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2016年 04月 28日

タイ語版の「るるぶ情報版」を入手。これはなんと斬新な日本だろうか

休暇をとって、以前からずっと訪ねてみたかった地方のまちを旅する楽しさというのは、かけがえのないものです。国内旅行ですから、忙しさにかまけ、関心のある見どころ以外の食事や遊びの情報などは、ネットで事前にあれこれ調べる時間がなくても、新幹線駅の書店でその土地の「るるぶ情報版」をとりあえず買っておけば、ひとまず大丈夫。移動中じっくり予習をする時間はあります。

現地に着くと、さっそく地図にここぞとマーキングした見どころやおいしいと評判のお店などを訪ねてみる。すると、いまどきたいていどこでも外国人の小グループをよく見かけます。

「どうして彼らはこの店を知っているのだろう?」

その理由は、前回書いたとおりです。「るるぶ情報版」の多言語版がいまや海外のふつうの書店で売られているからです。

「るるぶ情報版」(中国語版)が上海の本屋で売られていた!(その意味を考えてみる)
http://inbound.exblog.jp/25723467/

しかも、それは中国や台湾、香港などの中華系の人たちだけでなく、タイやマレーシア、インドネシア、シンガポールといった東南アジアの人たちにまでいえることなのです。

昨日、発行元のJTBパブリッシングに確認したところ、2016年3月現在、以下の国・地域で多言語化された「るるぶ情報版」が発行されています。

■中国本土/中国語簡体字版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2015年12月

■台湾/中国語繁体字版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2015年12月

■香港/中国語繁体字版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2015年12月

■タイ/タイ語版
 タイトル 京都、九州
 発売 2015年2月より随時

■シンガポール/英語版
 タイトル 九州
 2016年3月

■マレーシア/英語版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2016年3月

■インドネシア/インドネシア語版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2016年3月

驚いたことに、タイ語やインドネシア語版まで発行されているんです。実際、タイの出版社のサイトをみると、「new araival」のコーナーに確かに「るるぶ情報版 九州」が見つかりました(右から2番目の本)。タイ語版としては、京都もあります。
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Jamsai(タイの出版社)
http://www.jamsai.com/

JTBパブリッシングさんからタイ語版の「るるぶ京都」をいただきました。この表紙、えらくインパクトがありますね。派手な色使いもそうですが、ふだん見慣れぬタイ語がからむと、いったいここはどこなんじゃ? という気がしてきます。なにしろかの国のお寺はキンキラ金に輝いていますから、このくらいインパクトがあってこそ、彼らの旅心を刺激するということなのかもしれません。
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中もめくってみましょうか。

これは金閣寺のページです。
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これは祇園。
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こちらはグルメページで、京懐石でしょうか。
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最後のこれはお土産ページ。京小物のコーナーです。
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金閣寺や祇園、京料理の写真の合間をはうように綴られるタイ語がなんとも新鮮です。

2015年、約80万人のタイ人観光客が日本を訪れました。すごい勢いで増えています。タイは2013年以降、日本の観光ビザが免除されていますから、多くの場合、個人旅行でやって来ます。特に若い世代の大半はそうで、最近では全国各地で彼らの姿を見かけます。

これは3月末、京都駅で見かけたタイ人の若い女の子の小グループでした。彼女らの誰かひとりくらいは「るるぶ情報版」を手にしているかもしれません。
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タイ人というのは、男の子も女の子もシャイで控えめなところがあり、好感度が高いです。見ていてかわいいので、ぼくは電車の中でタイ人に隣り合わせると、つい声をかけてしまいます。「これからどこ行くの?」「明治神宮」「じゃああと4つめの駅だよ」……。そんなささやかな会話だけでも、ほっこり気分にさせてくれる人たちです。

そんな彼ら彼女たちが、いまや日本人と同じ内容が書かれた「るるぶ情報版」を手にしている、つまり同じ情報源をもとに旅しているのだとしたら、これからもいろんな場所で彼らと出会う機会は増えることになりそうです。

ひとつ気がかりなのは、先般の熊本の地震です。当時そこそこ多くのタイ人が熊本に個人旅行していたようです。タイ人の知り合いに聞くと、「本当に怖かった」「もう2度と日本には来たくない」とトラウマになってしまった人もいるそうです。

無理もありません。生まれてこのかた、彼らはあのように大地が激しく震える体験などしたことがないからです。

である以上、今後はただ「来てくれ」というメッセージだけでなく、もっと地震に対する外国人の心のケアを考えた情報発信に努めていく必要がありそうです。安全情報の出し方も、「もう大丈夫」といくら日本人が言っても、彼らは素直に受け取る気持ちにはなれないかもしれません。彼らにすれば、「あななたち(日本人)はなぜそんなに平気なの?」と、かえって不信感を募らせてしまうかもしれないからです。東日本大震災後の被災者の冷静なふるまいが世界的に賞賛されたのは事実ですが、それを外国人に求めるのはコクというものです。

外客向けの情報提供において、非常時の対策や心のケアをもっと充実して行かなければならないと思いました。
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by sanyo-kansatu | 2016-04-28 12:23 | “参与観察”日誌 | Comments(2)
2016年 04月 28日

「るるぶ情報版」(中国語版)が上海の本屋で売られていた!(その意味を考えてみる)

先月、上海出張に行った折、現地の本屋で中国語版の「るるぶ情報版」が売られているのを見つけました。

そういうと、それ海賊版じゃないの? つっこみが入りそうですが、正真正銘、現地の出版社から発行されたものでした。中国旅游出版社は、数多くの旅行書を手がけている大手出版社です。
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中国旅游出版社
http://www.cttp.net.cn/
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同書を見つけたのは、地下鉄中山公園駅のそばにある新華書店です。そんなに大きな店ではありませんが、1階に旅行書籍のコーナーがあり、平積みにされていたのは「京都」「九州」「北海道」です。
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このシリーズは、訪日中国客のために、もともと日本の読者向けにつくられたガイドブックをそのまま翻訳したものなのです。

3月中旬のことで、その書店では「春の旅行コーナー」というささやかなディスプレイがあり、いくつかのセレクトした旅行書を壁に並べています。そのなかに「るるぶ九州」や他の現地出版社がつくった東京ガイド書が2冊もあります。いま上海でいかに日本旅行がブームになっているか、よくわかる光景です。
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もともと「るるぶ情報版」は「見る」「食べる」「遊ぶ」を重視したガイドブックとして、1984年に誕生したものです。読者ターゲットは、当時最も積極的に旅を楽しんでいた20代後半から30代の女性。国内、海外のシリーズ版が続々発行され、2000年代以降は「練馬区」「港区」といったローカル版、「萌えるるぶ」というようなテーマ性の高い巻まで、さまざまな旅行ニーズを商品化してきました。いわばこの30年間の日本の若い女性の旅のトレンドを牽引してきた媒体といえるでしょう。2010年には「発行点数世界最多の旅行ガイドシリーズ」(Longest book series-travel guides)としてギネス世界記録™にも認定されています。

何より興味深いのは、創刊以来ターゲットとしてきた日本の若い女性向けの国内旅行のバイブルが、いまや中国の読者の手にも渡り、日本を旅する時代になってきたことを意味することです。

帰国後以下のリリースを見つけました。

るるぶ『OMOTENASHI Travel Guide』「北海道」「東京」「京都」「九州」「沖縄」
中国全土主要都市で12月15日より順次発売開始!
http://www.jtbpublishing.com/newsrelease/20151216255.pdf

これによると、「まずは12月15日に中国全土の主要都市にて「北海道」「東京」「京都」「九州」「沖縄」の5タイトルを発売」「同じく12月15日に台湾で「東京」「北海道」、12月28日に「京都」・「沖縄」を発売」しているそうです。

「るるぶ情報版」のような旅行メディアは、基本的に個人客向けのものです。団体ツアーでは、この本に載っているようなお店を自由に訪ねまわることは難しいからです。昨年中国から訪日する個人客がぐっと増えた時代にうまくはまった企画といえそうです。

ただし、ちょっと気になることもあります。「るるぶ情報版」のような「情報誌」は、きわめて日本に特有のメディアでもあるからです。1980年代にいっせいに花開いた「情報誌」は、いうまでもないことですが、「ネット以前」に生まれたものです。その特徴は、限られた誌面に写真とテキストを魅力的かつ、なるべくたくさん、しかも器用に詰め込むもので、日本人好みの職人芸といっていいほどの完成度です。日本の幕の内弁当的な世界観が見事なまでに体現された世界といってもいいでしょう。
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しかし、今日の大半のアジアの旅行者たちは、「ネット以後」に海外旅行を体験するようになった人たちです。情報は紙ではなく、ネットで得るというのが日常です。ゆえに、日本の「情報誌」を読み、活用することがどれほどできるかについては、疑問がないわけではありません。

こういっても、ピンとこないかもしれません。日本人は「ネット以前」から「以後」にいたる今日まで、情報誌を活用しながら、その後はネットも使うという両刀遣いで消費生活を送ってきたからです。しかし、彼らは情報はネットで取るというスタイルから始まっているために、読み方を知らないかもしれないのです。彼らにすれば、なぜ1ページにこんなにたくさんの情報がごちゃごちゃと詰め込まれなければならないのか、その理由が理解できません。文字が小さすぎて、見にくいと思う人もいるでしょう。

またネット情報では、特定の店の住所や地図がクリックひとつでわかりますが、紙媒体の場合、店と地図はたいてい別のページにあるため、探すのが面倒というだけでなく、そもそも探し方を知らない可能性があります。たとえば、日本人であれば、「MAP p●●-3C」という表記が「●●ページの地図の格子で分けられた3Cの位置にある」ことを理解していると思いますが、情報誌を未体験の人たちにとっては、そんな約束事を知らないかもしれないのです。

その意味で、上記リリースの冒頭の以下の文面を読んだとき、なるほどと思ったものです。

「るるぶ『OMOTENASHI Travel Guide』は、「九州日本」を2015年3月24日に台湾・香港・マレーシア・シンガポールで発売し、11月に台湾・香港では増刷するなど、ベストセラーを続けています」。

そう、この多言語版シリーズの第一弾は、いち早く昨年3月に台湾や香港などで発売されていたのです。実は、これらの地域は、早い時期から角川グループなどの日本の「情報誌」メディアが進出していました。この地域の人たちは情報誌を体験済みなのです。先行的にこの地域で発売するというのは利にかなっています。

では、中国本土で発売された「るるぶ情報版」の売れ行きはどうなのでしょうか?

