ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 03月 31日

『太陽にほえろ』のスモッグ空と同じ色をしている今の中国映画の空

以前からずっと思っていたことがありました。

2月から3月上旬にかけて、新宿K’s cinemaで連続上映されていた中国のロウ・イエ(婁燁)監督作品のいくつかを観て、やっぱりそうかと確信しました。
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K’s cinema ロウ・イエ監督特集
http://www.ks-cinema.com/movie/rouie/
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ロウ・イエ監督最新作「二重生活」サイト
http://www.uplink.co.jp/nijyuu/
ロウ・イエ監督最新インタビュー
http://intro.ne.jp/contents/2015/02/05_1701.html

ロウ・イエ監督といえば、天安門事件を題材にした作品(『天安門、恋人たち』(原題:頤和園)2006年)を撮ったことで、中国政府から5年間の活動禁止を言い渡されたことで知られています。日本の映画関係者はやたらとその話をしたがるようですが、中国の独立系映画の監督たちの事情を少しでも知っていると、そのこと自体をどうこう言うのはナイーブすぎるように思います。

むしろ、興味深いのは、彼の作品の独特のカメラワークで、被写体のすぐ近くから手持ちのカメラで撮られた映像にあります。カメラの前では俳優たちに自由に演技を続けさせるそうです。その「近さ」によって観客たちはまるで自分も登場人物たちと同じ空間にいるかのような錯覚を起こさせ、それが不思議に心地よいのです。作品世界に対して客観的に対峙されることを拒んでいるような、共犯者を迫られているような感覚があります。しかも、やたらと性描写のシーンが多いのも、彼の作風の特徴といえるでしょう。そんな作品ばかり撮っているので、なかなか中国国内では上映を許されません。

とはいえ、北京の海賊版ショップに行けば、彼の作品のDVDを買うことはできます。ぼくも何枚かフランス語版の彼のDVDを買ったことがあります。中国ってそういう国です。

話を戻すと、2000年代に中国で撮られた彼の作品を観ながら、ずっと思っていたことがあったというのはこういうことです。

映像に映し出される南京などの中国の地方都市の空の色が見事にスモッグ色をしていて、それは1970年代から80年代半ばまで放映されていたテレビドラマ『太陽にほえろ』で、石原裕次郎たちの背後に映っていた空とそっくり同じ色をしていたことです。
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これはある動画サイトから取り込んだ『太陽にほえろ』の冒頭シーンです。ほら、すごいスモッグ空でしょう。タイトルバックに見えるこのビルは、『太陽にほえろ』の放映の始まった前年の1971年に開業した京王プラザホテルだと思われます。京王プラザホテルは西新宿の高層ビル街の先駆け的な存在で、まだ周辺にはビルは建っていません。
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それにしても、この石原裕次郎の苦みばしった表情は、いかにも日本の1970年代を象徴しているような気がしてきます。この時代、日本は高度経済成長を成し遂げたものの、人々の暮らしはそんなに豊かではなかったはずです。大気汚染のみならず、公害問題も深刻でした。

そんな時代の日本の大人たちは、実際のところ、どこまで大気汚染を気にしていたことか。『太陽にほえろ』の登場人物たちと同様に、タバコも吸い放題、吸殻も道に平気で投げ捨てていたことでしょう。そういうのが渋くてカッコよかったに違いありません。

一方、この時代小学生だったぼくは、やたらと強烈なヘドロの海や工場から吹き出す排煙の写真が載った社会科の教科書を読まされていたものですから、「公害大国、ニッポン」の子供として、いったいこれからボクたち、どうなっちゃうのだろうとおびえていたものです(少々大げさでしょうか)。でも、この時代に子供たちが抱えていた漠然とした不安は、それから後の80年代以降、世界の終末を描くようなアニメ作品が大量に制作されるようになったことと関係があるのではないか、と最近思ったりします。

今の中国の都市部に生きる人たちは、日本の70年代のような、あるいはそれ以上の苛酷な環境を生きていることは確かなようです(中国には大気汚染以上に水の問題があります)。中国では日本が経験した過去のいくつもの時代を共時的に経験しているようなところがあるので、我々と同じように事態を捉え、考えるというわけではないでしょう。

だとしても、いまの中国の子供たちは、大人たちから何を教えられ、何を想って、このかすんだ空を見つめているのでしょう。気になるところです。
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by sanyo-kansatu | 2015-03-31 16:30 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)
2015年 03月 30日

中国の新人類は日本の青空に魅せられている

桜の開花も始まり、中華圏からまた大勢の旅行客が訪れています。いつものように仕事場に近い新宿花園神社の向かいの交差点で信号待ちしていると、バスを降りた中国団体客がやって来ます。そこで隣に居合わせた中国客に「どっから来たの?」「江蘇省よ」などと話をしたあげく、ちょっと大げさに手を広げ「欢迎光临(ようこそ)」。皆さん満面の笑みを浮かべてくれる…なんて調子のいいことをついやってしまいます。

でも実は、最近、ぼくは喉の調子が芳しくありません。

もしや…。そこで日本気象協会の 「PM2.5分布予測」のサイトをみると、案の定、このとおり。中国大陸沿海部と朝鮮半島を中心にPM2.5の濃度が高くなっており、日本列島にも帯のように広がっています。
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2015.3.30 6時 PM2.5分布
http://www.tenki.jp/particulate_matter/

