ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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カテゴリ:気まぐれインバウンドNews( 114 )


2015年 06月 17日

観光をマーケティングに活かせない日本の製造業こそ問題

「訪日客のインバウンド消費が日本経済を救う」(ダイヤモンドオンライン)式の論調やそれを後押しする政府の統計発表などが続いています。

6月に入り、政府発の訪日旅行拡大効果を伝える強気の発表続く
http://inbound.exblog.jp/24579303/

「○○が日本(経済)を救う」といったタイトルの立て方は、一種のノリみたいなもので、そんなに深く考え練られたものではないのでしょうが、「インバウンド消費への対応が経済復活の柱の一つになるだろう」といったあたりさわりのない論調に対しても、世の中には反論したくなる人がいるものです。

アホノミクスと呼ばせないために必要なのは現実的エネルギー・環境政策 金融、観光は日本経済成長の原動力には力不足(WEDGE Infinity2015年6月11日)
http://blogos.com/article/116169/

反論の理由はこうです。

「観光産業が作り出す付加価値額が相対的に少ないとの問題もある。昨年の過去最高の訪日観光客1341万人が日本で宿泊、外食、買い物、交通費に使った金は約2兆円だった。誘発効果もあり経済成長には寄与するが、大きく経済を引き上げ、1人当たりの平均給与が上がることにはならない。ちなみに製造業の売上額は約390兆円ある。

『「里山資本主義」では持続可能な社会をつくれない』で触れた通り、日本では観光・外食産業が作り出す1人当たりの付加価値額は大きくないからだ。製造業の1人当たり付加価値額約750万円の半分にも達しない。付加価値額、つまり稼ぎが少ないので、1人当たり給与も大きくない。訪日外国人を増やし、消費する金額を伸ばせばよいとの考えもあるが、この分野で大きな成長を作るには限度がある」(一部抜粋)。

もっともな話です。2014年のインバウンド消費額が2兆円超で、訪日客が2000万人となる近い将来には4兆円を目指すというわけですから、日本の500数十兆円というGDPの規模からすると、ささやかな数字です。日本の経済を語るうえで、わずかな日数を滞在するにすぎない外国人の財布をあてにするのは、もとより限度のある話です。

ですから、これは何をいまさらというような話であって、問題なのは、この筆者も述べるように、日本の製造業がかつての勢いを失っていることでしょう。日本の経済指標で右肩上がりに伸びている数少ないマーケットにケチをつけている場合ではないはずです。

「アジア諸国における日本製品のシェアは下落を続けている。図-4はアジアの主要国の輸入における日本のシェア推移を示している。どの国でも波を描きながら日本のシェアは低下を続けている。中国、韓国の進出がありシェアを落としている側面はある。しかし、他の主要先進国との比較では、日本の輸出の伸びは相対的に低い状態にある。図-5が示すように、ドイツを筆頭に、他の先進諸国は輸出を日本以上に伸ばしている。

なぜ、日本の輸出は相対的に伸びなかったのだろうか。日本企業だけ海外生産が増え空洞化が起こったためだろうか。それは正しくない。失われた20年間で日本の製造業が随分力を失くし、成長産業で他の先進諸国に遅れを取ったからだ。海外での製造を含め日本の製造業が力を失くした20年だったのだ」(一部抜粋)。

この筆者によると、日本の製造業不振と輸出競争力の低下の理由は、ひとことでいえば、デフレにあるとのことです。

「日本の製造業がこれから目指すべきは、このアジアの巨大な需要を満たすための供給能力を整えることだが、付加価値額が低い製品は現地で生産を行い、付加価値額が高い製品を国内で製造することを考えるべきだ。アジアの需要を掴み日本国内の製造業の成長を図ることにより、結果として給与増も可能になる。そのためには、企業が設備投資と研究開発の意欲を再度持つようになるデフレ脱却がまず必要になる。アベノミクスの方向は間違っていない」(一部抜粋)。

デフレゆえに、設備投資と研究開発が進まなかったことが問題だというわけです。

その理屈の是非や妥当性はともかく、この人は「日本の製造業がこれから目指すべきは、このアジアの巨大な需要を満たすための供給能力を整えることだ」と言っています。少子高齢化が進む日本の内需を拡大させるのは難しい。だから、アジア市場にモノを売るべきだというわけです。

だとしたら、もっと観光(=アジア新興国の消費者動向)をマーケティングし、商品企画や開発に活かすべきでしょう。この20年間、さまざまな理由から、アジア新興国の消費マーケットの実情をふまえたマーケティングに基づく商品企画や開発がうまく機能しなかったことこそが、日本の製造業不振と輸出競争力の低下の理由ではないかと思うのです。頼りにしていたコンサルティング会社が用意したマーケティング資料の多くも、製造業からみれば、実感をともなう内実を備えていなかったからではないでしょうか。それゆえモチベーションも強く発揮されなかったのでは。

日本のインバウンド振興には3つの意味があるとぼくは考えています。

まず、訪日外客による直接のインバウンド消費。これは前述したように、伸びているといっても、経済全体から見ればささやかなものです。ただし、これまで日本に存在していなかった新しい消費者(=外国客)が現われていることは、製造業にとっても製品企画や開発のモチベーションとなりうるはずです。

ふたつめの意味が、まさにそれ。日本をショーウィンドに見立てて、あらゆる商品やサービスをアジア新興国を中心とした消費者に知ってもらい、彼らのニーズを探ることで、製造業の商品開発に活かすことです。いまや日本に大挙して訪れるアジアの消費者は、かつて存在した日本の製造業の送り出す商品規格との質的・価格的ミスマッチングを埋めることができる存在といえます。

三つめは観光プロモーションのもつパブリック・ディプロマシー的な意味です。

そういう意味でも、観光や金融、通信を製造業と切り離して論ずることは賢明ではないといえるでしょう。むしろ、それらともっと連動させるべきではないか。そのように考えると、世の中がもっと面白く見えてくると思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-06-17 11:15 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 06月 12日

6月に入り、政府発の訪日旅行拡大効果を伝える強気の発表続く

6月に入り、訪日外国客増加の統計を背景にした政府発の強気の発表が連日のように続いています。

ニッポン、観光で稼ぐ 消費倍増年4兆円・雇用40万人増 政府新目標(朝日新聞2015年6月6日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11793788.html

昨年の外国人旅行者による国内の消費額が2兆円超えをしたことから、倍増を目指すというものです。

「4兆円は、旅行中の宿泊費や買い物代、食事代などを合計した金額。14年から倍増させる目標だ。目標に据える4兆円は、日本の鉄鋼製品の輸出額(14年)に匹敵する。観光庁の試算では、消費額が2兆円増えることで、地方を中心に40万人の新しい雇用が生まれる。

この目標を実現するため、消費税が免除になる「免税店」を、東京・大阪・名古屋の3大都市圏以外で20年までに今の3倍の2万店に増やす。

売り込む商品も工夫をする。外国人におすすめの商品を認定して、地域ごとの「ブランドマーク」を付ける。

政府は、外国人旅行者を20年に2千万人に増やす目標を立てているが、数年前倒しで達成できるとみている。今後も、今月中旬にブラジル、モンゴルも早期にビザの要件を緩めるなど、外国人旅行者が入国しやすくする方針だ」(一部抜粋)。

さらに興味深い報道は、訪日外国人効果がGDP成長に寄与しているというものです。その要因として、設備投資が増えたことにあり、背景のひとつに「訪日外国人の増加でホテルの改修」があったことに触れています。

