ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 05月 31日

中朝国境のまち、丹東は今ハマグリBBQの季節まっただ中!

中朝両国をつなぐ最も重要な国境ゲートである遼寧省の丹東。最近、ときどき日本のメディアでも登場するようになったのですが、場所柄ゆえとはいえ、中朝間で緊張が高まるような事件(?)が起きたとき、テレビカメラを抱えた日本の報道陣が押しかけて、さもたいそうなことが起きているがごとく、報道番組で紹介されることが多いまちです。
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まあそれは北朝鮮がこれだけ騒動を引き起こしている以上、ある程度仕方がないと思うのですが、ふだんはわりと静かで過ごしやすいまちです。

かつて安東と呼ばれたこのまちでは、5月が終わろうとしている初夏のこの時期、鴨緑江下流で採れたハマグリほか貝類の網焼きBBQ屋台が街中あちこちに出没します。近年、中国の大都市では屋台の営業が軒並み禁じられて姿を消すなか、それは解放感あふれるほのぼのとした風物詩といえるでしょう。

ぼくもこの季節、丹東に何度か行ったことがあるので、BBQ屋台は経験済みです。昔韓国によくあったポジャンマチャ(韓国風屋台)の感じに似ています。
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丹東市内には、海鮮BBQの店がいくつもあります。なかでも「金龍涮烤大全」という店は、丹東に行くと必ず訪ねる店のひとつです。丹東駅前と鴨緑江沿いにあります。
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店に入ると、まず水槽の中の各種貝類や魚介、肉などを選びます。屋台と違って、現代風の網焼きスタイルですが、炭火を使っています。地ビールの鴨緑江ビールは、北京や上海あたりでよく飲まれる燕京ビールや青島ビール、サントリービールと違って、そこそこコクがあるので悪くありません。

ところで、BBQにされるハマグリやアサリはいったいどこで採れるのでしょうか。地元の知り合いに聞くと、「鴨緑江の下流のほうですよ」とのこと。ぼくはその知り合いの運転する車で一度、鴨緑江の下流方面を訪ねたことがあります。2011年5月のことでした。
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ちょうど昼下がりの干潮の時刻らしく、中朝国境を隔てる鴨緑江下流域一帯から水の流れが消え、国境を歩いて渡れるんじゃないかというほど泥地で満たされるという不思議な光景が出現しました。

そこで車を停め、河沿いに近付づくと、潮干狩りに興じる地元の女性の姿が見えます。ジャージ姿で泥だらけになって、けっこう楽しそうです。
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カメラの望遠を使ってはるか対岸の北朝鮮側に目を凝らすと、案の定、こちらでも潮干狩りをしている姿が見えました。それにしても、あえて“潮干狩り”だなんていってみたものの、鴨緑江の場合はちょっとスケールが大きすぎますね。
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しばらく車で進むと、ハマグリやアサリをその場で買いつけると思われる業者のバイク軍団に出会いました。みなさん、バイクの後ろに発砲スチロールの箱を積んでいます。自転車で乗り付けるおばさんもいました。ここで水揚げされたハマグリたちが、丹東市内のBBQ店やら食堂やらで食べられることになるのでしょう。
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中国の国土は果てしなく広いですが、主な大河の最下流は激しく汚染物質がたまっていそうで、仮に干潟があってもそこで採れる貝類を口にする勇気はありません。鴨緑江には、これまで見てきたとおり、一部北朝鮮側の旧式の工場があるくらいです。そうしたことから、丹東はおそらく中国最大の貝類の産地といえるでしょう。上海のそこそこ有名なイタリアンレストランチェーンでも、ボンゴレに使うアサリは丹東産だと以前、取材先で聞いたことがあります。

このアサリが中国産か北朝鮮産かをめぐって、日本のスーパー業界でひと騒動起きたことがありました。北朝鮮への経済制裁に抵触するからだというのですが、この地を訪ねてみれば、中朝どっちで“潮干狩り”したところで、それにどれほどの意味があるのか。はっきり言ってしまえば、その大半は北朝鮮の鴨緑江沿いの貧しい村人や漁民たちが“潮干狩り”して、中国側に売りつけたであろうことは間違いないでしょう。

【追記】
この文章を書いたのは5月下旬のことですが、それ以後、鴨緑江の水質が中国側で問題化され始めました。

朝日新聞2013年7月11日朝刊に以下の記事があります。

「北朝鮮の核実験
中国首相が不快感

韓国の朴槿恵大統領は10日、6月の訪中時の会談で、中国の李克強首相が『北朝鮮の核実験後、(中朝国境の)鴨緑江の水質検査結果が悪くなった』と述べ、北朝鮮に不快感を示していたことを明らかにした。李氏が放射能物質の検出を示唆していた可能性もある。朴氏によると、李氏や習近平国家主席はともに、北朝鮮について『核は絶対だめだ』と強い口調で語っていたという」

地元中国遼寧省や吉林省の住人も北朝鮮の核実験で水質を懸念していると、今回もまた韓国の瀋陽領事が中国に代わってコメントしている記事も配信されているようです。
http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2013/07/14/0300000000AJP20130714000300882.HTML(聯合ニュ―ス)

これじゃ丹東のハマグリBQQも安心して口にできないということでしょうか。やれやれ、大気汚染に水質汚濁に加え、核実験による放射能汚染とは、中国という国の安心・安全はどこにあるんでしょうか?(2013.7.14)
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by sanyo-kansatu | 2013-05-31 20:41 | 北東アジア未来形:満洲の今 | Comments(0)
2013年 05月 30日

中国の海外不動産投資ブームをいかにビジネスチャンスとするべきか(COTTM2013報告 その5)

COTTM2013で開催されたフォーラムの最後のテーマは、「中国の旅行業界は海外不動産投資ブームをいかにビジネスチャンスとするか」というものでした。
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こういうストレートなテーマをビジネスフォーラムで討議するというのは、日本の旅行業界ではあまり考えられない気がします。個人投資家を集めた海外不動産投資セミナーを企画するのは異業種の領域だと信じられているからでしょう。日本の旅行業界人の多くは、消費者とともに一途に “旅のロマン”を追い求めることが業界としての使命なのだという自画像を好んでいるように見えます。

これは別に皮肉ではなく、実は中国の旅行業界の人たちも同じなのです。今回B2Bの商談会であるCOTTMの展示会場で見かけた中国の旅行業界人の顔だちを見ていると、これは直感的な言い方にすぎませんが、日本の旅行業界人と同じ人種だと思ったのです。そうそう、こういう顔だちの人、ファッションセンスの人、日本にもいるいる。たとえていえば、育ちがよくて、子供のころから両親に連れられ海外に出かける機会に恵まれ、留学もしたから英語もそこそこじゃべれるのだけど、バリバリビジネスをやる気もないので、つい知り合いのつてで海外の観光局で働くことになった……というようなタイプとでもいいましょうか。中国の対外開放の歴史は30年ですから、日本に比べると、その種のタイプが業界に集まる傾向はより強いといえるのかもしれません。ある意味、“中国人”離れしたタイプ、香港や東南アジアの華僑の資産家の子弟に近い感じといえばおわかりになるかもしれません。

もっとも、その種のタイプが多い業界といえども、ここは中国。“旅のロマン”だけを追いかけても生き延びてはいけない世界です。しかも、これまで述べてきたとおり、「新型旅客」の登場で、従来型のビジネスモデルでは立ち行かなくなりつつある。そんなこの国の業界人にとって“福音”となるのが、中国人の海外不動産投資家のニーズに業界としていかに貢献できるか、という話だというわけです。
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登壇したのは、司会進行のProf. Dr. Wolfgang Georg Arlt、CBN China Business Network(中国商務集団)総裁のDr.Adam Wu,Coo、そしてスペインのカナリア諸島で一戸建てヴィラなどの不動産販売を手がけるM&S Fred Olsen SAのCamilla von Guggenbergさんです。

CBN China Business Network(中国商務集団)
http://www.chinabn.org/

M&S Fred Olsen SA
http://fis.com/fis/companies/details.asp?l=e&filterby=companies&=&country_id=&page=1&company_id=11802

まず、おなじみProf. Dr. Wolfgang Georg Arlt(以下、教授)による趣旨説明から始まりました。なぜ中国の旅行業界は海外不動産投資ビジネスに関心を持つべきなのか、という話です。

