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カテゴリ:のんしゃらん中国論( 41 )


2013年 02月 27日

いくらお金があっても水と空気は買えない。さあ、どうする?

中国の深刻な大気汚染問題が、2013年に入ると堰を切ったように報道されるようになりました。さすがに中国政府も、環境悪化にともなう国民の健康被害の懸念を隠し通せなくなったということでしょう。

おそらく最初の報道は、以下のニュースサイトに転載された人民日報の記事と思われます。

2013年1月13日(レコードチャイナ)
限界突破!観測不能レベルの大気汚染に=各地で濃霧・大気汚染の報告

「12日、人民日報は記事『中国各地で濃霧が発生、大気汚染は観測限界を突破』を掲載した。河南省の一部では空気品質指数が最悪となる500を表示。観測限界を超えた汚染となった」。

人民日報がこう報じているわけですから、中国政府も覚悟を決めたと考えていいようです。この報道以後、中国の大地の広範囲を含むエリアを「有毒」の大気が覆っている事態も明らかにされるようになりました。

ここ数年、秋冬シーズンに北京に行くと、わずか1週間かそこらの滞在でも、ぼくは必ず喉をやられて、長く咳が止まりませんでした。北京に到着した翌朝にはすでに喉が腫れて痛み出すのです。帰国後も気管支炎を患い、翌年春先まで咳が止まらないというひどい年もありました。体質的に喉が人より弱いせいですが、カナリヤみたいなもので、ぼくは北京の空気の悪さを誰よりも感じている人間のひとりです。

例の肺がん物質を多く含むという濃霧のため、北京空港の視界が悪くなり、飛行機の離着陸が不能となって帰国を延期しなければなかったこともあります。

中国メディアの記事を翻訳して掲載するニュースサイトの「レコードチャイナ」で「大気汚染」を検索すると、同サイトがオープンした2006年から今年2月下旬までの間、約300本の記事が出てきました。それをざっと見る限り、大気汚染問題は6年前から少しずつですが、警鐘を鳴らされていたことがわかります。ただし、少なくとも昨年までは、中国当局はそれを大っぴらには認めようとはしませんでした。特に北京オリンピックが開催された08年当時は、海外メディアとのいじましいほどの論争が繰り広げられていました。以下、ざっとこの6年間の「大気汚染」をめぐる記事を追ってみましょう。

■2006年
12月21日
大気汚染がひどいアジアの都市ランキング、北京がワースト1―北京市
「大気中に含まれる汚染物質の量は、北京市が1立方メートルあたり142ミクログラムで、アジアで最も汚染がひどい都市と分かった」。

■2007年
6月3日
大気中の二酸化炭素濃度が観測史上最悪に!進む大気汚染
「6月1日、中国気象局は北京をはじめとする中国4か所での大気分析の結果を発表した。大気中の二酸化炭素濃度が観測史上最悪の数値を記録した」。

7月1日
北京五輪 世界新記録樹立は不可能、大気汚染が選手に悪影響!―海外医療専門機関
「6月30日、来年の北京五輪に参加する各国選手に北京市の深刻な大気汚染が健康面で何らかの悪影響を及ぼすため、世界新記録の樹立は不可能とドイツの週刊誌が報道、問題になっている」。
 ★このあたりからオリンピック開催と大気汚染の影響がささやかれ始めます。

8月5日
大気汚染を改善し緑のオリンピックが実現か⁈ 環境対策になんと2兆円近く投入―北京市
「8月、五輪まであと1年と迫った北京市では、累計で1200億元(約1兆9000億円)の巨費を投じて、環境問題を改善するプロジェクトを推進中だ」。
 ★当然中国政府はオリンピックへの影響をかき消そうとしています。

12月14日
<北京五輪>大気汚染悪化なら競技日程変更も、IOC発表―中国 
「大気汚染が問題視される北京、改善が見られなければオリンピックの競技日程の変更もあり得るとIOCが発表した」。

■2008年
3月13日
<北京五輪>「世界中の参加選手が、北京の空気に満足」=楊外相が会見で反論―中国
「12日、中国の楊外交部長は記者会館で、『北京五輪に参加する世界中の選手のうち、大部分は北京の空気の質に満足している』と述べた。先日「大気汚染」を理由に五輪のマラソン競技不参加を表明したエチオピア選手に対する反論」。

7月9日
汚染物質排出データを発表、北京市が減少幅最大に―北京市
「7日、『07年度の各省・自治区・直轄市及び電力各社に対する汚染物排出量に関する調査』が終了したが、全国で排出量の減少幅が最大は北京市だった」。

7月12日
大気観測データに外国メディアから疑問―北京市
「10日、外国メディアから北京の大気観測データの信頼性に疑問が出ている」。

8月1日
オーストラリアは開会式にマスク着用せず―北京市
「31日、北京五輪まであと1週間に迫った選手村で、オーストラリア五輪委員会(AOC)のジョン・コーツ委員長は、『開会式にはマスクを着用しない』方針を明らかにした」。

8月7日
<マスク着用>「侮辱や挑発を意図していない」、米選手4人が謝罪―中国
「6日、北京五輪に参加する米の自転車競技選手4人が、前日に北京空港へ到着した際マスクを着用していた問題で、『北京五輪や中国国民に対する侮辱や挑発ではない』と五輪関係者と中国人に対して謝罪を行った」。
 ★五輪開幕以後、大気汚染報道は出てこなくなりましたが、中国の面子とからんだ不可思議なニュースがちらほら出てきます。外国人がマスクをしたから中国を侮辱しているだなんていいがかりじゃない? 当局だけでなく、中国の国民もこの問題に神経質になっていたことがうかがえます。

8月31日
五輪閉会、早速大気汚染が復活!汚染指数110に―北京市
「29日、明報が伝えたところによると、五輪が終わってわずか5日で、大気汚染指数の悪い日が出現した。28日、北京の空気汚染指数は110となり、軽度汚染の天候となった」。
 ★さすが香港メディア。五輪が終わると汚染も復活と一撃しています。

10月10日
中国の大気汚染、元凶は「粗悪な石炭」利用の発電に―米メディア
「7日、中国の大気汚染を引き起こしている原因は廉価で粗悪な石炭を利用した発電にあると米国MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームが発表した」。
 ★このあたりからようやく大気汚染を自明のこととして原因解明(ただし海外メディアを利用した)が始まります。

■2009年
2月11日
<重度汚染日>今年初、旧正月の花火・爆竹で―北京市
「10日、旧正月の最後を飾る元宵節を迎えた9日、北京市でも多くの爆竹や花火による祝砲が打ち上げられた結果、今年最も深刻な大気汚染が発生したことがわかった」。
 ★ついに春節の爆竹と大気汚染の関係が取りざたされるようになってきました。

2月22日
肺がんによる死亡、30年間で1800万人に達する見通し―中国
「20日、米ハーバード大学公衆衛生大学院がまとめた報告書によると、2003年から2033年までの30年間で、中国では8300万人が慢性閉塞性肺疾患や肺がんで死亡する恐れがあるという」。
 ★大気汚染と肺がんの発生が関連づけられました。ただし、この時点では海外からの指摘です。

6月24日
灰色の空、当局の認定は「軽度の汚染」=米大使館発表の「非常に危険」と大違い―北京市
「6月18日、北京市は灰色の霧にすっぽりと覆われた。今年の4月、5月は珍しくも青空指数が高かったが、視界すら通らないような霧を前に北京市の大気汚染が悪化しているのではとの声もあがっている」。

6月30日
空気は「良好」それとも「危険」?米大使館と市政府、食い違う測定結果―北京市
「6月、北京の米国大使館が発表している大気汚染測定値が注目を集めている。18日には微小粒子状物質PM2.5の観測量が最悪レベルの危険域に達したという」。
 ★ついに中国当局と米国大使館との大気汚染論争の勃発です。

9月6日
中国の汚染に関する情報公開度・透明度が徐々に向上―米メディア
「2日、米メディアは中国各都市の環境汚染に関する情報公開度が改善してきていると報じた」。

10月20日
北京の大気汚染、改善は進んでいるがまだまだ不十分―米紙
「17日、ニューヨーク・タイムズは『北京の大気汚染状況は改善されたが、まだまだ不十分』と題した記事を掲載した」。
 ★なぜかこの時期、米国側から北京の大気汚染対策の改善を評価する記事が出ています。ちょうど世界が中国の大規模な景気対策を持ち上げていた時期に重なる気も。

■2010年
3月27日
<外国人が住みやすい都市>シンガポールがアジア首位、北京は大気汚染が影響し100位
「25日、国際人材コンサルティング企業ECAインターナショナルが行った調査で、シンガポールが11年連続で外国人にとって最も住みやすいアジアの都市に選ばれた。北京は大気汚染が影響し、100位止まりだった」。

9月7日
大気汚染、全国2割の都市で深刻、自動車が主因と政府が発表―中国
「5日、中国環保部科学技術基準局の責任者が、2010中国自動車産業国際発展フォーラムで講演を行い、中国の都市のおよそ5分の1で大気汚染が深刻となっていることを指摘した」。
 ★自動車数の増加と大気汚染の関連を中国環境部の幹部も指摘し始めました。

10月12日
年間の新車販売台数、米国の過去最高記録を上回る1700万台へ=渋滞、大気汚染も激化へ―中国
「10日、今年1~8月中国国内における自動車販売台数が前年比39%増の1200万台近くに達し、年間では米国の過去最高記録を抜く1700万台の大台が射程距離に入っている」。
 ★リーマンショックからのすばやい立ち直りを世界が評価し、自動車販売台数も米国を上回ったものの、深刻な副産物が発生していることを、ついに中国メディアでも報道し始めました。

12月6日
<大気汚染>過去5年で最悪の状況に!万博終了による規制解除が主因―上海市
「11月30日、上海万博期間中実施されていた多岐にわたる規制が緩和あるいは解除されたため、上海市の大気汚染が万博終了後わずか1カ月の間に過去5年間で最悪の水準になったと英メディアが報じた」。

■2011年
2月25日
測定不能レベルの大気汚染=米大使館が北京市の汚染にコメント―米大使館
「2月23日、環球時報は記事『米大使館発表=北京の空気は汚すぎて測定できない』を発表した。21日、北京市で深刻な大気汚染が観測されたが、米大使館は『危険、測定不能なレベル』と伝えている」。

10月14日
北京の「空気の質」が警戒レベル超え、米大使館が独自観測=中国当局は「軽度の汚染」―香港紙
「11日、香港の英字紙は『濃霧に覆われた北京』と題した記事で、米国大使館が発表した北京の空気の質は警戒レベルを超えていたと報じた」。
 ★2010年にはいったん収まっていた、米国大使館の北京の大気汚染宣告が再び開始されました。

