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2013年 07月 16日

「東南アジア客急増 中間層が拡大 円安も追い風」【2013年上半期②外客動向】

2013年に入り、新聞各紙は訪日外国人観光客が戻ってきたことを報じています。なかでも東南アジア客の動向に注目が集まっています。

「観光地 戻る外国客」(読売新聞2013年5月2日)はこう報じています。

「東日本大震災の影響で一時減った外国人観光客が戻ってきた。背景には、安部政権の経済政策『アベノミクス』による円安や、原発事故に伴う放射能の風評被害が収まってきたことなどがあるとみられる。商機とみて受け入れ態勢を強化する施設もある」

同記事では「円相場を見て5日前に(訪日を)決めた」という浅草を訪れたタイ人客に話を聞き、「アジアを中心に日本旅行は『お得だ』という感覚が広まっている。数か月前に予約が決まるツアー客中心の欧米も延びてきそうだ」(観光庁国際交流推進課)のコメントを紹介。「富士山河口湖町では4月上旬、英語・中国語表記だったガイドマップのタイ語版を2万4000部作成」したこと、「新横浜ラーメン博物館(横浜市港北区)も、今年1~3月の外国人客数は前年同期から6割増」「海外で広がる日本流ラーメンブームの影響もあるとみられる」と分析しています。

5月下旬になると、訪日客の主役は東南アジア客だとの報道が急増します。

「首都圏観光、東南アが主役」(日本経済新聞2013年5月25日)

「外国人観光客が急増している。日本政府観光局によると4月の訪日客数は92万人となり、単月で初めて90万人台に達した。特に伸びているのが、経済成長で所得の拡大する東南アジア。格安航空会社(LCC)の増便も追い風で、首都圏の観光地はタイなどからの観光客の姿が目立つ。東京スカイツリーや富士山といった名所ばかりでなく、銭湯やラーメンなども人気を集める」

さらに、日本政府観光局による5月の訪日外客数が発表された6月19日の翌日には、各誌が主役の来訪の動向を取り上げています。

2013年5月の訪日外客数(日本政府観光局)
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/130619_mothly.pdf

「観光 東南アジア客急増 中間層が拡大 円安も追い風」
(朝日新聞2013年6月20日)
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「東南アジアから日本を訪れる観光客が増えている。日本政府観光局が19日発表した5月の訪日外国人数では、タイ人客が昨年5月より7割近くも増えるなど、各国がのきなみ2ケタの伸びを記録。昨秋の尖閣問題をきっかけに低迷が続く中国人客の分を、カバーする勢いだ」

「円安で外国人客増 5月旅行者最多 百貨店『追い風に』」
(読売新聞2013年6月20日)

「最近の円安による割安感から外国人旅行者が増え、百貨店で免税売り上げが伸びるなど、国内経済にもプラス効果が出始めている。5月の百貨店の免税売上高はこれまでの最高水準で、百貨店業界は『業績の追い風にしたい』と期待を寄せている」

「5月の訪日客、31%増 アジアから航空便増、円安も貢献 北海道・九州にも広がる」 (日本経済新聞2013年6月20日)

「日本政府観光局が19日まとめた5月の訪日外国人数は87万5000人と前年同月比で31%増加した。2月から4ヵ月連続のプラスで、5月としては過去最高。円高の修正に加えて航空便の増加が追い風になり、地方のホテルや商業施設でもアジアの観光客が増えている」

各紙のポイントとしては、朝日が東南アジア客の急増で尖閣問題以降の中国客の減少をカバーしたこと。読売が百貨店の免税売上にアジア客が貢献していること。日経が新千歳空港の5月の国際チャーター便の前年同月比2割増や、福岡の商業施設「キャナルシティ博多」を訪れるバスの台数が増えていることなどから、大都市圏だけでなく地方へも訪日客が増えていることを指摘しています。

東南アジア客の急増をふまえ、アセアン3カ国の訪日旅行の背景を分析する記事もあります。

「ASEAN、日本食に関心 旅行先、比較対象1位は韓国」(日経MJ2013年5月1日)

「今年は日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力40周年にあたる。リクルートライフスタイルの調査によるとシンガポール、タイ、マレーシアの3カ国からの訪日旅行のきっかけは車や家電を抑えて日本食が1位だった。四季の景色や古都への満足度も高く、都市化が進むASEANの人々が高い関心を寄せている姿が浮かんだ」

この記事は、リクルートライフスタイルの観光調査研究部門、じゃらんリサーチセンターが過去3年間に訪日経験がある人を対象に実施した調査を解析したもの。その結果は以下のとおりです。

●ASEAN3カ国からの訪日旅行のきっかけ

1位 日本の食事
2位 自然や風景
3位 ライフスタイル
4位 伝統的な文化
5位 製品・電子機器
6位 日本人の気質や人柄
7位 芸術
8位 アニメや漫画
9位 建築
10位 経済・産業

●訪日旅行で同時に検討した国・地域

1位 韓国
2位 中国
3位 台湾
4位 香港・マカオ
5位 シンガポール

●訪日の満足度(非常に満足したという回答)

1位 花見、紅葉、雪景色など季節の風景を見る
2位 日本式旅館に泊まる
3位 農村風景や田園風景を見る
4位 ローカルフードを食べる
5位 海や山などの自然の景色を見る
6位 刺し身、寿司など、生ものの日本食を食べる
7位 和牛や豚肉の料理を食べる
8位 世界遺産に行く
9位 日本の城を見る
10位 アウトドアスポーツ

同記事は、上記の調査を以下の3つのポイントに整理しています。
①ASEANからの訪日旅行のきっかけは「日本製品・電子機器」を抑え「食事」が1位
②訪日旅行で同時に検討した国・地域は3カ国ともに「韓国」が1位
③日本旅行で満足したことは「季節の風景」「日本式旅館」「農村風景や田園風景」が上位

この結果は、もしかすると意外に思われたかもしれません。でも、東南アジア客が増えている背景に、日本の自然や食事、旅館など、飾ることのない素顔の日本的な要素が挙げられていることは、ちょっとうれしく思いませんか。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-16 19:31 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2013年 07月 03日

タイ人ツアーの目玉は、温泉旅館でカニ食べ放題とショッピング!?

日本が大好きというタイ人の日本ツアーは、実際どんな内容なのでしょうか。タイの旅行雑誌に掲載されている現地の旅行会社のツアー募集の広告を見てみましょう。

とはいえ、ぼくはタイ語が読めるわけではないので、最近知り合った若い在日タイ人で都内の旅行会社に勤めるカウィワットさんに手助けしてもらいました。彼の業務は、実際にタイからの日本ツアー客を手配することです。

昨日、本ブログで紹介したタイの旅行雑誌「TRAVEL GUIDE Magazine」2012年8月号に掲載されている現地の旅行大手COMPAXWORLD社のツアー募集広告を見てみましょう。
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COMPAXWORLD社
http://www.CompaxWorld.com
http://www.facebook.com/compaxworldtour

昨年の秋冬向けの広告ですから、真っ赤な北海道の紅葉を背景にあしらったデザイン構成になっています。1ページ全面を使った広告の中に2つのプロモーション商品が掲載されています。それぞれ3つの目玉ポイントが書かれています。

①Tokyo Promotion! 4泊6日(タイ航空利用) 37900バーツ(約12万円)
■東京で満足4泊6日、ホテルは4つ星以上
■お楽しみフリーショッピング2日間(オプショナルツアーもあり)
■温泉旅館泊とカニ食べ放題

カウィワットさんが上記ツアーのポイントを簡単に説明してくれました。このツアーは、東京滞在が基本。タイから日本へはフライト時間が約6時間かかるため、飛行中夜をまたぐので4泊6日が基本だそうです。滞在中1日は都内の観光がありますが、2日間は自由行動なので、買い物がたっぷり楽しめる内容です。ただし、東京ディズニーランドに行きたい人は、オプショナルツアーとして追加料金で参加できます。また、残りの1日は、富士山観光のあと河口湖などの温泉旅館に泊まり、カニの食べ放題が付くというものです。

②Yokoso Hi-light 東京―京都4泊7日(タイ航空利用) 52900 バーツ(約17万円)
■東京観光とフリーショッピング1日間
■世界遺産の京都、金閣寺、清水寺観光
■温泉旅館泊とカニ食べ放題

