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2014年 03月 15日

ニッポンの観光地は外客の存在を意識して大正期に近代化された

外国人観光客の増加は、国内の観光地にいろんな影響を与えます。その端緒となったのが、1912年のジャパンツーリストビューローの設立を機に、国として外客誘致を始めたことにありますが、それから5年後。国内外の旅客が著しく増加したことが、「遊覧地に對する提案」(ツーリスト28号(1917年11月))という論考の中で述べられています。

ビューローきっての論客、生野圑六はこんな風に書いています。

「斯く旅客増加の原因は勿論交通機関の発達、商工業の隆盛、国民経済の好況其他種々なる理由に基く事でもあらうが、近来我が國民間に健全なる旅行趣味が著しく普及され来たつた事も其主なる理由の一として挙げなければならぬ。殊に今年の夏の如き登山旺盛熱を極め、富士、日本アルプス、木曽御嶽等の登襻者激増し、之が為め中央線の各列車は登山期中殆ど連日白衣の登山者を以て満たされてあつた。而して如上の旅客を呑吐する新宿飯田町两驛に於ける七八月中乗客は九十二萬五千餘名にも達し、昨年の同期に比し實に十六萬八千名の増加であつた」

この記述から、大正期に入ると、近代交通を利用した登山などのレジャーの大衆化が日本で始まったことがうかがえます。当時の登山者はお遍路みたいに白装束だったのですね。こうしたレジャーブームは内地だけ話ではありませんでした。どういうことでしょう。

「従って是等旅客を吸収する地方遊覧地温泉等に於てもこの夏は未曽有の好景気を示し、相当信用ある旅館の如き悉く満員にして一、二週間前豫約し置くにあらざれば到底其客室も得難き有様であつた。単に其は我が内地ばかりではなく満洲に於ても青島に於ても同様であった。外人避暑客も亦日光箱根鎌倉輕井澤温泉(うんぜん)等に避暑せる以外北海道に或は山陰北陸に涼を趁ふて赴けるもの不尠、我が國に於ける主要遊覧地に就き調査せる所に由れば其夏期滞在外人數は昨年に比し今年は約三割の増加であった」

この時期、日本の周縁に「外地」という植民地空間が広がりつつあり、多くの日本人が海外に足を運び始めました。一方、外国人も全国各地の観光地に繰り出していました。おそらく日本の歴史上、これほど多くの人々が一斉にレジャーに出かけるという光景は初めてのことだったに違いありません。

ところが、こうした盛況にもかかわらず、生野はこう言っています。

「我が國民間に旅行趣味の普及され来つた事、實に斯くの如くであるが、一方是等旅客を歓迎収容す可き遊覧地は現在果たして之に對應する丈の進歩発達をなしたであろうか、はた又設備施設を有するであろうか」

そして、「遊覧地に對する提案」として以下の6つを挙げるのです。

イ)半公半私の案内所又は適当旅客斡旋機関を設くる事
ロ)簡単にして且実用向の案内記を作る事
ハ)簡易図書館を設くる事
ニ)物産陳列館を設くる事
ホ)運動娯楽に関する施設を為すこと
ヘ)戦利品陳列に對する注意

以下、簡単に説明しましょう。

イ)半公半私の案内所又は適当旅客斡旋機関を設くる事

「各遊覧地に案内所を設くる事は先づ第一に必要である。欧米の各遊覧地には大抵案内所があつて該遊覧地竝附近の見物散歩に関するインフォメーションを與ふるは勿論、旅館貸家貸室の斡旋をなし、遊覧地の地図や案内書などを無代で配布している。我が國でも已に道後温泉大原海水浴場其他二三のところでは温泉事務所や旅館組合で夫夫斡旋しているやうであるが、是非之は一般遊覧地にも普及さしたい」

