<   2015年 01月 ( 28 )   > この月の画像一覧


2015年 01月 26日

「橋下市長、西成の観光地化はいいから、Wifiだけ飛ばしてくれ!」

今年の初め、ぼくは大阪にいました。ある中国語の通訳案内士の方にお会いするためです。

その方に「面白い宿」として紹介されたのが、大阪市西成区あいりん地域にある「ビジネスホテル来山北館」でした。
b0235153_12363028.jpg

JR大阪環状線の今宮駅を降りると、大通りをはさんで住人とまちの雰囲気が一変する地区があります。そこがあいりん地域です。ぼくはこれまで大阪とはあまり縁がなく、今回初めてその地に足を運んだのですが、意外にアクセスがいい。今宮駅からも近いですが、地下鉄御堂筋線の動物園前駅からだと徒歩30秒という場所に、そのホテルはありました。外観はよくあるビジネスホテルという感じです。
b0235153_12365314.jpg

1泊シングルで2500円(連泊すると、翌日から2200円にディスカウント!)。風呂やトイレは共用ですが、ぼくは海外のゲストハウスの利用は慣れているほうなので、Wifiさえ使えれば、それほど気になりません。そんなことより、「面白い宿」ということでご紹介いただいた以上、この宿のステイを体験しつくすことにしました。

ここでいう「面白い」とは、外国人が多く宿泊している施設という意味ですが、まさか元簡易宿泊宿を改装したホテルのことだとは思ってもいませんでした。

これがぼくの泊まった部屋です。ベッドが一つ入ると、ほとんど歩くスペースはありません。
b0235153_1237225.jpg

部屋のタイプはいくつかあるようです。洋室だけでなく、和室やドミトリーもあります。
b0235153_12373827.jpg

b0235153_12374991.jpg

b0235153_1238035.jpg

狭い廊下の両脇に個室が並ぶ光景は、ここだけ見ると、かつての簡易宿泊所の雰囲気が残っているといえるかもしれません。
b0235153_1238151.jpg

1階のフロントを抜けると、ロビーには洋間と日本間(といっていいのでしょうか)の2タイプのキッチン&食卓のスペースがあります。その隣にテレビとソファがあり、ここで宿泊客は自炊をし、くつろぐことができます。
b0235153_12382919.jpg

b0235153_12384490.jpg

奥にお風呂とシャワー室があります。
b0235153_1239249.jpg

ダーツも置いてあります。コーヒーは宿泊客のみ飲み放題だそうです。
b0235153_12391349.jpg

外国人旅行者のための掲示板や各種観光案内、地図、フリーペーパーが置かれているラックもあります。
b0235153_12393719.jpg

このホテル発のオリジナル日帰りツアー(英語版と中国語版あり)の告知も貼られています。まるで海外のゲストハウスそっくりではありませんか。興味深いことに、このツアーを主催しているのは旅行会社ではなく、関西の某都市の自治体だそうです。若い外国人客が多いホテルだと聞きつけた市のスタッフが自分たちのまちを知ってもらおうと企画したのだそうです。もし時間があって、このツアーに外国人旅行者の皆さんと一緒に参加できれば、このホテルならではの楽しさをより味わうことができますね。
b0235153_12395969.jpg

もちろん、パソコンも利用できます。館内はどこでもWifiフリーです。
b0235153_12401992.jpg

さて、このホテルの宿泊客ですが、ざっとロビーで見ている限り、日本人より海外のバックパッカー風の若い旅行者が多そうでした。欧米系もいれば、アジア系もいます。

面白かったのは、お風呂の入り方の説明書があったことです。よく外国客が訪れる温泉旅館でこの手のイラストを見たことがありますが、やっぱりこれは基本なのですね。
b0235153_12405730.jpg

b0235153_12411722.jpg

このホテルでは、夜だけでなく、早朝からお風呂に入れるのがうれしいです。
b0235153_12413180.jpg

実は、こういうホテル(立地がドヤ街にあるゲストハウスのこと)に泊まったのは初めてだったので、その晩FBにのせたところ、友人のふたりの女性ライターさんがするどく!?反応して、こんなやりとりになりました。

●1月某日のぼくのFBにて

(ぼく)今大阪にいて、知り合いの紹介で西成区あいりん地域の来山ホテルという元労働者向けの簡易宿泊所を改装したホテルに泊まっています。想像以上に安くて快適で驚いています。

(A女史)ひょえ〜!周辺の治安は悪くないの?

(ぼく)それが山谷と一緒でかつてのどや街の一部のホテルが外国人ゲストハウスになっているんです。欧米のバックパッカーも泊まっています。さっき一緒にお風呂に入りました。

(A女史) (^_^;)

(B女史)女性とかはいますか?

(ぼく)もちろんいます。

(B女史)安いとは1泊いくらくらいなのでしょう?昔のイメージで判断してはダメですね。

(ぼく)1泊シングル2500円、連泊すると2200円です。

(B女史)ひゃ~。安い~。でも清潔そうに見えますね。とっても狭いのかしら?

(ぼく)でも自炊できるラウンジやPCコーナーもあり、全室Wifi対応です。

(A女史)場所が場所だからでしょ? ホテルはリノベしてあるみたいだから問題…というか心配ないでしょうが、夜ひとりでホテルに帰るのとかどうなのかしらん

(ぼく)ラウンジにバックパッカーのみなさんがいてくつろいでいます。

(A女史)あ、いやいや、道のり

(A女史)その値段でWi-Fiあるなら部屋は狭くても別にいいけどね

(ぼく)地下鉄駅から徒歩1分。今ホテルのすぐ外にいるのですが、欧米の若いバックパッカーや労働者のおじさんがふらふら目の前を通りすぎて行きます。

(A女史)駅から1分とはいいですね

おふたりの質問&コメントの趣旨はよくわかります。どうしてまたそんなところに? と思ったことでしょう。ぼくは別にすかして答えているわけではありませんが、ちょっとばかし得意げだったかもしれません。

さて、今回泊まった「ビジネスホテル来山北館」について、トリップアドバイザーをみると、宿泊者の声がいろいろあります。その内容については、以下をご参照ください。

トリップアドバイザー「ビジネスホテル来山北館」
http://www.tripadvisor.jp/Hotel_Review-g298566-d1084498-Reviews-Raizan_Kitakan-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

同館は、ホテル中央グループが運営するホテルのひとつです。

ホテル中央グループ
http://chuogroup.jp/

このグループが運営するホテルは、外国人バックパッカーが多く宿泊していることで知られているようです。

トリップアドバイザーによると、「中央グループのホテルの中で最もバックパッカーズ色が強いホテル」がここだそうです。

ビジネスホテルみかど
http://www.tripadvisor.jp/ShowUserReviews-g298566-d1081268-r133109424-Business_Hotel_Mikado-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

このホテルの評価は「大阪市で 268 軒中 40 位」。かなり高いではありませんか。ぼくの泊まったビジネスホテル来山北館も十分面白かったですが、ここには多くの楽しい口コミが書かれています。

それにしても、いったいこのホテルを誰が運営しているのだろうか……。

思い切ってフロントのスタッフに話を聞きたいと伝えたところ、翌日の午後、同グループの山田英範代表取締役に話を聞くことができました。

後日、山田さんに「ご自身のプロフィールを簡単に教えてください」とメールを送ったところ、返信された内容は以下のようなものでした。

山田英範 やまだひでのり
1977年1月14日生まれ
学生時代にバックパッカーとしてアジアを旅していた経験を生かし、外国人バックパッカーに快適に滞在してもらえる安宿づくりを目指し、ホテルを経営する。

以下、山田さんとビジネスホテル来山北館の森川マネージャーとの一問一答です。

――このホテルはいつごろ、どんな経緯で海外のゲストハウスのような世界になったのですか?

「もともとこのホテルは父親が経営していたんです。ぼくは25歳のとき、勤めていた会社をやめてオーストラリアに2年ほどワーキングホリデーと語学留学の旅に出ていました。2004年に帰国して、このホテルに入社し、スタッフとして勤めることになりました。

当時、ホテルはガラガラで、稼働率は最悪の状況でした。いずれ父親のあとを継ぐことになると思い、どうやって経営を立て直すか考えました。まずは宿泊客を呼び込むためにHPを立ち上げることにしました。

ところが、HPを見てホテルに来た人たちの中に、日本語のわかる韓国や台湾の若い旅行者がいたんです。そのとき、初めてこんな需要があるんだな、と思いました。

旅から帰ったころ、漠然とバックパッカー宿みたいなのを経営してみたいなと思っていました。旅先で出会った仲間の中にも、そういう夢を持っている人は多かった。でも、それを実現するには、資金を貯めなくてはならないし、そう簡単ではない。その点、ぼくはそれができる環境にあったんです。

しかし、当時の従業員は誰も英語をしゃべれない。経営状況も悪いということで、そういう夢は一時封印した。ところが、HPを立ち上げたとたん、外国客が現れたのです。

そこでHPの多言語化を図ることにしました。英語、中国語、ハングル対応にしたのです。うちと同じ元労働者の簡易宿泊所を改装して外国人宿になった東京山谷のホテルニュー紅陽の話を耳にしたので、オーナーの方に話を聞きに行ったのも、この頃です」。