教授はこんな話から始めます。先月(2012年3月)、ヨーロッパの主要な都市のいくつかの商工会議所で中国人観光客をテーマとしたワークショップが開かれたそうです。そこでは、いかに中国人観光客を呼び込み、ショッピングをしてもらうか。さらには、中国の投資家にどのようにプロモーションしていくべきか、といった内容が話し合われたといいます。それだけヨーロッパ諸国では、中国の観光客の来訪を歓待しているというメッセージが告げられます。

この話を聞きながら、ぼくは2008~10年頃の日本を思い出していました。その頃、日本ではいまのヨーロッパのような機運が盛り上がっていたからです。この約4年のタイムラグは、ヨーロッパ諸国が中国人団体観光ビザ(ADSビザ)の解禁を日本(2000年)に遅れること、2004年に実施したことを思うと、なるほどという感じもします。

次に、教授は中国の富裕層(high net worth individuals)の海外志向性について触れます。すなはち、1000万人民元以上の個人資産を持つ中国人富裕層の44%は、移住を考えていること。さらに85%が子弟の海外留学を計画している、と指摘します。
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そして、中国経済の成長は近年鈍化しているものの、海外旅行は依然拡大基調にあることが説明されます。なんだかバブルが崩壊した1990年代以降も、海外旅行市場が拡大し続けた日本と似ていますね。
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いよいよ本題です。中国の旅行業界は、なぜ海外不動産投資ブームをビジネスチャンスとみなすべきなのか。その理由は、ひとことでいえば、業界として顧客のニーズに応えるべきだから、というものです。わかりやすいですね。

教授は説明を続けます。

中国の個人投資家にとって、海外旅行は休暇や買い物を楽しむだけでなく、投資の機会と結びつけて考えられているのがふつうである。彼らは海外の高級な宿泊施設やサービスを体験するだけでなく、投資の機会を狙っている。なぜなら、中国の富裕層は、欧米と違ってすべて自らが起業した第一世代。海外の不動産投資情報についても、代理人に委託するよりも、自分の目で見極め考えるタイプが多い。それが中国の企業家の特性である。

彼らのサポートをするのが旅行業界の役割で、これはビジネスの好機といえる。中国の投資会社も、顧客のために海外の正確な投資情報を入手したいので、海外の事情に通じた旅行業界と協力したいと考えている。近年、中国でも投資家を集めた会員制クラブがいくつもできており、今後彼らを世界に案内する機会は増えるだろう。

実をいえば、中国の不動産投資ブームはいまに始まったものではありません。一般に「旅游地产(Tourism real estate)」と呼ばれ、1990年代にはすでに海南島や広東省などでリゾートホテル開発として進められていました。その動きが進化していくのが2000年代以降です。単なるホテルではなく、一戸建ての別荘やゴルフ場などがまずは国内各地に開発され、2007年のリーマンショック以降、海外に触手が伸びていったのです。

ですから、その動きに旅行業界も貢献するべくビジネスチャンスとしようという話は、ある意味、ごく自然な流れといえるのです。

さて、教授の講釈が終わると、座談会に移りました。登壇者のひとり、Camilla von Guggenbergさんは、欧米の観光客でにぎわうスペインのカナリア諸島でヴィラの投資を呼びかけるため、中国に来たといいます。一方、CBN China Business Network(中国商務集団)総裁のDr.Adam Wu,Cooは、いかにも1980年代早期の海外留学組といった感じの人物で、中国の旅行関係者に向かって投資ビジネスに関心を持つよう語りかけます。

これは日本でもそうですが、中国の大手旅行会社などは、これまで自ら投資して、国内に多数のホテル物件を開発し、運営してきました。しかし、ここで話題となっているのは、自らオーナーとなることではなく、富裕層の海外投資のサポート役となることが、新しいビジネスの可能性なのだということです。薄利多売で大量送客するだけの団体ツアービジネスでは、今後生き延びることは難しいため、富裕層を対象にビジネスを再構築しようという話ですから、それはそれで理にかなっているとは思います。さて、観衆の反応はどうだったでしょうか。

質疑応答の時間はたっぷり用意されていました。この種のイベントでは、中国の人たちは旺盛な好奇心と物怖じしない性格で、どんどん質問が出てくるというのが一般的な光景ですが、さすがに今回ばかりは挙手する人がなかなか出てきません。

そんな息苦しい雰囲気を気にしてか、ある女性が思い立って挙手しました。質問の内容は、Camilla von Guggenbergさんが紹介したヴィラ物件の広さと価格を問うものでした。いきなりカナリア諸島のヴィラに投資しませんか、と言われても、「それっておいくらくらいするものですか?」と聞くのがせいぜいというものでしょう。
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その質疑応答が無事すんで、その場もなんとなくホッとしていたところに、突然後ろの席のほうからひとりの男性が立ち上がりました。ちょっと聞き取りにくい英語でしたが、要するに、「カナリア諸島のヴィラにどれだけの投資価値があるのか。もっと詳しく説明しろ」という、かなり詰問調の質問でした。

おそらく彼は本気でその質問をしているのではなかったと思います。むしろ、そんな誰も知らない海の向こうの投資話をここですることに、どんな意味があるのか。もっと現実的で、業界のビジネスに直結する話をするべきではないか、というワークショップの主催者に対する異議申し立てのように感じました。その気持ち、わかりますよね。なぜなら、観衆としてここにいるのは、投資家の人たちではないからです。

こうして最後はちょっと気まずい雰囲気のまま、「詳しい物件の話は、あとで個人的にご質問ください」という教授のことばで締めくくられたという次第ですが、いかにもいまどきの中国らしい光景だと思いました。

中国で不動産投資を目的に海外に出かけようと考えている個人投資家はずいぶんいると考えられます。実際、彼らは日本にもやって来ています。

最近では、中国の投資家もただ海外の物件を購入し、資産価値を担保したうえで、家賃収入で儲けようという従来通りのタイプだけではなく、中国にはまだないさまざまな優良施設の運営ノウハウを取り入れ、自国で投資したいというニーズもあるようです。

彼らの存在をどう扱うかという話は、実のところ、我々にとっても新しいインバウンドビジネスの可能性のひとつとして、決して遠い話とは言えないのです。
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by sanyo-kansatu | 2013-05-30 11:44 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 05月 29日

世界一になったのに、なぜビザ緩和が進まないのか~中国の不満とその言い分(COTTM2013報告 その4)

フォーラム2日目の午後3時からパネルディスカッションがありました。
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タイトルは「中国出境旅游运营商研讨&签证问题(Tour Operators & Visa)」。中国の海外旅行市場における今いちばんホットな話題、とりわけ個人旅行化とビザ問題について、業界としてどう考えるべきか、というのがテーマでした。

登壇したのは、北京の旅行会社2社のトップの男性ふたりと、ネット旅行社最大手C-Tripのマーケティングディレクターの女性、そして北欧に拠点を置くアフリカのサファリツアーで有名なアルバトロス・トラベル中国支社長で、彼だけが外国人です。司会進行はPATA(Pacific Asia Travel Association)中国支部の代表・常紅さんです。

今回討議されるテーマは、中国の旅行関係者の事前の投票によって決められたそうです。彼らがいまどんな問題に頭を悩ましているか。まさに一目瞭然の結果が出ています。

The most interested topics voted by Tour Operators
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そのうち上位6つの話題が以下のとおりです。

①半自助旅游(160 票)
②中国新型旅客(155票)
③ビザ問題(152票)
④人材育成(149票)
⑤アメリカの新ビザ制度について(赴美签证新规)(143票)
⑥オンライン購入について(129票)

では、ひとつずつ簡単に解説していきましょう。

まず、①「半自助旅游」ですが、要するに、航空券とホテルを旅行会社で予約するだけの自由旅行のことです。日程と宿泊場所だけが決まっていて、観光や食事は各自が自由に楽しむツアーのことで、日本の旅行業界では「スケルトン型」とも呼ばれます。
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中国の大手検索サイト「百度」によると、「半自助旅游」について以下の説明があります。
http://baike.baidu.com/view/1617048.htm