これはサイトの解説です。「※PM2.5分布予測では、分布傾向を弱い方から「ほぼ無(透明)」「少ない(濃い水色)」「やや少(薄い水色)」「やや多(黄緑)」「多い(黄)」「非常に(薄いオレンジ)」「極めて(濃いオレンジ)」で表しています。現時点では、PM2.5分布予測情報は、東アジアスケールで定性的に予測する精度はありますが、都市スケールの精度や定量的な精度について、まだ不十分な部分があります。都道府県内地域での予測値は、当該地域を含む広いエリアの平均値を表示しています。なお、予測情報では、濃度の数値は扱っておりません。自治体による観測値も合わせてご利用ください」。

もともと喉が弱く、冬場に中国出張に行くと、必ずガラガラ声になって帰ってくる始末ですから、ぼくは一般の人よりかなり敏感なのは確かのようです。「今日は喉にタンがからみやすいな」と感じる日は、必ずこのサイトをチェックして、なるほどこういうことか、と納得しているのです。

でも、先ほどの中国客の住んでいる江蘇省は、この分布図によると、PM2.5の「非常に(薄いオレンジ)」「極めて(濃いオレンジ)」のエリアにすぽっり覆われています。とてもぼくには住む勇気はありません。

実際、2月に訪ねた上海浦東地区の高層ビル街の空はこんな調子でした(正確な撮影日時は、2月12日午前8時50分)。大気汚染によって朝日さえかすんでいるのです。
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去年の春節当時、「洗肺游(肺を洗う旅行)」というのが流行語でした。中華網(www.china.com)によると、こういうことだそうです。

「洗肺游」は、空気がきれいな場所へ旅行し、肺をきれいにすること。2013年の冬、中国では多く地域が深刻なスモッグに見舞われ、空気がきれいな場所へ行く「洗肺游」が観光市場の新しいトレンドになった。国内の多くの旅行社と観光ウェブサイトでは、この「洗肺游」を企画、販売している。人気の「洗肺」地は、国内は三亜、アモイ、麗江、桂林、昆明、長白山、シーサンパンナ、貴陽、大理、黄山など。海外では、プーケット、バリ島、モーリシャス、チェジュ(済州)島、モルジブなどが人気である。

このきわめて自虐的な流行語は、当時、海外ツアーの宣伝コピーにもさんざん使われていましたが、流行語大賞も翌年になると口にする人がいなくなるのと同じ理屈で、さすがに1年たって時代遅れ感もあり、また当局にずいぶん苦々しい思いをさせたであろうことからか、最近はあまり聞かれません。少なくともネット上には見当たらなくなり、たまに街場の小さな旅行会社の店舗に置かれた売れ残りのツアーチラシに見られるくらいです。

この問題については、中国の大人はともかく、若い世代はそれなりに気にしているようです。これは13年11月、上海の莫干山路の芸術区「M50」にあるepSITE Epson Imaging Gallery(当時)に展示されていたある若い中国人アーチスト(張巧さん)の一連の作品です。タイトルは「工業革命」だそう。
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ちょうど「洗肺游」が流行語としてさかんに使われた頃のことでしたから、ちょっと面白いと思って撮ったのですが、その作風は告発的というよりウケ狙い的な感じに見えなくもありません。いかにも上海らしい腰の座らないスタンスというべきか。いまの中国ではこのくらいがせいぜいだろうかと思っていたら、今年3月上旬、中国で1億回以上もアクセスされたと話題になった元中国中央電視台キャスターの柴静さんのPM2.5告発動画『穹顶之下』が出てきて大いに期待しました。でも、案の定、あっさり当局によって閉鎖されてしまったようです。こんなお国柄ですから、解決への道のりは遠いと言わざるを得ません。

穹顶之下(YOU TUBE)
https://www.youtube.com/watch?v=xbK4KeD2ajI

いたずらに当局を刺激しても、かえって逆効果さえ生みかねないことをよく知っている中国の人たちですから、あまり責めても仕方がないのかもしれません。

でも、そんな彼らも、やはり日本の青空を見たら、いろんなことを思うに違いない…。

そんなことをふと思ったのは、2月に上海の書店で買ってきた『自游日本』(2015年1月刊)という本を手にしたときでした。
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この本は1986年生まれの中国人女性(史詩という名のブロガー)が書いた日本を個人旅行するためのガイド書で、写真と最小限の情報だけが厳選されています。帯に「日本にひとりの友人もなく、日本語もひとことも話せず、それでも日本を自由自在に旅するための本」とあります。ようやく中国でも、この手の旅行ガイド書が書かれるようになったんだなあと感慨深く思ったものです。

史詩さんの微博(weibo)「epic14」
http://www.weibo.com/u/1292461684

彼女は北京大学卒の秀才で、日本のアニメおたくでもあるようです。ぼくは手にしたことはありませんが、『去爱吧,间宫兄弟』というタイトルの著書もあるそうです。

まえがきの冒頭に「2009年から13年まで、4回日本に行きました。合計166日滞在」とあります。こういう何回とか何日海外に滞在したとかいったことが、いまの若い旅行好きの中国人にとっては重要なんですね。日本でも昔、旅行記の著者プロフィールに「海外渡航歴70カ国」なんて書いてる人がいましたが、それに似た気分なのでしょう。

彼女は、2010年にどこかの大学との短期交換留学で来日していて、そのとき週末などを使って日本全国を旅していたようです。「47都道府県中、36県を訪ねた」とも書かれています。

興味深いこんな一文もあります。「おばあさん、おじいさんに感謝します。あなたがたは私が生まれてこのかた最も親しい友人でした。私はこれまで読書と旅行を愛好してきましたが、こうした精神を豊かにし、物質的に淡白な生活習慣を私に身につけさせてくれたのは、あなたたち以外にいません」。