ホテルニュー紅陽
http://www.newkoyo.com/japan.html

――まずはHPの多言語化なんですね。それからどうしたのですか。

「1階にロビースペースをつくることから始めました。もともと簡易宿泊所でしたから、フロントを抜けると、ちょうど2階以上の客室フロアと同じで、廊下の両脇に個室が並ぶという構造だったものをぶち抜きにした。それから外国人のためにシャワー室を設け、トイレや客室の洋式化を進めました。もちろん一気にはできないので、徐々に進めていったんです」。

――なるほど。外国客の需要に応えるためには、ロビースペースとシャワー、洋室が必須なんですね。

「寝るだけの場所から旅行者のためのスペースへ。そのためにはなにをすべきか。自分はバックパッカーだったので、それがわかるんです。そうやって少しずつ変えていきながらいまに至っているわけです」。

――外国客の比率は? どこの国の人たちが多いのでしょうか。

「宿泊客のうち日本人と外国人の割合は半々です。時期にもよりますが、国籍の比率は韓国が3~4割、中国台湾香港も3~4割、タイ2割、欧米2割というところでしょうか。外国客の比率が高くなるオンシーズンは3月と8月。オフは11月、1~2月。グループホテル5軒で年間の外国人ステイは8万泊、1日平均200名というのが実績です」。

――予約はホテルのHPに直接入ってくるのですか。

「大半はHostelworldのような宿泊サイトを見て、予約を入れてきます。現在、それ以外にもAgodaやBooking.comなどにも登録していますが、最初はバックパッカー系の予約サイトということで、Hostelworldに登録してもらうようお願いしたところ、予約が入るようになり、他のサイトからも登録するよう話がきました」。

Hostelworld
http://www.japanese.hstelworld.com
世界各地のバックパッカーホステルの即時予約サービス。

――ホテルのスタッフは若い方が多いですね。

「父親からこのホテルの経営を譲り受けて何年かたちますが、ホテルにとって大事なのは施設ではなく、スタッフだと思っています。トリップアドバイザーの口コミをみていても、スタッフの印象が良ければ、リピーターがついてくれるからです。

その意味でスタッフの教育が重要なんですが、英語力だけでなく、どれだけ宿泊客のことを考えて対応できるかが大事なんです。先日も大浴場のボイラーが壊れてしまい、お風呂に入れない日があったのですが、そういう場合も、スタッフが宿泊客にどう伝えるかで評価が分かれるんです。宿泊客に納得してもらうような対応とはどういうことか。スタッフのレベルを上げるというのは、どこまでやっても終わりはありません」。

ところで、山田さんの話は、若い経営者が父親の稼業を継いで、時代のニーズに即した新ビジネスを始めるというよくあるストーリーだけでは終わらないところがあります。ホテルの立地が、大阪市西成区あいりん地域という特殊な事情があるからです。
b0235153_14402454.jpg
b0235153_14411864.jpg

後日、ぼくはメールで山田さんにこんなぶしつけな質問を送りました。

――貴ホテルの外国人客は、ホテルの周辺のあいりん地域についてどのように理解しているのでしょうか。ホテルの前を通り過ぎていく労働者の人たちについて治安などを気にする声はないですか。というのは、若い欧米系の女性なども泊まっているのを見たからです。

山田さんはこう回答してくれています。

「気にする声はあります。しかし、他のアジアのホテルよりも安全という声もよく聞かれます。こちらの声も、トリップアドバイザーのコメントによく出てきておりますので、生の声を見ていただいた方が実感していただけるのではないでしょうか」

確かに、アジアの安宿の世界を少しでも知っている人間からすれば、「他のアジアのホテルよりも安全」というのは同感です。そんな偏見よりむしろ、このまちがアジアの安宿街のようになっているのだとしたら、それは興味深いことです。

ここから先は、ぼくの個人的な見解、いやそれ以前の、初めてこのまちを訪れて感じたことをもとにしたひとり語りにすぎません。西成区の事情について、何も知らないぼくがあれこれ発言できるとは思えないからです。でも、ひとことだけ。

実は、その後、ネットで検索していたところ、ホテル中央グループの古いHPが残っていて、その中に山田さんが綴ったと思われる文章を見つけました。もしかしたら、彼は現在、ここに書かれている内容とは違う考えを持つに至っているのかもしれないと思いましたが、今回話を聞いて、オーストラリアから戻ってきた当初、彼がこの地域の特殊性をどう受けとめ、ホテルを経営することの意味について何を考えていたか、よくわかる内容だったので、一部転記させてもらいます(もちろんネットでも読めます)。

「西成の街の変貌 
外国人旅行者の増加をきっかけにこの街は変わるのか
街を変える為に何をするべきか           

ドヤ街からヤド街へ

自己紹介
2004年よりこの仕事に携わる事に成った。代々簡易宿所を経営し私で5代目に成るらしい。生まれた時よりこの仕事をする運命だったのかもしれない。
当時27歳だった私はこの仕事を始める時にある野望を胸に抱いていた。

「西成のあいりん地域を変えてやる」
「日雇い労働者の街から外国人旅行者の集まる街へ」
「ドヤ街からヤド(宿)街へ」

ドヤとは簡易宿泊所のことで、宿(やど)を「人がすむところではない」と自嘲的に逆さまに読んだのが始まりといわれる。このような差別的な言葉である。

ドヤをヤドへ。労働者の街から旅行者の街へ。西成で一番マイナスイメージに成ってるあいりん地域(新今宮周辺地域)を西成一の街へ。
これが私の一生の夢であり実行していかなければ成らない事である。

中央グループ
専務取締役 山田英範」

山田さんの当時の「野望」については、同じサイトの以下の文章の中でより具体的に述べられています。

第一章 あいりん地域をカオサンの様な街へ
http://www.chuo-group.com/No1.html

第一章-3 私もバックパッカーでした
http://www.chuo-group.com/no1-3.html

第一章-4 来山南館のスタッフの一人としてデビュー
http://www.chuo-group.com/No1-4.html

先日、ホテルのロビーで山田さんに話を聞いたとき、こうした彼の思いや地域の事情についてぼくは十分理解していなかったので、最後に「今後の展望をどうお考えか」というようなずいぶんお気楽な質問をしていました。そのとき、彼はこう答えています。

「ここがアジアの安宿街のようになる必要はないと思う。実は、大阪市では西成特区構想と称してまちを活性化するためのプロジェクトを立ち上げているのですが、ぼくに言わせれば、橋本市長、西成の観光地化はいいから、Wifiだけ飛ばしてくれ! そう言いたいですね」。

彼はかつての「野望」を口にしませんでした。繰り返しますが、このときぼくは西成の観光地化プロジェクトについても、まったく知りませんでしたから、彼の発言の真意を理解していたとはいえません。彼はこう付け加えました。

「観光地化というけれど、本当に旅行者が求めているものは、旅をした人間しかわからないところがある。その意味で、いま西成にいちばん必要なことがあるとすれば、施設でもイベントでもなく、Wifiなんですよ」。

大阪市の進める西成特区構想の概要については以下から参照できます。これを読むと、この地域で起きていることの一端を知ることができるのと同時に、彼のことばの背後に感じられる行政の取り組みに対するどこか冷めた感じも、納得したくなるような思いがしました。

大阪市「西成特区構想」
http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/page/0000168733.html

西成特区構想プロジェクト
http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/category/2389-4-0-0-0.html

西成特区構想プロジェクト「観光振興専門部会」
http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/cmsfiles/contents/0000168/168733/25kanko.pdf

第1回あいりん地域のまちづくり検討会議
https://www.youtube.com/watch?v=cdb9NT4pBcQ&feature=youtu.be
なかでも怒号の飛び交うこのYOU TUBEの動画は印象的でした。
b0235153_1442614.jpg

結局、ぼくはこの宿に2泊して、ホテルの周辺をずいぶん歩くことができました。

動物園前商店街というのが近くにあるのですが、ちょっとした異次元トリップ感がありました。実際、若い外国人旅行者たちが一眼レフ片手にシャッター通り化の進むこの商店街を歩く姿を見かけました。彼らにも魅かれる何かがあるに違いありません。
b0235153_7593536.jpg

訪日外国人旅行者の国籍はさまざまで、目的や旅行スタイルなど千差万別です。なかでもバックパッカーのような、なるべくお金をかけずに長期で旅する外国人たちを吸い寄せる安宿が集中する地区は、世界中至るところにあります。そうした安宿の必要性や楽しさを身をもって理解している元旅人たちが始めた取り組みをみると、ぼくは諸手を挙げて支持したくなります。

外国人旅行者が増えることで、このまちが蘇るなどとは簡単にはいえませんが、山田さんとそのスタッフたちによって、これまで考えてもみなかったまちの変化のタネが蒔かれていくとしたら面白い。その可能性を信じたいと思います。
b0235153_14422255.jpg

ビジネスホテル来山北館
大阪府大阪市西成区太子1-3-3
http://www.chuogroup.jp/kita/ja/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-26 12:55 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 01月 25日

