トラベルマートでは、毎回恒例の外国人記者を集めた会見があります。この日の報告は、観光庁参事官による「日本のインバウンドツーリズム促進のための対応措置」というものでした。

そこでは、今年訪日客が過去最高となった理由として以下の4つの点を挙げています。

①アセアン諸国を対象としたビザ緩和
②円高是正
③オープンスカイにともなう国際線フライトの増加
④日本の景気回復(Japan is back!)
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オープンスカイ協定によって羽田や成田の航空供給量が大幅に増加した

このうち①②はすでに指摘されているとおりですが、③については、特に台湾、香港、そして東南アジア諸国からの新規フライトが大幅に増えたことが大きかったといえます。島国である日本では航空供給量が拡大しなければ訪日客を増やすことはできないからです。それを後押ししたのが、台湾など近隣諸国と結んだオープンスカイ協定でした。

④については、その評価をめぐって議論はありますが、結局のところ、①②③の相乗効果によって、これまで敷居の高いと見られていた日本が行きやすい国になったというイメージがアジア各国に広く伝わったことが大きかったと思います。そのイメージを実感させる円安やビザ緩和が効果的に結びついたといえそうです。
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実は、「Visit Japan Travel Mart」は今年で最後の単独開催でした。来年からは、元海外旅行博の「JATA旅博」と国内旅行博にあたる「旅フェア日本」が統合され、「ツーリズムEXPOジャパン」(2014年9月25日~28日/東京ビッグサイト)となり、これにB2B商談会の「Visit Japan Travel Mart」も同時開催として加わることになるそうです。

ツーリズムEXPOジャパン
http://www.t-expo.jp

開会式の質疑応答で、観光庁長官はこれら3つの旅行イベントをひとつに統合する理由について「世界を代表する旅行博覧会であるITBベルリンやWTMロンドンに負けないよう、アウト/イン/ドメスティックの日本の旅行市場のさらなる発信力アップを図りたい」とコメントしています。

※トラベルマートについての詳細は、中村の個人blog「「普遍的な日本の魅力」って何だろう?(トラベルマート2013報告 その1)」、「実際、商談はどれほど進んでいるのか?(トラベルマート2013報告 その2)」を参照。

流れが大きく変わったアジアインバウンド市場

トラベルマート会期中の11月28日の夜、一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)の総会がありました。AISOはアジアからの訪日客の手配を担当するランドオペレーターを中心にしたインバウンド業者が加盟する団体です。

一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)
http://www.shadanaiso.net/

官の公式見解に対して、民間事業者は今年をどう振り返っているのでしょうか。AISO理事長である日本ワールドエンタープライズ株式会社の王一仁社長は最初にこう挨拶しました。

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王一仁AISO理事長

「AISO創立から今年で7年目。震災から2年たち、今年はアジアインバウンドの流れが大きく変わった年といえるでしょう。円安効果も大きいですが、東京オリンピック開催決定や富士山の世界文化遺産登録など、さまざまな追い風が吹いています。

AISOの加盟団体は現在約160社。半分はランドオペレーターで、残りはホテルやテーマパーク、レストラン、運輸業者などの方々です。お互い協力して日本のインバウンドを盛り上げていきましょう」。

次に株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事による今年のアジアインバウンド市場に関する報告がありました。

「今年のアジアインバウンドに弾みをつけたのは、やはり7月のアセアン諸国に対するビザ緩和の影響が大きかったといえます。なかでも大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国だったように思います。

それでも、現状でいえば、訪日外客の6割を占めるのは、韓国、台湾、中国本土です。韓国はいったん回復してきたかに見えましたが、秋口から伸び悩んでいます。一方、中国市場は概ね回復基調にあると思います。

今後は、アジアの個人客向けの商品、特に来日してから各自が参加する『着地型』のツアー商品の開発などに力を入れていくべきでしょう。ここにいらっしゃる関係者の皆様には、ぜひ我々ランドオペレーターに新しいコンテンツをご提案いただきたいと思います。それを海外の旅行会社につなげていくのが我々の仕事ですから」。

報告を聞きながら、今年は「アジアインバウンドの流れが変わった」ことをあらためて実感しました。何より一時期、中国本土に過度に集中していた訪日旅行市場の取り組みが世界各地に分散化してきたことは基本的にいい流れだと思います。逆にいま、その反動で中国離れが進んでいることは、ムードに流されやすい日本人の問題だと思いますけれど、いずれバランスを取り戻す動きも出てくるでしょう。

今年は台湾や香港、タイなどアセアンの国々のように、日本の文化的、経済的影響力の強い地域からの訪日客増加が顕著であった一方、中国や韓国という「近くて遠い」大市場は政治的な理由で萎縮してしまいました。その意味でも、日本の影響力が強くない国々の訪日旅行市場をいかに活性化すべきか、という課題が印象付けられた年でもあったと思います。さらに、インドやロシアといった未知の市場に対してどう取り組むか。来年に向けて新しいチャレンジが必要ではないかと思った次第です。AISOの関係者は、すでにこうした新規市場に対する開拓を始めており、心強い限りです。

※AISO総会でのアジア各国の市場動向については、中村の個人blog「流れが大きく変わった今年のアジアインバウンド市場(トラベルマート2013報告 その3)」を参照。

VJC10年の総括と課題

2003年に始まったビジットジャパンキャンペーン(VJC)は、昨年10年目を迎えています。平成25年版「観光白書」では、この10年間を総括し、いくつかの課題を挙げています。

平成25年版「観光白書」http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000183.html

「第3節 過去10年の国際観光振興政策の総括と課題」からその一部を抜粋して検討してみましょう。

「平成15年のVJの開始前後で訪日外国人旅行者数の推移を比較すると、近年は外的要因の影響を受けて増減の振幅が大きいものの、VJ開始後は、開始前と比べて目に見えて大幅な増加傾向を示している」「この10年の間に、国内の観光関係者の間のみならず、各地域でインバウンドへの取組の必要性についての意識が広まり、インバウンドが今後の日本の成長産業の一つであるという認識が国内で相当程度広がっている」とVJCの果たした役割を評価しています。

実際、10年前と比べると、インバウンド振興に対する認識が国内で広く共有されてきたことを実感します。北京オリンピックの開催された2008年がひとつのメルクマールとなり、中国をはじめアジア地域が訪日旅行の発地国として広く認知されたことが大きかったと思います。その一方で、「我が国は、“観光後進国”からようやく“観光新興国”になったに過ぎないのが現状である」とも白書は述べています。これはどういう意味でしょうか。その理由についてこう指摘します。

「外国人旅行者受入数について見ると、過去最高である861万人を記録した平成22年においても、日本は世界で30位、アジアで8位に過ぎない。また、同じく平成22年の国際観光収入を比較しても、日本は世界で19位、アジアで8位と低位に甘んじている」。

これはマスコミも好んで触れる外客数の国際比較の現状です。日本の総合的な経済力からみて、訪日外客数が近隣アジア諸国と比べても少ないことから、あえて「観光新興国」といった表現を採用したのかもしれません。

こうした「総括」をふまえ、白書は5つの「課題」を挙げています。

①訪日ブランドの構築
②外的要因の影響を受けにくい訪日外客構造の構築と戦略的なプロモーションの展開
③MICE分野の国際競争力の強化
④訪日外国人旅行者の受入環境の整備
⑤オールジャパン体制の更なる強化

ここで指摘された「課題」は、プロモーションに関するものと、受入環境の整備に関するものに大きく分けられます。

まずプロモーションに関する課題を簡単に見ていきましょう。①(訪日ブランドの構築)では「それぞれの関係者がばらばらに情報を発信することが多かったため、日本全体としてのイメージの訴求ができていなかった」「そのようなブランド確立がなされないまま、目先のプロモーションだけに力を注いでいる例が少なからず見られる」と指摘しています。

これは、本コラムで何回か紹介した海外のトラベルマートの現状からも感じられることです。各自治体・企業がそれぞれ自己の魅力をアピールするのは当然としても、「日本全体としてのイメージの訴求ができていなかった」としたら、世界の競合国の中から日本を選んではもらえない。国としての戦略があいまいだったという反省です。また、日本国内では有名でも、海外から見てブランドとしての認知のないまま「目先のプロモーション」に懸命になっても、集客につなげるのは難しいという現実があります。

②(外的要因の影響を受けにくい訪日外客構造の構築と戦略的なプロモーションの展開)では、前述の石井一夫AISO常務理事も指摘したように、今年いくらアセアン各国からの訪日客が増えたといっても、「東アジア4か国(韓国、中国、台湾、香港)で約65%」を占めるという訪日旅行市場の偏りは変わらないことを指摘しています。近年、一部の近隣諸国との政治的不和による訪日客の落ち込みから、「特定の市場に依存した訪日外客構造の脆弱性を身を以て学んだ」と白書は述べています。これまで多くの日本人は、国際理解や親善につながるはずの観光がこれほど政治の影響を受けるとは考えていなかったと思いますが、それが現実のものとなった今日、より高い戦略性が求められています。
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日本の訪日旅行市場は中韓台に偏重している

そうした「脆弱性」を克服する手立てとして挙げられるのが、市場の分散化に加え、政治的な影響を受けにくいFIT客への対応といえます。.

「近年、世界的に個人旅行が主流になりつつあり、多様な個人のニーズを的確に把握することが不可欠となりつつある。我が国の主要な市場である韓国、台湾、香港はもちろん、今後は、中国やタイも個人旅行が主流になることが見込まれる中、きめ細かなマーケティングがより一層欠かせなくなる。

プロモーションについても、そうした傾向を受け、これまで以上にきめ細かさが必要となってくる。市場類型や国・地域ごとに訴求対象を明確化した上で、より効果的な媒体を的確に活用しながら、個人旅行者に向けてはSNSを活用するなど、常に新しい手法を取り入れ、工夫していく必要がある」。

さらに、③(MICE分野の国際競争力の強化)や⑤(オールジャパン体制の更なる強化)が必要なことは言うまでもありませんが、東京オリンピック開催が決まったことで、④(訪日外国人旅行者の受入環境の整備)も喫緊の課題となっています。

JNTO(日本政府観光局)が実施した「訪日外国人個人旅行者が日本旅行中に感じた不便・不満調査」(平成21年)の結果は以下の図表のとおりです。
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訪日外国人旅行者が旅行中に感じた不便・不満(出典:平成25年版「観光白書」)

ここでは指摘されていませんが、昨今外客から不満の声として筆頭に挙げられるのが、Wi-Fi(無線LAN)整備の遅れです。今年ぼくは東南アジアを何度か訪ねましたが、海外に比べて日本の普及の遅れはウィークポイントであることを、身をもって感じました。それはこれまで訪日外客数が他国に比べ相対的に少なかったことに起因していると考えられます。そういう意味では、訪日客の増加は、日本の通信インフラの整備と進化を後押ししてくれると前向きに考えるべきだと思います。

期待したい民間の新しい取り組み

こうした「課題」をふまえ、国土交通省は「観光立国」に向けたアクション・プログラムに取り組んでいます。

「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」の取組状況について(2013年9月20日)
http://www.mlit.go.jp/common/001015986.pdf

東南アジア諸国における集中プロモーションや、欧州、ブラジル、トルコなどへの日本の認知度向上に向けた取り組みを行う「戦略的訪日拡大プラン」、大型クルーズ客船や空港における「出入国手続きの迅速化・円滑化」に加え、なかでも来年10月から実施される予定の「外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し」が注目されています。

外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000197.html

受入環境の整備は官の役割だとしても、実際にはインバウンドの推進役は民間です。

全国各地で日本のインバウンド市場を活性化する動きが起きています。

最初に挙げたいのが、FIT(個人旅行者)向けの旅行商品です。

たとえば、先日「やまとごころインタビュー」で紹介したクラブツーリズムの国内バスツアーは注目です。

いま海外のFIT客は航空券とホテルの予約はネットで入れるのが常識です。とはいえ、相当日本通のリピーターでもない限り、言葉がわからない外国人が日本でどれほど豊かな体験ができるでしょう? 多様化した外客のニーズに応えるFIT向け旅行商品やサービスが求められています。

もともと国内客向けに造成されたクラブツーリズムのバスツアーは、海外、とりわけアジアFIT客のニーズに直結したようです。いまや日本の国内客とアジアのFIT客が一緒にバスツアーに出かける時代になっています。

※FIT向けは、やまとごころインタビュー「アジアのFIT客が国内バスツアーに乗る時代になった」を参照。

外国人旅行者が集まる草の根スポットも各地に生まれています。面白いのは、必ずしも外客を意識していたわけでなかったのに、ピタリと彼らのツボにはまってしまうケースがあります。それが新宿歌舞伎町のロボットレストランでした。この少々ぶっ飛んだショーレストランは、結果的に、日本にまだ少ない外客向けナイトエンターテインメントのニーズを満たすことになったようです。

その一方で、これまでなかったタイプの宿泊施設をオープンさせる動きもあります。バックパッカー向けホステルの「カオサン東京」です。オーナーは豊富な海外旅行の経験をもとに、海外からの若いバジェット旅行者のニーズをくみ取り、低コストのサービスを提供しています。それが国際水準のもてなしといえるのは、外国人向け英字フリーペーパーでの高い評価からもうかがえます。

Khaosan World Asakusa Ryokan & Hostel
http://www.timeout.jp/en/tokyo/venue/23091/Khaosan-World-Asakusa-Ryokan-Hostel

※草の根スポットとしては、やまとごころインタビュー「歌舞伎町のロボットレストランになぜ外国客があふれているのか」、「ライバルはバンコクやクアラルンプール 世界水準のバックパッカー宿目指し」を参照。

