ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2012年 05月 07日

3回 中国ツアー客の買い物考現学

残念ながら、今年の国慶節(10月の第一週)は期待したほど中国人客は戻ってきませんでした。

実は、ぼくの仕事場に近い新宿5丁目の伊勢丹パークシティを挟んだ明治通り沿いは、知る人ぞ知るインバウンドバスの路駐スポット。夕方になると、よく中国ツアー客を乗せたバスが夕食と歌舞伎町散策のために現れます。ぼくは仕事帰りにその様子を定点観測しているのですが、震災前の春節の頃は連日5~6台のバスが停車していたのに、国慶節は数日おきに1~2台という感じでした。客を降ろしてひと休みしている運転手さんに声をかけると、「まだ戻って来ないねえ」とのこと。

もっとも、それは国内外の事情を考え合わせると、想定内と考えるべきでしょう。原発事故の収拾の遅れと中国経済の変調の兆しが中国客の訪日マインドに大きく影響していることは確かなようです。だとすれば、いまは焦っても仕方がありません。この時期、慌ててやみくもにプロモーションを打つなんて見当違い。いまこそ、インバウンドのこれからのために、じっくりと中身を点検することにしましょう。

"想"と"要"の違いを知る
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中国語のわかる店員がいなくても、ドラッグストアでの買い物は積極的。その理由は……

前回ぼくは、中国客の"爆買い"伝説を生んだ背景にメディアを含めた日本側の強い思い込みがあったこと。この先"爆買い"は減少していくが、中国客の買い物には3つの世界があり、彼らの大半は買い物に満足しないまま帰国していると書いています。一見相反しているかに思えるこの話をどう考えたらいいのでしょうか?

あくまで前者は大局の話、後者は現場の話と分けて考えてください。ぼくは現場の話にこだわります。そこで第3回は「中国ツアー客の買い物考現学」と題して、彼らが買い物をしているときの消費心理を理解するためのポイントを紹介しようと思います。

第一のポイントは、"想(xiang)"と"要(yao)"の違いを知ることです。

一般によく知られたマーケティング用語にニーズとウォンツがあります。ニーズは「必要性」でウォンツは「欲望」。漠然とした必要性を指すニーズより、ウォンツはもっとふみ込んだ願望、特定の商品やサービスで自分の願望を満たしたいことを意味します。顧客のニーズを発見し、そのニーズをウォンツに高めていくことがマーケティングの目標です。

しかし、一時的な滞在者にすぎない中国ツアー客の消費心理に、これをそのまま適用するのは無理がありそうです。代わって適用したいのが、中国語の"想"と"要"です。

中国語の"想"は「…したいと思う。希望する」、"要"は「ほしい。必要とする」という意味です。「I want~」「I need~」と同様に「我想~」「我要~」と使います。"想"がやんわりとした希望や願望だとすれば、"要"は強い意志や義務を含むことばです。そういう意味では、"要"はニーズに近いといえますが、"想"はウォンツとはちょっと違います。

実は、中国客の買い物の3つの世界は、"想"と"要"で大まかに分類できます。
「①女性客を中心に美容健康にまつわるメイド・イン・ジャパンの実用品」「③ブランド品」は"想"の世界。要するに自分のための買い物です。
一方、「②帰国後に渡す土産」は"要"の世界。友人・親族への義理と面子のための買い物です。
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事前に調べた購入商品リストの紙には、化粧水や乳液のメーカー・商品名、サイズまでぎっしり書かれている

その違いが彼らの消費行動にどう表れてくるのでしょうか。"想"に比べて"要"の比率が著しく大きいのが今日の中国ツアー客の特徴です。"想"は満たされなくても時間がなかったと理由をつけて合理化できますが、"要"は面子に関わるだけに諦めるわけにはいかない。そのプレッシャーが引き起こすのが"爆買い"です。あんなに山のように買い物したというのに、彼らの大半が買い物に満足しないで帰国するというのは、"想"が満たされなかった心残りがあると考えられます。

中国ツアー客の皆さんは、自分のために"爆買い"しているわけじゃないのです。それが面子にこだわる中国人の人生というものですから、とやかく言う筋合いではないのでしょうけど、なんだか気の毒にすら思えてきますね。

一日中バスに揺られて過ごす団体ツアー客にとって、唯一主体的に行動できるのが買い物の時間です。普通に考えれば、旅の喜びや真の満足感につながるのは"想"でしょう。受け入れ側としても、"要"(=ニーズ)だけでなく、"想"(≒ウォンツ。しかし、もっとふみ込んだ願望につながる可能性はある)を満足させてあげたいものです。

"想"が満たされると、人は夢中になります。リピーターはこのとき生まれます。いかにリピーターを生み出すかは、今後のインバウンドの発展にとって大事な課題です。"要"だけでは取り替えがきくから、「日本でなくてもいいや」となる。震災後、多くのツアーが韓国や香港に流れたのはそのためです。

目の前にいる中国客の買い物が"要"なのか"想"なのかを見定めることは、どんな売り方や販促を打ち出せばいいかを考える手がかりになるはずです。

「賢く買えた」というストーリーがほしい
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買い物がすんだら、用意していた空のスーツケースに商品を詰め込む

第二のポイントは、「賢く買えた」というストーリーをどう演出するか、です。中国の人たちがうまく値切ったときに見せる得意満面の表情は、人生至上の喜びに出くわしたとでもいいたげです。相手に「してやったり」と思えるのが、とびきりの快感なのです。たいてい値切りが成功したとか、同じものが中国より安く買えたという話になりがちですが、売り手と買い手の腹の据わった個人的な駆け引きこそ、彼らの人生を快活にするスパイスみたいなものかもしれません。

彼らは世界で最も猜疑心の強い人たちでもあります。前回紹介した瀋陽のツアー客と一緒に契約免税店を訪ねたとき、「ここの商品は本物ですか?」「この店は他の店より高いでしょう?」と質問攻めにあいました。その場にいた日本人はぼくだけでしたし、彼らはいつもそれを確かめずにはいられないのです。「いや、ここに来るのは初めてなので……」。ツアー造成上、営業妨害するわけにもいかないと日本人らしく気を遣ったぼくは、そうとぼけるほかなかったのですが、その免税店はツアー客しか利用しない、商品だけがズラッと並べられた殺風景な空間、全員中国系の販売員が待機しているという一種異様な世界です。これでは彼らの買い物意欲が高まらないのも当然でしょう。

中国とは商慣行の異なる日本や欧米で、そもそも彼らの求める「賢く買えた」というストーリーを満足させることは難しいといえます。香港が人気なのはそれが可能だからでしょう。その代わり、日本の小売店では、ポイント還元による割引などを使ってお得感を演出することに力を入れています。

その努力は素晴らしいと思いますが、国美電器や蘇寧電器などの中国大手家電量販店の過激なサービス合戦を知る彼らにしてみれば、物足りないと感じているかもしれません。でも、日本で同じことをやれといわれても困ります。だとしたら、せめて買い物に何らかの駆け引きの要素を加えれば、彼らは俄然本領を発揮し、買い物意欲も高まることでしょう。ポイントは、彼らに「してやったり」気分を味わせること。そんなゲーム性、もっといえばギャンブル性を取り入れた販売手法は考えられないものでしょうか。

実際には、ツアー客の訪れる家電量販店で駆け引きは日常的に行われています。レジの前に商品を山ほど置いたおばさんがガイドをそばに呼びつけ「これだけ買うといくらにしてくれる?」。場数をふんだベテラン販売員さんがそのお相手をする、という光景はもうおなじみでしょう。ただ、いつまでも彼らのペースに合わせるだけではつまらないので、こちらからもっと何かを仕掛けられたらおもしろいと思います。

日本人が普通に買い物している店で買いたい

幸い、中国の人たちは「日本では(中国のように)騙されることはない」と信用してくれているので、「安心して買い物できる」ことが訪日旅行の優位性となっているのは確かです。だからこそ、彼らはマツモトキヨシやドン・キホーテのような日本人が普通に買い物している店で自分たちも買いたいと思っています。

