ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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カテゴリ:気まぐれインバウンドNews( 96 )


2017年 05月 29日

通訳案内士法改正は一歩前進だが、現状では海外から評価されない(無資格を合法にするなら登録制にすべき)

先週、ついに改正通訳案内士法が成立しました。

本ブログでも、詳しく扱ってきた問題です。

http://inbound.exblog.jp/tags/通訳・多言語化

これまでは議論ばかりで、状況は変わらないどころか、ますます悪化していくばかりだったことを考えれば、インバウンド市場にとって欠かせないルールづくりのひとつとして一歩前進と評価できます。でも、依然問題は山積みです。

通訳ガイド、無資格でも 外国客急増で 質低下の懸念も(朝日デジタル2017年5月29日)
http://www.asahi.com/articles/ASK5C03BBK5BUTIL04F.html

「通訳案内士」の国家資格を持つ人にだけ認められてきた外国人旅行者への有償の通訳ガイドが、無資格者でも担えるようになる。外国人旅行者の急増を受け、改正通訳案内士法が国会で26日に成立した。1949年に制度ができて以来初めての大幅な規制緩和。観光業界は新たなガイドへの期待と、質の低下への懸念とが交錯している。

訪日外国人は昨年約2403万9千人で、4年連続で過去最多を更新。そのガイドを担い、正しく日本の歴史や地理を伝えるのが通訳案内士で「民間外交官」とも呼ばれる。試験は毎年1回あり、外国語に加え、地理や歴史、政治などの筆記テストと口述テストがある。専門言語は10カ国語で、昨年度の試験では2404人が合格した。合格率は21・3%だった。

昨年4月時点で約2万人が登録されているが、その約7割は「英語」が専門。旅行者は中国からが最多で約630万人(約26%)、次いで韓国の約500万人(約21%)。東アジアと東南アジアで全体の8割超を占め、ミスマッチが課題となっていた。さらに、有資格者の4分の3は首都圏や関西圏に住み、地方に外国人を呼び込みたい自治体や業界の思惑ともずれが生じていた。

そこで政府は、無資格者にも有償ガイドを解禁することにした。ただ国家資格は残し、より質の高い案内士として活用する方針。また、地域限定で活動する「地域通訳案内士制度」も新設し、地方の人材不足に対応できるようにする。

しかし法改正には、「悪質ガイドにお墨付きを与えるようなもの」と質の低下を懸念する声もある。日本観光通訳協会の木脇祐香理副会長は「外国語能力だけでは不十分。ガイドで日本の印象が決まる。下見など入念に準備して歴史、文化や魅力を紹介し、満足度を上げてリピーターになってもらうことが大切」と指摘する。「優秀なガイドを育て、質を保つための国の新たなサポートも必要になると思う」と話している。

観光庁はガイドをあっせんする仲介業者「ランドオペレーター(ランオペ)」を登録制として指導を強めるなどして、質の低下を防ぎたいとしている。

政府は東京五輪・パラリンピックがある2020年までに訪日客を4千万人まで増やす目標を掲げる。大手旅行会社幹部は「規制緩和が、人材の充実につながれば」と期待している。(伊藤嘉孝)

■通訳ガイドのルールはこう変わる
・有償ガイドを無資格者に解禁
・「地域通訳案内士」の資格を創設
・手配業者を登録制に。悪質業者に罰則も


正直なところ、改正法成立の報を聞いて最初に思ったのは「これで中国人の白タクドライバーによるガイド行為は合法になるんだな」ということでした。これまで「無資格ガイド」と呼んでいた対象、それはたとえば、中国の団体客相手のボッタクリガイドなども皆、資格の有無が問題でなくなるわけです。

もっとも、朝日報道にもあるように、これほど外国人が増えているのに、70年近く前にできた古いルールのままでいいはずはありません。通訳案内士団体など反対派の主張はとてもまじめで、あるべき理想の姿を示したものでしたが、一般国民からすれば、大勢からみて説得力がないとみなされても仕方がないものでした。

通訳案内士法の改正に関する要望書
http://www.ijcee.com/hiroba/guideinsti/demand01_100622.pdf

ただし、今回の改正は、とてつもなく時代錯誤だった大きなタテマエ(有資格者でなければ、有償通訳ガイドをするのは違法)を崩しただけにすぎません。より現実的な通訳ガイドのあり方のために決めたルールである以上、すでに指摘されている多くの懸念や問題を解消していく必要があります。

問題は、訪日外国人を対象とした通訳ガイドの周辺で起きている多くの違法状態について、広く一般国民に理解されていないことです。通訳案内サービスを受けるのはあくまで外国人であって、日本の一般国民ではないため、ピンとこないのは当然です。それでも、これだけ外国人が増えた以上、有資格者でなければ有償ガイドができないことを法で縛るのはどうかという一般社会の常識的は判断から、今回の改正に遅まきながら至ったのだと思います。

通訳案内士法改正は一歩前進だと考えますが、「誰がガイドをするのがふさわしいか」について、もっと議論が必要です。これまで多くの日本人がほとんど考えてこなかったことですが、外国人相手なら外国人がガイドするのがもっともだ、というような誤解をなくしていかなければなりません。

そうでないと、「悪質ガイドにお墨付きを与える」ことにしかならないからです。これまでボッタクガイドやブラック免税店の存在を批判していた中国をはじめとした海外の国々からも、今回の改正だけでは評価されないでしょう。問題の解決にはつながらないからです。通訳ガイドサービスは、海外の人たちから評価されてこそ、意味があるのです。

通訳案内士法改正とともに進んでいる旅行業法の改正案では、これまで規制の対象外だったランドオペレーターに観光庁への登録を義務付けるといいます。悪質な訪日ツアーの増加をふまえ、海外旅行客の安全や旅行の質の確保など、業務の適正化を目指すためのもので、ランドオペレーターには管理者の選任、業務に関する契約書面の作成などを求めることになっています。

ボッタクリツアーの温床となっていた中国系のランドオペレーターを登録制にすることは、ルールづくりの第一歩ですが、結局のところ、これらの問題はランドとガイドの連携で成り立っていた以上、せめて団体客が相手の場合、ガイドも登録制にすることが必要ではないでしょうか。いまは、白タクをはじめ、個人客相手の無資格ガイドが跋扈する時代だからです。

今後は在日中国人をはじめとした外国人のガイドに、研修や登録を義務付けるしくみを新たに加えていくことが求められると考えます。はたしてその外国人が日本を案内するのにふさわしい人物であるか、それを見極めるのは、我々の責任です。自国をガイドする外国人にライセンスを与えるのは、海外では常識ですが、これまで日本だけがなおざりにしてきたのです。無資格ガイドを合法とする以上、これは当然ではないでしょうか。

ランオペ登録制は一歩前進。ガイドも登録制にできるだろうか
http://inbound.exblog.jp/26296114/
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by sanyo-kansatu | 2017-05-29 15:56 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 05月 25日

なぜ次々と中国人観光客の周辺で違法問題が起こるのか?

ここ数日、日本国内で急増している中国の「越境白タク」の実態を見てきました。それにしても、この問題のみならず、なぜ彼らの周辺では次々と違法問題が起きてしまうのでしょうか。

成田空港で中国系白タクの摘発が始まる!?
http://inbound.exblog.jp/26867015/
日本国内で増殖している中国の配車アプリとはどんなサービスなのか?
http://inbound.exblog.jp/26867237/
中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由
http://inbound.exblog.jp/26874125/
中国配車アプリを利用した「越境白タク」の何が問題なのか?
http://inbound.exblog.jp/26876191/

これまで本ブログで何度も指摘してきたように、無資格ガイドや違法民泊、ブラック免税店問題など、すべてとはいいませんが、その大半は中国人観光客の周辺で起きています。その理由について、少し考えてみたいと思います。

その前に、不用意に話を進めると偏見を助長しかねない、この問題を考えるうえでの、今日の中国と中国人に対する公平な理解の前提となる2つのポイントを挙げておきたいと思います。

よく「中国人は遵法意識がない」と言われます。この点について、良識ある中国人はそれを否定しません。なぜなら、彼らには、日本や欧米のような民主的な社会を生き、法によって人権が守られているという認識はありません。法は民ではなく、万事為政者が勝手に決めるものですから、常に上から降りかかる、むしろ災厄のようなもの。法の網をかいくぐり、利益を得た人間が賢いと評価される社会です。このような国に生きる人たちを、我々と同じ基準でジャッジしてしまうと、彼らのふるまいの背後にある真意を見間違いがちです。

もうひとつは、少しメンドウな話なのですが、中国が急速に経済力をつけ、ECやモバイル決済、そして配車アプリの普及など、明らかに日本の社会より利便性の進んでいる分野が次々と生まれてきたことから、「最先端のサービスを利用する自分たちがなぜ悪い? むしろ、遅れている日本の方が問題では」という心理が彼らの中に芽生えていることです。