通訳案内士の第一人者、ランデル洋子先生の語る「求められるガイド」とは

訪日外国人旅行者の増加に伴い、活況が伝えられるインバウンド業界ですが、かねてより多くの関係者が危惧している懸案のひとつに、通訳ガイド問題があります。

これは単なる通訳ガイド不足という話にとどまりません。ガイドの質や待遇、市場とのミスマッチングとそれをもたらした制度上の問題を含めた現実的な解決が求められています。問題の詳細についてはおいおい触れていくとして、東京五輪開催も決まり、ますます多くの人材が必要とされるなか、通訳ガイドの仕事の現場はどうなっているのか。いま求められるガイド像とはどのようなものか。第一人者であるランデル洋子先生に先週、話をうかがうことができました。

当初取材をお願いした際、ぼくの先生に関する認識は、以下の通訳案内士団体の理事長というお立場でした。

NPO法人GICSS研究会
通訳ガイド&コミュニケーション・スキル研究会 理事長
http://www.gicss.org

ランデル洋子先生
http://www.randells.jp/president.html

名古屋市出身。南山大学英語学英文学科卒業。国際ロータリ財団奨学生として、ノーザンイリノイ大学に留学。YMCA英語学校などの英会話講師、通訳ガイド、海外旅行添乗員・海外駐在員・ツアーオペレーター、一般通訳翻訳業務など幅広く活動。

1980年にバイリンガル人材の派遣会社を設立し、1992年までに代表取締役。外国企業数社の日本代表業務を兼務。退職後に通訳、通訳ガイドとしての現場業務に復帰したが、その後は研修研究、執筆・講演活動、NPO法人主宰などで活躍中。日本を紹介する通訳ガイドの技術研鑽研究の基礎を築き、一方では国際プロトコルや、多様性対応コミュニケーション・スキルの研修など時代のニーズに応じた研修を提供しており、新入社員など大手企業の若手社員教育にも多く取り上げられている。(HPより)

同NPO法人は、通訳ガイドに求められるガイディングやコミュニケーションなどの研究や指導を行うために1999年に設立されたものです。HPによると、2014年現在会員は501名。会員にはタイ語を除く、9か国語(英仏独西露伊葡中韓)の通訳案内士が所属しています。

HPの内容で目を引いたのは、「新人通訳ガイド【実務】研修会」でした。そこにはこう書かれています。

「資格があるだけでは現場業務に繋がりません。資格+実務知識を習得しましょう。GICSSの新人実務研修は、即使える本物の実務力、ガイディングスキルが育成される定評のオリジナル特別研修です」

「無料説明会・講演会では、通訳ガイド業界の実態概要、合格後の資格の生かし方、実務の学び方、就業にあたっての注意点など合格者に必要な情報をご紹介します」

実は、ぼくはいま新しい時代の観光ガイドに関する書籍を制作中で、まさにそこが知りたいことでした。これはぜひお話をうかがわなければと思って取材を申し込んだわけです。

【追記】
これがその本です。

このたび『観光ガイドになるには』(ぺりかん社)を出しました(2015.8.6)
http://inbound.exblog.jp/24763487/

以下、先生との一問一答です。

――まず昨年8月に開催されたGICSS設立10周年記念イベント「第2回通訳ガイドコンベンション」についてお聞きしたいと思います。私は残念ながらこのイベントをあとで知ったのでうかがうことはできませんでしたが、案内には以下のように書かれていました。

GICSS設立10周年記念イベント「第2回通訳ガイドコンベンション」告知
http://www.gicss.org/9/img/event/20140831/2014-3.jpg

「心をつなぐ通訳ガイドに求められるコミュニケーション力とは?

活躍の場が広がりつつある通訳ガイドの世界! 魅力あるガイドのコミュニケーション力として求められているのは単なる知識情報の発信力だけでなく、お客様はもとよりビジネスパートナーや周囲の人的環境をつなぐ力。このコンベンションでは、国際的イベントが目白押しの日本を舞台に「世界に誇れる通訳ガイド像」を目指し、ガイド力アップのコツやヒントを楽しくご紹介します。通訳ガイド業務の獲得に関するホットな話題のあれこれや、業界で高く評価されているGICCSガイド研修の新メソッドもぜひ体験してください」。

プログラムをみると「オリンピックが視野に入ったインバウンドと通訳案内士、今後の課題と展開」というパネルディスカッションがありました。そこでは、観光庁の通訳ガイド担当者や旅行会社、バス、ホテルなどの関係者が一堂に会しています。どんな内容が話し合われたのでしょうか。

「通訳ガイドに必要なコミュニケーション力というのは、外国人に対するものだけでなく、現場のビジネスパートナーとの間にも求められるということです。バスのドライバーさんやホテルのスタッフ、また一般に通訳ガイドに仕事を発注する立場にある旅行会社の方たちとの現場でのやり取りや打ち合わせの場面などで何が求められているか。通訳ガイドの側もこうしたことを理解しておかなければならないのです。

実はちょうどいま、この内容を報告書にまとめているところなので、詳細についてはもう少しお待ちいただきたいのですが、たとえば、昨年バス業界で制度変更があった関係で、運転手さんの業務時間の制限などのルールが変わったことを通訳ガイドも知っておかないと現場で支障をきたすということを知りました。またホテルのコンシェルジュさんからは、ホテルにご宿泊の外国のお客様を案内したあと、通訳ガイドからフィードバックがあると助かる、というようなお話も聞き、なるほどと思いました」。

――「資格があるだけでは現場業務に繋がりません。資格+実務知識を習得しましょう」というのは、まさにそういうことなのですね。コミュニケーション力が問われるのは、外国客に対してだけでなく、国内のビジネスパートナーに対する理解や円滑な関係を築くことが通訳ガイド業者には必要不可欠だと。

「語学力が高いだけでは、通訳ガイドは務まりません。ガイドとしての資質や実務能力、体力も必要です。

GICSSでは毎年、通訳案内士の合格発表後に「新人【実務】研修会」を企画しているのですが、最近新しい傾向が見られます。これまで通訳ガイドの男女比率は男性3女性7といわれていましたが、昨年の受講生、つまり新人ガイドの男女比率が男性6女性4だったのです。

これらの男性の多くは現役をリタイアされた世代で、職歴をうかがうと、以前は名だたる多国籍企業で海外勤務をされていたとか、錚々たる方たちばかりでした。国際的なセンスや教養も高く、語学力にはまったく問題がないのですが、必ずしもこの仕事に向いているかどうかは疑問の方もいました。

たとえば、通訳ガイドは先ほど述べたように、バスの運転手さんや若い旅行会社の社員とのやり取りが多い。声をかけにくいような威圧的なオーラを放っているようなタイプだと、現場の仕事もそうですが、仕事の発注があるとは思えません。要は、能力ではなく、この仕事に対する基本姿勢の問題です。

そういう意味では、ライセンスを取得した方が、自分はこの仕事に向いているかどうかを見極めてもらうためにGICSSの研修に参加していただいてもいいと思います」。

――これは団塊の世代のリタイア後に起きた現象なのでしょうね。いま実際に通訳ガイドに従事しておられるのはどのような方が多いのでしょうか。

「通訳ガイド業界では高齢化が進んでいます。全体の4割が50代で最も多い。あとは40代と60代が2割ずつ、もちろん30代もいますが、まだ少ないです。なぜそうなるのかというと、通訳ガイド業だけでは生計を立てる保障がないからです。

通訳ガイドの仕事はいわば季節労働者。訪日する外国人は、一般に旅行シーズンの春と秋に集中します。そのため、夏と冬はどうするかという問題があり、若い世代の業界参入が難しくなっているのです。

実際、国家資格である通訳案内士の資格所有者のうち、就業しているのは全体の4分の1といわれています。多くは家庭の主婦で、趣味の延長として都合のいいときだけ通訳ガイドに従事するケースが多い。基本的に通訳案内士はフリーランス。それぞれの方が自分のライフスタイルに合わせて従事できる自由さが魅力ですが、こういう方は「お金はいくらでもいい」というようにおっしゃることも多いので、通訳ガイド全体のギャラの値崩れにつながるということもあります」。

――魅力的でやりがいのある仕事にもかかわらず、保障がないため、現役世代が従事することが難しくなっているのですね。しかし、時代的な要請もあり、通訳ガイドを志望する方は多いと思われます。どうすればいいのでしょうか。

「やはり兼業を勧めたいと思います。

私のこれまでの職歴について少しお話しましょう。私は名古屋出身で、大学時代にライセンス(通訳案内士資格)を取りましたが、26歳のとき、上京して通訳案内士としての仕事を始めました。当時は、訪日客の通訳ガイドだけでなく、日本人の海外旅行の添乗も兼業していました。春と秋は訪日客が多く、夏と正月は日本人の海外旅行が多いことから、1年を通じて仕事があり、スーツケースと一緒に暮らしていたといってもいいかもしれません。また英語学校の講師も兼任していました。日本の旅行会社の現地駐在員としてアメリカ西海岸で勤務していたこともあります。

そして29歳のとき、通訳ガイドの派遣会社を立ち上げました。現役の通訳案内士としての仕事も続けていましたが、この仕事はライセンスを取得しただけでは務まらないことを強く感じていたので、通訳ガイドのネットワークをつくるとともに、研修を通じて優秀な人材育成し、派遣しなければならないと考えたからです。