実は、昨日発行元であるJTBパブリッシングの担当者に取材することができました。

その話は、別の媒体で記事化することが決まっています。同媒体の多言語版発行の狙いや現地における読者ターゲット、制作にあたっての苦労などについては、あらためてお伝えしたいと思います。

※日経BPネット
「るるぶ」多言語版がアジアで人気、日本人と同じ旅行書を手に日本を旅する(2016年5月11日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/051100012/
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by sanyo-kansatu | 2016-04-28 11:08 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 02月 12日

本日、鄭世彬さん(日本薬粧研究家)の『爆買いの正体』が発売されます

2月12日(金)、『爆買いの正体』(飛鳥新社)という本が発売になります。
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著者は「爆買いの仕掛け人」と称される台湾人作家の鄭世彬(チェン・スウビン)さんで、ぼくは本文構成を担当しています。

鄭世彬さんの肩書は、日本薬粧研究家です。耳慣れないことばですが、文字どおり日本の薬や化粧品、美容・健康商品の専門家で、すでに台湾、中国で11冊の本を上梓している人物です。念のためにいうと、1980年台南生まれの男性です。

内容はひとことでいえば、昨年新語・流行語大賞を受賞した「爆買い」はどうして起きたのか。その背景を台湾人の目を通して語ってもらうというものです。ここ数年メディアをにぎわせていた「爆買い」ルポとはまったく違う内容となっています。「爆買い」の当事者が語る本質を突いた指摘が次々と出てきます。「爆買い」を経済現象としてみるのではなく、民族的、歴史的な背景をもった文化現象として描いていることが本書の大きな特徴です。

さらに、この本は台湾人によるあふれんばかりの日本愛の告白書でもあります。なぜ台湾の人たちがこれほど日本の製品を愛好してくれるのか、その理由を熱く語ってくれています。

鄭世彬さんとはちょうど1年前、あるきっかけで出会いました。その後、この本をつくるために何度も彼に会い、話し合ったのですが、日本の美点を語るその内容は少々買いかぶりだと思うよ…。そう戸惑いながらも、彼のまっすぐな日本を見つめる姿にほだされてしまいました。ちょっと内向き、排外的な気分の蔓延するこの国で、彼のことばはみんなを心穏やかにしてくれること請け合いです。

鄭さんについては、以下の日経BPネットのぼくの連載(ニッポンのインバウンド舞台裏)の中でもインタビュー記事として簡単に紹介しています。

「爆買いの仕掛け人」に聞く【前編】 元祖「爆買い」は90年代の台湾人
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/012900004/

「爆買いの仕掛け人」に聞く【後編】 買いだめは華人の本能。一過性のものではない
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/021200006/

…とまあそんなわけで、ぜひ本書をお買い上げいただきたい。またお知り合い、ご友人にこの本のウワサを広めていただきましたら、望外の喜びです。

『爆買いの正体』(鄭世彬著 飛鳥新社)
2016年2月12日発売

http://goo.gl/DXhOMa

なにとぞよろしくお願いします。

本書のあとがきとして、ぼくも以下の文章を書いています。そこでは、彼との出会いのきっかけについて紹介しています。

鄭世彬さんとの出会い

 2015年2月中旬、私は上海の書店で一冊の奇妙な中国書を目にした。『東京コスメショッピング全書(东京美妆品购物全书)』と題されたオール4色刷のムック本で、旅行書籍のコーナーで異彩を放っていた。海外旅行が解禁されて10数年がたった中国では、世界一周旅行記や欧州でのヒッチハイク体験記など、ちょうど日本の1970年代に似た海外ひとり旅の体験を披露する旅行書が続々と現れていた。だが、日本の医薬品や化粧品のお土産購入指南という特定の消費分野に絞った、いわば80年代型のモノカタログ的なガイド書を見たのは初めてだった。

 私はこれまで経済成長に伴い拡大するアジア各国の海外旅行市場をウォッチングしてきた。編集者として常に気にしていたのが、海外の同業者たちがつくる旅行書だった。それぞれのマーケットの特性や成熟度、嗜好を表すひとつの指標になるからだ。

 帰国後、日本国内では春節で中国人観光客が「爆買い」する報道でにぎわっていた。当然、私はこの本と中国客とのつながりを直感した。あらためて著者プロフィールをみると、「台南人」とある。やはりそうか、この種の本を書けるのは、いまの中国人ではなく、80年代から長く日本の旅行に親しんできた台湾人だったろうと納得した。

 とはいえ、いったいこの本はどんな動機でどのような人物によって書かれたのか。また読者はどのような人たちなのか…。さまざまな問いが頭をめぐり、私はネットで「鄭世彬」という名を検索した。すぐに彼のフェイスブックページが見つかった。そこで、簡単な自己紹介を添えて彼にメッセージを送ることにした。すると、わずか数分後、彼から返信が届いた。

 以上が私と鄭世彬さんの出会いの経緯である。その先も早かった。彼は3月上旬、新刊の取材のために来日するという。フェイスブックで友だち申請してから10日後のことだった。

 都内の宿泊先に近い小さな喫茶店で話を聞いた。最初に私はこの本の執筆動機について尋ねた。すでに著書のある専門家にする質問である以上、出版の内容とその狙いを問うビジネストークのつもりだったが、彼は意外にも自分の少年時代の日本語との出会いを話し始めた。

 話を聞きながら、どうやら彼はマーケティングとかコンサルティングという領域の人ではなく、作家性をもった人物であると思った。数日後、幕張メッセで開かれていた日本ドラッグストアショーを視察する彼に同行した。すでに彼は多くの日本の医薬品メーカー関係者の知己を得ており、貴重な情報収集の場だったことを知った。彼の取材に協力を惜しまなかった日本家庭薬協会のブースを訪ねると、レトロな家庭常備薬のパッケージが並ぶ展示の片隅に、彼が昨年1月に台湾で出版した『日本家庭藥』が置かれていた。そのとき、彼は自分がいちばん出したかったのはこの本だったと語った。

 同書は日本の家庭薬がこれほど人々の生活に根づき、今日のドラックストアに見られるように文化として花開いた背景に、100年以上続く老舗企業の存在があり、その歴史を日本の医薬品を愛好してやまない台湾の読者向けに紹介する内容だった。これを聞いて、少々大げさかもしれないが、彼はこれからの日本にとって大切な人になるだろうと私は確信した。

 鄭世彬さんは、日本の医薬品や化粧品、美容・健康商品の専門家であると同時に、自ら「爆買い」する消費者であり、日本における「爆買い」の現場をよく知るフィールドワーカーでもある。何より驚くべきは、彼の発信する情報が10数億という人口を抱える中華圏に広まり、「爆買い」客を誘引したことだ。

 そんな彼が本書で語る「爆買い」に関する認識は我々に多くの知見を与えてくれる。華人にとって「爆買い」は本能である。面子、関係(グァンシー)、血縁を大切にする文化的背景に加え、根っからの商売人気質ゆえに誰もが転売業者のような買い方をする。それがネットとSNSによって想像を超えた拡散効果と購買の連携を生み、中華圏のみならず、東南アジアへと伝播する可能性も示唆している。

 台湾人の中国観や日本に対する熱い思いも正直に語ってくれた。彼と出会ってこの1年、この本をつくるために何度も会い、話し合った時間はとても有意義なものだった。うれしいことをずいぶん言ってくれるけど、少々買いかぶりすぎじゃないか…。このところ自信をなくしかけていた多くの日本人はそう感じるかもしれない。だが、東日本大震災のときに彼がこぼしたという涙に私もほろりとさせられた。この心優しき台湾人作家の日本に対する信認を知るとき、我々はもっとしっかりしなくちゃと思うのである。
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上海の書店に置かれていた鄭世彬さんの『东京美妆品购物全书』
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by sanyo-kansatu | 2016-02-12 08:02 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 11月 27日

「爆買い」はいつまで続くのか? 500万人市場になった中国インバウンド大盛況の舞台裏

10月下旬、成田発鄭州行き中国南方航空の機内は、日本旅行を終えて帰国の途に就く中国人団体客であふれていた。

同航空が中国内陸部に位置する河南省の省都・鄭州と成田を結ぶ定期便を就航させたのは今年8月下旬のことだ。同機に搭乗していた山西省出身の公務員、李輝さん(31)は5泊6日の日本ツアーをこう振り返る。

「初めての日本の印象は、街が清潔で社会の秩序が安定していること。なかでも東京で訪ねた書店の静かで落ち着いた雰囲気が気に入った」。

同行した夫人や親戚の子連れの夫婦らは買い物三昧の日々だったと李さんは苦笑する。次回の訪日ではひとりで自由に街を歩いてみたいと話す。鄭州空港に着くと、自家用車で3時間かけて自宅のある太原に向かうという。
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河南省中国国際旅行社の東京・大阪ゴールデンルート5泊6日ツアーのチラシ

鄭州市出身の元運転手、丁守現さん(70)夫婦も初めての日本旅行だった。「去年タイに行ったが、日本にも行ってみたかった。日本語がわからず、スケジュール表を見ても自分がどこにいるのかわからない。グループについていくだけだったが、楽しかった」と笑う。

今回のツアーは旅行会社に勤める娘が手配し、代金も出してくれた。東京・大阪ゴールデンルート5泊6日で3500元(7万円)という。

内陸都市が訪日客を送り出す

日本政府観光局(JNTO)の最新リリースによると、2015 年1~10 月の訪日外国人数(推計値)は1631 万人。なかでも中国本土客は前年比2倍増の428万3700人。年間で500万人規模の市場になることが見込まれている。

中国客激増の背景に成田・鄭州便のような内陸都市と日本を結ぶ定期便の大幅な拡充がある。中国からの定期路線が国内最多となる関西国際空港では、11月現在、約40都市からの定期便がある。日本ではそれほど知名度のない江蘇省の塩城や貴州省の貴陽などの地方都市からの定期便が増えていることも今年の大きな変化だ。
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関西国際空港に就航する東アジア路線マップ(関西国際空港のHPより)
http://www.kansai-airport.or.jp/flight/flight_nw/swf/index.html

河南省中国国際旅行社の張東昇日本部部長は「河南省からの訪日旅行は今年始まったばかり。いまは団体旅行が大半だが、日本との直行便ができて今後拡大するだろう」という。

JETROによると、河南省の人口は9406万人で、2014年の省内GDPは3兆4939億元(約70兆円)。台湾やタイなどアセアン諸国をすでに上回っている。1人当たりのGDPも1万ドル前後と中進国の水準だ。
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鄭州の新都心「CBD区」では人工湖の周辺に高層建築が立ち並ぶ

省都の鄭州では新都心の建設もほぼ完成している。今日、中国の主な地方都市に見られる光景は、ちょうど10年前の上海のようだといっていいかもしれない。内陸都市も訪日客を送り出せるだけの経済発展を達成しているのだ。これは今年の中国インバウンドを語るうえでのひとつの大きなトピックである。

「ニッポンヤスイネ(日本便宜)」の時代

さらによく知られたトピックは中国客による「爆買い」だろう。11月上旬、今年の流行語大賞に「爆買い」がノミネートされたが、観光庁の試算によると、2015年7~9月の訪日中国客の旅行消費額は4660億円と全体の半分近く(46.6%)を占め、1人当たりの平均消費額も28万788円とトップ。データからも「爆買い」ぶりが裏付けられている。

中国客激増の背景には、言うまでもなく円安がある。だが、その結果、日中の物価が逆転したことが大きい。

今日の中国都市部に住む一般市民の物価感覚を知るには、たとえば、彼らが朝の通勤タイムに手にしているスターバックスのカフェラテが27元(540円)だといえばわかりやすいかもしれない。これは日本の2倍近い感覚だ。

以下は、上海の観光施設の入場料を東京の類似した施設と比べた例だ。すべて東京より上海が高いことがわかる。

上海動物園 800円(40元)―上野動物園 600円
上海水族館 3200円(160元)―すみだ水族館 2050円
東宝明珠塔 3200円(160元)―東京タワー 1600円
環球金融中心(通称「上海ヒルズ」)展望台 3600円(180元)―東京スカイツリー 3090円(2060円(展望デッキ当日入場券)+1030円(展望回廊))
※すべて大人一般料金(2015年11月現在)。

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環球金融中心(通称「上海ヒルズ」)から眺める上海の夜景

個別に比べると交通運賃など日本のほうが高い例もあるが、大きな階層格差が存在する中国社会で、日本に旅行できるだけの経済力を有する特定の層は、日本よりコスト高の消費生活を送っているのである。だから、彼らにしてみれば、日本は何でも安い国だと感じられる。この機に日本に行かない手はない。そう考えるのは無理もないのだ。中国語が少しわかれば、全国のショッピングモールを訪れた中国客が口々に「ニッポンヤスイネ(日本便宜)」と声を上げる姿を見かけるだろう。