この種の心理は、かつて(欧米社会に対するものとして)日本人にもあった気がしますから、やんわり受け流せばすむ話。とはいえ、国民感情として、言うは安しと感じる方も多いかもしれません。よく「中国人は傲慢だ」と言う人もいますが、あまりに単純固定化して彼らの言動を受けとめるのは思慮が欠けているといわざるを得ません。彼らがそう見えるのは、そうなる背景や理由があるからで、それをある程度頭に入れておけば、理解できない話ではないことは知っておいたほうがいいでしょう。我々とはあらゆる面で価値観が違うのも、そのためなのです。

この2点をふまえたうえで、考えなければならないのは次のことです。

我々の側に、観光客として彼らを受け入れるうえでの原則やルールがあるかどうか。それを彼らにもわかりやすく説明し、理解させているか。それが問われているのです。

しかし、実際にはそのような原則やルールを日本の社会は用意しているとは思えません。そんなことはまるで考えてもいないかのよう。せいぜい観光客がお金を落としてくれるんだから、日本が得意の「おもてなし」をしましょう…。たいていの場合、これだけです。

つまり、結論を先に言ってしまうと、中国人観光客の周辺で起こる違法問題の根本的な原因は、彼らの側だけにあるのではなく、むしろ我々が彼らを賢く受け入れるためのルールづくりをなおざりにしてきたからだ、というべきなのです。

もう半年以上前のことですが、昨年10月、NHKのクローズアップ現代で、中国人観光客の周辺で起こる違法問題を題材にした番組を放映していました。

「「爆買い」から「爆ツアー」へ。いま中国人観光客が目指すのは、都心の百貨店や家電量販店よりも、地方の観光都市。そこは「無資格ガイド」や「白タク」などが暗躍する、無法地帯となりつつある。番組はその実態を探るために潜入取材。その結果明らかになったのは、日本の旅行業法の不備をついて不当に利益を上げる、闇業者の存在だった。急増する中国人観光客がらみのトラブルと、どう向き合えばいいのか。お隣の韓国で成果を上げる、目からウロコの処方箋も紹介!」(同番組HPより)

この番組の詳しい内容は以下のウエブサイトをみてもらえればわかりますが、NHKの取材陣が潜入したという「中国人爆ツアー」の現場のルポと識者らの解説にはいくつかの興味深い指摘がありました。と同時に、つっこみどころもけっこうあったので、解説します。

潜入!中国人 “爆ツアー”の無法現場(NHKクローズアップ現代+2016/10/23)
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3879/

ルポの冒頭の舞台は沖縄です。沖縄はいま全国でいちばん白タク問題で悩んでいるからです。

NHKの中国人スタッフが観光客を装って接触を試みた白タク運転手は20代の中国人。聞けば留学生上がりで、在学中からやっていたといいます。もちろん、彼は通訳案内士の資格もなく、第2種運転免許もありません。明らかな違法営業です。

なぜこんな違法営業がまかり通るかについて、ランドオペレーターのひとりにこう言わせています。「しっかり監督をする組織が、部分がないですから、それが原因で白タクとか不法の民泊に、いま氾濫されている。一番大きいのは税金関係。税金みんな払ってない。資本金も何も必要なく、やり放題。これはおいしい、いっぱいおいしい利益をとるだけ」

そう、そのとおり。監督官庁の存在がまるで不明で、ルールづくりがおざなりにされてきたことが、無法状態の根源だというのです。

こうなってしまった理由として、立教大学の高井典子教授はこう説明します。

「まず前提として、これまでの日本の旅行業界というのは“日本人の、日本人による、日本人のため”の旅行を扱ってきた。

つまり「BtoC」、旅行会社から最終消費者である旅行者、ツーリストに向けてのビジネスに関して旅行業法という法律で管理してきたわけなんですね。

ところが、この数年、急激にアジアの市場が伸びてきていて、これが想定外の成長をしてしまい、いわば真空地帯だった所に新たに登場したのが、今、出てきました、多くの新しいランドオペレーターということになります」。

この指摘は基本的に間違いではないですが、「想定外の成長」「真空地帯」という説明を聞くと、ちょっとつっこみたくなります。というのは、訪日中国人団体客の受け入れは2000年に始まっており、「想定外」などというには時間がたちすぎています。時間は十分あったのに、やるべきことをやってこなかったというべきだからです。「真空地帯」というのも、そうなったのは、急増していくアジア系観光客の受け入れを本来担うべきだった国内業者が、彼らに対する国内の旅行手配や通訳ガイドによる接遇も含めた「おもてなし」をコストに見合わないという理由で投げ出してしまったというのが真相に近い。

とはいえ、言葉も地理もわからない外国人の団体を街に放り出すわけにはいきません。誰かが彼らの接遇を担わなければならなかったのに、国内業者がやろうとしない以上、その役割を買って出たのが在日アジア系の人たちだったのです。彼らは自分たちがそれを担った以上、自分たちなりのやり方でやろうとするのはある意味当然です。観光客の側にとっても、そのほうがわかりやすい。こうなると、日本のビジネス慣行やルールではなく、アジア的なスタイルで運営されていくことになる。それを国内業者は「触らぬ神に祟りなし」と、見てみぬふりをするほかなかった…。これが真相というべきです。

これは日本の家電メーカーがこの20年で中国や韓国の企業に市場を奪われていったケースと基本的に同じだと思います。コストが見合わないという理由で、新しい市場への取り組みを投げ出していった結果という意味で、決して飛躍した話ではありません。コスト以外にもさまざまな理由があったことも確かですが、当時の経営陣は先が読めなかったということでは同じです。

中国人観光客の周辺の違法問題を考えるとき、この視点を忘れてはならないと思います。そうでないと、結局、この番組の後半の流れのような、あたりさわりなく聞き流せばすむ議論で終わってしまうからです。

実際、番組では外国人観光客のマナー問題に話を移し、「ルールやマナーを知らない外国人と気持ちのいい関係をどう築いていくのか」と問いかけます。これからの時代は日本人もそれを受け入れていく(乗り越えていく?)気持ちを持たなければという精神論に向かっていきます。

その際、例に挙げられたのが、忍野八海の湧水にコインを投げ入れる中国人観光客の話でした。こういうことがなぜ起こるかについては、以前本ブログで説明していますが、ひとことでいえば、日本に関する知識のない無資格ガイドが案内しているから起こるというべきで、これも監督官庁の野放しが生んだ問題なのです。

〔TBS・Nスタ〕中国人観光客はなぜ民家に侵入して自撮りをするのか?
http://inbound.exblog.jp/26383490/

ところで、番組にひとりの中国人コンサルタントが登場します。この人の存在がなかなか微妙です。彼は白タクや違法民泊問題についても「シェアリング・エコノミーは世界的な流れ。その点では中国の方が進んでいます。日本人の日常生活を味わうのは大きな魅力です」という主旨の話をするのですが、前述したような、最近の中国人によく見られる「むしろ、遅れている日本の方が問題では」という心理がうかがえないではありません。これを聞くと、そういう風に話を丸め込まれてはたまらないと感じる視聴者も多かったのではないでしょうか。なぜなら、違法問題を引き起こしている当の本人が言い訳しているようにも聞こえるからです。

これらの問題を解決するための「目からウロコの処方箋」として、韓国の観光警察隊が紹介されますが、これも問題のすりかえに見えます。現状、外国人にマナーを問う前に日本社会がすべきことがあるからです。いま起きていることの多くは、外国客を受け入れるための原則やルールをつくってこなかった日本の監督官庁の姿勢にあるからです。アジア客の接遇を在日アジア系の人たちに投げ渡してしまったことで、彼らは自分たちのやりたいようにやるほかなかったのです。

いろいろつっこみを入れましたが、番組のウエブサイトでは、違法問題の背景について以下の解説を試みています。

なぜ、悪質なランドオペレーターを取り締まれないの?

取り締まるための法律がなかったからです。1952年に制定された旅行業法は、消費者となる旅行者を保護するために旅行会社を監督する目的で作られました。旅行会社から依頼を受け、バスやホテル・ガイドを手配するランドオペレーターは、旅行会社との取引になるため、旅行業法の規制の対象外になります。中国人観光客の数はこの3年で5倍近く増加し、ランドオペレーターの需要が急拡大する中、法の目が届きにくい現在の法制度の隙間をつく形で、次々と悪質業者が生まれきたと見られています。番組で取り上げたバス会社やレストランへの「突然キャンセル」だけではなく、旅行客を物販店に連れ回し不当に高額な商品を買わせる「ぼったくりツアー」で大きな利益を手にする業者もあります。さらに昨今、団体ツアーから個人旅行にシフトする中で、小回りのきく移動手段として「白タク」(営業届けをしないまま乗客を車に乗せ、運賃を受け取る車)や格安の宿泊場所として「無届け民泊」を手配するなど、悪質行為を行う業者も出てきています。

国はどのような対策を取ろうとしているの?

