ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ

タグ:プロモーション ( 81 ) タグの人気記事


2014年 11月 28日

〔検証〕1300万人突破か!? 今年の訪日外国人旅行者数は何が押し上げたのか

今年1~10月の訪日外国人旅行者数が過去最高の1100万9000人(日本政府観光局(JNTO)調べ)になったことを、各メディアが先週一斉に報じた。昨年は年間1036万人で、今年は早くも10月までで1100万人を突破。前年度比27.1%増という高い伸率は、日本の経済指標の中でも数少ない成長事例といえるだろう。「年間では1300万人前後になる見込み」とJNTOは予測している。
b0235153_162417.jpg

では、今年の訪日外国人旅行者数は何が押し上げたのだろうか? 

すぐに思いつくのは、今秋以降さらに顕著となった円安効果だろう。だが、それだけが理由とはいえない。通貨安となった国がどこでも観光客が増えるかというと、必ずしもそうではないからだ。ならば、背景には何があるのか。以下、JNTOのリリースを基にその要因を検証したい。

5人のうち4人がアジアからの旅行者

2014年1~10月の訪日外国人旅行者数トップ10の国別訪日外客数(推計値)と伸率は以下のとおりである。ここから何が読み取れるのか。

1位 台湾 2,381,200(26.4%)
2位 韓国 2,245,400(6.8%)
3位 中国 2,011,800(80.3%)
4位 米国 744,900(11.9%)
5位 香港 734,400(20.2%)
6位 タイ 513,300(48.2%)
7位 豪州 242,900(22.6%)
8位 英国 184,700(14.0%)
9位 マレーシア 182,500(49.8%)
10位 シンガポール 153,400(17.0%)
※( )内は前年度比

トップ5(台湾、韓国、中国、米国、香港)はこの10年間変わらないが、今年初めて台湾がこれまで不動のトップだった韓国を抜いて1位に躍り出た。背景には、台湾と日本の間で結ばれた航空協定(オープンスカイ)による路線の拡充がある。同協定が調印された2011年11月以降、日台を結ぶ航空便は飛躍的に増加。13年2月以降は21カ月連続で訪日客数が過去最高を更新と、その勢いは今年に入っても変わっていない。台湾の航空便は日本の多くの地方都市と結ばれているのが特徴だ。その結果、訪問地の多様化が進む台湾は訪日旅行市場の中で最も成熟しているといわれる。

※台湾がトップとなった背景については、やまとごころコラム「25回 過去最高200万人超えなるか!? 今年の訪日5人に1人が台湾客となった理由」http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_143.html 参照。

2位は韓国。他と比べ伸率(6.8%)が低い理由は、4月の旅客船沈没事故の影響が指摘される。ただし、夏以降回復傾向が見られる。4位は米国。米国経済の回復基調が続き、今年4月以降、7カ月連続で各月の過去最高を更新している。5位は香港。こちらも台湾同様、21カ月連続で過去最高を更新。「9月末からのセントラルのデモの影響はまったくない」(現地関係者)という。

一方、伸率でみると、3位の中国は前年度比80.3%増と最も勢いがある。12年秋の尖閣問題で一時激減したが、昨秋以降大幅回復を見せているのだ(その背景については後述する)。タイ(6位)やマレーシア(9位)、シンガポール(10位)など、昨年観光ビザを撤廃したアセアン諸国も急増している。フィリピン(63.5 %増)やベトナム(49.1 %増)などの伸びの高さからも、政府の実施したビザ緩和がアセアン諸国の訪日客急増のもうひとつの要因であることがわかる。

いまや訪日外客数全体でアジア諸国が占めるのは約8割だ。今年、欧米主要国からの旅行者も各国平均10%以上増えており、欧米人ツーリストの姿をよく見かけるようになったと感じた人も多いだろう。だが、実際には5人のうち4人がアジアからの旅行者である。それが訪日旅行市場の実像だ。国別の伸率をみる限り、この傾向はますます強まりそうだ。

アジア各国の精力的な訪日路線の拡充

こうした市場の概況をふまえ、今年訪日旅行者数を押し上げた具体的な要因を考えてみたい。

観光白書(平成26年版)によると、訪日外客数の国別ランキングで日本は27位(2013年)だが、陸路で国々がつながる欧州やアジア諸国と違い、島国である日本が訪日客を増やすには、基本的に航空便の増便や新規就航で座席数を積み上げていくことしかない。つまり、今年伸率の高い国ほど訪日路線が拡充したことを物語っている。

なかでも突出しているのが中国だ。

今年の日中の航空路線の動きで注目すべきは、中国ナンバーワンLCCの春秋航空の路線拡充と天津航空の新規就航だろう。春秋航空は昨年までの上海から茨城、高松、佐賀の3路線に加え、今春以降、関空、新千歳の2路線と、内陸都市の重慶、武漢、天津から関空への3路線を新規就航させ、全8路線となった。夏には春秋航空日本(スプリングジャパン)が国内4社目のLCCとして成田から国内3路線(広島、高松、佐賀)を就航している。これは中国客の乗継需要も活かせるため、外資LCCならではの新しい動きといえる。天津航空は夏季限定の天津・那覇、静岡(ただし、静岡はチャーター便)を就航した。
b0235153_1634633.jpg

春秋航空日本の成田・佐賀線初就航便

※春秋航空については、やまとごころコラム「31回 中国客の訪問地の分散化に期待。中国ナンバーワン旅行会社、春秋国際旅行」 http://www.yamatogokoro.jp/column/2014/column_163.html 参照。

今年6月以降、中国国際航空や中国東方航空などの国営キャリアでも、上海発を中心に関空や新千歳、那覇などの増便が目立っている。7~8月、中国南方航空の広州・新千歳のチャーター便も多数運航された。総計で週に約40便が増便され、路線も拡充した背景には、旺盛な中国の訪日旅行需要があったことは間違いない。

今年出遅れていた韓国も、8月以降回復基調をみせており、10月の訪日客の前年同月比は57.7%増となった。実際、日韓間の増便やチャーター便の運航は増えている。主なところでは、エアプサンの釜山・福岡、ティーウェイのソウル・那覇などのLCCの路線拡充が目立つ。大韓航空のソウル・旭川などの夏季限定のチャーター便など、北海道や九州、沖縄方面への増便が多いのも特徴だ。韓国の訪日旅行市場も台湾同様成熟しており、訪問地の多様化がさらに進むことが期待される。

本来、航空路線の拡充は日本と海外の双方向の人の流れが基調となるべきだが、日本からの中国・韓国方面への渡航者は一方的に減少している。そのため、日系エアラインはこの方面のレジャー路線を絞り、ビジネス路線に傾注せざるを得ない状況にある。つまり、拡大するアジアの訪日旅行市場は海外のエアラインのレジャー路線拡充戦略にかなりの部分握られているといえるだろう。市場規模は中韓に比べればまだ小さいアセアン諸国でも、精力的な路線拡充の動きはみられる。一部、日系LCCのアジア路線の就航の動きもあるが、全般的にみてこの状況は変わりそうにない。

一回の寄航で2000人以上を運ぶ大型クルーズ船

訪日中国客数を押し上げたもうひとつの要因に、大型クルーズ船の寄航の再開がある。なにしろ中国発のクルーズ船は、一回の寄港で2000人以上の乗客を運ぶからだ。

主な出航地は上海と天津。最もスタンダードなのが、東シナ海周遊4泊5日コースで、福岡など九州各地や韓国(済州島、釜山)を寄港する。2000年代後半から欧米や中国国内のクルーズ会社が東シナ海を周遊するクルーズ船の運営を始めており、いまや上海の海外旅行市場では最もポピュラーな商品として定着している。
b0235153_1641597.jpg

今年7月運航した上海発クルーズ船(プリンセス・サファイア号)は福岡と釜山に寄航

もともと東シナ海クルーズは夏がメインシーズンで、中国発クルーズ船の九州寄港は、2012年秋に尖閣問題でいったん休止した。そのため、13年は九州を訪れる海外クルーズ船の総数が半減。ところが、同年秋以降、徐々に運航が再開され、今年に入って一気に増えた。14年寄港した上海発クルーズ船の数は以下のとおりである。

上海発クルーズ船の寄航数(JNTO調べ)
2014年2月 1隻
    3月 5隻
    4月 9隻
    5月 8隻
    6月 6隻
    7月 17隻
    8月 14隻
    9月 16隻

主な九州のクルーズ船寄港状況は以下のサイトで確認できる。

博多港
http://port-of-hakata.city.fukuoka.lg.jp/guide/cruise/index.html
長崎港
http://www.jopa.or.jp/port_detail/nagasaki.html
那覇港(那覇港管理組合)
http://www.nahaport.jp/kyakusen/nyuukouyotei2014.htm

上海のクルーズ人気について、現地の旅行関係者はこう語る。「人気の理由は3つ。寄港地でのショッピングが楽しめること。船が大きいぶん料金が安いこと。祖父母と親子3世代のファミリーが安心して参加できること」。

上海発のクルーズ商品は3つのランクに分かれるが、最も大衆的な価格帯は4泊5日で5000元が相場だ。飛行機やバスで移動し続ける団体ツアーは、シニアや子供連れには大変だが、クルーズの旅ならのんびり船上で過ごせることで、海外慣れしていない層も参加しやすいという。上海では初めての海外旅行がクルーズというケースも一般的だ。

東シナ海の中心に位置する上海は、数日間で周遊できる寄港地が近場にいくつもあり、バリエーション豊かなコースの造成が可能なのだ。今日の東シナ海が、島をめぐる日中の確執の舞台であるだけでなく、中国人の大衆的なレジャー空間になっているという、もうひとつの顔を承知しておいてもいいだろう。

※上海発クルーズの人気の背景は、やまとごころコラム「30回 クールな上海の消費者にいかに日本をアピールすべきか?(上海WTF2014報告)」http://www.yamatogokoro.jp/column/2014/column_161.html 参照。

もちろん日本に寄港するクルーズ船は中国発ばかりではない。欧米からのクルーズ船も全国各地を訪れている。舞鶴港(京都府)では、今年15回の寄港があり、地元では上陸してくる外国人観光客の歓迎ムードが盛り上がっている。地元の高校生らが歓迎のうちわを制作したり、英語によるボランティアガイドに挑戦したりしているという。

一般にクルーズ船の上陸時間は8時間程度で、ホテル利用もなく、買い物も特定の量販店や大型ショッピングモールに限られがちなため、地元に幅広く経済効果をもたらすかについては疑問の声もある。それでも、国際航空便のない地方都市で外国人観光客受入のノウハウを学べる好機となるクルーズ船誘致の動きは全国で広がっている。

※クルーズ船の全国の寄港状況については、以下のサイトを参照。
CRUISE PORT GUIDE OF JAPAN
http://www.mlit.go.jp/kankocho/cruise/jp

10年の積み重ねが巨大な吸引力を生んだ

日本政府観光局(JNTO)は、今年10月の訪日外客数が単月として過去最高の127万2000人となった理由について、以下のように解説している。

「円安による割安感の浸透や、消費税免税制度の拡充、大型クルーズ船の寄航、秋のチャーター便の就航、大型国際会議の開催、中国・国慶節休暇中の集客を狙ったプロモーションや、各市場において紅葉の魅力を集中的に発信したこと」