クルーズ激増で東シナ海がレジャーの海に

6月下旬、博多港に上海発の米国クルーズ会社ロイヤルカリビアンが運航する世界で2番目の大きさを誇る豪華客船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が初入港した。同客船は昨年11月にカリブ海でデビューしたばかりだが、世界最速で急拡大するクルーズ市場となった中国に今年から投入されたものだ。

福岡市によると、同船の乗客数は約4450名(中国 約4150名、台湾 約50名 アメリカ 約50名、その他 200名)。過去日本に寄港したクルーズ客船の中で最大規模(総トン数、乗客数)だ。この日、乗務員を含めて約5000人が博多に上陸した。

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カジノやプールもあるクァンタム・オブ・ザ・シーズの船内

中国発クルーズ客船の博多港初寄航は2007年。主な出航地は上海と天津で、今年は264回(11月1日現在 中国発以外も含む)の予定だ。上半期に韓国でMERSが発生した影響で増えたせいもあるが、昨年の115回に対して一気に倍増した。年間で約50万人の中国クルーズ客が上陸することになる。

博多港におけるクルーズ客船寄航回数の昨年までの推移(福岡市クルーズ課より)

2009 外航28 内航14 計42
2010 外航63 内航21 計84
2011 外航32 内航23 計55
2012 外航91 内航21 計112
2013 外航22 内航16 計38
2014 外航99 内航16 計115

いまや福岡市は中国発東シナ海クルーズラッシュの主要な舞台である。ではなぜ中国ではクルーズ旅行がこんなに人気なのか。その理由を中国旅行社総社(上海)日本部担当の武暁丹氏はこう説明する。

①4泊5日の標準的なクルーズ料金が空路のツアーより安い。
②船内の食事や遊興施設の利用は無料で、家族でのんびり過ごせる。
③買い物による持ち込みが無制限なこと。

これらの指摘は、血縁を大切にし、経済合理性に富み、買い物好き、ギャンブル好きという中国人の特性に驚くほどマッチしている。上海で訪日旅行のコンサルティングを行う上海翼欣旅游咨询有限公司の袁承杰総経理も「クルーズ客のメインは80后(1980年代生まれ)。彼らの多くは30代になり、結婚し、子供ができた。クルーズ旅行は航空旅行のような移動も少なく、船内で家族が一緒に過ごせるので、3世代旅行にぴったり。ハネムーナーにも人気」と世代動向から理由を分析する。

現地クルーズ関係者によると、来年も新規投入する大型客船が予定されていて、この勢いは続くという。いまや東シナ海は中国人にとってのレジャーの海になったといえるだろう。

ビザ緩和が日本旅行ブームに火をつけた

中国インバウンド大盛況の舞台裏を考えるうえで、日本のビザ緩和策も重要だ。今年中国客が激増した理由について、日本政府観光局(JNTO)上海事務所の山田泰史副所長は以下の3つの点を指摘する。

①円安の定着
②中国からの航空路線の拡充とクルーズ客船寄港の増加
③中国人に対する観光ビザ発給要件の緩和

このうち①と②についてはすでに触れたが、実は大きく市場を動かしたのが③「中国人に対する観光ビザ発給要件の緩和」なのだ。

今回の措置が運用されたのは今年の春節前の1月19日から。ポイントは「一定の経済力を有する過去3年以内に日本への短期滞在での渡航歴がある者とその家族」に対する個人観光数次ビザの発給要件の緩和である。要は、ここでいう「一定の経済力」の指す年収基準が下げられたのだが、これに本人を伴わない家族のみでの渡航も認めたことで、上海や北京などの沿海都市部に住む富裕層のみならず中間層まで含む日本への渡航が容易になった。

国土の広大な中国では、各地域の経済発展状況に準じ、8ヵ所ある日本総領事館の担当エリアごとにそれぞれ適用基準が異なっている。これまで日本政府は中国人に対する観光ビザの発給要件の緩和を小出しに進めてきたが、一定期間内にビザなしで何度でも入国できる今回の数次ビザの緩和が中国側に与えた心理的な影響は大きかったようだ。

今回の措置の発表は昨年11月8日に行われたが、その反響はすでに成熟市場となっていた沿海都市部だけでなく、訪日旅行市場が十分に形成されていなかった地方都市にも広がった。ビザ緩和で日本旅行へのハードルが下がるとの情報は中国国内に広まり、ブームに火がついた。昨年末の時点で中国の旅行関係者は「これで訪日旅行の次のステップが始まる」と期待を込めたという。2015年が日本旅行の飛躍の年になることは、中国側では早い時期から予測されていたのだ。それゆえ、精力的に航空路線を拡充し、クルーズ客船の大量投入を進めたのである。

訪日中国客には2つの異なる顔がある

訪日中国旅行市場が拡大し、多様化するなか、中国客には2つの異なる顔があることをあらためて確認する必要がある。特に近年登場してきた個人客の動向は注目だ。

9月下旬、上海発茨城行き春秋航空に搭乗していた米国系IT企業に勤める李淑雲さん(28)は、同僚の女性とふたりで国慶節休暇を使った初めての日本旅行を計画していた。ふたりはオンライン旅行社で航空便やホテルを手配し、今夏開業したばかりの二子多摩川エクセル東急ホテルに宿泊した。日本でのスケジュールを事前にほとんど決めておらず、『孤独星球 东京到京都』(世界的なガイドブックシリーズ『Lonely Planet』の中国語版 ゴールデンルート編)を機内で目を通しながら日本滞在中の予定を考えるという。

同機には、AKB48劇場に行きたいと話す20代半ばのいわゆる「オタク(宅男)」6人組の上海人男性グループもいた。上野のビジネスホテルに予約し、1週間東京に滞在するそうだ。

彼らは、スケジュールはすべてガイドにおまかせの団体客とはまったく異なり、目的を持って日本を自由に旅する個人客である。その行動半径やスタイル、旅の動機は、これまでの団体客には見られなかったものだ。中国では「自助游(個人旅行)」という。

中国の書店では、個人客のニーズに合わせた旅行書が流通している。今年2月に出版されたガイドブック『日本自助游』は、全国の交通機関の乗り方を中心に実用情報が載っており、若い個人客が初めて日本をひとり歩きするのに重宝する内容だ。

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中国の個人旅行者向けガイドブック『日本自助游』(人民郵電出版社 )
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同じく『搭地铁 游东京(地下鉄で歩く東京) 』(人民郵電出版社 )

もっとも、彼らの主な情報源はむしろネット上の口コミで、いわゆる旅行「攻略」サイトや微信(We Chat)などのSNSの利用が定着している。彼らがいま日本のどんなことに関心を持っているかについては、以下の「攻略」サイトをチェックしてみると面白いだろう。

穷游(貧乏旅行)
http://place.qyer.com/japan/
去哪儿(どこへ行く?)
http://travel.qunar.com/p-gj300540-riben

訪日客の動向に詳しい一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長は、中国に個人客が出現した背景についてこう語る。

「いま中国の旅行市場で注目すべきは、C-Tripに代表されるオンライン旅行社の勢いだ。同社の関係者によると、訪日市場の伸びは前年比で7倍増。上海市場では旅客のすでに半分、北京で30%をオンライン旅行社が占めるという。彼らの多くは個人客なので、個人向けの移動や宿泊、通信サービスなど新しい商機が生まれている」。

中国人の日本旅行が解禁されて15年目に当たる今年、2つの初めてがある。まず中国が国・地域別のランキングでトップになったこと(以下、韓国、台湾、香港、米国が続く)。訪日中国人の数が訪中日本人を逆転するのも、実は初めてだ。

この15年間で中国の海外旅行客は進化した。それをリードするのが上海などの沿海都市部から来る個人客である。一方、いま始まったばかりの内陸都市発の団体客もいる。彼らはいわば10年前の上海人である。中国インバウンドの実態は、こうした異なる2つの層が10年遅れのタイムラグをはらみながら同時に進化していく過程にある。当然受入側も、まったく異なる対応が求められるだろう。

静岡でツアーバス衝突事故発生

大盛況の中国インバウンドだが、この勢いに死角はないのだろうか。

新しく登場した中国の個人客は、日本人の旅行感覚にも近く、その動向に目が向かいがちだが、実際には旧来然とした内陸客の増加もあり、現場ではさまざまな問題が起きている。

今年のGW中、静岡県浜松市で中国客を乗せたツアーバス同士の衝突事故があった。千葉県のバス会社が運行する大型バスが信号待ちしていた別のバスに追突したのだ。28人の中国客が市内の病院に救急搬送されたという。事故の原因はバスの整備不良だった。

観光バス同士、追突 中国人客28人搬送 浜松(静岡新聞2015年4月28日)
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/45509.html

背景には、ここ数年の静岡空港への中国からの新規就航の激増がある。

富士山静岡空港のHPによると、11月現在の中国発静岡線は以下のとおり。地方空港としては国際線が多く、中国だけで12都市13路線。大半が内陸都市からの便である。

中国発静岡線(2015年11月現在)
 
 上海浦東(中国東方航空) 毎日
 杭州(北京首都航空) 月、木、土、日
 合肥(中国東方航空) 水、日
 南京(中国東方航空) 火、土
 南寧(中国南方航空) 月、金(11月は運休)
 寧波(中国東方航空) 火、水、金、日
 石家荘(北京首都航空) 水、土
 天津(天津航空) 火、金、土
 西安(天津航空)土
 温州(中国東方航空) 水
 武漢(中国東方航空) 毎日(11月は運休) 
 武漢(中国南方航空) 月、金
 塩城(北京首都航空) 木、日

中国の内陸都市から来る団体客の大半が東京・大阪ゴールデンルートのツアーに参加しているが、これまでゲートイン・アウトは成田と関空だった。そこに静岡空港が新たに加わったことがわかる。中国の地方都市から日本の地方都市へ直接定期便が飛び始めているのだ。

しかし、昨年本特集レポートで指摘したように、アジアからの団体客の急増で慢性的にツアーバス不足が問題になっている。その状況は改善されるどころか、今年のさらなる市場拡大で悪化していることが推測される。

(やまとごころ特集レポート1回)
バスの不足が国際問題に!~今春、訪日旅行の現場では何が起こっていたのか
http://www.yamatogokoro.jp/report/2014/report_01.html

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中国からの団体客を乗せたツアーバス。都内にて

実は、死傷者も出た2012年の関越高速バス事故もGW中だった。この時期、日本人の移動も多く、貸切バスの需給が逼迫し、運転手も休みが取れないという労働条件の中で、今回のような事故が起きたと考えられる。

追突事故を起こしたバス会社が、後日道路運送法違反で摘発されたことがそれを物語っている。千葉県に営業所を持つバス会社が「営業区域」外の静岡空港でツアー客を乗せたことが問題だったのだ。

中日新聞の取材によると、同社は中国の旅行会社からの依頼を受けて「営業区域」外での運送を常習的に行っていたようだ。逮捕された社長は「違法だとはわかっていても、断るに断れなかった。断ると仕事がなくなる」と話しているという。

「営業区域」問題は、成田や関空などの国際空港周辺に集中している中小貸切バス事業者にとってはいかんともしがたいところがある。そのためAISOなどのインバウンド団体はこれまで国土交通省運輸局に撤廃を求めてきた経緯がある。実際、桜シーズンなどに時限的に撤廃することもあった。しかし、それだけでは問題の根本的な解決に至らないだろう。

