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2014年 06月 27日

30回 クールな上海の消費者にいかに日本をアピールすべきか?(上海WTF2014報告)

日本政府観光局(JNTO)の6月18日付けプレスリリースによると、2014年5月の訪日外客数は109万7200人。44年ぶりに出国日本人数を訪日外国人数が上回った4月に続く過去2番目の記録となりました。1~5月までの累計もすでに500万人を突破し、過去最高ペースで推移しています。市場別では、中国が第3位(1位は台湾、2位韓国)で前年同月比でなんと103.3%増の16万5800人。昨年9月から9ヵ月連続で各月の過去最高を記録するという勢いだそうです。

これだけ日中関係が悪化し、南シナ海でも紛争が起こるという政治的な異常事態が続くなか、中国客が日本に押し寄せているという状況を、私たちはどう受けとめればいいのでしょうか。中国の海外旅行市場で今何が起きているのか。もっと知る必要があるでしょう。

訪日中国客の最大の送出地は上海です。2014年5月9日~11日に開かれた上海旅游博覧会(WTF2014)に行ってきました。今回は、その視察を通じて中国の海外旅行市場の最近のトレンドを報告します。

上海でも始まったツアー即売会

今回のWTFは、上海市旅游局が主催する16回目の旅行博覧会で、海外旅行市場も含めた博覧会としては11回目になります。


上海では毎年5月にWTFが開催されますが、2年に1度、11月に中国国際旅游産業博覧会(CITM)も開催され、今年の秋はCITMがあります。後者は中国国家旅游局が主催するイベントで、浦東の新国際博覧中心が会場です。国家旅游局主催のイベントだけに、全国から業界関係者が集まるぶん、規模的には後者がはるかに大きいですが、逆にいえば、WTFはローカルなイベントだけに、上海の旅行マーケットの現状が見えやすいともいえます。

では、会場に入ってみましょう。

正面入り口すぐ前の向かって左手に陣取るのは、韓国観光公社のブースです。この博覧会で最も良いポジション取りはここ数年、韓国の定位置となっているそうです。おなじみの韓流イメージを総動員させたプロモーションです。

中韓関係の蜜月化が訪韓中国人観光客を激増させています。現地メディアの新華網も「中国の旅行会社は引き続き韓国への大規模な送客計画を執行する」と報じているようですから、これは既定路線というわけです。中国ではいかに政治が観光と直結しているか、よくわかります。

我国旅行社继续执行大规模向韩国“送客计划”(新華網2014年4月6日) http://finance.china.com.cn/roll/20140406/2314165.shtml

海外からは他にも、タイやバンコク市、フィリピン(中国との関係悪化はここでは関係なしか)、マカオなどのアジア各国・地域、欧州方面ではスイスやエジプトなどが出展していました。

昨年、大盛況だったタイのバンコクや台北での旅行博(24回、25回参照)を見てきたせいか、それらと比較すると、上海のWTFは少し地味に見えなくもありません。以下は公式データです。

出展者数:50の国と地域より570団体が出展(合同出展含む)
出展面積:約15000㎡(前回比16.5%増)※販売エリアの面積は前年比24%増
業界関連来場者(業界エリア来場者数):のべ7948人
一般来場者(一般エリア来場者数):のべ約3万8300人※業界エリア入場者の重複カウントはせず
旅行商品他の現場販売金額:約1801.6万元(前年比33.7%増)

実際、海外からの出展者数は以前ほど多くはないようです。会場には中高年が多く、若い世代の比率はそれほど高くないと感じました。こうしたこともあってか、数年前からWTFでも、タイや台湾と同じように、会場での旅行商品の即売会を始めています。上海の大手旅行会社が、会期中限定の割引商品の販売を行っていました。

上海の海外旅行市場の大衆化を象徴するクルーズ人気

なかでも目立ったのが、クルーズの販売です。昨年さっぱり姿を見せなかった上海発クルーズ船も、今年は福岡などを中心に九州各地を寄港しています。

これは6月30日発サファイア・プリンセス号のセールスボードです。済州島、福岡、長崎を寄港する5泊6日のクルーズで、上海中旅国際旅行社が販売しています。料金はデラックスルームで1名8999元。会期中1部屋4200元のディスカウントをうたっています。

会場にはクルーズの特設イベント会場が設置されていて、旅行会社やクルーズ会社によるPRや懸賞イベントが繰り広げられていました。

上海のクルーズ人気について、日本政府観光局(JNTO)上海事務所の中杉元氏は「最近の上海の旅行会社のファーストプライオリティはクルーズ販売といえます。上海発のクルーズは4泊5日で韓国や九州を寄港するものが主流です。人気の理由は、寄港地でのショッピングが楽しめること。祖父母と親子3世代のファミリーが気軽に参加しやすいこと。船が大きくボリュームがあるぶん料金が安いことにある」といいます。

上海発のクルーズのスタンダードな価格帯は4泊5日で5000元が相場だそうです。この手ごろな価格が人気の理由です。飛行機やバスで移動し続ける旅行は、シニアや子供連れでは大変ですが、クルーズは寄港地での岸上観光以外はのんびり船上で過ごせることで、海外慣れしていない層も参加しやすいからです。

今日の上海における海外旅行の大衆化を象徴しているのがクルーズ旅行です。上海では初めての海外旅行がクルーズというケースもかなり一般的なようです。これは島国に暮らす日本人にはピンとこない感覚かもしれませんが、東シナ海の中心に位置する上海は、数日間で周遊できる近隣国の寄港地がいくつもあり、バリエーション豊かなコースをつくることが可能なのです。

チラシに見る上海人の海外ツアーの中身

中国の海外旅行シーンを手っ取り早く理解するには、現地の旅行会社でどんな海外ツアーのチラシが作成しているかを見るに限ります。

会場で、出展規模や集客状況も含め、最も目立っていたのが、春秋グループでした。展示スペースの中央に旅行即売コーナーを置き、その周辺にビーチリゾート、クルーズ、春秋航空などの展示ブースを並べており、各ブースごとのイベントも次々繰り出されています。
活気あふれる春秋旅行社の即売ブース

同社の即売コーナーでは、黄色いTシャツを着た数十人のスタッフを動員し、旅行エリア別に分かれて来場客相手に接客する熱気に包まれた光景が見られました。

そこで置かれていたツアーチラシの中から目についたものを紹介しましょう。

●ドナウの恋11日間
珍しく情緒的なネーミングのついた商品です。プラハinでウィーンを抜けブダペストout

●クロアチア・スロベニア10日間の旅
フランクフルトinリュブリャナ(スロベニアの首都)out。「アドリア海、魅力の旅。世界文化遺産、グルメ、市街地4つ星ホテル泊」という売り文句が掲げられています。

●トルコ10日間の旅
イスタンブールin-out。「新欧亚之魅―深度全景之旅」。「コンヤ、カッパドキア、イスタンブール、パムッカレ、アドリア」」などを訪ねます。「全行程ショッピング強制なし。純粋な旅行体験を楽しめます」。

●アメリカ16日間の旅
ハワイ、サンフランシスコ、ワシントン、ナイアガラの滝、ニューヨーク、ラスベガス、ロサンゼルスなど、アメリカを大周遊します。中国客にとってカジノのあるラスベガスは欠かせません。

●サイパン5日間8499元から(2014年1月21日25日、29日、2月2日発)
サイパンは中国公民の観光ビザを免除している関係で、人気があります。「親子」「ハネムーン」「ゴルフ」「サンセット」「SPA」「ショッピング」などが楽しめると書かれています。

●86日間世界一周クルーズ
コスタ・ビクトリア号による上海発世界一周クルーズの料金は129999元(約220万円)からです。2015年3月1日発、帰国は5月26日です。初めてのツアー商品らしく、今年いっぱいをかけてクルーズ客を集めるそうです。金額もそうですが、長期休暇が取れる富裕層向けですね。横浜港にも立ち寄ります。

●大阪3泊4日/4泊5日
今年3月15日春秋航空は関空線を就航しました。自社便を利用した大阪、京都、神戸の旅です。

これらのチラシから、今の上海ではそれなりにバリエーション豊かな海外ツアーが販売されていることがわかります。こうした多様な選択肢の中から日本が選ばれるためには、どう差別化して他国との違いをアピールすればいいのか。複眼的に考える必要がありそうです。

春秋旅行社
http://sh.springtour.com/

※シーズンによって航空運賃やホテル料金など変わるので、チラシには料金が書かれていませんが、詳しく知りたい方は、春秋旅行社のサイトをご覧ください。

クールな上海の消費者にいかにアピールするか

最後に、日本からの出展者のブースも見てみましょう。

今回日本からのWTF出展は2年ぶりでした。2012年9月の尖閣問題の影響で、同年11月に上海で開催されていた中国国際旅游交易会(CITM)と昨年5月のWTFへの出展を中国側から断られていたからです。あらゆる民間交流を政治と結びつけるのが中国政府の常套手段ですから、こうしたことが常に繰り返されるわけですが、先ごろ「民間交流と政治は分ける」との中国側の表明もあったばかり。その真意はともかく、こうしてようやく今回の出展に至ったといえます。

もっとも、中国の政治的リスクを嫌って日本企業のアセアン諸国へのシフトが強まるなか、日本の出展者も以前に比べると、かなり少なかったことは確かです。

いくつか目についた出展者に話を聞いたので、ざっと紹介しましょう。まず北海道観光振興機構から。2013年入域外国人数が初めて100万人を突破した北海道は、昨秋から戻ってきた中国客の誘致に今年は力を入れるとのこと。上海地区はFIT比率が高いので、リピーターのための細かい足の手段(JRパス、高速バス)の情報を提供しているそうです。

少し意外だったのは、九州からの出展者がなかったことでした。これまで報告してきたように、上海の海外旅行市場におけるメイン商品はクルーズ旅行です。今年は多くのクルーズ船が福岡港を中心に九州各港に寄港することがわかっています。であれば、せめてクルーズの寄港地だけでもPRに来てもよかったのでは、と思わないではありません。

日本政府観光局(JNTO)のブースでは、上海の旅行会社に交替でブースの一部を貸して日本ツアー商品の販売を行っていました。たとえば、春秋旅行社では自社便を使った佐賀や高松を起点としたツアーなど、特徴的なものもいくつかありました。安さで勝負する旅行会社の販売ブースとは一味違う商品ラインナップが見られましたが、どれだけの入場者に気づいてもらえたか、そこが課題かもしれません。

日本ブースの中でもユニークな存在だったのが、上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)でした。同社は上海にある日本の高級旅館のPR会社です。北海道朝里川温泉の「小樽旅亭 藏群」、長野県昼神温泉の「石苔亭いしだ」、兵庫県宝塚温泉の「若水」、同じく塩田温泉の「夕やけこやけ」、岡山県湯原温泉の「八景」などと提携関係にあるようです。

同社の代表は、張凌藺(愛称:りんりん)さんです。

張凌藺さんについて
http://shanghai-zine.com/topics/442

彼女は「日本宅人」http://blog.sina.com.cn/nihontatsujinという微博を主宰し、上海と日本を往復しながら、訪日旅行のプロモーションに尽力している女性企業家です。彼女が会場でこっそり話してくれた次のことばが、とても印象的でした。

「実は、この会場にいる上海人のうち、うちの旅館を利用してくれるような客層はたぶん2割もいない。それでもブースを出したのは、日本の関係者も含めて、我々の存在を知ってもらいたかったから」

今回出展した日本ブースの中に、彼女ほど上海の旅行市場を正確に理解し、的を得たコメントをしてくれた人物はどれだけいたでしょうか。彼女がターゲットにしているのは、この会場にやって来るような人たちとは異なる別の階層だというのです。

どういうことでしょうか?

