ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 03月 09日

中国内陸都市でも若い世代を中心に個人旅行化の機運が起きている

2月中旬、中国の内陸都市である重慶や成都(四川省の省都)を訪ねたのですが、そこでいちばん感じたことは、上海や北京などの沿海先進経済地域に遅れて訪日旅行市場が動き出したばかりのこの地域でも、若い世代を中心に個人旅行化の機運が起きていることでした。

たとえば、重慶や成都の書店に行くと、個人旅行者を対象とした旅行ガイドが並んでいます。
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中国は国土が広いので、上海や北京に比べると数年遅れの内容からなるラインナップという気がしますが、東京や大阪だけでなく、沖縄や中部北陸地方限定のシリーズ書も並んでいます。
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中国人に比べはるかに日本旅行に精通した韓国人や台湾人による紀行エッセイなども多数発売されており、情報源となっていることがうかがえます。
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ネットによるさまざまな情報があふれる中国ですが、これらの情報は真偽のあやしい噂話も多いといえます。ぼくは微信(WeChat)で「日本特色深度游(日本の特色あるディープ旅行)」や「日本自由行(日本自由旅行)」といったグループに入って日々彼らがアップする情報を眺めていますが、そこには日本に関するさまざまな情報があふれてはいるものの、断片的なネタが多く、人によって本来目的の異なっているはずの滞在中の行動の充実度を高めるための戦略的かつ鳥瞰図的(とでもいいましょうか)な都市の構造のコンパクトな把握を行うための最も基本的な見取り図を提示することにおいては、現段階では、旅行書籍のほうがネット情報より秀でていると思います。

要するに、それが中国の旅行書のタイトルによく使われる「攻略」ということですが、これが頭に入っていないと、だた点と点をつないであてどなく移動していくほかないからです。要は、ネット情報は必ずしも「使える」とはいえないものも、多いのです。

ぼくはふだんからよく思うのですが、ネットの情報というのは、本当はよくわかってもいないのに、わかった気にさせてしまう面があるという自覚が利用する側に必要とされるメディアだということです。特に旅行情報については、その悪しき影響が強いと思います。

さて、海外旅行市場もかなり成熟してきた沿海地方とは違い、重慶や成都あたりでは、街場の旅行会社の店舗などにこうした旅行商品のリストを手書きにしたボードがよく置かれていました。
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最初の看板は中国青年旅行社のもので団体ツアーの情報ですが、下のボードは、国内外の手配旅行の情報です。いま中国の人たちは、お仕着せの団体ツアーではなく、自分の足でどこでも訪ねてみたい、そういう思いでいっぱいのようです。
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先ごろ成田・重慶線を就航させたばかりのスプリング・ジャパンの親会社にあたる春秋国際旅行社では、以下のようなチラシを配っていました。
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「日本自由行」とあるのは、先日本ブログでも紹介した重慶の街角の電子広告にもあった個人旅行の手配をうたうものです。

「重慶・東京5400円から」「日本旅行5泊6日6万3000円」~重慶、成都の街角にて
http://inbound.exblog.jp/25425180/

チラシの裏面を見ると、細かな料金表が載っていました。その内容は、「(日本までの往復)航空券」「ホテル(希望宿泊分)」「ビザ(団体ではなく個人ビザ)」「WiFi(日本でスマホを使うためのアプリ購入代金)」の組み合わせでした。
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これはあくまで個人ビザを取得した人たち対象のサービスですが、これを見てわかるのは、いまの中国人がどんな日本旅行をし始めたかということです。

最も割安な「航空券+ホテル1泊」(4泊5日 2799元)とは、往復の航空券と初日のホテル1泊分のみのサービスで、これを購入する人は、すでに個人のマルチビザを所有しているため、あらたにビザ申請する必要がなく、成田に到着したその日の夜だけ成田周辺か都内に1泊ホテルを予約するだけを旅行会社に依頼しているわけです。

このような「自由行」のスタイルは、日本では1980年代から一般化していたもので、ちょっと懐かしい気がします。ぼくも、20代のころ、往復航空券と初日のホテルのみ予約して海外に遊びによく行っていたものだからです。日本人の場合は、たいていどこに行くのもビザが不要だったので、中国人の場合のように、ビザ代行を旅行会社に依頼する必要もありませんでした。

ところで、彼らは初日だけホテルを予約して、残りの日の滞在はどうしているのか? 自分でネット予約しているのです。中国の最大手オンライン旅行会社のCTripを使ってもいいでしょうし、最近では中国版AirBnBである「住百家」という民泊サイトを利用する人も増えています。

住百家 http://www.zhubaijia.com/

このサイトは、在日中国人らが運営する民泊サービスです。法的にグレーゾーンとされるこのサービスの実態については、今後あらためて紹介したいと思います。

何はともあれ、我々が想像する以上の速さで、中国の個人旅行化は進みつつあり、今後訪日旅行市場にも影響していくことが予想されます。
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by sanyo-kansatu | 2016-03-09 08:31 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 02月 29日

「重慶・東京5400円から」「日本旅行5泊6日6万3000円」~重慶、成都の街角にて

2月中旬、重慶と四川省の成都を訪ねたのですが、街でさまざまな日本旅行の情報を見かけました。

いま中国の内陸都市から日本に向かう航空路線が急増しています。重慶や成都でも、日本旅行が少しずつブームになり始めています。

東アジア航空網に新時代、訪日客増大の本当の理由は地方路線の大拡充
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/022600007/

街角で見かけた日本旅行の募集告知や案内版を紹介しましょう。

まず訪ねてみたのが、スプリングジャパンの就航で成田との直行便が実現した春秋国際旅行社です。
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春秋国際旅行社重慶支店
渝中区民生路268号
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旅行店舗の表に春秋航空の日本線が書かれています。

重慶=東京(火木土日) 5時間
重慶=大阪(月水度) 4時間
春秋航空 www.ch.com

そして、スプリングジャパンの就航で実現した「重慶・東京299元(5400円)より」が目を引きます。
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店舗に入ると、春節休暇も終わったばかりだというのに、けっこうにぎわっていました。やはり、日本旅行が一番人気のようです。ためしに客を装って、日本線やツアーの料金を尋ねてみたところ、2月18日発の重慶・成田便の片道は980元(1万8000円)、26日初の東京・大阪6泊7日のツアーが3500元(6万3000円)でした。
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これでわかるように、スプリングジャパンの片道299元(5400円)というのは最安値であって、通常は片道2万円相当のようです。春秋航空の茨城・上海線でも同様で、同社はよくキャンペーン料金を出すものの、時期と席数は限定です。だとしても、個人観光ビザを取得して、うまく日程を調整すれば、重慶の人たちも片道5000円相当で日本に来られるというわけです。

春秋国際旅行社では、今年も福岡など九州を訪れるクルーズ商品も販売しています。重慶市民の場合は、まず上海まで飛んで、そこからクルーズ船に乗船します。
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重慶に来て気がついたことがあります。中国の一定の所得層の人たちは、東シナ海のクルーズツアーの前段階として、重慶発の三峡クルーズを経験済みだろうということです。三峡クルーズもたいてい3泊4日から4泊5日ですから、東シナ海クルーズと日程的にも同じです。彼らはカジュアルなクルーズに慣れているといっていいでしょう。
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それにしても、これまで何度も指摘してきましたが、「日本旅行5泊6日3500元(6万3000円)」というのは呆れてしまいます。