いま海外からの人の流れが多様化し、地方へと拡大している。今回のバス事故は、日本のシンボルである富士山のふもとに位置する静岡空港が激増する中国客を一気に呼び込んだことでやむなく起きてしまったといえるだろう。

バス不足と並んでホテルの客室不足も深刻だ。11月上旬、京都市右京区のマンションで中国人観光客向けの「民泊」を無許可で営業した旅行業者が書類送検されている。中国からの観光客約300人を宿泊させた疑いがあるという。

無許可で「民泊」容疑=中国人観光客300人-旅行業者ら2書類送検へ・京都府警(時事通信2015年11月5日)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201511/2015110500008

今年議論を呼んだ外国客の「民泊」とそのマッチングサイトであるAirbnbの運用ルールづくりをめぐる問題も、背景には訪日旅行市場の急激な拡大がある。ホテルの客室不足は、とりわけ団体客の比率の高い中国市場にとって影響は大きい。今後も市場が拡大する見込みの中で、外国客の足と宿という最も基本的なインフラをいかに構築していくか。いまや外国客の誘致ではなく、むしろ受入態勢の整備が喫緊の課題となっているのだ。

数が増えても赤字という現地旅行会社の嘆き

課題は中国側にもある。現地の旅行関係者が口を揃えて挙げるのが、訪日ツアーのショッピングに過度に依存したビジネスモデルである。

これは中国インバウンドの舞台裏の核心的部分といっていい。なぜ鄭州市の老夫婦が参加した5泊6日の日本ツアー(航空運賃、交通費、宿泊費、食事すべて込み)の料金がわずか3500元(7万円)にすぎないのか。それは日本国内でのバスやホテル、ガイドなどにかかる費用が特定の免税店などのショッピング施設からの売上に応じたキックバックで補填されているからだ。

これはクルーズ旅行についても同じである。上海のある旅行会社社員は「今年日本行きのクルーズ市場は急拡大したが、集客を担当した我々旅行会社はほぼすべて赤字だった。運航数の増加でかえってツアー単価が安くなりすぎたせいだ」と嘆く。

上海発日本行きの標準的なクルーズ料金は、昨年4泊5日で約5000元(10万円)だったが、今年は半分以下の2000元代に下がっているという。それだけに、数の勢いとショッピングに依存したツアー構造は持続可能なのかと現地でも危惧されているのだ。

実際、博多港のHPをみると、今年7月1日現在の博多に寄港する年間のクルーズ客船数の予定が286回だったのに、11月1日現在では264回と減少している。当初の見込みどおりクルーズ客の集客ができなかったためだろう。

同じことは航空路線についてもいえると、前述の王一仁AISO会長はいう。「今年すごい勢いで中国からの日本路線が増えて、特に10月以降、羽田路線は1日約20便になると聞いている。はたしてそれだけ増やして席が埋まるのか。ちょっと疑問だ」。

さらに、今夏の中国の株価暴落以降、国内外のメディアから中国経済の減速で海外旅行市場の活況もそんなに長くは続かないのではないかと指摘する声も出てきた。もしそうだとしたら、ショッピングに依存するビジネスモデルにも影響が出るはずだ。訪日中国人ツアーは「爆買い」によるキックバックでコストを補填している以上、購入金額が減少すればこれまでのような安いツアーで募集することはできなくなるからだ。以下のような悪循環が考えられるのである。

「爆買い」減少 →ツアー代金の上昇 →ツアー客の減少(市場の縮小)

来年以降もこの勢いは続くのか

ただし、これまで見てきたように、中国の旅行市場は広大かつまだらで一様ではない。沿海都市部と内陸都市では経済市況も異なり、一概にこうだと決めつけられないのだ。

筆者の個人的な見解では、来年は今年の2倍増のような飛躍的な伸びを続けるのは厳しいものの、中国インバウンドの勢いは続くと考えている。「爆買い」もすぐになくなるとは思えない。いまや中国人の「爆買い」は、単に訪日客のお土産購入シーンに見られるだけのものではなく、中国国内での日本商品のネット販売の領域にまで広がっているからだ。

確かに、多くの論者がいうように、マクロ的にみれば中国経済は減速しているようだが、だからといって年間500万人程度の訪日客数は、総人口からみると0.4%にも満たない規模で、桁違いの人口を有する中国ではたいした数字ではない。何より富の偏りの大きい社会だけに、海外旅行ができる特定の層の比率は周辺国に比べて低くても、それを全土からかき集めるだけでも相当なボリュームになるのだ。

中国には公的統計に捕捉されない膨大なアンダーグラウンド経済(「未観測経済」という)の存在がある。そもそも多くの中国客にとって「爆買い」の原資は、GDPに換算される表向きの収入ではなく、「未観測経済」によるものと考えた方が自然だろう。このように中国の動向を占うには、我々の社会とはあらゆる尺度が違うことを知らねばならない。

さらにいえば、中国経済のバブルが崩壊しても、すぐに海外旅行者数が減るとは思えないのは、日本でもそうだったからだ。バブル崩壊直後の1990年代初頭、日本人の海外旅行者数は約1000万人。その後10年間伸び続け、頭打ちとなったのは2001年の米国同時多発テロの年だった。それ以降は1600万人前後で伸びは止まり、そうこうしているうちに、今年は1970年以降45年ぶりに訪日外国人の数が出国日本人を逆転する。

では、ポストバブル崩壊時代の日本の海外旅行のトレンドは何だったのか。それは「安近短」と呼ばれたアジア方面への市場の拡大だった。これと同様、中国の航空市場をみると、この秋以降、欧州や北米路線が減少する一方、アジア太平洋路線は増加を見せている。

一度バブルの味を知った国民はすぐにはその味を忘れられないものだ。ただし、そう遠くには行けないので近場を目指す。その恰好の旅行先のひとつが日本であることは間違いないなさそうだ。

とはいえ、11月13日に起きたパリ同時多発テロ事件が与えた世界的な衝撃と暗雲のように広がる不安が、新疆ウイグル自治区を抱える中国に今後どう波及するか。さらには、南シナ海における中国の覇権的な動きが周辺国との関係にどんな緊張を強いるかなど、来年の訪日旅行市場にとって気がかりな国際情勢の変調もある。これまで以上に海外の動向を気にかけねばならない年になるだろう。

やまとごころ.jp
http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_19.html
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by sanyo-kansatu | 2015-11-27 02:25 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2015年 09月 07日

北海道は外客レンタカー受入の全国の先駆けです

外国人観光客のレンタカー利用件数で、沖縄県に次いで多いのが北海道です。我々日本人が北海道を旅行する際、レンタカーなしで移動というのは考えられないわけですから、外国客にとっても事情は同じなのです。

一般社団法人 札幌レンタカー協会によると、北海道における外国客のレンタカー利用件数は、2014年度(14年4月~15年3月)で2万4243件、前年度比●%増となっています。

国籍別にみると、トップが香港で9579件(全体の約40%)を占め、次いで台湾4497件、シンガポール1948件、韓国1892件、タイ1395件、オーストラリア1052件、ヨーロッパ1051件、アメリカ814件と続きます。沖縄県と比べると、総件数は3分の1以下ですが、台湾、香港、韓国が全体の9割を占める沖縄に対し、シンガポールやタイ、欧米系の利用も多く、多国籍化が見られます。

一般社団法人 札幌レンタカー協会事務局
http://sapporo-renta.com/

同協会事務局の下山久美事務局長によると、「2015年度に入っても伸びは前年比180%と好調」とのこと。

沖縄県同様、こうした伸びの背景には、訪日外国人来道者数の拡大があります。

北海道経済部観光局が15年8月に報告した「北海道観光入込客数調査報告書(平成26年度)」によると、2014年度の訪日外国人来道者巣は、154万1300人と過去最高で、前年度比33.7%増となっています。

北海道観光入込客数調査報告書(平成26年度)
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/kkd/toukei/H26_irikomi_honpen.pdf

国・地域別にみると、トップが台湾47万2700人(30.7%)で、次いで中国34万人(22.1%)、韓国20万1100人(13.0%)、タイ12万8300人(8.3%)、香港12万200人(12.0%)となっています。この数字をみると、来道した約12万人の香港人のレンタカー利用が約1万件。実際にはファミリー利用が多いことを考えると、香港人の北海道でのレンタカー利用率はかなり高いことがわかります。

数のうえでは沖縄県に比べると見劣りのする北海道ですが、外客の受入態勢の構築のプロセスをみると、全国に先駆けた取り組みを続けてきたことで豊富なノウハウを有しています。

北海道では香港人を中心に早い時期からレンタカー利用が見られていましたが、広範囲に観光地が広がっている地域の特性上、旅慣れた外国人観光客にとってレンタカーは不可欠の足でした。

北海道の本格的な取り組みは2007年9月から台湾人の国内での運転が可能となったことから始まります。

同年4月に北海道外国人観光客ドライブ観光促進連絡協議会が設立されますが、実はその前年の06年12月、喜茂別町で外国人ドライバーの交通死亡事故が発生しています。冬場の凍てついた道路を運転することにアジア客が慣れていないのは当然ともいえますが、外客の利用促進のためには、冬道の安全運転の啓発は欠かせません。こうした事情から、外国客に安全・安心してドライブ旅行を楽しんでもらいための受入態勢の構築のための調査やノウハウの啓蒙が進んだと考えられます。

たとえば、2009年には国土交通省北海道開発局が以下の外国人向けのドライブハンドブックを作成しています。
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「北海道ドライブまるわかりハンドブック」5カ国語(日本語、English、中文・繁体字、中文・简体字、한국어)対応
http://www.hkd.mlit.go.jp/topics/toukei/chousa/h20keikaku/handbook.html

その目次を以下記します。北海道でドライブするとき、起こりうるトラブルをわかりやすく解説しています。

 はじめに ~外国人観光客の皆様へ~
  北海道ドライブ観光へ出発するまで
 第1章.北海道でドライブをしよう!
  1-1.北海道の広さ
  1-2.北海道、四季の魅力
  1-3.北海道、各地の魅力
  1-4.快適ドライブのまめ知識
  1-5.ルールとマナーは必ず守ろう!
 第2章.レンタカーを予約しよう!
  2-1.レンタカーサービスの基本情報
  2-2.カーナビの使い方
 第3章.知っておきたい交通ルールとワンポイントアドバイス
  3-1.北海道をドライブするその前に
  3-2.これだけは知っておこう!日本の交通ルール
  3-3.高速道路を利用しよう!
  3-4.ガソリンスタンドの利用法
  3-5.冬道ドライブは慎重に!
 第4章.こんな時はどうするの?
  4-1.もしも、交通事故や違反のトラブルが起きたら
  4-2.もしも、ケガや病気のトラブルが発生したら
  4-3.もしも、天気によるトラブルに見舞われたら
  4-4.もしも、車が故障したら
  4-5.もしも、野生動物にぶつかったら
 資料編
  <その1>いざという時のための指差し会話集
  <その2>関係機関の連絡先とwebサイト一覧
  <その3>お役立ち資料

さらには、地域が外国人ドライバーを受け入れるための基本的な認識やノウハウをまとめた解説集も作成しています。

外国人ドライブ観光客 誘致・受入事例解説集
http://www.hkd.mlit.go.jp/topics/toukei/chousa/h20keikaku/yuuchi.html

はじめに 
 第1章.主な外国人ドライブ観光客の特性等について
 第2章.外国人観光客が、北海道でドライブ観光を行う際(事前/滞在中)に必要としている情報や対応について
 第3章.各地域の取組の事例
 第4章.本道関係各機関における既往の取組について~発信情報の内容や多言語対応の状況~
 最後に