こうして私はいわばプレーイングマネージャーになったというわけですが、起業するかどうかは別にして、フリーランスとしての通訳ガイドが生計を立てていくには、語学力やコミュニケーション以外にも、営業マインドが必要ではないかと思います」。

――通訳ガイドをこれから目指す人たちにとって、ライセンスを取るための難易度が高いうえ、なってから職業として生計を立てていくことがさらに大変だとすれば、これはかなり覚悟のいる仕事だといえそうです。通訳ガイドの未来に向けた新しい動きは何かありませんか。

「昨年、TripleLights(トリプルライツ)という訪日外国人と通訳案内士を直接つなぐインターネット上のサービスが始まりました。このサイトの登場で、全国各地の通訳案内士が自分の提案するツアーを本人のコメント付き動画で紹介し、それを気に入った外国人と個別にやりとりしてガイド契約できるようになりました。GICSSの会員の中にも、登録している人がいます」。

TripleLights(トリプルライツ)
https://triplelights.com/

このサービスを提供しているトラベリエンスという会社とその代表に対するインタビュー記事は以下のとおりです。

“通訳案内士”による魅力的なツアーが人気!今、訪日旅行者が注目するサービス「travelience/TripleLights(トラベリエンス/トリプルライツ)」
http://smartbusiness.jp/news/2731
通訳案内士と旅行者をつなぐ新サービス、橋本CEO「ガイドのマッチングで世界一を目指す」
http://www.travelvoice.jp/20140630-22842

同サイトをざっとみたところ、多くの通訳案内士がそれぞれ自分の簡単なプロフィールや、自ら得意とする地元の案内やテーマについて英語で説明していました。こうしたプラットフォームの登場には新しい可能性が感じられます。これからは通訳ガイドも企画力やプレゼンテーション力が問われる時代になってきたといえそうです。

――これまで旅行会社や派遣会社を通しての仕事の受注が基本だった通訳ガイドのあり方が変わっていくかもしれませんね。自分の仕事をマネジメントする才覚も問われると思います。一方、通訳案内士をめぐる制度上の不備もずいぶん前から指摘されています。観光庁では、数年前から通訳ガイドのあり方をめぐって検討会が開かれていますが、先生のご見解をお聞かせいただけますか。

通訳ガイド制度(観光庁)
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/tsuyaku.html

「私も先日、観光庁で開かれた検討会でお話申し上げてきたことなのですが、訪日外国人観光客が多様化するなかで、地域に即した通訳ガイドを特区ごとに設定することは必要だろうとは思うのですが、『通訳案内士』という名称は使わないでほしいと思っています。

一般に訪日客が増えて通訳ガイドが不足していると言われますが、実際に通訳案内士が不足するのは、クルーズ客船の寄港などで一度に大勢のお客様がいらっしゃるときや、一年でも春や秋など時期が集中していて、年中仕事があるというわけではないからです。東北地方にお住いの通訳案内士の方などは、『ガイドが不足しているのではない。仕事が不足しているのだ』とおっしゃっていましたが、地域によっても片寄りがあるなかで、ただでさえ“絶滅危惧種”と自嘲的にいわれている通訳案内士のプライドややる気をそぐことになってしまうことは避けてほしいと思っています」。

第2回「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」(2015年1月20日)
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news05_000186.html

先生のご見解は、あくまで通訳案内士の多数を占め、これまで業界の主流をなしてきた英語ガイドの立場に沿ったものといえなくはありません。なぜなら訪日外客の5人に4人はアジア系である現状をふまえると、中国語や韓国語、タイ語などのアジア語系の通訳案内士を取り巻く状況は、さらに深刻というべきか、制度と実際のマーケットとの間に信じられないような乖離が見られるため、状況認識もかなり違っていると言えなくもないからです。解決の道筋も同じやり方でいいのか、関係者の苦悩が思いやられます。

先生は「通訳案内士は日本文化の発信者」であるとおっしゃいます。まさにおっしゃるとおりだと思います。自分が海外に取材に行くとき、優れた通訳ガイドにあたるかそうでないかによって現地で得られる情報の質や量はまったく違うので、その意味はよく理解できます。未熟なガイドにあたると、正直いって仕事にならないことさえあります。ガイドを見る目は、本来それほど厳しく、同じことは旅行でもいえるでしょう。日本の価値を正しく魅力的に伝えることのできる通訳ガイドの価値は国の宝といってもいいほどです。

たとえば、富裕層相手のガイドはまさにそう。こういうケースで活躍するのは選りすぐり通訳ガイドの方たちです。

日本滞在おひとり様100万円の富裕層旅行市場
http://inbound.exblog.jp/21754098/

そうした通訳案内士の役割の重さを考えると、制度的な保障は必要でしょう。社会における広い認知ももっと必要です。ヨーロッパはもとより、他のアジアの国々と比べても、日本はこの面で制度的に立ち遅れていることは、海外の旅行関係者からよく批判的に指摘されることなのです。

いずれにせよ、通訳案内士の制度問題を考えるうえで、訪日旅行に関わるさまざまな業界の人たちのコミュニケーションのあり方が大切のように思います。冒頭で触れた「通訳ガイドコンベンション」は、通訳ガイドの側から業界に対する理解を進めようとする取り組みであり、こうした積み重ねが大事だと強く思った次第です。

さて、最後にランデル洋子先生のもうひとつの顔について紹介したいと思います。ぼくはそのことをお会いするまで存じ上げておらず、大変失礼したとともに、とてもばつの悪い思いをしました。

それは先生がジャズ歌手でもあることです。

Yoko Randell(Jazz Vocalist)
http://jazz-yoko.randells.jp/

まさに通訳ガイド界のスターのような方だったのです。勉強不足でした。

まもなく出来上がるという「第2回通訳ガイドコンベンション」の報告書の内容を待つことにしたいと思います。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-25 11:15 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 01月 22日

機内ビキニショーが話題のベトナムLCCチャーター便初の関空入り

この年末年始、関西空港にベトナムのLCC・ベトジェット航空のチャーター便が初就航しました。

ベトナムのLCCというだけで意外性がありますが、同エアラインは、定期便の運航地に向かう初便において就航記念イベントと称して、機内に水着やドレス姿のキャンペーンガールを同乗させ、ダンスを披露するなど、およそお堅い社会主義国のエアラインとは思えないサービスが話題となっています。
b0235153_11245091.jpg

ベトジェット航空の佐藤加奈さんに話を聞きました。

――この年末年始のハノイ・関空線のチャーター便について教えてください。

「12月30日にハノイから関空へ。同日ハノイ経由でカンボジアのシェムリアップへ。1月1日シェムリアップからハノイへ。4日にハノイから関空へ(翌日朝着)。同日ハノイに戻るというフライトでした。

ハノイから関空の便は乗客の90%がベトナムの方で、大阪起点で東京に向かい、再び関空から帰るという4泊6日のゴールデンコースのツアーでした。関空発の便はハノイ(ベトナム)・アンコールワット(カンボジア)周遊ツアーに参加された日本のお客様が乗られました」。

――ベトナムにもLCCがあるとは初めて知りました。

「ベトジェット航空は2011年12月に運航を開始したベトナム第2のエアラインで、初のLCCであり、民営航空会社です。現在、国内16路線、国際線もタイやシンガポール、カンボジア、台湾、韓国などに運航しています」。
b0235153_11251216.jpg
機材はエアバスA320-200。座席は180席(エコノミーのみ)

――機内でビキニショーというのは斬新ですね。
b0235153_1126882.jpg

「いつでもやっているわけではなく、新しい就航地の初運航便の記念イベントということで、機内のビキニショーやウエディングなど、さまざまなエンターテインメント性の高いイベントを実施しています。彼女たちは客室乗務員ではなく、キャンペーンガールの皆さんです。初めて機内イベントを企画した際、運輸局に通達していなかったため、お目玉を食らって罰金となりましたが、以後は問題ありません。イベントの内容もさまざまで、韓国線の就航の際は、機内で「カンナムスタイル」のダンスを踊りました。日本就航の際の企画は未定です」。
b0235153_11265828.jpg

――今後、ベトナムからの訪日客が増えると思いますか。

「必ず増えると思います。ベトナム人は親日的ですし、平均年齢が27歳と若い国です。経済もこれからますます発展していくはずです」。
b0235153_11272476.jpg

ベトジェット航空
http://www.airinter.asia/
b0235153_1138495.jpg

ベトジェット航空の日本への定期便の就航は、2015年1月現在未定のようですが、今年もチャーター便を運航する計画があるそうです。チャーター便の運航は、双方の国の乗客がいて初めて成り立つツーウエイツーリズムがあるべき姿です。初便に乗って機内イベントをぜひ体験してみたいものです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-22 11:29 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 01月 22日

