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2017年 04月 26日

中国少数民族の「悲しくてやりきれない」物語の後日談(顧桃監督『最後のハンダハン』)

先週土曜日に立教大学で中国の独立系映画の顧桃監督作品『最後のハンダハン』の上映会がありました。

この作品は山形国際ドキュメンタリー映画際や中国インディペンデント映画祭などですでに上映されています。

「ハンダハンは、中国・東北地方、大興安嶺(ダーシンアンリン)山脈最大の鹿で、力強く威厳があるが、次第に生息地がなくなりつつある。当地に住むエヴェンキ族は定住を余儀なくされ、ハンダハンとあだ名される維如(ウェイジャ)も狩りが思うようにできず、消えゆくエヴェンキ文化を語りながら、飲んだくれるしかない。ガールフレンドと一緒に南の都会に住んでも、結局酒がやめられずに帰ってくる。『オルグヤ、オルグヤ…』、『雨果(ユィグォ)の休暇』と、エヴェンキの人々を撮り続けてきた顧桃監督3部作の最終章」(同映画祭ウエブサイトによる解説)。

最後のハンダハン/罕达犴/The Last Moose of Aoluguya(中国/2013)
http://www.yidff.jp/2013/cat041/13c062.html

エヴェンキ族というのは、もともとツングース系の狩猟民族で、ロシア・シベリアと中国東北部の大興安嶺山脈周辺(内蒙古自治区エヴェンキ族自治旗や黒龍江省)に居住している少数民族です。生業は狩猟とトナカイの放牧で、白樺の木を何本も組んで円錐形にした天幕式住居が伝統的な住まいでした。戦前の京都大学の今西錦司を隊長とする大興安嶺探検隊の舞台といえば、おわかりになる人がいるかもしれません。

ところが、これは中国に限った話ではありませんが、彼らは政府によって定住生活を強いられています。顧桃監督が最初にこのテーマを扱った作品『オルグヤ、オルグヤ…』(2007)によると、主人公たちが住む中国内蒙古自治区の敖魯古雅(オルグヤ)周辺では、2003年から定住化が進められたそうです。政府は彼らのために現代的な住居を用意しているのですが、放牧民の血が騒ぐのか、アルコール中毒になって命を落としたり、かつて暮らした森の野営地に戻ろうとする者が現れます。

この作品は、前述の『オルグヤ、オルグヤ…』(2007)、2作目の『雨果の休暇』(2011)に続く、エヴェンキ族の人たちの煩悶の日々を記録した作品群の後日談ともいえる3作目です。その意味では、できれば前2作を観たうえでこの作品を観ることをおすすめします。

多くの中国独立系ドキュメンタリー作品と同様、この作品も、まるで撮影者がその場にいないかのように、彼らの生活と喜怒哀楽と葛藤と嘆きのことばを延々と長回しのカメラで撮り、その一部を編集するというスタイルを取っています。また中国の辺境に住む狩猟民の文化や政治的環境を大半の観客は知らないことから、主人公たちが置かれた状況や言動の意味について正確に理解することは簡単ではないと思うからです。

幸いなことに、『オルグヤ、オルグヤ…』については、講談社からDVDが発売されていますし、その他2作については、香港のテレビ局で放映されたものをYOU TUBE上で観ることができます。

『敖魯古雅(オルグヤ、オルグヤ)』
現代中国独立電影 最新非政府系中国映画ドキュメンタリー&フィクションの世界(書籍+DVD3枚)中山大樹著(講談社)
https://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=4062182676&bookType=jp

『雨果の休暇(雨果的假期)』 https://www.youtube.com/watch?v=zu03bEJo_kA
『最後のハンダハン(猂達罕)』 https://www.youtube.com/watch?v=8L9TbT_ZItg
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上映会後のディスカッションでは、顧桃監督がなぜ少数民族をテーマに撮り続けているのか。また彼が最近、仲間と始めた独立系映画の映画祭「内蒙古青年電影周」の話などを聞くことができました。

2016 IMFW 首屆內蒙古青年電影周
https://kknews.cc/entertainment/5n3jr6.html

もともと絵画を勉強していた彼は、最初から「独立映画」を撮ろうなどという考えはなかったそうですが、今回開陳されたエピソードは、自身も満洲族である彼が、少数民族をテーマにドキュメンタリー作品を撮ることになった理由がよくわかるものでした。もともと彼の父親がエヴェンキ族の暮らしを長く取材し、その記録を1980年代に本にまとめていたからです(書名は『猎民生活日記』)。そのとき父親が撮っていた写真をもとに彼はスケッチを描いていたそうです。
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こうした話をふまえると、『最後のハンダハン』に関する以下の監督のことばの真意も理解できます。

「2005年、私は故郷のオロチョンから500キロほど離れた場所に住む、エヴェンキ族の人々を題材にドキュメンタリーを撮り始めた。それは私の父・顧徳清(グー・ドゥーチン)から大きな影響を受けていたためである。父は70年代から写真と文章で北方の少数民族の生活ぶりを記録しており、彼の勇気と辛抱強さに私はずっと励まされてきた。

私は6年の年月をかけ、『オルグヤ、オルグヤ…』(2007)と『雨果(ユィグォ)の休暇』(2011)というオルグヤに暮らすエヴェンキ族についての作品を2本完成させたが、その間に維如(ウェイジャ)のこともたくさん撮影していた。力強さとともに多くの悲しみを抱えた彼の姿は、森に残された孤独な一頭のハンダハンのように見えた。

今から2年前、維如は恋愛をし、三亜にいる夏(シア)先生のために森を離れ、北緯52度のオルグヤから北緯18度の海南島へ移り住んだ。彼に会うために三亜へ行った私は、そのときブログに「森の最後のハンダハンは熱帯雨林に困惑し、吼える力もなく、ただ鳴くばかりだ」と記した。ヤシの木柄の、気取った海南島の服を着た維如がビーチで日光浴をする姿に私は違和感を覚えたが、彼の幸福を邪魔する権利があるでもなし、ただ彼自身が将来を選択するのを見守るしかなかった」(山形国際ドキュメンタリー映画祭ウエブサイトによる解説)。

ディスカッションの最後には、作品にも出てくるエヴェンキ族の口琴を監督が演奏してくれ、和やかにイベントは終わりました。

ただし、ちょっぴり不満もありました。これは文句でも批判でもありませんが、ディスカッションで話された内容の多くが、この種の映画祭が次々に当局によって閉鎖されるなど、中国の独立映画の置かれた厳しい状況、ゆえに日本はもっと彼らを応援すべきであるというような、ある意味「教育的」な話に偏っていたように思えたからです。

個人的には、もっと顧桃監督の作品の世界そのもの、エヴェンキ族と彼らの置かれた状況に対する理解を深めるような話を聞きたかったです。

たとえば、森で暮らすエヴェンキ族とトナカイの関係について。彼らがトナカイを放牧しながら、食肉やミルクはどうしているのか。『オルグヤ、オルグヤ…』の中には、仕留めたばかりの野うさぎを切り刻み、食肉にするシーンや包子(肉まん)を食べるシーンがありますが、この肉はトナカイなんだろうか、など。彼らの食文化についてもっと話を聞いてみたかったです。

今回気になって調べたのですが、この作品のタイトルであるハンダハンはヘラジカ(elkあるいはmoose)のことで、作品内によく出てくるトナカイ(reindeer)とは別の生き物です。どこ違うかというと、ヘラジカの文字通りヘラのような平たい角が横に広がって生えているのに対し、トナカイの角は縦に長く伸びるそうです。この地域にはどちらも棲息していたそうですが、特にヘラジカは密猟によって数が少なくなっています。エヴェンキ族にとって両者の違いはどう理解されているのでしょうか。

もうひとつは、中国における少数民族に対する現地の人たちの見方について。この問題はどの立場からみるかによって見方が変わるものだと思いますが、漢族ではなく、満洲族である顧桃監督からみてエヴェンキ族とはどのような存在なのか。個人レベルでは父親の影響から親しみのある存在であったことはわかりますが、一般の中国社会における少数民族同士の関係についてはどうなのか。

主人公のウェイジャはかつての放牧の暮らしを絵を描いていて、それが縁で惹かれた女性と一緒に海南島に旅立つことになったのですが、彼の描く絵に対して顧桃監督はどう感じているのだろうか。技術うんぬんというより、少数民族自身が描く絵画の美術的価値、あるいは社会的価値をどう考えているのか。

なぜこんなことが知りたいと思うかというと、これは偶然のことですが、昨年7月ぼくはこの作品の舞台である中国内蒙古自治区の大興安嶺を訪ねていたからでした。

この地域はエヴェンキ族に限らず、多くの少数民族が入り乱れるようにして居住しています。ぼく自身は、別の関心からこの地を訪ねていたので、エヴェンキ族が居住する地域には直接足を運んでいませんが、彼らに限らず、多くの遊牧と放牧の民が定住生活を強いられていたのです。集落ごとにひと目で居住民族がわかるように、政府が建てた家の壁の一部は赤やブルーなどに塗り分けられていました。

その一方で進められていたのは、国家レベルでの森と草原の産業化であり、観光化でした。近年、中国政府は国内の辺境地域の観光振興に力を入れています。産業の乏しい辺境地の地域振興としては、国際的にみても普通のことではありますが、顧桃監督作品を観ることで、その意味を考えさせられます。

もともとこの地域は1年の大半は雪に覆われ、零下40度以下になる厳寒の地ですが、近年では6月から8月までの夏の約3ヵ月間、北京や上海などから多くの観光客が訪れるようになっています。メインの目的は内蒙古の草原観光ですが、もうひとつのハイライトが、根河という町にあるエヴェンキ族の文化村とトナカイ牧場を訪ねることです。