さらに、新しい動きとして注目されるのが、富裕層旅行というこれまで認識されていなかったセグメントへの取り組みです。今年3月、京都で日本で初の富裕層旅行に特化した商談会「ILTM Japan」が開催され、この市場に対する関心が高まっています。

富裕層旅行は、実際には極めてクローズドで小さな市場なのですが、海外のVIPを日本のシンパにすることは、訪日旅行のスタイルに新しいインパクトを与える可能性があります。彼らが発見した日本の魅力が、世界の旅行トレンドに与える影響は大きいからです。海外の富裕層旅行者は、いわば広告塔となりうる存在なのです。ただし、我々はまだその誘致や受入ノウハウを十分に身に付けているとはいえません。このジャンルでも、新しいチャレンジが必要でしょう。

今後、訪日客が増えていくことで、このマーケットが持つ面白さや可能性がもっと理解されていくに違いありません。外国人観光客といっても、国籍や階層、年代によって求めるものは全く違いますから、個別のニーズごとにそれぞれを得意とする事業者の参入を呼び、多様なサービスを生み出すことになれば、市場は活気づくことでしょう。ポスト訪日外客1000万時代における日本ならではの新しいアイデア商品や旅行サービスが生まれていくことを期待したいと思います。

※ILTM Japanについては、やまとごころイベントレポート「ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー~今、富裕層旅行市場を捉えるためには~」 、中村の個人blog「京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催」を参照。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_146.html
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by sanyo-kansatu | 2013-12-26 12:34 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 11月 21日

25回 過去最高200万人超えなるか!? 今年の訪日5人に1人が台湾客となった理由

8月のタイのトラベルフェア(Thai International Travel Fair #13)に続き、10月は台北国際旅行博(ITF2013)に行ってきました。日程は、10 月18 日(金)~21日(月)です。
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台北国際旅行博(ただし、サイトの内容はすでに来年の告知に更新)
http://www.taipeiitf.org.tw/

JNTOが10月23日に発表した訪日外客数統計によると、2013年1月~9月の訪日台湾人は前年比52.3%増の166万9900人。伸び率でみればタイ59.2%増、ベトナム49.8%増、香港49.5%増と並んで見えますが、母数が違います。台湾は香港の3倍、タイの6倍近い規模です。訪日外客全体の5人に1人(21%)を台湾が占めていることからも、今年いかに多くの台湾客が訪日旅行したかを物語っています。

【追記】
昨日(11月20日)、JNTOから10月の訪日外客統計が発表されました。それによると、台湾からの訪日客数は21万3500人と前年同月比58.0%増、1~10月の総計はすでに188万3400人となり、200万人超えは確実と思われます。

台湾からの訪日旅行者の大幅な増加の背景に何があるのでしょうか。その答えを探るべく、旅行博の会場に入ってみることにしましょう。

ツアーの叩き売りのような展示即売ブース

台北国際旅行博(ITF)は毎年10月に開かれます。1987年から始まり、今年で27回目。会場は、台湾を代表する超高層ビル「台北101」(高さ509.2m、地上101階)に隣接する台北世界貿易センター1号館と3号館です。午前10時から開門されるのですが、1時間前から行列ができるほどの盛況ぶり。主催者発表によると、今回の来場者数は31万5240人と過去最高になったそうです。

台湾滞在中に見たテレビニュースや新聞でも、ITFのことは報道されていました。台湾の年間出国者数は1000万人相当で、総人口2300万人の約40%にあたる高い出国率が知られています(日本は13%)。それだけに台湾の人たちにとって旅行博は、日本では想像できないほど話題性の高いビッグイベントなのです。
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広い会場の中で、活況を呈しているのは、やはり地元の旅行会社のツアー即売会でしょう。タイでもそうでしたが、台湾でも旅行博ではスペシャルプライスのツアー商品が多数販売されます。各旅行会社の担当者は、マイクを片手にステージに上がり、びっしり貼り出された会期中限定の商品を販売します。ツアーの叩き売りといってしまうと、少し言い過ぎかもしれませんが、日本ではちょっと見ることのない光景です。売れ行きを見ながら、スタッフはその場でチラシも書き直します。ブース内にはPC端末がいくつも用意されていて、来場者はスタッフの説明を聞きながら商品を検討しています。

※ITF会場についての詳細は、中村の個人blog「来場者数が過去最高となった台北国際旅行博(台北ITF報告その1)」を参照。

広域連携化と豊富なFIT向け商品

今回、日本の出展ゾーンのにぎわいはひときわ目立っていました。展示ブースの間の通りは、人ごみで身動き取れないほどでした。
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地方自治体のブースは、北は北海道から南は沖縄まで勢ぞろい。興味深いのは、各県単位のバラバラな出展ではなく、広域連携化が進んでいたことです。

なかでも注目は、中部広域観光推進協議会でしょうか。中部北陸9県を巻き込んだ「昇龍道」プロジェクトを展開していたからです。
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「昇龍道」プロジェクト
http://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/kikaku/syoryudo/index.html

関係者によると、「アルペンルートで人気を呼んだ富山県も、単独では集客に限界があるので石川県、福井県と横で連携し、さらに長野県、岐阜県、愛知県などとも縦で結び、『昇龍道』というネーミングをつけて一つのルートとして魅力付けした。日本は島国で、外国客は空から入ってくるしかないのだから、まず定期便の発着する空港同士を結ぶモデルコースをつくることが重要」とのこと。その点、台湾からは日本各地にフライトが多数就航しているぶん、モデルルートのバリエーションの可能性が広がっています。

自治体ブースがPR主体であるのに対し、企業グループはどれだけ旅行商品が販売できるかが勝負です。ITFでは、他の国の旅行博ではあまり見られない独特の販売スタイルとして、現地の旅行会社を自治体のブースの中に招き入れて、各地域のPRとツアー商品の販売を同時に行っています。これだけ競合相手がいると、価格競争が熾烈になるのは無理もなさそうです。

企業ブースで目に付いたのは、豊富なFIT向け商品が揃っていたことです。

なかでも近畿鉄道グループの中にある国内メディア販売大手のクラブツーリズムがFIT向けに販売しているバスツアーです。
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はとバスなどが催行する外国人向けバスツアーは、英語圏の利用者の比率が高いとされますが、クラブツーリズムの催行するツアーは、アジア客に好評です。最も人気があるのは富士山とフルーツ狩りを組み合わせたツアーだそうです。日本人向けと基本的に同じツアー内容で、最近では、日本人客とアジア客を混載する商品もあるといいます。

世界でいちばん目が肥えているといわれる日本の消費者を相手に長年練り上げられてきたクラブツーリズムのバスツアーが、アジアのFIT層にも受け入れられているというのです。日本人とアジア客が混載するバスツアーというのは、これからの新しい国内旅行のかたちを先取りしているといえるかもしれません。

ところで、異色のブースが日本の出版大手の角川書店です。同社では現地法人の台湾国際角川股份有限公司がローカル向け情報誌『台北ウォーカー』を発行していて、同誌の付録に日本旅行のための冊子『Japan Walker』があります。
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台湾国際角川股份有限公司 
http://www.kadokawa.com.tw/

近年、インバウンドビジネスにさまざまなメディア企業が参画していますが、長く現地に根付いて日本のコミックやライトノベルズ、情報誌などを発行してきた角川書店は、台湾の訪日旅行市場の下支えに大きく貢献してきたといえるでしょう。

※日本の出展ゾーンについては、中村の個人blog「地方自治体の広域連携化で活気づくジャパンゾーン(台北ITF報告その3)」、「FIT向け商品が続出する台湾市場(台北ITF報告その4)」を参照。

訪日客増加の背景にはオープンスカイがある

さて、そろそろ台湾からの訪日旅行者の大幅な増加の背景について、タネ明かししましょう。

それは、台湾と日本の間で結ばれた航空協定(オープンスカイ)です。

台湾と日本の航空協定は、2011年11月10日に調印されました。それによってチャイナエアライン(CI)とエバー航空(BR)の2社に加え、翌12年3月以降、マンダリン航空(AE)とトランスアジア航空(GE)を加えた4社が定期便を就航させています。

これに昨年以降、LCCが日本と台湾を結んでいます。日本のジェットスター・アジア(3K)やピーチ・アビエーション(MM)、そして元エアアジアのバニラエア(JW)、シンガポールのスクート航空(TZ)です。もちろん、これに日本航空と全日空が加わります。しかも、台湾のエアラインは日本の地方都市とも多く就航していることが特徴です。

台湾の訪日旅行は団体ツアーとFITが半々の割合だといいます。今回、台湾では、いわゆるスケルトン型といわれる航空券+ホテルのみの安いツアーが大量に販売されていることがよくわかりました。旅行会社はもちろんですが、エアラインも独自にツアーを販売しています。
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たとえば、今年9月に成田に就航したばかりのトランスアジア航空では、東京5日間のツアーが16900台湾ドル(約56000円)、大阪はなんと10999台湾ドル(約37000円)です。これなら軽い気持ちで日本に遊びにいこうと思えるでしょう。なにしろ台湾は2005年以降ビザが免除されていますから、前日でも予約できてしまうのです。

もちろん、日本側のプロモーションの成果も忘れてはいけないでしょう。もともと日台間には国交がないため、日本観光協会などが中心となって1990年代から細々と訪日PRを続けてきたそうですが、ビジットジャパンキャンペーンのスタートした2003年から本格的なプロモーションが始まっています。

関係者によると、台湾では新聞やテレビ、雑誌などあらゆるメディアを使った通常のプロモーションはすべて行っていますが、特に有効なのはFacebookだそうです。人口2300万人の台湾で1400万人がFacebookを利用しているからです。
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観光庁もFacebookのアカウントを持っていて、ブロガーの意見を載せたり、おすすめコースを紹介したり、新しいデスティネーションのショートムービーをつくって公開したりと、いろいろやっているようです。

日本政府観光局(台湾)公式サイト 
http://www.welcome2japan.tw/
日本旅遊活動 VISIT JAPAN NOW(Facebook) 
https://www.facebook.com/VisitJapanNow

現地で会った日本の関係者は台湾での訪日旅行プロモーションについてこう語ってくれました。「台湾というのはありがたいことに、何かやると必ず反応が返ってくるんです。レスポンスがすごくいい。やりたいことはだいたいできている。もともと台湾の人たちは日本に行く気があるので、うまく押してあげるといいんです」

では、この恵まれた台湾でのプロモーションは今後どうあるべきでしょうか。

「台湾の訪日旅行市場は多様化し、成熟化しているので、特定な地域を売ることも大事ですが、スポーツやグルメなど、新しい切り口を提案しながら呼び込むことではないでしょうか。たとえば、台湾国内ではマラソン大会が100近くあります。サイクリングも人気です。日本で走りたい人も多い。各種スポーツ団体と連携しながら、誘客を進めていくと面白いですね」

※訪日客増加の背景についての詳細は、中村の個人blog「過去最高200万人超えなるか!台湾客急増の背景にはオープンスカイがある(台北ITF報告その5)」を参照。

心温まる魅力いっぱいの訪日ツアーも続々

会場でお会いした現地の旅行関係者の話からも、台湾の訪日旅行市場の成熟ぶりを肌で実感できました。台湾の日本ツアーは実に多様化しています。以下、2つの例を紹介しましょう。

まず「日本輕井澤悠閒鐵馬泡湯自由行5日(軽井沢でのんびりサイクリングと温泉の旅)」です。長野県軽井沢で開催される「グランフォンド軽井沢」というサイクリング大会に参加し、温泉に浸かって過ごす4泊5日のツアーです。催行しているのは、台北の上順旅行社です。

上順旅行社 
http://www.fantasy-tours.com/
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このツアーを企画運営している海外個人旅遊部(FIT担当)の高世軒さんによると、「このサイクリングツアーは2011年夏から始めています。台湾ではサイクリングが盛んで、国内でも大会は多く開かれていますが、海外のスポーツ大会に参加したいと思っている人がたくさんいます。私自身もスポーツが大好きで、軽井沢で毎年5月末に開催されている『グランフォンド軽井沢』を最初のツアー先として選びました。軽井沢の新緑の一本道をサイクリングするのは最高の気分です。マイ自転車を日本に運んで走る人もいますよ。もちろん、温泉やショッピングもツアーに組み込まれています。うちのような専門の旅行会社が企画しているので、お客様も安心して参加できるんです」。

もうひとつのツアーは「田舎に泊まろう(來去郷下住一晩)」です。日本の農家に民泊(ホームステイ)するツアーです。舞台となるのは山形県飯豊町。特に観光名所があるわけではない、ごくふつうの日本の山村です。そこを訪ねた台湾客たちは民泊する農家の仕事を手伝ったり、家族と一緒に食事をしたりして、一晩過ごします。2010年春からスタートし、東日本大震災後に一時休止しましたが、12年に再開。年間200名以上の台湾客がツアーに参加しているそうです。

山形県飯豊町観光協会(ようこそThe日本の田舎へ)
http://samidare.jp/iikanjini/note?p=log&lid=310581

ツアーを企画したYUKIさんこと、名生旅行社の女性社員に話を聞きました。ちなみに彼女は元日本留学生です。

名生旅行社(トップページに同ツアーのミニ動画があります)
http://www.msttour.com.tw/web/major.asp

――「田舎に泊まろう(來去郷下住一晩)」について教えてください――

「ツアーは4泊5日か5泊6日の2パターンがあります。前者の場合、台北から仙台空港に飛んで、初日は山形県の上山温泉に泊まり、2日目は蔵王などをめぐります。午後に飯豊町の農家にホームステイし、翌日午前10時には家族とお別れになります。その日は銀山温泉に泊まり、最終日は松島などを観光して仙台空港から帰国します。