11月4日
北京の大気汚染指数は国家基準を20%超えている―北京市環境保護局
「3日、北京市環境保護局の杜少中報道官は同市の空気の質について、浮遊粒子状物質の数値が国家基準を20%上回っていると明らかにした」。
 ★米国大使館の警鐘についに北京市環境保護局も呼応し始めます。

11月11日
<大気汚染>霧に高濃度の発がん性物質、復旦大の教授らの調査で判明―上海市
「10日、中国・上海の復旦大学の研究チームが市内で霧を採取し成分を調べたところ、発がん性や催奇形性の強い多環芳香族炭化水素(PAH)が複数種類含まれていたことが分かった」。
 ★さらに、上海復旦大学の研究者が大気汚染と肺がんを関連付けるデータを発表します。

■2012年
1月5日
健康的?それとも危険?「中度の大気汚染」の中、1万人がランニング―甘粛省蘭州市
「1日、甘粛省蘭州市で、第40回元旦都市ランニング、2012年蘭州国際マラソン・エキジビションが開催された。大気汚染を心配したネットユーザー、保護者からは中止を求める声が上がっていた」。
 ★ついに中国国民の側からも大気汚染による健康被害の懸念の声が上がり始めます。

1月21日
旧正月の爆竹で空気を汚すのをやめよう!「つもり募金」でPM2.5測定機を―中国環境NGO
「20日、中国の旧正月といえば、盛大に爆竹を鳴らして祝うのが習わしだが、空気を汚すという弊害も。そのため、今年は爆竹を控えてその分をPM2.5測定機の購入資金に充てようというつもり募金が呼び掛けられている」。
 ★NGOも春節の爆竹は大気汚染につながるため、控えようとの声も出ます。

2月13日
中国本土とのマイカー相互乗り入れに反対、大規模な抗議デモ―香港
「12日、香港と中国本土とのマイカー相互乗り入れが、早ければ来月から始まることを受け、これに抗議する大規模なデモが香港のビクトリア公園で行われた」。
 ★香港住民も、これ以上車が増えるとさらに大気汚染が悪化すると、中国大陸人の車の乗り入れを反対しました。

6月6日
中国の「大気汚染情報」を勝手に流すのはウィーン条約違反、各国大使館に苦言―中国環境部
「5日、世界環境デーに合わせ、中国環境部の呉暁青・副部長は、中国の空気の質に関する測定と発表は中国政府の管轄であり、各国の在中国大使館などが独自に測定・発表することはウィーン条約に反する行為だと非難した」。
 ★米国大使館との三度目の大気汚染論争が始まります。さて三度目の正直となるのか?

7月23日
<レコチャ広場>金メダル獲得数ではトップ級の中国よ、「国民健康度は世界81位」の現実を顧みよ
「20日、中国北京市社会科学院体育文化研究センターの金汕主任が『米国や日本は高いレベルで金メダルを目指している』と題した記事を中国のブログサイトに掲載した」。
 ★健康度世界81位の現実を直視せよ、とのブログの声も出ます。

11月27日
肺がん罹患率が10年で56%増、女性でも増加―北京市
「25日、2010年に肺がんが北京市に戸籍を持つ男性で罹患率の最も高い悪性腫瘍となっており、女性でも乳がんに次いで罹患率が高くなっていることが明らかになった」。
 ★これは大気汚染と肺がんの関係性を裏づけるかなり決定的なデータです。

■2013年
1月13日
限界突破!観測不能レベルの大気汚染に=各地で濃霧・大気汚染の報告―中国
「12日、人民日報は記事『中国各地で濃霧が発生、大気汚染は観測限界を突破』を掲載した。河南省の一部では空気品質指数が最悪となる500を表示。観測限界を超えた汚染となった」。
 ★「観測限界」を突破! これが転機となったようです。

1月14日
「今後3日間は有毒の霧が発生」の警報!市民は「我々は汚染物質吸い込む人間掃除機だ」と嘆く―北京市
「13日、中国各地で広範囲にわたって有害物質を含んだ濃霧が発生している問題で、北京市の観測センターでは今後3日間はこの天気が続くと予想している」。
 ★さらに「有毒霧」警報。大変なことになりました。

1月15日
北京の濃霧を世界が報道、工業化に警鐘―中国メディア
「13日、『北京市全体が空港の喫煙所のように見える』―ある米国の主流メディアは中国の首都を覆って全世界を驚かせた有害物質を含む狂気じみた濃霧をこう形容した」。
 ★北京の大気汚染が世界中で報道されたことを伝えています。

1月15日
大気汚染が深刻な北京市、有名小児科病院の患者3割が呼吸器系―中国
「14日、中国・北京市ではここ数日の深刻な大気汚染により、呼吸器系の病気を患う人が増加している。なかでも、年配者や子供の患者が目立っている」。
 ★大気汚染の子供たちへの影響がようやく報道されるようになりました。

1月15日
大気汚染都市ワースト10のうち、7都市は中国に
「15日、中国では北京市を中心としてこの数日間にわたり、重篤な空気汚染が発生している。最新の報告では、大気汚染指数で世界ワースト10に列挙された都市のうち、中国から7都市がランクインしている」。 
 ★こうして1月中旬から2月にかけて、いっせいに大気汚染報道が続きます。

1月21日
“北京咳”…北京滞在時だけ発症する呼吸器疾患、外国人在住者が命名
「21日、年初から重篤な大気汚染の状況が報告され、国内外で大きな注目を浴びた北京市。外国人在住者の間では、北京に滞在しているときにだけ発症する呼吸器症状を“北京咳”と呼んでいるという」。
 ★ぼくが北京で患っていたのは北京咳だったんですね。

1月24日
日本の澄み切った青空、大気汚染からどうやって取り戻したのか?―華字紙
「21日、過去に深刻な大気汚染を経験した日本だが、その後短期間で青空を取り戻している。日本はどうやって環境汚染問題に取り組んできたのだろうか?」
 ★日本在住の中国人研究者が日本の大気汚染対策について書いています。ただし、これは在日華人メディアの中文導報の記事です。

1月30日
中国を覆う有害濃霧、日本の国土3倍に相当=北京市は発生日数が1954年以来最多
「30日、中国の有害物質を含んだ濃霧がここ数日再び深刻化しており、日本の国土の3倍以上に当たる約130万平方キロメートルを包み込んでいる」。

2月2日
深刻化する環境問題、中国の奇跡的成長も台無し―米誌
「31日、環境問題で中国政府は大きなリスクに直面することになるかもしれない」。

2月8日
「北京はまるで動物実験の最中」大気汚染で日本大使館が説明会、反省と怒号が入り乱れる中国版ツイッター
「6日、年明けから中国で深刻な大気汚染が広がっていることで、日本在北京大使館が在住邦人を対象とした説明会を行った」。

2月11日
反日よりも命が大事、中国で日本製空気清浄機がバカ売れ―香港紙 
「9日、香港紙アップルデイリーは記事『日本製品ボイコットよりも命が大事、日本製空気清浄機がバカ売れ』を掲載した。日本メーカーは増産、工場操業繰り上げを急いでいる」。

2月14日
<大気汚染>公害を嘆きながら自ら空気を汚す中国人の市民意識―中国紙
「12日、北京晩報は記事『マスクをして花火、爆竹をするとはどのような市民意識か?』を掲載した」。

2月20日
日中が環境保護で協力拡大=日本車の魅力が再確認される可能性あり―日本メディア
「19日、中国はこのほど、大気汚染軽減のために自動車燃料の環境水準向上を決定した。これに対し、日本メディアは『日中が環境保護に関して協力を拡大する可能性がある』と伝えている」。

そして、大気汚染ではないのですが、中国の環境悪化と健康被害を象徴する極め付けのニュースがこれでした。

2月22日
中国当局、環境汚染が原因の「がん村」の存在認める=全国に100カ所以上
「21日、中国には環境汚染が原因でがん患者が多発する『がん村』が100カ所以上存在している」。

さて、この6年間、中国政府が大気汚染問題の所在と責任を認めるに至るまでのプロセスをざっと見てきたわけですが、経済成長と国民の健康被害の甚大さとをどう秤にかけるのか、そのバランスを図るうえでの政府としての確固とした理念や原則があったようには見えないことが残念です。

この間、オリンピックや万博など、世界に胸を張って自らの偉大さを高言するための数々の国家イベントや、リーマンショックによる世界経済の低迷を尻目に、果敢な景気対策で評価を上げたことなど、彼らの自尊心を喜ばせるに足る輝かしい側面があったものの、そこで手に入れた面子がかえって邪魔をして、大気汚染問題の公表や対策に遅れをもたらすことにつながったのだとしたら、やりきれない気がします。

いずれにせよ、中国が人の住めない土地になってしまったら元も子もないわけで、これまで避けてきたこの重く厄介な問題に対して、この国の人たちがどう向き合おうとするのか、注視していくほかありません。

いくらお金があっても水と空気は買えない。そのことに、いまようやく中国の人たちは気がつき始めたようです。
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by sanyo-kansatu | 2013-02-27 12:13 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2012年 05月 10日

「中国版ツイッター微博の底力」(ダイヤモンド・オンライン)

ダイヤモンド・オンラインで「中国版ツイッター微博の底力」というコラムを書きました。


1)ユーザー数は3億人超! ウェイボー(中国版ツイッター)は、なぜこれほどまでに加熱しているのか?

2)AKB前田敦子の卒業宣言への反応は? 中国人は日本について何をつぶやいているのか。

3)ウェイボーはビジネスに使えるのか? 資生堂、JALなど先行企業に学ぶ意外な活用法
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by sanyo-kansatu | 2012-05-10 12:54 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 15日

日経NBonline 「NBO新書レビュー」

中国に関する書籍が巷にあふれる時代です。さすがに、そろそろ一服という感じもしますが、こんなにたくさん出版されたのは、ちょっと唐突ですが、もしかしたら日中戦争の頃以来ではないでしょうか。

昭和10年代は、支那(中国)モノの出版点数がひとつのピークを迎えた時代といえます。大陸では戦闘行為が続いていた一方で、国内では支那文化の魅力を紹介したり、「日支親善」を提唱したりするなど、中国理解のための多彩な書籍が数多く出版されていました。

これに気づいたとき、最初は意外な気がしましたが、日中の人的交流が深まる時代になると、日本人は「中国とは何か」「中国人とはいかなる人たちなのか」と問わすにはいられなくなるのだと思います。

自分は読書家とはとてもいえませんが、中国関連の本やたまに観る映像作品などについて、気になったことをちょこちょこ書いてみたいと思います。

日経NBonline「NBO新書レビュー」
同サイトの書評コーナーで、以前中国関連の新書について少しだけモノ申したことがあります。

2008 年当時、ぼくは北京オリンピック開幕式における究極の時代遅れともいうべき、演出された国威発揚の光景を見てしまったことで、中国の独善的なナショナリズムに対する強い生理的な拒絶反応が高まっていたようです。その嫌悪感はいまも変わりませんが、中国の国情、そして彼らの生きる時代に対する理解も一方で深める必要があると感じています。

それなりに幸せな「格差社会」~『不平等国家 中国』 園田茂人著 中公新書
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080619/162798/


オリンピックは早すぎた
『変わる中国 変わるメディア』 渡辺浩平著 講談社現代新書



「中国を信じる」「信じたい」「信じさせてくれよ…」
『加油(ジャアヨウ)……!』 重松清著 朝日新書



「誠意が“分からない”」人と付き合うには
『日本と中国──相互誤解の構造』 王敏著 中公新書

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by sanyo-kansatu | 2011-11-15 19:47 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 15日

「職場の人間関係学:なぜ中国駐在1年内に「心の危機」が起きるのか」

プレジデント2011年3.7号
「中国人の操縦術:もし彼らが突然「上司」「部下」になったら」


プレジデント2011年 7月 4日
「職場の人間関係学:なぜ中国駐在1年内に「心の危機」が起きるのか」

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by sanyo-kansatu | 2011-11-15 19:36 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 07日

なぜメイドインジャパン好きの中国人がメイドインチャイナの骨董を高値で買うのか?