実は、この根河こそ、顧桃監督作品に出てくる「敖魯古雅(オルグヤ)」の中国名といえます。YOU TUBEで探すと、根河のエヴェンキ民族村とトナカイ牧場を訪ねた中国人観光客の姿を撮った映像がいくつも見つかるでしょう。

2014內蒙根河敖魯古雅博物館&使鹿部落 https://www.youtube.com/watch?v=SFnX5uFNuRU
2014中華新聞記者協會參觀敖魯古雅鄂溫克使鹿部落景區 https://www.youtube.com/watch?v=yU0mgWuWatw
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根河を訪れた北京や上海からの観光客は、フルンボイル市にあるハイラル空港で民族村を紹介する、いかにも通俗的な観光PR広告を目にすることになります。「馴鹿」はトナカイのことです。エヴェンキ族の住居と老人の写真に「森の町、トナカイの里、保養の地」というコピーが謳われています。こうした観光化は2000年代後半から徐々に進められてきました。これは、まさにマスツーリズムにフロンティアが組み込まれていくプロセスといえます。つまり、顧桃監督が描いたエヴェンキ族の「悲しくてやりきれない」物語の進行と同じとき、彼らの周辺ではこうしたことが起きていたのです。
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これを知ってしまった以上、前述したように、いろいろ気になることが出てきます。日本人であるぼくは、同じ国家に属してはいないとはいえ、北京や上海からこの地を訪れる漢族をメインにした中国人にきわめて近い立場にあると思います。その限界をふまえたうえで、エヴェンキ族について何か考えられることがあるとすれば、せめていま現地につくられた文化村の展示品を観ることだけには終わらせず、彼らについてもっと知りたいという気持ちになるのです。

でも、きっとこれから先、なにかの縁で、顧桃監督からそんな話を聞く機会もあるだろうと思いました。一度にすべてを聞き出そうとするのは欲張りというものです。自分で調べられることはいろいろあるからです。

今回の上映会の後、しばらくぶりに『オルグヤ、オルグヤ…』や『雨果の休暇』を観たのですが、ウェイジャが何度も繰り返すように語る次のことばにあらためて無常を感じざるを得ませんでした。

「俺たちの世代で狩猟文化が消えていく。残念なことだよ」
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by sanyo-kansatu | 2017-04-26 12:28 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)
2017年 04月 25日

中国からの北朝鮮旅行は中止になっていないようです

先週、ある韓国メディアは以下のニュースを報じました。

中国旅行社 北朝鮮観光を全面中止(韓国聨合ニュース2017/04/16)
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2017/04/16/0200000000AJP20170416000900882.HTML

トランプ米大統領が北朝鮮の核開発阻止に向け軍事的圧力を強めたことで朝鮮半島の緊張が高まる中、中国の旅行会社が北朝鮮への観光をすべて中止した。香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが16日、伝えた。

同紙は国有最大手の中国国際旅行社(CITS)などの多くの旅行会社が北朝鮮への観光を中止したと報じた。

中国で唯一北朝鮮便を運営している中国国際航空も17日から北京と北朝鮮の首都・平壌を結ぶ便の運航を停止する。

中国は北朝鮮の同盟国だが、米国の圧力や朝鮮半島での緊張の高まりもあり、北朝鮮の核実験やミサイル発射に反対している。今回の観光の中止は北朝鮮に圧力をかける意図があるとみられる。

中国は故金日成(キム・イルソン)主席の生誕105年(太陽節)に合わせ、15日に平壌で行われた大規模な軍事パレード(閲兵式)にも政府高官を派遣しなかった。


中国国際航空の北京・平壌線の一時的な運航休止もすでに伝えられ、FNNは「停止の直接の理由は明らかにされていないが、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する中国の圧力の可能性もある」と述べています。ただし、北朝鮮の高麗航空は運航を続けています。

中国国際航空が平壌線休止(FNN2017/4/15)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00355424.html

はたしてこの韓国メディアの報道は本当なのでしょうか。

地理的に北朝鮮に近く、朝鮮族も暮らし、これまで多くの旅行者を送ってきた中国東北三省の旅行関係者に以下の質問をぶつけたところ、次のような回答がありました。

「御社や同じ市内の旅行会社は、北朝鮮ツアーを中止していますか?」

◆丹東(遼寧省。中朝国境の町。3月下旬から平壌線のチャーター便を週2便で運航)

北の高麗航空、平壌-中国・丹東の定期便を運航(産経ニュース2017.3.29 )
http://www.sankei.com/world/news/170329/wor1703290022-n1.html

「朝鮮旅行中止という知らせは、丹東ではまだ受け取っていません。丹東の各旅行会社はいまも通常通り朝鮮旅行を手配してます。現在週2便(火・金)の平壌線については、定期便ではなく、試験的にチャーター便を飛ばしているだけなので、いつまで続くかはわかりません」

※ちなみに韓国聨合ニュースは「同チャーター便は5月いっぱいで終了する見通し」と報じているそう。

◆瀋陽(遼寧省。北朝鮮領事館があり、瀋陽・平壌線が運航中)

「確かに北京・平壌便は中止しましたが、政府からの命令ではないと聞きました。あくまで乗客が少ないことが理由とのことです。中国国際航空に問い合わせたところ、5月5日には運航を再開するらしいです。

なお、弊社では北朝鮮旅行をやってないのでよくわかりませんが、4月11日までは他の旅行会社はまだ募集しているようでした」

中国、閉鎖したエアチャイナの平壌運航を来月再開(中央日報日本語版 4/25)
http://japanese.joins.com/article/434/228434.html

◆ハルビン(黒龍江省)

「弊社は扱っていませんが、ハルピンの他の旅行会社ではいまでも北朝鮮旅行を募集をしているようです。特に中止せよという指示はありません。でも、多くのお客様は、いま北朝鮮に行く気にならないでしょう」

◆大連(遼寧省)

「現段階では中国人の北朝鮮ツアーは正常に実施されており、中国政府の北朝鮮渡航に関する発表、通知は何もありません。

ごく一部の旅行会社が北朝鮮旅行の募集を中止したことは事実ですが、記事にある中国国際旅行社が全面中止した事実はなくデマ情報です。

通常より緊張感が増していることは確かですが、言葉による威嚇行動は毎度のことであり、今年も複数回のミサイル発射実験を実行していますが、朝鮮情勢緊迫化を理由に旅行を中止する場合の当社の基準は以下のとおりです。

※朝鮮側から受入中止連絡が来た場合
※中国政府が北朝鮮旅行に関する渡航制限を発令した場合
※実際に軍事攻撃等の有事が起きた場合
※北朝鮮が内部崩壊する可能性が高い場合

現段階では該当するものはなく、通常通りに旅行申込みを受付けています」

これらはあくまで2017年4月25日現在の情報です。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-25 20:18 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2017年 04月 25日

「澤の屋」に次ぐ都内人気旅館の支配人が語る民泊被害とこれからの宿経営

駅前で偶然見かけた外国人旅行者が縁で、豊島区椎名町のユニークなゲストハウス兼カフェ「シーナと一平」を訪ねた話を前回書きましたが、今度はそこで聞いた「トリップアドバイザーの都内の旅館人気ランキングで老舗の澤の屋に次ぐ2位」という宿をその足で訪ねることになりました。

立ち食いうどん屋の外国人と豊島区椎名町のインバウンドの話
http://inbound.exblog.jp/26812925/

ところで、豊島区椎名町駅周辺は一見なんの変哲もない住宅街ですが、かつて「池袋モンパルナス」と呼ばれたアート関係者が多く住む町でした。豊島区のHPによると「1930年代、豊島区西部旧長崎町を中心に、絵や彫刻を勉強する学生向けにアトリエ付借家群が生まれました。これは、アトリエ村と呼ばれています」とのこと。
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池袋モンパルナス
http://www.city.toshima.lg.jp/brand/montparnasse/index.html

学生時代にある講義を受けて親しくなった先生が椎名町に住んでいて、お宅に呼ばれて食事会をしたことがあったのですが、確かにこの界隈には古い文化住宅がかつては多く残っていました。いまは、実際のところ、区がいうような面影がどれほど残っているかわかりませんが、駅を降りると、東横沿線のような気取った感じのない、温もりのある商店や食堂があって、悪くないんです。

そんな商店街を抜け、静かな住宅街の中にその旅館はあります。「ファミリーイン西向」といいます。

ファミリーイン西向
http://www.familyinnsaiko.com/
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正直なところ、たどりつくのにずいぶん道に迷いました。日本の住所表示は、海外のようなストリート名+番号ではなく、区画(丁・番地)によるため、たとえ規則性があるにせよ、初めてその町を訪れた人にはわかりにくいものです。よくこれで外国人旅行者がここまでたどり着けるものだと思ったほどです。

ようやく見つけたと思ったら、玄関の前に支配人の大野政道さんがいたので、声をかけることにしました。あとで知ったのですが、この旅館にはメディアの人や自分も同じような外国人向け旅館を始めてみたいという人が話を聞きによく訪ねてくるので、いきなり声をかけかれるのは慣れているのだそう。

たとえば、ネットで以下のような記事が見つかりました。

「日本最強のおもてなし」は池袋近郊にあった
無名の小さなホテルが、外国人に大人気のワケ(東洋経済オンライン2015年05月01日)
http://toyokeizai.net/articles/-/68145

家族経営のぬくもり ファミリーイン西向(毎日新聞経済プレミヤ2015年12月24日)
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20151221/biz/00m/010/020000c