今年になって、国はようやくランドオペレーターの実態調査に乗り出し、全国で800以上の業者があることをつきとめました。現在、旅行業法を改正して、悪質なランドオペレーターを管理監督出来る仕組み作りを進めています。しかし、その一方で、他の業種では規制緩和を進めています。たとえば、これまで外国人を有償でガイドするためには「通訳案内士」という国家資格が必要でしたが、今後は「無資格」でもガイドすることを可能にする方針を打ち出しています。また、「民泊」もこれまで禁止されていた住宅街での開設を解禁する方向です。「2020年に訪日外国人観光客4,000万人」という目標を掲げる中、入国を許可するビザの発給要件の緩和も続ける日本。様々な規制緩和の中で、いかに悪質業者の横行を防いでいくようなルールやチェック体制が出来るかが、今後の課題となっています。


このように番組では、こうした違法営業が大手を振るっているにもかかわらず、政府の方針は「通訳ガイドは無資格でも可能」「民泊は住宅街でもOK」「ビザの緩和」「悪質業者を監督できる法改正を検討」と、規制を緩める方向にあることに疑問を呈しています。

その指摘自体は間違いないのですが、あたりさわりなく終わってしまう精神論や経済効果の話だけではなく、また安易に偏見を助長する結果を生みがちな表層的な実態のルポだけでもない、本質的な議論をしていかなければと感じます。

たとえば、ここでは「悪質業者」という言い方をしていますが、中国人の場合、そもそも法人ではなく、個人で白タクを始めているケースが多いのです。それを「越境配車アプリ」が束ねているのです。この越境性をどう捉えるかがこれからの課題なのです。
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by sanyo-kansatu | 2017-05-25 09:58 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 05月 24日

「夜に消える? 訪日客」。背景には民泊による宿泊相場の価格破壊がある

今日の朝日の朝刊を見て、ついにこの話が出たなと思いました。

「訪日外国人数は増えているのに、宿泊者数が伸び悩んでいる」

インバウンド関係者の間では、昨年からすでに大きな問題となっていたからです。

東日本大震災の翌年の2012年以降、好調に推移していた外国人の宿泊者数の伸び率が、15年(46.4%)から16年(8.0%)にかけてガクンと減ったのです。「外国人延べ宿泊者数は、7,088万人泊となり、調査開始以来の最高値」であるにもかかわらずです。
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宿泊旅行統計調査(平成28年・年間値(速報値))
http://www.mlit.go.jp/common/001174513.pdf

記事では、なぜこうしたことが起きたのか、その背景についてさまざまな観点から検討しています。

ユー、夜はどこに? 訪日客は増加でも宿泊者は伸び悩み(朝日新聞デジタル2017年5月24日)
http://www.asahi.com/articles/ASK5R55GBK5RULFA01M.html

日本を訪れる外国人客は増え続けているのに、国内での外国人の延べ宿泊者数が伸び悩んでいる。ホテルや旅館に泊まらないのだろうか。「夜に消える訪日客」の実態をつかみあぐね、観光立国をめざす政府は困惑している。

4月中旬、深夜の成田空港のロビー。欧米系の外国人10人ほどがソファに寝転び、上着やタオルを顔にかけてまどろんでいた。

フランス人の玩具デザイナー、レマル・アモリさん(31)は、この日はここで朝まで過ごすと決めた。「日本のホテルは狭いのに宿泊代が高すぎる」。7日間の日本滞在中、夜はインターネットカフェや友人の家に身を寄せるつもりだ。

関西空港の24時間営業ラウンジでも、朝まで過ごす訪日客が目立つ。個室状のブースは連日満席。空港も仮眠用に無料で毛布を貸し出している。

観光庁によると、今年の訪日外国人客数は13日に1千万人を突破。過去最速のペースだ。1~3月の累計は653万人で前年同期より約14%増えている。ところが、同じ期間の国内の外国人延べ宿泊者数は累計1803万人で、約2%増どまり。訪日客の日本の平均滞在日数は9・5日。前年同期(10・2日)から大きく減っているわけでもない。

背景にあるのは集計方法の違いだ。客数は法務省の入国管理統計から日本に住む人を除いて出すが、宿泊者数は1・5万軒前後のホテル・旅館へのアンケートをもとに推計する。空港やネットカフェは対象外だ。

観光庁は当初、住宅に泊まる「民泊」と、船内に泊まれるクルーズ船の利用増の影響が大きいとみていた。民泊仲介サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」の昨年の延べ利用者数は、前年の2・7倍の370万人超に達した。昨年のクルーズ船による訪日客は199万人で、前年より8割増えている。

だが、最近は「それだけではなさそうだ」(観光戦略課)という。都市部でのホテル不足から宿泊料金が高止まりし、訪日客が「宿代わり」になる安価な施設を探しているという。ネット上での情報交換も盛んになっている。

夜通し営業する東京・新宿の温浴施設「テルマー湯」は今年、外国人客が前年より10~15%増えているという。観光庁が「宿泊主体ではない」と調査対象外にしているラブホテルも、低価格で日本独特の宿泊先として訪日客に人気だ。

移動で深夜に走る高速バスを利用するケースも増えている。高速バス大手のウィラーエクスプレスジャパン(大阪市)では、昨年に専用サイトから申し込んだ外国人客が前年比4割増の14万人だった。

訪日客向けビジネスを支援する「やまとごころ」(東京)の村山慶輔社長は「個人のリピーターや中所得層の訪日客が増え、旅の仕方が多様化しているのに、統計は実態をとらえきれていない」と話す。

政府は2020年までに、年間訪日客数を16年実績の約7割増の4千万人にするほか、地方での外国人延べ宿泊者数を同約2・5倍の7千万人にする目標も掲げる。国土交通省幹部は「政策の効果を確かめるためにも、統計の精度をもっと上げないといけない」。(森田岳穂、石山英明)


この記事では、訪日客数の伸びに見合わない宿泊者数の背景に「住宅に泊まる「民泊」と、船内に泊まれるクルーズ船の利用増の影響が大きいとみていた」が「それだけではなさそうだ」(観光庁)と考えるようになったとあります。

その例として、国際空港のラウンジで仮眠したり、都内の温浴施設に寝泊りする外国人の増加、ラブホテルや深夜バスの利用などを挙げています。ちなみに風営法扱いでこの統計には入らないラブホテルや温浴施設とは違い、外国人利用の多いカプセルホテルは「簡易宿所」にあたり、統計に含まれているため、記事には触れられてはいません。
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羽田空港国際ターミナル午前0時半(2017年3月上旬)
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確かに、羽田空港国際ターミナルの深夜便利用客は想像以上にいて、ロビーのソファで横になる外国人の多さに驚いたことがあります。また羽田空港に近い蒲田などのスーパー銭湯を利用する羽田深夜着や早朝便利用の外国人が多いことも知られています。同じような話は、関空や中部空港などの大都市空港の周辺にもあります。

LCCを使えば片道5000円で日本を訪れることができる時代です。なるべくお金をかけずに日本旅行を楽しみたいというニーズは高まるばかりで、こうした宿泊形態の多様化が進むのはもっともな話でしょう。

そのため、2015年頃まで外国客の利用比率が高かった都内のホテルほど、去年は客室を埋めるのに苦心するという事態が起きていました。記事には「都市部でのホテル不足から宿泊料金が高止まり」とありますが、むしろこれらのホテルでは宿泊料金のディスカウント合戦が始まっています。問題は日本のホテル料金にあるというより、やはり民泊による宿泊相場の価格破壊が起きたと考えるべきでしょう。「それだけではない」のは確かですが、影響は大きいのです。

先日も海外在住の知人が帰国し、東京に立ち寄る際、試しにAirbnbで民泊を探したところ、最安値は2000円だったそうです。1泊しかしないので、話のタネにと泊まったところ、そこは五反田にある賃貸マンションの1室で、ワンルームに2段ベッドが6つ置かれており、若い外国人が何人も泊まっていたそうです。

不特定多数の外国人を1室に押し込むドミトリー式の民泊の話を聞き、まるでウォン・カーウェイ 監督の『恋する惑星』の舞台だった重慶マンションではないかと思ったものです。五反田のケースはフロントもなければ、スタッフもいないわけですから、もっと劣悪な環境だといわざるを得ません。「これでは盗難が起きても誰にも訴えられない。二度と泊まる気にはなれなかった」と話してくれました。

団体から個人へと移行したアジアからの観光客の多くは、家族や小グループで日本を訪れます。彼らはどんなに狭くても、民泊でマンション1室にグループごと雑魚寝して泊まれば、ホテルの客室を複数利用するのに比べると、はるかに割安です。これも宿泊相場の価格破壊をもたらした大きな理由だと考えられます。