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ここ数年、中国人が日本に中国骨董を買い集めに来ているという。世間でいう中国人の消費が経済効果につながるという話とは無縁に思えるが、実はけっこう大きなお金が動いているらしい。いったいどんな人たちが、どこで何をしているというのだろう。あれほどメイドインジャパン好きといわれる中国人たちが、今なぜメイドインチャイナの骨董に血眼になっているのか?

王義之の模写が40億円で落札

2010年11月23日、中国嘉徳国際拍売有限公司(以下、中国嘉徳)が開いた北京のオークション会場で、教科書にも出てくる東晋時代(4世紀)の書家、王義之の書『平安帖』の模写が約40億円(3億800万元)もの高値で落札された。

競売元である中国嘉徳は1993年創業の中国最大のオークション会社。天安門事件で失脚した趙紫陽の娘として知られる王雁南氏が総経理を務める。同社が扱うのは、中国の書画(近現代絵画も含む)や陶磁器、工芸品、家具、古籍、古銭、玉類など。カタログを見ると、骨董以外で競売にかけられるのはプーアル茶や茅台酒など多岐にわたる中国伝統産品だ。出品のうち4割は海外から集められたものだといい、その収集のため、上海、天津、香港、台北、ニューヨーク、そして07年から東京銀座に事務所を置いている。

今中国では中国骨董の価格が急騰している。リーマンショックの影響を受けた09年はさすがに少し落ちたが、翌年すぐに回復した。中国嘉徳の年間成約額は09年の約340億円(27億元)から10年の約950億円(75・5億元)へと3倍にふくれあがった。そのうち1点の落札額が10億円を超えたものは4点、1億円を超えたものは76点を数えた。中国全体の骨董および美術品市場の10年の取扱高も、前年の2倍以上の約7200億円(573億元)とされ、今後も拡大が見込まれるという。中国のオークション市場の規模は年々拡大し、07年にフランスを抜き、今や米英に次ぐ世界3位となっている。

中国のテレビでも最近はご当地版「お宝鑑定団」が人気だそうだ。冒頭の高額落札も、バブル崩壊前の1987年に安田火災海上がヨーロッパのオークションでゴッホの『ひまわり』を58億円で落札したことをどこか思い起こさせる話である。これだけ価格が急騰しているのだから、海外の中国骨董を買い集め、自国に持ち帰り、高値で売り抜けようとする中国人が現れても不思議ではないのだ。
 

中国人が日本の骨董市場を下支え

こうしたことから数年前より日本の骨董業者の間では、中国文物の発掘や売買が盛んになっている。この1、2年で多くの骨董団体が各地で中国骨董専門のオークションを開催した。そこに駆けつけるのは、中国人の骨董買い出しツアー団である。

昨年から東洋美術骨董フロアを特設し、中国骨董の委託販売に力を入れ始めた東京銀座のアンティークモール銀座の中村みゆき代表取締役は、昨年12月6日に「第1回中国骨董オークション」を開催した。会場には日本の骨董商やコレクターの他に、これに合せて来日した中国からの参加者50名などを加え、約100名が集まった。3時間で約200点の中国骨董が落札されたが、9割が中国人によるものだったという。

中村氏はもともと西洋骨董が専門だった。
「バブル崩壊以降、低迷を続ける日本の骨董市場の中で、今元気に動いているのは中国モノばかり。そこで3フロアあるうち1フロアを東洋専門にしたんです。以来、中国の方がよくお見えになるようになった。モノを見る目は十分ある人たちばかりです。古くから中国との交易の歴史がある日本は中国文物の宝庫といえる。中国骨董の里帰りが始まったんだと思います。昔から中国モノを扱う骨董業者も、表向きは中国人には売らないと言っているけど、オークションがあるとこっそり出品したりする。日本の骨董市場は今や中国人に下支えされているといっていい」

買う側も熱心なら売る側だって市場の動きに敏感だ。中国嘉徳東京事務所では、一昨年から年に数回中国より専門の鑑定士を呼び寄せ、日本国内に眠る中国文物を鑑定するための中国美術相談会を開いている。今年1月14、15日に開かれた相談会には、全国から約200名の所蔵家が中国の書画や陶磁器、銅鏡などを持ちこんだ。まるで今、秘蔵の品を「お宝鑑定」して高く見積もってもらうなら中国に限るといわんばかりである。同社はそのうち約2割を引き取って3月の北京でのオークションに出品することになった。

骨董ビジネスは経済合理的

中国との骨董商い20年以上のベテランで、上海に骨董店『草月堂』を開いている田川信也氏は、中国人骨董買い出しツアーについてこう語る。

「数年前から日本でのオークションに合わせて中国人がツアーでやって来るようになった。個人コレクターもいるが、彼らの大半は商売人です。なぜ彼らが中国骨董をあんなに高値で買うか? そんなの投機に決まってる。中国でもっと高値で売れるからですよ」

ツアーの中には、東京や横浜、大阪、金沢、福岡などの骨董商やオークションめぐりをするものもある。1回に300名規模の大きなオークションがあると、10億円以上の成約額に上ることもあるという。「でも、北京の嘉徳オークションでは1日にその10倍の成約額が出ていますからね」と田川氏はいう。

1980年代から香港経由で中国にある日本の古切手や古銭を買い出しに行き、日本のコレクターに売っていた田川氏だが、2000年前後から中国で骨董の値段が上がり始めたことを知る。まず掛け軸、そして陶磁器が上がり始めた。そのうち日本人相手より中国人相手の商売のほうが儲かり始めたので、05年に上海出店を決意した。

中国では骨董が役人などへの贈り物に使われることが多いため、贈賄目的か投資のためかというのが、資産運用には縁のない一般中国国民の認識だといわれるが、田川氏は中国の骨董ビジネスはきわめて経済合理的な原理で動いているという。ここ数年上昇基調の骨董価格の値動きも、03年頃上海の不動産価格が一気にはね上がったとき、値を下げているし、05年頃の株高のときは、掛け軸の値段が急に下がったという。これだけGDPが伸びているのに株市場は精彩を欠いたままだし、不動産投資を抑制する中国当局の動きが強まった10年になって骨董価格が急騰したのも、これまで不動産や株へ向かっていた投資資金の一部が骨董市場に流れたのだという説明はわかりやすい。今年上海と重慶で始まる固定資産税の試験的導入で、不動産価格や骨董市場にどんな影響が出てくるのか、興味深いところである。

愛国心オークション事件 

もっとも、中国人の骨董ビジネスにロマンのつけ入る余地などないというのは言いすぎだろう。日本の骨董関係者らの話で共通するのは、彼らの官窯好みである。宮廷で使われていた絢爛豪華な逸品が好きなのだ。このあたりは李朝の器などを好む渋好みの日本人とは、基本的に違っている。人気は明清時代の陶磁器。どの皇帝の時代に作られたかによって値段が変わる。皇帝の権力が強い時代ほど品質も高いとされるためだ。鑑定ではもっぱら製造年や場所、職人をめぐって議論が起こる。明清モノが多いもうひとつの理由は、中国国家文物局が遺跡からの発掘や盗掘品はオークションにかけるのを禁止しているため、宋以前の古いものは出品されることが少ないからだという。

骨董が純粋にビジネスだけの話にならなくなる背景に、中国政府の対応がある。戦乱や内乱に明け暮れた近現代の中国は、貴重な文物が海外に大量流出した。欧米列強の略奪や考古学調査団の持ち出しに加え、密輸も頻発、一時期は常態化していた。そのため近年海外に流出した中国の文物の還流に力を入れており、明らかに盗掘品であるものに対しては、外交ルートを通じて返還を要求している。流出の経緯が不明でも、海外の所蔵者に対価を払って取り戻すことさえ始めている。

こうしたなかで起きたのが、09年春の中国人オークション落札代金未払い事件だ。「円明園愛国心オークション事件」とも呼ばれる。朝日新聞2009年2月3日付によると、「1860年に英仏連合軍の略奪に遭った清朝の庭園『円明園』から海外に持ち出された十二支動物像のうち、ネズミとウサギの銅像の頭部が2月下旬にパリでオークションに出品されることになり、北京の弁護士85人がネット上で競売の中止と中国への返還を求める発表をするなど、中国で反発が高まっている」。銅像の所蔵者はデザイナーの故イブ・サンローラン氏で、遺産相続人がクリスティーズに出品したものだ。2月中旬の中国外交部定例記者会見では、劉暁波氏ノーベル平和賞受賞のときも強硬に反対を唱えて物議をかもした女性報道官の姜瑜氏が「英仏による略奪」を主張していたことから、中国政府もこの問題に乗り出そうとしてくるのかと思われた。

事件は2月25日、ある中国人が計3140万ユーロ(39億円)でそれら2品を落札したものの、「略奪された文化財に金を払うつもりはない」と代金支払い拒否を言い出したことから始まった。この人物は福建省のオークション会社社長の蔡銘超氏で、海外に流出した文化財を取り戻す活動を行う民間組織の顧問だそうだ。ネットに転載された写真を見る限り、細面の気の弱そうな人物である。政府の後ろ盾もあるとふんで臨んだ挑戦だったに違いないが、中国国内でも賛否両論を巻き起こした。

ところがである。中国文学者の中野美代子氏が岩波書店の『図書』09年7月号に寄稿した「愛国心オークション」という一文に以下の記述がある。

「これら十二支動物像は、マーロンが撮影した1930年前後までは、北京近郊に健在していたのだ。その頭部を切断し、骨董市にはこび売ったのは、中国の民衆である。皇帝の悦楽のためのみに西洋人宣教師たちがつくったものを破壊し、売却することは、当時の民衆としては健全ないとなみでなかったろうか。(中略)それがいま、『愛国心』のために、いくばくかの歴史的価値しかない十二支動物たちのあたまに、なん億円、なん十億円というべらぼうな高値をつけているのである」