GDP、設備投資増え上方修正 年率換算3.9%増に(朝日新聞2015年6月8日)
http://digital.asahi.com/articles/ASH677TH7H67ULFA008.html

「内閣府が8日発表した2015年1~3月期の国内総生産(GDP)の2次速報は、物価の変動をのぞいた実質成長率が、前期(14年10~12月)より1・0%増だった。年率換算では3・9%増。5月20日発表の1次速報では年率2・4%増だったが、企業の設備投資がこのときの想定より大きく伸びたことから、大幅な上方修正となった。プラス成長は2四半期連続。

上方修正の最大の要因は、設備投資が1次速報の前期比0・4%増から、2・7%増へと大きく修正されたことだ。1次速報の後に発表された「法人企業統計」などをもとに推計し直した結果、自動車関連向けの生産能力を上げた電気機械や、物流センターの建設があった卸売業、訪日外国人の増加でホテルの改修があったサービス業などで投資が伸びていた」(一部抜粋)。

最近、ぼくは訪日客の増加で日本のホテルシーンがどう変わってきたかというテーマで取材を続けています。ここ数年、特に都内のホテルの新規開業ラッシュやリノベーションによる新種の宿泊施設が次々に生まれている事情を知っていたので、なるほどと思いました。いまの時代、マンションよりホテル投資が有望だと考えられているのです。

そして政府は6月9日、2015年版観光白書を公開しました。

「平成26年度観光の状況」及び「平成27年度観光施策」(観光白書)について
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000252.html

あるネットメディアは、国内の宿泊旅行の状況についてこう報じています。

観光白書2015、宿泊施設の客室稼働率が過去最高、国内旅行は減少も外国人増加で宿泊者数はプラス (トラベルボイス2015年6月10日)
http://www.travelvoice.jp/20150610-44369

「2014年の国内旅行で日帰り旅行が前年比1.8%減の3億449万人、宿泊旅行が4.0%減の3億771万人に減少。2011年から続いていたプラス推移はマイナスに転じた。この要因として観光白書では、消費増税や物価上昇、天候不順等の影響を上げている。

ただし、延べ宿泊者数は1.4%増の4億7232万人泊と増加。日本人の減少(1.1%減の4億2750万人)を外国人(9.5%増の4480万人)が補っており、2014年の国内旅行市場の成長はインバウンドが牽引したことが明らかとなった。

全国の客室稼働率も58.4%と調査開始以来過去最高を記録。特に東京都は2011年の68.0%から81.5%、大阪府は68.2%から81.4%と8割を超えた。その一方で47都道府県の稼働率の標準偏差は7.7%から10.2%に拡大し、地域差が広がったことを指摘している」(一部抜粋)。
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これらの統計からいえるのは、いまや国内の宿泊者の10人に1人は外国客であること。東京や大阪などの大都市圏での客室稼働率が過去最高になっていることです。地方都市も稼働率は上がっているものの、そのぶん大都市圏との格差があることもわかります。

2015年版観光白書では、他にも外国客による消費の実情について詳しく解説しています。

その内容については、またいつか検討してみようと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-06-12 11:20 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 06月 02日

アパグループの都心出店攻勢は驚異的。今年も続々開業予定

宿泊特化型ホテルチェーンのアパホテルがここ数年、都心に続々出店しています。

特にぼくの仕事場のある東新宿では、2012年11月開業の「アパホテル東新宿駅前」(122室)を皮切りに、14年7月の「AH新宿御苑前」(411室)、14年12月の「AH東新宿 歌舞伎町」(165室)とすでに3軒が開業していますが、今年9月には同グループの東京旗艦店となる28階建ての「AH新宿 歌舞伎町タワー」(620室)が開業予定です。また先ごろ17年2月に「AH東新宿 歌舞伎町Ⅱ」(129室)の計画も発表されました。東新宿だけで5軒のグループホテルが営業することになるわけです。

同グループが攻勢をかけているのは、新宿だけではありません。以下の「アパグループ 東京都心ホテルMAP(2015年5月16日現在)」によると、すでに都心に30軒のホテルが営業中で、直近では今月24日の「AH浅草橋駅北」(161室)開業をはじめ、東京オリンピック開催の2020年までに14軒の開業が予定されているといいます。
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このMAPをみると、新宿、東京・銀座、上野といった東京のホテル地区に集中的に出店すると同時に、外国客に人気の観光地に近い東部地区により多く展開されていることがわかります。

こうした出店攻勢は、2010年に同グループが発表した中期5か年計画「SUMMIT 5-Ⅱ(第二次頂上戦略)」の中で描かれていたものです。

「SUMMIT 5-Ⅱ(第二次頂上戦略)」
http://apa.co.jp/apa_cms/?p=1152

同計画では、以下のような目標が設定されています。

●東京23区内「アパホテル」客室数10,446室(建築・設計・計画中)。
●日本最大2,400室規模アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉計画。
●マンション「Premiere」シリーズ。東京や大阪の都心部では「CONOE」
●訪日外国人の受入強化として館内サインやホームページ等の多言語化。

●ホテル部門数値目標
①客室数10万室(自社48000室、FC24000室、パートナー28000室)
②2020年度ホテル部門売上高1,200億円
③アパカード会員1,500万人
④訪日外国人の集客強化(2020年年間宿泊者数250万人)

これをみると、アパグループが驚異的ともいうべきスピードで都心に出店攻勢をかける理由のひとつに、急増する訪日外国人マーケットがあることがわかります。またその受け入れ態勢も進めていることがうかがえます。

観光庁の宿泊旅行統計(2014)によると、全国の宿泊者(延べ)に占める外国人は前年比33.8%増の4482万人で、9.5%になるそうです。

宿泊旅行統計(2014)
http://www.mlit.go.jp/common/001084394.pdf

つまり、日本国内のホテルを利用する10人に1人は外国人という時代になっているのです。1990年代初頭のバブル崩壊以降、右肩下がりで減少を続けてきたホテル宿泊数を外国人の伸びがカバーしていることがわかります。特に、東京や大阪などの大都市圏のホテル利用が圧倒的に伸びていて、春や秋の旅行シーズンには客室不足が叫ばれるほどです。

こうした時代の流れを先読みした出店攻勢が見事に奏功しているアパグループですが、代表の元谷外志氏は独自の成長戦略についてあるネットメディアで次のように語っています(以下は簡約したもの)。

アパグループ 元谷外志雄代表に長期成長戦略を聞く
http://sogyotecho.jp/motoya-interview/

●アパグループのホテルは高級感、利便性、使い勝手の良い設備とサービスを兼ね備えた「新都市型ホテル」と呼ぶべきもの。

●企業には以下の「三段階成長論」がある。

第1段階:信用累積型経営 信用金庫で全国初の長期住宅ローン制度「頭金10万円で家が建つ」。注文住宅→建売住宅→マンション→ホテル

第2段階:資産拡大

第3段階:自己増殖 2010年から始めた「アパの頂上戦略」(5年間で東京都心部においてホテル所有数No.1・マンション供給数No.1という目標を掲げ、それに向かって事業を進めているアクションプラン)。4年半で東京の一等地に56件の物件を買い、ホテルとマンションに。減価償却で節税し、償却費と税引き後の利益を集めて次のホテルを作るので、借金があまり増えず、収益力の高いホテルを着実に建てられる。

従来のシティホテルに付きものだった料飲部門をそぎ落とし、客室の付加価値を追求する「宿泊特化」業態は、コンパクトなスペースながら満足度を高める客室設計とIT化を進めることが特徴です。アパグループはまさにこの特徴を活かして出店を伸ばしてきたといえますが、実はこれは日本国内の利用者はもちろんのこと、外国客のニーズに沿ったものだったといえます。さらに、前述のMAPからも立地の見極めが絶妙だったことは明らかです。

実は、先日あるビジネス誌の取材で元谷外志会長にインタビューする機会がありました。そこでは相次ぐ新宿地区への出店の狙いや外国客の集客に関する独自の取り組み、実際の宿泊客の国籍や利用状況などについてうかがっています。その話はあらためて別の機会にさせてもらいます。
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2014年7月の開業以来、連日満室状態が続くというアパホテル新宿御苑前店
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by sanyo-kansatu | 2015-06-02 08:48 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 04月 03日

今年、45年ぶりに訪日外国人数は出国日本人数を超えるだろうか?