ここでいう「物質的に淡白な生活習慣」を身につけた彼女は、1980年代生まれの「80后」世代。いわゆる中国の新人類です。どうやら彼女には「爆買い」は無縁のようです。

同書では、日本のまっとうな名所旧跡や日常食、そして鉄道旅行のとき彼女が食べたと思われる駅弁がやたらと紹介されています。「まっとうな」とあえて書くのは、基本的に中国の団体客は日本の名所旧跡にほとんど興味がないからです。「日常食」というのは、我々日本人がふだん食べているカレーやラーメン、とんかつ、天ぷら定食などといった料理のことで、一般に海外で販売される日本ツアーの食事として出てくる和牛やしゃぶしゃぶ、かにすき、懐石料理といった料理はほとんど出てきません。またこれも基本的に冷めた食事を好まない中国人らしからず、「駅弁」に注目しているのも新しいと思いました。もちろん、若い彼女には金額が張るので、懐石料理を食べる機会がなかったのかもしれませんが、個人で日本を旅行している他の国の外国人たちはたいてい日本の日常食を食べているわけですから、ようやく中国にも我々と同じような旅行者が現れ始めたのだなと、この本をみてぼくは思ったわけです。

そして、何よりいちばんのポイントだと思ったのは、この本の表紙として選ばれた一両きりのローカル線の車両と高く広がる青空の写真です。

爆買いツアーがすぐになくなるとは思えませんが、どんなに日本のアニメやマンガに詳しい中国の新人類でも、実際に来てみなければ知ることのできない日本の印象とは、こういう澄み切った青空に違いない。そう思えてきたのでした。
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by sanyo-kansatu | 2015-03-30 11:48 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 03月 27日

訪日客増加で客室も足りない!?  多様化する宿泊ニーズに対応した新サービスや業態転換はどこまで進むか

今日の朝刊で以下の記事が報じられていました。

国内宿泊客最多4.7億人、14年外国人33%増(朝日新聞2015年3月27日)
http://www.asahi.com/articles/ASH3V4W9BH3VULFA01B.html

一昨日、やまとごころのサイトに寄稿したのが、ちょうどこのテーマでした。以下、全文を掲載します。

http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_11.html

訪日外国人数が1300万人(2014年:1341万人)を突破し、全国の観光地や都市部で外国人旅行者の姿をよく見かけるようになった。

なかでも東京や大阪など大都市圏のホテルは客室稼働率が上昇。外国客の国内手配を担当するインバウンド関係者からは、春と秋の繁忙期には各国の訪日ツアー客の受入を断念しなければならない事態が常態化しているとの声が聞こえてくる。

政府は2020年までに訪日外国人2000万人の目標を掲げるが、都内の旅館やホテルの客室数は現在約14万室。訪日2000万人時代には「1万室が不足する」(JTB総合研究所)といわれる。

早くもこの時点で訪日を希望する外国客の受入をお断りしているようでは、達成は難しい。昨年、本レポートで指摘したツアーバスの不足問題とともに、客室不足も今後の訪日旅行市場の成長にとって大きな懸念材料になっている。

ホテルの客室不足は2020年まで続く!?

2014年の国内ホテルの客室稼働率は好調だった。だが、都市別にみると地域差がみてとれる。前年比で大きく伸ばしたのは、ともに3.0%増の大阪(88.9 %)や沖縄(77.3%)だが、名古屋のように0.7%減(84.0%)の都市もあるのだ。通年で86.0%と高い稼働率で推移する東京も、8月以降は前年度を下回る月が多かった。

売り手市場となったことからホテルの客室単価が上昇している影響が考えられる。海外の旅行会社からは「都心のホテルは予約がただでさえ入らないうえ、高くなった」という恨み節が聞かれる。客室を押さえられないため、ツアー催行を断念するケースも増えているからだ。低価格で大量送客するビジネスモデルの団体ツアーでは、都内の宿泊施設を避け、近隣県にシフトしているのだ。「東京はホテルが取りにくい」という風評の広がりは気になるところだ。

こんな指摘もある。ある上海の旅行関係者は「20年まで日本のホテル不足は続くだろう」と観念しているという。なぜなら、都内の客室供給は今後それなりに増えるだろうが、五輪後の需要の落ち込みをふまえ、日本の開発業者は慎重だからだ。上海万博(10年)前のホテル開業ラッシュで、中国の高級ホテルは軒並み客室稼働率の低下に悩んでいる。日本側が上海を反面教師にするのは当然だと彼らはみているのである。

もっとも、訪日外国客の宿泊実態はさまざまだ。全体の5人のうち4人を占めるアジア系、すでにFIT化している成熟市場の欧米系、富裕層から訪日客のボリュームゾーンであるミドルクラス層、さらにはお金をなるべくかけずに旅行を楽しむバジェットトラベラー層に至るまで、国籍や階層、年代別に異なるその実態は多様化している。

問題は単に客室不足だけではないのだ。多様化する宿泊ニーズへの適切な対応こそが求められている。

これは新規ビジネス創出のチャンスである。以下、この喫緊の課題に応えるべく、国内で生まれつつある新しい宿泊サービスや業態転換などのユニークな動きをみていきたい。

都内のホテル地区が可視化してきた

2014年12月、ラグジュアリーリゾートの代名詞であるアマンリゾーツによる「アマン東京」が大手町タワー(千代田区)に一部営業を開始した。国際的に評価の高い同グループが手がける初の都市型ホテルだけに、巨大な和紙で覆われたガーデンレセプションなど、日本の伝統素材が使われた館内の優雅な意匠の数々は、海外からも注目されている。
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アマン東京 http://luxury-collection.jp/hotel/Amantokyo/

