ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 06月 16日

金剛山は昔、ロッククライミングの穴場だった?

昭和9(1934)年9月に刊行された『朝鮮旅行案内記』(朝鮮督府鉄道局)の「金剛山案内」の項には、ロッククライミングの案内も掲載されています。

「従来金剛山は宗教的に遊覧的に探勝せられていたが、永年の風化浸食によって削られた勇壮な其岩骨は、最近ロッククライミングにも好適とされ、登山家により數多の未登の峻峯が征服せられている。最も多く登攀せられ岩も優れているものに集仙峯と世尊峯がある」

それぞれ次のように紹介されています。

●集仙峯(主峯一三五一米)
「外金剛の東端に、海に臨んで立並ぶ一群の岩峯でそれ自身多くの岩峯を持ち、複雑なる地形を示すグループである。

主峯一三五一米ピークより派出するヂャンダルム(前衛峰のこと)は東北及西北に走り、前者は東北愛稜(第一峯~第七峯)、後者を西北稜と呼んでいる。

温井里より神渓寺への途上極楽峠に立てば南方に其の全貌が望まれ、更に神渓寺より神渓川を渡って動石洞に至れば、集仙峯の峭壁は目前に迫り、岩肌さへ詳細に見取る事が出来る。

主峯一三五一米ピークのピラミダルな山頂、これより西北に伸びている鮫の歯の様な岩稜、そして巨濤の如く入亂れたる東北稜の諸岩峯は力強い魅惑的な岩頭を現はし、強く登攀慾をそそる。

之が登攀を行ふに當って先づ中心的根拠地と定め、それより放射状に各峯頭へ攀る方法が最も自然的であって、動石洞又は東北稜第一峯西鞍部にベースキャムプを張るのが最も有利である。两キャムプサイトには豊富なる水を有し、動石洞は一三五一米ピーク、西北稜は第三峯以北へ、又東北稜第一峯西鞍部は第一峯、第二峯に至るコースの根拠地となっている」

●世尊峯
「集仙峯の西方、動石渓の源流に簇立する世尊峯は東西に延びた屋根状の岩峯(一一六〇米)を主峯とし、北方にの鮫歯状の骨張った岩稜を派出した一群のヂャンダルムである。

その全貌は集仙峯一三五一米ピークから最もよく見られ、灌木の多い稜線の上にくっきりと浮び上った東南面の大峭壁は厭迫的の力強さを持ち、近づき難い感をさへ抱かせる。

根拠は動石洞のベースキャムプ或は動石渓を約三十分遡った澤の北手にある岩小舎(温突式となり約五六人の収容可能)を選ぶのが最も適當である。

登攀コースは動石渓を遡行して一一六〇米南鞍部に至り、之より岩場に取付くのが普通であるが、又玉流洞川、飛鳳瀑の右壁を登って、岩場に取付き主峯から動石渓側へ下降するのも亦快適なるものがある」

さらに、金剛山の岩質として「粗粒の斑状複雲母花崗岩と正片麻岩」からなり、「岩角は風化の為丸味を帯びている」こと。「浮石は殆ど落ち切っているが、只風化による岩質は相當脆き部分がある為登攀に際し、この點充分なる注意を要する。概して拳大以下のホールドは信頼出来得ないものと考ふべきであろう」。「登攀靴としては岩質の関係からトリコニ―を主としたる鋲靴が最も適し、又ゴム底地下タビにても不自由はない」などの登攀上の諸注意も記しています。

昭和9(1934)年当時、日本にロッククライマーがどのくらいいたものかはよく知りませんが、昭和初期にはすでに登山ブームが始まっていたはずですから、朝鮮にも先駆者たちが姿を現わしていたことは確かでしょう。金剛山は当時のロッククライミングの穴場だったのかもしれません。ただし、実際にどの程度行われていたかについては資料もないので、知る由はありません。
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実は、戦後になって金剛山でロッククライミングをやった人たちの記録があります。

女性で初めてアルプス三大北壁登攀に成功した今井通子さんとカモシカ同人隊で、その記録は『白頭山登頂記』(朝日新聞社 1987年)にまとめられています。

同書によると、今井さんと8名の日本人による「カモシカ同人日朝友好親善登山隊」は、北朝鮮の3つの名山(白頭山、金剛山、妙高山)に登るため、1987年2月10日成田から北京に飛び立ちました。北京からは平壌行きの国際列車に乗り、丹東経由で北朝鮮に入っています。

3つの名山のうち最初に登攀したのが金剛山でした。一行は平壌から鉄道で元山に向かい、バスに乗り継いで金剛山の温井里のホテルに宿泊しています。

翌日(2月18日)7時半にホテルを出た一行は、前述したように、かつてロッククライミングに好適とされた集仙峯を登っています。

朝鮮建国以来、スポーツ登山として外国人登山隊が金剛山に入るのは、チェコスロバキア隊とユーゴ隊が無雪期に数回訪れた程度で、2月という厳冬期に入ったのは、日本のカモシカ同人隊が最初のことだったといいます。

1987年というのは、北朝鮮が一般日本人の観光客の受け入れを発表した年(6月)で、10月から実際に北朝鮮ツアーが始まっています。カモシカ同人隊の北朝鮮入りは、当然のことながら、このタイミングに合わせた宣伝効果を狙って北朝鮮側が企画したものでしょう。報道担当として朝日新聞記者やテレビ朝日の社員も同行していました。

ところが、この年の11月大韓航空爆破事件が起きました。すぐに日本人観光客受け入れも停止しています。

はたして金剛山でロッククライミングが再び行われるのはいつの日になるのでしょうか。

「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)国会図書館近代デジタルライブラリーより
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1234893/189
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by sanyo-kansatu | 2014-06-16 16:59 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2014年 06月 15日

金剛山の最適な探勝シーズンは10月上旬。紅葉の美しい絶景が見られるそうです

昭和9(1934)年9月に刊行された「朝鮮旅行案内記」(朝鮮督府鉄道局)の「金剛山案内」と題された章の中には、この地をいつ訪ねるべきかについて詳しく解説されているページがあります。

「金剛山の自然美は四季の變化に伴ふ山容も自ら異り各々特徴ある風景美を以て探勝者を喜ばせ、詩歌に繪畫に其の藝術的詩情を多分に現はしている。金剛山の探勝は一年を通じて探勝に差支へなく鐵道局でも之等探勝客の便を圖つて年中各驛から割引乗車券を發賣しているが毎年五月一日から十月末日までは金剛山探勝に最適の時季であるので山内の宿泊、交通機関を整備せしめ、汽車自動車の連絡を圖ることになっている」

金剛山の登山シーズンはいつなのか。その答えは、「五月一日から十月末日」です。金剛山は「四季の變化に伴ふ山容も自ら異り各々特徴ある風景美」を見せるといいます。

そこでは、月ごとの山容の微妙な変化をていねいに描き分けています。

「五月 峰も溪も潭も一様に美しい濃淡の若葉に蔽はれた所謂新緑の探勝季である。

六月 翠緑濃やかな山峰は碧潭、深淵の清らかな水に映じて初夏の鮮麗な山水美が見られる。

七月 例年七月上旬から雨季に入るのであるが、變化極りない雲の躍動は山容に一層の勇壮さを加へ渓流は水勢鞺鞳として豪怪な觀を呈する。

八月 強い陽光を受けて碧空に聳ゆる奇鋒、碧水を湛へた悽艶な渓谷の深淵等の景致は何れも盛夏ならでは味ふことの出来ない情趣である。八月も末になるとはや秋風が吹いて朝夕は餘程涼しくなる。

九月 樹間を透して吹き来る涼風は柔かく肌身に觸れて探勝者に氣持よい感を與へる。秋特有の青澄な空に浮き出た峰巒は殊に美しい色彩をなし、九月の末には内金剛地方は早くも紅葉を呈する。

十月 上旬から中旬にかけて金剛錦繡紅衣に彩られ金剛山探勝に最適の時季で、例年内金剛の見頃は外金剛より幾分早く十月五、六日前後、外金剛は十日前後が酣である。下旬になると涼氣も餘程身に沁み毘慮鋒頂では岩間の水は既に氷結している。愈々探勝の好季節も終わりを告げて全山冬眠に入るのである。