実際、彼らがマツモトキヨシに行くと、契約免税店で見せた疑心暗鬼の様子はありません。周囲に日本人客がいるからでしょう。同じものを買っているという安心感があるのです。たとえ中国語を話す店員がいなくても、事前に調べた購入商品リストの紙を広げ、精力的に棚を探し回っています。レジではドーンとまとめ買いしてくれる優良顧客です。
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ドラッグストア側も日中翻訳表を用意している。日焼け止め、ビューラーといった種別名だけでなく、「たるみ」「くすみ」「しっとり」「ハリ」「ベタツキ」など、お肌に関することばも一覧表になっている


中国の都市部では外資系のドラッグストアも進出していますが、見た目のディスプレイは似ていても、棚に並ぶ商品の多彩さや新コンセプト商品の豊富さでは日本にはかないません。「これは何ですか?」とずいぶんツアー客の女性に質問されました。店員さんに聞いて、その用途を説明してあげると、みんなおもしろがっていました。そこには、"要"でも"想"でもない、中国では見たことのない日本オリジナルの商品が持つ新奇な魅力や価値観を発見する楽しさがあったと思います。日本のドラッグストアはその宝庫なのです。

これが第三のポイントです。「日本には、自分たちが普段の生活でそこまで必要とは考えたこともなかった便利でおもしろい商品があふれている」というのが彼女らの感じたことでした。これこそ、本当の意味での日本の消費市場の優位性であるはずです。

来日経験のある中国の女性から「日本には安くてかわいくて便利なものがたくさんある」とよく言われます。でも、そう話してくれるのは、日本人社会となんらかの接点のある人たちに限られます。実際にそこまで気づいている中国ツアー客が全体のうちどれだけいるのだろうか、というのがいちばんの問題でしょう。せめて彼らが中国から日本に向かう飛行機の中で目を通せるような中国語のチラシ(立派な冊子は不要。新聞の折込広告レベルで十分。ただし割引券付!)を機内誌と一緒にシートボックスに忍ばせることができたら、多くの中国客が本物の日本の楽しさを発見するチャンスが増えるに違いありません。

なぜガイドの話にツアー客は食いつくのか

現状では、その楽しさを中国ツアー客に気づかせることができるかは、日本側のガイドの力量にかかっています。ツアーバスに同乗しているとき、こんなことがありました。
若い中国人ガイドが焦げつかないマーブルコートフライパンを買った話を始めたのです。「同じものを中国で買うと5倍はする。中国のお母さんに送ってあげたら喜ばれた」と言うと、バスの中は急に色めきだしました。「それどこに売っているの。連れて行ってくれる?」。バスは銀座のドン・キホーテに向かいました。そして、彼に案内された売り場のマーブルコートフライパンの在庫分はすべてお買い上げとなりました。

その一連の光景を見ながら思ったのは、なぜガイドの話にツアー客たちはこんなに簡単に食いつくのだろうか、という驚きでした。ひとりのツアー客は「彼がお母さんに買ってあげたという話が私たちの心をつかんだ」と話してくれました。う~ん、どういうこと?
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マーブルコートフライパンの在庫分すべてお買い上げの瞬間

1週間近くバスの中で一緒に過ごしていると、親しみが生まれるのは人情です。言葉もわからない日本で頼れる人間は彼ひとり。彼のことばが影響力を持つのは当然でしょう。

でも、理由はもっと別にありそうです。彼らがもともと日本でフライパンを買おうと考えていたわけではないでしょう。きっかけは何でもよかったのです。「親孝行」と「5分の1の値段」というわかりやすい動機づけができたことで、「自分がほしいものを買う」という"想"のストーリーがにわかに成立したのです。それまで買ったのは友人・親族に頼まれたお土産ばかり。本当は自分のために買いたいのに何も買えなかった。そもそも自分の買いたいものがわからなかった。"要"の務めは果たせても、"想"を満たせていなかった彼らは、ガイドのことばにいともあっさり飛びついてしまったのです。

実をいえば、これは消費者としての成熟度に関わる問題です。一般にツアーに参加する中国客は40代以上が圧倒的に多い。80后と呼ばれる消費社会に親しんだ若い世代は少ないのです。海外旅行ビギナーである彼らは"想"を満たす方法を知らないといえます。

にもかかわらず、その指南役であるべき日本側のガイドは圧倒的に役不足です。日本の楽しさを伝えるどころか、そもそも彼らは別の使命を帯びていたりもする。この問題は、多くのインバウンド関係者が実情を知りながら、見て見ぬふりをしています。次回はその問題を取り上げます。(2011年10月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_64.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 20:08 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 05月 07日

2回 中国客“爆買い”伝説はまぼろしか?

ここ数年、メディアを中心に訪日中国客の旺盛な購買力が喧伝されてきました。彼らが家電量販店やドラッグストアで買い物する光景は"爆買い"と称されています。日本人が1970年代に「エコノミック・アニマル」と蔑称されたことにならえば、「ショッピング・アニマル」とでも言わんばかりの好奇のまなざしが、彼らに集中的に注がれました。

いったいどうして"爆買い"伝説は生まれたのか?実際はどうだったのか?

本連載第2回では、その真相を点検したいと思います。

中国客"爆買い"伝説の起源
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中国団体ツアーの"爆買い"が盛んに見られた頃の某家電量販店にて(2009年11月)

中国人観光客をめぐる報道は、北京オリンピックが閉幕した2008年秋頃から急増します。まず一部の雑誌が火をつけ、テレビが後追いしました。何より世間の耳目を集めたのは、彼らの豪勢な買いっぷりでした。たとえば、こんな感じです。

「お客様は中国人。銀聯リッチを狙え。内なる外需、中国人観光客の争奪が始まった」
「一度に800人が九州上陸。クルーズ船の観光&お買い物ツアーに密着。100万円の真珠、お買い上げ」(日経ビジネス2008年9月29日)

「旅費よりお土産代のほうが高い!ビックリ!中国人観光客お金持ち東京お買い物ツアー」「化粧品大人買い!、バーバリーどか買い!」「ひげそり10コにつめ切り100コ買い!」(週刊女性2008年12月23日)

「爆買!世界一の貪欲民族が続々と上陸!中国人富裕層で儲ける」(月刊宝島2009年11月号)

「中国発弾丸買い物ツアー」(読売新聞2010年8月9日)……。

団体バスで店に押し寄せ、フロアを一時的に占拠。商品によっては棚の在庫がなくなるまで集団で買い尽くすという奇矯な消費行動は、まさに"爆買い"イメージを喚起するものでした。これまでもロシアや中東系の富裕層が都心で高額消費をしていることは知られていましたが、少人数のグループにすぎません。やっぱり、団体は目につくものです。街に溶け込むことのない異形の集団に見えてしまう。こうした姿を見せるのは香港、台湾を除く中国本土客だけでしたから、"爆買い"は中国人観光客の代名詞となったのです。

なぜ急に中国人は金持ちになったのか? 多くの日本人はそんな疑念や当惑をおぼえながら、オリンピックを開催できるまでになった中国の経済成長と重ね合わせて彼らの存在を直視せざるを得なかったといえます。それは「欧米市場に代わる輸出先をどこに求めるか」「内需縮小をいかに補うか」という長年の日本経済の課題にわかりやすい回答を与えてくれました。2005年の反日デモを契機に年々嫌中気分の高まる日本人も「これを商機につなげない手はない」「お金を落としてくれるなら、来てもらおうじゃないか。彼らだって実際の日本の姿を見れば、考えも変わるだろう」。そんな甘い期待も芽生えたようです。

当時のぼくも、前述した雑誌メディアで一連の中国客"爆買い"伝説の流布に関与していたことを白状しなければなりません。2004,5年と政治的な理由で停滞していた訪日中国人の伸びが06年に前年度比25%と急増、08年には100万人に到達します。こうしたなか、「お一人様炊飯釜10個お買い上げ」だなんてお笑い"爆買い"シーンは、中国人観光客という新しい外来消費者の存在を世間に知らしめる好機になると考えました。彼らのメイド・イン・ジャパンに対するまなざしを見て、悪い気がしなかったのも確かです。