「半自助游是一种介于参团游与自助游之间的旅游方式,其特点是旅行社只负责交通和住宿等环节,而游览行程、餐饮等全让游客自己安排」

日本ではよくあるツアー形態のひとつですが、未だに団体ツアーが主流の中国では、「半自助旅游」が増えることで、旅行会社の営業にどんなダメージを与えるのか。それともこれは好機なのか、というのが討議の中心でした。「半自助旅游」が増えれば、旅行会社が顧客のために手配する仕事が減り、利益もそれに応じて減ると考えられるからです。

登壇者たちの多くは(こういう場に出てくる以上、当然なのかもしれませんが)、業界にとって「半自助旅游」が増えることは歓迎すべきだという趣旨の発言をしていたように思います。それが現在の中国の旅行業界の主流の考え方といえるかどうかは定かではありません。

次の②「中国新型旅客」も①につながるテーマです。COTRIのProf. Dr. Wolfgang Georg Arltが強調していた“New Chinese Tourist”問題です。旅慣れた新型旅客の要求に旅行業界はどこまで応えることができるか、というのがポイントでした。
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ここ数年、中国では「新型旅游方式」ということばは一種の流行語といっていいでしょう。ネットで検索すると、渡航先の珍しさだけでなく、滞在のスタイル、各種体験型など、いろんな旅行のスタイルが紹介されています。それらは、日本のような海外旅行の成熟した市場からみるとそれほど目新しいものではありませんが、問題はその大半が、中国の旅行会社が現在催行しているツアーでは実現することが難しい内容ばかりなので、彼らは頭を抱えることになります。

中国の「新型旅客」といえば、以前ぼくは若い世代のバックパッカーブームについて書いたことがありますが、もはやそれも若者だけの特権ではなさそうです。昨年、北京在住の老夫婦の旅が中国で大きな話題となったからです。

中国の中央電視台で放映された以下のニュース動画をご覧ください。

“花甲背包客”走红 新型旅游方式受追捧(央视国际:2012-10-02)

北京在住の張廣柱(63)さんと奥さんの王鍾津(61)さんは、定年退職後の2008年から11年にかけて北米や南米、ヨーロッパなど数十カ国をバックパッカーとして自由旅行しました。その旅行記は『花甲背包客(Happy Backpacker)』というタイトルで出版され、多くの読者を得たことで、ニュース番組にも取り上げられたのです。
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ご夫婦のブログ:花甲背包客(Happy Backpacker)
※YOU TUBE http://www.youtube.com/watch?v=c998WEjZq3k

中国で最も人気とされる同電視台の白岩松キャスターは、番組の中で「新浪微博(中国版ツィッター)」を利用して「あなたは普段どの旅行スタイルを採用しますか?」というアンケートを10月2日行なった結果、「自由旅行73.2%、団体旅行26.8%」と、圧倒的に自由旅行が支持されたことを伝えていました。 この数字は、現実と大きく乖離していますが、それだけいまの中国の人たちの願望を反映していると思われます。

番組の中で、若い記者のインタビューに快活に答えるご夫妻の微笑ましい様子を見ながら、ぼくはちょっとしたデジャヴュを覚えました。それは1980年代のことです。当時、こういう元気なシルバー世代のバックパッカーが日本でも話題になったものです。ここだけ切り取れば、いまの中国はかつての日本の雰囲気に本当によく似ていると思います。

しかしそれは、いまの中国の旅行業界が当時の日本と同じような新たな問題に直面していることを意味します。若い世代だけでなく、この老夫婦のような「新型旅客」ばかりになってしまったら、旅行会社はどうやって利益を得ていけばいいのか。どう生き延びていけばいいのか……。

一方、③④⑤については、中国固有の問題といえます。まず③と⑤ですが、共通の内容といえるのでふたつを足せば、いまの中国の旅行業界にとってビザ問題が最大の関心事であることがわかります。
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現在中国人が海外旅行に出かける場合、団体ビザを取得して旅行会社の催行するツアーに参加するのが一般的です。これだけ個人旅行や自由旅行への志向が強まっているにもかかわらず、それを実現できるのはまだ一部の層にすぎません。これは中国が世界の多くの国々とADS(Approved Destination Status)ビザ協定を結んでいることと大きく関係あります。これは、不法移民を防ぐために各国との間で結ばれた中国在住国民を対象とした特別な協定です(海外在住の中国人に対しては少しゆるい規定になっています)。詳しくは下記サイトに説明されていますが、1983年に香港・マカオとの間で始まったこの協定は、2000年代以降オーストラリアや日本との締結を皮切りに、欧米諸国や南米アフリカ諸国へと一気に広がっていきます。

Approved Destination Status (ADS) policy(China Outbound Travel Handbook 2008)
http://chinacontact.org/information/approved-destination-status-ads-policy

ADSビザ協定国増加の推移(中国国家旅行局) 
http://www.cnta.gov.cn/html/2009-5/2009-5-13-10-53-54953.html

一般にヨーロッパ諸国との締結は2004年以降、アメリカとは2008年。以後、多くの中国人団体観光客が欧米を旅するようになったのです。

今日の中国の人たちは、欧米とアジアに序列をつけて見ようとする傾向が強いため、最初は欧米に行けるだけで満足していたのですが、数年もすると、自分たちも日本人や香港人など他の国の人たちと同じように個人旅行や自由旅行に行きたいと思うようになります。実際、日本でも中国人に対する個人観光ビザが適用されたり、ビザ取得資格の緩和が行われたりしているように、欧米諸国でも同様の措置が徐々に進んでいます。今回のCOTTMに出展しているヨーロッパの旅行会社の中にも自由旅行専門の会社がいくつかありました。

それでも、多くの中国人にとっては公平とは思えないのです。「いまや中国は世界一の海外旅行大国になったのに、なぜビザ緩和が進まないのか」と感じているわけです。とりわけ、彼らの関心が集中するのが、アメリカのビザ制度に対してです。

というのは、欧米先進国の中で最後に中国人の団体観光ビザを解禁したアメリカは、いまだにビザ取得の条件として、領事館での個別面接を義務付けているからです。北京のアメリカ大使館の前によく行列ができているのを見かけますが、そこまで課していることに対して、彼らは大いに不満を感じているのです。

とはいえ、さすがに昨年、大使館での面接内容の一部が軽減されたと聞いています。それでもまだ十分ではないと彼らは考えているため、⑤の話題が独立して出てくるのでしょう。今回のフォーラムでも、欧米諸国とのビザ条件をどうしたら緩和できるかについて多くの時間を割いていたようです。

彼らの気持ちはわからないではありません。これはぼくが北京で知り合った多くの旅行関係者にも共通している思いです。彼らにすれば、中国人だけ差別されているように感じるからです。

この問題に対する不満は、とりわけ中国メディアの記者などに強いように見えます。彼らはビザ問題を、中国人としての自尊心や面子の問題とすり替えようとしがちです。その主張を強く後押しするのが、前述の「いまや中国は世界一の海外旅行大国になったのに、なぜビザ緩和が進まないのか」という苛立ちです。

この点、中国の旅行業界の人たちは、メディアの人間に比べるといくぶん理性的に見えます、というのも、彼らは仮に欧米諸国や日本がビザ緩和を必要以上に進めると、不法移民が発生しかねない国情がいまの中国にあることを一方で理解しているからです。それは旅行業界の人たちが、中国の一般の人たちやメディアの人間に比べ、海外の事情をよく知っていて、冷静に物事を考えることのできる人材が多いからだと思います。

④人材育成の問題に彼らが高い関心を持っているのも、ビジネス上日常的に海外と中国の実情とを比較することができる立場にあるからでしょう。なんといっても、中国の海外旅行の歴史はわずか15年です。基本的に中国の旅行業界は長い時間、インバウンド(外客の受け入れ)で成長してきたわけですから、アウトバウンド・ビジネスに適応する人材は圧倒的に不足しており、その育成は急務となっています。さらに「新型旅客」の登場は、海外事情に詳しい人材を育てなければ業界そのものが生き残れないことを強く意識させています。

また、⑥オンライン購入の話題についても、ネットが旅行業のビジネスモデルを大きく変えようとしている中、時代の変化に適応した人材をこの業界でも必要としていることがわかります。

