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2016年 06月 01日

なぜサムライは外国人の心を惹きつけるのか?

本ブログでは、このところサムライがらみのネタをいくつも書いています。訪日外国人の間でサムライや忍者、お城、着物変身スタジオなどの和風エンターテインメント体験が人気らしく、その理由を探るべく、ちょこちょこ取材していたからです。

トリップアドバイザーで人気のサムライミュージアムとふくろうカフェを覗いてみた
http://inbound.exblog.jp/25702798/
浅草でいま大流行という外国人観光客向け変身スタジオを覗いてみた
http://inbound.exblog.jp/25840662/
TBSテレビの「あさチャン」でも紹介されたサムライ体験ツアー(by夢乃屋)
http://inbound.exblog.jp/25840817/
銀座インバウンドレストランのサムライショーは中国客の食いつきがすごい
http://inbound.exblog.jp/25841438/
HISが都内各地で訪日外客向けエンタメツアーを収集・開発・販売しています
http://inbound.exblog.jp/25841804/
日本最高齢の通訳ガイド、「ラストサムライ」ことジョー岡田さんに話を聞きました
http://inbound.exblog.jp/25849969/

では、なぜこれらサムライがらみのスポットやエンタメは人気なのでしょうか。

世界最大の旅行口コミサイトのトリップアドバイザーに聞いたところ、和風エンターテインメントについての外国人の書き込みには「ショーとして面白い」「見る価値のあるエンタテイメント」「日本の文化を体験できて興味深い」などが多いそうです。

これらのコメントは月並みすぎる気もしますが、同サイトの外国人による東京都の人気観光地ランキングをみると、サムライミュージアムは2位で、以下3位は浅草、5位は明治神宮、6位は両国国技館、7位に東京都江戸東京博物館、8位は八芳園、9位はホテルニューオータニ庭園といった具合に、ほぼ和のスポットが選ばれていることがわかります。彼らにとって「日本の文化を体験」することが最重要関心事であることが見えてきます。

トリップアドバイザーで和風エンターテインメントが人気の理由
http://inbound.exblog.jp/25864340/

とはいえ、一般の日本人の感覚からすると、こういうのってちょっとベタすぎて、ホントに面白いんだろうか? そんな疑心暗鬼がないではありません。もっとクールで、エキサイティングで、アメージングなことじゃなくて、いいのかしら?

でも、どうやらそういうことではないようです。「サムライやお城は日本にしかない独自の文化だから面白いのです」。

そう明快に答えてくれた外国の方を最近、知りました。

その人は、名古屋のFMラジオ局ZIP-FMのミュージックナビゲーターで、オーストラリアのアデレード出身のクリス・グレンさんです。とにかく日本のお城や甲冑が大好きで、名古屋城の外国人向けHPを制作したり、ときどき侍に扮して、地元の観光PRもするそうです。

名古屋といえば、同地にゆかりのある武将6人と、陣笠隊の4人で結成された「名古屋おもてなし武将隊」も有名ですね。

名古屋おもてなし武将隊公式ウェブサイト
http://busho-tai.jp/

最近は、こんなニュースもありました。どうやら名古屋では、サムライや忍者が盛り上がっていそうですね。

日本初! 月給18万円で愛知県庁に雇われた“アメリカ人忍者”のニッポン愛とは
http://wpb.shueisha.co.jp/2016/05/29/65870/

さて、正式なクリス・グレンさんのプロフィールを紹介します。

1968年生まれ。85年、ロータリー交換留学生として初来日し、翌年帰国。86年、弱冠18歳にしてプロラジオDJデビュー。7年間オーストラリアでラジオDJ・コピーライターとして活躍したのち、92年に再来日。93年、名古屋のFMラジオ局ZIP-FMミュージックナビゲーターとしてデビュー。現在は、日曜朝9時〜13時「RADIO ORBIT」を担当中。

ラジオDJとして活躍するほか、日本の魅力を語る外国人として、テレビ朝日「ワイドスクランブル」、毎日放送「知っとこ」などテレビ出演も多数。甲冑師に弟子入りして制作したMy甲冑を着用し、国内外に向け日本の歴史、文化の魅力を伝えるため、イベントやテレビなどに出演するなど勢力的に活動をしている。

趣味は、戦国時代の歴史研究、甲冑武具の研究、城めぐりなど。現在までに巡った城の数は、日本全国400カ所にも及ぶ。近年は、自身が案内役をつとめる歴史ツアーを企画するほか、自治体や観光施設に対しインバウンド観光アドバイスなども行う。また「外国人から見た日本」「外国人の喜ぶ、おもてなし」をテーマにした講演でも人気を博している。

著書に「The Battle of Sekigahara:The Greatest Samurai Battle in History」(英語版)、「豪州人歴史愛好家、名城を行く」(宝島社)がある。三重県桑名市ブランド推進委員、あいち観光戦略検討委員、関ヶ原グランドデザイン策定委員、「昇龍道」磨きあげ検討委員、関ヶ原観光大使。
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クリス・グレンオフィシャルサイト
http://www.chris-glenn.com/

こういう方がいらっしゃるんですね。興味深々です。名古屋在住ということで、今回は直接話を聞くことができなかったのですが、クリスさんには、メールで質問させていただきました。以下、その一問一答です。

-クリスさんが地元で関わっているインバウンドに関する組織(あいち観光戦略検討委員、関ヶ原グランドデザイン策定委員、「昇龍道」磨きあげ検討委員、関ヶ原観光大使)での活動を教えてください。

●各種委員について

上記記載の委員については、有識者会議の位置づけで各地方自治体に設置されているものです。日本の歴史文化に造詣が深く、20年以上前から、日本、そして東海エリアの魅力を国内外に向けて発信し続けてきたという実績、外国人の目線で「日本」や「地域」を見られるということ、外国人のニーズや日本人と外国人との意識や興味の違いを理解していることから、各委員に任命されています。

