ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ

<   2014年 05月 ( 13 )   > この月の画像一覧


2014年 05月 29日

春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)

前回、上海旅游博覧会(WTF)のフォーラムの内容の一部の報告を通して、2014年の上海人の海外旅行の動向を解説しましたが、統計データや市場分析はともかく、手っ取り早く理解するには、上海の旅行会社でどんな海外ツアーのチラシが置かれているかを見るに限ります。
b0235153_1184413.jpg

そこで、5月12日、ぼくは上海市の中山公園近くにある春秋旅行社本社を訪ね、店舗に置かれた海外旅行チラシを収集させていただきました。
b0235153_119569.jpg

春秋旅行社本社の店舗はこぢんまりとしたスペースでしたが、中国の旅行会社では珍しくカウンターの前にお客が座り、静かに接客している様子が、ほとんど日本の旅行店舗と変わらない印象でした(旅行商品のネット販売が進んだ中国では、上海や北京でもこうした光景はそれほど一般的ではないのです)。

さて、チラシをすべてお見せしましょう。まずヨーロッパのツアーから。

●フランス・スイス・イタリア10日間の旅
ローマinでスイスを抜けパリoutの定番ヨーロッパ商品です。
b0235153_11102352.jpg

●フランス・イタリア10日間ロマンの旅
ローマinで南仏を抜けパリout
b0235153_11103994.jpg

●イギリス10日間の旅
イギリス全土を周遊する旅です。
b0235153_11105260.jpg

●ドイツ11日間の旅
ハンブルグinでドイツ全土を周遊し、フランクフルトout
b0235153_1111590.jpg

●スペイン・ポルトガル11日間の旅
マドリッドinでポルトガルを北から降りてバルセロナout
b0235153_11111787.jpg

●オーストリア9日間の旅
ウィーンinでオーストリアを西に向かいミュンヘンout
b0235153_11113226.jpg

●ドナウの恋11日間
珍しく情緒的なネーミングのついた商品です。プラハinでウィーンを抜けブダペストout
b0235153_11114416.jpg

●東欧狂想曲16日間の旅
ポーランド、スロバキア、ハンガリー、オーストリア、チェコ、ドイツを周遊
b0235153_11115964.jpg

●ギリシャ「深度」7日間の旅
アテネin-outでエーゲ海クルーズの島めぐり付き。中国ではありふれた観光地をめぐるだけでなく、2回目以降のリピーター向けのディープな旅という意味で「深度」ということばを使います。
b0235153_11121274.jpg

●クロアチア・スロベニア10日間の旅
フランクフルトinリュブリャナ(スロベニアの首都)out。「アドリア海、魅力の旅。世界文化遺産、グルメ、市街地四つ星ホテル泊」という売り文句が掲げられています。
b0235153_11122764.jpg

●トルコ10日間の旅
イスタンブールin-out。「新欧亚之魅―深度全景之旅」。これはなんとなくわかりますね。「コンヤ、カッパドキア、イスタンブール、パムッカレ、アドリア」」などを訪ねます。「全行程ショッピング強制なし。純粋な旅行体験を楽しめます」とも書かれています。
b0235153_11124312.jpg

●オーストラリア11日間の旅
メルボルンinシドニーout。グレートバリアリーフを訪ねる旅です。オセアニアは数年前まで上海人の人気海外旅行先でしたが、近年はニュージーランドが人気だそうです。
b0235153_1113515.jpg

●アメリカ16日間の旅
ハワイ、サンフランシスコ、ワシントン、ナイアガラの滝、ニューヨーク、ラスベガス、ロサンゼルスなど、アメリカを大周遊します。やはりラスベガスは欠かせないんですね。
b0235153_1114535.jpg

●イエローストーン+アメリカ14日間の旅
ニューヨークinロサンゼルスout。イエローストーン国立公園とグランドキャニオン国立公園を訪ねます。ラスベガスにも立ち寄ります。
b0235153_11142076.jpg

●カナダ12日間の旅
トロントinバンクーバーout。カナダを東から西へ縦断する旅です。
b0235153_11143433.jpg

●サイパン5日間8499元から(2014年1月21日25日、29日、2月2日発)
サイパンは中国公民の観光ビザを免除している関係で、人気があります。「親子」「ハネムーン」「ゴルフ」「サンセット」「SPA」「ショッピング」などが楽しめると書かれています。今年の春節に合わせたツアーチラシです。
b0235153_11145237.jpg

●カンボジア「文艺清新纯玩团」3泊5日
文化の香り高い新感覚の旅とでもいいましょうか。春秋航空はアンコールワットのあるシェムリアップに就航している関係で、自社便を使った安いツアーが造成できるようです。ここにも「ショッピング強制なし」と書かれています。
b0235153_1115965.jpg

●86日間世界一周クルーズ
コスタ・ビクトリア号による上海発世界一周クルーズの料金は129999元(約220万円)からです。2015年3月1日発、帰国は5月26日です。初めてのツアー商品らしく、今年いっぱいをかけてクルーズ客を集めるそうです。金額もそうですが、長期休暇が取れる富裕層向けですね。ちなみに、横浜港にも立ち寄ります。
b0235153_11153044.jpg

●サファイア・プリンセス号6月13日発クルーズ
上海―釜山―済州―上海(4泊5日)4899元から。クルーズ旅行はいまの上海人の海外旅行の最もポピュラーなスタイルとなっています。
b0235153_11122287.jpg

●サファイア・プリンセス号8月17日発クルーズ
上海―済州―仁川―上海(4泊5日)。このクルーズでは、「深度游(ディープな旅)」「小資游(プチブル旅行)」「亲子游(ファミリー旅行)」の3つのタイプの商品から選べるようになっています。それぞれ岸上観光で訪ねる場所や船上のサービスが異なっています。こうした差別化が生まれるのも、クルーズがポピュラーな商品になっているからでしょう。
b0235153_11124071.jpg

●大阪3泊4日/4泊5日
今年3月15日春秋航空は関空線を就航しました。自社便を利用した大阪、京都、神戸の旅です。
b0235153_11154834.jpg

●東京、富士山、京都、大阪5泊6日/大阪、京都、神戸4泊5日
ユニバーサルスタジオジャパンの新アトラクション「スパイダーマン・ザ・ライド」をドーンと使っていますが、東京大阪ゴールデンルートと関西のツアーでした。関西ツアーは春秋航空利用です。
b0235153_1116751.jpg

海外ツアーのチラシから、現在の上海人の海外旅行シーンが見えてきます。ツアーの訪問先、標準的な日程も、日本のツアーと似ているところ、そうでないところがあります。

なおシーズンによって航空運賃やホテル料金など変わるので、チラシには料金が書かれていませんが、詳しく知りたい方は、春秋旅行社のサイトをご覧ください。

春秋旅行社
http://sh.springtour.com/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-29 11:17 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 28日

2014年の中国人の海外旅行、調子はどうですか(上海WTF2014報告その3)

海外の旅行博覧会の視察で見逃せないのは、展示会場とは別のステージで行われるフォーラムです。今回の上海旅游博覧会(WTF)のフォーラムのテーマは「海外旅行のリスクマネジメント」でした。5月9日午後1時半から行われました。
b0235153_13391456.jpg

昨年10月中国では「新旅游法」が施行され、旅行業界では消費者に対する旅行サービスの質の確保や安全面での保障が強く求められる時代になったといわれています。

もっとも今回のフォーラムで目立ったのは、むしろ(相変わらずというべきか)いかに中国の海外旅行市場が躍進しているかを伝える報告だったと思います。
b0235153_13394510.jpg

冒頭の「中国出境旅游三大区域市场报告(中国の主要3地区の海外旅行市場レポート)」はまさにそうした内容でした。報告者は、国連世界観光機関(UNWTO)の中国代表の徐汎女史です。以下、簡単に彼女の報告を整理してみたいと思います。
b0235153_13395760.jpg