ファミリーイン西向を紹介する記事のポイントは、外国人旅行者による口コミサイトのトリップアドバイザーで無名の旅館が人気上位にあることを知り、その秘密を探りにいくというものです。で、その理由は「池袋まで1駅」という立地と「困ったらすぐ助けてくれるサービス」。ん? これが「日本最強のおもてなし」? 単にそういう話ではないんじゃないでしょうか。

これらの記事は、日本を訪れる外国客が1年で600万人以上増えた2015年のものでした。この年、45年ぶりに訪日外国人の数が日本人海外旅行者数を越え、大都市を中心にホテルの客室不足が話題となっていました。

大野さんに客室や共同風呂などを見せてもらった後、少し話を聞きました。

現在、同旅館の客室は14室。すべて和室の畳敷き。平均単価は1名7000円ほど。開業は6年前で、昭和40年代に建てた自宅の改装にあたり、何か新しいことを始めてみようと考えた。椎名町界隈には単身者向けのアパートやマンションが多いので、同じことをやってもつまらないし、何よりかつては自宅の前の通りも商店街だったことから、その雰囲気を残したいという思いが、外国人向け旅館を始めようと思った理由だといいます。日本人相手にこの町で旅館をつくっても仕方がないので、最初から外国人向けをつくるつもりで始めたところ、いきなり東日本大震災にやられたけれど、すぐに外国客は急増したそうです。

大野さんが最近懸念しているのは、椎名町界隈でも急増している民泊だといいます。近所でも、マンションの一室で民泊を始めたオーナーがいるそうで、客足に影響がないとはいえないといいます。豊島区ではまだはっきりした方向性が出されていないのです。

こんなひどいこともあったそうです。Airbnbに同旅館に似た名前をつけて、マンションの一室を民泊として運営しているオーナーが近所に現れたそう。部屋の写真もよく似ていて、日本をよく知らない外国人ならファミリーイン西向と間違えても仕方がないほどだったといいます。大野さんは繰り返しAirbnb側にクレームを入れたところ、ようやく削除されたそうですが、「彼らはこんなやり方を平気でするんだな」と呆れたとか。

「オリンピックまであと3年で投資を手早く回収してしまおうというような考えなんだろうけど、宿泊業はそんなに簡単じゃない」と大野さんはいいます。多くのホテルや旅館関係者が、安易に民泊を始める関係者に批判的になるのも当然でしょう。

だいたい「訪日外国人は東京オリンピックの2020年までは増える」などという俗説が大手を振っているのがおかしな話です。オリンピックはあくまで日本の都合であって、これまで訪日客が増えてきたのは、オリンピックとはまったく関係ない理由からです。その意味では、国際環境などの外的要因によっては、オリンピック前に失速してしまうかもしれませんし、実際のところは、訪日客の動向は、今後もアップダウンはあるものの、基本的にしばらくは増加基調にあることは変わりません。だからといって、政府目標の「2020年までに4000万人」にどれだけ実現性があるのかわかりませんけれど。

2015年当時、客室不足が騒がれた大都市圏の宿泊事情が、昨年夏頃から少し落ち着いてきたという話をよく聞きますが、その理由はズバリ、民泊利用者の急増があると指摘されています。外国人旅行者の中には、安ければ施設はいまいちでもかまわないという人たちは多くいます。訪日客急増とホテル代の高騰で、緊急避難的に民泊に流れた経緯があります。当時、民泊は新しもの好きの流行という面がありました。

その国の住宅事情を反映する日本の民泊のクオリティは、世界的にみると最低ランクの評価であることは否定できません。とにかく日本の物件はワンルームが多く、狭すぎるのです。でも、日本を訪れる外国人観光客のニーズは、むしろ家族や小グループ数名で泊まれる広い物件です。一度目は安さを理由にマンション民泊を選んだカップルたちも、せっかく旅行に来てるのに、こんな部屋で過ごすのはどうなんだろうと思い始めているのです。これから民泊を始めようとする人は、この点をもっと知っておく必要があるでしょう。

実際、こうした低い評価ゆえに民泊離れの動きも出ているようで、まったくインバウンド市場の変化は早すぎるほどです。

これはどんなビジネスでもそうでしょうが、相応のリスクを負い、利用者の声に耳を傾け、不断の品質向上を心がけないようでは、うまくいかないものです。特別に魅力的な物件でもないかぎり、ワンルームマンションの狭い一室を貸し出す家主不在型で民泊など、本来はあり得ない世界だったのです。

バケーションレンタルって何?
http://inbound.exblog.jp/26802073/

だからといって、投資コストを増やすことは簡単ではない以上、できることは、宿泊客が何を望んでいるか、日々接しながら知ろうとする努力でしょう。

フロントの前に数本の国旗があったので、大野さんに尋ねると、「その日、宿泊される方の国旗を歓迎の意味で、置いているんですよ」とのこと。欧米の主要国の人たちはともかく、アフリカや中南米などから来た宿泊客は、大いに感激したそうです。現在、100カ国近い国旗を特注で用意しているとか。
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同旅館の魅力は、このような気取らず、無理のない家族的なサービスにありそうです。そして、椎名町の商店街も魅力でしょう。

ファミリーイン西向では、オリジナルの英語によるこんな周辺地図を用意しています。この地図には、同旅館を訪れる外国人客が知りたい情報がコンパクトにまとめられています。
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同じことは、新宿歌舞伎町にある外国客に人気のデザインホテル「グランベルホテル新宿」でもありました。

自家製地図でわかる外国人ツーリストが知りたいこと(新宿グランベルホテルの例)
http://inbound.exblog.jp/24708078/

ところで、冒頭に書きましたが、この旅館は最寄の駅から10分くらい離れていて、住宅地の中を迷わずたどり着くのが大変だと思われます。にもかかわらず、外国人が訪れるのは、ネットのおかげです。無名であっても、外国客があとを絶たないホテルとしては、台東区池之端にある知る人ぞ知る隠れ家宿のホテルグラフィー根津もそうです。

シェアハウスのホテル化で外客受入に成功=「ゲスト交流型ホテル」とは?
http://inbound.exblog.jp/24596922/

これらの事例をみていると、いまの時代の宿経営のひとつの方向性が見えてくると思います。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-25 12:58 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2017年 04月 25日

立ち食いうどん屋の外国人旅行者と豊島区椎名町のインバウンドの話

先週、ある用で西武池袋線の池袋からひとつめの駅、椎名町を降りたところ、駅前にある一軒の立ち食いうどん屋の前に旅行バッグを背負った外国人旅行者の3人組がいました。つい彼らにつられて店に入ってしまいました。
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椎名町を訪ねるのは数年ぶりのことです。めったに利用することのない駅を降りると、『孤独のグルメ』のゴローさんのように、よさげな飲食店をつい探したくなるものです。その立ち食いうどん屋の「南天」は、ボリュームたっぷりの肉うどん(430円)が名物だそうです。
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店内にはトリップアドバイザーの貼り紙がありました。なんでも豊島区のレストランで3623軒中67位(2017年4月24日現在)なんだそうです。
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南天本店
https://www.tripadvisor.jp/Restaurant_Review-g1066460-d1683449-Reviews-Nanten-Toshima_Tokyo_Tokyo_Prefecture_Kanto.html
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これが肉うどんです。肉の量を2倍にしたダブルは510円、ミニ390円もあります。

店長に聞くと、近所に外国人客が泊まれるゲストハウスがあるそうです。なるほど、だから椎名町のような住宅街に彼らが出没していたわけです。

後日、椎名町にあるというゲストハウスをネットで調べたところ、以下の宿が見つかりました。

シーナと一平(豊島区椎名町のカフェと旅館)
http://sheenaandippei.sakura.ne.jp/

そして、昨日のお昼前、ちょこっと覗きにいきました。場所は、椎名町駅の北口を出て西に向かい、サミット通りという名の商店街を歩いていくと、道沿いにあります。
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そこは「とんかつ一平支店」という古い看板のある建物でした。えっ、ここがゲストハウス? そう思いながら、店の前にいた女性に声をかけると、ずいぶん前に閉店したとんかつ屋だった空き家をリノベーションしてゲストハウス兼カフェとして、昨年3月にオープンさせたのだとか。
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せっかく訪ねたので、カフェでお茶をしながら彼女にさらに話を聞いたところ、このゲストハウスは豊島区の「リノベーションまちづくり」事業の一環で開かれたリノベーションスクールに参加した男性が始めたものでした。

いくつかのメディアがすでにこの宿について紹介していました。

カフェと旅館 一体 シーナタウン、豊島区の空き家活用 (日本経済新聞2016/3/17)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO98515690W6A310C1L83000/

まちづくり会社のシーナタウン(東京・豊島)は18日、豊島区の空き家活用プロジェクトの一環で、カフェと旅館が一体となった施設を開業する。同区内の空き家率は15.8%と23区で最も高く、区は空き家の再生で地域の魅力を高める構想を進めている。今回の施設は同構想から誕生した第1号となる。

同社が開業するのは「シーナと一平」。昨年3月に区が開催した「リノベーション(大規模改修)スクール」で再生を検討した案件だ。使われていなかった住宅併設型の元とんかつ店を用途変更し、1階はカフェ、2階は主に訪日客が対象の旅館とした。

カフェは1時間300円で、ミシンを自由に使える「ミシンカフェ」。「ミシンに親しむシニアと子育て世代をつなぐ目的」(同社)という。

旅館は5部屋あり、2人で宿泊する場合、1万5120円からとする。相部屋式のドミトリーも備えた。

西武池袋線椎名町駅前の商店街に立地する。カフェでは近隣の総菜店で買ったものの持ち込みも可能にする予定で、利用者の商店街内の回遊も狙っている。


他にもいろいろあります。宿泊施設内の写真などはこちらを参照してください。

民間主導のプロジェクトで誕生した「シーナと一平」。まちに溶け込む「お宿と喫茶」を目指す
http://www.homes.co.jp/cont/press/reform/reform_00345/