一般に外資系ラグジュアリーホテルは、物件を所有せず、運営に特化する経営スタイルを採用。都心の再開発の目玉である超高層複合ビルの上層階に入居し、客室数を絞り込んでいることが特徴だ。アマン東京は84室。客室数だけみれば一般のビジネスホテル並みで、今日急増する訪日外国客の客室不足の解消には必ずしもつながらない。

富裕層向けの外資系ラグジュアリーホテルの動向は華やかな話題性があるものの、訪日外国客のボリュームゾーンを占めるのは、やはりミドルクラスの旅行者である。こうした我々日本の一般国民の感覚に近い外国客が利用する宿泊施設の集まる地区が近年、都内に現れている。これは欧米やアジアのインバウンド先進都市にはほぼ見られることで、東京でも遅ればせながら可視化してきたといえる。

現在、都内の主なホテル地区は、新宿や銀座、品川、上野、浅草などだろう。これらの地区は、外資系ラグジュアリーホテルが集中する東京駅周辺(八重洲、丸の内、日本橋など)や六本木とは明らかに街の景観が異なっている。エリアによって宿泊施設のタイプや旅行者の層も色合いが違う。同じ地区の中に、欧米やアジアの個人客、ビジネス客が利用するシティホテルと、一般レジャー客のための宿泊特化型ホテルチェーンやビジネスホテルが混在していることも多い。最近では、若いバジェットトラベラー向けのゲストハウスが増えている浅草から隅田川沿いのようなエリアもある。

気がついたらまわりに外国人が……東新宿は外客FITゾーンに変貌中

新宿は1970年代に開発された西新宿のホテル地区が広く知られているが、近年JR山手線をはさんだ内側の東新宿にある手ごろな価格帯のビジネスホテルを利用する外国客が増えている。主に欧米からの個人レジャー客だ。この地区のホテルは以前、地方からの出張客やレジャー客が主に利用していたが、外国客もそれに加わりつつあるのだ。円安の影響で50米ドルを切る価格帯のホテルも多いことから、いまや東新宿は外客FITゾーンになっている。
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なかでもこの地区では老舗の「東京ビジネスホテル」は外国客比率の高いことで知られる。関係者によると「うちは昔から欧米客が多い。口コミで訪ねてくる方ばかり。西新宿のホテルに比べると宿泊料金は半分(1泊4100円~)だから、長期滞在される方が多い。うちを拠点に箱根や京都に行ってこられる方もいる」という。シンプルなホテル名が外国客にわかりやすいことも大きいようだ。

フロントサービスもチェックイン・アウトの手続きなど簡略なもので、西新宿のシティホテルのようなコンシェルジェ機能は特にない。施設や客室も決して新しいとは言えない。それでも、コストパフォーマンスを重視する宿泊客には問題ないようだ。彼らは自らネットを活用し、東京滞在を楽しんでいる。
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東京ビジネスホテル http://tbh.co.jp/

最近、東新宿ではアジアからの個人客も増えている。香港や東南アジアから来た若い旅行者が、新宿3丁目や東新宿の地下鉄駅から重いスーツケースを引きずり、ガラガラ音をたてながらホテルに向かって歩いている。都心に位置しながら閑静な住宅街だった東新宿の住人からすると、気がついたらまわりに外国人がいっぱい、という現象が起きているのだ。

東新宿は、明治通りをはさんで歌舞伎町や伊勢丹があり、東京を代表する繁華街に近いという絶好のロケーションでもある。交通の便もよく、東京滞在をリーズナブルに楽しむには好都合の場所なのだ。直近の話題としては、歌舞伎町のコマ劇場跡地に15年4月に開業する「ホテルグレイスリー新宿」がある。最上階の30階にゴジラの世界を体感できる客室を設けているという。すでに巨大なゴジラの頭部はお目見えし、「アジア最大の歓楽街」で異彩を放っている。海外で圧倒的な知名度を誇る歌舞伎町に立地していることから、外国客の人気を呼ぶことだろう。
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ホテルグレイスリー新宿 http://gracery.com/shinjuku/

サービス付き賃貸など新種の宿泊形態も

ここ数年、全国展開する宿泊特化型ホテルチェーンが都心に続々進出している。たとえば、東新宿には「アパホテル」がすでに3軒開業しているが、これは新宿に限った話ではない。共立メンテナンスは2015年4月アジア客に人気の上野御徒町に「ドーミイン」を開業する。またダイワロイヤルは17年春に東京五輪会場に近い有明エリアにビジネスホテル「ダイワロイネット」を開業予定だ。これらのホテルチェーンは、地方ではアジアからの団体客の受け皿となっているが、大都市圏では急増する個人客の動線をふまえた出店となっている。

ドーミイン http://www.hotespa.net/dormyinn/
ダイワロイネット http://www.daiwaroynet.jp/

新しい宿泊サービスも登場している。

たとえば、銀座では新タイプの国内ビジネスホテルチェーンの進出ラッシュが起きている。14年12月に三井不動産が東銀座に「ミレニアム三井ガーデンホテル」を開業。15年春には京浜急行電鉄も東銀座に「京急EXイン」、16年秋には相鉄ホールディングスが「相鉄フレッサイン」を新橋に2ヵ所新設する。これらのホテルはサービスの効率化を進めた従来の宿泊特化型とは違い、外国客やカップルの利用を想定。客室の約7割はダブルベッドにしたり、英語や中国語のスタッフを配備したりしているのが特徴だ。