こうしてさまざまな立場の人々の思惑が一致、きちんとした実態の検証もなく、期待値だけが一気に高まりました。久しく景気のいい話とは無縁だった日本人は、「中国人観光客はカモネギ」と考えることに合意したのです。無理もなかったといえるかもしれません。

買い物しか映さないテレビ報道
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テレビ局の執拗な取材攻勢を受ける中国ツアー客

そんなふくらみきった期待も、尖閣事件と震災で急速にしぼんでしまいました。

問題は、メディアはもちろん、インバウンド関係者も含めて、当の中国客のツアーの内実や彼らの胸のうちをどこまで理解していたか、ということではないでしょうか。

今年5月、ぼくはある中国団体ツアーを同行取材しました。震災後、初めて成田入りした中国客ということで、溝畑宏観光庁長官が出迎えにきてテレビ報道もされたため、ご記憶のある方もいるかもしれません。そのツアーを催行したのは瀋陽の旅行会社で、社長が旧知の友人という縁から、3泊4日の東京滞在をツアーの皆さんと一緒に過ごしたのです。

翌朝、ホテルの前には各局のテレビ報道陣が待ち構えていました。彼らはツアーの全行程を追っかけ取材するというのです。もっとも、彼らが撮りたいのは皇居やお台場の観光ではなく、百貨店からマツモトキヨシ、ドン・キホーテ、LAOX、さらには御徒町にある中国客に絶大の人気を誇る老舗ディスカウントストア多慶家まで、とにかく買い物シーンでした。

わずか10数名のツアー客に対し、それを上回る数の報道陣が追いかけるという構図です。ひとりの客に数社のカメラが順番に、何をいくら買ったかしつこく尋ねます。そんなうんざりする光景を見て、ぼくは彼らに問いかけました。

「中国客の買い物シーンは何年も前からさんざん撮ってきたでしょう。いまさら同じ絵を撮ることに何の意味があるんですか?」

しかし、現場のスタッフにその手の質問をするのは詮無いことのようです。デスクから中国客が何を買ったかとにかく撮ってこいとだけ言われたそうです。なかには中国のどこから来たツアーかすら把握していないカメラマンもいました。事前の下調べもせず、決めつけで報道を取り仕切るデスクと称される人たちは罪つくりというべきでしょう。

でも、よく考えてみてください。なぜツアーの皆さんはカメラに追いかけまくられることを承諾したのか。自分が海外旅行先で同じ目に遭ったらどうでしょう。理由ははっきりしています。そのツアーは、温家宝首相来日とワンセットの政治ショーだったのです。それは、海外のインバウンド・ツーリズムの世界ではよくあるメディアを使った宣伝・誘客手法のひとつともいえます。政治家か芸能人なのかはともかく、誰かに光を当てて、いかにこちらを振り向かせるか。日本のテレビ局はまんまと乗せられちゃったわけです。では、誰がそれを仕掛けたのか。話は単純ではありません。同じ時期、中国でも今回のツアーを取材した中央電視台をはじめ大量のテレビ報道あったことは知っておいていいでしょう。
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震災後、初めて成田入りした中国ツアー団と溝畑宏観光庁長官(2011年5月20日)

しかし、日中関係というのは一筋縄ではいかないものです。その瀋陽の旅行会社は来日から数ヵ月たった現在も、東京行きツアーをほとんど催行できずにいます。ワンセットだったのが中国側ではかえって裏目に出たのか。東京が放射能汚染地域ではないかとの根深い不信も相まって、彼らとその関係者らの努力も誘客効果にはつながりませんでした。

買い物する気も失せるツアーの内実

それでも、ぼくは彼らの滞在中、ツアーの皆さんの買い物にとことんつきあいました。販売員の通訳をしたり、誰かがほしいという商品を一緒に探してあげたり……。中国インバウンド客に対する最大の貢献は、買い物にまつわる課題のソリューションにあるのです。

3日間あちこち訪ねてよくわかったのが、ツアーは忙しすぎて、すべてにおいて時間がないこと。さらに、後の回で説明しますが、ツアー造成上必ず立ち寄らなければならない契約免税店の問題があります。バスの中で友人の社長はこんな話をしました。

「中国人の最大の関心事は買い物。観光は二の次。でも、彼らはどこで何が買えるか情報(店舗、商品)がない。しかも、立ち寄り時間は短いので、買いたいものが見つからない。もっと買いたくても時間がない。結局、9割のお客さんが買い物に満足しないまま帰国することになる」。

中国客の買い物には、以下の3つの世界があると社長は言います。

①女性客を中心に美容健康にまつわるメイド・イン・ジャパンの実用品(化粧品、薬、健康食品など。マツモトキヨシ、ドン・キホーテなどで購入)

②帰国後に渡す土産(以下の3パターンあり)
A:上司や身内に渡すもの(お金に糸目はつけない。デジカメ、炊飯器、時計など。LAOXなどで購入)
B:同僚や友人に渡すもの(化粧品、健康食品などの中級品。お金を渡され、購入を頼まれる場合も)
C:不特定多数の知人に配るもの(安くて量が多いのがいちばん。100円ショップで購入)

③ブランド品(自分のために大人買いする中国人特有の見栄の世界。オーダーメイドスーツ、バッグ、宝飾品など)
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電気かみそりをまとめ買い。彼らのお土産買いプレッシャーは尋常ではない

まるで中国社会の縮図が見えてくるような多様な買い物ニーズを、限られた時間内で満たすのは容易ではありません。訪日中国人の52.2%(2010年)を占める団体バスで毎日移動を続けるツアーの形態は、およそ中国の人たちが買い物を楽しめるような環境とはほど遠いのです。彼ら自身、買い物する気も失せるようなツアーの内実を半ば諦めて受け入れているのが実情です。背景にはツアー代金の不当な安さがあります。そうした彼らのフラストレーションが何かの弾みで点火する瞬間こそ、我々の垣間見た"爆買い"シーンだったのです。

こうしてみると、中国客"爆買い"伝説とは、日本側の自己都合にまみれた他力本願と、当事者意識を欠いた一方的な思い込みが生んだまぼろしだったのではないか、とすら思えてきます。一般に政府・自治体やインバウンド関係者は、自分の管轄や商域しか見ていません。もっとトータルにツアー全体のあり方を見直すことが必要なのです。

今後も"爆買い"が続くか疑わしい

というのも、近年のさまざまな情勢の変化から、今後も彼らが"爆買い"してくれるかどうかは、大いに疑問といえるからです。理由は3つあります。

①中国人観光客だって成熟する
②中国側の関税強化で個人のお土産にも税金がかかる
③中国も内需拡大したい

海外旅行解禁から約10年を経て、彼らが「弾丸買い物ツアー」で帰国後の面子のために実用品を大量に買い漁るような旅ではなく、自分のためにのんびり旅がしたいと考えるのは自然の流れでしょう。1980年代に始まった台湾人の日本ツアーも当初は"爆買い"が見られましたが、30年を経たいまではスマートな旅行者として日本の街に溶け込んでいます。地域格差が大きい中国ではタイムラグがありますが、"爆買い"旅行者の比率はしだいに減少すると考えられます。観光庁がまとめた「訪日外国人消費動向調査」によると、国別一人あたりの消費額のアジアのトップは中国で、「日本でしたいこと」はショッピングですが、「次回したいこと」では温泉や日本食といった本来の日本観光の魅力を味わいたいとの回答が増えるといいます。中国人観光客も少しずつですが、成熟していくはずです。

2010年10月以降、個人が海外で購入した物品に対する関税のチェックが中国の税関当局によって強化されるようになったことも、"爆買い"が萎縮する要因です。中国政府がなぜこのような措置を下したかについては、中国の内情を知れば納得せざるを得ません。要は、中国も内需拡大したいのです。ですから、日中双方のメディアで盛んに取り上げられた中国客のメイド・イン・ジャパン礼賛や"爆買い"報道を、中国政府がどれだけ苦々しく思っていたかは想像に難くありません。国民に対して「なぜ日本で買うのか。中国で買えよ」というのが中国政府のホンネでしょう。これまで通り"爆買い"中国客の来日を呼び込もうという姿勢だけでは十分ではないことを今回は強調しておきたいと思います。(2011年9月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_62.html