こちらは、東京・大阪のゴールデンルートのツアーです。ポイントは①と同様に東京のフリーショッピングと温泉旅館泊のカニ食べ放題が付くことです。

カウィワットさんによると、「タイ人は富士山のふもとの温泉旅館に泊まって温泉にゆっくりつかり、カニの食べ放題を楽しむというのが、日本旅行の醍醐味。これだけは欠かせないと思っているんです。旅行会社のツアーパンフレットにも、よく富士山とカニの写真が合成されているイメージのものが多いんですよ」。
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日本人からすると、なぜ富士山でカニなのか?(しかもズワイガニ)という気はしますが、タイ人客はそれがないと納得しないというのですから、地元のホテルや旅館は特別に用意しているのだそうです(実は、同じことは中国人の日本ツアーでもあります)。面白いですね。

タイ人にとって、手足が長くて茹でると真っ赤なズワイガニが珍しいのでしょう。「TRAVEL GUIDE Magazine」にも、札幌かに本家の広告が載っていました。
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もうひとつの目玉は、東京でのフリーショッピングです。確かに、最近新宿3丁目界隈でタイ人が買い物する姿を多く見かけるようになっています。カウィワットさんはこんなことを言います。

「タイ人は暑い国に住んでいるので、観光で長い時間歩くのはあまり好きではありません。でも、都内のホテルにチェックインしたあと、ぶらぶら夜歩きするのは大好きです。ですから、ホテルはたいてい都心の新宿か池袋です」。

中国人のツアーのように、宿泊地は「東京」とパンフレットに記載されていても、実際は木更津のホテルだった、というようなことはないそうです。タイ人客は一見おとなしそうですが、ツアーの中身に厳しく、安ければ安いほどいいという考え方はしないといいます。

タイのランドオペレーターの関係者によると、タイ人にとって日本旅行の2大関心事は、食事と買い物に尽きるそうです。その2大関心事をいかに彼らの好むように実現させてあげられるかがポイントだといいます。

食事に関しては、焼肉にしゃぶしゃぶ、寿司、天ぷら、ラーメンという和食の基本アイテムが断然喜ばれるそうです。なんてありがたい人たちでしょう。

買い物に関しては、タイ人の対日理解は、日々のテレビ番組などを通じてきわめて高いものがあるので、自由な時間をたっぷり用意してあげればいいというわけです。

食事と買い物以外のことは、難しく考える必要はないといえるかもしれません。なぜなら、日本にはタイ人を喜ばせる自然の魅力があるからです。

タイと日本の風土や気候の違いが、来日する彼らを魅了するといいます。四季がはっきりしていることが、彼らをリピーターにするのを強く後押しするというのです。たとえば、3~4月は桜、6~7月はラベンダー、秋は紅葉、冬は雪景色と、1年を通じてタイ人が来日したいと思うのは、四季による変化があるからです。実際、タイの旅行雑誌の日本特集には、あでやかな色味があふれています。我々は熱帯の国タイのほうがずっとカラフルだと思いがちですが、彼らにすれば日本もまた美しい色彩にあふれる国なのです。

常夏の国から訪ねてくれるタイ人に対して、四季という1年を通して訴求できる日本の強みを生かさない手はないといえるでしょう。タイ人の日本ツアーの価格帯については、のちほど報告します。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-03 14:47 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 04月 30日

【後編】台湾発クルーズ客船、那覇寄港の1日ドキュメント

前編では、台湾からのクルーズ客船「SUPERSTAR AQUARIUS」の乗客のうち、沖縄本島のオプショナルツアーに参加した人たちのことを紹介しました。では、残りの約650人はどう過ごすのでしょうか。

もちろん、個人旅行者として那覇市内に繰り出すのです。
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彼ら個人客の観光をサポートするのが、那覇市観光協会のみなさんです。クルーズ船の寄港する若狭バースの乗り場の入り口に臨時のツーリストインフォメーション(観光諮訽處)を開設。中国系、台湾系などネイティブのスタッフを揃え、これから市内に向かう個人客の質問に対応し、用意した観光案内資料や市内マップを渡します。
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那覇市内観光に便利なのが、市内を走るモノレール「ゆいレール」です。しかし、これだけ大勢の台湾客が一気に駅に押しかけてチケット売り場の前に並んだら、那覇市民の利用にも支障がでてくるので、1枚600円の1日乗車券を販売しています。
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なかにはタクシーを利用する人たちもいますから、運転手たちにきちんと行き先を通訳するのも仕事です。
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スタッフを統括する那覇市観光協会の国里顕史さんに話を聞きました。

――個人客のみなさんはどこに行くのでしょうか?

「那覇市内で買い物や食事をして過ごします。たいてい国際通りや新都心(おもろまち)のショッピングモールなどに行きます。リピーターも多いので、自分の足でどこでも行かれます。なかには日本人と同じように、レンタカーで遠出される方もいますよ。

クルーズのお客様は、那覇に宿泊はされませんが、わすかな時間で一度に買い物されるので、大きな経済効果が見込めます。沖縄は台湾や上海、韓国からも近いので、クルーズ市場において優位な立地にあります。来年春には、このふ頭に13万トン級の大型客船が接岸できる那覇港若狭バースが整備される予定になっています」

こうして慌しい対応が一段落するのが、10時過ぎくらい。インフォメーションのテントを撤収し、スタッフ一同は国際通りに向かいます。今度は通りにあふれる台湾客の案内や買い物のサポートなどをスタッフ総出で行ないます。

そこで、ぼくも国際通りに繰り出してみました。すると、いるいる(当たり前ですね)。あちこちから中国語が聞こえてきます。
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面白かったのは、公設市場です。ここでは1階の市場で買った魚介類を2階の食堂で調理してくれます。
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家族連れの台湾客も多いようです。
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2階の食堂街は、この日、明らかに日本の観光客より台湾客と香港客のほうが多くいたように思います。
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各店にはたいてい英語とハングルに加え、「有中文菜単(中国語のメニューあります)」という中国語の表示があります。それはそうと、食堂のスタッフはどうやら地元の人だけではなさそうです。
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ある食堂の日本人スタッフに聞いてみました。
「もしかして、お店で働いているのは中国の人ですか?」
「ええ、そうですよ。うちでは、ぼく以外は全員中国人です」
「それは台湾の人ということですか?」
「いえ、中国本土の人ですよ」

そうあっさり答えられたので、ちょっと拍子抜けしてしまいました。ここは那覇を代表する観光名所、公設市場です。多くの観光客が沖縄のローカルな世界を味わうために来ているはずなのに、そこで働いている大半は中国本土の人たちだというのです(さすがに1階の市場は地元の人が多そうでしたけれど)。

公設市場の食堂でアルバイトする沖縄の若い人たちはもういないのでしょうか。これはかなりショッキングな出来事のようにも思います。でも……、よく考えてみれば、東京をはじめ日本の大都市の飲食店でも多くの中国本土の人たちがアルバイトをしています。同じことかもしれません。

もうひとつ気がついたのは、国際通りのお土産店などでも普通に中国語の表示があるのですが、たいてい簡体字表記になっていることです。簡体字を使う中国本土客は昨年秋以降、激減してしまっており、街にあふれるのは繁体字を使う台湾や香港の人たちなのに……。
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市内を走るタクシーの運転手の何人かに聞いてみたのですが、普段から外国客を乗せて運ぶ彼らでさえ、中国本土客と台湾・香港客の区別がついていないようです。当然、一般の那覇の人たちもそうです。

まあしかしこれは内地でも同じことでしょう。東京を歩いている中国系の観光客を見て、それが台湾客なのか香港客なのか、それとも中国本土客なのか、ひと目でわかる人はほとんどいないでしょう。それに、全国どこでも中国語表示は簡体字が基本となっています。

なぜ那覇の人たちが、台湾客や香港客を見ても、ひとくくりに中国本土客と思ってしまうかというと、そこにはひとつの理由がありそうです。

それは昨年(2012年)7月、先ごろ東京港にも寄港して話題となった豪華大型客船ボイジャー・オブ・ザ・シーズ(巨大すぎてレインボーブリッジをくぐれなかったため、東京港のコンテナふ頭に接岸)が、那覇に入港したことのインパクトが大きかったからではないか、と推測します。