フィリピン訪日旅行市場は英語圏に近くFITの存在感が大きい

2014年の訪日外国人旅行市場で、中国に次ぐ高い伸びを示したのがフィリピンで、前年度比70.0%増の18万4200人でした。

日本政府観光局(JNTO)はその理由を以下のように解説しています。

「フィリピンの訪日旅行者数は184,200 人で、10 年ぶりに過去最高を記録するとともに、前年比70.0%増と東南アジア市場で最も高い伸率を示した(これまでの過去最高は2004年154,588 人)。月別では4 月から6 月、9 月から12 月で、各月の過去最高を記録した。査証緩和に加え、円安の進行、羽田空港の国際線発着枠の拡大に伴う増便や新規就航など、航空座席供給量が大幅に増加したことや、旅行会社などとの継続的な共同広告の実施、旅行博でのプロモーションが、観光需要を大きく後押しし、2014 年の伸びに寄与した。なお、9 月30 日より、フィリピン国民に対する数次ビザの大幅緩和が実施された」。

では、フィリピンの訪日旅行の実態はどのようなものなのか。アセアン諸国の訪日旅行手配を扱う株式会社ティ・エ・エスの下川美奈子さんに話を聞いた。

――フィリピン人の訪日ツアーはどのような内容ですか。

「団体ツアーはほぼ東京・大阪のゴールデンルートのみです。ただし、フィリピンの場合、全体でみると団体とFIT(個人客)は半々で、東南アジアの中ではFITの存在感が大きい市場といえると思います。もともとフィリピンには中小の旅行会社が多く、不特定多数の人たちが参加する募集型ツアーより家族単位のグループが多く、個人手配の旅行に近いのです。

フィリピン人は英語ができますから、欧米客と同じJTBのサンライズツアーやグレーラインのバスツアーに参加することも多いです。国内移動も自分たちで新幹線に乗っていかれます」。

――フィリピン人は日本のどんなことに関心がありますか。それがツアー内容にどう反映されていますか。フィリピン人らしい立ち寄り先はありますか。どんなお土産が好まれますか。

「やはりお買い物は好きですね。ドンキホーテなどの量販店でお菓子をたくさん購入します。マニラにも日本と同じような最新のショッピングモールがあるのですが、日本は特別だと思っています。ラーメン屋さんもフィリピンにありますが、本場を食べたいと思うようです。すきやきやしゃぶしゃぶなど、日本食は大好きです。

お客様のコンプレインの多くは、食事に関するものです。現地の旅行会社ではツアーを募集する際、日本で立ち寄るレストランとメニューの内容や料理の写真を事前に用意するそうです。つまり、日本側から送った写真のとおりのものが出てこないとコンプレインにつながるのですから、大変です」。

――2014年のフィリピンの訪日客は前年度比70.0%増の18万4200人と大きく伸びました。その理由は何でしょうか。

「ビザが取りやすくなったことが大きいでしょう。数年前まで韓国旅行がブームでしたが、それもひと段落して、いまは日本旅行がブームになりつつあります」

フィリピンから日本に乗り入れている航空会社は多く、日本航空や全日空、フィリピン航空だけでなく、LCCのセブパシフィック航空やジェットスター航空、ジェットスター・アジア航空、さらには大韓航空やキャセイパシフィック航空などの経由便も使えます。そのため、もともとレジャー客だけでなく商用客も多く、訪日外客数もタイ、マレーシア、シンガポールに次ぐ4番目の規模となっています。

フィリピン訪日旅行市場の内実は、英語圏に近くFITの存在感が大きいといえそうです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-22 11:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 01月 22日

ベトナム人気歌手Noo Phước Thịnhの新曲PVは大阪プロモーションになっている

ベトナムの訪日旅行事情について最近少しずつ調べ始めたところですが、1月20日の日本政府観光局(JNTO)のベトナムに関するリリースの中に「有名人歌手を起用したミュージックビデオの制作およびイベント実施」という一文がありました。

これはどういうことだろう? そこで、HISホーチミン支店の井口唯さんに聞いたところ、昨年9月、ベトナムの人気歌手ヌーフックティン(Noo Phước Thịnh)さんの新曲のPVの撮影が大阪で行われたことだと教えてもらいました。

ヌーフックティン(Noo Phước Thịnh)さんの新曲『be together forever』PV(動画)
http://www.tiin.vn/chuyen-muc/nhac/noo-phuoc-thinh-tung-mv-quay-o-nhat-ban-thach-thuc-son-tung-m-tp.html

この撮影にはビジット・ジャパン事業の一環として日本政府観光局と地元大阪観光局が協力したそうです。PVをご覧になればおわかりのように、関西空港から始まり、梅田スカイビルや大阪城、道頓堀などをロケ地に選び、ヌーフックティンさんと偶然知り合った日本の女の子がデート気分で大阪を案内するような設定です。ちなみに、彼女はふだんはローカルTV局のレポーターなどをしている女性だそうです。

このPV制作を担当した大阪のイベント運営会社、株式会社AABの担当者によると、「新曲のPVの撮影の舞台として大阪を選んだことで、ベトナムの訪日促進プロモーションにつながっていると思います。昨年10月26日にホーチミンで開催された日越交流イベントのジャパンデー2014の会場でもこのPVは流されました」とのこと。

ヌーフックティンさんの大阪での撮影の様子については、株式会社AABの運営するFB「ベトナム情報センター」でも紹介されています。

ベトナム情報センター
https://www.facebook.com/VietnamInformationCenter?pnref=lhc

日本情報のあふれるタイなどに比べると、ベトナムはまだ情報は少ないのではないかと思っていましたが、現地在住日本人らによるベトナム人向けフリーペーパーの制作も数年前から始まっています。「きらら」は隔月刊の若いベトナム女性向けのライフスタイルマガジンです。日本に関する情報に特化していて、ホーチミンを中心に5万部を発行しています。

きらら
http://www.kilala.vn/cam-nang-nhat-ban.html

ベトナム語が読めないのは残念ですが、平均年齢27歳という若い国だけに、これからどう化けていくのか、ちょっと楽しみです。

※ベトナムの訪日旅行事情については、以下参照。

アセアン第二陣、フィリピンとベトナムの訪日旅行市場でいま起きていること
http://inbound.exblog.jp/24096702/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-22 11:10 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 01月 22日

ベトナムからの訪日ツアーは9割がゴールデンルート

2014年の訪日外国人旅行者数1300万人突破で弾みのつく日本のインバウンド業界。

年末から今年初めにかけて関係者に話を聞いていると、中国、台湾、香港など訪日客の半分近くを占める中華圏への過度の集中ではなく、アセアンやオセアニア、欧米を含めた市場の分散化を期待する声が強いことを実感します。

なかでもここ数年、観光ビザの緩和施策で訪日客の増えているアセアン市場への関心の高さは突出しているようです。規模でいえば訪日客全体の1割強と、中華圏に比べればまだ小さいものの、タイを筆頭にマレーシア、シンガポールといったすでにノービザ化が実現している国々も含め、基本的に「親日的」とされるアセアン市場への関係者の期待は大きいようです。2015年はアセアン統合の年でもありますし、昨年訪日数で高い伸びを見せたベトナムの市場動向や特性について考えてみたいと思います。

1月20日、日本政府観光局(JNTO)が発表したリリースによると、ベトナムの2014年の訪日客数は初めて10万人を突破し、12万4300人(前年度比47.2%)です。

JNTOのリリースでは、ベトナム市場について以下のように解説しています。

「ベトナムの訪日旅行者数は124,300 人で、3 年連続で過去最高を記録し、初めて10 万人を突破した。月別では、2012 年1 月以降、36 カ月連続で各月の過去最高を更新し続けている。査証緩和に加え、円安の進行に伴う訪日旅行の価格低下、羽田便の増便をはじめとした座席供給量の増加、従来よりも手頃な価格での航空券の販売、共同広告、有名人歌手を起用したミュージックビデオの制作およびイベント実施、ベトナム語よる情報発信強化などのプロモーションが、増加要因として挙げられる。また、観光客だけでなく、留学生、技能実習生なども増加傾向にある。なお、9 月30 日より、ベトナム国民に対する数次ビザの大幅緩和が実施された」。

このうち、「羽田便の増便をはじめとした座席供給量の増加」については、昨年7月、羽田空港の国際線枠の拡大に伴い、全日空やベトナム航空のハノイ・羽田線、ベトナム中部都市ダナンから初の成田線も就航するなど、座席数の拡充を指しています。

では、ベトナムの訪日旅行市場の現在の姿はどのようなものなのか。HISホーチミン支店の井口唯さんに話を聞きました。

――ベトナム人の一般的な日本ツアーのコースや日程、料金を教えてください。

「ツアーコースは9割以上が大阪→京都→名古屋→富士・箱根→東京、またはその逆をたどるゴールデンルートです。

一般的な日本滞在中の日程は以下のとおりです。
1日目 朝大阪着 神戸・大阪観光 大阪泊
2日目 京都観光 観光後名古屋へ 愛知県泊
3日目 富士・箱根観光 河口湖の温泉ホテル泊
4日目 東京観光 東京泊
5日目 早朝便で帰国または東京観光後、午後帰国