なかでも10月1日から実施された消費税免税制度の拡充(外国客向けの免税品目の拡大)はひとつのポイントだろう。これまで家電や衣料品などに限られていた免税品目を、食品や化粧品などの消耗品にまで広げたことで、外国人旅行者の購買意欲に火をつけようというのが狙いだ。実際、この情報は中国をはじめアジア各国でいち早く広まったという。

全国の免税販売対応店は、10月1日現在9,361店。メイド・イン・ジャパンを掲げる「ショッピング・ツーリズム」の推進は、アジア新興国の旅行市場のニーズに合っているのは間違いない。だが、実際にはクルーズ客の事情と同様、一部の量販店や百貨店、大型ショッピングモールの利用が集中。恩恵を受けるのは大都市圏の一部であり、全国での「幅広い経済効果」は難しいとの指摘もある。

この点をふまえ、日本政府観光局(JNTO)の鈴木克明海外マーケティング部次長は次のように指摘する。「訪日客の増加は円安効果が大きいとよく言われる。確かに円安は訪日のひとつの動機になるが、通貨安だからといって急に観光客が増えるというものではない。これまで10年かけて培ってきたプロモーションによる日本のイメージがあり、日本に行きたいというニーズが生まれた。国と民間が一体となってやってきた努力が実を結んだと思う」。

政府が「観光立国」を目指してビジットジャパンキャンペーンを開始したのが2003年。これまで10年をかけて積み重ねてきた官民一体のプロモーションの相乗効果が海外の消費者に対する日本への理解や期待を高め、訪日旅行市場に巨大な吸引力を生んできたことは確かだろう。円安効果は日本に対する認知度があってこそ追い風となるのであり、何事も実を結ぶには10年くらいの地道な営みが必要だと考えるべきなのだ。

このまま増え続ける保証はない

では、20年までに2000万人という目標を掲げる訪日外国人旅行者数はこのまま増え続けるのだろうか。

実際には、来年も今年のような高い伸びが続く保証はどこにもない。なぜか。

まずこの1、2年高い伸率をみせたアセアン諸国のビザ講和の効果はすでに一巡し、伸率は鈍化するかもしれない。そして、今年トップの台湾や香港の1~10月の訪日客数を人口比率でみると、台湾(人口約2300万人、238万人)、香港(人口約700万人、73万人)とすでに1割を超えている。これは十分驚くべき数字であるが、伸びしろは多くないと考えても不思議ではない。

そう考えると、頼りは巨大なポテンシャルを感じさせる中国市場となる。今年1億人超という中国の海外渡航者数は、うち4000万人を占める香港を除いても、桁違いに大きな市場である。

日中関係が最悪といわれるなか、中国からの訪日客が増えている状況に戸惑いを感じるむきもあるかもしれない。この点について日中間には認識の違いがあるようだ。中国の消費者の立場で考えれば、中国メディアがどんなに騒ごうと、個人レベルでは日本に行ってみたいというニーズは、とりわけ中国で最も消費社会が進んだ上海を中心に確実に存在する。

一方、日中の航空路線の拡充は上海発に集中しており、全国的な動きとはいえない面もある。地方都市の旅行関係者からはこんな声も聞かれる。「中国は一様ではない。もし日中関係が良好なら、いまの2倍は日本に行ってもおかしくない。多くの中国人はまだ政府に遠慮している」。事実上中国客は増えているが、政治的な理由でまだ相当抑制されている地域の消費者も多いという。

今年韓国に約600万人もの中国客が訪れると聞けば、政治の影響がいかに大きいか物語っている。先般、実現した日中首脳会談が今後どう市場に影響を与えるか、気をもんでいる日中両国の関係者も多いだろう。

ともあれ、手をこまぬいていては何も始まらない。台湾や韓国、香港といった成熟した訪日旅行市場はまだ全体の一部である。中国の訪日客は個人ビザ客が増えているにもかかわらず、訪問先は圧倒的に東京や大阪などの大都市圏に集中しているといわれる。訪問地の多様化はそれほど進んでいないのだ。これはアセアン諸国の市場も同じだろう。

訪日外国人旅行者を今後も順調に増やしていくには、訪問先を全国各地へと分散化していく戦略が不可欠なのだ。これは「地方創生」にもつながる話である。

現在、海外で広く知られている日本の旅行先および商品群は、①東京・大阪ゴールデンルート周遊、②首都圏・関西圏の都市観光、③北海道、④沖縄などに限られるのが現実だ。今後、仕掛けなければならないのは、これらに次ぐ新しい「顔」の創出だ。その点でいえば、アジアから距離的に近い九州をまずは優先すべきだろう。

残念ながら、海外での九州の認知度はいまひとつのようだ。上海の旅行会社の担当者から、九州の売り方がわからないという話を聞く。アジア新興国市場ほどこの傾向が強い。一方、韓国のように九州を舞台に自ら新しい旅のスタイルを生み出している市場もある。両地域の歴史的なつながりがいかに深いか感じさせる話だ。
b0235153_16134963.jpg

九州では韓国客が始めたハイキングコース(オルレ)が人気

日本人の目で見れば、九州には火山もあるし、自然も温泉もある。歴史もグルメもある。しかし、いろいろある、だけではダメなのだ。対外的にすでに認知された4つの旅行先とは明らかに異なる明快な九州イメージの確立が求められている。それがなければ、外国客には選んでもらえない。イメージ確立のためには、持ち札のすべてを見せようとするとかえって逆効果だ。むしろ、まず何かひとつに絞り込むしかない。相手国に合わせてまったく別の「顔」を見せてもいい。

言うは易く行うは難しだが、これは九州に限らず、まだ海外で認知されていないほとんどの地方が抱える共通の課題でもある。

ともあれ、訪日外国人旅行市場には明らかに追い風が吹いている。課題は数々あれど、いまの日本、これほど先行き楽しみなチャレンジはそうあるものではない。

※やまとごころレポート7回 http://www.yamatogokoro.jp/report/2014/report_07.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-11-28 16:15 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2014年 06月 27日

30回 クールな上海の消費者にいかに日本をアピールすべきか?(上海WTF2014報告)

日本政府観光局(JNTO)の6月18日付けプレスリリースによると、2014年5月の訪日外客数は109万7200人。44年ぶりに出国日本人数を訪日外国人数が上回った4月に続く過去2番目の記録となりました。1~5月までの累計もすでに500万人を突破し、過去最高ペースで推移しています。市場別では、中国が第3位(1位は台湾、2位韓国)で前年同月比でなんと103.3%増の16万5800人。昨年9月から9ヵ月連続で各月の過去最高を記録するという勢いだそうです。

これだけ日中関係が悪化し、南シナ海でも紛争が起こるという政治的な異常事態が続くなか、中国客が日本に押し寄せているという状況を、私たちはどう受けとめればいいのでしょうか。中国の海外旅行市場で今何が起きているのか。もっと知る必要があるでしょう。

訪日中国客の最大の送出地は上海です。2014年5月9日~11日に開かれた上海旅游博覧会(WTF2014)に行ってきました。今回は、その視察を通じて中国の海外旅行市場の最近のトレンドを報告します。

上海でも始まったツアー即売会

今回のWTFは、上海市旅游局が主催する16回目の旅行博覧会で、海外旅行市場も含めた博覧会としては11回目になります。


上海では毎年5月にWTFが開催されますが、2年に1度、11月に中国国際旅游産業博覧会(CITM)も開催され、今年の秋はCITMがあります。後者は中国国家旅游局が主催するイベントで、浦東の新国際博覧中心が会場です。国家旅游局主催のイベントだけに、全国から業界関係者が集まるぶん、規模的には後者がはるかに大きいですが、逆にいえば、WTFはローカルなイベントだけに、上海の旅行マーケットの現状が見えやすいともいえます。

では、会場に入ってみましょう。

正面入り口すぐ前の向かって左手に陣取るのは、韓国観光公社のブースです。この博覧会で最も良いポジション取りはここ数年、韓国の定位置となっているそうです。おなじみの韓流イメージを総動員させたプロモーションです。

中韓関係の蜜月化が訪韓中国人観光客を激増させています。現地メディアの新華網も「中国の旅行会社は引き続き韓国への大規模な送客計画を執行する」と報じているようですから、これは既定路線というわけです。中国ではいかに政治が観光と直結しているか、よくわかります。

我国旅行社继续执行大规模向韩国“送客计划”(新華網2014年4月6日) http://finance.china.com.cn/roll/20140406/2314165.shtml

海外からは他にも、タイやバンコク市、フィリピン(中国との関係悪化はここでは関係なしか)、マカオなどのアジア各国・地域、欧州方面ではスイスやエジプトなどが出展していました。

昨年、大盛況だったタイのバンコクや台北での旅行博(24回、25回参照)を見てきたせいか、それらと比較すると、上海のWTFは少し地味に見えなくもありません。以下は公式データです。

出展者数:50の国と地域より570団体が出展(合同出展含む)
出展面積:約15000㎡(前回比16.5%増)※販売エリアの面積は前年比24%増
業界関連来場者(業界エリア来場者数):のべ7948人
一般来場者(一般エリア来場者数):のべ約3万8300人※業界エリア入場者の重複カウントはせず
旅行商品他の現場販売金額:約1801.6万元(前年比33.7%増)

実際、海外からの出展者数は以前ほど多くはないようです。会場には中高年が多く、若い世代の比率はそれほど高くないと感じました。こうしたこともあってか、数年前からWTFでも、タイや台湾と同じように、会場での旅行商品の即売会を始めています。上海の大手旅行会社が、会期中限定の割引商品の販売を行っていました。

上海の海外旅行市場の大衆化を象徴するクルーズ人気

なかでも目立ったのが、クルーズの販売です。昨年さっぱり姿を見せなかった上海発クルーズ船も、今年は福岡などを中心に九州各地を寄港しています。

これは6月30日発サファイア・プリンセス号のセールスボードです。済州島、福岡、長崎を寄港する5泊6日のクルーズで、上海中旅国際旅行社が販売しています。料金はデラックスルームで1名8999元。会期中1部屋4200元のディスカウントをうたっています。

会場にはクルーズの特設イベント会場が設置されていて、旅行会社やクルーズ会社によるPRや懸賞イベントが繰り広げられていました。

上海のクルーズ人気について、日本政府観光局(JNTO)上海事務所の中杉元氏は「最近の上海の旅行会社のファーストプライオリティはクルーズ販売といえます。上海発のクルーズは4泊5日で韓国や九州を寄港するものが主流です。人気の理由は、寄港地でのショッピングが楽しめること。祖父母と親子3世代のファミリーが気軽に参加しやすいこと。船が大きくボリュームがあるぶん料金が安いことにある」といいます。

上海発のクルーズのスタンダードな価格帯は4泊5日で5000元が相場だそうです。この手ごろな価格が人気の理由です。飛行機やバスで移動し続ける旅行は、シニアや子供連れでは大変ですが、クルーズは寄港地での岸上観光以外はのんびり船上で過ごせることで、海外慣れしていない層も参加しやすいからです。

今日の上海における海外旅行の大衆化を象徴しているのがクルーズ旅行です。上海では初めての海外旅行がクルーズというケースもかなり一般的なようです。これは島国に暮らす日本人にはピンとこない感覚かもしれませんが、東シナ海の中心に位置する上海は、数日間で周遊できる近隣国の寄港地がいくつもあり、バリエーション豊かなコースをつくることが可能なのです。

