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カテゴリ:のんしゃらん中国論( 43 )


2017年 10月 25日

中国のバイク便兄ちゃんの事故が多発する気の毒な事情-背景に地方出身者に対する戸籍差別がある

ここ数年、中国、特に上海などの経済先進都市に行くと、街にバイク便があふれている光景を見かけます。
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いま上海で通りに並んでいるのは、シェアサイクルの自転車か、各社のバイク便ばかりです。
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中国のECは世界でいちばん進んでいると言われますが、それが可能となるのも、バイク便兄ちゃんの数が世界でいちばん多いからともいえます。

日本より進んでいる中国ECサービス 支えているのは誰か? (2016年03月28日)
http://inbound.exblog.jp/25584174/

第19回中国共産党大会が終わり、今日はこんな報道もありました。

「ネット出前」中国爆走 遅配は罰金、配送員の事故多発(朝日デジタル2017年10月25日)
http://www.asahi.com/articles/ASKBM4SR2KBMUHBI014.html

習近平(シーチンピン)政権が2期目を迎える中国経済。24日に閉幕した共産党大会の期間中に発表された2017年7~9月期の国内総生産(GDP)成長率は、年間目標の6・5%前後を上回り、国家統計局は「経済は穏やかさを増している」と自信を深める。消費主導の経済への移行が順調に進むが、新たなひずみも目立ってきた。

お昼時の北京。赤、青、黄色のジャンパーをまとった人々が街中を電動バイクで駆け抜ける。スマートフォンで注文したレストランの料理を配達してくれるネット出前の配送員だ。

16年時点でネット出前の利用登録をしているのは全国で2億人を超える。スマホで決済まで完結できる便利さが受けている。

配送員の収入も悪くない。中国中央テレビによると、1回6~7元(102~119円)の配送を1日30~40回繰り返し、1カ月休まず働けば、業者が保証する賃金4千元程度と合わせて収入は1万元を超える。働いただけもうかる仕組みに、地方から出稼ぎに来た人々が飛びついた。

しかし、配送員の表情は浮かない。

「遅配や苦情があれば、給料から罰金を引かれる。バイクも自分で用意しなければならない」。東北部出身の20歳代の男性は、取材にそう語った。一定時間内に届けられないと20元、苦情があれば500元の罰金をとられるという。

遅配を避けたい配送員が猛スピードで運転するため、交通事故が頻発している。新華社ネットによると、江蘇省南京市では今年1~6月、出前によるバイク事故が3242件起き、3人が死亡。2473人がけがをした。

■習政権推進の新ビジネス、「格差」前提

ネット出前は、1期目の習政権が推進してきた技術革新による経済成長を象徴する新ビジネスだ。16年は全国で1千万人以上が配送員として登録していたとされ、大量の雇用を生み出している。

新ビジネスの発展について、李克強(リーコーチアン)首相は9月の政府の会議で「経済発展の新たな原動力をもたらしただけでなく、雇用をしっかり支えた」と称賛した。

とはいえ、低賃金で配送を請け負う出稼ぎ労働者がいて初めて成り立つネット出前は、「格差」が前提だ。大手の管理部門に勤める若手社員は、「安い労働力がないと成り立たない」とこぼす。

強まる批判を受けて、大手の一角の美団外売は9月、上海紙の取材に、配送員の労働環境を改善すると表明した。配送員の受け持つ量を減らし、バイクのスピードを監視するという。

「我が国の主要な社会矛盾は、日増しに増大する素晴らしい生活への人民の要求と発展の不均衡、不足との矛盾に変化している」

18日に開幕した共産党大会では、習総書記(国家主席)が今後5年の方針を示す政治報告でそう分析し、「より質が高く、より十分な雇用を図る」との目標を掲げた。

成長がもたらす新たなひずみにも配慮できるか。ネット出前の労働環境の行方は、習体制2期目を占う一つの指標になりそうだ。(北京=福田直之)


この記事では、中国のEC市場の拡大は「格差」前提の新ビジネスに支えられていると指摘しています。つまりは、「低賃金で配送を請け負う出稼ぎ労働者がいて初めて成り立つ」のが出前&宅配ビジネスなのです。では、彼らが背負う「格差」はどこから来るかといえば、中国の地方出身者に対する戸籍差別にあるといっていいと思います。これは共産党が建国当初から続けてきた政策によるものです。差別によって国を統治するのが彼らの伝統的なやり方です。

今年3月、上海を訪ねたとき、街を疾走するバイク便兄ちゃん(もちろん、中高年のおじさんもいます)の姿を知らず知らずのうちに追っていたので、その一部を紹介します。

朝早く通りを歩いていると、ブルーのジャケットを身につけた集団がいます。
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朝礼のようなことをしているようです。
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彼らこそ、朝日の記事に出てくる出前サイト「饿了吗(おなかすいた?)」の配達人です。
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饿了吗
https://www.ele.me/home/

これは市内のどこにいても近所の飲食店からお弁当や飲み物などを宅配してもらえるECサービスです。さすがは「食の国」中国らしく、地方都市でもかなり普及していて、いまや中国は「出前パラダイス」です。
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配達人の姿は真新しいショッピングモールの中でもよく見かけます。ショップ店員さんたちが注文しているからです。
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ある麺屋さんに入ったときも、その店では「饿了吗」と契約して出前をやっていました。上海ではほとんどの飲食店が「饿了吗」に限らず、なんらかの出前サービスと契約しているようです。
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オレンジ色のジャケットは、中国検索サイト大手「百度」の運営する「百度外卖」。
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黄色は「美団外卖」。町の食堂のような店でもどこかと契約しています。
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これらの出前サービスは、当然WeChatPayやアリペイで支払われます。この中国の2大決済アプリは現在、猛烈な加盟店獲得競争を続けているため、売上に応じて店にチップを渡すなどのインセンティブ合戦が起きており、町の果物屋さんでも「支付宝(アリペイ)」が使えるようになっています。
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これがよくいう「中国がキャッシュレス社会になっている」といわれるゆえんです。もちろん、地方に行けば、ここまで普及しているとはいえませんけれど。

とはいえ、中国のEC社会の実態はこんな場面にも現れています。たまたま通りを歩いていて、運送会社の前を通ることがありました。配送前の荷物が地面に放り出されており、これでは相当きちんと荷造りしないと大変です。
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バイクの後ろにこんなに荷物を積めば、事故も起きるでしょう。
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これなんか、走っていて荷崩れしないのかしら。
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最後に、これもたまたま上海駅近くの食堂で見かけたバイク便兄ちゃんたちの食事の光景です。
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みなさんスマホは手にしています。
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この種のローカルな食堂では、一品10元も出せばすみます。
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上海など大都市部の建設労働がひと段落した後、地方からの出稼ぎ労働者を待っていたのはバイク便兄ちゃんになる道だったというわけです。

【追記1】
以下のネット記事には、配送人たちの姿を映した動画が配信されていました。まさにこんな感じですね。

<上海だより>悲惨な労働環境の“闇”──激戦、中国宅配業界の配達員事情(The Page2017.05.12)
https://thepage.jp/detail/20170512-00000001-wordleafv

【追記2】
配送人の置かれた環境は、中国に限らず、欧州でも同じようです。欧州では周辺国から来た移民労働者が、中国では他の省や農村から来た都市戸籍を持たない外地人がこの仕事を担っているわけです。その意味で、中国をはじめとしたEC市場の拡大は彼らの存在抜きでは考えられないのです。

欧州のイケア運転手、トラック内で長期生活 低賃金で(BBC Japan2017年03月16日)
http://www.bbc.com/japanese/39276687
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by sanyo-kansatu | 2017-10-25 11:23 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2017年 10月 03日

中国人は領袖の意向を“忖度”するのがホントに好きですね

今日の朝日新聞の朝刊にこんな記事がありました。

(核心の中国)一強:上 実績強調、再燃する習氏崇拝 バラ色の報道で権威付け(朝日新聞2017年10月3日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S13162711.html

(一部抜粋)中国東北部にある吉林省延辺朝鮮族自治州光東村。9月半ば、一面に広がる水田で収穫を待つ稲穂が陽光に輝いていた。人口800人ほどの山村の様子が一変したのは、2年前の夏のことだ。

共産党総書記の習近平(シーチンピン)は2015年7月、朝鮮族の農村であるこの村を視察先に選び、民家や水田を見て回った。その様子が報道されると、全国から人が集まるようになった。

「習大大(習おじさん)が私の家にやってきた!」

そんな看板を掲げた民家の近くで、チマ・チョゴリ姿のガイドが、雲南省から来た約30人の一行に身ぶり手ぶりを交えて説明していた。

「総書記は朝鮮族がするように靴を脱ぎ、オンドルであぐらをかいたんです」

観光シーズンには1日千人以上がバスを連ねてやってきて、習が手にした地元の米には北京や上海などから注文が殺到。売り上げが3倍になった。村の農家を束ねる男性は「注文が途切れず、昨年収穫した2千トンも売り切れた」と声を弾ませた。

「総書記の言葉を学べ」と、動員される党員の視察旅行もあり、習が足を運んだ先々が「観光スポット」になっている。


これを読んで「あっ」と思いました。というのは、昨年この話の舞台である延辺朝鮮族自治州延吉市内の民族食品会館という地元農産品の展示場を訪ねたとき、習総書記が訪ねたという光東村の米が置かれていたのを見たからです。
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この記事にあるように、2015年7月15日、総書記がこの村の水田を視察したときの写真が商品パネルに使われていました。なるほど、いまの中国では領袖が訪れたという話がヒット商品や、観光客を呼び込んだりすることにつながるというわけです。中国人というのは、どんだけ領袖の意向を“忖度”するのが好きなんだよ、と思ってしまいます。
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ところで、延吉の民族食品会館では、地産品の展示だけでなく、実際に延辺の朝鮮族料理の調理を学んだり、試食を楽しめる体験館もあります。
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面白いのは、なにげに北朝鮮の工芸品や各種土産も紛れ込ませて紹介していることです。いまでこそ、制裁の対象である彼らの産品を扱うとは何事かという話かもしれませんが、彼らは同族なのですから。
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もうひとつおかしかったのは、習総書記が称賛した延辺米のパッケージに「光東越光 コシヒカリ」と日本語入りの商品名が書かれていたことです。ただし、この地で生産される米は、満洲国時代に寒さに強い東北地方の稲が持ち込まれ、品種改良された経緯もあり、「コシヒカリ」と呼んで日本米とのつながりを商品名に込めるのはまんざらウソでもないのです。
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まさか彼らも総書記がこの村を訪れたときは、決してそんな商品名は見せなかったと思いますけれど。
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by sanyo-kansatu | 2017-10-03 09:49 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2017年 05月 22日

中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由

なぜこれほど多くの中国人観光客が(こともあろうか!)日本国内で白タクを利用するようになったのか?