ゴールデンルートの料金は2,000ドル程度です。この金額には全日程の宿泊や観光、食事、ホテル、査証、バス、保険などすべてが含まれています」。

――他のアジア諸国の訪日ツアーと比べてベトナムならではの特徴はありますか。

「いまのところベトナムの訪日ツアーの内容には他の国と比べて特徴は少なく、どこの旅行会社も同じようなツアーを出し、同じような価格設定というのが現状です。社会主義の国であるため、まだ規制が多く、自由な価格競争も難しいのです。たとえば、弊社がすべて5つ星ホテルに泊まるデラックスツアーや、札幌雪祭りやハウステンボスへ行くツアーなどのスペシャル企画を打ち出しても、なかなか売れません。

ちょっと面白いのは、ゴールデンルートでは必ず神戸に立ち寄ります。その目的は、瀬戸大橋を見て神戸牛を食べることです。実際には神戸牛は大阪でも食べられますし、わざわざ往復2時間かけて神戸に行くより、大阪をじっくり時間をかけて観光したほうがいいと思うので、弊社では神戸ではなく、他の旅行社との差別化という意味で、たとえば大阪のインスタントラーメン発明記念館などを組み込んだツアーを企画してみるのですが、ツアーコースに神戸が入っていないと選んでくれません。宿泊についても、東京や大阪にこだわり、八王子や立川ならいいけど、横浜はダメという判断です。このようにベトナム人は先入観が強いというか、ちょっと頑固でミーハーなところがあります」。
b0235153_10525856.jpg

――「神戸牛を食べるなら神戸でなければならない」というような思い込みも、海外旅行が始まって間もない国の人たちに共通することかもしれませんね。そんなに何度も日本に来られるわけではないから、来たからには当初の目的を絶対はずせない、という思いが強いのでしょう。リピーターの多い国の人たちとは感覚が違いますね。ところで、ベトナム人は日本のどんなことに関心があるのでしょうか。それがツアー内容にどう反映されているのか。ベトナム人らしい立ち寄り先はありますか。どんなお土産に人気がありますか。

「日本の伝統的なことより有名なことに関心があるように思えます。たとえば、六本木、歌舞伎町、銀座、道頓堀、富士山、雪、寿司などでしょうか。

一般にブランドものより100円均一やドンキホーテ、ヨドバシカメラなどの量販店での買い物を好みます。そのため、東京や大阪などで必ずショッピングフリータイムを2、3時間設けます。

ベトナム人らしい立ち寄り先というのは特にありません。お土産はお菓子や食品などを買う傾向が強いです。スーツケースや電化製品などを買う方もいますが、他の東南アジアのお客様より少ないように思います」。

――ベトナム人は日本食に問題ありませんか。またホテルで何かお困りのことはありますか。またそれ以外でお困りのことは。

「日本食に対してはほとんど問題ありません。ただ、ベトナムの食事がそうであるように、あまり手の凝った料理は理解されません。焼く、ゆでる、煮る、揚げる、といったシンプルな料理が喜ばれます。一度、肉じゃがやチラシ寿司、湯葉などをご提供したことがあったのですが、日本食とは理解されず、不人気でした。焼肉やしゃぶしゃぶ、寿司定食、和定食など、日本食としてよく知られているわかりやい料理が好まれます。ひとつ注意しなければならないのは、ベトナムではいま中国との関係が良くないため、中国客が多いレストランにお連れするとクレームを受けることがあります。

ホテルでは特に困ったことはありません。クレームもほとんどないです。ただし、ベトナムではどんなに小さいカフェでも、家庭でもWiFiが当たり前のように普及しています。そのため、WiFiがないホテルに泊まると驚かれます。こういう点に関しては、あらかじめ日本の遅れているところとしてご理解いただくようにしています」。

ベトナム国家旅行局の統計によると、近年のベトナム人の主な出国先とその数は、中国100万人、カンボジア100万人、タイ50万人、シンガポール30万人、マレーシア20万人、韓国11万人だそうです。ただし、中国への渡航はビジネス目的が多いと考えられます。

2014年の訪日ベトナム人数は12万4300人。まだ時間はかかりそうですが、今後の伸びしろは大きいです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-22 10:53 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 01月 21日

訪日客伸び率と消費額が最大の中国に対するビザ緩和が実施されました

昨日(1月20日)、日本政府観光局(JNTO)による記者発表で、2014年の訪日外客数が過去最多の1341万人4000人となったことが伝えられました。今朝の朝日新聞(2014.1.21)では、以下のように報じています。
b0235153_8593528.jpg

「2014年に日本を訪れた外国人は、過去最多の1341万4千人に達した。日本で使ったお金も2兆305億円と過去最高になり、ホテルや小売業には好影響だ。やはり東京や大阪に人気が集まるが、いかに地方に読み込むかが今後のカギになる」。

同記事では、その背景について「急激な伸びは、三つの追い風に支えられた面が大きい。最大の風は、円安だ。12年末に1ドル=86円台だった為替レートは、14年末には119円台に。日本での買い物代や宿泊費は、ドルベースで約3割も安くなった。

二つ目はリーマン・ショック後の中国や東南アジアの経済成長だ。海外旅行を楽しむ富裕層や中間層が増えた。東京五輪・パラリンピックの開催決定や世界遺産、ユネスコ無形文化遺産の登録が相次いだことで、日本への関心が高まったことが三つ目の追い風だ」としています。

こうした3つの風を「訪日客の拡大を成長戦略の一つに位置づける安倍内閣の取り組み」として、東南アジア諸国に対するビザ緩和や羽田空港の国際線の発着枠の拡大、昨年10月より実施された免税対象品目をすべての商品に広げたことなどを指摘しています。

課題は、大都市圏への旅行者の集中で、「引き続き訪日客を風安には、東京や関西への集中を避けて地方に導くこと」。そのため、政府が4月から始めるのが「地方の商店街などが丸ごと免税店になれる新制度」で、「専用カウンターを1カ所置き、専門業者などに免税手続きを委託できる仕組みで、外国人の目を様々な地方の名産品に向けてもらう狙いがあるといいます。

記事では、「小江戸」で知られる埼玉県川越市には多くの外国人が訪れるにもかかわらず、100店の加盟店があっても免税店がない地元の一番街商店街の事例を挙げ、新制度の導入に対する関係者の期待を紹介しています。また「新たな観光ルートづくり」として「国は、4月から複数の都道府県にまたがる経路を順次設定し、海外でのPR費用などを一部肩代わりする。愛知県と石川県を南北に結ぶルートなど、全国で数カ所を検討」していると、東京・大阪「ゴールデンルート」に代わる新しい観光ルートの造成で、課題となっている訪日客の分散化につなげていこうとする政府の取り組みにも触れています。

さて、過去最多となった「国・地域別訪日客数」のベストテンのランキングは以下のとおりです。( )は伸び率(前年度比)。

1位 台湾 282万9800人(28.0%)
2位 韓国 275万5300人(12.2%)
3位 中国 240万9200人(83.3%)
4位 香港 92万5900人(24.1%)
5位 米国 89万1600人(11.6%)
6位 タイ 65万7600人(45.0%)
7位 豪州 30万2700人(23.8%)
8位 マレーシア 24万9500人(41.3%)
9位 シンガポール 22万7900人(20.4%)
10位 英国 22万0100人(14.8%)

これまで本ブログでも何度も触れましたが、2000年以降初めて台湾が韓国を抜いてトップに躍り出ました。中国、台湾、香港を中華圏とするならば、全体の半分近くを占めることになります。

また政治的な要因によりアップダウンの激しい中国が伸び率83.3%と最大で、「国・地域別の(観光客の)消費額」でも5583億円とトップです。

ちなみに観光庁調べによると、消費額の主なランキングは以下のとおり。

1位 中国 5583億円
2位 台湾 3544億円
3位 韓国 2090億円
4位 米国 1475億円
5位 香港 1370億円

総額は2兆305億円ということです。

実は、一昨日(1月19日)から、中国人に対するビザ発給要件の緩和が実施されています。その告知は昨年11月に発表されていましたが、外務省によると内容は以下のとおりです。

中国人に対するビザ発給要件緩和                   平成27年1月6日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_001624.html

1 昨年11月8日に発表しました,中国人に対するビザ発給要件緩和の運用を1月19日に開始します。

2 具体的な緩和内容は,以下のとおりです。

(1)商用目的の者や文化人・知識人に対する数次ビザ
 これまで求めていた我が国への渡航歴要件の廃止や日本側身元保証人からの身元保証書等の書類要件を省略します。

(2)個人観光客の沖縄・東北三県数次ビザ
  これまでの「十分な経済力を有する者とその家族」のほか,新たに経済要件を緩和し,「一定の経済力を有する過去3年以内に日本への短期滞在での渡航歴がある者とその家族」に対しても,数次ビザを発給します。また,これまで家族のみでの渡航は認めていませんでしたが,家族のみの渡航も可能とします。これに伴い,滞在期間を90日から30日に変更します。

(3)相当の高所得者に対する個人観光数次ビザ
  新たに,「相当の高所得を有する者とその家族」に対しては,1回目の訪日の際における特定の訪問地要件を設けない数次ビザ(有効期間5年,1回の滞在期間90日)の発給を開始します。

3 日本を訪問する中国人観光客は近年増加傾向にありますが,こうした人的交流の拡大は,日中両国の相互理解の増進,政府の観光立国推進や地方創生の取組に資するものです。今回のビザ発給要件緩和措置により,日中間の人的交流が更に一層活発化することが期待されます。