まずは観光案内所の設置。これが外客受入の第一歩というわけです。現在どんな小さな町にもある案内所は、この時期に広まっていったのですね。

ロ)簡単にして且実用向の案内記を作る事

「遊覧客誘致上案内記の必要且有効な事は本誌に於ても屡々繰り返し唱道している次第であるが、猶未だ充分とは謂はれぬ。尤も長崎県温泉(うんぜん)の如き懸賞を以て英文露文案内を発行し、別府箱根の如きも町やホテルで英文案内を発行して遠く海外に迄配布しているが、相当名ある遊覧地で未だ案内記を持たぬ所が澤山ある」

国内の一部先進的な観光地では、すでに英文の観光案内書が用意されていました。生野はその内容についてこんなことを書いています。

「案内記の発行といっても多額の費用を投ずる必要は毫もない。半紙一枚乃至二枚大の洋紙に表面に簡単なスケッチマップでも印刷し裏面に交通状態遊覧箇所旅館車馬料金其他を掲載して置けば事たることである。温泉ならば其泉質温度効能入浴上の心得などを記す可きは謂ふまでもない」

内容は簡単でよいが、旅行者にとって必要な情報に絞り込むべし、とのこと。また配布場所や費用の捻出法など細かい提案をしています。

「而して是等は各旅館又は前述の案内所に供へ置き宿泊者に之を與ふる以外、各主要地の旅館或は停車場に配布して旅客誘致の具と為さば一層効果ある事と信ずる。其費用に関しては旅館組合の出資或は町村費を以て作製する事」

さらに、外客誘致のための具体的な提案もあります。

「差当り東洋在住外人竝露人浴客誘致の為め英露文案内記を発行し関係各方面に配布するなど最も時宜に適した遣り方であらう。若し出来得るならば箱根温泉(うんぜん)別府有馬伊香保等少くも外人浴客を収容し得る設備を有する温泉場が共同して相当出資の上、外国文温泉案内乃至ポスターを発行し、更に進んで海外の新聞雑誌へ浴客歓迎の聯合廣告を出す様な方法を取る迄に奮発して貰ひたい」

ハ)簡易図書館を設くる事

「簡易図書館乃至巡回文庫の設置は遊覧客の為めにもなれば又其町村の為めにもなる」「場所は特殊の建物を有せざる遊覧地に於ては学校の一隅乃至物産陳列館の一部或は倶楽部の一部を利用するも可」

スイスでの視察を通し、欧米のリゾート客たちがホテルのカフェなどで読書する姿を見ていたであろう生野は、観光地に簡易図書館が必要であることを提案しています。そこにどんな本を置けばいいかについてもこう言っています。

「而して緃覧せしむ可き書冊は一般娯楽的のものも必要であるが、主として其土地の地理歴史に関したもの、竝に寫眞帖絵葉書地図等附近遊覧の参考となるものを網羅したい。出来るならば参考室を置き其土地の素封家に依頼し所蔵美術品の出品を乞ふとか或は其土地特有の動植物鉱石類の標本、漁具農具等を陳列するとか温泉地ならば其鉱泉の分析表其他各種統計表を掲出し一見して其土地の状況を知り得る様であれば甚だ興味あり且有益であらうと信じる。出品物にはローマ字若しくは英語を以て簡単な説明を附し外人でも利用し得る様にする事」

ニ)物産陳列館を設くる事

図書館に加え、「其土地竝附近の特産物を陳列して一般遊覧客の観覧に供する」物産陳列館も設けるべきだとの提案です。その理由はこうです。

「これがあれば客が散歩の序でに見物し、一瞥して其土地の商況を知る事も出来、又容易に土産物の調達も出来る。一方から見れば又之に由て多少地方商業の改良発達を促す事が出来やふと思ふ。又此処に各商店の廣告を美術的に綜合して掲示し置く事なども有利な廣告法であらう。但しこの陳列所の出品物には必ず算用数字で正札を附け置く事」

