ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2012年 12月 03日

16回【トラベルマート 2012報告 前編】 観光庁も「脱中国」。東南アジアシフトに転換か?

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訪日旅行市場の拡大に向けた日本最大の商談会「VISIT JAPAN トラベルマート2012」が11月20日、21日の両日、パシフィコ横浜で開かれました。

トラベルマートは、国土交通省(観光庁)が主催するB to Bのインバウンド商談会です。海外から日本ツアーを造成するバイヤー(旅行会社)やメディア関係者が来日、国内からは彼らに旅行素材を提供するセラー(ランドオペレーターやホテル、交通、観光地のアトラクション施設、全国の自治体など多彩)が集結。一堂に会して訪日旅行市場を盛り上げていこうという、年に一度のイベントです。国内外のインバウンド関係者の話を一度にまとめて聞ける、絶好の情報収集のチャンスです。

日中政府間のねじれた相互不信によって中国インバウンドの行方に依然暗雲が漂うなか、日本のインバウンドにいま何が起きているのか。今回は、会場での見聞や感じたこと、関係者からのヒアリングを通じた知見などを報告しながら、2013年のインバウンドの展望を占ってみたいと思います。

会場で目につくヒジャーブ(スカーフ)姿

トラベルマートの初日は、特設スペースで行なわれる恒例の開会式から始まります。最初に登壇するのは、今年4月に就任した井手憲文観光庁長官。日本のツーリズム産業は震災からいち早く回復したことを報告、インバウンド市場の拡大をアピールすべく、列席した海外の記者たちに呼びかけました。

開会式が終わると、商談会のスタートです。事前にアポイントした海外バイヤーと国内セラーの商談が始まります。

今年の会場は例年に比べ、こぢんまりした印象です。ホテル関係者ら訪日旅行に絶対欠かせない特定のセラーが商談に追われていたことを除けば、熱気や盛り上がりの点でもうひとつという気がしました。前回までは会場内を国内セラーの展示ブースと海外バイヤー専用席に仕切り、相互訪問しながら商談する仕組みになっていたのですが、今回からバイヤー席をなくしてしまったからです。昨年に比べ全体の出展数は減少しているわけではないのに、以前よく見かけたコスプレや着物姿のPRといった派手な演出も少なかったようです。

こうしたなか印象に残ったのは、イスラム女性が頭を覆うヒジャーブ(スカーフ)姿の関係者が目についたことです。事務局の報告した海外バイヤーの国別数をみると、その理由がわかります(トラベルマート公式サイトより。カッコ内は昨年の数)。

中国35(41)、韓国23(26)、香港12(9)、台湾12(14)、タイ24(23)、シンガポール19(16)、豪州15(14)、英国10(10)、フランス5(5)、ドイツ5(3)、米国17(8)、カナダ18(17)、マレーシア19(7)、インド12(1)、インドネシア18(1)、ベトナム18(0)、ロシア3(21)、オンライン系5(21)

上記のとおり、マレーシアやインドネシアなど東南アジアのイスラム圏のバイヤーが急増していました。激増したインドや今回初登場のベトナムも注目です。ここに見られるのは、招聘する側が明らかに東南アジアシフトを意図した結果といえそうです。

東南アジアシフトに転換した背景

開会式の後には、外国人記者会見があります。主催者である国土交通省(観光庁)が海外メディアに訪日旅行促進のための日本政府の考え方やプロモーション活動について広報する場です(昨年の外国人記者会見の様子)。

今回の記者会見で観光庁が強調したいポイントはふたつあったと思います。ひとつは、東日本大震災後、日本のインバウンド市場は予想以上に早い回復が見られたこと。これは確かにアピールすべきポイントでしょう。東日本大震災の前月に地震の被害を受けたニュージーランドでは未だに復興が遅れ、同国のインバウンド市場が低迷しているのに比べ、日本では官民の協働が早期回復に貢献した面は大きかったと思います。

もうひとつは、訪日プロモーションの最重点エリアが中国から東南アジアにシフトしたことです。

統計をみると、理由は明快です。国土交通省の担当者が用意した資料「Recent Situation Regarding Inbound Promotion」によると、2012年1月~10月までの国別訪日旅行者数のうち、震災の影響を受ていない2010年度比で最も伸びているのは、ベトナム(33.3%増)、次いでインドネシア(26.0%増)、タイ(19.5%増)、マレーシア(13.7%増)と、すべてが東南アジア諸国です。