今回、WTF内の別会場で行われたフォーラムで、国連世界観光機関(UNWTO)中国代表の徐汎女史による「中国の主要3地区の海外旅行市場」報告がありました。

その中で、徐女史は中国のクルーズ市場を以下の3つにランク分けしています。

①大衆消費層向け…中国発4泊5日、5000元相当(初めてのクルーズ体験)
②ミドルクラス消費層向け…「フライ&クルーズ」、5~10万元(クルーズライフを楽しむ)
③富裕層向け…「フライ&クルーズ」、10万元以上、極地クルーズ(特別な体験を求める)

業界関係者を集めたフォーラムで報告されたのは、明快に区分された上海の階層社会の実像でした。上海の海外旅行の大衆化を象徴しているクルーズ商品のスタンダードな価格帯に比べると、ミドルクラス向けは10倍、富裕層向けは最低でも20倍以上。こうした価格帯は万国共通存在するといえますが、中国の専門家はこれからの海外旅行市場の発展のためには、この階層差を直視せよ、ビジネスチャンスはそこにあると啓蒙しているのです。旅行ビジネスにおいても、厳然とした階層差をふまえたものでなければ成り立たないというのが、彼らの現実認識です。こうした認識は日本人が苦手とするものかもしれません。

今回のWTFでいちばん感じたことは、すでに海外旅行の大衆化の時代を迎えた上海の消費者にとって、現状の旅行博というイベントはもうそれほど目新しくもなく、自分たちを夢中にさせてくれる体験を提供してくれる場だとは思われていないということです。ネットによる情報が行き交うなか、特に若い世代にとって、旅行博でなければ入手できないものはないと考えられているからでしょう。台北やバンコクでは旅行博はお祭りとして盛り上がっていましたが、上海ではどうやらそうでもないようです。

ことほどさように、上海人というのはクールな消費者なのです。その背景には、クールな階層社会の現実があります。上海の消費者に日本をアピールしていくには、大衆層向けのPRだけでなく、中国的な階層社会のリアリティをふまえた戦略が必要となるのでしょう。

次回は、ボリュームゾーンである大衆層の動向予測について。春秋国際旅行社日本出境部経理の唐志亮氏に同グループの訪日旅行戦略を語ってもらいます。

※中国の海外旅行市場についての詳細は、中村の個人ブログ「2014年の中国人の海外旅行、調子はどうですか(上海WTF2014報告その3)」、「春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)」などを参照のこと。
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by sanyo-kansatu | 2014-06-27 08:29 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2014年 06月 09日

インド人の日本旅行の訪問地が東京・大阪プラス広島の理由(アセアン・インドトラベルマート2014その2)

アセアン・インドトラベルマート2014会場で、もうひとり話を聞いた海外バイヤーが、ムンバイから来たNarayan Kabraさんでした。彼はインドのオンライン旅行社Yatra Online Pvt Ltdの社員で、今回初めて来日したそうです。
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Yatra Online Pvt Ltd
http://www.yatra.com

商談の合間に少し時間をつくってもらい、話を聞きました。

―インド人の日本ツアーの一般的なコースとツアー代金の相場を教えてください。

「ツアー期間は1週間で、東京3日、大阪3日、広島1日の滞在が一般的です。ツアー代金は約10万5000ルピー(約30万円)です。航空運賃が高いのが問題です」

―広島を訪ねる理由は何ですか。他のアジアの国ではあまり聞いたことがないからです。

「インド人は第二次世界大戦の歴史に関心がありますから、広島の原爆ドームや平和資料館を訪ねたいと考えているのです」

―日本旅行中、気になることはありますか。

「インド人はヴェジタリアンが多いので、食事の問題があります。ホテルを選ぶ際も、近くにインドレストランがあるのが条件です」

―最近、日本にもインドレストランのチェーン店が増えています。

「今回私もよく見かけました。でも、カウンター席しかない小さなレストランは利用しにくいです。インド人の海外旅行は家族連れが多く、使いづらいし、ビジネスマンもあのようなカジュアルなレストランは使いたがりません」

―なるほど。他には要望はありますか。

「インド人は海外旅行に行くと、ナイトライフを楽しみたいと考えていますが、日本には外国人が楽しめるようなナイトエンターテインメントがほとんどありません。インド人は夜が遅いので、食事を楽しみながら見られるショーなどがあれば、喜んで行くと思いますよ」

話を聞きながら、日本に来た以上、広島には必ず足を運ぶというインド人は、さすがパール判事を生んだ国だと思いましたね。昨年訪日したインド人は約7万5000人といいますから、富裕層やビジネスマンに限られ、基本的に知的な層が大半を占めると思われますが、その国の歴史教育によって観光地の選択も、これほど影響があるものなのだとあらためて思いました。インド向けのプロモーションにおいて、広島をどうPRするか、知恵を絞る必要があるようです。
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by sanyo-kansatu | 2014-06-09 08:59 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 06月 09日

ベトナムからの日本ツアーは6泊7日1600ドルが相場(アセアン・インドトラベルマート2014その1)

6月3~4日にパシフィコ横浜で開かれたインバウンド商談会「Japan Asean+India Travel Mart2014」に行ってきました。
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観光庁と日本政府観光局が主催する今年で2年目のイベントです。東南アジアやインドからの訪日旅行市場の拡大のため、これらの国々から海外旅行を扱う旅行会社(バイヤー)を招聘し、日本からはホテルやレジャー施設などの観光素材を提供するセラーが集まり、合同商談会を行います。公式サイトによると、国内セラー約200社、海外バイヤー約150社(タイ30社、シンガポール10社、マレーシア20社、インドネシア30社、ベトナム20社、フィリピン20社、インド20社)が参加したそうです。

Japan Asean+India Travel Mart2014
http://www.j-asean-india-tm.jp/j

昨年から政府が取り組んできたアセアン諸国に対する観光ビザ緩和により、東南アジアからの訪日客が増えています。

2013年のアセアン諸国の訪日外客数(JNTO統計による)

タイ 45万3600人
シンガポール 18万9200人
マレーシア 17万6500人
インドネシア 13万6800人
フィリピン 10万8300人
ベトナム 8万4400人

2014年6月現在、タイとシンガポール、マレーシアの観光ビザが免除されていますが、7月からインドネシア、フィリピン、ベトナムの免除もいまは報道レベルですが、始まりそうですから、この地域からの訪日客の増加はさらに拍車がかかるものと思われます。
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会場に入ってみましょう。天井の高い展示場スペースに、バイヤーとセラーが分かれてデスクとブースが並び、事前にアポイントを入れた相手と20分刻みで商談をします。
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ある人の紹介で、ベトナムから来たハノイツーリストのLuu Duc Ke社長に話を聞くことができました。社長によると、ベトナムからの日本ツアー(東京・大阪ゴールデンコース)は6泊7日で1600ドル(3つ星ホテル利用)~2000ドル(4つ星ホテル利用)が相場だそうです。ベトナムの旅行シーズンは4月と6月(夏休み)、10月だそうです。昨年8万人を超えた訪日客ですが、今年は12万人を超えるだろうとのこと。7月に観光ビザが免除されれば、さらに増える可能性があるそうです。
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ハノイツーリスト
http://www.hanoitourist.vn/

同社の海外旅行ツアーパンフレット(ベトナム語)をいただきましたが、日本ツアーで掲載されていたのは東京・大阪ゴールデンルートのみでした。社長によると、これまでベトナム人の海外旅行先として人気の高かったタイでクーデターが起き、中国とは関係悪化したことから、2国を避ける動きが強まっているそうです。
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ベトナムにはまだ日本政府観光局事務所はありませんが、レップ(代理事務所)を務めるNhan Phuong代表は次のように語ります。
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日本政府観光局ベトナム代理事務所
http://www.jnto.go.jp/vietnam/

「現在、ベトナム人はアセアン10カ国のみビザ免除されています。台湾や香港、韓国でもまだビザが必要ですから、もし日本で免除となれば、間違いなくベトナム人は日本へ行きたいと思うはずです。日本の魅力は桜や紅葉に代表される自然の美しさ、近代的でありながらとても清潔な国であることです。日本料理も食べたいし、買い物もしたい。ベトナムの経済水準はまだ低いので、リピーターが現れるようになるにはまだ時間がかかりますが、いまのベトナムには日本に行きやすい環境が整い始めています。

今回、ベトナムの旅行関係者はファムトリップで医療機関を視察しました。訪ねたのは、大阪のりんくう総合医療センターや葉山ハートセンターなどです。これまでベトナムの富裕層は医療観光の場合、タイやシンガポールに行く場合が多かったのですが、今回日本の進んだ医療機関を視察してわかったのは、少なくともシンガポールと比べると日本の治療費はそれほど高くはないということです」

現在、日本・ベトナム間には成田・関空からハノイ・ホーチミンに毎日フライトがあり、7月16日からベトナム中部のダナン・羽田線が就航予定です。実は6月4日、ベトナム政府観光局の東京事務所が開設されました。ベトナムとしては世界で初めてのことだそうです。

Nhan Phuong代表は、ベトナムの訪日旅行を後押しする背景として、こんなことも話してくれました。

「政治的なことは多く語りたくありませんが、いまベトナムでは中国に対する反感が高まっています。ですから、ベトナム国内にあふれる中国製品を排斥する動きも強まっています。日本の周辺は反日国と親日国がはっきり分かれていますが、ベトナムは親日以上、尊日の国です。まだまだ時間はかかりますが、もっと多くのベトナム人が日本を旅行できるようにしていきたいし、日本の方もベトナムに来ていただきたいです」

