ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ

タグ:ツアー ( 157 ) タグの人気記事


2012年 05月 28日

10回 もし中国人ツアーバスが事故を起こしていたら……を真面目に考える

4月29日未明、群馬県藤岡市の関越自動車道上り線で、金沢発東京ディズニーリゾート行きの高速ツアーバスが道路左側の防音壁に衝突し、死傷者46名もの惨事をもたらす事故が起きました。今年のGW期間中、事故原因をめぐる報道が連日のように行われたことはご存じのとおりです。
b0235153_19384877.jpg












報道で明るみになったのは、貸切バス業界の内部に見られる無法状態でした。インバウンド関係者にとって看過できないのは、事故を起こしたのが中国インバウンド専門のバス運転手だったことです。業界の現状をこのまま放置すれば、中国人観光客の約7割が利用するインバウンドツアーバスもいつ事故を起こしてもおかしくないことを意味するからです。

実をいうと、昨年10月初旬、ぼくはインバウンドバスの台数を定点観測している新宿5丁目で偶然、河野化山容疑者に会ったことがあります。ですから、インバウンドバス業界の置かれた状況や残留孤児2世としての彼の境遇を思うと、やりきれない気がしたものです。今回は、現行のインバウンドバス業界の何が問題なのか、少し真面目に考えてみたいと思います。

事故はなぜ起きたのか

b0235153_19394831.jpg










「格安バス、競争激化」(朝日新聞2012年4月30日)


報道を通じて明らかになってきたことを整理してみましょう。事故はなぜ起きたのか――。
背景には、安さと手軽さで急成長した高速ツアーバスが競争激化で安全面の懸念が生じていたことにあります。高速道路を長距離移動するバスには、道路運送法に基づいて決まったルートを停留所に停まりながら運行する「高速路線バス」と、旅行会社が旅行業法に基づいて募集企画旅行として貸切バスを使って運行する「高速ツアーバス」の2種類があります。今回事故を起こしたのは、後者の「高速ツアーバス」であり、外国人観光客を乗せるインバウンドバスと同じ業界の話です。

貸切バスを運行するバス会社はほとんどが小規模で集客機能が弱いことから、たいていの場合、旅行会社の下請けに甘んじることになるわけですが、近年のツアー代金の激しい安売り競争で経営は追い詰められています。当然それは運転手の労働環境に直結し、過労問題や人命を乗せて運ぶ重責に釣り合わない低待遇を嘆く現場の声が聞かれることになります。

「バス運転手の9割が運転中に睡魔に襲われたことがある」という報道(朝日新聞2012年5月1日)もありましたが、これは総務省がバス運転手500人を対象に実施した勤務実態の調査だけに、実に恐ろしい話です。

こうした状況の中で常態化しているのが、一部のバス運行会社の違法経営です。今回事故を起こしたバス会社の陸援隊(千葉県印西市)は、道路運送法に定められた運行の前後に運転手の健康状態をチェックする点呼をしないなど、安全管理がずさんだったことに加え、容疑者も短期雇用の運転手で、金沢への乗務が初めてだったことなどが国土交通省の監査で判明しています。

さらに、逮捕された容疑者は自分が所有するバスを陸援隊の名義にして、個人で外国人観光客を乗せたインバウンドバスを運行していたことも明らかになりました。関係者に話を聞く限り、こうした違法な経営は「氷山の一角」だといいます。

インバウンド市場への参入を考えている皆さんは、今回の事件を今後起こりうる事態への警鐘として受け取らなければなりません。中国人ツアー客を乗せたバスが事故を起こしたとき、誰がどう対応し、保障するのか――。これまでぼくはキックバックを原資にしたあやうい中国人ツアーの問題を繰り返し指摘してきましたが、残念なことに、その構造を支えているのは中国側だけでなく、日本側の事情も大きいことを強く認識しなければならないでしょう。

「規制緩和」で安全基準まで緩和された?

それにしても、いったい日本のバス業界では何が起きているのでしょうか。

背景には規制緩和があります。改正道路運送法によって貸切バス事業が免許制から許可制に移行されたのは2000年。こうして新たに登場した業態が「高速ツアーバス」でした。

2000年当時、経済成長のカンフル剤として「規制緩和」が大いに叫ばれていました。貸切バス事業者の新規参入を促進し、(労働組合加入率の高い運転手を抱える)大手バス事業者と自由競争させていこうという動きが始まりました。以前は地域ごとに営業できるバスの台数を当局が決める「需給規制」に業界は縛られていた(大手は守られていた)面があったため、「規制緩和」は時流に乗った政策として歓迎されたといえます。

これを機に、それまで違法経営を行っていた「白バス」業者も貸切バス事業に参入します。「白バス」とは陸運局の許可を取らずに営業活動を行うことで、許可を取ったバスのプレートがグリーンであるのに対し、一般車と同じ白いプレートのままであることからそう呼ばれています。

2002年には、スキーバスなどごく一部にしか認められていなかったツアーバス事業を旅行会社が主催できるように解禁されたことで、従来の高速路線バスにはなかった格安バスや豪華車両などが登場しました。前述したように、現状では高速ツアーバスは道路運送法に規定されないため、経路やダイヤ等の届出は必要なく、料金も自由に設定できます。バブル崩壊以降、市場の縮小を余儀なくされていた貸切バス業界は息を吹き返すように大競争時代に突入。都市間高速バスや激安バスツアーなどの価格破壊によって利用者は恩恵を受けてきました。

その一方で、既存のバス事業者の収益低下によるローカルバスの相次ぐ廃止が起きたことも事実です。2007年大阪で起きたスキーバスの事故以降、運転手の労働環境の悪化、安全確保への不安など、貸切バス業界に対する多くの問題が指摘されるようになりました。

貸切バス業者は乗降場所として停留所やバスターミナルが使えないので、路上や民間駐車場を利用しなければならず、安全対策は各社の裁量に任されています。出先で点検整備を行う車庫や営業所がない場合も多いといいます。規制緩和後、事業者数は2倍近く増えましたが、その大半は保有車両台数10台以下の小規模事業者です。旅行会社から仕事を請け負う小規模事業者は弱い立場に立たされているのです。そのため、業界では事業者と車輌数の増大に伴って公示運賃をものともせぬダンピングの横行が起きていたのです。

インバウンドバス事業者はこうした流れの中で成長しました。この10年で東アジアを中心とする訪日観光客が増加したからです。実際のところ、規制緩和後のバス運賃の価格破壊がなければ、今日ほど多くのアジアからの訪日ツアー客の受け入れは不可能だったかもしれません。さもなければ、全国に「白バス」があふれる事態が起きていたことでしょう。

今回の事故を誘引したのは、時流に乗ったバス事業の「規制緩和」が行われたものの、安全基準まで緩和されてしまったことにあると思います。監督官庁である国土交通省は、規制緩和後に参入した陸援隊のような問題のある事業者に対する実効的な指導監督を怠ってきたといわれても仕方ありません。

報道によると、同省は貸切バス事業者への監査と運行基準の強化を始めていますが、今回の事故が起こる前から貸切バスの安全性の低下や運転手の労働条件の悪化については議論されており、4月上旬「バス事業のあり方検討」としてペーパーになったばかりでした。

その契機となったのが、2010年9月に総務省が公表した「貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」です。大阪のスキーバス過労運転による死傷事故や高速ツアーバスの道路交通法違反問題などの事例をあげ、貸切バス規制緩和後の不健全な営業実態を追及しており、本来の監督官庁である国土交通省がなしえなかった意欲作といえます。こうした勧告をふまえて新たな規制に着手しようとしていた矢先に起きたのが、今回の事故だったのです。

バス運転手は現状をどう考えているか

b0235153_19143285.jpg








新宿5丁目インバウンドバス停留スポットにて


ところで、こうした議論や新たな規制について運転手たちはどう考えているのでしょうか。

貸切バス運転手の労働条件の悪化は、業界の過当競争によることは確かですが、2008年に国土交通省から出された「一般貸切旅客自動車運送事業に係る乗務距離による交替運転者の配置」の指針により、1日の走行可能な距離が670㎞と定められたことが大きいといいます。その結果、運転手の拘束時間の延長は既成事実化していったからです。運転手の1日は、出庫前に行なう車両点検から客をホテルに送り届けたあとの車内清掃まで、早朝から深夜に及んでいます。

現場の思いはどうなのか。これまでぼくは新宿5丁目で何人かのインバウンドバスの運転手に話を聞いてきました。以下のくだりは、尖閣諸島沖漁船衝突事故で中国客が激減した一年前(2011年)の春節の頃に聞いたベテラン運転手の話です。

――労働時間が長すぎるとは思いませんか?――
「1日の労働時間もそうだけど、去年(2010年)は8月まで本当に休みもなかった。だから、尖閣で中国客が減って正直ホッとしていたんだよ。ただこのご時世だから、仕事があるだけありがたいと思わなきゃならないしね。俺はなんだかんだいって、この仕事が好きなんだと思うよ」

話を聞かせてくれたのは、貸切バスの運転手として30年以上のキャリアを持つ男性でした。仕事の中身は実にさまざまで、不法就労外国人の国外強制退去のため、入国管理局から空港に護送するバスを運転したこともあるそうです。

――運転中、何か困っていることはないですか?――
「そうねえ、悩みのタネは駐車場問題かな。これだけ外国人が観光に来ているのに、都心には駐車場がない。だから、俺たちはいつもウロウロしてないといけない。それと、よく地方でホテルの食事がすんだあと、『夜の街へ繰り出したいから運転手さん連れてってよ』ってガイドに言われることがあるんだ。でも、自分は行かないことにしている。仲間内にはチップをもらえば、どこにでもバスを走らせるという連中もいるようだけど、所定のコースでなければ保険が利かないからね。もし事故ったら終わりなんだよ、この仕事は」

彼は職業柄なのか、自由人のようなさばけたところがありましたが、場数をふんだベテランだけに、自己防衛の必要性を理解しているように感じました。

――ところで、以前に比べてインバウンドの仕事はどうですか?――
「昔はインバウンドといえば、台湾客のことだった。以前は台湾客もひどかったけどね。今はだいぶおとなしい。韓国ツアー客も中高年のおばちゃんはうるさいけど……、これは日本のおばちゃんも変わらないかな。まあ中国以外は車内販売がないからいいね。よく韓国やタイのガイドが、中国のガイドは大変だと言ってますよ。あんな仕事はガイドじゃないって……」

日本における本格的なアジアインバウンド市場は、1979年台湾の日本観光解禁とともに始まったといっていいでしょう(実際には70年代半ばくらいから香港客が来日しはじめていますが、規模でいえば台湾客の存在感が大きかった)。80年代から台湾のインバウンド客を扱ってきたある台湾系旅行業者は、
「当時インバウンドは嫌われ者だった。日本人客の少ないオフシーズンのホテルの穴埋めのような存在で、『白バス』が当たり前。今のように、全国各地で歓迎されるなんて考えられなかった」と語っています。

今回の事故を受けて、貸切バス業界の安全基準も含めて合法的に進めていこうという流れは強化されるでしょう。1日670㎞という基準も見直されるものと思われます。しかし、気がかりなのは、新しい規制の網が外国人観光客を乗せるインバウンドバス事業にどこまで適用されるか、です。いくら訪日外国人が増えているといっても、全体から見ればインバウンド市場は日本人市場に比べれば相対的にボリュームが少ないうえ、一般の日本人客にはかかわりのない世界であり、その実情はほとんど知られていないからです。

河野化山容疑者がぼくに話したこと
b0235153_19404843.jpg









「(群馬)県警は、事故原因の解明には河野容疑者の勤務実態の把握が必要と判断」(朝日新聞2012年5月6日)


冒頭で触れましたが、昨年10月初旬の国慶節の頃、ぼくはインバウンドバスの台数を定点観測している新宿5丁目で偶然、河野化山容疑者と話を交わしたことがあります。わずか5、6分の立ち話でしたが、ぼくの取材ノートには以下のような内容が記されていました。

「河野化山さん。1968年中国黒龍江省牡丹江出身。父親が残留孤児で、1993年来日。最近、インバウンドバスの運転を始めたばかり。今回は福建省からのツアーでガイドは台湾人。3年前なら1本のツアーで1000万円の車内販売を売り上げるガイドがゴロゴロいたが、いまはもう難しいという。ツアー代が安すぎて、バスの運転だけでは儲からない。震災以降客が減ったので、上海の親戚の家に3カ月ほど帰っていた。今後は中国で洗車の会社を立ち上げようと考えている」