(このような物件ばかりではないという反論はあるでしょうが)結局のところ、民泊の実態はこういうものでしょう。

そうである以上、監督官庁は「それだけではない」などと逃げないで、明らかに問題のある民泊の存在をこのまま許すかどうか、そろそろ判断しなければなりません。記事にあるように、「統計の精度」は実態の把握のために必要ですが、はっきり言って、この種の違法営業はなにも宿泊関連だけでなく、無資格ガイドや違法バス、白タク、ブラック免税店などの問題も含めて決して最近の話ではなく、広く知られていなかっただけで、10年以上前からずっと起きていたことだからです。背後に存在するモグリの事業者たちがやることは、いまも昔も変わりません。

ちなみに、2016年の国別訪日客数と延べ宿泊者数のトップ5の伸び率を以下に挙げてみます。(左:訪日客数、右:延べ宿泊者数)

中国 27.6%増  3.3%増
韓国 27.2 %増 15.7%増
台湾 13.3 %増 1.3%増
香港 20.7%増 8.2%増
アメリカ 20.3%増 14.3%増

これをみるかぎり、すべての国で訪日客数より延べ宿泊者数の伸び率が低いのですが、特に数の開きが大きいのが中国です。中国の伸び率の開きは、九州を訪れるクルーズ船の増加の影響もあるのですが、やはりここには「途家」などに代表される中国系民泊の影響が感じられます。

都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた
http://inbound.exblog.jp/25579904/

AISO(一般社団法人アジアインバウンド観光振興会)の王一仁会長は「昨年、Airbnbの国内の利用者が前年比2.7倍の370万人超になったというが、『途家』などの中国系民泊の利用も、同じように増えている。彼らは統計を公開していないが、それがホテル市場に与えた影響は想像以上に大きいといわねばならない」と話しています。

確かに、民泊市場の拡大分は、昨年の訪日外国人の伸び分を超えて、呑み込んでしまっていることが考えられます。一部のホテルに空きが出てきたのはそのためではないかというのです。

世界でいちばん安さにこだわる彼らですから、民泊がホテルより安いとわかれば、そちらに移るのは自然の流れです。なにしろ日本には民泊を経営する中国人も多いからです。

【追記】
2017年5月下旬、民泊ならぬ「バケーションレンタル」の商談会が都内で開かれました。民泊関係者が集結しており、非常に面白いイベントだったので紹介します。

中国系民泊サイトが続々出展「バケーションレンタルEXPO」って何?
http://inbound.exblog.jp/26889680/
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by sanyo-kansatu | 2017-05-24 11:50 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 05月 19日

日本国内で増殖している中国の配車アプリとはどんなサービスなのか?

5月18日の日本テレビの情報番組『エブリィ』が違法営業と報じた中国配車アプリ「皇包車」とはどんなサービスなのでしょうか?

成田空港で中国系白タクの摘発が始まる!?
http://inbound.exblog.jp/26867015/

それはひとことでいえば、2009年中国の大ヒット正月映画『非誠勿擾』で多くの中国人が夢見た、ドラマの主人公のように海外をドライバー付きで自由に旅することの実現といえます。

非誠勿擾
http://www.okhotsk.org/news/tyuugoku3.html

これが「皇包車」です。
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皇包車(HI GUIDES)
https://m.huangbaoche.com/app/index.html

このサービスのキャッチコピーはこうです。

「华人导游开车带你玩(中国人ガイドがあなたを乗せてドライブします)」

ここでいう中国人ガイドって誰のこと?

その下に都市名と契約したドライバー数が載っていますが、おそらくこのドライバーこそが「中国人ガイド」というわけでしょう。

東京1659名 台北1643名 大阪1172名 ニューヨーク698名 パリ786名 バリ島101名

このサービスは日本国内のみならず、海外でも展開されているのです。「越境EC」ならぬ、「越境白タク」とでも呼べばいいのでしょうか。

もう少しサービスの中身を知るために、サイトを覗いていきましょう。

これは東京のページです。
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皇包車 東京
https://www.huangbaoche.com/app/lineList.html

このページには、東京発のさまざまなドライブコースが表示されています。たとえば、いちばん頭にあるのが、以下の富士山ドライブコース。1名489人民元とあります。

富士山河口湖→五合目→忍野八海→山中湖温泉 包车一日游,东京往返 ¥489

実は、同様の中国系配車アプリがもうひとつあります。こちらも海外各地で展開していますが、日本のページを見てみましょう。
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DingTAXI日本包車旅遊
https://www.dingtaxi.com/zh_CN/c/japan

トップページには以下のようなコースと料金が記されています。

東京包车一日游(東京1日チャーター)最低 ¥23000JPY
大阪包车一日游(大阪1日チャーター) 最低 ¥25500 JPY
(东京出发) 富士山箱根包车一日游(東京発富士山・箱根1日チャーター) 最低 ¥36000JPY ほか

成田空港から都内へは16500円、羽田からは9500円。一般のタクシーに比べると半額です。

次に「東京1日チャーター」のページをみると、23人のドライバーと自家用車の写真が載っています。それぞれ1日の運行時間と料金に加え、深夜便利用客のニーズに合わせた深夜料金なども書かれています。
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中国客たちは、ドライバーの写真や車種、料金、条件などを比べて選ぶことになります。

それにしても、彼らとアプリ会社との契約はどうなっているのか。一部のドライバーは写真を載せていますが、顔が割れてしまっても大丈夫なのでしょうか…。

琉球新報は、こうした配車アプリを使った白タクサービスが3年前から始まったと報じています。いったい沖縄でどんなことが起きているのか。以下の記事を読むとよくわかります。

中国客も「白タク」利用 沖縄観光、アプリで配車 運転手は県内に100人超(琉球新報2017年5月14日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-495441.html

台湾人クルーズ客を相手にした白タク行為が沖縄県内で横行する中、中国人客を対象にした「白タク」行為も広がっている。世界各地で事業展開する中国の運転手付き自動車配車サービスアプリを使う手法で、同アプリで手配する運転手は旅客を運送する際に必要な第2種運転免許を持っていない例が多いとみられる。旅客自動車運送事業の許認可を受けないレンタカーや自家用車を使用している。

13日現在、同アプリに登録し、沖縄で操業できる中国人運転手は100人を超える。急増する外国人観光客への多言語対応など、県内の受け入れ態勢の不備が白タクの横行を招いている側面もある。

中国人客は台湾人客と異なり旅行業者を介して白タクを手配するのではなく、スマートフォンがあれば気軽に白タクを手配できるアプリを利用するのが一般的だという。利用者は、飛行機で来沖する中国人客が多くを占める。

県内旅行関係者によると、中国の配車サービスアプリの利用は3年前から始まり、来沖する中国人客の増加につれ、利用件数も急増している。

別の旅行関係者によると、同アプリで販売する4人乗りの車を使った県内1日(10時間)ツアーが平均3万5千円なのに対し、第2種免許を持つ日本人運転手付きのタクシーは平均3万円。「中国語でサービスを提供しているため、日本人運転手の料金よりも高い」という。運転手はサービスを提供する前、乗客とSNSや電話でやりとりし、宿泊先のホテルなどで客を乗せる。

県内旅行関係者は「乗客は配車アプリを通して料金を運転手に支払っているため、現金でのやりとりがなく、(警察などの)摘発は難しい」と現状を述べ「きちんと税金を支払っているわれわれに公平な競争環境を返してほしい」と訴えた。


琉球新報の同記事には、中国客が日本で配車アプリサービスを使えるしくみをわかりやすく図にしてくれています。
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要するに、中国客は日本を訪れる前に、同サービスに対して支払いをすませており、日本でドライバーへ金銭を支払うことはありません。つまり、事業者は日本国内には存在せず、金銭のやりとりもない(おそらくアプリ会社からドライバーへの支払いは、中国の電子決済システムによるのでしょう。ドライバーは日本在住者でありながら、在外華人なので、必要であれば、なんらかの日本円への換金手段があると思われます)。そして、顧客へのドライブサービス活動の実態だけが、日本国内で行われるのです。

問題は、このドライバーたちのほとんどが第2種免許を持っていないであろうこともそうですが、個人営業者として確定申告をしているのかどうか。もしそうでないのであれば、いくら中国人観光客が日本を訪れても、日本にお金が落ちないしくみになっていると言わざるを得ません。

次回以降は、なぜこれほど多くの中国人観光客が日本国内で白タクを利用するようになったのか。中国でライドシェアが一気に普及した背景について説明します。

中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由
http://inbound.exblog.jp/26874125/

(参考)
中国配車アプリを利用した「越境白タク」の何が問題なのか?
http://inbound.exblog.jp/26876191/
タクシー運転手に聞く「日本のライドシェアが進まない理由」と今後すべきこと
http://inbound.exblog.jp/26891045/
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by sanyo-kansatu | 2017-05-19 16:12 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 05月 19日

成田空港で中国系白タクの摘発が始まる!?