この解説集には、北海道の主要なレンタカー利用客である台湾、韓国、香港、シンガポールの来道目的や移動形態の傾向、運転週間の違いなどを以下のように説明しています。

たとえば、台湾の項には「日本の「止まれ」の標識は国際基準と異なり、理解されにくい。台湾では、制度上は一時停止の義務はあるものの、見通しがよい場合は一時停止をする車はほとんどいない(踏み切りについても同様。台湾の高速道路では、走行車線・追越車線の区別がない。矢印信号は台湾にはないため、とまどってしまう)とあります。

また韓国の項には「日本とはハンドルが逆ではあるが、標識や交通ルールは似通っている。見通しのよい踏み切りなどではつい一時停止を怠りがちである。韓国では一般道でも時速80kmまで出せる道路もあり、高速道路の最高時速は110㎞。「止まれ」「徐行」の標識の意味がわかりにくい」。

香港の項には「日本と同じ左側通行であるが、赤信号でも左折フリーの国である。横断舗装以外では「歩行者優先」というルールはなく、車が優先される。一般道路の最高時速が70㎞であるためか、北海道をドライブして「スピードが遅すぎる」と感じるドライバーもいる」。

これは実際の外国客にヒアリングしてまとめたものですが、それぞれお国事情が違うため、日本でのドライブは勝手が違うところがありそうです。こうしたバックグランドの異なる外国客が日本でドライブするわけですから、関係者はこれらの違いを認識しておく必要があるでしょう。

このマニュアルを作成するために北海道では以下の調査を行っています。

北海道における外国人ドライブ観光の推進方策検討調査(概要版 平成20年)
www.hkd.mlit.go.jp/topics/toukei/chousa/h20keikaku/03.pdf

こうした全国に先駆けた調査は、今後レンタカー利用が増えるであろう全国各地の関係者にとって貴重な情報提供となっています。

札幌レンタカー協会では、冬場の事故防止のため、外国客向けにチラシを作成しています

今後は、全国で北海道の事例を学べ、という機運が高まっていくだろうと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-09-07 12:01 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 22日

日本の家庭薬が“爆買い”される理由~台湾のドラッグストア研究家が書いた購入ガイドがスゴイ!

今年2月、上海で著作を手にして以来、台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんのことをあれこれ書いてきましたが、昨日やまとごころ.jpで記事にまとめたので、転載します。

http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_13.html

日本の家庭薬が“爆買い”される理由
台湾のドラッグストア研究家が書いた購入ガイドがスゴイ!


今年の春節や桜シーズンに、中国客が最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったという。その背後には、台湾のドラッグストア研究家の書いた購入ガイド書があった。同書は中国本土でも刊行され、それを持って来店する中国客も現れている。著者の鄭世彬氏が語る「台湾で日本のクスリが愛される理由」とは。

財務省が今月13日に発表した2014年度の国際収支によると、日本と海外のお金の出入りを示す経常収支の黒字幅が4年ぶりに増加。その要因のひとつが、訪日外国人旅行者の消費(朝日新聞2015年5月14日)だとメディアは報じている。

一方、春節や桜のシーズンの中国“爆買い”報道はもはや恒例だが、今年彼らが最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったと中国メディア(レコードチャイナ2015年3月25日)は指摘している。

その時期、都心のドラッグストアに連日大挙して押しかける外国人観光客の姿が見られた。彼らの“爆買い”ぶりはどれほどのものなのか。どんな商品が人気なのか。まずは関係者の話から始めよう。
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人気は日本の定番家庭薬

東京と関西を中心に店舗を展開するOSドラッグチェーンの國米実支社長によると、外国客が目立って増えてきたのは去年からという。

―昨年10月からの免税改正の影響でしょうか。増えたのは秋からですか。

「いや、どっと増えたのは去年の春先から。消費税導入前に3月特需があって、4月以降はドスンと売上が落ちるかと思っていたら、そうでもなかった。これは外国客のおかげ」。

―だとすれば、外客効果は本物ですね。どこの国の客が多いですか。

「うちの場合は、売上でいうと、いちばんは中国。全体の4割。次いで台湾客が2~3割、そして韓国、マレーシア、シンガポール、タイという順。欧米客も多いが、彼らはそんなに買わない。必要なものをちょこっと買う感じ。やっぱり買い物はアジア客。

最近ではキットカットが1日100ケース(12個入り)売れる。マレーシアの人に聞くと、向こうでは1個700円らしい。抹茶味やわさび味など、日本にしかないものを買っていく」。

―中国客はやはり“爆買い”?

「彼らは値段も聞かないで買っていく。たとえば、『救心』(救心製薬)。一度に2、3箱、お一人様お買い上げ3~4万円はよくある」。

―他にはどんな商品が人気ですか。

「肝油のドロップ。中国は一人っ子政策だから、子供が大事。風邪薬やかゆみ止めなど、子供用のクスリを買っていく。ベビー用品も多い。

大人向けなら、胃腸薬の『強力わかもと』(わかもと製薬)や『エビオス錠』(アサヒフードアンドヘルスケア)、疲労回復薬の『アリナミン』(武田薬品)など。人気は日本の定番家庭薬。みなさん商品の写真をコピーして何枚も束にして持ってくる。欲しい商品の画像をスマホで見せられることも多い」。

日本チェーンドラッグストア協会によると、全国のドラッグストアの総店舗数は1万7953店(2014年)。前年より390店舗増加し、総売上高も6兆679億円(前年比101.0%)と伸びは鈍化しつつも成長している。一方、1店舗当たりの売上高は3億3799万円(前年比98.7%)と微減傾向にある。それだけに、売上に貢献してくれる外国客の消費が注目されるのは当然だろう。

中国ネットに現れた「神薬」リスト

昨年秋、中国のネットに以下の記事が掲載されたという。

日本観光、この「神薬」は買うべし!中国人の心をつかんだ日本の優れもの―中国ネット(レコードチャイナ2014年9月5日)
http://www.recordchina.co.jp/a93733.html

そこには、頭痛薬の『EVE』(エスエス製薬)や『口内炎パッチ』(大正製薬)など、日本で購入すべき12種類のクスリが紹介されていた。ドラッグストアで販売されている市販薬である。でも、いったいこの情報元はどこから来たものなのか。

そのひとつの手がかりとなるのが、昨年刊行された『東京コスメショッピング全書』という中国書だ。日本の優れた医薬品や健康・美容商品、化粧品をジャンル別に選んでカタログ風に分類し、解説した案内書である。まさにいま訪日する中国人観光客が最も知りたい情報が一冊にまとめられているというのだから、驚きだ。

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『東京コスメショッピング全書(东京美妆品购物全书)』(中国軽工業出版社 2014年)

著者は台湾出身のドラッグストア研究家の鄭世彬氏。彼が台湾で書いた本が、中国の出版社の目にとまり、簡体字版として刊行されたものだ。ドラッグストア関係者の話では、同書を手にして来店する中国客の姿も見られるという。

「フリーの翻訳家だった私のもとへ日本で買ったクスリを持ってきて何が書いてあるか教えてほしいという問い合わせがよくあった。知り合いの出版社と相談し、2012年2月、日本のOTC医薬品を解説する購入ガイドを出版した」(鄭氏)。

その後、読者から化粧品のガイドもほしいとの声があり、同年11月に刊行したのが、中国版の原本である『東京藥妝美研購』だ。これが好評で、日本の5分の1以下の人口の台湾で約1万部売れた。
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『東京藥妝美研購』(晶冠出版社 2012年)

日本のクスリはよく効き見た目もおしゃれ

3月上旬、訪日していた鄭世彬氏に話を聞いた。

―この本の読者はどのような人たちですか。

「OTC医薬品の本は20~60代までの男女で、コスメガイドは20~40代の日本好きな女性たち。台湾では読者を集めて日本のコスメセミナーも開いている」。

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鄭氏が主催する台湾のコスメセミナー会場は若い女性であふれる

―本を書いたきっかけは、知り合いから日本のクスリに関する質問が多かったからだそうですが…。

「私が日本に行くというと、家族や知り合いから必ずクスリを買ってきてと頼まれる。台湾では、日本のクスリをお土産として配る習慣がある」。

―台湾の人たちは、どんなクスリをお土産に買うのですか?

「たとえば、かゆみ止めの『ムヒ』(池田模範堂)や『ウナクール』(興和)。台湾は日本に比べて暑いから、虫が多い。胃腸薬では『キャベジンコーワ』(興和)が人気。私の母は胃腸が悪いので、いつも買ってきてほしいと頼まれる。台湾のおばさんたちの間では『キャベジン』はすごい薬だという噂が口コミで広がっている」。

―なぜ日本のクスリは人気なのでしょうか。

「効き目もそうだが、日本のクスリはパッケージがおしゃれなこと。一見クスリに見えないのがいい。それに台湾で買うより断然安い。たとえば、目薬『サンテFX』(参天製薬)は台湾では350台湾元(約1000円)くらいだが、日本のドラッグストアなら300円前後で買える」。

―そんなに値段が違うのですか。まとめ買いにしてお土産としてみんなに渡せば、喜ばれそうですね。

「化粧品も日本では台湾の半額に近い気がする。もうひとつの理由は、台湾の薬事法の関係で、同じ日本のメーカーの商品でも、台湾製では一部の成分が添加されていないケースがけっこうある。

たとえば、台湾製の『キャベジンコーワ』には脂肪を分解する酵素のリパーゼが添加されていない。いちばん肝心な成分なのに、台湾では市販品に添加してはいけない。

頭痛薬の『EVE』に含まれているイブプロフェンも、ようやく今は台湾でも解禁されたが、少し前まで禁止だった。この成分はよく効くので、『EVE』は台湾の20代~30代の若いオフィスワーカーに人気がある。男女関係なく、オフィスのデスクの引き出しに入っていると思う」。

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『EVE』(エスエス製薬)は台湾の若い世代に人気

―クスリ以外ではどんなものがありますか。

「たとえば、『休足時間』。台湾人はバイクに乗る人が多く、ふだんあまり歩かない。でも日本に行くと地下鉄に乗るので、いつもの倍以上歩くから、足が疲れる。そんなとき、ホテルでひんやりしたシートを貼ると気持ちいい」。

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ドラッグストアの店頭に置かれる『休足時間』(ライオン)

台湾の都市部に暮らす人たちは、日本と同じような現代的な生活を送りながら、気候や風土、習慣が違うため、さまざまなニーズがあるようだ。パッケージがおしゃれなことのポイントが高いというのも、なるほどである。

台湾客が中国客を先導する

―鄭さんの本は中国でも刊行されましたが、日本のクスリに対する関心は中国でも高まっているようです。昨年中国のネット上に現れた「神薬」リストの商品の多くは、鄭さんの本で紹介されたものでした。

「中国のネットに広まる日本の商品情報の大半は、台湾や香港経由のもの。たいてい数年遅れで突然広まることが多い。しかし、いったん広まると、波及するスピードは速いので、彼らは都心の量販店に殺到し、まとめ買いする。それが“爆買い”の真相だ。

でも、団体客の多い中国人と台湾人では、日本に来ても足を運ぶエリアや購入商品が違う。台湾人は日本をよく理解しているので、私の本でもなるべく中国客が行かないスポットを紹介している。たとえば、吉祥寺や自由が丘などだ。台湾人は一般の日本人が買物をするのと同じ場所に行って買物したいと考えている」。