彼は通りに大型バスを路駐させたまま、ガードレールに腰かけ、タバコを吹かしていました。小柄で人のよさそうな人物に見えたので、声をかけると、どうも日本語があやしい。これまでさすがに大型バスの運転手が外国人だったことはなかったため、尋ねると残留孤児2世だと話してくれました。

たまたまぼくが彼の出身地である牡丹江を訪ねたことがあり、彼も親しみを感じたのか、「今度一緒にご飯でも」と携帯番号を教えてくれたのですが、いま思えば彼は日本の国籍に帰化したといっても、生き方は在日中国人となんら変わりません。ひとつの組織に属したり、本業にこだわったりすることなく、さまざまな副業を切り盛りして生計を立て、「発財」することに人生を賭けるという中国人としてはごく普通の生き方を送ってきたことがうかがえました。

1993年来日といいますから、25歳で一から日本での生活を始めたことになります。報道によると、貸切バスを運転できる大型二種免許を取得したのは2009年で、運転手歴は3年足らず。しかも、彼は個人名義でバスを数台所有し、陸援隊の仕事をアルバイトとして請け負っていたといいます。前述のベテラン運転手が語っていた「事故ったら終わり」という認識を彼がどこまで持っていたのか、大いに気になるところです。

報道の中でとても嫌な感じがしたのは、陸援隊の針生裕美秀社長が記者会見で「運転手は運行直前の3日間休養していたほか、日常の乗務も月に100時間程度で、過労運転をさせたことはない」とぬけぬけと語っていたことです。河野容疑者のようなアルバイト運転手は使い勝手がよいから「名義貸し」をして「日雇い」運転させていたことは明白です。副業に副業を重ねる彼の人生に休日などないのですから。針生社長は、規制緩和以前の1997年と99年の2回、台湾やシンガポールなどからの観光客を相手に無免許で観光バスを運行したとして道路運送法違反(白バス営業)の疑いで逮捕された人物だったのです。そして、今回もついに道路運送法違反(名義貸し)の疑いで再び逮捕されたことは報道のとおりです。

もっとも、河野容疑者にしても自らの違法性をどこまで自覚していたかはあやしいですし、彼が個人営業していたとされる中国からのインバウンド客のバス手配を発注していたのは誰なのか、という問題も残ります。これらは日本のアジアインバウンドが監督官庁や旅行業界からアンタッチャブル化されたがゆえに起きたことといえるでしょう。

適正なツアー価格と消費者保護


今回、国土交通省が掲げる規制強化のポイントのひとつは、これまで高速ツアーバスを主催する旅行業者が利用者に対して運送事業者としての安全確保の責任を法的に負っていない現状を改めることでした。今後はツアー催行側にも法的責任を負わせることで、業界全体として安全管理体制を高めていこうというものです。

ただし、これまでの経緯を見ていると、これによって旅行会社から小規模バス事業者が切り捨てられ、インバウンドバス市場に流れていくのでは、という懸念があります。インバウンドバスは現時点でも、法律の枠外またはスレスレの状況での低運賃が一般化しており、陸援隊や河野容疑者のようなあやうい事業者に手配せざるを得ない状況が起きています。このままいくと、日本のランドオペレーションを通さない(つまり、中国の旅行会社からダイレクトで日本のバス会社に手配が発注される。ゆえに日本の監督官庁は責任を追及できない)中国人ツアーが続出し、責任の所在があいまいなまま、結果的にアンタッチャブル化がますます進行するのではないかという危惧があるのです。

こうしたことが起こるのは、いうまでもなく、日本の消費市場に見合わない低価格のツアー代金で中国客が来日しているからです。釣り合わなくてもいいから訪日外国人を増やしたいと事情を知る関係者の多くが目をつぶってきたのです。その結果、インバウンドビジネスの末端にいるバス運転手がそのしわよせを受けているというわけです。

インバウンド市場に限らず、新興国市場との経済的取引の拡大で日本社会は絶え間ないデフレ圧力にさらされています。末端の事業者に無理が及ばないような適正なツアー価格に戻すことは急務ですが、それがたやすいことではないことはみんなわかっています。

それでも、この状況を放置したまま訪日客が増え続けたとしたら、貸切バス業界に限らず他の末端の事業者をますます追い詰めることになりはしないでしょうか。

もし中国人ツアーバスが事故を起こしていたら……を真面目に考えなければならないのはそのためです。

前回も書きましたが、まず中国客をはじめとする外国人観光客に対する消費者保護という観点から日本の国内市場をあらためてチェックすべきです。問題点の洗い出しがすんだら、保護対策を立案・強化し、海外、とりわけ中国の消費者に向けてアピールすることが必要でしょう。適正なツアー価格と消費者保護はワンセットで考えるべきなのです。そうすることで彼らの自尊心に訴えかけ、たやすく「安かろう悪かろう」に陥らないような冷静な判断を迫っていくのです。そして、現在の団体ツアーとはまったく異なる高品質のツアーが日本に存在することをわかりやすくアピールする。それが中国客の安全確保につながることを中国の監督官庁に対しても堂々と訴えていくくらいの気構えが必要ではないかとぼくは思います。(2012年5月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/column_78.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-05-28 19:04 | 最新インバウンド・レポート | Comments(1)
2012年 05月 07日

9回 香港で3000元以下の激安ツアーを停止させる動きが始まるか

東京では桜シーズンも終わりましたが、今年の春は中国インバウンド市場が回復基調にあることを実感した関係者も多かったと思います。

ぼくが中国インバウンドバスの路駐台数を定点観測している明治通り新宿5丁目付近の推移を見ても、東京で桜が開花した4月に入るとバスの台数が一気に増えたことがわかります(http://inbound.exblog.jp/18145846/)。そのピークは4月の第2週で、11日は過去最大の台数でした。明らかに今年1月の春節時を上回っていました。
b0235153_19294174.jpg







4月11日の夜、新宿5丁目付近には中国人観光客を乗せたバスが数多く見られた

震災から1年という節目を迎えたことが大きかったといえますが、日本の観光プロモーションの継続的な取り組みが実を結んできたことは確かでしょう。3月下旬から4月上旬にかけてぼくは北京出張に行っていたのですが、今回は現地での見聞や関係者から聞いた話の中から中国インバウンドに関する注目すべき動きをいくつか紹介したいと思います。

北京の地下鉄通路に日本の桜の全面広告
b0235153_19305478.jpg








北京の地下鉄では2月中旬から3月末まで日本の桜をPR

3月下旬、ぼくが北京で最初に目にしたのは、日本政府観光局の巨大な広告ポスターでした。地下鉄1号線と10号線をつなぐ国貿駅の地下通路を美しい桜の満開の写真が埋め尽くすという仕掛けです。通行人は桜に包まれているような感じがして、日本の花見を体感させる効果を出そうとしているようです。日本ではあまり見かけない地下通路を使った大掛かりな全面貸し切り広告は、視覚的にかなりインパクトのある宣伝手法といえるでしょう。さすがに中国は「宣伝の国」というべきか(政治プロパガンダが中心だった時代の伝統を受け継いでいるともいえます)。知人から聞いた話では、同じものが東直門駅でも見られたそうです。

もうひとつの興味深い取り組みは、日本国大使館や日本政府観光局が中国版ツイッターといわれる微博(ウェイボー)の活用を精力的に進めていることです。

微博(ウェイボー)については、昨年の中国高速鉄道事故をめぐる情報開示の影響力の大きさがメディアで報道されたことからご存知の方も多いと思います。いまや3億人を超える中国人が日常的に活用しているSNSで、中国進出している多くの日本企業や政府・自治体、個人がアカウントを取得し、双方向の情報発信を始めています。

4月初旬に刊行された『中国版ツィッター・ウェイボーを攻略せよ!』(ワニブックスPLUS新書)の著者で、北京在住の山本達郎さんによると、日本大使館のアカウントの開設は2011年2月1日で、同月14日からツイートをスタートさせています。その1カ月後、東日本大震災が発生。震災関連情報の発信に努めるとともに、中国人が日本に対して興味があるといわれる4つのテーマ(「食事」「文化」「政治」「日中交流」)を中心に平日は1日2本、土日は1本ずつツイートを行なったところ、開設から8ヵ月でフォロワー数(中国では「粉丝」といいます)が10万人に達し、2011年4月現在14万人を超えています。これは北京にある各国大使館のフォロワー数ランキングでみると、アメリカ、イギリス、フランスに次ぐ4位です。
b0235153_1937176.jpg









日本大使館の微博ページ


b0235153_193811.jpg









日本政府観光局北京事務所の微博ページ

同じく日本の観光プロモーションの中軸をなす日本政府観光局北京事務所でも、2011年8月頃より本格的に微博によるツイートをスタートさせており、4月現在フォロワー数は3万3000人を超えています。日本大使館と連携しながら観光に特化した情報発信に努めているわけですが、大使館とスタンスの違うところとしては、なるべく中国人自身にリツイートしてもらえるよう働きかけていることです。この発想はインバウンドにとって重要です。

中国人によるツイートには、観光局からの一方的な情報発信にも勝る強い説得力があるからです。たとえば、同事務所では今年1月から3月にかけて、日本を訪れた中国人観光客による写真コンテストを企画し、微博で応募してもらい、人気投票を実施しています。微博の双方向性を活用し、プロモーションや今後のマーケティングにつなげていく取り組みはすでに始まっているのです。

2012年は大型周年事業の当たり年

北京在住の友人から聞いた今年ならではの話題に、2月16日から4日間、北京国際展覧中心で開催された日中国交正常化40周年記念行事「2012日中国民交流友好年」と「元気な日本」展示会があります。日本でも報道されたAKB48のコンサートをはじめ、アニメソング歌手のライブから神戸コレクションのファッションステージ、マグロの解体ショーまで。会場を取材した現地メディアによると「中国的な意味での派手さはないものの、日本の洗練された文化を伝えるうえで、綿密に企画制作されたイベントだった」(『Whenever BEIJING』持田吉彦氏)ようです。

ご存知のように、2012年は日中国交正常化40周年に当たります。外務省は、経済界を中心に立ち上げられた日中国交正常化40周年記念事業実行委員会(委員長・米倉弘昌日本経済団体連合会会長)と協力しながら、青少年交流と地域レベルでの相互理解を促進するための地域間交流に重点を置いているといいます。

もっとも、昨年11月、14年ぶりに上海航路が再開された長崎県の日中青少年交流など、一部地方での動きが見られるものの、全体としてみると、日本国内では機運はあまり盛り上がっているようには見えません。近年の日中関係を考えれば国民感情的にみても無理はない気もしますが、それ以上に、民間交流が40年にわたって実質的に進み、日常化したことがかえって無関心の背景になっているように思います。

クールジャパンと称される日本のポップカルチャーを中心に構成されるプロモーションは、いまや日本のお家芸といえますが、民間交流のためのわかりやすいツールであるポップカルチャーの中国に対する日本の圧倒的な優位性が日中両国民の相互理解に非対称ともいえるほどの偏りをもたらしていることも大きいでしょう。
b0235153_19391032.jpg






日中国交正常化40周年記念として、北京国際空港の出国ゲートに並ぶ日本の観光プロモーションボード

さらに言えば、2012年は日本政府がワシントンに桜を寄贈した日米親善100周年やインドとの国交樹立60周年、沖縄返還40周年など、大型周年事業の当たり年といえます。こうした場合、全方位外交を掲げるのが政府の立場でしょうから、日中40周年も数ある大型周年のひとつに過ぎません。今年の日中記念事業が30周年や35周年時に比べて盛り上がりに欠けるのは、政権交代と関係があるとの関係者の声も聞かれます。これまで記念事業の推進を関係官庁に強力に働きかけていた政治家が野党に下ったことが大きいというのです。

なんとも微妙な話ですが、今年の停滞ぶりをみる限り、観光振興にとっては大型周年事業を推進させる政治的なプレイヤーも重要な存在であることを認めざるを得ません。

中国で高品質ツアーの造成を阻む障害

ぼくは北京で毎回中国の旅行会社の関係者にヒアリングしています。中国インバウンドの現況を理解するうえで、彼らとの意見交換ほど貴重なものはありません。ここでは、日本のインバウンド関係者に示唆を与えるふたつの話を紹介しようと思います。

ひとつ目は、北京で高品質なオリジナルのツアー造成に取り組んでいる某旅行会社から聞いた話です。

中国の旅行関係者にとっての大きな悩みは、日本側と同様、日本行きのツアーが安すぎることです。いくら特色のあるツアーを企画しようとしても、日本の事情を知らない中国の消費者は、中身を比較検討できるほど商品知識がないため、値段だけで選んでしまう。