連日、花見に訪れる中華圏を中心とした外国人旅行者のニュースが報じられています。

今日の朝刊にも「中国人客に臨時ビザ 『花見で訪日』急増 用紙切れ懸念」(朝日新聞2015年4月3日)とあり、いったいどういうことかと思ったら、中国の日本国大使館と総領事館が「(桜や富士山をあしらった色刷りの通常のビザ用紙ではなく)3月11日から図案のない臨時ビザを用意した」ということでした。

何か特別な措置でビザを臨時に緩和した、ということではありません。訪日客急増で事前に用意していたビザ用紙が足りなくなったという話でした。それだけ増えているぞ、ということを強調したかったのでしょう。

同紙によると「訪日観光に必要なビザの発給数は昨年から『未曽有の増加傾向』(外務省領事局)が続く。同省の統計によると、今年3月に観光ビザで来日した中国人は昨年3月の2・5倍にあたる約26万8千人。昨年1年間の約152万人に対し、今年1~3月だけで約69万人が訪れている」といいます。

ここで言及されている数字は観光ビザで訪日した中国人の数です。つまり昨年の訪日中国人数が約240万人でしたから、観光ビザによる訪日が152万人だとすれば、残りの約90万人は公務や民間のビジネス出張、在日中国人や留学生の往来、親族訪問などだったわけです。もちろん、今年はこうしたもとより日本となんらかの縁がある中国人の往来も増えているには違いありませんが、それをはるかに上回る勢いで、日本は初めて、またリピーターとなって訪日旅行を楽しむ観光客が増えているということでしょう。

おかげで「百貨店・ホテル、商機」(朝日新聞15年3月31日)ということですから、ありがたいことだと思います。先月18日に日本政府観光局(JNTO)がリリースした訪日外客動向をみると、ちょっと気が早いですけど、今年はついに訪日外国人数が出国日本人数を超えるかもしれない、と思ってしまいました。もしそうなれば、1970年以来の45年ぶりのことです(※1970年の訪日外国人数85万4419人、出国日本人数66万3467人。翌71年以後は出国日本人数のほうが多い)。

今年1~2月の訪日外客数
260万5400人(前年比42.8%増)
同 出国日本人数
250 万人(前年比6.0%減)

http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/pdf/150318_monthly.pdf

2014年の訪日外客数1341万3467人に対して、日本人出国者数1690万3388人でした。その差は約350万人。まだ少し開きがあるように思えますが、今年1~2月の前年比の伸び(42.8%増)がこのまま続くとしたら訪日客数は1800万人台となり、円安の影響もあり、この3年間微減が続く出国日本人数を超えるでしょう。

実は、単月であれば、昨年4月、訪日外客数の日本出国者数超えは起きています。それが年間通じて起きるとすれば、日本社会にとってかなり大きな意味をもつと思っています。日本国内の交通や宿泊のインフラに対する考え方や施策を根本的に見直していかなければならないことになるからです。もう日本人だけが国内のインフラを利用する時代ではなくなっているのです。さらにいえば、これは外交にも少なからず影響を与えていくものと思われます。

はたしてそんなことが今年早くも起こるのか…。個人的にはとても気になるところですが、ネットをみていると、この問題をわざわざ隣国との比較・競争という観点から論じたがる人もいるようです。

日韓「外国人観光客数」競争で日本が7年ぶりに韓国を逆転
http://blogos.com/article/108579/

この寄稿では、ここ数か月で、日本の外国人入国数が韓国のそれを抜いたことをふまえ、現在の日中韓3か国の観光人口動態についてこう指摘しています。

「韓国は中国からの観光客が昨年は612万7千人ともっとも多く、外国人観光客全体の4割強を占めています。かなり中国頼みといえます。
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しかし、中国からの観光客数が急増する春節の2月に、日本にはその中国から昨年の2月の2.6倍の36万人が殺到していたので、中国からの観光客の一部を日本に奪われ始めているのではないかと思われます。

しかも、韓国から訪日する観光客は増加してきているのに対して、日本から訪韓する観光客は激減してきています。昨年は、韓国から訪日する観光客は276万人でしたが、日本から韓国に訪れる観光客は、228万人となり、今年は180万人程度しか見込めない状態だそうです」。

そして「日本人観光客の韓国離れは、執拗な反日政策を行ってきたツケです。過去の歴史解釈で競い合うよりは、観光で互いの魅力を競いあったほうが、韓国にとっても、はるかにいい結果を生むはずですが、今後朴槿恵大統領はこの現実にどう向き合うのでしょうか」。おそらく最後のこの部分がいちばん言いたいことなのでしょう。

「中韓台」バランスの日本、中国依存の韓国
日韓の外国人観光客誘致競争、さらに熾烈に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43303

こちらも前述の寄稿と同様、朝鮮日報の以下の記事をもとにこう書き出されています。

「「外国人観光客誘致、韓国、7年ぶりに日本に抜かれる」――。2015年3月23日付の「朝鮮日報」にこんな大きな記事が載った。外国人誘致を経済活性化の柱に掲げる日本と韓国の外国人争奪戦がさらに激しくなっている」。

そして「(韓国を訪れる)外国人観光客に占める「中国依存度」はついに49%に高まった。外国人観光客の2人に1人が中国からなのだ」と、そのバランスの悪さを指摘しています。

さらに「韓国の観光業界も、日本との競争を強く意識している。最近会った関係者はこう話してくれた。『日本は、外国人向けWi-Fiサービスの後進国だ。外国人の不満の上位には、いつも使いにくい無料Wi-Fiが入っている。韓国は、登録なしで済む無料Wi-Fiをさらに充実させたい』『日本では最近、都内中心部に免税店ができるという報道があるが、tax(消費税)だけの免除なのか、duty(関税)まで免除するのか。成田国際空港で都内で買った duty free の品物の受け取りができるのか。こういう日本の課題を反面教師にして韓国のサービスを向上させたい』。こういう競争なら、大いに結構である」と結んでいます。

これらの論考は朝鮮日報の記事に反応したものですが、まあ言いたい気持ちはわからないではありません。今月12日、日中韓3か国の観光フォーラムが東京で開催される予定ですが、ここで話し合われることも、中国や韓国から日本への観光客が増えているのに、日本からこの両国への観光客が減り続けている現状に対して、なるべく双方向の動きを取り戻そうというのが狙いでしょう。何事もバランスはあってしかるべきだからです。本来は、現在の日台関係のように双方向の人的交流が拡大していくのが理想でしょう。

ただこれだけ日本人の両国に対する気持ちが離れてしまっている以上、そしてそれには理由があるわけですから、無理やり行けと促したところで、ことは簡単には動きそうにありません。

