ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2011年 11月 20日

中国人観光客は新興国の消費者の貴重なサンプルです(このブログの目的 その3)

ちょっとしつこいですが、ブログの目的のその3。

中国人観光客の実像を明らかにする、なんてことにどれほどの意味があるのか。その理由について、もう少し俯瞰的な視点から自分の考えを述べたいと思います。

ぼくは以前の勤め先(旅行ビジネス系の版元)に在籍していた2000年前後の頃から日本のインバウンド振興の周辺を取材し始めていました。ビジネスの新しいトレンドをいち早く追いかけたいというごく一般的な編集者としての動機からでしたが、その関心の背景にはグローバル化の問題がありました。一時的な滞在者にすぎないとはいえ、外国人観光客が日本中にあふれ、消費活動に貢献してもらうというインバウンド振興の掲げる目的は、日本社会のグローバル化の問題と直結します。

こうしたことはすでにヨーロッパや一部のアジアの都市では当たり前の光景になっていますが、日本においてもそれが現実のものになるには、モノ・ヒト・コトの各方面で受け入れのためのインフラが必要となります。単に外国語表示の看板を増やせばいいというような話ではありません。少々大げさにいうと、それは自分たちがこの島国で生きていくことの意味を問い直す契機を含んでいます。自分の暮らす地域経済の自立のためには、グローバルなつながりなしには立ち行かない状況をどう自覚し、自らのありようを変えていくか。インバウンド振興というテーマはグローバル化の問題を考えるうえで、さまざまな視点や材料を提供してくれます。

ところで、近代以降の日本は3度のインバウンド振興の時代を経験しています。それぞれの背景はだいたい以下のようなものです。

第一次 1930年代 世界恐慌後の外貨獲得が目的
第二次 1950~60年代 戦後の経済復興。東京オリンピック開幕に向けて
第三次 2000年代 「失われた10年」と日本経済の地盤沈下。リーマンショック後の世界同時不況

それぞれ類似点と相違点があります。まず類似点は、第一次と第三次が国策として明確に進められたこと(第二次は国策としての位置付けはなくても、戦後復興の文脈で捉えられるでしょう)。第一次では1930年に鉄道省の下に観光局を設置。主に国内山岳リゾートに西洋式ホテルを建設し、欧米客誘致を図りました。第三次では2003年に官民を挙げた訪日旅行プロモーションとしてビジット・ジャパン・キャンペーンがスタート。08年に国土交通省の下に観光庁を発足させています。ともに世界経済の退潮期に重なっているのが共通しています。

相違点は第一次、二次の誘致の対象が欧米客であるのに対し、第三次はアジア客、すなはち新興国市場であること。実際、2010年度の訪日外客のうちアジア系は4分の3を占めます。アジア経済の成長によりグローバルな観光人口が拡大していることが背景にあります。

歴史的にみても日本は欧米客の受け入れは慣れていても、アジア客の本格的受け入れは初めての経験ですから、彼らをお客さんとしてどう扱うべきかわからない。これが日本のインバウンド振興がうまくいかないもうひとつの理由といえます。自分たちより所得の多い成熟した国の消費者を観光客として受け入れるのはそれなりにたやすいですが、成長途上にある国々の消費者が相手では勝手が違って思うほど簡単にはいかないものです。そうはいうものの、いまや日本を訪れるアジア客の中には一般的な日本人よりはるかに高所得の人たちも増えている。時代は大きく変わったのです。

これは日本の輸出産業が欧米先進国中心に売上を得ていた時代から、2000年前後を境にアジア市場にシフトしていく状況と基本的に同じ話だと思います。

ものすごく単純な理解ではありますが、グローバル化によってモノとサービスの値段の平準化が進んだことで(こうして先進国はデフレに、新興国はインフレになった)、先進国と新興国との間で世界の富の取り分のバランスが変わっていったこと。その結果、1970年代までの先進国が世界の富の大半を独占するという極端な不平等のままで安定していた世界の構造が、中国などの新興国の台頭により地盤変動を起こし、2000年代以降その影響が鮮明に現れるようになったこと。それが今日の日本が抱える多くの問題の背景にあると思います。

ぼくはいわゆるグローバル主義者ではないつもりですけれど、中国の新興国化の過程を見てきた人間のひとりとして、70年代までの世界への郷愁にかられていても立ち行かないのであれば、考え方を変えていかなければならないだろうと思うわけです。かつての不平等な時代に戻ろうというような先進国のご都合主義を新興国は受け入れないでしょうし、戻す力はもはや先進国にはない。グローバル化のいいとこ取りだけしようとしても、できない相談だったのです。それにぼくは民間の一事業者です。学校の先生やお役人ではないので、自立しなければなりません。

日本の都市や景勝地に現れる中国人観光客の存在は、まさに新興国市場の消費者の貴重なサンプルです。

インバウンドの現場には、日本が新興国市場にアクセスするためのノウハウや課題解決のための種があふれています。そこから得られる経験や知見は、世界の構造の変化に立ち向かっていくうえで貴重な糧になると思います。

比較的長期間安定した社会を生きてきた日本人だけに、世界の地盤変動をまっすぐ受けとめられずに戸惑いや迷走が見られるのもある程度やむを得ないことだと思います。ぼくのいう考え方を変えるとは、グローバル化の波に備えて防波堤を築くことでも、「国際化」せよと強迫観念に訴えるようなことでもなく、じっくり対象を観察し、対策を練っていきましょうということです。

このブログが対象とする中国人をはじめとした外国人観光客の実像を明らかにすることを通して、新興国市場の消費者に対する適切な理解を深めることにつなげていきたいと考えています。
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# by sanyo-kansatu | 2011-11-20 13:27 | このブログの目的 | Comments(0)