ここでいう「主要3地区」とは、華中(上海、浙江省、江蘇省)と北京、広東(広州と深圳)を指しています。つまり、ここに挙げた地域が中国の海外旅行市場をけん引しているのです。

まず徐女史は、ヨーロッパ旅行について話を始めます。これまでの中国人のヨーロッパツアーは、英仏独伊あたりを団体で周遊するのが一般的(日本の1970年代のロンパリローマの旅と同じ)でしたが、これからは特定の一国を訪ねる旅が主流になりつつあるといいます。ヨーロッパは国によって個性が違うため、一人ひとりの旅行者が何を求めるかによってどの国を訪ねるか選ぶべきだといいます。
b0235153_13521411.jpg

※中国人のヨーロッパ各国のイメージの違いは、旅行会社のつくるちらしによく表れています。統計と合わせてみると面白いと思います→「春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)」

次に、旅行スタイルの話題です。中国の海外旅行市場が年々進化していて、そのプロセスは「普及游」→「深度游」→「自由行」という流れにあるといいます。目的地も最初はヨーロッパの主要国だったが、現在では中南欧、東欧、北欧へ広がっているといいます。
b0235153_134050100.jpg

なかでも「自由行」が進んでいるとし、その特徴は「個性化」だといいます。まあこれはどこの国でも起こることなのですが、中国人にとって(あとで触れることになりますが)「自由行」の障害となっているのがビザ問題です。

2013年、348万人の中国人がヨーロッパを訪れたそうです(前年度比11.16%増)。そのため、ヨーロッパの旅行業界はいかに中国客を受け入れるか検討しているといいます。思うにいまのヨーロッパは、日本の2008年頃の感じに似ているのではないでしょうか。大挙して訪れる中国客の購買力に驚き、これまでの受け入れ態勢を再考する必要を考え始めたというわけです。
b0235153_1341341.jpg

中国客の質的変化は次のように表現されています。

「不再是逛景点(もう名所を巡るだけではない)」

「购物,而是一种生活方式和体验(ショッピングも一種の生活様式と体験となっている)」

「团队越来越少,很多情侶和小团体,喜欢体验式旅游(団体はますます減り、カップルや小団体が多い。体験旅行を好む)」

「新一代旅客;比较年轻,受教育程度良好,旅游经验丰富,喜欢按自己的兴趣和需求规划行程;把旅游当做一种自我投资,乐于在微博社交媒体上展示(新世代の旅行社は比較的若く、教育程度も高い。旅行経験も豊富。個人的な趣味を追求した計画を立て、旅行を一種の自己投資とみなしている。微博(SNS)を通じて社交を楽しむ)」
b0235153_13472422.jpg

これもとりたてて新しい指摘ではありませんが、いわんとするところは、中国人も先進国の人たちと同じように海外旅行をしていますよ、という話です。
b0235153_1346992.jpg

次に、注目ディスティネーションが紹介されます。たとえば、アメリカですが、先に挙げた主要3地区のうち、北京が圧倒的トップで、次が広東。最も増えているのは江蘇省で前年度比25.22%増。上海はなぜか前年度比14.9%減となっています。こういうところにも、物見遊山だけでは気がすまない北京人の気質がわかります。教育熱の高い中国らしく、アメリカ東海岸の名門大学を訪ねて回るツアー商品もあるほどです。

さらに最近渡航者が増えているのはニュージーランドです。特に広東省の伸びが高い。モーリシャスも増えています。特に2012年からの伸びが顕著です。
b0235153_13463799.jpg

アフリカも中国人の人気ディスティネーションになりつつあります。やはりトップは北京。約12万人の渡航者数で、前年度比65.1%増です。ディスティネーション選びに関しても、実質や享楽を重視する華中や広東の人たちと比べ、北京の人たちはロマンある「個性的」な旅を好む傾向が強そうです。
b0235153_13475073.jpg

興味深いのは、主要目的地の渡航者数の前年度比を示すグラフによると、ことさら触れられることはありませんでしたが、トップは日本47.7%増。次いでベトナム40.4%増、インドネシア39.5%増、韓国33.2%増、フランス31.9%増です。大きく減らしているのがカンボジア50.1%減で、タイやマレーシアも減少傾向にあるようです。おそらく新旅游法(タイの場合)や航空機事故(マレーシアの場合)などが考えられます。きっと今後はベトナムも減少するでしょう。日本の場合は、尖閣諸島沖事件で2012年秋以降激減した反動が出ていると思われます。
b0235153_1348958.jpg

さて、話題は展示ブースでも目立っていたクルーズの話に移ります。徐女史によると、2012年は「大型船時代」、13年は「戦国時代」だといいます。つまり、2010年前後から本格化した上海発のクルーズ旅行(一部天津発もある)も、12年には客船の大型化が進み、13年にはさまざまなクルーズ会社が競うように参入してきたというわけです(詳しくは「上海WTF2014報告その2」参照)。
b0235153_13483592.jpg

中国のクルーズ市場は以下の3つに分けられるそうです。

①大衆消費層向け…中国発、4泊5日、5000元相当(初めてのクルーズ体験)
②ミドルクラス消費層向け…「フライ&クルーズ」、5~10万元(クルーズライフを楽しむ)
③富裕層向け…「フライ&クルーズ」、10万元以上、極地クルーズ(特別な体験を求める)
b0235153_13485363.jpg

特に③の北極&南極クルーズが今年の目玉だそうです。前者は6万5000元から、後者は12万元からです。これが実際の南極クルーズの旅行チラシです。
b0235153_6584314.jpg

他にもさまざまな富裕層向けの旅が紹介されていました。特に珍しいものはありませんが、いまの中国人にとって強い憧れの対象となっていることがわかります。

最後に触れられるのがショッピング行動です。以下の3つの変化を示しているそうです。
b0235153_13502683.jpg

①他需 → 自需(知人へのお土産から自分のために)
②从众 → 个性(大衆的なものから個性的なものへ)
③欧州 → 亜州(ヨーロッパからアジアへ)

①と②はわかりますが、③はどういう意味なのか。昨年、中国客がパリのルイヴィトン本店に大挙して押し寄せ、床や階段に座るやら大声で話すやら、みっともない姿が中国メディアでさんざん批判的に報じられたこともあったせいか、これからのショッピングはアジアでスマートに、ということでしょうか。その本丸は韓国のようです。きっとこれも中韓の蜜月時代を象徴しているのでしょう。「韓国はショッピング天国」だそうです。
b0235153_13504832.jpg

こうして中国の海外旅行市場にまつわるさまざまなトピックスが紹介された報告でしたから、2014年現在の中国人の海外旅行の内実がそれなりにつかみやすい内容だったと思います。ただし、前述したように、中国人にとって世界各国のビザ緩和の状況は不満であり、大きな関心事となっています。ちょうど今年は中仏国交50周年だそうで、フランスの中国公民に対するさらなるビザ緩和が進むことが期待されていました。
b0235153_13511880.jpg

同フォーラムのパンフレットには、こう書かれていました。

「2013年中国公民の出境総数は9819万人で前年度比18%増、今年14年には1億1000万人に達するであろう。現在、中国公民に対するビザ免除待遇を実施している国家は45となった」

ただし、その中には先進国はほぼ含まれていません。中国のビザ免除を実施している国については別の回で。

※なぜ世界は我々に対してこんなに厳しいのか?~中国の最大の関心事はビザ緩和
http://inbound.exblog.jp/22733072/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-28 13:37 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 27日

上海の海外旅行市場の大衆化を象徴するクルーズ人気(上海WTF2014報告その2)

前回、上海旅游博覧会(WTF)の会場の様子をざっくり紹介しましたが、そこでも述べたように、全体として他のアジア各国の旅行博覧会に比べ派手さはなかったものの、販売ブースはそれなりに活況を呈していました。

なかでも目立ったのが、クルーズの販売です。昨年さっぱり姿を見せなかった上海発クルーズ船も、今年は福岡などを中心に九州各地を寄港しています。
b0235153_9393490.jpg