彼らが利用しているのは、「越境EC」ならぬ、「越境白タク」とでも呼ぶべきサービスです。つまり、自国内で普及している配車アプリサービスを、海外の法を無視して勝手に運用しているわけです。それが可能となったのは、中国でいち早く配車アプリが普及し、身近なサービスとして定着したこと。そしてこれが決定的なことですが、サービスの担い手である在外華人が多くの国々で暮らし、ドライバーをしているからです。

成田空港で中国系白タクの摘発が始まる!?
http://inbound.exblog.jp/26867015/
日本国内で増殖している中国の配車アプリとはどんなサービスなのか?
http://inbound.exblog.jp/26867237/

日本ではUberに代表されるライドシェアサービスはそれほど普及していませんが、今日の中国では日常的に利用されています。なぜ中国で配車アプリサービスが普及したのか。その理由を理解するために、ここ数年の中国におけるライドシェアの流れについて、以下簡単に説明します。

アメリカ発ライドシェアのマッチングサイト、Uberがサービスを開始したのは2009年。早くも3年後の2012年には、かつて中国2大配車アプリサービスだった「滴滴打車」と「快的打車」が事業を始めています。

配車アプリサービスは、それまでの問題の多かった中国の交通事情にとって待望のサービスでした。

もともと中国のタクシーの評判はよくありませんでしたし、渋滞の原因になることから、大都市への人口集中がどれだけ進んでも、台数はそれほど増えていませんでした。地下鉄などの公共交通機関はこの10年で著しく整備されていきましたが、自家用車の普及が進み、都市生活の移動のスピードが速くなればなるほど、以前のように路線バスに長い時間待たされることなく、すばやく車を乗り継いでいくようなニーズが求められるようになったのです。

この切実さは都市交通に恵まれた日本人には理解しにくいかもしれません。車の台数が増加し、日に日に渋滞が激しくなるばかりの都市に暮らす中国の人たちにとって、モバイル上で自分の位置する場所に最も近いタクシーを捜してコンタクトを取り合うことができるというUberのサービスは画期的なものでした。

それまで中国では、白タクはボッタクリの代名詞で、「黒車」と呼ばれていました。それが飛躍的にイメージチェンジしたのは、配車アプリで身元が割れることから、ドライバーは乗客に対してあくどい商売ができなくなったこと。モバイル決済によって、現金のやりとりをする必要がないという利便性からでした。小遣い稼ぎに自家用車を走らせる「黒車」のドライバーにとっても、きわめて合理的な商売となったのです。こうして利用者とドライバーの両者にとってメリットが大きかったことが、配車アプリが中国で急速に普及した理由といえるでしょう。

中国は国土が広いので、その後、地域ごとに多くの配車アプリ事業を行う企業が生まれたのですが、それも徐々に淘汰されていきます。

その理由は、「滴滴打車」が中国版SNSのWeChat(微信)を運営するテンセント系であり、「快的打車」がアリババ系であることから、それぞれWeChatPay(微信支付)、アリペイ(支付宝)という中国における最強の資本力を持つモバイル決済と連動していることが圧倒的な優位性を持ったからです。

安くて快適な「白タク」配車サービス(Newsweek2015年12月07日)
http://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2015/12/post-5.php

こうして上海や北京などの経済先進都市では、いまどきタクシーの支払いを現金でするのは外国人くらいで、地元の人たちはモバイル決済が普通です。ECの普及は明らかに日本よりも進んでいて、キャッシュレス社会といってもいいほどです。

こうした中国の先進性を伝える話題は、数年前から日本でも報道されていましたが、2015年頃からさらに配車アプリ市場は変化していきます。

まず2015年2月、ライバル関係にあった「滴滴打車」と「快的打車」が経営統合することが発表され、中国の配車アプリは事実上の「滴滴打車」一強支配となります。
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滴滴打車
http://www.xiaojukeji.com

この当時、ぼくのような配車アプリを使えない外国人が上海でタクシーを拾うのは至難の業でした。合併する前の2大中国配車アプリにUberの現地法人としてスタートした「優歩」も加わり、各社は激しいサービス競争を繰り広げていたためです。

ここでいうサービスには、利用者からみた値下げ競争もありましたが、それ以上に有効だったのはドライバーに対するものでした。配車アプリ利用客の場合、運賃とは別にアプリ会社からチップがもらえたからです。こうなると、アプリ予約でない路上の客を乗せたがらなくなるのは当然です。あの頃、どれだけタクシーを乗車拒否されたことか…。

こんなにお得で便利なサービスなのに、外国人には使えないのは困ったことです。もし配車アプリを利用しようとしたら、現地に銀行口座を持ち、WeChatPayかアリペイをスマホで使えるようにしておかなければならないからです。中国出張に年中来るような人ならともかく、スマホを中国仕様に変換するか、中国用のスマホを購入しなければならないなんてメンドウな話です。以下の記事は、中国出張者が利用する方法を紹介しています。

「中国版Uber」の「快的」「滴滴」は中国出張に使えるか試してみた
https://c-study.net/2016/04/didi-dache-taxi/

その後、2016年3月には、白タクのネット配車を政府が容認する方針を示します。かつてのボッタクリの代名詞だった白タクは、配車アプリを使う場合に限り、合法的な存在となったのです。

中国 「白タク」のネット配車を容認へ(NHK2016.3.14)
http://archive.fo/46Bvu

さらに、同年8月、本家アメリカの配車アプリUberは、「滴滴打車」との激しいサービス合戦による消耗戦に耐えられず、撤退します。

なぜ米Uberは中国市場から事実上の撤退を余儀なくされたのか?(ハーバードレビュー2016年09月06日)
https://hbol.jp/108305

こうして中国で白タク黄金時代が到来したかに思えたのですが、その後、中国政府は意外にも、その流れに逆行するような規制を始めます。

10月、中国政府は配車アプリのドライバーを地元の戸籍を持つ者に限定するなどと言い出したのです。

7.5兆円市場、中国「配車アプリ」に急ブレーキ 壊滅的規制案の行方(フォーブス2016/10/14)
https://forbesjapan.com/articles/detail/13922

この記事には以下のように書かれています。

「上海では41万人の滴滴ドライバーがいるが、上海の戸籍を持つ者は3%以下だ。現在登録されている車両の8割以上は新規制に適合しない」と滴滴の女性広報担当者は語る。配車アプリ市場に詳しいリサーチ会社iiMediaは地元戸籍のドライバーは北京では3.6%、杭州市では10.8%とリポートしている」

もともと大都市圏のタクシーや白タクのドライバーは、地元出身ではなく外地から出稼ぎに来た人たちが多いのは周知のことでした。それなのに、なぜこのような理不尽な規制を始めたのでしょうか。

そして、上海ではその規制の実施を伝える以下のような報道もありました。

上海、「白タク」1100台を摘発(大紀元2016/10/21)
http://www.epochtimes.jp/2016/10/26291.html

※これは根拠のない余談ですが、こうした政府の手のひらを返したような規制は、過熱気味だった配車サービスの適正化のためとも考えられますが、アリババ系の「快的打車」が競争に敗れ、テンセント系の「滴滴打車」の一強となるに至ったいま、双方のバックにいる政治グループの関係性(テンセント系=共産党青年団、アリババ系=習政権)が影響しているのではないかと思わないではありません。

今年3月、上海を訪ねたとき、去年に比べ、タクシーが簡単に拾えるようになっていました。その理由について、上海の友人はこう説明してくれました。

「私はもう以前のように配車アプリはあまり使わなくなった。去年までのサービス合戦が終わり、必ずしも白タクが安いわけではなくなったから。やっぱりタクシーのほうが安心だもの」

要するに、タクシーのドライバーたちはげんきんなもので、アプリ会社からのチップなどのインセンティブがなくなったため、これまでどおり路上の客を乗せるようになったのです。こうして過熱していた白タク市場も以前に比べ、沈静化していったといえます。

とはいえ、結果的に、中国では配車アプリサービスというモバイル決済と連動した交通インフラが定着したことは確かです。合法かどうかなどは気にせず、猛烈な投資合戦が始まったこともそうですし、サービスの担い手と利用者がともにインセンティブを得られるしくみをプロセスの中に巧みに導入していくことで、一気に普及させていったというのは、いかにも中国的といえます。コンプライアンスを守るなんて、中国では意味がないのです。
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この種の便利なインフラを定着させるやり方としては、昨年秋頃から中国各地で始まったシェア自転車サービス「共享単車」もそうです。GPSですべての自転車の位置情報が管理され、市内どこでも乗り降り自由というのですから、これは斬新すぎます。

次回は、このように中国においては優れたサービスである配車アプリをそのまま日本に持ち込まれると、どんな問題が起こるのか考えてみたいと思います。

中国配車アプリを利用した「越境白タク」の何が問題なのか?
http://inbound.exblog.jp/26876191/
タクシー運転手に聞く「日本のライドシェアが進まない理由」と今後すべきこと
http://inbound.exblog.jp/26891045/
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by sanyo-kansatu | 2017-05-22 18:32 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2017年 05月 18日

「学生の中国離れ」の背景には何があるんだろう?