那覇港管理組合のHPでは、ボイジャー・オブ・ザ・シーズの大きさについてこう説明しているほどです。

「同船は、乗員乗客最大で約5000人が乗船することが可能で、沖縄県庁と比べると、高さはほぼ同じ高さ、全長はなんと、約2倍です」

そのボイジャー・オブ・ザ・シーズが、7月5日、16日、24日、8月1日と約1か月間に4回連続で入港し、3000人超の上海からの中国本土客がいっせいに那覇に繰り出したのです。特に16日は、ボイジャー・オブ・ザ・シーズ以外にも、欧米客を乗せたクルーズ船が寄港したため、その日は5000人近い外客が那覇に上陸したのです。その日、観光バス90台が那覇港に乗りつけたといいます。

その結果、那覇の人たちはこれからどんどん中国本土客が訪れるものだと思い込んでしまったのではないでしょうか。

ところが、実際には今年は秋までボイジャー・オブ・ザ・シーズが寄港する予定はありません。もちろん、日中の尖閣問題が影を落としているからです。
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さて、岸上観光を楽しんだ台湾客たちも、遅くとも出港時刻(17時)の1時間前には船に戻ってきました。乗船前にクルーズのスタッフに頼めば、記念撮影してくれます。
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いよいよ那覇ともお別れ。その前に、今年度の初寄港ということで、地元那覇の子供たちによるエイサーがクルーズ客を楽しませてくれます。いたいけな子供たちが精一杯踊り舞う姿は心を和ませます。多くの客が甲板に出て、子供たちのエイサーをいつまでも眺めています。
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そして定刻通り、17時の出港。客船は大きな汽笛を鳴らしながら、徐々にふ頭から離れていきます。
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でも、子供たちはすぐにはエイサーをやめようとしません。客船が那覇港を遠く離れていくまでずっと手を振り続けています。「バイ、バーイ!」。こういう姿を見せられると、大人はまいってしまいますね。こうしてクルーズ客船の寄港する長い1日が終わりました。

このあとこのクルーズ客船は石垣島に向かいます。翌朝、寄港すると、石垣島や八重山の離島を訪ねることになるでしょう。

沖縄では、この夏こうした光景が毎週のように見られることになります。

※那覇に寄港するクルーズ客船は台湾からのものだけではありません。実は、翌日(3月30日)にも、欧米客を乗せた世界一周クルーズ客船が寄港しています。この客船は、初代「飛鳥」を改装した3万トンクラスの「AMADEA」で、SUPERSTAR AQUARIUSに比べると小さいですが、約600名の欧米客が那覇に上陸しました。その話は、別の機会で。

「沖縄には欧米客を乗せたクルーズ客船も寄港します」http://inbound.exblog.jp/20366268/
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by sanyo-kansatu | 2013-04-30 16:12 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 04月 30日

【前編】台湾発クルーズ客船、那覇寄港の1日ドキュメント

2013年3月29日早朝、台湾からのクルーズ客船「SUPERSTAR AQUARIUS」が那覇港新港ふ頭8号(若狭バース)に入港しました。あいにくの雨でしたが、今年度最初の入港になります。
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SUPERSTAR AQUARIUSは、ゲンティン香港(スター・クルーズ・ピーティーイー・リミテッド)が運航するカジュアルなクルーズ客船です。毎年4月から10月まで週1回、那覇港に寄港し、毎回約1500人の台湾客が観光のため上陸します。基本、3泊4日で基隆―那覇―石垣―基隆(基隆―石垣―那覇―基隆の場合もある。また基隆―那覇往復、基隆―石垣往復も)を航行します。料金は最も安いシーズンで、2泊3日の基隆―石垣往復が9900台湾ドル(約3万3000円)から。1日の単価は約1万円という破格の安さです。ただし、今回の客船に限っては基隆発ではなく、高雄発だそうです。
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スタークルーズ日本語公式サイト
http://www.starcruises.co.jp
スタークルーズ台湾公式サイト
http://www.starcruises.com.tw/

日本ではまだクルーズは豪華客船だから料金も高いというイメージがありますが、アジアや欧米ではこうした格安クルーズが多いのです。しかし、格安クルーズだといっても、館内の施設はそれなりに揃っています。

多様な娯楽施設、各種レストラン、プール、スパ、そして台湾サイトには載っていませんが、カジノもあります。実はこれが台湾客を惹きつける理由のひとつだとか。まさに“動くアミューズメントモール”。台湾でクルーズ旅行が人気というのもうなづけます。

SUPERSTAR AQUARIUS 台湾サイトの紹介
http://www.starcruises.com.tw/aquarius/info.aspx

同船のフェイスブックを見ると、台湾客がクルーズ旅行を楽しむ様子がうかがえます。
https://www.facebook.com/StarcruisesTaiwan

さて、この日は約1300人の台湾客が沖縄に上陸しました。
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そのうち約650人は、沖縄各地を周遊するオプショナルツアー(岸上観光)に参加します。お出迎えは、台湾系のランドオペレーター太陽旅行社のスタッフです。そのひとりはこう言います。「朝8時到着で17時には出港というスケジュールは、観光や食事、買い物についても十分とは言えないかもしれません。でも、一般のツアーでは移動が多くて、かえって自由時間が少ないのです。その点、クルーズではオプショナルツアーに参加しなければ、じっくり買い物を楽しむことができます。台湾のお客様は食品から家電、生活用品まで、いろいろ買っていかれますよ」。
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ふ頭にはずらりと大型バスが並んで待っています。
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乗客を乗せたバスからいざ出発。
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HPによると、以下のツアーの中から好きなコースを選べるようになっています。日本人の沖縄ツアーとさほど大きくは変わらない内容です。

①異國風情之旅 北谷町─美國村(アメリカンビレッジ沖縄
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②美食購物之旅 三郎伊勢海老專門料理店(老舗家海老料理 味の店 三郎本店 那覇市若狭1-14-10)─新都心商業圈(新都心「おもろまち」でショッピング)
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おもろまちにある那覇メインプレイスのフードコートには、たくさんの台湾客がいました。
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③海洋公園之旅 海洋博公園、水族館(沖縄美ら海水族館)、海豚秀(イルカショー)─超級市場(スーパーで買い物)

④采風探趣之旅 首里城、守禮門─新都心、藥粧店(ドラッグストアで買い物)─國際通/平和通
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⑤熱帶風情之旅 藍鯨號玻璃船(ホエールウォッチング)─萬座毛國立公園─北谷町購物(アメリカンビレッジ沖縄)
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⑥琉球傳統之旅 琉球村─沖繩婚禮教堂─北谷町美國村(アメリカンビレッジ沖縄)

⑦民俗文化之旅 王國村玉泉洞、大鼓秀─ASHIIBINAA OUTLET(あしびなーアウトレット)─藥粧店(ドラッグストアで買い物)、超級市場(スーパーで買い物)
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あしびーなアウトレットには、台湾客だけでなく、香港客の姿も見られました。

⑧沖繩風味之旅 國際通─BBQ吃到飽(含餐費)─AEON購物城

⑨那霸精華遊 Itoman魚市場─3A購物城─ASHIIBINAA OUTLET

SUPERSTAR AQUARIUSのオプショナルツアー(岸上観光)
http://www.starcruises.com.tw/aquarius/trip.aspx

コースによって所要時間は違いますが、朝9時頃に出発し、船の出航する17時の2~3時間前には戻ってきます。

実は、台湾からのクルーズ客船は1990年代から那覇に寄港していました。しかし、5万トンを超えるクラスの大型客船が入港するためには、それなりの規模の港湾施設が必要となります。そのため、もともとコンテナふ頭だった若狭バースを国際大型客船のふ頭として整備し、乗降を始めたのが2005年です。沖縄県の資料によると、SUPERSTAR AQUARIUSのような大型客船の定期運航が始まったのは2008年からのようです。以来、毎年4月から10月の夏季シーズンに毎週1回、年間で約30回台湾客が那覇を訪れるようになったのです。

台湾では、誰でも気軽に楽しめるクルーズ旅行として広く知られています。台湾客は日本への渡航がノービザなので、入国手続きも簡単です。船内でのパスポートチェックで終わりです(その点、上海からのクルーズ客は団体観光ビザが必要なため、入国手続きのための時間がそれなりにかかるのと、大きく違います)。

話は後編に続きます。
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by sanyo-kansatu | 2013-04-30 11:18 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 03月 23日