つまり、中国政府の主張する十二支動物像が1860年英仏連合軍に略奪された「屈辱の象徴」というのは史実にあっていない。おまけに銅像所蔵者から「中国が人権を認めるなら返還してもいい」といわれる始末。こうなるとおっちょこちょいの蔡氏以上に、史実もわきまえず返還を訴えた姜瑜報道官のほうがお気の毒さまという気もしてくる。 

こうした経緯を意識したせいだろうか、東京事務所を通して中国嘉徳に筆者が行った「中国の骨董が国際相場に対して高いのはなぜか」という質問に対する回答の中に、わざわざ「価格の高騰は中国人の愛国心によるものではない」という記述があったのである。

自作自演的な価値釣り上げか

筆者は他にも中国嘉徳に対して以下のような質問を送っている。「中国人にとって中国骨董はどんな価値があるのでしょうか。また海外から『国宝回流』することは、中国人にとってどんな意味があるのですか」。その回答はこうだ。

「中国の文物芸術品は中華文明の結晶であり、重厚な歴史的価値、学術的価値、文物的価値を有する。中華文化の継承、保護、発展にとって重要な意義を持つ。海外の文物を還流させることは国内の芸術品市場の活発化につながるほかに、もっと重要な意味は海外還流文物の鑑賞、研究を通して、歴史的視野を広げ、文化、歴史の研究を深めることである」

いかにも今日の中国的な公式見解である。それを頭から否定するつもりはないが、むしろ朝日新聞09年2月17日に掲載された中国の作家、余秋雨氏へのインタビューの中で述べられた「正統」という観念をめぐる葛藤こそが彼らの心情に近いのかもしれない。同紙の「中国政府が文物を重視するのはなぜか」という質問に対して余氏はこう答えている。

「国共内戦時に国民党が文物を持ち去った背景には中華文明における『正統』の観念がある。重要な文物が手にあれば正統性を証明できる。戦いの勝ち負けはこの世の常。しかし文化は永遠の存在だ」

それにしても、今日の中国の骨董ブーム、自国出自のモノにしか関心がないというところがいかにも中国人らしい。高邁な理念を語る人物がいる一方で、それをぶち壊しにする輩が必ず現れるところもそう。中国の民間骨董業者と日頃つきあって彼らの商売のやり口を見ている前述の田川氏にいわせれば、「愛国心なんて方便。嘉徳だってトップは共産党幹部。元締めは党なんですから」ということになる。

もともと骨董の買戻しブームというのは、80年代後半のオリンピック景気にわく韓国にもあったそうだし、バブル時代の日本にもあったことはよく知られている。ただ日本人の場合は、中国人のように「奪われたものを取り返せ」という認識はあまりなさそうだ。幕末の薩摩藩などがせっせと陶器を輸出していたという面もあるからだろう。 

こうしてみると、骨董の値を釣り上げているは、今日の中国人の「自国の歴史はスゴイと思いたい」というある種の信心と、それが実利につながるゆえの自作自演的な熱狂のように思えてくる。ではなぜ骨董なのか。中国人の歴史的文物への傾倒は筋金入りであることは認めるけど、こう言っちゃあなんだが、当人たちもメイドインチャイナの現代文化に誇れるものがなかなか見つからないからでもあるだろう。

ただ、彼らを見ていてちょっとつらい気がするのは、「中国はこれまでずっと屈辱を受けてきた」といい続けなければならないような歴史認識だ。こういうのがよっぽど自虐史観ではないかと思う。だから中国経済が興隆すると、その裏返しで「本当の俺たちはスゴかったんだ」と言いたくてたまらないのである。

こういう屈折が、今日の中国人の文化に対する態度も含め、海外から見て好意的に評価されにくい理由のひとつになっていると思う。だって普通に考えれば、本来価値のあるものは、きちんと保管され、公開されているのであれば、どこにあってもかまわないではないか……。少なくとも今日の大方の中国人はこれに承服しないだろう。

結局のところ、これからも中国骨董は売ったり買い戻されたりを繰り返していくのだろう。その品が広く価値を認められる限り。そういえば、昨年9月から中国当局は日本から持ち込まれる物品の関税を強化し始めている。高く売れるうちに売ってしまえ、というトレンドはそれでも拍車がかかるのだろうか。

いずれにせよ、インバウンドで中国客を迎えるということは、こういう実に面倒くさいメンタリティの持ち主たちをお客さんにするのだということをキモに銘じておかなければならないのである。

「データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン」(洋泉社)2011年3月刊行より
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by sanyo-kansatu | 2011-11-07 15:47 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 07日

ツアーバス運転手は見た! 悲しき中国人団体ツアー

2011年2月3日、中国の旧正月にあたる春節の夜。尖閣事件以降、鳴りを潜めていた中国人団体ツアー客を乗せた貸切バスが、久々に大挙して新宿歌舞伎町界隈に姿を現し、周辺を回遊していた。

彼らはたいてい夕方5時から6時頃に歌舞伎町に集結し、乗客を降ろす。「アジア最大の歓楽街」を散策し、夕食をとるためだ。日本側のランドオペレーター(宿泊や移動、食事などの手配を請け負う旅行会社)が送り込んだガイドを先頭に、格安中華チェーン店か在日中国人の経営する中華料理店(ツアー客専用で一般客入店不可)でバイキングメニューの食事をすませると、路上に繰り出す客引きを横目に歌舞伎町の裏道を練り歩き、ドンキホーテやマツキヨあたりで雑貨買いを楽しむのが相場だ。時間があれば、向かいのヤマダ電器に行くこともあるが、別日程となることが多い。ホテルに早くチェックインしなければならないからだ。

靖国通りに乗りつけるのは、60名乗りの大型バスから8名乗りのマイクロバスまで種類はいろいろ。そこでは当然路駐はできないため、客を降ろすとバスはすぐに移動する。でも、都心の繁華街だ。駐禁エリアから逃れるのは容易じゃないが、運転手たちもプロである。いくつか近場の路駐可能なポイントを知っていて、そこで気長にガイドからの携帯の呼び出しを待っている。その間2時間から長くて3時間半を超えることもある。

それは運転手にとって唯一の憩いのひとときだ。話し相手でもいればなおさらである。そこで、春節の夜、歌舞伎町周辺某所に路駐していた貸切バス運転手、岡本次郎さん(62仮名)を訪ねることにした。マスコミの報じる百貨店や家電量販店での爆買いシーンを通して、いまや「低迷する日本の消費市場が頼みとする救世主」とまで持ち上げられた中国人客――その多くを占める団体ツアーの一部始終を目撃してきた岡本さんに「バスの中で何が起きているか」を聞くためである。

食事はいつでもバイキング

岡本さんは首都圏に本社を置く貸切バス会社の社員運転手で、ドライバー暦35年のベテランだ。インバウンド――日本人客ではなく、訪日外国人客を乗せるようになったのは1990年代半ばから。当時は台湾客がメインだったという。その後、東アジアや欧米などさまざまな国籍の観光客を乗せて全国津々浦々を駆けめぐってきた。

バスを訪ねると、前部扉から招き入れられ、運転席に座ったままの岡本さんに話を聞いた。

――今日は一日どこを走ってこられたのですか。明日からの予定は?

「今日は午後2時の便で成田入りした上海からの客でね、浅草を散策した後、歌舞伎町に来た。あとは品川の高輪プリンスに送って終わり。今日の客はけっこういいホテルだね。明日は山梨の石和温泉。途中箱根を通り、富士山を見て、御殿場アウトレットに寄って温泉旅館に泊まる。河口湖の近くは中国人専用の宿が増えたからねえ。この季節、あのあたりの旅館じゃ中国客にカニを食わせるんだよね。中国人好きだから。それから先は(ツアーのスケジュール表を見ながら)いったん東京に戻って自由行動の1日があり、そのあと岐阜市内と大阪のホテルに泊まって関空へ」

山梨県といえば、中国人にとって最大の観光ハイライトである富士山の裏庭に位置することから、訪日中国人客の取り込みに熱心なことで知られるが、昨年9月の尖閣諸島漁船衝突事件(以下、尖閣事件)に端を発した中国人客キャンセル続出に見舞われたばかり。なかでも前原誠司国土交通大臣(当時)も一役買った観光庁のトップセールスで受注した中国のネットワーク販売会社大手の宝健(中国)日用品有限公司の1万人規模の社員旅行のドタキャンは、山梨県の宿泊業者を直撃した。さらに宝健社長が記者会見まで開いて行った「愛国キャンセル」表明が、中国に強硬だとされる前原外相へのあてつけだとみなされ、中国側では「よくやった」と喝采を浴びたという後味の悪い結末も記憶に新しい。

――食事はいつもどうしているのですか。ツアー客とは別?

「地方に出ると同じホテルに泊まるから、食事は一緒だけど、はっきり言ってひどいね。いつでもバイキング。せっかく日本に来てるんだから、もっとましなものを食わせてやればいいのにと思うよ。でも仕方がないんだよね。予算の上限が昼は1000円、夜は1500円と決まってるそうだから」

――先ほど山梨の旅館ではカニを出すと…。

「あれは冷凍ズワイガニ。どうせロシア産だから。中国にはワタリガニしかないそうで、足の長いズワイガニが珍しいんだよ。よく家族連れがカニの足を広げて手に持って記念撮影してるよ。かわいいもんだね。たまに回転寿司とかしゃぶしゃぶの店にも行くけど、食べ放題メニューさ。客が頼めば刺身盛りを出すこともあるけど、中国人ってのは団体でもみんなに分けたりしないで、頼んだ連中が自分だけで平気で食べてる。そういうのはみんなオプションといって、別料金なんだよ。

ただこのオプションってのがクセモノでさ。刺身盛りの2000円くらいのを1万円といってガイドが徴収している。ステーキ屋に行って『これは神戸和牛だから2万円』とか。もうやりたい放題なんだ。

だからといって口出しもできないしね。だいたい中国語がわからないし。あとでガイドが日本語で話してくれるんだ。『今日は儲かった』とかいって、チップを余分にくれることもたまにある」

――そういうのは中国ツアーのおいしいところでしょうか。

「バスで待ってるときの食事代や駐車料金、高速代などをまとめて2万円。必要経費だし、たいした金額じゃないよ。申し訳ないけど、中国人は下品ってのかなあ。床にガムを吐き捨てるし、ヒマワリの種を撒き散らすし、ゴミの量も1日45リットル2袋は出るからね。ホテルに送り届けて車庫に戻った後、明日に備えて車内掃除を念入りに1時間以上かけてやらなきゃならないんだから」

バスの中ではもっぱら車内販売

――運転中バスの中はどんな様子ですか?