ホームステイの翌朝、車でお客さんを迎えにいくと、皆さん必ず涙を流して別れを惜しむんです。台湾のお客さんだけでなく、民家の方も泣いてしまう。一晩一緒に過ごしただけなのに、感動で涙があふれてくるんです」

――このツアーはどのようにして企画されたのですか?――

「数年前から台湾では日本のバラエティ番組の『田舎に泊まろう』が人気でした。こういうツアーが実現できたらいいなと思ったのが2009年。それから1年かけて弊社の会長と一緒に全国を訪ね、民泊にふさわしい農村を探したところ、飯豊町がいいということになりました。飯豊町では、もともと学生のホームステイを受け入れていたこともあり、観光協会に話をしたところ、快く受け入れてくれました」
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同ツアーは、2012年に台湾観光協会から優れたツアーとして金賞(金質旅游奨)が授与されています。実は、彼女が日本留学していたとき、TBSの『世界ウルルン滞在記』をよく観ていたそうで、それがこのツアー企画の原点だったそうです。まさに台湾発日本行き「世界ウルルン滞在記」のツアー版といえるでしょう。

これらのツアーに共通するのは、小規模の専門旅行社が催行していること。初めから数で稼ぐことは考えていないこと。そして、何より日本と縁があり、ベースとなる感動体験の持ち主である台湾サイドのキーパーソンが企画運営していることでしょう。加えて、日本の受け入れ側の鷹揚でかつ、きめの細かい対応が鍵だといえそうです。

こうした心温まる魅力いっぱいの訪日ツアーが台湾の旅行関係者自らの手によって生まれています。こういう話を聞いていると、うれしくなってしまいますね。逆に我々日本サイドは台湾に対してどんな新しい提案ができるのか、あらためて考えてみなければならないと感じました。

※本稿で紹介した2つのツアーの詳細は、中村の個人blog「台湾だから実現できた軽井沢サイクリングツアー(台北ITF報告その7)」、「台湾発日本行き『ウルルン滞在記』ツアーはこうして生まれた(台北ITF報告その8)」を参照。また本稿では触れなかった台湾の訪日旅行市場の最新動向については、「台湾で中国本土ブースが不人気な理由(台北ITF報告その2)」、「台湾でいまホットな話題は『シニア旅行』と『自由旅行』(台北ITF報告その6)」を参照。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_143.html
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by sanyo-kansatu | 2013-11-21 10:07 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 10月 02日

24回 この夏、日本の独壇場だった『タイ・トラベルフェア』レポート

8月中旬、タイのトラベルフェア(Thai International Travel Fair #13)に行ってきました。日程は、8月15日(木)~18日(日)。会場はバンコクのシリキット国際会議場(Queen Sirikit National Convention Center)です。
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TITF(ただし、サイトの内容はすでに来年春の告知に更新)http://www.titf-ttaa.com/
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タイのトラベルフェアは毎年2月と8月の年2回、開かれます。タイの旅行シーズンは4月のソンクラーン(旧正月)と10月のスクールホリデー(夏休み。タイでは10月がいちばん暑い!)なので、それを当て込んで2ヵ月前に催されるのです。

出展会場がそのまま旅行商品の一大即売会となるのが、タイのトラベルフェアの特徴です。単に観光局や旅行関連の展示ブースが並ぶだけでなく、航空券やホテルの宿泊券、パッケージツアーなどが特別価格で販売されるのです。当然会場は、この機を逃すまいと足を運ぶ一般客の姿であふれることになります。これは日本や中国のトラベルマートと大きく違うところです。

9月下旬現在、来場者数は集計中ということで発表されていませんが、参考までに昨年8月の同旅行フェアの主催者発表を挙げると、30万人だそうです。総売上も集計中ですが、昨年は3億バーツ(約9.3億円 1バーツ=3.1円)でした。

総出展ブース数もまだですが(昨年8月は597ブース)、今年2月の来場者は約80万人、売上も30億円規模でした。このことからタイのトラベルフェアは2月がメインで、8月はサブ的な位置付けであることがわかります。

※追記/その後、現地の英字紙の調べで、今回の来場者数は約40万人、売り上げは4億バーツ(約12.4億円)であることがわかりました。ただし、若干誇張された数字ではないかという感じもしますけど。

会場から見えてくるタイ人の海外旅行の現在形

では、会場を眺めていきましょう。

会場は各国の政府観光局、エアライン、ホテルといった展示が中心のブースと、旅行会社の展示即売、旅行グッズやガイドブックなどの物販ブースに分かれています。

「NTO(国家観光局)ゾーン」には、今回出展した中国や台湾、マレーシア、フィリピン、インドネシア、日本などのブースが並んでいました。珍しいところでは、ブータンのブースもありました。レンタカーやアウトドア関連の物販、クレジットカードの入会受付など、旅行にまつわるあらゆる商品のブースもあります。これらを眺めているだけでも、タイ人の海外旅行シーンの現在形が見えてきます。
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旅行会社の展示即売ブースでは、各社ともパネルにツアー料金のリストを大きく貼り出し、チラシやパンフレットを大量に用意してその場に特設カウンターを設け、ツアーを販売しています。来場客はいくつもの会社をめぐり、ツアー商品の中身と料金を見比べ、これぞと思うツアーを見つけると、その場で予約申し込みをします。なぜなら、前述したように、各社はこの会期中限定のスペシャル料金で売上を競い合っているからです。
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特設ステージも設置されていて、常時各国のプロモーションイベントやショーが繰り広げられています。タイのトラベルフェアにはお国柄がよく表れていて、お祭りのような楽しさにあふれていました。

※TITF会場の出展ブースの様子については、中村の個人blog「8月中旬、タイのトラベルフェアに行ってきました(TITF報告その1)」を参照。

圧倒的に盛況だったジャパンゾーン

今回のタイのトラベルフェア(TITF)で最もにぎわいを見せていたのは、ジャパンゾーン(日本の出展ブース)だったといっていいと思います。実際、他国のブースと比べても、日本は出展数が多く規模が大きいというだけでなく、力の入れよう、やる気がまるで違っているように見えました。日本の関係者の皆さんはいつも通りの生真面目さで、日本観光のPRにいそしんでおられました。それはまさに日本の独壇場といった光景でした。
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では、ジャパンゾーンを見ていきましょう。まず、ジャパンゾーンを束ねている日本政府観光局(JNTO)の「VJブース」です。ここには、来場客からの日本旅行に関する質問に答えるためにタイ人のスタッフが常駐しています。

今回ジャパンゾーンには、日本から24団体が参加しています。タイ人が最近急増している北海道。「昇龍道」というゴールデンルートに代わる特設ルートを設定し、広域連携する中部や北陸。タイ人誘客を模索している九州、沖縄などが、目を引きました。
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さらに、ジャパンゾーンとは別の場所で、H.I.SとJTBのバンコク支店がツアー販売を行っていました。彼らは地元の旅行会社と競合しながら、日々タイで営業を行っている現地法人です。

さて、TITFでは別会場で商談会やビジネスセミナーが行われます。今回日本側が強くアピールしたかったのは、8月16日の午後に行われた在タイ日本国大使館による査証免除に関するプレゼンテーションでした。今年7月1日よりタイ人に対する観光ビザの免除が実施されたことに対する広報PRが目的です。
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JNTOバンコク事務所によると、「今回は8月のTITFとして日本から過去最大の出展数(24団体)となりました。タイ人にとって日本は憧れの国です。ですからビザ免除は、現地メディアでも大きく報道されました。タイの人たちは、今回の決定で自分たちは日本に認められたのだと喜んでいます」とのことです。

同事務所がまとめた「TITF速報」によると、訪問地に関する来場客の問い合わせは、東京~大阪ゴールデンルートに含まれるエリアが最も多かったものの、これに北海道、高山・白川郷が続いたこと。また、これまで問い合わせの少なかった中国・四国地方などに関する質問も寄せられ、FITを中心としてタイ人の興味が全国に拡大していることが実感されたこと。旅行内容については、10月をターゲット時期とする旅行フェアのため、紅葉に関する質問が相次いだこと。鉄道パスやレンタカー等の移動手段やWiFi等の携帯利用に関する質問、温泉や食・レストランに関するものが多かったそうです。

これらの報告を見る限り、タイの訪日客はずいぶん成熟していることを実感します。質問内容からも、彼らが個人旅行の意欲にあふれていることもうかがえます。この夏実施された観光ビザ免除は、両国にとってきわめて好タイミングだったといっていいのでしょう。

JNTO関係者によると、来年2月のTITFの日本からの出展団体はさらに増えるだろうと予測しています。

※ジャパンゾーンの様子については、中村の個人blog「圧倒的なにぎわいを見せたジャパンゾーン。その理由は?(TITF報告その2)」を参照。

FIT仕様に進化するタイの日本旅行案内書

会場内には、旅行関連商品を扱う物販ゾーンもあり、タイ語の旅行ガイドブックが多数販売されていました。

正直なところ、タイで個人旅行のためのガイドブックがこれほど充実しているとは思っていませんでした。ぼくは中国の旅行書籍の事情にかなり精通していますが、実用書としての出来栄えを見る限り、明らかにタイは中国より進んでいます。誌面を通じて実際に日本を旅行している「タイ人読者=個人旅行者」の存在をうかがわせる企画内容や、実用に則したさまざまな編集的な仕掛けや工夫が見られるからです。これだけの書籍が存在する以上、成熟した旅行者がこの国には存在している。そう確信するに至りました。
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なかでも印象的だったのが、タイ人女性カメラマンのBAS(バス:ペンネーム、オラウィン・メーピルン:本名)さんの書いた旅行ガイドブック『ひとりでも行ける日本の旅』です。

このガイドブックは日本全国31か所の観光地について、アクセス情報も含めて、詳しく説明しています。同書の特徴は、東京や大阪などの主要都市から離れた日本語の標記しかない地方の観光地についても、地名標記の写真を掲載したうえ、タイ語に翻訳して説明してあるなど、日本語ができないタイ人でも、ひとりで日本旅行できるよう工夫を凝らさています。女の子らしいイラストも豊富に使われていて、楽しく読みやすいデザインになっています。タイの日本旅行案内書が、FIT仕様に進化していることがわかります。

実は、この本は今年2月に在タイ日本国大使公邸で開催された“Reception for Japan-bound Tourism Promotion”において、訪日旅行の促進に貢献した旅行ガイドブックとして「Japan Tourism Award in Thailand」を受賞しています。

※TITF会場で見つけた豊富な日本旅行案内書の世界については、中村の個人blog「タイで発行される日本旅行ガイドブックはよくできている(TITF報告その3)」を参照。

なぜ日本ブースはにぎわったのか

それにしても、今回のトラベルフェアでは、なぜジャパンゾーン(日本の出展ブース)がにぎわいを見せることができたのでしょうか。あらためて考えてみたいと思います。

まず考えられるのは、今年が「日本アセアン友好協力40周年」で、「(アセアン客)訪日100万人プラン」という観光庁の明快な目標が掲げられていたことがあるでしょう。それに加え、会場で会った多くの関係者から共通して聞かれたのは「円安とビザ緩和に対する期待の高さが主な理由だろう」という声でした。

もっともこんな声もありました。ローカルブースに出展していたあるタイ在住の日本関係者は、はっきりこう言います。「こんなに日本からの出展が増えたのは、中国問題にある。中国で痛い目に遭ったから、タイしかないというムードになったにすぎないのでは」。

日タイ関係を長く見てきた現地邦人たちは今回のジャパンブース盛況の理由を意外に冷静に見ているようです。確かに、日本側がこれほど積極的だったのは、昨年以降、中国に対する嫌厭感からにわかに進んだ日本経済の東南アジアシフトの機運と同調しているように思われます。そして、彼はこう付け加えました。

「今後、日本の皆さんが期待するほどのタイの訪日旅行マーケットの爆発が起こるとは限らない。それは事前に了解しておいてほしいと思います」。
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タイはここ数年、目覚ましい経済成長を遂げています。少なくともバンコクにいて、巨大なショッピングモールに繰り出すタイ人たちの旺盛な消費力を目にしていると、この国に多くの海外旅行者が現れても、なんら不思議ではないと感じたことは確かです。

タイではここ数年、政変や洪水など、経済成長にブレーキをかける事態が頻発しました。それでも、現地関係者によると「タイの海外旅行市場は、2011年後半(10月末から12月前半)の大洪水の影響で12年度前半は落ち込みが見られました。しかし、後半は持ち直し、最終的には12年全体の統計で、タイ人の海外旅行者数は前年度比6%増の572万人になりました」とのことです。

タイの海外旅行者数は、2012年時点で572万人という規模です(しかも、数では国境を接したマレーシアなどが上位を占めます)。そのうち、訪日したのは26万人。たとえば、同じ年の中国の海外出国者数は8300万人で、訪日は140万人。確かに、インバウンド振興において重要なのは市場規模がすべてではありません。むしろ市場の分散の必要こそが、昨年の教訓です。しかし、市場規模の違いは歴然としています。タイの人口は約6600万人ですが、広東省の人口だけで約9000万人いるのです。

その点について、別の在留邦人はこう指摘しています。「タイを訪れる日本人は1990年代に入り急増しましたが、2000年代に一時停滞しました。それでもここ数年の東南アジア経済の成長で持ち直し、最近はだいたい年間120~30万人で落ち着いています。

つまり、渡航者数には頭打ちとなる時期があるのです。では、訪日タイ人数の落ち着きどころはどのくらいか? こればかりは誰にもわかりませんが、私はだいたい50万人くらいではないか、と考えています。根拠があるわけではないですが、タイの人口や経済規模からいって、そのくらいに見積もるのが妥当という考えです」