そうした事情は国家旅游局の役人も当然のことながら意識しているようで、以下のようなネットの記事も見つかりました。

新旅游业态呼唤新型旅游专业人才(2013-05-07)
http://www.lifedu.net/news/zhijiao/41092.html

この記事からもわかるように、いま中国の海外旅行マーケットはモデルチェンジとアップグレードの時代に向かっています。専門性の高い人材を育成するため、中国政府は大学の旅行専門学部や専門学校を急ピッチで開校させています。彼らは量だけでなく、人材の質を高めることが課題であることも認識しています。もっと日本との人材交流が進むと面白いと思います。
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by sanyo-kansatu | 2013-05-29 11:37 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 05月 28日

鴨緑江遊覧ボートで見る中朝の発展格差をどう考える?(遼寧省丹東市)

これまで中朝国境沿いに残された断橋や疲弊した北朝鮮の集落、そこで暮らす人々の様子を川向こうからこっそり覗いてきましたが、今回は中朝国境を代表するスポットとして遼寧省丹東を紹介します。
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ここには、朝鮮戦争時に米軍によって落とされた鴨緑江断橋と、それに並行して造られた中朝友誼橋(全長946m)があります。中朝友誼橋には鉄道が敷かれており、中朝間をつなぐ最大の国境ゲートとなっています。

※鴨緑江断橋は1911年11月に開通した橋梁で、1950年11月8日に落とされたまま、反米プロパガンダとして現在もその姿を残しています。中朝友誼橋は1943年に開通し、こちらも米軍によって落とされたのですが、改修して使われています。
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断橋のたもとからは、鴨緑江下流に向かって遊覧ボートが出ています。
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遊覧時間は約40分ほどですが、乗客たちは中朝両国の発展格差を目の当たりにすることになります。遊覧コースについては地図にこうあります。
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以下、橋のたもとから下流に向かって北朝鮮側と中国側の様子を交互に写真で並べて対比してみましょう。撮影は2010年5月のものですから、中国側はともかく、北朝鮮側も現在はもう少し整備が進んでいると思われます。
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北朝鮮側:橋のたもとに小さな観覧車が見えます。
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中国側:橋のたもとには、断橋と対岸の北朝鮮の様子が見渡せる中聯大酒店(ホテル)が建っています。
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北朝鮮側;橋のたもとから数百メートル下流に朝鮮式の2階建て施設がみえます。ここで幹部らが食事でもするのでしょうか。
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中国側:その対岸にはマンションが立ち並んでいます。
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北朝鮮側:そのさらに数百メートル下流に老朽化した2階建ての用途不明の建物があります。
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中国側:その対岸には最新式の高層マンションがあります。
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北朝鮮側:さらに下流に行くと、港湾施設を建設中です。この先には中国の投資による新鴨緑江大橋が建設中です。中国の投資攻勢に北朝鮮も防戦一方ではすまされないでしょう。
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下流に向かって右手が中国、左手が北朝鮮。
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遊覧ボートが引き返して、左手が中国、右手が北朝鮮。
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両国の発展格差をもっと印象に刻みつけたいのであれば、丹東の市街地の北にある元宝山の上に建てられた黄海明珠塔に上るといいでしょう。元宝山の標高が155m、塔の高さが138mで、手前の丹東市内と北朝鮮新義州の街並みを遠望できます。

鴨緑江に面して高層マンションが林立し、ぎっしりとビルと人間が集住している丹東市内に対して、河を隔てた新義州には低層住宅がへばりつくように並んでいますが、市街地の向こうには何もなさそうです。
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少し俯瞰した写真で見ると、新義州のはるか向こうに高層ビル群が見えます。あれは丹東新区と呼ばれる開発区で、いずれ丹東の中心はあちらに移る計画だそうです。すでに丹東市政府の巨大なビルは移転しています。新鴨緑江大橋を架けようとしているのは、丹東新区からです。いずれ、新区の様子も紹介するつもりです。
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さて、こうしてみる限り、中朝両国の発展格差は絶望的なまでに拡がっているといえなくもありません。

この歴然とした格差の光景は、1980年代半ば、香港の新界から眺めた深圳を思い出します。見渡す限り田園風景だった深圳に対し、背後には超高層ビルが林立し、人ごみあふれる香港という対比。それでも、当時その光景をそれほど深刻なものとして受け取る気分になれなかったのは、中国大陸の大きさに比べれば、香港なんてちっぽけな存在にすぎないのだから……。そんな漠然とした思いがあったからだと思います。なんにしろ、中国はこれからゆっくり発展していけばいいのだからと。

ところが、鴨緑江を隔てた中朝の格差の光景には、どこか不穏な印象がぬぐえません。

巨大な中国に対し、北朝鮮はあまりに小さく、デリケートな存在だからです。ハンディが大きすぎるのです。

もし中国の投資家がアフリカやミャンマーでやったように好き勝手に北朝鮮に入りこんできて、フリーハンドで開発を進めたら、中国資本に飲み込まれてしまうであろうことは明らかです。鴨緑江遊覧ボートや黄海明珠塔から見る中朝国境の光景はそれを実感させます。でも、そんなことをあの国の政府が許すはずはないでしょう。北朝鮮の北東アジアにおける超問題児ぶりの背景には、何より中国との関係があるのです。

だからでしょうか、北朝鮮関係者によると、この国では海外からの膨大な投資を飲み込むことで発展してきた中国式モデルではなく、国情の似たベトナム式の改革開放モデルを学ぼうとしているとも聞きます。台頭する中国とじかに国境を隔てる国々の苦悩はこれからも続くと思われます。
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by sanyo-kansatu | 2013-05-28 14:53 | ボーダーツーリズム(国境観光) | Comments(0)
2013年 05月 26日

中国の旅行業界に貢献したツーリズム大賞2013受賞者の顔ぶれから見えること(COTTM2013報告 その3)

この種の展示商談会には、この1年業界に貢献した企業・団体へのツーリズム大賞の授賞式がつきものです。COTTM2013(中国出境旅游交易会)では、どんな人たちが受賞したのでしょうか。

授賞式のプレゼンターは、ここでもCOTRI(中国出境旅游研究所)の代表のProf. Dr. Wolfgang Georg Arlt氏です。

以下、「マーケティング部門」「プロダクト・イノベーション部門」「インターネット部門」「サービス・クオリティ部門」「総合」の5つの部門の受賞者たちの顔ぶれを簡単に紹介しましょう。

COTTM2013 Award
http://www.china-outbound.com/fileadmin/template/pdf/Press_releases/2013/COTRIPress_ReleaseApril162013.pdf

●マーケティング部門
金賞 National Tourism Organisation of Serbia (NTOS) & National Tourism Organisation of Montenegro (NTOMNE) (Serbia & Montenegro)
http://www.serbia.travel/
http://www.visit-montenegro.com/
銀賞 Nicholas Publishing International (United Arab Emirates) http://www.npimedia.com/
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銅賞 Transaero Airlines(Russia) http://www.transaero.com/

●プロダクト・イノベーション部門
金賞 Travel Trade China(UK) http://www.traveltradechina.com/
銀賞 Fundatia Euro-Asia Promotion and Cultural Fundation (Romania)  http://culture360.org/members/euroasia/
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銅賞 Sun International (South Africa)   http://www.suninternational.com/
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●インターネット部門
金賞 Shanghai QinLu Electrical Technology Co., Ltd. & Xi'an HuaFan Instruments Co., Ltd. (China)  
http://www.shqinlu.com/
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銀賞 Tahiti Tourisme (Tahiti)    http://www.tahiti-tourisme.cn/
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銅賞 Central Hall Westminster (UK)

●サービス・クオリティ部門
金賞 Alila Hotels and Resorts (Bali, Indonesia)   http://www.alilahotels.com/
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銀賞 Abel Tasman Sea Shuttle (New Zealand)   http://www.abeltasmanseashuttles.co.nz/
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銅賞 The River Lee Hotel (Ireland)   http://cn.doylecollection.com/
銅賞 Himalayan Kingdom tours (Bhutan)   http://www.nepal-uncovered.com/tours/bhutan/bhkt.php
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●総合
金賞 Voortrekker Monument & Nature Reserve (South Africa)   http://www.voortrekkermon.org.za/
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銀賞 El Corte Inglés (Spain)    http://www.elcorteingles.es/
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銅賞 Uniline Croatia (Croatia)   http://www.uniline.hr/hrvatska/
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ぼくは一連の受賞風景を会場でずっと眺めていたのですが、受賞者たちは登壇しても短い挨拶程度のスピーチしかなかったこともあり、それぞれの受賞理由についてはあまりよくわかりませんでした。それでも、アフリカや東ヨーロッパなど、海外旅行先としてはまだ珍しいであろう国々の観光局や旅行会社などが多く受賞していることに、ちょっと驚きました。