「車が走り出すと、すぐに車内販売が始まる。観光案内もそこそこに、ガイドが客にあれこれ売りまくるんだけど、とにかく客に好かれるように媚を売りまくってね。そのくせ客が買わないとイライラして喧嘩ごしになってくるのがわかるから、こっちも気が気じゃなくて」

――どんなものを売っているんですか。

「それがひどいんだよ。日本じゃ見たこともない活性炭入り携帯清浄機ってのかな。どう見てもバッタモンを日本製だと偽って7000円とか、1000円くらいにしか見えない安物の磁気ネックレスやブレスレットを2万円とか……。日本人も身につけているからと証明するために、事前に俺に『これはサクラだからちょっと着けてみて』って。おい悪いけど、俺をサギの仲間に入れるんじゃないよって断ったことがあるんだ」

こうした悪質な車内販売に加え、特定のボッタクリ免税店への連れまわしの実態は、都内で発行されている在日中国人向け週刊新聞「『東方時報』(2009年6月25日付)で報じられ、中国の大手メディア『北京法制』にも転載されたことから、日本ツアーの内情と悪評が中国全土に広まり、「日本よ、お前もか」と現地でも反響を呼んだ。

すでに中国メディアで告発された問題なのに、なぜ自浄能力が働かず、車内販売という名のサギ行為が横行しているのか。

「中国人客はあまりガイドを疑わないようなんだ。外国にいるから仕方ないと思うのかね。ガイドがアメと鞭で客を操っているとでもいうのかな」。岡本さんは首を傾げるばかりだ。

90年代に起業した在日中国系ランドオペレーター勤務の女性はこう話す。
「銀座に連れていって、ショーウインドーを見せて、『ほら高いでしょう。でも、私は同じブランド品をもっと安く買える店を知っていますよ。着いてきますか』。そういって契約した店に連れて行くというのが彼らのやり方です。外国で頼りになるのはガイドだけ。その心理をうまく利用して、客を信用させてしまうのです。中国では同じものが別の場所で驚くほど安く売られているのはよくあるので、日本も同じだと思って騙されてしまうんです」

オプション買わなきゃ置き去りも

ツアー中に起きている異常事態は、それだけではない。

「とにかく信じられないようなことをするんだよ」と岡本さんが声を荒らげたのが、前述したオプションをめぐるガイドと客の壮絶な駆け引きだ。

「見てるとなんでもオプションなんだ。新幹線の大阪京都間のチケットも8000円、ディズニーランドも1万円徴収といったぐあい。アコギだよなあ。中国側で払うツアー料金には何もついていないからと、とにかく上乗せして客から金を取る。観光地だってオプションにしちゃうんだから、呆れちゃう。たとえば、富士山5合目なんてバスでみんなを連れていきゃいいものを、3000円のオプションで別料金を請求し、払わない客は麓の富士山ビジターセンターにわざわざ置いてきぼりにするんだよ。3時間ここで待ってろと。そこは無料施設だから金はかからないんだけど、置いてきぼりにされた中国人客が増えすぎて、問題になったことがある。忍野八海だってオプション払わないと連れていかない。親子連れをさ、途中で置き去りにして……、とても見ちゃいられない。『乗せてやんなよ』って俺は言うんだけどさ。ガイドが『いいから』と」

「オプション買わなきゃ置き去り」というガイドの冷酷さに岡本さんは頭を抱えているようだ。

実はこれにも前例がある。東南アジアや香港行きの中国人ツアーで土産屋の連れ込みを拒否した客の置き去り事件が、数年前から中国でも報道されている。怒った客とガイドが喧嘩になって、傷害事件が発生したこともある。前述の『東方時報』では、上海からの日本ツアー参加者にヒアリングを行い、5000元(6万円)の低価格ツアーの参加者が、日本でオプションと称してツアー代金と同額に近い追加料金を次々と取られたことを告発している。日本では傷害事件までは耳にしないものの、客の置き去りがすでに常態化していたことを今回岡本さんの話で初めて知り、愕然とした。

これではバスの中は、非情な中国社会そのものではないか。

「だからなのかなあ。韓国ツアー客のおばちゃんたちは食事から帰ってきたとき、俺に『食事はすんだのか』と片言で話しかけてきたり、自然な交流ってのがあるんだけど、中国人客とはそういう感じにはほとんどならないなあ」と岡本さんはいう。

これまで新宿界隈でもよく中国人ツアー客の一群を見かけたが、どこか目つきが挙動不審というか、他国の旅行者に比べ和やかな印象がないのはどうしてかと思っていた。海外旅行慣れしていないこともあろうが、バスの中でこうしたことが起きているのだとしたら、無理もないのかもしれない。

キックバックを原資としたコスト構造

それにしても、なぜこんなことになってしまうのか。運転手の日本人ひとりを除いて、ここで起きているのは「中国人が中国人を騙す」という構図である。中国の民間社会の実情を少しでも知る人にとっては、それほど驚く話ではないかもしれないが……。

「でもさ、ガイドだけを責められないと思うよ。旅行業者が彼らにそれを強いているんだから」と、岡本さんはいう。

そのとおりなのである。なぜ中国団体ツアーのガイドが、オプションと車内販売で客から金を騙し取らなければならないのか。日中の複数の旅行関係者らの証言をまとめると、真相はこうなる。

中国で販売される一般的な「ゴールデンルート」と呼ばれる東京・大阪5泊6日のツアー代金は6000元(約7万円)相当。ところが、中国側の旅行会社から日本の手配を担当するランドオペレーターに渡るのは、往復航空券代と営業利益を差し引いたせいぜい2000元(2万5000円)という。これでは滞在中のホテル代、バス代、食事代、ガイド費用を捻出できるわけがない。ではどうしているかというと、それを埋め合わせるためのガイドによるオプション徴収と車内販売、客を送り込むことで得た免税店の売上の一部のキックバックなどの収入がランドオペレーターに渡るからだ。その売上がなければランドオペレーターはホテルやバス会社、レストランへの支払いができないからである。

つまり、中国団体ツアーはガイドによるキックバックを原資に成立しているのだ。なんともあやうく、ギャンブルみたいなしくみである。中国人ツアー客がある日目覚めて、オプションも車内販売も買わなくなれば崩壊してしまうだろう。

こうしたカラクリは、1990年代の一時期、日本の旅行会社が中国や東南アジア方面への驚くような激安ツアーを催行したとき、似たような構図として見られた。あらゆることがキックバックを前提として成立している中国人社会を知った当時の日本の業者は客を丸投げしたことは確かである。だから、現在の中国団体ツアーのキックバック方式も、当時の日本の旅行業者と同じでいまさら彼らを責められないという指摘も出てくる。キックバックは日本社会にだって蔓延してるじゃないかという指摘ももっともだ。しかし、当時の日中間には厳然とした物価や所得水準の格差があり、ツアーのコスト構造を埋め合わせるためにキックバックの上がりを関係者が分け合うにしても、授受される額は今日のケースとは違うことを忘れてはいけない。しかも日本は円高になったが、人民元高は起きていないのである。誰が今日の被害者かを考えるべきだろう。その後、日本人客が現在の中国人団体ツアー客のような理不尽な土産店への連れまわしや車内販売で騙されることがなくなったのも、日本人の海外旅行が成熟し、消費行動が変わったためだ。

もっと具体的にいおう。関係者らの証言を集約すると、ガイドは1日1名約1万円の通称「人頭税」をランドオペレーターに支払うことでツアーを請け負っている。彼らはガイド代を受け取るどころか、支払う側なのである。たとえば、20名の客が5泊6日の場合、100万円(20×5)が上納金となる。当然ガイドはそれ以上の上がりを手にしなければ大損になるが、それ以上なら自分の儲けになるから、車内販売に賭ける必死さが違ってくるのである。

これまでガイドの国籍については触れなかったが、彼らの多くは、在日中国人や香港、台湾からわざわざ自腹で訪日し、ガイドを請け負う人たちでもある。いまさら彼らの通訳案内士としての国家資格の有無を問うのはむなしい。彼らは中国本土出身者とは違い、日本にはノービザ渡航が可能という特典を有効活用しているのである。業界では彼らのことを「スルーガイド」と呼ぶ。

採算度外視の激安日本ツアーがなんとか成立しているのも、こうしたギャンブルに賭ける中国系スルーガイドと、このしくみを定着させた新興ランドオペレーターがいるからだ。もちろん、その前提には、上がりを生み出す中国人ツアー客の驚くべき爆買いニーズがある。よくしたものである。

こうした状況をよく知る北京のある現地旅行業者はため息混じりにこう話す。

「なにしろ中国では国内の海南島3泊4日ツアーより東京・大阪5泊6日ツアー料金のほうが安いんですから。ありえないでしょう。理由ははっきりしています。海南島はビーチリゾートなので、キックバックがもらえる家電量販店もないし、車内販売するためのバスの移動時間もないからです」。

岡本さんは、最後にこんな話をしてくれた。

「いちばんかわいそうなのは、結局、中国のツアー客だと思うよ。いろいろ悪口言ったけどさ。中国人ってよくバスの中で吐くんだよね。毎日過密スケジュールで、バスばっかり乗って移動してるからなのかもねえ……」

なんとも涙ぐましい話になってきたではないか。しかし、これは日本で実際に起きていることである。唐突だが、消費者庁はこの問題をどう考えるのだろうか。訪日客による消費を期待するだけではなく、消費者としての保護についてもっと真剣に考えなければならないのではないか……。

背景にバス規制緩和も

しかし、キックバックを原資にしたあやういツアー構造を支えているのは、中国系関係者ばかりではない。日本側の事情こそ指摘されなければならない。端的にいえば、客室単価の崩壊が起ころうとも数で中国客を受け入れる道を選んだ一部のホテル・旅館業界。日本人のアウトバウンド市場の低迷で経営基盤が揺らぐ航空業界。そして、岡本さんたち運転手を抱えるバス業界である。

2000年、貸切バス事業が免許制から許可制に規制緩和されたため、それまで違法経営を行っていた「白バス」業者が一気に新規参入した。以後、貸切バス業界は大競争時代に突入。都市間高速バスや激安国内バスツアーなどの価格破壊によって利用者は恩恵を受けたが、既存のバス事業者の収益低下によるローカルバスの廃止や、運転手の労働環境の悪化、安全確保への不安など、多くの問題が指摘されている。

なかでも2010年9月に総務省が公表した「貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」は、スキーバス過労運転による死傷事故や都市間高速バスの道路交通法違反問題などの事例をあげ、貸切バス規制緩和後の不健全な営業実態を追及しており、本来の監督官庁である国土交通省がなしえなかった意欲作といえる。

規制緩和後に起きたのは、貸切バス事業者と車輌数の増大にともなう公示運賃をものともせぬダンピングの横行だった。インバウンド貸切バス事業者もこうした流れの中で成長した。この10年で東アジアを中心とする訪日観光客が増大し、その追い風を受けて貸切バス需要が拡大したためだ。実際のところ、規制緩和後の価格破壊がなければ、今日の訪日ツアー客の受け入れは不可能だったかもしれない。

そのしわよせは、岡本さんら運転手の労働環境の悪化につながっている。2008年に国土交通省から出された「一般貸切旅客自動車運送事業に係る乗務距離による交替運転者の配置」の指針により、1日の走行可能な距離が670kmと定められた。その結果、運転手の拘束時間の延長は既成事実化していったという。運転手の1日は、早朝の出庫前に行なう車両点検から客をホテルに送り届けたあとの掃除まで、と深夜におよぶ。現場の思いはどうなのか。岡本さんに尋ねてみた。

――労働時間が長すぎるとは思いませんか?