羅先(北朝鮮)の国際商品展示販売会で売られているもの

羅先(北朝鮮)の国際商品展示販売会で売られていた商品を並べてみます。

日本海でとれたカニや昆布といった海産物、農産物の加工品など、北朝鮮産の食品が多かったです。なかには冷麺のカップ麺もありました。おいしいのでしょうか。お酒は基本焼酎ですが、薬草入りやマツタケエキス入りなど、けっこう種類は豊富です。いちばんパッケージがきちんとしていたのが、平穣医科大学で開発したという漢方薬でした。平穣から来たという販売員は大学の関係者らしく、羅先ではあまり見かけない知的な感じの女性でした。

これらの商品の大半は中国人観光客が安いと買っていくそうです。もともとこの建物は、金日成が上陸した先鋒革命記念館だったものです。最近の北朝鮮情勢をみていると信じられないかもしれませんが、期間限定とはいえ、由緒ある革命施設を観光客向けの商品展示販売会に転用していることからも、周辺国を恫喝をする一方で、北朝鮮は外貨獲得のために外国人観光客の誘致に力を入れようとしていることが見てとれます。
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by sanyo-kansatu | 2013-03-23 09:00 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2012年 05月 07日

3回 中国ツアー客の買い物考現学

残念ながら、今年の国慶節(10月の第一週)は期待したほど中国人客は戻ってきませんでした。

実は、ぼくの仕事場に近い新宿5丁目の伊勢丹パークシティを挟んだ明治通り沿いは、知る人ぞ知るインバウンドバスの路駐スポット。夕方になると、よく中国ツアー客を乗せたバスが夕食と歌舞伎町散策のために現れます。ぼくは仕事帰りにその様子を定点観測しているのですが、震災前の春節の頃は連日5~6台のバスが停車していたのに、国慶節は数日おきに1~2台という感じでした。客を降ろしてひと休みしている運転手さんに声をかけると、「まだ戻って来ないねえ」とのこと。

もっとも、それは国内外の事情を考え合わせると、想定内と考えるべきでしょう。原発事故の収拾の遅れと中国経済の変調の兆しが中国客の訪日マインドに大きく影響していることは確かなようです。だとすれば、いまは焦っても仕方がありません。この時期、慌ててやみくもにプロモーションを打つなんて見当違い。いまこそ、インバウンドのこれからのために、じっくりと中身を点検することにしましょう。

"想"と"要"の違いを知る
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中国語のわかる店員がいなくても、ドラッグストアでの買い物は積極的。その理由は……

前回ぼくは、中国客の"爆買い"伝説を生んだ背景にメディアを含めた日本側の強い思い込みがあったこと。この先"爆買い"は減少していくが、中国客の買い物には3つの世界があり、彼らの大半は買い物に満足しないまま帰国していると書いています。一見相反しているかに思えるこの話をどう考えたらいいのでしょうか?

あくまで前者は大局の話、後者は現場の話と分けて考えてください。ぼくは現場の話にこだわります。そこで第3回は「中国ツアー客の買い物考現学」と題して、彼らが買い物をしているときの消費心理を理解するためのポイントを紹介しようと思います。

第一のポイントは、"想(xiang)"と"要(yao)"の違いを知ることです。

一般によく知られたマーケティング用語にニーズとウォンツがあります。ニーズは「必要性」でウォンツは「欲望」。漠然とした必要性を指すニーズより、ウォンツはもっとふみ込んだ願望、特定の商品やサービスで自分の願望を満たしたいことを意味します。顧客のニーズを発見し、そのニーズをウォンツに高めていくことがマーケティングの目標です。

しかし、一時的な滞在者にすぎない中国ツアー客の消費心理に、これをそのまま適用するのは無理がありそうです。代わって適用したいのが、中国語の"想"と"要"です。

中国語の"想"は「…したいと思う。希望する」、"要"は「ほしい。必要とする」という意味です。「I want~」「I need~」と同様に「我想~」「我要~」と使います。"想"がやんわりとした希望や願望だとすれば、"要"は強い意志や義務を含むことばです。そういう意味では、"要"はニーズに近いといえますが、"想"はウォンツとはちょっと違います。

実は、中国客の買い物の3つの世界は、"想"と"要"で大まかに分類できます。
「①女性客を中心に美容健康にまつわるメイド・イン・ジャパンの実用品」「③ブランド品」は"想"の世界。要するに自分のための買い物です。
一方、「②帰国後に渡す土産」は"要"の世界。友人・親族への義理と面子のための買い物です。
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事前に調べた購入商品リストの紙には、化粧水や乳液のメーカー・商品名、サイズまでぎっしり書かれている

その違いが彼らの消費行動にどう表れてくるのでしょうか。"想"に比べて"要"の比率が著しく大きいのが今日の中国ツアー客の特徴です。"想"は満たされなくても時間がなかったと理由をつけて合理化できますが、"要"は面子に関わるだけに諦めるわけにはいかない。そのプレッシャーが引き起こすのが"爆買い"です。あんなに山のように買い物したというのに、彼らの大半が買い物に満足しないで帰国するというのは、"想"が満たされなかった心残りがあると考えられます。

中国ツアー客の皆さんは、自分のために"爆買い"しているわけじゃないのです。それが面子にこだわる中国人の人生というものですから、とやかく言う筋合いではないのでしょうけど、なんだか気の毒にすら思えてきますね。

一日中バスに揺られて過ごす団体ツアー客にとって、唯一主体的に行動できるのが買い物の時間です。普通に考えれば、旅の喜びや真の満足感につながるのは"想"でしょう。受け入れ側としても、"要"(=ニーズ)だけでなく、"想"(≒ウォンツ。しかし、もっとふみ込んだ願望につながる可能性はある)を満足させてあげたいものです。

"想"が満たされると、人は夢中になります。リピーターはこのとき生まれます。いかにリピーターを生み出すかは、今後のインバウンドの発展にとって大事な課題です。"要"だけでは取り替えがきくから、「日本でなくてもいいや」となる。震災後、多くのツアーが韓国や香港に流れたのはそのためです。

目の前にいる中国客の買い物が"要"なのか"想"なのかを見定めることは、どんな売り方や販促を打ち出せばいいかを考える手がかりになるはずです。

「賢く買えた」というストーリーがほしい
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買い物がすんだら、用意していた空のスーツケースに商品を詰め込む

第二のポイントは、「賢く買えた」というストーリーをどう演出するか、です。中国の人たちがうまく値切ったときに見せる得意満面の表情は、人生至上の喜びに出くわしたとでもいいたげです。相手に「してやったり」と思えるのが、とびきりの快感なのです。たいてい値切りが成功したとか、同じものが中国より安く買えたという話になりがちですが、売り手と買い手の腹の据わった個人的な駆け引きこそ、彼らの人生を快活にするスパイスみたいなものかもしれません。

彼らは世界で最も猜疑心の強い人たちでもあります。前回紹介した瀋陽のツアー客と一緒に契約免税店を訪ねたとき、「ここの商品は本物ですか?」「この店は他の店より高いでしょう?」と質問攻めにあいました。その場にいた日本人はぼくだけでしたし、彼らはいつもそれを確かめずにはいられないのです。「いや、ここに来るのは初めてなので……」。ツアー造成上、営業妨害するわけにもいかないと日本人らしく気を遣ったぼくは、そうとぼけるほかなかったのですが、その免税店はツアー客しか利用しない、商品だけがズラッと並べられた殺風景な空間、全員中国系の販売員が待機しているという一種異様な世界です。これでは彼らの買い物意欲が高まらないのも当然でしょう。

中国とは商慣行の異なる日本や欧米で、そもそも彼らの求める「賢く買えた」というストーリーを満足させることは難しいといえます。香港が人気なのはそれが可能だからでしょう。その代わり、日本の小売店では、ポイント還元による割引などを使ってお得感を演出することに力を入れています。

その努力は素晴らしいと思いますが、国美電器や蘇寧電器などの中国大手家電量販店の過激なサービス合戦を知る彼らにしてみれば、物足りないと感じているかもしれません。でも、日本で同じことをやれといわれても困ります。だとしたら、せめて買い物に何らかの駆け引きの要素を加えれば、彼らは俄然本領を発揮し、買い物意欲も高まることでしょう。ポイントは、彼らに「してやったり」気分を味わせること。そんなゲーム性、もっといえばギャンブル性を取り入れた販売手法は考えられないものでしょうか。

実際には、ツアー客の訪れる家電量販店で駆け引きは日常的に行われています。レジの前に商品を山ほど置いたおばさんがガイドをそばに呼びつけ「これだけ買うといくらにしてくれる?」。場数をふんだベテラン販売員さんがそのお相手をする、という光景はもうおなじみでしょう。ただ、いつまでも彼らのペースに合わせるだけではつまらないので、こちらからもっと何かを仕掛けられたらおもしろいと思います。