先日、あるネットメディアに以下の記事が配信されていました。

タダでも中国には行きません 深刻な学生の中国離れ
一方通行の学生交流、このままでは情報格差が広がるばかり(JBPress2017.5.2)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49861

同記事によると「日本の大学生の中国への関心がどんどん低下している」そうです。

ある大学の学生に「なぜ中国に関心を向けないのか」と問いかけてみたところ、出てくるキーワードは「領土問題」「海洋進出」「反日」など。ある女子学生は、トイレなど衛生面の不安を挙げたといいます。

日本の若者が海外に行かなくなったとよく言われますが、2016年の日本人のパスポート取得数(外務省)を調べてみると、20代は2年連続で増加しているようで、若者の場合、「海外離れ」ではなく「中国離れ」が顕著だといえそうです。記事によると、海外には行きたいが、「中国となると“話は別”」なのだそう。

その理由として「おそらく中国という国に魅力を感じたり、憧れたり尊敬したりする人がいないんじゃないでしょうか。大金を投じてまで行く価値があるとは、周りの友人たちは思っていないのだと思います」という回答があったとか。ここまでぴしゃりと言われてしまうと言葉を返しようがありません。

同記事は最後に「(日中間が)「双方向の交流になっていない」という問題が生まれつつある。このまま行くと、「実際に日本を訪れて日本の理解が進む中国人」と「中国についてウェブ上の情報しか持たない日本人」との間で、情報格差が広まるばかりだ」と危惧しています。

もっとも、日中間の旅行市場のアンバランスについては、若い世代に限った話ではありません。2016年の中国からの訪日旅行者数637万人に対して、日本からの訪中旅行者258万人(中国国家観光局)とダブルスコア以上に離れています。

では、こうなる背景には何があるのか。以下の3つの理由があるとぼくは考えます。

①いまの中国に若い日本人からみた魅力や行ってみたいと思わせるスポットが少ないこと(それにはもろもろの事情がある)
②ネットを中心に中国のネガティブな情報しか見当たらないこと
③ラインやインスタグラムなどの日本人にとっての日常的なSNSが使えないこと

まず①から説明します。

中国は歴史の国で、本来そこに魅力があるはずです。ところが、たとえばエジプトやローマなどを訪ねたときと比べるとわかるのですが、経済発展のおかげで多くの歴史建造物が現代的に修復されたぶん、歴史を強く感じさせるスポットが以前に比べ少なくなった気がします。さらに、都市の現代化の結果、全国どこも一緒で、地域性の違いが見えにくくなっています。これは日本の1970年代に似た建設ラッシュによって都市空間が均一化していく時代にある中国特有の過渡的な状況なのかもしれません。

ところが、同じ時代を通ってきたはずの日本では、外国人からみて現代都市と伝統文化が共存し、そこかしこに散見されるように感じられるといわれるのに、中国はそうではなさそうです。その理由はわりとはっきりしています。文革時に多くの封建的とされた宗教建築や民間風俗、少数民族に関わる施設などを葬り去ってしまったことの影響が大きいのです。いま中国の都市には再建された「老街」があふれていますが、テーマパークのようで、味わいがありません。

さらに、政府の規制が強すぎるせいか、好奇心旺盛で元気いっぱいの若い中国人がたくさん生まれているというのに、現代的なソフトパワーの魅力が発揮されにくい。数年前までは、唯一の自由空間としてネット上で繰り広げられていた、いかにも中国的なポップカルチャーのにぎわいも、現政権以降、文化面に対する統制が強まり、かつての活力が見られなくなっています。

そもそも中国は自らの魅力を海外にPRするのが苦手のようです。以前、北京から来た観光団のセミナーに出席したことがあるのですが、そこで説明されたのは、北京とその郊外の有名スポットの写真をただ順番に見せたありきたりの解説だけ。30年前にはなかったオリンピックスタジアムや劇場、スキー場などを見せたいのかもしれませんが、いまどき海外の誰が魅力を感じることでしょう。彼らには相手のニーズが見えていないのです。

外国人観光客数が伸び悩む中国の観光PRのお寒い中身 (2015年05月14日)
http://inbound.exblog.jp/24475269/

きっと今日の中国人ほど、かくありたい自画像と現実とのギャップに悩んでいる人たちもいないのでしょう。彼らのふるまいを見ていると、よくそう思います。

こうした客観的情勢があるうえ、日本では②「ネットを中心に中国のネガティブな情報しか見当たらない」状況が進んでいます。

確かに、そうなってしまう事情はあると思います。

一般に今日の日本人の「嫌中」「反中」は、2000年代以降に中国人があからさまに見せた「反日」暴動などのふるまいや中国政府によるあまりに非礼な言動に対するリアクションから生まれた国民感情といっていいと思います。よく「日本の書店に行くと、嫌中本ばかりが並んでいる」などとメディアは批判しますが、これも総じていえば、民意の反映といえなくもない。

特に最近の中国政府の台湾や韓国に対する嫌がらせは許しがたいことで、観光を政治利用するような国には行きたくないと思うことを誰が批判できるでしょうか。

だから嫌われる!? 今年の春節も観光を政治の取引に使う中国にうんざり
http://inbound.exblog.jp/26584101/

嫌われる要因をつくり出しているのは、残念ながら、中国側なのです。

よく「日本のメディアが中国のネガティブな報道しかしないせいだ」という人がいます。日本に住む中国人もそう感じている人が多そうです。でも、本当にそうでしょうか。中国における硬直した日本報道をみる限り、とてもじゃないけれど、中国人がそれを言っても始まらないと思いますし、メディアといっても実際はいろいろで、一般に日本の新聞やテレビの「報道」分野においては、むしろ公平中立を重んじるあまり、中国に対するつっこみが甘いと感じさせる内容が多い気がします。

今日の朝日の朝刊にこんな記事がありました。

中国政商の「腐敗暴露」衝撃 習氏右腕の親族ら名指し(朝日新聞2017年5月18日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12942655.html

中国高官の汚職を暴露した在米中国人のインタビュー番組が「中国側の圧力」で突然打ち切りになったそうです。この告発は、今秋の共産党大会に大きな影響が考えられる以上、政治的な判断があったと考えて不思議はありません。

アメリカでさえ、こういうことが起きる以上、従来どおりの「公平中立」をうたう報道では、読者の多くが疑念をおぼえるのは無理もありませんし、報道の限界は見透かされています。これは世界的に共通する現象なのでしょけれど、多くの人たちが今日の報道を信用していないのです。

問題は、そうした不満があふれ出てくる場として、テレビのバラエティ化した情報番組やネット上の中国ネガティブ情報ばかりがまかり通ってしまう、いまの状況です。「学生の中国離れ」の背景にあるのは、報道のせいというより、こちらの影響でしょう。

率直にいって、相手を貶める話題にしか関心を持てないというのは、哀れというほかありません(同じことは中国人の側にもいえます)。その一方で、多くの日本人にとって今日の中国人のふるまいは得体の知れない理解不能なものにしか見えないであろうことは、ぼくにも理解できます。こういうと、よく友人からも「(中国によく行くくせに)あなたも反中なんですね」と皮肉まじりに言われることがありますが、その種のレッテル貼りは単にその人の中国理解の欠如からくるものなので、やれやれと思うほかありません。人は自分の知らない話をされると、レッテルを貼ることで、無意識のうちに自分を肯定しようとするのでしょう。

日本のネット上の中国ネガティブ情報の増殖は、特に日本の年配世代の心情に起因していると思われます。なんだかんだいって、彼らはそれなりの情報通で、発信者の多数派を占めるからです。彼らはかつて日本の経済力が中国の10倍以上もあった頃(1990年代初め)を知っています。それがこの20数年で追い抜かれ、いまでは日本の2.5倍にまで差を広げられたという現実を、まっすぐ受けとめられない。誰しも自分に落ち度があったと認めたくないからです。そのやむにやまれぬ、自分ではいかんともしがたい不愉快な感情というものは、彼らの立場になれば、理解できなくはないと思います。

ただ彼らはその感情をきちんと言語化したいとは思っていないように見えます。この20数年間に何が起きたのかもよくわかっていたとは思えない。とにかく面白くない。でも、誰にどう文句を言っていいのかわからないので、嫌中本でも読んで、憂さを晴らすしかないわけです。少しは救われた気がするのでしょう。

1980年代にアメリカの自動車産業の労働者たちが日本車をハンマーでぶち壊すという、ある種爽快なパフォーマンスを行ったことがありますが、日本人というのは、そのようなストレートな表現を好まないぶん、ネガティブな感情を内に込めてしまいがちです。

一方、若い世代にすれば、中国政府の容赦のない「歴史認識」に代表される日本批判を聞いて、自分たちの世代には関係ない時代の、いわれのない中傷と上から目線のもの言いぶりに反発をおぼえるのも無理はないと思います。

こうした老いも若きもが抱える国民感情が、ネットに蔓延しているのだと思います。

さて、「学生の中国離れ」の3つめの理由として③「ラインやインスタグラムなどの日本人にとっての日常的なSNSが使えないこと」。これは単純すぎるようですが、大きいと思います。いま世界を旅する人たちが当たり前に楽しんでいるエンタメツールであるSNSを使えないのは、世界広しといっても中国だけなのですから(あとは北朝鮮くらい?)。