とんかつ店をカフェと宿にリノベーションしてまちの“世代をつなぐ”
http://suumo.jp/journal/2016/03/18/108036/

豊島区のリノベーションまちづくり構想の詳細は以下を参照してください。都内一といわれる空家率の背景に、豊島区における30代(子育て世代)の流出があることから、いかに子供を育てやすい環境をつくるかという観点で民間と公共の空き家や空き地を利用したまちづくりを進めていこうとするものです。

豊島区リノベーションまちづくり構想
http://www.city.toshima.lg.jp/310/kuse/shisaku/shisaku/kekaku/008446/documents/toshima_renovkousou.pdf

リノベーションスクール@豊島区
https://www.facebook.com/renovationschool.toshimaku/
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こうした理念を掲げた取り組みが、当の外国人旅行者にどう受けとめられるかは別の話ですが、昭和の古い飲食店をリノベーションして生まれた空間はとてもユニークで、心地よいものです。

靴を脱いで上がるちゃぶ台が置かれたスペースがカフェで、利用代300円の内訳は、お賽銭箱に200円と飲み物代100円。コーヒーやソフトドリンクなど、セルフサービスとなっています。
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柱を背もたれにして、足を伸ばしてアイスコーヒーをいただいていると、近所のママさんが小さなお子さん連れで現れました。なんでも以前は昼間はただのカフェスペースだった1階は、今後近所の商店街のおばさんたちが先生になって洋裁や編み物、料理などを教えてくれる教室になるそうです。
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その名も「長崎二丁目家庭教室」。(月~木のみ。金~日は以前のとおりセルフカフェ)。教室の運営を担当する地元在住、二児の母である藤岡聡子さんにいただいたチラシによると「まちの誰もが暮らしの先生。家庭科に通ずる暮らしの知恵を学んだり、まちなかの福祉についてしることができます」と書かれていました。
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もともと外国人向けのゲストハウスとして立ち上げた「シーナと一平」でしたが、地元に密着したもうひとつの顔があることを知り、なるほどと思いました。
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確かに、椎名町は池袋に近い徒歩圏内でありながら、昔ながらの商店街が(以前に比べると縮小しているのですが)いまだに残っている町です。外食チェーンは駅前にはありますが、個人経営の個性豊かな食堂がまだたくさんありました。外国人観光客にすれば、商店街で焼き鳥を買って、カフェスペースでビールを飲んだりできる。こういうのが、本当は日本らしい町の楽しみ方なのかもしれません。

実は、藤岡さんに椎名町にあるもう一軒の、しかも都内で外国人にダントツ人気の旅館(トリップアドバイザーの都内の旅館人気ランキングで老舗の澤の屋に次ぐ2位だそう)があることを教えてもらったので、その足で訪ねてみることにしました。

その話はまた今度。

「澤の屋」に次ぐ都内人気旅館の支配人が語る民泊被害とこれからの宿経営
http://inbound.exblog.jp/26813108/
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by sanyo-kansatu | 2017-04-25 11:18 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2017年 04月 24日

「おいしい生活」は誰のもの? PARCOの前をベビーカーで歩くアジアからの観光客

昨日の夕方、池袋駅に向かって歩いていたら、双子の赤ん坊を乗せたベビーカーを押して歩くアジア系のファミリー旅行者の姿を見かけました。
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いまどき、特に珍しい光景でもないのですが、それがPARCOの前だったので、ふといろんなことを思い出してしまいました。

PARCOといえば、1980年代初頭、コピーライターの糸井重里さんの「おいしい生活」なる広告文に過剰なまでの意味が込められ、話題となった象徴的なスポットです。

糸井重里「おいしい生活」☆1980年代、西武池袋本店
https://middle-edge.jp/articles/lmVTC

当時は日本がバブル経済に向かう助走期のような時代でした。個人的には、この種の騒ぎを不機嫌かつ冷ややかにみつめていた自分ですが、それから30年以上たち、アジアから来た観光客が同じ場所で「おいしい生活」を満喫する光景を見かけることになるとは、さすがに思ってもいませんでした。そのことに気づき始めたのは、せいぜい21世紀に入ったばかりの頃です。

「おいしい生活」は、富裕層や特権階層ではなく、いわゆる一般「大衆」からなる社会が「総中流化」したとの「幻想」に多くの人が浸れる時代の到来を意味していたはずです。今日の中国やアジアの国々が、1980年代当時の日本ほど「総中流化」しているとは思えませんが、国単位でみたGDP比率は大きく変わり、アジアの国々でも、そこそこの割合の人たちが「中流化」し、アジアの近隣諸国だけでなく、日本へ海外旅行ができるようになったことは確かです。

彼らが大挙して日本に旅行に来てくれるという程度のことで、今後急ピッチで高齢化が進む日本社会の地盤沈下を押しとどめるには至らないのかもしれませんが、だからといて指をくわえているだけなんて。これを活かさない手はありません。そんな彼らの存在とその意味を考えることは、当ブログの一貫した関心事です。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-24 16:31 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2017年 04月 24日

万景峰号によるロ朝新航路とウラジオストクで増加する北朝鮮人の事情

国際社会の制裁強化やトランプ政権の対北政策で朝鮮半島が揺れるなか、先週こんなニュースが報じられています。
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ロシア、北朝鮮に新航路=万景峰号使い来月から(時事通信2017.4.20)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017042001014&g=prk
ロシア、北朝鮮間に新航路 月6回定期便 米けん制を狙う(東京新聞2017.4.20)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201704/CK2017042002000118.html

【モスクワ=栗田晃】ロシア極東のウラジオストクと、北朝鮮北東部の羅先(ラソン)特別市を結ぶ定期の貨客船が五月中旬に就航することが分かった。ロシア通信が十九日伝えた。旅客を乗せた両国間の定期航路は初めてという。核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対し、米国などが軍事的、経済的な圧力を強める中、ロシアによるけん制の意味合いもあるとみられる。

ロシアの運航会社「インベスト・ストロイ・トレスト」のバラノフ社長によると、対北朝鮮制裁で日本への入港が禁じられた貨客船「万景峰(マンギョンボン)号」を利用し、月六便を運航。ロシア、北朝鮮による石炭関連共同事業などのビジネス利用のほか、ロシアの沿海州で働く北朝鮮労働者や、ロシア人、中国人観光客の輸送も目的としているという。

バラノフ氏は「これまでは運賃の高い航空機か、混雑した電車しか行き来できなかった。船は夜間八~十時間で移動でき、とても便利になる」としている。

米トランプ政権による北朝鮮への軍事的な圧力に対し、ロシアのプーチン政権は「武力行使の警告はリスクが高い道で、国際法違反だ」(ラブロフ外相)と対話路線を主張する。定期船の就航は従来通りの経済的な関係を保って欧米と一線を画し、外交で存在感を示す思惑もありそうだ。


TBSでも報じていました。

北朝鮮の貨客船「万景峰号」、ロシアとの定期便に(TBS2017.4.19)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3033076.html
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この報道をみて、ぼくはちょっと違和感を覚えました。それ自体はたいして重要なことではないのでしょうが、万景峰号でウラジオストクから北朝鮮の羅先に行くのに「夜間八~十時間」かかると言っています。でも、そんなに時間がかかるものだろうか、と思ったのです。ウラジオストクから中国経由で羅先に陸路で移動した経験から、両都市間はそれほど離れているとは思えなかったからです。

この点について、この地域に精通した事情通に聞くと「まあそんなものですよ。ウラジオと羅先は130マイルほどですが、一般にコンテナ船は10ノットなので、13時間かかるんです。フェリーなら25ノット程度で、万景峰号はもう少し早いとしても、6時間はかかるのではないか」とのこと。さらに、ある知人は「万景峰号は(波の揺れに対する復元力の指標である)GM値が高いので、波に弱く、そんなにスピードが出ないんですよ」と、どこから仕入れた情報かわかりませんが、おっしゃいます。

なるほど、そういうものかと思うほかなかったのですが、境港から韓国の東海経由でウラジオストクへ向かうDBSクルーズフェリーも、境港を毎週土曜の19時に出港し、翌9時半東海入港。午後2時に出港し、ウラジオストクに入港するのは月曜日の午後2時です。日本海を渡るフェリーというのは、実にのんびりしているのです。

DBSクルーズフェリー
http://www.pref.tottori.lg.jp/116802.htm

むしろ、この報道からうかがえるのは、「ロシア、北朝鮮による石炭関連共同事業などのビジネス利用のほか、ロシアの沿海州で働く北朝鮮労働者や、ロシア人、中国人観光客の輸送も目的」(東京新聞)とあるように、極東ロシアと北朝鮮間の人の移動に関する事情です。ウラジオストク在住の友人に話を聞きました。

-ウラジオストクには北朝鮮の人たちが相当数いるようですね。

「その多くは建設労働者です。しかしここ数ヶ月、なにしているかわからない、つまり建設労働のような力仕事はしないで、ぶらぶらしているような人をよくみかけます。彼らの顔つきをみると、日焼けした様子がないのでわかるんです。彼らは単独行動はせず、常に2~4人でつるんで行動しています。

先日もウラジオストク駅に行ったら、北朝鮮行き(豆満江駅行き)の国際列車の車両は北朝鮮人で満席でした。ウラジオストクにはこんなに北朝鮮人がいたのかと、あらためて思いました。

北朝鮮からの留学生も増えています。彼らは、北朝鮮の富裕層や幹部の子弟で、その多くが甘やかされて育っているようです」

※ちょうど1980年代後半に日本に留学に来た中国共産党幹部の子弟に近い存在なのかもしれません。権威主義体制の国にはこの種の甘やかされた人間がいるもの。いかにも、という気がします。