●インバウンドのお仕事

オーストラリア、そして日本で、ラジオDJ、コピーライター、タレントとして活動してきたキャリアをいかし、上記委員などのほか、WEB、パンフレットなどの英文ライティング(翻訳ではなく、英文での書き下ろし)、キャッチコピーの制作、観光動画の監修、アドバイザー、シナリオ制作、ナレーション、インバウンドに関する講演、観光施設や宿泊施設などへのコンサルティング、インセンティブツアーでの講師(ガイド)、インセンティブツアー企画・プロデュース・キャスティングなど、活動は多岐に渡ります。

-サイトによると、日本甲冑武具研究保存会に所属しているようですが、クリスさんはどんな活動をしているのですか。

甲冑武具の研究について、先輩の皆様からご指導いただき、勉強をさせていただいています。日本甲冑武具研究保存会・名古屋支部は、独自に甲冑隊を結成し、各地域で開催されております歴史イベントに甲冑武者として参加するなどといったこともしておりましたので数年前までは、そういったイベントにも多数参加していました。
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-クリスさんは日本の歴史で戦国時代がいちばん好きだそうですが、なぜなのか。

・「サムライ」「武士の精神」が、一番リアルに存在していた時代であったから。
・政治的、戦略的な面でも面白みがある。
・信長、秀吉、家康といった英雄たちが、さまざまな意味で、現在の日本の礎を築いた時代であったから。
・乱世の時代に生きたサムライたちの生き様に、興味深いストーリーが多くあるから。
・甲冑、武具、城など、戦うためのものでありながら、機能性に優れているだけではなく、どれも美しく、日本の技術力や日本人の美学を感じられるから。

-最後にズバリ、サムライの魅力は何なのか。サムライに関する映画や小説などの影響はありますか。

サムライは、自分の国の歴史や文化の中には存在しない、日本独自の文化であるがゆえに魅力的なのだと思います。

甲冑、日本刀、城など、深い知識がなくても、サムライを象徴するようなものについても、なんとなく「カッコいい」という印象を持つ外国人も多いと思いますし、日本に来ないと見られないものですから、ぜひとも見ておきたいと思うのは当然だと思います(オーストラリアに行ったら、コアラを抱っこする。アボリジニの聖地エアーズロックに行くのと同じです)。

『七人の侍』など黒澤映画からサムライ文化に興味を持った人は多いと思います。そのほか『SHOGUN』『ラストサムライ』などを見て好きになった人もいるでしょうし、本では『MUSASHI』(吉川英治)『47 RONIN』などを読んで興味を持った人もいると思います。

札幌に留学していた高校時代に「MUSASHI」を読んで、サムライというものに、より深く興味を持ちました。サムライ関係の黒澤映画は全部見ています。子供の頃は、オーストラリアで日本のテレビ時代劇『隠密剣士』を見て、カッコいいなと思った記憶もあります。
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※『隠密剣士』は、1962年から65年までTBS系で毎週日曜、全128話に渡って放映された大瀬康一主演の連続テレビ時代劇。忍者ブームの火付け役だそうです。すいません。日本人ですけど、ぼくは知りませんでした。

隠密剣士の歌(ひばり児童合唱団)
https://www.youtube.com/watch?v=z_i1_0SPd-g

日本文化に精通したクリスさんの話は、言われてみると、なるほどそうかとあらためて気づかされることばかりです。彼ほど詳しくない一般の外国人にとってのサムライがらみのスポットの人気も「日本にしかない独自の文化だから見たいのだ」という理由が大きいのですね。

こういう当たり前のことに、意外と我々は気づいていないようです。

クリスさんの所属するパスト・プレゼント・フューチャーの加藤由佳さんは、以下のように彼のサムライ好きの理由を説明してくれました。

「彼が日本文化に興味を持ったのは、日本びいきだった祖父の影響が大きいようです。祖父から聞く日本の話や祖父の家にあった民芸品、伝統工芸品を見て育ったことをきっかけに、日本に興味を持つようになり、16歳で日本に留学。以来、日本の歴史文化を積極的に勉強し、知識を深めています。このときに、先生からもらった吉川英治の『宮本武蔵』を読み、サムライの世界に引き込まれています。城への興味も、元々はサムライから入っています。サムライたちが生きた場所、戦った場所であること、また軍事施設でありながら、美しさもあるという点、城の建築美、建築技術、軍事施設としての機能性など、さまざまな点で興味深いようです」。

パスト・プレゼント・フューチャー
http://www.ppfppf.com/

彼は、いったい日本びいきのおじいさんからどんな影響を受けたのだろう。おじいさんが日本でどんな経験をし、彼にどんな話として聞かせてくれたのか。また、彼の来日直後に起きた甲冑師の先生との運命的な出会いとはどのようなものだったのか……。

これらの話は、昨年刊行されたクリスさんの著書『豪州人歴史愛好家、名城を行く』(宝島社)に書かれています。
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次回は、いまや「インバウンド観光アドバイザー」として活躍するクリスさんの日本の観光PRに関する提言を紹介したいと思います。ポイントは、外国人の視点を理解することの大切さだそうです。

あなたは日本の文化や歴史を外国人に説明できますか?
http://inbound.exblog.jp/25865610/
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by sanyo-kansatu | 2016-06-01 13:19 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 05月 30日

中国の富豪たちがショックを受ける町 「大阪・富田林」を歩く

現在発売中の「Forbes JAPAN」2016年07月号は「億万長者の謎」特集です。
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http://forbesjapan.com/magazines/detail/50

同誌に以下の中国人富豪についてのコラムを寄稿しました。転載します。

中国の富豪たちがショックを受ける町 
「大阪・富田林」を歩く


中国人観光客というと、すぐに「爆買い」のイメージと結びつけられるが、本物の中国人富豪たちの来日目的は少し異なるという。

「そもそも富裕層はドラッグストアで爆買いなんてしませんよ」

こう語るのは、中国からやってくる超VIPたちから直接指名を受ける通訳ガイドの水谷浩。彼の顧客リストには日本人でもメディアを通じてよく知る中国企業の大物幹部たちがズラリと並ぶ。