ミレニアム三井ガーデンホテル http://www.gardenhotels.co.jp/millennium-tokyo/
京急EXイン http://www.keikyu-exinn.co.jp/

相鉄フレッサイン http://fresa-inn.jp/


ホテルのようなサービスを受けながら長期滞在できるサービス賃貸(高級サービスアパートメント)も増えそうだ。

東急リロケーションは16年春に部屋に乾燥機やミニキッチンを備える中長期滞在用の「東急ステイ銀座」を開業予定だ。グローバル企業で働くビジネスマンや観光客などの取り込みを図る。

東急ステイ http://www.tokyustay.co.jp/

サービス付き賃貸は、海外駐在や長期出張の経験のある人なら利用したことがあるだろう。アジアの主要都市では、ホテルに併設されるケースが多い。家具や家電製品は備え付けで、ホテルに比べて割安な料金で毎日の清掃やリネン交換などのサービスが受けられる。滞在日数にもよるが、敷金や礼金が不要で煩わしい手続きがない点も人気の理由だ。コンシェルジュサービスを提供する施設も多い。

日本では海外に比べ普及が遅れていたが、17年にはシンガポールのリゾートホテルチェーンのバンヤンツリーがサービスアパートメントの進出を予定している。

京都や大阪でも外資進出が活発化

外資系ラグジュアリーホテルの進出は京都でも起きている。2014年2月、「ザ・リッツ・カールトン京都」が開業。古都の景観を守るため、地下2階まで掘り下げてレストランや宴会場を配置した。料金は1泊6万5000円からという。また15年春には米スターウッドグループの最高級ブランド「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」が開業する。

ザ・リッツ・カールトン京都 http://www.ritzcarlton-kyoto.jp/
翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都 http://www.suirankyoto.com/

京都は盆地で、1200年以上の歴史遺産も多く、大規模再開発によるホテル建設に適した土地を見つけるのは難しいといわれていた。これまで修学旅行などの団体客を多く受け入れていたが、少子化の影響で国内需要は限界がある。一方、外国客は増加基調にある。

米国の旅行雑誌「トラベル+レジャー」が14年7月発表した世界の人気観光都市ランキングで、京都市が初めて1位となった。同誌は北米の富裕層を中心に読まれる月刊誌で、発行部数は約100万部。ランキングは風景や文化・芸術、食などの項目の総合評価で決まる。京都市を13年訪れた観光客数は5162万人、外国人宿泊客数は113万人と過去最高だった。

こうしたことから、行政も世界の富裕層の力で京都を活性化しようと規制緩和や特例措置で外資の誘致を後押ししている。16年に開業予定の「フォーシーズンホテル京都」は現在、東山地区の病院跡地に建設中だ。当初は隣に京都女子高校があったため、ホテル建設は認められていなかったが、例外規定で進出が実現した。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の人気で、大阪のホテル競争も激しくなっている。14年7月の人気映画『ハリー・ポッター』をテーマにした新エリアの開設で、夏のUSJの入場券予約は前年比6倍増。同社と提携するホテルは利用者が大幅に増えている。

14年に関西国際空港を利用する外国客が630 万人(前年比136%増)と3 年連続で前年を上回り、過去最高となっている。背景には、関空に乗り入れる国際旅客便に占めるLCC比率が22.4%(14年冬季:週174便)に上昇、国際線の発着回数が過去最高になったことがある。関空と伊丹空港を合わせた14年度上期(4月1日~9月30日)の訪日外国客も、初めて日本出国者を上回るなど、関西の訪日旅行市場は全国や関東平均を上回るペースで拡大している。

簡易宿が外客向けホテルに業態転換

実際、2014年の大阪の客室稼働率は88.9 %(前年比3.0%増)と東京より高かった。それだけホテルの客室不足も深刻である。

JR大阪環状線今宮駅を降りると、通りをはさんで住人とまちの雰囲気が一変する地区がある。大阪のドヤ街として知られる西成区あいりん地域だ。その一角に「ビジネスホテル来山北館」がある。外観は普通のビジネスホテルだが、1泊シングルで2500円と格安。風呂やトイレは共用だが、全室Wifi完備。ロビーには共用キッチンがあり、気軽に利用できる。LCCを利用する海外のバジェットトラベラーのニーズにぴったりの宿泊施設である。
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ビジネスホテル来山北館 http://www.chuogroup.jp/kita/ja/

ホテルの立地には西成区あいりん地域という特殊性がある。山田英範取締役によると、同ホテルはかつて労働者のための簡易宿泊所だった。ところが、バブル崩壊以降、労働者を取り巻く環境が変わり、宿泊客が激減したという。2004年、父親から家業を引き継いだ彼は、外国客向けの宿泊施設に業態転換を始める。まず着手したのは、HPの多言語化だった。さらに、宿泊客が自由に利用できるロビーの改修を進めると、HPを見た外国客が訪れるようになった。「宿泊客のうち日本人と外国人の割合は半々。時期にもよるが、韓国3~4割、中国・台湾・香港3~4割、タイ2割、欧米2割」とのことだ。

同じような簡易宿から外客向けホテルへの業態転換は、東京山谷地区(台東、荒川区)でも起きている。

ホテル市場を活性化する海外予約サイト

こうした多様な宿泊施設と外国客を直接結びつけているのが、海外から参入するホテル予約サイトである。予約サイトはいま、日本のホテル市場を大きく変えつつある。訪日客の増加にともない、海外からのネット予約が増えているからだ。