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こうしたデータの裏づけをもとに、観光庁が今後の目標設定として掲げるのは、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアを中心にした東南アジアからの訪日旅行者数を現在の約50万人から3年後(2016年)までに200万人へと拡大させることです。そのための施策として、すでに今年7月からタイのマルチビザ発給、9月からマレーシアとインドネシアにも短期のマルチビザ発給を開始しています。2013年は日本アセアン友好協力40周年にあたるため、周年事業をインバウンド振興に活用することで東南アジア諸国に向けた重点プロモーションを展開することになりそうです。

こんなにあっさり転換して大丈夫?

ところで、今回インバウンド関係者をホッとさせた話のひとつに、今年9月日本の「旅博」をドタキャンし、11月の上海旅行博(CITM)では日本関係者の出展を断ってきたことで、日本に対する強硬な姿勢を見せてきた中国の旅行会社が予定どおりに来日していたことがあります。来日した35社(昨年は41社)をざっと見る限り、上海や広東などの沿海部が中心で、内陸部や東北地方は少ないようでした。国内で相変わらず続く「反日」的な雰囲気の中、商談のために来日した旅行業者がいたことで、中国という国を相手にする場合、政府と民間を分けて考える必要があることをあらためて確認したいと思います。

もっとも、ある大手旅行会社の関係者によると「来日した中国のビジネスパートナーと会ったが、お互いため息ばかり」だったとのこと。北京出張から戻ってきたばかりの彼は現地の旅行関係者の様子についても「今回は2010年のように当局が自国の旅行会社にツアー催行中止の通達を出しているわけではないけれど、民族感情を煽ることで未だに日本ツアーを集客しにくい社会のムードがある」と話してくれました。

国土交通省(観光庁)がこれほどあっさり「脱中国」に転換した背景には、今日の険悪な日中関係があるのはいうまでもないでしょう。

そもそも尖閣諸島沖で中国国家海洋局の監視船と直接向き合っている海上保安庁の巡視船は国土交通省の管轄です。たとえこの先、訪日客が再び動き出したとしても、ひとたび彼らが海上で何か起こせば、事態はすぐに逆戻りです。まったくくだらない話だとぼくは思いますが、中国政府は我々と同じようには考えてはいないので始末が悪いといえます。

日本人には思いがけないことですが、特定の個人や組織、団体に因縁をつけて攻撃対象とするのは、政治闘争の国である中国ではよく見られることです。彼らは標的とみなした相手にプレッシャーをかけることで自己の主張を通そうとします。本来民間交流にすぎない観光に政治の影響がこれほど出てくるのも、観光行政を担当する国土交通省が中国政府の標的のひとつにみなされているからだと思います。中国メディアによって悪者扱いにされている2010年秋当時の担当大臣に対するあてつけすら感じます。

表向き旅行会社に口を出していないといいながら、あの手この手で日本ツアーの集客を難しくさせるよう宣伝工作を行なう中国政府の子供じみたやり方も、彼らの考え方では自らが利を得るためのごく自然な行動原理にすぎず、我々がいくら道義を欠いていると非難したところで通じそうにもありません。

今回のトラベルマートが、例年に比べてどこか熱気を欠いた理由に、我々日本人の常識では思いもよらなかった中国政府のふるまいに対する拒絶感からくる「脱中国」の共時的な国民レベルでの承認と、その結果生まれた虚脱感があったと思わざるを得ません。日本の「観光立国」ブームを支えたのは、この10年の中国の経済発展に対する官民の過剰なまでの期待であったことは間違いなく、その取り込みを図るというのが産業界の合言葉だったため、その反動も大きかったといえます。

今回の尖閣問題をめぐる中国政府の思慮を欠いた対応によって、日本側の盲目的な中国市場に対する期待が裏切られたことで、時代は転機を迎えてしまいました。

ですから、観光庁が「脱中国」=東南アジアシフトに至った経緯というのも無理はないと思います。

その一方で、こんなにあっさり転換しても大丈夫なのだろうか、と思わないではありません。中国政府と民間の中国人の思いは同じではないからです。彼らは日本ともっとビジネスしたい。我々日中の民間人の利害は依然一致しているのです。