彼がアテンドする中国の上級富裕層の人たちは、どんな目的をもって日本にやってくるのだろう。ビジネス半分、観光半分の「視察」もあれば、プライベートな家族旅行もある。世代によってその目的は異なるし、いわゆる「爆買い」でもドラックストアで化粧品や医薬品を大量に買うのとは大きく違う。

例えば、中国の巨大グループ総帥夫人は、京都で明の時代の銀の香炉(650万円)をカードで一括購入した。前回の来日時に日本全国の骨董店を訪ね歩き、目星をつけていたらしい。そして、「朋友(友達)」と称するプロの鑑定家をわざわざそのために同行させて、真贋を確認したうえで購入したという。

中国には若くして成功し40代で巨万の富を築いたIT企業家たちも少なくないが、いつもはビジネスや投資の話に目ざとい彼らの異なる一面を見たこともある。グループ幹部を召集した京都での会議で、息抜きに鴨川沿いをサイクリングしながら観光案内した際、ふだんは見せない気さくな素顔を見せたという。

中国ではありえない「歴史の連続性」
 
さて、その水谷が、中国のハイクラスな富裕層を相手に「この町を案内してハズしたことはない」と断言するのが大阪の富田林だ。PL教団の大本庁や、同教団が主催する夏の花火で知られる富田林だが、実は大阪で唯一の、国が指定する重要伝統的建造物群保存地区がここにはある。

寺内町(じないまち)と呼ばれるこの地区は、400年以上前に織田信長と戦っていた「宗教自治都市」で、高台の上に要塞としてつくられ、古くは江戸時代から明治、大正、昭和前期までに建てられた寺院や民家が並び、いまもそこで人々が暮らしている。

南北6筋、東西8筋の道路で整然と区画された町内には、瓦ぶきの美しい町屋が連なる。日本人にとっても魅力的なのだが、とりわけ中国の人たちには強いカルチャーショックを与えるのだという。

中国の富裕層の人たちが富田林に魅せられる理由について水谷はこう説明する。

「中国の人たちは、改革開放以降、スクラップ&ビルドの世界で生きてきた。歴史ある古鎮もすべてつくり変えられ、テーマパーク化した。ところが、ここでは200年前の民家がいまも残り、しかもそこで生活している人がいる。それが信じられないのでしょう」

中国の人たちは概して日本の歴史には詳しくない。京都は確かに中国でも知られている古都だが、観光地化が進んでおり、中国人観光客があふれているのも気に入らない。特権意識の強い富裕層はそのような俗っぽい場所を避けたいと思うのだ。

一方富田林は、彼らの目には、明の時代(14 ~17 世紀)に栄えた中国江南地方の水郷古鎮の文化の影響を受けているように見えるらしい。すでに中国には残っていないものが、日本になぜあるのか? 中国ではありえない「歴史の連続性」に、彼らは虚を突かれたような思いがするのであろう。

日本を真剣に見たい

この2月に東京で開かれた富裕層向け旅行商談会「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット・ジャパン」で、エキジビション・ディレクターをつとめたアリソン・ギルモアは「世界の富裕層の旅行にはクラシックモデルとニューモデルの2タイプがある」という。

前者は多くが新興国の一代で富を築いた社会的成功者の人たちで、豪華さやステータスを求める旅であるのに対し、後者は先進国の成熟した富裕層が中心で、より精神的な価値を求める傾向にあるという。

中国の富裕層の特徴について水谷はこう語る。「彼らはまさに創業者世代。改革開放後の30年間を裸一貫でのし上がってきたパワフルな人たちで、日本に来ると、常に最高級でなければ満足しない。ホテルは5つ星クラスで、食事もミシュラン級。要望が細かく、無理難題も多いので、毎回が格闘だ」

その意味では中国の大半の富裕層旅行の内実はクラシックモデルに属するといえる。ただし、水谷がそれだけではないと思うのは、富田林の歴史的価値に気づくような深い洞察力を持ち、日本の姿を真剣に見てみたいという人たちが確かにいるからだ。

「彼らはほんの上澄みにすぎない。だが、それだけに自分の仕事はやりがいがある」

ある国営銀行の頭取夫人は、中学を卒業したばかりの息子を連れて日本へ旅行に来たとき、水谷の案内で富田林と高野山を訪ねた。夫人は「米国留学の決まった息子に、中国と違う日本を一度見せておきたかった」と語ったという。

いま、中国の富裕層の人たちの中にも、富田林に象徴されるような、精神的価値に重きを置くニューモデルの旅が現れつつある。

※この記事に出てくる水谷浩さんについては、以下参照のこと。

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル
http://inbound.exblog.jp/24489096/
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by sanyo-kansatu | 2016-05-30 21:55 | のんしゃらん中国論 | Comments(1)
2016年 02月 02日

無味脱色された2000年代文革系サブカル雑貨のルーツは何だったのか

2月に入り、中国の旧正月(春節)が近づいてきたせいか、都内でも中華系の個人客の姿をよく見かけるようになりました。

そんな折、正月ムードに水を差すつもりはないのですが、今週土曜、専修大学で興味深い映画上映会があります。
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中国のドキュメンタリー映像作家の胡傑監督の2本の上映会です。実は、胡傑監督は2013年12月14日に同大学で自作品を語る講演をしています。

文革時の蛮行をザンゲする元紅衛兵たち
http://inbound.exblog.jp/21886549/

これらの上映イベントを主催されているのは、専修大学の土屋昌明教授です。

個人的には、文革中に制作されたプロパガンダ・ポスターに関するドキュメンタリー作品「文革宣伝画」に興味があります。なぜなら、2000年代に入って中国では、文革時代のポスターがサブカル雑貨として広く若者に支持されていたからです。この無味脱色された文革系サブカル雑貨のルーツである1960~70年代当時のポスターの制作者やコレクターのインタビューを含む内容らしく、とても興味深いです。

中国の文革系サブカル雑貨は日本の1970年風?
http://inbound.exblog.jp/21881593/

イベントの告知は以下のとおりです。

封印された中国現代史に向かい合う(第3回)

⦿上映と討論…………………………………………………………

胡傑監督 インディペンデント・ドキュメンタリー作品
「星火」 字幕修訂版
「文革宣伝画」本邦初公開!