実は、成都でも同じでした。街場の小さな旅行会社の店舗にこんな貼り紙があったからです。
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すべては免税店での“爆買い”を前提として成立させている、きわどい商品です。

もっとも、新しい動きも見つけました。重慶で最もにぎやかな繁華街の解放碑地区で見かけた電光掲示板です。

これはシンガポール旅行の案内です。
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次が、日本旅行。しかも、「日本自由行」。つまり、個人観光ビザ取得者だけが可能な自由旅行の意味です。
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興味深いことに、ずいぶん細かく料金が表示されています。個人旅行の場合、個々の手配を自分でしなければならないからです。

机票(エアチケット)2700元より
4星酒店(4つ星ホテル)400元より
JR交通卡(JRパス?※これがどのパスを指すのか不明)65元
WIFI 18元/天
本州机场接送机(空港からの送迎・片道)600元/趟

新亜国際旅行社
http://www.cqxygl.com
※同社のHPをみると、重慶発の日本ツアーがいくらくらいで売り出されているかわかります。またエアチケットの値段(2700元より)からすると、春秋航空ではなく中国南方航空利用のようです。春秋航空を利用できれば、もっと安くうたえるわけですが、春秋国際旅行社の独壇場なのでしょう。

中国の内陸都市発の訪日旅行市場がいま、どのようになっているのか。これら街場の広告はそれを理解するうえで手がかりになりそうです。
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by sanyo-kansatu | 2016-02-29 15:50 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 02月 23日

中国の市販薬のパッケージは確かに地味でした(これも日本のクスリが人気の理由)

日本薬粧研究家の鄭世彬さんの著書『爆買いの正体』(飛鳥新社)の88ページにこんな記述があります。

「これまで私はコスメショッピングガイドの執筆のため、何百、いや何千という日本の製品をチェックしてきました。何より感心しているのは、計算され尽くしたパッケージのデザインです。クスリを入れる紙箱ひとつとっても、決して適当につくられていないからです」(2章 日本人が知らない日本のすばらしさ)

これを読んで、そんなものかなあと思う人は多いでしょう。ぼくもそう思いました。しかし、彼はこう書いています。

「なぜなら、台湾の市販薬のパッケージに比べると、その違いは歴然としているからです。最近少し改善されてきたのですが、たとえば目薬なら、これまでの台湾のパッケージは白っぽい単調な色合いばかり。紙箱に目のイラストがただ描かれていて、適応症を説明する文字がいくぶん強調されているだけのものがほとんどでした」(同上)

『爆買いの正体』(鄭世彬著 飛鳥新社)
http://goo.gl/DXhOMa

一度鄭さんに聞いたことがあります。

「でも、香港や中国にはワトソンズ(屈臣氏)があるじゃない。台湾にもあるでしょ」
「でも、あそこはコスメがメインのイメージがあります。日本のドラッグストアにあるような市販薬はあまり置いていないんですよ」
「そうなの?」

【アジアクリック】アジアNo1のドラッグストア「ワトソン」から学ぶ、日本以外の選択肢
http://asiasns.jp/dragstore-1941

※この記事によると、ワトソンズは薬も販売しているようですが、確かに日本の市販薬はあまり見かけたことがない気ががします。だいたいワトソンズの商品って日本に比べるとちょっと高い気がしますしね。

そんなことがちょっと気になっていたので、先日中国に行く機会があり、薬局を覗いてみることにしました。

ここは四川省成都のごく一般的な薬局です。
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店舗は日本のドラッグストアとさほど変わらない広さです。店内は効能別に分けられたコーナーごとに市販薬が並んでいるのですが、確かに地味というか…。まあ薬局なんてこんなもんじゃないかと思いつつ、日本のドラッグストアの華やかさをあらためて思い出しました。
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これ風邪薬のコーナーです。
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こちらは消化器系。
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美容関連のコーナーもありますが、鄭さんのいうように、白地のパッケージにちょっとした図柄は入っているものの、基本は文字がのっているというデザインが基本のようです。
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あっ、でもちょっと色のついた日本っぽいパッケージもいくつかあります。
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これはビタミン剤ですね。
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こちらは中国製の日焼け止めの乳液みたいです。広州のメーカーだそうです。さすがにコスメのパッケージは少し垢抜けているんですね。
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Ruvanon(洛华侬)
http://ruvanon.net/

とまあそんなわけで、中国の地方都市の薬局の世界はこのような感じでした。中国客が日本に来てマツキヨはもちろんですが、ドラッグストアの世界に魅せられるというのはわからないでもない気がしました。中国の薬局は単に体調の悪い人が来る場所にすぎないけれど、日本のドラッグストアは健康な人たちにとっても、日々の生活を美しく快適にするために必要なあらゆるアイテムが揃うスポットですものね。ワクワク感があります。

これも日本のクスリが中華圏の人たちに人気の理由といえそうです。
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by sanyo-kansatu | 2016-02-23 20:04 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 02月 21日

今年も中国客は来るぞ。そう実感させたSJ重慶・成田線で見たツアー客の一部始終

重慶からのスプリングジャパンの帰国便の話を書きます。

スプリングジャパン初の国際線(成田・重慶)に乗ってみた(第3ターミナルも初利用)
http://inbound.exblog.jp/25378551/
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市内から40分ほどモノレールに乗り、空港駅を下車して約200mほど歩くと、国際線ターミナルがあります。
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チェックインカウンターは大勢の出国客でにぎわっていました。カウンターこそ7か所くらいですが、いまの中国の地方都市の国際線はたいていこんな感じです。
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よく見ると、そこは国営キャリアの中国国際航空や山東航空、深圳航空、西蔵航空、澳門航空などの専用カウンターでした。
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スプリングジャパンと地元四川航空のカウンターは少しはずれた場所にありました。
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ひときわ目を引くのが「重慶―東京 299元から」の看板です。そう、いまや重慶の人たちは片道5000円ほどで東京に来られるのです。この衝撃的な意味については、別の機会に説明します。
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チェックインカウンターは成田と同様、「個人」と「団体」に分かれていました。圧倒的に多いのは団体客です。
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団体客に向かってツアーの注意事項を話しているのは、添乗員の男性です。スタジャンに黒縁メガネといういでたちは、いまから30年前の1980年代頃の日本を思い起こさせます。
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出国手続きをすませ、搭乗ロビーに足を運ぶと、先ほどの団体客が待っていました。機内食が有料だからでしょうか、タッパーに入れたおかずを食べてる人もいます。いかにも中国的なのどかさです。
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重慶空港の国際線は、19社のエアラインが運航しているようです。フィンエアーやマレーシア航空、カタール航空、アシアナ航空、チャイナエアラインなどナショナルフラッグ系に加え、エアアジア、ドラゴンエアー、復興航空(台湾系)、そしてスプリングジャパンなどLCCも多いことがわかります。
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機内はほぼ埋まっていました。ぼくの席は最後尾の一つ前の32番でしたが、その後ろが一列空いているだけでしたから。日本人客はざっと見た感じ5~6名です。
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一方、この便の客室乗務員は全員日本人。スプリングジャパンは日本のエアラインだということを印象付けようとしているようです。乗務員には男性も3名いて、みんな若々しく、他の日本のエアラインではちょっと見られないフレッシュさを感じさせます。現在、重慶線は週4便なので、重慶に宿泊するフライト日もあるそうで「初めて重慶の火鍋を食べた」とひとりの男性乗務員が話してくれました。
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とはいえ、中国客が大半を占めるだけに、機内はまさに中国です。機体が離陸し、まだ水平飛行にもなっていないとき、突然「お席を立つのはおやめください」と機内アナウンスが轟きました。見ると、ひとりの女性客が席を立ち、荷物を勝手に開けようとしていました。