前述した微博をはじめ、中国には日本観光に関するネット情報があふれているではないかというかもしれませんが、それらは所詮ピンポイント情報に過ぎません。個別のショップやスポット情報、特定商品の内外価格差に彼らがいくら詳しくても、それで日本がわかったとはいえないのです。旅行は一般の小売商品のように手にとって比べることができないものですし、その国の交通機関や宿泊施設、人的資源など、さまざまな観光インフラや社会システム、ルールによって支えられて成り立っているものだからです。

東京都内のホテルとパンフレットに書かれていても、実際には千葉にあることを事前に理解しているツアー客がどれだけいるでしょうか(これは旅行業者も同じ)。一見豊富に見えるネット情報と中国の消費者の旅行商品に対する成熟度は別の次元の話なのです。もちろん、ここでぼくは情報発信に意味がないといっているのではなく、認知度アップのための不断の努力は欠かせないとして、もっと重要視されなければならないのは、中国の消費者が実際にツアーに集客されるビジネスの現場を知ることです。

中国で高品質なツアーの造成を阻む障害となっているのは次のような事情だといいます。仮に自社企画のオリジナルなツアーを募集しても、すぐに他社にパクられてしまうため、積極的な新規のツアー企画をためらう風潮が中国の旅行業界にあるというのです。たとえチャレンジするとしても、クローズドな市場に向けて用心深く告知し、ツアーの中身を他社に悟られないよう最大限の注意を払わなければならない。日本人の目から見れば、なんと異常な光景でしょう。同社のスタッフは吐き捨てるようにこう言いました。「中国では知的財産権の保護などありえないのです」。

ツアー企画のパクリというのは、中国に限らず日本でもあるように思うのですが、彼が言うには「中国ではパクったうえ、中身を低品質の素材にすり替え、安く販売しようとする」といいます。企画造成のための地道な努力を欠いた商品の乱造はオリジナルの商品までイメージダウンさせ、共倒れさせてしまう。これは旅行商品に限った話ではなく、中国の消費市場一般にいえると思いますが、まったくたちの悪い話です。

中国でのビジネスには日本人が通常考えにも及ばない苦労があるというのです。だとしたら、日本のインバウンド関係者は、彼らの事情を理解し、高品質なツアーを造成しようと努力している一部の優良な旅行会社とそうでない粗製濫造型の旅行会社をきちんと判別し、直接前者を支援することが必要なのではないでしょうか。こうした連携については、後日具体的な提案をしてみたいと思います。

上海市旅游局の取り組みに日本も連携できないか

ふたつ目の話は、別の担当者から聞いた中国の観光政策に関するニュースです。それは「Travel Link Daily(旅业链接)」という中国の旅行業界誌に掲載された以下の報道です。

「上海市旅游局全面整治3000 元以下低价港澳游(旅业链接2012月3月16日号)」

簡単にいうと、免税品店の連れ回しやツアー客の置き去りといったクレーム続きで中国の消費者から悪評高い香港・マカオ行き激安ツアーの停止に、いよいよ上海市旅游局が着手し、違反した旅行会社に罰則を下すというものです。注目すべきは、ツアー代金が3000元以下だと取り締まるという基準です。

この記事をぼくに教えてくれた北京の某旅行会社の女性主任はこう言います。「なにしろ安い香港ツアーでは旅行代金すべてを集客した旅行会社が懐に入れ、現地に客を送って終わりという無責任なケースがほとんど。香港側のランドオペレーターはツアー客からいかに金をむしり取るしか考えようとしない。さすがにこの状況を改善しなければならないと上海市旅游局が重い腰を上げたのです。とてもいいことだと思います」。

ただし、この施策がどれほど厳密に適用されるかについては、今後の行方を見守る必要があるようです。帰国後、この話を日本のアジアインバウンド界の重鎮であるNPO法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁理事長にしたところ、「これまでも何度か同じようなニュースが伝えられたことがあったが、状況が改善したとは思えない」と厳しいコメントをいただいたからです。

たとえそうだとしても、こうした報道を受けて、ツアーの激安化に悩む日本の監督官庁や業界関係者も行動を起こしてほしいとぼくは思います。端的にいうと、上海市旅游局の取り組みに日本も何らかの連携ができないか、ということです。

そんなに単純な話ではないことはわかっています。文字通りの連携は難しくても、上海市旅游局が取り組みを始めるに至った経緯や状況認識をヒアリングすることには意味があると思います。我々からみれば複雑怪奇に見える中国の旅行ビジネス市場において、当局がどこからどう手をつけるか、中国式の施策運用の実態を理解することも必要ではないか。

実際のところ、いったん定着した価格帯を引き上げることは、そんなにたやすいことではありません。激安ツアーの停止は短期的には集客を減らし、エアラインや香港側のホテル営業に直撃するからです。当然彼らは反発するでしょう。関連業界の利害調整が不可欠です。事情は日本だって同じです。日本の監督官庁がメイド・イン・チャイナ化した中国人の日本ツアーを野放しにしている背景には、エアラインをはじめとした一部の業界団体の利益を守ろうとする暗黙の了解が働いているはずです。

上海市旅游局が取り締まりに着手する錦の御旗は消費者保護でしょう。こうした課題解決に中国がいかに取り組むか。その手法や発想がたとえ我々と大きく違ったとしても、その道筋を知ることは日本の対中国インバウンド施策の立案に参考になります。来日中の中国ツアー客を日本の消費者と同様にいかに保護するかは、本来日本の国内問題でもあるはずです。彼らにお金を落としてもらうことを期待する以上、当然のことでしょう。野放しのままでいいわけがないのです。

前述の中国人主任は「日本政府も上海市にならって中国側に最低ツアー価格を打ち出してほしい」と言います。そこで、試しに「日本ツアー停止の基準を設けるとしたら、いくらにすべきだと思いますか」と尋ねたところ、「1万元、いや、せめて8000元」と答えてくれました。香港3泊4日の最低基準価格が3000元だとしたら、東京・大阪5泊6日が1万元(約13万円)というのが中国側からみれば妥当な価格帯なのかもしれません(日本側からみると、それでも十分とは思えませんが……)。

中国の日本ツアーのコストを無視した激安問題を解決することの難しさは、中国市場の著しい地域格差も大いに関係があります。上海市場ではすでに訪日旅行の主流は団体から個人に向かって進化していて、今後も引き続き激安化が問題となるのは、市場の成熟度が遅れた中国の2級都市や内陸都市からのツアーだからです。ツアー下限料金の取り締りは、現状では中国で最も消費者意識が高いとされる上海だけで、今後それ以外の地域にどこまで広がるかはまだわからないのです(北京でも今後始まるとは思いますが、上海に比べ消費者意識に沿ったというより、どこか権威主義的な運用になるような気もします)。

まったく難儀なものですね。でも、こうしたことは新興国市場から利益を得ようとすれば、誰もが避けられない現実でしょう。インバウンドは自分を知ると同時に、相手を知ることが欠かせません。今回紹介した「Travel Link Daily(旅业链接)」のような中国の旅行業界誌の報道にもこれからは目配りが必要だと思います。(2012年4月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/column_76.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-05-07 22:49 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2012年 05月 07日

6回 「奪われた10年」をもたらした3つの理由

今年も春節がやってきました。関係者によると、昨年の震災前の頃の勢いはないけれど、中国人団体ツアー客は少しずつ戻ってきているようです。

しかし、こうしたことで一喜一憂していても仕方がないことを、我々はこの数年間で学んだのではないでしょうか。

これまで書いてきたように、中国の消費者から見て日本はすでに激安ツアー圏とみなされています。2000年の中国団体観光ビザの解禁からわずか2年後には、ツアー料金が半値以下に急落し、本来は国内手配業者として中国客の受け入れを担うはずだった日本の旅行会社がいっせいに手を引いたことで、在日中国系の業者が訪日市場を引き受けることになり、これ以降、日本のビジネス慣行ではなく、中国式の慣行がまかり通ることになります。その結果、日本のサプライヤー(ホテルや交通、飲食、小売業者など)はただ受身のまま、際限のないディスカウント攻勢にさらされ、デフレの底流に引きずり込まれていく……。

実態面でみると、これが日本のインバウンドの「奪われた10年」の実像だった気がします。ただ、それがこの10年の総括だとしたら、少々被害妄想的すぎるとも思います。いまとなっては、日本のインバウンドが盛り上がらない理由をすべて震災のせいにできてしまうところがありますが、こうした事態を招いたのは、我々の側に落ち度があったのではないか。そのツケをいま支払わされているのでは……。あらためて日本の内なる問題について考えてみなければならないと思います。

「13億の市場」の福音と思考停止

ではそのツケとは何か。結論から先に言ってしまうと、以下の3つだとぼくは考えています。

①中国の消費者の実像をしっかり見ようとしなかったことのツケ
②アジア客を相手にするのは面倒だと考えたことのツケ
③プロモーションばかりでルールづくりを後回しにしたツケ

まず、①の「中国の消費者の実像をしっかり見ようとしなかったことのツケ」から考えてみましょう。この点は、特にここ数年中国インバウンド市場に参入してきた観光産業以外の関係者に言えることだろうと思います。

訪日中国人旅行市場が大きく注目されるという意味で、日本のインバウンドがひとつの転機を迎えるのが2007年です。反日デモをはじめ日中関係の悪化が取りざたされることの多かった小泉政権が終わった翌年、訪日中国人渡航者数が90万人を超え、初めてアメリカからの訪日客を上回る第三の市場となります(ちなみにその年1位は韓国、2位は台湾。2010年には台湾を抜き、第二の市場に)。

前述したように、すでにこの時期中国人の日本ツアーの価格破壊は完了していました。ところが、観光産業とは縁のなかった業界関係者の多くは、あるいは日本の経済界と大くくりにいってしまってかまわないと思いますが、北京オリンピック開幕に向けて邁進する中国「13億人の市場」に対する過剰反応を見せてしまうことになります。その引き金となるのが、以下のようなもの言いです。

「13億人もの人口を抱える中国では、経済成長に伴う出国率の上昇が与える量的インパクトは他の国とは桁違いに大きい」(三菱東京UFJ銀行「経済レビュー」2010年6月18日「拡大が予想される中国人観光客とわが国経済への好影響」)

今日の中国の1人当たりのドル換算のGDPが日本の1970年代前半の水準と同じであり、出国率に至っては日本の70年代後半の水準ということから、中国がこのまま日本と同じような成長を続けると「桁違い」の量的インパクトがある――。

確かにこれだけ聞くと、中国インバウンドに対する期待値がいやおうなく高まってしまったのも無理はありません。こうした福音にも似たエコノミストの時評に呼応するように、マスコミの中国客"爆買い"報道が続いたことも後押ししたでしょう。

しかし、あらためて言うまでもありませんが、こうしたレポートでは、インパクトは「桁外れ」と推測するものの、中国の消費者の実像についてはほとんど触れられていません。あるのは「13億の市場」という共同幻想への誘い、とでも言うべきものではないか。

思うに、13億という量的スケールは我々日本人の把握可能な限界を超えていたということかもしれません。超えていたからこそ、「信じる者は救われる」ではないですが、共同幻想に浸ってしまった。その結果、本来であれば一つひとつ手順をふんで物事を積み上げていくことの好きな日本人が、広大すぎる新興国の未開拓市場のどこから手を付ければいいのか、茫漠とした気分に襲われてしまい、実情にまっすぐ向き合うことを最初から諦めてしまった面があるのではないか。

もちろん、そうではないという人たちもいるでしょうが、たいてい自分にとって都合のいい面しか見ようとしない傾向が感じられます。そうこうするうちに、2011年からの中国不動産市場の調整問題や輸出の陰りで、またぞろ「中国崩壊論」がにぎやかしくなることが予測されます。こちらは逆に悪い面だけしか見ようとしない。ともに思考停止といわざるを得ないと思います。

欧米客ならいいけど、アジア客は受け入れたくない

一方、観光産業の関係者、特に手配業者としての旅行業界はこの10年、どうしていたのでしょうか。インバウンドにとって本来要となるべき業界の関係者が、訪日中国客の国内手配ビジネスを在日中国系業者に手渡すことをただ見過ごすだけだったのでしょうか。