場所:専修大学神田校舎(地下鉄神保町)
日時:2016年2月6日(土)
「星火」上映 14:00 ~ 15:40 終了後討論30分 102 教室
「文革宣伝画」上映 16:30 ~ 17:40 終了後討論1時間 102 教室
参加自由、申込み不要

コメント:土屋 昌明(専修大学社会科学研究所)
主催・問合せ:専修大学社会科学研究所特別研究助成土屋グループ
the0561@isc.senshu-u.ac.jp

❖作品「星火」は、1960 年中国甘粛省で発生した、知識人による反体制地下活動に対する政権の弾圧事件を扱ったドキュメンタリーである。
❖作品「文革宣伝画」は、文革中に作成されたプロパガンダ・ポスターの作家たちやコレクターにインタビューして、プロパガンダ・ポスターとは何なのかを追及したドキュメンタリーである。

以下、個人的に国内外で出くわした現代における文革サブカルシーンを紹介しています。

池袋にできた「文革レストラン」に行ってきました
http://inbound.exblog.jp/21475188/
これが本場中国の「文革レストラン」です
http://inbound.exblog.jp/21480153/
池袋の「文革レストラン」再訪。紅衛兵コスプレ美女に会う
http://inbound.exblog.jp/21710468/
困るよな。習近平の時代になってますます世の中は厄介になってきた
http://inbound.exblog.jp/24539952/
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by sanyo-kansatu | 2016-02-02 08:09 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)
2015年 12月 27日

中国独立電影は中国版ヌーヴェルヴァーグだと思う

今日は中国インディペンデント映画祭2015の最終日です。

その後、以下の2本を観ました。それぞれまったく異なる世界で、飽きさせることがない映画祭です。

幻想曲 / Fantasia
2014年 / 86分 / 字幕 JP
監督:王超(ワン・チャオ)
http://cifft.net/gensou.htm

この作品は中国出張によく同行する友人とふたりで観にいきました。友人は同じ王超監督の『安陽の赤ちゃん』も観ていて、監督のトークショーを聞いたそうです。彼によると、王監督は実生活でも相当苦労した人で、作品からは中国庶民のある種救いのない悲哀と、それでもなんとか生きていこうとする思いが伝わってくるそうです。

4人家族の大黒柱だった父親が白血病で倒れ、輸血や治療が必要なため、そのたびに2万元(40万円)相当の治療費がかかります。最初は職場が負担してくれていたのですが、何度も倒れることから、職場の上司は今後半分しか治療費を負担できないと妻に告げます。

昔中国歌劇の女優だった妻は牛乳配達を始めますが、そんなことでは治療費はとても足りません。その姿を見て、長女はナイトクラブに勤めます。ホテルからの朝帰りでタクシーから降りると、牛乳配達している母親と鉢合わせてしまうシーンが印象的です。その後、長女は1万元を友人から借りたと言って手渡しますが、それを素直に受け取ることができない母は厨房で涙にくれます。しかも長女は後日、クラブの客から妊娠させられ、堕胎手術のために母と病院に行くことになります。

家族が崩壊していくなか、弟は学校に行くのをやめてしまいます。重慶が舞台のこの物語では、長江の風景がしばしば映し出されます。彼は学校をさぼって、廃品回収業者の仕事を手伝い、小銭を稼ぐことを始めます。その業者の仲間に同じ年ごろの娘がいます。彼女は人身売買で売られた少女でしたが、彼はほのかな思いを寄せます。物語は弟が彼女に会うため、長江のほとりに行くと、業者の船はすでにこの地を去ったことがわかるというシーンで終わります。

作品を観たあと、友人は言いました。「まったくこれが中国庶民の世界だよね。これまで自分が出会ってきた中国人を見ていると、この物語ほど深刻でないとしても、だいたいこのような境遇に近く、こういう人たちが普通に生きているのがいまの中国だ」というのです。「そうなんだよねえ…」。ぼくもそう応えるほかありませんでした。

でも、彼はこんなことも言います。「王監督の作品は、まるで自分が映像の中に入って、物語の登場人物のそばにいるような感じがする。たとえば、街のシーンで耳に飛び込む車のクラクションや人々の声など、自分が中国にいるときに聞いているものと同じで、不思議な懐かしさを覚えてしまう」。

これも同感です。中国独立電影の作品の中には、カメラを街に持ち出し、世界をそのまま切り取ろうとしているものが多く、「ロケ撮影中心、同時録音、即興演出などの手法」を駆使するヌーヴェルヴァーグの中国版と呼びうるのではないかと思います。

もちろん、中国独立電影の作品はそのようなものばかりではありません。昨日観た『K』は、カフカの小説『城』を内モンゴルに舞台を置き換えた不条理劇でした。

K
2015年 / 88分 / 字幕 JP+EN
監督:Emyr ap Richard、額德尼宝力格(ダルハド・エルデニブラグ)
http://cifft.net/k.htm

監督は内モンゴル在住の英国人と、ゴーストタウンで有名になったオルドス出身のモンゴル族の共作で、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)がプロデューサーをしているそうです。物語自体はカフカの世界の映像化ですから、だいたい想像がつくと思いますし、実際そのとおりなのですが、ロケ地も登場人物も内モンゴル自治区の砂漠地帯で行っているというのが興味深いです。