外国客を呼びたいなら、中国はFacebookやLineを解禁すべきでは!
http://inbound.exblog.jp/25920704/

特に若い世代にとって、日常生活に欠かせないスマホやネットを日本と同じように使えない国があること自体、驚きでしょうし、そんな国に旅行に行こうという気は起こらない気がします。

これだけの幾層もの巨大なハードルがそびえるなか、いまの学生が中国に旅行に行くというのは並大抵のことではなさそうです。わかりやすい動機が見えてこないし、あるとしたら相当の思い入れや覚悟がなければ、わざわざ行くことにはなりそうもない……。

それでも、実際に上海に行ってみようと思う若い子たちがいることも確かです。

今年3月に上海出張に行ったとき、羽田・上海の深夜便を初めて利用したのですが、たまたまそのとき、一緒に乗り合わせたのが、昨年大学を卒業したばかりというふたりのOLさんでした。

帰国後、ふたりの上海“弾丸”旅行の話を聞きました。

彼女らは午前2時発のピーチに乗り、滞在2日間のうち、初日は市内観光と変身写真館でのチャイナドレスのコスプレ撮影、翌日は早朝から上海ディズニーで遊んで、夜便の春秋航空で深夜1時に帰国。羽田からタクシーで自宅に戻り、翌朝出社したそうです。

ふたりは初めての中国旅行で、昨年一緒に台湾に行ったら楽しかったので、今度はディズニーのある上海に行ってみようという話になったとか。それでも、ネット上には中国そのものに対してもそうですが、上海ディズニーに関するネガティブ情報が多く、本当にそうなのだろうか、といぶかしく思っていたそうです。

で、実際に行ってみたら、週末なので東京ディズニーより入場料金は高かったけれど、そんなに混んでないぶん、たくさんのアトラクションに乗れてよかったと話していました。またネットでいうほど極端な環境だとは思えなかったとも。そりゃそうでしょう。

実際、ネット上にはさまざまなネガティブ情報があふれています。たとえば、これ。「上海ディズニーランドはハード面では東京ディズニーランドと遜色ないとしながらも、キャストの態度やサービスは圧倒的な差がある」のだそう。

上海ディズニーと東京ディズニーの最大の違い、それは…=中国報道(サーチナ2017-05-17)
http://news.searchina.net/id/1635848

中国情報専門サイトのサーチナは、以前は中国のポジティブな側面も盛んに発信していたのですが、数年前にYahoo!の記事配信もストップし、最近ではどちらかといえば、世間に迎合的な中国人の日本礼賛話が多い気がします。ネット上ではそのようなどこか卑屈な姿勢にならなければやっていけないのでしょうか。

この記事について、ふたりに聞くと「まあ、そうかもしれないけど…」と苦笑していました。彼女らが上海旅行で体験した楽しいこと、辛かったこと、笑ったことに比べたら、たいしたことには思えないからでしょう。

確かに、上海では地下鉄にトイレがないことが多いし(深夜便利用だと体調管理が大変!)、空気が悪くてマスクが茶色になったとか、困った体験も数々あったそうです。こうした日本では考えられない珍体験も含めて「たった2日では何もわからなかった。おいしいものもほとんど食べられなかったけど、また行ってみたいと思ったし、そういう旅がしたいといつも思っている」とふたりは話しています。

結局のところ、彼女らと話していて思うのは、旅行に行くのに、妙な思い込みや覚悟なんていらないのです。

ぼくは中国の旅行書をつくっている人間なので、「学生の中国離れ」をビジネスの当事者として受けとめざるを得ないところがあります。ですから、前半に書いたような、こうなる客観的な事情をふまえて物事を考えなければならないことを承知しているのですけれど、それとはまったく切り離して考える自由もあります。なにしろ中国は広く、いろいろ面白いことがたくさんあるのは本当です。こればかりは、そう思える人と思えない人がいるのは理解できますから、強制するつもりなどありません。

でも、逆にこれだけネガティブな話題が満載の国に行ってみようというのもありではないか。ネット情報ばかりに感化されてしまうのはシャクじゃないですか?

最近、ぼくがつくった旅行サイトを紹介したいと思います。

ボーダーツーリズム(国境観光)を楽しもう
http://border-tourism.jp/

このサイトは中国だけでなく、ロシアやモンゴル、朝鮮半島を含めた北東アジアの旅を誘う内容です。
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by sanyo-kansatu | 2017-05-18 17:10 | のんしゃらん中国論 | Comments(1)
2016年 12月 28日

パクリ疑惑の上海「大江戸温泉物語」は笑えるけど、中国にはもっと面白くて刺激的な日本式温泉がある

先日、ネット上にお台場にある「大江戸温泉物語」のパクリ施設が上海にオープンしたとの疑惑告発記事が載りました。

上海の温浴施設にパクリ疑惑 「大江戸温泉物語」そっくり 日本側は関係否定、中国側は「調印済み」主張(産経ニュース2016.12.24)
http://www.sankei.com/world/news/161224/wor1612240041-n1.html


中国上海市の宝山区にオープンした温浴施設をめぐり、日本国内で温泉旅館などを運営している「大江戸温泉物語」(東京都)の店舗の模倣ではないかとの疑惑が浮上している。上海の温浴施設は同じ名称を使い、店舗の外観も酷似している。

日本の同社は「海外のいかなる企業や団体とも資本提携、業務提携は行っていない」と上海との関係を否定した。

一方で、上海の運営会社「上海江泉酒店管理有限公司」では、「2015年11月に中国での名称使用を授権した契約に調印している」などと強硬に反論しており、今後、日中双方のトラブルに発展しそうだ。

上海の運営会社は、日本の「大江戸温泉物語株式会社」が発行したとする日本語と中国語で併記の「公認証明書」も公表。「18年10月まで公認ビジネスパートナー」と主張している。
中国版のツイッター「微博」に開設された公式サイトによると、入館料は大人1人が138元(約2300円)。名称のロゴや大浴場、レストランや漫画が読める畳敷きの部屋まで、東京都江東区にある「東京お台場・大江戸温泉物語」にそっくりな作りという。


大江戸温泉物語
http://www.ooedoonsen.jp/

上海で人気の日本のスーパー銭湯「極楽湯」(これは本物)を訪ねたことがあります。若い女性を中心ににぎわっていたので、いまの中国では日本の温浴施設が広く受け入れられているのだなあと思いました。だから、新たに浮上した「パクリ疑惑」だなんて、いかにも中国らしい話です。

上海の「極楽湯」はありがたい存在だけど、料金は「日本の3倍」の意味するもの(2016.6.24)
http://inbound.exblog.jp/25944594/

すると、数日後には現場を検証するこんな記事が出てきたので、やれやれと思いました。

パクリ疑惑の上海「大江戸温泉物語」に行ってみた
「日本人が指導にやって来た」と主張する従業員(JB PRESS2016.12.27)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48789

このルポ!?では、実際に上海の「大江戸温泉物語」に行って、お風呂や食事などのクオリティを日本人の感覚に照らしてあれこれ評価を下していますが、どうやらまずまずのようです。

とはいえ、最も基本的なつっこみをするとすれば、上海市内に「温泉」が出るとは思えないことです。地中を何千メートル掘ったとしても。そうでないのに「温泉」を名乗ることに、この施設の弱みがあります。

それもそうですが、さらにおかしいのは、日中双方の関係者が「業務提携」をめぐって対立していることです。この記事では、上海側に(正式な取材とも思えないのですが)その点を問い質しています。記事にはこうあります。

「その従業員によると、オープン前に中国側の従業員12人が東京へ研修に赴いており、また東京からも日本人が従業員の指導に上海に来ていたといいます。「提携について双方の現場は把握していたが、幹部層が知らなかっただけではないのか?」という見解を述べていました」

この発言はいかにも中国人らしくて、つい声を出して笑ってしまいました。こういう言い方するんですよね、彼らは。

筆者はその後、日本の熊本県庁くまもと商標推進課に上海の大江戸温泉物語でくまモングッズが販売されている件について電話取材を行ったそうです。

「最初に尋ねたのは、当該施設の売店内に展示されていた、日本語で書かれたくまモングッズの商品販売委託契約書についてでした。その契約書中には、熊本県庁から販売が許諾されているという日本の業者名が書かれてありました。その日本の業者に対して熊本県庁は実際にグッズの取り扱いを許諾しているのかを確かめたところ、その点については事実で間違いないという回答が得られました。

ただし、その担当者は、「(県庁が)問題視しているのはグッズ販売ではなく、当該施設の内装にくまモンのデザインを使用している点です」と述べました。中国側の業者に対して許諾は出しておらず、現在も抗議を行っているとのことでした」

「施設の内装にくまモンのデザインを使用している点」に抗議? でも、いまの中国人でこの種の抗議に聞く耳を持つ人はいるのでしょうか。大いに疑問です。

さらに、筆者は商標使用権問題の当事者である日本の大江戸温泉物語に電話取材を行っています。

「同社は既に12月22日付で「いかなる海外企業との資本・業務提携を行っていない」という発表を行っています。そこで筆者は、従業員との話に出てきた、中国側従業員の研修を受け入れたという話が事実かどうかについて尋ねてみました。すると同社からは「22日の発表の通りです」という回答しか得られず、否定も肯定もはっきりとは行われませんでした」

あれっ? これはどういうことでしょう。そして、記事はこう結ばれます。

「筆者の企業取材の経験から述べると、何かしらあったのではないかと疑わせるような対応と言わざるを得ず、案外、話を聞いた従業員の言っていた通りなのではないかという可能性も否定できません。この件については双方の対応をもっとじっくり見続ける必要があるのではないかというのが筆者個人の見解です」

このしりきれトンボ的な記事を読んで最初に思ったのは、これに類することは、これまで日中間で数え切れないくらい起きていただろう、ということです。

たとえば、これは商標使用権問題ではないのですが、日本の100円ショップそっくりの中国版<10元ショップ>の「メイソウ(名創優品)」のことをご存知でしょうか。
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MINISO
http://www.miniso.jp/