-どうして彼らはウラジオストクにそんなに多くいるのでしょう。今後増えていきそうですか。

「増えそうな気がします。これはあくまでも個人的な意見ですが、今後も彼らがウラジオストクに出没しそうな理由として以下のことが考えられます。

・昨年、北朝鮮領事館がナホトカからウラジオストクに移ってきたこと。
・ウラジオストクの建築作業員は慢性人不足で、外国人労働者に依存しているが、その中で北朝鮮人が一番真面目で腕もいいというのが地元での評判。極東ロシアにとって貴重な外国人労働者といえること。
・北朝鮮人の行き先として、中国よりも極東ロシアのほうがビザが取りやすそうなこと(中国では脱北者問題もあり、貿易などに従事するビジネスマンを除くと、北朝鮮の労働者は徹底して管理された工場内などでの労働に従事するほかない)。
・ウラジオストクでは、北朝鮮人だという理由で差別を受けることは基本的にない。たまに北朝鮮との文化交流イベントなども開かれるほど。
・(そのせいか)ウラジオストク経済サービス大学の北朝鮮留学生が昨年2倍になり、今年も増えていると聞く(2017年4月現在)」

これは面白い話です。日本では、中朝や中ロの関係については、それなりに報道されますが、ロ朝の関係や人の移動に関するこうした事情は、あまり知られていないのではないでしょうか。

確かにロシア人からみて、中国人よりも朝鮮人のほうがまじめで付き合いやすいと感じるのは理解できなくありません。拉致問題についても、一般のロシア人はほとんど知らないそうです。国家間の関係はともかく、極東ロシアに住む民間人の感覚では、ウズベキスタンなど旧ソ連圏の中央アジアから来た労働者の質が良いとはいえないこともあり、北朝鮮人は「貧しい国から来た、よく働く外国人労働者」という存在としてみなされているのでしょう。

では、極東ロシアから北朝鮮への人の移動はどうなのか。ウラジオストク在住の彼によると「中国に比べるとそんなに多くはないが、旅行やビジネスで北朝鮮に行くロシア人はいる」ようです。

沿海地方に住むロシア人の中国旅行はよく知られています。日用品や衣料雑貨を買いに年に2度くらい中国との国境の町、琿春や綏芬河に行きます。また夏になると、大連あたりまで海水浴に行きます。鞍山にある日本時代につくられた湯崗子温泉が湯治のためのサナトリウムになっていて、ここでもロシア人の姿をよく見かけます。

極東ロシア人の中国旅行~買い出しバスツアーの訪問先は?
http://inbound.exblog.jp/20610573/

走遍中国 珲春俄罗斯人的幸福生活(CCTV4 20140419) ※琿春を訪れるロシア人観光客の中国TV報道
https://www.youtube.com/watch?v=AEkFq23gYDU

一方、北朝鮮へは国境を接している羅先から入ります。ロシアと北朝鮮は直接鉄道で結ばれているので、中国を経由せずに行けるのです。

欧米人の朝鮮旅行は、北京やロンドンにある英国系旅行会社が手配する北京からのフライトで入るものがほとんどなので、ロシア人が羅先から入るというケースは、全体からみると数は多いとはいえません。それでも、彼によると「たいてい10数名の団体客で羅先に数日滞在するか、羅先から平壌まで行き、帰りは平壌・ウラジオストク線のフライトで戻ってくるか、その逆もある」とのこと。ただし、北朝鮮に行くのは、珍しい物好き、比較的富裕層に限られるようです。この種の北朝鮮ファンは、日本でもアメリカでもそうですが、どこの国にもいるものです。
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ぼくは羅先には2012年と14年の2度訪ねており、市内には2軒のロシア料理店もあるなど、中国人ビジネスマン以外にロシア人ビジネスマンもいることを知っていました。また羅先には海水浴場があり、そこは中国人ではなくロシア人向けにつくられていました。

一般に外国人の北朝鮮旅行はどこに行くのも監視員付きで、自由行動はできませんが、貿易特区の羅先に限っては、しかもビジネスがからんだロシア人であれば、比較的自由に行動できるのかもしれません。

ただし、北朝鮮から極東ロシアに向かう人の移動は増える一方、逆の動きは減りつつあるようです。さすがに、北朝鮮の声高な威嚇をともなう核武装で、ロシアも中国同様、危機感が強まりつつあります。

先週は、米軍の北朝鮮包囲に対するロシア軍の動向を伝えるこんな報道もありました。

ロシア軍が北朝鮮に向け装備移動と報道、大統領府はコメント拒否(朝日新聞2017年4月21日)
http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKBN17N0Y2.html

同じように中国軍も中朝国境沿いに集結しているという情報もすでにあります。

中国、北国境の警戒強化…兵士10万人展開か(読売新聞2017.4.24)
http://www.yomiuri.co.jp/world/20170424-OYT1T50159.html

両国ともに、それを表向きは否定しているわけですが、こうした軍の動きがあるのは、この地域ではごく普通のことでしょう。

それはそうなのですが、人口の少ない極東ロシアにおいて、それこそ自由貿易構想の実現に必要とされるインフラ建設のためにも、北朝鮮労働者の存在は欠かせません。中ロは経済的にはまったく逆転していますから、(領土回復を胸に隠し持つ)中国による投資攻勢で極東ロシアをかき回されることに、ロシアは警戒的だと思います。ですから、ロ朝のささやかな新航路開設の話題も、この地域ならではの動静として興味深く思われるのです。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-24 10:23 | ノービザ解禁間近!極東ロシア | Comments(0)
2017年 04月 22日

8月1日からウラジオストクは8日間のノービザ渡航が可能になります

今週、ついにロシア沿海地方へのノービザ渡航の実現に向けた報道がありました。

実際には空港で簡易ビザが発給されるとのことですが、これまでロシアの観光ビザを取得するためには、同国大使館を訪ね、2週間(無料の場合)もかけて手続きしなければならなかったことを考えると、「日本に一番近いヨーロッパ(ウラジオストク)」への旅行がお手軽になったことは確かでしょう。日本人にすれば、そのような手続きを必要とする近隣国は、国交のない北朝鮮以外は存在しなかったからです。
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ウラジオ、8月からビザ簡素化=日本など18カ国対象-ロシア(時事通信2017年04月18日)
http://www.afpbb.com/articles/-/3125423

ロシア極東発展省は17日、ウラジオストクの空港などから極東地域を訪問する外国人の査証(ビザ)取得手続きを8月1日から簡素化すると発表した。日本など18カ国の国民が対象で、極東の経済発展を促すのが狙い。

ビジネスや観光、人道活動が目的で、ロシア外務省のウェブサイトを通じて事前申請すれば、入国の際に最長8日間の滞在が可能な一次ビザが取得できる。ただ、移動可能な地域は制限される。


ずいぶん焦らされたものです。今回に至る経緯としては、2015年9月にロシア・プーチン大統領が、第1回東方経済フォーラムにおいて極東地域、特にウラジオストクの自由貿易構想を発表したことから始まります。そのため、昨年1月にウラジオストクのノービザ化が実現されるとの憶測が流れましたが、実現しませんでした。

その後、ならば2016年7月からでは、という話もありましたが、やはり実現せず、同年9月の第2回東方経済フォーラムの日露首脳会談の際、安倍首相による極東ロシアへの投資や共同インフラ開発とともに、日本からの渡航者を増やす約束をしたことから、ロシア側もそれに応える必要が生じてきたのでしょう。

第2回東方経済フォーラムの際の日露首脳会談
http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/rss/hoppo/page1_000242.html

日本政府は10月には、国内の旅行業者に極東ロシア観光の推進を要請。

旅行業界に「極東ツアー」要請 政府、ロシアとの人的交流を促進(SankeiBiz2016.10.13)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/161013/mca1610130500018-n1.htm

それを受け、観光庁と日本旅行業協会(JATA)は現地視察団を送りました。

観光庁、極東ロシア旅行振興に1000万円-JATAと合同視察団(Travel Vision2016年11月10日)
http://www.travelvision.jp/news/detail.php?id=75179

12月15日~16日には、プーチン大統領が来日し、安倍首相と経済協力分野の交流に合意しました。もっとも北方領土問題は進展しませんでした。

プーチン・ロシア大統領の訪日(2016.12.15-16結果)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/rss/hoppo/page4_002600.html

それでも外務省は、日露双方向の交流人口を増やすために、ここ数年伸び悩んでいる訪日ロシア人のためのビザ発給要件を緩和しました。

外務省、ロシア人のビザ発給要件を緩和、首脳会談受け(Travel Vision2016年12月18日)
http://www.travelvision.jp/news-jpn/detail.php?id=75754

年が明けて、ロシア側も極東地域への渡航の簡素化に向けた法案を通します。

外国人の極東への渡航を簡素化(2017年2月23日 ロシアNOW)
http://jp.rbth.com/travel/2017/02/22/708146

ウラジオストク自由港を訪れる外国人のためにビザを簡素化する法案を、ロシア連邦下院(国家会議)が第3読解で可決した。ロシア連邦極東開発省の広報部が伝えた。

入国の4日前にネットで申請

この新たな措置は、近く上院(連邦会議)でも支持されると、極東開発省は確信している。法案は、プーチン大統領が署名した後で発効することになる。

法案によれば、外国人は電子ビザで極東の5つの地域を訪問することができるようになる。その際、外国人旅行者は、ロシアに入国する予定の日付の4日前に、インターネットの特別なサイトで申請書を提出しなければならない。