これを読んだだけでは何が緩和されたのかよくわからない文面ですが、ポイントは(3)の「相当の高所得者に対する個人観光数次ビザ」に関する部分です。

これは中国の地域経済の発展状況に準じて、以前から中国国内に数カ所ある日本総領事館の担当エリアごとにそれぞれ適用基準が違っていたものを全体に緩和させること。具体的にいうと、ここでいう「相当の高所得」の指す年収基準を、以前より低く設定することと、これまで沖縄や被災地の東北三県などにインセンティブをもたせるため実施していた「特定の訪問地要件」を設けない数次ビザ(その期間中、ビザなしで何度でも入国できる)の発給を開始したことです。

たとえば、中国瀋陽の旅行業者に対するヒアリングでは(大連を除く、東北三省エリア)、「3年ビザの年収制限がこれまでの25万元から20万元へ。5年ビザは50万元に引き下げられた」とのこと。こういう細かい基準はもともと地域によって違いましたが、これまで上海や北京などに集中していた「相当の高所得を有する者とその家族」の枠が中国全土に広がることを意味します。

いまだに日中関係の展望は判然としませんが、訪日客伸び率と消費額が最大であることを背景に中国に対するビザ緩和を進めていくことは、安倍政権の「成長戦略」にとっても順当な判断だといえるのでしょう。

とはいえ、今年は「世界反ファシズム抗日戦争勝利70周年」の年でもあります。中国政府がそれをどう扱うかによって訪日中国客への影響が考えられます。その意味で、数の増加ばかりにとらわれずに、個人ビザに限って緩和を進めるやり方は一応当を得ているわけですけれど、昨今伝え聞く中国の国内情勢をみるかぎり、さまざまな不確定要素を想定しておくことは必要だと思われます。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-21 09:01 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 01月 20日

ベトナムの「反中」、日本語学習ブームとインバウンドの関係

訪日ベトナム客の特性を考えるうえで参考になりそうな記事(昨年9月に配信)2本を紹介します。いずれも、南シナ海における中国との確執を契機に、ベトナム国内でこれまでの依存し過ぎた対中関係にバランスを改めようとする動きといえそうです。

ベトナム冷めない「反中」 政治的な対立は沈静化(朝日新聞2014.9.5)

南シナ海のベトナム沖から中国が石油掘削施設を撤収して1ヵ月半がたつが、ベトナム国内の「反中国」ムードが収まらない。伝統的なお祭りを前に「海を守れ」と書かれたランタンが大流行。政府も寺院などには「中国風の獅子像を撤去せよ」との指令を出した。

ハノイ旧市街では8日の中秋節を前に、祭りで使うランタンや玩具が数多く売られている。今年目立つのは、ベトナム国旗や巡視船のイラストが描かれ、「島の主権を守れ」「がんばれ海軍」などのメッセージが入ったものだ。

セロハンで巡視船そのものの形をデザインしたランタンも登場した。一つ4万~5万ドン(約200~250円)。小学生の子どもに「海と島が好き」と書かれたランタンを買った女性アイさん(34)は「子どもたしに領域を守る大切さを教えておかないと、中国に取られてしまうでしょ」。

店員によると、愛国デザインのランタンはホーチミン市の業者が今年新たに製造し、「一番の売れ行き」だ。昨年までは、アニメの主人公をあしらった中国製のランタンや玩具が主力だった。「(中国製のものは)きっと売れないと思ったので、できるだけ排除した」という。

中国は5月から100隻以上の船団を引き連れ、南シナ海・パラセル(西沙)諸島近海で石油掘削活動を展開。ベトナムの巡視船と洋上で激しく対立した。7月半ばに中国が立ち去り、8月下旬にはベトナム共産党書記長の特使が中国を訪れるなど政治的な対立は沈静化している。

だが、全土に広がった国民の反中感情は収まっていない。国営テレビは中国の連続ドラマの放送を打ち切り、観光業者による中国へのツアーの多くも中止されたままだ。

さらに、文化スポーツ観光省は最近、全国の寺院や商業施設に、門前に縁起物などとして飾る中国風の獅子像の撤去を求める省令を出した。「ベトナム文化を尊重するため」とし、洋風のライオン像なども対象としているが、反中機運を受けての政策だ。

中国は、ベトナムにとって最大の輸入相手国。極端な中国離れは経済的にマイナスとの意見もあるが、著名な経済学者のレ・ダン・ズアン氏は「ベトナムはこれまで中国に依存しすぎていた。中国離れの影響は一部に出るが、長期的にはバランスを改めるチャンス」と前向きに捉えている。


次の記事は、バランスを改める動きが日本に対する関心に向かっているという内容です。

ベトナム、日本語熱沸騰(朝日新聞2014.9.9)

ベトナムで空前の日本語ブームが起きている。昨年度の日本への語学留学生は前年度の4倍で、日本語試験の受験者も東南アジアで断トツだ。

午後6時半、ハノイのオフィスビル20階の教室に学校や仕事を終えた若いベトナム人が集まる。

「謝るときのペコペコと空腹のペコペコは同じですか」「グズグズとノロノロの違いは何ですか」

5人の生徒が日本語の本を読み、気になった表現を質問していく。日本企業への就職や日本留学を目指した私塾だ。リクルート出身の阿部正行さん(66)が2005年に立ち上げた。

これまで約180人を日系企業に「正社員」として送り出した。エンジニア志望のニャンさん(23)は「3Dプリンター技術に興味がある」と日系企業への就職を目指す。

ブームの背景にあるのは、国際環境の変化だ。日中関係の悪化で中国からベトナムへ拠点を移す日系企業が増え、商工会の加盟数は1299社(14年4月)と、5年で約1.5倍も増えた。いまや学生にとって日本語習得が「就職への近道」になっているのだ。

南部ホーチミンで91年に開校した老舗のドンズー日本語学校では、12年に約3千人だった生徒数が13年に4千人を突破。日本語能力試験のベトナムの受験者数は昨年2万6696人で東南アジアで1位。2位のタイ(1万6800人)を大きく引き離している。

留学生も増えている。ベトナム北西部のディエンビエンフー高校では今年、初めて日本への留学生を出した。貧困層が多い地方からの日本留学はまれだ。ラム校長(56)は「東日本大震災の際の冷静な対応、サッカーワールドカップでゴミを拾う姿に感動した。知識はどこでも学べるが、人格教育なら日本」と学生に日本留学を勧めている。

日本語教育振興協会(東京都渋谷区)によると、02年度に日本国内の日本語教育機関で学ぶベトナム人は198人で全体の0.5%。ところが13年度には前年度比4倍超の8436人になり、2386人の韓国を抜いて2位となった。

一方で、トラブルも目立ち始めている。「日本で簡単にアルバイトができる」と誘われて留学したが、バイト先が見つからず、万引きなどの犯罪組織に引き込まれたりするケースが報告されている。


ベトナム人の日本語能力試験の受験者数が東南アジアで1位。さらに、国内の日本語学校の生徒数も2位なんですね。確かに、最近都内の居酒屋でベトナム人アルバイトの姿をよく見かけるようになったと感じていました。

これは1980~90年代に急増した来日中国人と似た状況がベトナムで起きているということでしょう。人員不足に悩む業界関係者にとっては朗報かもしれませんが、ベトナムの若い人たちを見ていると、彼らは中国人とはまた違った意味で、とても自尊心の強そうな印象があります。

「人格教育なら日本」というのはありがたいお言葉ですが、現在は「反中」機運が作用して日本が選ばれている面が強いと考えられます。そんな彼らの心情を理解し、大切に扱わないと、同じ歴史を繰り返すことになってはたまりません。

こうした動きとインバウンドの関係についていうと、あるベトナム人旅行関係者の話では、ベトナム人が日本に旅行に来ていちばんガッカリするのは「メイド・イン・チャイナ」の商品があふれていることだといいます。彼らは日本に来て「メイド・イン・チャイナ」は見たくないというのだそうです。そう言われても困ってしまいますが……。

ベトナムからの日本ツアーは6泊7日1600ドルが相場(アセアン・インドトラベルマート2014その1)
http://inbound.exblog.jp/22756970/

こうしたことからホテルの客室の振り分けも、中国客とベトナム客がいたらフロアを別にするなど、これまで必要とされなかった細かい配慮も求められそうです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-20 11:19 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2015年 01月 19日

大連賓館(旧大連ヤマトホテル)にいまも残る秘密の部屋

2014年に創業100周年を迎えた大連賓館(旧大連ヤマトホテル)が、数年前から館内に同館の歴史を紹介する展示室を開業しています。
b0235153_8384195.jpg

b0235153_8393340.jpg

普段は宿泊客にも見せない秘密の部屋も見せてくれるということで、昨年7月訪ねてみました。日本統治時代、大連ヤマトホテルは国内外の賓客、政治家や外交官、経済界の重鎮などをもてなす帝国ホテル的な位置付けでしたから、当時の建築技術や国力の粋をつくした壮麗な世界でした。
b0235153_8405071.jpg