彼の話によると、来日したベトナム人が家電量販店で電気製品を購入しようとしたとき、あまりのメイドインチャイナの氾濫ぶりに唖然とするそうです。せっかく日本に来た以上、メイドインジャパンを買いたいのに、と思ってしまうとか。家電量販店の販売員さんは、相手がどこの国の人かによって、商品の薦め方を変える必要がありそうです。またベトナム人は最近、日本の健康食品も購入するそうです。プロポリスや美白化粧品なども人気で、100円ショップにも必ず行くとか。アジアではどこの国も同じようなショッピング行動が見られるのですね。

気になったのは、今春観光バス不足のため、台湾客を中心に訪日ツアー中止が頻発しましたが、ベトナムでも同様のことが起きていたようです。ベトナムでは、まだ日本の国内事情が知られていないせいか、問題化はされていませんが、ベトナムの旅行シーズンである4月と10月は、バスはもちろん、ホテルの客室がきわめて取りにくいと前述のハノイツーリストのLuu Duc Ke社長も話していました。

バスやホテル不足のため、アジア客の訪日をお断りするような事態が今後も起きそうです。これは大変気がかりな話です。
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by sanyo-kansatu | 2014-06-09 08:49 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 06月 01日

クールな上海の消費者にアピールする方法をもっと考えるべき(上海WTF2014報告その5)

上海旅游博覧会(WTF 2014年5月9日~11日)には、2年ぶりに日本からの出展者もブースを並べていました。
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2012年9月に起きた尖閣諸島問題の影響で、同年11月に上海で開催されていた中国国際旅游交易会(CITM)と昨年5月のWTFへの出展を中国側から断られていたからです。あらゆる民間交流を政治と結びつけるのが常套手段の中国政府ですから、こうしたことが常に繰り返されるわけですが、先ごろ「民間交流と政治は分ける」との表明もあったばかり。その真意はともかく、こうしてようやく今回の出展に至ったといえます。

もっとも、中国の政治的リスクを嫌ってアセアン諸国へのシフトが強まるなか、日本の出展者数も、昨年の台北やバンコクの旅行博に比べると、かなり少なかったです。

日本からの主な出展者は以下のとおりです。

日本政府観光局(JNTO)
北海道観光振興機構
中部広域観光推進協議会
北陸国際観光テーマ地区推進協議会
瀬戸内海共同ブース(組織名不明)
埼玉県上海事務所
横浜市上海事務所
茨城県上海事務所
沖縄観光コンベンションビューロー
全日空上海支店
移動通信
東急グループ
小田急電鉄
名鉄観光
藤田観光
上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)

もしかしたら、漏れがあるかもしれません。日本からというより上海に事務所を置く企業や自治体が出展しているケースもけっこうあるからです。

いくつか目についた出展者に話を聞いたので、ざっと紹介しましょう。まず北海道観光振興機構から。
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2013年入域外国人数が100万人を初めて突破した北海道は、昨秋から戻ってきた中国客の誘致に今年は力を入れるとのこと。上海地区はFIT比率が高いので、リピーターのための細かい足の手段(JRパス、高速バス)の情報を提供しているそうです。
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中部広域観光推進協議会といえば「昇龍道」でしょう。同会の制作したチラシによると、「中部北陸地域の形は、能登半島の形が龍の頭の形に似ており、龍が昇っていく様子を思い起こさせることから『昇龍道』と名づけられました」とあります。
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ここでいう「昇龍道」には、石川、福井、富山、長野、岐阜、滋賀、愛知、三重、静岡の9つの県が名を連ねています。東京・大阪ゴールデンルートと北海道の次に来る「第三」の観光コースとして名乗りを挙げたということのようですが、ちょっと参加県が多すぎて、外国客からすると、イメージが拡散しすぎるきらいがあると思います。もっとコースを絞り込んで、伝えるべきではないでしょうか。いろいろあるよ、では外客には伝わりません。結局、どれがBESTなの? と聞かれるのがおちだからです。
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唯一知名度があるのが、高山黒部アルペンルートでしょう。はっきり言って、昇龍道のメインコンテンツはこれに尽きるといっていいいかもしれません。だとすれば、アルペンルートに絞ってアピールすればいいのですが、そうならないのが悲しいところです。そもそも外国客は単一県を目指して来日することは考えられないので、広域連携は不可欠なのですが、誰とどう連携するかにも戦略が必要です。今後の行方を見守るほかなさそうです。
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もうひとつの広域連携が瀬戸内4県と北九州市の共同ブースです。個性は違えどエーゲ海の魅力に匹敵する(少なくともぼくはそう思っています)瀬戸内海ですが、どうも中国四国の関係者は昔からアピール下手のように思えます。これではただ、うちの県のことを知ってくださいね、に終わっているように見えます。本筋でいえば、最も知名度の高い宮島で売れ、それを集客のメインの顔としていかに瀬戸内海のイメージづくりをしていくべきだと思うのですが、明確な戦略が見えません。単なる仲良し連合では宣伝効果は望めないのに。個別の県のPRも旅行博という場ではほとんど意味がありません。

自治体関係では、インバウンド振興において他県の追随を許さない経験値を持つ沖縄観光コンベンションビューローが入場客を引きつける手法も含め、突出していたと思います。
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東京都に隣接する埼玉県と茨城県、横浜市(ただしすべて上海事務所)も出展していました。このうち、茨城県は春秋航空の最初の日本でのフライト地ですが、上海客のほとんどは東京に直行し、茨城県をスルーしてしまうため、いかに地元で滞在してもらえるか、県のPRが目的でしょう。これがなかなか難しいようです。また埼玉県と横浜市の関係者に話を聞くと、それぞれ共通の悩みと目的を持っていました。ともに東京に隣接していながら、充分に地の利を活かせていないからです。逆に近すぎることで、宿泊地として選ばれることも難しく中途半端なのです。東京を起点になんとか足を延ばしてもらうためにはどうすればいいか、模索中のようです。
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民間企業としては、東急グループや小田急電鉄、名鉄観光、藤田観光などが出展していました。関係者の話をそれぞれポイントだけいえば、東急はいかに渋谷をアピールできるか。小田急は箱根に向かうFIT客をどれだけつかめるか。藤田観光は、ホテルの客室不足が取りざたされる現在、いかに外客の効率的な取り込みを図るかが課題のようでした。

いちばん驚いたのは、九州からの出展者がなかったことでした。これまで報告してきたように、いま上海の海外旅行市場におけるメイン商品はクルーズ旅行です。今年は多くのクルーズ船が福岡港を中心に九州各港に寄港することがわかっています。であれば、せめてクルーズの寄港地だけでもPRに来てもよかったのでは、と思わないではありません。しかし、尖閣問題後の中国の卑劣な仕打ちを受けた九州の関係者が、のこのこと上海に出てくる気にはなれないのかもしれません。そのあたりの事情は関係者に電話で話を聞いただけですが、日中関係はかくも難しく、せっかくどちらかが歩み寄ろうとしても意思のすれ違いが起きてしまうもののようです。

日本ブースの中で最もユニークな存在だったのが、上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)です。浴衣姿の上海の女の子がふたり、キャンペーンガールのようにいるのですが、ぼくも最初はどういう会社なのか、よくわかりませんでした。
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ブースにいたスタッフに聞くと、同社は上海にある日本の高級旅館のPR会社だそうです。北海道朝里川温泉の「小樽旅亭 藏群」、長野県昼神温泉の「石苔亭いしだ」、兵庫県宝塚温泉の「若水」、同じく塩田温泉の「夕やけこやけ」、岡山県湯原温泉の「八景」などと提携関係にあるようです。
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ところが、話を聞いていくうちに、同社のボスはぼくのよく知っている上海の友人であることがわかってきました。その人とは、上海スマートビジネスコンサルティングの総経理、張凌藺(愛称:りんりん)さんです。

上海スマートビジネスコンサルティングと張凌藺さんについて
http://shanghai-zine.com/topics/442

実は、彼女と知り合ったのはもう8年くらい前で、現在の会社を起業する前に東京に来た彼女を秋葉原に案内したこともありました。彼女の仕事のベースになっているのは、学生時代の日本のアニメ体験でした。彼女は、いわゆる「80后(80年代生まれ)」の代表的な中国人といってもいいかもしれません。以下の記事に登場してくれています。

上海の若者がアキバへ社会科見学~宿題は「なぜ中国でアニメの産業化が進まないか?」(NBOnline2008年5月20日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080516/157149/

さて、それはともかく、彼女はいまや企業家として、あるいはブロガーとして上海と日本を往復し、訪日旅行のプロモーションに貢献しています。そんな彼女が会場でぼくにこっそり話してくれた次のことばが、とても印象的でした。

「実は、この博覧会に入場してくる上海人のうち、うちの旅館を利用してくれるような客層はたぶん2割もいない。対象としているのは富裕層だからです。それでも今回ブースを出したのは、日本の関係者も含めて、我々の存在を知ってもらいたかったから」

今回出展した日本ブースの中に、彼女ほど市場を正確に理解し、鋭く的を得たコメントをしてくれた人物は、どれだけいたでしょうか…。
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最後に、日本政府観光局(JNTO)のブースを紹介しましょう。今回のWTFの特徴は販売色が強まったことです。そこで、JNTOのブースの中でも、上海の旅行会社に交替でブースの一部を貸して日本ツアー商品の販売を行っていました。
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なにしろJNTOの作成したパンフレットも、旅行会社のツアー商品の紹介が大部分を占めています。春秋旅行社は自社便を使った佐賀や高松を起点としたツアーなど、特徴的なものもいくつかありました。安さで勝負する旅行会社の販売ブースとは一味違う商品ラインナップが見られましたが、どれだけの入場者に気づいてもらえたか、そこが課題かもしれません。
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10年ぶりに視察した今回のWTFでいちばん感じたことは、すでに上海の消費者にとって旅行博というイベントはもうそれほど目新しくもなく、自分たちを夢中にさせてくれる体験を提供してくれるとは思われていないということです。ネットによる情報が行き交うなか、旅行博でなければ入手できないものはそれほどないと考えられているからでしょう。特に若い世代にとって。馬英九総統が開幕のあいさつに現れるという台湾の旅行博とは盛り上がりが違うのです。台北やバンコクでは旅行博はお祭りでしたが、上海ではそうでないようです。

ことほどさように、上海人というのはクールな消費者です。そんな彼らに効果的にアピールしていくには、それなりの知恵が必要となるでしょう。それが何なのか。もっと多くの関係者に話を聞いて見る必要があると思った次第です。
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by sanyo-kansatu | 2014-06-01 22:37 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 28日

2014年の中国人の海外旅行、調子はどうですか(上海WTF2014報告その3)