日本人が普通に買い物している店で買いたい

幸い、中国の人たちは「日本では(中国のように)騙されることはない」と信用してくれているので、「安心して買い物できる」ことが訪日旅行の優位性となっているのは確かです。だからこそ、彼らはマツモトキヨシやドン・キホーテのような日本人が普通に買い物している店で自分たちも買いたいと思っています。

実際、彼らがマツモトキヨシに行くと、契約免税店で見せた疑心暗鬼の様子はありません。周囲に日本人客がいるからでしょう。同じものを買っているという安心感があるのです。たとえ中国語を話す店員がいなくても、事前に調べた購入商品リストの紙を広げ、精力的に棚を探し回っています。レジではドーンとまとめ買いしてくれる優良顧客です。
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ドラッグストア側も日中翻訳表を用意している。日焼け止め、ビューラーといった種別名だけでなく、「たるみ」「くすみ」「しっとり」「ハリ」「ベタツキ」など、お肌に関することばも一覧表になっている


中国の都市部では外資系のドラッグストアも進出していますが、見た目のディスプレイは似ていても、棚に並ぶ商品の多彩さや新コンセプト商品の豊富さでは日本にはかないません。「これは何ですか?」とずいぶんツアー客の女性に質問されました。店員さんに聞いて、その用途を説明してあげると、みんなおもしろがっていました。そこには、"要"でも"想"でもない、中国では見たことのない日本オリジナルの商品が持つ新奇な魅力や価値観を発見する楽しさがあったと思います。日本のドラッグストアはその宝庫なのです。

これが第三のポイントです。「日本には、自分たちが普段の生活でそこまで必要とは考えたこともなかった便利でおもしろい商品があふれている」というのが彼女らの感じたことでした。これこそ、本当の意味での日本の消費市場の優位性であるはずです。

来日経験のある中国の女性から「日本には安くてかわいくて便利なものがたくさんある」とよく言われます。でも、そう話してくれるのは、日本人社会となんらかの接点のある人たちに限られます。実際にそこまで気づいている中国ツアー客が全体のうちどれだけいるのだろうか、というのがいちばんの問題でしょう。せめて彼らが中国から日本に向かう飛行機の中で目を通せるような中国語のチラシ(立派な冊子は不要。新聞の折込広告レベルで十分。ただし割引券付!)を機内誌と一緒にシートボックスに忍ばせることができたら、多くの中国客が本物の日本の楽しさを発見するチャンスが増えるに違いありません。

なぜガイドの話にツアー客は食いつくのか

現状では、その楽しさを中国ツアー客に気づかせることができるかは、日本側のガイドの力量にかかっています。ツアーバスに同乗しているとき、こんなことがありました。
若い中国人ガイドが焦げつかないマーブルコートフライパンを買った話を始めたのです。「同じものを中国で買うと5倍はする。中国のお母さんに送ってあげたら喜ばれた」と言うと、バスの中は急に色めきだしました。「それどこに売っているの。連れて行ってくれる?」。バスは銀座のドン・キホーテに向かいました。そして、彼に案内された売り場のマーブルコートフライパンの在庫分はすべてお買い上げとなりました。

その一連の光景を見ながら思ったのは、なぜガイドの話にツアー客たちはこんなに簡単に食いつくのだろうか、という驚きでした。ひとりのツアー客は「彼がお母さんに買ってあげたという話が私たちの心をつかんだ」と話してくれました。う~ん、どういうこと?
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マーブルコートフライパンの在庫分すべてお買い上げの瞬間

1週間近くバスの中で一緒に過ごしていると、親しみが生まれるのは人情です。言葉もわからない日本で頼れる人間は彼ひとり。彼のことばが影響力を持つのは当然でしょう。

でも、理由はもっと別にありそうです。彼らがもともと日本でフライパンを買おうと考えていたわけではないでしょう。きっかけは何でもよかったのです。「親孝行」と「5分の1の値段」というわかりやすい動機づけができたことで、「自分がほしいものを買う」という"想"のストーリーがにわかに成立したのです。それまで買ったのは友人・親族に頼まれたお土産ばかり。本当は自分のために買いたいのに何も買えなかった。そもそも自分の買いたいものがわからなかった。"要"の務めは果たせても、"想"を満たせていなかった彼らは、ガイドのことばにいともあっさり飛びついてしまったのです。

実をいえば、これは消費者としての成熟度に関わる問題です。一般にツアーに参加する中国客は40代以上が圧倒的に多い。80后と呼ばれる消費社会に親しんだ若い世代は少ないのです。海外旅行ビギナーである彼らは"想"を満たす方法を知らないといえます。

にもかかわらず、その指南役であるべき日本側のガイドは圧倒的に役不足です。日本の楽しさを伝えるどころか、そもそも彼らは別の使命を帯びていたりもする。この問題は、多くのインバウンド関係者が実情を知りながら、見て見ぬふりをしています。次回はその問題を取り上げます。(2011年10月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_64.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 20:08 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 05月 07日

2回 中国客“爆買い”伝説はまぼろしか?

ここ数年、メディアを中心に訪日中国客の旺盛な購買力が喧伝されてきました。彼らが家電量販店やドラッグストアで買い物する光景は"爆買い"と称されています。日本人が1970年代に「エコノミック・アニマル」と蔑称されたことにならえば、「ショッピング・アニマル」とでも言わんばかりの好奇のまなざしが、彼らに集中的に注がれました。

いったいどうして"爆買い"伝説は生まれたのか?実際はどうだったのか?

本連載第2回では、その真相を点検したいと思います。

中国客"爆買い"伝説の起源
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中国団体ツアーの"爆買い"が盛んに見られた頃の某家電量販店にて(2009年11月)

中国人観光客をめぐる報道は、北京オリンピックが閉幕した2008年秋頃から急増します。まず一部の雑誌が火をつけ、テレビが後追いしました。何より世間の耳目を集めたのは、彼らの豪勢な買いっぷりでした。たとえば、こんな感じです。

「お客様は中国人。銀聯リッチを狙え。内なる外需、中国人観光客の争奪が始まった」
「一度に800人が九州上陸。クルーズ船の観光&お買い物ツアーに密着。100万円の真珠、お買い上げ」(日経ビジネス2008年9月29日)

「旅費よりお土産代のほうが高い!ビックリ!中国人観光客お金持ち東京お買い物ツアー」「化粧品大人買い!、バーバリーどか買い!」「ひげそり10コにつめ切り100コ買い!」(週刊女性2008年12月23日)

「爆買!世界一の貪欲民族が続々と上陸!中国人富裕層で儲ける」(月刊宝島2009年11月号)

「中国発弾丸買い物ツアー」(読売新聞2010年8月9日)……。

団体バスで店に押し寄せ、フロアを一時的に占拠。商品によっては棚の在庫がなくなるまで集団で買い尽くすという奇矯な消費行動は、まさに"爆買い"イメージを喚起するものでした。これまでもロシアや中東系の富裕層が都心で高額消費をしていることは知られていましたが、少人数のグループにすぎません。やっぱり、団体は目につくものです。街に溶け込むことのない異形の集団に見えてしまう。こうした姿を見せるのは香港、台湾を除く中国本土客だけでしたから、"爆買い"は中国人観光客の代名詞となったのです。

なぜ急に中国人は金持ちになったのか? 多くの日本人はそんな疑念や当惑をおぼえながら、オリンピックを開催できるまでになった中国の経済成長と重ね合わせて彼らの存在を直視せざるを得なかったといえます。それは「欧米市場に代わる輸出先をどこに求めるか」「内需縮小をいかに補うか」という長年の日本経済の課題にわかりやすい回答を与えてくれました。2005年の反日デモを契機に年々嫌中気分の高まる日本人も「これを商機につなげない手はない」「お金を落としてくれるなら、来てもらおうじゃないか。彼らだって実際の日本の姿を見れば、考えも変わるだろう」。そんな甘い期待も芽生えたようです。

当時のぼくも、前述した雑誌メディアで一連の中国客"爆買い"伝説の流布に関与していたことを白状しなければなりません。2004,5年と政治的な理由で停滞していた訪日中国人の伸びが06年に前年度比25%と急増、08年には100万人に到達します。こうしたなか、「お一人様炊飯釜10個お買い上げ」だなんてお笑い"爆買い"シーンは、中国人観光客という新しい外来消費者の存在を世間に知らしめる好機になると考えました。彼らのメイド・イン・ジャパンに対するまなざしを見て、悪い気がしなかったのも確かです。