十一月から翌年四月まで 十一月に入ると気温頓に低下して金剛風が吹き初め全山概ね落葉して岩骨を露出し、雲さへ降って皆骨金剛の豪怪な山容を現出する。十二月神秘な冬の粧ひをなし、毘慮鋒では例年積雪丈餘に及んで壮快なるスキー登山が出来る。又山麓の温井里は温泉とスキー場があるので年末年始にかけての休暇を利用し出掛けるものも多い。積雪は大概二、三月頃まで残り、年によっては三月下旬までスキーも出来ることもあるが流石四月に入れば概ね解けて草木も永い冬眠より甦り春の季節を待つこととなる」

最適のシーズンは10月上旬。紅葉の美しい絶景が見られるそうです。昨年ぼくが訪ねたのは8月下旬でしたが、「強い陽光を受けて碧空に聳ゆる奇鋒、碧水を湛へた悽艶な渓谷の深淵等の景致」という表現は、なるほどと納得したものです。

秋に金剛山を訪ねたことのあるという友人のひとりは「紅葉の美しさは、日本でも見たことがないほどの素晴らしさだ」と語っていましたから、もし次回行く機会があるなら10月上旬にすべきだと思いました。

冬は木々がすべて落葉し、花崗岩の岩肌が露出して迫ってくるようなんですね。「豪怪な山容」との記述がありますが、「豪快」」ではなく「怪」の字を使っている理由も、なんとなく想像できます。現在、外金剛ホテルなどの宿泊施設のある温井里には、温泉とスキー場があったと書かれていますが、いまでも温泉施設はあります。

四季によってこんなに風景が変わる金剛山。「因に四季各々自然の變化によって金剛の山水美を讃へたものに春を「金剛」夏を「蓬莱」秋を「楓岳」、冬を「皆骨」と称する別名がある」そうです。

「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)国会図書館近代デジタルライブラリーより
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1234893/189
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by sanyo-kansatu | 2014-06-15 09:59 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2014年 06月 14日

金剛山の魅力は奇鋒と渓谷、美しく青みを帯びた深潭の醸成する幽寂な景趣にある

昭和9(1934)年9月に刊行された「朝鮮旅行案内記」(朝鮮督府鉄道局)の内容から、金剛山に関する記述を検討したいと思います。もともとこの本は、当時の朝鮮を鉄道で旅行するための案内書で、概説編(236p)と案内編(309p)の2部構成になっています。

概説編では、朝鮮の地勢や気候、産業、歴史、風習、年中行事などとともに、「金剛山案内」(38p)に多くのページを割いています。個別の観光地として概説編に紹介されるのは金剛山だけであることから、いかに特別の存在であったかがわかるのです。案内編では、朝鮮内のすべての鉄道路線と駅のある町が解説されています。

では「金剛山案内」にはどんなことが書かれているのでしょうか。

「金剛山とは朝鮮半島の東海岸に沿ひ南北に縦走する脊梁山脈中の一群の峻鋒を稱し、江原道の准陽、高城の二郡に跨って廣袤實に十八平方里に亘り日本海に面する斜面と内陸に面する斜面の二帯に分かれている。前者は即ち外金剛、後者が内金剛と稱せられている。

地勢は東は急峻で西は概ね緩やかな高臺状をなし、脊梁山系たる主脈と之より分岐する數多の支脈は変化に富んだ奇鋒峻嶺から成り立ち、千米以上の峻鋒重疉として聳立し岩骨を露出し削壁をなして所謂萬二千衆鋒を形造っている。そして主脈から分岐する支脈は何れも短かく河川は為に幾多の小支流は岐れ岩床は露出して巨岩怪岩を轉じ到る處に急湍激流を造っている」

「金剛山を構成する岩類は太古界から新生界に亙った可なり多くの種類を網羅しているが主なる岩石は斑状複雲母花崗岩及白雲母又は斑晶を缺ぐ黒雲母花崗岩であって、之等は著しく節理に富み其方向は垂直の場合が多く、其の他多種多様の節理を存し岩體は之に沿ふて永年の風化浸食により變幻の妙を極め金剛山獨自の山岳美を成している」

ここでは、金剛山が日本海側に面した外金剛と内陸に面した内金剛に分かれること。一万を超えるという露出した花崗岩から成る巨岩怪岩が屹立し、急流が造る山岳美が「變幻の妙を極め」ていると賛美しています。

それに続く「金剛山の風景と其特色」では、金剛山が「世界的名山」たる理由についてこう解説しています。

「金剛山が世界的名山として賞賛される所以は古来萬二千鋒と謳われる無數の奇鋒峻嶺と之等の峰巒が互ひに錯綜して構成する幾多の渓谷と其渓谷に懸る、瀑布、深潭、奔流等の醸成する豪壮雄渾或は清浄幽玄なる景趣にあることは、探勝者の齊しく認めるところで此勝景をして一層の光彩を添へるものは建築美と傳説美である。即ち興味深い史跡傳説を有し朝鮮藝術の粋を蒐めた碧棟朱楹の長安寺・表訓寺・神渓寺・楡岾寺等の大伽藍と多數の末寺は金剛山の怪奇なる紫峰を背景として絶壁の下或は幽谷の裡に點在し天工と人工の美を渾然一致して吾々に強い印象を與へている」

旧字の多い難解な文面を長々と引用したのは、金剛山を愛でるうえで、こうした漢文調の表現にこそ味わい深さを感じられると思ったからですし、おそらく当時の日本人は、そういうスタイルを好んでいたに違いないと考えるからです。
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金剛山の魅力は奇鋒と渓谷、瀑布、深潭、奔流の醸成する幽寂な景趣にある。これはわずか1日の登山体験をしたにすぎないぼくにも、理解できるものでした。特に心打たれたのは、これまで日本でも、また他の国でも見たことのないほど美しく青みを帯びた深潭でした。
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「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)国会図書館近代デジタルライブラリーより
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1234893/189
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by sanyo-kansatu | 2014-06-14 13:04 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2014年 06月 14日

昭和9(1934)年の金剛山は今よりにぎわっていた

昨年、ぼくは北朝鮮の金剛山を訪ねたのですが、戦前期には、この地は朝鮮を代表する観光地でした。実際のところ、今より80年前のほうがにぎわっていたし、観光地開発もずっと進んでいたのです。

2013年、金剛山観光はどうなっているのか?
http://inbound.exblog.jp/22561895/

その事実は、昭和9(1934)年9月に刊行された「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)の内容をみるとわかります。同書は国会図書館近代デジタルライブラリーで誰でも閲覧することができます。

「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1234893

当時の旅行案内書の記述の詳細さや内容の面白さは、現在書店に並んでいるガイドブックのたぐいとは比較にならないほどです。とりわけ、同書における金剛山の扱いは別格です。金剛山は、当時朝鮮半島を代表する景勝地として理解されていたことがわかります。

いったい当時の日本人にとって金剛山とは何だったのか? 以後、同書の内容を通して考えていきたいと思うのですが、まずはわかりやすいところからという意味で、金剛山の口絵の一部を紹介していきます。
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これは外金剛の九龍の滝の口絵です。
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これは昨年撮った九龍の滝。滝つぼに落ちる水量が少ないことを除けば、80年前とほとんど変わっていません。
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これは玉流洞渓谷の口絵です。
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これは昨年撮ったもの。これも変わりません。
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これは三日浦の口絵。
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これは昨年の三日浦。

当たり前のことかもしれませんが、自然の景観は80年程度の時間の経過で変わるものではないですね。時間がなくて訪ねることができませんでしたが、その他口絵に載っているのは以下の景勝地です。
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これは奥萬物相といい、外金剛にある屹立する岩の連峰です。
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これは海金剛で、金剛山の海岸沿いに林立する柱の奇岩です。
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ちょっと面白いのはこれで、昭和9年当時、金剛山にはスキー場があったようです。昨年北朝鮮の元山の近くに馬息嶺スキー場ができたことがずいぶん報道されましたが、実は昭和の時代にはここだけでなく、朝鮮半島にはたくさんのスキー場があったのです。その話についてはまたいずれ。
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また金剛山にはかつて多くの寺院がありました。これは楡點寺といい、金剛山の南の山中にありましたが、現在は残っていないようです。理由は、金剛山周辺は朝鮮戦争の激戦区だったからです。
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「金剛山探勝径路図」によると、今日残っていない、いくつかの寺院や鉄道路線などが見られます。当時のほうが今より観光地開発が進んでいたといえるのは、そのためです。
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by sanyo-kansatu | 2014-06-14 13:02 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2014年 05月 01日