せりふも当然モンゴル語でしたし、学校の教室のシーンで黒板に書かれているのは、縦書きのモンゴル文字でした。モンゴル語の発音というのは、少し韓国語に似ている気がしましたが、登場人物の中にはずいぶんエキゾチックな顔立ちをした人たちもいます。ロシアと中国にはさまれたモンゴルというマージナルな世界の実像をよく知らない自分のような人間には、不条理劇の舞台としてこれほどふさわしい場所はないのではないかとすら思わせます。
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by sanyo-kansatu | 2015-12-27 16:28 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)
2015年 12月 24日

中国のろくでなしバックパッカー詩人は新疆ウイグルの辺境をさまよう

「中国インディペンデント映画祭2015」の続きです。

その後、年末のさすがに忙しいさなかですが、なんとか仕事の合間を縫って、東中野ポレポレに通っています。昨日までに以下の3本を観ました。それぞれまったくバックグランドの異なる物語ですが、映像を通じて地の果てまで連れていってもらえるので、ただただ感心したり、驚いたり、ときに呆れたりしつつ、毎回飽きずに眺めています。

まず「癡(ち)」という作品から。

監督は四川省出身の邱炯炯(チュウ・ジョンジョン)。中国で1950年代後半に起きた反右派闘争で強制収容所に入れられた実在の人物の人生を再現した作品です。ご本人の語りとスタジオで再現された舞台劇で構成されています。監督はもともと現代アートの作家でもあり、凝った舞台美術の世界は、1970年代の日本の小劇場のようでもありました。この監督、2年前の映画祭では、北京の自殺したゲイのダンサーの語りをノンフィクション作品(「マダム」)としてまとめています。
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「癡(ち)」
癡 / Mr. Zhang Believes
2015年 / 134分 / 字幕 JP
監督:邱炯炯(チュウ・ジョンジョン)
http://cifft.net/chi.htm

次は「最後の木こりたち」という作品。中国最北端に位置する黒龍江省の山にこもって厳寒の真冬に4か月かけて木を伐採する男たちの仕事と生活を延々と映像で記録したドキュメンタリーです。近年まれにみる男臭い世界でした。ぼくは最初、黒龍江省の西北端にある興安嶺が舞台かと思っていたら、ハルビン市の南にある五常市の山林の伐採の話でした。この映像が撮られたのは、2004年のことで、一度07年に公開した旧編集版があるのですが、監督は昨年になって新たな再編集版をつくり直したのだそうです。

ちなみに、なぜこんなに寒い時期に伐採をしなければならないのでしょうか。作品を観た後、映画祭の主催者である中山大樹さんがいらしたので、「素朴な質問なんですが…」と尋ねてみたら、「映像をご覧になったのでわかると思いますが、伐採した木材を山から下すには、雪があるほうが滑らせることができて楽だからです」。やっぱり、そういうことですか。ちなみに、その年をもって五常市では森林伐採は禁止されたそうです。だから「最後の木こりたち」というわけです。
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「最後の木こりたち(2014年版)」
木帮 / Timber Gang
2014年 / 111分 / 字幕 JP+EN+CH
監督:于広義(ユー・グアンイー)
http://cifft.net/kikori.htm

そして、昨日観たのが「詩人、出張スル」です。上海在住の30歳の詩人が新疆ウイグル自治区をひとり旅するロードムービーですが、実際の映像が撮られたのは2002年。監督は10数年後になってようやく編集に着手し、今年初めて作品化したそうです。現在の高層ビルが立ち並ぶ新疆の都市とはまったく違う素朴な風景が映しだされていて、いまとなっては貴重な映像です。2000年代に生まれた中国版バックパッカー「背包族」のはしりのような話ともいえます。
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「詩人、出張スル」
詩人出差了/Poet on a Business Trip
2014年 / 103分 / 字幕 JP+EN+CH
監督:雎安奇(ジュー・アンチ)
http://cifft.net/shijin.htm

さて、表向きの作品紹介はそこまでとして、このロードムービー、観る人がみたら、ろくでなし映画といえなくもありません。というのも、主人公は40日間新疆ウイグルを旅しながら、そこらかしこで買春をしているからです。上映後の監督の話では16人の女を買って、それをすべて映像に収めたそうですが(こういうとき、中国人というのは実に率直だなあと思います)、結局のところ、編集作業を通じて残された買春シーンは2、3の場面のみでした。もちろん、この作品は実録映画ではなく、あくまでフィクションという設定なのですが。

そのうちひとつは漢族の女とカラオケをするシーン。そこで女は中国最辺境の地、新疆にまで流れて身を売る女たちの生き方について語ります。東北や四川の女たちはお金が目当てだが、自分はそれだけではない。30歳までに幸せな結婚をしたいと語っていました。こういう境遇の女がいかにも言いそうな話です。

もうひとつは、ウイグルの女を買春するシーンで、これは無修正のまま、性交する姿が映されます。女は「あんたは新疆まで来てあちこちで女を買っているのだろう。どこそこ(いくつかの新疆の地名が出てきます)の女はどうだったか」などと聞いてきます。そして、ことがすんだあと、「私と結婚してくれ。そうすれば、上海でもどこでも好きな場所に行けるから」と冗談まじりに主人公に言います。

まったくこの映像をいまのイスラム国の人にでも見せたら大変なことになるぞ、といいたくなるような、あいかわらずの漢族の無頓着さが気になりますが(だって、この映像を公開することについて、登場してきた女たちに了解など取っていないでしょうから)確かに2000年代の前半は、まだ漢族と新疆ウイグル族の関係は、いまほど悪化はしていなかったのでしょう。

とはいえ、詩人というのは本当に役得というべきか、このろくでもない旅が、なぜかそんなに嫌味でもないのです。ロードムービーというのは、風景がどんどん変わっていくぶん、観る人を飽きさせないところがあるせいか、いつ終わりが来るともしれない男の旅を見入ってしまうのです。

この作品の特徴として、ストーリーの合間に16本の詩が挿入されます。とてもいいです。ただ、この作品を通して、40日間詩人に向かってカメラを回し続けた監督は何を伝えたかったのか。