この10元ショップ、日本のダイソーと無印とユニクロをパクったといわれています。

中国で急拡大中!ダイソーと無印とユニクロをパクったチェーン店「メイソウ」がヤバすぎる
https://matome.naver.jp/odai/2139800287435985001

敵もさる者、実際には中国企業なのに、店内に日本語表示を多用するなど、まるで日本企業の出店であるように見せているところがあざといのです。しかし、よく考えてみれば、英語やフランス語のブランドイメージを活用するのは、日本でもかつてはよくあったこと(いや、いまでもそう。いかに欧文名の企業名や商品名が多いことか)。これをパクリと言われてしまうと、みんな困ってしまうことでしょう。

もしメイソウの経営者にその点を指摘したら、「イメージ戦略として使っているだけのこと。100円ショップのオリジナルは日本なので、日本風に見せることは当然」と答えるのではないでしょうか。

上記サイトをみると、どんな商品が売られているかわかりますが、おそらく日本の100円ショップチェーンが中国でつくらせていた工場で、中国国内向けの商品を大量発注しているのではないでしょうか。要するに、彼らは日本のビジネスモデルをそのまま真似して、巨大な中国市場に打って出たのです。

ぼくは3年前上海の南京路でこの店を見かけたのが最初ですが、今夏、東北地方の田舎町でもずいぶん見かけました。

さらに、驚くべきは、この中国版10元ショップの「メイソウ」が、中国国内だけでなく、オーストラリアなど、海外市場へも展開中なのです。

日本の100円ショップチェーンが海外進出にもたもたしているうちに、日本のやり方をパクった彼らはすでに世界を相手にし始めています。こういうのを見るとき、(すべてとはいいませんが)日本企業というのはなんて残念な存在なのだろうと思わざるを得ません。なぜなら、本来自身は固有の価値を持つにもかかわらず、自らの市場価値を正確に推し量ることも、その可能性を想像することも、海外の市場の動きをつかむことも、できないように見えるからです。

話を戻しましょう。日本の温浴施設が中国で支持されていることは、上海のみならず、地方都市でも続々登場していることからもうかがえます。

今夏、ぼくは中国遼寧省の瀋陽や丹東でも、「江戸」をネーミングに採り入れた、ある意味きわどい日本式温浴施設に足を運んでいます。

たとえば、瀋陽にあるのは「大江戸温泉」といいます。

瀋陽大江戸温泉
http://www.ooedo.cn/

ここは「極楽湯」の世界そのものでした。あえて「極楽湯」と比べたのは、同施設の関係者に聞く限り、地中を深く掘った温泉だということですが、本当なのかどうか怪しい気もするからです。しかし、コストをそれなりにかけているせいか、岩盤浴などの施設は日本よりはるかにゴージャス。しかも、料金は上海の半額くらいで良心的。遼寧省の冬は寒いので、地元でも人気だそうで、今年10月、市内に2号店ができたばかりです。

そして、極め付きはこれ。丹東の「江戸温泉城」です。
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北朝鮮の町並みが露天風呂から丸見え!?  丹東の「江戸温泉城」にて(2016. 12.11)
http://inbound.exblog.jp/26446784/

上記記事を読んでもらうとわかるとおり、中朝国境最大のまち、丹東にある日本式の温泉施設で、5階の露天風呂から鴨緑江をはさんで、なんと北朝鮮の町並みが望めるのです。なんと刺激的な温浴施設でしょう。中国ならではといえます。

そして、これらの両施設はともに日本の専門業者が設計を担当しています。ですから、施設のクオリティは、少なくともハード面では日本と変わりません。あとはサービスの質をいつまで維持できるか。さきほどのパクリ疑惑がささやかれている上海の「大江戸温泉物語」も、基本的に同じなのではないでしょうか。

つまり、上海の「大江戸温泉物語」も、設計は日本の業者が担当しているのでは、と考えられます。

ですから、今回の「疑惑」に関しても、彼らに話を聞くのがいちばん早いのでは、と思うのですが、どうでしょう。
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by sanyo-kansatu | 2016-12-28 22:48 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2016年 05月 30日

中国の富豪たちがショックを受ける町 「大阪・富田林」を歩く

現在発売中の「Forbes JAPAN」2016年07月号は「億万長者の謎」特集です。
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http://forbesjapan.com/magazines/detail/50

同誌に以下の中国人富豪についてのコラムを寄稿しました。転載します。

中国の富豪たちがショックを受ける町 
「大阪・富田林」を歩く


中国人観光客というと、すぐに「爆買い」のイメージと結びつけられるが、本物の中国人富豪たちの来日目的は少し異なるという。

「そもそも富裕層はドラッグストアで爆買いなんてしませんよ」

こう語るのは、中国からやってくる超VIPたちから直接指名を受ける通訳ガイドの水谷浩。彼の顧客リストには日本人でもメディアを通じてよく知る中国企業の大物幹部たちがズラリと並ぶ。

彼がアテンドする中国の上級富裕層の人たちは、どんな目的をもって日本にやってくるのだろう。ビジネス半分、観光半分の「視察」もあれば、プライベートな家族旅行もある。世代によってその目的は異なるし、いわゆる「爆買い」でもドラックストアで化粧品や医薬品を大量に買うのとは大きく違う。

例えば、中国の巨大グループ総帥夫人は、京都で明の時代の銀の香炉(650万円)をカードで一括購入した。前回の来日時に日本全国の骨董店を訪ね歩き、目星をつけていたらしい。そして、「朋友(友達)」と称するプロの鑑定家をわざわざそのために同行させて、真贋を確認したうえで購入したという。

中国には若くして成功し40代で巨万の富を築いたIT企業家たちも少なくないが、いつもはビジネスや投資の話に目ざとい彼らの異なる一面を見たこともある。グループ幹部を召集した京都での会議で、息抜きに鴨川沿いをサイクリングしながら観光案内した際、ふだんは見せない気さくな素顔を見せたという。

中国ではありえない「歴史の連続性」
 
さて、その水谷が、中国のハイクラスな富裕層を相手に「この町を案内してハズしたことはない」と断言するのが大阪の富田林だ。PL教団の大本庁や、同教団が主催する夏の花火で知られる富田林だが、実は大阪で唯一の、国が指定する重要伝統的建造物群保存地区がここにはある。

寺内町(じないまち)と呼ばれるこの地区は、400年以上前に織田信長と戦っていた「宗教自治都市」で、高台の上に要塞としてつくられ、古くは江戸時代から明治、大正、昭和前期までに建てられた寺院や民家が並び、いまもそこで人々が暮らしている。

南北6筋、東西8筋の道路で整然と区画された町内には、瓦ぶきの美しい町屋が連なる。日本人にとっても魅力的なのだが、とりわけ中国の人たちには強いカルチャーショックを与えるのだという。

中国の富裕層の人たちが富田林に魅せられる理由について水谷はこう説明する。

「中国の人たちは、改革開放以降、スクラップ&ビルドの世界で生きてきた。歴史ある古鎮もすべてつくり変えられ、テーマパーク化した。ところが、ここでは200年前の民家がいまも残り、しかもそこで生活している人がいる。それが信じられないのでしょう」

中国の人たちは概して日本の歴史には詳しくない。京都は確かに中国でも知られている古都だが、観光地化が進んでおり、中国人観光客があふれているのも気に入らない。特権意識の強い富裕層はそのような俗っぽい場所を避けたいと思うのだ。

一方富田林は、彼らの目には、明の時代(14 ~17 世紀)に栄えた中国江南地方の水郷古鎮の文化の影響を受けているように見えるらしい。すでに中国には残っていないものが、日本になぜあるのか? 中国ではありえない「歴史の連続性」に、彼らは虚を突かれたような思いがするのであろう。

日本を真剣に見たい

この2月に東京で開かれた富裕層向け旅行商談会「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット・ジャパン」で、エキジビション・ディレクターをつとめたアリソン・ギルモアは「世界の富裕層の旅行にはクラシックモデルとニューモデルの2タイプがある」という。

前者は多くが新興国の一代で富を築いた社会的成功者の人たちで、豪華さやステータスを求める旅であるのに対し、後者は先進国の成熟した富裕層が中心で、より精神的な価値を求める傾向にあるという。

中国の富裕層の特徴について水谷はこう語る。「彼らはまさに創業者世代。改革開放後の30年間を裸一貫でのし上がってきたパワフルな人たちで、日本に来ると、常に最高級でなければ満足しない。ホテルは5つ星クラスで、食事もミシュラン級。要望が細かく、無理難題も多いので、毎回が格闘だ」

その意味では中国の大半の富裕層旅行の内実はクラシックモデルに属するといえる。ただし、水谷がそれだけではないと思うのは、富田林の歴史的価値に気づくような深い洞察力を持ち、日本の姿を真剣に見てみたいという人たちが確かにいるからだ。

「彼らはほんの上澄みにすぎない。だが、それだけに自分の仕事はやりがいがある」

ある国営銀行の頭取夫人は、中学を卒業したばかりの息子を連れて日本へ旅行に来たとき、水谷の案内で富田林と高野山を訪ねた。夫人は「米国留学の決まった息子に、中国と違う日本を一度見せておきたかった」と語ったという。

いま、中国の富裕層の人たちの中にも、富田林に象徴されるような、精神的価値に重きを置くニューモデルの旅が現れつつある。

※この記事に出てくる水谷浩さんについては、以下参照のこと。

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル
http://inbound.exblog.jp/24489096/
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by sanyo-kansatu | 2016-05-30 21:55 | のんしゃらん中国論 | Comments(1)
2016年 04月 09日