極東開発省の伝えるところによると、ビザは無料で、申請した時点から30日間有効。8日間以下の滞在が許可される。

極東の5地域が対象

「ビジネスビザ、観光ビザあるいは人道目的の渡航用のシングルビザが、自由港のある5つの地域――すなわち沿海地方、ハバロフスク地方、サハリン州、チュクチ自治管区、カムチャッカ地方――のいずれに対しても申請できる。上記のロシア連邦領内に、外国人は8日間にわたって滞在することができ、入国した地域の中のみを移動することができる」。下院の国家建設・法律制定委員会のパーヴェル・クラシェニンニコフ委員長はこのように説明した。

法案は、9月6日~7日にウラジオストクで行われる東方経済フォーラムを前に採択された。この新たな措置は、極東への観光客の数を増やし、ビジネスを活性化させることを目的としている。これにより投資家は、この地域を訪問するのが容易になる。


そして、今夏からの日本とウラジオストクの航空路線の増便が決まりました。

今夏から成田・ウラジオストク線が毎日運航になります(これはスゴイ!)
http://inbound.exblog.jp/26742483/

こうしてあとはロシア側がいつ今回の発表をするか待つばかりだったのですが、ようやくその日を迎えたというわけです。

ウラジオストクにある現地の旅行会社に勤める宮本智さんに話を聞きました。

ウラジオ.com(宮本さんの運営するウラジオストク情報サイト)
http://urajio.com/

-ようやくですね。今回の発表、地元の受けとめ方はどうですか。

「今年8月からというのは、9月2日~3日にウラジオストクで開催される東方経済フォーラムにおいてロシア側が日本との合意事項の履行を発表できるように、ある意味強引に間に合わせようとしているのだと思われます。実際のところ、地元側では関心度はそれほど高いとはいえません。いまウラジオストクには中国や(すでに2014年にノービザとなっている)韓国からの観光客が多いため、宿不足の問題があるんです。中クラスのホテルが全く足りません」

-だとしても、さすがに今回は動き出すと考えていいのですね。

「確実に動きだしそうです。ただし、現地関係者によると、最初は入国時のロシア側の入管トラブルが起こりそうなので、事後の対応策に苦心しているとのことでした。以下のような理由があります。

・今回の発表は、省のトップレベルでは8月1日で合意されているが、空港関係者、入管などには情報が伝わっていない。現場はまったく動いていない。
・(ウラジオストク空港で発給される電子ビザを取得するための)サイト上での登録や記述に誤りがあった場合、入国できずそのまま帰国となる可能性が高い。
・法律上では許可された地域しか移動は不可で、当初はウラジオストクのみと想定される。
・日本からウラジオストク(沿海州)へ入り、ウラジオストクから日本に出るというのが許されるのみで、ハバロフスクへ移動したり、中国へ移動したりはできない模様(2017年4月現在)。

ウラジオストクに行くには、空路以外にも、境港からのフェリーもありますし、中国吉林省からバスで行けます。ウラジオストクからシベリヤ鉄道でハバロフスクに行くのもツアーの定番ですし、ノービザにするといろんなバリエーションが考えられるのですが、現状ではロシア側もその対策までは煮詰めていなさそうです。

ロシア側の認識としては、あくまで自由貿易港制度の一貫ということで、観光のためビザ解禁という認識はほぼ皆無です。

こうしたいくつもの懸念はあるけれど、8月1日にはそれが実行されそうだということは間違いなさそうです。

さすがに、現地の旅行会社のロシア従業員には、今回の報道が浸透してきました。地元のメディアでは、先ほど述べたように、日本に対するビザ緩和で宿不足が問題となりそうだと報じています」。

なかなか一筋縄にはいかないようですが、物事は始めてみなければ、動きません。今年の夏を心待ちにしたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-22 13:31 | ノービザ解禁間近!極東ロシア | Comments(0)
2017年 04月 21日

これはマズいぞ! 間違いだらけの外国語表示

外国人向けのパンフレットやポスター、看板、案内表示、手書きのポップ、webサイトに間違いだらけの外国語があふれている。その何が問題なのか。どうすれば解決できるのか。日本に住む外国人やインバウンドの現場の関係者に話を聞いた。


今年のイースター(復活祭)は4月16日。これから初夏にかけて、多くの外国人観光客が日本を訪れる季節を迎える。だが、ちょっと気になる光景がある。外国人向けのパンフレットやポスター、看板、案内表示、手書きのポップ、さらにはwebサイトに間違いだらけの外国語があふれていることだ。たいていの場合、それを知っているのは外国人だけ。日本人の大半は気づいていない。これはかなりマズいことではなかろうか。

中国人に聞く間違いの実例

「爆買い」が収束し、量販店やドラッグストアの店内にうるさいほど貼り出されていた外国語表示も、以前に比べ控えめになっているようだ。むしろ、最近気になるのは、自治体や公共交通など公的機関の外国語表示に間違いが多く見つかることだ。地名を表記するだけならいいのだが、何らかのメッセージをテキスト化した途端、ボロが出てしまう。

筆者は最近、日本に住む中国の友人とおかしな中国語表記をチェックする以下のブログを始めた。

街で見かけた《お恥ずかしい》中国語表示
http://ramei.exblog.jp/

同ブログでは、知り合いの中国人留学生などにも呼びかけて、街で見かけた間違い中国語の写真を送ってもらっている。いくつかの例を紹介しよう。

1:街の看板

これはある留学生が中国から遊びに来た友人を連れて浅草を案内していたとき、見つけたもの。「ようこそ、台東区へ」の中国語が「欢迎悠来台东区!」となっている。一瞬、どこが間違っているのか気がつきにくいが、よくみると、「您(あなた)」と「悠」の誤植が起きているのだ。「悠」は「悠久の大地」の「悠」で、確かに「您」とよく似ているが、中国語の発音は違うため、入力の間違いは考えられない。なぜこんな単純な誤植が起きたのか?
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↑英語、ハングル、中国語簡体字が併記される台東区の案内板だが…

実は、この誤植、他の場所でも何度か目にしたことがある。よくある間違いなのだ。これを見て文句を言う中国人はいないと思うが、区の信用に関わるといったら言いすぎだろうか。

2:トイレの貼り紙

さらに、初歩的な中国語のミスの例。あるトイレにこんな貼り紙があったという。

「谢谢你总是漂亮地使用厕所」

「いつもトイレを綺麗にご利用していただき、ありがとうございます」と言いたいのだが、「綺麗に」の中国語が「漂亮」。これは「美しい」という意味だが、女性やファッションなどに使う。子供でもわかるおかしな使い方に失笑を禁じえないだろう。「清潔に/きれいに」を意味するのは「干净」。正しくは「请干净地使用厕所」だ。
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↑日本では中国人観光客のマナーやトイレの使い方についてさまざまな風評があるため、わざわざトイレの中にこんな注意書きがあると、中国人はあまりいい気分はしないという。

この貼り紙の写真を送ってくれた中国人は「安易に翻訳ソフトを使ったのではないか。どうして中国人の誰かにチェックしてもらわなかったのだろう」と不思議に思ったという。

3:「ながら歩き」ストップキャンペーン

最後は地下鉄にて。東京メトロでは、数年前から携帯の「ながら歩き」ストップキャンペーンを始めている。そのポスターの中国語が、ある中国人の目に留まってしまった。
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↑この中国文には携帯(手机)を指す語がないので、パッと見て何を言っているか意味不明

ここでは「ながら歩きは危険です」の中国語訳が「走路分散注意力是非常危险的」となっている。「走路」(歩く)、「分散注意力」(気を散らす)、「非常危险的」(とても危険です)というそれぞれの表現はともかく、その組み合わせは中国語としてありえないという。もっとシンプルに「走路看手机非常危险的」(携帯を見ながら歩くのはとても危険です)でいいだろう。日本語を厳密に直訳しようとした結果、中国人には何が言いたいのかわかりにくい奇天烈な文章になっているというのだ。

間違った表示が、日本への失望につながりうる!?

こうした間違い外国語表示はいまや全国至るところで散見される。では、その何が問題なのだろうか。

国内の商業施設や観光地における中国向けコミュニケーション環境の調査やアドバイスを行ってきた日中コミュニケーション株式会社の可越さんは以下のようにいう。

「大切なコミュニケーションツールである外国語表示が間違いだらけということは、“おもてなし”を重んじているはずの日本の面目が丸つぶれであるだけでなく、個別の観光地や商業施設にとってのブランドイメージや信用に関わります」。

一般に中国やアジアからの訪日客は「日本の商品は高品質でニセモノがない」」「接客がていねい」「街が清潔である」など、高い期待値を持っている。ところが、間違いだらけの母国語表記を目にした途端、「なんだ、日本もこんなものか」と軽い失望を味わうかもしれないというのだ。

可越さんは、こうした間違い中国語が多くなる理由として以下の4点を挙げている。

1 翻訳ソフトに頼りすぎ
2 (翻訳は)中国人なら誰に任せてもいいという誤解
3 日本人的な発想は外国人には伝わらない(日本語の直訳はNG)
4 外国人は日本のことを知らないという認識の欠如


先ほどのトイレの例でも、実際に某翻訳サイトを使うと

“綺麗に” ⇒ ”漂亮”

と訳されてしまう。現状では翻訳ソフトは完璧ではなく、間違い外国語を量産するサービスと考えたほうがいい。そうである以上、中国人によるチェック態勢が必要だが、中国人なら誰でもいいというのは間違いだ。出身地の方言の影響を受けやすく、世代や学歴によって、その人の使う中国語は大きく違っているからだ。

中国語の文章のクオリティもおざなりにできない。若者やファミリー向けのスポットでは、新しい感覚や遊び心のある表現が求められる一方、高級なブランド店では品格ある落ち着いた文章でなければならない。商品のキャッチコピーも、顧客の対象に合わせて洗練された表現にしなければ、ブランドイメージを悪くするだけだ。おかしな中国語を使うくらいなら、むしろ英語と日本語だけで通したほうがいい。