昨日(5月18日)、中国のSNS「微信(WeChat)」上に、ひとりの日本に住む中国人と思われる人物から、中国系白タクの利用に注意を促す以下のメッセージが発せられました。
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新闻不报道还不知道国内有个叫“皇包车”的软件(2017-05-18)
http://www.sohu.com/a/141506227_559312

メッセージの中身は、その日夕方5時50分過ぎの日本テレビの情報番組『エブリィ』で放映されたニュースに触れたもので、成田空港や羽田空港に急増している中国の配車アプリ「皇包車」を使った白タクが、今後摘発の対象になると言っています。

さらに、中国で広く普及している同アプリによる配車サービスは、日本では合法ではないこと。万一事故に遭ったとき、補償がないことを知るべきだと呼びかけています。

ぼくはこの番組を観ていないのですが、そのメッセージにはニュース映像のカットが2点載っていて、「白タクは普通の自家用車で違法営業」との文面が見られます。同番組のサイトでは、いまのところ、このニュースはアップされていないようです。

日本テレビ『エブリィ』
http://www.ntv.co.jp/every/

中国系白タクの急増が問題になっていることは、関係者の間では数年前から広く知られていました。NHKのクローズアップ現代でも昨年10月下旬、中国人観光客をめぐるさまざまな問題のひとつとして白タクに触れています(このニュースに関しては、あらためて別の機会に解説します)。

潜入!中国人 “爆ツアー”の無法現場(NHKクローズアップ現代+2016/10/23)
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3879/
なぜ次々と中国人観光客の周辺で違法問題が起こるのか?
http://inbound.exblog.jp/26880001/

今年3月、羽田空港から深夜便で上海に行ったのですが、国際ターミナルの周辺にワゴンタイプの白タクと思われる自家用車が何台も中国客を降ろしているのを見ています。
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跋扈する中国系白タク問題にいちばん頭を痛めているのが沖縄県です。今月に入って、沖縄のメディアはこの問題を繰り返し報じています。

沖縄では中国系白タクをめぐるふたつのケースが存在します。ひとつは、台湾からのクルーズ客が上陸観光をする際にレンタカーと第2種運転免許をもたないドライバーをセットで利用するケース。もうひとつが、中国客が配車アプリによる営業許可のない自家用車とドライバーを使うケースで、共通するのはドライバーの多くが県内在住の中国人であることです。

台湾人向け「白タク」中国系運転手がクルーズ客送迎 総合事務局「違法行為」(琉球新法2017年5月1日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-488190.html
中国客も「白タク」利用 沖縄観光、アプリで配車 運転手は県内に100人超(琉球新報2017年5月14日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-495441.html

背景には、琉球新報の記事にもあるように「急増する外国人観光客への多言語対応など、県内の受け入れ態勢の不備が白タクの横行を招いている側面」があるわけですが、だからといって営業許可も取らないで、好き勝手に課税逃れの商売をやることは許されません。なんでも「同アプリに登録し、沖縄で操業できる中国人運転手は100人を超える」そうですから、さすがの沖縄メディアも黙認はできないと判断したのでしょう。そのぶん、沖縄県民のドライバーの仕事が奪われてしまっているわけですから。

はたして日本テレビの報道のように、今後成田空港や羽田空港での白タク摘発は始まるのでしょうか?

次回は、この中国系配車サービスアプリについて説明しようと思います。

日本国内で増殖している中国の配車アプリとはどんなサービスなのか?
http://inbound.exblog.jp/26867237/

(参考)
中国本土の観光客は日本でレンタカーの運転はできません
http://inbound.exblog.jp/24859203/
中国配車アプリを利用した「越境白タク」の何が問題なのか?
http://inbound.exblog.jp/26876191/
中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由
http://inbound.exblog.jp/26874125/
タクシー運転手に聞く「日本のライドシェアが進まない理由」と今後すべきこと
http://inbound.exblog.jp/26891045/
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by sanyo-kansatu | 2017-05-19 14:33 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 03月 24日

中国クルーズ船乗客の済州島の下船拒否には呆れたが、今後困るのは中韓双方の民間業者(日本への影響 も)

3月11日、中国クルーズ船乗客が済州島で下船拒否したことが報じられました。中国政府による韓国旅行禁止がスタートする3月15日以前であるにもかかわらず、このようなことをしでかすとはまったく悪辣な輩たちです。

済州島に下船拒否した中国人観光客3400人、ごみ2トンを捨てて出港(中央日報日本語版2017年03月14日)
http://japanese.joins.com/article/813/226813.html

11日、済州(チェジュ)港に入港したが、下船を拒否した遊客(中国人団体観光客)約3400人が済州海にごみを2トン程度捨てて行ったことが分かった。

13日、済州税関などによると、11日に済州港に入港した国際クルーズ船コスタ・セレーナ号(11万4000トン級)が寄港する間、約2トンに達するごみを捨てた後、この日の午後5時ごろに次の寄港地に向かった。

中国のある企業のインセンティブ観光を出た3400人余りの遊客は11日、済州に到着したが、下船するなという会社側の通告を受け、全員が船に留まって寄港4時間後である午後5時ごろ、次の寄港地に出発した。

ごみは全部リサイクルごみのペットボトルや紙くず、缶の種類だ。このごみは済州税関の申告手続きを経て済州道某廃棄物会社で処理し、廃棄物処理の費用は船社側が負担した。

11日に入港したセレーナ号には遊客3400人余りが乗っていた。中国のある企業のインセンティブ観光団だった。イタリア・ドイツなど欧州から来た一部の旅行客もいた。

しかし、遊客は入港したが下船はしなかった。下船せず出港した理由は、中国政府のTHAAD(高高度防衛ミサイル)体系の報復措置の一つとして韓国観光禁止発表に従ったものとみられている。

世界的コスタ船社のクルーズであるコスタ・セレーナ号は、中国を母港にして運営されている。中国共産党機関紙の人民日報はこの日、中国人の大々的な下船拒否事態に対して「中国人観光客のこのような行為は愛国的行動であり、方式も文明的」と評価した。


中国の報復が直撃した韓国のメディアはこのように淡々と事実を伝えています。これだけの仕打ちを受けた以上、もっと怒っていいはずですが、対日報道の場合とは違って、ずいぶんおとなしいんですね。それにしても呆れるのは、ゴミだけ捨てて帰るという不埒ぶり。クルーズ会社と現地の港湾施設との契約を履行したにすぎないのだと思いますが、韓国側も中国の非道ぶりを伝えるうえで、この話をどうしても言いたくなったのではないでしょうか。何より残念なのは、人民日報が「愛国的行動」と称える下船拒否を行ったのが、イタリア系クルーズ会社のコスタ・セレーナ号であること。いまや中国では外資系も政府の恫喝に従うほかないことがわかります。なんとみじめな話でしょう。

普通に考えて、乗客が一斉に同じ行動を取ることはありえないように思われますが、記事によると、同船の乗客が「中国のある企業のインセンティブ観光団」という社員旅行のような組織化されたグループであったことから、それが可能になったのだと理解するほかありません。下船拒否した中国客にこっそり話を聞けば、「自分は本当は下船したかったけど、やむを得なかった」というコメントが聞けそうな気がします。

彼らの下船拒否が悪辣といわねばならないいちばんの理由は、中国側が韓国側関係者へのビジネス契約を一方的に破棄した裏切り行為にあります。

彼らのクルーズ旅行は、寄港地でのバスを利用した上陸観光でのショッピングによる現地手配業者へのキックバックを前提として割安な料金に設定されているからです。この構造は今回のコスタ社の船に限った話ではありません。たとえ「愛国的」理由で下船拒否するとしても、中国側のクルーズ会社または乗客を集めた旅行会社は韓国の手配業者に相応の補填をすべきではないでしょうか。上陸していないのだから、その必要はないと言うことはできるのでしょうが、それでは無責任すぎます。これまで何年も、両者がお互いに協力して継続してきたビジネスモデルなのですから。

要するに、「愛国的行動」を中国メディアに称賛されたこの船の乗客は本来はありえない安いツアーに参加しているくせに、相応の代価を払わなかったということです。

最近は少なくなりましたが、以前はよく日本でも2万9800円上海3泊4日というような激安ツアーがありました。これは今日の中国人の訪日団体旅行と同様、現地のおみやげ屋に連れて行かれ、その購入代のキックバックで現地滞在費などが補填されるしくみなのですが、日本客の中にもみやげもの屋に行くのをパスする人がいました。これと同じです。これがツアー客の中のほんの一部であればともかく、全員が一斉にパスしてしまえば、このモデルは崩壊してしまいます。

ところで、この話はもっと込み入っています。もともと韓国の手配業者はキックバックの一部を中国側の旅行会社に支払っていた経緯もあるからです。手配業者は中国の旅行会社から乗客の手配を請け負う際に、通称「人頭税」と呼ばれる費用を支払います。中国側からすれば、乗客を韓国側に預けるから、せいぜい買い物をたくさんさせて、その上がりで手配費用はまかなってくれ。こちらは送客してやっているんだから、当然その一部をいただきますよ、というわけです。ところが、今回韓国側から渡すものがない以上、中国側も赤字となるはずです。