もしこの情勢がこのまま続くのであれば、むしろ日本は国内の観光客受入態勢をどう整えていくかを真剣に考えていくことのほうが喫緊の課題になるでしょう。

もっとも、今のところ中国客の訪日動向は好調ですが、なんといっても今年は戦後70年。秋口にどんなどんでん返しが待っているかもしれません。もしそうなったら(つまり、訪日中国客が政治的な理由で突如急減したら)、おそらく韓国のメディアはまた例の調子でそれを煽り立てることでしょう。

近隣諸国との関係を考えると、いろいろ面倒臭いことこの上ない時代ですが、大きな流れとしては、せっかく日本を訪ねてくれる外国客を大切に扱い、その動態を活用しながら、いかに日本の社会をより良く造り変えていくか、という発想が大事なのだと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-04-03 10:19 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 01月 21日

訪日客伸び率と消費額が最大の中国に対するビザ緩和が実施されました

昨日(1月20日)、日本政府観光局(JNTO)による記者発表で、2014年の訪日外客数が過去最多の1341万人4000人となったことが伝えられました。今朝の朝日新聞(2014.1.21)では、以下のように報じています。
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「2014年に日本を訪れた外国人は、過去最多の1341万4千人に達した。日本で使ったお金も2兆305億円と過去最高になり、ホテルや小売業には好影響だ。やはり東京や大阪に人気が集まるが、いかに地方に読み込むかが今後のカギになる」。

同記事では、その背景について「急激な伸びは、三つの追い風に支えられた面が大きい。最大の風は、円安だ。12年末に1ドル=86円台だった為替レートは、14年末には119円台に。日本での買い物代や宿泊費は、ドルベースで約3割も安くなった。

二つ目はリーマン・ショック後の中国や東南アジアの経済成長だ。海外旅行を楽しむ富裕層や中間層が増えた。東京五輪・パラリンピックの開催決定や世界遺産、ユネスコ無形文化遺産の登録が相次いだことで、日本への関心が高まったことが三つ目の追い風だ」としています。

こうした3つの風を「訪日客の拡大を成長戦略の一つに位置づける安倍内閣の取り組み」として、東南アジア諸国に対するビザ緩和や羽田空港の国際線の発着枠の拡大、昨年10月より実施された免税対象品目をすべての商品に広げたことなどを指摘しています。

課題は、大都市圏への旅行者の集中で、「引き続き訪日客を風安には、東京や関西への集中を避けて地方に導くこと」。そのため、政府が4月から始めるのが「地方の商店街などが丸ごと免税店になれる新制度」で、「専用カウンターを1カ所置き、専門業者などに免税手続きを委託できる仕組みで、外国人の目を様々な地方の名産品に向けてもらう狙いがあるといいます。

記事では、「小江戸」で知られる埼玉県川越市には多くの外国人が訪れるにもかかわらず、100店の加盟店があっても免税店がない地元の一番街商店街の事例を挙げ、新制度の導入に対する関係者の期待を紹介しています。また「新たな観光ルートづくり」として「国は、4月から複数の都道府県にまたがる経路を順次設定し、海外でのPR費用などを一部肩代わりする。愛知県と石川県を南北に結ぶルートなど、全国で数カ所を検討」していると、東京・大阪「ゴールデンルート」に代わる新しい観光ルートの造成で、課題となっている訪日客の分散化につなげていこうとする政府の取り組みにも触れています。

さて、過去最多となった「国・地域別訪日客数」のベストテンのランキングは以下のとおりです。( )は伸び率(前年度比)。

1位 台湾 282万9800人(28.0%)
2位 韓国 275万5300人(12.2%)
3位 中国 240万9200人(83.3%)
4位 香港 92万5900人(24.1%)
5位 米国 89万1600人(11.6%)
6位 タイ 65万7600人(45.0%)
7位 豪州 30万2700人(23.8%)
8位 マレーシア 24万9500人(41.3%)
9位 シンガポール 22万7900人(20.4%)
10位 英国 22万0100人(14.8%)

これまで本ブログでも何度も触れましたが、2000年以降初めて台湾が韓国を抜いてトップに躍り出ました。中国、台湾、香港を中華圏とするならば、全体の半分近くを占めることになります。

また政治的な要因によりアップダウンの激しい中国が伸び率83.3%と最大で、「国・地域別の(観光客の)消費額」でも5583億円とトップです。

ちなみに観光庁調べによると、消費額の主なランキングは以下のとおり。

1位 中国 5583億円
2位 台湾 3544億円
3位 韓国 2090億円
4位 米国 1475億円
5位 香港 1370億円

総額は2兆305億円ということです。

実は、一昨日(1月19日)から、中国人に対するビザ発給要件の緩和が実施されています。その告知は昨年11月に発表されていましたが、外務省によると内容は以下のとおりです。

中国人に対するビザ発給要件緩和                   平成27年1月6日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_001624.html

1 昨年11月8日に発表しました,中国人に対するビザ発給要件緩和の運用を1月19日に開始します。

2 具体的な緩和内容は,以下のとおりです。

(1)商用目的の者や文化人・知識人に対する数次ビザ
 これまで求めていた我が国への渡航歴要件の廃止や日本側身元保証人からの身元保証書等の書類要件を省略します。

(2)個人観光客の沖縄・東北三県数次ビザ
  これまでの「十分な経済力を有する者とその家族」のほか,新たに経済要件を緩和し,「一定の経済力を有する過去3年以内に日本への短期滞在での渡航歴がある者とその家族」に対しても,数次ビザを発給します。また,これまで家族のみでの渡航は認めていませんでしたが,家族のみの渡航も可能とします。これに伴い,滞在期間を90日から30日に変更します。

(3)相当の高所得者に対する個人観光数次ビザ
  新たに,「相当の高所得を有する者とその家族」に対しては,1回目の訪日の際における特定の訪問地要件を設けない数次ビザ(有効期間5年,1回の滞在期間90日)の発給を開始します。

3 日本を訪問する中国人観光客は近年増加傾向にありますが,こうした人的交流の拡大は,日中両国の相互理解の増進,政府の観光立国推進や地方創生の取組に資するものです。今回のビザ発給要件緩和措置により,日中間の人的交流が更に一層活発化することが期待されます。


これを読んだだけでは何が緩和されたのかよくわからない文面ですが、ポイントは(3)の「相当の高所得者に対する個人観光数次ビザ」に関する部分です。

これは中国の地域経済の発展状況に準じて、以前から中国国内に数カ所ある日本総領事館の担当エリアごとにそれぞれ適用基準が違っていたものを全体に緩和させること。具体的にいうと、ここでいう「相当の高所得」の指す年収基準を、以前より低く設定することと、これまで沖縄や被災地の東北三県などにインセンティブをもたせるため実施していた「特定の訪問地要件」を設けない数次ビザ(その期間中、ビザなしで何度でも入国できる)の発給を開始したことです。

たとえば、中国瀋陽の旅行業者に対するヒアリングでは(大連を除く、東北三省エリア)、「3年ビザの年収制限がこれまでの25万元から20万元へ。5年ビザは50万元に引き下げられた」とのこと。こういう細かい基準はもともと地域によって違いましたが、これまで上海や北京などに集中していた「相当の高所得を有する者とその家族」の枠が中国全土に広がることを意味します。

いまだに日中関係の展望は判然としませんが、訪日客伸び率と消費額が最大であることを背景に中国に対するビザ緩和を進めていくことは、安倍政権の「成長戦略」にとっても順当な判断だといえるのでしょう。