チラシに見る上海人の海外ツアーの中身

中国の海外旅行シーンを手っ取り早く理解するには、現地の旅行会社でどんな海外ツアーのチラシが作成しているかを見るに限ります。

会場で、出展規模や集客状況も含め、最も目立っていたのが、春秋グループでした。展示スペースの中央に旅行即売コーナーを置き、その周辺にビーチリゾート、クルーズ、春秋航空などの展示ブースを並べており、各ブースごとのイベントも次々繰り出されています。
活気あふれる春秋旅行社の即売ブース

同社の即売コーナーでは、黄色いTシャツを着た数十人のスタッフを動員し、旅行エリア別に分かれて来場客相手に接客する熱気に包まれた光景が見られました。

そこで置かれていたツアーチラシの中から目についたものを紹介しましょう。

●ドナウの恋11日間
珍しく情緒的なネーミングのついた商品です。プラハinでウィーンを抜けブダペストout

●クロアチア・スロベニア10日間の旅
フランクフルトinリュブリャナ(スロベニアの首都)out。「アドリア海、魅力の旅。世界文化遺産、グルメ、市街地4つ星ホテル泊」という売り文句が掲げられています。

●トルコ10日間の旅
イスタンブールin-out。「新欧亚之魅―深度全景之旅」。「コンヤ、カッパドキア、イスタンブール、パムッカレ、アドリア」」などを訪ねます。「全行程ショッピング強制なし。純粋な旅行体験を楽しめます」。

●アメリカ16日間の旅
ハワイ、サンフランシスコ、ワシントン、ナイアガラの滝、ニューヨーク、ラスベガス、ロサンゼルスなど、アメリカを大周遊します。中国客にとってカジノのあるラスベガスは欠かせません。

●サイパン5日間8499元から(2014年1月21日25日、29日、2月2日発)
サイパンは中国公民の観光ビザを免除している関係で、人気があります。「親子」「ハネムーン」「ゴルフ」「サンセット」「SPA」「ショッピング」などが楽しめると書かれています。

●86日間世界一周クルーズ
コスタ・ビクトリア号による上海発世界一周クルーズの料金は129999元(約220万円)からです。2015年3月1日発、帰国は5月26日です。初めてのツアー商品らしく、今年いっぱいをかけてクルーズ客を集めるそうです。金額もそうですが、長期休暇が取れる富裕層向けですね。横浜港にも立ち寄ります。

●大阪3泊4日/4泊5日
今年3月15日春秋航空は関空線を就航しました。自社便を利用した大阪、京都、神戸の旅です。

これらのチラシから、今の上海ではそれなりにバリエーション豊かな海外ツアーが販売されていることがわかります。こうした多様な選択肢の中から日本が選ばれるためには、どう差別化して他国との違いをアピールすればいいのか。複眼的に考える必要がありそうです。

春秋旅行社
http://sh.springtour.com/

※シーズンによって航空運賃やホテル料金など変わるので、チラシには料金が書かれていませんが、詳しく知りたい方は、春秋旅行社のサイトをご覧ください。

クールな上海の消費者にいかにアピールするか

最後に、日本からの出展者のブースも見てみましょう。

今回日本からのWTF出展は2年ぶりでした。2012年9月の尖閣問題の影響で、同年11月に上海で開催されていた中国国際旅游交易会(CITM)と昨年5月のWTFへの出展を中国側から断られていたからです。あらゆる民間交流を政治と結びつけるのが中国政府の常套手段ですから、こうしたことが常に繰り返されるわけですが、先ごろ「民間交流と政治は分ける」との中国側の表明もあったばかり。その真意はともかく、こうしてようやく今回の出展に至ったといえます。

もっとも、中国の政治的リスクを嫌って日本企業のアセアン諸国へのシフトが強まるなか、日本の出展者も以前に比べると、かなり少なかったことは確かです。

いくつか目についた出展者に話を聞いたので、ざっと紹介しましょう。まず北海道観光振興機構から。2013年入域外国人数が初めて100万人を突破した北海道は、昨秋から戻ってきた中国客の誘致に今年は力を入れるとのこと。上海地区はFIT比率が高いので、リピーターのための細かい足の手段(JRパス、高速バス)の情報を提供しているそうです。

少し意外だったのは、九州からの出展者がなかったことでした。これまで報告してきたように、上海の海外旅行市場におけるメイン商品はクルーズ旅行です。今年は多くのクルーズ船が福岡港を中心に九州各港に寄港することがわかっています。であれば、せめてクルーズの寄港地だけでもPRに来てもよかったのでは、と思わないではありません。

日本政府観光局(JNTO)のブースでは、上海の旅行会社に交替でブースの一部を貸して日本ツアー商品の販売を行っていました。たとえば、春秋旅行社では自社便を使った佐賀や高松を起点としたツアーなど、特徴的なものもいくつかありました。安さで勝負する旅行会社の販売ブースとは一味違う商品ラインナップが見られましたが、どれだけの入場者に気づいてもらえたか、そこが課題かもしれません。

日本ブースの中でもユニークな存在だったのが、上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)でした。同社は上海にある日本の高級旅館のPR会社です。北海道朝里川温泉の「小樽旅亭 藏群」、長野県昼神温泉の「石苔亭いしだ」、兵庫県宝塚温泉の「若水」、同じく塩田温泉の「夕やけこやけ」、岡山県湯原温泉の「八景」などと提携関係にあるようです。

同社の代表は、張凌藺(愛称:りんりん)さんです。

張凌藺さんについて
http://shanghai-zine.com/topics/442

彼女は「日本宅人」http://blog.sina.com.cn/nihontatsujinという微博を主宰し、上海と日本を往復しながら、訪日旅行のプロモーションに尽力している女性企業家です。彼女が会場でこっそり話してくれた次のことばが、とても印象的でした。

「実は、この会場にいる上海人のうち、うちの旅館を利用してくれるような客層はたぶん2割もいない。それでもブースを出したのは、日本の関係者も含めて、我々の存在を知ってもらいたかったから」

今回出展した日本ブースの中に、彼女ほど上海の旅行市場を正確に理解し、的を得たコメントをしてくれた人物はどれだけいたでしょうか。彼女がターゲットにしているのは、この会場にやって来るような人たちとは異なる別の階層だというのです。

どういうことでしょうか?

今回、WTF内の別会場で行われたフォーラムで、国連世界観光機関(UNWTO)中国代表の徐汎女史による「中国の主要3地区の海外旅行市場」報告がありました。

その中で、徐女史は中国のクルーズ市場を以下の3つにランク分けしています。

①大衆消費層向け…中国発4泊5日、5000元相当(初めてのクルーズ体験)
②ミドルクラス消費層向け…「フライ&クルーズ」、5~10万元(クルーズライフを楽しむ)
③富裕層向け…「フライ&クルーズ」、10万元以上、極地クルーズ(特別な体験を求める)

業界関係者を集めたフォーラムで報告されたのは、明快に区分された上海の階層社会の実像でした。上海の海外旅行の大衆化を象徴しているクルーズ商品のスタンダードな価格帯に比べると、ミドルクラス向けは10倍、富裕層向けは最低でも20倍以上。こうした価格帯は万国共通存在するといえますが、中国の専門家はこれからの海外旅行市場の発展のためには、この階層差を直視せよ、ビジネスチャンスはそこにあると啓蒙しているのです。旅行ビジネスにおいても、厳然とした階層差をふまえたものでなければ成り立たないというのが、彼らの現実認識です。こうした認識は日本人が苦手とするものかもしれません。

今回のWTFでいちばん感じたことは、すでに海外旅行の大衆化の時代を迎えた上海の消費者にとって、現状の旅行博というイベントはもうそれほど目新しくもなく、自分たちを夢中にさせてくれる体験を提供してくれる場だとは思われていないということです。ネットによる情報が行き交うなか、特に若い世代にとって、旅行博でなければ入手できないものはないと考えられているからでしょう。台北やバンコクでは旅行博はお祭りとして盛り上がっていましたが、上海ではどうやらそうでもないようです。

ことほどさように、上海人というのはクールな消費者なのです。その背景には、クールな階層社会の現実があります。上海の消費者に日本をアピールしていくには、大衆層向けのPRだけでなく、中国的な階層社会のリアリティをふまえた戦略が必要となるのでしょう。

次回は、ボリュームゾーンである大衆層の動向予測について。春秋国際旅行社日本出境部経理の唐志亮氏に同グループの訪日旅行戦略を語ってもらいます。

※中国の海外旅行市場についての詳細は、中村の個人ブログ「2014年の中国人の海外旅行、調子はどうですか(上海WTF2014報告その3)」、「春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)」などを参照のこと。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-06-27 08:29 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2014年 06月 18日

日本の文化をストーリー仕立てで伝え、訪日につなげる多国籍フリーマガジン

成田や羽田空港の到着ロビーに、ひときわ目につく英字フリーマガジンが置かれています。『WAttension Tokyo』は巷にあふれる外国人向けフリーペーパーとはまったく異なるオリジナリティと可能性を持っています。発行元の和テンション株式会社の鈴木康子代表取締役に、どこが他誌とは違うのか、そもそもの成り立ちから今後の展開まで話を聞きました。

目次:
雑誌『和テンション(WAttention)』について
創刊の時期と目的
外客誘致につなげた事例
スマホアプリとの連携
b0235153_2195215.jpg

―『和テンション(WAttention)』とはどんな雑誌ですか?

ひとことでいえば、日本の文化情報に特化して、日本で唯一世界展開している多国籍フリーマガジンです。

現在、年4回発行の東京版をはじめ、世界9カ国・地域(シンガポール、マレーシア、タイ、ロサンゼルス、フランス、台湾、インド、そして今年6月香港版も登場)で展開しています。東京版は、成田・羽田空港の到着ロビーやホテル、大使館、外国人記者クラブなど、都内約350か所で配布しています。海外の旅行博では、各国のスタッフが会場で自国版を配布しています。

日本の情報を発信する以上、記事は東京でつくることが多いですが、編集方針として四季(季節感)を大事にしています。

各国版の共通コンテンツとして「こよみを楽しむ」という連載コーナーがあり、そこでは日本の文化を理解してもらうカギとなる季節の風物や食などを紹介しています。弊誌のこだわりとして、一般の情報誌のような表層的な情報は扱いません。

取材も、日本人とNon-Japaneseとが一緒に行うことで、日本の文化的背景をふまえ、外国人の新鮮な視点を盛り込むことに努めています。

読者ターゲットは海外の日本好きのFITです。台湾版と香港版、タイ版、フランス版以外は英字誌ですが、世界展開することで、日本を訪ねてきた外国人旅行者向けの「着地型メディア(東京版)」と、旅行に行く前に日本への興味を喚起し、誘客につなげる「現地型メディア(各国版)」の2つの機能を併せ持つことができるのです。

―創刊はいつですか。どんな経緯から立ち上がったのですか?