海外の旅行博覧会の視察で見逃せないのは、展示会場とは別のステージで行われるフォーラムです。今回の上海旅游博覧会(WTF)のフォーラムのテーマは「海外旅行のリスクマネジメント」でした。5月9日午後1時半から行われました。
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昨年10月中国では「新旅游法」が施行され、旅行業界では消費者に対する旅行サービスの質の確保や安全面での保障が強く求められる時代になったといわれています。

もっとも今回のフォーラムで目立ったのは、むしろ(相変わらずというべきか)いかに中国の海外旅行市場が躍進しているかを伝える報告だったと思います。
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冒頭の「中国出境旅游三大区域市场报告(中国の主要3地区の海外旅行市場レポート)」はまさにそうした内容でした。報告者は、国連世界観光機関(UNWTO)の中国代表の徐汎女史です。以下、簡単に彼女の報告を整理してみたいと思います。
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ここでいう「主要3地区」とは、華中(上海、浙江省、江蘇省)と北京、広東(広州と深圳)を指しています。つまり、ここに挙げた地域が中国の海外旅行市場をけん引しているのです。

まず徐女史は、ヨーロッパ旅行について話を始めます。これまでの中国人のヨーロッパツアーは、英仏独伊あたりを団体で周遊するのが一般的(日本の1970年代のロンパリローマの旅と同じ)でしたが、これからは特定の一国を訪ねる旅が主流になりつつあるといいます。ヨーロッパは国によって個性が違うため、一人ひとりの旅行者が何を求めるかによってどの国を訪ねるか選ぶべきだといいます。
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※中国人のヨーロッパ各国のイメージの違いは、旅行会社のつくるちらしによく表れています。統計と合わせてみると面白いと思います→「春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)」

次に、旅行スタイルの話題です。中国の海外旅行市場が年々進化していて、そのプロセスは「普及游」→「深度游」→「自由行」という流れにあるといいます。目的地も最初はヨーロッパの主要国だったが、現在では中南欧、東欧、北欧へ広がっているといいます。
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なかでも「自由行」が進んでいるとし、その特徴は「個性化」だといいます。まあこれはどこの国でも起こることなのですが、中国人にとって(あとで触れることになりますが)「自由行」の障害となっているのがビザ問題です。

2013年、348万人の中国人がヨーロッパを訪れたそうです(前年度比11.16%増)。そのため、ヨーロッパの旅行業界はいかに中国客を受け入れるか検討しているといいます。思うにいまのヨーロッパは、日本の2008年頃の感じに似ているのではないでしょうか。大挙して訪れる中国客の購買力に驚き、これまでの受け入れ態勢を再考する必要を考え始めたというわけです。
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中国客の質的変化は次のように表現されています。

「不再是逛景点(もう名所を巡るだけではない)」

「购物,而是一种生活方式和体验(ショッピングも一種の生活様式と体験となっている)」

「团队越来越少,很多情侶和小团体,喜欢体验式旅游(団体はますます減り、カップルや小団体が多い。体験旅行を好む)」

「新一代旅客;比较年轻,受教育程度良好,旅游经验丰富,喜欢按自己的兴趣和需求规划行程;把旅游当做一种自我投资,乐于在微博社交媒体上展示(新世代の旅行社は比較的若く、教育程度も高い。旅行経験も豊富。個人的な趣味を追求した計画を立て、旅行を一種の自己投資とみなしている。微博(SNS)を通じて社交を楽しむ)」
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これもとりたてて新しい指摘ではありませんが、いわんとするところは、中国人も先進国の人たちと同じように海外旅行をしていますよ、という話です。
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次に、注目ディスティネーションが紹介されます。たとえば、アメリカですが、先に挙げた主要3地区のうち、北京が圧倒的トップで、次が広東。最も増えているのは江蘇省で前年度比25.22%増。上海はなぜか前年度比14.9%減となっています。こういうところにも、物見遊山だけでは気がすまない北京人の気質がわかります。教育熱の高い中国らしく、アメリカ東海岸の名門大学を訪ねて回るツアー商品もあるほどです。

さらに最近渡航者が増えているのはニュージーランドです。特に広東省の伸びが高い。モーリシャスも増えています。特に2012年からの伸びが顕著です。
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アフリカも中国人の人気ディスティネーションになりつつあります。やはりトップは北京。約12万人の渡航者数で、前年度比65.1%増です。ディスティネーション選びに関しても、実質や享楽を重視する華中や広東の人たちと比べ、北京の人たちはロマンある「個性的」な旅を好む傾向が強そうです。
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興味深いのは、主要目的地の渡航者数の前年度比を示すグラフによると、ことさら触れられることはありませんでしたが、トップは日本47.7%増。次いでベトナム40.4%増、インドネシア39.5%増、韓国33.2%増、フランス31.9%増です。大きく減らしているのがカンボジア50.1%減で、タイやマレーシアも減少傾向にあるようです。おそらく新旅游法(タイの場合)や航空機事故(マレーシアの場合)などが考えられます。きっと今後はベトナムも減少するでしょう。日本の場合は、尖閣諸島沖事件で2012年秋以降激減した反動が出ていると思われます。
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さて、話題は展示ブースでも目立っていたクルーズの話に移ります。徐女史によると、2012年は「大型船時代」、13年は「戦国時代」だといいます。つまり、2010年前後から本格化した上海発のクルーズ旅行(一部天津発もある)も、12年には客船の大型化が進み、13年にはさまざまなクルーズ会社が競うように参入してきたというわけです(詳しくは「上海WTF2014報告その2」参照)。
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中国のクルーズ市場は以下の3つに分けられるそうです。

①大衆消費層向け…中国発、4泊5日、5000元相当(初めてのクルーズ体験)
②ミドルクラス消費層向け…「フライ&クルーズ」、5~10万元(クルーズライフを楽しむ)
③富裕層向け…「フライ&クルーズ」、10万元以上、極地クルーズ(特別な体験を求める)
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特に③の北極&南極クルーズが今年の目玉だそうです。前者は6万5000元から、後者は12万元からです。これが実際の南極クルーズの旅行チラシです。
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他にもさまざまな富裕層向けの旅が紹介されていました。特に珍しいものはありませんが、いまの中国人にとって強い憧れの対象となっていることがわかります。

最後に触れられるのがショッピング行動です。以下の3つの変化を示しているそうです。
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①他需 → 自需(知人へのお土産から自分のために)
②从众 → 个性(大衆的なものから個性的なものへ)
③欧州 → 亜州(ヨーロッパからアジアへ)

①と②はわかりますが、③はどういう意味なのか。昨年、中国客がパリのルイヴィトン本店に大挙して押し寄せ、床や階段に座るやら大声で話すやら、みっともない姿が中国メディアでさんざん批判的に報じられたこともあったせいか、これからのショッピングはアジアでスマートに、ということでしょうか。その本丸は韓国のようです。きっとこれも中韓の蜜月時代を象徴しているのでしょう。「韓国はショッピング天国」だそうです。
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こうして中国の海外旅行市場にまつわるさまざまなトピックスが紹介された報告でしたから、2014年現在の中国人の海外旅行の内実がそれなりにつかみやすい内容だったと思います。ただし、前述したように、中国人にとって世界各国のビザ緩和の状況は不満であり、大きな関心事となっています。ちょうど今年は中仏国交50周年だそうで、フランスの中国公民に対するさらなるビザ緩和が進むことが期待されていました。
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同フォーラムのパンフレットには、こう書かれていました。

「2013年中国公民の出境総数は9819万人で前年度比18%増、今年14年には1億1000万人に達するであろう。現在、中国公民に対するビザ免除待遇を実施している国家は45となった」

ただし、その中には先進国はほぼ含まれていません。中国のビザ免除を実施している国については別の回で。

※なぜ世界は我々に対してこんなに厳しいのか?~中国の最大の関心事はビザ緩和
http://inbound.exblog.jp/22733072/
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by sanyo-kansatu | 2014-05-28 13:37 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 27日

上海の海外旅行市場の大衆化を象徴するクルーズ人気(上海WTF2014報告その2)

前回、上海旅游博覧会(WTF)の会場の様子をざっくり紹介しましたが、そこでも述べたように、全体として他のアジア各国の旅行博覧会に比べ派手さはなかったものの、販売ブースはそれなりに活況を呈していました。

なかでも目立ったのが、クルーズの販売です。昨年さっぱり姿を見せなかった上海発クルーズ船も、今年は福岡などを中心に九州各地を寄港しています。
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これは6月30日発サファイア・プリンセス号のセールスボードです。済州島、福岡、長崎を寄港する5泊6日のクルーズで、上海中旅国際旅行社が販売しています。料金はデラックスルームで1名8999元。会期中1部屋4300元のディスカウントをうたっています。
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これは7月17日発の同じくサファイア・プリンセス号の広告です。上海錦江旅行社の販売で、1名7880元からとあります。
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7月1日発4泊5日で済州島、福岡に寄港するコスタ・アトランティカ号の広告です。市場価格は4200元からですが、この広告を出しているネット旅行社の驴马马旅游网のスペシャルプライスは隠されています。
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コスタ・クルーズ社の86日間の世界一周クルーズも大々的に販売されていました。ここには料金が表示されていませんが、春秋旅行社のちらしによると、12万9999元(約220万円)からとのことです。
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コスタ・クルーズ社の世界一周クルーズは上海市内の街場の旅行会社の店舗でも販売されています。
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極めつけは、セレブリティ・インフィニティ号の22日間南極クルーズです。上海からブラジルに飛び、イグアスの滝など数日間ブラジルを観光した後、南米各地を寄港しながら南極を訪ねるものです。上海東航国際旅行社が販売していました。
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クルーズ各社のブースも出展していました。まず人気のプリンセス・クルーズ社です。
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台湾と那覇の定期クルーズを運航しているスタークルーズ社です。
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ネット旅行会社によるクルーズ販売ブースもありました。
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会場にはクルーズの特設イベント会場が設置されていて、30分おきに各旅行会社やクルーズ会社によるPRや懸賞イベントが繰り広げられていました。
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ここ数年、上海WTFでは展示会というより販売色が強くなっているようですが、いまの上海の旅行会社のファーストプライオリティはクルーズ販売です。

上海のクルーズ人気について、日本政府観光局(JNTO)上海事務所の中杉元氏は「上海発のクルーズは4泊5日で韓国や九州を寄港するものが主流です。人気の理由は、寄港地でのショッピングが楽しめること。祖父母と親子3世代のファミリーが気軽に参加しやすいこと。船が大きくボリュームがあるぶん料金が安いことにある」といいます。