この話は、前述したOSドラッグチェーンの國米実支店長の以下の指摘と符合する。

「店の立地によって売上は違う。都内で売上が多いのは観光客の多い上野や新宿、渋谷、原宿など、大阪なら心斎橋、難波、黒門市場、船場くらいで、郊外店は必ずしも売上が伸びているわけではない」。

日本の事情をよく知る台湾客たちが、中国本土の旅行者の一歩先を訪れていることが見えてくる。しかし、結局中国客もそれに気づき、後追いする。鄭氏の発信する情報の影響力は計り知れないといえるだろう。

5月中旬、今年4回目となる鄭氏の訪日は「東京コスメガイド」の第3弾の執筆のための取材が目的だ。どんな企画を考えているのだろうか。

「現在制作中の第3弾では、リピーターの多い台湾人読者のために、東京以外のご当地コスメの企画を考えた。台湾人にも人気のある金沢の地元コスメを紹介する予定。また都内のスーパーの取材も進めている」。

鄭氏はいまや中華圏の訪日旅行者が見せる旺盛な購買シーンの先導役といえるだろう。だが、彼がスゴイのはそれだけではない。毎月のように日本を訪れ、ドラッグストアを自分の足で視察し、医薬品や化粧品のメーカーを直接取材するという地道な積み重ねの成果が、今年1月に台湾で上梓された最新刊『日本家庭藥』に結実しているからだ。
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『日本家庭藥』(帕斯頓出版)と著者の鄭世彬氏(1980年生まれ。台南市在住)

同書は100年以上の歴史を持つ日本の老舗家庭常備薬メーカー34社を紹介したムック本だ。

「日本の家庭薬がなぜ台湾の人たちに人気があるかというと、実際に使ってみてよく効くと実感しているからだが、その背景には古くは400年もの歴史をもつ日本の老舗医薬品メーカーの存在があることに気がついた。そこで各メーカーにご協力いただき、それぞれの定番商品の誕生秘話や創業者の努力、企業の発展の歴史を紹介した。いま日本で花開いているドラッグストア文化は、これら老舗企業の歴史があってこそだと私は思う。その素晴らしさを台湾の読者に伝えたかった」。

台湾出身の鄭氏は、我々日本人が当たり前と思ってそのありがたみを忘れていた家庭薬の価値を解き明かしてくれたのである。

おかしな中国語表示が氾濫している

そんな鄭氏は最近、日本に来て気になることがあるという。

全国の観光地や家電量販店、ドラッグストアも含めて、おかしな中国語の使われ方をした表示や商品コピーが氾濫していることだ。かつて日本人は海外、特にアジアの国でおかしな日本語表示を見つけ、脱力感を味わいつつ面白がっていたものだが、同じことがいまや日本でも起きているというのである。

鄭氏が見つけたおかしな中国語表示をいくつか紹介しよう。
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「从清晨到深夜 你可以购买便利店 上午7:00~2300(全年无休)」

この表示を見たとき、鄭氏は思わず声を上げたという。なぜなら、ここには「早朝から深夜まで、あなたはコンビニ店を購入できます」と書かれているからだ。購入できるのは商品であって、コンビニ店舗そのものではない。正しくは「可以在便利店买东西 7:00~2300(全年无休息日)」だろう。

次は某量販店の告知。「万引きは犯罪です。発見次第、警察に通報します」と日本語では書かれているが、中国語簡体字の表記はこうだ。
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「高是犯罪・找到在次序和警察通」

これでは中国人にはまったく意味がわからないという。こうした不可解な中国語表示が中国客の脱力感を誘い、好意的に解釈してもらえればいいのだが、鄭氏はこのままではいろいろ支障もあるのではないか、という。

「たとえば、高額なブランド品や化粧品のコーナーでこうした間違い中国語表示を見かけると、なかには品質を疑いたくなる人も出てくるのではないか」。

でも、そんなに難しく考えることではないと鄭氏は言う。

「最近では外国客がよく利用するショッピング施設に中国人スタッフを置くことが多くなった。まずは彼らにチェックさせるといい。ただし、中国人は出身地によって方言もあり、言葉の使い方が異なるので、本当を言えば二重のチェックも必要。台湾人には中国人の使う中国語はかなり違和感がある。そうした両岸や地方による違いも理解している正式な中国語翻訳会社に発注するのがベストだと思う」。

安易に翻訳ソフトに頼るのは間違いのもとだという。もっとも、逆によく事情を理解していると感心したケースもあったそうだ。

「いま台湾では日本のオーブンレンジが人気だが、中国本土ではまだブームになっていない。先日、新宿のビックロに行ったとき、オーブンレンジのコーナーの商品表示に繁体字が使われていた。これを買うのは台湾客だけだから繁体字が使われていたわけで、この店はよくわかっているな、と思った」。

実際に、ビックロの免税品コーナーに行くと、オーブンレンジの表示は「過熱水蒸氣水波爐」と繁体字表記されていた。同店の販売スタッフは、中国本土客と台湾客の売れ筋商品の違いを理解したうえで、簡体字と繁体字を使い分けていたのだ。

外国客が増えると、これまで考えてもみなかったことが起こるものだ。彼らといかにフレンドリーなコミュニケーションを築いていけるかは販促の基本。そのためにも、こうした指摘には謙虚に耳を傾けていきたいものだ。

※鄭氏が指摘してくれたおかしな中国語表示のその他の実例については、中村の個人blogの以下の記事を参照してほしい。
「これはやばい!? 日本にはおかしな中国語表示があふれている」
http://inbound.exblog.jp/24370756/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-22 07:58 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2015年 03月 30日

中国の新人類は日本の青空に魅せられている

桜の開花も始まり、中華圏からまた大勢の旅行客が訪れています。いつものように仕事場に近い新宿花園神社の向かいの交差点で信号待ちしていると、バスを降りた中国団体客がやって来ます。そこで隣に居合わせた中国客に「どっから来たの?」「江蘇省よ」などと話をしたあげく、ちょっと大げさに手を広げ「欢迎光临(ようこそ)」。皆さん満面の笑みを浮かべてくれる…なんて調子のいいことをついやってしまいます。

でも実は、最近、ぼくは喉の調子が芳しくありません。

もしや…。そこで日本気象協会の 「PM2.5分布予測」のサイトをみると、案の定、このとおり。中国大陸沿海部と朝鮮半島を中心にPM2.5の濃度が高くなっており、日本列島にも帯のように広がっています。
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2015.3.30 6時 PM2.5分布
http://www.tenki.jp/particulate_matter/

これはサイトの解説です。「※PM2.5分布予測では、分布傾向を弱い方から「ほぼ無(透明)」「少ない(濃い水色)」「やや少(薄い水色)」「やや多(黄緑)」「多い(黄)」「非常に(薄いオレンジ)」「極めて(濃いオレンジ)」で表しています。現時点では、PM2.5分布予測情報は、東アジアスケールで定性的に予測する精度はありますが、都市スケールの精度や定量的な精度について、まだ不十分な部分があります。都道府県内地域での予測値は、当該地域を含む広いエリアの平均値を表示しています。なお、予測情報では、濃度の数値は扱っておりません。自治体による観測値も合わせてご利用ください」。

もともと喉が弱く、冬場に中国出張に行くと、必ずガラガラ声になって帰ってくる始末ですから、ぼくは一般の人よりかなり敏感なのは確かのようです。「今日は喉にタンがからみやすいな」と感じる日は、必ずこのサイトをチェックして、なるほどこういうことか、と納得しているのです。

でも、先ほどの中国客の住んでいる江蘇省は、この分布図によると、PM2.5の「非常に(薄いオレンジ)」「極めて(濃いオレンジ)」のエリアにすぽっり覆われています。とてもぼくには住む勇気はありません。

実際、2月に訪ねた上海浦東地区の高層ビル街の空はこんな調子でした(正確な撮影日時は、2月12日午前8時50分)。大気汚染によって朝日さえかすんでいるのです。
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去年の春節当時、「洗肺游(肺を洗う旅行)」というのが流行語でした。中華網(www.china.com)によると、こういうことだそうです。

「洗肺游」は、空気がきれいな場所へ旅行し、肺をきれいにすること。2013年の冬、中国では多く地域が深刻なスモッグに見舞われ、空気がきれいな場所へ行く「洗肺游」が観光市場の新しいトレンドになった。国内の多くの旅行社と観光ウェブサイトでは、この「洗肺游」を企画、販売している。人気の「洗肺」地は、国内は三亜、アモイ、麗江、桂林、昆明、長白山、シーサンパンナ、貴陽、大理、黄山など。海外では、プーケット、バリ島、モーリシャス、チェジュ(済州)島、モルジブなどが人気である。

このきわめて自虐的な流行語は、当時、海外ツアーの宣伝コピーにもさんざん使われていましたが、流行語大賞も翌年になると口にする人がいなくなるのと同じ理屈で、さすがに1年たって時代遅れ感もあり、また当局にずいぶん苦々しい思いをさせたであろうことからか、最近はあまり聞かれません。少なくともネット上には見当たらなくなり、たまに街場の小さな旅行会社の店舗に置かれた売れ残りのツアーチラシに見られるくらいです。

この問題については、中国の大人はともかく、若い世代はそれなりに気にしているようです。これは13年11月、上海の莫干山路の芸術区「M50」にあるepSITE Epson Imaging Gallery(当時)に展示されていたある若い中国人アーチスト(張巧さん)の一連の作品です。タイトルは「工業革命」だそう。
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ちょうど「洗肺游」が流行語としてさかんに使われた頃のことでしたから、ちょっと面白いと思って撮ったのですが、その作風は告発的というよりウケ狙い的な感じに見えなくもありません。いかにも上海らしい腰の座らないスタンスというべきか。いまの中国ではこのくらいがせいぜいだろうかと思っていたら、今年3月上旬、中国で1億回以上もアクセスされたと話題になった元中国中央電視台キャスターの柴静さんのPM2.5告発動画『穹顶之下』が出てきて大いに期待しました。でも、案の定、あっさり当局によって閉鎖されてしまったようです。こんなお国柄ですから、解決への道のりは遠いと言わざるを得ません。

穹顶之下(YOU TUBE)
https://www.youtube.com/watch?v=xbK4KeD2ajI

いたずらに当局を刺激しても、かえって逆効果さえ生みかねないことをよく知っている中国の人たちですから、あまり責めても仕方がないのかもしれません。

でも、そんな彼らも、やはり日本の青空を見たら、いろんなことを思うに違いない…。

そんなことをふと思ったのは、2月に上海の書店で買ってきた『自游日本』(2015年1月刊)という本を手にしたときでした。
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この本は1986年生まれの中国人女性(史詩という名のブロガー)が書いた日本を個人旅行するためのガイド書で、写真と最小限の情報だけが厳選されています。帯に「日本にひとりの友人もなく、日本語もひとことも話せず、それでも日本を自由自在に旅するための本」とあります。ようやく中国でも、この手の旅行ガイド書が書かれるようになったんだなあと感慨深く思ったものです。

史詩さんの微博(weibo)「epic14」
http://www.weibo.com/u/1292461684

彼女は北京大学卒の秀才で、日本のアニメおたくでもあるようです。ぼくは手にしたことはありませんが、『去爱吧,间宫兄弟』というタイトルの著書もあるそうです。

まえがきの冒頭に「2009年から13年まで、4回日本に行きました。合計166日滞在」とあります。こういう何回とか何日海外に滞在したとかいったことが、いまの若い旅行好きの中国人にとっては重要なんですね。日本でも昔、旅行記の著者プロフィールに「海外渡航歴70カ国」なんて書いてる人がいましたが、それに似た気分なのでしょう。