ホ)運動娯楽に関する施設を為すこと

「遊覧地に於ける旅客の足止め策として遊覧的設備娯楽機関の必要なるは謂ふ迄もない事である。海外の遊覧地に於ては有名な山岳には登山鉄道架空索道の設備があり又湖上には遊覧船を浮かべ、大抵の所にはゴルフ、テニス、ベースボール、クリケット等運動遊戯に関する設備があって長期滞在客と雖毫も倦む事がない」

今日当たり前に存在する観光地の娯楽設備やスポーツ施設などの設置もこの時期に企画されたことがわかります。

ヘ)戦利品陳列に對する注意

最後の提案は、いかにも100年前の日本人の精神状況を物語っているといえるものです。生野はこう書いています。

「我が國は日清日露の二大戦役を経、近くは青島戦に大勝を得た結果、戦利品豊富にして国内至る所に行亘り少しく著名なる神社公園其他公開の場所に於て殆ど其陳列を見ざるなしといふ有様である。是れは我が先輩の武勇を顕彰し、國民に尚武的精神を涵養せしむる上に甚だ有益な事ではあるが、公園遊覧地等に於てはこれあるが為めに屡々其の風致を害し感興を殺ぎ、殊に外人観光客に不快を感ぜしむる事決して尠なくない」

中国遼寧省の旅順への訪問が外国人に開放された2010年、ぼくはその地を取材で訪れたことがあります。日露戦争の激戦区だった旅順は、すでに中国の町となっていましたが、戦前期の旅順に関する資料や地図などを読むと、当時の旅順のあちこちに、乃木将軍に関連する記念碑やさまざまな「戦利品陳列」物が並べられていたことを知りました。同じことは、日本国内でも起きていたのです。たとえばこうです。

「例へば陸中中尊寺の寶庫には古色掬す可き宋代の名畫がアノ有名な一時金輪佛や舎利寶塔と共に澤山陳列されてある。然るに其名畫の下に日露戦役戦利品たる不格好な錆び果てた小銃其他の戦利品が置かれてある為め兎角の名畫も引立たず観覧者の興趣を殺ぐ事甚しい。又鎌倉八幡宮境内の老梅の下に日露戦役記念たる巨砲が据付けられてあるが、アレなども確かに境内の風致を減殺しているものである。嘗て露国の観光団が来朝した時、某陳列館を見物し、偶ま日露戦役記念品を陳列しある一室に至るや、何れも申合わした如く頭痛と称し早々にして立ち去ったといふ話もある」

生野はこの状況に対して、以下のように述べています。

「斯くの如きは彼等に徒に敵愾心を起こさしむるもので国際的倩誼よりするも恰もミリタリズムを標榜するが如くで甚だ穏かならぬ事であると思ふ。殊に最近露国人竝支那人旅客の増加せる折柄一層本問題に對し注意を佛ふ事が肝要である。余の理想を謂へば公園遊覧地等の如き場所より是等戦利品を撤去し第二の國民を養成する学校内の一部に陳列するか或は特に神社の一部の如き場所にでも纏めて陳列する様にしたい」

生野の提案は、当時の日本人がほとんど気づいていなかった外客の目線を意識した具体的な内容でした。今日その多くの提案は実現していますが、我々が学ぶべきは彼の外客に対する細やかなまなざしというべきでしょう。

ニッポンの観光地は、こうして外客の存在を意識して大正期に近代化されていったのです。もし生野が今日生きていたら、我々にもたくさんの注文がつけられるかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2014-03-15 11:02 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 03月 13日

今日同様、戦前期も中国の反日プロパガンダへの対応が課題だった

戦前期の日本の外客誘致において克服すべき課題は山のようにありました。何より外国人を快く受け入れ、もてなすためのインフラは、ハード、ソフトともに十分に整備されていませんでした。それに加えて、当時のインバウンド推進論者にとって大きな懸念となっていたのが、「米國及び支那に於ける排日の気勢」でした。

その懸念は、早くも第一次世界大戦が終了する1910年代後半には強く意識されていました。ツーリスト40号(1919年11月)の「時事雑感」の中で生野圑六はこう書き出しています。