「中国人は旅行に行くと必ずたくさんおみやげを買う」。それを前提としたこのモデルのおかげで、中国のクルーズ旅行の料金は驚くほど安く販売されています。そう考えると、中国政府の報復により今後痛い目に遭うことになるのは、中韓双方の民間業者といえそうです。

これまで韓国では、2015年のMERS(中東呼吸器症候群)のときもそうでしたし、台風などの天候上の理由でクルーズ船が上陸できなくなることが多々ありました。でも今回は、事情が大きく異なります。

そして、3月15日以降、中国クルーズ船は韓国に寄航しなくなりました。

しかし、日本も「明日はわが身」かもしれません。というのは、中国側が寄港地側に求めていた「人頭税」が、韓国に寄航しなくなることで、日本側からだけ徴収されることになるからです。クルーズ客にはこれまで以上に日本で買い物してもらわないといけなくなるわけですが、「爆買い」の時代は終わり、そうはならないでしょう。でも、それでは今日の不当と思えるほど安価な中国のクルーズ旅行商品が成立しなくなるおそれがあります。

そうなると、中国の旅行会社も困ってしまいます。共倒れです。

まったく中国政府のやることは愚かにしか見えません。
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by sanyo-kansatu | 2017-03-24 13:10 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 03月 16日

日本を訪れる韓国人観光客が中国客を追い抜く勢いで増えています

昨日、恒例の日本政府観光局(JNTO)による「訪日外客数(2017 年2 月推計値)」が公表されました。

◇ 2 月 : 前年同月比7.6%増の203 万6 千人
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/170315_monthly.pdf

これによると「2017 年2 月の訪日外客数は、前年同月比7.6%増の203 万6 千人。2016 年2 月の189万1千人を14 万人以上上回り、2 月として過去最高となった」とあります。
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今回特筆すべきは、これまで2桁の伸びを続けていた訪日客数全体の前年同月比の伸び率が1桁に留まったこと。昨年がうるう年で1日減ったせいもあるとJNTOは言っていますが、台湾や香港、シンガポール、マレーシアは久しぶりに前年割れしています。英仏もそうです。訪日旅行市場はそろそろ頭打ちが近づいているのでしょうか? 

その一方、インドネシアからの訪日客が伸びています。ビジャーブを被るムスリム女性の姿を最近、よく見かけるようになったのも、こういうわけがあったのです。
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↑先日羽田国際ターミナルで見かけたムスリム系ツーリストたち

そして、訪日客のトップが中国から韓国に入れ替わったことも特筆すべきでしょう。

訪日韓国人数はわずか2ヵ月間で「1,225,400人」。前年比で「21.8%」も伸びています(一方、ここ数年トップだった中国は「1,139,700人」、前年比「17.0%」増と、こちらもまずますです)。
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いま韓国の旅行市場は大混乱となっています。中国からの団体旅行が急停止しているからです。

今日から中国人の韓国旅行がストップします(まったくひどい話ではないか!) (2017.3.15)
http://inbound.exblog.jp/26720093/

中国の旅行禁止措置 業界と自治体は活路模索に懸命=韓国 (聨合ニュース2017/03/14)
http://japanese.yonhapnews.co.kr/economy/2017/03/14/0500000000AJP20170314001400882.HTML

にもかかわらず、日本を訪れる韓国人観光客が空前の勢いで増えているのです。これはどうしたことでしょう。

JNTOのリリースでは、韓国客急増について以下のように分析しています。

「韓国は、前年同月比22.2%増の600,000 人で、2 月として過去最高を記録。韓国のアウトバウンド全体が増加傾向にある中、航空路線の拡大や訪日旅行商品の販売拡大・低価格化もあり、20%を超える好調な伸びを示した。当初、前年は2 月にあった旧正月(ソルラル)休暇が本年は1 月末に移行したことによる訪日者数の伸び悩みが懸念されたが、前年同月より約10万人増加し、これにより20 市場の中で訪日者数が最多となった」

でも、この説明からは、なぜ「韓国のアウトバウンド全体が増加傾向にある」のか、「20 市場の中で訪日者数が最多となった」理由については、よくわかりません。

今年の訪日旅行市場であらたに注目すべきは、韓国人観光客の動向といえそうです。なぜこれほど日韓関係が悪化しているこの時期、彼らは日本を訪れるのでしょう。こういうことなら、久しぶりに韓国に足を運んでみようかと思っています。

一方、韓国に客を送らなくなった中国からも多くの観光客が日本に来そうです。こうなると、ますます中韓両国の訪日旅行市場に占めるシェアが高まることになり、これはこれで気がかりといえなくもありません。訪日客の国別シェアは適度なバランスが大切で、特定の国、しかも相手と政治的に問題を抱えている場合、変動も大きく、リスクをともなう面があるからです。

まったくいつ何が起こるか、どう変化していくのか先が読めない。それが日本のインバウンド市場の難しさであり、面白さであるといっていいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2017-03-16 11:51 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 02月 10日

中国客の『君の名は。』聖地巡礼が起きたのも、岐阜県の地道な取り組みが実を結んだ結果

先日、ネットに岐阜県が舞台の『君の名は。』聖地巡礼の話が出ていました。実は、そろそろこの話が出てくる頃だろうと友人と話していました。

ここは岐阜県飛騨市、JR高山本線の飛騨古川駅だ。昨年8月に公開されて大ヒットを記録した映画『君の名は。』のヒロイン・三葉が住む山里のモチーフのひとつになったことで、「聖地巡礼」(アニメの舞台となった土地をファンが実際に訪ねる旅行)の観光客が増加している。

作中で主人公が利用した図書館のモチーフになった飛騨市図書館も「巡礼地」のひとつだ。飛騨市によると、『君の名は。』展示がおこなわれている同図書館内で写真撮影を申請した人数は、昨年8月26日から12月31日までの約4ヶ月間で3万6200人に達した。

そのなかに少なからず含まれているのが、台湾・香港・中国など東アジア各国からのファンである。特に昨年12月に中国で作品公開がはじまり、同国の日本アニメ映画興行記録の歴代1位となる大ヒットを記録したことで、中国大陸から飛騨古川を訪れる人も増えた。


『君の名は。』聖地に“リア充”中国人集団が殺到中(文春オンライン2017/02/08)
http://bunshun.jp/articles/-/1325

この記事によると「春節期間前後の中の1月25日から2月3日まで、市内の『まちなか観光案内所』を訪れた外国人客の合計は566人」。内訳は以下のとおり。

台湾人……218人
中国人……134人
香港人……134人
シンガポール人……28人
タイ人…‥25人
韓国人……15人
マレーシア人……12人

やっぱり、台湾客がいちばん多かったのですね。映画の公開が早かったこともあるでしょうけれど、この種の話題にいち早く食いつくのは、台湾の人たちです。

興味深いのは「食堂のノートに残された正しき「巡礼」の足跡」という話です。

「市内の食堂に置かれたメッセージノートのページをめくると、英語や中国語・韓国語・広東語の書き込みも目立つ。自作のイラストを描いている人もおり、正しき「聖地巡礼」の姿を感じさせた」

そして、実際の書き込みの写真が載っています。中国のネット上にはこの種の書き込みはあふれていますが、生書き込みを見ることは少ないので、面白いです。

記事はこう結ばれています。

「爆買い現象が一段落し、さらに今年の春節では中国人ツアー客の大幅な減少を伝える報道も出ている。そんななか、地方のインバウンド誘致の新しいパターンとして、飛騨古川の事例はなかなか興味深い話と言ってよいのではないだろうか」

全体にちょっとはしゃぎすぎのようにも思えますが、いま日本各地で起きていることをわかりやすく伝えています。

というのも、この種の中国客の「聖地巡礼」の話題は、これまでも『スラムダンク』の鎌倉高校とか前例はいろいろあるからです。

「スラムダンク」の舞台『鎌倉高校前駅』―中国・台湾観光客のやりすぎ記念撮影(JCASTテレビウォッチ2015/8/12)
http://www.j-cast.com/tv/2015/08/12242532.html

先月、本ブログで紹介した台湾人監督による短編映画がきっかけで、北海道の無人駅を訪ねる中国客が現れて、ちょっと困っているという一件も、「聖地巡礼」系の話でしょう。

北海道のローカル駅の線路に入る「危ない訪日客」が出没する理由がわかってしまいました (2017年 01月 14日)
http://inbound.exblog.jp/26555234/

さて、アニメヒット作のおかけで、にわかに岐阜県の注目度がアップしているように思われた方もいるかもしれませんが、実はそれだけではなかったという話を簡単にしておきたいと思います。