これは6月30日発サファイア・プリンセス号のセールスボードです。済州島、福岡、長崎を寄港する5泊6日のクルーズで、上海中旅国際旅行社が販売しています。料金はデラックスルームで1名8999元。会期中1部屋4300元のディスカウントをうたっています。
b0235153_9401019.jpg

これは7月17日発の同じくサファイア・プリンセス号の広告です。上海錦江旅行社の販売で、1名7880元からとあります。
b0235153_9404898.jpg

7月1日発4泊5日で済州島、福岡に寄港するコスタ・アトランティカ号の広告です。市場価格は4200元からですが、この広告を出しているネット旅行社の驴马马旅游网のスペシャルプライスは隠されています。
b0235153_9413932.jpg

コスタ・クルーズ社の86日間の世界一周クルーズも大々的に販売されていました。ここには料金が表示されていませんが、春秋旅行社のちらしによると、12万9999元(約220万円)からとのことです。
b0235153_9421034.jpg

コスタ・クルーズ社の世界一周クルーズは上海市内の街場の旅行会社の店舗でも販売されています。
b0235153_9432262.jpg

極めつけは、セレブリティ・インフィニティ号の22日間南極クルーズです。上海からブラジルに飛び、イグアスの滝など数日間ブラジルを観光した後、南米各地を寄港しながら南極を訪ねるものです。上海東航国際旅行社が販売していました。
b0235153_9434243.jpg

クルーズ各社のブースも出展していました。まず人気のプリンセス・クルーズ社です。
b0235153_9435397.jpg

台湾と那覇の定期クルーズを運航しているスタークルーズ社です。
b0235153_9441244.jpg

ネット旅行会社によるクルーズ販売ブースもありました。
b0235153_9444262.jpg

会場にはクルーズの特設イベント会場が設置されていて、30分おきに各旅行会社やクルーズ会社によるPRや懸賞イベントが繰り広げられていました。
b0235153_945242.jpg

b0235153_9451917.jpg

ここ数年、上海WTFでは展示会というより販売色が強くなっているようですが、いまの上海の旅行会社のファーストプライオリティはクルーズ販売です。

上海のクルーズ人気について、日本政府観光局(JNTO)上海事務所の中杉元氏は「上海発のクルーズは4泊5日で韓国や九州を寄港するものが主流です。人気の理由は、寄港地でのショッピングが楽しめること。祖父母と親子3世代のファミリーが気軽に参加しやすいこと。船が大きくボリュームがあるぶん料金が安いことにある」といいます。

上海発のクルーズは3つのランクに分かれていて、スタンダードな価格帯は4泊5日で5000元が相場のようです。この手ごろな価格が人気の理由です。飛行機やバスで移動し続ける旅行は、シニアや子供連れでは大変ですが、クルーズは寄港地での岸上観光以外はのんびり船上で過ごせることで、海外慣れしていない層も参加しやすいのでしょう。
b0235153_11383083.jpg

これはコスタクルーズ社が発行している小冊子(出行指南)です。時間帯ごとに服装を替えるようイラストで提案しています。
b0235153_1140311.jpg

これは上海の情報誌「Time Out」2014年5月号に掲載されていたマリナー・オブ・ザ・シーズの紹介記事です。同船は今年2回日本に寄港する予定です(6月19日発:福岡、長崎、10月21日発:境港、福岡、長崎)。

上海のクルーズ旅行市場を見ていると、日本では海外旅行といえば、飛行機に乗るものと相場は決まっていますが、それは島国という地勢上の要因からくるものにすぎないことにあらためて気づかされます。いまでこそ日本でも「フライ&クルーズ(特定の寄港地まで飛行機で飛んで、短期間のクルーズを楽しむ旅)」や「格安クルーズ」も商品化されていますが、もともと豪華なイメージがつきものでした。

一方、上海では海外旅行市場の大衆化を象徴しているのがクルーズ旅行といえそうです。つまり、上海では初めての海外旅行がクルーズというケースもかなり一般的なのです。確かに、東シナ海の中心に位置する上海は、数日間で周遊できる周辺国の寄港地がいくつもあり、バリエーション豊かなコースをつくることが可能です。

上海発のクルーズ船の多くは欧米のクルーズ会社によるものです。ポテンシャルの大きい上海市場が注目されているのは当然でしょう。主なクルーズ船は以下のとおりです。

「コスタ・アトランティカ」(伊)
http://www.costachina.com/B2C/RC/Default.htm
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_costa_atlantica.htm

「ダイヤモンド・プリンセス」(英)
http://www.princess.com/learn/cruise-destinations/asia-cruises/
http://www.princesscruises.jp/ships/diamond-princess/

「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」(英)
http://www.rcclchina.com.cn/
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_vy1.htm

「セレブリティ・ミレニアム」(米)
http://www.celebritycruises.com/home
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_cel_millennium.htm

なお上海発クルーズで最も多い日本の寄港地は福岡。次いで、鹿児島、那覇、長崎の順です。今年の寄港スケジュールは以下を参照ください。

博多港
http://port-of-hakata.city.fukuoka.lg.jp/guide/cruise/index.html

鹿児島港
https://www.pref.kagoshima.jp/ah09/infra/port/minato/cruising/h26nyukouyotei.html

那覇港(那覇港管理組合)
http://www.nahaport.jp/kyakusen/nyuukouyotei2014.htm

長崎港
http://www.jopa.or.jp/port_detail/nagasaki.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-27 09:52 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 26日

バンコクや台北に比べて地味だった上海旅行博(上海WTF2014報告その1)

2014年5月9日~11日に開催された上海旅游博覧会(WTF2014)に行ってきました。実は、WTFに行くのは2004年以来なので10年ぶりです。

日本政府観光局(JNTO)の5月23日付けプレスリリースによると、2014年4月の訪日外客数は3月に続き単月で過去最高の123万2000人。市場別では、中国が第3位(1位は台湾、2位韓国)で前年度比90.3%増の19万600人、昨年9月から8カ月連続で各月の過去最高を記録するという勢いだそうです。

これだけ日中関係が悪化し、南シナ海でも紛争が起こるという政治的な異常事態が続くなか、まるでこの程度のことは慣れっことばかりに、中国客が日本に押し寄せているという状況は、とても興味深いというほかありません。その最大の送客地はもちろん上海です。昨年11月に訪ねたばかりでしたが、中国の海外旅行市場にどんなことが起きているのか、あらためて旅行博の様子を視察してみたいと考えたのです。
b0235153_1203020.jpg

小雨まじりのどんよりした曇り空の5月9日午後、会場に到着しました。以前はWTFといえば、上海市郊外にある浦東の新国際博覧中心で行われていましたが、数年前から市内中心部・静安寺にある上海展覧中心で行われています。

今回のイベントは、上海市旅游局が主催する16回目の旅行博覧会で、海外旅行市場も含めた博覧会としては11回目になります。以下は公式データです。

出展者数:50の国と地域より570団体が出展(合同出展含む)
出展面積:約15000㎡(前回比16.5%増)※販売エリアの面積は前年比24%増
業界関連来場者(業界エリア来場者数):のべ7948人
一般来場者(一般エリア来場者数):のべ約3万8300人※業界エリア入場者の重複カウントはせず

上海では毎年5月にWTFが開催されますが、2年に1度11月に中国国際旅游産業博覧会(CITM)も開催され、今年の秋はCITMがあります。後者は中国国家旅游局が主催するイベントで、浦東の新国際博覧中心が会場です。国家旅游局主催のイベントだけに、全国から業界関係者が集まるぶん、規模的には後者がはるかに大きいですが、逆にいえば、WTFはローカルなイベントだけに、上海の旅行マーケットの現状が見えやすいともいえます。
b0235153_1213186.jpg

会場入り口には、展示場内で催される各国政府観光局のPRイベントや旅行商品の即売会、オークションなどの各種イベントのスケジュールが告知されています。
b0235153_1215026.jpg