シンガポール版の創刊は2010年で、東京版は11年4月です。もともと弊社はシンガポールで邦人向け現地情報誌『マンゴスティン倶楽部』(1997年創刊)を発行していました。これはシンガポール在留邦人や旅行に来る日本人向けの日本語情報誌で、いってみればシンガポールのインバウンドに貢献するビジネスだったわけです。
b0235153_21103911.jpg

この仕事を通じて私たちはいかにシンガポールの観光政策が優れているか、精通することができました。08年に日本にも観光庁が設立され、日本でも観光誘致を本格的に始めることを知り、海外在住の私たちだからこそできる日本のインバウンドへの貢献はないかと考え始めたのが09年頃です。

シンガポールで仕事をしていて感じるのは“メイド・イン・ジャパン”クオリティに対する信任です。日本人がいいという店に行きたいと彼らは言います。

日本人の評価そのものに価値があると考えられているのです。ところが、外客誘致にそれが十分活かされているとは思えませんでした『和テンション(WAttention)』という誌名も、日本の和に対する気づきから来ています。もっとちゃんと日本を理解してほしい。そのためにふさわしい媒体が必要だと考えたのです。

―貴誌が外客誘致につなげた具体的な事例を教えてください。

東京版2012年冬号で大田区を特集しました。区からの依頼で訪日外国人向けにリサーチを行い、同区内のさまざまな観光ポイントを記事化しました。それを台湾版、ロサンゼルス版、シンガポール版にも転載し、日本政府観光局(JNTO)のFacebook上、WAttention web上でアンケート募集を実施したところ、5カ国から700名強の応募ありました。さらに、大田区特集のコンテンツを別刷りとして別冊“Letʼ’s all go to Ota City Tokyo”を制作しました。
b0235153_21112079.jpg

シンガポール版2014年春号では、山梨県と長野県、岐阜県の3県の「山国紀行」特集を企画しました。海外スタッフと日本人による取材を通じて、3県を訪ねる新しいモデルコースを造成し、シンガポールの旅行会社で実際にツアーを募集してもらいました。
b0235153_21113497.jpg

弊社はこうしたファムトリップ招聘事業を通じて、国内在住、もしくは海外から外国人やメディアを招聘し、さまざまなコンテンツとして記事化し、掲載することができます。

弊誌のもうひとつの特徴は、日本からの広告出稿だけでなく、海外現地企業の広告も多いことです。それだけ現地の方に読まれている証拠といえます。その国にローカライズした内容構成を心がけているからです。

―今後は雑誌以外にも多元的な展開があるそうですね。

弊社のビジネスモデルは、『和テンション(WAttention)』シリーズの発行をベースに自社ウェブサイトで情報発信するメディア事業に加え、これまで述べたように、イベント事業やリサーチ・コーディネーション事業(ファムトリップの手配、企業のシンガポール進出サポート、翻訳・通訳手配など)を行うものです。

我々のミッションは、日本の文化コンテンツをストーリー仕立てで海外に伝え、共感を得てもらい、訪日につなげることにあります。

今後はスマホアプリを雑誌と連携させていきます。7月に「WAttention App-WTN Guide(仮称)」をオープンする予定ですが、事前にダンロードしておけば、現地で店舗の地図やクーポンなどのお得情報を入手できます。

このアプリはKPI(訪問回数などがモニタリングできる重要業績評価指標)を取得できるので、スマホでかざすマーカーを雑誌と店舗の両方で用意しておけば、雑誌から店舗への誘引率などもわかるのが特徴です。

また11月にシンガポールの大型ショッピングモールのジュロン・ポイントに「WAttention Plaza」という催事場をオープンさせます。そこは日本の文化に触れられる常設の展示スペースとして活用していただけると思います。物販やイートインも可能なので、観光に限らずさまざまな日本の情報発信ができるはずです。前述のアプリのダウンロードプロモーションも実施する予定です。
b0235153_21123778.jpg

和テンション株式会社
東京都港区南青山5-18-10-202
www.wattention.com

<編集後記>
成田空港に置かれていた『和テンション(WAttention)』を初めて読んだのは、新宿歌舞伎町特集(2013年夏号)のロボットレストランの記事でした。近未来都市を描いた映画「ブレードランナー」の話から書き起こされる同レストランの記事を読んで、これはサブカルチャーを含めて日本の事情に詳しいライターさんが書いたものだと感じました。その話を鈴木代表に話すと、「日本在住の海外メディアの記者や特定のジャンルの専門ライターに記事を書いてもらっている」とのこと。「表層的な情報は扱わない」という編集方針とはそういうことです。

東京で入手できる英字フリーペーパーといえば、ロンドンをベースに世界展開している『Time Out Tokyo』のことが思い浮かびます。でも、よく考えてみると、同誌は東京でしか入手できないのに対し、『和テンション(WAttention)』は海外でも発行されていることがまったく違います。

ここ数年で外国人向けフリーペーパーは雨後の筍のごとく誕生しましたが、それらと『和テンション(WAttention)』が根本的に違っているのは、編集方針はもちろんですが、ビジネスモデルにおいてもそうです。海外で発行されていることから、単なる訪日誘客メディアとしてだけではなく、海外に進出したいと考えている企業にとっても使い勝手のいい媒体として機能しているからです。

こうした独自性は、シンガポール在住の日本人たちによる自由な発想から生まれたものでしょう。鈴木代表は「シンガポールの観光政策から学ぶことが多かった。MICE誘致しかり、周辺国・地域の観光インフラを開発し、それも含めてシンガポールの外客誘致に結びつけているところなど、日本はもっと学ぶべき」と言います。

彼女と話していてあらためて認識したのは「英語を話す華人」の存在です。2013年の訪日シンガポール人は約19万人。中国・台湾・香港を含めた華人全体から見ればわずかな存在にすぎませんが、英語ゆえのワールドワイドな広がりがあります。次々と海外で雑誌を立ち上げていく手腕には大きな可能性を感じます。こういう先進的なメディアをこれからどう活用していくべきか、考えるだけでも楽しくなります。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-06-18 21:13 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 06月 09日

インド人の日本旅行の訪問地が東京・大阪プラス広島の理由(アセアン・インドトラベルマート2014その2)

アセアン・インドトラベルマート2014会場で、もうひとり話を聞いた海外バイヤーが、ムンバイから来たNarayan Kabraさんでした。彼はインドのオンライン旅行社Yatra Online Pvt Ltdの社員で、今回初めて来日したそうです。
b0235153_8553639.jpg

Yatra Online Pvt Ltd
http://www.yatra.com

商談の合間に少し時間をつくってもらい、話を聞きました。

―インド人の日本ツアーの一般的なコースとツアー代金の相場を教えてください。

「ツアー期間は1週間で、東京3日、大阪3日、広島1日の滞在が一般的です。ツアー代金は約10万5000ルピー(約30万円)です。航空運賃が高いのが問題です」

―広島を訪ねる理由は何ですか。他のアジアの国ではあまり聞いたことがないからです。

「インド人は第二次世界大戦の歴史に関心がありますから、広島の原爆ドームや平和資料館を訪ねたいと考えているのです」

―日本旅行中、気になることはありますか。

「インド人はヴェジタリアンが多いので、食事の問題があります。ホテルを選ぶ際も、近くにインドレストランがあるのが条件です」

―最近、日本にもインドレストランのチェーン店が増えています。

「今回私もよく見かけました。でも、カウンター席しかない小さなレストランは利用しにくいです。インド人の海外旅行は家族連れが多く、使いづらいし、ビジネスマンもあのようなカジュアルなレストランは使いたがりません」

―なるほど。他には要望はありますか。

「インド人は海外旅行に行くと、ナイトライフを楽しみたいと考えていますが、日本には外国人が楽しめるようなナイトエンターテインメントがほとんどありません。インド人は夜が遅いので、食事を楽しみながら見られるショーなどがあれば、喜んで行くと思いますよ」

話を聞きながら、日本に来た以上、広島には必ず足を運ぶというインド人は、さすがパール判事を生んだ国だと思いましたね。昨年訪日したインド人は約7万5000人といいますから、富裕層やビジネスマンに限られ、基本的に知的な層が大半を占めると思われますが、その国の歴史教育によって観光地の選択も、これほど影響があるものなのだとあらためて思いました。インド向けのプロモーションにおいて、広島をどうPRするか、知恵を絞る必要があるようです。
b0235153_8572845.jpg

[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-06-09 08:59 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 06月 09日

ベトナムからの日本ツアーは6泊7日1600ドルが相場(アセアン・インドトラベルマート2014その1)

6月3~4日にパシフィコ横浜で開かれたインバウンド商談会「Japan Asean+India Travel Mart2014」に行ってきました。
b0235153_8403938.jpg

観光庁と日本政府観光局が主催する今年で2年目のイベントです。東南アジアやインドからの訪日旅行市場の拡大のため、これらの国々から海外旅行を扱う旅行会社(バイヤー)を招聘し、日本からはホテルやレジャー施設などの観光素材を提供するセラーが集まり、合同商談会を行います。公式サイトによると、国内セラー約200社、海外バイヤー約150社(タイ30社、シンガポール10社、マレーシア20社、インドネシア30社、ベトナム20社、フィリピン20社、インド20社)が参加したそうです。

Japan Asean+India Travel Mart2014
http://www.j-asean-india-tm.jp/j

昨年から政府が取り組んできたアセアン諸国に対する観光ビザ緩和により、東南アジアからの訪日客が増えています。

2013年のアセアン諸国の訪日外客数(JNTO統計による)

タイ 45万3600人
シンガポール 18万9200人
マレーシア 17万6500人
インドネシア 13万6800人
フィリピン 10万8300人
ベトナム 8万4400人

2014年6月現在、タイとシンガポール、マレーシアの観光ビザが免除されていますが、7月からインドネシア、フィリピン、ベトナムの免除もいまは報道レベルですが、始まりそうですから、この地域からの訪日客の増加はさらに拍車がかかるものと思われます。
b0235153_8405663.jpg

会場に入ってみましょう。天井の高い展示場スペースに、バイヤーとセラーが分かれてデスクとブースが並び、事前にアポイントを入れた相手と20分刻みで商談をします。
b0235153_8425255.jpg

b0235153_843625.jpg

ある人の紹介で、ベトナムから来たハノイツーリストのLuu Duc Ke社長に話を聞くことができました。社長によると、ベトナムからの日本ツアー(東京・大阪ゴールデンコース)は6泊7日で1600ドル(3つ星ホテル利用)~2000ドル(4つ星ホテル利用)が相場だそうです。ベトナムの旅行シーズンは4月と6月(夏休み)、10月だそうです。昨年8万人を超えた訪日客ですが、今年は12万人を超えるだろうとのこと。7月に観光ビザが免除されれば、さらに増える可能性があるそうです。
b0235153_843213.jpg

ハノイツーリスト
http://www.hanoitourist.vn/

同社の海外旅行ツアーパンフレット(ベトナム語)をいただきましたが、日本ツアーで掲載されていたのは東京・大阪ゴールデンルートのみでした。社長によると、これまでベトナム人の海外旅行先として人気の高かったタイでクーデターが起き、中国とは関係悪化したことから、2国を避ける動きが強まっているそうです。
b0235153_8451444.jpg

b0235153_8451992.jpg
b0235153_8452644.jpg

ベトナムにはまだ日本政府観光局事務所はありませんが、レップ(代理事務所)を務めるNhan Phuong代表は次のように語ります。
b0235153_8482953.jpg