[追記]
ここで書いているのは、東日本大震災直後の2011年半ばごろの中国客に対する日本のメディアの取材姿勢を批判的に触れたものですが、いま読むと、たまたま友人の中国の旅行関係者のツアーに自分が同行していたこともあり、今後の予測という観点では少し先走り気味だったかもしれません。

というのは、自分のつきあいのある中国人たちを見ていると、彼らの成熟化のスピードはなかなかのものがあり、“爆買い”なんてことをいつまでもやるはずがない、と思ってしまうところがあったからです。

しかし、これは多くの人がよく間違うことですが、日本人とつきあいのあるような中国人は、中国では特殊な部類に入るのです。圧倒的なボリュームで、日本のことなど全く知らない消費者が中国に存在し、東北地方や内陸部でも経済成長がそれなりに進んでいった結果、「初めて」日本を訪ねる中国人は増えることはあっても、減ることはなさそうです。

だとしたら、彼らは今日の「日中の物価が逆転」したご時世、また自国産の商品を全く信じられないという国情からすると、“爆買い”はすぐにはなくなりそうもありません。

スタバのカフェラテ600円!! 日中の物価が完全に逆転(訪日客急増の背景)
http://inbound.exblog.jp/24162197/

まったくなんとありがたいことでしょうか。(2015.2.22)
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 19:46 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 04月 16日

中国人団体ツアーの「オプション」――新宿歌舞伎町案内

東日本大震災から1年を経て、ようやく中国人団体ツアー客は戻ってきたようです。そこで、あらためて中国人団体ツアーの「オプション」の実態、すなはち安すぎるツアー代金をガイドが埋め合わせをするため、ツアー行程内のあらゆる観光や市内散策を「オプション」と称して別料金を徴収する悪名高い実態のひとつの代表例とされる新宿歌舞伎町散策を報告します。

これは2011年7月8日午後7時頃、ぼくが偶然彼らの姿を見かけて、こっそり後をついていったときに撮ったものです。散策時間は約30分。関係者らの話では、この歌舞伎町散策に、ガイドはツアー客ひとり当たり1000~2000円の追加料金を取るといわれています。

「アジア最大の歓楽街」といわれる新宿歌舞伎町の夜は、中国客に限らず世界各国から来た好奇心にあふれる旅行者でにぎわっています。そこで旅行者たちが繰り広げる光景は、なんとも微笑ましいものですが、中国客だけがまるで通行料のように「オプション」を支払わされているのは、中国特有のビジネス慣行が日本であるにもかかわらず、まかり通っているからだということを確認しておきましょう。
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スタートは中国人経営の団体ツアー客専門料理店「林園」から
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いよいよ歌舞伎町に足をふみ入れます。最初に目に飛び込んでくるのは、派手なキャバクラやホストクラブの広告です
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交差点では突如ガールズバーの宣伝カーが通り過ぎ、ツアー客は一斉にカメラを向けました
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ホストクラブ密集ゾーンでは優男たちの顔写真を並ぶ大看板を皆さん物珍しそうに並んで眺めています
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あるクラブの店の前に並ぶツアー客。ガイドが店のシステムや料金などについて説明しています。若い女性客も参加しているツアーだけに、おじさんたちも抜け駆けはできないようです(ホテルに戻った後の自由行動のことは知りませんが……)
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皆さんがまじまじと見ていたのはこの看板
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いよいよツアーも終盤を迎え、歌舞伎町一番街の出口に近づいてきました。この近くには歌舞伎町案内人として知られる李小牧さんの経営する湖南料理店もあります
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歌舞伎町の入り口でバスの来るのを待つ皆さん
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バスが来ました。新宿の高層ビル群が見えます
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番外編ですが、ドン・キホーテの前にはタイ人のツアー客も見かけました
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by sanyo-kansatu | 2012-04-16 19:15 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2012年 04月 16日

花見のピークにバスも過去最多(ツアーバス路駐台数調査 2012年4月)

4月に入ると、東京もいよいよ桜シーズンの到来です。確かにバスは戻ってきました。調査以来、最大のバス数が新宿5丁目に現れています。明らかに今年の春節(1月下旬)に比べても、バスの台数は増えていると思われます。さて、この勢いはどこまで続くのか……。

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた明治通り新宿5丁目付近における中国インバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(日) 北京出張のため未確認(~4日)
2日(月) 未確認
3日(火) 未確認 ※この日帰国の予定が、爆弾低気圧のためフライト欠航。翌日帰国となりました。
4日(水) 未確認
5日(木)17:40 3台 ※新宿5丁目交差点付近には、アニエスbの買い物袋を抱えた中国人女性客をはじめ観光客がチラホラ。この頃から中国人に限らず、外国人観光客の姿が新宿界隈で目につくようになりました。
6日(金)17:40 2台 
7日(土) 未確認
8日(日) 未確認
9日(月)14:00 1台
17:30 3台
10日(火)18:10 5台 ※この週末花見のピークを迎えただけに、この週は過去最多のバスの停車状況が見られました。 
11日(水)19:20 7台 ※これは過去最大です。これ以上停車スペースもないため、周辺を回遊しているインバウンドバスも見られたほどです。
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12日(木) 未確認
13日(金)19:20 2台
14日(土) 未確認
15日(日) 未確認
16日(月) 未確認
17日(火)16:40 2台
       20:30 1台
18日(水)18:30 5台
19日(木)18:10 4台(うち1台に声をかけると広東客)
20日(金)12:30 3台
       18:30 2台
21日(土) 未確認
22日(日) 未確認
23日(月) 未確認
24日(火) 12:00 1台
        19:10 1台
25日(水) 未確認
26日(木) 12:20 1台
       18:00 1台
27日(金) 17:30 1台
        19:40 2台
28日(土) 未確認
29日(日) 未確認
30日(月) 未確認
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by sanyo-kansatu | 2012-04-16 18:55 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)
2012年 03月 22日

あいかわらずバスは来ず(ツアーバス路駐台数調査 2012年3月)

3月に入っても、まだ寒い日が続いています。あいかわらず、バスはほとんど現れません。今年の桜シーズンにはツアーバスは戻ってくるのでしょうか……。

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた明治通り新宿5丁目付近における中国インバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(木) 未確認
2日(金)18:00 1台(マイクロバス)
※ただし、このバスの車体には「(株)華僑商事」と書かれていました。つまり、ツアー会社のバスではなく、在日華人の商事会社が副業で観光に利用しているようです。
 
3日(土) 未確認
4日(日) 未確認
5日(月)18:30 1台(マイクロバス)
6日(火)19:00 1台 ※久しぶりに大型バス
7日(水)18:30 0台
8日(木)18:20 2台
9日(金)19:00 1台
10日(土) 未確認 
11日(日) 未確認
12日(月)18:30 0台
13日(火)18:20 1台(マイクロバス)
14日(水)12:30 1台
     17:10 1台
15日(木) 未確認 
16日(金) 未確認
17日(土) 未確認
18日(日) 未確認
19日(月)18:20 0台
20日(火) 未確認
21日(水)19:50 1台
※この日も久しぶりに大型バスです。運転手さんがローソンの前でツアー客を出迎えていたので、声をかけてみました。「どこから来たお客さんですか?」「天津だよ」「これから桜の季節はどうですか?」「今年はいっぱい来そうだよ」とのこと。どうやら今年の桜シーズンのインバウンド客は期待していいらしいです。

22日(木)19:50 2台
23日(金)20:00 2台(うち1台はマイクロバス)
24日(土)19:50 1台
25日(日) 未確認
26日(月)18:40 0台
27日(火) 以後、北京出張のため未確認(~4月4日)
28日(水)
29日(木)
30日(金)
31日(土)
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by sanyo-kansatu | 2012-03-22 21:36 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)
2012年 02月 17日

すっかり姿を消す(ツアーバス路駐台数調査 2012年2月)