こういう雰囲気は、旅行業界が次々と新しいディスティネーションを追い求めていた日本の1980年代~90年の感じに似ていると思いました。まだ誰も知らない、行ったことのない大陸や辺境へと勇んで出かけていこうとしている時代に、中国が向かおうとしていることを実感します。

マーケティング部門やインターネット部門の受賞者を選んでいることも興味深く思いました。中国の海外旅行マーケットでいま何が起きているかを知るには、これらの受賞者たちがどんな理由で評価されたかについて、もう少し調べてみる必要があるかもしれません。

ところで、JATA旅博でも「ツーリズム大賞」と称して、海外の旅行関係者の中から日本の海外旅行マーケットの促進に貢献した企業・団体を表彰しています。

JATA Tourism Awards(ツーリズム大賞)
http://www.jata-net.or.jp/tourism_awards/awards_record.html

ちなみに、2012年の受賞者は以下のとおりです。

●観光局部門 
台湾観光協会 
http://www.go-taiwan.net/
メルコスール観光局 ※南米4カ国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)の共同の観光局
http://www.mercosur.jp/

●特別賞
フィンエアー(フィンランド航空)
http://www.finnair.com/JP/JP/japan

●パブリシティ部門
日本テレビ「世界の果てまでイッテQ!」

受賞理由は話題性という意味でなんとなくわかる気はするのですが、サプライズはあまり感じられません。これが市場の成熟化というものかもしれませんが、少なくともいまの中国には海外旅行に対する熱気や期待が日本以上に感じられるのは確かです。
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by sanyo-kansatu | 2013-05-26 23:42 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 05月 26日

2012年、中国は米独を抜いて世界一の海外旅行大国になった(COTTM2013報告 その2)

COTTM(中国出境旅游交易会)を視察して興味深かったのは、国内外の業界関係者が登壇し、さまざまなテーマで意見を交わすフォーラムでした。ここで議論される内容は、現在の中国の海外旅行市場を理解するうえでいろいろと参考になります。
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COTTM2013 http://www.cottm.com/

3日間を通じたフォーラムの主要なテーマは、おおむね以下の4つでした。

①中国のラグジュアリー旅行の展望
②SNSの現在形(中国で海外旅行に最も影響のあるメディアのいま)
③業界の抱える6つの課題(査証問題を中心に)
④不動産投資旅行に対する業界の取り組み

このうち、残念なことに①だけ都合が悪くて出席できませんでしたが、②~④については、追って紹介しようと思います。とりわけ、④は日本の旅行業界ではあまり話題にならないような、中国らしい生々しいテーマといえるかもしれません。

さて、この4つのテーマに共通するキーワードは“New Chinese Tourist”です。今回多くの登壇者たちが語ろうとしていたのは、「いったい“New Chinese Tourist”とは何者か?」という問いを明らかにする試みだったと思います。

こうした問いが生まれるのは、十分すぎるほどの理由があります。2012年、中国がドイツ、アメリカを抜いて海外旅行マーケットで世界一の規模になったからです。この事実の意味するところを世界はどう受けとめ、対応するかが問われているというわけです。

「Are you ready?」。そう繰り返し問いかけるのが、COTTMのフォーラムの司会進行を務めるProf. Dr. Wolfgang Georg Arlt(以下、教授)です。
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ドイツ出身のTourism Scientistである同教授は、2004年に自ら設立したCOTRI(中国出境旅游研究所)の代表として、中国の海外旅行市場に関する精力的で継続的な調査研究を行い、今回のCOTTMの企画運営にも参加しているという学者です。2004年12月から05年3月まで、日本学術振興会の研究員として筑波大学に招かれたこともあります。

COTRI(China Outbound Tourism Research Institute)
http://china-outbound.com/

フォーラムの冒頭で、教授はこう語ります。

UNWTO(国連世界観光機関)は、今年4月4日、中国は2012年に8300万人の出国者と1020億ドル超の消費を記録し、ドイツ(前年度1位)、アメリカ(前年度2位)を抜いて世界最大の海外旅行市場になったと発表しました。2013年には9500万人の出国者が推計されています。これはUNWTOがかつて予測した2020年までに1億人の中国人が出国するというスピードをはるかに超えたものとなっています」
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※とりわけ2012年の出国者数の伸びは大きく、前年度比約20%増。伸び率の高い国のランキングでいうと、タイ+62%、台湾+57%、スペイン+55%、アメリカ+41%となります。ちなみに、日本は1~9月までは+71%とトップなのですが、10~12月は-37 %という皮肉な結果となっています。また、消費額は前年度比40%増という驚くべき数字です。

※2012年の海外旅行消費額ランキング(UNWTO)

1位 中国 1020億ドル 40.5%増 ※伸び率でも他を圧倒。
2位 ドイツ 838億ドル 5.8%増
3位 アメリカ 837億ドル 6.4%増
4位 イギリス 523億ドル 4.1%増
5位 ロシア 428億ドル 31.8%増 ※中国に次ぐ高い伸び率。「新興国の中間層が世界の旅行市場を塗り替えようとしている」タレブ・リファイUNWTO事務総長のコメントより。
6位 フランス 381億ドル 6.4%減
7位 カナダ 352億ドル 6.7%増
8位 日本 281億ドル 3.1%増
9位 オーストラリア 276億ドル 2.9%増
10位 イタリア 262億ドル 1.0%減

これまで中国の海外旅行者数として挙げられる数字には、香港、マカオへの渡航者数も含まれており、その数が3000万人程度あったため、全体像をかなり割り引いて考えなければならないという指摘もあったのですが、2012年度においては、8300万人中3000万人ということで(これでも十分多いですが)、中国人の海外旅行に渡航先の多様化が起きており、その結果、香港・マカオの比率が減少していることがわかります。 

実は今回、多くの登壇者が合言葉のように共通して口にした話題ですが、教授はさらにこんな話をしました。

「4月7日、習近平主席は今後5年間、中国は4億人以上の中国客を海外に送ることになるだろうとコメントしました。中国の政治リーダーのこうした発言は、市場の拡大に向けた大きな推進力となります。
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以前は『中国の海外旅行市場にどんな意味があるのか』とよく聞かれましたが、いまはもう古い質問となりました。『Yes, No1 in the World』と答えるだけですむからです。

新しい質問はこうです。『中国の海外旅行市場はどのように発展するのでしょうか』。それに対する2013年の答えはこうです。『Scientifically solid forecasting needed』(科学的で実質的な予測が必要とされます)」

教授によると、劇的な成長を遂げる中国の海外旅行市場ですが、1978年の改革開放以降、以下の4つの時期をへてきたといいます。( )内は出国者数。

①1983-96 VFR and delegations(外交団と各種代表団の時代) (1996 8 mio)
②1997-2004 ADS and chaotic growth(ADSビザと無秩序な成長の時代) (2004 29 mio)
③2005-10 Gaining experience and scope(経験の獲得と渡航地域の広がった時代) (2010 57 mio)
④2011-? The second Wave of china’s Outbound Tourism: sophistication and segmentation(中国の海外旅行の2度目の波:洗練とセグメントの時代) (2012 70 mio ,12 83 mio)

※ADS(Approved Destination Status)は、不法移民を防ぐために各国との間で結ばれた中国在住国民を対象としたビザ協定のこと。現在の中国人と旅行業界にとっての最大の関心事でもあるので、詳しくは別の回で。

教授は言います。「いまや中国の海外旅行市場は“洗練とセグメントの時代”を迎えている。その主人公は、“New Chinese Tourist”である。そして、

“New Chinese Tourist”-becoming “noramal”(like us?)」と問いかけます。

私たち(先進国)と同様に、“New Chinese Tourist”は普通に存在している、というのが教授の主張です。その理由として、以下の事例を挙げています。

①1997年以降、15年間の海外旅行の経験
②1978年以降、150万人の留学生が帰国していること
③アメリカとヨーロッパに累計で各100万人の留学生がいたこと
④中国の富裕層の平均年齢は39歳であること
⑤100万ユーロの個人資産の所有者100万人
⑥1億元の個人資産の所有者6万人
⑦10億元の個人資産の所有者4000人
⑧5.5億人のインターネット利用者