上海発のクルーズは3つのランクに分かれていて、スタンダードな価格帯は4泊5日で5000元が相場のようです。この手ごろな価格が人気の理由です。飛行機やバスで移動し続ける旅行は、シニアや子供連れでは大変ですが、クルーズは寄港地での岸上観光以外はのんびり船上で過ごせることで、海外慣れしていない層も参加しやすいのでしょう。
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これはコスタクルーズ社が発行している小冊子(出行指南)です。時間帯ごとに服装を替えるようイラストで提案しています。
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これは上海の情報誌「Time Out」2014年5月号に掲載されていたマリナー・オブ・ザ・シーズの紹介記事です。同船は今年2回日本に寄港する予定です(6月19日発:福岡、長崎、10月21日発:境港、福岡、長崎)。

上海のクルーズ旅行市場を見ていると、日本では海外旅行といえば、飛行機に乗るものと相場は決まっていますが、それは島国という地勢上の要因からくるものにすぎないことにあらためて気づかされます。いまでこそ日本でも「フライ&クルーズ(特定の寄港地まで飛行機で飛んで、短期間のクルーズを楽しむ旅)」や「格安クルーズ」も商品化されていますが、もともと豪華なイメージがつきものでした。

一方、上海では海外旅行市場の大衆化を象徴しているのがクルーズ旅行といえそうです。つまり、上海では初めての海外旅行がクルーズというケースもかなり一般的なのです。確かに、東シナ海の中心に位置する上海は、数日間で周遊できる周辺国の寄港地がいくつもあり、バリエーション豊かなコースをつくることが可能です。

上海発のクルーズ船の多くは欧米のクルーズ会社によるものです。ポテンシャルの大きい上海市場が注目されているのは当然でしょう。主なクルーズ船は以下のとおりです。

「コスタ・アトランティカ」(伊)
http://www.costachina.com/B2C/RC/Default.htm
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_costa_atlantica.htm

「ダイヤモンド・プリンセス」(英)
http://www.princess.com/learn/cruise-destinations/asia-cruises/
http://www.princesscruises.jp/ships/diamond-princess/

「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」(英)
http://www.rcclchina.com.cn/
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_vy1.htm

「セレブリティ・ミレニアム」(米)
http://www.celebritycruises.com/home
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_cel_millennium.htm

なお上海発クルーズで最も多い日本の寄港地は福岡。次いで、鹿児島、那覇、長崎の順です。今年の寄港スケジュールは以下を参照ください。

博多港
http://port-of-hakata.city.fukuoka.lg.jp/guide/cruise/index.html

鹿児島港
https://www.pref.kagoshima.jp/ah09/infra/port/minato/cruising/h26nyukouyotei.html

那覇港(那覇港管理組合)
http://www.nahaport.jp/kyakusen/nyuukouyotei2014.htm

長崎港
http://www.jopa.or.jp/port_detail/nagasaki.html
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by sanyo-kansatu | 2014-05-27 09:52 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 26日

バンコクや台北に比べて地味だった上海旅行博(上海WTF2014報告その1)

2014年5月9日~11日に開催された上海旅游博覧会(WTF2014)に行ってきました。実は、WTFに行くのは2004年以来なので10年ぶりです。

日本政府観光局(JNTO)の5月23日付けプレスリリースによると、2014年4月の訪日外客数は3月に続き単月で過去最高の123万2000人。市場別では、中国が第3位(1位は台湾、2位韓国)で前年度比90.3%増の19万600人、昨年9月から8カ月連続で各月の過去最高を記録するという勢いだそうです。

これだけ日中関係が悪化し、南シナ海でも紛争が起こるという政治的な異常事態が続くなか、まるでこの程度のことは慣れっことばかりに、中国客が日本に押し寄せているという状況は、とても興味深いというほかありません。その最大の送客地はもちろん上海です。昨年11月に訪ねたばかりでしたが、中国の海外旅行市場にどんなことが起きているのか、あらためて旅行博の様子を視察してみたいと考えたのです。
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小雨まじりのどんよりした曇り空の5月9日午後、会場に到着しました。以前はWTFといえば、上海市郊外にある浦東の新国際博覧中心で行われていましたが、数年前から市内中心部・静安寺にある上海展覧中心で行われています。

今回のイベントは、上海市旅游局が主催する16回目の旅行博覧会で、海外旅行市場も含めた博覧会としては11回目になります。以下は公式データです。

出展者数:50の国と地域より570団体が出展(合同出展含む)
出展面積:約15000㎡(前回比16.5%増)※販売エリアの面積は前年比24%増
業界関連来場者(業界エリア来場者数):のべ7948人
一般来場者(一般エリア来場者数):のべ約3万8300人※業界エリア入場者の重複カウントはせず

上海では毎年5月にWTFが開催されますが、2年に1度11月に中国国際旅游産業博覧会(CITM)も開催され、今年の秋はCITMがあります。後者は中国国家旅游局が主催するイベントで、浦東の新国際博覧中心が会場です。国家旅游局主催のイベントだけに、全国から業界関係者が集まるぶん、規模的には後者がはるかに大きいですが、逆にいえば、WTFはローカルなイベントだけに、上海の旅行マーケットの現状が見えやすいともいえます。
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会場入り口には、展示場内で催される各国政府観光局のPRイベントや旅行商品の即売会、オークションなどの各種イベントのスケジュールが告知されています。
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会場は、上海万博を機に相次いでつくられた展示会場に比べると、こぢんまりとしたコンパクトなスペースです。建物の前身は1954年に建てられた「中ソ友好大廈」で、展示場として使われるようになったのは1984年。上海で最も古い展示場ですが、スターリン時代に特徴的な中心に高い尖塔を置いたユニークなデザインがひときわ目立っています。
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正面入口から入ってみましょう。中央部の丸いドームの鶯色の天井とそこから吊り下げられたシャンデリア、正面の華麗な透かしとレッドスターといった時代がかったデザインが実に魅力的な空間です。
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向かって正面左手に陣取るのは、韓国観光公社のブースです。この博覧会で最も良いポジション取りはここ数年、韓国の定位置となっているそうです。
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おなじみの韓流スターを総動員させたプロモーションです。あとで訪ねる日本のブースと違っているのは、韓国が「be Inspired」というワンテーマかつオールコリアでPRに取り組んでいることです。
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韓国の観光PR写真では、桜も躊躇なく使われます。なにしろ東日本大震災の年には、「桜を見るなら韓国へ」と堂々とPRしていたくらいですから。
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スキーリゾートのPRも韓流タレントの映像を見せています。

中韓関係の蜜月化が訪韓中国人観光客を急増させています。新華網も「中国の旅行会社は引き続き韓国への大規模な送客計画を執行する」と報じているようですから、これは既定路線というわけです。中国ではいかに政治が観光と直結しているか、よくわかります。

我国旅行社继续执行大规模向韩国“送客计划”(新華網2014年4月6日)
http://finance.china.com.cn/roll/20140406/2314165.shtml

海外からは他にも、タイやバンコク市、フィリピン(中国との関係悪化はここでは関係なしか)、マカオなどのアジア各国・地域、欧州方面ではスイスやエジプトなどが出展していました。
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海外からの出展者がずいぶん少ない印象です。
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とりたてて目立ったブースはありませんでしたが、目についたのは、中国人の観光ビザが免除となったサイパンでしょうか。どおりで最近のサイパンは中国客だらけなわけです。
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いちばんにぎわって見えたのが、台湾のブースだったように思いました。さまざまな懸賞やプレゼント企画を実施していて、ブースの周辺には人だかりが絶えません。
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台湾観光のひとつの売りが「農業観光」です。実は、香港からも多くの観光客が農業体験をするために台湾を訪れていますが、香港同様高層ビルが林立する上海でも、自然体験は大きな魅力となることでしょう。
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これはここだけの話ですが、台湾ブースの中に中華民国国旗が目立たぬように掲げられているのを見つけてしまいました。やりますね。

それにしても、最近の上海WTFというのはこの程度のイベントなんですね……それが正直な印象でした。昨年、タイのバンコクや台北での大盛況な旅行博を見てきただけに、とても地味に見えてしまいます。会場には中高年が多く、若い人はいないことはありませんが、比率はあまり高くないと感じました。

もちろん、これは上海市ローカルのイベントですし、今年で11回目ということもあり、飽きっぽい上海の人たちは、展示ブースが並ぶだけのイベントにそれほど大きな期待感を持たなくなったこともあるでしょう。海外旅行の情報だけなら、ネットでもっと詳しく知ることができると考えられているかもしれません。

こうしたこともあってか、WTFでも数年前から、タイや台湾と同じように、会場での旅行商品の即売会が始まっています。上海の大手旅行会社が、会期中限定の割引商品の販売を行っていました。さすがに、展示ブースに比べ、販売ブースは熱気にあふれていました。

公式発表によると、旅行商品及び旅行関連商品、美食などの現場販売金額:約1801.6万元(前年比33.7%増)といいます。

以下、上海錦江旅行社、上海中旅国際旅行社、上海青年旅行社のブースです。
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上海錦江旅行社 http://www.jjtravel.com/
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上海中旅国際旅行社 http://www.ctish.cn/

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上海青年旅行社 http://www.scyts.com/
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これはネット旅行社の驴马马旅游网(http://www.lvmama.com/)です。中国ネット大手のC-Tripのブースは見当たりませんでした(ただし、特設ステージでのPRイベントには参加していたようです。ブースを出すことに意味はないという合理的な判断からでしょうか)。
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日本ツアーの即売も多数見つかりました。これだけ「立減(値引き)」しているぞ、と強調されています。
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販売ブースの中で最も活気があったのが春秋旅行社でした。スペースも最大規模で、中央に旅行即売コーナーを置き、その周辺にビーチリゾート、クルーズ、春秋航空などの展示ブースを並べており、人のにぎわいも他を圧しています。
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春秋グループといえば、昨年日本の国内LCCとして春秋航空日本を設立するなど、訪日旅行に積極的に取り組んでいることで知られています。今年3月には上海・関空線も就航。夏には関空線を大幅に拡大し、天津、重慶、武漢からの就航も予定されています。彼らの訪日旅行に対する考え方については、関係者に話を聞くことができたので、別の機会で紹介したいと思います。
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※訪日路線の加速と国内線拡充で訪問地の分散化を図る~春秋旅行社日本部インタビュー
http://inbound.exblog.jp/22743078/
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by sanyo-kansatu | 2014-05-26 12:21 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 30日

HISのグローバル戦略の最前線がバンコクである理由

今年8月、タイのインターナショナル・トラベル・フェア(TITF2013)の視察の折、HISバンコク統括支店長の話を聞くことができました。今年、タイからの訪日客が増えた背景に、ビザ緩和や円高是正があったことは確かですが、民間企業の精力的な取り組みが大きく貢献していると思います。