まあそれが何かと口にしてしまうと、あっけない気もするので、聞く必要はないのかもしれません。

中国独立電影の世界は実に多種多様で、つかみどころがなく、でもなんとなく、いまの中国人がどのように生きているかを教えてくれます。
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by sanyo-kansatu | 2015-12-24 10:03 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)
2015年 12月 17日

「中国インディペンデント映画祭2015」が始まりました

今年も今月12日から中国インディペンデント映画祭が始まりました。場所は東中野のポレポレです。2011年に初めてこの映画祭の存在を知り、中国のリアルな世界がとにかく面白く、その後、主催者の中山大樹さんにお話をうかがったり、中国インディペンデント映画界の中心地である北京の栗憲庭電影基金を訪ねたりしました。

ぼくは映画論やドキュメンタリーの世界に特に精通しているわけではないし、山形ドキュメンタリーフェスティバルのような場所に足を運んだこともなければ、普段インディーズ系の作品を上映している東中野ポレポレにも好んで行くようなタイプではありません。しかし、この映画祭は特別です。中国の独立系映像作家たちが見せてくれる多種多様な世界は、この国の生の感触に触れられる貴重な場だと考えて、なるべく多くの作品を観るようにしています。
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中国インディペンデント映画祭2015(12月12日~27日)
http://cifft.net/index.htm

初日(12日)は初っ端ということで、以下の2作品を観たのですが、相変わらず頭を抱えて考え込んでしまうような中国の重い現実を見せられてしまいました。今回も何人かの監督が来日していて作品上映後、舞台挨拶があります。これもとても興味深いです。
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トラップストリート
水印街 / Trap Street
2013年 / 94分 / 字幕 JP+EN
監督:文晏(ウェン・イェン)
http://cifft.net/trap.htm
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女流監督によるミステリー作品。舞台は南京。主人公は測量士の青年で、前半はほのぼのした恋愛ストーリーなのですが、後半状況が一変します。中国には地図から抹消されている通りがあり、たいてい国家機密に関わる場所だそうです。主人公の青年は無自覚のまま、その通りで出会った女性と恋に落ちますが、その後、機密情報にアクセスしたかどで身柄を拘束され、執拗な尋問を受けます。結局、彼は解放されるのですが、いったい彼女は何者だったのか…。謎は明かされぬまま物語は終わります。

今年春、日本でも上映された『薄氷の殺人』(14)、『春夢』(12)などのプロデューサーとして知られる文晏の監督デビュー作です。公安による尋問シーンを見ながら、今年スパイ容疑で何人かの日本人(実際は、帰化した北朝鮮人、中国人)が中国当局から拘束されましたが、彼らも同じような取り調べを受けているのだと思うと、ゾッとしました。上映後のプロデューサーインタビューのとき、この作品を欧米で上映したとき、会場からスノーデン事件との関連を聞かれたそうです。みんな同じことを考えるものなのですね。あまり知られていない中国社会の一面を知ることになる作品です。

シャドウディズ
鬼日子 / Shadow Days
2014年 / 96分 / 字幕 JP
監督:趙大勇(チャオ・ダーヨン)
http://cifft.net/shadow.htm

2011年の本映画祭で上映されたドキュメンタリー作品『ゴーストタウン(廃城)』(2008)の趙大勇監督による続編ともいうべき作品で、同じ雲南省の廃墟のまちを舞台としたフィクションです。

雲南省の廃墟の町でリス族の歌う賛美歌が美しい(中国インディペンデント映画祭2011 その9)
http://inbound.exblog.jp/20040432/

都会で事件を起こし、警察に追われたこのまち出身の男と彼の子を身ごもった女が叔父の家を訪ねるところからストーリーは始まります。美しい雲南省の山間部のひなびたまちには多くの少数民族が住んでいます。ところが、このまちで産児制限を進める当局は少数民族の妊婦たちを次々と強制堕胎させます。そのリーダーが町長である男の叔父であり、彼もその仕事を手伝います。

ぼくは以前、広西チワン族自治区出身の中国人留学生から自分の村で起きた強制堕胎の話を聞いたことがあります。当時彼の話を聞いても、実際にどんなことが起きていたのか想像できませんでしたが、この作品はまさにそれを映像化したかのような世界でした。当局の男たちが家々を訪ね、逃げ惑う妊婦を数人がかりで捕まえ、病院に連行します。10数人の妊婦たちをトラックの荷台に乗せて運ぶワンシーンが一瞬挿入されていて、これには衝撃を受けました。

しかし、不可解な出来事が続き、男の結婚相手である女も叔父の指示によって強制堕胎され、自殺します。怒りに震える男は叔父を刺し殺すというのが結末です。

今年中国政府は一人っ子政策を廃止することをついに決めましたが、かつて自分たちが着手していた恐るべき政策をどう総括するのでしょうか。この作品が中国で上映できないところをみると、なかったことにしてしまうつもりなのでしょう。監督はこうした非情な歴史を記録しておく必要があると考え、この作品を撮ったのだと思います。中国社会には我々の想像を越えた深刻なテーマが爆弾のように隠されたまま放置されていることをあらためて知らされます。

翌日(13日)は徐童監督の『えぐられた目玉』という作品を観ました。29年前に浮気相手の夫に両目をえぐられ失明するという壮絶な過去をもつ内モンゴルの旅芸人の日々を追ったドキュメンタリーです。

中国の地方都市にはいまでも旅芸人の世界があります。東北では「二人转」と呼ばれる歌う夫婦漫才のような見世物がありますが、内モンゴルでは「二人台」というようです。いかにも徐童監督らしい世界でした。

えぐられた目玉
挖眼睛 / Cut Out the Eyes
2014年 / 79分 / 字幕 JP+EN+CH
監督:徐童(シュー・トン)
http://cifft.net/medama.htm
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※徐童監督については、以下参照。