こうなった以上、我々は中国市場に対するアプローチを再考する必要があります。この連載で何度も指摘してきたような訪日中国人ツアーの数々の問題を改善していくうえで、これをいい転機にできないか。そのためには何をすればいいか、考えていきましょう。

所詮日本はインバウンドの新参者。やるべきことはある

ここから先は、今回のトラベルマートの会場で感じたことを思いつくまま書き出します。単なる批判ではなく、ぜひ前向きに検討していただきたいと思います。

まず開会式について。昨年まで観光長官だった溝畑宏氏のいささかオーバアクション気味のスピーチに比べ(昨年の開会式の様子)、今回の新長官の挨拶はかなり地味な印象でした。どちらのキャラがいい悪いの話ではありませんが、せっかくの開会式なのですから、スピーチの内容はともかく、列席している外国人たちの気分を盛り上げるような華のある演出がもっとあってもいいのではないか。なぜなら、ツーリズム産業は万国共通、エンターテインメントビジネスだからです。海外のバイヤーやメディア関係者の多くは、B to Bの商談会といえども、ワクワクするような旅行資源を発掘してやろうと意気込む、基本ノリのいいキャラの持ち主たちです。彼らの期待に応えるべく、コストをかけなくてもやれることはあるように思います。要はセンスの問題です。

こんなことを思うのも、海外のトラベルマートをぼくは何度か視察してきたからです。特にヨーロッパ各都市で開催されるトラベルマートのお祭り騒ぎのようなにぎわいを知っているだけに、日本のトラベルマートは物足りないと思わざるを得ないのです。「観光立国」としての歴史と蓄積がヨーロッパとは違うのですから、新参者の日本とかの地を比較するもの言いに無理があることは承知ですが、そもそも会場となった横浜市民は、わが街でトラベルマートが開催されていたことをどれだけ知っていたのでしょうか(この意味を主催者が理解しているかどうかは大事だと思います)。ヨーロッパでは、トラベルマートは開催地を挙げたイベントであり、市民を巻き込んで海外から来た旅行関係者を歓待する光景が見られることを思うと、残念に思ってしまうのです。こちらは認識レベルの問題です。

もうひとつ気になったのは、海外バイヤー席がなくなったこと。商談というのは事前にアポ入れして行なうものですから、とくに支障はないのでしょうが、第三者には特定のバイヤーがどこにいるのかわからない。日本のセラーにとって受身の商談しかできないのでは、もったいない気がします。バイヤー席があれば、アポの入っていない時間帯を見計らって積極的にアプローチすることができるからです。

その点についてある海外バイヤーの知り合いに聞いたところ、必ずしもセラーに多く会えば会うほど商談が成立するというものでもないらしく、お互いに求めるものをある程度事前にすり合わせておかなければ効果がないとのこと。来日する前に、日本のセラーとどれだけ情報を共有できているかが鍵だと彼らはいいます。

だとしたら、出展者同士が情報交換できるようなマッチングの場を事前にネット上に提供するサービスがあってもいいのではないでしょうか。つまり、リアルな商談会を前提としたB to Bのためのプラットフォームを用意することが求められているのでないか。

以前からウェイボーのようなB to C向けの情報発信の重要性について指摘してきましたが、トラベルマートのような業界関係者との商談会の場にいると、やはり大事なのはB to Bの情報交流をもっと活性化することがインバウンド促進にとって重要だと実感します。相手国の市場の成熟度にもよりますが、消費者向けの情報に力を入れるより、海外の業界関係者に情報の優位性を与えてこそ、ビジネスは動き出すものだからです。この点については、今後もっと具体的な提案を今後してみたいと思います。

次回は、トラベルマートに出展していたアジアからの訪日旅行市場に特化した業界団体として知られるアジアインバウンド観光振興会(AISO)の総会で聞いた生々しい報告を中心に2013年のインバウンドの展望について紹介したいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2012-12-03 13:31 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)