この点を考えるうえで、中国人の訪日団体旅行が解禁となった2000年という年について振り返る必要がありそうです。

実は、この年、日本人の海外旅行者数が過去最高の1781万人になります(この数字は、以後一度も抜かれていません)。バブル経済のピークだった1990年に1000万人を初めて超えた海外旅行者数は、崩壊後も10年間、伸び続けました。2001年の米国同時多発テロや03年のSARSなど、次々と海外旅行手控え要因が頻発する2000年代についに海外旅行マーケットの頭打ちの時代を迎えるわけですが、少なくとも2000年という段階で、日本の旅行業界の関係者がまだ先の見えない中国インバウンド市場より、アウトバウンドに賭けたいと考えていたのは当然ともいえます。

だから仕方がなかったと弁護するつもりはありませんが、日本の旅行業界の関係者は「欧米客ならいいけど、アジア客の受け入れは儲からないからやりたくない」と本音レベルでは考えていたことは確かでしょう。つまり、中国インバウンドの主導権を在日中国系に握られてしまった背景には、中国の旅行業者と日本のサプライヤーの橋渡しをし、日本のルールに乗せて運用する手配業者としての役割を担うべき日本の旅行業界が②の「アジア客を相手にするのは面倒だと考えたことのツケ」にあるといえます。本来中国側と向き合うべき業界の腰が引けていたから「奪われた10年」になってしまったといえるわけです。

もっとも、彼らだけを責められないのは、2000年当時どれだけの日本人が外国人観光客の受け入れを待望していたのか、ということです。

たとえば、2007年頃の少し古いデータですが、日本の宿泊関係者らに対するJNTOのアンケート調査で「外国人の宿泊を歓迎しない」という回答が7割を占めたという、ちょっと驚くべき数字があります。もし外客を受け入れずにすむのであれば、そのほうがいいというのは、やはり日本の観光産業の関係者の本音ではないかといまでも思います。

ですから、ぼくは「アジア客を相手にするのは面倒だ」と考えるなんて間違っている、などと優等生みたいなことを言う気はありません。でも、日本人は本当に外客嫌いなのでしょうか。それを考えるうえで、少しインバウンドにまつわる歴史的な話をしてみたいと思います。

明治以降の日本は、実は3度のインバウンド振興の時代を経験しています。それぞれの背景はだいたい以下のようなものです。

第一次:1930年代 世界恐慌後の外貨獲得が目的
第二次:1950~60年代 戦後の経済復興。東京オリンピック開幕に向けて
第三次:2000年代 「失われた10年」と日本経済の地盤沈下。リーマンショック後の世界同時不況

それぞれ類似点と相違点があります。まず類似点は、第一次と第三次が国策として明確に進められたこと(第二次は国策としての位置付けはなくても、戦後復興の文脈で捉えられるでしょう)。第一次では1930年に鉄道省の下に観光局を設置。主に国内山岳リゾートに西洋式ホテルを建設し、欧米客誘致を図りました。第三次では2003年に官民を挙げた訪日旅行プロモーションとしてビジット・ジャパン・キャンペーンがスタート。08年に国土交通省の下に観光庁を発足させています。ともに世界経済の退潮期に重なっているのが共通しています。

相違点は第一次、二次の誘致の対象が欧米客であるのに対し、第三次はアジア客、すなわち新興国市場であること。実際、2010年度の訪日外客のうちアジア系は4分の3を占めます。アジア経済の成長によりグローバルな観光人口が拡大していることが背景にあります。
つまり、歴史的にみても日本は欧米客の受け入れは慣れていても、アジア客の本格的受け入れは初めての経験ですから、彼らをお客さんとしてどう扱うべきかわからない。これが日本のインバウンド振興がうまくいかないもうひとつの理由といえるのです。誰だって成功体験のないことにチャレンジするのは簡単ではないからです。

自分たちと同じような所得を持つ成熟した先進国の消費者を観光客として受け入れるのはそれなりにたやすいですが、成長途上にある国々の消費者が相手では勝手が違って思うほどうまくいかないのは確かでしょう。インバウンドに取り組むうえで、こうした歴史感や自覚を持つことは基本認識として必要ではないかと思います。

プロモーションだけでは健全な市場は生まれない

ご理解いただいているとは思いますが、当連載においてぼくは「奪われた10年」の犯人探しをしているつもりはありません。そんなことより、この状況を少しでも変えていくための実態の理解や知見を獲得していくことのほうが重要だと考えています。

しかし、③の「プロモーションばかりでルールづくりを後回しにしたツケ」については、強く警鐘を鳴らしたいと考えています。なぜなら、これまで述べたとおり、「奪われた10年」の背景には、新興国市場に取り組む難しさや民間ビジネス関係者の思感違いなど、やむを得ない面が多々あったと思いますが、こと日中間に関わるインバウンドビジネスの運用上のルールづくりの面が現実の動きに追いついていないことは誰の目にも明らかだからです。

これは日本のインバウンド振興を推進する観光庁のあり方に関係することですが、各国の旅行マーケットの分析や国内向けの啓蒙活動、日本観光の対外プロモーションにおいて、さまざまな取り組みがなされていることは事実だとしても、ぼくがこの連載で扱ってきたようなツアーの現場で起きている問題については、ほったらかしとまでは言いませんが、現状追認の姿勢がすぎると思います。マーケティングとプロモーションだけでは、健全なインバウンド市場は生まれないことをいちばんよく知っている立場のはずなのに、ビジネスの現場に深入りすることを避けているように見えます。

それが端的に現れるのが、ガイドの問題です。この問題は、そんなに単純に白黒つけられない事情もあるため、次回以降、③の「プロモーションばかりでルールづくりを後回したしたツケ」という観点からじっくり考えていきたいと思います。(2012年1月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/column_70.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-05-07 21:13 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2012年 05月 07日

5回 中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである【後編】

前回ぼくは中国人の日本ツアーをさんざん酷評しました。

対中国ビジネスにおいて、表向き語られていることと実態面が大きく違っていることはよくありますが、海の向こうの出来事ですから、多くの人の目に触れることはありません。しかし、中国インバウンドのビジネスの舞台は日中双方にあります。我々の目の前で起きている国内の実態を見て見ぬふりをしていては、市場の健全な発展は望めないと思います。

ぼくは中国が新興国と呼ばれる以前の1980年代の姿を知っている世代であり、彼らが改革開放以降の30年間にわたる経済成長によって、海外旅行に出かけられるまで豊かになったことを歓迎すべきだと考えています。それは誰が考えてもビジネスの好機です。

でも、どうやら我々は彼らの経済成長の中身を少し買いかぶりすぎたのかもしれません。中国の成長ぶりは見かけが派手なだけに、ジリ貧気味のわが身と比べてしまい、期待値をむやみに高めてしまったところがあったのではないでしょうか。

激安化はいつから始まったのか

そもそも中国人の日本ツアーの激安化はいつ頃から始まったのでしょうか。日経産業新聞2003年1月22日に以下の記事があります。

「訪日観光旅行(インバウンドツアー)の手配料金が下落している」「顕著なのは、2000年9月に日本向け団体観光旅行が解禁となった中国だ。(中略)ゴールデンコースの場合、国内4泊5日の手配料金は2年前の15~23万円から、現在は7万5000円前後と半額以下に下がった」「日本人の国内旅行が伸び悩むなか、旅行各社は潜在需要の大きいインバウンドへの関心を強めている。ただ『現状では採算性の低いツアーが多い』(近畿日本ツーリスト)こともあり、取扱量拡大や販促活動強化について消極的姿勢が目立っている」。

そうなのです。解禁からわずか2年で半値以下という激安化が起きていたのです。

数年前、ぼくは日本の旅行大手のインバウンド担当者にこう言われたことがあります。「中国団体客ひとりワンコイン(=500円)の利益でビジネスできると思いますか?」

返す言葉がありませんでした。これでは日本の旅行各社が中国インバウンドに消極的になるのも無理はありません。中国人の日本ツアーの価格があまりに安すぎて、日本企業のコスト構造に合わないというのです。

これは海外に進出する日本の輸出企業が抱える問題と同じです。新興国市場の消費者を対象にする以上、これは仕方がないことなのか。

日本政府が「観光立国」を掲げ、ビジット・ジャパン・キャンペーンを開始した2003年、すでに中国人の日本ツアーの採算を無視した激安化が起きていたことは、ひとまず確認しておきましょう。

アンタッチャブル化で暗躍したスルーガイドたち

その結果、何が起きたのか。本来自国の消費市場を担うべき日本の旅行関係者の中国本土客のアンタャッチャブル化であり、それに代わる在日アジア系インバウンド業者による中国人ツアー受け入れの独占でした。
b0235153_21551656.jpg

中国人ツアーが利用する免税店はたいてい繁華街のはずれにある

今日中国からの日本ツアーの手配を手がけるのは、在日アジア系外国人が経営する中小のランドオペレーターが大半というのが実情です。そこでは日本と異なるビジネス慣行がまかり通ることになります。端的にいえば、提携関係を結んだ家電量販店や免税店へのツアー客の連れ回しや、ガイドによるオプションや車内販売の利益から手配コストを補填するギャンブル的経営です。

どこの世界にも営業報酬をキックバックするという商慣行はあるものです。ランド業者が小売店から売上に応じて営業報酬を受け取るのは当然のことでしょう。小売店側も販促経費として計上するはずです。しかし、その利益を最初からコスト構造に原資として組み入れてしまっては危うすぎる。

中華圏では、こうした商慣行が日常的に行なわれています。問題なのは、そのやり方が持続可能といえるのか、ということです。

実際、震災後いくつかの中国系ランドオペレーターが廃業したようです。この半年仕事がないので中国の実家に戻っていたという中国人ガイドにも最近会いました。彼らの多くは専業ではないため(たいてい貿易業を兼業。商売になることはなんでもやる、というのが彼らです)、なんとかしのいでいるように見えますが、ここまで激安化した市場でこの先いつまで持ちこたえることができるのか。彼らの一部が淘汰されることは歓迎すべきだとの声も業界内にありますが、荒れ放題と化した市場だけが残されるというハタ迷惑この上ない現実もあるのです。

残念ながら、彼らのやり方がそのまま訪日旅行市場に持ち込まれたことが、ツアー料金の際限なき激安化に拍車をかけたことは間違いないでしょう。その流れを食い止めようにも、インバウンド市場の主なプレイヤーは中華圏の人たちしかいなかったのです。

こうした危ういビジネスを支えたのが、スルーガイドと呼ばれる人たちでした。彼らの多くは、台湾や香港で元日本客相手のガイドをしていた人たちです。

90日間のノービザ渡航を利用して自腹で来日、訪日中国人ツアーのガイドをハシゴしながら、オプションと車内販売で荒稼ぎしてきました。それが過去形なのは、震災後、団体ツアーが半減したことと、こうしたカラクリが東南アジアだけでなく日本でも常態化していることが中国全土で知れ渡ってしまったため、中国客も以前ほど"爆買い"しなくなったからです。

バスの運転手さんの話では、最盛時には1台のバスで1000万円近い売上を上げるガイドがいたそうです。彼らは車内販売の売上を源泉徴収することもなく帰国してしまいます。これでは中国客が来ても地元にお金が落ちないといわれるのは当然でしょう。

中国の旅行業界は人材育成より価格競争

もちろん、日本ツアーの激安化の張本人は送客元の中国の旅行会社であることは言うまでもありません。改革開放以降、彼らのビジネスの主力はインバウンド(訪中外国人旅行)市場でした。アウトバウンドが始まったのは1990年代末、せいぜい10年の経験しかありません。中国の海外旅行市場の多様化や成熟度はいまだに遅れており、価格競争ばかりが先行しているのが現状です。
b0235153_21561841.jpg

中国のツアー広告は料金以外で他社の商品との中身の差別化はまずできない

実際、中国の消費者向け旅行パンフレットやツアー広告は、見ていてかわいそうなものばかりです。目的地と料金とわずかな文言だけが並び、ツアーの詳細なスケジュールや宿泊ホテルなどの具体的な明記はありません。比較するのは中身ではなく価格のみ。

いまでこそ、悪評高い免税店の連れ回しに対する拒絶感から、ツアー行程表に記載された以外の店の立ち寄りを禁じるよう出発前に旅行会社と消費者が契約書を取り交わすようになっています。とはいえ、基本的に中国の大半の消費者は旅行商品の品質を比較検討するすべがありません。

なぜなら、中国の旅行会社の販売スタッフが海外の事情に通じていないため、正しい情報を伝えることなどできないからです。

日本の旅行会社で働く人たちであれば海外旅行経験は普通のことですが、中国ではそうではありません。外客受け入れのインバウンド人材から海外に通じたアウトバウンド人材への切り替えが遅れているのです。