タイの訪日旅行市場の伸び率は現状では高く見えるけれど、伸びしろは限りがあるのではないか。

昨年、中国問題で傷ついた日本の関係者の多くは、あらゆる面で好意的なムードと環境に恵まれたタイに来て癒されたのではないか、と思います。実は、ぼく自身まったくそうでした。その気持ちはわかるけれど、ムードだけで大挙して押し寄せても、どれだけの成果を得られるか、冷静に検討する必要があるだろう、という現地の声もあるのです。

食のプロモーションで連動しよう

タイで富裕層向け訪日旅行のフリーペーパー『The Cue Japan』を発行するO2 Asia Travel Design Co.,Ltd.の吉川歩代表取締役社長は、こう分析しています。

「タイの訪日旅行市場の規模を考えるポイントはふたつあります。まず、すでにいるリピーターがあと何回日本に来てくれるか? そして、初めて来日するタイ人旅行者があとどれだけ残っているか?」

我々日本側が新しく“発見”したと思っていたタイという優良な訪日旅行市場も、現地の感覚ではすでにかなり成熟しているというのです。こうした現地側の客観認識をふまえ、これからタイ市場に対して何をすべきなのか。吉川さんはこう提言します。

「まず大事なのは、リピートできる都市を増やすことでしょう。現在、東京、大阪、札幌などがそれに当たると思いますが、もっと候補がないとリピーターを増やすことはできません。では、タイ人が1回しか訪れてくれない都市と何度もリピートしてくれる都市との違いは何か。それは食にあると思います」

タイ人の日本食好きについては、本コラムでもこれまで何度か紹介してきましたが、やはり誘致のカギは食にあるというのです。

「タイ人の訪日誘致は観光だけでは十分ではないと思います。地元の食の魅力をいかに印象的に打ち出せるかが、知名度を上げることにつながります。おいしいものを食べてみたいという動機だけで、その土地に訪れたいと思うのがタイ人です。もっとそれぞれの地域が地元の食を前面に出してアピールすべきです。

そのためには、今回のトラベルフェアのような場でも、観光PRだけでなく、食のプロモーションと連動させるべきではないでしょうか」

実は、『DACO』(http:www.daco.co.th)という日本人の発行するタイ人向け情報誌の8月号に、茨城県の食の物産展の広告が載っていました。そこには、いかにもタイ人が好きそうなイチゴやメロンなどのフルーツや地元特産品が写真入りで紹介されていました。

バンコクではこうした日本の自治体の物産展がよくあるそうですが、残念ながら同県はTITFには出展していませんでした。

つまり吉川さんは、こうした食の物産展と観光誘致を連動させてPRすることが知名度を上げることにつながる。それがタイの訪日旅行市場の開拓にとって重要だというのです。これはすべての国で当てはまる手法ではないかもしれませんが、少なくともタイでは有効なのです。とても貴重な提言だと思います。

※やまとごころ.jp  http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_140.html
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by sanyo-kansatu | 2013-10-02 13:36 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 08月 22日

23回 「アセアン向けFITパッケージとは何か?」(改題)

7月下旬、日本政府観光局(JNTO)は、今年度上半期(1月~6月)の訪日外国人客数が過去最高の495万5000人になったことを発表しました。これで訪日客1000万人という政府目標の達成もようやく視野に入ってきたといえるでしょう。

地域別には、東アジアの韓国、台湾、香港に加え、アセアン諸国の伸び率が顕著で、唯一中国だけが減少しているという興味深い結果が出ています。

なぜ訪日客は増加したのか。今回は、メディアの報道を中心にその理由を整理したうえで、国・地域ごとにそれぞれ異なる市場の特徴や攻略のヒントを見つけていきたいと思います。

アジアの中間層の増加とLCC路線網の拡大

新聞各紙は、今年訪日客が増加したいちばんの理由として、安倍政権の経済政策「アベノミクス」による円高是正を挙げています。身もふたもない話ですが、日本円が安くなったから観光客が増えたというわけです。さらに、東日本大震災から2年たち、ようやく海外でも原発事故に伴う風評被害が収まってきたことも指摘しています。

加えて、アセアン諸国の訪日客の急増で尖閣問題以降の中国客の減少をカバーしたこと。百貨店の免税品売上も、中国客に代わってアセアン客が貢献。東京や関西など大都市圏だけでなく、九州や北海道などの地方都市にアセアン客が増えていることを報じています。
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この上半期に訪日客数の伸びで最も目立ったのはタイ(前年度比52.7%増)で、ベトナム(同52.1%増)、インドネシア(同50.1%増)とアセアン諸国が続き、次いで台湾(同49.4%増)、香港(同43.1%増)、韓国(同38.4%増)と東アジアの国・地域が並びます。

ただし、東アジアの国・地域とアセアン諸国では、昨年までの渡航者数が大きく違うため、全体の数でみれば訪日客の増加に実際に貢献しているのは、むしろ東アジアの国々であり、その勢いを見逃すことはできません。とはいえ、アセアン諸国からの訪日客の増加は、東アジアに比べて後発市場であったこの地域でも、海外旅行に出かけられるような可処分所得を手にした中間層が増加していることを意味します。そこに狙いを定めた政府によるアセアン諸国への観光ビザの緩和が続けざまに出されたことで、彼らの存在がニューカマーとして大きく注目されたのは当然のことでしょう。

※さらに詳しい分析については、中村の個人blog「「東南アジア客急増 中間層が拡大 円安も追い風」【2013年上半期②外客動向】」を参照。

訪日客増加のさらなる理由には、格安航空会社(LCC)の相次ぐ就航もありそうです。

「LCC元年」と呼ばれた2012年の国内格安航空会社3社の就航から1年を迎え、今年の大型連休のLCCの乗客数は順調に伸びてきたといわれています。欧米や東南アジアに比べると、LCCの利用はまだ少ない日本ですが、今後海外勢の参入によって競争激化が予想されます。なかでも訪日客数トップ2の韓国と台湾はすでにいくつかのLCCが就航し、訪日客の増加に結びついていると考えられます。
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※LCCの最新動向については、中村の個人blog「LCCはアジア客の訪日旅行の促進につながるか?【2013年上半期⑫LCC】」を参照。

今年に入って大都市圏のシティホテルの稼働率は上昇しているそうです。訪日客に加え、景気回復に伴う国内客の客足も戻ってきているからです。そのため、「週末の都内のホテルの客室確保が難しくなっており、特に土曜日は東京以外の場所に宿泊するようなツアーの旅程を組まざるを得ない」というアジア客を扱うランドオペレーターの声も出ているほどです。

※ホテルの最新動向いついては、中村の個人blog「東京・大阪のホテル稼働率は震災前を大きく上回る水準に【2013年上半期①ホテル】」を参照。

その一方で、東日本大震災で被災した東北を訪れる外国人客は回復していないようです。

今年5月の大型連休の東北の宿泊予約数は震災前の2010年の水準を超えたことから、国内客の東北観光が本格的に回復してきたのとは対照的です。

アベノミクスによる円安が、訪日客の増加とは逆に、日本人の旅行需要の国内回帰をもたらし、それが東北観光の追い風となっている面があるようです。さらに、震災以降各地で続けられた被災地応援ツアーや、NHKの大河&朝ドラ効果(『八重の桜』『あまちゃん』)が結びついて、国内客がどっと東北を訪れているということです。こうした東北観光の盛り上がりが、外国人客にもっと伝播していかないものか……。それがちょっと残念です。

※東北の観光事情については、中村の個人blog「東北に外国人客は戻ったのか?【2013年上半期⑨震災2年後の東北観光】」を参照。

韓国、台湾、香港では「今行かなきゃ!」って感じ

次に、国・地域ごとに異なる市場の中身について見ていきましょう。

まず訪日客数トップの韓国から。実は、韓国では東日本大震災後、原発事故への警戒感が強く、訪日客の回復が最も遅れているといわれていました。それが今年に入って、ようやく動き出してきたようです。

その一方で、「韓流ブーム 冬の気配 竹島・円安で観光客急減」(朝日新聞2013年4月16日)と、韓国を訪れる日本人は急減という対照的な構図も報じられています。なんとも皮肉なものです。

ではなぜ訪日韓国人が増えたのか。日本のインバウンドにとって最大かつ先行市場である韓国は、アセアン市場と違って、旅行会社の催行するツアーに頼らないFIT(個人旅行者)が主役です。それだけに、LCC就航拡大の影響が大きいのです。円安ウォン高効果にLCCによる渡航費用の軽減が重なり、彼らの訪日意欲を高めたといえそうです。
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今年7月4日成田に就航した韓国のLCC、チェジュ航空

※訪日観光客の増加の背景については、中村の個人blog「「訪日韓国人 回復進む 円安ウォン高で拍車」【2013年上半期⑤韓国客】」を参照。

同じく台湾は、上半期の伸びも大きいですが、6月単月に限ると、なんと前年度同月比80%増という驚異的な伸びを見せています。すでに上半期で100万人超えも果たしました。この調子で台湾客が、夏以降も来訪してくれることを期待したいところです。

それにしても、6月というオフシーズンに、なぜこんなに台湾客が増えたのか。以前、本連載にも登場していただいた現地情報誌『ジャパンウォーカー』(台湾角川)の鈴木夕未さんに質問したところ、こんな返信をいただきました。

「訪日客が増えている理由はやはり、円安だから。これに尽きます。おかげさまで『ジャパンウォーカー』の売上は好調です。これは香港でも同じで、現地の人たちに聞いても『今行かなきゃ!』って感じ。みんなそう言っています。

もうひとつは、6月が日本の梅雨ということで、通常より相当安いツアーが出回ったせいだと聞きます。私の友人も東京ディズニーリゾートに行くツアーがとても安かったといって、元々予定していなかったのに、息子を連れて日本に行きましたよ」

何はともあれ、円安が起爆剤。東アジアではもはやFITが主人公です。韓国、台湾、香港では「今日本に行かなきゃ!」という気分が生まれているようです。それは円高だった昨年、日本人の海外旅行者数が過去最高になったのと同じ心理でしょう。

なかでも最も成熟しているのが、訪日客の7割以上がFITという香港市場です。アジアの中でも彼らほど海外渡航に慣れている人たちはありません。香港人の国際感覚は、我々一般の日本人の水準をはるかに超えているといってもいいでしょう。

そんな香港のFITをどう攻略するか。今年度、日本政府観光局(JNTO)香港事務所では、「『Rail & Drive』を活用した新しい訪日旅行のスタイルをテーマにしたプロモーションを『a different Japan Rail & Drive』と名づけて展開」しているそうです。
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『Rail & Drive』とは何か。現地日本語メディアの香港経済新聞では、以下のように解説しています。

「香港人で日本旅行に行く人は4人に1人が10回以上の渡航経験を持つ。75%がFITと呼ばれる個人旅行客で、最近では電車やレンタカーを駆使して旅行行程を組むパターンも多い。日本人が観光するのと同じように、香港人が電車を使ったり、レンタカーを予約するなど高度な旅行プランを組めるようになったことで、これまで外国人観光客が訪れることが少なかった地域にも香港人が現れるケースはさらに増えそうだ」

つまり、日本人が国内旅行するのと同じように、香港の人たちにも鉄道や飛行機とレンタカーを組み合わせて訪日旅行を楽しめるように情報提供していこうというのです。それは日本人がハワイやアメリカでレンタカーを借りてドライブするのと同じことです。

※香港の訪日客の動向については中村の個人blog「香港客大躍進の背景に「Rail & Drive」プロモーションあり !? 」を参照。

アセアン客向けの魅力的な富士山ツアーがない?

一方、後発市場のアセアン諸国ではシンガポールを除くと、まだ団体ツアーが主流です。

この夏、アセアン客の動向に確実に影響を与えているのが、富士山の世界遺産登録です。これまで彼らも団体ツアーで必ず富士山に立ち寄っていたのですが、こうして国際的にハクがついたことで、日本に旅行するのなら、これまで以上に必ず行かなければならない重要スポットになったといいます。ただし、ツアーバスで五合目に立ち寄るというような、ごく一般的な体験では物足りないとも感じているようです。

日本の旅行各社は、世界遺産登録を機に増加が見込まれる外国人客向けの多彩な富士山ツアー商品を企画しています。たとえば、4つある登頂経路のうち、最も一般的な富士吉田ルートではなく、南山麓の富士宮ルートを山岳ガイド付きでじっくり登るツアーなど。まさに本格的なFIT向けのツアーといえそうですが、英語ガイドがほとんどで、対象は旅慣れた欧米客に限られると思われます。アジアにも英語を話せる人は多いので、一部参加している人たちはいると思いますが、現状ではアジア客向けとはいえないようです。

この点について、一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁理事長は、「アセアン客向けの魅力的な富士山ツアーがない」とはっきり言います。これはどうしたことでしょう。

※外国人向けの富士山ツアーについては、中村の個人blog「富士山の世界遺産登録は訪日外客にも確実に影響を与えています【2013年上半期⑪富士山1】」、「外国人向け富士山ツアー、続々登場! ただし、欧米客向けがほとんどか【2013年上半期⑬富士山2】」を参照。

アセアン客向け「FITパッケージ」とは何か?