多彩な決済サービスや宅配が普及【後編】上海のコンビニはここまで進化していた

ここ2回ほど、上海のコンビニがいまどんなことになっているかについて書いてきました。

弁当、ベイカリーなどPBが充実【前編】上海コンビニはここまで進化していた
http://inbound.exblog.jp/25641549/

ローカル系コンビニから見えてくる上海人の消費生活
http://inbound.exblog.jp/25642955/

ところで、上海滞在中、どうしても気になるのがPM2.5です。毎日がそんなにひどいというわけでもありませんが、1週間ほど滞在していると、必ずやばい日があります。朝ホテルの窓から外を見ると、空は真っ白。現地に住んでいる日本人は「もう慣れっこだから」と苦笑いしますけど、たまに行く人間は、どれだけのど薬やマスクなどで万全の対策をしていても、やはり心配の種はつきません。

①ドラックストア商品も充実

その点、日系のコンビニには、たいていPM2.5予防用の高機能マスクも置かれているので安心です。ただし、香港製で1枚32元(550円)と安くはありませんけれど。
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ほかにも、スキンケアやシャンプーなどの女性向けドラックストア商品も揃っています。
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男性向けも店によってはけっこうあります。ただし、やっぱり日本で買うのに比べると割高ですけれど。
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それでも、乾電池や細かなPC用具、ステイショナリー類など、旅先であると助かるアイテムも事欠かないのが、いまの上海コンビニです。
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現地生産のポッキーなどのお菓子類も豊富です。
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日系なら、ワインも日本と同様揃っています。1本100元(1800円)くらいで、こちらも日本より高い印象です。
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②物販以外の便利なサービス

これまでは日系コンビニの品揃えの話でしたが、上海コンビにはローカル系も含め、物販以外にも使えるサービスが充実しています。

たとえば、携帯の無料充電器。これはけっこうありがたいものです。この種の携帯まわりのサービスについては、たぶん東京より上海のほうが進んでいる気がします。
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上海の日系および前回紹介した3大ローカル系コンビニ(好徳、快客、喜士多)などでは、たいてい店舗内にこのような多種多彩のサービスを行う端末が設置されています。
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これはある好徳の店舗の端末機です。メニューをみると、わかりやすいところで、中国の高速鉄道や飛行機の予約ができたり、携帯やゲームのポイント、地下鉄カードのチャージ、公共料金の支払い、意外なところでは、交通違反の罰金の支払いなどもできます。中国最大のEC企業アリババが提供する「支付宝(アリペイ)」やテンセントの微信(WeChat)に組み込まれている「微信支付(ウイチャットペイメント)」などの決済サービスもあります。この種のキャッシュレスの普及は、日本より進んでいると思われます。
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この端末機を使って中国専用で使っている携帯のポイントをチャージしてみました。支払い方法は、銀聯カードと微信と支付宝から選べるようになっています。現地に住んでいるわけではないのですが、もうだいぶ前につくった銀聯カードで決済しました。携帯のポイントチャージは、以前ならコンビニやキオスクなどで専用カードを買って、移動通信に電話をして暗証番号を入力するというやり方でしたが、いまはコンビニの端末で簡単にできてしまいます。
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この種の端末がないコンビニでも、地下鉄カードのチャージができる店もあります。この上にカードを載せて、必要な金額だけレジで払えばチャージ完了です。上海ではコンビニが生活のインフラとなっているというのはこういうことです。
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上海のコンビは表向き中食を中心としたPB(プライベート・ブランド)で競い合っているように見えて、その実こうした決済サービスができる店とそうでない店で、おおかた決着がついてしまっています。この種のサービスの種類の豊富さでいうと、ローカル系のほうが日系より優っているように見えます。

③ポイントサービスや宅配も上海流

日本でも顧客の囲い込みのため、コンビニごとにポイントのためられるカードを発行していますが、上海では、すでに携帯が決済だけでなく、ポイントの受け皿になっています。
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たとえば、ローソンでは店頭のポスターやレシート、ウエブサイトに記載してあるQRコードをスキャンすると、アプリがダウンロードできます。そして、10回購入すると、弁当やおにぎりなどの無料クーポン券がもらえるサービスを始めています。ただポイントをためて割引に使うというようなことでは、上海の消費者は満足しないそうです。それより直接商品をプレゼントするほうが効果があるというのです。
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APP STOREのアプリ『罗森点点』はこのQRコードをスキャンします。こうしたことが可能なのも、日本に比べ携帯アプリなどの決済サービスが普及しているからなのです。
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さらに、驚くべきは、コンビニのコーヒー宅配サービスです。これはセブン・イレブンの宅配サービスです。
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上海ではあらゆるものがECで購入できる環境が整いつつありますが、それが可能となるのは、運び屋であるバイク便の兄ちゃんたちが大勢いるからでもあります。こういうことは、上海のような都市戸籍/農村戸籍(あるいは外地戸籍)という、公然とまたあっけらかんと2つに階層化された社会でなければ実現できないものだと思いますが、現にそれが実現してしまっているので、ただただ驚くほかありません。

日本より進んでいる中国ECサービス 支えているのは誰か?
http://inbound.exblog.jp/25584174/

とまあいろいろ裏の事情もありますが、上海のコンビニが進化していることはおわかりになったと思います。このような便利な消費社会を生きているのが上海人であるということを知っておくことは必要です。なぜなら、日本に旅行に来るのは、当然これらのサービスを日常的に使っている側の階層の人たちだからです。だとしたら、彼らは日本に来て、ずいぶん不便だなあと思うかもしれません。だからといって、彼らにどこまで合わせるかという話はまた別のことですけれど。
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by sanyo-kansatu | 2016-04-09 20:19 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2016年 04月 09日

ローカル系コンビニから見えてくる上海人の消費生活

上海にはローソンやファミマ、セブン・イレブンなどの日系に加え、さまざまなローカル系コンビニがひしめいています。前回書いたように、数の上ではローカル系のほうが多数派です。

弁当、ベイカリーなどPBが充実【前編】上海コンビニはここまで進化していた
http://inbound.exblog.jp/25641549/

正直なところ、日系に比べて店内は明るくない印象だし、商品の陳列もさえないし、愛想のよくない店員もいるのがローカル系ですが、この際いろいろ比べてみようということで、訪ねてみました。コンビニほど地元の人たちの暮らしが見えてくる場所はないと思ったからです。

まず、上海の主なローカル系コンビニ・チェーンを紹介しておきましょう。以下の3つは、上海の3大ローカルチェーン。街角でもよく見かける、市民生活には欠かせないインフラといえるでしょう。
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好徳(Hapde)
上海のローカル系で最大勢力のチェーン。
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快客(Quik)
地下鉄駅構内にも出店しているのでよく目につく上海資本のチェーン。
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喜士多(C-Store)
台湾資本のチェーンで、イートインが他と比べ充実しています。

これ以外にもいろんなチェーンがあります。「可的」は確か「好徳」と同じ系列のチェーンだったと思います。店舗のイメージカラーは明るめのグリーンとオレンジというローカル系の中では最もポップな印象です。
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ここまではまだいいほうなのですが、ローカル系の中には「おやっ、これは?」と一目でわかるようなあやしげなチェーンも散見されます。
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この「全佳」というのは、ファミマの中国名が「全家」であることから、パクリ系だと思われても仕方ありませんね。そのくせ、黄色に緑、オレンジという3本色こそ微妙に違うものの、セブン・イレブンに似てます。中国らしいといえば、いえるかも。
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ほかにもこの「良友集団」や「上海如海超市」などもローカル系です。おそらくこれらはもともと雑貨店だったものがフランチャイズされたケースが多そうです。
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さて、これらローカル系コンビニで販売されている商品群は、日系とはかなり毛色が違っています。

なかでも代表的なのが、レジのそばにたいてい置かれている「茶たまご (茶葉蛋)」ではないでしょうか。お茶の葉と醤油で卵をゆでたもので、中国ではポピュラーなおやつです。今回初めて試食してみたのですが、特に変わった味ではありません。ただゆで卵を食べる習慣がない日本人は、ちょっとグロテスクに見えなくもない色形から敬遠するかもしれません。
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商品棚を見ていきましょう。これは中国人の好きな干し梅や干しブドウです。やはりローカル色たっぷりですね。
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カップラーメンの種類が驚くほど豊富です。日清のUFOや韓国の辛ラーメンもありますが、大半はローカルブランドのようです。
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伴麺というのは、上海の汁なし麺で、ひき肉とかいろいろからめて食べるものです。ご当地カップ麺を試してみるのも悪くないかもしれません。
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お酒のコーナーは、上海らしくお米が原料の黄酒(日本では老酒というのが一般的か)、いわゆる紹興酒系のお酒がたくさん並んでいます。ぼくは「石庫門」という上海の租界建築の様式の名の付けられた黄酒をときどき買って飲んだりします。とても飲みやすいお酒です。
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つまみ系も、日系にはない、真空パック系のディープな世界が広がっています。
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さて、ローカル系コンビニにも、最近はイートインができています。なかでも台湾系の喜士多(C-Store)は充実しています。
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ここではどんな中食メニューが味わえるのか。これが弁当コーナーです。きれいにパッケージされてはいるのですが、なぜか中身が見えないようなものも多く、ちょっと手が出ません。
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中食という意味では、ローカル系コンビニのフードコーナーは多彩です。おでんはもちろん、フライドチキン、ソーセージなど、立ち食いジャンクフードが大量にありますね。
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ゆでコーンやちまきがあるのも、ローカル系らしいです。前回、上海に屋台がなくなり、代わりにコンビニが中食の提供先になっているという話をしましたが、こうしたラインナップにそれがうかがえますね。
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最後に弁当やフードコーナーの食べ物をまとめて撮ってみました。ピリ辛おでんや中華そうざい2色弁当、とんかつカレーとドリンク類を選んでみたのですが、どうでしょう?
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正直な感想としては、これだったら安い食堂でワンタンとかぶっかけ飯でも食べたほうがいいかな、という感じでしょうか。
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スイーツ系もいろいろあったのですが、こちらは弁当以上にいただけませんね。見かけはだいぶ日本のコンビニスイーツに似てきたのですが、口入れると、うん? どうしてこういう味になってしまうのか。よくわかりません。