29回 好調!訪日タイ個人客のつかみ方~人気ガイドブックから学ぶ“おもてなし”

先ごろ発表された日本政府観光局(JNTO)のプレスリリースによると、今年1~3月までの訪日タイ客数は前年度比64%増と過去最高を記録しています。4月も桜の花見シーズンとタイの旧正月「ソンクラーン」の休暇が重なり、多くのタイ客が日本各地を訪れました。

タイ客の手配を扱うランドオペレーター、株式会社トライアングルの河村弘之代表取締役によると、「今年もタイ市場は勢いがあります。昨年の観光ビザ免除で、日本ツアーが出発ギリギリまで販売されており、日本側のランドは手配が大変です。ホテルの客室やバスの不足も懸念されている」とのこと。先日もタイのLCC、エアアジアXが7月から成田と関空に就航するニュースが出たばかり。この勢いはさらに加速しそうです。

観光ビザが免除された訪日タイ客の特徴は、個人旅行者の比率が高いこと。彼らの旅行意欲を盛り上げるポイントは何か。日本に来て何を楽しみ、また不便を感じているのか。それを知るうえで参考になるのが、現地の各種メディアや旅行書のコンテンツです。

タイ人の訪日旅行を盛り上げるメディア作品

2月21日、タイの国際トラベルフェア(TITF)開催に合わせて、日本政府観光局(JNTO)が訪日旅行促進に貢献した団体・個人を表彰する「Japan Tourism Award in Thailand」の授賞式がありました。同賞には、タイのトップスターから映画、テレビ番組、CMのプロモーションなど、多彩な関係者が選ばれています。これを見ると、どんな作品がタイ人の訪日旅行を盛り上げているか知ることができます。

以下、同事務所の2月24日付けリリースをもとに受賞者を紹介します。それぞれ動画で作品の概要もわかるようにしてみました。

●Thongchai McIntyre (Bird)/ トンチャイ・メーキンタイ氏
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『Praew』 2013年 5月 10 日号「沖縄特集」の表紙

トンチャイ・メーキンタイさんといえば、「バード」の愛称で知られるタイの国民的スターです。1990年代にタイを訪ねた頃、街でよく彼の曲が流れていたことを思い出します。

トンチャイさんが受賞した理由は、精力的な訪日プロモーション活動への貢献です。昨年2月に「HBC国際親善広場大使」として第64回さっぽろ雪祭りへ参加。3月には沖縄県の招請で人気女性誌『Praew』の表紙撮影のために沖縄を訪問。11月にはタイ代表として東京で開催された『日・ASEAN音楽祭』へ参加するなど、日本での活動の様子がタイでも大きく報じられたといいます。これは日・ASEAN音楽祭で歌うトンチャイさんです。
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Bird Thongchai - ASEAN-Japan Music Festival 2013【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=Q1KMd2Paki0

さらに、彼は東日本大震災支援のためにチャリティーソング『明日のために』をリリースし、日本の震災復興支援に貢献しています。以下、チャリティーソングの動画です。一部日本語でも歌っています。

明日のため- Bird Thongchai【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=9EmtcjNuLac

今回の表彰式のために寄せられたトンチャイさんの受賞メッセージが、日本政府観光局バンコク事務所のHPのトップページに掲載されています。タイ語のサイトなので詳しい内容はわかりませんが、彼は動画の中で日本の魅力について語っています。

トンチャイさん受賞メッセージ【動画】
http://www.yokosojapan.org/

●ジャルン・ポカパン・フード社

タイを代表する食品会社ジャルン・ポカパン・フード社(C.P.Group)は、昨年日本行きのツアーが当る消費者向けプロモーション『CP Surprise!』を実施し、大ブームとなったそうです。以下の動画はタイのテレビで放映された同社のCMフィルムです。映像を見るだけで、コミカルな楽しさが伝わってきます。

CP Surprise!【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=d5zOEexrraU

●タイのホラー映画『Hashima Project』

2013年10月に公開されたタイのホラー映画です。タイの若い男女5人のグループが、超常現象を撮影しようと近年話題の長崎県の歴史的廃墟である軍艦島(端島)を訪ねるというストーリーです。

西日本新聞2013年5月1日によると、昨年4月18日から長崎市の平和公園や軍艦島で同作品のロケが行われたそうです。監督のピヤパン・シューペット氏(42)は、インターネットで見た端島(軍艦島)を一目で気に入り、長崎ロケを決めたといいいます。吹き替えや字幕はないため、これも内容を詳しく知ることはできませんが、これまでタイ人にまったく知られていなかった「軍艦島」の名を認知させたことは確かでしょう。ロケ地を訪れたいと実際に軍艦島に足を運ぶタイ人も出てきており、軍艦島訪問を含むツアーも造成されているそうです。以下は、同映画のプロモーションフィルムです。

Hashima Project 【動画】
https://www.youtube.com/watch?v=jQ8ZaSlVBtg

軍艦島上陸クルーズ
http://www.gunkan-jima.net/

●テレビ番組『MAJIDE JAPAN』

昨年4月よりタイのBang Channelで毎週木曜夜11時から放映されている日本旅行をテーマにした人気バラエティ番組です。受賞の理由は、中国地方(鳥取、岡山、山口)や鹿児島、新潟、群馬など、まだあまりタイで知られていない地域を紹介していることです。
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MAJIDE JAPAN【動画】
https://www.youtube.com/playlist?list=PLRVsMETJm4bXsotg7I45xLtG7famnJI9D

もともとタイでは、日本のテレビ局から版権を買ってグルメ番組や旅行番組を深夜枠で毎日のように流していたそうですが、最近は自前の番組も増えています。もしタイ語がわかれば、出演するタレントさんたちが日本の何に驚き、面白がっているのか、わかって面白いことでしょう。それがタイ人誘客のヒントにつながるに違いありません。

人気旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』

訪日タイ客たちの多くは前述したように、個人旅行者です。彼らは日本でどんな不自由を感じているのでしょうか。それを知るうえで参考になるのが、昨年の「Japan Tourism Award in Thailand」受賞作の旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』です。
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タイの人気旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』

タイ人女性カメラマンのBASさん(本名:オラウィン・メーピルン)が執筆した実践的な旅行案内書です。同書は2タイトルあり、彼女が実際に訪ねた日本全国31か所の観光地について見どころや食事、宿泊施設などを詳しく紹介しています。彼女の撮影したユニークな写真(タイ人には、日本がこんな風に見えるのかという新鮮な発見が多数あり)や女性らしいイラストを多用し、日本語がわからないタイ人でも個人旅行が楽しめるような情報が満載です。

もっとも、タイ語が読めないと、詳しい内容はお手上げです。そこで、今回知り合いのタイ人留学生にこの本を読んでもらい、コメントをもらいました。その結果、見えてきたのは、タイ人の日本旅行にとってどんな情報が有用なのか、でした。これを理解すれば、タイ客の“おもてなし”に役立つはずです。
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以下、タイ人留学生ジャムジュン・モンティチャーさんとの同書をめぐる問答集です。ちなみに、彼女はタイのペチャブリー出身で、都内某大学院で観光学を専攻する若手研究者です。

四季の違いやコーディネイト例を詳しく解説

―『一人でも行ける日本の旅』は面白かったですか?

「はい、この本はよくできているなと思いました。日本語ができないタイ人でも旅行が楽しめるよう、いろいろな工夫があります」。

―それはどんなことですか?

「まず四季の違いの解説です。タイには日本のようなはっきりした四季がありませんから、何月から何月までが冬という基本的なことから、それぞれの季節に何が見られるかなど、わかりやすく説明しています」。

―タイ人に人気があるのはどの季節ですか?