その育成のためには本来コストがかかるものですが、中国の旅行業界はアウトバウンド解禁とともに価格競争に突入してしまったため、それもままならないようです。

日本のアウトバウンドの解禁は1964年。渡航の大衆化は1980年代以降です。解禁から10年後の1970年代初め、ヨーロッパ旅行の代金は70~80万円が一般的でした。1ドル=360円の時代です。その後、ドルショックとプラザ合意などを経てドラスティックな円の高騰が進み、日本人の海外ツアーの激安化が起こりますが、アウトバウンドを扱う人材を育成する時間はありました。

一方、中国では人民元高基調にあるとはいえ、対日本円では近年人民元安が続いていますから、ツアー価格の値崩れは自らの首を絞めるはずです。ところが、社会の変動が激しい中国では、いつ何が起こるかわからないと誰もが考えていますから(現状がこのまま続くとは考えていない)、常に目先の利益を優先してしまいます。

客を集めてツアー料金の中からいくばくかの利益を抜けば、あとは適正コストがどうかなどおかまいなしに日本に客を送り出して終わり。あとは日本側のランドオペレーターにお任せです。これでは人材の育成は進みようがありません。

ある北京の旅行会社の販売スタッフからこんなことを言われたことがあります。「いまの中国人にとって5000元(約62000円)のツアーは高くないです」。彼は数年前まで日本客のインバウンド(訪中旅行)担当でしたが、会社の経営方針の転換で中国客のアウトバウンド担当になりました。これまで日本人はお金持ちだと思っていたけど、いまでは中国人も負けていない。お金持ちがたくさんいる。彼はそうぼくに訴えているわけです。

その切ないまでの愛国的心情は理解できますが、彼は末端の販売スタッフで、日本語教育は受けていても、日本に行った経験はありません。5000元では日本側のコスト構造に合わないことを理解していないのです。

厳しい言い方になりますが、現状の中国の旅行業者の実力からすれば、それ相応のツアーしか催行できないのは仕方がないといえます。

メイド・イン・チャイナを甘受する中国客
b0235153_21571139.jpg

震災後、中国系免税店の経営も悪化している

未成熟という意味では、同じことは、中国の消費者であるツアー客にもいえます。ぼくは日本ツアーの激安化の最大の被害者は中国人客だといいましたが、実は彼らはそれを甘受している面もあるようです。

ある親しい中国人ガイドはこう明かしてくれました。
「中国のお客さんだって、ツアー料金がこれだけ安いのだから免税店の連れ込みも承知の上。仕方がないと思っているのよ。言葉もわからないし、自分ひとりでは何もできない海外旅行先で1週間も寝起きを共にしていると、ガイドさんに対しても情が出てくるから、車内販売でも協力してあげようかという気持ちになるんです」

オプションと車内販売に明け暮れる中国人ツアーバスが、狼に囲われた子羊たちのような殺伐とした世界であるかというと、必ずしもそうではない。彼らだって物事には道理があることを知っている。車内販売でガイドが高く売りつけていることに薄々気づいていても、自分が納得できる範囲と思えば受け入れる。それが中国の消費者でもあるのです。

ただし、あこぎなことが後で判明したら大変な騒ぎです。よくあるのが、中国製をメイド・イン・ジャパンとして騙して売ること。中国ではよくこの手の話題でネットが盛り上がります。もっとも、最近北海道の業者が中国客にニセ松坂牛を食べさせたとの報道がありました。これじゃ日本人も偉そうに言えませんし、情けない限りですが、中国側では「騙されたほうが悪い」という声も半数近かったとか。「騙し、騙される」という関係が日常的に繰り広げられているのが中国の消費社会であることは確か。彼らの物事の判断基準は我々とはずいぶん違うようです。

こうした事情を知悉(ちしつ)した中国系ガイドであれば、アメとムチを使い分けることで、中国客を納得させながらツアーを切り盛りできるのでしょう。結局のところ、中国人の日本ツアーがメイド・イン・チャイナだというのは、舞台は日本でありながら、すべてを取り仕切っているのが中華圏の人たちだったから、そうなってしまったといえます。

「奪われた10年」を取り戻すために

これまでの中国インバウンドを振り返ると、日本企業がコストに合わないと手をこまぬいているうちに、主導権を中華圏の人たちに「奪われた10年」だったといえます。

やむを得ないところはあったと思いますけれど、繰り返しますが、問題はツアーの激安化がもたらす日本のバリューの破損であり、「日本はお金をかけて行くような国ではない」というイメージが中国の消費者に定着してしまうことです。

そして、残念なことに、半ばそうなっています。ツアー料金を見れば明らか。東京・大阪5泊6日の料金はバリ島5泊6日の料金より安いのです。移動経費や適正なガイド代などを考えれば、日本のコストがはるかに高いにもかかわらず。日本はすでに激安ツアー圏として位置付けられているのです。

このままでいいのでしょうか。アンタッチャブル化した訪日中国旅行市場を日本の手に取り戻す必要があります。

そのためには、彼ら新興国市場の消費者の実像とビジネス慣行を理解することなくして、対策の立てようがない。

いかにすれば正当な収益を確保できるビジネスモデルを再構築できるか。これは今となっては難事業といえますが、頭を切り替えてビジネスを組み立て直していかなければならないと思います。

そのためには、もうひとつ考えなければならないことがあります。

これらの問題は彼らのせいだけだったのか。日本側に非がなかったといえるのか――。次回は我々の内なる問題について検討したいと思います。(2011年12月)
http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_68.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-05-07 20:45 | 最新インバウンド・レポート | Comments(1)
2012年 05月 07日

4回 中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである【前編】

2011年7月1日からスタートした中国人向けの個人観光マルチビザの発給は、従来に比べてかなり大胆な緩和策です。初回の訪問時に沖縄県を1泊以上滞在することを条件に、有効期間の3年間何度でも訪日でき、1回の滞在期間は最長90日間。しかも対象者の「2親等までの家族」の発給を認めているからです。日本側は中国の高所得者層の訪日を親族まで含めて促進する効果を期待していますが、中国側からすれば、長年の懸案だった日中両国のビザ協定をめぐる不平等の解消を不十分ながら一歩前進させたものと言えるでしょう。

その後、外務省から正式な発給数は公開されていませんが、関係者らは一様に順調に伸びているといいます。ただ今回の緩和措置に関して、なぜ最初の訪問地が沖縄なのか(なぜ北海道ではなかったか)という声があることや、外務省のプレスリリースのいうように「これにより沖縄県を訪問する中国人観光客が増加し、沖縄県のさらなる観光振興につながる」(2011年5月28日)のかどうかは、今後の推移を見ていく必要がありそうです。

もっとも、訪日旅行者数の増減や観光ビザの発給数が行政機関の事業成果や評価基準のようにみなされるのだとしたら大いに疑問です。大局的にみれば、すでに韓国、台湾、香港などでノービザ化が実現している以上、中国本土客への限定付き適用(国情の違いゆえまったく同じことは不可能だとしても)は時間の問題かと思われます。むしろこうした日本政府の措置が今日の中国のビジネス界や旅行者の動向に実態面でどう現れてくるかについてもっと注目すべきでしょう。

「日本はお金をかけて旅行に行くような国ではない」

というのも、10月下旬に北京を訪ねたぼくの耳に入ってきたのは、マルチビザ解禁後の中国人の沖縄ツアーの現状に対する懸念の声ばかりだったからです。日本の関係者だけでなく、中国側の旅行関係者らも同じ意見でした。それはこういうことです。

「沖縄ツアーの安いイメージがこれ以上先行されては困る」

ビザ緩和をビジネスチャンスとみた海南航空の北京・那覇線が7月28日、初就航しました。同社はいま中国の航空業界で最も勢いがあるとされるエアラインです。ところが、ツアー販売を独占したのは、海南航空傘下のcaissa社でした。ここは欧州方面のツアーを中心に、ツアー価格の12回分割払い料金を載せて目を引くというメディア広告で伸びてきた激安系。沖縄4泊5日ツアーの料金はわずか4000元(約5万円)。本来なら市場を一社が独占すれば価格は高止まりすると思いきや、中国ではそんな常識は通じないようです。わずか週数便のフライトですし、今後は中国国際航空などの新規就航で市場の開放が進むのでしょうが、問題は最初の時点で沖縄に激安ツアーの烙印が捺されてしまったことです。

受け入れ側の沖縄県の実情を確かめていないぼくからは、これ以上ふみ込んだことはいえませんが、「これではまた"同じ轍"をふんでいるのではないか」という失望が、少なくとも中国側の旅行関係者からひしひしと伝わってきます。
b0235153_2212948.jpg

中国の旅行会社向けに沖縄県が作った個人観光マルチビザ発給の広報資料。沖縄を世界有数のビーチリゾートとうたっているが、中国人にはピンとこないのが実情のようです。競合相手は海南島やプーケットですが、沖縄の優位性は「マルチビザ取得だけ」との声も。沖縄に魅力がないわけではないと思う。彼らに届かないだけ。ノービザ化で中国客誘致を図ったものの問題続出の韓国済州島の二の舞にならないためには、どんな手を打つべきか

コストを無視したギャンブル的な激安ツアーの横行

"同じ轍"とは何か?

それは、中国の旅行会社が催行するコストを無視したギャンブル的な激安ツアーの横行と、その常態化によって市場が荒れてしまうことです。

そもそも震災後、中国からの日本ツアーの価格が末期的状態に陥っているのは、インバウンド関係者の多くはご存知でしょう。5月から6月にかけて集中的に打ち出された市場回復のためのキャンペーン料金で、いったん東京・大阪5泊6日3000元(約4万円。もちろん、航空運賃、ホテル、バス、食事、ガイド代すべて込み)にまで転落してしまったことで、夏以降従来の価格にしても客は戻ってこない。国慶節で中国からのツアーが回復しなかった理由はいくつも考えられますが、相場観の下落が大きいことは確かでしょう。

何より恐ろしいのは、中国の高所得者層の間で「日本はもうお金をかけて旅行に行くような国ではない」とささやかれ始めていることです。日本のインバウンド関係者らが主力を向けて取り込みたいはずの中高所得者を中心とした中国個人ビザ客の認識が、もしこのように日本を低く見積もる傾向を強めているのだとすれば、今後大きな障害になることが予測されます。中国人の日本ツアーの激安化は、日本というバリューの地盤沈下を結果的に広めてしまい、そこにいちばん大きな問題があるのです。単に訪日旅行者数が増えたと喜んでいればよかった時代はもう終わったと認識すべきでしょう。

それにしても、なぜこんなことになってしまったのか。何ごとも背景と経緯があります。それを語る前に、あらためて実態を総括しておきたいと思います。

悪質な車内販売と契約免税店への連れ込み
b0235153_2225465.jpg

中国ツアーご用達のバイキング料理店は在日中国系オーナーが経営することも多い

ここ数年ぼくは、日中両国のインバウンド関係者へのヒアリングやツアーの同行取材、主要な観光地、ホテル、お土産屋、飲食店などへの取材を続けてきました。なかでも中国人ツアーの内実をいちばんよく知っていたのは、日本滞在中の大半を占める移動を客と一緒に過ごすバスの運転手さんでした。彼らは一部始終を目撃しているからです。

これまでのヒアリングや同行取材を通じて見えてきた中国人の日本ツアーの特徴を挙げると、以下のとおりです。

①食事はいつもバイキング
②バスの中ではもっぱら車内販売
③オプション買わなきゃ置き去り
④キックバックを原資としたコスト構造

それぞれ簡単に説明しましょう。まず①はツアー中の食事の話ですが、運転手さんに聞くと「ほぼ連日バイキング」だそうです。「たまに回転寿司やしゃぶしゃぶの店にも行くけど、予算がないから食べ放題メニュー。子供連れの家族ならいいけど、ツアー客は50代が多いんだから、もっとマシなものを食べさせてあげればいいのに」と感じるようです。

一般に中国の人たちは日本の会席スタイルより、中華料理と同じように自分が好きなものを好きなだけ食べられるバイキングを好んでいるとも聞きます。問題は「オプションといって、事前に注文をとってズワイガニや和牛などに法外な追加料金をとること。これがクセモノで、ひどいときは2000円くらいの刺身盛りを1万円とか平気で取っている」。なんだかひどい話ですね。しかも、中国人ツアーが食事に連れていかれるのは、中国系の店が多い。実はぼくも一度銀座で見かけたツアー客が某北海道料理店に入っていくので、後を追ったら(酔狂ですいません。これも取材です)、フロアと厨房にいたのは全員中国人スタッフでした。ツアー客の皆さんは食事の前に大きなズワイガニを両手に持って記念撮影。とても和やかでしたけど、これが中国人の日本ツアーの実情なんだなと思ったものです。