2月に入ると、バスはすっかり姿を消しました。昨年の春節は2月でしたから、この時期毎日のように多くのバスが現れたものでしたが……。

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた明治通り新宿5丁目付近における中国インバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(水) 未確認
2日(木)18:20 2台 
3日(金) 未確認
4日(土)15:30 2台(乗客のことばから広東系と判明)
5日(日) 未確認
6日(月) 未確認
7日(火) 未確認
8日(水) 未確認
9日(木)18:20 0台
10日(金)18:30 0台 
11日(土) 未確認
12日(日) 未確認
13日(月)18:20 1台(マイクロバス)
14日(火)17:30 0台
15日(水)19:00 0台 
16日(木)17:50 2台(うち1台はマイクロバス) 
17日(金)18:50 0台
18日(土) 未確認
19日(日) 未確認
20日(月)18:20 0台
21日(火)18:50 1台(マイクロバス)
22日(水)18:40 0台
*この日の夜、新大久保方面に行く用があり、職安通りを歩いていると、コリアンタウン沿いに大型観光バスが多数停車していたので、もしや…と思ったら、日本のツアーバスでした。ドン・キホーテの近辺に集中して停車しており、韓国料理を食べて、韓流みやげと食材を買い込み、バスに戻っていくのは、年配の日本のおばさんたちでした。

23日(木)18:10 0台
24日(金)12:30 1台
     18:00 0台
25日(土) 未確認
26日(日)19:50 1台(ミニバス)
27日(月)18:10 0台
28日(火)18:30 0台
29日(水)19:40 1台

*今年の春節が1月下旬だったことで、2月に入るとバスは激減した。3月はどうだろう?
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by sanyo-kansatu | 2012-02-17 19:36 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)
2012年 01月 19日

春節つかのまのバスラッシュ(ツアーバス路駐台数調査 2012年1月)

新年を迎えました。今年の春節は1月23日です。はたしてバスは新宿に戻ってくるのでしょうか?

※このカテゴリでは、2011年11月から始めた明治通り新宿5丁目付近における中国インバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(日) 未確認
2日(月) 未確認
3日(火) 未確認
4日(水)18;00 0台
5日(木)17;20 0台
6日(金)19:00 1台
7日(土) 未確認
8日(日) 未確認
9日(月) 未確認
10日(火) 未確認
11日(水)18:30 1台
12日(木)18:00 0台
13日(金)18:20 1台
14日(土) 未確認
15日(日) 未確認
16日(月) 未確認
17日(火)18:40 2台(うち1台は広東から)
18日(水)18:00 4台(うち2台は広東から。春節が近づき、バスの数も少し増えてきた?)
b0235153_14141849.jpg










19日(木)18:10 4台(うち1台はCITSのツアーバス)
20日(金)18:40 0台
21日(土) 未確認
22日(日) 未確認
23日(月)18:30 3台 ※春節です。
b0235153_14143676.jpg










24日(火)正午頃 中国人団体グループ(普通話)歌舞伎町散策姿見かける
     19:10 3台(うち1台は「周遊貴賓(デラックス)」ツアー)
25日(水)18:00 4台
26日(木)13:20 3台
     18:10 3台
27日(金)13:30 3台
b0235153_13592311.jpg※最近の中国の消費者は賢くなり、金遣いは年々渋ちん傾向にあるので、以前ほど“爆買い”は見られないかもしれませんが、食事は1日3回とります。お昼頃と17時過ぎの1日2度、左記の新宿5丁目インバウンドバス停車スポットにある中国団体ツアー客専用中華料理店「林園」(バイキング料理専門。在日中国人経営。一般客利用不可)の前には、バスが立ち寄る姿が見られます。
「林園」
03-5369-8228(新宿5丁目 明治通り沿い)
b0235153_13532935.jpg  










28日(土) 未確認
29日(日) 未確認
30日(月)18:30 1台
31日(火) 未確認

※春節は終わりました。これでつかの間のバスラッシュもひと段落か。昨年に比べると、明らかに中国客来襲の勢いが強くは感じられなかった、というのが新宿5丁目的観点からみた今年の春節の印象です。激安ツアーで中国本土客のパイを増やすというビジネスモデルはさすがにもう頭打ちではないかと思われます。発想を転換して新しい状況に向き合う必要がありそうです。
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by sanyo-kansatu | 2012-01-19 13:22 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)
2011年 12月 23日

回復の兆し見える(ツアーバス路駐台数調査 2011年12月)

2011年11月から始めた明治通り新宿5丁目付近における中国インバウンドバスの路駐台数(≒中国客の動向)を記録しています。

1日(木)18:20 2台
2日(金)20:00  0台
3日(土) 未確認
4日(日) 未確認
5日(月)18;30 2台(広東省からのグループ)
6日(火)19:20 0台
7日(水) 未確認
8日(木)18:20  1台
9日(金) 未確認
10日(土) 未確認
11日(日) 未確認
12日(月)17:10  2台
13日(火)18:40 3台
14日(水) 未確認
15日(木)18:30 5台(うち2台はマイクロバス)
16日(金)19:00  3台(うち2台はマイクロバス)
17日(土)13:30 1台
18日(日) 未確認
19日(月)19:30 1台
20日(火)18:40 0台 
21日(水)19:00 1台
22日(木)18:20 1台
23日(金) 未確認
24日(土) 未確認
25日(日) 未確認
26日(月)18:10 0台
27日(火)12:00 1台
28日(水)18:00 2台(うち1台は広東から)
29日(木)18:20 2台(うち1台は広東から)
30日(金) 未確認
31日(土) 未確認
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by sanyo-kansatu | 2011-12-23 13:28 | 定点観測ツアーバス調査 | Comments(0)
2011年 12月 07日

アニメ王国ニッポンを旅しよう!

ちょうど北京で国際マンガサミットが開かれていた2011年10月下旬、ぼくは北京の知り合いの日本のアニメファンの女の子が主催する「六次会」という集まりで、ちょっとしたおしゃべりをしました。六次会では北京の大学の日本語学科を卒業した若い社会人のみなさんが交流のために、年に何度かたいてい学生街の五道口あたりのカフェで集まっているそうです。

六次会 http://neo-acg.org/supesite/?action-viewnews-itemid-2844

そのときぼくは、国際マンガサミット開催時期ということもふまえて、日本全国のアニメスポットを紹介しました。

そのためにつくったのが、下記のパワポの資料です。タイトルは「一起来动漫王国日本旅行吧(アニメ王国ニッポンを旅しよう!)」です。

b0235153_7451327.jpg

六次会に参加したみなさんはみんな日本語が上手で、日系企業などにお勤めの方も多かったのですが、ふだん自分が動画サイトなどで愛好しているアニメの作品の舞台=実在の場所と日本の旅行をつなげて考えるという、いわゆる「聖地」めぐりの発想はまだピンとこないみたいでした。作品の登場人物たちが繰り広げているのはフィクション空間にすぎないけれど、その場所は実在するのだから行ってみるといろいろ発見があったり、感じられたりして面白いよ、というようなメタな楽しみ方は、中国に住むみなさんにはまだちょっと距離があるのかもしれません。

ただひとり日本の名古屋に留学していた人がいて、彼女だけはその面白さを少し理解できたようでした。彼女は旅行好きで、1年間の留学期間中、全国各地を旅したそうです。そういう人なら、日本各地の風景や食文化などの地域性の微妙な違いもそれなりにわかっているので、それが作品の設定や物語に登場してくるさまざまなディティールに反映されていることに想像力が働くからでしょう。

そう考えると、海外の人たちに「聖地」巡礼の面白さをすすめるのは、現段階ではちょっとハードルが高いような気がしました。いまでこそ、たくさんの中国人観光客が来日する時代ですが、実際には誰もが簡単に日本に旅行に行けるわけではないことも、いまの中国の実情だからです。日本のアニメ好きだから、日本人と同じように日本のことをわかっているわけではないのです。とはいえ、海外にもおたくはいるので、彼らにならその面白さがわかるのかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2011-12-07 07:29 | アニメと「80后」の微妙な関係 | Comments(0)
2011年 11月 07日