日本人は表向き礼儀正しいのに、中国語表示になると、急に命令口調になると感じる中国人もいるらしい。たとえば、「銀聯カードが使用可」を中国語に直訳すれば「可以使用银联卡」だが、「欢迎使用银联卡(銀聯カードの利用を歓迎します)」とするだけで、ずいぶん印象が変わる。表現をちょっと変えるだけで、その店の印象が良くなったり、悪くなったりすることもあるのだ。

伝えたいメッセージを、その言語で一から考える

さらに、知っておくべき重要なことがあると可越さんはいう。

「一般に翻訳会社は、用意された日本語の文章を中国語に直訳するよう頼まれることが多いのですが、これが問題をはらんでいます。日本人と中国人の思考回路は違うので、日本語をそのまま直訳するだけでは中国人に意味が伝わらないことが多いからです。日本人的な発想は外国人には伝わらないと知るべきです。ですから、翻訳を頼む場合も直訳はNGで、日本語のニュアンスを忠実に伝えることより、中国人にわかりやすい表現に大胆に変換してもらったほうがいい。翻訳というより、相手に伝えるべきメッセージを中国語で一から考えて書いてもらうようにしてはどうでしょう」。

外国人は日本を知らないという認識の欠如

では、4つ目の、外国人は日本のことを知らないという認識の欠如とはどういうことだろうか。先日、都営地下鉄に乗っていて、こんな広告ポスターを見つけた。

「かつて偉大な漫画家たちが描いた景色が、ここにはあります」(PROJECT TOEI 013 日暮里・舎人ライナー)

というコピーが書かれている。英語やハングルも併記されていて、中国語はこうだ。

「以前那些伟大的漫画家们插绘出来的未来的景色,在这里都可以看到」
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↑「偉大な漫画家」というのは誰? 担当者によると手塚治虫とのこと。鉄腕アトムは中高年以上の中国人ならわりと知っているが、若い中国人はほとんど知らないだろう。

ここでは中国語の文章の問題については触れないが、考えなければならないのは「偉大な漫画家たちが描いた景色」とは何なのか。この文章だけでは、大半の中国人、いや英語を話す人たちも同様に、まったくわからないだろうということだ。それを理解するための手がかりは、高層ビルの合間を抜けるように走る高架電車の1枚の写真だけなのだから。

多言語化の取り組みにおいて、前提としなければならないのは、外国人は日本の社会や文化、歴史の背景をほぼ知らないということだ。その認識に、多くの日本人は気づいていないのではないか。ある日本在住の外国人によると、国内の観光地の外国語の解説の多くが、日本人向けの文章をただ翻訳しただけで、外国人にはまったく伝わっていないという。これは英語やタイ語など、すべての言語について共通している。

これまで挙げた例によって、筆者は誰かの揚げ足を取ったり、貶めようとする意図はない。

外国人たちから、いま日本で見られる多言語化のお寒い現状を指摘されることは残念であり、これをいかに改善できるか、筆者自身がもっと知りたいのである。

外国人によるチェック態勢を構築

では、どうすればこの問題を解決できるのだろうか。

外国客に対する情報発信の場合、日本人にとって当たり前のことでも、一からていねいに説明するという手間が必要で、これを惜しんではいけないということだ。ポイントは、外国人によるチェック態勢をいかに構築するか。前述したとおり、外国人であれば誰でもいいというわけではない。現場の環境や顧客対象、伝えるべき内容や目的を明確にしたうえで、外国語表示を担当する外国人との綿密な打ち合わせが必要だろう。

さらにいえば、外国語表示をどこまで進めるかも再検討し、なにがなんでもやらなければならないという考え方は見直すべきかもしれない。これまでみてきたとおり、中途半端な外国語は逆効果で、イメージダウンをもたらすこともあるからだ。

多言語表示対応が進むビックカメラの取り組み

この点、日々多くの外国客と接している量販店は対応が進んでいる。なかでも多くの外国人スタッフがいるビックカメラの外国語表示には定評がある。たとえば、都内の同店に行くと、商品によって中国語の簡体字と繁体字が使い分けられている。つまり、中国客が好んで買う商品には簡体字、台湾客がよく買う商品は繁体字の説明があるのだ。
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↑外国人スタッフと対応言語のリストが店内に表示される

この点を最初に指摘したのは、台湾の日本薬粧研究家の鄭世彬氏だが、こうしたことが可能になるのも、売り場のスタッフが国別の売れ筋商品を把握しているからだろう。

株式会社ビックカメラ広告宣伝部インバウンド室の松本真室長によると「個別の商品の多言語表示については、どの国からの来店が多いのか、店舗の特徴に合わせて表記しています。限られた時間の中でいかにお客様に買い物を楽しんでいただけるか。インバウンド客向けの取り組みのポイントは、何より会計回りの対応です。いかに現場の声に応えていくかが大事」という。

2014年10月、外国客向けの免税枠が拡大され、翌15年5月には最低購入額の引き下げの改正があるなど制度面での変更、突然の中国客の「爆買い」の収束など、小売業を取り巻く環境の変化は激しい。同社は日本ではまだ普及していない海外の決済サービスとして、中国のアリペイ(2016年6月)やウイチャットペイ(2016年10月。ただし一部店舗)などの導入もいち早く進めている。

こうした現場で揉まれる量販店の多言語表示が進化するのは当然だろう。一方、自治体や公共交通などの公的機関の場合、外国客にどこまでメッセージが届いているかを検証する機会は少ないかもしれない。筆者が始めたブログでは、今後も多言語化の現状を観察していきたいと考えている。ぜひアクセスしていただきたい。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/report/3857/


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by sanyo-kansatu | 2017-04-21 14:43 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2017年 04月 20日

バケーションレンタルって何?

昨晩のワールドビジネスサテライト(テレビ東京)で、バケーションレンタルの世界最大手HomeAwayの日本進出が報じられました。

出張の会社員向けも… ユニークな民泊ビジネスが続々(2017/04/19)
http://txbiz.tv-tokyo.co.jp/wbs/newsl/post_130526

きょうから日本市場への本格参入を発表した、米・民泊仲介大手ホームアウェイ。都心を中心に少人数向けの物件が多い、同じく業界大手のエアビーアンドビーに対し、ホームアウェイは大人数向けに地方の一棟貸しをするのが最大の特徴です。リピーターが6割という訪日観光客が地方へと足を伸ばしているのに合わせ、民泊解禁と共に需要取り込みに期待を寄せます。3月から始まった民泊予約サイト「トリップビズ」は、審査を通過した企業だけが利用できるビジネスマンの出張に特化した仲介サービスで、約20社が契約しています。インバウンドの増加などでホテルの予約が取りにくい中、手ごろな料金で泊まれると言います。「トリップビズ」を展開するのはメガネチェーン大手のオンデーズ。自社の社員の出張が多かったため、宿泊施設確保の時間や費用を削減するため作りました。


昨日午後、都内のHomeAway日本支社で以下の記者会見もありました。
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世界最大級のバケーションレンタル会社 X 日本最大級のDMO HomeAwayとせとうちDMO、インバウンド観光推進で業務提携~歴史的な資源を活用した広域インバウンド誘致を目指す~(記者会見リリース)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000024333.html

この記者会見のポイントは、HomeAwayが瀬戸内海に面した7県の観光地経営推進組織「せとうちDMO」と提携して、この地域の古民家を外国人観光客にPRを始めるという話です。ワールドサテライトでも「地方の古民家丸ごと貸し出す!? 世界最大級の“民泊会社”が日本に」と報じていました。

提携したのは以下の両者です。
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HomeAway(日本語版)
https://www.homeaway.jp/
せとうちDMO
https://www.setouchi-bc.co.jp/setouchi-dmo

この記者会見は短時間でよくポイントがよくまとめられたものでした。その内容を紹介する前に、そもそもバケーションレンタルって何? という話から始めたいと思います。

解説してくれるのは、HomeAway日本支社の木村奈津子社長です。

彼女はバケーションレンタルを「オーナーが部屋を使用しない期間、物件を旅行者等へ短期間貸出するレンタルサービス」だといいます。ゲストハウスやシェアハウス、ホームステイなどの「個室」を扱う民泊はバケーションレンタルの一部にすぎないとも。そして、同社が注力するのは、「個室」ではなく、一軒家や別荘、古民家、マンション、ヴィラ、ロッジなどの「貸切り」だといいます。
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背景には、訪日外国人が利用する宿泊施設のニースの多様化があります。このデータはどこまで信憑性があるのかわかりませんが、訪日客の60%がリピーターであることから、新しいタイプの宿泊施設が求められているとも。
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ここで彼女は今日の宿泊施設を「サービスの充実度」と「ホストとの交流/プライベートへの志向」というふたつの軸で以下のようにマッピングします。もちろん、これはバケーションレンタルをメインにすえたものですから、ホテルや旅館といった既存の施設の多様性には触れません。興味深いのは、同社ではサービスの充実度よりセルフサービス寄り、ホストとの交流よりプライベートな空間を求める「ペンション、ヴィラ(1~3名)」「町屋、古民家(2~10名)」「家主不在型民泊 マンション(1~6名)」「家主不在型民泊 一軒家(2~20名」を重視していることです。
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これらの説明は、ここ数年民泊市場を席巻してきたAirBnBとの差別化を強く意識したものと思われます。彼女は両者の違いについてこのように説明しています。