ここまでは苦笑いですむ話かもしれませんが、②の「バスの中ではもっぱら車内販売」以降はちょっとシリアスです。運転手さんは声を荒らげてこう言います。「バスが走り出すと、すぐに車内販売が始まる。観光案内はそこそこにしてガイドが客にあれこれ売りまくる。その売り物がとんでもない。日本じゃ見たことのないようなバッタモンを1万円とか2万円で売っている」。
b0235153_2235057.jpg

中国人の日本ツアーは大半の時間をツアーバスの移動で過ごす。運転手さんは目撃証人といえる

もう3年前の話ですが、こうした悪質な車内販売に加え、特定の契約免税店への連れ込みの実態が、都内で発行されている在日中国人向け週刊新聞『東方時報』2009年6月25日で報じられ、中国の大手メディア『北京法制晩報』にも転載されたため、日本ツアーの内情と悪評が中国全土に広まり、大きな反響を呼んだことがあります。もともとこれはだいぶ前から中国人の香港や東南アジアツアーで問題となっていたことですが、日本でも同様のことが起きてしまっていたのです。

ツアー中に客を置き去りというありえない世界
b0235153_2243457.jpg

中国ツアー客の置き去りが増えて一時問題になった富士ビジターズセンター(山梨県富士河口湖町)

③の「オプション買わなきゃ置き去り」になると、もう義憤を覚えてしまうような話です。

先ほど食事の話で出てきた「オプション」ですが、これが観光にも適用されるのです。たとえば、富士山5合目は人気スポットですが、ツアー客をバスでそこまで運ぶのにガイドは1名3000円相当の追加料金を要求するといいます。もし払わなければ、その客だけバスからわざわざ降ろして麓に置き去りにする。日本人の感覚ではありえない世界ですが、その置き去り場所として有名なのが、富士ビジターセンターだそうです。

「ここで3時間待ってろ、とガイドは客に言う。そこは無料施設だからカネはかからないけど、とても見ちゃあいられない。『乗せてやんなよ』って俺は言うんだけど、ガイドは『いいから』と」。さすがに運転手さんもこればかりは許せないと感じたそうです。

なぜガイドたちはここまで非情にならなければならないのか――。その理由が④の「キックバックを原資としたコスト構造」にあるのです。

日中の関係者の証言をまとめると、真相はこうです。中国で一般に販売される「ゴールデンルート」と呼ばれる東京・大阪5泊6日のツアー代金は震災前でも5000元(約6万円)相当。ところが、中国側の旅行会社から日本国内の手配をするランドオペレーターに渡るのは往復航空券代と営業利益を差し引いたせいぜい2000元(約2万5000円)といいます。これだけで滞在中のホテル代やバス、食事、ガイド費用を支払えるはずがなく、その埋め合わせのためにガイドによる「オプション」販売と車内販売、さらには契約免税店への連れ込みが必要となるわけです。つまり、中国人の日本ツアーはガイドによるキックバックを原資に成立しており、その背景には中国側でツアー客を集客する旅行会社のコストを無視したギャンブル的なビジネス体質があるといえます。

他にも言い出したらキリがありません。日本に観光に来ていながら、食事も買い物(契約免税店)も中国系経営店で。パンフレットではホテルは東京とうたっていても実際は幕張や成田、箱根とあっても石和温泉や河口湖周辺というのは当たり前。別の回で詳しく触れますが、このシステムを支えるガイドもきわめてグレーな存在です。

これらの実態から、ぼくはこう結論せざるを得なくなりました。
「中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである」。

※さらに詳しい実情や背景に関して、今年2月に刊行した以下のムックに書いています。
「ツアーバス運転手は見た!
悲しき中国人団体ツアー
押し売り、キックバック、置き去り……訪日中国人旅行の驚くべき実態!」
『データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン』(洋泉社MOOK)

最大の犠牲者は中国のツアー客

これまで他人事のように中国人の日本ツアーの内情を明かしてきましたが、実際にこれが起きているのは日本なのです。同じ問題はアジア各地で2000年初め頃から始まり、日本に飛び火したわけですが、中国で販売されているヨーロッパ行きツアーの価格帯を見るかぎり、当然彼の地でも同じことが起きていると考えられます。

ここで我々が考えなければならないのは、中国の旅行会社のコストを無視したギャンブル的なビジネス体質の最大の被害者は誰かということです。それは中国のツアー客自身でしょう。

こうした事情を知るだけに、ある在日中国系インバウンド業者の知り合いは「自分の友人や親族には絶対中国の旅行会社のツアーはすすめない」と話してくれたほどです。
これでは「日本はお金をかけて旅行に行くような国ではない」と言われても仕方がないではありませんか。

こんな「安かろう悪かろう」ツアーが常態化したままでは、いくら訪日旅行者数が増えても誰も報われない。その現実からどう脱却すればいいのか。いったい日本を「安かろう悪かろう」の国にしてしまったのは誰なのか? それは中国の旅行会社だけのせいなのか。

次回はなぜこんなことになってしまったかについて、検討していきます。(2011年11月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_66.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-05-07 20:33 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2012年 05月 07日

3回 中国ツアー客の買い物考現学

残念ながら、今年の国慶節(10月の第一週)は期待したほど中国人客は戻ってきませんでした。

実は、ぼくの仕事場に近い新宿5丁目の伊勢丹パークシティを挟んだ明治通り沿いは、知る人ぞ知るインバウンドバスの路駐スポット。夕方になると、よく中国ツアー客を乗せたバスが夕食と歌舞伎町散策のために現れます。ぼくは仕事帰りにその様子を定点観測しているのですが、震災前の春節の頃は連日5~6台のバスが停車していたのに、国慶節は数日おきに1~2台という感じでした。客を降ろしてひと休みしている運転手さんに声をかけると、「まだ戻って来ないねえ」とのこと。

もっとも、それは国内外の事情を考え合わせると、想定内と考えるべきでしょう。原発事故の収拾の遅れと中国経済の変調の兆しが中国客の訪日マインドに大きく影響していることは確かなようです。だとすれば、いまは焦っても仕方がありません。この時期、慌ててやみくもにプロモーションを打つなんて見当違い。いまこそ、インバウンドのこれからのために、じっくりと中身を点検することにしましょう。

"想"と"要"の違いを知る
b0235153_18485467.jpg







中国語のわかる店員がいなくても、ドラッグストアでの買い物は積極的。その理由は……

前回ぼくは、中国客の"爆買い"伝説を生んだ背景にメディアを含めた日本側の強い思い込みがあったこと。この先"爆買い"は減少していくが、中国客の買い物には3つの世界があり、彼らの大半は買い物に満足しないまま帰国していると書いています。一見相反しているかに思えるこの話をどう考えたらいいのでしょうか?

あくまで前者は大局の話、後者は現場の話と分けて考えてください。ぼくは現場の話にこだわります。そこで第3回は「中国ツアー客の買い物考現学」と題して、彼らが買い物をしているときの消費心理を理解するためのポイントを紹介しようと思います。

第一のポイントは、"想(xiang)"と"要(yao)"の違いを知ることです。

一般によく知られたマーケティング用語にニーズとウォンツがあります。ニーズは「必要性」でウォンツは「欲望」。漠然とした必要性を指すニーズより、ウォンツはもっとふみ込んだ願望、特定の商品やサービスで自分の願望を満たしたいことを意味します。顧客のニーズを発見し、そのニーズをウォンツに高めていくことがマーケティングの目標です。

しかし、一時的な滞在者にすぎない中国ツアー客の消費心理に、これをそのまま適用するのは無理がありそうです。代わって適用したいのが、中国語の"想"と"要"です。

中国語の"想"は「…したいと思う。希望する」、"要"は「ほしい。必要とする」という意味です。「I want~」「I need~」と同様に「我想~」「我要~」と使います。"想"がやんわりとした希望や願望だとすれば、"要"は強い意志や義務を含むことばです。そういう意味では、"要"はニーズに近いといえますが、"想"はウォンツとはちょっと違います。

実は、中国客の買い物の3つの世界は、"想"と"要"で大まかに分類できます。
「①女性客を中心に美容健康にまつわるメイド・イン・ジャパンの実用品」「③ブランド品」は"想"の世界。要するに自分のための買い物です。
一方、「②帰国後に渡す土産」は"要"の世界。友人・親族への義理と面子のための買い物です。
b0235153_18495276.jpg






事前に調べた購入商品リストの紙には、化粧水や乳液のメーカー・商品名、サイズまでぎっしり書かれている

その違いが彼らの消費行動にどう表れてくるのでしょうか。"想"に比べて"要"の比率が著しく大きいのが今日の中国ツアー客の特徴です。"想"は満たされなくても時間がなかったと理由をつけて合理化できますが、"要"は面子に関わるだけに諦めるわけにはいかない。そのプレッシャーが引き起こすのが"爆買い"です。あんなに山のように買い物したというのに、彼らの大半が買い物に満足しないで帰国するというのは、"想"が満たされなかった心残りがあると考えられます。

中国ツアー客の皆さんは、自分のために"爆買い"しているわけじゃないのです。それが面子にこだわる中国人の人生というものですから、とやかく言う筋合いではないのでしょうけど、なんだか気の毒にすら思えてきますね。

一日中バスに揺られて過ごす団体ツアー客にとって、唯一主体的に行動できるのが買い物の時間です。普通に考えれば、旅の喜びや真の満足感につながるのは"想"でしょう。受け入れ側としても、"要"(=ニーズ)だけでなく、"想"(≒ウォンツ。しかし、もっとふみ込んだ願望につながる可能性はある)を満足させてあげたいものです。

"想"が満たされると、人は夢中になります。リピーターはこのとき生まれます。いかにリピーターを生み出すかは、今後のインバウンドの発展にとって大事な課題です。"要"だけでは取り替えがきくから、「日本でなくてもいいや」となる。震災後、多くのツアーが韓国や香港に流れたのはそのためです。

目の前にいる中国客の買い物が"要"なのか"想"なのかを見定めることは、どんな売り方や販促を打ち出せばいいかを考える手がかりになるはずです。

「賢く買えた」というストーリーがほしい
b0235153_18504524.jpg







買い物がすんだら、用意していた空のスーツケースに商品を詰め込む

第二のポイントは、「賢く買えた」というストーリーをどう演出するか、です。中国の人たちがうまく値切ったときに見せる得意満面の表情は、人生至上の喜びに出くわしたとでもいいたげです。相手に「してやったり」と思えるのが、とびきりの快感なのです。たいてい値切りが成功したとか、同じものが中国より安く買えたという話になりがちですが、売り手と買い手の腹の据わった個人的な駆け引きこそ、彼らの人生を快活にするスパイスみたいなものかもしれません。

彼らは世界で最も猜疑心の強い人たちでもあります。前回紹介した瀋陽のツアー客と一緒に契約免税店を訪ねたとき、「ここの商品は本物ですか?」「この店は他の店より高いでしょう?」と質問攻めにあいました。その場にいた日本人はぼくだけでしたし、彼らはいつもそれを確かめずにはいられないのです。「いや、ここに来るのは初めてなので……」。ツアー造成上、営業妨害するわけにもいかないと日本人らしく気を遣ったぼくは、そうとぼけるほかなかったのですが、その免税店はツアー客しか利用しない、商品だけがズラッと並べられた殺風景な空間、全員中国系の販売員が待機しているという一種異様な世界です。これでは彼らの買い物意欲が高まらないのも当然でしょう。

中国とは商慣行の異なる日本や欧米で、そもそも彼らの求める「賢く買えた」というストーリーを満足させることは難しいといえます。香港が人気なのはそれが可能だからでしょう。その代わり、日本の小売店では、ポイント還元による割引などを使ってお得感を演出することに力を入れています。

その努力は素晴らしいと思いますが、国美電器や蘇寧電器などの中国大手家電量販店の過激なサービス合戦を知る彼らにしてみれば、物足りないと感じているかもしれません。でも、日本で同じことをやれといわれても困ります。だとしたら、せめて買い物に何らかの駆け引きの要素を加えれば、彼らは俄然本領を発揮し、買い物意欲も高まることでしょう。ポイントは、彼らに「してやったり」気分を味わせること。そんなゲーム性、もっといえばギャンブル性を取り入れた販売手法は考えられないものでしょうか。