AISOの王一仁理事長は続けてこう説明します。

「この夏、東南アジアからの訪日客が増えていますが、彼らはアベノミクスで日本は変わったと感じています。ビザ緩和でこれまでの閉鎖的な印象が変わり、円安で行きやすくなったこともあるため、日本は自分たちに対してオープンになったと好意的に受けとめているのです。

東南アジアのほとんどの人たちが日本に来たら富士山に行きたいと考えています。確かに、団体ツアーでも五合目に立ち寄って、山中湖や河口湖の温泉旅館に泊まるコースが組み込まれています。しかし、最近弊社が関わっているシンガポール市場では、団体ツアーは人気がありません。彼らは香港ほど成熟していませんが、それでもFITを好むのです。日本政府観光局の調べでも、シンガポール市場はFITの比率がアセアン諸国の中で最も高いといわれています。

弊社はランドオペレーターですから、FIT客を直接扱うことはありません。ランドオペレーターはいわば海外の現地旅行会社のサポーター。彼らが現地でツアー客を集められるような企画を提案するのが本分です。ところが、先ほど言ったように、シンガポールではFITが多いため、旅行会社がツアー客を集めるのが以前よりずっと難しくなっているのです。

では、シンガポールのFITは日本に来て、本当に自由でリーズナブルな旅を楽しめるのか。それは無理というものです。たとえば、個人で富士山に行くには、ホテルの予約はできても移動手段の確保が大変です。彼らは日本へのフライトはLCCやマイレージを使って安く移動できても、日本の中では同じようにはできないのです。

そこで、私がシンガポールの旅行会社に提案しているのが『FITパッケージ』です。これは、ひとことで言えば、FITの乗り合いバスです。つまり、FITの人たちはフライト予約や東京のホテル手配は各自でやりたがるとしても、来日してからであれば、同じバスに乗って1泊2日のオプショナルツアーに参加することは厭わないのです。

たとえば、弊社が企画した富士山1泊2日のツアーでは、予約申し込み者の宿泊する都内のホテルを回って参加客を拾い、箱根、芦ノ湖、富士五湖を訪ね、山中湖の温泉旅館に泊まります。翌日は、山中湖花の都公園で初夏はラベンダー、夏はひまわりを鑑賞し、御殿場アウトレットで買い物して都内に帰るというものです。
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一般に日本の旅行会社が催行する富士山の外国人向けオプショナルツアーは日帰りコースが多いのですが、弊社のツアーでは1泊2日にするのは理由があります。東南アジア客の多くは、富士山に登りたいというより、富士山の見える温泉旅館でゆっくり一泊したいと思っているからです」

王理事長がシンガポールの旅行会社向けに提案した富士山1泊2日のオプショナルツアーの内容は、ぼくの目から見ると、通常の団体ツアーのコースとそれほど変わらないという印象でした。欧米客向けほど本格的でなくてもいいから、もう少し特別な場所を訪ねるとか従来にはないアイデアや付加価値が必要ではないのだろうか。失礼を承知で「ツアーの内容はわりと一般的なものですね。これでシンガポールのお客さんは満足するのでしょうか」と疑問をぶつけたところ、王理事長は次のように答えました。

「大事なのは、シンガポールのFITのニーズは何かを知り、それに合わせることです。弊社のツアーでは、富士山の五合目には行かないことにしています。この夏、五合目周辺はバスで大混雑になることが予想されます。せっかく訪ねた富士山のイメージが悪くなってしまうのが心配です。それに、五合目からの眺めが必ずしもいいとはいえないですから。富士山はもっと遠くから眺めたほうが美しいものです。眺めのいいポイントをいくつか選んで案内するほうがお客さんに喜んでもらえるんですよ」

確かに、熱帯で暮らす東南アジアの人たちは山歩き、いやそもそも外で歩くことがあまり好きではないそうです。だとすれば、見る場所や季節によって大きく変化する富士山のビューポイントを複数取り入れるとウケるのかもしれません。富士山ならまず五合目に行くものだという固定観念は不要と考えるべきなのです。

それに、王理事長のいう「FITパッケージ」には、旅本来の楽しみがありそうです。団体ツアーに参加すると、自国の空港で集合してから帰国するまで、ずっと同じ顔ぶれでツアーを続けることになりますが(シンガポールの人たちはそういうスタイルがもう嫌なのでしょう)、各自が日本に来て、1泊2日だけ同じオプショナルツアーに参加した仲間とつかのまの時間を共有する。それがお仕着せの旅ではない価値を生むことになるのではないでしょうか。

今後は参加する人たちの国籍も増えることでしょう。シンガポール、タイ、マレーシアなど、さまざまな国から来たFITたちが、つかの間の出会いを楽しみ、東京に戻れば、それぞれホテルに別れていく。そんな一期一会の世界が“乗り合いバス”です。この種のバスツアーは、はとバスなどが企画するツアーにもあるのですが、それをいかに現地で販売するかが鍵になります。そこで強みを発揮できるのは、現地の旅行会社でしょう。

これからの時代、東アジアだけでなく、アセアン諸国でもFIT化が進むことでしょう。でも、彼らが日本に来て個人で体験できることはまだ限られています。日本の国内旅行市場は成熟し、多彩な旅行商品があふれていますが、海外からの観光客にとって日本人と同じように、それを享受するのはたやすくはありません。日本はまだそれほど英語が通じる社会ではありませんし、そもそも日本人と彼らの求めるものは同じではないからです。

そういう意味でも、「FITパッケージ」という着想には虚をつかれたところがありました。正直に言えば、最初は「こんな程度の中身でいいのか?」と思ったのですが、王理事長の話を聞いていくうちに、実際の海外からの旅行者のそばにいて、彼らのニーズを常にうかがっていなければ、こういう商品は作れないと実感しました。実は、我々がいちばん苦手なのは、こうした作業なのではないかと思います。

しかし、東南アジアのFIT向けのオプショナルツアーは、富士山以外にもいろいろあってよいはずです。彼らが富士山の次に行きたいのはどこなのか。いまさらながらという気もしてしまいますが、実はそこから考えていかないとお客は集められないものだということを、今回は王理事長に教えられた次第です。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_136.html
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by sanyo-kansatu | 2013-08-22 07:24 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 07月 11日

22回 うれしいことに、日本はタイの海外旅行先人気ナンバーワンだそうです

タイから日本を訪れる観光客が増えています。
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日本政府観光局(JNTO)が6月19日に発表した報道資料によると、2013年5月の訪日タイ人は前年同月比62.8%増を記録。1~5月までの総数では18万1000人と前年度比52.9%増でトップの伸びです。上半期ですでに2012年の総数26万人に迫る勢いです。

タイからの訪日客の旅行手配を行なうアサヒホリディサービスの和田敏男国際旅行部長によると、「タイからの客は今年の2月頃から急増しています。5月も多かったですが、3月の花見シーズンも弊社の取扱数は倍増しました。本来、タイの旅行シーズンは旧正月のソンクラーンのある4月と10月だといわれますが、今年は前倒しで来られた方が多かったようです」(※実際、3月の訪日タイ人は前年度比70.4%増)

こうした動向をふまえ、外務省は6月下旬、タイとマレーシアの訪日観光ビザを7月1日から免除することを発表しました。昨今の円高是正にビザ免除という相乗効果で、さらなるタイ人観光客の増加が期待されています。

タイ国民に対するビザ免除(外務省)2013年6月25日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000361.html

ツアーの目玉はカニ食べ放題とショッピング!?

訪日タイ人客の旅行手配を扱うランドオペレーターの関係者は「日本はタイの海外旅行先人気ナンバーワン」と口を揃えて言います。うれしいではありませんか。彼らの2大関心事は「食事とショッピング」だそうです。

では、いったいタイ人観光客はどんな訪日旅行を楽しんでいるのでしょうか。

タイの海外旅行市場が活況を呈してきたのは2008年頃からだそうで、まだ5年しかたっていません。海外旅行ブームの初期には、どこの国でも微笑ましい珍現象が見られることがあります。タイ人の日本ツアーでも、日本人の目から見るとちょっと意外なアトラクションが目玉となっています。「富士山のふもとの温泉旅館でカニ食べ放題」です。

たとえば、タイの旅行雑誌「TRAVEL GUIDE Magazine」2012年8月号に掲載された現地の旅行会社COMPAXWORLD社のツアー募集広告にふたつのプロモーション商品が紹介されています。それぞれ3つの目玉ポイントが書かれていますが、共通するのは「温泉旅館でカニ食べ放題」と「ショッピング」です。
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①Tokyo Promotion! 4泊6日(タイ航空利用) 37900バーツ(約12万円)
■東京で満足4泊6日、ホテルは4つ星以上
■お楽しみフリーショッピング2日間(オプショナルツアーもあり)
■温泉旅館泊とカニ食べ放題

②Yokoso Hi-light 東京―京都4泊7日(タイ航空利用) 52900 バーツ(約17万円)
■東京観光とフリーショッピング1日間
■世界遺産の京都、金閣寺、清水寺観光
■温泉旅館泊とカニ食べ放題

タイから日本へのフライトは約6時間かかるので、飛行中夜をまたぐため4泊6日が基本。東京滞在型のツアー①では、都内観光は1日、2日間は自由行動なので、ショッピングがたっぷり楽しめる内容です。東京ディズニーランドに行きたい人は、オプショナルツアーで参加できます。残りの1日は、富士山観光のあと河口湖などの温泉旅館に泊まり、カニの食べ放題が付くというものです。いわゆるゴールデンルートの②でも、それは同様です。
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アサヒホリディサービス国際旅行部のタイ人スタッフ、カウィワット氏によると、「タイ人は富士山のふもとの温泉旅館に泊まって温泉にゆっくりつかり、カニの食べ放題を楽しむというのが、日本旅行の醍醐味。これだけは欠かせないと思っているんです。旅行会社のツアーパンフレットにも、よく富士山とカニが合成されているイメージ写真が多いです」。

※タイ人の訪日旅行の2大関心事の詳細は、中村の個人blog「タイ人ツアーの目玉は、温泉旅館でカニ食べ放題とショッピング!?」を参照。

タイ人が日本食を好む理由

タイ人の日本食に対するこだわりはカニだけではありません。タイには約2000軒の日本料理店があり、普段から日本食に親しんでいるからです。

「タイ人の食は保守的です。珍しいものを食べたいという欲求より、普段食べているもので、もっとおいしいものが食べたいと考えています」と語るのは、タイの事情に詳しい旅行作家の下川裕治氏です。

「だから、日本食が人気なのです。バンコクには日本食屋があふれています。吉野家はもちろん、大戸屋、やよい軒、牛角、ココイチ、王将、丸亀製麺、フィンガーハット……その多くは日本でもおなじみの外食チェーン系。もうなんでもあるといってもいい。

タイ人に『日本で何食べたい?』と聞くと、『ラーメン』と答えたりします。その意味は、タイで食べたことのあるラーメンを日本に行って食べてみたい。そのほうがずっとおいしいに決まっているから。彼らはそう考えているのです」。

タイ人の日本のフルーツ好きも、関係者の間ではよく知られています。なかでも日本の大粒のイチゴは大好物です。よくタイ人客は、デパ地下でカットフルーツを買ってきてホテルの客室で食べているそうです。

※タイ人の日本食好きの背景は、中村の個人blog「タイ人はイチゴが大好き!? 旅行作家・下川裕治さんが語る『タイ人客はドーンと受け入れてあげるといい』」を参照。

タイ人客には焼肉にしゃぶしゃぶ、寿司、天ぷら、ラーメンという和食の基本アイテムが断然好まれるそうです。日本の味覚をそのまま提供して喜んでくれるのですから、なんてありがたいお客さんでしょう。

タイ人客がよく訪れる都内のレストランとして有名なのが、西新宿にある焼肉料理店「六歌仙」です。同店はタイのインラック首相もおしのびで何度も訪れており、訪日タイ人に広く知られています。人気メニューは6500円の焼肉食べ放題コースだそうです。
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※「六歌仙」については、中村の個人blog「タイ人観光客に西新宿の焼き肉店『六歌仙』が人気の理由」を参照。

現地メディアが訪日を後押し

今年に入って急増する訪日タイ客の背景について、日本政府観光局(JNTO)は次のように分析しています。

「3月末からの増便やチャーター便による座席供給量の拡大、また円高の是正に加えて、VJ事業だけでなく地方自治体による積極的な観光誘致策が露出拡大につながり、タイからの観光客の増加の要因となっている。またタイのメディアでは、訪日旅行がブームとして複数取り上げられ、日本への旅行の機運を後押ししている」(JNTOプレスリリース/2013年6月19日)

訪日タイ客急増に、タイのメディアの影響があるというのです。

タイを中心とした海外向けマーケティングを手がける株式会社Relation(http://www.relation-inc.jp)の加藤英代表取締役によると、「タイでは日本のテレビ番組が大量に放映されています。日本のテレビ局から版権を買って深夜枠でグルメ番組や旅行番組を毎日のように流しているからです。街にあふれる日本食レストランもそうですが、タイには生活の中に普段着の日本があります。だから、彼らは日本に安心、安全のイメージを持っています。日本では人は優しく、楽しく旅行できると思っているのです」

日本の番組がそのまま流れることも多いですが、自前の番組も制作されています。たとえば、タイのアイドルTikの出演する海外旅行バラエティ番組「Say Hi」は、チャンネル3(http://www.thaitv3.com/)で毎週金曜00:10より放映されています。彼女は世界各地を訪ね、買い物や食べ歩きを楽しみます。日本の温泉旅館でカニの食べ放題を体験するシーンも以前あったそうです。
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こうした事情は、テレビ番組を政府が規制管理する中国とはまったく違います。タイ人にとって日本はとても身近な国となっているのです。

タイで発行されている旅行雑誌でも、日本は多く取り上げられています。
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たとえば、タイの雑誌社Check Tourが発行する「Check Tour magazine」は、テーマ性の強い充実した特集記事が売りの月刊誌です。2012年は、札幌(1月号)、東京ディズニーランド(11月号)など、4回の日本特集を組んでいて、日本への関心の高さを感じます。