さらに、“New Chinese Tourist”には以下のような特徴があると指摘します。

①団体ツアーに対してネガティブなイメージを持っている
②ブータンでバードウォッチングをしたいというような専門的な旅を求めている
③経験と語学を身につけることで、旅行会社の手配するビザや航空券、ホテルを利用する以外の別の形を求めるようになる
④とはいえ、たとえ中国人が個人旅行化しても欧米的な“individual” travellerとは同じではない
⑤“New Chinese Tourist”といえども中国人である。他国で中国語の表示やサインを見つけることで、その国から尊敬を得ていると感じる
⑥彼らは同じ中国人の仲間からの情報を信用する傾向にある
⑦彼らは単なる休暇ではなく、名声や教育、投資のためにアジア以外の国に旅行することを好む。「Money-rich, Time-poor」な人たちである

こうした特性を持つことから、2013年、中国の海外旅行者の30%以上が旅行会社の手配を必要としなくなるだろう、といいます。
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“New Chinese Tourist”とは「New customers(新しい顧客)」であり、彼らを取り込むには「new distribution, channels, new denmands(新しい流通とチャネル、そして新しい要求)」に応えていかなければならない。

そのためには、「Niche products and distinations」(ニッチな商品と渡航先)」が必要とされている。彼らは他人に自慢するために観光地でスナップ写真を撮るためだけの目的では満足せず、特別な場所で特別な体験をしたいと考えている。これからの中国の旅行業界が取り組むべきは、ニッチな商品の開発と新しい渡航先の開拓だ、と結論しています。

いかがでしょうか。前回紹介したCOTTMの渋すぎる出展国のラインナップは、中国の旅行業界がニッチな渡航先を開拓する段階に至っていることを意味していたのです。

もっとも、一連の教授の話を聞きながら、規模と実態をきちんと区別する必要がありそうだと感じたのも事実です。日本で目にする中国からの観光客の大半は、まだとても“New Chinese Tourist”と呼びうるとは思えないからです。

ニッチの市場規模をどの程度に見積もるべきかについては、依然考慮を要すると思われます。また教授が指摘するように、“New Chinese Tourist”といえども中国人であり、欧米や日本の個人旅行者と同じようにイメージしてしまうと、勘違いも起こりそうです。

CNNが同様のテーマについて以下の記事を配信しているのを見つけました。記事の中には、教授もコメンテーターとして登場しています。

Chinese tourism: The good, the bad and the backlash(CNN)  April 12, 2013

ここでは、基本的に中国の海外旅行マーケットの成長を歓迎しつつも、個別の受け入れ国の側に中国客のマナーやふるまいをめぐって戸惑いがあることや、逆に中国人の側にも、欧米先進国に対する複雑なコンプレックスがあることを指摘しています。

“Chinese tourists often say they feel treated like second class people, even when they spend a lot of money” (CNNの同記事より)

こっちはお金をたくさん使っているのだから、一等国民として扱うべきだ……。なんとも痛々しい叫びともいえますが、そういう態度が他国の人から見ていかに傲慢に映るのか。それに気づいたとき初めて、世界の人たちは中国客に対して普通に接するようになるということを、もっとこの国の知識層は国民に啓蒙したほうがいいのだろうと思います。すでにブログなどでは、そういう議論がよくなされているのも事実ですけれど。この問題は彼らの自尊心とビザの話にもつながってくるので、また別の機会で。

さて、それはそれとして、2012年、中国はドイツ、アメリカを抜いて海外旅行マーケットで世界一の規模になり、今年も出国者数を順調に伸ばしているにもかかわらず、ほとんど唯一の例外として、訪日旅行市場だけが減少しているという事態について、やはりあらためて考える必要はあると思います。

そのためにも、中国の旅行業界でいま何が起きているのか。どんなことを彼らが議論しているのかについて、ある程度知っておく必要があるはずです。それが、この記事をぼくがブログに書いている動機のひとつとなのですが、中国の事情に詳しくない方でも、たとえば、2012年のJATA旅博のフォーラムで日本の旅行業界関係者が議論したテーマと今回ぼくの紹介した中国のケースをちょっと比べてみてください。

JATA国際観光フォーラム2012
http://www.b.tabihaku.jp/data/jataReport_ja.pdf

JATA旅博の場合、基調講演にしてもそうですが、シンポジウムの内容も「これでいいのか日本のインバウンド~真の観光立国となるために」「新たなマーケットの可能性と旅行会社の役割」(アウトバウンド部門)といった調子で、北京と比べると、テーマも抽象的でどこか予定調和的な印象が拭えません。あるいは、国際的なマーケットの動きや業界を超えたビジネスの広がりについてどこまで視野が及んでいるのか、ちょっと疑問です。

もちろん、国情や市場環境が違う以上、単純に比較しても意味はないのですが、いまや世界最大の海外旅行送り出し国となった隣の国の旅行商談会で繰り広げられている熱い議論についても関心を持つべきだろうと思います。
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by sanyo-kansatu | 2013-05-26 16:30 | “参与観察”日誌
2013年 05月 26日

高速で素通りされ、さびれてしまった図們

図們は、吉林省延辺朝鮮族自治州の東南部にある中朝国境と接する都市です。
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丹東の鴨緑江断橋が観光名所としてにぎわうのと同様に、図們と南陽(北朝鮮)に架かる図們大橋の手前に建てられた国門とその周辺は、北朝鮮の切手などを売る商店や軽食堂の並ぶちょっとした観光ポイントになっています。
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図們大橋のたもとでは、多くの中国人観光客が対岸の北朝鮮をバックに記念撮影を楽しんでいます。
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国門の屋上は展望台(有料)になっていて、そこから図們大橋の全貌と南陽の街並みが遠望できます。
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さらに、図們大橋の真ん中までが中国領ということで、観光客は国境線とされる中央のラインが敷かれた場所までは歩いていけることになっています(橋自体も中国側と北朝鮮側で色を塗り分けています)。
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もちろん、まったく物流が途絶えているというわけでもなく、北朝鮮側からこの橋をトラックが渡ってくるのをぼくも以前見たことがあります。しかし、ごくたまに、といった頻度です。では、本来中朝間の数少ない物流ルートであるはずの図們大橋が、なぜ日常的には中国側の観光客の散策の場くらいにしか使われていないのか。理由は後述します。

国境観光のその他アトラクションという意味では、図們大橋の北側の図們江沿いは図們江公園となっていて、朝鮮族の歴史や文化、風俗を展示する「中国朝鮮族非物質文化遺産展覧館」(なかなかすごいネーミングでしょう)があります。要は、無形文化財の展示館ということですが、実態は朝鮮の民族衣装を着せた蝋人形館といったほうが近いようです。

また図們江公園には、これまで見てきた中朝国境ではおなじみの国境遊覧ボートもあります。2012年に訪ねたときには、イカダ型をした奇妙なボートがそれほど川幅の広くない図們江を下流に向かって遊覧していました。ある意味、中朝国境沿いの中で最も北朝鮮側に接近したコースを航行するボートといえるかもしれません。

確かに、北朝鮮が中朝国境の近くで核実験を敢行したことで両国関係が緊張した一時期こそ、中国当局の指示で観光客の姿は消えましたが、それもつかの間。実際には、日本のメディアが報道するほど緊迫した事態というのはまれで、のどかな国境風景が見られるのが日常といえます。
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むしろ、図們は延吉や琿春と比べると、発展から取り残されたまちといえるでしょう。どうしてそんなことになったのか。

かつて図們は「西の丹東、東の図們」と並び称される中朝国境のメインゲートでした。ところが、2010年、長春方面から延びてきた高速道路が琿春までつながり、圏河口岸が整備されたことで、中朝間の物流ルートとしての位置付けは琿春に移ってしまったからです。琿春にはロシアとの口岸もあり、今後の発展が期待されますが、図們は高速によって素通りされ、さびれていくばかりというのが近年の状況といえます。
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しかし、歴史的にみれば、この地の重要性が決定的に低下したのは、満州国崩壊にまでさかのぼります。

もともと図們は、日露戦争後に日本が間島協約で清から敷設権を獲得した「吉会鉄路」の終着駅として建設が進められ、満州国成立後には図們南陽橋(現「図們大橋」)を通じて北鮮線と接続、日本海経由の日満連絡ルートとしての地位を確立していました。1930年代の図們について、以下の記録があります。