「米國及び支那に於ける排日の気勢は数年来毫も緩和されぬやうであるが、外人新聞などの報道に由ると是等排日運動の主唱者は大部分嘗て我が國に留学若しくは来遊した人達であるとの事である。勿論是には種々理由もあることであらうが、要するに何れも我が國滞在中あまり温かならざる待遇を受け、充分我が國情を諒解するに至らなかった人達であることだけは容易に想像せられる。由来日支親善、日米親厚なる語は久しき以前より已に幾回となく繰返されているのであるが、其の聲の徒らに大なるのみで其実績は一向挙らぬやうに感ぜられる」。

あらためて日中関係の難しさと根の深さを感じざるを得ません。気になるのは、当時の「排日の気勢」が中国だけでなく、アメリカにも起きていたことでしょう。当時のアメリカにはアジア系移民を排斥するムードがあり、それが1924年のいわゆる「排日移民法」の制定につながっていきます。こうしたアメリカの姿勢は当時の日本人に大きな衝撃を与えたといわれます。

同時代人であった生野は、米中両国において「排日の気勢」が生まれた背景として外客誘致を進める立場から2つの理由を挙げています。

ひとつは「我が國に於ける来遊米国人や支那人に対する待遇依然として発達せず」という外客に対する受入態勢の問題。2点目が「我が國には目下列強が盛んに利用しつつあるが如き有力なる対外的プロパガンダの機関を有せざる結果事毎に誤解猜疑を招く事多く、今回の講和会議等に於いても相手国に我が國情を充分判って居らぬところ」だというのです。

特に後者の例として、「英国の小学教科書に日本の貴婦人として煙管片手に立膝したる婦人が麗々しく掲げられ、米国の小学教科書にも日本人の代表として徳川時代の最も下劣なるものを挙げている」と指摘し、「蓋し外人の我が國情に通ぜざるは我々の想像以上」と書いています。さらに1919年3月、日本併合下の朝鮮半島で起きた三一運動時におけるアメリカの「現時の十字磔」という虚偽報道についてこう書いています。

「これは当時我が國新聞紙にも傳へられたる如く今夏朝鮮に暴動の起こりたる折、米國の一宗教雑誌が韓国政府時代の軍隊が同國罪人を死刑に處ひつつある寫眞を掲げて之を『現時の十字磔』と題し日本軍隊が朝鮮の耶蘇教徒を死刑に處する圖なりと説明したのである。勿論邦人には一見して直ちに其日本兵にあらざるを識別し得るのであるが、不幸にして我が國の事情に疎き米人には其虚偽の事実なるを解し得ぬのである。爾後『日本軍隊の朝鮮人虐殺』として同写真は同國のあらゆる新聞雑誌に掲載せられ、しかも斯くの如き虚偽の事実が米国に於て排日気勢を煽る原因となりつつあるのである」。

なんだか近年のもろもろの騒動に似た話のようにも思えてきますね。

そして彼はこう主張します。

「実際、國と國との関係は畢竟するに國民と國民との関係に外ならぬ故、國家相互の親善を計らんと欲せば先づ其根本に遡って彼我國民の完全なる諒解を得る方法を講ずることが最も肝要にして又最も捷徑なるは謂ふまでもない」「玆に於て我が國情宣傳機関の必要が愈々痛切に感ぜられるのである」。

これらの記述を読んでいると、戦前期において反日プロパガンダへの対応がいかに大きな課題だったかわかってきます。それゆえ、海外の反日キャンペーンに国として対応する宣伝機関が必要だと生野は考えたのでした。

「然乍ら一方対日誤解より生ずる國家的損失の點より考ふれば之(生野のいう國情宣傳機関)に要する費用の如きは眞に微々たるものであるまいか。余は若し出来得るならば適当なる対外プロパガンダの機関の設立を見ざる限り各方面よりの後援と物質的援助を得て我がツーリストビューローの機関をして今後益々是等の方面にも活動せしめたいと思ふ。就中刻下の急務たる日米、日支の親善促進に就ては最善を盡して其の実現を期したい」。