岐阜県のインバウンド誘致の取り組みには、以前から定評があったんです。背景には、岐阜県の弱みがありました。端的にいうと、国際線が乗り入れている空港がなく、都市部から時間がかかるというアクセスの悪さです。その一方、飛騨高山の古い街並みとそこに住む人々、世界遺産の白川郷のような他にはない強みがありました。

大事なのは、その弱みを逆手にとって、自分なりのやり方でプロモーションをしようと考える人材が岐阜県にはいたことです。その方が始めたのは、地元が十分受け入れ可能で、本当に来てほしい層を呼び込むのに有効なSTPマーケティング(セグメント、ターゲティング、ポジショニングを設定した手法)の具体的な実践でした。

その一連の話をぼくは最近書いた日経BPネットの以下の連載で紹介しています。

知名度がなくアクセスも悪い観光地をどうプロモーションするか(日経BPネット2016年12月27日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/122600027/
知名度がなくても始められる「旅行体験共有会」という手法(日経BPネット2017年01月30日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/012700028/
個人旅行の時代には口コミの核になるファンを集めよう(日経BPネット2017年01月31日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/012700029/

記事では、岐阜県が2010年頃から地道な取り組みをしていたことを紹介しています。岐阜県の担当者と二人三脚でプロモーションに取り組んだ上海側のPR会社の日本人がどういうことをやってきたか。ぜひ目を通していただけるとさいわいです。

こういう下地があってこそ、今回の話につながったのだと思います。

いま岐阜県が、このテーマで記事に出てくる「旅行体験共有会」をやったら盛り上がりそうですね。
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by sanyo-kansatu | 2017-02-10 07:42 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 02月 08日

アパホテルとデモ騒動、これじゃ中国の為政者に踊らされすぎです

この週末、新宿で例の「アパホテル問題」を発端にしたデモ騒動が起きました。

在日中国人「反アパホテル」デモ 対抗団体も登場、休日の新宿が混乱(産経ニュース2017.2.5)
http://www.sankei.com/affairs/news/170205/afr1702050015-n1.html

ホテルチェーンのアパホテルが「南京大虐殺」などを否定する書籍を客室に備えているとして、中国当局が猛反発している問題で、日本在住の中国人らが5日、東京都新宿区で同ホテルへの抗議デモを実施した。現場周辺にはデモに抗議する団体メンバーも多数詰めかけ、休日の新宿は混乱した。

デモを行ったのは、このデモのために結成された日本で生活している中国人企業経営者、会社員らで作る「中日民間友好委員会」。約300人(主催者発表)の参加者が午後3時から、新宿中央公園から新宿御苑に近い同ホテル周辺まで行進した。「中日友好」「民族の尊厳を守る」などと書かれたプラカードや横断幕を掲げながら道路を歩いたが、シュプレヒコールを上げることはなかった。

デモには抗議する右翼団体の構成員らが併走。「JAPANが好きだ」と書かれた横断幕を奪い取ろうとしたほか、デモに飛びかかろうとして、警戒に当たっていた警察官に静止される場面が何度も見られた。

デモを主催した来日10年になるという中国人女性は「(周囲の)みなさんにはご迷惑をおかけした。今回声を上げたのは勇気ある中国人だ」などとコメント。年齢や名前などは明らかにしなかった。


騒動の始まりは「ニューヨークに住む米国人女子大学生Katさんと中国人男子大学生Sidさんのコンビ「KatAndSid」が15日夕方に投稿」した「告発」でした。それにしても、アンチデモの連中の暴走のため、まるで中国人のデモ関係者のほうが被害者のように見えてくる始末ですが、彼らもわざわざ垂れ幕に「JAPAN」と書くあたり、なんだか真意がすっきりしませんね。

これらの一連の件について、以前ぼくは中国が日本に限らず対外的に繰り広げてきた「宣伝戦」の一環であると書きました。その目的は、短期的には中国の歴史認識を否定する私企業(標的)に対してなんらかの経営的な打撃を与えることでしょうが、在日中国人まで巻き込んで騒動を拡大することで、結果的に、中国の主張を広く喧伝することでしょう。でも、こういうことはこれまでもしばしばあったことです。

中国SNSでアパホテル炎上 春節はどうなる?(2017年01月17日)
http://inbound.exblog.jp/26563241/

ささやかな記事ですが、BBCが動画付きでこれを報じています。

アパホテルに抗議、在日中国人らが東京でデモ(BBC2017年02月6日)
http://www.bbc.com/japanese/video-38877494

ビジネスホテル大手アパグループが日中戦争時の南京大虐殺を否定する本を客室に置いていることをめぐり、在日中国人らが5日、東京・新宿で抗議デモを行った。

本はアパグループの元谷外志雄代表が執筆したもので、大虐殺は起きていないと主張している。本の客室設置をめぐっては、中国政府が批判したほか、中国国内の予約サイトがアパホテルをボイコットするなどし、反発が広がっていた。


今朝、ネットを見たら、中国専門家の福島香織さんが今回の騒動についてこう書いていました。「結果的には、中国やアンチアパホテル側にとっていい感じの映像や記事が山のように出来上がった」。

「アパホテル問題」はスルーするに限る
中国の「公共外交」に踊らず、日本の魅力を示せ(日系2017年2月8日ビジネス)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/020600087/

まったく同感です。彼女は言います。

「それよりも、南京事件80周年の今年の春節前に、中国の動画サイトや微博で中国人向け投稿を頻繁にしているKat&Sidという米国人女性と中国人男性の二人組が、アパホテルの歴史本の存在を今更のように投稿して、批判し、中国のネットで炎上気味に拡散して、中国政府が旅行代理店や国民にはっきりと、アパホテルを使用するなと通達した一連の流れに、なにかしらの偶然とはいいがたいものを感じる。

もちろん、Kat&Sidが、中国共産党の手先だというつもりは毛頭ない。しかしながら、中国がこれまでとってきた、パブリックディプロマシー(公共外交)や歴史戦、国際世論戦の手法を思い返すと、最初のきっかけが偶然だとしても、中国当局はすぐさま戦略的に有効な展開を考えるものだ。そして、また日本のメディアも活動家も面白いようにそれに呼応してくれる」

さらに彼女は、中国の近年のパブリックディプロマシーの成果として「中国公共外交発展報告(2015)」の内容を紹介しています。その狙いは「安倍晋三の軍国主義復活を喧伝し、日米を離反させ、国際社会で日本を孤立させること」でした。中国出張中、テレビニュースを見ていると、今年に入っても日本に関する報道はそのような内容でほぼ占められていることを知るとき、まったく徹底していると感じます。中国メディアの特徴は、安倍首相が自衛隊といるときの映像を繰り返し使うことです。
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そして、今回の発端に象徴されるように、中国は今後ますますSNSを使った対日世論工作や国際世論形成に力を入れていくことになると指摘しています。

「こういう風に今年、中国が戦略的忍耐でもって、慎重に国際世論戦を展開してくるというなら、日本も慎重に迎え撃つしかない。右翼活動家の罵詈雑言による短絡的なカウンターデモは、はっきり言って、こうした公共外交、国際世論戦にとって日本の足を引っ張る以外の何者でもなかった」

ですから、今回の「カウンターデモ」は、中国の為政者に見事に踊らされてしまったも同然なんです。

最後に、福島さんは書きます。「日本の公共外交は、実のところ中国が歯噛みするほどの底力がある」。

そうなのです。いま多くの中国客が日本を訪れ、美しい風景や食事、サブカルチャーも含めた日本の多様な側面をSNSで広めてくれています。むしろ、こうしたことが中国の為政者に対するカウンターになるはずです。それ自体を目的とするのは本末転倒ですけれど、そのことに自覚的であってもいいと思います。

これからも彼らは私たちの嫌がることをあの手この手で仕かけてくるでしょう。今回は私企業に対する工作でもあり、義憤をおぼえた人も多かったのかもしれませんが、そうだとしたら、相手に乗せられたという話です。次回こうしたことが起きたときは、もう少し頭を冷やして、最も効果のある対応をすべきだと思います。それだけの手持ちは日本には豊富に揃っているのですから。

それからもうひとつ。日中の民間同士がいがみ合うことも、中国の為政者の思うつぼだということを頭に叩き込んでおきたいところです。民意によって選ばれたわけではない中国の為政者と民間人は区別しなければなりません。
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by sanyo-kansatu | 2017-02-08 07:54 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 02月 07日

中国団体客が減って困る人、ほくそ笑む人?