「図們はわが北鮮南陽と図們江を隔てて相対する国境新興都市、しかしこの国境は友邦両国の捨手地で、その和やかさは全くいわゆる『銃剣のきらめく緊張の国境風景』ではなく、僅かに税関検査が安東・大連と同様に行われる。

この地もともと名もなき小部落であったが、僅かのうちに驚異的躍進を遂げた新開地で、したがって料亭・旅館・飲食店など多く、生気溌剌としている。

列車は進んで豆満江国際鉄橋(420米)を渡ると地はすでにわが皇領をなる。その羅津港はこの橋梁より南陽に出で後162粁5、咸鏡北道北辺を走り直通列車はおよそ3時間で着く」  (ジャパンツーリストビューロー 昭和12年発行)

結局、日本の敗戦で、当時図們から北朝鮮経由の日満最短航路のひとつだった羅津までの路線(図們-南陽-穏城-慶源-雄基)は事実上断たれてしまいました。「図們江、野ざらしにされた断橋の風景【中朝国境シリーズ その6】」で見た橋桁の消えた鉄道橋や、「羅先(北朝鮮)はかつての「日満最短ルート」の玄関口」で紹介した羅津駅や雄羅線(雄基・羅津)の現在の姿からもわかるように、現在線路はなんとか残っているものの、鉄道を運行するには改修工事が必要なようです。

北朝鮮側としては中国の投資によってこの鉄道を改修させたいと考えているようですが、中国は先に圏河口岸から羅津に至る自動車道の舗装化を優先させました。近年の不安定な中朝関係のなかで、鉄道路線を改修するコストを引き受けるのは中国側も抵抗が強かったでしょうし、この辺境の地においても、もはや鉄道の重要性は低下し、モータリゼーションの時代を迎えているからでしょう。いずれにせよ、膠着状態にある昨今の中朝関係の中で、かつて国境のまちとして栄えた図們が今後大きく変貌を遂げる可能性は少ないように思われます。
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by sanyo-kansatu | 2013-05-26 10:58 | ボーダーツーリズム(国境観光) | Comments(0)
2013年 05月 23日

出展国が渋すぎる!? 北京のB2B旅行展示会(COTTM2013報告 その1)

4月9日~11日、北京で開催されたCOTTM2013(中国出境旅游交易会)(http://www.cottm.com/)に行ってきました。
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一般に旅行展示会といえば、日本ではJATA旅博(http://www.tabihaku.jp/)、中国では今年5月の開催で10年目を迎えたWTF(上海世界旅游博覧会 http://www.worldtravelfair.com.cn/)や、6月21日~23日に北京で開催予定のBITE(北京国際ツーリズム・エキスポ http://www.bitechina.com.cn/)などB2Cのイベントが知られていますが、COTTMはB2B、すなはち国内外の旅行業者だけが集まる商談会で、今年で9年目を迎えます。
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会場は、北京市朝陽区にある農業展覧館。2012年のWTF会場だった上海展覧館と同様、社会主義を標榜した時代の中国を思い起こさせる石造りの重厚な建築(1959年開館)で、現在さまざまな業界の展示会や商談会が頻繁に行なわれています。

今回の展示会では、海外から62カ国、275団体・企業が出展し、4000名を超える中国の旅行関係者が来場したと公式サイトは伝えています。では、会場の様子を覗いてみましょうか。
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正面玄関を抜けると、目の前の一等地に左右に分かれて巨大なブースを展開していたのは、メキシコ観光局とトルコ観光局でした。
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正面に向かって左に進むと、アフリカ諸国のエリアです。エチオピアやチュニジアなど、色鮮やかなブースが並びます。
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アフリカの民族衣装を身につけたスタッフも多く、陽気な雰囲気です。もともと中国にはアフリカ諸国からの留学生が多く、経済協力関係の深い地域だけに、なるほどという感じもします。あまり深読みしても仕方ありませんが、中国では観光がマーケットの都合だけで動いているわけではなく、「政治」が大きく影響していることを実感する光景です。
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一方、右側のエリアはヨーロッパや中近東諸国が中心です。もっとも、英仏独といった主要国ではなく、スロバキア(中国語で「斯洛伐克」)やクロアチア、アゼルバイジャンといった旧社会主義圏の国々を中心とした観光局のブースが続きます。
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奥の広いスペースに、今回最大の出展数だったアメリカ各州観光局の共同ブースや中南米、アジア各国のブースがありました。
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以下、公式パンフレットに掲載されていた出展企業・団体の国別リストです。

●アジア(16)
UAE、イラン、インド、韓国、カンボジア、シンガポール、ネパール、バングラディシュ、フィリピン、ブータン、ベトナム、マカオ、マレーシア、モルジブ、モンゴル、オーストラリア
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●アフリカ(12)
エジプト、エチオピア、ガーナ、カメルーン、ケニア、セーシェル、タンザニア、チュニジア、ブルンジ、マダガスカル、マラウィ、モンテネグロ

●中近東(5)
アゼルバイジャン、イスラエル、ウズベキスタン、ドバイ、トルコ

●中南米・太平洋(5)
コスタリカ、タヒチ、フレンチポリネシア、ベネズエラ、メキシコ

●欧米ほか(28)
USA、アイスランド、アイルランド、イタリア、ウクライナ、英国、オーストリア、カナダ、ギリシャ、クロアチア、ジブラルタル、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、セルビア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベラルーシ、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、ロシア

※トータルすると、国の数が公式発表より多くなるのは、一部出展を見合わせた国・地域があるからかもしれません。すべてをつき合わせてチェックしているわけではないので、ご了承ください。

出展国のリストだけ見ていると、なんという渋すぎるラインナップだと思うかもしれません。また逆に、中国人はこんなマイナーな国々へも海外旅行に行くようになったのか、と驚かれるかも。だいいち、人気のハワイもNYも、パリや香港のブースもないのですから。すでにお気づきと思いますが、主要国の中で唯一日本からのブースだけがひとつもありませんでした。

もっとも、それはCOTTMが一般消費者を対象としたB2Cの展示会ではないからといえます。旅行業のプロだけが集まる展示会だけに、よく知られた人気ディスティネーションのブースは必要がないのです。消費者が来場しない以上、彼らもPRする意味がないからです。

それでも、個々のブースは小さいため目立ちませんが、ヨーロッパから28か国の出展者がいることは興味深いです。それらの出展者の特徴は、前述したスロバキアやクロアチアなど、中国市場における新しいディスティネーションが観光局中心であるのに対し、英仏独などの主要国では、極地旅行や海外ウエディング、欧州個人旅行などの専門ジャンルに特化した旅行会社が出展していることです。つまり、すでに団体ツアーが多数訪れている主要国では、個人客を対象としたSIT(スペシャル・インタレスト・ツアー:特別なテーマや目的に特化したツアー)向けの商品を販売する民間の旅行会社のブースだけが出展しているということです。
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さらに興味深かったのは、ラグジュアリー旅行を提供する海外の旅行会社のブースだけを集めた特設コーナーもあったことです。
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つまり、COTTMは、中国の旅行業者にとって、これまで知られていなかった新しい旅行先や新機軸の旅行ジャンルを開拓するための貴重な情報交換の場となっているのです。そのことは、中国の海外旅行市場がすでにアフリカや中南米、旧社会主義圏のヨーロッパなどの国々やSITの世界へ触手を伸ばそうとしていることを意味しています。

そういう意味では、確かに日中関係が悪化しているとはいえ、この場に日本からの出展者がないことはちょっと残念だといえます。中国から見て日本市場はもうヨーロッパと同様、個人客を対象としたSITの時代に入っているというのに、それをPRしようとする業者がいないというのですから。

実は、日本に代わって多くの中国客が訪れている韓国からのブースは、唯一DICAPACというカメラや携帯の防水ケースを販売する会社でした。どれだけアピールできたかわかりませんが、この場に出展すべきなのは、たとえばこういう業者なのだと思います。
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確かに、COTTMに出展する意義をどう考えるかについては、いろんな見方があるとは思いますが、これまでのように一般消費者を対象とした旅行博に自治体主導で横並びに出展するスタイルが効果的かどうか、いまいちど考え直す必要があると思います。もはや中国から見た日本市場は、ヨーロッパと同じように、個別のSITツアーを打ち出すべき段階に入っているからです。