とはいえ、今年は「世界反ファシズム抗日戦争勝利70周年」の年でもあります。中国政府がそれをどう扱うかによって訪日中国客への影響が考えられます。その意味で、数の増加ばかりにとらわれずに、個人ビザに限って緩和を進めるやり方は一応当を得ているわけですけれど、昨今伝え聞く中国の国内情勢をみるかぎり、さまざまな不確定要素を想定しておくことは必要だと思われます。
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by sanyo-kansatu | 2015-01-21 09:01 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 01月 20日

ベトナムの「反中」、日本語学習ブームとインバウンドの関係

訪日ベトナム客の特性を考えるうえで参考になりそうな記事(昨年9月に配信)2本を紹介します。いずれも、南シナ海における中国との確執を契機に、ベトナム国内でこれまでの依存し過ぎた対中関係にバランスを改めようとする動きといえそうです。

ベトナム冷めない「反中」 政治的な対立は沈静化(朝日新聞2014.9.5)

南シナ海のベトナム沖から中国が石油掘削施設を撤収して1ヵ月半がたつが、ベトナム国内の「反中国」ムードが収まらない。伝統的なお祭りを前に「海を守れ」と書かれたランタンが大流行。政府も寺院などには「中国風の獅子像を撤去せよ」との指令を出した。

ハノイ旧市街では8日の中秋節を前に、祭りで使うランタンや玩具が数多く売られている。今年目立つのは、ベトナム国旗や巡視船のイラストが描かれ、「島の主権を守れ」「がんばれ海軍」などのメッセージが入ったものだ。

セロハンで巡視船そのものの形をデザインしたランタンも登場した。一つ4万~5万ドン(約200~250円)。小学生の子どもに「海と島が好き」と書かれたランタンを買った女性アイさん(34)は「子どもたしに領域を守る大切さを教えておかないと、中国に取られてしまうでしょ」。

店員によると、愛国デザインのランタンはホーチミン市の業者が今年新たに製造し、「一番の売れ行き」だ。昨年までは、アニメの主人公をあしらった中国製のランタンや玩具が主力だった。「(中国製のものは)きっと売れないと思ったので、できるだけ排除した」という。

中国は5月から100隻以上の船団を引き連れ、南シナ海・パラセル(西沙)諸島近海で石油掘削活動を展開。ベトナムの巡視船と洋上で激しく対立した。7月半ばに中国が立ち去り、8月下旬にはベトナム共産党書記長の特使が中国を訪れるなど政治的な対立は沈静化している。

だが、全土に広がった国民の反中感情は収まっていない。国営テレビは中国の連続ドラマの放送を打ち切り、観光業者による中国へのツアーの多くも中止されたままだ。

さらに、文化スポーツ観光省は最近、全国の寺院や商業施設に、門前に縁起物などとして飾る中国風の獅子像の撤去を求める省令を出した。「ベトナム文化を尊重するため」とし、洋風のライオン像なども対象としているが、反中機運を受けての政策だ。

中国は、ベトナムにとって最大の輸入相手国。極端な中国離れは経済的にマイナスとの意見もあるが、著名な経済学者のレ・ダン・ズアン氏は「ベトナムはこれまで中国に依存しすぎていた。中国離れの影響は一部に出るが、長期的にはバランスを改めるチャンス」と前向きに捉えている。


次の記事は、バランスを改める動きが日本に対する関心に向かっているという内容です。

ベトナム、日本語熱沸騰(朝日新聞2014.9.9)

ベトナムで空前の日本語ブームが起きている。昨年度の日本への語学留学生は前年度の4倍で、日本語試験の受験者も東南アジアで断トツだ。

午後6時半、ハノイのオフィスビル20階の教室に学校や仕事を終えた若いベトナム人が集まる。

「謝るときのペコペコと空腹のペコペコは同じですか」「グズグズとノロノロの違いは何ですか」

5人の生徒が日本語の本を読み、気になった表現を質問していく。日本企業への就職や日本留学を目指した私塾だ。リクルート出身の阿部正行さん(66)が2005年に立ち上げた。

これまで約180人を日系企業に「正社員」として送り出した。エンジニア志望のニャンさん(23)は「3Dプリンター技術に興味がある」と日系企業への就職を目指す。

ブームの背景にあるのは、国際環境の変化だ。日中関係の悪化で中国からベトナムへ拠点を移す日系企業が増え、商工会の加盟数は1299社(14年4月)と、5年で約1.5倍も増えた。いまや学生にとって日本語習得が「就職への近道」になっているのだ。

南部ホーチミンで91年に開校した老舗のドンズー日本語学校では、12年に約3千人だった生徒数が13年に4千人を突破。日本語能力試験のベトナムの受験者数は昨年2万6696人で東南アジアで1位。2位のタイ(1万6800人)を大きく引き離している。

留学生も増えている。ベトナム北西部のディエンビエンフー高校では今年、初めて日本への留学生を出した。貧困層が多い地方からの日本留学はまれだ。ラム校長(56)は「東日本大震災の際の冷静な対応、サッカーワールドカップでゴミを拾う姿に感動した。知識はどこでも学べるが、人格教育なら日本」と学生に日本留学を勧めている。

日本語教育振興協会(東京都渋谷区)によると、02年度に日本国内の日本語教育機関で学ぶベトナム人は198人で全体の0.5%。ところが13年度には前年度比4倍超の8436人になり、2386人の韓国を抜いて2位となった。

一方で、トラブルも目立ち始めている。「日本で簡単にアルバイトができる」と誘われて留学したが、バイト先が見つからず、万引きなどの犯罪組織に引き込まれたりするケースが報告されている。


ベトナム人の日本語能力試験の受験者数が東南アジアで1位。さらに、国内の日本語学校の生徒数も2位なんですね。確かに、最近都内の居酒屋でベトナム人アルバイトの姿をよく見かけるようになったと感じていました。

これは1980~90年代に急増した来日中国人と似た状況がベトナムで起きているということでしょう。人員不足に悩む業界関係者にとっては朗報かもしれませんが、ベトナムの若い人たちを見ていると、彼らは中国人とはまた違った意味で、とても自尊心の強そうな印象があります。

「人格教育なら日本」というのはありがたいお言葉ですが、現在は「反中」機運が作用して日本が選ばれている面が強いと考えられます。そんな彼らの心情を理解し、大切に扱わないと、同じ歴史を繰り返すことになってはたまりません。

こうした動きとインバウンドの関係についていうと、あるベトナム人旅行関係者の話では、ベトナム人が日本に旅行に来ていちばんガッカリするのは「メイド・イン・チャイナ」の商品があふれていることだといいます。彼らは日本に来て「メイド・イン・チャイナ」は見たくないというのだそうです。そう言われても困ってしまいますが……。

ベトナムからの日本ツアーは6泊7日1600ドルが相場(アセアン・インドトラベルマート2014その1)
http://inbound.exblog.jp/22756970/

こうしたことからホテルの客室の振り分けも、中国客とベトナム客がいたらフロアを別にするなど、これまで必要とされなかった細かい配慮も求められそうです。
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by sanyo-kansatu | 2015-01-20 11:19 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 01月 18日

「怖いほどの韓国の中国への接近」の最前線、済州島の投資移民

今朝の朝日新聞に、韓国済州島への中国の投資移民に関する以下の記事が掲載されていました。

(波聞風問)中韓急接近 済州島が映す異なる視座(朝日新聞2015.1.18)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11557071.html

「韓国の「ハワイ」とも呼ばれる済州島(チェジュド)。世界自然遺産の韓国最高峰、漢拏山(ハルラサン)のふもとに、高級チャイナタウンが姿を現しつつある。

「熱烈歓迎参観」。ハングルではなく、赤い漢字がおどる。中国の不動産大手「緑地集団」が手がけるマンション「漢拏山小鎮」。1戸約200平方メートルが、約9億ウォン(約9800万円)する。