「1日の時間もそうだけど、去年の8月までは本当に休みもなかった。だから、尖閣で中国客が減って正直ホッとしていたんだよ。ただこのご時世だから、仕事があるだけありがたいと思わなきゃならないしね。俺はなんだかんだいって、この仕事が好きなんだと思うよ」

――でも何か困っていることはないですか?

「そうねえ、悩みのタネは駐車場問題かな。これだけ外国人が観光に来てるのに、都心には駐車場がない。だから、俺たちはいつもウロウロしてないといけないんだから。それと、よく地方でホテルの食事がすんだあと、『夜の街へ繰り出したいから運転手さん連れてってよ』ってガイドに言われることがあるんだ。でも、自分は行かないことにしている。仲間内にはチップをもらえば、どこにでもバスを走らせるという連中もいるようだけど、所定のコースでなければ保険が利かないからね。もし事故ったら終わりなんだよ、この仕事は」

バスツアーと保険の適正化――これも看過されがちだが、インバウンド市場の健全な成長のためには欠かせない課題だ。バス運転手は職業柄、どこか自由人のようなところがあるが、岡本さんのような場数をふんだベテランほど自己防衛の必要を理解しているのだろう。

アジアインバウンドの時代に向けて


――ところで、昔に比べてインバウンドの仕事はどうですか?

「昔はインバウンドといえば、台湾客のことだった。以前は台湾客もひどかったけどね。いまはだいぶおとなしい。韓国ツアー客も中高年のおばちゃんはうるさいけど、これは日本のおばちゃんも変わらないかな。まあ中国以外は車内販売がないからいいね。よく韓国やタイのガイドが、中国のガイドは大変だと言ってますよ。あんな仕事はガイドじゃないって……」

日本におけるアジアインバウンド市場は、1979年台湾の日本観光解禁とともに始まったといっていい。80年代から台湾のインバウンド客を扱ってきた台湾系旅行業者は、「当時インバウンドは嫌われ者だった。日本人客の少ないオフシーズンのホテルの穴埋めのような存在で、『白バス』が当たり前。いまのように、全国各地で歓迎されるなんて考えられなかった」と語る。

一方、中国の日本観光解禁はそれに遅れること約20年後の2000年12月だ。

「これには我々在日アジア系旅行業者も色めきたちました。なにしろ市場は大きい。これから本格的なアジアインバウンド時代が始まる。これまで市場を担ってきた我々の出番だと」

だが、彼らの思惑は数年後に破綻する。中国団体ツアーの常軌を逸した価格破壊のためだ。

「2000年の解禁当時1万8000元(約20万円)で始まった東京・大阪ゴールデンルート7泊8日の日本ツアーが、わずか1年後に半額近くなり、3年後には3分の1になった。この時点で我々は正攻法では中国客を受け入れられないため、手を引くしかなくなった」

ツアーのカラクリについてはすでに説明したとおりだが、2005年頃までには一部の高品質ツアーを除く中国団体ツアーのランドオペレーター事業から、まず日本の旅行大手が手を引き、既存の在日アジア系もそれに続いた。では誰が急増する中国団体ツアー客を引き受けたのか。それは2000年代以降、在日中国人経営者らを中心に立ち上げられた新興ランドオペレーターだった。

こうして一部を除く大半の中国団体ツアーは、日本の旅行業界にとってのアンタッチャブルと化していく。一方、急増する中国人観光客の家電量販店での爆買いシーンが08年頃からマスコミで盛んに取り上げられるようになり、地方自治体や小売業界などを中心にチャイナマネーの取り込みに向けた機運が高まった。その盛り上がりが空前の勢いを見せたのが2010年だったといえるだろう。しかし、その機運も秋には尖閣事件によって冷水を浴びせかけられ、今日に至る。

さて、これから中国団体ツアー市場はどうなるのだろうか。確かに、円高は懸念材料だが、今後は徐々に回復を見せるだろう。だが、本当の課題は、価格破壊によって事実上破損してしまった日本ツアーのクオリティをいかに向上させるかである。

前述の在日中国系のランドオペレーター勤務の女性はこう主張する。

「こんなツアーなら、日本は1回行けばもうたくさん。団体ツアーで来た中国の友人や親族が口々に日本の悪口を言うのが悔しい。なぜ車内販売を取り締まらないのか。日本の行政は野放しにすぎる。数を増やすことばかり考えているからではないか」

確かに、国土交通省が掲げる訪日客3000万人の数値目標に象徴される旅行者数至上主義は、国内の観光産業の実情を知る現場の立場からすると、受け入れ態勢の伴わない時代遅れのそろばん勘定に見えても仕方がないかもしれない。

では、クオリティ向上のためにはどうすればいいのか。利害の絡み合う関係業界すべてに都合のいい特効薬などないが、本稿で詳述してきた「バスの中」の事情をふまえ、アジアインバウンド時代に向けた以下の提言をしたい。

キックバックを原資とした、どう見ても不健全なコスト構造で成り立つ日本行き中国団体ツアーの実情や中国客の蒙る不利益を、中国側にとことん公開し、被害者は中国人消費者であることを広く認識させること。残念ながら、「中国人を騙しているのは中国人である」という構図は、これまで香港や東南アジアで続出してきた状況を知る彼らは、よくわかっていると思う。ただ、そういう話を外国人からされるのは誰でも気分が悪いものである。彼らに冷静な判断を迫るには、日本における訪日客の消費者保護を強化、アピールすることで、彼らの自尊心に訴えかけることだろう。そのうえで、現在の団体ツアーとはまったく異なる高品質の日本ツアーが存在することをわかりやすくアピールすることが必要だ。これよりほかに、ツアー料金の適正化を図っていく手はないのではなかろうか。

そのためにも、尖閣事件でいったんケチのついた中国での外資旅行会社のアウトバウンド解禁は、早く進めてもらわなければなるまい。中国当局もそれが中国人消費者の保護につながることを理解してほしいものだ。

「データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン」(洋泉社) 2011年3月刊行より

[追記]
これは2010年当時の中国団体ツアーの実態です。その後、「悲しい」状況も一部改善されている面があります。

中国「新旅游法」も元の木阿弥―キックバックを原資としたツアー造成変わらず
http://inbound.exblog.jp/24166349/

(2015.2.22)
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by sanyo-kansatu | 2011-11-07 14:45 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 06日

LCC、海外ドラマを呼び込め!めざすは「東アジアグローバル観光圏」! 地方空港サバイバル奮戦記

航空ジャーナリストの谷川一巳氏は2010年10月上旬、茨城空港発春秋航空で2泊3日の上海旅行に出かけた。渡航費用は、事前のネット予約による航空運賃8000円(片道4000円×2)、燃料サーチャージ4300円(片道2150円×2)、茨城空港の旅客取扱施設利用料500円、上海虹橋空港使用料1200円、カード決済の手数料420円。合計14420円しかかからなかったそうだ。

「乗り心地は、確かにシートのピッチは狭い気はするけど、3時間ちょっとのフライトだからね。機内食は有料だけど、レンジでチンするインスタント軽食で500円。別にそれでかまわないじゃない」

世界の空港事情や航空旅行に関する著作も多い谷川氏はそう話す。

地方空港のほとんどが赤字

片道4000円の激安運賃で話題を呼んだ中国のLCC(ローコストキャリア=格安航空会社)、春秋航空が初めての国際線として乗り入れを決めたのが、2010年3月に国内98番目の空港として開港した茨城空港(小美玉市)だ。

「ただね、LCCの乗り入れでなんとかカッコがついたようだけど、空港経営としては現在の乗り入れ数では成り立たないのが実情だと思う。これは茨城空港に限った話ではない。現在全国のほとんどの地方空港が赤字といわれる。空港が黒字を出すために必要な一定以上の発着数をどこもクリアしていないから」。谷川氏は手厳しい現状認識を付け加えるのを忘れなかった。  

2010年10月、羽田新国際ターミナルがオープンした。24時間運用のメリットを活かし、昼間は韓国や中国、台湾など東アジアへの短距離路線、深夜・早朝は欧米や東南アジアなどへの中・長距離便が就航。そのひとつの目玉がアジアを代表するLCC、エア・アジアXの就航だった。成田空港も09年10月のB滑走路の延伸で航空機の発着回数を増やし、中東系エアラインなどの初就航が相次いだ。羽田と成田の「首都圏デュアル・ハブ」時代の到来と、近年首都圏の空はにぎやかな話題に彩られている。 

その一方で、地方空港のほとんどが赤字という明暗が気にかかる。航空ジャーナリストの杉浦一機氏は『100空港時代を生き残れ』(中央書院)の中で、地方空港総崩れの理由として戦略なき野放図な空港づくりがあったことを、このように説明している。

「(地方空港急増の理由は)グランドデザインのないままに、地域ごとに空港整備を行なったためだ。鉄道や道路への投資では経済の刺激にならなくなった地方公共団体が、空港整備に目をつけ、1980年代から地元出身の国会議員を総動員して陳情に走り、国と運輸省(当時)に圧力をかけた。明確なビジョンを持たない運輸省は調整に苦慮し、86~90年度の第5次空港整備5カ年計画では『1県1空港主義』を掲げた」

その後も懲りずに踏襲された「場当たり的」「画一的に進められた空港整備」が事態を悪化させ、今日に至っているというわけだ。

あまりにお寒い航空行政の罪状を本稿ではこれ以上触れるつもりはない。気が滅入るだけだからだ。そんなことより、地方空港がサバイバルのために取り組み始めた施策とその行方を見ていきたいと思う。これらは近年各地で盛んになってきたインバウンド振興の動きとも連動している。はたして禍転じて福とできるのか。

日韓のオープンスカイ協定

その前に、日本の地方空港を取り巻く新しい動きを確認しておきたい。2010年12月、日本と韓国はオープンスカイ協定を結んだ。「国際線は二国間協定で便数を平等に飛ばす」という原則を韓国との間のみ撤廃し、空港が受け入れられる限り、自由に飛ばせるというルールを両国が採用したことを意味する。これは日本の地方空港にとっては願ってもない話といえる。今後はチャーター便をはじめ両国の民間機が自由に往来することができるからだ。