「いちばん人気は春ですね。桜の季節です。タイ人にとって満開の桜は憧れです。次は冬。タイ人は一度雪を見てみたい、触ってみたいと考えているんです。日本旅行にいつ行くべきかを決めるためには、まず四季を理解しなければなりません」。

―これは持ち物チェックリストですね。日本の旅行ガイドブックにもよくあります。右のページは何でしょうか?
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四季を経験したことのないタイ人にとって季節別のコーディネイトは必須

「季節別のコーディネイト例です。タイ人には日本の寒さや暑さの程度がよくわかりませんから、季節ごとにどんな衣類を用意し、何枚くらい重ね着すればいいのかという目安をイラストで説明しています」。

―行く時期を決めたら、次はどうやって行くか、でしょうか。

「最近、タイの旅行会社はさまざまな日本ツアーを販売しているので、そこから選ぶのもいいのですが、いまは観光ビザも免除されているので、若い人たちはツアーに参加せず、個人旅行をしたいと考えています。

ただし、日本を個人で旅行するとき、大変なのは移動手段です。交通運賃がタイに比べて高いので、JRパスのような外国人向け割引券の情報は欠かせません。成田や関空から都市圏へのアクセスや、新幹線に乗って日本各地に行く場合の大まかなルートや所要時間も知りたいです。また東京の地下鉄は複雑なので、うまく乗りこなすためには、自動販売機やスイカの使い方などを知っておくと便利です」

―確かにこの本では、交通の利用法についてたくさんのページを割いているようですね。HyperdiaやJorudanのような乗換サイトの使い方も詳しく説明されています。

「ホテルについても、5ツ星クラスからビジネスホテル、ゲストハウス、旅館、民宿と分けて解説しています。日本に住むタイ人家庭にホームステイする方法も書かれていますよ」。

撮影ポイントや温泉の入り方もイラスト入りで

―タイ人は写真を撮るのが好きだそうですね。それぞれの観光地で、どのポイントから写真を撮ればいいか、そういう細かい情報が必要だと聞きます。

「タイ人は真似するのが大好きなんです。日本旅行に行った友達のFacebookを見て、自分も同じ写真が撮りたい。その点、この本はカメラマンが書いているので、撮影のポイントについて細かく触れているのが人気の理由ではないかと思います」。

―後半には、コンビニの商品や自動販売機の使い方などもありますね。
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コインロッカーやウォシュレットにタイ語の説明があると喜ばれる

「タイにも日本のコンビニはあるのですが、日本でしか売られていない商品も多いので、タイ人は気になるのです。また個人旅行する人に欠かせないなのが、駅のコインロッカーの使い方です。そして、何より日本語のわからないタイ人が知っておきたいのは、ウォシュレットの使用法でしょう」。

―確かに、ボタンがいろいろあってわかりにくいですよね。ここではボタンごとに機能を説明しています。

「いまタイ人がいちばんほしいのはウォシュレットといわれるくらいなんです。ようやくバンコクの新しいショッピングモールなどで導入が始まっていますが、まだ一般的でないので、ウォシュレットと一緒に記念撮影するタイ人もいるほどです。それから日本の和式トイレの座り方がわからないタイ人も多い。実は、日本と逆に座るので……」
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温泉の入り方の説明もこうしてイラストにするとわかりやすい

―タイでは便座のないトイレの場合、扉のほうを向いて用を足すけど、日本の和式トイレは背を向きますものね。なるほど、トイレの使い方は重要ですね。それからこのページでは、温泉に入る作法や浴衣の着方などもイラストでわかりやすく解説しています。

「水着はNGとか、お湯につかる前に掛け湯をするといいとか、お風呂の中で日本酒を一杯というのはダメですよと」。

タイ人は日本のステーショナリーが大好き

―さて、少し話題を変えたいと思います。実はこの『Omiyage』という本は、バンコクの日系出版社が制作した都道府県別のお土産案内です。とても詳しく全国のお土産が紹介されているのですが、実際のところ、いまタイ人は日本でどんなものを買っていくのでしょうか?
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『Omiyage』(Marugoto(Thailand)CO.Ltd刊)
http://www.marugoto.co.th/

「女性の観点でいうと、まず化粧品です。資生堂とDHCのサプリメント。お菓子も大好き。なかでも抹茶味のキットカットが人気です。東京バナナやロイズの生チョコ、タイ人はイチゴが好きなので、イチゴ入りのチョコレートにも目が離せません」

―なぜ抹茶味が人気なんですか?

「なぜでしょう。ほかにも桜味やワサビ味などがありますが、こちらの人気はいまいちです。最近、ブルーベリーチーズケーキ味のキットカット(上・甲信越限定ご当地商品)が出て、これはおいしいですね。キットカットはタイにも売っているけど、少し高いので、日本のコンビニで買えば安いことをみんな知っています。空港でまとめ買いする人も多いです。私もタイに帰省するときは、荷物のほとんどがお土産で、お菓子や化粧品がいっぱい詰まってしまいます。向こうに帰っても着るものはそんなに必要ないからですが、友達に頼まれるので、仕方ないんです」。

―他にも何かありますか?

「日本のステーショナリーが人気です。ふつう人からボールペンをもらっても、何これって感じですが、日本のシャーペンとか、消えるペンをあげるとみんな喜びます。だから、最近のタイ人のツアーでは、ロフトとか東急ハンズに連れて行ってくれというお客さんのリクエストが多いそうです」。

―日本の文房具のどんなところがいいのでしょうか?

「すごくよくできているのと、タイ人は小さくて細かくて、カラフルでいろいろあるという世界が好きなんです。日本のステーショナリーを見ていると、ワクワクします」。

日本旅行ブームを支える背景

―タイ人の感性は日本人と似ていますね。

ところで、タイの皆さんは日本の旅行情報をどのようにして知るのでしょう。どんな話題があると日本に旅行に行きたいという気持ちになるのですか。

「やはり影響力が大きいのはテレビ番組です。日本を紹介する番組は昔から多かったですが、最近はタレントが実際に日本に旅行に行ってレポートする番組が増えています。たとえば、『I am Maru』とか、去年の春から放映している『MAJIDE JAPAN』。おなべの子が日本を訪ねるバラエティです。あの番組、メチャメチャ面白いです。『MAJIDE JAPAN』の影響力はマジですごいです。日本にいても、ネットで視聴できますよ」。

―その番組は、日本政府観光局から訪日旅行促進に貢献した番組として表彰されたんです。みんな観てるんですね。

最後に、モンティチャーさんにタイの観光研究者のひとりとしてご質問があります。いまのようにタイ人が海外旅行にたくさん行くようになってきたのはいつ頃からでしょうか。

「4~5年前からです。LCC(格安航空会社)が飛び始めた頃からで、タイ人の所得がだいぶ上がったことが大きいです。私が大学を卒業した頃は、新卒の初任給は日本円で2万円相当でしたが、いまは約5万円と聞きます。ですから、半年とか1年とかお金を貯めて、海外旅行に行きたいと考える若者が増えています。自分のための1年1回のプレゼントとして。最初は近場の香港やシンガポールに行くけど、本当は日本に行ってみたい」。

―日本旅行ブームの背景には何があるのでしょうか。

「これまでヨーロッパと同じように敷居の高かった日本が観光ビザを免除したり、円安になったりして、行きやすくなったことが、ブームの背景だと思います。なにしろ以前は、特にタイの女性の場合、日本に行くには、半年分の銀行口座の残高証明だとか、いろんな書類を用意しなければなりませんでした。いまはその必要がなくなったのですから。

バンコクなどの都市に暮らす一般の人たちがクレジットカードをつくりやすくなったこともあります。海外旅行ローンも気軽にできるようになった。年に2回のトラベルフェアなどで安いツアーや航空券が買えるようになり、海外旅行のチャンスが広がっているのです」。

実は、今年の「Japan Tourism Award in Thailand」でも、以下の2冊が「訪日旅行の促進に貢献した旅行ガイドブック」として受賞しています。
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●ガイドブック『ガイドやツアーに頼らずに歩く日本』
●ガイドブック『123美味しい関西』

上記2冊はまだ入手していませんが、いずれも個人旅行者向けのガイドブックのようです。さまざまな角度から日本旅行の面白さを伝え、読者に旅を楽しんでもらおうという意欲を感じさせるハイセンスなガイドブックが次々と登場してくるのがいまのタイです。機会があれば、これらの本がどんな内容なのか、確かめてみたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-05-01 17:01 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2014年 04月 19日

ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』をめぐるタイ人留学生との問答集

昨年夏、バンコクで開催されたタイ国際旅行フェアの会場で購入した1冊のタイ語の旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅(Japan ญี่ปุ่น คนเดียวก็เที่ยวได้)』は、とても楽しい本です。
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タイ人女性カメラマンのBASさん(バス:ペンネーム、本名:オラウィン・メーピルン)が執筆した実践的な旅行案内です。同書は2タイトルあり、彼女が実際に訪ねた日本全国31か所の観光地について見どころや食事、宿泊施設などを詳しく紹介しています。彼女自身が撮影したユニークな写真(タイ人には、日本がこんな風に見えるのかという新鮮な発見も多数あり)や女性らしいイラストを多用し、日本語がわからないタイ人でもひとりで旅行を楽しめるような情報が満載なのが特徴です。