こういうことは、中国以外ではまず見たことはありません。まったく彼らはルールに縛られることなく、どこまでも自由気ままです。

ひとりのおばさんはトイレに入っても、ロックをかけていませんでした。乗務員が戸を開けそうになったので、思わず「おばさんが入ってますよ」と止めなければなりませんでした。

とにかく機内はにぎやかです。フライト時間が長いせいか、延々トイレの列が並んでいます。シートピッチが狭くて座っていられないのか、立っている人もやたらといる。最後尾の空いてる席を見つけ、そこに座ろうとして、乗務員に注意されている光景もしばしばです。

個人的には、空いてるんだから座らせてあげればいいじゃない、という気もしますが、乗務員は全員日本人ですから、そのへんはきちっとしています。他のお客様もいるのだから、例外は許さないということのようです。

だからでしょうか、中国客たちも「排队、排队(列に並びましょう)」と苦笑しながら、それに応えています。彼らも気持ちの上では、ここは(ルールに厳しい)日本なのかもしれません。

まったく中国客というのは子供のような無邪気なところがあります。海外慣れしていないせいか、「ちょっとびっくりするようなこともしがちですが、きちんと注意すれば、たいてい聞いてくれる」と乗務員は言います。

乗務員たちは乗客からいろいろ質問もされています。「いま日本で桜は見られるのか?」「いいえ、さくらは東京では3月下旬くらいからです」「それは残念」「でも、いま伊豆の河津で桜が見られますよ」「それはどこで見られるのか」……。

そんなこと事前に調べてくればいいのに…。そう思わないでもありませんが、たいていの団体客は日本に対する知識はほとんどないのが普通です。添乗員が案内してくれるので、調べてくる必要を感じていないのです。「ネットで事前にいろいろ調べてくる」というのは、あくまで若い個人客の話。最近、よくメディアで中国人観光客の行動スタイルが「モノからコトへ」と変わったなどといっていますが、それは少し先走りすぎの見方です。実際には、異なるふたつの層(団体客と個人客)に分かれているだけのこと。それが実態です。

最近増えてきた個人客には「モノからコトへ」というニーズが生まれていることは確かですが、後発の内陸都市から来た団体客はまだビギナーで、彼らが変わるにはまだ少し時間がかかります。そして、いま内陸都市からのフライトが急増し、従来型の中国団体客が増えているのです。ですから、こうした全体像が見えていないと、判断を誤ります。

中国「爆買い」の主役は内陸都市からの団体ツアー客
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/010400002/

中国沿海都市から新タイプの個人客、ニーズが多様化し新たな商機生まれる
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/011800003/

ツアーに参加した大学生は、2日目の自由行動の1日、都内を同行の友人たちと探索しようと計画しているそうです。彼の場合は、多少は事前にネットで日本のことを下調べしてきたでしょうが、実際に目にした東京の地下鉄路線網のあまりの複雑ぶりに面食らっているようでした。きっと次回はツアーなどには参加せず、日本を個人旅行したいと彼は思うはずです。
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帰国便でぼくの隣の席にいたのは、米国留学経験のある60代の男性で、奥さんは日本在住経験もあるというご夫婦でした。中学生の娘と3人の家族旅行です。ご主人は英語がお得意で、いろいろ話したのですが、孤児だった娘さんをひきとり、おふたりで養育しているそうです。おとなしそうな女の子でしたが、奥さんは機内で彼女の勉強を見たり、大切に育てていることが感じられました。

「今回、どうして日本旅行に来ようと思われたのですか」と尋ねると、奥さんはこう言いました。

「中国の学校教育では、日本のことを悪くばかり教えている。でも、そうではないことを私は知っている。だから、娘にも実際の日本を見せたかったの」。

まいりました。こういう品のいい旅客もいるのですね。

スプリングジャパンの成田・重慶線が就航したことで、重慶の人たち(武漢も同様)の日本旅行のアクセスはとても便利になります。これまで重慶から成田には中国国際航空の上海経由便しかなく、春秋航空も関空にしか運航していませんでした。そのため、以前は経由便で往復2日が丸まる移動に費やされ、春秋便でも関空から入国し、東京まで行くと、再び関空に戻って帰国しなければならなかったのですが、その必要がなくなったからです。

スプリングジャパンはこれからも続々と成田からの中国地方路線への運航を計画しているようです。

先週、日本政府観光局(JNTO)の2016年1月の訪日外国人旅行者数の発表がありましたが、中国客は47万5000人と昨年の2倍増で、数、伸び率ともにトップでした。

訪日外客数2016年1月推計値を発表 前年同月比52.0%増の185万2千人
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/index.html

今年も訪日中国客の勢いは止まりそうもありません。
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by sanyo-kansatu | 2016-02-21 16:24 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 02月 21日

スプリングジャパン初の国際線(成田・重慶)に乗ってみた(第3ターミナルも初利用)

2月13日、国内LCCのスプリングジャパン(春秋航空日本)が初の国際線として成田・武漢、重慶(14日)線の運航を開始しました。

スプリングジャパンは中国の民営企業でLCCの春秋航空の日本法人です。

成田―武漢(週3便)
IJ1011 成田発10:20-武漢着14:15
IJ1012 武漢発15:15-成田着19:40

成田―重慶(週4便)
IJ1021 成田発9:00-重慶着14:15
IJ1022 重慶発15:15-成田着20:25

スプリングジャパン(春秋航空日本)
http://jp.ch.com/

今回、ぼくは重慶線の初便に乗りました。片道約5時間のフライトでした。

今回成田空港の第3ターミナルを初めて利用しました。第2ターミナルから約600m歩いて移動します。また5分おきにバスが出ていますが、こちらは大回りして行くので10分以上かかります。
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第3ターミナルは、天井の低い簡素なつくりの建物で、陸上競技場のトラックのようなラインが敷かれています。思わず「よーい、ドン!!」と走り出したくなるような気にさせ、面白いです。いかにもLCC専用という感じです。
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それでも、近隣アジアやオセアニア方面へのフライトが充実しています。
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入り口のいちばん手前がスプリングジャパンのチェックインカウンターでした。
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カウンターは「個人」と「団体」に分かれますが、この日は日本からの便ということで、団体は少なめでした。
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チェックインをすませて、出国ロビーに向かう途中にフードコートとショップがあります。さぬきうどんとかハンバーガーとか、空港グルメながらもコストを抑えたラインナップであることが特徴です。
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しかも、隣にベッドとしても使えそうなソファーがあり、実際早朝便を利用するオージーたちは爆睡しています。これもいかにもLCC専用ターミナルっぽい光景でしょう。
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出国手続きをすませ、免税店やお土産ショップを抜けると、「市中免税店引渡しカウンター」があります。ここは今年1月27日にオープンしたばかりの銀座三越店の免税コーナーで購入した商品を受け取れるようになっています。
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市中免税店引渡しカウンター
http://www.naa.jp/jp/press/pdf/20160118-taxfreecounter.pdf