北京郊外村のシュールな異界(中国インディペンデント映画祭2011 その2)
http://inbound.exblog.jp/17462741/
北京の風俗嬢と農民工生活区のすべて(中国インディペンデント映画祭2011 その6)
http://inbound.exblog.jp/19990728/
中国の成長の代価を負わされた存在をめぐって(中国インディペンデント映画祭2011 その7)
http://inbound.exblog.jp/20015027/

メディアでは知ることのできない中国のリアルな実像に触れてみたい人は、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-12-17 15:26 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)
2015年 10月 09日

旅する画伯が描いた36年前の江南水郷の原風景

目を見張る発展を遂げてきた21世紀の中国。では、いまから60年前はどんな世界だったのだろうか。あるいは、あなたの子供の頃にはどんな風景が広がっていたか、覚えていますか。 

これは長江下流域に点在する江南水郷の36年前の姿を描いたものである。
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「疏影横斜」(1979)高斉環 水彩画

ガイドブックで紹介される観光地化の進んだ今日の水郷ではもう出会うことの難しい、人と水辺の暮らしが溶け合う優美な原風景。うたたねを催すような夢心地の記憶がこうして作品に残されたことは、いまとなっては僥倖と言わねばならないと思う。

高斉環画伯は1935年中国遼寧省遼陽生まれ。幼少より地元の高名な水墨画家から手ほどきを受け、瀋陽に魯迅美術学院が建学された1951 年、わずか15歳ながら1期生として入学を認められるほどの神童だった。卒業後は、黒龍江省ハルビンの美術出版社に画家兼編集者として着任し、東北三省をはじめ桂林や水郷、雲南など全国各地を旅しながら絵筆を執った。1980年代に来日し、日中を往来しながら創作活動を続けてきた。

現在の瀋陽魯迅美術学院
http://www.lumei.edu.cn/

その画歴60年間の集大成となる画集が今年7月東京で刊行された。同画集は、画伯が大学時代にロシア美術を通じて学んだ油絵や水彩画、そしてフランス印象派の手法を中国の水墨画と大胆に融合させた彩墨画のパートに分かれている。独自の作風で描かれる作品世界は、中国の土地でありながら、どこか異国のようでもあり、人を旅に誘う不思議な力を有している。
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■『高斉環画集』(日本芸苑水墨画研究会 定価3000円+税)をお求めになりたい方、また画伯の他の作品についてお尋ねになりたい方は、以下にご連絡ください。

日本芸苑水墨画研究会 gaohong021016@gmail.com
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by sanyo-kansatu | 2015-10-09 15:02 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2015年 08月 23日

映画『ロスト・マンチュリア・サマン』(金大偉監督作品):ロードムービーの舞台としての満洲のいま

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映画「ロスト・マンチュリア・サマン」予告編 監督:金大偉 kintaii
https://www.youtube.com/watch?v=vfjGOSQAc1M

金大偉さんは古い友人である。ふたりの縁は、ぼくが若い頃から彼の出身地である満洲(中国東北地方とその周辺)を何度も訪ねていたことにある。満洲は祖父母が暮らした土地で、そこに暮らす人々や生活に親しみを感じていたからだ。特にこの10年は、ガイドブック編集者として趣味と実益を兼ねた定点観測の旅を続けている。

同じ時期、金さんも満洲を訪ねていることは聞いていた。その目的はかの地にいまも生きる満洲薩満(サマン=シャーマン)を訪ね、伝承された儀式や習俗を収録することにあった。

その話を聞いたとき、うれしかった。彼はついに自分が本来やらなければならない仕事に着手したと思ったからだ。愛新覚羅の血を引く彼こそ真正の満洲薩満の末裔なのだから。

この作品は、自らの役割を胸に秘めた金さんの故郷の地をめぐるロードムービーである。

かつて満洲は広大な森の大地だった。古来さまざまな民族が駆け抜けていった。なかでもこの地の主人公として清朝を建国した満洲族の多くは、現在各地に離散していて、その一部は中国東北地方に点在する農村で静かに暮らしている。彼らの大半はすでに母国語を失い、自らの民族の習俗や伝統を忘れている。それは無理もないことだ。近代以降、多くの森は耕作地として開墾されたうえ、現在のこの地方の主要都市には高層ビルが林立し、各都市間は高速鉄道とハイウェイが張りめぐらされるほど「現代化」が進んでいる。かつてこの地に暮らした日本人が“懐かしの満洲”と呼んだ時代も、もはや過去のものとなっているのだ。

それでも、満洲は広い。都市から車でしばらく離れると、農村風景が広がる。そこには、満洲族の小さな集落があった。彼らは新中国建国から文化大革命に至る混乱の中で息を潜めて耐え忍び、改革開放後、ようやく物置に隠していた太鼓や腰鈴を取り出し、舞い踊り始めていた。サマンの再生である。その儀式を見た金さんは興奮気味にこう語っている。

「凄まじい光景だった。音と神歌のエネルギーが大きく人の心を打つように響いた。狩猟や騎馬民族の力、大自然と人間をつなぐ力。天、地、人が一体となるような迫力だった。私は思わず涙が溢れてきた。音は人間の最も内なる感情を表現するもので、直感的な霊性および次元を超えた「力」が音の中に存在したに違いないと思った」。

金さんは各地のサマンに面会し、インタビューしている。そこで語られる歴史の記憶や民族的な自負の芽生えに勇気づけながらも、こう吐露せざるを得なかった。「中国における満洲民族は、一千万人を超えている中、ほとんど満洲語を話せない。近い将来、この言語は失われるのかも知れない。そう考えると、とても哀しい気持ちになる」。その哀しみの深さを思うとき、ぼくは言葉を失うほかなかった。

この作品は日本で制作されているが、その成り立ちや映像の感触において中国の独立映画と類似していることを指摘しておきたい。政府の検閲を通すことなく自由に製作される中国独立映画は、2000年代に手持ちのビデオの普及によって発展し、さまざまな社会の現場やテーマを扱う作品が主流となっている。彼らは限られた資金ゆえに撮影から音楽、編集まですべて仲間内で担当し、官製メディアが扱わない中国のリアルな実情を追いかけている。ロードムービー的なドキュメンタリーが多いことも特徴だ。残念ながら、習近平政権以降、中国では映画祭すら開催できなくなっているが、2年に1度東京で開催される「中国インディペンデント映画祭」では多くの作品に触れることができる。