バンコク週報というタイの日本語新聞を発行する出版社が制作している現地のグルメ情報誌「Gozzo(ごっつぉ)」もユニークです。
Gozzo(http://www.facebook.com/GozzoThailand
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同誌は、バンコクにある日本食レストランのタイ人向けフリーペーパーです。日本食と旅行の雑誌と銘打たれていて、特に日本の食文化を詳しく紹介しているのが特徴です。

たとえば、2013年7月号では、焼肉特集が組まれています。焼肉の種類や細かい牛肉の部位の解説もしています。もともと宗教的な理由でタイ人の中には牛肉を食べない人も多いと聞きますが、最近は「和牛」ブームだそうです。こうしたきめの細かい現地での情報提供がタイ人の日本食に対する理解を深めているのでしょう。

このように、タイでは日本の情報が偏りなく、比較的まっすぐに紹介されていることがわかります。タイ人が素直に日本旅行を楽しんでくれる背景には、こうした現地での自由な情報流通があるのです。

※タイの旅行雑誌についての詳細は、中村の個人blog「タイの旅行雑誌には日本がこんな風に紹介されています」を参照。

ツアー代金は中国人ツアーの2倍近い

では、タイ人の日本ツアーはどんなコースが催行されているのでしょうか。現状では、以下の3コースが主流だそうです。

①東京・大阪ゴールデンルート4泊6日
②東京滞在(+富士山)3泊5日/4泊6日
③北海道周遊(札幌、小樽、登別、富良野など)4泊6日

すでに①と②は定着しており、この夏は③の北海道周遊が急増しそうとのこと。昨年10月に新規就航したタイ国際航空のバンコク・新千歳線は現在週4便ですが、秋から毎日運航になるそうですから、今年の冬は北海道を訪れるタイ人観光客がさらに増えそうです。

他にも、九州周遊(福岡、別府、阿蘇、熊本、長崎など)4泊6日も動き出しています。主流ではないけれど、東京・大阪ゴールデンルートの別バージョンとして、大阪か名古屋inで北陸や信州を周遊、東京outのコースも好評といいます。沖縄に行くツアーもあります。

次に、ツアーの価格帯について見ていきましょう。ツアー料金は日程やコースによって当然違います。以下、「Check Tour」2013年6月号に掲載された現地旅行会社のツアー募集広告から平均的な料金(7~8月出発のコース)をいくつか挙げてみましょう。

・東京・大阪ゴールデンルート4泊7日 50900バーツ(約16万5000円)
・北海道3泊5日 43900バーツ(約14万円)
・東京滞在(+富士山)3泊5日 39900 バーツ(約13万円)
・沖縄3泊5日 33900バーツ(約11万円)

前述のカウィワット氏によると、「タイ人の日本ツアーの価格帯は1日換算で約1万バーツ(約3万2000円)が目安」だそうです。

以前、本連載「18回 春にはちょっぴり中国客が戻ってきそうな気配ですが……。中国の旅行会社のHPを読み解く」の中で、北京、上海、広東の旅行会社のツアー料金を比較したことがありますが、この夏の中国本土発の平均的な日本ツアーの価格帯が1日換算で約1000元(1万6000円)が目安であるのに比べると、タイ人のツアーは2倍近いといえます(最近の円安で、円換算では価格差は以前より縮まっているようですが)。

ツアー行程を比較しても、当然とはいえ、中国人ツアーの内容はタイ人のツアーに比べ見劣りします。宿泊ホテルも観光や買い物には不便な場所にあったり、観光地もなるべく費用のかからない場所を選んだりと、「安かろう悪かろう」を地でいくケースが多いです。

とりわけ食事にかける費用が違います。広東省の南湖国旅(http://www.nanhutravel.com/)のHPには、「昼食代1000円、夕食代1500円」とはっきり書かれていますが、タイのツアー客はこんなに安い食事では満足しないでしょう。カウィワット氏は言います。

「タイ人は食事にこだわるので、とくに夕食は5000円以上かけるのがざらです。西新宿の『六歌仙』が人気なのもそのためです。弊社では、タイにある日本企業の関係者のインセンティブツアーの企画をよく担当するのですが、とにかく食事の要望は細かいです。ご案内しようとしているレストランのメニューを用意して、具体的にどんな料理が食べられるのか、タイのクライアントのツアー担当者にプレゼンテーションすることもあるほどです」

「タイ人は中国人に比べて日本旅行に対する思い入れが強い」というのは、タイ人客を扱うランドオペレーターに共通する声です。タイ人は「せっかく日本に行くのだから、いろんな体験をし、お金をかけてもおいしいものを食べたい」と素直に期待をふくらませているといいます。だから、食に限らずツアーの中身に対する関心が高いのです。そうした日本に対する期待値の高さが、中国人ツアーに比べてタイ人ツアーが比較的高い価格帯を維持している理由になっていると思われます。

※タイ人の日本ツアーの価格帯については、中村の個人blog「タイ人の日本ツアーの料金は中国人ツアーの2倍近いです」を参照。

今後の展望とツアー料金値崩れの懸念

これまでずいぶんいいことずくめの話をしてきましたが、訪日タイ客急増にはもっと大きな背景、すなわち近年の日本企業の東南アジアシフトがある、と前述の加藤英代表取締役は指摘します。

「2015年のアセアンの市場統合(ASEAN自由貿易地域<AFTA>)をにらんでインフラ整備の進むタイに日本企業の進出が加速し、タイ人社員の研修や視察のための日本へのインセンティブツアーの需要が大きくなっています。同じ東南アジアでもシンガポールやマレーシアに比べてタイがダントツの伸びを見せているのには、日本企業の存在があります」

実際、日本のランドオペレーターが受注するタイの団体客は、日本企業のインセンティブツアーであることが多いようです。それは現地の旅行会社が一般募集するパッケージツアーとは違って、個別のクライアントの要望に応じてツアーの中身を組み立てる手配旅行です。クライアントが日本企業なので、比較的安定した取引が可能といえます。

ところが、今回のビザ免除による客層の拡大で市場が荒れるのでは、という現場の懸念の声はすでにあります。

社団法人アジアインバウンド観光振興会理事で、訪日タイ人客のランドオペレーターでもある株式会社トライアングルの河村弘之代表取締役は、タイの旅行業界の現状をふまえた以下の点を指摘しています。

「タイ人は純粋でおとなしい、とてもいいお客さまなのですが、少々ワガママなところがある。ツアーの立ち寄り先だけでなく、来日後の宿泊ホテルやレストランの変更もしばしば。タイのガイドはお客さまの言いなりになりがちで、現場が混乱するケースも多い。

タイは海外旅行マーケットが動き出してまだ5年という国。旅行業界のルールも整備されていません。本来であれば、彼らはもっと海外の現状を知って、業務のマニュアル化を考えるべきなのだが、まだすぐには対応できないでしょう。

これから訪日タイ客が増えると、ガイド不足も顕在化するはずです。タイの日本ツアーはほぼスルーガイド、つまり現地タイ人が担っており、通訳案内士制度は機能していません。

さらに、今後いちばん懸念するのは『中国プライス』問題です。ここ数年、中国の旅行エージェントが日本の一部のホテルなど観光関連企業との間で結んだ過度に安い中国向けの仕入れ値を東南アジアの市場に持ち込もうとしています。せっかく定着している東南アジア発の日本ツアーの値崩れが起こるおそれがあります」

中国の訪日旅行市場で起きたのと同じ道を東南アジア市場でも繰り返すことになるとしたら、これは大きな問題です。それは避けねばなりません。誰のためにもならないからです。

もうひとつの懸念材料は、ビザ免除をめぐってタイではこれを歓迎するどころか、おかしな反応があることです。

日本の観光ビザ免除、タイ外相が不法就労者増に懸念(バンコク週報2013年6月14日)
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=2207

以前、ニュージーランドがタイ人の観光ビザ免除を実施したところ、観光で入国した後、失踪者が続出したため、免除が取り消された前例があったそうです。タイの外相は同じことが起こらないようにと国民に訴えたというのです。日本でも同じことが起きるのでしょうか?

※ビザ免除をめぐるタイ側の反応については、中村の個人blog「タイのビザ免除で、むしろタイ政府側に不法就労再発の懸念があるらしい」を参照。

もっとも、いまの段階でこうした懸念を言い出したらキリがありません。物事はすべてがきれいごとで進むはずもないのですから、今後の行方を見守っていくほかないでしょう。

最後にあらためて、タイ人の訪日旅行を盛り上げる話を書いておこうと思います。

それは、日本には確実にタイ人に喜んでもらえる自然の魅力があるということです。

タイと日本の風土や気候の違いが、来日する彼らを魅了しています。四季があることが、彼らをリピーターにするのを強く後押ししてくれるのです。たとえば、3~4月は桜、6~7月はラベンダー、秋は紅葉、冬は雪景色と、1年を通じてタイ人の目を喜ばせるのは、季節による風景の変化があるからです。実際、タイの旅行雑誌やパンフレットに描かれる日本にはあでやかな色味があふれています。我々は熱帯の国タイのほうが日本よりずっとカラフルだと思いがちですが、彼らにすれば日本は自分たちの知らない美しい色彩にあふれる国なのです。

常夏の国からわざわざ訪ねてくれるタイ人に対して、四季という1年を通して訴求できる日本の強みを生かさない手はないといえるでしょう。訪日タイ客の増加で、ニッポンのインバウンドに新しい風を吹かせることを期待したいと思います。

※すでにタイ側でも訪日旅行に積極的に取り組む動きは起きています。詳しくは、中村の個人blog「HISタイの訪日旅行の取り組みは要注目です」を参照。

やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_132.html
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by sanyo-kansatu | 2013-07-11 16:33 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 06月 12日

21回 2012年、世界一の海外旅行大国になった中国で、訪日だけが減少。どう考える?

4月9日~11日、北京で開かれた中国出境旅游交易会(COTTM2013)(http://www.cottm.com/)に行ってきました。
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中国の旅行展示商談会といえば、今年5月で10年目を迎えた上海世界旅游博覧会(WTF http://www.worldtravelfair.com.cn/ ※ただし、今年は主催者側より日本ブース参加停止の要請あり)や、6月21日~23日に北京で開催予定の北京国際ツーリズム・エキスポ(BITE http://www.bitechina.com.cn/)などのB2Cのイベントに、これまで日本からも多くの関係者が出展したことで知られています。一方、COTTMは国内外の旅行業者だけが集まるB2Bの商談会で、今年で9年目を迎えます。
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会場は、北京市朝陽区にある全国農業展覧館。社会主義を標榜したかつての中国を思い起こさせる石造りの重厚な建築(1959年開館)で、さまざまな業界の展示会や商談会が頻繁に行なわれています。

海外から62カ国、275団体・企業が出展し、4000名を超える中国の旅行関係者が来場したと公式サイトは伝えています。展示についてはあとで触れるとして、今回興味深かったのは、国内外の業界関係者が登壇し、さまざまなテーマで意見を交わすフォーラムでした。ここで議論される内容は、現在の中国の海外旅行市場を理解するうえで参考になります。

“New Chinese Tourist”(中国新型旅客)とは何者か?

3日間を通じたフォーラムのテーマは、おおむね以下の4つでした。

①中国のラグジュアリー旅行の展望
②旅行業におけるSNS活用(中国で海外旅行に最も影響のあるメディアとして)
③業界の抱える6つの課題(査証問題を中心に)
④不動産投資旅行に対する業界の取り組み

4つのテーマに共通するキーワードは“New Chinese Tourist”(中国新型旅客)です。

いったい“New Chinese Tourist”とは何者なのか? それが今回の最重要キーワードだというのは、十分すぎるほどの理由があります。

2012年、中国がドイツ、アメリカを抜いて海外旅行マーケットで世界一の規模になったからです。

「Are you ready?」。そう問いかけるのが、フォーラムの司会進行を務めるProf. Dr. Wolfgang Georg Arlt(以下、教授)です。
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ドイツ出身のTourism Scientistである教授は、2004年に自ら設立した中国出境旅游研究所(COTRI)の代表として、中国の海外旅行市場に関する継続的な調査研究を行い、今回のCOTTMの企画運営にも参加しています。

フォーラムの冒頭で、教授はこう語ります。

「今年4月4日、国連世界観光機関(UNWTO)は、2012年中国が8300万人の出国者と1020億ドル超の消費額を記録し、ドイツ(前年度1位)、アメリカ(前年度2位)を抜いて世界最大の海外旅行市場になったと発表しました。2013年には9500万人の出国者が推計されています。これはUNWTOがかつて予測した2020年までに1億人というスピードをはるかに超えたものとなっています」

教授によると「いまや中国の海外旅行市場は“洗練とセグメントの時代”を迎えている。その主人公は、“New Chinese Tourist”である。彼らは“新しい顧客”であり、彼らを取り込むには、新しい流通とチャネル、そして新しい要求に応えていかなければならない。

彼らは他人に自慢するために観光地でスナップ写真を撮るためだけの目的では満足せず、特別な場所で特別な体験をしたいと考えている。これからの中国の旅行業界が取り組むべきは、ニッチな商品の開発と新しい渡航先の開拓だ」と結論しています。

※Prof. Dr. Wolfgang Georg Arltのスピーチの詳細は、中村の個人blog「2012年、中国は米独を抜いて世界一の海外旅行大国になった(COTTM2013報告 その2)」http://inbound.exblog.jp/20499744/を参照。

多様な国々が出展している理由

では、出展ブースを覗いてみましょうか。正面玄関を抜けると、目の前の一等地に左右に分かれて巨大なブースを展開していたのは、メキシコ観光局とトルコ観光局です。
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正面に向かって左に進むと、アフリカ諸国のエリアです。エチオピアやチュニジアなど、色鮮やかなブースが並びます。民族衣装を身につけたスタッフも多く、陽気な雰囲気です。もともと中国にはアフリカ諸国からの留学生が多く、経済関係も深いだけに、なるほどという感じがします。
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一方、右側のエリアはヨーロッパや中近東諸国が中心です。ヨーロッパといっても英仏独といった主要国ではなく、スロバキア(中国語で「斯洛伐克」!?)やクロアチア、アゼルバイジャンといった旧社会主義圏の国々を中心とした観光局のブースが続きます。