またこの本は、2013年2月12日に在タイ日本国大使公邸で開催された“Reception for Japan-bound Tourism Promotion”において、訪日旅行の促進に貢献した旅行ガイドブックとして「Japan Tourism Award in Thailand」を受賞しています。

もっとも、タイ語が読めないぼくには、詳しい内容はお手上げです。そこで、知り合いのタイ人留学生にこの本を読んでもらい、読後の感想やこの本の特色について話を聞きました。その結果、見えてきたのは、タイ人の日本旅行にとってどんな情報が有用なのか。彼らが日本で何を気にし、何に困っているのか。彼らの旅行意欲を掻き立てるポイントは何か、といったことです。それを理解すれば、タイ人に対する“おもてなし”にも役立つはずです。

以下、タイ人留学生ジャムジュン・モンティチャーさんとぼくとの同書をめぐる問答集です。ちなみに、モンティチャーさんはタイのペチャブリー出身で、都内某大学院で観光学を学んでいる方です。

―『一人でも行ける日本の旅』は面白かったですか。

「はい、この本はよくできているなと思いました。最近、タイで元留学生が日本の体験を綴ったエッセイが出版されています。日本でのアパートの借り方やアルバイトなど生活のエピソードや、国内旅行の話などいろいろ書かれています。私も留学生のひとりなので、よく理解できる内容なのですが、基本的に長期間日本に滞在し、日本語ができることが前提になっています。でも、『一人でも』は、日本語はもちろん、日本のことがよくわからないタイ人でも旅行できるよう、いろいろな工夫がされています」。

―それはどんなことですか。具体的に教えてもらえますか。

「まず四季の解説です。タイには日本のようなはっきりした四季がありませんから、何月から何月までが冬という基本的なことから、それぞれの季節に何が見られるかなど、わかりやすく説明しています」。
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―タイ人に人気があるのはどの季節ですか。

「いちばん人気は春ですね。桜の季節です。タイ人にとって満開の桜は憧れです。次は冬。タイ人は一度は雪を見てみたい。触ってみたいと考えているんです。日本旅行にいつ行くべきかを決めるためには、まず四季を理解しなければなりません」。

―行く時期を決めたら、次はどうやって行くか、でしょうか。

「最近、タイの旅行会社はたくさんの日本ツアーを販売しているので、そこから選ぶのもいいのですが、いまは観光ビザも免除されているので、若い人たちほどツアーに参加せず、個人旅行をしたいと考えています。
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ただし、日本を個人で旅行しようとするとき、いちばん大変なのは移動手段です。交通運賃がタイに比べて高いので、JRパスのような外国人向け割引券の情報は欠かせません。成田や関空から都市圏へのアクセスや、新幹線に乗って日本各地に行く場合の大まかなルートや所要時間も知りたいです。また東京の地下鉄は複雑なので、うまく乗りこなすためには、自動販売機やスイカの使い方などを知っておくと便利です」

―確かにこの本では、交通の利用法についてたくさんのページを割いているようですね。HyperdiaやJorudanのような乗換サイトの使い方も詳しく説明されています。
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「ホテルについても、五ツ星クラスからビジネスホテル、ゲストハウス、旅館、民宿と分けて解説しています。日本に住むタイ人家庭にホームステイする方法も書かれていますよ」。

―これは持ち物チェックリストですね。日本の旅行ガイドブックにもよくあります。右のページは何でしょうか。
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「季節ごとの衣服のコーディネイト例です。タイ人には日本の寒さや暑さがよくわかりませんから、季節ごとにどんな衣類を用意し、何枚くらい重ね着すればいいのかという目安をイラストで説明しています。

またこの本の筆者はカメラマンなので、撮影器材やバッグの収納法なども写真付きで解説しています」

―タイ人は写真を撮るのが好きだそうですね。それぞれの観光地で、どのポイントから写真を撮ればいいか、そういう情報が重要だといいますね。

「タイ人は真似するのが大好きなんです。日本旅行に行った友達のFacebookを見て、自分も同じ写真が撮りたいと。その点、この本はカメラマンが書いているので、撮影のポイントについて細かく触れているのが人気の理由ではないかと思います」

―後半には、コンビニの商品紹介や自動販売機の使い方の解説などもありますね。

「タイにも日本のコンビニはあるのですが、日本でしか売られていない商品も多いので、タイ人はすごく気になるのです。飲み物やアイスクリームの自動販売機も使ってみたくなるんです。

それからこれはタイ人に限らないかもしれませんが、個人旅行する外国人にとって役に立つのは、コインロッカーの使い方でしょうね。駅に荷物を置いて観光したり、買い物したものを置いておいたり、すごく便利ですから。それと、日本語のわからないタイ人が何より知っておきたいのは、ウォシュレットの使用法です」。

―確かに、ボタンがいろいろあってわかりにくいですよね。ここではボタンごとに機能を説明しています。
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「いまタイ人がいちばんほしいのはウォシュレットといわれるくらいなんです。ようやくバンコクの新しいショッピングモールなどで導入が始まっていますが、まだまだ一般的でないので、ウォシュレットと一緒に記念撮影するタイ人もいるほどです。Facebookによく出てきます。あと日本の和式トイレの座り方がわからないタイ人も多い。実は、日本と逆に座るので…」

―そういえば、タイでは便座のないトイレの場合、扉のほうを向いて用を足すけど、日本の和式トイレは背を向きますものね。なるほど、トイレの使い方の情報は重要ですね。

ところで、2冊目のJapan 2には、日本語旅行会話がありますね。これを見て面白いと思ったのは、限られた誌面にタイ人にとって重要なアイテムを網羅しようとしていることです。たとえば、食べ物は全部で34個出てきます。こんな感じです。

お茶、日本酒、ラーメン、すき焼き、しゃぶしゃぶ、そば、焼きそば、そば・うどん、おでん、焼き鳥、お好み焼き、たこ焼き、幕の内弁当、かっぱ巻き、玉子、さけ、いくら、えび、かに、いか、たこ、まぐろ、かつお、さば、あなご、牛肉、とんかつ、天ぷら、丼もの、かつ丼、親子丼、牛丼、天丼、うな重

タイ人の多くは日本に来て、こういうものを食べているのだなあと。やはり、お寿司の光ものは食べないんですね。たこも気味悪がって食べたがらないという話を聞いたことがありますが、そうでもないのかな。

「タイ人は日本食が好きですからね。お寿司もそうだし、最近は日本のケーキがおいしいと評判です。私の友人も日本でケーキを食べたら、タイのケーキは食べる気にならないなんて言っています」。

―それから、温泉に入る作法や浴衣の着方などもイラストでわかりやすく解説していますね。
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「水着はNGとか、お湯につかる前に掛け湯をするといいとか、お風呂の中で日本酒を一杯というのはダメですよと」。

―この本にはたくさんの特色がありますが、まとめるとどういうことになるでしょう。

「この本の書体は若者向けのフォントを使っています。手書きに近いやわらかいフォントで、私が高校生のころ流行っていました。それがかわいいイラストとマッチしています。若い世代向けのガイドブックだと思います」。

―そういう意味でも興味深いのが、この本に紹介される場所です。書き出すとこうなります。

Japan
東京、横浜、鎌倉、富士五湖、箱根、金沢、高山、名古屋、大阪、京都、広島、熊本、指宿、別府

Japan 2
  青森、弘前、田沢湖、盛岡、角館、乳頭温泉、鳴子温泉、仙台、山寺(山形)、蔵王、日光、東京、京都、奈良、神戸、大阪

これを見て思うのは、最初の巻こそ代表的な観光地が網羅されていますが、Japan 2は東北に偏っていて、日本人の感覚からいうと、ほかにもっと王道の観光地があるだろうに、と思ったりもします。また最近タイ人の増えている北海道もありません。

でも、考えてみれば、日本人にとっての王道が必ずしも外国人から見て魅力的とは限らない。それぞれの国の人たちが自分たちの王道を決めればいいことでしょう。震災のあった東北にこの本を読んでたくさんのタイ人が訪ねてくれたらうれしいですね。