         HomeAway     AirBnB
利用者の年齢層  中年層が中心    若年層が中心
宿泊人数      家族・グループ    一人旅
物件の立地     地方・リゾート地   都市部
予約単価・日数   平均1032$・6日間 平均584$・4日間
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つまり、都市部を中心に少人数向けの物件を提供するAirBnBに対し、大人数向けに地方の物件を一棟丸ごと貸し出すのがHomeAwayというわけです。

ここで示されるターゲット層や利用の状況については、アメリカで放映されているHomeAwayのCMをみるとよくわかります。
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Get HomeAway from it all(Home Away CM)
https://www.youtube.com/watch?v=G19cDebTd2s

このCMに見られるのは、おなかの出た中年のお父さんがパンツ一丁で登場するような、徹底的な大衆性です。家族がプライベートな空間を気取らず楽しむイメージであふれています。これでは到底若い世代にはウケませんが、それでいいのです。

今年に入って訪日外国人数は増えてはいるものの、その伸びが鈍化していることもあり、そもそも問題の多い「家主不在型民泊」で市場を席巻してきたAirBnBが伸び悩んでいると聞きます。

訪日外客数(2017 年3 月推計値)
◇ 3 月 : 前年同月比9.8%増の220 万6 千人(JNTO)
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/170419_monthly.pdf

訪日客の大半を占めるアジアからの旅行者の団体から個人への移行が進むなか、彼らの多くは一人旅やカップルというより、家族や小グループでの旅行を好むため、都市部のワンルームマンションのような狭い物件は使いづらくなっていることが考えられます。訪日客のニーズの変化とAirBnBが主に提供する物件のミスマッチングが起きているのです。

3月上旬、上海で現地の旅行関係者からこんな話も聞きました。「昨年まで中国の個人客は、安く上げられることを理由に民泊に夢中でしたが、日本のマンションは狭すぎるので、もう利用したくないというんです」。

だからこそ、民泊ではなく、これからはバケーションレンタルでしょう。そう同社は訴えているのです。

こうした動きに乗ったのが、日本のインバウンド市場では後発だった瀬戸内海周辺の関係者でした。

今回の記者会見でも、せとうちDMOはHomeAwayとの提携の経緯について語っていましたが、そのひとつの理由が、全国に150万軒あるという江戸後期から近現代にかけての古民家の保存・再利用をきっかけにした地域振興でした。なんでも瀬戸内には30万軒もの古民家があり、その大半は朽ち果てていくのを待つばかりの状況だそうです。

今回の提携に基づく最初の取り組みとして、愛媛県の古民家を再生した宿のHomeAwayによる海外市場へのPRが始まります。
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記者会見会場には、けっこう多くの取材陣が集まっていました。昨年メディアで論議が盛り上がった民泊の次のステージを告げるバケーションレンタルに対する関心の高さからでしょうか。
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質疑応答のとき、週刊朝日の記者がいい質問をしていました。「古民家のオーナーたちはどれだけコストを負担する必要があるのか」。

せとうちDMOの関係者によると、理想的には行政からの補助なども含め、オーナーのコスト負担はなしを原則にしたいが、実際にはオーナーが物件の所有者なのか事業者となるかなど、ケースによって異なるとのこと。そして、以下のような目標も掲げていました。

HomeAwayとせとうちDMOが提携、21年までに年間5.5万人泊(Travel Vision2017年4月19日)
http://www.travelvision.jp/news-jpn/detail.php?id=77361

ここ数年、HomeAwayの親会社であるexpediaをはじめとした海外の宿泊予約サイトの日本市場参入によって、インバウンド宿泊市場は活性化してきました。どんな無名の宿泊施設でも、サイト上でうまくPRすれば外国客が押し寄せるという状況が生まれていたのです。その意味では、今後インバウンドのメインステージとなる地方でバケーションレンタルという新機軸を掲げるHomeAwayの展開には期待が持てます。

その一方で、どれだけ有望な施設を提供できるのか。せとうちDMO関係者の話では、新施設を開業させるのはそんなにたやすい話でもなさそうです。

実をいえば、すでに多くのマッチングサイトがこの市場に参入しています。バケーションレンタルというのは、そんなに新しいものではなく、日本人も以前からハワイでコテージなどを貸し別荘として利用するなどしていました。同じことを国内で外国人向けに始めようという話です。HomeAwayでも、たとえば、愛媛県のページをみると、すでにいくつかの物件が紹介されています。
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はたして日本のインバウンド向けバケーションレンタル市場は今後どう動いていくのでしょうか。

来月下旬には、バケーションレンタルのイベントもあるようです。巻き返しを図るべくということなのか、AirBnBも出展するとか。

バケーションレンタルEXPO
http://minpaku-expo.com/visitor/
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by sanyo-kansatu | 2017-04-20 12:17 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2017年 04月 09日

街で見かけた 《お恥ずかしい》 中国語表示

このたび、ある中国の友人とこんなブログを始めることにしました。
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街で見かけた 《お恥ずかしい》 中国語表示
http://ramei.exblog.jp

これまで本ブログでも何度か指摘してきましたが、外国人観光客が増えるのにともない外国語による案内表示が街に増えているのですが、ずいぶん間違いが目につくようなのです。

これはやばい!? 日本にはおかしな中国語表示があふれている
http://inbound.exblog.jp/24370756/
日本にあふれる「恥ずかしい中国語」をついに中国人に指摘されてしまいました
http://inbound.exblog.jp/26343657/

そこで、ぼくも中国語の勉強を兼ねて、街で見かける中国語表示のチェックを始めてみようかと思ったのですが、実際のところ、どこがどう間違っているか、よくわかりませんでした。間違いに気づくには、それなりの語学力が必要です。その話を友人にしたところ、中国人留学生なども巻き込んで、「間違い中国語探し」を始めてみようかということになったのです。

以下は、そのブログの代表である羅鳴さんの口上です。※同ブログより

日本を訪れる中国人の気持ちに気づいてほしい

僕は羅鳴と申します。広東出身で、来日してもうすぐ30年になります。

日本に来たばかりの1980年代後半、東京にはすでに多くの中国人がいましたが、今日のように街で中国語の案内表示を見ることありませんでした。その頃の日本の社会では、中国人はまだ貧しく、来日するのも出稼ぎのためと思われていて、そのような人たちに買い物や観光の案内が必要だとは誰も思っていませんでした。確かに、その当時、多くの中国人は僕のような留学生か、不法滞在者ばかりで、生活のためだけで精一杯、遊ぶ余裕も時間もありませんでした。

そんな中国人も、この30年間の改革開放政策のおかげで、経済大国になるほど成長を遂げました。国民もだんだん経済力を持つようになり、以前は夢のようだった海外旅行にも行けるようになりました。いまでは世界のあちこちに中国人観光客がいて、日本でも、銀座や新宿などでは、中国語がうるさいほど聞かれます。

中村さんとは古いつきあいです。ある日、彼から「おかしな中国語表示が増えていることに気づいていましたか」と聞かれたので、思わず苦笑してしまいました。「もちろんですよ」。そう答えた僕は、以前ある公衆トイレに貼られていた中国語表示をスマホで撮った写真を見せました。「やっぱり、そうですか…」。彼はやれやれというような困った顔つきになりました。

僕はもう日本に長く住んでいるので、こうした中国語を見ても、そんなに驚いたり、ガッカリする気持ちはありません。むしろ、多くの日本人が中国人観光客のために中国語表示を用意している姿を想像すると、悪い気分ではありません。もちろん、多くの場合、中国人にたくさん買い物をしてもらいたいからという理由からなのでしょうが、それは当然だと思うし、日本人の側から発せられるメッセージとしては、つたないぶん、微笑ましくもあるのです。

これを機会に、日本を訪れる中国人の気持ちに気づいてもらえるとうれしいです。 

                                                
そして、以下は同ブログマネージャーとなったぼくのあいさつということで。

【マネージャーからのひとこと】
中国語の勉強のつもりで始めました


私は中国語の初心者で、毎週1回、都内の小さな語学教室に通い、中国人留学生の先生に中国語を教えてもらっています。あまりまじめな生徒ではないので、すぐにテキストとは関係ない世間話を先生とするのですが、ここ数年日本の街角でよく目につくようになった外国人向けの案内表示やポスター、パンフレットなどで使われる、ちょっとおかしな中国語のことがよく話題になります。

正直なところ、私はそう言われても、どこがおかしいのかよくわかりませんでした。先生によると、単語の使い方や文法が間違っている以上に、日本語的な発想で中国語を使ってしまっている例や外国人が知らない日本人だけが了解している事情を説明なしに、そのまま翻訳してしまっているという例が多いそうです。あとは、安易に翻訳ソフトを使いすぎではないのかとも。

これまでそんなことを考えてもいなかったので、私は街角の外国語表示が急に目に入ってくるようになりました。日本人がつい間違えてしまう外国語表示とは、それすなわち、自分自身が普段使っている英語や中国語であり、それがいかにあやしげなものか、気になるようになったのです。

そんな話を古い友人の羅鳴さんにしたところ、当然のことかもしれませんが、日本に長く住む彼はとっくに気がついていました。そのうち、お互い街でおかしな中国語表示を見かけたら、写真を撮って、それを勝手に添削してネットで報告するブログを始めてみようか、という話になりました。聞きようによっては、意地悪なたくらみに思えるかもしれませんが、逆をいえば、このことについて日本を訪れる中国系の観光客の大半はすでに気がついていたわけで、それを知らなかったのは我々日本人だけだったのです。しかも、これは中国語に限った話ではありません。英語はもちろん、最近増えてきたタイ語も同様です。

中国語の勉強のつもりで始めたブログですから、誰かの揚げ足を取ったり、貶めようとする意図はまったくありません。もしよろしければ、皆さんもおかしな外国語表示を見つけたら、ご一報いただけるとさいわいです。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-09 09:57 | “参与観察”日誌 | Comments(0)