奥の広いスペースに、今回最大の出展面積を誇るアメリカ各州の観光局の共同ブースや中南米、アジア各国のブースがありました。

出展国のラインナップを見ながら、中国人はこんなマイナーな国々にも海外旅行に出かけるような時代になったのか、と驚かれるかもしれません。旅行マニア向きとでもいうべき多彩な国々の出展ブースが並ぶ光景は見ているだけでも興味深いです。気になるのは、主要国の中で唯一日本からのブースだけがひとつもないことでした。

ただし、それはCOTTMが一般消費者を対象としたB2Cの展示会ではないからともいえます。確かに、ハワイや香港などのブースもありません。旅行業のプロだけが集まる展示商談会だけに、よく知られた人気ディスティネーションは出展の必要がないためでしょう。消費者が来場しない以上、彼らもPRする効果がないと判断するからです。

それでも、個々のブースは小さいため目立ちませんが、ヨーロッパから28か国の出展者がいることに注目すべきでしょう。それらの出展者の特徴は、前述したスロバキアやクロアチアなど、中国市場における新参のディスティネーションが観光局中心であるのに対し、英仏独などの主要国では、極地旅行や海外ウエディング、自由旅行などの専門ジャンルに特化した旅行会社が出展しています。
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すでに団体ツアーが多数訪れている主要国では、個人客を対象としたSIT(スペシャル・インタレスト・ツアー:特別なテーマや目的に特化したツアー)向けの商品を販売する民間の旅行会社のブースが出展しているということなのです。彼らのターゲットが“New Chinese Tourist”(中国新型旅客)であることは明らかです。

※COTOMの出展国のリストや展示ブースの詳しい様子については、中村の個人blog「出展国が渋すぎる!? 北京のB2B旅行展示会(COTTM2013報告 その1)」http://inbound.exblog.jp/20482576/を参照。

中国人はビザ問題に不満を持っている

さて、フォーラム2日目の午後3時からパネルディスカッションがありました。テーマは「中国出境旅游运营商研讨&签证问题(Tour Operators & Visa)」。中国の海外旅行市場でいちばんホットな話題は何か。なかでも市場の個人旅行化のへ動きとビザ問題について、業界としてどう向き合うべきか、というものでした。
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今回のテーマ出しは、中国の旅行関係者の事前の投票によって決められたそうです。彼らがいまどんな問題に頭を悩ましているか。まさに一目瞭然の結果が出ています。 そのうち上位6つの話題が以下のとおりです。

①半自助旅游(160 票)
②中国新型旅客(155票)
③ビザ問題(152票)
④人材育成(149票)
⑤アメリカの新ビザ制度について(赴美签证新规)(143票)
⑥オンライン購入について(129票)

①「半自助旅游」というのは、航空券とホテルを旅行会社で予約するだけの自由旅行のことです。日程と宿泊場所だけが決まっていて、観光や食事などは各自が自由に楽しむツアーで、業界では「スケルトン型」と呼ばれます。日本ではよくあるツアー形態のひとつですが、未だに団体ツアーが主流の中国では、「半自助旅游」が増えることが旅行会社の営業にどんなダメージを与えるのか。それともこれは好機なのか、というのが議論の中心でした。「半自助旅游」が増えれば、旅行会社が顧客のために手配する仕事が減るため、利益も減ることが考えられるからです。

②「中国新型旅客」も①につながるテーマです。まさに“New Chinese Tourist”問題そのもので、旅慣れた「新型旅客」の多様な要求に旅行業界はどこまで応えることができるか、というのがポイントでした。これらのテーマは日本の旅行業界では1980年代からいまに至るまで議論され続けているものです。

一方、③④⑤については、中国固有の問題といえそうです。まず③と⑤ですが、これは共通の内容といえるのでふたつを足せば、ビザ問題が彼らの最大の関心事であることがわかります。

現在、中国人が海外旅行に出かける場合、団体ビザを取得して旅行会社の催行するツアーに参加するのが一般的です。これだけ個人旅行や自由旅行への志向が強まっているにもかかわらず、それを実現できるのは全体で見れば、まだ一部の層にすぎません。これは中国が世界の多くの国々とADS(Approved Destination Status)ビザ協定を結んでいることと関係あります。これは、不法移民を防ぐために各国との間で結ばれた中国在住国民を対象とした特別な協定です。1983年に香港・マカオから始まったこの協定は、2000年代以降、オーストラリアや日本との締結を皮切りに、欧米諸国や南米アフリカ諸国へと急速に広がっていきます。

Approved Destination Status (ADS) policy(China Outbound Travel Handbook 2008)
http://chinacontact.org/information/approved-destination-status-ads-policy

一般にヨーロッパ諸国との締結は2004年以降、アメリカとは2008年。その結果、多くの中国人団体観光客が欧米を旅するようになりました。

最初のうちは、彼らもいろんな国に旅行に行けるようになったことを喜んでいたものの、ふと周囲を見渡すと、日本や香港など他の国・地域の人たちと同じように、自分たちも個人旅行や自由旅行に行きたいと思うようになるのは当然のことでしょう。

近年、日本で中国人に対する個人観光ビザの取得条件が緩和されたり、マルチビザ取得の条件が加わったりしているように、欧米諸国でも同様の緩和措置が徐々に進んでいます。それでも、彼らはまだ不満そうです。「いまや中国は世界一の海外旅行大国になったのに、なぜビザ緩和が進まないのか」と感じているのです。

※パネルディスカッションの詳細については、中村の個人blog「世界一なのに、なぜビザ緩和が進まないのか~中国の不満とその言い分(COTTM2013報告 その4)」http://inbound.exblog.jp/20514969/を参照。

中国の旅行商談会に出展する今日的意味

これまで見てきたとおり、COTTMは中国の旅行業者にとって“New Chinese Tourist”(中国新型旅客)のための新しい旅行先や新機軸の商品を開拓するための情報交換と商談の場となっていることがわかります。それは海外の事業者にとっても絶好のアピールチャンスといえます。

そういう意味では、日中関係が悪化しているとはいえ、この場に日本からの出展者がいないことはちょっと残念でした。中国から見て日本市場はヨーロッパと同様、チープな団体ツアーの大量送客が主流だった段階から、個人客を対象としたSIT(スペシャル・インタレスト・ツアー:特別なテーマや目的に特化したツアー)の時代に移ろうとしているはずなのに、それをPRしようとする事業者がいないというのですから。

確かに、今年は上海世界旅游博覧会(WTF)の主催者側から日本ブースの参加停止の要請があったように、民間ビジネスに「政治」を持ち込む中国の旅行展示商談会に出展する意味をどう考えるかについては、いろんな見方があるとは思います。

とはいえ、これまでのように一般消費者を対象とした海外の旅行展示会に自治体主導で横並びに出展するというスタイルが効果的なのか、いまいちど考え直す必要はあります。一般消費者向けのPRは団体ツアーの集客には適しているかもしれませんが、個人客についてはどうなのか。自分たちが本当に集客したい対象は誰なのかという検討もそうですし、相手のマーケットも時代とともに変容していくことを頭に入れるべきでしょう。

今回の視察を通して、これからは一般消費者向けの展示会はオールジャパン式で毎回特定のテーマに絞り込んだ新しい出展スタイルを採用、競合する他国との差別化を意識して日本独自のPRに徹する。その一方でヨーロッパの専門旅行会社のように、個人客の取り込みを図りたい個別の事業者や団体・地域はB2Bの商談会に出展し、自らの売りを現地のSIT専門の旅行会社にアピールするという2タイプに振り分けてプロモーションするというのが、今日の中国の海外旅行マーケットの実情に即したあり方ではないかと思いました。

※本稿で触れなかったその他、中国の海外旅行マーケットの新しい動向については、以下を参照。
「中国の旅行業界に貢献したアワード2013受賞者の顔ぶれから見えること(COTTM2013報告 その3)」http://inbound.exblog.jp/20501949/
「中国の海外不動産投資ブームをいかにビジネスチャンスとするべきか(COTTM2013報告 その5)」http://inbound.exblog.jp/20520343/

地道な訪日誘客活動は続けられている

中国出境旅游交易会(COTTM2013)の視察や北京の旅行関係者との交流を通して、今回強く感じたことは、中国の海外旅行マーケットの現況に対する日中の温度差でした。今年に入って、日本のインバウンド関係者が中国での営業を諦め、寄りつかなくなったという話を聞きました。この時節、国を挙げた東南アジアシフトのムードに乗りたい気分はわからないではありませんが、現地の旅行関係者からは「なぜこれまであんなに熱心に中国で営業を続けていたのに、あっさりその積み重ねを放り出してしまうのか」と残念がる声もありました。

その一方で、現地では地道な訪日誘客活動が続けられていることも知りました。

今回どうしてもその話を紹介したかったので、日本政府観光局(JNTO)北京事務所の飯嶋康弘所長におうかがいしたところ、以下のコメントをいただきました。昨年秋からの事態の推移と日本側の取り組みについて時系列で語っていただいています。

「昨年9月の尖閣諸島国有化以降、日中関係が悪化し、訪日団体ツアーは相当打撃を受けました。一方で、中国当局は訪日ツアーを直接規制はせず、中国メディアに対し日本に好意的な記事を掲載させないことなどにより、あくまでも中国世論の反日ムードから団体ツアーが催行できなくなったというのが実態でした。

実際、訪日リピーターや親日派は団体でなく個人ツアーで訪日するケースも多いのですが、昨秋も訪日個人ツアーはあまり減っていません。このため、日中関係悪化後も、観光庁とJNTOは、中国当局が正式に訪日ツアーを規制していない以上、訪日誘致プロモーション(VJ事業)を当初計画通り実施する方針を固め、中国側から中止されない限り、予定通り誘致活動を実施してきました(昨年10月の中国旅行会社の日本招請事業や、10月、11月の中国メディア招請事業等)。

ただ、中国の旅行会社は、日中関係悪化後、訪日ツアーの募集広告を出さなくなりました(WEB上での訪日ツアー募集は、昨年12月前後から再開しています)。

その後、10年に一度の権力移行が行なわれた昨年11月の中国共産党大会が終わってからは、中国メディアに対する当局のコントロールも緩和し始め、11月下旬には日本車の広告等が中国の新聞紙上に掲載されるようになりました。

JNTOでは、日中関係悪化後、中国各地の旅行会社に対するヒアリングを集中して実施した結果、彼らが訪日ツアーの募集を躊躇しているのは中国国民世論から叩かれるのを危惧していることが大きな理由と分かったため、中国メディアの流れが11月下旬から変わったのを確認してすぐに中国メディアと調整をはじめ、12月中旬から、地下鉄に広告を出したり、3大市場(北京、上海、広州)の大手新聞にJNTO理事長の歓迎メッセージや日本観光のイメージ広告を出すなど、街中に日本観光の広告を掲出し、訪日しやすい雰囲気作りをすることに専念しました。

さらに、そうした取り組みの結果をJNTO北京事務所から管轄内の中国旅行会社約200社宛てに周知するとともに、訪日ツアー募集広告の再開を要請する異例の協力依頼文書も発出しました。その結果、本年1月には、日中関係悪化の影響が最も強い北京でも、一部の大手旅行会社が新聞紙上での訪日ツアー募集を再開し始めました。

ただ、当時は依然として最大手の旅行会社がまだ紙面上での訪日ツアー募集を躊躇していたため、1月24日には井手観光庁長官が訪中され、中国国家旅遊局長と会談し、中国最大手旅行会社トップに訪日ツアー送客を直接協力要請した結果、ようやく3月中旬には、最大手旅行会社も訪日ツアー募集広告を新聞紙上で開始してくれました。この間も、JNTOは、地下鉄広告や大手ビル内での映像放映等、訪日しやすい雰囲気の醸成に全力で取り組んできました。

日本の観光関係者には、一刻も早く中国へのセールスコールや観光商談会等の誘致活動を再開していただきたい」(2013年6月4日)

昨年9月以降の日中関係悪化で神経のすり減るような現地での対応に尽力された関係者の皆さんの心中は察するに余りあるものがあります。また飯嶋所長のコメントから、昨年秋以降いくつかの潮目があったこともわかります。

依然続く日中関係の不和から中国の旅行展示商談会への出展を見合わせなければならない状況が続く中、こうした潮目をつかんでモノにするためには、今後も現地の視察や関係者の皆さんから教えていただかなければならないことはたくさんあります。ムードに流されるだけでなく、大局を見極めることの必要を実感します。

やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_129.html
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by sanyo-kansatu | 2013-06-12 13:41 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 05月 09日

20回 観光の島、沖縄でいま何が起きているのか?