会場は、上海万博を機に相次いでつくられた展示会場に比べると、こぢんまりとしたコンパクトなスペースです。建物の前身は1954年に建てられた「中ソ友好大廈」で、展示場として使われるようになったのは1984年。上海で最も古い展示場ですが、スターリン時代に特徴的な中心に高い尖塔を置いたユニークなデザインがひときわ目立っています。
b0235153_1223354.jpg

正面入口から入ってみましょう。中央部の丸いドームの鶯色の天井とそこから吊り下げられたシャンデリア、正面の華麗な透かしとレッドスターといった時代がかったデザインが実に魅力的な空間です。
b0235153_1225028.jpg

向かって正面左手に陣取るのは、韓国観光公社のブースです。この博覧会で最も良いポジション取りはここ数年、韓国の定位置となっているそうです。
b0235153_123963.jpg

おなじみの韓流スターを総動員させたプロモーションです。あとで訪ねる日本のブースと違っているのは、韓国が「be Inspired」というワンテーマかつオールコリアでPRに取り組んでいることです。
b0235153_1232326.jpg

韓国の観光PR写真では、桜も躊躇なく使われます。なにしろ東日本大震災の年には、「桜を見るなら韓国へ」と堂々とPRしていたくらいですから。
b0235153_1241234.jpg

スキーリゾートのPRも韓流タレントの映像を見せています。

中韓関係の蜜月化が訪韓中国人観光客を急増させています。新華網も「中国の旅行会社は引き続き韓国への大規模な送客計画を執行する」と報じているようですから、これは既定路線というわけです。中国ではいかに政治が観光と直結しているか、よくわかります。

我国旅行社继续执行大规模向韩国“送客计划”(新華網2014年4月6日)
http://finance.china.com.cn/roll/20140406/2314165.shtml

海外からは他にも、タイやバンコク市、フィリピン(中国との関係悪化はここでは関係なしか)、マカオなどのアジア各国・地域、欧州方面ではスイスやエジプトなどが出展していました。
b0235153_1261115.jpg

b0235153_1262673.jpg

b0235153_1264189.jpg

b0235153_127066.jpg

b0235153_1271587.jpg

海外からの出展者がずいぶん少ない印象です。
b0235153_127583.jpg

とりたてて目立ったブースはありませんでしたが、目についたのは、中国人の観光ビザが免除となったサイパンでしょうか。どおりで最近のサイパンは中国客だらけなわけです。
b0235153_1282996.jpg

いちばんにぎわって見えたのが、台湾のブースだったように思いました。さまざまな懸賞やプレゼント企画を実施していて、ブースの周辺には人だかりが絶えません。
b0235153_12101981.jpg

台湾観光のひとつの売りが「農業観光」です。実は、香港からも多くの観光客が農業体験をするために台湾を訪れていますが、香港同様高層ビルが林立する上海でも、自然体験は大きな魅力となることでしょう。
b0235153_12103922.jpg

これはここだけの話ですが、台湾ブースの中に中華民国国旗が目立たぬように掲げられているのを見つけてしまいました。やりますね。

それにしても、最近の上海WTFというのはこの程度のイベントなんですね……それが正直な印象でした。昨年、タイのバンコクや台北での大盛況な旅行博を見てきただけに、とても地味に見えてしまいます。会場には中高年が多く、若い人はいないことはありませんが、比率はあまり高くないと感じました。

もちろん、これは上海市ローカルのイベントですし、今年で11回目ということもあり、飽きっぽい上海の人たちは、展示ブースが並ぶだけのイベントにそれほど大きな期待感を持たなくなったこともあるでしょう。海外旅行の情報だけなら、ネットでもっと詳しく知ることができると考えられているかもしれません。

こうしたこともあってか、WTFでも数年前から、タイや台湾と同じように、会場での旅行商品の即売会が始まっています。上海の大手旅行会社が、会期中限定の割引商品の販売を行っていました。さすがに、展示ブースに比べ、販売ブースは熱気にあふれていました。

公式発表によると、旅行商品及び旅行関連商品、美食などの現場販売金額:約1801.6万元(前年比33.7%増)といいます。

以下、上海錦江旅行社、上海中旅国際旅行社、上海青年旅行社のブースです。
b0235153_12131843.jpg

上海錦江旅行社 http://www.jjtravel.com/
b0235153_12133818.jpg

上海中旅国際旅行社 http://www.ctish.cn/

b0235153_12141761.jpg

上海青年旅行社 http://www.scyts.com/
b0235153_12325654.jpg

これはネット旅行社の驴马马旅游网(http://www.lvmama.com/)です。中国ネット大手のC-Tripのブースは見当たりませんでした(ただし、特設ステージでのPRイベントには参加していたようです。ブースを出すことに意味はないという合理的な判断からでしょうか)。
b0235153_12191544.jpg

日本ツアーの即売も多数見つかりました。これだけ「立減(値引き)」しているぞ、と強調されています。
b0235153_12193214.jpg

b0235153_12195142.jpg

販売ブースの中で最も活気があったのが春秋旅行社でした。スペースも最大規模で、中央に旅行即売コーナーを置き、その周辺にビーチリゾート、クルーズ、春秋航空などの展示ブースを並べており、人のにぎわいも他を圧しています。
b0235153_12204170.jpg

b0235153_12205856.jpg

春秋グループといえば、昨年日本の国内LCCとして春秋航空日本を設立するなど、訪日旅行に積極的に取り組んでいることで知られています。今年3月には上海・関空線も就航。夏には関空線を大幅に拡大し、天津、重慶、武漢からの就航も予定されています。彼らの訪日旅行に対する考え方については、関係者に話を聞くことができたので、別の機会で紹介したいと思います。
b0235153_12211716.jpg


※訪日路線の加速と国内線拡充で訪問地の分散化を図る~春秋旅行社日本部インタビュー
http://inbound.exblog.jp/22743078/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-26 12:21 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 17日

便利になった上海の地下鉄とここでしか見られないもの

先週、半年ぶりに3泊4日で上海に行ってきたのですが、地下鉄がますます便利になっていました。
b0235153_1103959.jpg

上海の地下鉄は2000年代の半ば頃より上海万博の開催に向けて加速度的に路線網を拡大してきましたが、その勢いは現在も変わらないようです。今回泊まったホテルが虹口地区のはずれにあったのですが、昨年にはまだ開通していなかった12号線ができていて、徒歩3分内に最寄りの駅があったのには驚きました。これは地下鉄12号線寧国路駅の地上出口です。
b0235153_110271.jpg

さすがに開通したばかりで地下鉄車内も明るくて新しいです。
b0235153_1123066.jpg

中国の大都市の地下鉄に必ずあるのが、手荷物検査機です。以前は気休めにしか思えませんでしたが、近年全国各地でテロが起きているだけに、リアルな存在感を感じないではありません。上海の地下鉄は便利になったものの、治安の問題が潜在化しているともいえます。これは中国でしか見られないもののひとつでしょう。
b0235153_1135444.jpg

もうひとつ面白いのが、ホーム頭上に置かれている次の電車の到着時刻を秒単位で表示しているテレビ広告のデータ通信です。これは北京の地下鉄にもあります。秒単位とはずいぶんせっかちにも思えますが、日本人の感覚だと、ここまでやられると、かえって時間を縛られているような感じがしないではありません。中国の乗客も、実はそんなに気にしてないんじゃないでしょうか。
b0235153_1110867.jpg