「お客は中国人です」。ショールームの中国人社員は、明言する。微小粒子状物質PM2・5の数値を北京や上海と比べた広告で、環境の良さも強調している。2013年から400戸を売り出し、8戸を残すのみという。

島に住む翻訳家の男性(40)はこぼす。「高台の高級マンションから、中国人に見おろされている気分だ」。娯楽施設など周辺であいつぐ開発計画をめぐって、環境破壊を懸念する声もあがる。

韓国紙中央日報によれば、中国人が所有する済州島の土地面積は、14年6月までの4年半で約300倍に。外国人全体の43%を占め、国別では米日を抜いて首位。5億ウォン以上投資すれば永住権につながる居住権を得られる制度も、中国人をひきつける。ホテルや店舗への投資もさかんだ。

観光が重要な収入源の島で、外国人客の9割近くが中国人。中国語が飛び交う免税店のそばで、「罰金」を示す看板に目がとまった。

信号無視は2万ウォン、たんをはいたら3万ウォン、あたりかまわず大小便をしたら5万ウォン――。中国語と英語、ハングルで記されている。近くの店員は「中国人観光客を意識したものです。マナーが良くない人もいる。でも大事なお客様ですからね」。

中国経済が急減速したり、関係悪化で中国政府が観光や投資を抑えたりしたら、島はどうなるのか。人口約60万人の済州島は、複雑な思いを抱きながらも中国依存を強める韓国の「最前線」にみえる。

訪韓外国人の4割強が中国人で、14年も前年比4割増の勢い。中国からの直接投資(申告ベース)も2・5倍に膨らんだ。成長を輸出に委ねるなか、中国との貿易額は日米との合計を上回る。金融面でも、外貨預金に占める人民元の割合は11年の1%弱から3割に急増し、いまやドルに次ぐ存在である。

経済に歴史認識……。日本からみると怖いほどの韓国の中国への接近ぶりを、木村幹・神戸大学教授(朝鮮半島研究)は「現政権の志向ではなく、構造的なもの」と指摘する。安全保障面でも、韓国は米中関係を「共存」と認識しており、「対立」を軸に考える日本とは外交の前提となる国際環境が異なる、と。

視座を変えて相手が見ている風景を想像してみる。正否ではない。そこに、対話の糸口があるかもしれない」

昨年5月、上海浦東空港の出国ロビーで、この記事の指摘する「高級チャイナタウン」の宣伝ブースを見かけていたので、なるほどそういうことになっていたのかと思いました。これが「漢拏山小鎮」のイメージ地図です。
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いまや中国全国の不動産ショールームならどこでも見かけるジオラマも展示されていました。
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販売を手がけるのは、中国第2の不動産会社「緑地集団」です。
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緑地集団について(百度)
http://baike.baidu.com/view/2291611.htm
緑地集団は、2014年の「フォーチュングローバル500」で268位にランキングしている不動産企業。14年の不動産販売面積は、前年比で30%拡大。14年の販売収入総額は2408億元(約4兆6664億円)となる見込み。

最近の中国では海外旅行と投資移民の話が不可分の関係で語られていることは、以前本ブログでも指摘したことがありますが、ニューヨークやオーストラリアの不動産物件の買収話だけではなく、身近な投資先として済州島がここ数年注目されていたのです。

中国の海外不動産投資ブームをいかにビジネスチャンスとするべきか(COTTM2013報告 その5)
http://inbound.exblog.jp/20520343/

これは投資移民のためのサイトの済州島のページです。

济州岛汉拿山小镇 - 韩国投资移民
http://www.jejuvip.com/forum-39-1.html
物件の紹介だけでなく、韓国では50万ドルの投資が必要なことなど、移民のノウハウを解説しています。いまの中国人の投資移民熱には、「いつでも逃げられる海外の拠点を用意しておきたい」という彼らの正直な願望が背景にあると思います。

それにしても、済州島を訪れる「外国人客の9割近くが中国人」という状況にはビックリですが、韓国政府の施策でこの島に限って中国パスポートでもノービザなのですから、当然かもしれません。先日東京を訪れていた中国瀋陽の旅行会社の友人も、最近の中国人の韓国旅行先はソウルか済州島のどちらかで、後者の人気が高いと話していました。ツアー料金が驚くほど安く、ノービザなのがいちばんの理由といいます。

2014年に600万人を超えた訪韓中国人数は、今年も増加し、700万人を超えるといわれています。問題は、以前も指摘したように、地元では「中国客が増えても大歓迎とはいえない」事情があることでしょう。

中国客が増えても大歓迎といえないのは韓国、台湾でも同じらしい
http://inbound.exblog.jp/23872141/

記事の主張(韓国の視点から東アジア情勢をみることが対話の糸口にならないか)は、中国の韓国への投資移民の話を日韓関係に結び付けようとするところに少々無理を感じますが、こうした複合的な視点は常に必要なことだとは思います。

もっとも、いま済州島で起きていることは、専門家も指摘するように「現政権の志向ではなく、構造的なもの」でしょう。歴史的にみて、かつて起きていたことのひとつの再現なのだと思います。

気になるのは、記事でも指摘するように「中国経済が急減速したり、関係悪化で中国政府が観光や投資を抑えたりしたら、島はどうなるのか」。おそらくこれも、歴史的にみれば再現するかもしれません。その日にどう備えるのか。すなはち、済州島のチャイナタウンが中国全土に増殖する鬼城になる日にです。なぜなら、済州島で起きていることは、中国国内で起きていることにそっくりに見えてしまうからです。
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by sanyo-kansatu | 2015-01-18 12:45 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2014年 12月 26日

訪日1300万人を達成したものの、気がかりな入国管理の話

今週22日(月)、日本政府観光局(JNTO)は、訪日外国人旅行者数が1300万人を突破し、成田空港で記念セレモニーを実施しました。

一月半前の11月上旬、JNTOの関係者に取材した際、その時点の認識では「1200万人後半くらいでは」という慎重な発言が聞かれたものですが、今月中旬に11月の訪日外客数が発表されて以降、1300万人超えは確実なものになったようでした。

このこと自体は喜ばしいことだと思いますし、2003年のビジット・ジャパン事業開始以降の官民を挙げたさまざまな取り組みの成果であることは間違いありません。ただし、JNTOのリリースがいうような「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」や「『日本再興戦略』改定014-未来への挑戦ー」などと仰々しく名付けられた、いかにも官報的な文面をみていると、安倍政権の数少ない成果として訪日旅行市場の拡大を持ち上げたい国交省、あるいは政権の思惑のようなものが感じられて、ちょっと引いてしまうところもあります。

メディアも、同じような印象を受けたからなのか、気がかりなことを報じています。

たとえば、産経新聞のサイトにこんな記事が出ていました。以下、転載します。

ビザ免除国の入国拒否者急増 タイ12倍、マレーシア18倍(2014.12.24)
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/141224/evt14122413320006-n1.html

昨年7月から査証(ビザ)なしで日本に入国できるようになったタイとマレーシアの入国拒否者数が急増していることが23日、法務省への取材で分かった。今年上半期(1~6月)と前年同期を比べると、タイで約12倍、マレーシアで18倍に増加。「観光立国」を目指す政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心にビザ免除などの入国促進策を進めているが、両国の入国拒否者の増加率は訪日者数の増加率を大きく上回っている。主に不法就労目的とみられ、入国者の利便性と同時に“水際対策”の重要性が浮き彫りになった。