その隣にはムスリム用の礼拝室もあります。
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搭乗ロビーからスプリングジャパンの機体が見えてきました。春秋航空とは違い、B737 だそうです。
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さて、いよいよ搭乗です。初便ということで、すべての乗客にお土産を手渡してくれます。
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機内では、いま同社が企画している「三国志」キャンペーンをPRしていました。重慶や武漢は三国志の舞台のひとつでもあるからです。実は、現地でぼくは4日間滞在したのですが、時間があったので、劉備玄徳らの建国した蜀の都だった成都まで行ってきました。
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ただし、成田便はそれほど席は埋まっていませんでした(帰国便は中国客でいっぱいでしたけれど)。なかなか日本客の取り込みが難しいようです。そもそも日本人はいま中国にあまり行きたがらないから、仕方がないのですけれど。

LCCですから、機内食はないのですが、ここは試しと食事を注文してみました。メニューは数種類あり、親子丼や中華丼、そしてこの写真の牛卵丼などで、900円。ふつうに考えれば安くはありませんが、注文してから客室乗務員がつくってくれます。自分はもともと機内食は口にしないほうなのですが、これは量も少なめでちょうどいいし、味もまずくはありません。少なくとも、中華料理漬けになって帰る便でこれを食べるとほっと一息つけそうです。
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スプリングジャパンが初めての就航地として武漢、重慶を選んだ理由として、日系企業が多く進出していること。中国内陸部の観光地のアクセスに便利と、同社ではあくまで日本客の利用を想定したプレスリリースを出していましたが、実際に乗客の大半は中国客で、日本客は10数名の春秋旅行のツアーに参加したグループ客のようでした。
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隣の席にいた女の子に中国語で声をかけたところ、「私、日本語できます」と言うので、少しおしゃべりしました。彼女は、重慶にある四川外国語学院日本語学科の3年生で、同級生とふたりで日本にインターンで来ていたとか。彼女の両親はともに中学の教師だそうで、「同級生の多くは日本語の教師になりたいと言っているが、教師の家に生まれると裕福にはなれないから、私は一般企業に就職したい」などと話していました。いわゆる「90后(90年代生まれ)」の子らしく、年長世代の80后の皆さんに比べ、人生に対するちょっと冷めた語り口が印象的でした。その後、彼女とは微信友だちになり、重慶の火鍋屋をはじめ、面白いスポットなどを教えてもらいました。
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実は、今回あちこちで彼女と同じ四川外国語学院の卒業生たちに出会うことになるのですが、重慶人たちのほぼ全員が、自分たちと成都人の違いについて語ってくれたことが面白かったです。彼らによると、「成都人はのんびりしていて、重慶人のようにあくせくしていない。いつも茶館で時間を過ごしている。でも、プライドが高くて、つきあいづらい」とかなんとか。かつて四川省の一部だった重慶は直轄都市として独立するのですが、どうやら成都に対するコンプレックスがあるようです。というのも、成都の人たちは重慶人ほどお互いの違いについて気にしていないせいか、そんな話はしないからです。古都と新興都市の違いから来るのでしょうか。

重慶空港に到着し、タラップを降りると、多くの報道陣や花束を抱えた空港の女性スタッフなどが待ち構えていました。
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「熱烈祝賀春秋航空開通重慶=東京航線」の垂れ幕もあります。

このご夫婦は、なんでも春秋旅行のツアーを最初に申し込んだ日本人だそうです。あとで写真を撮ったことを話すと、ぜひ送ってほしいといわれました。横浜在住の方でした。隣に立っているのは、スプリングジャパンの王会長(春秋旅行社の王会長の次男)です。
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重慶空港の国際ターミナルは国内ターミナルのはずれにあり、市内にはモノレール(軽軌)で約40分ほどでした。

重慶の様子については、また今度。
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by sanyo-kansatu | 2016-02-21 12:22 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 02月 12日

本日、鄭世彬さん(日本薬粧研究家)の『爆買いの正体』が発売されます

2月12日(金)、『爆買いの正体』(飛鳥新社)という本が発売になります。
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著者は「爆買いの仕掛け人」と称される台湾人作家の鄭世彬(チェン・スウビン)さんで、ぼくは本文構成を担当しています。

鄭世彬さんの肩書は、日本薬粧研究家です。耳慣れないことばですが、文字どおり日本の薬や化粧品、美容・健康商品の専門家で、すでに台湾、中国で11冊の本を上梓している人物です。念のためにいうと、1980年台南生まれの男性です。

内容はひとことでいえば、昨年新語・流行語大賞を受賞した「爆買い」はどうして起きたのか。その背景を台湾人の目を通して語ってもらうというものです。ここ数年メディアをにぎわせていた「爆買い」ルポとはまったく違う内容となっています。「爆買い」の当事者が語る本質を突いた指摘が次々と出てきます。「爆買い」を経済現象としてみるのではなく、民族的、歴史的な背景をもった文化現象として描いていることが本書の大きな特徴です。

さらに、この本は台湾人によるあふれんばかりの日本愛の告白書でもあります。なぜ台湾の人たちがこれほど日本の製品を愛好してくれるのか、その理由を熱く語ってくれています。

鄭世彬さんとはちょうど1年前、あるきっかけで出会いました。その後、この本をつくるために何度も彼に会い、話し合ったのですが、日本の美点を語るその内容は少々買いかぶりだと思うよ…。そう戸惑いながらも、彼のまっすぐな日本を見つめる姿にほだされてしまいました。ちょっと内向き、排外的な気分の蔓延するこの国で、彼のことばはみんなを心穏やかにしてくれること請け合いです。

鄭さんについては、以下の日経BPネットのぼくの連載(ニッポンのインバウンド舞台裏)の中でもインタビュー記事として簡単に紹介しています。

「爆買いの仕掛け人」に聞く【前編】 元祖「爆買い」は90年代の台湾人
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/012900004/

「爆買いの仕掛け人」に聞く【後編】 買いだめは華人の本能。一過性のものではない
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/021200006/

…とまあそんなわけで、ぜひ本書をお買い上げいただきたい。またお知り合い、ご友人にこの本のウワサを広めていただきましたら、望外の喜びです。

『爆買いの正体』(鄭世彬著 飛鳥新社)
2016年2月12日発売

http://goo.gl/DXhOMa

なにとぞよろしくお願いします。

本書のあとがきとして、ぼくも以下の文章を書いています。そこでは、彼との出会いのきっかけについて紹介しています。

鄭世彬さんとの出会い

 2015年2月中旬、私は上海の書店で一冊の奇妙な中国書を目にした。『東京コスメショッピング全書(东京美妆品购物全书)』と題されたオール4色刷のムック本で、旅行書籍のコーナーで異彩を放っていた。海外旅行が解禁されて10数年がたった中国では、世界一周旅行記や欧州でのヒッチハイク体験記など、ちょうど日本の1970年代に似た海外ひとり旅の体験を披露する旅行書が続々と現れていた。だが、日本の医薬品や化粧品のお土産購入指南という特定の消費分野に絞った、いわば80年代型のモノカタログ的なガイド書を見たのは初めてだった。

 私はこれまで経済成長に伴い拡大するアジア各国の海外旅行市場をウォッチングしてきた。編集者として常に気にしていたのが、海外の同業者たちがつくる旅行書だった。それぞれのマーケットの特性や成熟度、嗜好を表すひとつの指標になるからだ。