12号線の始発と終電の時間が掲示されていましたが、意外に終電は早いですね。夜の10時台ですから、気を付けないと乗り遅れてしまいそうです。

さて、地下鉄の自動販売機の使い方を説明しちゃいましょう。
b0235153_11112621.jpg

まず自分の行きたい駅が何号線にあるか見つけて下のパネルから選びます。
b0235153_11113816.jpg

そして駅名と枚数を押します。
b0235153_11115254.jpg

料金がわかったら、お金を入れます。
b0235153_1112070.jpg

b0235153_111283.jpg

お釣りと一緒に券が出てきます。
b0235153_11121698.jpg

販売機の使い方がわからない地方から来た人も多いので、説明してくれる駅員さんもいたりします。
b0235153_11122259.jpg

ところで、日々路線網を拡大する上海の地下鉄ですが、最新の路線図を入手したので、東京の交通路線図と比べてみました。
b0235153_111734100.jpg

なんでも地下鉄路線だけだと、上海は世界一の運行距離になったのだそうです。この短期間にすごい発展ぶりです。ただし、東京やパリ、ロンドンなどの交通網は、長い時間をかけてつくられた地下鉄以外の鉄道路線があるため、トータルでみると、上海もまだ十分とはいえなさそうです。

それでも、今回上海市内を郊外も含めてずいぶん動き回ったものの、たいていの場所まで地下鉄で行けるようになっていたので、タクシーを利用する機会が本当に減りました。ここ数年、ハルビンや大連といった地方都市でも地下鉄の開通が始まっています。中国では不動産開発による無意味な投資が目につくなか、都市部の公共インフラを充実させることに対しては政府も意欲的であることを強く感じます。
b0235153_11221340.jpg

[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-17 11:26 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2014年 05月 17日

訪日客のバス不足が懸念されています(ツアーバス路駐台数調査 2014年5月)

ゴールデンウィークが終わりましたが、今年のツアーバスの台数はそれ以後も減ることはありません。
b0235153_1272896.jpg

実は、4月に全国でバス不足が発生し、バス会社やランドオペレーターが手配に窮して、てんてこまいとなっていたという事実はあまり知られていないかもしれません。例の岐阜県で4月下旬に起きたJTB中部多治見支店の社員が岐阜県立東濃高校から受注されていた、遠足用の観光バス11台の手配ができず、責任を逃れるために同校生徒が遠足を中止しないと自殺すると書いた手紙を学校へ届けたという事件も、この構造的なバス不足問題と無縁ではないと多くの関係者は語っています。

元JTB社員を業務妨害容疑で逮捕=遠足バス手配忘れ-岐阜県警
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201405/2014050500328&g=soc

その件については、今後改めて取材したいと思っています。

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた御苑大通り新宿5丁目付近におけるアジアインバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(木)17:20 2台
2日(金)12:30 3台、18:30 3台
3日(土)未確認
4日(日)未確認
5日(月)未確認
6日(火)未確認
7日(水)12:20 4台、18:40 3台
8日(木)12:10 2台
9日(金)未確認
10日(土)未確認
11日(日)未確認
12日(月)未確認
13日(火)12:40 4台、18:30 3台
14日(水)11:50 4台
15日(木)未確認
16日(金)未確認
17日(土)17:20 3台
18日(日)未確認
19日(月)未確認
20日(火)12:50 3台
21日(水)13:20 2台
22日(木)12:20 2台、17:40 3台
23日(金)12:50 4台
※この日、珍しく30代くらいの若い運転手を見かけました。常日頃バス運転手の高齢化が気になっていましたが、ちょっとほっとします。

24日(土)17:30 2台
25日(日)未確認
26日(月)13:20 3台
27日(火)12:20 5台、17:30 2台
28日(水)18:10 2台
29日(木)12:30 3台
30日(金)12:20 3台、20:10 2台
31日(土)未確認
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-17 08:44 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)
2014年 05月 06日

沖縄県のインバウンドの“先進性”とは何か?

沖縄県が他の都道府県に比べ、いかにインバウンド力(訪日外客誘致力)において“先進性”が見られるか。いくつかの指標について考えてみました。

まず思いつくのは「外客の入込数・宿泊者数」や「消費額」といった量的な側面です。

たとえば、都道府県別の訪日外国人旅行市場を量的側面から比較する指標として、観光白書では、下記のようなデータを挙げ、動向をつかもうとしています。

①都道府県別の外国人延べ宿泊者数
②入国港(空港、港)別 外国人正規入国者数
③都道府県別の実観光入込客数・観光消費額

そのうち、①の最新統計は、以下の観光庁のサイトに載っています。

宿泊旅行統計調査(平成25年10月~12月、平成25年年間値(暫定値))
https://www.mlit.go.jp/common/001029997.pdf

このデータによると、2013年の「都道府県別の外国人延べ宿泊者数」のランキングは以下のとおりです。

1位 東京都 9,984,200
2位 大阪府 4,309,490
3位 北海道 3,050,300
4位 京都府 2,657,100
5位 千葉県 1,993,090
6位 沖縄県 1,363,120
7位 愛知県 1,148,700
8位 神奈川県 1,060,040
9位 福岡県 920,740
10位 静岡県 542,690

沖縄県は人口数や経済規模でみると国内では30位台に位置していますが、ここでは6位に入っています。大都市圏である東京都や大阪府、国際的にも観光地としてすでに定評のある京都府や北海道、成田空港やTDRのある千葉県に次ぐランキングであること。中部空港のある愛知県や福岡空港の福岡県、富士山のある静岡県より上位であることは、相対的にみて沖縄のインバウンド力が高いことを示していると思います。

また、過去3年間と比較した外国人延べ宿泊者数の伸び率(2013年)も、沖縄県は高い数字を示しています。たとえば、2012年度比でこそ、トップは長野県(82.9%増)で2位(74.5%増)でしたが、10年度比でみると196.2%増と断然トップです。つまり、過去3年間、沖縄はインバウンドに力を入れ、その結果が伸び率の上で最も反映されているといえます。

さらに興味深いのは、日本の利用客数の多い上位7空港(新千歳、羽田、成田、中部、関空、福岡、那覇)の国際線における外国人入国者数と日本人出国者の旅客数です。法務省の直近の統計によると、今年3月のデータは以下のとおりです。

       外国人入国者数 日本人出国者数 (2014年3月)
新千歳空港 40,800   13,738
羽田空港 121,128   244,456
成田空港 444,570   726,819
中部空港 54,198   139,873
関西空港253,763   317,624
福岡空港 74,301   81,677
那覇空港 41,382   6,919
総数    1,119,140   1,596,743

②入国港(空港、港)別 外国人正規入国者数(2014年3月)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001118277

これを見ると、那覇空港の国際線外国人入国者数は6位です。特筆すべきは、利用者の85.7%が外国人(インバウンド客)という高い比率であることです。同じことは北海道にもいえますが、沖縄県の国際線誘致を促進している背景に、外国人入国者の増加があることがわかります。国内客の航空利用が伸び悩み、全国の大半の地方空港が赤字に苦しむなか、これほどうらやましい状況はないでしょう。

インバウンドの動向は「量」だけでなく、「質」も検討する必要があります。

たとえば、質的面からみると、こんな指標が考えられるでしょうか。

①コンテンツの強さ、多様さ
②国際的な認知度
③地元の観光産業の実力、経験値の高さ
④外客受け入れ態勢の充実度
⑤対外プロモーション手法の熟練度
⑥送客国・地域との交流の親密度(特に観光関係者同士の)

ここで一つひとつ上記のポイントを都道府県別に検討するのは難しいのでやめておきますが、本土復帰以来、「観光立県」として国内客を中心した観光誘致に力を入れてきた沖縄県のインバウンド振興に関する経験値の高さは他県と比べ一日の長があります。沖縄の観光関係者に聞くと、受け入れ態勢などまだ遅れていると正直に話すのが常ですが(実際、遅れている面も多々見られます)、それは他県の関係者に比べ、海外の競合地との比較において自らの弱点や相対的評価に対する理解が深いためでしょう。

実際のところ、沖縄県のコンペティター(競合地)は、東京や大阪ではなく、ハワイやグアム、バリやプーケットといった海外のビーチリゾートです。これらは沖縄県の東アジアにおける地勢的な位置付けや自然環境などによるものですが、それをどう活かしてインバウンドを発展させるか。その手法は当然、東京や大阪とは違ってきます。その独自のポジションに沖縄県の面白さがあります。