なぜ同社のグローバル戦略の拠点はタイなのか。日本と同様、市内交通機関の中はスマホを手にした乗客であふれるバンコクで、あえて旅行店舗の出店を加速する意外な理由について。以下、今月中旬に刊行された産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」に掲載したインタビュー記事を採録します。
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日本を取り巻くグローバルな観光マーケットが急成長するなか、日本の旅行業はどこに向かうべきか。ひとつのカギは「ツーウェイツーリズム」にある。それを地道に実践しているのがHISだ。

2013年8月中旬、タイの首都バンコクで開催されたタイ・インターナショナル・トラベル・フェア(TITF)の会場で、同社のグローバル戦略の現在について中村謙志バンコク統括支店長に話をうかがった。

この国では我々の知名度はない

中村さんがバンコクに赴任し、タイのローカル市場に取り組んで13年で4年目。その手始めが、国内外の旅行会社が集まる展示即売会のトラベルフェアへの出展だった。「この国では我々の知名度はない。HISといってもタイ人は誰も何の会社か知らない。ゼロからのスタートでした」という。
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初年度は小さなブースで、扱ったのは航空券とJRパスだけ。その後、本格的にツアーを造成し、ブースもだんだん大きくした。今回の展示即売の目玉商品は、就航したばかりのチャーター航空会社アジア アトランティック エアラインズ(AAA)を利用した大阪・東京ゴールデンルート。「4泊6日・29999バーツ(約9万3000円)という破格の料金で売り出したところ、1000名が完売でした」。
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旗艦店となるトラベルワンダーランドで年間通じて売れているのは、航空券+ホテル(+JRパス)。自由旅行の商品だ。一方ソンクラーン(タイの旧正月)の4月とスクールホリデー(夏休み)の10月の年2回のピークシーズンは、添乗員同行の団体ツアーが人気だ。

売れ筋は、東京、富士山、箱根の5日間、東京・大阪ゴールデンルート、大阪・京都5日間、北海道(道南)の順。最近、北海道でレンタカーを利用するタイの個人客も現れたという。「タイ人は普段から日本車に乗り、左側車線の国ですからね」。

バンコクの出店を加速する理由

ネット予約の普及などビジネス環境の変化で、日本では旅行店舗の整理縮小が進んでいるが、バンコクで出店を加速するのはなぜか。そこには意外な理由があった。

「ローカルを取り込む戦略の軸は店舗展開です。なぜなのか。広告効果が大きいからです。場所はスカイトレインの駅構内やショッピングセンターなど、消費者に目につきやすい場所限定です。実は、バンコクでは一等地に広告を出すのと家賃にかかるコストはたいして変わらない。であれば、店舗を出そう。ただし、常駐スタッフは1、2名の『KIOSK店舗』。それを量産することで、我々の存在を知ってもらう」。
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店舗ではHISの海外旅行商品のパンフレットを大量に用意している。タイでは、日本のようなセールスカウンターのある旅行店舗は少なく、パンフレットは流通していない。誰もがスマホを手にする時代でも、細かく旅行日程が書かれた紙のパンフレットはタイ人に好評だという。

一方、タイには旅行業法や約款が存在しない。キャンセルチャージも個々の旅行会社の裁量に任されている。「震災のような有事にガイドラインがないと困るが、HISは日本の会社だから信用できるといってくださるお客様が増えている。タイにはメイド・イン・ジャパンへの信認がある」と中村さんはいう。

ローカル客を取り込むためには、タイ人を理解することが不可欠だ。

「タイのお客様がどんな旅を望んでいるか、日本人の私はどんなに勉強してもわからない。だから、添乗にもよく同行します。お客様が何を喜んでいるのか、おいしいと思うのか、どの風景をバックで写真を撮りたいのか。勘が鈍るのはいちばんまずい」。

いくつかわかってきたことがある。「タイ人はタバコが嫌い。ほとんどの人が吸いません。ところが、日本のホテルはタバコ臭い。ですから、ホテルの手配は禁煙ルームが絶対条件です。タバコを吸えるレストランも選びません。タイのお客様は日本食好きで、滞在中すべて日本食でもいいのですが、気をつけないといけないのは生もの。タイで出回っているお寿司のネタは限られています。お店が気を利かしたつもりで珍しいネタを出しても、生ダコなどは気持ち悪がって決して食べようとしない。全員残すこともよくある。もし本当にタイのお客様を受け入れたいと思うなら、タイ人を理解して細かい気配りが必要です」

タイでは旅番組の影響が大きいこともわかった。「いい例が、いまタイ人が多く訪れている白川郷や高山、富良野のラベンダー、岩国の錦帯橋、瀬戸内のしまなみ街道、指宿温泉の砂蒸し風呂など」。「ある日、局地的な人気が起こる」だけに、訪日プロモーションはテレビを活用するのが効果的だという。

なぜタイが拠点として選ばれたのか

では、HISの海外戦略においてなぜバンコクが最前線の拠点として選ばれたのか。中村さんはこう即答する。「タイには大きなコンペティターがいないからです」。

重要拠点を選ぶ条件は、これから伸びる市場。しかも、インバウンドからアウトバウンドに旅行マーケットが移り変わる時期で、大手エージェントが不在の国。それがタイ、インドネシア、ベトナムだという。 

日本の旅行業界は一見国際的なイメージがありながら、実はドメスティックな体質が残っている。早くから海外で売上を生み出してきた製造業に比べ、海外営業所がありながら、売上に貢献してはいなかった。

「海外拠点をつくり、日本のお客様をきちんとご案内する。これが第一ステップ。でも、その役目だけで終わらせてはもったいない。企業のグローバル化はローカルに根付かなければ意味がない。それぞれの国でHISを発展させる。私はタイを任されていますが、インドネシアやベトナムに赴任した同僚もそう思っている。いまではHISジャカルタ支店で集客したインドネシア客をバンコク支店がインバウンド業務として受ける。またシンガポール支店とも、という日本をまったく介さないビジネスも始まっています」。

これはもはやツーウェイではない。マルチウェイツーリズムとでもいえばいいのか。いまHISバンコク支店で起きている仕事の現場を通じて、新しい旅行業の未来が見えてくる。


中村謙志(なかむら・けんじ)
1996年入社。いくつかの国内支店を勤めた後、「グローバル化戦略の一期生」として2009年、トラベルワンダーランド立ち上げのためにバンコク赴任。初めての海外駐在だった。支店長として現在にいたる。「目標は、タイでナンバーワンのトラベルエージェンシーになることです」。 

※産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」p70~P73より抜粋http://sangakusha.jp/ISBN978-4-7825-3376-5.html
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by sanyo-kansatu | 2013-12-30 09:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 26日

26回 祝!訪日外客1000万人達成。その理由と来年の展望は?

12月20日、成田空港で訪日外国人旅行者1000万人の達成を記念するセレモニーがありました。太田昭宏国土交通省大臣は「東日本大震災もあり、政府目標だった2010年から3年遅れたが、東京オリンピックの開催される2020年には、さらなる高みの2000万人を目指したい」とコメント。インバウンド関係者のこれまでの努力が報われる日が来たことを心から喜びたいと思います。
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1000万人目となったのは、タイから来たパッタラプラーシットご夫妻。「今年来日するのは3回目。ニューヨークに留学した娘と日本で合流し、北海道でスキーをする予定です」とのこと。タイ人観光客の存在感が目立ったこの1年でした。
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今年は、富士山のユネスコ文化遺産登録やオリンピック開催決定、また今月に入り「和食」の無形文化遺産登録も決まり、訪日外客数の統計も毎月のように過去最高を更新。関係者を大いに勇気づけました。.

ポスト訪日外客1000万人時代を迎えたいま、2013年の総括とともに、今後の課題や展望について整理してみたいと思います。

1000万人達成、観光庁の公式見解は

まず今年の総括です。11月27日~29日、横浜みなとみらいのパシフィコ横浜で開かれた「Visit Japan Travel Mart 2013」の報告から始めましょう。トラベルマートは、海外の旅行会社やメディアを招聘して行う観光庁主催のB2B商談会です。

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トラベルマート2013開会式

主催者発表によると、今回海外から304社(21カ国・地域)の日本旅行を企画販売している「バイヤー」が来日。彼らに日本を売り込む国内の観光業者や自治体などの312社・団体が出展したそうです。

トラベルマートでは、毎回恒例の外国人記者を集めた会見があります。この日の報告は、観光庁参事官による「日本のインバウンドツーリズム促進のための対応措置」というものでした。

そこでは、今年訪日客が過去最高となった理由として以下の4つの点を挙げています。

①アセアン諸国を対象としたビザ緩和
②円高是正
③オープンスカイにともなう国際線フライトの増加
④日本の景気回復(Japan is back!)
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オープンスカイ協定によって羽田や成田の航空供給量が大幅に増加した

このうち①②はすでに指摘されているとおりですが、③については、特に台湾、香港、そして東南アジア諸国からの新規フライトが大幅に増えたことが大きかったといえます。島国である日本では航空供給量が拡大しなければ訪日客を増やすことはできないからです。それを後押ししたのが、台湾など近隣諸国と結んだオープンスカイ協定でした。

④については、その評価をめぐって議論はありますが、結局のところ、①②③の相乗効果によって、これまで敷居の高いと見られていた日本が行きやすい国になったというイメージがアジア各国に広く伝わったことが大きかったと思います。そのイメージを実感させる円安やビザ緩和が効果的に結びついたといえそうです。
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実は、「Visit Japan Travel Mart」は今年で最後の単独開催でした。来年からは、元海外旅行博の「JATA旅博」と国内旅行博にあたる「旅フェア日本」が統合され、「ツーリズムEXPOジャパン」(2014年9月25日~28日/東京ビッグサイト)となり、これにB2B商談会の「Visit Japan Travel Mart」も同時開催として加わることになるそうです。

ツーリズムEXPOジャパン
http://www.t-expo.jp

開会式の質疑応答で、観光庁長官はこれら3つの旅行イベントをひとつに統合する理由について「世界を代表する旅行博覧会であるITBベルリンやWTMロンドンに負けないよう、アウト/イン/ドメスティックの日本の旅行市場のさらなる発信力アップを図りたい」とコメントしています。

※トラベルマートについての詳細は、中村の個人blog「「普遍的な日本の魅力」って何だろう?(トラベルマート2013報告 その1)」、「実際、商談はどれほど進んでいるのか?(トラベルマート2013報告 その2)」を参照。

流れが大きく変わったアジアインバウンド市場

トラベルマート会期中の11月28日の夜、一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)の総会がありました。AISOはアジアからの訪日客の手配を担当するランドオペレーターを中心にしたインバウンド業者が加盟する団体です。

一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)
http://www.shadanaiso.net/