国内ではどんなに無名の宿泊施設でも、予約サイトのプラットフォームの上では、見せ方次第で外国客の目に留まる可能性がある。東新宿の老舗ビジネスホテルの「ホテルたてしな」の関係者も「昔は国内客がメインだったが、いまでは閑散期は外国客のほうが多くなる。海外からの予約はExpediaなどを使ったネット予約が大半だ」と語る。

これは高級外資ホテルからゲストハウスに至るまで事情は共通している。ホテル予約サイトが国内の宿泊施設の業態転換や新種のサービスの創出を後押し、市場の活性化を促しているのだ。

ラブホテルの外客向け活用も

これまでみてきた宿泊施設の関係者の話に共通するひとつの指摘がある。外国客には固定観念はない、ということだ。

興味深い話がある。客室不足に悩む大阪市は2014年、外客向けにラブホテルの活用を検討。「交通の要所である京橋や天王寺などのラブホテル街を対象に、フロント拡幅などの設備更新に補助金を出して業態転換を促せないか模索」(朝日新聞2014年8月4日 大阪版)したという。

ところが、関係者によると「進展はなかった」という。ラブホテルは小規模経営者が多く、新規施設の投資や多言語化の対応などに難があるためだ。

こうしたなか、清潔でくつろげる客室やカラオケ、ジャグジーバスなどのエンターテインメント設備を備えたレジャーホテル(ファッションホテル、ブティックホテルともいう)の中に、外国客の受入に取り組む施設が現れている。

関西を中心に47軒のチェーン展開を広げる「ホテルファイン」では、11年からHPを立ち上げ、ネット予約を開始した。ウォークインが基本のこの種のホテルで、予約を受け付けることは機会損失につながりかねないため、賭けでもあった。

翌年、海外のホテル予約サイトから問い合わせがあり、登録を決めるとすぐに海外からの予約が入るようになった。同ホテルの関係者は「外国客には日本人のような固定観念はない。単純に価格とスペック、サービス内容で宿選びをする。その点、レジャーホテルは客室が広く、ファミリー利用にも適している。日本が得意とするハイテク設備もある。それが優位に働くようだ」と語る。

日本の若いカップルと海外のファミリー客がフロントの前で鉢合わせするところを思い浮かべると苦笑してしまうが、この3年間外国客数は順調に伸び続けているという。
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ホテルファイン http://www.hotel-fine.co.jp/

都内のインバウンド関係者によると、新宿歌舞伎町でもラブホテルを利用する外国客が増えているという。先にみた簡易宿のケースもそうだが、既存の施設の業態転換はこれからの訪日旅行市場の拡大のためには不可欠かつ有効な取り組みといえるだろう。
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新宿歌舞伎町でも外国客のラブホテル利用されている

客室不足が顕在化するなか、この状況を打開するには、個別多様化した訪日客のニーズに即した施設やサービスをどれだけ提供できるかにかかっている。通念にとらわれない発想による新しい取り組みはすでに始まっている。すべては外国客のニーズをどこまで細かく捕捉できるかにかかっている。
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by sanyo-kansatu | 2015-03-27 14:54 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2015年 03月 17日

中国のダンス(広場舞)おばさんと改革開放30年の人生に関する考察

今朝の朝日新聞の「国際」欄に以下の記事が掲載されていました。
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中国の広場舞、騒音深刻 夜にダンス、住民とトラブル
http://www.asahi.com/articles/ASH3J5D82H3JUHBI01L.html

「中国の中高年女性の間で、楽しみながら健康づくりができるとして人気を集める「広場舞(広場ダンス)」が、社会問題になっている。毎晩のように音響機器を持ち込んで踊りまくる女性たちと、騒音に悩まされる近隣住民とのトラブルが絶えないのだ。話し合いでは解決できず、規制条例を定める動きまで出始めた」(朝日新聞2015年3月17日)

同紙によると、広場舞とはこういうものです。

「中国各地の公園や広場で音楽に合わせて踊るダンスの総称。健康維持やダイエットを気にする中高年女性の間で絶大な人気がある。特に決まった形式はなく、農村に伝わる伝統的な踊りから、社交ダンスやジャズダンス、少数民族風のものまで様々で、個人が好みのグループに入って踊る。参加費用は無料か少額。由来は諸説あるが、1980年代以降に各地で広場が整備されるようになり、広まったとも言われている」。

中国に住んでいる人、最近行ったことのある人なら、公園や広場で興じられる一群のダンスおばさんたちの姿を一度は見かけたことがあるのではないでしょうか。ぼくは、中国の東北三省でしか見たことはありませんでしたが、どうやらそんなローカルな流行ではなく、全国的な規模で繰り広げられているのが、おばさんたちの広場舞のようです。
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これは中国黒龍江省牡丹江市にある江浜公園で見かけた広場舞のグループです。
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なんだかかわいくないですか。おばさんたちがスカートを翻し、真剣に踊っている姿は微笑ましくさえあり、これを怒鳴りつける輩の気持ちは理解できません。
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踊っているのは30~60代の女性ですが、たまにおじさんや子供が交じっていることもあります。たいていは「仕事や家事を終えて、家で夕飯を食べた後に集まってくる」ということで、夕暮れどきに出くわすことが確かに多いですが、実際には昼間から楽しんでいるグループもよく見かけます。
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広場には、1938年に満州国の軍隊に抵抗して追い詰められ、牡丹江に身を投じたとされる若い女性たちの像(八女投江記念像)が立っています。その先には、牡丹江がのどかに流れています。
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こちらは同じく黒龍江省綏芬河の広場です。ここはロシアとの国境のまちで、ロシア語の看板があふれています。特注でコスプレ風の衣装を揃えているように、かなり気合が入っています。どのグループにもリーダーがいて、音楽の選曲はもちろん、自ら習得したダンスをみんなに教えるそうです。全国各地にカリスマ的な師匠がいて、たいていどのリーダーもその師匠に踊りを習いに行き、ひととおりマスターしたら、地元に戻って仲間に教えるといいます。各地でコンクールもあって、みんなで精進し合うようです。いってみれば、中国おばさん版「ダンス甲子園」のような世界なのです。
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暇に飽かせて撮った動画もこのさい載せてしまいましょう。