来年夏、ぼくはこの作品に出てくる満州族の集落を訪ねたいと思っている。

リアルチャイナ:中国独立電影
http://inbound.exblog.jp/i29/

新しい満洲の話(中国東北の今)
http://inbound.exblog.jp/i25/
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by sanyo-kansatu | 2015-08-23 20:32 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)
2015年 08月 12日

チプサム革命史跡は日本時代の別荘地だったに違いない

清津から七宝山に向かう途中にある鏡城郡で、温堡温泉以外にもうひとつ訪ねたのは、チプサム革命史跡でした。
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「共産主義テーマパーク観光」がその実態である朝鮮旅行では、ほぼ毎日のように革命史跡を訪ねることになるのですが、その大半が虚構の歴史を扱っているとしか思えません。そのため、まじめに観る気にはなれないので、本ブログでもほとんど触れていないのですが、この史跡はちょっと面白かったので、紹介しようと思います。

朝鮮側の資料によると、ここは金正日将軍と金正淑女史の革命事跡だそうです。場所は鏡城郡温大津里チプサム村にあります。

ここでは金親子が滞在したとされる住居が革命史跡として紹介されます。チマチョゴリを着た彼女が、同国のテレビアナウンサーのような滔々とした口調で解説をしてくれます。
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ただし、ガイドたちは彼女の話を通訳する気はなさそうです。かつて日本人旅行者が多かった90年代にはそんなこともなかったのかもしれませんが、いまや圧倒的多数派である中国客は、朝鮮の建国史の唯我独尊ぶりを大ブーイングしてきたことから、彼らも聞かれないかぎり、外国人に通訳しても仕方がないと思うようになったのではないでしょうか。実際、彼ら自身どこまで本気で信じているのかあやしいものです。

興味深いのはその住居の中の様子です。

金日成将軍とその家族がこの家に滞在したことを示す写真が飾られています。といっても、金正淑女史は1949年に亡くなっているそうですから、その少し前に撮られたものでしょう。

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さて、住居の中は当時の日本の文化住宅そのものです。これほどきれいに残されているのは珍しいことではないでしょうか。
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書斎は畳の間になっています。オンドルも敷かれているようです。
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炊事場や倉庫も残されていて、ここはおそらく日本時代の富裕な階層の別荘、あるいは官舎だったのではないでしょうか。
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玄関の雰囲気も、いまの日本ではほとんど見ることのできない昭和の住宅です。
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この住居の周辺は同じような文化住宅が点在していて、戦前の軽井沢のような別荘地の趣があります。通りは整備され、並木もていねいに植えられています。革命史跡ゆえにこれほどきれいに残されたのでしょうが、とにかく朝鮮の人たちは清潔好きで、清掃が行き届いています。これは中国との大きな違いでしょう。
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日本時代の住居は中国東北地方にはもうほぼ残っていませんが、朝鮮には残っている。これも面白い現象です。
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羅先にも同じような革命史跡がありましたが、それも日本の住居でした。こちらもきれいに残されていました。
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by sanyo-kansatu | 2015-08-12 10:35 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2015年 08月 09日

朝鮮七宝山にある開心寺という古刹と乾隆29年製造の鐘

内七宝の山々と奇岩の数々を眺めたあと、開心寺という古刹を訪ねました。
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※2014年7月上旬、北朝鮮咸鏡北道の七宝山を訪ねた話をしています。

七宝山(チルボサン)は金剛山とは似て非なる朝鮮の名峰
http://inbound.exblog.jp/24765755/

朝鮮側の資料によると、この寺は「渤海時代の826年に建てられ、高麗時代の1377年に改築、李朝時代に補修を重ねた。現在の建物は1853年に再築されたもの。大雄殿と万歳楼、深剣堂、応香閣、観音殿、山神閣からなる」とあります。
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大雄殿の中に3体の仏像が置かれ、壁面にはいくつもの曼荼羅が飾られています。
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それぞれの曼荼羅が時代を感じさせます。李朝時代の朝鮮では仏教が排斥されていたそうですから、人里離れた山奥にひっそりと息を潜めていた古刹がこうしていまの朝鮮に残っていることはとても興味深く思います。
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この方が住職です。このような国で住職を務めることがどんな人生を意味するのか、いろいろ聞いてみたいことは山ほどありましたが、こちらもまったく心の準備ができていなかったこともあり、この寺の来歴をうかがうことで精一杯でした。
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13年に金剛山に行ったとき、残念ながら、金剛四大寺院のうち唯一昔のまま現存する表訓寺を訪ねる時間がなかったので、今回はちょっとうれしく思いました。この国で歴史を感じさせるものを見る機会は圧倒的に少ないからです。金剛山の4つの寺院は表訓寺を除いて、朝鮮戦争時に焼き払われてしまっています(もうひとつ正陽寺の一部は残っていて、現在は補修されたようです)。

「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局1936年)によると、「折角の景観も比較的交通不便の地にあるので、探勝者の少ないのは遺憾である」とあるように、戦前期は金剛山が朝鮮を代表する随一の行楽地としてにぎわっていた反面、七宝山はそれほどでもなかったようです。ただ、数少ないとはいえ登山客はいたようで、彼らは開心寺のお堂に宿をとっていたようです。

殿内には「七宝山游山録」「次七寶山原韵」など、この地を訪れた文人の書や漢詩が掲げられていました。
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万歳楼には「乾隆29年」(1764年)に鋳造された青銅鐘があります。この時代の朝鮮は清朝の年号を使っていたのでしょう。
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ここにも記念撮影サービスのパネルが置かれていました。この寺で見かけた唯一俗っぽい物件でした。
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by sanyo-kansatu | 2015-08-09 20:39 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)