日本政府観光局ベトナム代理事務所
http://www.jnto.go.jp/vietnam/

「現在、ベトナム人はアセアン10カ国のみビザ免除されています。台湾や香港、韓国でもまだビザが必要ですから、もし日本で免除となれば、間違いなくベトナム人は日本へ行きたいと思うはずです。日本の魅力は桜や紅葉に代表される自然の美しさ、近代的でありながらとても清潔な国であることです。日本料理も食べたいし、買い物もしたい。ベトナムの経済水準はまだ低いので、リピーターが現れるようになるにはまだ時間がかかりますが、いまのベトナムには日本に行きやすい環境が整い始めています。

今回、ベトナムの旅行関係者はファムトリップで医療機関を視察しました。訪ねたのは、大阪のりんくう総合医療センターや葉山ハートセンターなどです。これまでベトナムの富裕層は医療観光の場合、タイやシンガポールに行く場合が多かったのですが、今回日本の進んだ医療機関を視察してわかったのは、少なくともシンガポールと比べると日本の治療費はそれほど高くはないということです」

現在、日本・ベトナム間には成田・関空からハノイ・ホーチミンに毎日フライトがあり、7月16日からベトナム中部のダナン・羽田線が就航予定です。実は6月4日、ベトナム政府観光局の東京事務所が開設されました。ベトナムとしては世界で初めてのことだそうです。

Nhan Phuong代表は、ベトナムの訪日旅行を後押しする背景として、こんなことも話してくれました。

「政治的なことは多く語りたくありませんが、いまベトナムでは中国に対する反感が高まっています。ですから、ベトナム国内にあふれる中国製品を排斥する動きも強まっています。日本の周辺は反日国と親日国がはっきり分かれていますが、ベトナムは親日以上、尊日の国です。まだまだ時間はかかりますが、もっと多くのベトナム人が日本を旅行できるようにしていきたいし、日本の方もベトナムに来ていただきたいです」

彼の話によると、来日したベトナム人が家電量販店で電気製品を購入しようとしたとき、あまりのメイドインチャイナの氾濫ぶりに唖然とするそうです。せっかく日本に来た以上、メイドインジャパンを買いたいのに、と思ってしまうとか。家電量販店の販売員さんは、相手がどこの国の人かによって、商品の薦め方を変える必要がありそうです。またベトナム人は最近、日本の健康食品も購入するそうです。プロポリスや美白化粧品なども人気で、100円ショップにも必ず行くとか。アジアではどこの国も同じようなショッピング行動が見られるのですね。

気になったのは、今春観光バス不足のため、台湾客を中心に訪日ツアー中止が頻発しましたが、ベトナムでも同様のことが起きていたようです。ベトナムでは、まだ日本の国内事情が知られていないせいか、問題化はされていませんが、ベトナムの旅行シーズンである4月と10月は、バスはもちろん、ホテルの客室がきわめて取りにくいと前述のハノイツーリストのLuu Duc Ke社長も話していました。

バスやホテル不足のため、アジア客の訪日をお断りするような事態が今後も起きそうです。これは大変気がかりな話です。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-06-09 08:49 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 06月 01日

クールな上海の消費者にアピールする方法をもっと考えるべき(上海WTF2014報告その5)

上海旅游博覧会(WTF 2014年5月9日~11日)には、2年ぶりに日本からの出展者もブースを並べていました。
b0235153_22264271.jpg

2012年9月に起きた尖閣諸島問題の影響で、同年11月に上海で開催されていた中国国際旅游交易会(CITM)と昨年5月のWTFへの出展を中国側から断られていたからです。あらゆる民間交流を政治と結びつけるのが常套手段の中国政府ですから、こうしたことが常に繰り返されるわけですが、先ごろ「民間交流と政治は分ける」との表明もあったばかり。その真意はともかく、こうしてようやく今回の出展に至ったといえます。

もっとも、中国の政治的リスクを嫌ってアセアン諸国へのシフトが強まるなか、日本の出展者数も、昨年の台北やバンコクの旅行博に比べると、かなり少なかったです。

日本からの主な出展者は以下のとおりです。

日本政府観光局(JNTO)
北海道観光振興機構
中部広域観光推進協議会
北陸国際観光テーマ地区推進協議会
瀬戸内海共同ブース(組織名不明)
埼玉県上海事務所
横浜市上海事務所
茨城県上海事務所
沖縄観光コンベンションビューロー
全日空上海支店
移動通信
東急グループ
小田急電鉄
名鉄観光
藤田観光
上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)

もしかしたら、漏れがあるかもしれません。日本からというより上海に事務所を置く企業や自治体が出展しているケースもけっこうあるからです。

いくつか目についた出展者に話を聞いたので、ざっと紹介しましょう。まず北海道観光振興機構から。
b0235153_22271087.jpg

2013年入域外国人数が100万人を初めて突破した北海道は、昨秋から戻ってきた中国客の誘致に今年は力を入れるとのこと。上海地区はFIT比率が高いので、リピーターのための細かい足の手段(JRパス、高速バス)の情報を提供しているそうです。
b0235153_2227373.jpg

中部広域観光推進協議会といえば「昇龍道」でしょう。同会の制作したチラシによると、「中部北陸地域の形は、能登半島の形が龍の頭の形に似ており、龍が昇っていく様子を思い起こさせることから『昇龍道』と名づけられました」とあります。
b0235153_22275433.jpg

ここでいう「昇龍道」には、石川、福井、富山、長野、岐阜、滋賀、愛知、三重、静岡の9つの県が名を連ねています。東京・大阪ゴールデンルートと北海道の次に来る「第三」の観光コースとして名乗りを挙げたということのようですが、ちょっと参加県が多すぎて、外国客からすると、イメージが拡散しすぎるきらいがあると思います。もっとコースを絞り込んで、伝えるべきではないでしょうか。いろいろあるよ、では外客には伝わりません。結局、どれがBESTなの? と聞かれるのがおちだからです。
b0235153_22283279.jpg

唯一知名度があるのが、高山黒部アルペンルートでしょう。はっきり言って、昇龍道のメインコンテンツはこれに尽きるといっていいいかもしれません。だとすれば、アルペンルートに絞ってアピールすればいいのですが、そうならないのが悲しいところです。そもそも外国客は単一県を目指して来日することは考えられないので、広域連携は不可欠なのですが、誰とどう連携するかにも戦略が必要です。今後の行方を見守るほかなさそうです。
b0235153_22284959.jpg

もうひとつの広域連携が瀬戸内4県と北九州市の共同ブースです。個性は違えどエーゲ海の魅力に匹敵する(少なくともぼくはそう思っています)瀬戸内海ですが、どうも中国四国の関係者は昔からアピール下手のように思えます。これではただ、うちの県のことを知ってくださいね、に終わっているように見えます。本筋でいえば、最も知名度の高い宮島で売れ、それを集客のメインの顔としていかに瀬戸内海のイメージづくりをしていくべきだと思うのですが、明確な戦略が見えません。単なる仲良し連合では宣伝効果は望めないのに。個別の県のPRも旅行博という場ではほとんど意味がありません。

自治体関係では、インバウンド振興において他県の追随を許さない経験値を持つ沖縄観光コンベンションビューローが入場客を引きつける手法も含め、突出していたと思います。
b0235153_22294336.jpg

東京都に隣接する埼玉県と茨城県、横浜市(ただしすべて上海事務所)も出展していました。このうち、茨城県は春秋航空の最初の日本でのフライト地ですが、上海客のほとんどは東京に直行し、茨城県をスルーしてしまうため、いかに地元で滞在してもらえるか、県のPRが目的でしょう。これがなかなか難しいようです。また埼玉県と横浜市の関係者に話を聞くと、それぞれ共通の悩みと目的を持っていました。ともに東京に隣接していながら、充分に地の利を活かせていないからです。逆に近すぎることで、宿泊地として選ばれることも難しく中途半端なのです。東京を起点になんとか足を延ばしてもらうためにはどうすればいいか、模索中のようです。
b0235153_22295922.jpg

民間企業としては、東急グループや小田急電鉄、名鉄観光、藤田観光などが出展していました。関係者の話をそれぞれポイントだけいえば、東急はいかに渋谷をアピールできるか。小田急は箱根に向かうFIT客をどれだけつかめるか。藤田観光は、ホテルの客室不足が取りざたされる現在、いかに外客の効率的な取り込みを図るかが課題のようでした。

いちばん驚いたのは、九州からの出展者がなかったことでした。これまで報告してきたように、いま上海の海外旅行市場におけるメイン商品はクルーズ旅行です。今年は多くのクルーズ船が福岡港を中心に九州各港に寄港することがわかっています。であれば、せめてクルーズの寄港地だけでもPRに来てもよかったのでは、と思わないではありません。しかし、尖閣問題後の中国の卑劣な仕打ちを受けた九州の関係者が、のこのこと上海に出てくる気にはなれないのかもしれません。そのあたりの事情は関係者に電話で話を聞いただけですが、日中関係はかくも難しく、せっかくどちらかが歩み寄ろうとしても意思のすれ違いが起きてしまうもののようです。

日本ブースの中で最もユニークな存在だったのが、上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)です。浴衣姿の上海の女の子がふたり、キャンペーンガールのようにいるのですが、ぼくも最初はどういう会社なのか、よくわかりませんでした。
b0235153_2230265.jpg

ブースにいたスタッフに聞くと、同社は上海にある日本の高級旅館のPR会社だそうです。北海道朝里川温泉の「小樽旅亭 藏群」、長野県昼神温泉の「石苔亭いしだ」、兵庫県宝塚温泉の「若水」、同じく塩田温泉の「夕やけこやけ」、岡山県湯原温泉の「八景」などと提携関係にあるようです。
b0235153_22304190.jpg

ところが、話を聞いていくうちに、同社のボスはぼくのよく知っている上海の友人であることがわかってきました。その人とは、上海スマートビジネスコンサルティングの総経理、張凌藺(愛称:りんりん)さんです。

上海スマートビジネスコンサルティングと張凌藺さんについて
http://shanghai-zine.com/topics/442

実は、彼女と知り合ったのはもう8年くらい前で、現在の会社を起業する前に東京に来た彼女を秋葉原に案内したこともありました。彼女の仕事のベースになっているのは、学生時代の日本のアニメ体験でした。彼女は、いわゆる「80后(80年代生まれ)」の代表的な中国人といってもいいかもしれません。以下の記事に登場してくれています。

上海の若者がアキバへ社会科見学~宿題は「なぜ中国でアニメの産業化が進まないか?」(NBOnline2008年5月20日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080516/157149/

さて、それはともかく、彼女はいまや企業家として、あるいはブロガーとして上海と日本を往復し、訪日旅行のプロモーションに貢献しています。そんな彼女が会場でぼくにこっそり話してくれた次のことばが、とても印象的でした。

「実は、この博覧会に入場してくる上海人のうち、うちの旅館を利用してくれるような客層はたぶん2割もいない。対象としているのは富裕層だからです。それでも今回ブースを出したのは、日本の関係者も含めて、我々の存在を知ってもらいたかったから」

今回出展した日本ブースの中に、彼女ほど市場を正確に理解し、鋭く的を得たコメントをしてくれた人物は、どれだけいたでしょうか…。
b0235153_22351370.jpg