かつて地方空港は、首都圏や関西圏からの大量の入込み需要を前提に増設されたが、90年代以降、その期待は大きく裏切られることになった。しかし、それは発想の転換を進めるための好機と見なすべきだろう。なぜなら、日本の地方都市は首都圏頼みから脱却して、東アジアの近隣諸国の大都市圏=ソウル、プサン、北京、上海、台北、香港まで含めた人の流れを視野に入れた施策を考えなければならない時代になったことを意味するからだ。こうした状況を「東アジアのグローバル観光人口」の増大というが、近隣諸国の経済成長によってそれもすでに現実のものとなっている。つまり、今日の地方空港は海外の大都市圏から人を呼び込める状況を作り出すことが、生き残りの道といえるのだ。だが、それはどうすれば可能なのか。

「実際のところ、経営の厳しい日系エアラインには地方から国際線を飛ばす余力はない。国内線も増便や新規乗り入れもあてにできないいま、地方空港にとって海外からの国際線乗り入れの期待は大きい。そこで注目されているのがLCCなのだろう」と前述の谷川氏はいう。

はたして地方空港にとってLCCは救世主となるのか? 以下中国を代表するLCC、春秋航空の乗り入れに成功した茨城空港の事情を見ていくことにしたい。

上海便が堅調な茨城空港

JR常磐線石岡駅を午前10時35分に発車した関鉄グリーンバス「茨城空港」行きの車内には、12名の乗客がいた。留学生風の若い女性と男性、ビジネスマン風数名、日中カップルらしい中年の親子連れ3人組など。樹脂製ハードタイプではなく、中国で一般的な布製の大きな黒いスーツケースが並んでいることから、途中下車した地元のおばあさん2名を除くと、ほぼ全員が中国人だとわかる。彼らは13時55分発の春秋航空上海便の乗客だと思われる。

当初はJR東京駅から直行バスで向かうつもりが、1週間前でも予約が満席だったため、JRと路線バスを乗り継ぐことになった。茨城東部の田園風景をバスはのんびり走る。35分後、空港到着。ターミナルビルの前には1300台収容可能な無料駐車場が広がる。ロビーに入ると、アシアナ航空ソウル便と上海便に分かれて搭乗手続きをするツアー客であふれていた。

エスカレーターで2階の送迎デッキに上がると、轟音が周囲を貫いた。茨城空港は航空自衛隊の百里飛行場との共用空港だからである。空港パンフレットには「このため、通常の空港に比べ整備にかかる事業費が低く抑えられています」とある(建設費用は約220億円、そのうち茨城県の負担は3分の1)。長さ2700mの2本の滑走路が並行しており、空軍機と民間機に分かれて利用する。数分おきに飛び立つ空軍機は迫力満点で、近郊の家族連れや老人などの見学する姿が見られた。面白いのは、送迎デッキの正面を仕切るガラスが、目の前の民間機の発着の様子は見えるのに、向かって左側の自衛隊基地方面を向くと磨りガラスになって見えないしくみになっていることだ。

現在、茨城空港には2つの国際線と神戸、中部、新千歳への3つの国内線が就航している。空港ビル管理事務所によると、国際線の搭乗率は毎日運航のソウル便が70%以上、週3便の上海便が80%以上と堅調だという。見学者も含めた空港来場者は1月末時点で81万人を超えた。

茨城県空港対策室の根崎良文課長補佐によると、「開港にあたって成田や羽田のある首都圏で自らをどう差別化し、位置づけるかが課題だった」という。

多くの議論を経て採用されたのが、セコンダリー空港(第二空港)というコンセプトだった。それはヨーロッパのLCC大手ライアンエアーが発着コストを抑えるために、ヒースロー空港ではなく、ロンドンの第二空港であるガトウィック空港や第三空港のスタンステッド空港を利用していることから、茨城空港を首都圏のセコンダリー空港と位置づけ、新規航空会社に乗り入れを募るということだ。構想から開港にこぎつけるまでに20年を費やしたこともそうだが、近年の国内航空需要の低迷や大手航空会社の経営悪化による不採算路線の廃止、新幹線網の拡大など、空港を取り巻く環境が著しく変わったことを根崎氏は痛感していた。こうしたなかで、世界の航空市場におけるLCCの台頭をどう理解すべきか検討した。一般にLCCに共通する特徴は以下の5つの点とされる。

①保有機材を1機種に絞り、整備コスト等を削減
②機内サービスを有料化
③短・中距離を中心にした多頻度運航で効率アップ
④着陸用の安いセコンダリー空港(第二空港)を利用
⑤航空券は自社サイトによるネット直販に特化

茨城県は開港にあたって国際線、とりわけ春秋航空の乗り入れのために、「東京に近い」「空港使用料が安い」というセコンダリー空港としてのメリットをアピール。それが功を奏したのだった。 

春秋航空は在日中国人の生活路線

一方、春秋航空側は茨城県の思いをどう受けとめたのか。同社茨城支社の小坂八哉セールスマネージャーに話を聞いた。実は同社にはもうひとつ聞きたいことがあった。堅調と聞く上海便だが、昨年の尖閣諸島沖漁船衝突事件(以下、尖閣事件)の影響はなかったのだろうか。

――本当に尖閣事件の影響はなかったのですか?

「10月に少しブレーキがかかったが、12月には完全回復し、就航以来平均90%の搭乗率を続けています。いまは週3便ですし、180名乗りのエアバスA320型機ですから、毎回40名程度のツアーが3団体もあれば、個人客を合わせると埋まるため、たいしたハードルではないのです」

――では順調な滑り出しといえるのですね。

「実をいうと、週3便ではうちとしてはメリットがないというのが本音です。ご存知のように、LCCは大手エアラインとは収益構造が違う。限られた飛行機を休ませないで、とにかくたくさん人を乗せる。その効率的な運営にかかっているのです。それに現在の月・水・土の並びではツアーがつくりにくい。やはりデイリー(毎日)運航じゃないと」

春秋側が望むデイリー運航に縛りがかかるのは、茨城空港が国営の共用空港だからである。「防衛上の理由」というのが基地側の回答だという。国内には他にも、新千歳空港や小松空港などが共用空港だが、いずれも中国機やロシア機に対する乗り入れ制限がある。

――だとすれば、週3便なのに搭乗率が高いというのはすごいですね。客層は?

「上海便の利用客の9割が中国人です。この中には日本に帰化した人や永住権を持つ在日中国人も含まれます。茨城県側が期待した県民のアウトバウンドはツアーがなかなか集まらないようです。最近では日本人のビジネス利用も少しずつ増えています」

――在日中国人の利用も多いんですね。

「それがどういう意味かわかりますか。つまり、上海便は彼らの生活路線ということなんです。尖閣事件の影響がほとんどなかったのも、そのためでしょう」

春秋航空上海便の利用者は県民ではなく、日本在住の中国人たちの故郷をつなぐ生活路線として機能していた。この指摘は実に興味深い。アジアを代表するLCCのエア・アジアXもまた、マレーシアやシンガポール在住のフィリピン人労働者などを中心に、バス感覚で気軽に乗れる移民労働者向けの格安運賃を売りにして成長してきたからだ。運賃の高さからこれまで航空機を利用しなかった層の新たな需要を掘り起こし、出張の経費管理に敏感なビジネスパーソン需要も取り込むというのがLCCのビジネスモデルである。はからずも県の思惑や構想を超えて、春秋航空上海便はLCCのあるべき姿を体現していたともいえるのだ。

いまや80万人を超える在日中国人の集住統計を見ると、首都圏4都県で43%を占める一極集中型である。それに加えて新潟や東北地方在住の中国人も利用しているそうだ。上海便の成功のひみつは在日中国人の集住地区に近いことが大きいようだ。

小坂氏は「片道運賃が安いところが、在日中国人にとって使い勝手がいいようです。彼らは日本人と違って故郷に帰るわけですから、滞在が長くなる場合も多い。短期の往復航空券ならどこのエアラインでも安いですが、1年オープンになると高い。親族を呼び寄せるなど、大人数での利用もあるので、片道で安いほうがいいんです」という。これもLCCならではの利点である。

LCCの誘致は待っていてはダメ

春秋航空は2004年5月に発足した中国初の民間航空会社で、母体は上海春秋国際旅行社だ。日本でいえば、HISがスカイマークエアラインズを立ち上げたのと同じだが、国内旅行を中心に数多くのチャーター便就航で実績を上げてきた。実は、茨城線も事実上定期化しているが、正式にはチャーター便扱いだ。中国の国営企業とは違い、同社は風通しのいい社風で知られ、幹部会議は上海語で行われるという。自社の幅広い販売網を使って集客できることが強みといえる。

――なぜ春秋航空は初めての国際線の就航先として茨城空港を選んだのですか?

「もちろん、春秋には多くの県からアプローチがありました。こちらも受け入れ側の本気度というか腹づもりを見ています。なかでも茨城はその覚悟が抜群でしたね。知事を筆頭に熱心に誘致を働きかけた結果だと思います。やはりLCCの誘致は待っていてはダメなんです。その気を見せなきゃ」

――なるほど。でも、本当は羽田や成田に乗り入れたかったのではないでしょうか。

「発着料の安さは魅力です。成田に比べ国際定期便で3~5割安、チャーター便は半額ですから。都心へのアクセスも東京駅まで車で約85分が目安。実は成田とそれほど大きく変わらない」

――外から見て日本の外国航空会社の誘致の取り組みについてお感じになることは。

「ただ来てください、というだけでは本当にダメなんです。よく全国の自治体が海外に観光団を送り込み、旅行会社に挨拶まわりなどをしているようですが、航空会社にとっては搭乗率の維持が基本ですから、そうしたプロモーションを垂れ流すより、誘致はここだと決めたLCCへの助成なり、確実な手を打つことのほうが効果的ではないでしょうか。これは春秋の母体が旅行会社だからかもしれませんが、我々は乗り入れ前にダマテンもやっていますよ。本社の幹部がおしのびで現地の観光地やホテルの事情を探りにいくんです。招待旅行では本当の姿が見えないですから。乗り入れる側もビジネスですから真剣なんです」

昨年末、韓国のイースター航空と中国の吉祥航空という中韓のLCC2社が11年3月末に新千歳空港に乗り入れるという一部報道があった。北海道庁空港港湾局に確認したところ、どうやら延期になったようだ。もしこの春乗り入れるとしたら、春秋航空のように、早い時期から激安運賃などのキャンペーンを打つのがLCCの常道であることを考えると、2月現在何の動きもないからだという。新千歳空港は国管理空港であり、新規乗り入れの許認可は国土交通省が行うため、道としても強い働きかけはしていなかったようだ。