 帰国後、日本国内では春節で中国人観光客が「爆買い」する報道でにぎわっていた。当然、私はこの本と中国客とのつながりを直感した。あらためて著者プロフィールをみると、「台南人」とある。やはりそうか、この種の本を書けるのは、いまの中国人ではなく、80年代から長く日本の旅行に親しんできた台湾人だったろうと納得した。

 とはいえ、いったいこの本はどんな動機でどのような人物によって書かれたのか。また読者はどのような人たちなのか…。さまざまな問いが頭をめぐり、私はネットで「鄭世彬」という名を検索した。すぐに彼のフェイスブックページが見つかった。そこで、簡単な自己紹介を添えて彼にメッセージを送ることにした。すると、わずか数分後、彼から返信が届いた。

 以上が私と鄭世彬さんの出会いの経緯である。その先も早かった。彼は3月上旬、新刊の取材のために来日するという。フェイスブックで友だち申請してから10日後のことだった。

 都内の宿泊先に近い小さな喫茶店で話を聞いた。最初に私はこの本の執筆動機について尋ねた。すでに著書のある専門家にする質問である以上、出版の内容とその狙いを問うビジネストークのつもりだったが、彼は意外にも自分の少年時代の日本語との出会いを話し始めた。

 話を聞きながら、どうやら彼はマーケティングとかコンサルティングという領域の人ではなく、作家性をもった人物であると思った。数日後、幕張メッセで開かれていた日本ドラッグストアショーを視察する彼に同行した。すでに彼は多くの日本の医薬品メーカー関係者の知己を得ており、貴重な情報収集の場だったことを知った。彼の取材に協力を惜しまなかった日本家庭薬協会のブースを訪ねると、レトロな家庭常備薬のパッケージが並ぶ展示の片隅に、彼が昨年1月に台湾で出版した『日本家庭藥』が置かれていた。そのとき、彼は自分がいちばん出したかったのはこの本だったと語った。

 同書は日本の家庭薬がこれほど人々の生活に根づき、今日のドラックストアに見られるように文化として花開いた背景に、100年以上続く老舗企業の存在があり、その歴史を日本の医薬品を愛好してやまない台湾の読者向けに紹介する内容だった。これを聞いて、少々大げさかもしれないが、彼はこれからの日本にとって大切な人になるだろうと私は確信した。

 鄭世彬さんは、日本の医薬品や化粧品、美容・健康商品の専門家であると同時に、自ら「爆買い」する消費者であり、日本における「爆買い」の現場をよく知るフィールドワーカーでもある。何より驚くべきは、彼の発信する情報が10数億という人口を抱える中華圏に広まり、「爆買い」客を誘引したことだ。

 そんな彼が本書で語る「爆買い」に関する認識は我々に多くの知見を与えてくれる。華人にとって「爆買い」は本能である。面子、関係(グァンシー)、血縁を大切にする文化的背景に加え、根っからの商売人気質ゆえに誰もが転売業者のような買い方をする。それがネットとSNSによって想像を超えた拡散効果と購買の連携を生み、中華圏のみならず、東南アジアへと伝播する可能性も示唆している。

 台湾人の中国観や日本に対する熱い思いも正直に語ってくれた。彼と出会ってこの1年、この本をつくるために何度も会い、話し合った時間はとても有意義なものだった。うれしいことをずいぶん言ってくれるけど、少々買いかぶりすぎじゃないか…。このところ自信をなくしかけていた多くの日本人はそう感じるかもしれない。だが、東日本大震災のときに彼がこぼしたという涙に私もほろりとさせられた。この心優しき台湾人作家の日本に対する信認を知るとき、我々はもっとしっかりしなくちゃと思うのである。
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上海の書店に置かれていた鄭世彬さんの『东京美妆品购物全书』
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by sanyo-kansatu | 2016-02-12 08:02 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 02月 09日

楽天トラベル vs. Expedia これからが面白いと思いたい(そう思っていたけれど…)

2月8日、お台場のホテル グランパシフィック LE DAIBAで「楽天トラベル新春カンファレンス2016」(首都圏)が開催されました。
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楽天トラベル、宿泊キャンセル料を代行収受へ、3月からカード払いを事前決済に1本化(トラベルボイス2016年2月8日)
http://www.travelvoice.jp/20160208-60705

今年楽天は創業20周年を迎えるそうです。楽天トラベルも2001年から。当時はいまほどインバウンド市場は大きくありませんでしたが、近年エクスペディアなどの海外のホテル予約サイトが続々参入し、訪日客を奪い合う動きが加速するなか、楽天トラベルは今後どうしていこうとしているのでしょうか。その点については、もうひとつ明快な説明はなかったように思いますが、多言語化の取り組みはかなり進んでいるようです。上記のトラベルボイスの記事によると「中国では訪日前に楽天で購入した商品を訪日中に受け取れるサービスをホテルモントレの3施設と試験的に行なっている」そうです。
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興味深いのは、毎年恒例の前年1年間に顕著な実績を収めた宿泊施設に贈る「楽天トラベルアワード2015」(首都圏地区)の発表です。その中に、外国客の予約件数で実績を残した宿泊施設に与えられる「インバウンド賞」があります。今年の首都圏の「インバウンド賞」は以下のとおりです。

ヴィラフォンテーヌ東京汐留 初受賞
三井ガーデンホテル上野 初受賞
レジデンシャルホテル ビーコンテ浅草 初受賞
ドーミーインPREMIUM渋谷神宮前 初受賞

このうち「レジデンシャルホテル ビーコンテ浅草」は知りませんでした。「浅草寺・東京スカイツリー至近のレジデンシャルホテル『ビーコンテ浅草』は、ワンランク上質なキッチン付きホテル」だそうです。

レジデンシャルホテル ビーコンテ浅草
http://www.bconte.com/asakusa/
楽天トラベルでこのホテルの動画が見られますが、なるほどデザイン的にも魅力的なホテルですね。
http://travel.rakuten.co.jp/HOTEL/130043/130043.html

それにしても、楽天トラベルを通じた訪日客による予約実績の高いこの4軒。エクスペディアのランキングとはずいぶん違います。なにしろエクスペディアの利用者の3割は新宿のホテルなのですから。

エクスペディアで都内のホテルを予約した外国人の3人に1人は新宿を選ぶ
http://inbound.exblog.jp/25331847/

インバウンド予約の総件数や国籍比率がわからない以上、単純に比較してもあまり意味はないのですが、楽天トラベルを利用する訪日外客は、台湾などの日本に精通したリピーターが多いと思われます。エクスペディアが初めて訪日する外国人の利用も多いこととは対照的かもしれません。

そもそも全国の予約可能なホテル物件の数では、日本のOTAの王者・楽天トラベルにはエクスペディアは足元にも及ばないはずです。ただし、彼らも訪日客の増加と地方への分散化の急速な流れの中で、これまでの東京、大阪に続き、昨年9月に九州支社、10月に名古屋支社、そして今年2月に沖縄支社を開設しています。

外資の参入によって国内客ではなく、急増する新規市場としての訪日客を奪い合うという構図は、これまで日本ではなかったことだけに目が離せません。その点、楽天は「英語公用語化」で有名ですが、意外にドメスティックな体質があるように思います。

楽天は以前、中国最大OTAのシートリップに出資していました。

楽天、中国旅行サイト「Ctrip.com」に出資、具体的な連携協議へ(トラベルビジョン2004年6月14日)
http://www.travelvision.jp/news/detail.php?id=17406