ツアーバス運転手は見た! 悲しき中国人団体ツアー

2011年2月3日、中国の旧正月にあたる春節の夜。尖閣事件以降、鳴りを潜めていた中国人団体ツアー客を乗せた貸切バスが、久々に大挙して新宿歌舞伎町界隈に姿を現し、周辺を回遊していた。

彼らはたいてい夕方5時から6時頃に歌舞伎町に集結し、乗客を降ろす。「アジア最大の歓楽街」を散策し、夕食をとるためだ。日本側のランドオペレーター(宿泊や移動、食事などの手配を請け負う旅行会社)が送り込んだガイドを先頭に、格安中華チェーン店か在日中国人の経営する中華料理店(ツアー客専用で一般客入店不可)でバイキングメニューの食事をすませると、路上に繰り出す客引きを横目に歌舞伎町の裏道を練り歩き、ドンキホーテやマツキヨあたりで雑貨買いを楽しむのが相場だ。時間があれば、向かいのヤマダ電器に行くこともあるが、別日程となることが多い。ホテルに早くチェックインしなければならないからだ。

靖国通りに乗りつけるのは、60名乗りの大型バスから8名乗りのマイクロバスまで種類はいろいろ。そこでは当然路駐はできないため、客を降ろすとバスはすぐに移動する。でも、都心の繁華街だ。駐禁エリアから逃れるのは容易じゃないが、運転手たちもプロである。いくつか近場の路駐可能なポイントを知っていて、そこで気長にガイドからの携帯の呼び出しを待っている。その間2時間から長くて3時間半を超えることもある。

それは運転手にとって唯一の憩いのひとときだ。話し相手でもいればなおさらである。そこで、春節の夜、歌舞伎町周辺某所に路駐していた貸切バス運転手、岡本次郎さん(62仮名)を訪ねることにした。マスコミの報じる百貨店や家電量販店での爆買いシーンを通して、いまや「低迷する日本の消費市場が頼みとする救世主」とまで持ち上げられた中国人客――その多くを占める団体ツアーの一部始終を目撃してきた岡本さんに「バスの中で何が起きているか」を聞くためである。

食事はいつでもバイキング

岡本さんは首都圏に本社を置く貸切バス会社の社員運転手で、ドライバー暦35年のベテランだ。インバウンド――日本人客ではなく、訪日外国人客を乗せるようになったのは1990年代半ばから。当時は台湾客がメインだったという。その後、東アジアや欧米などさまざまな国籍の観光客を乗せて全国津々浦々を駆けめぐってきた。

バスを訪ねると、前部扉から招き入れられ、運転席に座ったままの岡本さんに話を聞いた。

――今日は一日どこを走ってこられたのですか。明日からの予定は?

「今日は午後2時の便で成田入りした上海からの客でね、浅草を散策した後、歌舞伎町に来た。あとは品川の高輪プリンスに送って終わり。今日の客はけっこういいホテルだね。明日は山梨の石和温泉。途中箱根を通り、富士山を見て、御殿場アウトレットに寄って温泉旅館に泊まる。河口湖の近くは中国人専用の宿が増えたからねえ。この季節、あのあたりの旅館じゃ中国客にカニを食わせるんだよね。中国人好きだから。それから先は(ツアーのスケジュール表を見ながら)いったん東京に戻って自由行動の1日があり、そのあと岐阜市内と大阪のホテルに泊まって関空へ」

山梨県といえば、中国人にとって最大の観光ハイライトである富士山の裏庭に位置することから、訪日中国人客の取り込みに熱心なことで知られるが、昨年9月の尖閣諸島漁船衝突事件(以下、尖閣事件)に端を発した中国人客キャンセル続出に見舞われたばかり。なかでも前原誠司国土交通大臣(当時)も一役買った観光庁のトップセールスで受注した中国のネットワーク販売会社大手の宝健(中国)日用品有限公司の1万人規模の社員旅行のドタキャンは、山梨県の宿泊業者を直撃した。さらに宝健社長が記者会見まで開いて行った「愛国キャンセル」表明が、中国に強硬だとされる前原外相へのあてつけだとみなされ、中国側では「よくやった」と喝采を浴びたという後味の悪い結末も記憶に新しい。

――食事はいつもどうしているのですか。ツアー客とは別?

「地方に出ると同じホテルに泊まるから、食事は一緒だけど、はっきり言ってひどいね。いつでもバイキング。せっかく日本に来てるんだから、もっとましなものを食わせてやればいいのにと思うよ。でも仕方がないんだよね。予算の上限が昼は1000円、夜は1500円と決まってるそうだから」

――先ほど山梨の旅館ではカニを出すと…。

「あれは冷凍ズワイガニ。どうせロシア産だから。中国にはワタリガニしかないそうで、足の長いズワイガニが珍しいんだよ。よく家族連れがカニの足を広げて手に持って記念撮影してるよ。かわいいもんだね。たまに回転寿司とかしゃぶしゃぶの店にも行くけど、食べ放題メニューさ。客が頼めば刺身盛りを出すこともあるけど、中国人ってのは団体でもみんなに分けたりしないで、頼んだ連中が自分だけで平気で食べてる。そういうのはみんなオプションといって、別料金なんだよ。

ただこのオプションってのがクセモノでさ。刺身盛りの2000円くらいのを1万円といってガイドが徴収している。ステーキ屋に行って『これは神戸和牛だから2万円』とか。もうやりたい放題なんだ。

だからといって口出しもできないしね。だいたい中国語がわからないし。あとでガイドが日本語で話してくれるんだ。『今日は儲かった』とかいって、チップを余分にくれることもたまにある」

――そういうのは中国ツアーのおいしいところでしょうか。

「バスで待ってるときの食事代や駐車料金、高速代などをまとめて2万円。必要経費だし、たいした金額じゃないよ。申し訳ないけど、中国人は下品ってのかなあ。床にガムを吐き捨てるし、ヒマワリの種を撒き散らすし、ゴミの量も1日45リットル2袋は出るからね。ホテルに送り届けて車庫に戻った後、明日に備えて車内掃除を念入りに1時間以上かけてやらなきゃならないんだから」

バスの中ではもっぱら車内販売

――運転中バスの中はどんな様子ですか?

「車が走り出すと、すぐに車内販売が始まる。観光案内もそこそこに、ガイドが客にあれこれ売りまくるんだけど、とにかく客に好かれるように媚を売りまくってね。そのくせ客が買わないとイライラして喧嘩ごしになってくるのがわかるから、こっちも気が気じゃなくて」

――どんなものを売っているんですか。

「それがひどいんだよ。日本じゃ見たこともない活性炭入り携帯清浄機ってのかな。どう見てもバッタモンを日本製だと偽って7000円とか、1000円くらいにしか見えない安物の磁気ネックレスやブレスレットを2万円とか……。日本人も身につけているからと証明するために、事前に俺に『これはサクラだからちょっと着けてみて』って。おい悪いけど、俺をサギの仲間に入れるんじゃないよって断ったことがあるんだ」

こうした悪質な車内販売に加え、特定のボッタクリ免税店への連れまわしの実態は、都内で発行されている在日中国人向け週刊新聞「『東方時報』(2009年6月25日付)で報じられ、中国の大手メディア『北京法制』にも転載されたことから、日本ツアーの内情と悪評が中国全土に広まり、「日本よ、お前もか」と現地でも反響を呼んだ。

すでに中国メディアで告発された問題なのに、なぜ自浄能力が働かず、車内販売という名のサギ行為が横行しているのか。

「中国人客はあまりガイドを疑わないようなんだ。外国にいるから仕方ないと思うのかね。ガイドがアメと鞭で客を操っているとでもいうのかな」。岡本さんは首を傾げるばかりだ。

90年代に起業した在日中国系ランドオペレーター勤務の女性はこう話す。
「銀座に連れていって、ショーウインドーを見せて、『ほら高いでしょう。でも、私は同じブランド品をもっと安く買える店を知っていますよ。着いてきますか』。そういって契約した店に連れて行くというのが彼らのやり方です。外国で頼りになるのはガイドだけ。その心理をうまく利用して、客を信用させてしまうのです。中国では同じものが別の場所で驚くほど安く売られているのはよくあるので、日本も同じだと思って騙されてしまうんです」