こうしてさまざまな立場の人々の思惑が一致、きちんとした実態の検証もなく、期待値だけが一気に高まりました。久しく景気のいい話とは無縁だった日本人は、「中国人観光客はカモネギ」と考えることに合意したのです。無理もなかったといえるかもしれません。

買い物しか映さないテレビ報道
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テレビ局の執拗な取材攻勢を受ける中国ツアー客

そんなふくらみきった期待も、尖閣事件と震災で急速にしぼんでしまいました。

問題は、メディアはもちろん、インバウンド関係者も含めて、当の中国客のツアーの内実や彼らの胸のうちをどこまで理解していたか、ということではないでしょうか。

今年5月、ぼくはある中国団体ツアーを同行取材しました。震災後、初めて成田入りした中国客ということで、溝畑宏観光庁長官が出迎えにきてテレビ報道もされたため、ご記憶のある方もいるかもしれません。そのツアーを催行したのは瀋陽の旅行会社で、社長が旧知の友人という縁から、3泊4日の東京滞在をツアーの皆さんと一緒に過ごしたのです。

翌朝、ホテルの前には各局のテレビ報道陣が待ち構えていました。彼らはツアーの全行程を追っかけ取材するというのです。もっとも、彼らが撮りたいのは皇居やお台場の観光ではなく、百貨店からマツモトキヨシ、ドン・キホーテ、LAOX、さらには御徒町にある中国客に絶大の人気を誇る老舗ディスカウントストア多慶家まで、とにかく買い物シーンでした。

わずか10数名のツアー客に対し、それを上回る数の報道陣が追いかけるという構図です。ひとりの客に数社のカメラが順番に、何をいくら買ったかしつこく尋ねます。そんなうんざりする光景を見て、ぼくは彼らに問いかけました。

「中国客の買い物シーンは何年も前からさんざん撮ってきたでしょう。いまさら同じ絵を撮ることに何の意味があるんですか?」

しかし、現場のスタッフにその手の質問をするのは詮無いことのようです。デスクから中国客が何を買ったかとにかく撮ってこいとだけ言われたそうです。なかには中国のどこから来たツアーかすら把握していないカメラマンもいました。事前の下調べもせず、決めつけで報道を取り仕切るデスクと称される人たちは罪つくりというべきでしょう。

でも、よく考えてみてください。なぜツアーの皆さんはカメラに追いかけまくられることを承諾したのか。自分が海外旅行先で同じ目に遭ったらどうでしょう。理由ははっきりしています。そのツアーは、温家宝首相来日とワンセットの政治ショーだったのです。それは、海外のインバウンド・ツーリズムの世界ではよくあるメディアを使った宣伝・誘客手法のひとつともいえます。政治家か芸能人なのかはともかく、誰かに光を当てて、いかにこちらを振り向かせるか。日本のテレビ局はまんまと乗せられちゃったわけです。では、誰がそれを仕掛けたのか。話は単純ではありません。同じ時期、中国でも今回のツアーを取材した中央電視台をはじめ大量のテレビ報道あったことは知っておいていいでしょう。
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震災後、初めて成田入りした中国ツアー団と溝畑宏観光庁長官(2011年5月20日)

しかし、日中関係というのは一筋縄ではいかないものです。その瀋陽の旅行会社は来日から数ヵ月たった現在も、東京行きツアーをほとんど催行できずにいます。ワンセットだったのが中国側ではかえって裏目に出たのか。東京が放射能汚染地域ではないかとの根深い不信も相まって、彼らとその関係者らの努力も誘客効果にはつながりませんでした。

買い物する気も失せるツアーの内実

それでも、ぼくは彼らの滞在中、ツアーの皆さんの買い物にとことんつきあいました。販売員の通訳をしたり、誰かがほしいという商品を一緒に探してあげたり……。中国インバウンド客に対する最大の貢献は、買い物にまつわる課題のソリューションにあるのです。

3日間あちこち訪ねてよくわかったのが、ツアーは忙しすぎて、すべてにおいて時間がないこと。さらに、後の回で説明しますが、ツアー造成上必ず立ち寄らなければならない契約免税店の問題があります。バスの中で友人の社長はこんな話をしました。

「中国人の最大の関心事は買い物。観光は二の次。でも、彼らはどこで何が買えるか情報(店舗、商品)がない。しかも、立ち寄り時間は短いので、買いたいものが見つからない。もっと買いたくても時間がない。結局、9割のお客さんが買い物に満足しないまま帰国することになる」。

中国客の買い物には、以下の3つの世界があると社長は言います。

①女性客を中心に美容健康にまつわるメイド・イン・ジャパンの実用品(化粧品、薬、健康食品など。マツモトキヨシ、ドン・キホーテなどで購入)

②帰国後に渡す土産(以下の3パターンあり)
A:上司や身内に渡すもの(お金に糸目はつけない。デジカメ、炊飯器、時計など。LAOXなどで購入)
B:同僚や友人に渡すもの(化粧品、健康食品などの中級品。お金を渡され、購入を頼まれる場合も)
C:不特定多数の知人に配るもの(安くて量が多いのがいちばん。100円ショップで購入)

③ブランド品(自分のために大人買いする中国人特有の見栄の世界。オーダーメイドスーツ、バッグ、宝飾品など)
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電気かみそりをまとめ買い。彼らのお土産買いプレッシャーは尋常ではない

まるで中国社会の縮図が見えてくるような多様な買い物ニーズを、限られた時間内で満たすのは容易ではありません。訪日中国人の52.2%(2010年)を占める団体バスで毎日移動を続けるツアーの形態は、およそ中国の人たちが買い物を楽しめるような環境とはほど遠いのです。彼ら自身、買い物する気も失せるようなツアーの内実を半ば諦めて受け入れているのが実情です。背景にはツアー代金の不当な安さがあります。そうした彼らのフラストレーションが何かの弾みで点火する瞬間こそ、我々の垣間見た"爆買い"シーンだったのです。

こうしてみると、中国客"爆買い"伝説とは、日本側の自己都合にまみれた他力本願と、当事者意識を欠いた一方的な思い込みが生んだまぼろしだったのではないか、とすら思えてきます。一般に政府・自治体やインバウンド関係者は、自分の管轄や商域しか見ていません。もっとトータルにツアー全体のあり方を見直すことが必要なのです。

今後も"爆買い"が続くか疑わしい

というのも、近年のさまざまな情勢の変化から、今後も彼らが"爆買い"してくれるかどうかは、大いに疑問といえるからです。理由は3つあります。

①中国人観光客だって成熟する
②中国側の関税強化で個人のお土産にも税金がかかる
③中国も内需拡大したい

海外旅行解禁から約10年を経て、彼らが「弾丸買い物ツアー」で帰国後の面子のために実用品を大量に買い漁るような旅ではなく、自分のためにのんびり旅がしたいと考えるのは自然の流れでしょう。1980年代に始まった台湾人の日本ツアーも当初は"爆買い"が見られましたが、30年を経たいまではスマートな旅行者として日本の街に溶け込んでいます。地域格差が大きい中国ではタイムラグがありますが、"爆買い"旅行者の比率はしだいに減少すると考えられます。観光庁がまとめた「訪日外国人消費動向調査」によると、国別一人あたりの消費額のアジアのトップは中国で、「日本でしたいこと」はショッピングですが、「次回したいこと」では温泉や日本食といった本来の日本観光の魅力を味わいたいとの回答が増えるといいます。中国人観光客も少しずつですが、成熟していくはずです。

2010年10月以降、個人が海外で購入した物品に対する関税のチェックが中国の税関当局によって強化されるようになったことも、"爆買い"が萎縮する要因です。中国政府がなぜこのような措置を下したかについては、中国の内情を知れば納得せざるを得ません。要は、中国も内需拡大したいのです。ですから、日中双方のメディアで盛んに取り上げられた中国客のメイド・イン・ジャパン礼賛や"爆買い"報道を、中国政府がどれだけ苦々しく思っていたかは想像に難くありません。国民に対して「なぜ日本で買うのか。中国で買えよ」というのが中国政府のホンネでしょう。これまで通り"爆買い"中国客の来日を呼び込もうという姿勢だけでは十分ではないことを今回は強調しておきたいと思います。(2011年9月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_62.html