彼女は、2010年にどこかの大学との短期交換留学で来日していて、そのとき週末などを使って日本全国を旅していたようです。「47都道府県中、36県を訪ねた」とも書かれています。

興味深いこんな一文もあります。「おばあさん、おじいさんに感謝します。あなたがたは私が生まれてこのかた最も親しい友人でした。私はこれまで読書と旅行を愛好してきましたが、こうした精神を豊かにし、物質的に淡白な生活習慣を私に身につけさせてくれたのは、あなたたち以外にいません」。

ここでいう「物質的に淡白な生活習慣」を身につけた彼女は、1980年代生まれの「80后」世代。いわゆる中国の新人類です。どうやら彼女には「爆買い」は無縁のようです。

同書では、日本のまっとうな名所旧跡や日常食、そして鉄道旅行のとき彼女が食べたと思われる駅弁がやたらと紹介されています。「まっとうな」とあえて書くのは、基本的に中国の団体客は日本の名所旧跡にほとんど興味がないからです。「日常食」というのは、我々日本人がふだん食べているカレーやラーメン、とんかつ、天ぷら定食などといった料理のことで、一般に海外で販売される日本ツアーの食事として出てくる和牛やしゃぶしゃぶ、かにすき、懐石料理といった料理はほとんど出てきません。またこれも基本的に冷めた食事を好まない中国人らしからず、「駅弁」に注目しているのも新しいと思いました。もちろん、若い彼女には金額が張るので、懐石料理を食べる機会がなかったのかもしれませんが、個人で日本を旅行している他の国の外国人たちはたいてい日本の日常食を食べているわけですから、ようやく中国にも我々と同じような旅行者が現れ始めたのだなと、この本をみてぼくは思ったわけです。

そして、何よりいちばんのポイントだと思ったのは、この本の表紙として選ばれた一両きりのローカル線の車両と高く広がる青空の写真です。

爆買いツアーがすぐになくなるとは思えませんが、どんなに日本のアニメやマンガに詳しい中国の新人類でも、実際に来てみなければ知ることのできない日本の印象とは、こういう澄み切った青空に違いない。そう思えてきたのでした。
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by sanyo-kansatu | 2015-03-30 11:48 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 02月 27日

台湾のドラッグストア研究家、鄭世彬さんと知り合う

先日、上海の書店で面白い本を見つけました。

『东京美妆品购物全书』(中国軽工業出版社 2014年)という本です。「東京コスメショッピング全書」とでもいえばいいのでしょうか。
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内容をざっくりいうと、日本のドラッグストアで販売している医薬品や健康商品、化粧品、美容グッズなどから優れた商品をジャンル別に選んで分類し、紹介したガイドです。これは海外で刊行されている書籍という意味で、ある種、画期的なものではないでしょうか。訪日する中国人観光客がいま最も知りたい情報が一冊にまとめられているというわけですから。

同書は以下の6つの章に分かれています。

Part1 東京のドラッグストアの世界を紹介し、毎年3月に開催される日本ドラッグストアショーや10大人気商品(薬、化粧品)を写真入りで解説しています。

Part2 日本のドラッグストア業界は戦国時代にあると前置きし、都内の特色ある有名店を紹介しています。ぼくなど知らないような店(TOMOD'S東池袋店、OS DRUG渋谷店、AMERICAN PHARMACY、エッセンス池袋東口店、まかないこすめ神楽坂総店など)も出てきます。

PART3 これがメインコンテンツで、各効能・用途別の医薬品や化粧品、美容商品、健康食品、トイレッタリー商品などの図鑑形式の総目録です。これらの商品を著者がどうやってここまで詳しく調べ上げたのか、驚きを禁じ得ません。
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これは日本のドラッグストアで購入できるOCT医薬品ベスト10だそうです。
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こちらは化粧水・乳液のページです。

Part4 都内主要地区(新宿、渋谷、銀座、池袋、上野、川崎)のマップ

Part5 日本のコンビニで販売されている美容商品を紹介しています。

Part6 羽田と成田のショッピングエリアの紹介です。

とにかくやたらと詳しく、中国客が日本で間違いなく買いたいものを手にするための情報が満載した内容です。

誰がこんな本を書いたのだろうか……。もしや日本のドラッグストア業界がからんでいるのかなど、いろいろ考えてしまいましたが、奥付をみると、著者は台湾人の、しかも男性です。女性ではないのです。

いったいこの人物は何者なのか……。

帰国してしばらくして、googleで「鄭世彬」(最初は簡体字の「郑世彬」)検索してみました。すると、その人物の著作がいくつか中国のECブックサイトに出てきました。つまり、すでに台湾で刊行された彼の本を中国の出版社が版権を買い、簡体字版として刊行しているのです。奥付によると、この本の取材は2012年、台湾での刊行が13年、中国では14年のようです。

であれば、本家の台湾を調べようと、今度は繁体字の「鄭世彬」で検索すると、「日本薬粧研究家 鄭世彬」がすぐに見つかりました。ご本人とは別に彼の主宰する「日本薬粧研究所」のFacebookもあります。

日本GO! 藥品美妝購!
https://www.facebook.com/JAPAN.DRUGS.COSMETICS

ここまで調べると、ぼくはこういうときあまり躊躇しない人間なので、すぐに彼のfbを開き、メッセージを送りました。

「はじめまして。上海であなたの本を買いました。とても面白かったので、コンタクトを取りたいです」と、簡単に自己紹介も兼ねて友達申請したところ、わずか数分で彼から返信が届きました。

それが一昨日の午後のことです。

ぼくは鄭世彬さんに以下のような3つの質問を送りました。

①日本や韓国のドラッグストアの商品に関する書籍を執筆された動機やきっかけは何だったのですか。
②この本の読者はどのような人たちですか。台湾と中国で違いはありますか。どの内容にいちばん関心が強いですか。
③昨日、メールで日本のコスメメーカーのコンサルティングもしておられるとお書きでしたが、具体的にはどんなことですか。

以下が彼からの回答の概要です。

①日本や韓国のドラッグストアの商品に関する書籍を執筆された動機やきっかけは何だったのですか。

「これまで本は8冊出しています。以下は私が台湾で刊行したリストです。

鄭世彬著作リスト
http://search.books.com.tw/exep/prod_search.php?key=%E9%84%AD%E4%B8%96%E5%BD%AC&cat=all

前半の8冊が私の著作で、その下は私が翻訳した書籍です。

私は元々出版業界の人間でした。このような書籍を執筆するきっかけは、以前からよく家族や知り合いの人が日本で買ってきた薬のパッケージを持ってきて、翻訳してほしいと頼まれていたからです。きっと多くの台湾人にも同じ悩みがあると思い、翻訳を手伝っていた出版社に相談して、台湾初の日本OTC医薬品(処方箋の不要な市販の薬品のこと)を解説する買物ガイドを出版しました。

その後、読者から「コスメの本もほしい」といわれ、次にコスメガイドも作りました。ネットで拾った情報だけで本を作るのが嫌いなので、各メーカーにメールを出して、取材を申込みました。最初は相手されませんでしたが、最近では少しずつ私の存在が理解されるようになり、取材協力もしてもらえるようになりました。

実は、今まではずっと自腹取材だったので、出費が膨大で、新しいコスメガイドの制作は一時中断していました。しかし、今回多くの読者とメーカーの声に応えるべく、しかも一部のメーカーから取材経費をいただいたので、コスメガイド第三弾の制作を再開することになりました。3月初旬から、日本での取材がスタートします」。

②この本の読者はどのような人たちですか。台湾と中国で違いはありますか。どの内容にいちばん関心が強いですか。

「OTC医薬品の本でしたら、ターゲットはやや広く、20~60代までの読者がいて、性別は男女ほぼ5分5分です。コスメガイドのターゲットは20~40代の日本好きな人たちで、性別は女性が圧倒的です。台湾でときどき日本のコスメセミナーを行っています。その風景は↓の写真の通りです。やはり女性が多いですね。
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読者にとって関心が高い内容は、やはりコスメ・医薬品の解説です。買いたいけど、日本語が読めない! という方はかなり多いです。一部のメーカーは台湾のブロガーを採用し、情報発信していますが、ブロガーの中には日本語が読めない人も多いので、メーカーの提供した情報をそのままで紹介するケースが多いです。そのため、それが客観的な内容かどうかわからないという読者からの指摘もあります」。

③昨日、メールで日本のコスメメーカーのコンサルティングもしておられるとお書きでしたが、具体的にはどんなことですか。

「2013年に来日したときは、取材拒否されることが多かったのですが、14年の半ば頃から、急にインバウンドに関する相談が持ち込まれ、いくつかのメーカーからもオファーが来るようになりました。

そのコンサルの内容としては、台湾人がよく出没するエリア・店舗、台湾人の好み、台湾人向けの販促方法、景品のタイプなどです。

台湾人は中国人と違って日本にとても慣れていて、買物の習慣もより成熟していますから、実際に台湾人が訪れるショッピングエリアは中国人の場合とは大きな違いがあります。

最近になって日本の広告代理店とコラボして訪日外国人旅行(インバウンド)事業のお手伝いもさせていただいています。昨年秋の台北ITFでは、JAPANKURUというブースで、台湾の女性ECサイトのPAYEASYとコラボしましたが、これは私のセッティングでした」。

回答の中にもありましたが、3月上旬、彼は日本のコスメガイド執筆の取材のために来日するそうです。なんというタイミングでしょう。さっそく、東京でお会いすることになりました。

台湾には、鄭世彬さんのような日本のバリューをよく理解し、こちらから頼んでいるわけでもないのに、それを現地で伝えようとしてくれる人材がいるのです。本当にありがたいことです。

日本のドラックストア業界も、彼の存在に気づいたようで、今回は取材協力を惜しまないことでしょう。実際、台湾でならともかく、中国本土で日本の医薬品やコスメを販売するのは、法的な規制が大きく、相当難しいそうです。そのうえ、中国人はたとえ日本メーカーの商品でも、中国で製造されたものは好まず、日本で市販されているものが買いたいようなのです。

であれば、これからはこれだけ訪日客が増えているのだから、わざわざ中国に営業所を構え、販路を広げるようとするより、むしろ日本に来て買ってもらえばいい。日本の製薬メーカーも訪日客に絞った販促に切り替えようとしている動きがみられるという話を上海のPR会社の関係者からも聞きました。

ぼくも彼に「台湾人がよく出没するエリア・店舗、台湾人の好み、台湾人向けの販促方法、景品のタイプ」や「台湾客と中国客の違い」について、もっと詳しく話を聞いてみたいと思います。

彼の来日が楽しみになってきました。
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by sanyo-kansatu | 2015-02-27 10:09 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 06月 17日

かつて金剛山の古刹めぐりは登山客を魅了した。しかし今は…

昭和9(1934)年9月に刊行された『朝鮮旅行案内記』(朝鮮督府鉄道局)の編集上の特徴として、モデルコースが豊富に紹介されていることがあります。さまざまなテーマで朝鮮旅行が楽しめるように、日程と訪ねるべきスポットが簡潔に整理されています。さすがは朝鮮総督府鉄道局の編集とうならせます。

「旅行日程のいろいろ」の項に、「内地方面から(日本から)」と「金剛山探勝(京城(ソウル)から)」のぺージがあり、それぞれ金剛山旅行のモデルコースを紹介しています。これが驚くほどバリエーションに富んでいて、面白いのです。