そのためにできることとして、本来外客誘致のための広報機関であるジャパンツーリストビューローを日本の対外宣伝のために活用すべきである、というのが彼の発想でした。

生野の当時の認識は、今日においても通じるものだと思わざるを得ません。なぜなら、残念なことに、当時と同様、今日においても近隣諸国からの「反日キャンペーン」は後を絶たないからです。

生野は「来遊米国人や支那人」に対する受入態勢の改善についても、次のように述べています。

「又かの支那に於ける排日運動の如きも、其一因は世に傳へられる如く或は某國の煽動政策に由るかも知れぬが、我が國民自身亦自ら考慮し反省せねばならぬ點も尠くない。先日余は支那の一有力者より所謂『中日親善』に関する意見を聞いたが、同氏は『支那人が日本にありて最も不満足に感じていることは支那人を頭から軽蔑することである。それは日本人の無意識な行為かも知れぬが我々から見て非常に傲慢に感ぜられる。殊に留学生に対する差別的待遇に至っては一層反感を煽るものがある。例へば下宿屋にありても女中は不親切で主人は冷酷である。貸家を求めても支那人と見ると高値をふく、道を歩いては子供にまで馬鹿にされる、まるで只苦しめられる為に来たやうなものである。是等の問題は勿論今は些細なことかも知れぬが支那人は決して其軽蔑せられた事を忘れぬ國民である。将来に於ける影響は決して単純なものではないと思ふ』云々と語ったが、是等は大いに反省すべきことである」。

こうなってくると、受入態勢以前の心がまえの問題といえます。ただ当時、本当にそこまで中国人蔑視の風潮が日本社会に広まっていたかについては一概にいえない気もします。なぜなら中国文明に対する憧れや親しみは、当時の日本人の意識の中にも普通にあったと思うからです。ありうるのは、当時も在留外国人中最大数を占めた中国人の内訳は、3割が商人、2割が留学生。そして残りの半数は「他の在留外人に比し比較的賤業に従事し居るもの多きを以て或は邦人の蔑視を買ふに至るの傾向あり」(ツーリスト26号(1917年7月)で生野が書いた論考「日支親善の楔子(支那人誘致の新計畫)」)という背景があったのではないかと思われます。

ところが、当時もいまも、ビジネスマンや留学生などの高い階層に属する中国人というのはどうも「残りの半数」の存在抜きで自らの民族的優秀さを外国人に認めさせたいという気持ちが強いようです。その姿は反面、とても身勝手に映るものです。

要は日本側の国民レベルの無意識の応対も、受け取る側の認識によって印象は大きく変わるということではないでしょうか。というのも、日中関係が最も良好といわれた1990年代前半ですら、日本にいた一部の中国人留学生の中に同じようなこと(要は日本に対する不満です)を主張した人たちがいたことを思い出すからです。彼らは改革開放後に出国した「新華僑」と呼ばれた人たちで、ぼくと同世代でした。彼らは自ら抱えるエリート意識と日本での自分の境遇の落差を受け入れがたく感じているようでした。自分たちはもっと日本社会で評価されていいはずだ、という思いを募らせていたのです。ぼくには彼らがそれに足るものを持っていたかどうかわかりませんでしたから、中国人というのは難儀な人たちだなあと感じました。彼らは、その後アメリカに渡っていきました。そう、このタイプ、結局アメリカに向かうケースが多いんです(どうやら戦前もそうだったようです。生野は日本留学中に不満をため込んだ華人たちがアメリカに渡って「排日の気勢」を焚きつけていると指摘していますが、こういうことは現在も起きていないとはいえません)。

そのとき彼らの話を聞きながら思ったのは、20世紀初頭の「半植民地化」状態にあった中国と、生まれつき肥大化した彼らの民族的な自意識とのギャップから、その耐えがたい苛立ちの矛先が日本に向かいやすいという心理は、現代においても形を変えて起こりうるのだなという発見でした。それはとても残念で理不尽なことに思いましたけれど、いまこうして顕在化してきたわけです。