航空会社の誘致もそうだが、日本の自治体のインバウンドのプロモーション全般にいえるのは、ただ自分の地域を真っ正直にアピールし、受け入れ態勢の整備を強調するだけで、送客する側のニーズを深く探ろうとする姿勢が足りないことだと思う。日本人はパンフレットや地図を作るのは得意なので、山のように外国語の資料を用意したものの、実際の外国人客のニーズには合っていないため利用されていないとの指摘は多い。こちらが提供できることが相手のニーズにうまく合致するとは限らない。そもそも合致する相手を見つけるのはたやすいことではないのだ。

そもそも春秋航空上海便を支える主な乗客が在日中国人というのでは、地元が期待する中国客の買い物や宿泊需要による経済効果は望み薄となる。実際上海便の中国客の多くが東京方面に向かうという。それは茨城県が掲げたセコンダリー空港としての位置づけからすれば当然なわけで、そこには矛盾があることは県の幹部も承知している。そのうえで、県は茨城に一泊してもらえるようなツアーの造成を中国側、韓国側に働きかけている。

LCCのビジネスモデルからすれば、地方空港よりも豊富な需要が見込める羽田か成田への乗り入れを望むのは当然。それだけに、地方空港へのLCC乗り入れはハードルが高いのが現実だ。春秋航空はこうしたなか、次なる就航地を高松に決めたようだが、在日中国人の集住地区ではない四国という地でどのように集客を図るのだろうか。注目したい。

韓国ドラマのロケ誘致―鳥取県の場合

航空便の乗り入れの少ない地方空港にとって、新規乗り入れ以前に、現状の航空路線の存続が課題である場合が多い。搭乗率の低下を助成金で補い続けたとしても、相手があることだ。先方から運航休止を言い渡されてしまえば、元も子もない。

2007年8月、アシアナ航空からソウル・米子便の運休を打診されたのが鳥取県である。背景には隣県の島根県と韓国とでもめた竹島問題の影響もあったようだ。平井伸治鳥取県知事の働きかけでなんとか運休は食い止めたものの、鳥取県はこれを機にインバウンド振興に舵を切る。

まずは韓国での鳥取の知名度を上げたい。韓国のテレビ局や新聞雑誌、マスコミ記者を県に招待して取材記事を書いてもらうアテンドから始めた。いまはどこの自治体でもやっていることだ。

2009年11月頃、韓国ドラマ『アイリス』を見た韓国の若い世代がロケ地となった秋田県に押し寄せるという「アイリス効果」が話題となった。韓国ドラマの日本ロケは2005年頃から日本各地で行われるようになっていた。2006年の『雪の花』は宮崎、『天国の樹』は東京と長野、08年の『甘い人生』は小樽、『スターの恋人』は神戸、大阪などだ。08年末に上映された中国映画『非誠勿擾(邦題:狙った恋の落とし方)』のヒットで中国での北海道の認知度が急上昇、観光客が急増するというロケ地効果も起きていた。

同じ時期、出張先ソウルのホテルで『アイリス』を見た鳥取県文化観光局国際観光推進課の鈴木俊一主幹は「こりゃヒットするな」と思ったという。スパイもので迫力満点のドラマだったからだ。

秋田県の「アイリス効果」は、ロケ誘致のために自治体が海外の制作会社に支援金を出す最初のケースだった。それまでの韓国ドラマや中国映画は、いわば向こうが勝手にロケ地を選んで、自分たちで制作し、日本各地の魅力を広めてくれていたわけだ。だが、秋田県は大韓航空ソウル便の搭乗率の低さに悩んでおり、鳥取県同様運休を打診されていた。どうせ運航継続のために外国航空会社に助成金を出し続けるくらいなら、思い切って賭けに出てみたい。それが両県に共通する思いであり、秋田の
成功を見て、鳥取はそれにならったということだろう。

とはいえ、ロケ誘致を実現するためには、現地の信用できる制作会社とのコネがなければならない。数年前ある県で韓国制作会社のロケ費用未払い事件が起きている。ドラマは日本人俳優も出演していたが、放映されていない。また10年夏、岩手県は韓国ドラマ『シークレット・ガーデン』のロケ誘致を制作会社側の要求する支援金の高騰で断念している。 

鳥取県は10年1月、韓国のテレビ制作会社が『アイリス』の姉妹編にあたるアクションドラマ『アテナ』のロケ地を日本で探しているとの情報を得た。それはすぐに平井知事に伝えられ、韓国側に誘致を働きかけた。4月には制作会社の下見が行われ、5月にはロケ地が決定。撮影は9月に行われた。実にスピーディな誘致劇だった。

NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の舞台としてなど、数多くの国内ドラマのロケで知られる鳥取県だが、海外ドラマのロケ誘致は初めてだった。撮影は鳥取砂丘や浦富海岸、大山花回廊、植田写真博物館、境港水木ロードほか県内30カ所で行われた。160名の制作スタッフが約1ヵ月近く滞在。事前に県から地元に協力を呼びかけると、「アクションシーンを撮るんだったら、ここがいい」と地元からも提案があり、韓国制作会社に伝えると、それを参考に撮影場所が決められた。1000人以上の地元ボランティアの協力や地元温泉旅館の宿泊協力もあったという。

『アテナ』の放映は10年12月から始まり、鳥取ロケの出てくるシーンは11年1月上旬に放映された。すでに県ではハングル版のロケ地MAPを制作しており、韓国旅行大手のハナツアーからロケ地めぐりツアーが催行されている。1月下旬頃から、県下に韓国人ツアーが現れ始めている。

ロケ効果の持続性が課題

前述の鈴木主幹によると、鳥取県が今後取り組むのは、韓国人ツアー客の受け入れ態勢の整備であり、日本海に面した山陰地方として環日本海南端の国際リゾートを目指すという。視野にはロシアも含めた対岸の市場がある。

だが、こうした取り組みがどこまで地方空港のサバイバルにつなげられるかはまだ未知数だ。好調だった大韓航空秋田便の韓国客も、10年夏以降は伸び悩みが見られ、「アイリス特需しぼむ」との報道もある(読売新聞2010年8月3日付)。ロケ効果の持続性には確かに疑問もある。

韓流エンターテインメント誌編集者の野田智代氏によると、「韓国人が行きたい場所ナンバー.ワンは北海道。彼らは雪景色に心打たれるようです。日本でロケした韓国ドラマは雪のシーンが多い。秋田で若い韓国人がかまくらで記念撮影を好んで撮ろうとしたのも、『アイリス』にかまくらのシーンがあるから。外国人の撮る日本の風景は我々とは観点が違うぶん、とても美しいと思う」

確かに、外国人が描く日本は、観光庁の作るポスターより、ずっとインパクトがある。また自治体が観光プロモーションと称して海外の旅行会社を詣でたり、旅行博覧会にブースを出展したりすることに比べても、ドラマや映画の影響力の大きさは計り知れない。海外の視聴者は一瞬で映像を記憶してくれるからだ。

だからこそ、どうやってロケ効果を持続させるか。そのノウハウを見つけるのが、これからの課題だろう。

伝え聞くところによると、鳥取県でロケを行った『アテナ』は『アイリス』ほどヒットはしなかったようだ。 はたして韓国人は鳥取県にやって来るだろうか? 惜しむらくはロケは雪のシーンが撮れる冬場に行うべきではなかったろうか?

海外ドラマや映画のロケ誘致は費用対効果の点でもともとギャンブルに近いところがある。そこをどう考えるかが悩ましいところだ。でも、だからといって、何もしないで手をこまぬいてもいられない。

「データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン」(洋泉社)2011年3月刊行 より
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by sanyo-kansatu | 2011-11-06 21:48 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 06日

「中国人から儲ける本――爆買いする年間100万人の観光客&商用客をつかめ!」宝島社

中国からの訪日旅行者が急増した2010年初旬に刊行された同書では、中国人客の地域別特徴やボッタクリ問題などいくつかの指摘をしています。中国インバウンドの盛り上がりがピークを迎えた同年9月、尖閣諸島沖漁船衝突事故が起き、関係者らはいきなり冷水を浴びせられることになります。

北海道を舞台にした中国映画がヒット!ロケ地観光に参加する中国人の心象風景とは(p48-)
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今後、中国人旅行客の趣向がどうなるかは、台湾人や香港人の動向を見れば分かる!(p50-)
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北京、上海、広東、内陸都市――出身地によって大きく違う旅のスタイル(p60-)
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ボッタクリや無資格ガイド問題も浮上。日中双方が解決すべき中国人ツアーの課題(88-)
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by sanyo-kansatu | 2011-11-06 21:40 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 06日

「中国人を狙え!日本版「医療ツーリズム」の光と影」

「中国人を狙え!日本版「医療ツーリズム」の光と影」
プレジデント 2011年1.3号
 近年注目されている医療観光をめぐる各地の動きを追っています。ただし、これは2010年夏から秋にかけて取材したものです。震災後、一気に停滞しましたが、最近ようやく新しい動きも始まっています。
中国人を狙え!日本版「医療ツーリズム」の光と影
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by sanyo-kansatu | 2011-11-06 20:29 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 05日

連載「レジャー超大国、中国」(日経ビジネスNBonline)

連載「レジャー超大国、中国」
(2007年11月~08年2月)
 日本で中国インバウンドブームに火がついたのは、北京オリンピックが閉幕した08年秋頃からですが、中国が海外旅行市場拡大に向かう胎動期ともいえる04~07年頃の国内レジャー消費の盛り上がりや、始まったばかりの訪日旅行をめぐる動きを扱いました。07年当時の訪日旅行は、まだ送客数が少なかったせいもあり、クレームもほとんどないというのが現場の了解事項でしたが、事態はその後大きく変わっていきます。その実情に関しては、「データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン(洋泉社MOOK)」や、やまとごころ.jpの連載で書いています。なぜ中国人の訪日旅行市場が荒れてしまったのか、今後もその背景を明らかにしていきたいと思います。
(1)「はい、チーズ」。上海に押し寄せるおのぼりさんの「記念写真」
(2)外灘で記念撮影する特別な意味
(3)上海観光客が見る紅の「三丁目の夕日」
(4)あの千葉の“ザウス”が上海に復活!?
(5)デジイチぶらさげ、街角モデル撮影会。上海人の初々しいホビーライフ
(6)上海人の最新旅行シーンは「地球の歩き方」式
(7)リュクスな富裕層は、チャイナスタイル外資系がお好き
(8)総取引金額45兆円の「銀聯カード」をひっさげて
(9)日本社会に興味津々「なぜ女子高生はミニスカートなのだ?」
(10)日本観光で「対日観がガラッと変わった」人も急増!
(11)中国人は、東京ならここに行きたがる!
爆発中の観光ブーム、日中関係を変えるか

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by sanyo-kansatu | 2011-11-05 21:22 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)