ところで、世界経済フォーラム(WEF)は、世界の観光分野の競争力を比較した報告書を毎年発行しています。2014年3月に発表された直近の報告書によれば、調査対象の140カ国・地域のうち、以下のとおり、トップはスイスですが、日本は14位となっています。

1位 スイス
2位 ドイツ
3位 オーストリア
4位 スペイン
5位 英国
6位 米国
7位 フランス
8位 カナダ
9位 スェーデン
10位 シンガポール
11位 オーストラリア
12位 ニュージーランド
13位 オランダ
14位 日本
15位 香港

The Travel & Tourism Competitiveness Index 2013 and 2011 comparison
http://www3.weforum.org/docs/TTCR/2013/TTCR_OverallRankings_2013.pdf

評価項目として3分野、14項目が挙げられますが、日本が比較的高い評価を得ているのは、「人的、文化的、自然の観光資源」(10位)で、「観光産業の規制体制」「観光産業の環境とインフラ」はともに24位。個別にみると、「陸上交通インフラ」(7位)や「情報通信インフラ」(7位)「文化資源」(11 位)などは評価が高いものの、「政策方針と規則」(36位)や「観光の優先度」(42位)「環境の持続性」(47位)「観光インフラ」(53位)などはいまいちで、とりわけ「観光との親和性」(77位)「観光業における価格競争力」(130位)はきわめて低く評価されていました。

A)T&T regulatory framework(観光産業の規制体制)
Policy rules and regulation(政策方針と規則)36位
Environmental sustainability(環境の持続性)47位
Safety and security(安全性)20位
Health and hygiene(健康と衛生)16位
Prioritization of Travel & Tourism(観光の優先度)42位

B) T&T business environment and infrastructure (観光産業の環境とインフラ)
Air transport infrastructure(航空インフラ)25位
Ground transport infrastructure(陸上交通インフラ)7位
Tourism infrastructure(観光インフラ)53位
ICT infrastructure(情報通信インフラ)7位
Price competitiveness in the T & T industry(観光産業における価格競争力)130位

C) T&T human, cultural, and natural resources(人的、文化的、自然の観光資源)
Human resources(人的資源)21位
Affinity for Travel & Tourism(観光との親和性)77位
Natural resources(自然資源)21位
Cultural resources(文化資源)11位
(※Climate Changeは指標外だが、要素のひとつではある)

The Travel & Tourism Competitiveness Report 2013(全文)
http://www3.weforum.org/docs/WEF_TT_Competitiveness_Report_2013.pdf

ここからうかがえるのは、日本の交通・通信インフラに見られる産業力や文化的な観光資源が高く評価されているのに対し、観光に対する政策面や社会の取り組みが評価されていないことでしょう。

「ものづくり大国」の旗印を掲げて経済成長した戦後の日本社会にとって、観光の「優先度」や「親和性」が低いのはある意味無理もないといえます。優先すべきものが他にあったからです。しかし、日本社会の観光力を高めていくことは、日本の「ものづくり」にとっても実は重要なことだと思います。今日「ものづくり」の担い手が新興国に移りつつあるなか、質の高い産業を国内に残しつつ、広く雇用を確保し、社会全体のバランスを見直すことは必要だからです。ヨーロッパ諸国の多くが観光政策に力を入れているのは、国家イメージのPRに観光ほど役立つものはなく、しかも雇用創出、とりわけ若年世代の雇用に大きく貢献するのが観光産業だと知っているからです。国際的にみて日本の観光は高いポテンシャルを有しながら、それをうまく活用できていないのは残念なことです。

インバウンド振興はグローバル化による外界の変化にいち早く気づくことから始まるという意味で、沖縄県が先んじていたのは、地勢的にも、歴史的にも、ある意味当然とはいえるのですが、そのノウハウから学べることは多いはずです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-06 22:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 06日

日本とゆかりのある朝鮮第2の都市、元山のことが少し気になる理由

金剛山に向かうため、平壌からバスに乗った一行は、元山に立ち寄り、港のそばの東明ホテルで昼食をとりました。
b0235153_10443276.jpg

※昼食の様子はこちら「【前編】北朝鮮のグルメ~5泊6日食事14回のすべて」http://inbound.exblog.jp/21273246

食後に少し時間があったので、ホテルの裏手にこっそり行ってみました。こういうとき、中国客の勝手気ままさはありがたい限りです。彼らはガイドの監視を離れて動きがちなので、わずかな時間ですが、ぼくも彼らに紛れて自由に行動することができるからです。
b0235153_10451447.jpg

ホテルの裏には桟橋に向かう吊り橋があり、多くの市民や子供たちが釣りや磯遊びをしていました。
b0235153_10453229.jpg

b0235153_1046017.jpg

昭和の子供たち、とでもいうのでしょうか。日に焼けて真っ黒です。
b0235153_10462161.jpg

b0235153_10463588.jpg

なかには海に入ってハマグリを獲っている子たちもいます。
b0235153_10465117.jpg

おばさんまで服を着たまま海に入っています。
b0235153_1052190.jpg

桟橋の向こうの葛麻半島の先に白いホテルが見えます。かなり高層のビーチリゾートホテルです。元山の観光開発が進められていることがうかがえます。
b0235153_1052273.jpg

さて、ホテルのすぐ下では、ここで獲ったものでしょうか。ハマグリを炭火で焼いてビールで一杯やっている人たちがいました。
b0235153_10524431.jpg

銭湯の腰掛みたいなものにちょこんと座って炭火を囲んでいます。楽しそうですね。
b0235153_1053453.jpg

なかなかしっかりしたハマグリです。
b0235153_10532725.jpg

そばを歩くとにこにこしているおじさんグループがいたので、記念撮影。いい週末ですね。

さて、こんなのどかな8月最後の日曜を満喫している元山ですが、歴史的にみると、日本とのゆかりの多い都市といえます。
b0235153_1054711.jpg

見るからに良湾である元山港は、李氏朝鮮時代は小さな漁村にすぎませんでしたが、1876年の日朝修好条規(江華島条約)により1880年に対外開港。日本と朝鮮東海岸を結ぶ航路の玄関口となっていきます。1914年にはソウルと結ぶ鉄道が開通し、東海岸最大の港湾都市、軍港として発展していきます。
b0235153_10542772.jpg

2006年以降、日本入港禁止となったものの、長く日朝間の足となった万景峰号の母港も元山です。バスで港沿いを走っていると、万景峰号が停泊しているのを見かけました。

元山の海水浴場は、戦前期から有名でした。以下の写真は1930年代の元山松涛園海水浴場です。当時の資料には以下のように書かれています。
b0235153_10545840.jpg

「松濤園及海水浴場竝に白砂十里で名高い葛麻半島は夏季の楽土として知られ、明媚な風光は朝鮮を訪れる旅客の心を強く惹きつけるのである。

人口五萬二千五百人、内地人九千六百餘人、朝鮮人四萬二千餘人、外國人八百餘人、府内は元山府廰・永興灣要塞司令部その他官衛學校等軒を並べ、文化設備完備し、ゴルフリンク・公設運動場及近郊新豐里にはスキー場がある」(「最近の朝鮮」昭和9年6月 朝鮮総督府刊)

ネットを検索すると、戦前期に元山に住んでいた方の当時の記憶を綴るサイトがいくつか見つかります。昭和10年前後に生まれた世代が多く、少年時代の思い出が語られています。

それらの文章を拝読すると、当時の元山松涛園海水浴場には、別荘地や商店街、ゴルフ場などがあったそうです。花火大会も開かれたとか。

いまの朝鮮の子供たちのように、当時の日本の少年たちも湾でアサリ獲りをしていたそうです。水深50cmくらいの深さのところで、足の指先を使って泥底からアサリを掘り出し、その場でナイフで開き、生のままたべたとか。当時の元山の写真と現在見た光景はほとんど変わりありません。