最後に、日本政府観光局(JNTO)のブースを紹介しましょう。今回のWTFの特徴は販売色が強まったことです。そこで、JNTOのブースの中でも、上海の旅行会社に交替でブースの一部を貸して日本ツアー商品の販売を行っていました。
b0235153_22352922.jpg

なにしろJNTOの作成したパンフレットも、旅行会社のツアー商品の紹介が大部分を占めています。春秋旅行社は自社便を使った佐賀や高松を起点としたツアーなど、特徴的なものもいくつかありました。安さで勝負する旅行会社の販売ブースとは一味違う商品ラインナップが見られましたが、どれだけの入場者に気づいてもらえたか、そこが課題かもしれません。
b0235153_223554100.jpg

10年ぶりに視察した今回のWTFでいちばん感じたことは、すでに上海の消費者にとって旅行博というイベントはもうそれほど目新しくもなく、自分たちを夢中にさせてくれる体験を提供してくれるとは思われていないということです。ネットによる情報が行き交うなか、旅行博でなければ入手できないものはそれほどないと考えられているからでしょう。特に若い世代にとって。馬英九総統が開幕のあいさつに現れるという台湾の旅行博とは盛り上がりが違うのです。台北やバンコクでは旅行博はお祭りでしたが、上海ではそうでないようです。

ことほどさように、上海人というのはクールな消費者です。そんな彼らに効果的にアピールしていくには、それなりの知恵が必要となるでしょう。それが何なのか。もっと多くの関係者に話を聞いて見る必要があると思った次第です。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-06-01 22:37 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 06月 01日

「上海よりの外人誘致」~80年前の座談会で語られる課題は今と変わらない

5月中旬に上海の旅行博の視察に行ってきたばかりですが、「上海よりの外人誘致」つながりという意味で、とても興味深い戦前期の記事を見つけたので、紹介したいと思います。

1913(大正2)年に創刊された外客誘致の専門誌「ツーリスト」1934年7月号に掲載されている「夏の雲仙公園~上海よりの外人誘致」という座談会です。いまからちょうど80年前に行われた座談会でありながら、そこでやり取りされる内容は、今日の日本の外客誘致が抱える課題と基本的に変わっていないことに驚きすら感じました。日本のインバウンドの構造問題がそこに提示されているといえるのです。
b0235153_11263187.jpg

以下、ざっくりと内容を紹介します。出席者は6名ですが、肩書がいっさい書かれていません。内容から察するに、国際観光局の関係者(日本および上海事務所)や話の舞台となる長崎県雲仙の観光関係者などだと思われます。

冒頭、以下の問いかけから、座談会は始まります。

「上海方面からは主として雲仙にお出になる方が多いのですが、それはどんな理由からか、又それに関して参考になるようなことを伺いたいと思います」

※1910年当時、雲仙を訪れた外国客については→「なぜ多くの外客が戦前期に雲仙温泉を訪れたのか?」

これに対する出席者の発言を以下、順を追って書き出してみます。

「主な所はマア地理的の関係からで、近いから簡単に行ける」
「行楽の意味からなら青島などもいいのですが、それはやはり同じ支那の土地でありますから感興もそれ程湧かない、日本ですと山水の美も異なりますし、設備もよく整っているといふので来られるやうです」

「外国人は何処の國の方が一番多いですか」の問いについては、「ロシヤ人、英国人が多いやうに思ひます」。

「雲仙に就いて、上海の外国人はどんな希望を持っていますか。何か注文もあるでしょうし、又非難されているような所がないとも限りませぬが…」

「非難も相当耳に致します。第一に部屋を申し込むのに不便がある。とにかく夏半ばになるとホテルが大抵一杯でどうする事も出来ないといふのが主な非難ですが」

上海の外国人の人気渡航地だった当時の雲仙でも、ハイシーズンのホテルの客室不足が問題となっていたようです。その内実はこうです。

「(雲仙に)従来七八軒あるのは旅館とホテルの合の子もたいなものなんですが、お客様の状態と照り合わせると確かに部屋數が不足しているんです。彼方の部屋数總體から言へば四百五十人程の収容數ですが、最盛期には平均して昨年などでも五百人以上の人を収容している。其の結果相当混雑を来しているような状態で、何とかしなければ、雲仙へ行っても泊まれないから駄目だといふやるな考へを起こさせる事になると思ひます」「雲仙は四、五月頃になるともう満員で、七、八月頃になって渡り鳥のやうに飄然と来られて泊めてくれといってもお断りするより仕方ない」

なかにはこんな話も出てきます。

「其の為めに、去年は天幕を張ってお世話したのです」。「天幕」とは臨時の宿泊用テントのことです。「今年もキャンプをやってホテルに入りきれない人々に利用していただくつもりですが」。

これはえらいことですね。せっかく上海航路で日本に避暑に来たのに、テントに泊まるほかなかったとなると、こういう話題はすぐに上海の外国人租界中に広まるおそれがあり、雲仙の外客誘致にとって致命的な打撃を与えかねません。

ところで、雲仙を訪れる外客に関する出席者の発言からいくつかの興味深い指摘が見つかります。たとえば、こんなコメントです。

「今雲仙に来るお客さんはあまり上層階級の人は来ないといふことになっているが、凡ての人が夏の間だけは来られるやうな風にしたい。ですから彼處にホテルを造るにしてもさういふ向きのホテルを造りたい。すべての人が行って其の生活をエンジョイすることが出来るといふ、幾分高級のもので、やがてさういふ風な人は東京附近にも来られるやうにしたいと思ふ、現在では極く上の階級は日本へ行けば、箱根、宮ノ下迄行かなければならぬ、さりとて雲仙で電車の車掌さんなどと一緒になるのは嫌だといふ人は青島や大連に行っているのであるから、雲仙を足場としてあらゆる階級に相應しいやうに、設備したいと思ひます」

ここで面白いのは、当時雲仙は上流階級向けではなく、上海租界在住外国人のうち中流階級以下向けのリゾートとして認知されていたということです。それゆえ、上流階級向けのホテルを建設することで、より幅広い層の外客を誘致すべきだと指摘してきしています。また、蒸し暑い上海の夏を抜け出す避暑地としての雲仙のコンペティターが、青島と大連であるというのも、今日の感覚では思いもよらないものです。

ホテルの客室不足は、今日の日本のインバウンドにも共通する深刻な問題のひとつといえます。その解決策として、当時も同じことが言われていたことが次の指摘でうかがえます。

「雲仙は混んでいるが、唐津に行けば部屋が空いているといふやうな事を客に十分呑み込ませるやうにしていただきたい。上海のオフィスと長崎のオフィスとよく聯絡をとってやられたらいいと思ふ」

誘客地の分散化を進めることの必要性は、当時も理解されていました。そのためにも、上海のジャパンツーリストビューローのような海外にある外客誘致のための宣伝機関が地元と連絡を密にして、情報発信していかなければならないと指摘しています。

さらに、シーズンの分散化も必要だという指摘も見られます。

もともと「日本人の来る季節と外人の来る季節とが違ひますから大して障りないと思ひます。日本人は夏は殆ど行きませぬ。又躑躅の時期、紅葉の頃には西洋人が来ない。其の利用状態からいっても彼處は外人と日本人とは分かれていると考へております」と思われていたのですが、当時は日本人のホテル利用が進んできており、これもホテルの客室不足の大きな理由になっていたからです。そこで、ある出席者はこう提言しています。

「上海方面から来られる方は只今の所夏が主なやうですが、四季を通じてお出になるやう、彼方にいらっしゃる方のお骨折を煩したいと思ひます。春は櫻とか、秋は紅葉頃に、又冬はクリスマスのお休みを利用してスキーに来られるとか…」

ただし、別の出席者はその難しさをこう率直に吐露しています。

「私の方ではいろいろパンフレットなども沢山造りまして、クリスマスからお正月にかけて出かけられるやうに、夏と同程度の船賃に下げてやってみましたが、甚だ不成績でした。もっとも上海支店の者は始めから気乗りしておりませんでした。色々の理由があるやうですが、大體に於いて西洋人はクリスマス、お正月は旅行しない。家に閉じ籠る者が多い。又忙しくてお正月とはいっても男は仕事している者が多いので、家族の者も出かける譯には行かないのだと、そんなことを申しておりましたが、全く失敗しました」

インバウンドはまさに試行錯誤の連続なのですね。

後半でも興味深い提言がいくつも出てきます。

「夏以外に四季を通じてどの位お客を引っ張れるか、上海の方は一つよく研究していただきたいですな(中略)春の休みを利用して何とか吸引策はないか、充分研究してみてください」

「観光局としては四季を通じて折々新聞雑誌に廣告しております」
「私は活動写真を利用するのが非常にいいと思ひますが…」
「それは三、四年前から御経験願っている譯なんです。雲仙のキャンプ南下を撮ったのもありますし、サンマー・イン・ジャパンといふ活動写真なんか利用率さへよければどしどし使っていただきたいと思っています」

「上海を中心にして揚子江、香港、マニラ、ジャバ、あの方面にいる欧米人に食ひ入る為めに、上海に宣傳を中心にした出張員がいるといふことが必要じゃないかと思ひます」
「今の上海の鐡道の駐在官は私もよく知っておりますので、政治上の事は別問題として、観光上に大いにやって貰ひたいといふことを個人としてよく頼んでおきましたが…」

この座談会が行われた1934年当時の時局について、以下のような発言もあります。

「(雲仙に外客が急増する背景として)何といっても支那が何となく物騒である。そして日本の為替が安い。先生達の習慣として休みの間は何處かに出かける癖がある。従って船賃もあまり高くない、そして生活も楽であるから、日本へ来る人は増えないまでも、大體今の程度で行くのではないかと思ひます」

当時も今日同様、円安が大きな外客急増の背景となっていたのです。さらに、日中対立という時局の問題も…。

「郵船としては一週二回の定期を出します。つまり、四日八日に二回、支那人も相當に雲仙に行くことと思ひます。それから昨年急激にお客の増えた理由としては、日本、支那に於ける大きい外國商社の使用人が本國に歸る休暇を延ばされたらしいですな。三年か四年目に歸るのを来年にせよとかいふ事で、そんな點から家族などは何とかして避暑でもしなければ健康上困るといふそれが一つ、又相変わらず支那内地が物騒であるといふ點で、それは今年もあまり變わりないかと思ひます」

1934年というのは、第一次上海事変(1932年1月)と第二次上海事変(1937年8月)の間にあたる時期でした。逆をいえば、戦闘状態が起きているなか、外客誘致のための活動はふつうに続けられていたのです。実際のところ、上海租界在住の外国人たちは避暑地を選ぶにしても、できれば中国から離れたいという思いがあったことでしょう。

今日上海からの訪日客誘致といえば、上海とその周辺に住む中国で最も経済発展した地域の中国人たちを日本に呼び込むことですが、80年前は上海租界の外国人を上海・長崎航路のある長崎県雲仙に呼び込み、そこから訪問地とシーズンの分散化を図ることでした。

私たちは80年のときを経て、先人たちと同じ課題に向き合っているのです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-06-01 11:38 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 05月 28日

2014年の中国人の海外旅行、調子はどうですか(上海WTF2014報告その3)

海外の旅行博覧会の視察で見逃せないのは、展示会場とは別のステージで行われるフォーラムです。今回の上海旅游博覧会(WTF)のフォーラムのテーマは「海外旅行のリスクマネジメント」でした。5月9日午後1時半から行われました。
b0235153_13391456.jpg