官の公式見解に対して、民間事業者は今年をどう振り返っているのでしょうか。AISO理事長である日本ワールドエンタープライズ株式会社の王一仁社長は最初にこう挨拶しました。

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王一仁AISO理事長

「AISO創立から今年で7年目。震災から2年たち、今年はアジアインバウンドの流れが大きく変わった年といえるでしょう。円安効果も大きいですが、東京オリンピック開催決定や富士山の世界文化遺産登録など、さまざまな追い風が吹いています。

AISOの加盟団体は現在約160社。半分はランドオペレーターで、残りはホテルやテーマパーク、レストラン、運輸業者などの方々です。お互い協力して日本のインバウンドを盛り上げていきましょう」。

次に株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事による今年のアジアインバウンド市場に関する報告がありました。

「今年のアジアインバウンドに弾みをつけたのは、やはり7月のアセアン諸国に対するビザ緩和の影響が大きかったといえます。なかでも大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国だったように思います。

それでも、現状でいえば、訪日外客の6割を占めるのは、韓国、台湾、中国本土です。韓国はいったん回復してきたかに見えましたが、秋口から伸び悩んでいます。一方、中国市場は概ね回復基調にあると思います。

今後は、アジアの個人客向けの商品、特に来日してから各自が参加する『着地型』のツアー商品の開発などに力を入れていくべきでしょう。ここにいらっしゃる関係者の皆様には、ぜひ我々ランドオペレーターに新しいコンテンツをご提案いただきたいと思います。それを海外の旅行会社につなげていくのが我々の仕事ですから」。

報告を聞きながら、今年は「アジアインバウンドの流れが変わった」ことをあらためて実感しました。何より一時期、中国本土に過度に集中していた訪日旅行市場の取り組みが世界各地に分散化してきたことは基本的にいい流れだと思います。逆にいま、その反動で中国離れが進んでいることは、ムードに流されやすい日本人の問題だと思いますけれど、いずれバランスを取り戻す動きも出てくるでしょう。

今年は台湾や香港、タイなどアセアンの国々のように、日本の文化的、経済的影響力の強い地域からの訪日客増加が顕著であった一方、中国や韓国という「近くて遠い」大市場は政治的な理由で萎縮してしまいました。その意味でも、日本の影響力が強くない国々の訪日旅行市場をいかに活性化すべきか、という課題が印象付けられた年でもあったと思います。さらに、インドやロシアといった未知の市場に対してどう取り組むか。来年に向けて新しいチャレンジが必要ではないかと思った次第です。AISOの関係者は、すでにこうした新規市場に対する開拓を始めており、心強い限りです。

※AISO総会でのアジア各国の市場動向については、中村の個人blog「流れが大きく変わった今年のアジアインバウンド市場(トラベルマート2013報告 その3)」を参照。

VJC10年の総括と課題

2003年に始まったビジットジャパンキャンペーン(VJC)は、昨年10年目を迎えています。平成25年版「観光白書」では、この10年間を総括し、いくつかの課題を挙げています。

平成25年版「観光白書」http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000183.html

「第3節 過去10年の国際観光振興政策の総括と課題」からその一部を抜粋して検討してみましょう。

「平成15年のVJの開始前後で訪日外国人旅行者数の推移を比較すると、近年は外的要因の影響を受けて増減の振幅が大きいものの、VJ開始後は、開始前と比べて目に見えて大幅な増加傾向を示している」「この10年の間に、国内の観光関係者の間のみならず、各地域でインバウンドへの取組の必要性についての意識が広まり、インバウンドが今後の日本の成長産業の一つであるという認識が国内で相当程度広がっている」とVJCの果たした役割を評価しています。

実際、10年前と比べると、インバウンド振興に対する認識が国内で広く共有されてきたことを実感します。北京オリンピックの開催された2008年がひとつのメルクマールとなり、中国をはじめアジア地域が訪日旅行の発地国として広く認知されたことが大きかったと思います。その一方で、「我が国は、“観光後進国”からようやく“観光新興国”になったに過ぎないのが現状である」とも白書は述べています。これはどういう意味でしょうか。その理由についてこう指摘します。

「外国人旅行者受入数について見ると、過去最高である861万人を記録した平成22年においても、日本は世界で30位、アジアで8位に過ぎない。また、同じく平成22年の国際観光収入を比較しても、日本は世界で19位、アジアで8位と低位に甘んじている」。

これはマスコミも好んで触れる外客数の国際比較の現状です。日本の総合的な経済力からみて、訪日外客数が近隣アジア諸国と比べても少ないことから、あえて「観光新興国」といった表現を採用したのかもしれません。

こうした「総括」をふまえ、白書は5つの「課題」を挙げています。

①訪日ブランドの構築
②外的要因の影響を受けにくい訪日外客構造の構築と戦略的なプロモーションの展開
③MICE分野の国際競争力の強化
④訪日外国人旅行者の受入環境の整備
⑤オールジャパン体制の更なる強化

ここで指摘された「課題」は、プロモーションに関するものと、受入環境の整備に関するものに大きく分けられます。

まずプロモーションに関する課題を簡単に見ていきましょう。①(訪日ブランドの構築)では「それぞれの関係者がばらばらに情報を発信することが多かったため、日本全体としてのイメージの訴求ができていなかった」「そのようなブランド確立がなされないまま、目先のプロモーションだけに力を注いでいる例が少なからず見られる」と指摘しています。

これは、本コラムで何回か紹介した海外のトラベルマートの現状からも感じられることです。各自治体・企業がそれぞれ自己の魅力をアピールするのは当然としても、「日本全体としてのイメージの訴求ができていなかった」としたら、世界の競合国の中から日本を選んではもらえない。国としての戦略があいまいだったという反省です。また、日本国内では有名でも、海外から見てブランドとしての認知のないまま「目先のプロモーション」に懸命になっても、集客につなげるのは難しいという現実があります。

②(外的要因の影響を受けにくい訪日外客構造の構築と戦略的なプロモーションの展開)では、前述の石井一夫AISO常務理事も指摘したように、今年いくらアセアン各国からの訪日客が増えたといっても、「東アジア4か国(韓国、中国、台湾、香港)で約65%」を占めるという訪日旅行市場の偏りは変わらないことを指摘しています。近年、一部の近隣諸国との政治的不和による訪日客の落ち込みから、「特定の市場に依存した訪日外客構造の脆弱性を身を以て学んだ」と白書は述べています。これまで多くの日本人は、国際理解や親善につながるはずの観光がこれほど政治の影響を受けるとは考えていなかったと思いますが、それが現実のものとなった今日、より高い戦略性が求められています。
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日本の訪日旅行市場は中韓台に偏重している

そうした「脆弱性」を克服する手立てとして挙げられるのが、市場の分散化に加え、政治的な影響を受けにくいFIT客への対応といえます。.

「近年、世界的に個人旅行が主流になりつつあり、多様な個人のニーズを的確に把握することが不可欠となりつつある。我が国の主要な市場である韓国、台湾、香港はもちろん、今後は、中国やタイも個人旅行が主流になることが見込まれる中、きめ細かなマーケティングがより一層欠かせなくなる。

プロモーションについても、そうした傾向を受け、これまで以上にきめ細かさが必要となってくる。市場類型や国・地域ごとに訴求対象を明確化した上で、より効果的な媒体を的確に活用しながら、個人旅行者に向けてはSNSを活用するなど、常に新しい手法を取り入れ、工夫していく必要がある」。

さらに、③(MICE分野の国際競争力の強化)や⑤(オールジャパン体制の更なる強化)が必要なことは言うまでもありませんが、東京オリンピック開催が決まったことで、④(訪日外国人旅行者の受入環境の整備)も喫緊の課題となっています。

JNTO(日本政府観光局)が実施した「訪日外国人個人旅行者が日本旅行中に感じた不便・不満調査」(平成21年)の結果は以下の図表のとおりです。
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訪日外国人旅行者が旅行中に感じた不便・不満(出典:平成25年版「観光白書」)

ここでは指摘されていませんが、昨今外客から不満の声として筆頭に挙げられるのが、Wi-Fi(無線LAN)整備の遅れです。今年ぼくは東南アジアを何度か訪ねましたが、海外に比べて日本の普及の遅れはウィークポイントであることを、身をもって感じました。それはこれまで訪日外客数が他国に比べ相対的に少なかったことに起因していると考えられます。そういう意味では、訪日客の増加は、日本の通信インフラの整備と進化を後押ししてくれると前向きに考えるべきだと思います。

期待したい民間の新しい取り組み

こうした「課題」をふまえ、国土交通省は「観光立国」に向けたアクション・プログラムに取り組んでいます。

「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」の取組状況について(2013年9月20日)
http://www.mlit.go.jp/common/001015986.pdf

東南アジア諸国における集中プロモーションや、欧州、ブラジル、トルコなどへの日本の認知度向上に向けた取り組みを行う「戦略的訪日拡大プラン」、大型クルーズ客船や空港における「出入国手続きの迅速化・円滑化」に加え、なかでも来年10月から実施される予定の「外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し」が注目されています。

外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000197.html

受入環境の整備は官の役割だとしても、実際にはインバウンドの推進役は民間です。

全国各地で日本のインバウンド市場を活性化する動きが起きています。

最初に挙げたいのが、FIT(個人旅行者)向けの旅行商品です。

たとえば、先日「やまとごころインタビュー」で紹介したクラブツーリズムの国内バスツアーは注目です。

いま海外のFIT客は航空券とホテルの予約はネットで入れるのが常識です。とはいえ、相当日本通のリピーターでもない限り、言葉がわからない外国人が日本でどれほど豊かな体験ができるでしょう? 多様化した外客のニーズに応えるFIT向け旅行商品やサービスが求められています。

もともと国内客向けに造成されたクラブツーリズムのバスツアーは、海外、とりわけアジアFIT客のニーズに直結したようです。いまや日本の国内客とアジアのFIT客が一緒にバスツアーに出かける時代になっています。

※FIT向けは、やまとごころインタビュー「アジアのFIT客が国内バスツアーに乗る時代になった」を参照。

外国人旅行者が集まる草の根スポットも各地に生まれています。面白いのは、必ずしも外客を意識していたわけでなかったのに、ピタリと彼らのツボにはまってしまうケースがあります。それが新宿歌舞伎町のロボットレストランでした。この少々ぶっ飛んだショーレストランは、結果的に、日本にまだ少ない外客向けナイトエンターテインメントのニーズを満たすことになったようです。

その一方で、これまでなかったタイプの宿泊施設をオープンさせる動きもあります。バックパッカー向けホステルの「カオサン東京」です。オーナーは豊富な海外旅行の経験をもとに、海外からの若いバジェット旅行者のニーズをくみ取り、低コストのサービスを提供しています。それが国際水準のもてなしといえるのは、外国人向け英字フリーペーパーでの高い評価からもうかがえます。