同省入国管理局によると、今年上半期に日本の空港などで入国拒否となった外国人は、前年同期比35・8%増の1586人(速報値)。このうちタイは386人で前年同期の33人から約12倍に、マレーシアは54人で同3人から18倍に増え、他国と比べ増加率が飛び抜けている。

日本政府観光局によると、今年上半期の訪日外国人数(暫定値)は前年同期比26・3%増の約626万人。このうちタイは約33万人(同63・8%増)、マレーシアは約12万人(同62・5%増)。両国の訪日者の増加率自体が平均値を超えているが、入国拒否者数の伸び率は訪日者数の伸び率をはるかに上回っている。

同局は「昨年7月に始まったビザ免除措置の影響だ。過去に強制退去処分になったタイ人が『入国できるかも』と考えて来日したり、経済情勢のよくないタイの地方から不法就労するために来たりするケースが目立つ」と説明する。

不法入国者を選別するため、同局は指紋などの個人識別情報を活用。また入国審査時に、観光目的地が曖昧だったり、訪問先の電話番号が架空のものだったりした場合は問い詰めて「実は働きにきた」と白状させることもあるという。

政府は日本再興戦略の中で観光立国を重要な柱と位置づけ、2020(平成32)年の東京五輪開催までに「訪日外国人2千万人」を目指す。今年は既に過去最高だった昨年(1036万人)を上回り、11月には推計値で1200万人を超えた。ASEAN諸国を中心にビザ免除の措置を進めており、12月からはインドネシアのビザを免除、今後はフィリピン、ベトナムも対象とする方向で検討中だ。

外国人の労働問題に詳しい慶応大の後藤純一教授(国際労働経済学)は「ビザ免除で外国人の観光客が増える一方、不法就労が増える副作用もあるだろう。入国時のチェックと入国後の摘発をしっかりすることが重要」と指摘している。

◇用語解説

査証免除 外国人が日本に入国するには、原則的に本国出発前に日本大使館などで査証(ビザ)を取得する必要があるが、国家間で短期滞在者のビザを免除する取り決めをすることがある。現在、67の国・地域が対象となっている。

ここ数年間推進されたアセアン諸国に対するビザ緩和によって訪日外客が増えたことは周知のとおりですが、こうした事態が起こり得ることは、ある程度予想されたものでした。最初に観光ビザが免除されたタイについても、当初からこの問題が発生する懸念は指摘されていました。

タイのビザ免除で、むしろタイ政府側に不法就労再発の懸念があるらしい
http://inbound.exblog.jp/20666821/

ただし、この記事は読者にミスリードを与えかねない内容を含んでいます。ここで「タイ12倍、マレーシア18倍」という数字を上げているのは、あくまで「ビザ免除国の入国拒否者」であって、不法滞在や就労といった話でありません。入国前に水際で差し止めた人数に過ぎないのです。しかも、増えたといっても、「タイは386人で前年同期の33人から約12倍に、マレーシアは54人で同3人から18倍」と、小さな母数を高い倍率にみせることで印象操作をしているようにも思えます。

むしろ気がかりなのは、ただでさえ日本の入国審査に要する時間の長さが外国客からコンプレインされている現状から、それに応じて短縮化を進めている入国管理局の関係者のプレッシャーでしょう。

昨年、中高校生向けのキャリア教育書の仕事で、羽田の入国審査官の若い女性にインタビューしたことがあります。そのとき、彼女が話していたのは、この仕事でいちばん重要かつ神経を遣うのは、入国申請する人物に不審なところはないか、その場で見抜き、あやしい場合は素早く上司に報告し、別室に連れて行く一連の流れの中で、列を並ぶ他の外国人客を待たせないようスムーズに対処することでした。

たとえば、こんな事例があるそうです。「90日間以内の観光目的であれば、ビザ免除される外国人でも、よく見たら前回も90日滞在、その前も90日という長期滞在が入国スタンプの日付けから判明した場合、本当に観光目的の来日なのか、日本で不法就労しているのではないか、という疑いが生じます。なかには、偽造パスポートを所持しているケースもあり、おかしいなと思ったら、特別審議官という専門の担当官を呼んで、別室で詳しく調べてもらいます」

こうした人物の中には、いわゆる「スルーガイド」が含まれるものと思われます。ノービザで許される日本の滞在期間中、何度もツアーの添乗ガイドを繰り返し、バスの中で物品販売などをして売上を手にしながら、確定申告もしないで帰国してしまう連中のことです。

1日何百人という外国人の入国審査を行う審査官に求められる集中力は相当なものだと思います。経験がものいう世界とはいえ、神経をすり減らす仕事といえそうです。

しごと場見学! 空港で働く人たち
http://www.perikansha.co.jp/Search.cgi?mode=SHOW&code=1000001632

これから先、ますます訪日外客が増えていくことを思うと、入国審査官の仕事の現場も大変になることはあっても、軽減されることはないでしょう。いまやどこの業界でもそうですが、入国審査官も人材不足が問題になっているそうで、求人に力を入れていると広報の方は話していました。

受入態勢の整備という意味でも、政府が予算をつけなければならない方面は多岐にわたっていると思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-12-26 12:06 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2014年 12月 13日

中国客が増えても大歓迎といえないのは韓国、台湾でも同じらしい

今年、韓国を訪問する中国人旅行者が600万人を超えるそうです。

中国政府にとって自国の旅行者をある特定の国に大量に送り込み、多額の消費をさせることには、きわめて政治的な意味があります。端的に言えば、中国客の訪問が経済的な恩恵をもたらすことで、当該国・地域に政治的な譲歩を要求できると考えているのです。これは社会主義国の国策としての観光の位置付けからいって当然の考え方です(いまさら、中国を社会主義国なんていうのもなんですが、すべてを国家が管理しようとする体制ではそれがふつうの認識なのです。それがどれだけ可能かどうかはともかく)。同じことは、中国と微妙な関係にある香港や台湾、そして日本に対してもいえます。

ところが、中国と蜜月関係にあると思われていた韓国でも、中国客が増えても必ずしも大歓迎とはいえないようです。最近、ネットでこんな記事を見つけました。

韓国の旅行業界が苦境を訴える「中国人観光客を受け入れても儲けが出ない」FOCUS-ASIA.COM 12月2日
http://www.focus-asia.com/socioeconomy/economy/403056/

「韓国旅遊発展局によると、今年9月末現在の中国人観光客数は約468万人に達し、前年同期比36.5%増となった。だが、中国人客が支払う旅行代金はすべて中国の旅行会社に吸い取られ、韓国でも華僑や朝鮮族の経営する旅行会社がほぼ独占。儲けが少ないことを理由に、東南アジア客向けに切り替える韓国人経営の旅行会社もあるという。1日付で韓国紙・中央日報の中国語サイトの情報として、中国旅行新聞網が伝えた。

韓国人が経営する旅行会社は、中国人観光客増加の恩恵をほとんど受けていないのが現状だ。10数年前から外国人向けの旅行会社を経営する鄭さんもその1人。周りからは「中国人客が増えて、大儲けでしょう」と言われるが、実態は全く違う。「華僑や中国の朝鮮族が経営する旅行会社が大幅に増加している。とてもかなわないので、中国人客を取り扱うのを止めざるを得ない状況だ」という。

鄭さんによると、中国現地で中国人観光客を集める旅行会社は、客を送り出すだけで旅行費用を支払わない。こうしたスタイルがすでに定着している。中国人観光客が増えても、儲けはほとんどないため、鄭さんは「東南アジア客向けに切り替えようと思っている」と話している。