昨年10月中国では「新旅游法」が施行され、旅行業界では消費者に対する旅行サービスの質の確保や安全面での保障が強く求められる時代になったといわれています。

もっとも今回のフォーラムで目立ったのは、むしろ(相変わらずというべきか)いかに中国の海外旅行市場が躍進しているかを伝える報告だったと思います。
b0235153_13394510.jpg

冒頭の「中国出境旅游三大区域市场报告(中国の主要3地区の海外旅行市場レポート)」はまさにそうした内容でした。報告者は、国連世界観光機関(UNWTO)の中国代表の徐汎女史です。以下、簡単に彼女の報告を整理してみたいと思います。
b0235153_13395760.jpg

ここでいう「主要3地区」とは、華中(上海、浙江省、江蘇省)と北京、広東(広州と深圳)を指しています。つまり、ここに挙げた地域が中国の海外旅行市場をけん引しているのです。

まず徐女史は、ヨーロッパ旅行について話を始めます。これまでの中国人のヨーロッパツアーは、英仏独伊あたりを団体で周遊するのが一般的(日本の1970年代のロンパリローマの旅と同じ)でしたが、これからは特定の一国を訪ねる旅が主流になりつつあるといいます。ヨーロッパは国によって個性が違うため、一人ひとりの旅行者が何を求めるかによってどの国を訪ねるか選ぶべきだといいます。
b0235153_13521411.jpg

※中国人のヨーロッパ各国のイメージの違いは、旅行会社のつくるちらしによく表れています。統計と合わせてみると面白いと思います→「春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)」

次に、旅行スタイルの話題です。中国の海外旅行市場が年々進化していて、そのプロセスは「普及游」→「深度游」→「自由行」という流れにあるといいます。目的地も最初はヨーロッパの主要国だったが、現在では中南欧、東欧、北欧へ広がっているといいます。
b0235153_134050100.jpg

なかでも「自由行」が進んでいるとし、その特徴は「個性化」だといいます。まあこれはどこの国でも起こることなのですが、中国人にとって(あとで触れることになりますが)「自由行」の障害となっているのがビザ問題です。

2013年、348万人の中国人がヨーロッパを訪れたそうです(前年度比11.16%増)。そのため、ヨーロッパの旅行業界はいかに中国客を受け入れるか検討しているといいます。思うにいまのヨーロッパは、日本の2008年頃の感じに似ているのではないでしょうか。大挙して訪れる中国客の購買力に驚き、これまでの受け入れ態勢を再考する必要を考え始めたというわけです。
b0235153_1341341.jpg

中国客の質的変化は次のように表現されています。

「不再是逛景点(もう名所を巡るだけではない)」

「购物,而是一种生活方式和体验(ショッピングも一種の生活様式と体験となっている)」

「团队越来越少,很多情侶和小团体,喜欢体验式旅游(団体はますます減り、カップルや小団体が多い。体験旅行を好む)」

「新一代旅客;比较年轻,受教育程度良好,旅游经验丰富,喜欢按自己的兴趣和需求规划行程;把旅游当做一种自我投资,乐于在微博社交媒体上展示(新世代の旅行社は比較的若く、教育程度も高い。旅行経験も豊富。個人的な趣味を追求した計画を立て、旅行を一種の自己投資とみなしている。微博(SNS)を通じて社交を楽しむ)」
b0235153_13472422.jpg

これもとりたてて新しい指摘ではありませんが、いわんとするところは、中国人も先進国の人たちと同じように海外旅行をしていますよ、という話です。
b0235153_1346992.jpg

次に、注目ディスティネーションが紹介されます。たとえば、アメリカですが、先に挙げた主要3地区のうち、北京が圧倒的トップで、次が広東。最も増えているのは江蘇省で前年度比25.22%増。上海はなぜか前年度比14.9%減となっています。こういうところにも、物見遊山だけでは気がすまない北京人の気質がわかります。教育熱の高い中国らしく、アメリカ東海岸の名門大学を訪ねて回るツアー商品もあるほどです。

さらに最近渡航者が増えているのはニュージーランドです。特に広東省の伸びが高い。モーリシャスも増えています。特に2012年からの伸びが顕著です。
b0235153_13463799.jpg

アフリカも中国人の人気ディスティネーションになりつつあります。やはりトップは北京。約12万人の渡航者数で、前年度比65.1%増です。ディスティネーション選びに関しても、実質や享楽を重視する華中や広東の人たちと比べ、北京の人たちはロマンある「個性的」な旅を好む傾向が強そうです。
b0235153_13475073.jpg

興味深いのは、主要目的地の渡航者数の前年度比を示すグラフによると、ことさら触れられることはありませんでしたが、トップは日本47.7%増。次いでベトナム40.4%増、インドネシア39.5%増、韓国33.2%増、フランス31.9%増です。大きく減らしているのがカンボジア50.1%減で、タイやマレーシアも減少傾向にあるようです。おそらく新旅游法(タイの場合)や航空機事故(マレーシアの場合)などが考えられます。きっと今後はベトナムも減少するでしょう。日本の場合は、尖閣諸島沖事件で2012年秋以降激減した反動が出ていると思われます。
b0235153_1348958.jpg

さて、話題は展示ブースでも目立っていたクルーズの話に移ります。徐女史によると、2012年は「大型船時代」、13年は「戦国時代」だといいます。つまり、2010年前後から本格化した上海発のクルーズ旅行(一部天津発もある)も、12年には客船の大型化が進み、13年にはさまざまなクルーズ会社が競うように参入してきたというわけです(詳しくは「上海WTF2014報告その2」参照)。
b0235153_13483592.jpg

中国のクルーズ市場は以下の3つに分けられるそうです。

①大衆消費層向け…中国発、4泊5日、5000元相当(初めてのクルーズ体験)
②ミドルクラス消費層向け…「フライ&クルーズ」、5~10万元(クルーズライフを楽しむ)
③富裕層向け…「フライ&クルーズ」、10万元以上、極地クルーズ(特別な体験を求める)
b0235153_13485363.jpg

特に③の北極&南極クルーズが今年の目玉だそうです。前者は6万5000元から、後者は12万元からです。これが実際の南極クルーズの旅行チラシです。
b0235153_6584314.jpg

他にもさまざまな富裕層向けの旅が紹介されていました。特に珍しいものはありませんが、いまの中国人にとって強い憧れの対象となっていることがわかります。

最後に触れられるのがショッピング行動です。以下の3つの変化を示しているそうです。
b0235153_13502683.jpg

①他需 → 自需(知人へのお土産から自分のために)
②从众 → 个性(大衆的なものから個性的なものへ)
③欧州 → 亜州(ヨーロッパからアジアへ)

①と②はわかりますが、③はどういう意味なのか。昨年、中国客がパリのルイヴィトン本店に大挙して押し寄せ、床や階段に座るやら大声で話すやら、みっともない姿が中国メディアでさんざん批判的に報じられたこともあったせいか、これからのショッピングはアジアでスマートに、ということでしょうか。その本丸は韓国のようです。きっとこれも中韓の蜜月時代を象徴しているのでしょう。「韓国はショッピング天国」だそうです。
b0235153_13504832.jpg

こうして中国の海外旅行市場にまつわるさまざまなトピックスが紹介された報告でしたから、2014年現在の中国人の海外旅行の内実がそれなりにつかみやすい内容だったと思います。ただし、前述したように、中国人にとって世界各国のビザ緩和の状況は不満であり、大きな関心事となっています。ちょうど今年は中仏国交50周年だそうで、フランスの中国公民に対するさらなるビザ緩和が進むことが期待されていました。
b0235153_13511880.jpg

同フォーラムのパンフレットには、こう書かれていました。

「2013年中国公民の出境総数は9819万人で前年度比18%増、今年14年には1億1000万人に達するであろう。現在、中国公民に対するビザ免除待遇を実施している国家は45となった」

ただし、その中には先進国はほぼ含まれていません。中国のビザ免除を実施している国については別の回で。

※なぜ世界は我々に対してこんなに厳しいのか?~中国の最大の関心事はビザ緩和
http://inbound.exblog.jp/22733072/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-28 13:37 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 27日

上海の海外旅行市場の大衆化を象徴するクルーズ人気(上海WTF2014報告その2)

前回、上海旅游博覧会(WTF)の会場の様子をざっくり紹介しましたが、そこでも述べたように、全体として他のアジア各国の旅行博覧会に比べ派手さはなかったものの、販売ブースはそれなりに活況を呈していました。

なかでも目立ったのが、クルーズの販売です。昨年さっぱり姿を見せなかった上海発クルーズ船も、今年は福岡などを中心に九州各地を寄港しています。
b0235153_9393490.jpg

これは6月30日発サファイア・プリンセス号のセールスボードです。済州島、福岡、長崎を寄港する5泊6日のクルーズで、上海中旅国際旅行社が販売しています。料金はデラックスルームで1名8999元。会期中1部屋4300元のディスカウントをうたっています。
b0235153_9401019.jpg

これは7月17日発の同じくサファイア・プリンセス号の広告です。上海錦江旅行社の販売で、1名7880元からとあります。
b0235153_9404898.jpg

7月1日発4泊5日で済州島、福岡に寄港するコスタ・アトランティカ号の広告です。市場価格は4200元からですが、この広告を出しているネット旅行社の驴马马旅游网のスペシャルプライスは隠されています。
b0235153_9413932.jpg

コスタ・クルーズ社の86日間の世界一周クルーズも大々的に販売されていました。ここには料金が表示されていませんが、春秋旅行社のちらしによると、12万9999元(約220万円)からとのことです。
b0235153_9421034.jpg

コスタ・クルーズ社の世界一周クルーズは上海市内の街場の旅行会社の店舗でも販売されています。
b0235153_9432262.jpg

極めつけは、セレブリティ・インフィニティ号の22日間南極クルーズです。上海からブラジルに飛び、イグアスの滝など数日間ブラジルを観光した後、南米各地を寄港しながら南極を訪ねるものです。上海東航国際旅行社が販売していました。
b0235153_9434243.jpg

クルーズ各社のブースも出展していました。まず人気のプリンセス・クルーズ社です。
b0235153_9435397.jpg

台湾と那覇の定期クルーズを運航しているスタークルーズ社です。
b0235153_9441244.jpg

ネット旅行会社によるクルーズ販売ブースもありました。
b0235153_9444262.jpg

会場にはクルーズの特設イベント会場が設置されていて、30分おきに各旅行会社やクルーズ会社によるPRや懸賞イベントが繰り広げられていました。
b0235153_945242.jpg

b0235153_9451917.jpg

ここ数年、上海WTFでは展示会というより販売色が強くなっているようですが、いまの上海の旅行会社のファーストプライオリティはクルーズ販売です。

上海のクルーズ人気について、日本政府観光局(JNTO)上海事務所の中杉元氏は「上海発のクルーズは4泊5日で韓国や九州を寄港するものが主流です。人気の理由は、寄港地でのショッピングが楽しめること。祖父母と親子3世代のファミリーが気軽に参加しやすいこと。船が大きくボリュームがあるぶん料金が安いことにある」といいます。