そのことは、COTTM会場で連日繰り広げられたフォーラムに登壇した中国の旅行関係者らが語っていたことです。その内容については、次の機会に
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by sanyo-kansatu | 2013-05-23 09:52 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 05月 20日

過去のにぎわいを忘れたふたつの国境~開山屯と三合鎮

中国吉林省延辺朝鮮族自治州には、圏河口岸以外にも、北朝鮮との国境ゲイトがいくつかあります。
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そのうちのひとつが、図們江中流域にある龍井市開山屯の口岸です。龍井から東に向かって車で約40分走ると、図們江に出くわします。
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そこには、開山屯と北朝鮮の三峰里をつなぐ三峰橋が架かっています。1927年9月30日に竣工されたものです。
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中朝両国側ともに河原が広く、水の流れはほんの数十メートルほどです。ここにも中朝国境の風景をのんびり眺めている中国の人たちがいます。ほとんど物流の動きはなさそうですが、一応口岸(イミグレーション)のオープン時間が掲示されています。監視用のカメラも一応備えられています。実は、2013年5月、ひとりの日本人旅行客がここで写真を撮影していて、中国の公安に拘束されたことがあるそうです。北朝鮮情勢にもよるのですが、もしこのような写真を撮影したい場合は、現地の知り合いと一緒にいくべきでしょう。
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いまでこそ鄙びた国境ですが、20世紀初頭、日本が朝鮮を保護国化し、1909年の関島協約でこの地域の帰属を清朝に認めるかわりに、鉄道など各種権益の保有(朝鮮移民の土地所有権も含む)を認めさせた頃から、急ピッチで図們江北側の「間島」エリアの開発が進んでいきます。

その後、日本によるこの地の鉄道敷設は中国側の反対に遭い、難航をきわめたのですが、朝陽川から龍井を経由して開山屯を結ぶ朝開線が、1914(大正3)年、日中合弁の天図軽便鉄道会社によって建設されます。

同じ時期、朝鮮側でも鉄道敷設は進み、清津から会寧までの咸鏡北部線が1917(大正6)年、さらに開山屯の対岸の上三峰までの開通が19(大正8)年。結果的に、朝鮮北部の清津(そして羅津)と満洲を結ぶ鉄道がつながることで、日本と満洲を直結する最短ルートが確立するのは、満洲国成立を待たねばなりませんでしたが、開山屯は当時、その重要な拠点のひとつでした。

※当時の鉄道建設に関しては、たとえば「躍進する北鮮の交通展望」(京城日報 1933(昭和8).9.27)参照。

満洲国崩壊後、このルートは用なしとなって現在に至っています。その結果、この路線はもはや鉄道の運行すらほぼ休止したありさまですが、開山屯駅は往時を偲ぶ昭和モダン風の愛嬌のあるデザインのまま、いまも残っています。
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開山屯周辺は、対岸の北朝鮮との川幅が狭く、ある時期までは中朝の民間交流が普通に行われていたと思われます。最近になって、とってつけたように中国側が鉄条網を張り巡らしているので、交流は相当難しくなっているはずです。何より中国側で同胞を受け入れようとする朝鮮族の思いが急速に失われていることが大きいと思われます。
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開山屯から南に向かって国境沿いを車で走ると、高台から北朝鮮の街並みが見渡せるポイントがあります。上三峰から会寧に向かう鉄道が見えるのですが、ベージュに赤と紺のストライプの入った、ちょっと場違いなほどモダンな4両連結の列車が走っていました。鉄道に詳しい友人にこの写真を見せたら、旧東ベルリンの地下鉄だといいます。かつては同じ社会主義圏ということで、転用されたものと思われます。
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さて、もうひとつの口岸が、開山屯より上流にある三合口岸です。三合鎮自体は小さな農村ですが、対岸は会寧といい、そこそこ大きなまちです。前述したように、朝鮮の日本海側を代表する港町、清津と結ぶ鉄道が早い時期から会寧まで敷設されており、当時はずいぶん栄えていたことでしょう。金日成夫人の金正淑(金正日の母)の生まれ故郷ということで、北朝鮮国内では有名なところだそうです。そのせいなのか、美人が多いまちだと彼らは口をそろえていいます。面白いですね。
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実は、この口岸は中朝以外の第三国人には開放されていないのですが、2008年5月、ぼくは地元延辺朝鮮族自治州のある関係者との縁で、国境橋を視察させてもらいました。橋の真ん中までは中国領ということで、国境警備兵の案内で歩いていくことができたのです。上の写真は、橋の中央からみた北朝鮮側の口岸で、下が中国側の口岸です。橋のたもとには「1941年7月竣工」と書かれていました。
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三合口岸の南に見晴らしのいい高台があり、「望江閣」と呼ばれています。ここからは会寧の街並みが一望にできるため、北朝鮮ウォッチングのポイントのひとつとして、よく観光客も訪れます。北朝鮮側の口岸もよく見えます。会寧は、他の中朝国境沿いのまちに比べ、家並みもかなり立派で、整然としていることがわかります。
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このふたつの国境を訪ねると、中国と北朝鮮の建国以来、今日まで続く両国関係の特殊性ゆえに、この地域の発展の可能性が閉ざされてしまったように見えてしまいます。かつて見られたにぎわいをすっかり忘却してしまった静かな国境―開山屯と三合鎮の姿は、現在の延辺朝鮮族エリア、果ては中朝ロ三か国が国境を接する北東アジアの行きづまり感を象徴しています。
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by sanyo-kansatu | 2013-05-20 14:21 | ボーダーツーリズム(国境観光) | Comments(0)
2013年 05月 20日

京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催

3月上旬、京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催されたので、視察に行ってきました。以下は、「月刊宝島」2013年6月号に寄稿したレポートです。


3月11日~13日、京都市で日本初の富裕層向け旅行の商談会「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット・ジャパン(以下、ILTMジャパン)が開催された。

ILTMは毎年カンヌで開催され、世界各国から1300社以上の観光業者が集まる商談会だ。2007年からアジアでは上海でも開催されている。世界の富裕層旅行市場の重心が欧米からアジアに移行するなか、世界で二番目に富裕層が多く、観光資源に恵まれた日本がILTMを誘致した背景には、「富裕層旅行者の取り込みを強化したい」観光庁と、日本を代表する世界遺産都市・京都の連携があった。

ILTMジャパンには、国内外のラグジュアリーホテルや高級旅館などの出展者と、バイヤーである旅行会社の約120社が集い、海外と日本それぞれの富裕層旅行者獲得のための商談会が繰り広げられた。
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会場は、出展者でもあるコンサルティング会社のプラン・ドゥ・シーが運営するThe SODOH Higashiyama Kyoto。京都画壇を代表する竹内栖鳳の旧邸宅を改装した高級結婚式場だ。

初日に観光庁主催で外国人富裕層受入に関心のある宿泊・観光業者を対象としたセミナーが開かれたが、テーマは「富裕層旅行とは何か」。俗に個人資産100万ドル、年収30万ドルで、プライベートジェットを乗りこなすといわれる富裕層旅行について、ILTMジャパン日本地区代表の福永浩貴氏は「『本物』の価値を理解し、さらなる豊かさを追い求める人たち」と定義する。彼らが求めているのは「一生に一度の体験」という。

ILTMディレクターのアリソン・ギルモア氏は「日本にはポテンシャルがある。しかし、世界に知られていない」と指摘する。

相変わらず「アピール下手」とされる日本だが、海外バイヤー30社中、中国7社、シンガポール4社など、中華系が半数を占めるように、日本の高品質の旅行資源に対する近隣諸国の関心は高い。マスを対象としない富裕層旅行市場だが、米国帰りの中国人富裕層の婚活ラブコメ映画『非誠勿擾』のヒットが中国客の北海道旅行を急増させたように、新たなビジネストレンドを生み出す起爆剤となる。商談会を通じて多くの関係者が語っていたように、日本をどうアピールするか、今問われている。

ILTM Japan日本事務局
http://www.iltm.net
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初日夜に建仁寺で開催されたオープニングパーティ。中央の着物姿の女性はILTMディレクター、アリソン・ギルモア氏
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by sanyo-kansatu | 2013-05-20 12:56 | “参与観察”日誌 | Comments(0)