実際には、ツアー客の訪れる家電量販店で駆け引きは日常的に行われています。レジの前に商品を山ほど置いたおばさんがガイドをそばに呼びつけ「これだけ買うといくらにしてくれる?」。場数をふんだベテラン販売員さんがそのお相手をする、という光景はもうおなじみでしょう。ただ、いつまでも彼らのペースに合わせるだけではつまらないので、こちらからもっと何かを仕掛けられたらおもしろいと思います。

日本人が普通に買い物している店で買いたい

幸い、中国の人たちは「日本では(中国のように)騙されることはない」と信用してくれているので、「安心して買い物できる」ことが訪日旅行の優位性となっているのは確かです。だからこそ、彼らはマツモトキヨシやドン・キホーテのような日本人が普通に買い物している店で自分たちも買いたいと思っています。

実際、彼らがマツモトキヨシに行くと、契約免税店で見せた疑心暗鬼の様子はありません。周囲に日本人客がいるからでしょう。同じものを買っているという安心感があるのです。たとえ中国語を話す店員がいなくても、事前に調べた購入商品リストの紙を広げ、精力的に棚を探し回っています。レジではドーンとまとめ買いしてくれる優良顧客です。
b0235153_19124944.jpg
ドラッグストア側も日中翻訳表を用意している。日焼け止め、ビューラーといった種別名だけでなく、「たるみ」「くすみ」「しっとり」「ハリ」「ベタツキ」など、お肌に関することばも一覧表になっている


中国の都市部では外資系のドラッグストアも進出していますが、見た目のディスプレイは似ていても、棚に並ぶ商品の多彩さや新コンセプト商品の豊富さでは日本にはかないません。「これは何ですか?」とずいぶんツアー客の女性に質問されました。店員さんに聞いて、その用途を説明してあげると、みんなおもしろがっていました。そこには、"要"でも"想"でもない、中国では見たことのない日本オリジナルの商品が持つ新奇な魅力や価値観を発見する楽しさがあったと思います。日本のドラッグストアはその宝庫なのです。

これが第三のポイントです。「日本には、自分たちが普段の生活でそこまで必要とは考えたこともなかった便利でおもしろい商品があふれている」というのが彼女らの感じたことでした。これこそ、本当の意味での日本の消費市場の優位性であるはずです。

来日経験のある中国の女性から「日本には安くてかわいくて便利なものがたくさんある」とよく言われます。でも、そう話してくれるのは、日本人社会となんらかの接点のある人たちに限られます。実際にそこまで気づいている中国ツアー客が全体のうちどれだけいるのだろうか、というのがいちばんの問題でしょう。せめて彼らが中国から日本に向かう飛行機の中で目を通せるような中国語のチラシ(立派な冊子は不要。新聞の折込広告レベルで十分。ただし割引券付!)を機内誌と一緒にシートボックスに忍ばせることができたら、多くの中国客が本物の日本の楽しさを発見するチャンスが増えるに違いありません。

なぜガイドの話にツアー客は食いつくのか

現状では、その楽しさを中国ツアー客に気づかせることができるかは、日本側のガイドの力量にかかっています。ツアーバスに同乗しているとき、こんなことがありました。
若い中国人ガイドが焦げつかないマーブルコートフライパンを買った話を始めたのです。「同じものを中国で買うと5倍はする。中国のお母さんに送ってあげたら喜ばれた」と言うと、バスの中は急に色めきだしました。「それどこに売っているの。連れて行ってくれる?」。バスは銀座のドン・キホーテに向かいました。そして、彼に案内された売り場のマーブルコートフライパンの在庫分はすべてお買い上げとなりました。

その一連の光景を見ながら思ったのは、なぜガイドの話にツアー客たちはこんなに簡単に食いつくのだろうか、という驚きでした。ひとりのツアー客は「彼がお母さんに買ってあげたという話が私たちの心をつかんだ」と話してくれました。う~ん、どういうこと?
b0235153_18524744.jpg








マーブルコートフライパンの在庫分すべてお買い上げの瞬間

1週間近くバスの中で一緒に過ごしていると、親しみが生まれるのは人情です。言葉もわからない日本で頼れる人間は彼ひとり。彼のことばが影響力を持つのは当然でしょう。

でも、理由はもっと別にありそうです。彼らがもともと日本でフライパンを買おうと考えていたわけではないでしょう。きっかけは何でもよかったのです。「親孝行」と「5分の1の値段」というわかりやすい動機づけができたことで、「自分がほしいものを買う」という"想"のストーリーがにわかに成立したのです。それまで買ったのは友人・親族に頼まれたお土産ばかり。本当は自分のために買いたいのに何も買えなかった。そもそも自分の買いたいものがわからなかった。"要"の務めは果たせても、"想"を満たせていなかった彼らは、ガイドのことばにいともあっさり飛びついてしまったのです。

実をいえば、これは消費者としての成熟度に関わる問題です。一般にツアーに参加する中国客は40代以上が圧倒的に多い。80后と呼ばれる消費社会に親しんだ若い世代は少ないのです。海外旅行ビギナーである彼らは"想"を満たす方法を知らないといえます。

にもかかわらず、その指南役であるべき日本側のガイドは圧倒的に役不足です。日本の楽しさを伝えるどころか、そもそも彼らは別の使命を帯びていたりもする。この問題は、多くのインバウンド関係者が実情を知りながら、見て見ぬふりをしています。次回はその問題を取り上げます。(2011年10月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_64.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-05-07 20:08 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2012年 05月 07日

2回 中国客“爆買い”伝説はまぼろしか?

ここ数年、メディアを中心に訪日中国客の旺盛な購買力が喧伝されてきました。彼らが家電量販店やドラッグストアで買い物する光景は"爆買い"と称されています。日本人が1970年代に「エコノミック・アニマル」と蔑称されたことにならえば、「ショッピング・アニマル」とでも言わんばかりの好奇のまなざしが、彼らに集中的に注がれました。

いったいどうして"爆買い"伝説は生まれたのか?実際はどうだったのか?

本連載第2回では、その真相を点検したいと思います。

中国客"爆買い"伝説の起源
b0235153_1858161.jpg
中国団体ツアーの"爆買い"が盛んに見られた頃の某家電量販店にて(2009年11月)

中国人観光客をめぐる報道は、北京オリンピックが閉幕した2008年秋頃から急増します。まず一部の雑誌が火をつけ、テレビが後追いしました。何より世間の耳目を集めたのは、彼らの豪勢な買いっぷりでした。たとえば、こんな感じです。

「お客様は中国人。銀聯リッチを狙え。内なる外需、中国人観光客の争奪が始まった」
「一度に800人が九州上陸。クルーズ船の観光&お買い物ツアーに密着。100万円の真珠、お買い上げ」(日経ビジネス2008年9月29日)

「旅費よりお土産代のほうが高い!ビックリ!中国人観光客お金持ち東京お買い物ツアー」「化粧品大人買い!、バーバリーどか買い!」「ひげそり10コにつめ切り100コ買い!」(週刊女性2008年12月23日)

「爆買!世界一の貪欲民族が続々と上陸!中国人富裕層で儲ける」(月刊宝島2009年11月号)

「中国発弾丸買い物ツアー」(読売新聞2010年8月9日)……。

団体バスで店に押し寄せ、フロアを一時的に占拠。商品によっては棚の在庫がなくなるまで集団で買い尽くすという奇矯な消費行動は、まさに"爆買い"イメージを喚起するものでした。これまでもロシアや中東系の富裕層が都心で高額消費をしていることは知られていましたが、少人数のグループにすぎません。やっぱり、団体は目につくものです。街に溶け込むことのない異形の集団に見えてしまう。こうした姿を見せるのは香港、台湾を除く中国本土客だけでしたから、"爆買い"は中国人観光客の代名詞となったのです。

なぜ急に中国人は金持ちになったのか? 多くの日本人はそんな疑念や当惑をおぼえながら、オリンピックを開催できるまでになった中国の経済成長と重ね合わせて彼らの存在を直視せざるを得なかったといえます。それは「欧米市場に代わる輸出先をどこに求めるか」「内需縮小をいかに補うか」という長年の日本経済の課題にわかりやすい回答を与えてくれました。2005年の反日デモを契機に年々嫌中気分の高まる日本人も「これを商機につなげない手はない」「お金を落としてくれるなら、来てもらおうじゃないか。彼らだって実際の日本の姿を見れば、考えも変わるだろう」。そんな甘い期待も芽生えたようです。

当時のぼくも、前述した雑誌メディアで一連の中国客"爆買い"伝説の流布に関与していたことを白状しなければなりません。2004,5年と政治的な理由で停滞していた訪日中国人の伸びが06年に前年度比25%と急増、08年には100万人に到達します。こうしたなか、「お一人様炊飯釜10個お買い上げ」だなんてお笑い"爆買い"シーンは、中国人観光客という新しい外来消費者の存在を世間に知らしめる好機になると考えました。彼らのメイド・イン・ジャパンに対するまなざしを見て、悪い気がしなかったのも確かです。

こうしてさまざまな立場の人々の思惑が一致、きちんとした実態の検証もなく、期待値だけが一気に高まりました。久しく景気のいい話とは無縁だった日本人は、「中国人観光客はカモネギ」と考えることに合意したのです。無理もなかったといえるかもしれません。

買い物しか映さないテレビ報道
b0235153_18592428.jpg
テレビ局の執拗な取材攻勢を受ける中国ツアー客

そんなふくらみきった期待も、尖閣事件と震災で急速にしぼんでしまいました。

問題は、メディアはもちろん、インバウンド関係者も含めて、当の中国客のツアーの内実や彼らの胸のうちをどこまで理解していたか、ということではないでしょうか。

今年5月、ぼくはある中国団体ツアーを同行取材しました。震災後、初めて成田入りした中国客ということで、溝畑宏観光庁長官が出迎えにきてテレビ報道もされたため、ご記憶のある方もいるかもしれません。そのツアーを催行したのは瀋陽の旅行会社で、社長が旧知の友人という縁から、3泊4日の東京滞在をツアーの皆さんと一緒に過ごしたのです。

翌朝、ホテルの前には各局のテレビ報道陣が待ち構えていました。彼らはツアーの全行程を追っかけ取材するというのです。もっとも、彼らが撮りたいのは皇居やお台場の観光ではなく、百貨店からマツモトキヨシ、ドン・キホーテ、LAOX、さらには御徒町にある中国客に絶大の人気を誇る老舗ディスカウントストア多慶家まで、とにかく買い物シーンでした。

わずか10数名のツアー客に対し、それを上回る数の報道陣が追いかけるという構図です。ひとりの客に数社のカメラが順番に、何をいくら買ったかしつこく尋ねます。そんなうんざりする光景を見て、ぼくは彼らに問いかけました。

「中国客の買い物シーンは何年も前からさんざん撮ってきたでしょう。いまさら同じ絵を撮ることに何の意味があるんですか?」

しかし、現場のスタッフにその手の質問をするのは詮無いことのようです。デスクから中国客が何を買ったかとにかく撮ってこいとだけ言われたそうです。なかには中国のどこから来たツアーかすら把握していないカメラマンもいました。事前の下調べもせず、決めつけで報道を取り仕切るデスクと称される人たちは罪つくりというべきでしょう。

でも、よく考えてみてください。なぜツアーの皆さんはカメラに追いかけまくられることを承諾したのか。自分が海外旅行先で同じ目に遭ったらどうでしょう。理由ははっきりしています。そのツアーは、温家宝首相来日とワンセットの政治ショーだったのです。それは、海外のインバウンド・ツーリズムの世界ではよくあるメディアを使った宣伝・誘客手法のひとつともいえます。政治家か芸能人なのかはともかく、誰かに光を当てて、いかにこちらを振り向かせるか。日本のテレビ局はまんまと乗せられちゃったわけです。では、誰がそれを仕掛けたのか。話は単純ではありません。同じ時期、中国でも今回のツアーを取材した中央電視台をはじめ大量のテレビ報道あったことは知っておいていいでしょう。
b0235153_190228.jpg
震災後、初めて成田入りした中国ツアー団と溝畑宏観光庁長官(2011年5月20日)

しかし、日中関係というのは一筋縄ではいかないものです。その瀋陽の旅行会社は来日から数ヵ月たった現在も、東京行きツアーをほとんど催行できずにいます。ワンセットだったのが中国側ではかえって裏目に出たのか。東京が放射能汚染地域ではないかとの根深い不信も相まって、彼らとその関係者らの努力も誘客効果にはつながりませんでした。