上海発のクルーズは3つのランクに分かれていて、スタンダードな価格帯は4泊5日で5000元が相場のようです。この手ごろな価格が人気の理由です。飛行機やバスで移動し続ける旅行は、シニアや子供連れでは大変ですが、クルーズは寄港地での岸上観光以外はのんびり船上で過ごせることで、海外慣れしていない層も参加しやすいのでしょう。
b0235153_11383083.jpg

これはコスタクルーズ社が発行している小冊子(出行指南)です。時間帯ごとに服装を替えるようイラストで提案しています。
b0235153_1140311.jpg

これは上海の情報誌「Time Out」2014年5月号に掲載されていたマリナー・オブ・ザ・シーズの紹介記事です。同船は今年2回日本に寄港する予定です(6月19日発:福岡、長崎、10月21日発:境港、福岡、長崎)。

上海のクルーズ旅行市場を見ていると、日本では海外旅行といえば、飛行機に乗るものと相場は決まっていますが、それは島国という地勢上の要因からくるものにすぎないことにあらためて気づかされます。いまでこそ日本でも「フライ&クルーズ(特定の寄港地まで飛行機で飛んで、短期間のクルーズを楽しむ旅)」や「格安クルーズ」も商品化されていますが、もともと豪華なイメージがつきものでした。

一方、上海では海外旅行市場の大衆化を象徴しているのがクルーズ旅行といえそうです。つまり、上海では初めての海外旅行がクルーズというケースもかなり一般的なのです。確かに、東シナ海の中心に位置する上海は、数日間で周遊できる周辺国の寄港地がいくつもあり、バリエーション豊かなコースをつくることが可能です。

上海発のクルーズ船の多くは欧米のクルーズ会社によるものです。ポテンシャルの大きい上海市場が注目されているのは当然でしょう。主なクルーズ船は以下のとおりです。

「コスタ・アトランティカ」(伊)
http://www.costachina.com/B2C/RC/Default.htm
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_costa_atlantica.htm

「ダイヤモンド・プリンセス」(英)
http://www.princess.com/learn/cruise-destinations/asia-cruises/
http://www.princesscruises.jp/ships/diamond-princess/

「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」(英)
http://www.rcclchina.com.cn/
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_vy1.htm

「セレブリティ・ミレニアム」(米)
http://www.celebritycruises.com/home
http://www.cruiseplanet.co.jp/ship_date/dt_cel_millennium.htm

なお上海発クルーズで最も多い日本の寄港地は福岡。次いで、鹿児島、那覇、長崎の順です。今年の寄港スケジュールは以下を参照ください。

博多港
http://port-of-hakata.city.fukuoka.lg.jp/guide/cruise/index.html

鹿児島港
https://www.pref.kagoshima.jp/ah09/infra/port/minato/cruising/h26nyukouyotei.html

那覇港(那覇港管理組合)
http://www.nahaport.jp/kyakusen/nyuukouyotei2014.htm

長崎港
http://www.jopa.or.jp/port_detail/nagasaki.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-27 09:52 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 05月 26日

バンコクや台北に比べて地味だった上海旅行博(上海WTF2014報告その1)

2014年5月9日~11日に開催された上海旅游博覧会(WTF2014)に行ってきました。実は、WTFに行くのは2004年以来なので10年ぶりです。

日本政府観光局(JNTO)の5月23日付けプレスリリースによると、2014年4月の訪日外客数は3月に続き単月で過去最高の123万2000人。市場別では、中国が第3位(1位は台湾、2位韓国)で前年度比90.3%増の19万600人、昨年9月から8カ月連続で各月の過去最高を記録するという勢いだそうです。

これだけ日中関係が悪化し、南シナ海でも紛争が起こるという政治的な異常事態が続くなか、まるでこの程度のことは慣れっことばかりに、中国客が日本に押し寄せているという状況は、とても興味深いというほかありません。その最大の送客地はもちろん上海です。昨年11月に訪ねたばかりでしたが、中国の海外旅行市場にどんなことが起きているのか、あらためて旅行博の様子を視察してみたいと考えたのです。
b0235153_1203020.jpg

小雨まじりのどんよりした曇り空の5月9日午後、会場に到着しました。以前はWTFといえば、上海市郊外にある浦東の新国際博覧中心で行われていましたが、数年前から市内中心部・静安寺にある上海展覧中心で行われています。

今回のイベントは、上海市旅游局が主催する16回目の旅行博覧会で、海外旅行市場も含めた博覧会としては11回目になります。以下は公式データです。

出展者数:50の国と地域より570団体が出展(合同出展含む)
出展面積:約15000㎡(前回比16.5%増)※販売エリアの面積は前年比24%増
業界関連来場者(業界エリア来場者数):のべ7948人
一般来場者(一般エリア来場者数):のべ約3万8300人※業界エリア入場者の重複カウントはせず

上海では毎年5月にWTFが開催されますが、2年に1度11月に中国国際旅游産業博覧会(CITM)も開催され、今年の秋はCITMがあります。後者は中国国家旅游局が主催するイベントで、浦東の新国際博覧中心が会場です。国家旅游局主催のイベントだけに、全国から業界関係者が集まるぶん、規模的には後者がはるかに大きいですが、逆にいえば、WTFはローカルなイベントだけに、上海の旅行マーケットの現状が見えやすいともいえます。
b0235153_1213186.jpg

会場入り口には、展示場内で催される各国政府観光局のPRイベントや旅行商品の即売会、オークションなどの各種イベントのスケジュールが告知されています。
b0235153_1215026.jpg

会場は、上海万博を機に相次いでつくられた展示会場に比べると、こぢんまりとしたコンパクトなスペースです。建物の前身は1954年に建てられた「中ソ友好大廈」で、展示場として使われるようになったのは1984年。上海で最も古い展示場ですが、スターリン時代に特徴的な中心に高い尖塔を置いたユニークなデザインがひときわ目立っています。
b0235153_1223354.jpg

正面入口から入ってみましょう。中央部の丸いドームの鶯色の天井とそこから吊り下げられたシャンデリア、正面の華麗な透かしとレッドスターといった時代がかったデザインが実に魅力的な空間です。
b0235153_1225028.jpg

向かって正面左手に陣取るのは、韓国観光公社のブースです。この博覧会で最も良いポジション取りはここ数年、韓国の定位置となっているそうです。
b0235153_123963.jpg

おなじみの韓流スターを総動員させたプロモーションです。あとで訪ねる日本のブースと違っているのは、韓国が「be Inspired」というワンテーマかつオールコリアでPRに取り組んでいることです。
b0235153_1232326.jpg

韓国の観光PR写真では、桜も躊躇なく使われます。なにしろ東日本大震災の年には、「桜を見るなら韓国へ」と堂々とPRしていたくらいですから。
b0235153_1241234.jpg

スキーリゾートのPRも韓流タレントの映像を見せています。

中韓関係の蜜月化が訪韓中国人観光客を急増させています。新華網も「中国の旅行会社は引き続き韓国への大規模な送客計画を執行する」と報じているようですから、これは既定路線というわけです。中国ではいかに政治が観光と直結しているか、よくわかります。

我国旅行社继续执行大规模向韩国“送客计划”(新華網2014年4月6日)
http://finance.china.com.cn/roll/20140406/2314165.shtml

海外からは他にも、タイやバンコク市、フィリピン(中国との関係悪化はここでは関係なしか)、マカオなどのアジア各国・地域、欧州方面ではスイスやエジプトなどが出展していました。
b0235153_1261115.jpg

b0235153_1262673.jpg

b0235153_1264189.jpg

b0235153_127066.jpg

b0235153_1271587.jpg

海外からの出展者がずいぶん少ない印象です。
b0235153_127583.jpg

とりたてて目立ったブースはありませんでしたが、目についたのは、中国人の観光ビザが免除となったサイパンでしょうか。どおりで最近のサイパンは中国客だらけなわけです。
b0235153_1282996.jpg

いちばんにぎわって見えたのが、台湾のブースだったように思いました。さまざまな懸賞やプレゼント企画を実施していて、ブースの周辺には人だかりが絶えません。
b0235153_12101981.jpg

台湾観光のひとつの売りが「農業観光」です。実は、香港からも多くの観光客が農業体験をするために台湾を訪れていますが、香港同様高層ビルが林立する上海でも、自然体験は大きな魅力となることでしょう。
b0235153_12103922.jpg

これはここだけの話ですが、台湾ブースの中に中華民国国旗が目立たぬように掲げられているのを見つけてしまいました。やりますね。

それにしても、最近の上海WTFというのはこの程度のイベントなんですね……それが正直な印象でした。昨年、タイのバンコクや台北での大盛況な旅行博を見てきただけに、とても地味に見えてしまいます。会場には中高年が多く、若い人はいないことはありませんが、比率はあまり高くないと感じました。

もちろん、これは上海市ローカルのイベントですし、今年で11回目ということもあり、飽きっぽい上海の人たちは、展示ブースが並ぶだけのイベントにそれほど大きな期待感を持たなくなったこともあるでしょう。海外旅行の情報だけなら、ネットでもっと詳しく知ることができると考えられているかもしれません。

こうしたこともあってか、WTFでも数年前から、タイや台湾と同じように、会場での旅行商品の即売会が始まっています。上海の大手旅行会社が、会期中限定の割引商品の販売を行っていました。さすがに、展示ブースに比べ、販売ブースは熱気にあふれていました。

公式発表によると、旅行商品及び旅行関連商品、美食などの現場販売金額:約1801.6万元(前年比33.7%増)といいます。

以下、上海錦江旅行社、上海中旅国際旅行社、上海青年旅行社のブースです。
b0235153_12131843.jpg

上海錦江旅行社 http://www.jjtravel.com/
b0235153_12133818.jpg

上海中旅国際旅行社 http://www.ctish.cn/

b0235153_12141761.jpg

上海青年旅行社 http://www.scyts.com/
b0235153_12325654.jpg

これはネット旅行社の驴马马旅游网(http://www.lvmama.com/)です。中国ネット大手のC-Tripのブースは見当たりませんでした(ただし、特設ステージでのPRイベントには参加していたようです。ブースを出すことに意味はないという合理的な判断からでしょうか)。
b0235153_12191544.jpg

日本ツアーの即売も多数見つかりました。これだけ「立減(値引き)」しているぞ、と強調されています。
b0235153_12193214.jpg

b0235153_12195142.jpg

販売ブースの中で最も活気があったのが春秋旅行社でした。スペースも最大規模で、中央に旅行即売コーナーを置き、その周辺にビーチリゾート、クルーズ、春秋航空などの展示ブースを並べており、人のにぎわいも他を圧しています。
b0235153_12204170.jpg

b0235153_12205856.jpg

春秋グループといえば、昨年日本の国内LCCとして春秋航空日本を設立するなど、訪日旅行に積極的に取り組んでいることで知られています。今年3月には上海・関空線も就航。夏には関空線を大幅に拡大し、天津、重慶、武漢からの就航も予定されています。彼らの訪日旅行に対する考え方については、関係者に話を聞くことができたので、別の機会で紹介したいと思います。
b0235153_12211716.jpg


※訪日路線の加速と国内線拡充で訪問地の分散化を図る~春秋旅行社日本部インタビュー
http://inbound.exblog.jp/22743078/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-05-26 12:21 | “参与観察”日誌 | Comments(0)