[追記]
ここで書いているのは、東日本大震災直後の2011年半ばごろの中国客に対する日本のメディアの取材姿勢を批判的に触れたものですが、いま読むと、たまたま友人の中国の旅行関係者のツアーに自分が同行していたこともあり、今後の予測という観点では少し先走り気味だったかもしれません。

というのは、自分のつきあいのある中国人たちを見ていると、彼らの成熟化のスピードはなかなかのものがあり、“爆買い”なんてことをいつまでもやるはずがない、と思ってしまうところがあったからです。

しかし、これは多くの人がよく間違うことですが、日本人とつきあいのあるような中国人は、中国では特殊な部類に入るのです。圧倒的なボリュームで、日本のことなど全く知らない消費者が中国に存在し、東北地方や内陸部でも経済成長がそれなりに進んでいった結果、「初めて」日本を訪ねる中国人は増えることはあっても、減ることはなさそうです。

だとしたら、彼らは今日の「日中の物価が逆転」したご時世、また自国産の商品を全く信じられないという国情からすると、“爆買い”はすぐにはなくなりそうもありません。

スタバのカフェラテ600円!! 日中の物価が完全に逆転(訪日客急増の背景)
http://inbound.exblog.jp/24162197/

まったくなんとありがたいことでしょうか。(2015.2.22)
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 19:46 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2011年 11月 07日

なぜメイドインジャパン好きの中国人がメイドインチャイナの骨董を高値で買うのか?

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ここ数年、中国人が日本に中国骨董を買い集めに来ているという。世間でいう中国人の消費が経済効果につながるという話とは無縁に思えるが、実はけっこう大きなお金が動いているらしい。いったいどんな人たちが、どこで何をしているというのだろう。あれほどメイドインジャパン好きといわれる中国人たちが、今なぜメイドインチャイナの骨董に血眼になっているのか?

王義之の模写が40億円で落札

2010年11月23日、中国嘉徳国際拍売有限公司(以下、中国嘉徳)が開いた北京のオークション会場で、教科書にも出てくる東晋時代(4世紀)の書家、王義之の書『平安帖』の模写が約40億円(3億800万元)もの高値で落札された。

競売元である中国嘉徳は1993年創業の中国最大のオークション会社。天安門事件で失脚した趙紫陽の娘として知られる王雁南氏が総経理を務める。同社が扱うのは、中国の書画(近現代絵画も含む)や陶磁器、工芸品、家具、古籍、古銭、玉類など。カタログを見ると、骨董以外で競売にかけられるのはプーアル茶や茅台酒など多岐にわたる中国伝統産品だ。出品のうち4割は海外から集められたものだといい、その収集のため、上海、天津、香港、台北、ニューヨーク、そして07年から東京銀座に事務所を置いている。

今中国では中国骨董の価格が急騰している。リーマンショックの影響を受けた09年はさすがに少し落ちたが、翌年すぐに回復した。中国嘉徳の年間成約額は09年の約340億円(27億元)から10年の約950億円(75・5億元)へと3倍にふくれあがった。そのうち1点の落札額が10億円を超えたものは4点、1億円を超えたものは76点を数えた。中国全体の骨董および美術品市場の10年の取扱高も、前年の2倍以上の約7200億円(573億元)とされ、今後も拡大が見込まれるという。中国のオークション市場の規模は年々拡大し、07年にフランスを抜き、今や米英に次ぐ世界3位となっている。

中国のテレビでも最近はご当地版「お宝鑑定団」が人気だそうだ。冒頭の高額落札も、バブル崩壊前の1987年に安田火災海上がヨーロッパのオークションでゴッホの『ひまわり』を58億円で落札したことをどこか思い起こさせる話である。これだけ価格が急騰しているのだから、海外の中国骨董を買い集め、自国に持ち帰り、高値で売り抜けようとする中国人が現れても不思議ではないのだ。
 

中国人が日本の骨董市場を下支え

こうしたことから数年前より日本の骨董業者の間では、中国文物の発掘や売買が盛んになっている。この1、2年で多くの骨董団体が各地で中国骨董専門のオークションを開催した。そこに駆けつけるのは、中国人の骨董買い出しツアー団である。

昨年から東洋美術骨董フロアを特設し、中国骨董の委託販売に力を入れ始めた東京銀座のアンティークモール銀座の中村みゆき代表取締役は、昨年12月6日に「第1回中国骨董オークション」を開催した。会場には日本の骨董商やコレクターの他に、これに合せて来日した中国からの参加者50名などを加え、約100名が集まった。3時間で約200点の中国骨董が落札されたが、9割が中国人によるものだったという。

中村氏はもともと西洋骨董が専門だった。
「バブル崩壊以降、低迷を続ける日本の骨董市場の中で、今元気に動いているのは中国モノばかり。そこで3フロアあるうち1フロアを東洋専門にしたんです。以来、中国の方がよくお見えになるようになった。モノを見る目は十分ある人たちばかりです。古くから中国との交易の歴史がある日本は中国文物の宝庫といえる。中国骨董の里帰りが始まったんだと思います。昔から中国モノを扱う骨董業者も、表向きは中国人には売らないと言っているけど、オークションがあるとこっそり出品したりする。日本の骨董市場は今や中国人に下支えされているといっていい」

買う側も熱心なら売る側だって市場の動きに敏感だ。中国嘉徳東京事務所では、一昨年から年に数回中国より専門の鑑定士を呼び寄せ、日本国内に眠る中国文物を鑑定するための中国美術相談会を開いている。今年1月14、15日に開かれた相談会には、全国から約200名の所蔵家が中国の書画や陶磁器、銅鏡などを持ちこんだ。まるで今、秘蔵の品を「お宝鑑定」して高く見積もってもらうなら中国に限るといわんばかりである。同社はそのうち約2割を引き取って3月の北京でのオークションに出品することになった。

骨董ビジネスは経済合理的

中国との骨董商い20年以上のベテランで、上海に骨董店『草月堂』を開いている田川信也氏は、中国人骨董買い出しツアーについてこう語る。

「数年前から日本でのオークションに合わせて中国人がツアーでやって来るようになった。個人コレクターもいるが、彼らの大半は商売人です。なぜ彼らが中国骨董をあんなに高値で買うか? そんなの投機に決まってる。中国でもっと高値で売れるからですよ」

ツアーの中には、東京や横浜、大阪、金沢、福岡などの骨董商やオークションめぐりをするものもある。1回に300名規模の大きなオークションがあると、10億円以上の成約額に上ることもあるという。「でも、北京の嘉徳オークションでは1日にその10倍の成約額が出ていますからね」と田川氏はいう。

1980年代から香港経由で中国にある日本の古切手や古銭を買い出しに行き、日本のコレクターに売っていた田川氏だが、2000年前後から中国で骨董の値段が上がり始めたことを知る。まず掛け軸、そして陶磁器が上がり始めた。そのうち日本人相手より中国人相手の商売のほうが儲かり始めたので、05年に上海出店を決意した。

中国では骨董が役人などへの贈り物に使われることが多いため、贈賄目的か投資のためかというのが、資産運用には縁のない一般中国国民の認識だといわれるが、田川氏は中国の骨董ビジネスはきわめて経済合理的な原理で動いているという。ここ数年上昇基調の骨董価格の値動きも、03年頃上海の不動産価格が一気にはね上がったとき、値を下げているし、05年頃の株高のときは、掛け軸の値段が急に下がったという。これだけGDPが伸びているのに株市場は精彩を欠いたままだし、不動産投資を抑制する中国当局の動きが強まった10年になって骨董価格が急騰したのも、これまで不動産や株へ向かっていた投資資金の一部が骨董市場に流れたのだという説明はわかりやすい。今年上海と重慶で始まる固定資産税の試験的導入で、不動産価格や骨董市場にどんな影響が出てくるのか、興味深いところである。

愛国心オークション事件 

もっとも、中国人の骨董ビジネスにロマンのつけ入る余地などないというのは言いすぎだろう。日本の骨董関係者らの話で共通するのは、彼らの官窯好みである。宮廷で使われていた絢爛豪華な逸品が好きなのだ。このあたりは李朝の器などを好む渋好みの日本人とは、基本的に違っている。人気は明清時代の陶磁器。どの皇帝の時代に作られたかによって値段が変わる。皇帝の権力が強い時代ほど品質も高いとされるためだ。鑑定ではもっぱら製造年や場所、職人をめぐって議論が起こる。明清モノが多いもうひとつの理由は、中国国家文物局が遺跡からの発掘や盗掘品はオークションにかけるのを禁止しているため、宋以前の古いものは出品されることが少ないからだという。