「やはり面白い旅行のルートが知りたいのです。どこにどう行けばいろいろ楽しめるか。Japan 2の最後に3つのモデルコースが紹介されています。こういう情報がもっと知りたいです」。

最初のコースが、4泊5日の関西周遊で京都と奈良を訪ねるもの。ふたつ目が9泊10日で、東京から仙台、鳴子温泉、日光をめぐり、そこから急に京都に向かい、奈良と神戸を訪ねて関空から帰国するコース。最後が13泊14日で、東京、弘前、田沢湖、青森、角館、鳴子温泉、仙台、山寺、日光、そしてここでも急に大阪に向かい、京都や奈良をめぐって関空から帰るコース。

おそらく最後のコースは、Japan 2の内容に合わせたルートですね。これを見て思うのは、タイ人にとって京都や奈良の魅力は絶大なのだなということ。仏教国のタイ人にとって古いお寺を訪ねることは大切なんですね。

タイ人が本当に行きたいところだけ行くと、こういう自由な旅になるのでしょう。こういう旅をもっと多くのタイ人が体験できたらいいですね。
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by sanyo-kansatu | 2014-04-19 10:52 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 02月 05日

外国人ツーリストにとってうれしい地図とは?

前回、ラオスのルアンナムターという小さな少数民族の町をケーススタディとしながら、外国人ツーリストにとって居心地のいい町の必要十分条件とは何かについて考えました。

ひとことでいえば、ツーリストのストレスをできる限り軽減させてくれる施設やサービスがどれだけ揃っているかどうか、です。ルアンナムターはまさにそういう条件を兼ね備えたツーリストタウンでした。

では、はたしてそのような環境が日本で実現できているだろうか。そうぼくは疑問を呈したわけですが、まだまだ実現できているとは思えません。たとえば、最近、外国人向けゲストハウスが急増している台東区周辺や欧米客の多い北海道や信州のスキーリゾート地の一部のように、ある程度実現している地域があるとは思いますが、少ないと言わざるを得ません。

自分の町はツーリストタウンにふさわしい要件をどこまで満たしているだろうか。それを見極めるために有効なのが、わが町のタウンマップの中身の検討です。

ルアンナムターには外国人ツーリスト向けのこんな地図があります。
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これは、あるカフェレストラン兼ゲストハウスが制作したものです。どんな印象をもたれたでしょうか。意外にそっけないな、とお感じになったかもしれません。

確かにこのタウンマップは、パッと見、とてもシンプルにできています。でも、よく見てください。こんな小さな街にも関わらず、ホテルやゲストハウスが27軒、レストランが24軒も載っています。たいした情報量です。さらに、ツーリストオフィス(観光案内所)や銀行、ビザの更新のための入国管理局、警察所、博物館、病院、バスターミナル、空港行きバス乗り場など、ツーリストに必要と思われる情報はほぼ落とされています。

これはあくまでツーリストのための地図であって、地元の人間のためにつくられたものではありません。そうである以上、地図に落としてある情報は、厳選された情報だけに絞り込まれています。

この地図の特徴を整理してみましょう。

①外国人ツーリスト目線で必要最小限な情報に絞り込まれていること。
②掲載する物件の大半は数字とアイコンで記されて、見やすくなっていること。
③縮尺はないが、すっきりとしたシンプルなデザイン。自由に書き込めるスペースがあること。

そのため、外国人ツーリストの目から見て、手っ取り早く町の概要をつかむことができるのです。

初めてその土地を訪れた外国人にとって大事なのは情報量ではありません。むしろコンパクトに厳選されているほど使い勝手がいい。

さて、ここで考えたいのが、日本でつくられた外国人向けの観光マップとの比較です。この地図に比べ、日本の地図は一般的に、情報過多なうえ、肝心なことが抜けていたりするのが目につきます。いったい誰のための地図なのか? 特に無料のマップは広告クライアントの要請でつくられている関係上、ツーリストの利便性より、見かけの広告の訴求効果を重視してしまいがちです。これでは本末転倒といわれても仕方がありませんし、これで本当に広告が読まれているのか、実のところあやしいものです。

広告に頼ったビジネスモデルである以上、ある程度それは致し方ないとしても、工夫のしようはあるはずです。というのも、一般に市販されている日本の旅行ガイドブックの地図はよくできているものが多いからです。それは作り手が、日本人のニーズをよく理解しているからでしょう。ところが、訪日外国人向けになると、とたんにわからなくなる。たいてい日本人用の地図を流用してお茶をにごすケースが多い。そこに問題があるのだと思います。

なぜなら、日本人の好む旅のストーリーを外国人ツーリストに押し付けても仕方がないからです。本来ツーリストマップというのは、自分の目と足で歩いて地域の魅力を発見するための橋渡しであればいい。白地図のように自由に書き込める余白があるくらいがいいのです。

もちろん、ルアンナムターのような小さな観光の町と東京のような大都市では、ツーリストの動線やニーズは違うところがあるでしょう。でも、基本的にツーリストに必要な情報は大きく変わりません。

最近、都内でも外国客の多いホテルでは、自前の周辺マップを用意しているところも多いようです。それらの地図には、ルアンナムターのタウンマップに落とされていたようなツーリストが必要とする情報がすべて記載されているでしょうか。たとえば、怪我や病気、盗難に遭ったときのための病院や警察署、入国管理局などは、欠かせない情報です。  

ホテルはツーリストにとってのベースキャンプです。ツーリストの行動は、すべてホテルが起点となります。それだけに、ホテルを中心に描かれたタウンマップは、ツーリストのストレスを軽減し、旅の面白さを倍増させる重要なツールなのです。こればかりは、いかに通信技術が進んでも、地元を知悉した人の手による地図にはかないません。

せっかくつくっても、それが価値を生むかどうかは、外国人目線でつくられたかどうかで決まります。

外国人目線を理解するためにも、海外の小さなツーリストタウンを訪ねてみることをおすすめします。ツーリストにとってどんな情報があると重宝するか、肌身で実感することができるからです。
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by sanyo-kansatu | 2014-02-05 14:25 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 10月 30日

タイ人の中にはビザ免除がこのまま続くか心配している人もいるようです

昨日、都内の旅行会社で働くタイ人の友人とランチしました。お互いの職場が近いので、タイについて気軽に尋ねたいとき、ぼくはよく彼とランチするんです。

今回は、ぼくがタイでしこたま買い込んできた日本旅行に関する現地出版物を彼に見せて品定めしてもらおうと思ったからでした。

ぼくが買い込んだのは、ざっと以下のような書籍やムックです。その一部は以前本ブログでも紹介したことがあります(→タイで発行される日本旅行ガイドブックはよくできている(TITF報告その3))
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『東京ひとりぼっち』
東京に住んでいたタイ人が書いた本です。中国で売れている日本のイラストレーターのたかぎなおこさんの『ひとりたび1年生(第一次一个人旅行)』(なんと中国語版は100万部突破)と少し似ている世界です。でも、この本はタイ人ならではの視点でチョイスされた東京都内のさまざまなスポットが紹介されています。
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『東京ブリ―』
これは、『DACO』(http://www.daco.co.th/)というバンコクで発行されるフリーペーパー(日本語版とタイ語版がある)の編集部にいるタイ人のペーさんが約半年東京で過ごしたときに見つけた面白いスポット(食べ物屋が多いです)を紹介しています。タイ人はこんな店にも行くんだなあという意外な場所も出てきて興味深いです。彼らは日本食の世界が本当に好きなんですね。
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これが「DACO」のタイ語版です。毎回日本を紹介する特集を組んでいます。編集方針として、取材はタイ人スタッフがやっているそうです。編集長の沼舘幹夫さんは「タイ人自身が面白いと思うものを取材してこないと意味がない。日本人の視点とは違う発見がある」といいます。

そのせいか、全国の地方自治体からうちを取材してほしいというメディア招致の依頼がよくあるそうです。東日本大震災の直後、タイ人スタッフはすぐに福島に飛んで、この特集号を刊行したといいます。そういう機動性の高さや日本理解の深さから、タイのテレビ局の関係者もこのフリーペーパーをよく読んでいて、番組の企画に採用されることが多々あるといわれています。テレビ番組で局地的な人気が起こるタイの観光プロモーションには格好の媒体となっています。