一方、現在の元山についてメディアはどう報じているでしょうか。

たとえば、朝日新聞2013年12月24日によると、故金日成主席と故金正日総書記の銅像が元山に建てられたそうです。これは金主席の妻で金総書記の母の故金正淑の生誕96年に合わせたもので、「いずれも金正恩第一書記につながる『血統』の偉大さを改めて強調し、権威を高める狙い」があるといいます。

また韓国のメディアは、金正恩第一書記が何度もこの地に足を運んでいることを指摘しています。

なぜ金正恩第一書記が元山を重視するかについてはこんな理由があるようです。中央日報2014年3月19日の日本語版では「ミサイル発射、観光開発計画…金正恩が故郷・元山にこだわる訳は?」という記事を配信しています。

ミサイル発射、観光開発計画…金正恩が故郷・元山にこだわる訳は?
http://japanese.joins.com/article/101/183101.html

それによると、金正恩第一書記が「元山を平壌に続く第2の都市として育成するという意志」を持つ理由として「元山は父・金正日(キム・ジョンイル)時代から開発に集中してきた所であるだけに、遺言に従うという意味で元山を浮上させるためという解釈だ。

国民大学のチョン・チャンヒョン兼任教授(統一学)は『北朝鮮は最近、元山付近に馬息嶺(マシンニョン)スキー場を建設したのに続き、元山を観光団地として開発しようとする計画を持っている』として『元山を第2の都市として開発するためのもの』と話した。元山の重要性を浮上させることによって国際社会にこの地域を観光特区化するよう投資を迂回的に促すメッセージという分析もある。

生母の高英姫(コ・ヨンヒ)が暮らしていた日本から初めて北朝鮮の地を踏んだ場所が元山だという点も、金正恩の元山愛と無関係ではないという観測もある」。

日本とゆかりのある元山の今後が少し気になってきました。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-06 19:41 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2014年 05月 06日

元山松涛園海水浴場とビーチパラソル、踊る朝鮮娘たち

北朝鮮観光につきものの、革命歴史博物館をはじめとした対外プロパガンダ施設見学や少年少女らによる舞踊&歌唱ショー、さらには10万人規模の市民動員によるド派手なマスゲーム。いまや北朝鮮名物として広く知られるようになったこれらの各種アトラクションは、もはや外国客にある意味“想定内”の印象しか残さないのではないでしょうか。

それに対して、この国のふつうの人たちが休日に行楽地に繰り出し、レジャーを楽しむ姿を目にすることほど、興味を引くものはありません。

今回その思いをいちばん強くしたのが、元山松涛園(ソンドウォン)海水浴場の光景でした。
b0235153_1414565.jpg

元山は朝鮮の東海岸側最大の港湾都市で、人口は約30万人。元山市内の北の海辺に位置するのが元山松涛園海水浴場です。白い砂浜や赤いハマナス、青い松林が広がっています。その日は、8月最後の日曜日ということもあってか、多くの海水浴客が繰り出していました。砂浜にはビーチパラソルが並んでいます。
b0235153_142397.jpg

b0235153_1421735.jpg

家族連れや若者のグループなどがビニールボートを浮かべて遊んでいます。
b0235153_1423124.jpg

沖には飛び込み台もあり、男たちが群がるように集まっています。
b0235153_1424261.jpg

ビーチバレーに興じるグループもいます。
b0235153_143240.jpg

さすがにビキニ姿の女性は見かけませんでしたが、グラマラスなふたりの水着美女もいました。
b0235153_143195.jpg

b0235153_1434085.jpg

休憩施設もあり、浮き輪やビニールボートをレンタルしてくれます。
b0235153_1435939.jpg

レストランもあります。
b0235153_1441130.jpg

砂浜のそばには松林が広がっていて、飲み物やお菓子を売る屋台も出ています。
b0235153_1445153.jpg

焼肉バーベキューを楽しむグループがいました。我々が外国人だとわかったせいか、手を振る陽気さです。男性こそ白い下着のようなシャツ姿ですが、女性たちはそこそこおしゃれしているように見えます。
b0235153_1452683.jpg

松林ではあちこちでバーベキューをしているグループがいますが、なかには歌い、踊り出してしまう人たちもいます。お酒を飲んで気分がよくなったおじさんたちだけでなく、若い娘さんたちも踊り出します。それぞれ短いワンショットですが、動画もどうぞ。

朝鮮元山松寿園海水浴場、踊る人々1  
朝鮮元山松寿園海水浴場、踊る人々2  
朝鮮元山松寿園海水浴場、踊る人々3  

我々外国人グループはここで1時間ほど休んだあと、金剛山に向かいました。途中、進行方向左手(東側)に美しい海岸線が続いていました。
b0235153_1473029.jpg

b0235153_1474342.jpg

この海沿いの雰囲気は、日本の日本海側の海岸線によく似ています。日本海側の海は日中、太陽を背にしているので、太平洋のように水際がきらきら輝いたりしないぶん、水平線がくっきりと見えます。何より白い砂浜が延々続く光景が日本海側の夏の海そっくりです。

元山から金剛山に向かう中間あたりに位置するのが待中湖です。ここは泥風呂の療養所が有名だそうですが、海水浴場もあります。
b0235153_148749.jpg

待中湖海水浴場にも赤青黄白のビーチパラソルが並んでいました。
b0235153_1485726.jpg

砂浜にはゴミはほとんど落ちていません。北朝鮮に来て最初に驚いたのは、街がとても清潔だということでしたが、これほどゴミのない海水浴場は日本にもないのではないでしょうか。
b0235153_1491031.jpg

家族連れです。ビールやペットボトルの空き瓶が見えます。
b0235153_1493698.jpg

今回一緒に金剛山に向かう欧米客の何人かは、たまらなくなったのか、海に入っていました。気持ちはわかります。前のふたりはロシア人でしょうか。
b0235153_1410187.jpg

休憩所では、中国客たちがビールを飲んでいました。
b0235153_14101651.jpg

ぼくも1本頼むことにしました。「鳳鶴麦酒」だそうです。
b0235153_14105691.jpg

これは海水浴場の入場料や各種レンタル料金表でしょうか。入場料(大人)280(小人)70 パラソル140 椅子70 などと書かれています。ユーロ表示も併記され、ヨーロッパ客の存在をうかがわせます。 
b0235153_14111438.jpg

この写真は、金剛山から戻ってきた2日後の朝の待中湖海水浴場です。すでに8月末で、白い波が立っていました。日本海ではお盆を過ぎると波が立つといわれますが、その感じもそっくりです。

ところで、最近よくテレビの報道番組で、平壌にできた新しいプールや水族館などのレジャー施設の映像が配信されていますが、どう見ても「特権階級」向けという印象が拭えませんでした。でも、元山の海水浴場でくつろぐ朝鮮の人たちは、ふつうの市民のように見えます。

もっとも、元山の政治的位置づけからすると、そうともいえないという見方もあります。そもそも元山市民は、平壌市民と同様に、この国では特別な存在であり、生活水準も他の地域と違って、そこそこ豊かそうに見えるのは政策的な結果にすぎないのだと。

あるいは、こんなことも思わないではありません。もしかしたら、この海水浴場にいる人たちは、外国客80名のグループの元山訪問のために動員されたものではないか……。平壌のマスゲームのために駆り出される10万人の市民を思うと、これも壮大な演出なのではないか、なんてね。

それは考えすぎだとは思いますが、外国人にそういう疑心暗鬼を与えてしまうのは、日本も含めた海外メディアの印象操作の影響なのか、それとも彼らの「見せたいものしか見せない」というふだんのやり方にそもそも問題があるのか。きっと両方あるのでしょう。