オプション買わなきゃ置き去りも

ツアー中に起きている異常事態は、それだけではない。

「とにかく信じられないようなことをするんだよ」と岡本さんが声を荒らげたのが、前述したオプションをめぐるガイドと客の壮絶な駆け引きだ。

「見てるとなんでもオプションなんだ。新幹線の大阪京都間のチケットも8000円、ディズニーランドも1万円徴収といったぐあい。アコギだよなあ。中国側で払うツアー料金には何もついていないからと、とにかく上乗せして客から金を取る。観光地だってオプションにしちゃうんだから、呆れちゃう。たとえば、富士山5合目なんてバスでみんなを連れていきゃいいものを、3000円のオプションで別料金を請求し、払わない客は麓の富士山ビジターセンターにわざわざ置いてきぼりにするんだよ。3時間ここで待ってろと。そこは無料施設だから金はかからないんだけど、置いてきぼりにされた中国人客が増えすぎて、問題になったことがある。忍野八海だってオプション払わないと連れていかない。親子連れをさ、途中で置き去りにして……、とても見ちゃいられない。『乗せてやんなよ』って俺は言うんだけどさ。ガイドが『いいから』と」

「オプション買わなきゃ置き去り」というガイドの冷酷さに岡本さんは頭を抱えているようだ。

実はこれにも前例がある。東南アジアや香港行きの中国人ツアーで土産屋の連れ込みを拒否した客の置き去り事件が、数年前から中国でも報道されている。怒った客とガイドが喧嘩になって、傷害事件が発生したこともある。前述の『東方時報』では、上海からの日本ツアー参加者にヒアリングを行い、5000元(6万円)の低価格ツアーの参加者が、日本でオプションと称してツアー代金と同額に近い追加料金を次々と取られたことを告発している。日本では傷害事件までは耳にしないものの、客の置き去りがすでに常態化していたことを今回岡本さんの話で初めて知り、愕然とした。

これではバスの中は、非情な中国社会そのものではないか。

「だからなのかなあ。韓国ツアー客のおばちゃんたちは食事から帰ってきたとき、俺に『食事はすんだのか』と片言で話しかけてきたり、自然な交流ってのがあるんだけど、中国人客とはそういう感じにはほとんどならないなあ」と岡本さんはいう。

これまで新宿界隈でもよく中国人ツアー客の一群を見かけたが、どこか目つきが挙動不審というか、他国の旅行者に比べ和やかな印象がないのはどうしてかと思っていた。海外旅行慣れしていないこともあろうが、バスの中でこうしたことが起きているのだとしたら、無理もないのかもしれない。

キックバックを原資としたコスト構造

それにしても、なぜこんなことになってしまうのか。運転手の日本人ひとりを除いて、ここで起きているのは「中国人が中国人を騙す」という構図である。中国の民間社会の実情を少しでも知る人にとっては、それほど驚く話ではないかもしれないが……。

「でもさ、ガイドだけを責められないと思うよ。旅行業者が彼らにそれを強いているんだから」と、岡本さんはいう。

そのとおりなのである。なぜ中国団体ツアーのガイドが、オプションと車内販売で客から金を騙し取らなければならないのか。日中の複数の旅行関係者らの証言をまとめると、真相はこうなる。

中国で販売される一般的な「ゴールデンルート」と呼ばれる東京・大阪5泊6日のツアー代金は6000元(約7万円)相当。ところが、中国側の旅行会社から日本の手配を担当するランドオペレーターに渡るのは、往復航空券代と営業利益を差し引いたせいぜい2000元(2万5000円)という。これでは滞在中のホテル代、バス代、食事代、ガイド費用を捻出できるわけがない。ではどうしているかというと、それを埋め合わせるためのガイドによるオプション徴収と車内販売、客を送り込むことで得た免税店の売上の一部のキックバックなどの収入がランドオペレーターに渡るからだ。その売上がなければランドオペレーターはホテルやバス会社、レストランへの支払いができないからである。

つまり、中国団体ツアーはガイドによるキックバックを原資に成立しているのだ。なんともあやうく、ギャンブルみたいなしくみである。中国人ツアー客がある日目覚めて、オプションも車内販売も買わなくなれば崩壊してしまうだろう。

こうしたカラクリは、1990年代の一時期、日本の旅行会社が中国や東南アジア方面への驚くような激安ツアーを催行したとき、似たような構図として見られた。あらゆることがキックバックを前提として成立している中国人社会を知った当時の日本の業者は客を丸投げしたことは確かである。だから、現在の中国団体ツアーのキックバック方式も、当時の日本の旅行業者と同じでいまさら彼らを責められないという指摘も出てくる。キックバックは日本社会にだって蔓延してるじゃないかという指摘ももっともだ。しかし、当時の日中間には厳然とした物価や所得水準の格差があり、ツアーのコスト構造を埋め合わせるためにキックバックの上がりを関係者が分け合うにしても、授受される額は今日のケースとは違うことを忘れてはいけない。しかも日本は円高になったが、人民元高は起きていないのである。誰が今日の被害者かを考えるべきだろう。その後、日本人客が現在の中国人団体ツアー客のような理不尽な土産店への連れまわしや車内販売で騙されることがなくなったのも、日本人の海外旅行が成熟し、消費行動が変わったためだ。

もっと具体的にいおう。関係者らの証言を集約すると、ガイドは1日1名約1万円の通称「人頭税」をランドオペレーターに支払うことでツアーを請け負っている。彼らはガイド代を受け取るどころか、支払う側なのである。たとえば、20名の客が5泊6日の場合、100万円(20×5)が上納金となる。当然ガイドはそれ以上の上がりを手にしなければ大損になるが、それ以上なら自分の儲けになるから、車内販売に賭ける必死さが違ってくるのである。

これまでガイドの国籍については触れなかったが、彼らの多くは、在日中国人や香港、台湾からわざわざ自腹で訪日し、ガイドを請け負う人たちでもある。いまさら彼らの通訳案内士としての国家資格の有無を問うのはむなしい。彼らは中国本土出身者とは違い、日本にはノービザ渡航が可能という特典を有効活用しているのである。業界では彼らのことを「スルーガイド」と呼ぶ。

採算度外視の激安日本ツアーがなんとか成立しているのも、こうしたギャンブルに賭ける中国系スルーガイドと、このしくみを定着させた新興ランドオペレーターがいるからだ。もちろん、その前提には、上がりを生み出す中国人ツアー客の驚くべき爆買いニーズがある。よくしたものである。

こうした状況をよく知る北京のある現地旅行業者はため息混じりにこう話す。

「なにしろ中国では国内の海南島3泊4日ツアーより東京・大阪5泊6日ツアー料金のほうが安いんですから。ありえないでしょう。理由ははっきりしています。海南島はビーチリゾートなので、キックバックがもらえる家電量販店もないし、車内販売するためのバスの移動時間もないからです」。

岡本さんは、最後にこんな話をしてくれた。

「いちばんかわいそうなのは、結局、中国のツアー客だと思うよ。いろいろ悪口言ったけどさ。中国人ってよくバスの中で吐くんだよね。毎日過密スケジュールで、バスばっかり乗って移動してるからなのかもねえ……」

なんとも涙ぐましい話になってきたではないか。しかし、これは日本で実際に起きていることである。唐突だが、消費者庁はこの問題をどう考えるのだろうか。訪日客による消費を期待するだけではなく、消費者としての保護についてもっと真剣に考えなければならないのではないか……。

背景にバス規制緩和も

しかし、キックバックを原資にしたあやういツアー構造を支えているのは、中国系関係者ばかりではない。日本側の事情こそ指摘されなければならない。端的にいえば、客室単価の崩壊が起ころうとも数で中国客を受け入れる道を選んだ一部のホテル・旅館業界。日本人のアウトバウンド市場の低迷で経営基盤が揺らぐ航空業界。そして、岡本さんたち運転手を抱えるバス業界である。