さて、これらを見せたところ、東京在住の若いタイ人のひとりである彼は、『東京ひとりぼっち』や『東京ブリ―』の2冊に興味津々でした。「ぼくは昼間仕事をしているので、なかなか東京をひとりで歩く時間がないんです。でも、ぼくが学生だった頃に比べると、すごく詳しく東京のことが書いていあって、進歩していますね」とのこと。

そして、旅行会社の社員として訪日したタイ人ツアー客の世界をよく知っている彼は、以前紹介したタイ人女性カメラマンの書いた旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅(Japan ญี่ปุ่น คนเดียวก็เที่ยวได้” )』を手に取り、ぺらぺらとページをめくりながら、こんなことを教えてくれました。
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「この本は本当によくできていますね。女の子らしいイラストがかわいいです。

この本には、青森とか一般にタイ人がツアーで行かないような地方都市が紹介されていることがすごいです。しかも、FIT(個人旅行者)向けにつくられていて、作者が泊まった安いホテルのことも写真入りで詳しく載っています。見てください。このホステルなんか、1泊1500円とありますよ。安いですね。布団のたたみ方や浴衣の着方、ウォシュレット付きトイレの使い方もイラストで紹介されています。タイのお客さんの中には本当にウォシュレットの使い方がわからない人もいるんです。

それから、ホテルの紹介文を読むと、『このホステルは3階建てだが、階段がないので大きなスーツケースを持ってくる人は要注意』とあります。親切ですね。目的地へのアクセスも、JRや路線バスなど公共交通機関を使う方法が書かれていますから、とても役に立ちます。ぼくはまだ47都道府県すべて行ったことがないから、こういう本があると便利です。きっとこういうのを“おもてなし”っていうんですね(笑)」

彼の話を聞きながら、タイ人というのは本当に細かいことによく気がつく人たちだなと思いました。「階段がないので、要注意」なんていうアドバイスは、まるで日本人に近い感覚があります。そういうタイ人の繊細さがガイドブックにも表れているのです。

今年タイ人の観光ビザが免除になって、これからどんどんFITも増えていくでしょうから、こういう本が生まれてくるのも当然というものです。それはちょうど1980年代、「地球の歩き方」が創刊されて、個人旅行者のためのガイドブックが量産されていった時代を思い出させます。

ところが、彼はふとぼくにこんな話をしました。

「でも、この先もタイ人の観光ビザ免除は続くのでしょうか。なぜなら、期限が書いてないからです。ビザ免除は今年だけで、来年は変わることはないですか?」

「えっ、どういうこと? だって、こうしてタイの訪日客が増えていて、日本もそれを歓迎しているわけだし、起源が書いてないのはむしろ今年だけではないってことじゃないのかな」

……タイ人の中にはビザ免除がこのまま続くか心配している人もいるようです。

ぼくはそんなこと考えてもいませんでしたから、彼の発言にちょっとびっくりしました。こういうところに現れるタイ人の用心深さや、日本に対する複雑な思いをあらためて知らされた気がします。確かに、以前ニュージーランドでタイ人に対する観光ビザ免除が停止されたケースもあり、いろんな思いがよぎるのかもしれません。

昨今の少々過剰といえなくもない日本のタイ訪日客誘致の盛り上がりも、こういうタイ人のデリケートな感覚を配慮したものであってほしいと思ったものです。
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by sanyo-kansatu | 2013-10-30 09:35 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 09月 25日

タイで発行される日本旅行ガイドブックはよくできている(TITF報告その3)

8月中旬にバンコクで行われたタイのトラベルフェア(Thai International Travel Fair #13)で、日本の出展ブースが盛況だった背景に何があるのか。もう少し考えてみようと思います。
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その手がかりになるのが、旅行ガイドブックの物販ブースです。ぼくはタイ語はお手上げですが、編集者として旅行書籍を制作した経験から実用書としての約束事は了解していますから、文字や写真の配置やレイアウトなどを通して大まかにではありますが、どんな内容なのか、つかむことはできます。
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以前、このブログでもタイで発行される旅行雑誌について報告したことがありますが(→「タイの旅行雑誌には日本がこんな風に紹介されています」)、その物販ブースには、あらゆる国の多種多様なタイ語の海外旅行関連書籍や雑誌が販売されていました。

正直なところ、個人旅行のためのガイドブックがこれほど充実しているとは思っていませんでした。中国の旅行書籍の事情をぼくはそこそこ知っていますが、実用書としてのできばえを見る限り、明らかにタイは中国より進んでいます。誌面を通して実際に個人旅行している「タイ人読者=旅行者」の存在をうかがわせる企画内容や、情報伝達の仕掛けや工夫が見られるからです。タイで発行される日本旅行ガイドブックは実によくできているんです。これだけの書籍が存在する以上、成熟した旅行者がこの国には存在している。そう確信するに至りました。

なかでも印象的だったのが、「Japan World-Mook Series」という2010年に創刊した訪日旅行に特化したタイ語版ムックシリーズです。

Japan World-Mook Series
http://www.japan-mook.com

同書の編集は、1991年創刊の「まるごとタイランド」という現地邦人向け情報誌を発行していたMarugoto(Thailand)CO.Ltd(http://www.marugoto.co.th)。現在この情報誌は休刊となってしまいましたが、同社では、「富士山」「北海道」「東北」「日本食」「城」「お土産」「新幹線」など、地域や文化テーマ別に切り分けた24タイトル(2013年8月現在)のガイドブックシリーズを、タイ人スタッフによる編集で発行しています。
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何よりタイ人の視点で編集されていることが特徴です。Marugoto(Thailand)CO.Ltdの丸山純代表取締役社長によると、売れ筋ランキングの1位は「北海道」、2位は「富士山」、3位は「新幹線」だそうです。なぜこれらのエリア・テーマが売れるのか、タイ人の視点に立ってあらためて考える必要がありそうです。
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同シリーズでは、タイ人が日本でやりたいこと、それを実現するために理解しておくべきこと、それは実用情報だけでなく、文化的・歴史的バックグランドの解説まで、豊富な写真を使って解説しています。タイ語が読めないのがちょっと残念なくらいです。

実は、この「Japan World-Mook Series」は、2013年2月12日に在タイ日本国大使公邸で開催された“Reception for Japan-bound Tourism Promotion”において、訪日旅行の促進に貢献した旅行ガイドブックとして「Japan Tourism Award in Thailand」を受賞しています。

「Japan Tourism Award in Thailand」は、訪日ツアーを精力的に販売した旅行事業者や、訪日観光に貢献した個人・団体に対して「トップエージェント賞」「ユニーク・ガイドブック賞」など4つの賞に分けてJNTOバンコク事務所が表彰するものです。

「Japan Tourism Award in Thailand 2012」(JNTOプレスリリース2013.2.13)
※このプレスリリースには、2012年に訪日旅行の促進に貢献したタイの人気俳優や料理番組のシェフなども表彰されたことが報告されています。タイで日本旅行が人気となった背景に、テレビの影響は大きいといわねばなりません。

そのときのもうひとりの受賞書が、旅行ガイドブック『一人でも行ける日本の旅(Japan ญี่ปุ่น คนเดียวก็เที่ยวได้” )』を執筆したタイ人女性のBAS(バス:ペンネーム、オラウィン・メーピルン:本名)さんです。
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このガイドブックも、TITFの書籍物販ブースで見つけました。同書は2タイトルあり、日本全国31か所の観光地について、アクセス情報も含めて、詳しく説明しています。本書の特徴は、東京や大阪などの主要都市から離れた日本語の標記しかない地方の観光地についても、地名標記の写真を掲載したうえ、タイ語に翻訳して説明してあるなど、日本語ができないタイ人でも、一人で日本旅行できるよう工夫を凝らされた実用ガイドとなっていることです。また女の子らしいイラストも豊富に使われていて、楽しく読みやすいデザインになっています。

BASさんの本業はカメラマン&編集者。同書に掲載された写真はすべて本人が撮影しており、 「一人で行ける日本①」が初のガイドブック。その後、シンガポールなどのガイドブックも上梓しているそうです。

実はこれ以外にもいくつかの日本旅行に関するユニークな書籍を見つけたのですが、今現在、その内容について詳しくお伝えすることができません。今後、タイ人留学生の皆さんと一緒に、これらの書籍の内容について検討しようという計画があります。後日、あらためて報告したいと思います。