ツーリスト誌を読んでいると、100年前と今日の相似的な状況がいろいろ見えてきて、気が滅入りそうになります。しかし、かつて「排日の気勢」への対応をおろそかにしたことが、その後の時局の悪化につながったという歴史は知っておくべきだと思います。

日本を政敵とみなして声を荒げて非難する彼らの「紅衛兵」スタイルに真っ向から挑むのではなく、観光の語源とされる「観国之光,利用賓于王(国の光を観る。用て王に賓たるに利し)」に即して「国の光を観せる」ことでたおやかに対応していくことは、いまの時代にこそ求められているひとつのやり方だと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-03-13 16:23 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 03月 11日

インバウンドには戦争の影響が避けられない非情な面もある(時局と外客誘致策)

「今次の欧州戦乱が我がツーリスト事業の上に、現在如何なる程度迄影響を及ぼしつつあるかは、未だ正確なる調査材料を得ざるを以て、竝に数字的方面より明言し得ざるを遺憾とするも、本年八月(其後の分は未だ材料を得ず)中の渡来外客数を昨年の同月と比較するに、実に七百八十余人の減少を見る、之を以てしても其打撃の決して僅少ならざるは明らかなる事なり」(「時局と外客誘致策」ツーリスト10号)

ツーリスト10号(1914年12月)では、1914年7月に始まった第一次世界大戦の影響で、ヨーロッパ客を中心に訪日外客が減少したことをジャパンツーリストビューロー幹事の生野圑六はこう報告しています。

「(当時の外客数は)支那人を別とし、常に其最大多数を占むるものは米人にして、英人之に次ぎ、露独仏の順位にあり」「支那人を覗き、交戦国民数は其約六割強を占む。而して是等交戦国民中大部分の渡来は少なくとも時局の終結迄は、全然期待し得ざるものと認めざる可らず。是我がツーリスト業者に取り決して僅少ならざる打撃と謂ふ可し」。

日本がようやく外客誘致に着手したわずか2年後に起きたのが、第一次世界大戦でした。先人たちは、いきなり出鼻をくじかれることになったのです。なにしろ当時の欧米外客のうち6割強が大戦の舞台となったヨーロッパ客だったからです。

いまでこそ、「ツーリスト産業は平和産業」などと深く考えることもなく言っていますが、100年前の日本人はいやおうなく戦争とインバウンドの非情な関係について現実的に考えざるを得なかったといえます。

それゆえ、「時局と外客誘致策」なる以下の提言が出てくるわけです。生野はこう書きます。

「然りと雖、年々米国より欧羅巴へ旅行する漫遊者の数は実に大なるものにして、假りに其十分の一を誘致し得たりとするも、優に我が國に渡来する外客総数に幾倍するものある可し」「これ我がツーリスト業者の乗ず可き機会にして、此際此方面に意を注ぎ、専ら是等(米国の)漫遊客を羅致するに力を致さば、欧州方面に失ひたるものを米国方面に補ひ、獨り現時の不景気を挽回し得るのみならず、将来益々多数の米客を誘致するの動機を作り、依て以て更に対米関係を円満ならしめ、外交上に、通商上に多少の効果を齎すに至らば尚一段の精巧なる可し」。

「刻下の急務は戦乱の為に失へる欧州方面のツーリストを米国方面より回収し、尚進むで所詮禍轉じて福と為すの策を講ずるにあり」。

要するに、米国客に対して、ヨーロッパに代わる旅行先として日本を売り込むべし、という提言です。なんだか火事場泥棒的という気がしないではありませんが、これが当時の「外客誘致策」の中身でした。

生野は具体的に米国向けの誘致策をこう説明しています。

「この機会を利用し、第一、我が國に対する米人の注意を喚起する事、第二、今回の戦乱は我が國に於いて生活上其他何等の変化を来さざりし事、第三、吾國の風景事物及ホテル其他の設備を広告紹介する事等に努めざる可らず」。