やはり弁当やスイーツといった中食は、中国に比べはるかに日本が進んでいることは間違いないようです。いまだに中国系エアラインの機内食はおいしくないのも、製造技術と工程に難があるからだと思います。

もっとも、PBフードに関してはいまいちのローカル系コンビニですが、日本より進んでいるサービスもあるのです。その話は、次回にしましょう。


多彩な決済サービスや宅配が普及【後編】上海のコンビニはここまで進化していた
http://inbound.exblog.jp/25643288/
 
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by sanyo-kansatu | 2016-04-09 18:47 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2016年 04月 09日

弁当、ベイカリーなどPBが充実【前編】上海コンビニはここまで進化していた

今日も、上海出張の続きです。これまで上海のEC(ネットショッピング)が日本をはるかに上回る勢いで普及していることや、6月中旬にオープン予定の上海ディズニーの話、昨年ついに上海の訪日旅行市場で団体客の数を個人客が抜いた話などを書きましたが、今回は上海のコンビニの話です。

日本より進んでいる中国ECサービス 支えているのは誰か?
http://inbound.exblog.jp/25584174/

今年6月にオープンする上海ディズニーの公式ショップを覗いてみた
http://inbound.exblog.jp/25579060/

2015年の上海の訪日客、個人が団体を逆転 その意味するものとは?
http://inbound.exblog.jp/25638388/
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今日の上海に住む人たちがどんな消費生活を送っているか。それを理解するうえで、コンビニ事情を紹介するのは意味があると考えるからです。インバウンドに関心のある人たちにとっても、中国人観光客の嗜好や行動について知るうえで役立つと思います。

①日系vs.ローカル系の構図も変化

さて、いま上海にはどのくらいの数のコンビニがあるかご存知でしょうか。

すでに6000店を越えるコンビニがあるそうです。上海のまちを歩いていると、東京と同じくらいの比率で、コンビニに出会います。「開いててよかった」は日本で初めてセブン・イレブンが営業開始した頃のコピーですが、いまや上海でも市民生活のインフラとなっているのです。

数でいうと、全体の4分の3くらいは地元中国のコンビニが占めますが、日系のコンビニも年々店舗数を増やしています。日系では、ローソンとファミリーマート、セブン・イレブンがあります。ただし、ファミマとセブン・イレブンは台湾系の資本で、数はファミマが約900店、セブン・イレブンが約100店、ローソンが2015年末現在で390店というところです。
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ローソン http://www.lawson.com.cn/
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ファミリーマート http://www.familymart.com.cn/
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セブン・イレブン http://www.7-11.com.tw/in/cn.html

なかでもファミマとローソンは積極的に出店を拡大しています。セブン・イレブンのみ、内部にいろいろ事情があり、伸び悩んでいます。これは先ごろの日本のトップが退陣した話とは関係ありません。

一方、ローカル系コンビニは、ここ数年減少傾向にあります。理由は、上海における高速度のECの普及とも関係がありそうです。上海の小売業は、コンビニに限らず、百貨店もスーパーも苦戦しているのです。

それでも、日系コンビニが出店を拡大している背景には、2000年代半ばくらいからの地下鉄網の急速な拡大で通勤圏が広がり、各地にベッドタウンができ、出店チャンスが広がっているからです。なぜローカル系は減少しているのに、日系は伸びているかというと、やはり販売している商品のクオリティが上海市民に評価されているからでしょう。かつてはローカル系に比べ高いといわれていた日本の商品も、上海市民の所得の向上により、いはゆる「日常買い」の対象になってきたのです。日系vs.ローカル系の構図にも変化が起きているのです。
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中国人観光客の「爆買い」の理由も、要するにこういう話なのです。彼らは、もはや日本の商品はそんなに高いとは感じていない。ローカル商品より高くても、品質がよければ日本の商品を選ぶのです。

②キラーコンテンツとしてのPB~弁当とベイカリー

日系コンビニのキラーコンテンツは、独自のプライベートブランド(PB)商品といえます。それは何かというと、専用工場でつくられる弁当やベイカリーです。少し前までは、日本人の感覚からすると、上海コンビニの弁当やパン類はわざわざ買って食べるものではありませんでした。はっきり言って、味が落ちるからです。安くておいしい食堂やレストランはいくらでもあるので、コンビニ弁当という選択肢は考えられなかったからです。

たとえば、上海ローソンのPBコーナーはこんな感じです。もう見かけは日本とほぼ変わりません。中身は日本と同じものもあるけど、中国オリジナルのものもたくさんあり、手にとって比べてみたくなります。おにぎりの具は日本にはない中華風調理肉が多いのが特徴です。
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いちばん大きな進化はベイカリーではないでしょうか。棚もおしゃれですし、上海オリジナルとしては、地元で人気のもちもち食感の通称「QQパン」が知られています。
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これはローソンのとんかつ弁当の「香炸猪排花式盒饭」(15.9元)。一見日本の弁当風ですが、中華そうざいが一品入っているのが特徴です。
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日本よりはるかに種類が豊富なのが、肉まんケース。広東式点心から紫芋入りまでローカルの味が楽しめます。 
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③カフェより安くコーヒーが飲めてくつろげる

上海の日系コンビニのありがたいところは、日本と同じドリップコーヒーが味わえることです。なにしろ上海のスタバはカフェラテが500円という世界。しかし、ローソンの場合、アメリカンコーヒー(8元)やカフェラテ(8元)、香港式ミルクティ(5元)、豆乳(3.5元)が味わえます。上海人は濃い目のブレンドがあまり好みではないようで、アメリカンしかないのがちょっと残念です。
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日本でもおなじみのセブン・コーヒーもあります。ただし、上海ではセルフでなく、店のスタッフがコーヒーメーカーでいれてくれます。
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ドリンク系も以前と違って、サントリー「ウーロン茶」以外にも、ローカル製品で甘くないお茶も買えるようになりました。
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アサヒやキリンなどの日本ビールも普通にあります 
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つまみ系も充実しているので、ホテルに帰って缶ビールで一杯のお楽しみもできるのはうれしい。
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④イートインが大繁盛!

上海のコンビニで特筆すべきことは、イートイン・スペースが充実していることです。特に朝と昼どきはイートインが大繁盛! 出勤前に小さなイートインで肉まんと豆乳の朝食をすませるというのは定番だそうです。
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昼もオフィスに帰って弁当を食べる人も多いですが、イートインのテーブルはほぼ占拠され、食堂のようなにぎわいです。
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どこでもそうだとはいえませんが、最近の上海の日系コンビニのイートインは広めで、日本のコンビニと変わらない清潔な店が増えています。日本でもイートインは増えていますが、もともとは台湾で古くから普及していて、4年前くらいから上海でも採用されるようになったそうです。
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その背景には、上海市の条例で屋台などが消え、中食の提供先がコンビニに移ってきていることもあるようです。実際、上海のコンビニでは、朝と昼の売上が高いそうです。

いまや上海コンビは、屋台に代わる中食ステーションとなりつつあります。これだけ豊富なPB商品が安価で提供されていることも大きいです。弁当は1個10元台なので、飲み物を買ってもレストランで食べるより割安です。だから、イートインがにぎわうのです。

もともと中国人は冷たい食事を好まないと言われていましたが、コンビニ弁当でもチンすれば普通に食べる時代になっているのですね。もちろん、これはあくまで経済先進地域であり、しかも味付けなどの食文化が比較的日本に近い上海の事情で、中国の他の地域ではまず当てはまらないことも知っておく必要があるでしょう。
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by sanyo-kansatu | 2016-04-09 13:35 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2016年 03月 28日

日本より進んでいる中国ECサービス 支えているのは誰か?

「上班买, 下班收 当日达, 当日用(出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える)」。
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3月中旬、上海の地下鉄車両内で見かけた中国のECサイト「天猫」の広告のコピーです。これは単なる煽り文句ではありません。いまの上海では、ECによる宅配サービスが社会に浸透していて、文字通り、「出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える」状況が実現しているからです。

上海の地下鉄には、ホームも通路も車両内も、さまざまなECサイトの広告であふれていて、政府広報を除くと、かつては大半を占めていたアップルやサムソン、高級ブランド系などの海外メーカーの広告よりも数の上では多そうです。7割がたそうではないでしょうか。

たとえば、これは「京東商場」(JD.com)というECサイトの広告です。
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またこれは「1号店」(Yhd.com)というサイトです。
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なかでも圧倒的な広告スペースを誇っているのが「天猫」です。3月はちょうど長い春節休みが終わったばかりの時期だったため、「新学期向け」商品の割引をうたう広告が出ていました。
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全車両「天猫」でラッピングされた地下鉄も走っているほどです。
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「天猫」とは、中国最大のネット企業「アリババ」が運営する越境ECサイト「天猫国際(Tモールグローバル)」のことです。
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天猫国際(Tモールグローバル)
https://www.tmall.com/

「越境EC」については、先週発売された日経ビジネスの以下の特集で次のように説明されています。

個人輸入を含む、国境を越えて商品が取引されるECのこと。中国では、政府がECを使って海外製商品の個人輸入を促進する枠組みを2013年から段階的に制度化。一般貿易と比べて税率が低い、個人輸入の際に課せられる「行郵税」が越境ECにも課せられる。