でも、数年後にあっさり同社株を手放しています。

楽天、保有するCtrip株約664万株を売却へ(ロイター2007年8月7日)
http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-27246320070807

いまではエクスペディア、ブッキングドットコムに並ぶ世界3大OTAと称されるまでに成長したシートリップとの提携がうまくいかなかった背景については、中国メディアも当時いろいろ報じていましたが、要は「お互いのカルチャーが合わなかった」せいでした。

訪日客5千万人時代へ 世界三大OTAの戦略(観光経済新聞 2016年1月1日).
http://www.kankokeizai.com/koudoku/160101/18.pdf

そして、シートリップは2014年5月に日本法人を開設し、拡大する訪日中国市場を貪欲に取り込んでいます。

C-TRIPが日本へ本格進出、中国の地方都市へのビジネス客狙う(NBOnline 2012年3月9日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120309/229645/

観光業界人インタビュー シートリップ・ジャパン社長の梁穎希氏 第2818号(2015年10月24日)
http://www.kankoukeizai-shinbun.co.jp/tokusyukiji/interview/15_10_24.html

はたして楽天はこの状況をどう乗り越えていくのでしょうか。ドメスティックなやり方が一概に悪いとはいえないとぼくは思います。それぞれ良さ悪さがあるはず。日本の宿泊施設のサービスレベルの向上につながる「朝ごはんフェスティバル」みたいな取り組みは外資にはできないでしょうから。

朝ごはんフェスティバル
http://travel.rakuten.co.jp/special/asafesta/

とはいえ、今後訪日外国人がさらに増えていくのだとしたら、ひとまず彼らにもっと伝わりやすいサイトにしていく必要があるのでしょう。「カルチャー」の違いを乗り越えて、もっと歩み寄らないといけないのだと思います。

今後、訪日旅行市場が成熟していくことも確かでしょうから、そうなると楽天の優位性も出てくるはず。これからが面白いと思いたいです。ちょっと優等生的すぎるコメントでしょうか…。

【追記】
後日、こんな記事が出ました。楽天は本業においても外資に追われているのですね。これは大変だ。

楽天ネット通販、成長鈍化 迫るヤフー・アマゾン(朝日新聞2016年2月13日)
http://www.asahi.com/articles/ASJ2D3WJ6J2DULFA00M.html

さらに、こんな記事も出ました。

楽天の海外戦略、地域拡大を転換 東南アジアからネット通販撤退(朝日新聞2016年2月26日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12228322.html

楽天は主力のネット通販で東南アジアから撤退するなど海外戦略の見直しに乗り出した。「脱・日本企業」宣言から5年以上たつが、国内依存の収益構造は変わっておらず、自ら海外事業を広げる道筋はまだ描けていない。

楽天は今月末、インドネシアなど3カ国でネット通販の取引を停止し、サイトも近く閉鎖する。タイの通ログイン前の続き販サイト運営会社も売却する方針で、東南アジアの進出先すべてのネット通販から撤退することになる。

2008年の台湾進出を皮切りに、楽天は地元の有力サイトを買収する形で海外展開を進めた。27カ国・地域に進出して流通総額の海外比率を7割にする目標を掲げ、10年には三木谷浩史会長兼社長が「日本企業をやめ、世界企業になる」と宣言。英語の社内公用語化にも乗り出した。

だが、進出先は12カ国・地域にとどまり、台湾以外は苦戦を強いられた。とくに東南アジアはドイツ系企業などに圧倒され、日本で成功した「楽天市場」モデルは歯が立たなかった。

そこで地域拡大路線を転換し、市場が大きい米欧と好調な台湾に経営資源を集中させる。三木谷氏は「戦略に合わないビジネスは修正する」と12日の会見で語り、「選択と集中」を進める考えを示した。


 一筋の光明は、14年秋に約1千億円で買収した米イーベイツの存在だ。提携サイトで買い物をするとキャッシュバックなどがもらえるサービスで、米国を中心に1千万人超の利用者を抱える。知名度のない楽天にも、客を呼び込むチャンスが見込めるわけだ。ただ、12日に発表した20年の業績目標は依然、利益の9割以上を国内のネット通販と金融部門に頼る内容だ。UBS証券の武田純人シニアアナリストは「薄くても幅広い取引に関わることで、いずれ金融など自前のサービスを海外でも売り込む狙いでは」とみる。

これはまずいのではないでしょうか…。いまエクスペディアでは、東南アジア方面からの訪日予約手配が急増しています。まさに市場が拡大しているこの時期に、その可能性を手放すとは…。

昨年ぼくは楽天トラベルを取材しています。

多言語化に取り組む楽天トラベル。宿泊プランは外国客に支持されるか?
http://inbound.exblog.jp/24671580/

このとき、同社の担当者たちは「グループのシナジーを活かす」という表現を多用していました。もちろん、楽天は旅行事業だけやっているわけではないのですけれど、今回の決定は経営上のゆきづまりが背景にあると思われますが、やはり海の向こうの事情が見えていない経営判断ではないかと思われます。残念というほかありません。
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by sanyo-kansatu | 2016-02-09 17:44 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 01月 31日

大阪と東京のインバウンドの特徴の違いを外国人の視点で考えてみる

いま日本で最もインバウンドが熱い場所はどこなのか?

それは大阪です。

去年と今年の正月明け(あと去年の夏も一度)にぼくは大阪を訪ねています。大阪のインバウンドの現場をウォッチングしたかったからです。もともと自分は大阪にはほとんど土地勘はなかったのですが、ありがたいことに、大阪のインバウンド事情にこれほど通じている人はいないという心強い地元の案内人がいます。中国語通訳案内士の水谷浩さんです。

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた
http://inbound.exblog.jp/24486566/

2日間をかけて大阪のインバウンドスポット、すなわち外国人ツーリストがよく現れる場所を案内していただきました。それは、主に以下のエリアでした。

大阪駅周辺
新世界
日本橋
心斎橋商店街
黒門市場
船場
中崎町
富田林

※実際には大阪城やUSJもあるのですが、当たり前すぎるので、訪ねていません。
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一般に大阪は以下の5つの観光エリアに分けられるようです(大阪観光局発行公式ガイドブック参照)。

キタ・中之島エリア
大阪城エリア
ミナミエリア
天王寺・阿倍野エリア
ベイエリア

しかし、たいていの外国人旅行者は土地勘などなく、キタとミナミの違いもよくわかっていませんから、この日本人にはなじみのあるエリア区分はあまり意味をなしません。ただ特定の関心ある目的地にピンポイントで足を運びます。ひとつの特徴あるエリアを街区の連なりとして理解するには、しばらくその土地に住むなり、相当なリピーターにでもならないかぎり、難しいことだからです。その点、ぼくは外国人と立場はたいして変わりません。自分が外国人ツーリストになった気分で、水谷さんの案内してくれる大阪を楽しむことができました。

水谷さんが案内してくれた個別のエリアについては、追々紹介していくとして、大阪を歩いていると東京との違いをいろいろ知ることができました。

まずいちばん驚いたことは、心斎橋商店街をはじめとした延々と続く商店街の連なりと人ごみの驚くほどの多さです。大阪は地下街もすごいのですが、やはり東京にはこういうタイプの商圏はありません。せいぜい銀座がホコ天になったときとか、あとはあっても私鉄沿線の商店街くらいか。全然スケールが小さいのです。大阪のようにアーケードの商店街がどこまでも続く世界は、海外を探してもそんなにないのではないでしょうか。