買い物する気も失せるツアーの内実

それでも、ぼくは彼らの滞在中、ツアーの皆さんの買い物にとことんつきあいました。販売員の通訳をしたり、誰かがほしいという商品を一緒に探してあげたり……。中国インバウンド客に対する最大の貢献は、買い物にまつわる課題のソリューションにあるのです。

3日間あちこち訪ねてよくわかったのが、ツアーは忙しすぎて、すべてにおいて時間がないこと。さらに、後の回で説明しますが、ツアー造成上必ず立ち寄らなければならない契約免税店の問題があります。バスの中で友人の社長はこんな話をしました。

「中国人の最大の関心事は買い物。観光は二の次。でも、彼らはどこで何が買えるか情報(店舗、商品)がない。しかも、立ち寄り時間は短いので、買いたいものが見つからない。もっと買いたくても時間がない。結局、9割のお客さんが買い物に満足しないまま帰国することになる」。

中国客の買い物には、以下の3つの世界があると社長は言います。

①女性客を中心に美容健康にまつわるメイド・イン・ジャパンの実用品(化粧品、薬、健康食品など。マツモトキヨシ、ドン・キホーテなどで購入)

②帰国後に渡す土産(以下の3パターンあり)
A:上司や身内に渡すもの(お金に糸目はつけない。デジカメ、炊飯器、時計など。LAOXなどで購入)
B:同僚や友人に渡すもの(化粧品、健康食品などの中級品。お金を渡され、購入を頼まれる場合も)
C:不特定多数の知人に配るもの(安くて量が多いのがいちばん。100円ショップで購入)

③ブランド品(自分のために大人買いする中国人特有の見栄の世界。オーダーメイドスーツ、バッグ、宝飾品など)
b0235153_1903334.jpg
電気かみそりをまとめ買い。彼らのお土産買いプレッシャーは尋常ではない

まるで中国社会の縮図が見えてくるような多様な買い物ニーズを、限られた時間内で満たすのは容易ではありません。訪日中国人の52.2%(2010年)を占める団体バスで毎日移動を続けるツアーの形態は、およそ中国の人たちが買い物を楽しめるような環境とはほど遠いのです。彼ら自身、買い物する気も失せるようなツアーの内実を半ば諦めて受け入れているのが実情です。背景にはツアー代金の不当な安さがあります。そうした彼らのフラストレーションが何かの弾みで点火する瞬間こそ、我々の垣間見た"爆買い"シーンだったのです。

こうしてみると、中国客"爆買い"伝説とは、日本側の自己都合にまみれた他力本願と、当事者意識を欠いた一方的な思い込みが生んだまぼろしだったのではないか、とすら思えてきます。一般に政府・自治体やインバウンド関係者は、自分の管轄や商域しか見ていません。もっとトータルにツアー全体のあり方を見直すことが必要なのです。

今後も"爆買い"が続くか疑わしい

というのも、近年のさまざまな情勢の変化から、今後も彼らが"爆買い"してくれるかどうかは、大いに疑問といえるからです。理由は3つあります。

①中国人観光客だって成熟する
②中国側の関税強化で個人のお土産にも税金がかかる
③中国も内需拡大したい

海外旅行解禁から約10年を経て、彼らが「弾丸買い物ツアー」で帰国後の面子のために実用品を大量に買い漁るような旅ではなく、自分のためにのんびり旅がしたいと考えるのは自然の流れでしょう。1980年代に始まった台湾人の日本ツアーも当初は"爆買い"が見られましたが、30年を経たいまではスマートな旅行者として日本の街に溶け込んでいます。地域格差が大きい中国ではタイムラグがありますが、"爆買い"旅行者の比率はしだいに減少すると考えられます。観光庁がまとめた「訪日外国人消費動向調査」によると、国別一人あたりの消費額のアジアのトップは中国で、「日本でしたいこと」はショッピングですが、「次回したいこと」では温泉や日本食といった本来の日本観光の魅力を味わいたいとの回答が増えるといいます。中国人観光客も少しずつですが、成熟していくはずです。

2010年10月以降、個人が海外で購入した物品に対する関税のチェックが中国の税関当局によって強化されるようになったことも、"爆買い"が萎縮する要因です。中国政府がなぜこのような措置を下したかについては、中国の内情を知れば納得せざるを得ません。要は、中国も内需拡大したいのです。ですから、日中双方のメディアで盛んに取り上げられた中国客のメイド・イン・ジャパン礼賛や"爆買い"報道を、中国政府がどれだけ苦々しく思っていたかは想像に難くありません。国民に対して「なぜ日本で買うのか。中国で買えよ」というのが中国政府のホンネでしょう。これまで通り"爆買い"中国客の来日を呼び込もうという姿勢だけでは十分ではないことを今回は強調しておきたいと思います。(2011年9月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_62.html

[追記]
ここで書いているのは、東日本大震災直後の2011年半ばごろの中国客に対する日本のメディアの取材姿勢を批判的に触れたものですが、いま読むと、たまたま友人の中国の旅行関係者のツアーに自分が同行していたこともあり、今後の予測という観点では少し先走り気味だったかもしれません。

というのは、自分のつきあいのある中国人たちを見ていると、彼らの成熟化のスピードはなかなかのものがあり、“爆買い”なんてことをいつまでもやるはずがない、と思ってしまうところがあったからです。

しかし、これは多くの人がよく間違うことですが、日本人とつきあいのあるような中国人は、中国では特殊な部類に入るのです。圧倒的なボリュームで、日本のことなど全く知らない消費者が中国に存在し、東北地方や内陸部でも経済成長がそれなりに進んでいった結果、「初めて」日本を訪ねる中国人は増えることはあっても、減ることはなさそうです。

だとしたら、彼らは今日の「日中の物価が逆転」したご時世、また自国産の商品を全く信じられないという国情からすると、“爆買い”はすぐにはなくなりそうもありません。

スタバのカフェラテ600円!! 日中の物価が完全に逆転(訪日客急増の背景)
http://inbound.exblog.jp/24162197/

まったくなんとありがたいことでしょうか。(2015.2.22)
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-05-07 19:46 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2012年 04月 16日

中国人団体ツアーの「オプション」――新宿歌舞伎町案内

東日本大震災から1年を経て、ようやく中国人団体ツアー客は戻ってきたようです。そこで、あらためて中国人団体ツアーの「オプション」の実態、すなはち安すぎるツアー代金をガイドが埋め合わせをするため、ツアー行程内のあらゆる観光や市内散策を「オプション」と称して別料金を徴収する悪名高い実態のひとつの代表例とされる新宿歌舞伎町散策を報告します。

これは2011年7月8日午後7時頃、ぼくが偶然彼らの姿を見かけて、こっそり後をついていったときに撮ったものです。散策時間は約30分。関係者らの話では、この歌舞伎町散策に、ガイドはツアー客ひとり当たり1000~2000円の追加料金を取るといわれています。

「アジア最大の歓楽街」といわれる新宿歌舞伎町の夜は、中国客に限らず世界各国から来た好奇心にあふれる旅行者でにぎわっています。そこで旅行者たちが繰り広げる光景は、なんとも微笑ましいものですが、中国客だけがまるで通行料のように「オプション」を支払わされているのは、中国特有のビジネス慣行が日本であるにもかかわらず、まかり通っているからだということを確認しておきましょう。
b0235153_1941677.jpg
スタートは中国人経営の団体ツアー客専門料理店「林園」から
b0235153_1963353.jpg
いよいよ歌舞伎町に足をふみ入れます。最初に目に飛び込んでくるのは、派手なキャバクラやホストクラブの広告です
b0235153_1974631.jpg
交差点では突如ガールズバーの宣伝カーが通り過ぎ、ツアー客は一斉にカメラを向けました
b0235153_1984478.jpg
ホストクラブ密集ゾーンでは優男たちの顔写真を並ぶ大看板を皆さん物珍しそうに並んで眺めています
b0235153_1992351.jpg
あるクラブの店の前に並ぶツアー客。ガイドが店のシステムや料金などについて説明しています。若い女性客も参加しているツアーだけに、おじさんたちも抜け駆けはできないようです(ホテルに戻った後の自由行動のことは知りませんが……)
b0235153_19103697.jpg
皆さんがまじまじと見ていたのはこの看板
b0235153_19114078.jpg
いよいよツアーも終盤を迎え、歌舞伎町一番街の出口に近づいてきました。この近くには歌舞伎町案内人として知られる李小牧さんの経営する湖南料理店もあります
b0235153_19121481.jpg
歌舞伎町の入り口でバスの来るのを待つ皆さん
b0235153_19125363.jpg
バスが来ました。新宿の高層ビル群が見えます
b0235153_19142733.jpg
番外編ですが、ドン・キホーテの前にはタイ人のツアー客も見かけました
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-04-16 19:15 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2012年 04月 16日

花見のピークにバスも過去最多(ツアーバス路駐台数調査 2012年4月)

4月に入ると、東京もいよいよ桜シーズンの到来です。確かにバスは戻ってきました。調査以来、最大のバス数が新宿5丁目に現れています。明らかに今年の春節(1月下旬)に比べても、バスの台数は増えていると思われます。さて、この勢いはどこまで続くのか……。

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた明治通り新宿5丁目付近における中国インバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(日) 北京出張のため未確認(~4日)
2日(月) 未確認
3日(火) 未確認 ※この日帰国の予定が、爆弾低気圧のためフライト欠航。翌日帰国となりました。
4日(水) 未確認
5日(木)17:40 3台 ※新宿5丁目交差点付近には、アニエスbの買い物袋を抱えた中国人女性客をはじめ観光客がチラホラ。この頃から中国人に限らず、外国人観光客の姿が新宿界隈で目につくようになりました。
6日(金)17:40 2台 
7日(土) 未確認
8日(日) 未確認
9日(月)14:00 1台
17:30 3台
10日(火)18:10 5台 ※この週末花見のピークを迎えただけに、この週は過去最多のバスの停車状況が見られました。 
11日(水)19:20 7台 ※これは過去最大です。これ以上停車スペースもないため、周辺を回遊しているインバウンドバスも見られたほどです。
b0235153_1853426.jpg














12日(木) 未確認
13日(金)19:20 2台
14日(土) 未確認
15日(日) 未確認
16日(月) 未確認
17日(火)16:40 2台
       20:30 1台
18日(水)18:30 5台
19日(木)18:10 4台(うち1台に声をかけると広東客)
20日(金)12:30 3台
       18:30 2台
21日(土) 未確認
22日(日) 未確認
23日(月) 未確認
24日(火) 12:00 1台
        19:10 1台
25日(水) 未確認
26日(木) 12:20 1台
       18:00 1台
27日(金) 17:30 1台
        19:40 2台
28日(土) 未確認
29日(日) 未確認
30日(月) 未確認
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-04-16 18:55 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)
2012年 03月 22日

あいかわらずバスは来ず(ツアーバス路駐台数調査 2012年3月)

3月に入っても、まだ寒い日が続いています。あいかわらず、バスはほとんど現れません。今年の桜シーズンにはツアーバスは戻ってくるのでしょうか……。

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた明治通り新宿5丁目付近における中国インバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(木) 未確認
2日(金)18:00 1台(マイクロバス)
※ただし、このバスの車体には「(株)華僑商事」と書かれていました。つまり、ツアー会社のバスではなく、在日華人の商事会社が副業で観光に利用しているようです。
 
3日(土) 未確認
4日(日) 未確認
5日(月)18:30 1台(マイクロバス)
6日(火)19:00 1台 ※久しぶりに大型バス
7日(水)18:30 0台
8日(木)18:20 2台
9日(金)19:00 1台
10日(土) 未確認 
11日(日) 未確認
12日(月)18:30 0台
13日(火)18:20 1台(マイクロバス)
14日(水)12:30 1台
     17:10 1台
15日(木) 未確認 
16日(金) 未確認
17日(土) 未確認
18日(日) 未確認
19日(月)18:20 0台
20日(火) 未確認
21日(水)19:50 1台
※この日も久しぶりに大型バスです。運転手さんがローソンの前でツアー客を出迎えていたので、声をかけてみました。「どこから来たお客さんですか?」「天津だよ」「これから桜の季節はどうですか?」「今年はいっぱい来そうだよ」とのこと。どうやら今年の桜シーズンのインバウンド客は期待していいらしいです。

22日(木)19:50 2台
23日(金)20:00 2台(うち1台はマイクロバス)
24日(土)19:50 1台
25日(日) 未確認
26日(月)18:40 0台
27日(火) 以後、北京出張のため未確認(~4月4日)
28日(水)
29日(木)
30日(金)
31日(土)
[PR]

by sanyo-kansatu | 2012-03-22 21:36 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)