黒龍江省牡丹江 江浜公園の広場舞(2014.7)
http://youtu.be/FdnhLssfSIc

黒龍江省綏芬河 中心広場の広場舞 昼間(2014.7)
http://youtu.be/alQOh-8AUvw

黒龍江省綏芬河 中心広場の広場舞 夕方(2014.7)
http://youtu.be/FDF6nLVH2Cs

それにしても、この朝日の記事、反日姿勢を隠さなくなったいまの中国(の為政者といっておきましょう)を好意的に見ることが難しくなった昨今、中国の民間事情を理解するネタとして繰り出された苦肉の策のはずだった、という気がしないでもありません。中国に駐在している者なら誰でも知っているであろう広場舞を、いつか記事にしたいと考えていたのでしょうけれど、そんなほのぼのしたネタでは東京のデスクに取り上げてもらえそうもない。

ところが、このところ各地で「近隣とのトラブル多発」し、「社会問題」が顕在化してきた。「おばさんたちが踊っている最中に何者かによってパチンコ玉を撃ち込まれた」り、「北京では2013年8月、苦情を聞き入れられなかった56歳の住民が激怒。不法所持していた猟銃を持ち出して空に向かって威嚇射撃した上、踊っている人たちに向かって飼っていたチベット犬を放ち、刑事事件に発展」という、何やら物騒な話になってきたことで、この記事はようやく取り上げられるに至ったのではないか。

海外の3面記事にすぎないネタを日本の全国紙の「国際版」で取り上げるには、それ相応の理由が求められるのでしょう。同紙は「広場舞」問題の背景として中国の大学教授の以下のコメントを採りあげ、こう解説しています。

「広場舞のグループと周辺住民の対立の背景には、急速な都市化のひずみがある。中国では、都市部の住宅問題は解消しつつあるが、公共スペースが圧倒的に不足している。みんなで余暇を楽しむことも必要なのに、開発業者が町づくりを主導する現状では、住宅以外は商業施設しかない状態だ。住民は広場や公園に行ってダンスや歌を楽しむしかない。

双方で話し合い、音量を絞ったり、時間を限ったりという取り決めをすることもある程度は有効だが、根本的な解決にはならない。政府が都市計画の中で、みんなでサークル活動を楽しめる公共の場所を設けていくことが必要だ。こうした場所がない既存のコミュニティーでも、政府が一定のスペースを買い取って住民に提供する方法もある。

いきなり罰金を科すようなやり方は解決にはつながらないだろう。庶民にだって自由に歌ったり、踊ったりする権利はある。強制的な手段は、そういう場所を提供し、ふさわしい規則を設けた上で実施すべきだ」(「急速な都市化のひずみ 背景」中国人民大学公共管理学院 楊宏山教授(公共政策))

まあそりゃそういうもんでしょうけれど、これではよくある紋切り型の現代中国批評にすぎない気がします。確かに、日本であれば、この世代のおばさんたちは近所のジムに通ってエアロビクスをやっていることでしょう。一方、中国では庶民が手ごろな料金で利用できるジムなどの施設が普及していない。あるとしても、その手の施設は日本よりはるかに高額な会員制しかない。だから、「政府が一定のスペースを買い取って住民に提供」すべき、というような話になるのかもしれません。でも、「ひずみ」だなんていまさらそんなこと、これに限らず社会のあらゆる面で見られるのが中国です。

ぼくはダンスおばさん軍団を横目で見ながら、心の中でこうつぶやいていました。「なんでみんな踊りたいのだろう? きっと太極拳は古臭くてやりたくなかったんだな。やっぱりみんなが見ている広場で踊るんだから、おしゃれもしたいんじゃないかな…」。

いまでも中国では早朝に太極拳を楽しむおじいさん、おばあさんの姿を見かけますが、すでに広場の主役はダンスおばさんです。広場をめぐる世代交代はほぼ完了しているのです。

なにしろこの世代、中国の年代別人口構成の最大ボリュームゾーン。幼少期から青年期にかけては文化大革命のさなかで、社会主義と改革開放30年を生きてきた人たちです。紅衛兵世代といってもいい年代も含まれています。

また一方で、ダンスおばさんたちを見ていると、安い団体ツアーで日本にやって来る、あの“爆買い”中国人に似ているように思えてきます。実際、この世代の誰でも日本に来られるわけではありませんが、訪日団体客のメイン層であることは確か。

広場舞は、海外旅行に出かけられるほど豊かになった改革開放後の30年を生きてきた中国人にとって自分たちの人生とは何だったのか、という問いを改めて考えるうえで格好の題材のように思います。

この点について、中国でどのような議論がなされているのか、百度などで検索してみるのですが、基本的にネット世代をメインの読者とするせいか、もうひとつよくわかりません。いっそのこと、「ダンスおばさん100人に聞きました」的なインタビューを試みてみるのも面白いかもしれません。この30年間、彼女たちは何を考え、どう生きてきたのか。それぞれの個人ヒストリーを聞いたら、何を語り出すのでしょうか。こういうアプローチは、まさに中国のドキュメンタリー映像作家たちの得意とするところでしょう。