骨董が純粋にビジネスだけの話にならなくなる背景に、中国政府の対応がある。戦乱や内乱に明け暮れた近現代の中国は、貴重な文物が海外に大量流出した。欧米列強の略奪や考古学調査団の持ち出しに加え、密輸も頻発、一時期は常態化していた。そのため近年海外に流出した中国の文物の還流に力を入れており、明らかに盗掘品であるものに対しては、外交ルートを通じて返還を要求している。流出の経緯が不明でも、海外の所蔵者に対価を払って取り戻すことさえ始めている。

こうしたなかで起きたのが、09年春の中国人オークション落札代金未払い事件だ。「円明園愛国心オークション事件」とも呼ばれる。朝日新聞2009年2月3日付によると、「1860年に英仏連合軍の略奪に遭った清朝の庭園『円明園』から海外に持ち出された十二支動物像のうち、ネズミとウサギの銅像の頭部が2月下旬にパリでオークションに出品されることになり、北京の弁護士85人がネット上で競売の中止と中国への返還を求める発表をするなど、中国で反発が高まっている」。銅像の所蔵者はデザイナーの故イブ・サンローラン氏で、遺産相続人がクリスティーズに出品したものだ。2月中旬の中国外交部定例記者会見では、劉暁波氏ノーベル平和賞受賞のときも強硬に反対を唱えて物議をかもした女性報道官の姜瑜氏が「英仏による略奪」を主張していたことから、中国政府もこの問題に乗り出そうとしてくるのかと思われた。

事件は2月25日、ある中国人が計3140万ユーロ(39億円)でそれら2品を落札したものの、「略奪された文化財に金を払うつもりはない」と代金支払い拒否を言い出したことから始まった。この人物は福建省のオークション会社社長の蔡銘超氏で、海外に流出した文化財を取り戻す活動を行う民間組織の顧問だそうだ。ネットに転載された写真を見る限り、細面の気の弱そうな人物である。政府の後ろ盾もあるとふんで臨んだ挑戦だったに違いないが、中国国内でも賛否両論を巻き起こした。

ところがである。中国文学者の中野美代子氏が岩波書店の『図書』09年7月号に寄稿した「愛国心オークション」という一文に以下の記述がある。

「これら十二支動物像は、マーロンが撮影した1930年前後までは、北京近郊に健在していたのだ。その頭部を切断し、骨董市にはこび売ったのは、中国の民衆である。皇帝の悦楽のためのみに西洋人宣教師たちがつくったものを破壊し、売却することは、当時の民衆としては健全ないとなみでなかったろうか。(中略)それがいま、『愛国心』のために、いくばくかの歴史的価値しかない十二支動物たちのあたまに、なん億円、なん十億円というべらぼうな高値をつけているのである」

つまり、中国政府の主張する十二支動物像が1860年英仏連合軍に略奪された「屈辱の象徴」というのは史実にあっていない。おまけに銅像所蔵者から「中国が人権を認めるなら返還してもいい」といわれる始末。こうなるとおっちょこちょいの蔡氏以上に、史実もわきまえず返還を訴えた姜瑜報道官のほうがお気の毒さまという気もしてくる。 

こうした経緯を意識したせいだろうか、東京事務所を通して中国嘉徳に筆者が行った「中国の骨董が国際相場に対して高いのはなぜか」という質問に対する回答の中に、わざわざ「価格の高騰は中国人の愛国心によるものではない」という記述があったのである。

自作自演的な価値釣り上げか

筆者は他にも中国嘉徳に対して以下のような質問を送っている。「中国人にとって中国骨董はどんな価値があるのでしょうか。また海外から『国宝回流』することは、中国人にとってどんな意味があるのですか」。その回答はこうだ。

「中国の文物芸術品は中華文明の結晶であり、重厚な歴史的価値、学術的価値、文物的価値を有する。中華文化の継承、保護、発展にとって重要な意義を持つ。海外の文物を還流させることは国内の芸術品市場の活発化につながるほかに、もっと重要な意味は海外還流文物の鑑賞、研究を通して、歴史的視野を広げ、文化、歴史の研究を深めることである」

いかにも今日の中国的な公式見解である。それを頭から否定するつもりはないが、むしろ朝日新聞09年2月17日に掲載された中国の作家、余秋雨氏へのインタビューの中で述べられた「正統」という観念をめぐる葛藤こそが彼らの心情に近いのかもしれない。同紙の「中国政府が文物を重視するのはなぜか」という質問に対して余氏はこう答えている。

「国共内戦時に国民党が文物を持ち去った背景には中華文明における『正統』の観念がある。重要な文物が手にあれば正統性を証明できる。戦いの勝ち負けはこの世の常。しかし文化は永遠の存在だ」

それにしても、今日の中国の骨董ブーム、自国出自のモノにしか関心がないというところがいかにも中国人らしい。高邁な理念を語る人物がいる一方で、それをぶち壊しにする輩が必ず現れるところもそう。中国の民間骨董業者と日頃つきあって彼らの商売のやり口を見ている前述の田川氏にいわせれば、「愛国心なんて方便。嘉徳だってトップは共産党幹部。元締めは党なんですから」ということになる。

もともと骨董の買戻しブームというのは、80年代後半のオリンピック景気にわく韓国にもあったそうだし、バブル時代の日本にもあったことはよく知られている。ただ日本人の場合は、中国人のように「奪われたものを取り返せ」という認識はあまりなさそうだ。幕末の薩摩藩などがせっせと陶器を輸出していたという面もあるからだろう。 

こうしてみると、骨董の値を釣り上げているは、今日の中国人の「自国の歴史はスゴイと思いたい」というある種の信心と、それが実利につながるゆえの自作自演的な熱狂のように思えてくる。ではなぜ骨董なのか。中国人の歴史的文物への傾倒は筋金入りであることは認めるけど、こう言っちゃあなんだが、当人たちもメイドインチャイナの現代文化に誇れるものがなかなか見つからないからでもあるだろう。

ただ、彼らを見ていてちょっとつらい気がするのは、「中国はこれまでずっと屈辱を受けてきた」といい続けなければならないような歴史認識だ。こういうのがよっぽど自虐史観ではないかと思う。だから中国経済が興隆すると、その裏返しで「本当の俺たちはスゴかったんだ」と言いたくてたまらないのである。

こういう屈折が、今日の中国人の文化に対する態度も含め、海外から見て好意的に評価されにくい理由のひとつになっていると思う。だって普通に考えれば、本来価値のあるものは、きちんと保管され、公開されているのであれば、どこにあってもかまわないではないか……。少なくとも今日の大方の中国人はこれに承服しないだろう。

結局のところ、これからも中国骨董は売ったり買い戻されたりを繰り返していくのだろう。その品が広く価値を認められる限り。そういえば、昨年9月から中国当局は日本から持ち込まれる物品の関税を強化し始めている。高く売れるうちに売ってしまえ、というトレンドはそれでも拍車がかかるのだろうか。

いずれにせよ、インバウンドで中国客を迎えるということは、こういう実に面倒くさいメンタリティの持ち主たちをお客さんにするのだということをキモに銘じておかなければならないのである。

「データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン」(洋泉社)2011年3月刊行より
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by sanyo-kansatu | 2011-11-07 15:47 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2011年 11月 06日

「中国人から儲ける本――爆買いする年間100万人の観光客&商用客をつかめ!」宝島社

中国からの訪日旅行者が急増した2010年初旬に刊行された同書では、中国人客の地域別特徴やボッタクリ問題などいくつかの指摘をしています。中国インバウンドの盛り上がりがピークを迎えた同年9月、尖閣諸島沖漁船衝突事故が起き、関係者らはいきなり冷水を浴びせられることになります。

北海道を舞台にした中国映画がヒット!ロケ地観光に参加する中国人の心象風景とは(p48-)
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今後、中国人旅行客の趣向がどうなるかは、台湾人や香港人の動向を見れば分かる!(p50-)
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北京、上海、広東、内陸都市――出身地によって大きく違う旅のスタイル(p60-)
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ボッタクリや無資格ガイド問題も浮上。日中双方が解決すべき中国人ツアーの課題(88-)
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by sanyo-kansatu | 2011-11-06 21:40 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)