越境ECサイトの運営会社が上海の自由貿易試験区などの「保税区」に倉庫を設置。そこに海外製商品を在庫し、ECサイトからの注文に応じて中国内の消費者に出荷する。海外から個別に消費者に直送する場合と比べて、保税区の倉庫への一括納入で輸送コストを抑えられる。中国国内の倉庫から出荷するため、配達時間も短縮できる。

課税逃れの並行輸入業者を締め出したり、品質の悪い中国製品に対する消費者の不満をガス抜きしたりするために導入されたと言われる。リスクは突然の税率変更。実際、2016年4月から一部の商品について税率が引き上げられると言われている
」(p30)

日経ビジネス2016.03.21 特集「100兆円市場 中国にはネットで売れ」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/031500264

つまり、いま上海では「天猫」を使えば、日本のドラッグストアで販売されているような商品などが、ECで手軽に購入できるというわけです。

同誌の特集では、中国のEC市場のランキングを載せていますが、「天猫」を運営するアリババが「2位以下を圧倒」しています。
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こうした中国のECビジネスの盛況ぶりについて、コンパクトにまとめられている記事をネットで拾ったので、全文を紹介します。筆者はジェトロの研究員です。

ECビジネス普及で再編期到来 中国流通業界の戦略とは(2015年12月19日 大西康雄(日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・上席主任調査研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5758


中国で流通業界再編の新しいうねりが起こっている。その直接的な契機となったのは、第1にインターネットの普及=ECビジネスの急成長である。

マクロ経済統計では、製造業が軒並み不振な中、全社会小売総額は二桁増を続けているが、その内容を見ると、デパートやコンビニ、スーパー、専門店など伝統的小売業態の売り上げ増加率は次第に低下している。

これに対してインターネット小売市場(Eコマース)売り上げ額は前年比で40%以上の急増ぶりを示し、15年上半期の売り上げ額は1兆6140億元で全商品小売額の11%となった。中でも携帯電話などの移動通信デバイス使った移動Eコマースがその4分の1近くを占めている。

第2には、消費者行動の大きな変化がある。特に都市部では、日用品に至るまでネットで注文するというライフスタイルが日常の光景となりつつある。

再編の間接的契機となったのは流通業界自身が、消費需要の把握や業態の近代化で出遅れたことである。確かに家電などの量販店、コンビニなどの先進国型業態が急速に普及したが、規模拡大で利益額を拡大する旧態依然な戦略が主流を占めてきた。消費者の要求が多様化する中で利益率が縮小し、15年上半期には、大手小売企業101社中42社がマイナス成長となった。

業界の対応は様々だ。第1は、店舗数縮小による「損切り」タイプの対応で、健康・美容商品の採活(VIVO)、高級スーパーOleなどを展開している華潤グループが代表例である。

第2は、逆に経営悪化の他店を買収し規模拡大を図るタイプで、チェーンストア大手の北京物美グループがその代表例。同グループは、廉美、新華百貨、江蘇時代スーパーなどを傘下に収め、売り上げを伸ばしている。

第3は、Eコマースを取り入れた新業態を模索するタイプで、これは上記の例を含め業界全体で採用されている。ネット上に取扱い商品を展示し、実体店舗にその実物を置いて消費者に体験させ、注文を受けると宅配で届けるというO2O(Online to Offline)方式はその典型例である。すでにウォルマートは「速購」、華潤は「e万家」というサイトを立ち上げている。

中国の世界に例を見ない規模で進む都市化や消費の高度化は止まることがない。流通業界の挑戦も終わることはないであろう。


ここでも、中国の都市部で「日用品に至るまでネットで注文するというライフスタイルが日常の光景」となっていることが指摘されています。

それが可能となった背景には、アリババが提供する「支付宝(アリペイ)」やテンセントの微信(WeChat)に組み込まれている「微信支付(ウイチャットペイメント)」などの決済サービスの普及があります。
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中国では国際的なクレジットカードを持っている人は多いとはいえませんが、こうした独自の決済サービスを広めたことで、ECの利用が日常化していったわけです。

コンビニなどはもちろん、ジュースの自動販売機などでも一部対応しているのを見かけました(これは余談ですが、上海では日本のように街中に販売機はほぼ置かれていませんが、地下鉄駅構内やホームにのみ置かれています)。
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しかも、その普及ぶりは、海を越えた銀座のドン・キホーテでも使えるほどなのです。

銀座のドンキ、LAOXに徹底対抗!価格以外でも負けません!?
http://inbound.exblog.jp/25347932/

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実際、上海人の「ライフスタイル」にECは定着していて、高価な外国製コスメや靴、電化製品だけでなく、お弁当やトイレットペーパーなどの日用品まで宅配で届けられているようです。

それを実感する場面として印象的だったのが、上海の知り合いに案内してもらった大学で、学生寮のそばにECで購入した商品を受け取るための特設施設があったことでした。中国の大学生は、基本的に寮住まいです。1部屋に数人が共同生活している環境です。ところが、豊かになった彼らは、ECを使って日常的に買い物をしているのです。
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その大学は、毛沢東の像がいまも鎮座する華東師範大学でした。女子学生が多いことで知られる名門大学です。
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さらに、「饿了吗(おなかすいた?)」というサイトがあり、これは市内のどこにいても近所の飲食店からお弁当や飲み物などを宅配してもらえるECサービスです。今回知人のオフィスを訪ねたとき、このサービスでお弁当を宅配してもらって、一緒に食事をしました。これは中国国内の他の都市部でもかなり普及していて、いまや中国は「出前パラダイス」といえそうです。

饿了吗
https://www.ele.me/home/

同じような話は、前述の「日経ビジネス」の特集でも書かれていました。

上海市の高級住宅地に住む専業主婦の滕綺達さん(45歳)の自宅には、1日に7~8回、宅配便が届く。段ボール箱の中身は、洋服から生活用品、家電から生鮮食品まで様々。どれも滕さんがECで購入した商品だ。

滕さんは11歳と7歳の2人の子供を育てている。忙しい生活の合間にも、スマートフォンを使ってアリババやJD.comなどのECサイトで買い物ができる。中国のECでは、既に5割強はスマートフォンなどのモバイル端末経由の購入。2019年にはこれが7割に達する見込みだ。支払いには、アリババの「支付宝(アリペイ)」などの決済サービスを使用。現金で物を買う機会はほとんどないという。滕さんは、「そのうち、リアルの店舗なんてどこにもなくなるんじゃない」と笑う
」(p30)

この記事は、海外事情をよく知らない読者向けの、ある一面のみを調子よく取り上げた印象がぬぐえませんが、エピソード自体はいまの上海では特別なことではありません。

冒頭の「出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える」状況というのも、彼らが自分の勤めるオフィスに日用品の宅配を届けてもらっていることと関係あります。日本ではこうしたプライベートを職場に持ち込むようなことはちょっと考えにくいですが、彼らはそういうことを“気にかけない”文化といえます。つまり、そのような人が職場にいても、他人事として受け流すのが中国人社会なのです。これも中国でECが普及する背景のひとつでしょう。

こうしたことから、いまの上海では(中国では、とまではいえません)、日本に比べてはるかにECが身近なものとなっていることがわかります。

でも、話はそこで終わりません。

こうしたEC化の過度の促進は中国のリアル経済にとって良いこととはいえないと指摘する声は多いと聞きます。実際、前述のジェトロ研究者の記事でも「デパートやコンビニ、スーパー、専門店など伝統的小売業態の売り上げ増加率は次第に低下している」と指摘しています。ECがもらたす市場環境の変化から、これら巨大な売り場を必要とする業態が苦戦しているというのは世界的な現象ですが、中国は2000年代以降、いわば国を挙げた「不動産立国」と化してハコモノを量産し、GDPを増やしてきた国ですから、現状のように、全国どこでも高級ショッピングモールが閑古鳥という状況は、やはり心配なわけです。マクロ経済が不振となった根本的な問題が解決されているのではないからです。

それに、今回上海のECサービスのさまざまな便利さを体験し、その実情を垣間見てきたぼくがいちばん感じたのはこれです。

いったいECサイトで注文した商品を誰か運んでいるのか?

そりゃそうです。社会が便利になるためには、誰かがそれを支えているわけですから。そしてそれは、宅配便のバイク兄ちゃんたちなのです。 

実際、いまの上海の路上は、バイク便だらけです。彼らの多くは、建設労働が一段落したこの都市に居残ったと思われる上海戸籍を持たない地方出身者であることは間違いないでしょう。なぜなら、驚くほど安価でバイク便が運営されているからです。

この写真を見てください。いったい一度に何個の荷物を運ぼうとしているのでしょう。
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中国のECサイトを見ると、宅配手数料はわずか5~15元(100~200円)程度です。それで、利益を上げるためには一度にひとりが多くの荷物を運ばなければならないでしょう。ちなみに、日本のバイク便の料金相場をネットでみると、距離や重さで細かく料金が分かれていましたが、上海の10~30倍です。もちろん、ひとり1個が基本でしょう。人間ひとりの人件費で考えれば当然のことです。
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もちろん、中国にはたくさんの宅配業者があり、バイクだけが荷物を運んでいるわけではありません。問題はバイク便の彼らがどのような雇用条件で働いているかです。
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日本でもアマゾンの躍進は宅配手数料を引き下げています。しかし、それがどこまで可能かは、結局、荷物を運ぶ人たちの労働環境がどこまで担保されるかにかかっていると思われます。

それを考えると、中国のような地方出身者を外国人労働者同然に使える特異な階層社会でしか、現在上海で実現しているようなECサービスはありえないのでは、と思ったのも事実です。彼らのやることなすこと、持続可能性がどこまで考慮されているのか。それとも、彼らの存在はドローン宅配便が実現化するまでの時間つなぎということなのでしょうか?


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by sanyo-kansatu | 2016-03-28 09:52 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)