3月29日の早朝、那覇港新港ふ頭8号岸壁(若狭バース)に台湾から来たクルーズ客船「SUPERSTAR AQUARIUS」が入港しました。あいにくの雨でしたが、今年度、最初の入港です。
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SUPERSTAR AQUARIUSは、ゲンティン香港(スター・クルーズ・ピーティーイー・リミテッド)が運航するカジュアルなクルーズ客船です。毎年4月から10月まで週1回、那覇港に寄港し、毎回約1500人の台湾客が観光のため上陸します。基本、3泊4日で基隆―那覇―石垣―基隆(基隆―石垣―那覇―基隆の場合もある。また基隆―那覇往復、基隆―石垣往復も)を航行します。料金は最も安いシーズンで、2泊3日の基隆―石垣往復が9900台湾ドル(約3万3000円)から。1日の単価は約1万円という破格の安さです。
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スタークルーズ日本語公式サイト
http://www.starcruises.co.jp
スタークルーズ台湾サイト
http://www.starcruises.com.tw

約1300人の台湾客が沖縄に上陸

さて、この日約1300人の台湾客が那覇に上陸しました。
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そのうち約650人は、沖縄各地を周遊するオプショナルツアー(岸上観光)に参加します。

お出迎えは、那覇にある台湾系のランドオペレーター、太陽旅行社のスタッフです。そのひとりはこう言います。

「朝8時入港で17時に出港というスケジュールは、観光や食事、買い物を楽しむには十分といえないかもしれません。でも、一般の航空便のツアーでは移動が多くて、かえって自由時間が少ないこともあります。その点、クルーズでは自由観光に出かければ、じっくり買い物を楽しむこともできます。台湾のお客様は食品から家電、生活用品まで、いろいろ買っていかれますよ」。

※クルーズ客のオプショナルツアーの詳細は、中村の個人blog「【前編】台湾発クルーズ客船、那覇寄港の1日ドキュメント」を参照。

半数は那覇市内を自由観光

では、残りの約650人はどう過ごすのでしょうか。もちろん、那覇市内に自由観光に出かけるのです。

彼ら個人客の観光をサポートするのが、那覇市観光協会のスタッフです。クルーズ船の寄港する若狭バースの入り口に臨時のツーリストインフォメーション(観光諮訽處)を開設。中国系や台湾系のネイティブのスタッフを揃え、市内に向かう個人客の質問に対応し、用意した観光案内資料や市内マップを渡します。
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スタッフを統括する那覇市観光協会の国里顕史さんに話を聞きました。

—— 個人客のみなさんはどこに行かれるのでしょう?

「たいてい国際通りや新都心(おもろまち)のショッピングモールなどに行きます。リピーターも多いので、自分の足でどこでも行かれますよ。なかには日本人と同じように、レンタカーで沖縄本島北部まで遠出される方もいます。
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那覇市内では買い物や食事をして過ごします。クルーズのお客様は、那覇に宿泊はされませんが、わずかな時間で一度に買い物をされるので、大きな経済効果が見込めます。沖縄は台湾や上海、韓国からも近いので、クルーズ市場において優位な立地にあります。来春には13万トン級の大型客船が接岸できる国際ターミナルとして整備される予定になっています」
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※個人客の那覇観光についての詳細は、中村の個人blog「【後編】台湾発クルーズ客船、那覇寄港の1日ドキュメント」を参照。

翌朝は石垣島へ

さて、オプショナルツアーやまち歩きを楽しんだクルーズ客たちは、遅くとも出港時刻(17時)の1時間前には船に戻ってきます。いよいよ那覇ともお別れです。

今年度の初入港ということで、この日は地元那覇の子供たちによるエイサーがクルーズ客を楽しませてくれました。いたいけな子どもたちが精一杯、踊り舞う姿は心を和ませます。
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そして定刻通り、17時の出港。客船は大きな汽笛を鳴らしながら、徐々にふ頭から離れていきます。こうしてクルーズ客船の長い1日が終わりました。

このあと、この船は石垣島に向かいます。翌朝、クルーズ客たちは石垣島や八重山の離島を訪ねることになります。

※石垣島の最新事情については、中村の個人blog「新空港開港で石垣にインバウンド客は増えるのか?」を参照。

この夏、沖縄では毎週こうした光景が見られることでしょう。

台湾からのクルーズ客船は1990年代から那覇に寄港していました。しかし、一時期、休止していたこともあります。そのため、沖縄県は台湾側に再開してもらうよう強く働きかけたといいます。ただし、大型客船が入港するためには、それなりの規模の港湾施設が必要でした。そこで、沖縄県はもともとコンテナふ頭だった若狭バースを国際客船用のふ頭として整備し、乗降を始めたのが2005年です。県の資料によると、スタークルーズ社の大型客船の定期運航が始まったのは2006年からのようです。以来、毎年4月から10月の夏季シーズンに毎週1回、年間で約30回の台湾客が那覇を訪れるようになったのです。

那覇に寄港するクルーズ客船は台湾からだけではありません。翌日(3月30日)には、欧米客を乗せた世界一周クルーズ客船が入港しています。この客船は、初代「飛鳥」を改装した3万トンクラスの「AMADEA」で、SUPERSTAR AQUARIUSに比べると小さいですが、約600名の欧米客が那覇に上陸しました。
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※欧米からのクルーズ客船については、中村の個人blog「沖縄には欧米客を乗せたクルーズ客船も寄港します」を参照。

海外からの沖縄ツアーは3泊4日が一般的

このように那覇港は現在、全国トップクラスの国際クルーズ客船の受入港となっています。クルーズ関係者がいうように、日本の南西約600kmに位置する沖縄本島は、東シナ海の中央に位置する絶好の立地にあるのが強みです。

それでも、沖縄県の観光要覧によると、2011年度の沖縄入域外国人30万1400人のうち、空路は18万2500人、海路は11万8900人。市場規模でいえば、空路のほうが大きいことは日本の他の地域と変わりません。

一般に東アジア各国・地域からの沖縄ツアーは3泊4日か4泊5日が主流のようです。香港で日本への送客数がナンバーワンのEGLツアーズ(東瀛遊旅行社)の3泊4日ツアーの定番コースを見てみましょう。

※EGL Tour(東瀛遊旅行社)http://www.egltours.com

■港龍直航沖繩4天(ドラゴン航空利用沖縄3泊4日)
5 月6日発 6699香港ドル

第一天(1日目):香港~直航沖繩~波之上神宮
宿/國際級MARRIOTあるいは萬豪SEA VIEW海景房洒店

第二天(2日目):海洋博水族館~觀賞海豚表演~水果樂園試食時令水果~有趣蝴蝶溫室~雀鳥天地館~著名電影『戀戰沖繩』拍攝地萬座毛★
食/網燒燒肉地道美食+多款飲品自助餐
宿/LOISIR HOTEL NAHA 海底露天溫泉及溫泉泳池酒店
※連續2晚入住同一酒店享受旅遊舒適樂趣包海底露天溫泉及溫泉室內泳池

第三天(3日目):漁港海鮮市場~金鎗魚SHOW~海底玻璃生態觀光船~守禮門~世界遺產『首里城』~建築奇觀『樹包厝(樹屋)』~國際通商店街
食/有機名菜健康自助餐+琉球海鮮鍋餐

第四天(4日目):玉泉鐘乳石洞~琉球王國村~熱帶果樹園~玻璃陶器工房~元氣大鼓表演~MAIN PLACE 購物城~機場~香港
(同社のHPから抜粋)

香港の旅行会社なので繁体字が使われていますが、地名だけなので訪問先はだいたいわかると思います。2日目に「著名電影『戀戰沖繩』拍攝地萬座毛」とあるのは、ゴードン・チャン監督の香港映画『恋戦沖縄』(2000)のロケ地が万座毛ビーチだったからです。主演は、いまは亡きレスリー・チャン(張國榮)。フェイ・ウォンやレオン・カーフェイ、ジジ・ライ、加藤雅也らの出演する娯楽作です。
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一般に香港や台湾、中国本土の沖縄ツアーでは、華人とゆかりのある福州園や、波之上宮に近い孔子廟を訪ねることが多いようです。
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嘉手納米軍基地を一望できる「道の駅 かでな」を訪ねるツアーもあります。米軍基地という沖縄の特殊な景観を見るためとHPでは紹介されています。
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※香港、台湾からのツアーの詳細については、中村の個人blog「沖縄外客トップ2、台湾客と香港客のツアーについて」を参照。

消えた中国客

沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課が2013年1月に発表した「平成24年沖縄県入域観光客統計概況」よると、2012年度の沖縄県入域観光客数は592万4700人と過去2番目で、震災後の回復ぶりを強くアピールしました。そのうち、海外入域観光客数は過去最高で、「年間37万6700人となり、対前年比で9万6700人増加、率にして+34.5%となった」とあります。

これは沖縄の旅行関係者にとっても予想以上の好結果だったようです。中国情勢が下半期に影響したにもかかわらず、外客数が過去最高になったのは、台湾や韓国の新規航空会社就航と夏までのクルーズ客船の寄港数の拡大が貢献していると思われます。

内訳でみると、外客のトップは台湾で約14万人、2位は中国で約7万人、3位は香港で5.8万人、4位は韓国で3.4万人です。ただし、昨年秋以降、中国からの訪問客は激減していますから、2013年上半期の沖縄の外客トップ2は、台湾客と香港客だといわざるを得ません。

実際のところ、昨年飛躍的に増加した(2倍以上の伸び)中国本土客は、2013年5月現在、鳴りを潜めています。北京・那覇線は中国国際航空、海南航空ともに運休、上海線はかろうじて中国東方航空が週4便でつないでいますが、運休もけっこう多いようです。

※中国本土客の動向については、中村の個人blog「中国人の沖縄旅行(今は激減、今後はどうなる?)」を参照。

それでも、今後は風向きが少しずつ変わっていくかもしれません。中国国際航空が北京・那覇線を7月から運航再開するそうですし、海南航空も(5月2日現在、同航空那覇支店に尋ねたところ、再開の時期は決まっていない)それに続いて、あるいは中国国際航空より先に運航再開する可能性はあります。また関係者の話では、上海線は6月以降、週4便からデイリー運航となるそうです。しばらくは行方を見守るしかなさそうです。

沖縄におけるインバウンドの課題とは

こうして日々変転する状況のなか、ある旅行関係者は、沖縄のインバウンド市場について「結果的には中国市場の落ち込みが、かえって香港など他の市場を押し上げた格好になっている」といっています。なんとも皮肉なものですが、これは今年、東南アジアからの訪日客が増えている日本の内地の状況と同じといえます。

琉球新報2013年2月22日によると、沖縄県文化観光スポーツ部は、2013年度の入域観光客数の目標値を630万人(前年度比8.2%増)、外国人客は50万人(前年度比56.3%増)という目標を掲げています。特に後者については、かなりチャレンジングな数値目標だとぼくは思います。中国客の激減が足を引っ張りそうだからです。

個々の市場はともかく、こうした高い目標を実現するためには、いくつもの解決しなければならない課題があることを沖縄の旅行関係者はよく認識しています。ある事業者は、沖縄の訪日客受け入れ体制の課題として以下の点を指摘しています。

①覇空港国際線ターミナルは、競合する海外のグアムやプーケット、海南島、シンガポールの空港と比較してどうか。“リゾート気分”を感じられるのか?
②外国客のための通訳案内がしっかりしているか。
③Wi-Fiの普及度はどうか。
④中国客はレンタカーを利用できない状況で、公共交通機関がしっかりしているのか。
⑤沖縄ならではの、おもてなしができているのか。
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まず挙げられているのが、現在の老朽化した那覇空港国際ターミナルの問題です。確かに、現状はひと昔前の離島の空港といった雰囲気です。ただし、来年には新国際ターミナルが開港する予定です。通訳案内やWi-Fiの普及については、東京でもその遅れは指摘されており、沖縄だけの問題ではないといえます。レンタカーについては、台湾客や香港客は沖縄本島でレンタカーを利用できるけれど、中国本土客は利用できないことから、中国のマルチ観光ビザ取得者のような個人客の交通の利便性をいかに高めるかという課題です。

ハード面の課題は時間がある程度解決してくれるとして、気になるのは「沖縄ならではの、おもてなし」というソフト面での課題です。そもそも「沖縄ならでは」とはどういうことを指すのか。これは海外から見た沖縄イメージはどうあるべきかという問いに直結する問題です。那覇空港国際ターミナルが「競合する海外のグアムやプーケット、海南島、シンガポールの空港と比較してどうか。“リゾート気分”を感じられるのか?」という課題認識は、沖縄が今後どんなリゾートを目指すべきなのか、という問いかけにつながってくるのです。それは、沖縄が自らこうありたいという自己イメージとの整合性をどう図るかという話にもなってくるでしょう。

さらにいえば、沖縄がグアムやプーケット、海南島、シンガポールのようになることがいいことなのか。この点は沖縄の人たちの間でも必ずしも意見が一致するとは限らないのではないでしょうか。ただこうもいえます。自らのあるべき姿について揺らぎがあること自体、グローバル資本によってなかば強引かつ主導的に形成されてきたバリやプーケットといった一見華やかではあるけれど、きわめてポストコロニアルな色彩の強いアジアのビーチリゾートと、そもそも沖縄は違うということです。自主性が担保されているがゆえに、揺らぎが生まれてしまうともいえるのです。

沖縄のインバウンド振興にこうしたいくつもの課題や揺らぎが見られることは、実のところ、日本のインバウンド最前線ともいうべきポジションに沖縄があるという証左です。インバウンド振興では、グローバル化とどう向き合うかが常に問われます。観光の島、沖縄でいま何が起きているのか ――。グローバル化がもたらすさまざまな課題に先駆けて直面しなければならなかった沖縄の姿を知ることを通して、内地にいる我々も多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか。

今回の報告は、3月下旬に沖縄本島と石垣島を訪ねたときの取材を元にしており、ほんの“さわり”にすぎません。沖縄の観光を語るには、もとより全体の入域観光客のわずか5%に過ぎないインバウンド市場の動向だけ追っていたのでは十分とはいえません。また何より本土復帰から40年の歴史をふまえ、現地の旅行関係者が何を考えてきたのか、もっと話を聞いてみなければならないと感じています。近いうちに、あらためて沖縄を再訪してみたいと思います。

やまとごころ.jp 20回
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by sanyo-kansatu | 2013-05-09 15:19 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)