リアルチャイナ:中国独立映画
http://inbound.exblog.jp/i29/

少なくとも、前述の朝日の記事のように、大学の先生が上から目線で「庶民の権利」や政府の役割を論じている限りでは、中国庶民の実像には迫れないように思われます。中国が深刻な問題を抱えていないのでなければ納得しないというような姿勢、あるいは書きぶり。まあ気持ちはわからないではないですが、中国の市井の人たちがいま自分たちの人生や社会をどう認識しているのか。それが肯定であれ否定であれ、その心情をじっくり探ってみることは今日の中国理解にとって重要だと思います。

それに、この広場舞、ダンスおばさんに代わる世代交代も始まろうとしています。

彼女たちの子ども世代の「広場舞」はこうです。これも場所は牡丹江。中国の片田舎ですが、明らかにダンスおばさんとは目指すもの、ダンスに賭ける思いは違うようです。

中国「四線」級地方都市の夏の風物詩、広場に繰り出す若者たち(黒龍江省牡丹江市)
http://inbound.exblog.jp/23931622/

そもそも中国のおばさんや若者は、なぜ広場で踊るのか? どんな欲望にかられ、何を表現しようとしているのか? 彼女らのダンスに込められている何かは、いまの中国の庶民の内面が映し出されているに違いないという意味で、広場舞は研究に値する現象だと思います。

「社会問題」化されているという中国のおばさんたちのささやかな楽しみが今後どうなっていくのか。いつか彼女たちに話を聞いてみたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-03-17 10:43 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2015年 03月 17日

今年もまた桜のシーズンがやって来ます(ツアーバス路駐台数調査 2015年3月)

3月になり、中国のツアーバスは途切れずやって来ています。このままいくと桜のシーズンにはどういう騒ぎになるのか…。ただ最近では都内のホテルは客室稼働率の上昇とそれにともなう料金アップで、中国の安い団体ツアーは千葉や埼玉、はては茨城のホテルを利用しているそうです。だからといって都心に立ち寄って買い物や食事をするのは変わらないので、大変なバスラッシュになることも予測されます。今年の東京の桜の開花は少し早いようなので、ちゃんと桜を見て帰れるといいのですが。
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ところで、先日歌舞伎町の前を通ったら、4月下旬に開業するホテルグレイスリー新宿のゴジラが顔見せしてました。近くで見ると、おもしろいです。
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ホテルグレイスリー新宿 http://gracery.com/shinjuku/

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた御苑大通り新宿5丁目付近におけるアジアインバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(日)未確認
2日(月)12:50 4台
3日(火)17:40 2台
4日(水)11:40 6台
5日(木)未確認
6日(金)19:30 2台
7日(土)15:30 2台
※この日は歌舞伎町のドラッグストアを覗いてみました。「ダイコクドラッグ」です。外国客の利用が多いようで、ここでは免税専門のカウンターも設けています。
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店の表には売れ筋の商品が並んでいます。おなじみのキットカットの抹茶味や「休足時間」もありました。とにかく最近では、都心のドラッグストアは外国人だらけで我々日本人はひいてしまいます。そんなに列をなして並ぶなら、地元のマツキヨで買えばいいや、とあきらめるほかありません。
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8日(日)未確認
9日(月)18:20 3台
10日(火)17:50 2台
11日(水)19:20 2台 
12日(木)18:20 2台
13日(金)未確認
14日(土)未確認
15日(日)未確認
16日(月)11:40 5台、18:20 2台
17日(火)12:10 4台
※この日は陽気に恵まれ、「味仙荘」の前でバスに乗り込むのを待つ中国客の皆さんもコートを脱ぎ、気持ちよさそうに過ごしていました。
18:30 4台
※たまたま信号で中国客と一緒になったので、どちらから来たの?と尋ねると、江蘇省の揚州の人たちでした。
18日(水)12:50 4台、17:20 2台
19日(木)18:10 4台
20日(金)13:20 3台
21日(土)未確認
22日(日)未確認
23日(月)17:30 3台
24日(火)18:50 2台
25日(水)16:40 2台
26日(木)13:20 3台
27日(金)16:20 2台
※この日たまたま「味仙荘」から出てきた中国客の女性二人と信号待ちになったので、聞くと江蘇省の人たちでした。最近は上海の周辺の人たちが多いですね。おそらく上海市民は個人旅行化が進み、団体客は周辺に広がっているのではないかと思われます。「昨日くらいから東京で桜が咲き始めました」とぼくが言うと「私も見た」と言ってました。「まだちょっとだけど、来週はたくさん咲くでしょう。まだ日本にいるの?」「明日帰ります」「じゃあ来年またね」「はーい」。実際のところ、開花にぴったり合うツアーばかりじゃないのでしょうが、外国人はちょっとの桜でも意外に満足してくれるそうです。そう通訳案内士の人が言ってました。

28日(土)未確認
29日(日)12:00 6台
※この日は用事があって仕事場に来たのですが、バスがずいぶんたくさん来ていました。花園神社は桜が咲いていました。境内にはずいぶん多くの外国人が来ていました。参道を抜け、靖国通りに出たら、中国の団体客がいて、彼らのうち何人かは炊飯器を手にしていました。やっぱり買うんですねえ。
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30日(月)19:10 6台
31日(火)12:50 7台
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by sanyo-kansatu | 2015-03-17 10:33 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)