※日本とゆかりのある朝鮮第2の都市、元山のことが少し気になる理由 http://inbound.exblog.jp/22570022/

いずれにせよ、8月最後の日曜日、北朝鮮のある行楽地でこうしたレジャーシーンが見られたことは、知っておいていいかもしれません。

ところで、以下の2枚の写真は1930年代に撮られた元山松涛園海水浴場と松林の光景です。
b0235153_16365684.jpg

b0235153_16371251.jpg

当時、同じ場所で人々は海水浴を楽しみ、テントを張ってハイキングをしていたのです。これも知っておくべきだと思います。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-06 14:14 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2014年 05月 06日

中止からはや6年。韓国から入る金剛山ツアーと残されたインフラについて

前回、2013年8月下旬の金剛山登山について報告しましたが、その日の午後は三日浦という湖を訪ねました。
b0235153_2354041.jpg

三日浦は周囲5.8kmの海跡湖で、カメラで風景を切り取ると額縁に描かれた絵画のような世界が現出します。湖の真ん中に浮かぶのが、臥牛島という松に覆われた島です。この三日浦とその東に広がる海岸線の絶景が「海金剛」と呼ばれています。残念ながら、今回は海金剛を訪ねる時間はありませんでした。
b0235153_23541896.jpg

さて、前回紹介した金剛山の登山コースは実によく整備されていました。それには理由があります。

1998年から2008年まで、軍事境界線を越えて陸路で韓国から北朝鮮に入る金剛山ツアーが催行され、延べ約200万人の韓国人、2万人の外国人(そのうち日本人は1000人ほどという話)がこの間、金剛山を訪れていたからです。金剛山近隣の出身だった現代グループの故鄭周永(チョン・ジュヨン)会長が北朝鮮政府と直接対話し、実現にこぎつけたのです。つまり、現在の金剛山観光のインフラをつくったのは、韓国資本だったというわけです。
b0235153_142668.jpg

金剛山から三日浦に向かう道路は韓国の軍事境界線に向かう道路につながっていて「束草まで68km」とあります
b0235153_144251.jpg

同じく、「高城港(左上)金剛山ゴルフ場(左下)九仙峰CIQ(右)」と書かれた道路標識

当初は船で入域していましたが、2003年よりバスでの往復が可能になりました。07年から内金剛の観光も許可されたのですが、2008年7月以降、中止になってしまいました。韓国人の女性旅行者が北朝鮮兵に射殺される事件があったこともありますが、その年李明博政権になり、対北関係が悪化したこともあるでしょう。

それ以降、外国人観光客は平壌からバスに乗って元山経由で1日かけて金剛山に来るのが一般的になりました。ちなみに平壌から元山までは約200km、元山から金剛山までは108kmです。

とはいえ、現在も韓国が投資した観光インフラは残っています。それについては、ツアーが催行されていた当時の状況を伝える以下の韓国のオンライン旅行会社のサイトに紹介されています。
b0235153_9213487.jpg

金剛山ツアーパーフェクトガイド(Konest)
http://www.konest.com/contents/spot_hot_report_detail.html?id=1871

同サイトによると、ツアーは2泊3日。スケジュールは、初日は入国とホテルのチェックインまで。2日目午前中に、前回紹介した「九龍淵(クリョンヨン)登山コース」、午後は「三日浦(サミルポ)コース」や「温泉($12)」「サーカス観覧($30)」、夜は「歌舞団公演観覧($10)」。3日目午前中にもうひとつの登山コースである「万物相コース」か「三日浦(サミルポ)&海金剛(ヘグムガン)コース」を選んで参加し、午後には帰国するというものです。

今回三日浦に行く途中、バスからそれらの施設を見ることができました。
b0235153_23561786.jpg

遠くに見える白いドーム状の建物がサーカス場です。
b0235153_235628100.jpg

これは免税店です。
b0235153_23564249.jpg

韓国客が大勢来ていた時に使われていたと思われる韓国製バスが駐車されていました。いまは北朝鮮のホテルなどの従業員の通勤に使われているそうです。
b0235153_23565511.jpg

この建物は、2002年4月~5月にかけて行われた韓国と北朝鮮の第4回離散家族再会以降、金剛山で実施されるようになった常設面接会場として使われたそうです。その後、何度も中断と再開を繰り返しています。

こうしてみると、金剛山は北朝鮮では他にない国際的な水準の一大リゾート地だったことがわかります。今回訪ねていませんが、ゴルフ場もあります。
b0235153_23574493.jpg

さて、金剛山には温泉もあります。金剛山ホテルなどの宿泊施設がある温井里地区の「金剛山ホットスパ」です。
b0235153_23575831.jpg

広いロビーの現代的な施設です。もちろん韓国資本です。
b0235153_23581483.jpg

入浴料は20元でした。フロントで支払います。
b0235153_23583167.jpg

マッサージも出来ます。
b0235153_23584882.jpg

お風呂は個室になっていて、それぞれ内風呂と露天風呂があります。
b0235153_2359245.jpg

なぜかぼくにあてがわれた浴室は、大風呂でした。サウナもあります。
b0235153_23592544.jpg

露天風呂はないぶん、外にはオープンエアのデッキチェアが置いてありました。

浴槽が空だったので、お湯を入れ、しばらく待つことにしました。ところが、お湯の熱いこと。とてもじゃないけれど、入ることができない熱さなのです。水の蛇口がないので、お湯をぬるめることもできません。いったいこれはどうしたことか?

あとで個室風呂に入った人に聞いたところ、やはりお湯が熱くて入れないので、お湯をかき出し、露天に運んでそちらで浸かったそうです。個室風呂は浴槽が小さく、露天風呂もあったので、そういうこともできたようですが、大風呂のぼくは結局、ゆっくりお湯に浸かることができませんでした。

う~ん。思うに、韓国客が来なくなって以来、当然スパの運営も韓国ではなく、北朝鮮側が行うようになったため、ノウハウがきちんと伝わっていないのではないか。こんな熱くちゃ誰も入れない。客が来なけりゃ浴槽にお湯をためること自体減っていることでしょうし。せっかくの温泉が台無しです。

登山の疲れを癒そうと来た温泉でしたが、なんとも心残りの結果となってしまいました。

仕方なくホテルに戻ると、夕食は宿泊している金剛山ホテルではなく、外金剛山ホテルに行くことになりました。

さて、金剛山にある2つのホテルを簡単に紹介しましょう。

●金剛山(クムガンサン)ホテル
1981年にオープン。2004年に現代グループが客室などを改修しています。1階にはバーとダンスフロアもあるカラオケがありますが、ぼくらが泊まった夜は欧米ポップスのかかるクラブと化していて、欧米客と朝鮮の女の子たちが一緒に踊っていました。こんな光景は北朝鮮で初めて見ました。
b0235153_001796.jpg

b0235153_002758.jpg
b0235153_003980.jpg

もっとも、従業員は北側のスタッフがほとんどです。12階にはもうひとつ渋いカラオケラウンジがあります。そのカラオケの様子は「北朝鮮のナイトライフ~地元ガイドがカラオケで歌った意外な曲は?」参照。

●外金剛(ウェクムガン)ホテル
1984年より「金正淑休養所」として党幹部に利用されてきたホテル(金正淑女史は金日成主席の妻)で、2006年7月に現代グループが内装を改修、「外金剛ホテル」として再オープンしたものです。ロビーにはカフェラウンジや中国料理レストランがあります。ぼくらはそのレストランで夕食をとりました。
b0235153_022292.jpg

b0235153_023664.jpg

b0235153_032870.jpg

ホテル内には中国人民元や米ドル、ユーロ、日本円の通貨レートが掲げられていました。

金剛山には、他にも2002年にオープンした海沿いの海金剛(ヘクムガン)ホテルがあるそうです。海水浴場が近いそうです。
b0235153_034689.jpg

韓国客の姿が消えたいま、インフラだけが残された金剛山ですが、こんなミネラルウォーターが生産されているのも、きっと韓国の投資のおかげなのでしょう。韓国の人たちにとっては、なんとも残念というほかありません。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-06 00:04 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)