韓国旅行業協会(KATA)によると、韓国で中国人客の受け入れが最も多い旅行会社10社のうち、韓国人が経営するのは3社のみ。残りはすべて華僑と朝鮮族が占める。韓国企業は言葉の面で、華僑や朝鮮族にはかなわない。朝鮮族の旅行会社代表は「中国人客を受け入れるには、中国現地の旅行会社との協力が必要。お客様と接する際も、冗談を交えながらコミュニケーションをとることが大切だ。韓国人が中国語を使ってここまでやるのは大変だと思う」と指摘している」。

これを読んで、韓国でも事情は日本と変わらないことがわかりました。韓国で華僑や中国朝鮮族が中国客の手配を仕切っているように、日本でも中国団体客の手配を行っているのは、在日中国人を中心にしたアジア系外国人の業者だからです。彼らは薄利多売をものともせず、自国の観光客を受け入れていますが、日本の旅行会社は採算が合わないため、放棄しているのです。

同じことは、台湾でもいえるようです。

台湾では民進党から国民党に政権が移った08年7月から中国人観光客の受け入れが始まっていますが、10年以降、中国客の数はそれまで不動のトップだった日本客を上回り、12年には延べ259万人に達したそうです。

ところが、台湾の観光地はどこも中国人観光客で混み合ってはいるものの、彼らの手配を扱う旅行会社からすると「中国人観光客ビジネスは、やるほどに赤字」だそうです。

この点について、ジェトロの研究員が以下のレポートを書いています。

「中国人団体観光客ビジネス」の歪んだ構図
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1307_kawakami.html

なぜ中国客が増えても大歓迎とはならないのか? こう述べられています。

「台湾のメディアでは、中国人観光客の急増とともに、極端な低価格で団体ツアーを受け入れ、観光客を店から店へと連れ回す低品質のツアーが増加していること、商店から旅行業者へのリベート率が4-6割にも達していることが報じられている。また「中国からの観光客を受け入れるほど赤字になる」と嘆く旅行社の声や、「観光客にむりやり買い物をさせている」と悩む旅行ガイドの声も紹介されている」。

その理由に「超低価格のツアー」があるとして、以下のように説明されています。

【超低価格ツアーの “事業モデル”】
中国人団体客の台湾観光の標準旅程は、7泊8日での台湾一周旅行である。報道から得られる情報を整理すると、台湾向けツアーを扱う業者間の取引構造は以下の通りである。

中国側では、各市・省ごとに、中国旅游局から指定された旅行業者が台湾向けのツアーを組織する。この送り出し業務を行っているのは、いずれも国営系の旅行業者である。他方、台湾では、民間の旅行業者が、ツアーの受け入れを行う。

送り出し側(「組団社」)と受け入れ側(「接待社」)の交渉力は、圧倒的に後者に不利である。送り出し側が、各地域の旅行需要を寡占的に支配しているのに対して、台湾では約400社の旅行業者がツアー客の受け入れをめぐって激しい競争を行っている(林哲良[2013b])。「接待社」間での激しい競争により、中国の「組団社」が台湾の「接待社」に支払う費用は、かつてのツアー客一人当たり約1800元から、最近では300~700元にまで下がっているという(林倖妃[2012])。

だが、このような低予算で旅行者の宿泊費・食費・交通費等をまかなうことはほぼ不可能である。多くの「接待社」は、コスト割れを覚悟で中国側「組団社」に低価格を提示し、中国からの観光客の受け入れにしのぎを削っているのである。

※実は、この点については、2013年中国で「新旅游法」が施行され、若干の改善がされたことになっています。ただし、中国全域での実態はどうなっているかについては大いに疑問です。

ここで考えなければならないのは、中国客の訪問で誰にお金が落ちているか、ということです。

確かに、日本でも中国客がバスで訪れたり、個人客が足を運ぶ大都市圏の百貨店や量販店、ショッピングモールなどの小売業者の一部には落ちていることでしょう。ところが、中国客の宿泊や交通、観光の手配を担っている事業者たちにはそれほど利益をもたらしていない。そのため、韓国や台湾では中国客を敬遠する声が出てくるのです。面倒で手のかかる手配業務を一手に担わされているのに、おいしいところは一部の小売業者にみんな持っていかれているというわけです。

ここ数年、上海を中心に日本国内の旅行業者の手配を必要としない個人旅行客が増えており、その傾向はいいことだと思うのですが、中国の本当のポテンシャルは巨大な内陸にあるわけで、団体客が増えることはあっても減ることはないのです。団体客の存在がある限り、この問題は解決しないでしょう。

中国の台頭と東アジアの経済のグローバル化がもたらすひとつの典型的な現象として、日本や韓国、台湾は中国の業者と消費者に直接向き合わなければならない。そういう意味で、我々周辺国は同じ環境にあることを理解しなければならないようです。
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by sanyo-kansatu | 2014-12-13 14:51 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2014年 12月 13日

「原因は日本にあると、怒られっぱなしでは観光する気にならない」(二階元経産相)

日韓関係の悪化が両国の観光業界に影を落としています。特に目立つのが、日本から韓国への観光客の減少。円安・ウォン高も理由のひとつでしょうが、関係悪化に日本人客が敏感に反応している面も大きいといえるでしょう。

訪韓日本人は、2010年303万人、11年329万人、12年352万人と順調に増えていたものの、当時の李明博大統領が12年8月に大統領として初めて島根県竹島(韓国名:独島)に上陸すると、同年後半から減少し始めたといわれています。13年には275万人と前年度比21.9%減。14年も歯止めがかかっていません。

一方、韓国からの訪日客は夏ごろから回復しています。その対照ぶりが、日中関係の悪化で日本人が中国に行かなくなったのに、訪日中国客が増えている状況と似ているのです。

毎日新聞2014年7月5日によると、6月2日日韓の旅行業界関係者がソウルで会合をした際、全国旅行業協会(ANTA)会長の二階俊博元経産相がこんな不満をぶつけたといいます。

「現状の日本と韓国の関係は異常だ。全て原因は日本にあると、怒られっぱなしでは観光する気にならない」

同紙によると、二階氏の怒りには前段があったようです。前日ソウル市内で開かれたNHK交響楽団のコンサート会場周辺で、韓国の市民団体が二階氏を名指しして歴史問題に関する日本への要求をアピールしたためだとか。文化交流の場で政治的な主張が行われたことに憤慨を禁じ得なかったそうです。

結局その日の会議では、韓国側が8月に日本の関係者をソウルに招待し、観光関連のシンポジウムの開催を提案したようです。

日本側もこれに応じて、日本旅行業協会(JATA)は「日韓国交正常化50周年プロジェクト」を立ち上げました。その点について、以下のネットの記事があります。

日韓交流拡大へメガFAM、第1弾520名-数年で700万人へ 2014年12月9日
http://www.travelvision.jp/news/detail.php?id=64855

それによると、14年12月から1000人規模の日本の旅行業界関係者を数回に分けて韓国に訪問させる計画「日韓交流拡大のためのメガファムトリップ(視察旅行)」を開始したそうです。まずは旅行業界同士の交流が大事というわけです。

それにしても、「親中派」として知られる二階氏が思わず放ったひとこと、日本人の心情をこれほど素直に吐露しているものはないのではないか。思わず苦笑してしまいました。あるいは、この方、中国には強くモノ申せなくても、韓国になら言えるのだったりして…。

はたして改善はなるのでしょうか。
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by sanyo-kansatu | 2014-12-13 13:48 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)