Khaosan World Asakusa Ryokan & Hostel
http://www.timeout.jp/en/tokyo/venue/23091/Khaosan-World-Asakusa-Ryokan-Hostel

※草の根スポットとしては、やまとごころインタビュー「歌舞伎町のロボットレストランになぜ外国客があふれているのか」、「ライバルはバンコクやクアラルンプール 世界水準のバックパッカー宿目指し」を参照。

さらに、新しい動きとして注目されるのが、富裕層旅行というこれまで認識されていなかったセグメントへの取り組みです。今年3月、京都で日本で初の富裕層旅行に特化した商談会「ILTM Japan」が開催され、この市場に対する関心が高まっています。

富裕層旅行は、実際には極めてクローズドで小さな市場なのですが、海外のVIPを日本のシンパにすることは、訪日旅行のスタイルに新しいインパクトを与える可能性があります。彼らが発見した日本の魅力が、世界の旅行トレンドに与える影響は大きいからです。海外の富裕層旅行者は、いわば広告塔となりうる存在なのです。ただし、我々はまだその誘致や受入ノウハウを十分に身に付けているとはいえません。このジャンルでも、新しいチャレンジが必要でしょう。

今後、訪日客が増えていくことで、このマーケットが持つ面白さや可能性がもっと理解されていくに違いありません。外国人観光客といっても、国籍や階層、年代によって求めるものは全く違いますから、個別のニーズごとにそれぞれを得意とする事業者の参入を呼び、多様なサービスを生み出すことになれば、市場は活気づくことでしょう。ポスト訪日外客1000万時代における日本ならではの新しいアイデア商品や旅行サービスが生まれていくことを期待したいと思います。

※ILTM Japanについては、やまとごころイベントレポート「ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー~今、富裕層旅行市場を捉えるためには~」 、中村の個人blog「京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催」を参照。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_146.html
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by sanyo-kansatu | 2013-12-26 12:34 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 12月 05日

大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国(トラベルマート2013報告 その3)

トラベルマート会期中の11月28日の夜、一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)の総会がありました。

一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)
http://www.shadanaiso.net/index.html

そこでは恒例のセミナーがあります。アジア各国・地域にそれぞれ強いランドオペレーター関係者による「アジアインバウンドの最新動向」の報告です。

※今年6月上旬のセミナーについては「今年の夏、日本はアジア客でにぎわいそうです(社団法人AISO第1回総会報告)」)を参照。
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まず理事長の日本ワールドエンタープライズ株式会社の王一仁社長による開会の挨拶から始まりました。

「AISO創立から今年で7年目。震災から2年たち、今年はアジアインバウンドの流れが大きく変わった年といえるでしょう。円安効果も大きいですが、東京オリンピック開催決定や富士山の世界文化遺産登録など、さまざまな追い風が吹いています。

AISOの加盟企業は現在約160社。半分はランドオペレーターで、残りはホテルやテーマパーク、レストラン、運輸業者などの方々です。お互い協力して日本のインバウンドを盛り上げていきましょう」。

次に株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事による今年の総括です。

「今年のアジアインバウンドに弾みをつけたのは、7月のアセアン諸国に対するビザ緩和が大きかったといえます。このままいけば、今年は初の訪日外客1000万人を達成することでしょう。なかでも大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国だったように思います。

それでも、訪日外客の6割を占めるのは、韓国、台湾、中国本土です。韓国はいったん回復してきたかに見えましたが、秋口から伸び悩んでいます。一方、中国市場は概ね回復基調にあると思います。

今後は、アジアの個人客向けの商品、特に来日してから各自が参加する「着地型」のツアー商品の開発などに力を入れていくべきでしょう。ここにいらっしゃる関係者の皆様には、ぜひ我々ランドオペレーターに新しいコンテンツをご提案いただきたいと思います。それを海外の旅行会社につなげていくのが我々の仕事ですから」。

株式会社トライアングルの河村弘之常務理事からは、以下の3つの話題提供がありました。
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①ツアーオペレーター品質認証制度について

同制度は、「事業者(ツアーオペレーター)の品質を保証することにより、訪日旅行の品質向上と、訪日旅行者が安全、安心で良質な旅行を楽しんで頂くことを目的として作られ国からも推奨された品質認証制度」です。

ツアーオペレーター品質認証制度 http://www.tour-quality.jp/

株式会社トライアングルは最近、同制度の認証登録をすませたばかりですが、河村理事によると、中小企業の多いインバウンド業者にはかなりハードルが高いのが実感だといいます。認証の条件として、①旅行業登録していること、はともかく、②訪日ツアーにインバウンド旅行保険をかけること、そして何より③プライバシーマークの取得済み(1年以内に取得予定であること)が経営にとって大きな負担となるからです。

※プライバシーマーク(Pマーク)は、個人情報保護に関して一定の要件を満たした事業者(基本的には法人単位。ただし、医療関連については病院ごとなど例外あり)に対し、一般財団法人日本情報経済社会推進協会 (JIPDEC) により使用を認められる登録商標。

プライバシーマーク制度
http://privacymark.jp/

現在、AISO加盟企業の中で、認証登録をすませているのは、農協観光とアサヒホリディサービスの3社だそうです。

②タイからの訪日客の動向

「今年のタイ市場は、北海道が人気。ビザ免除で市場は活気づいています。ただし、募集ツアーは今後価格競争が激しくなることが予想されます。ですから、弊社はタイではインセンティブツアーを専門に営業しています。企業の社員旅行としての訪日ツアーの取り込みです。現在、タイに進出している日系企業は約3000社。そのうち、従業員数100名以上の企業は約半数。みなさん、現地の日本企業に営業に行かれたことはありますか。旅行博に行くのもいいですが、タイの場合、インセンティブ市場が大きいことを知っていただきたいと思います」。

※JETROによると、タイに進出した日系企業数:1,458社(2013年4月現在のバンコク日本人商工会議所会員数)ですが、実際は約3000社といわれます。

③シンガポールからの訪日客の動向

「震災後に韓国に次いで訪日客の戻りが遅かったシンガポール市場ですが、今年は北海道行きが7割を占めるほどの人気でした。もっと行きたいが、エアが取れないという話です。シンガポールの旅行業者は、中国などとは違い、日本のランドオペレーターとの関係を大切にしてくれます。シンガポール市場に商材を売りたいなら、AISOのランドオペレーターにまず声をかけていただきたいと思います。それが早道です」。

アメガジャパン株式会社の清水和彦理事からは、中国本土市場の話がありました。

「今年の弊社の中国本土客の取扱は、1~3月が前年比マイナス60%、4~6月がマイナス30%、7~9月でほぼ前年度の水準に戻り、9月はおそらく新旅游法の駆け込み需要で過去最高になりました。10月以降は、去年が尖閣問題でボロボロでしたから、前年度比ではプラスになると思います。そういう意味では、団体ツアーはほぼ回復したと考えています。

中国の訪日市場の動向は地域によって一様ではありません。広東省はすでに回復し、北京でもだいぶ戻ってきたようですが、最大のマーケットである上海の遅れが目立ちます。

新旅游法の背景には、中国の原価割れしたツアー商品の横行があります。オプショナルツアーや土産物店への連れ込み、ホテルの変更はすべてNGとなりました。その結果、弊社が多く扱う広東省の旅行会社のツアー料金の推移を見ていると、韓国や台湾、タイなどが軒並み2~3倍にアップしている一方、日本ツアーの価格上昇はそれほどでもないため、日本の割安感が出てきたと感じます。来年の春節がどうなるか、大いに期待したいと思いますが、依然日中間の政治問題が解決していないのが気がかりです」。

株式会社アサヒホリディサービスの和田敏男理事からは、マレーシア市場の話がありました。

「マレーシアの旅行業界は、タイなどと違い、大手数社が独占しているという市場です。東南アジアの中では訪日旅行市場は後発ですが、LCCも今後ますます就航するという話ですから、期待の持てるマーケットだと思います。最近、小グループの団体が増えてきました。以前なら30~40名の団体が多かったのですが、6~8名くらいのプライベートなツアーが多いのです。求められているのは、すでに定番のツアーコースではなく、個性的な旅です。

イスラム国ですから、ハラルを気にする方が多いと思いますが、一部の方を除くと、そこまで厳格に考えることはまだないのではと感じています。最近、六本木にハラル専門レストランができたと聞きますし、また東京大学にはハラル専門の学生食堂があるそうです。ハラル認証を取得するための協会も国内にいくつかできていますので、そこで研修を受けられることをおすすめします」。

最後に再び王理事長による香港とフィリピンの話がありました。

「今年は香港や台湾からの訪日客が激増しました。香港客の大半はリピーターです。航空券さえ安いものが出れば、必ず日本を訪れます。日本人のアジア旅行と一緒です。11月から香港エクスプレスの羽田便がデイリーとなりました。片道1万円と安いので、これからのクリスマスシーズン、たくさんの香港客が東京を訪れることと思います。
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フィリピンからの訪日客も増えてきています。12月からフィリピン航空が大幅に増便します。どうしてこんなに増便するのかというと、最近のフィリピンの台風被災地に対する日本の支援も影響があると思います。フィリピンから日本の自衛隊の視察ツアーもあると聞いています。フィリピンの人口は9000万人です。これからがチャンスです」

※フィリピン航空(PR)は12月15日から、成田発着のマニラ線とセブ線を増便。マニラ線は現在1日1便だが、これを1日3便に変更。セブ線は週6便のPR433便/434便に月曜日を加えてデイリー運航にした上で、さらに1日1便を追加しています。

関係者のみなさんの報告を聞きながら、今年は「アジアインバウンドの流れが変わった」ことをあらためて実感しました。何より市場の分散化が進んでいることがいい流れだと思います。

その一方で、こうした手放しの喜びようで、はたして来年本当にアジアインバウンドは順調に進展するのだろうか。中国政府の不穏な動きが続くなか、ひとたび何か起こればすべて吹き飛んでしまうのではないか、というあやうさもはらんでいるように思えてなりません。

また、今年は台湾やタイほかの東南アジアの国々のように、日本の文化的影響力が強い国々からの訪日客増加に大いに救われたところがありましたが、そうでない国々に対してどう訪日旅行をPRするべきか、という課題が印象付けられた年でもあったと思います。たとえば、インドやロシアといった未知の大市場に対してどう取り組むか。来年に向けて新しいチャレンジが必要ではないかと思った次第です。
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トラベルマート会場から桜木町駅に向かうみなろみらいの夜景はとてもきれいでした。
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by sanyo-kansatu | 2013-12-05 10:58 | “参与観察”日誌 | Comments(0)