今年の春節休み、ぼくは中国黒龍江省ハルビンの氷雪祭りを観に行っていました。LCCのスプリング・ジャパンが成田・ハルビン線を就航し、その初便に乗ることになったからです。この写真は、零下20度以下に冷え込んだハルビン国際空港に着陸し、初就航ということで歓迎垂れ幕が用意されていたときのものです。ピリピリと肌を刺すような寒さでした。
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189人乗りのボーイング737-800機のハルビン線は行きも帰りも満席で、往路の乗客の多くは日本在住の黒龍江省出身者の帰省客で、日本人客は10数名といったところ。もっとも、復路は一部日本ツアーに参加した中国の団体客もいました。
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黒龍江省出身者といえば、都内の在日中国人経営の中国料理店に出稼ぎとして数年単位で働いている中高年の女性たちのイメージが浮かびます。実際、今回乗ったハルビン線には、家族客もいましたが、それ以上に中高年の女性の姿が多く見られました。かつてはなかば出稼ぎ労働者だった彼女たちが、いまやレジャー目的の観光客として日本を訪れるようになったことは、時代の変化を感じさせます。

ところで、メディアは今年の春節休みの中国団体客が減っていると報じています。

春節も続く中国人客減 富士山麓の土産物店など悲鳴「団体客が前年の半分以下に」(産経news2017.2.2)
http://www.sankei.com/life/news/170202/lif1702020024-n1.html

1月27日から始まった中国の旧正月にあたる「春節」休暇は、2日で幕を閉じるが、山梨県の富士北麓エリアでは宿泊施設や土産物店から「客数が激減した」「爆買いがなくなった」と悲鳴が上がっている。県によると、中国人の宿泊者数は昨年10月、前年同月比49%減の3万4640人と3年2カ月ぶりにマイナスに転じ、11月も3万820人(同32%減)と落ち込みが続いている。春節期間中、日帰り客も多い大規模施設では例年並みに集客を確保したものの、“爆買い”を含め、中国人の姿はめっきり減っている。関係者は今後もこの傾向が続くのか、気をもんでいる。

中国人客の減少の影響は春節にも出ている。外国人客が多い河口湖畔のレストランでは、「団体客が前年の半分以下に減った」と嘆く。土産物店を併設する郷土料理店も「理由は分からないが中国人客が減っているのは確実。春節後の見通しはつかない」とため息をついた。

これらに対し、富士急ハイランド(富士吉田市)では中国人観光客向けの恒例の「春節イベント」を開催中。富士急行は「春節の来場者数は過去3年、横ばいで推移しており、今年も前年並みでは」と見込む。

外国人客が宿泊者総数の9割近くを占める富士河口湖町のホテルのフロント担当者は、「中国人団体客が前年同期と比べ約2割減。その分は個人客を増やして補った」と苦労を明かした。

ただ、同ホテルも昨年11月以降、中国人客を中心に宿泊客数の減少が前年比1割強の水準で続いた。「春節後は以前の状況に戻ると思う」と懸念する。

富士河口湖町観光連盟は「団体から個人へのシフトは昨年の春節から続く傾向だ。店舗でも“爆買い”が見られなくなっている」と指摘する。

山梨県観光企画課は「中国経済低迷による旅行離れや静岡空港の中国路線の大幅縮小などが影響している」と分析。「要因は複合している。過去のような伸びを期待するのは難しい」と今後を厳しく見通している。


富士河口湖町といえば、中国団体ツアーのゴールデンルート上に位置し、富士山観光の拠点のひとつとなる温泉郷でした。もう7~8年前ですが、中国団体客向けの温泉ホテルを始めた経営者に話を聞きにいったことがあります。当時から河口湖温泉では一部のホテルや旅館しか中国団体客の受入れをしていませんでした。むしろ山梨県では石和温泉郷が中国団体客の受け皿として知られています。こちらの入りはどうだったのでしょうか。

こんな記事もあります。この筆者は毎回興味深い上海事情を報告してくれますが、今回に関しては若干煽り気味に感じます。

宿泊業界大混乱、中国の団体旅行客はどこへ消えた?
キャパ拡大の設備投資は完全に裏目(JBPRESS2017.2.7)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49099

記事にはこうあります。「東京~富士山~大阪を結ぶ「ゴールデンルート」といえば、訪日客が最も集中する行程だ。ここでも異変が起きていた」。

「現地のホテルに問い合わせてみたところ、次のような回答が返ってきた。「今年の春節は、中国の個人客は何組かいらっしゃいますが、団体のお客様はいないのです」 過去には30~40名ほどの中国からの団体客を扱ったこともあると言うが、「なぜか今年の春節は来ない」のだという」。

そりゃあそうでしょう。中国の訪日客の客層が団体から個人へ移行する動きはすでに2015年から始まっていました。

2015年の上海の訪日客、個人が団体を逆転 その意味するものとは? (2016年04月08日)
http://inbound.exblog.jp/25638388/

上海市場に限れば、すでに2015年に初めて団体客の数を個人客が上回っていたのです。そうなった背景には、15年1月の日本政府による個人マルチビザ取得要件の緩和がありますが、それをさらに加速させたのは、以下のような、いかにも中国的な事情がありました。

上海で個人旅行化が進んだ理由は貧乏人だと思われたくないから!? (2016年04月10日)
http://inbound.exblog.jp/25647061/

そして、個人化への流れはすでに半年遅れくらいで、地方の主要都市でも始まっていました。

中国内陸都市でも若い世代を中心に個人旅行化の機運が起きている(2016年03月09日)
http://inbound.exblog.jp/25481978/

その意味では、今年の春節休みの中国団体客の減少はすでに予測されていたものだったのです。

同記事は、その最も顕著な例として、静岡空港の中国路線が16年秋以降、一気に減ったことを挙げています。

「2014年7月末に3路線13便だった中国路線は、2015年7月末には13路線47便にまで拡大した。静岡空港における国際線の搭乗者数は40万人目前に迫った。ところが2016年は一転して減少し、約28万人にとどまった。減少の理由はほかでもない、中国からの団体客が減ったためである。

静岡県文化・観光部が行った調査によれば、2015年に静岡空港を利用した中国人客は97%が団体ツアーの客だったという。だが、そうした団体ツアーの利用客がめっきり減ってしまった。

その結果、2016年は中国からの旅客機の運休が相次いだ。結局、静岡空港では、13あった中国路線が上海経由武漢、寧波、杭州、南京の4路線だけに縮小してしまっている」

この点については、本ブログでも、ちょうど1年前に報告していました。ぼくは静岡空港を訪ね、関係者に話を聞いていましたが、彼らも当時はこれほど急増したことに疑心暗鬼のところもありました。ですから、16年に入って急減したことも、あり得ることとある程度予測していたと思います。

静岡空港行きの中国路線はなぜ1年でこんなに増えたのか? (2016年01月25日)
http://inbound.exblog.jp/25298380/

富士山静岡空港
http://www.mtfuji-shizuokaairport.jp/

同記事では「富士山静岡空港もその1つで、「急激に増えた中国人客により、手荷物検査や税関などで対応に苦慮した」(同観光部)という。そこで昨年11月より、ターミナルビルの増改築に乗り出している」「しかし、その目論見は早くも頓挫している。中国人の団体客が姿を消した今、「投資を回収できるのかという深刻な問題に直面している」(前出のホテル経営者)」と、中国団体客急増に備えて投資をした一部のホテルや同空港の「目論見は早くも頓挫」したと決めつけています。

まったく訪日中国旅行市場というのは、急に増えたり減ったり、人騒がせなところがあります。でも、こうしたアップダウンは、11年の東日本大震災、13年の「尖閣諸島国有化」への反発などで、これまでも数年おきに起きていたことです。ですから、いまさら「目論見は頓挫」というのはどうでしょう。

それにしても、2015年に中国の地方都市から一気に日本路線が拡充したものの、その後運休が相次いだ理由には、やはり中国の地方経済の問題がありそうです。要するに、地方都市では思ったほど団体客が集められないのでしょう。

さらにいうと、いまの中国の旅行会社も、特色もなく安いだけの、しかもキックバックモデルに依存した団体ツアーをいくらやっても儲からないので、以前のようなやる気を失っていることも考えられます。個人化とオンライン化が進んでいることが背景にあります。

こうして中国団体客が減ることで困る人たちも大勢いると思いますが、その一方でほくそ笑んでいる人たちもいるように思います。たとえば、不法ガイドやブラック免税店への対処を問われている監督官庁の関係者。要するに、これらの問題は団体客が多いから発生しているわけで、それが減れば問題も勝手に沈静化していくかもしれないからです。そう簡単にはいかないと思いますけれど。

それはともかく、今年の春節休みに中国客はどのくらい日本に来たのでしょうか。中国の海外旅行市場の専門家によると、今年の冬もPM2.5は猛威を振るっており、海外逃避旅行は増えると言っていました。方面としては、台湾、香港、韓国は政治的な理由で減少する一方、タイや日本が増えるとのことでした。

今年の春節休みも「肺を洗う旅」の中国客はどっと来るのだろうか? (2017年01月13日)
http://inbound.exblog.jp/26552082/

実際のところ、どうなのでしょう。今月中旬に、日本政府観光局(JNTO)が1月分の各国別訪日数を公表しますので、それを待つことにしましょう。
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by sanyo-kansatu | 2017-02-07 11:17 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)