2000年、貸切バス事業が免許制から許可制に規制緩和されたため、それまで違法経営を行っていた「白バス」業者が一気に新規参入した。以後、貸切バス業界は大競争時代に突入。都市間高速バスや激安国内バスツアーなどの価格破壊によって利用者は恩恵を受けたが、既存のバス事業者の収益低下によるローカルバスの廃止や、運転手の労働環境の悪化、安全確保への不安など、多くの問題が指摘されている。

なかでも2010年9月に総務省が公表した「貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」は、スキーバス過労運転による死傷事故や都市間高速バスの道路交通法違反問題などの事例をあげ、貸切バス規制緩和後の不健全な営業実態を追及しており、本来の監督官庁である国土交通省がなしえなかった意欲作といえる。

規制緩和後に起きたのは、貸切バス事業者と車輌数の増大にともなう公示運賃をものともせぬダンピングの横行だった。インバウンド貸切バス事業者もこうした流れの中で成長した。この10年で東アジアを中心とする訪日観光客が増大し、その追い風を受けて貸切バス需要が拡大したためだ。実際のところ、規制緩和後の価格破壊がなければ、今日の訪日ツアー客の受け入れは不可能だったかもしれない。

そのしわよせは、岡本さんら運転手の労働環境の悪化につながっている。2008年に国土交通省から出された「一般貸切旅客自動車運送事業に係る乗務距離による交替運転者の配置」の指針により、1日の走行可能な距離が670kmと定められた。その結果、運転手の拘束時間の延長は既成事実化していったという。運転手の1日は、早朝の出庫前に行なう車両点検から客をホテルに送り届けたあとの掃除まで、と深夜におよぶ。現場の思いはどうなのか。岡本さんに尋ねてみた。

――労働時間が長すぎるとは思いませんか?

「1日の時間もそうだけど、去年の8月までは本当に休みもなかった。だから、尖閣で中国客が減って正直ホッとしていたんだよ。ただこのご時世だから、仕事があるだけありがたいと思わなきゃならないしね。俺はなんだかんだいって、この仕事が好きなんだと思うよ」

――でも何か困っていることはないですか?

「そうねえ、悩みのタネは駐車場問題かな。これだけ外国人が観光に来てるのに、都心には駐車場がない。だから、俺たちはいつもウロウロしてないといけないんだから。それと、よく地方でホテルの食事がすんだあと、『夜の街へ繰り出したいから運転手さん連れてってよ』ってガイドに言われることがあるんだ。でも、自分は行かないことにしている。仲間内にはチップをもらえば、どこにでもバスを走らせるという連中もいるようだけど、所定のコースでなければ保険が利かないからね。もし事故ったら終わりなんだよ、この仕事は」

バスツアーと保険の適正化――これも看過されがちだが、インバウンド市場の健全な成長のためには欠かせない課題だ。バス運転手は職業柄、どこか自由人のようなところがあるが、岡本さんのような場数をふんだベテランほど自己防衛の必要を理解しているのだろう。

アジアインバウンドの時代に向けて


――ところで、昔に比べてインバウンドの仕事はどうですか?

「昔はインバウンドといえば、台湾客のことだった。以前は台湾客もひどかったけどね。いまはだいぶおとなしい。韓国ツアー客も中高年のおばちゃんはうるさいけど、これは日本のおばちゃんも変わらないかな。まあ中国以外は車内販売がないからいいね。よく韓国やタイのガイドが、中国のガイドは大変だと言ってますよ。あんな仕事はガイドじゃないって……」

日本におけるアジアインバウンド市場は、1979年台湾の日本観光解禁とともに始まったといっていい。80年代から台湾のインバウンド客を扱ってきた台湾系旅行業者は、「当時インバウンドは嫌われ者だった。日本人客の少ないオフシーズンのホテルの穴埋めのような存在で、『白バス』が当たり前。いまのように、全国各地で歓迎されるなんて考えられなかった」と語る。

一方、中国の日本観光解禁はそれに遅れること約20年後の2000年12月だ。

「これには我々在日アジア系旅行業者も色めきたちました。なにしろ市場は大きい。これから本格的なアジアインバウンド時代が始まる。これまで市場を担ってきた我々の出番だと」

だが、彼らの思惑は数年後に破綻する。中国団体ツアーの常軌を逸した価格破壊のためだ。

「2000年の解禁当時1万8000元(約20万円)で始まった東京・大阪ゴールデンルート7泊8日の日本ツアーが、わずか1年後に半額近くなり、3年後には3分の1になった。この時点で我々は正攻法では中国客を受け入れられないため、手を引くしかなくなった」

ツアーのカラクリについてはすでに説明したとおりだが、2005年頃までには一部の高品質ツアーを除く中国団体ツアーのランドオペレーター事業から、まず日本の旅行大手が手を引き、既存の在日アジア系もそれに続いた。では誰が急増する中国団体ツアー客を引き受けたのか。それは2000年代以降、在日中国人経営者らを中心に立ち上げられた新興ランドオペレーターだった。

こうして一部を除く大半の中国団体ツアーは、日本の旅行業界にとってのアンタッチャブルと化していく。一方、急増する中国人観光客の家電量販店での爆買いシーンが08年頃からマスコミで盛んに取り上げられるようになり、地方自治体や小売業界などを中心にチャイナマネーの取り込みに向けた機運が高まった。その盛り上がりが空前の勢いを見せたのが2010年だったといえるだろう。しかし、その機運も秋には尖閣事件によって冷水を浴びせかけられ、今日に至る。

さて、これから中国団体ツアー市場はどうなるのだろうか。確かに、円高は懸念材料だが、今後は徐々に回復を見せるだろう。だが、本当の課題は、価格破壊によって事実上破損してしまった日本ツアーのクオリティをいかに向上させるかである。

前述の在日中国系のランドオペレーター勤務の女性はこう主張する。

「こんなツアーなら、日本は1回行けばもうたくさん。団体ツアーで来た中国の友人や親族が口々に日本の悪口を言うのが悔しい。なぜ車内販売を取り締まらないのか。日本の行政は野放しにすぎる。数を増やすことばかり考えているからではないか」

確かに、国土交通省が掲げる訪日客3000万人の数値目標に象徴される旅行者数至上主義は、国内の観光産業の実情を知る現場の立場からすると、受け入れ態勢の伴わない時代遅れのそろばん勘定に見えても仕方がないかもしれない。

では、クオリティ向上のためにはどうすればいいのか。利害の絡み合う関係業界すべてに都合のいい特効薬などないが、本稿で詳述してきた「バスの中」の事情をふまえ、アジアインバウンド時代に向けた以下の提言をしたい。

キックバックを原資とした、どう見ても不健全なコスト構造で成り立つ日本行き中国団体ツアーの実情や中国客の蒙る不利益を、中国側にとことん公開し、被害者は中国人消費者であることを広く認識させること。残念ながら、「中国人を騙しているのは中国人である」という構図は、これまで香港や東南アジアで続出してきた状況を知る彼らは、よくわかっていると思う。ただ、そういう話を外国人からされるのは誰でも気分が悪いものである。彼らに冷静な判断を迫るには、日本における訪日客の消費者保護を強化、アピールすることで、彼らの自尊心に訴えかけることだろう。そのうえで、現在の団体ツアーとはまったく異なる高品質の日本ツアーが存在することをわかりやすくアピールすることが必要だ。これよりほかに、ツアー料金の適正化を図っていく手はないのではなかろうか。

そのためにも、尖閣事件でいったんケチのついた中国での外資旅行会社のアウトバウンド解禁は、早く進めてもらわなければなるまい。中国当局もそれが中国人消費者の保護につながることを理解してほしいものだ。

「データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン」(洋泉社) 2011年3月刊行より

[追記]
これは2010年当時の中国団体ツアーの実態です。その後、「悲しい」状況も一部改善されている面があります。

中国「新旅游法」も元の木阿弥―キックバックを原資としたツアー造成変わらず
http://inbound.exblog.jp/24166349/

(2015.2.22)
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by sanyo-kansatu | 2011-11-07 14:45 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)