まもなく100周年を迎える大連ヤマトホテルの現在
http://inbound.exblog.jp/20581894/

展示室を参観したい場合は、フロントの右手に貼られた掲示板にあるとおり、専属ガイドを呼んでもらうことになります。宿泊客でなければ、1名50元です。
b0235153_8403288.jpg

展示室は2階にあります。残念ながら、展示室内の撮影はNGでした。開業から今日に至る歴史を写真と遺品を並べて解説しています。

これは展示室に入る前の解説文です。もったいぶってあるわりには、ささやかな展示室です。以前、日本を代表する箱根富士屋ホテルの資料室を見せていただいたことがあるのですが、比較しては気の毒でしょう。
b0235153_841274.jpg

展示室を見終わると、ヤマトホテルや満鉄にゆかりのある遺品(当時ホテルで使われていたコーヒーカップやワイングラスなど)を販売するショップに案内されます。よくある中国の骨董土産店です。以前は大連市内にこの手の品を集めた骨董ショップがいくつかありましたが、最近姿を見かけなくなったと思っていました。最近は満鉄グッズを喜んで購入するような日本客も減り、このような場所にまとめられているようです。
b0235153_8443178.jpg

b0235153_8444378.jpg

こうした満鉄の社名の入った木版は年代がわかりませんが、どう価値を付けていいか難しいものです。
b0235153_845046.jpg

これはヤマトホテルで使われていたコーヒーカップでしょうか。以前ぼくは満鉄の食堂車で使っていたというワイングラスを購入したことがあります。ただし、これらが本物なのかどうか、いろいろ言う人もいます。
b0235153_8455359.jpg

2階から大食堂が見下ろせます。
b0235153_846535.jpg

最後に見せてくれるのが貴賓室です。普段は宿泊客にも見せないというのは、この場所です。黄金色に塗られた柱が醸し出す雰囲気は、ラストエンペラーの偽皇宮のようにも見えますが(たぶん当時とはかなりイメージが違うのでは、と想像します)、こういう仰々しい舞台を必要としていたホテルであったことをあらためて知ることができます。
b0235153_846418.jpg

それにしても、ガイド料50元はちょっと高いですね。実は、同じような館内ガイドは、瀋陽の遼寧賓館(旧奉天ヤマトホテル)でもやっていたようです。また改装によって当時の趣はすっかりなくなってしまった長春の春誼賓館(旧新京ヤマトホテル)ではこのようなことはやっていませんが、ハルビンの龍門大廈(旧ハルビンヤマトホテル)では、同館の100年の歴史を解説した立派なパンフレットを用意しています。今度そのパンフレットをもとにハルビンヤマトホテルの歴史(おそらくこの4館のうち、いちばん数奇な歴史をたどった)をひもといてみようと思っています。

現存するヤマトホテルのすべて
http://inbound.exblog.jp/23923802/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-19 08:48 | 北東アジア未来形:満洲の今 | Comments(0)
2015年 01月 18日

「怖いほどの韓国の中国への接近」の最前線、済州島の投資移民

今朝の朝日新聞に、韓国済州島への中国の投資移民に関する以下の記事が掲載されていました。

(波聞風問)中韓急接近 済州島が映す異なる視座(朝日新聞2015.1.18)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11557071.html

「韓国の「ハワイ」とも呼ばれる済州島(チェジュド)。世界自然遺産の韓国最高峰、漢拏山(ハルラサン)のふもとに、高級チャイナタウンが姿を現しつつある。

「熱烈歓迎参観」。ハングルではなく、赤い漢字がおどる。中国の不動産大手「緑地集団」が手がけるマンション「漢拏山小鎮」。1戸約200平方メートルが、約9億ウォン(約9800万円)する。

「お客は中国人です」。ショールームの中国人社員は、明言する。微小粒子状物質PM2・5の数値を北京や上海と比べた広告で、環境の良さも強調している。2013年から400戸を売り出し、8戸を残すのみという。

島に住む翻訳家の男性(40)はこぼす。「高台の高級マンションから、中国人に見おろされている気分だ」。娯楽施設など周辺であいつぐ開発計画をめぐって、環境破壊を懸念する声もあがる。

韓国紙中央日報によれば、中国人が所有する済州島の土地面積は、14年6月までの4年半で約300倍に。外国人全体の43%を占め、国別では米日を抜いて首位。5億ウォン以上投資すれば永住権につながる居住権を得られる制度も、中国人をひきつける。ホテルや店舗への投資もさかんだ。

観光が重要な収入源の島で、外国人客の9割近くが中国人。中国語が飛び交う免税店のそばで、「罰金」を示す看板に目がとまった。

信号無視は2万ウォン、たんをはいたら3万ウォン、あたりかまわず大小便をしたら5万ウォン――。中国語と英語、ハングルで記されている。近くの店員は「中国人観光客を意識したものです。マナーが良くない人もいる。でも大事なお客様ですからね」。

中国経済が急減速したり、関係悪化で中国政府が観光や投資を抑えたりしたら、島はどうなるのか。人口約60万人の済州島は、複雑な思いを抱きながらも中国依存を強める韓国の「最前線」にみえる。

訪韓外国人の4割強が中国人で、14年も前年比4割増の勢い。中国からの直接投資(申告ベース)も2・5倍に膨らんだ。成長を輸出に委ねるなか、中国との貿易額は日米との合計を上回る。金融面でも、外貨預金に占める人民元の割合は11年の1%弱から3割に急増し、いまやドルに次ぐ存在である。

経済に歴史認識……。日本からみると怖いほどの韓国の中国への接近ぶりを、木村幹・神戸大学教授(朝鮮半島研究)は「現政権の志向ではなく、構造的なもの」と指摘する。安全保障面でも、韓国は米中関係を「共存」と認識しており、「対立」を軸に考える日本とは外交の前提となる国際環境が異なる、と。

視座を変えて相手が見ている風景を想像してみる。正否ではない。そこに、対話の糸口があるかもしれない」

昨年5月、上海浦東空港の出国ロビーで、この記事の指摘する「高級チャイナタウン」の宣伝ブースを見かけていたので、なるほどそういうことになっていたのかと思いました。これが「漢拏山小鎮」のイメージ地図です。
b0235153_12374660.jpg

b0235153_1238041.jpg

いまや中国全国の不動産ショールームならどこでも見かけるジオラマも展示されていました。
b0235153_12383447.jpg

b0235153_12384823.jpg

販売を手がけるのは、中国第2の不動産会社「緑地集団」です。
b0235153_1252655.jpg

緑地集団について(百度)
http://baike.baidu.com/view/2291611.htm
緑地集団は、2014年の「フォーチュングローバル500」で268位にランキングしている不動産企業。14年の不動産販売面積は、前年比で30%拡大。14年の販売収入総額は2408億元(約4兆6664億円)となる見込み。

最近の中国では海外旅行と投資移民の話が不可分の関係で語られていることは、以前本ブログでも指摘したことがありますが、ニューヨークやオーストラリアの不動産物件の買収話だけではなく、身近な投資先として済州島がここ数年注目されていたのです。

中国の海外不動産投資ブームをいかにビジネスチャンスとするべきか(COTTM2013報告 その5)
http://inbound.exblog.jp/20520343/

これは投資移民のためのサイトの済州島のページです。

济州岛汉拿山小镇 - 韩国投资移民
http://www.jejuvip.com/forum-39-1.html
物件の紹介だけでなく、韓国では50万ドルの投資が必要なことなど、移民のノウハウを解説しています。いまの中国人の投資移民熱には、「いつでも逃げられる海外の拠点を用意しておきたい」という彼らの正直な願望が背景にあると思います。

それにしても、済州島を訪れる「外国人客の9割近くが中国人」という状況にはビックリですが、韓国政府の施策でこの島に限って中国パスポートでもノービザなのですから、当然かもしれません。先日東京を訪れていた中国瀋陽の旅行会社の友人も、最近の中国人の韓国旅行先はソウルか済州島のどちらかで、後者の人気が高いと話していました。ツアー料金が驚くほど安く、ノービザなのがいちばんの理由といいます。

2014年に600万人を超えた訪韓中国人数は、今年も増加し、700万人を超えるといわれています。問題は、以前も指摘したように、地元では「中国客が増えても大歓迎とはいえない」事情があることでしょう。

中国客が増えても大歓迎といえないのは韓国、台湾でも同じらしい
http://inbound.exblog.jp/23872141/

記事の主張(韓国の視点から東アジア情勢をみることが対話の糸口にならないか)は、中国の韓国への投資移民の話を日韓関係に結び付けようとするところに少々無理を感じますが、こうした複合的な視点は常に必要なことだとは思います。

もっとも、いま済州島で起きていることは、専門家も指摘するように「現政権の志向ではなく、構造的なもの」でしょう。歴史的にみて、かつて起きていたことのひとつの再現なのだと思います。

気になるのは、記事でも指摘するように「中国経済が急減速したり、関係悪化で中国政府が観光や投資を抑えたりしたら、島はどうなるのか」。おそらくこれも、歴史的にみれば再現するかもしれません。その日にどう備えるのか。すなはち、済州島のチャイナタウンが中国全土に増殖する鬼城になる日にです。なぜなら、済州島で起きていることは、中国国内で起きていることにそっくりに見えてしまうからです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-01-18 12:45 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)