もうひとつは、それとも関連するのですが、大阪は東京に比べまちがコンパクトなぶん、キタから天王寺まで歩いていけること。その間、商店街が名前を変えて接続していることも面白いですし、個性の異なるエリアを歩いて縦断していけることです。水谷さんは、こういう大阪の特徴をフランス菓子のミルフィーユにたとえてこう言います。「大阪はいろんな違う味がミルフィーユのようにつながる構造になっている。だから、歩くとその変化が面白い」と。なるほど、東京にも異なる個性を持ったエリアがいくつもありますが、大阪に比べて広いぶん、それぞれ点在していて、歩いてその違いを味わうというようなことは、そりゃできなくはないかもしれませんが、大阪ほどたやすくはありません。結局、地下鉄をどう乗り継ぐかということが、東京散策のポイントになりますが、大阪では1日かけて歩いて回ることもできない話ではない。

こういう都市のスケール感というのは、どちらかというとアジアというより、ヨーロッパの都市に近いといえるかもしれないことです。外国人ツーリストにとって訪れた都市がある程度コンパクトであるということは、魅力につながるものです。なぜなら、初めて訪れた人間にも全体像が把握しやすいからです。把握しやすいということは、また来てみようという気にさせるところがあるのです。その点、東京は大きすぎて、全体像を把握しようなどという気持ちを最初から失わせるようなところがあります。

もちろん、そうはいっても、日本の地方都市に比べれば、大阪は大きいですし、歩いて観光しようなどという気持ちにはふつうはならないでしょう。でも、いまや北京や上海、広州などの大都市では、すでに大阪に比べて公共交通網が拡大していることもあり(関西圏全域まで広げると話は違ってきますけど)、これらの都市の住人の感覚では、東京は無理でも、大阪なら全体像を把握できると思えるかもしれません。そして、それが外国人ツーリストにとっての大阪に対する親しみや愛着につながる可能性があると思います。

大阪観光局の関係者によると、関西を訪れる外国客の特徴は、買い物を好む東アジアや東南アジアからの観光客が多いことだそうです。なにしろ関空に乗り入れるLCC比率は全体の30%超と全国一。LCCを利用して賢く旅する外国人旅行者のことを「関西バジェットトラベラー」と呼んでいます。一般に東京には出張や公費で訪れる旅客も多いのに対し、関西は「自分のお金で楽しみたい人が訪れる」といわれ、リピーター比率も東京より高いことも指摘されています。

外国人ツーリスト、とりわけアジア客にとって、東京より大阪のほうが親しみを感じている人が多いのかもしれません。

実際、2015年2000万人まであとわずかに近づいた訪日外国人旅行者数は全国的に増えたことは確かですが、関西の伸び率は全国平均を上回っているからです。
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あとこれは地下鉄御堂筋線に乗っていて思ったことですが、大阪の地下鉄では、ハングル表示もふつうにあるのですね。東京でもJR山手線などでは見かけますが、地下鉄ではふだんあまり見かけない気がしたので(路線にもよるのかな? 少なくとも自分が普段利用する都内西部方面の路線では見かけません)、ちょっと印象に残りました。大阪を訪れる韓国人の数は半端ではないようですから、当然のことかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2016-01-31 19:18 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 01月 31日

慎重な日系エアラインとは対照的なスプリングジャパン初の国際線就航

中国系エアラインの果敢な日本路線の拡充の一方、日系はどうなのか。こちらは対照的に慎重な姿勢を崩していません。

中国の日本路線がすごいことになっている!(だから訪日中国人は500万人規模になった)
http://inbound.exblog.jp/25298672

たとえば、ANAは1月20日のプレスリリースで新規の中国(武漢)線の開設を発表していますが、中国線の定期便は10都市11空港にすぎません。以前に比べれば、これでもずいぶん増えた気はしますが、中国系に比べると、どうしても少なく見えてしまいます。
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2016年度 ANAグループ航空輸送事業計画を策定
~ 4月より成田=武漢線、9月より成田=プノンペン線を新規開設します!
https://www.ana.co.jp/pr/16_0103/15-099.html

JALはどうでしょう。中国系エアラインとのコードシェア便を含めれば15都市と結んでいるとはいえ、JAL自身は北京、上海、広州の3都市のみです。
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JAL中国線ネットワーク
https://www.jal.co.jp/inter/info/cn/

訪中日本人、特にレジャー客が激減してしまったいま、日系エアラインはビジネス需要や中国からのインバウンド需要に応じた路線展開を考えているものと思われますが、ここ数年の日本企業による中国進出や投資の減速もあり、慎重にならざるを得ないのでしょう。さらに、中国系の新規路線開設や増便が相次いだ結果、やや需給環境が悪化している(供給過剰)ともいわれます。

実際、訪日中国客の旺盛な購買力が相変わらず目立つ一方、中国経済の減速は日ましに現実のものとなり、建設・工作機械や電子部品の対中輸出がマイナスとなるなどの経済指標も続出しています。

いま中国では日本旅行がブームです。とはいえ、ここ数年、中国側にはどこか前のめり感があることも否めません。

それでも昨年末、スプリングジャパン(春秋航空日本)は初めての国際線として2月中旬より成田・武漢、重慶線の就航を発表しています。

成田―武漢(週3便)
IJ1011 成田発10:20-武漢着14:15
IJ1012 武漢発15:15-成田着19:40

成田―重慶(週4便)
IJ1021 成田発9:00-重慶着14:15
IJ1022 重慶発15:15-成田着20:25

スプリングジャパン(春秋航空日本)
http://jp.ch.com/

初めての就航地として武漢、重慶を選んだ理由として、日系企業が多く進出していること。中国内陸部の観光地のアクセスに便利と、同社ではあくまで日本客の利用を想定したプレスリリースを出しています。さらには、こんなキャンペーンも。
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http://jp.ch.com/content/Activitiesall/WUHSanguo0122/edm/edm_0122.html?cmpid=edmin_mk_manu_wuhsales_online_160122

でも、実際には中国内陸部の訪日旅行市場が盛んになっていることや、武漢・重慶から関空への運航便の搭乗率が高く、その多くは旅行団体客であることから、関西から関東に周遊した後、再び関空に戻らずに、中国へ帰国できるようになれば、さらに利便性が上がると見込んでのことでしょう。

この路線はすでに春秋航空の関空線が就航していますし、成田線でも他の中国国営キャリアと競合しています。しかし、2014年に日本法人を創設して以降、ついに国際線の運航も開始した春秋グループの息の長い日本路線構築の取り組みは、長期的な視点に基づくものです。この1、2年で急に日本路線を増やしてきた他の中国系とは違います。

もし彼らに誤算があるとしたら、これほど日本人が中国に行かなくなるとは思ってもいなかったでしょう。日本人のサイレントクレイマーぶりは、さすがに想定外だったに違いありません。春秋航空が国際線の初めての就航先として茨城空港に決めた2007年頃、訪中日本人の数は過去最高の400万人弱だったのですから(2015年はおそらく半分近くに減っているのではないでしょうか)。
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by sanyo-kansatu | 2016-01-31 15:12 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 01月 28日

ここまでやったから成功した! 佐賀空港の春秋航空誘致ストーリー

日本の地方空港への乗り入れに最も積極的な外国系エアラインといえば、中国の春秋航空が筆頭に挙げられるといっていいでしょう。なにしろ日本法人まで立ち上げてしまったのですから。この熱意は並大抵のものではありません。