※その後、タイ人留学生とのガイドブック検討会を実施しました。以下を参照のこと。

ガイドブック『一人でも行ける日本の旅』をめぐるタイ人留学生との問答集
http://inbound.exblog.jp/22471323/
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by sanyo-kansatu | 2013-09-25 21:51 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 07月 11日

2012年版北朝鮮旅行ガイドは20年前に比べこんなに変わっていた

先日、北朝鮮の旅行ガイドブック「朝鮮観光案内」(1991)を紹介したばかりですが、発行元の朝鮮新報社のサイトを見ていたら、「朝鮮 魅力の旅」というガイドブックの改訂版が2012年4月1日に刊行されていました。
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そこで、今回は「朝鮮 魅力の旅」の中身を覗いてみたいと思います。

「朝鮮 魅力の旅(改訂版)」
http://chosonsinbo.com/jp/dprk_guidebook/

体裁はA5版変形、オール4色、96ページ。いまは絶版となった「地球の歩き方ポケット版」と同じ縦長の版型です。表紙も女性好みのイラストです。91年版が「革命の聖地」白頭山の天池の写真だったのに比べ、ずいぶんソフトな印象を与えています。

表紙のサブタイトルからしてこうです。
「平壌、妙香山、開城…
社会主義・朝鮮の名勝地と歴史を巡る
平壌グルメの情報も満載」

「社会主義・朝鮮」…ん? わざわざなんでそれを言う? 「平壌グルメ」…ほぉ、何だろう? いろいろ気になりますが、まず目次から見ていきましょう。

1. 平壌(6-27)
地図・平壌市中心部 / 万寿台地区・大同江周辺 / 楽浪地区・西城地区など / 万景台地区 他
2. 平壌グルメガイド(28-49)
玉流館 / 平壌タンコギ / 普通江畔商店3階食堂 / 民俗食堂 / 平壌オリコギ専門食堂 他
3. ショッピング(50-51)
朝鮮人参関連商品 / 化粧品 / チマ・チョゴリ / 切手
4. ホテル(52―53)
平壌高麗ホテル / 羊角島国際ホテル / 平壌ホテル 他
5. 地方の観光名所(54-85)
妙香山 / 開城 / 金剛山 / 白頭山 / 元山 / 七宝山 / 南浦 / 九月山・沙里院
6. 旅のアドバイス(86-95)
これだけ知ってれば安心 / 朝鮮入国と出国 / 旅に役立つ朝鮮語ミニ辞典 / 空港案内 他

今回も気になったことや引っかかったことを以下、書き出していきましょう。

まず巻頭の見開き「朝鮮民主主義人民共和国・地図」です。91年版のように韓国も含めて「これ全部わが国の領土」という無理やり感はありませんが、今回も南北境界線はもとより中国やロシアとの国境線も地図に入っていません。現在の国境は暫定的なものにすぎないという認識なのでしょうか。

次に見開きの大扉「ようこそ朝鮮民主主義人民共和国へ」。興味深いので、リード文を以下書き出してみます。

「朝鮮民主主義人民共和国は、東アジアの朝鮮半島の北部を領土とする国家。最大の特徴は独特の社会主義体制をとっていることで、他の国々とは違った趣きがあり、それが観光の魅力ともなっている。首都・平壌を中心に社会主義国家を象徴するモニュメントが点在する。また、5000年の歴史を誇り、高句麗壁画古墳をはじめとする数多くの遺産が悠久の歴史を感じさせる。そして、豊かな自然、人々の素朴さが魅力だ。豊富な海・山の幸を使った食もリーズナブルな値段で楽しめる」

ここでもあえて「社会主義」に触れたこと、5000年の歴史というくだりに、あれっ?という感じもしますが、高句麗壁画古墳や海・山の幸をリーズナブルに楽しめるといった一般ウケしそうなアピールポイントも盛り込まれています。

何より大きな違いは、91年版に掲載されていた「人民大学習堂の展望台に立つ金日成主席と金正日書記」のような国家の領導ではなく、平壌の一般市民を撮った複数の写真で大扉のヴィジュアルが構成されていることです。

本編は、やはり万寿台の紹介から始まります。「パリの凱旋門より大きい(凱旋門)」というのはちょっと笑いましたけど、「地下100メートルの宮殿(平壌地下鉄)」「朱蒙の武勇を今に伝える(東明王陵)」といったぐあいに、JTBのるるぶ情報版的なコンパクトな小見出しの付け方も、91年版との大きな違いです。本編のデザインも、最近の日本では主流の小型化したポケットガイドのスタイルで、とても読みやすくなっています。単につくり手の世代交代が進んだだけなのかもしれませんけれど、日本の読者に受け入れやすいよう努めていることは伝わります。

91年版にはなかった「朝鮮民族の始祖が眠る 檀君陵」が登場しているのもポイントでしょう。「5000年」のくだりは、これが根拠なわけですから。

なんといっても本書の最大のウリは「平壌グルメガイド」でしょう。22pを使った豪華版で、市内21のレストランやビヤホールが各店1ページずつ紹介されています。それぞれ料理の写真も豊富に使われています。イタリアンレストランや狗肉専門店なども載っています。ツアーで平壌を訪ねれば、このうちのどれかの店に行くことになるのでしょう。

ショッピングのページは見開きのみ。平壌土産の4アイテムは、朝鮮人参、化粧品、チマ・チョゴリ、切手だそうです。ホテルのページも今回は数軒が載っているだけの軽い扱いです。

91年版では詳しく紹介されていた地方都市のページはなくなり、「地方の観光名所」として妙香山 、開城、金剛山、白頭山、元山、七宝山、南浦、九月山、沙里院が厳選されて紹介されています。基本的に、外国人観光客が訪れることができるのは、だいたいこのあたりなのでしょう。そういう意味では、改訂版では全体として掲載案件の絞り込みに注力したことがわかります。

それ以外では、91年版の重要な構成要素だった「あらまし」の章もなくなっていました。北朝鮮という国家の基本的な理解のための同国の自然や歴史、生活、政治、文化などを紹介した章はもう不要というわけでしょうか。代わりに、服装や持ち込み品、撮影に関する禁止事項などの実用情報が書かれた「旅のアドバイス」や出入国の手順、モデルコースなどがありました。

さて、ざっと本書の中身を覗いてみたあとの正直な感想は「なんだかこれではふつうの国みたいだなあ……??」です。

北朝鮮は新しい領導が登場した2012年上半期、積極的に日本をはじめ海外の国々に誘客を働きかけました。実際、多くの日本メディアが平壌を中心に北朝鮮に入国し、映像や写真を配信しました。おかげでぼくも羅先にそろっと入り込むことができました。

しかし、それもつかのま。核実験騒動で夏以降、外国人の姿は北朝鮮から消えました。ヨーロッパ客もいたので、まったく外国客が消えてしまったわけではないですが、少なくとも中国客は大きく減りました。

そして、2013年。北朝鮮は再び誘客を働きかけています。同国にとって観光は数少ない有効な外貨獲得の手段であるという認識は変わっていないからです。

それでも、今後もしばしば中断は起こるに違いありません。行きつ戻りつを繰り返すことでしょう。北東アジアの国々を見ていると、まるで前後の脈絡は関係ないかのように、相矛盾することを平気でしてきます。歴史的にずっとそうです。それは国内の権力闘争という側面もあるでしょうが、結局のところ、中国という超大国と国境を接するゆえに、そのプレッシャーに押しつぶされることなく、なんとか独自路線を貫こうとしてもがいている姿なのだと見ることもできます。

91年版に比べ、見かけも中身も大きく変わった北朝鮮ガイド「朝鮮 魅力の旅」を見て、あれこれ揚げ足取りするのはたやすいことです。そんなことより興味深いと思うのは、これは当然のことなのでしょうけれど、観光で来朝した外国人に自分たちの存在や価値を認めてもらいたいという強い思いが彼らの中にあることです。

自分たちをこう見てほしいと思う彼らの自画像は、必ずしも国際社会が好ましいと考えるものではないため、これからも依然緊張は続くのでしょうけれど、昨年の旅でぼくも彼らの思いは少し理解できました。それを理解しない限り、物事の進展はないように思います。難儀な話ですけれどね。

この新装ガイドブックを手にして平壌を訪ねてみるのも面白いのでは。最近そう考えているところです。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-11 15:43 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)