まず「内地方面から(日本から)」から。

●金剛山探勝 七日間

「第一日 釜山朝着の関釜連絡船で来朝、京城行急行列車に乗車、京城驛着、京城夜景見物、宿泊。

第二日目 朝城津行旅客列車で出發鐡原驛下車、金剛山電気鉄道に乗換へ内金剛驛着、長安寺宿泊。

第三日 徒歩で内金剛探勝の上、毘慮鋒へ(長安寺―明鏡臺―表訓寺―萬爆洞―摩訶衍―毘慮鋒)、久米山荘宿泊。

第四日 久米山荘―九龍淵(九龍の滝)―玉流洞―神渓寺―温井里、宿泊。

第五日 萬物相、探勝後元山行列車にて出發、安邊驛で乗換へ京城行列車に乗車、車中泊。

第六日 朝京城驛着市中見物の上、宿泊。

第七日 釜山行急行又は旅客列車で京城驛出發、夜航便の関釜連絡船にて内地へ」

関釜連絡船で下関から朝鮮に渡り、釜山から京城(ソウル)に向かい、京城で一泊。翌朝京城からいまは途中断たれてしまった京元線に乗り、鐡原駅でこれもまたいまは存在しない金剛山電気鉄道に乗り換え、内金剛駅で降ります。金剛山では、内金剛から外金剛に向かう一泊二日の登山を楽しみ、温井里で温泉にでも浸かるのでしょう。翌朝午前中を使って萬物相まで往復し、鉄道で元山方面へ。夜行列車で京城に戻り、一泊してから釜山に向かい、関釜連絡船に乗るというものです。

このコースは、南北が分断され、交通手段もほとんど壊滅してしまった現在では、実現不可能です。それでも、当時は乗り継ぎもうまく考えられた効率的なコースになっていると思います。鐡原と内金剛山をつないでいた金剛山電気鉄道(1924年11月運行開始)は、険しい地形によって観光客の訪れを阻んでいた金剛山を誰でも訪ねることのできる景勝地にした観光電車でした。「昭和9(1934)年の金剛山は今よりにぎわっていたhttp://inbound.exblog.jp/22786781/」というのは、金剛山電気鉄道のおかげだったといえます。

さて、「金剛山探勝(京城(ソウル)から)」は、朝鮮在住者向けのモデルコースです。「内金剛探勝 一日間」「同二日間」「外金剛探勝 二日間」「同三日間」「内外金剛探勝 三日間(内金剛から入山)」「同(外金剛から入山)」「内外金剛探勝 六日間」と日程や内・外のどちらから入山するかなどによって異なる7つのコースが紹介されています。

たとえば、最も旅程の短い「内金剛探勝 一日間」の場合、「(土曜日及祝祭日の前日に限る)内金剛行直通列車(清津行列車に連絡)にて京城驛出發、車中泊」とあるように、前日に夜行で内金剛に向かい、朝着後、一日かけて内金剛を散策し、再び夜行列車で京城に戻るという強行軍です。確かに、いまでも金曜日の夜に東京を車で出て、未明から登山を楽しむというような日帰り登山はよくありますから、当時もあったのでしょう。

最も中身が充実しているのが「内外金剛探勝 六日間」です。

●内外金剛探勝 六日間

「第一日 福渓行汽動車にて京城驛出發、鐡原驛乗換、内金剛驛に至る。晝食後徒歩にて、長安寺―表訓寺―正陽寺―萬爆洞―摩訶衍―白雲臺―摩訶衍、宿泊。

第二日 摩訶衍―毘慮鋒―内霧在嶺―蔭仙臺、楡點寺、宿泊。

第三日 楡點寺―彌勒峯―楡點寺、宿泊。

第四日 楡點寺―開残嶺―百河橋―自動車にて海金剛へ、海金剛遊覧後自動車にて温井里へ、宿泊。

第五日 温井里―神渓寺―玉流洞―上八潭―九龍淵(九龍の滝)―温井里、宿泊。

第六日 温井里―六花岩―??萬物相―新萬物相―温井里、温井里から自動車にて外金剛驛へ、元山行列車にて出發安邊驛乗換、京城行旅客列車に乗車、車中泊。翌朝京城驛着」

このコースは、いわば金剛山登山のフルコースというべきもので、三日浦や海岸沿いに岩の柱が並ぶ海金剛の景観を訪ねたり、当時「新金剛」と呼ばれた外金剛の南に広がる新しい登山コースも訪ねるものです。新金剛の拠点は楡點寺ですが、「朝鮮戦争のとき米軍に爆撃され、破壊」(『朝鮮観光案内』(朝鮮新報社 1991年)されたようです。同様に、これらのモデルコースには、他にも長安寺、表訓寺、正陽寺、神渓寺などの寺院が出てきますが、現存するのは表訓寺だけで、残りすべては朝鮮戦争時に破壊されてしまっています。

金剛山登山の魅力のひとつに、深い山あいに佇む古刹めぐりがあることは、『朝鮮旅行案内記』の中に次のように解説されています。

「此勝景をして一層の光彩を添へるものは建築美と傳説美である。即ち興味深い史跡傳説を有し朝鮮藝術の粋を蒐めた碧棟朱楹の長安寺・表訓寺・神渓寺・楡岾寺等の大伽藍と多數の末寺は金剛山の怪奇なる紫峰を背景として絶壁の下或は幽谷の裡に點在し天工と人工の美を渾然一致して吾々に強い印象を與へている」

これらの古刹は、登山者の宿としても使われていたようですから、そこで過ごす一夜は実に味わい深いものとなったことでしょう。当時の日本人が金剛山を愛でていた理由に、千年以上前からこの地にあった古刹の存在が大きかったことは想像に難くありません。しかし、それらも朝鮮戦争時にほとんど破壊されてしまったというのですから、なんと痛ましいことか。

次回金剛山を訪ねるときは、唯一現存する表訓寺にぜひ足を運んでみたいものです。かつて登山客を魅了した表訓寺は、新羅時代の670年に初めて建てられたという由緒ある古刹だそうですから。

「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)国会図書館近代デジタルライブラリーより
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1234893/189
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by sanyo-kansatu | 2014-06-17 11:50 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2014年 06月 16日

金剛山は昔、ロッククライミングの穴場だった?

昭和9(1934)年9月に刊行された『朝鮮旅行案内記』(朝鮮督府鉄道局)の「金剛山案内」の項には、ロッククライミングの案内も掲載されています。

「従来金剛山は宗教的に遊覧的に探勝せられていたが、永年の風化浸食によって削られた勇壮な其岩骨は、最近ロッククライミングにも好適とされ、登山家により數多の未登の峻峯が征服せられている。最も多く登攀せられ岩も優れているものに集仙峯と世尊峯がある」

それぞれ次のように紹介されています。

●集仙峯(主峯一三五一米)
「外金剛の東端に、海に臨んで立並ぶ一群の岩峯でそれ自身多くの岩峯を持ち、複雑なる地形を示すグループである。

主峯一三五一米ピークより派出するヂャンダルム(前衛峰のこと)は東北及西北に走り、前者は東北愛稜(第一峯~第七峯)、後者を西北稜と呼んでいる。

温井里より神渓寺への途上極楽峠に立てば南方に其の全貌が望まれ、更に神渓寺より神渓川を渡って動石洞に至れば、集仙峯の峭壁は目前に迫り、岩肌さへ詳細に見取る事が出来る。

主峯一三五一米ピークのピラミダルな山頂、これより西北に伸びている鮫の歯の様な岩稜、そして巨濤の如く入亂れたる東北稜の諸岩峯は力強い魅惑的な岩頭を現はし、強く登攀慾をそそる。

之が登攀を行ふに當って先づ中心的根拠地と定め、それより放射状に各峯頭へ攀る方法が最も自然的であって、動石洞又は東北稜第一峯西鞍部にベースキャムプを張るのが最も有利である。两キャムプサイトには豊富なる水を有し、動石洞は一三五一米ピーク、西北稜は第三峯以北へ、又東北稜第一峯西鞍部は第一峯、第二峯に至るコースの根拠地となっている」

●世尊峯
「集仙峯の西方、動石渓の源流に簇立する世尊峯は東西に延びた屋根状の岩峯(一一六〇米)を主峯とし、北方にの鮫歯状の骨張った岩稜を派出した一群のヂャンダルムである。

その全貌は集仙峯一三五一米ピークから最もよく見られ、灌木の多い稜線の上にくっきりと浮び上った東南面の大峭壁は厭迫的の力強さを持ち、近づき難い感をさへ抱かせる。

根拠は動石洞のベースキャムプ或は動石渓を約三十分遡った澤の北手にある岩小舎(温突式となり約五六人の収容可能)を選ぶのが最も適當である。

登攀コースは動石渓を遡行して一一六〇米南鞍部に至り、之より岩場に取付くのが普通であるが、又玉流洞川、飛鳳瀑の右壁を登って、岩場に取付き主峯から動石渓側へ下降するのも亦快適なるものがある」

さらに、金剛山の岩質として「粗粒の斑状複雲母花崗岩と正片麻岩」からなり、「岩角は風化の為丸味を帯びている」こと。「浮石は殆ど落ち切っているが、只風化による岩質は相當脆き部分がある為登攀に際し、この點充分なる注意を要する。概して拳大以下のホールドは信頼出来得ないものと考ふべきであろう」。「登攀靴としては岩質の関係からトリコニ―を主としたる鋲靴が最も適し、又ゴム底地下タビにても不自由はない」などの登攀上の諸注意も記しています。

昭和9(1934)年当時、日本にロッククライマーがどのくらいいたものかはよく知りませんが、昭和初期にはすでに登山ブームが始まっていたはずですから、朝鮮にも先駆者たちが姿を現わしていたことは確かでしょう。金剛山は当時のロッククライミングの穴場だったのかもしれません。ただし、実際にどの程度行われていたかについては資料もないので、知る由はありません。
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実は、戦後になって金剛山でロッククライミングをやった人たちの記録があります。

女性で初めてアルプス三大北壁登攀に成功した今井通子さんとカモシカ同人隊で、その記録は『白頭山登頂記』(朝日新聞社 1987年)にまとめられています。

同書によると、今井さんと8名の日本人による「カモシカ同人日朝友好親善登山隊」は、北朝鮮の3つの名山(白頭山、金剛山、妙高山)に登るため、1987年2月10日成田から北京に飛び立ちました。北京からは平壌行きの国際列車に乗り、丹東経由で北朝鮮に入っています。

3つの名山のうち最初に登攀したのが金剛山でした。一行は平壌から鉄道で元山に向かい、バスに乗り継いで金剛山の温井里のホテルに宿泊しています。

翌日(2月18日)7時半にホテルを出た一行は、前述したように、かつてロッククライミングに好適とされた集仙峯を登っています。

朝鮮建国以来、スポーツ登山として外国人登山隊が金剛山に入るのは、チェコスロバキア隊とユーゴ隊が無雪期に数回訪れた程度で、2月という厳冬期に入ったのは、日本のカモシカ同人隊が最初のことだったといいます。

1987年というのは、北朝鮮が一般日本人の観光客の受け入れを発表した年(6月)で、10月から実際に北朝鮮ツアーが始まっています。カモシカ同人隊の北朝鮮入りは、当然のことながら、このタイミングに合わせた宣伝効果を狙って北朝鮮側が企画したものでしょう。報道担当として朝日新聞記者やテレビ朝日の社員も同行していました。

ところが、この年の11月大韓航空爆破事件が起きました。すぐに日本人観光客受け入れも停止しています。

はたして金剛山でロッククライミングが再び行われるのはいつの日になるのでしょうか。

「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)国会図書館近代デジタルライブラリーより
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1234893/189
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by sanyo-kansatu | 2014-06-16 16:59 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)