春秋航空
http://www.ch.com/
スプリングジャパン(春秋航空日本)
http://jp.ch.com/

これまで本ブログでも春秋航空の話をいくつか書いています。

LCC、海外ドラマを呼び込め!めざすは「東アジアグローバル観光圏」! 地方空港サバイバル奮戦記(2011年11月6日)
http://inbound.exblog.jp/16713389/
※2010年7月、初の国際線として上海・茨城線が就航に至る誘致ストーリー。

中国客の訪問地の分散化に期待。中国ナンバーワン旅行会社、春秋国際旅行社のビジネス戦略に注目(2014年7月29日)
http://inbound.exblog.jp/23050811/
※14年3月、上海・関空線を就航後の展開を関係者に聞く話。

格安&仰天!中国「春秋航空」のおもてなし(プレジデント2014.9.29)
http://inbound.exblog.jp/23416882/
※日本法人のスプリングジャパン(春秋航空日本)の設立と初の国内線(佐賀便)に乗った話。

春秋体操はやってみると意外に楽しい~国慶節直前上海・茨城線搭乗記(2015年9月28日)
http://inbound.exblog.jp/24941250/
※上海・茨城線で噂の「春秋体操」を目撃した話。

中国沿海都市から新タイプの個人客、ニーズが多様化し新たな商機生まれる(日経インバウンドBiz 2016年1月19日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/011800003/
※同じく上海・茨城線に搭乗していた若い中国個人客に関する話。

でも、実はまだ書いていない話があります。…なんて、もったいぶっても仕方がないのですが、春秋航空が茨城、高松に次ぐ第3の就航地を佐賀に決めることになった裏話です。それはひとことでいうと、佐賀県がここまで徹底してやったから成功したという誘致ストーリーです。

これはプレジデントの取材で、スプリングジャパンの佐賀初運航便に乗ったとき(2014年8月1日)、県の空港関係者や古川康知事(当時)にお聞きした内容です。本当はこの話がいちばん面白くて、プレジデントにも書きたかったのですが、担当編集者にはピンとこなかったようで、書く機会がなかったのでした。
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さて、そもそも春秋航空はなぜ第3の就航地として佐賀を選んだのか。佐賀空港は、福岡空港や長崎空港にはさまれ、正直なところ、国際線の受け皿として競争力は低いと言わざるをえません。にもかかわらず、誘致に成功したのは理由があります。
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佐賀空港
http://www.pref.saga.lg.jp/web/ariakesaga-ap.html

そもそも佐賀県に限らず、日本の地方空港の赤字問題は深刻で、利用者促進と新規航空路線の誘致は大命題となっています。上海万博が開催された2010年頃、春秋航空を誘致しようと全国の自治体関係者がこぞって上海詣でをしたのもそのためでした。春秋側の関係者によると、全国の半分近い都道府県が同社に足を運んだというほど誘致合戦は過熱していたのです。
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きわめてドライな話ですが、春秋側にとって就航先の選定は「自治体がコスト削減のためにどこまで協力してくれるかが条件」(孫振誠日本市場開発部長・当時)でした。古川知事は、上海線の誘致に佐賀空港が成功した理由について「佐賀県は早い時期から県庁職員が一丸となって空港セールスに取り組んできたことが評価された」と語っています。

その取り組みとは?

関係者の話をまとめるとこうなります。

佐賀県が春秋航空に最初に誘致の話をしたのは、2010年9月末のことでした。当時、上海万博が開催されており、佐賀県は日本館にブースを出展していました。

そのとき、問題となったのは、佐賀空港の滑走路が2000mしかないことでした。実際をいえば、集客の問題や空港と市内へのアクセスなど、いろいろ言い出せばきりがないほど課題があったのですが、春秋側としては、安全性の面からその点を課題として指摘したのです。春秋航空の日本路線はエアバスA320-200型機を使用していて、滑走路は2500mが必要だという判断だったのです。
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はたして2000mの滑走路では本当に発着が難しいのか? 

佐賀県は、この課題をいかに解決するかを問われたのです。

そこで、当時の県の空港担当者は、まずANAに話を聞いたそうです。当時、ANAは同じA320 で佐賀空港に飛んできていたからです。ANAの回答は「なんら不自由していない」とのことでした。

さらに、安全性に問題はないというデータを用意するために、担当者は10年秋から冬にかけての約3か月間、1日4回のANA機の離発着状況を映像に収め、記録を続けました。

ここまでのことは、誰でも考えつくかもしれません。感心したのは、担当者が中国国内の春秋航空の路線がある空港のデータをすべて調べ上げ、2000m滑走路の空港がないか探したことでした。すると湖南省の懐化空港がそうだったことを突き止めたのです。その空港は、芷江(ZhiJiang)という侗族の住む少数民族自治区にありました。

担当者は、実際に懐化空港を訪ねたそうです。そして、空港関係者らに事情を確認しました。2000m滑走路でも問題ないとの言質をとって帰国したのです。

この話は、佐賀県と春秋航空との折衝の際、最も効いたそうです。合理主義の春秋航空担当者らも「そこまでやられたら就航させていただくしかない」と佐賀県の熱心さに舌を巻いたのでした。

この話には、さらに印象的なエピソードが続きます。佐賀空港への乗り入れを決めた春秋航空が初めてのテスト飛行として同空港に飛んだのが、なんと2011年3月11日。東日本大震災の日だったのです。

そのため、結果的に実際の就航は少し遅れ、翌年1月18日となりました。定期チャーター便としてのスタートでした。

佐賀県の関係者はこう話します。「春秋航空には明確なポリシーがある。最初は週2便から。震災後、訪日客は大きく減ったが、彼らは就航を白紙に戻さなかったし、一度も運休していない」。

古川知事(当時)は言います。「ローカル空港の新しいモデルを佐賀で実現したかった」。知事とは友人を介して永田町の都道府県会館でお会いしたのですが、世界の航空事情に大変精通しているうえ、とてもユーモアにあふれた方でした。学生時代にはひとりで海外旅行をしていたそうです。「私は航空行政を考えるときも、自分が旅行するときと同じように、ひとりのユーザーとして考える」といいます。このようなユニークな知事がいてこそ、佐賀空港の誘致は成功したのだと思いました。

現在、佐賀空港では航空便利用者に限り最初の24時間を1000円でレンタカーを貸し出すキャンペーンや、県内および福岡県南西部で片道1000円~2000円のリムジンタクシーの運行を実施しています。低価格のフライトを享受するLCC利用者にとって、空港までの交通アクセスをいかに安く便利にするかは課題です。フライト運賃が安くても、成田のように都内へのアクセスにコストがかかってしまうと、ありがたみがなくなるからです。

さて、これは5年前の話ですが、時代はずいぶん変わったものだと思います。数日前にブログでも書いたように、海外のエアラインとの「事前交渉なしで就航が実現」した静岡空港のような事例も出てきたからです。

静岡空港行きの中国路線はなぜ1年でこんなに増えたのか?(2016年1月25日)
http://inbound.exblog.jp/25298380/

しかし、言うまでもなく、静岡空港には地の利がありました。佐賀空港はほとんど優位性がないにもかかわらず、こうして誘致に成功したわけで、同県の空港担当者の取り組みはすばらしかったと思います。
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by sanyo-kansatu | 2016-01-28 17:39 | “参与観察”日誌 | Comments(0)