とはいえ、当時の日本の外客誘致の考え方が今日のそれと著しく違っていたとはいえません。今日おいても国際関係の緊張が外客誘致に大きな影響を与えることは、近年の近隣諸国との関係悪化から私たちも理解するようになったはずです。

第一次世界大戦時、日本は戦争の当事者ではなかったがゆえに、調子よくふるまうことができたにすぎず、その後の歴史は、日本が当事者となることで外客誘致どころではなくなることを物語っています。

ツーリスト誌は、その後も「時局と外客誘致策」について、そのときどきの情勢をふまえ、多くの提言をしています。それについては、今後紹介しようと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-03-11 14:22 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 02月 23日

大正期にスイスから学んだ観光宣伝のさまざまな手法

前回、ジャパン・ツーリスト・ビューロー幹事の生野圑六による1912年夏のヨーロッパ視察が、ニッポンのインバウンドにとって記念碑的な意味を持ったことを書きましたが、今回は彼のスイス視察の報告を紹介します。

ツーリスト2号(1913年8月)「欧州各国に於ける外客誘致に関する施設(続き)」では、当時から観光立国として知られたスイスについてこう高く評価しています。

「瑞西と云へば、三才の童子と雖もよく知って居る通り、景色が佳く、欧州の中心に位置して交通の便も善く、登山鉄道、遊覧船、其他各種の設備整ひ、『ホテル』は到る處に経営されて居るといふ有様で、人民は少なくとも二ヶ国の欧州語を語り、其質朴親切で、物価は比較的低廉で、夏時は清涼にして三丈の暑を忘るるに足り、冬期は寒冷ではありますが、近年『ウィンター、スポーツ』の設備をなして、客を呼んで居る。斯く総ての方面より視て、此国は遊覧地たるに適して居る」。

スイスには外客誘致のための以下の3つの観光宣伝の専門機関があると生野は指摘します。

①スイス政府鉄道
②ホテル協会
③デペロップメント・ソサエティ

以下、それぞれの機関の業務や活動について整理します。

①スイス政府鉄道

スイス政府鉄道には「パブリシティ・ビューロー」という独立した旅行奨励宣伝機関があり、「毎年約拾弐萬乃至五萬圓の費用を投じている」。

業務内容は、以下のとおり。

a.外国における出張代理所の監督(ベルリン、パリ、ロンドン、ニューヨークの4カ所。繁華街に人目を惹くスイスの絵画や写真、印刷物を陳列する。新聞、雑誌にスイスの旅行ニュースの配信を行う)

b.各種広告物の出版(各種スイス旅行宣伝雑誌の出版、旅行地図の製作。これらは英仏独伊語で2~3万部発行。外国出張所、汽船会社、鉄道会社、旅行関連業者などに配布)

c.外国新聞雑誌の広告(英独のでは日刊紙、グラビア雑誌など。「日刊新聞には時として瑞西に関するアーチクルを載せることもありますが、又時として小さいスイスの風景写真を載せて、其下に記事を載せることもあり、絵入雑誌には風景等の写真を頁大に挿入する」

d.海外向けスイスの気象報告

e.外国博覧会への参加

②ホテル協会

ホテル協会は、「パブリシティ・ビューロー」が発行する宣伝媒体や外国出張所に多大な寄付を行い、サポートしている。また各地にホテル組合があり、独自で機関雑誌を発行。バーゼルのホテル協会では、海外向けの宣伝活動を行う。毎年、ホテルリストを発行。各ホテルの客室数、料金、食事代、交通の利便、暖房設備などを記載した冊子10万部を発行し、海外に配布。ローザンヌのホテルスクールでは、ホテル業者の子弟に対して外国語や経理、料理、飲料、給仕、管理などを教授し、ホテル従業員を養成している。

③デペロップメント・ソサエティ


これは日本のツーリスト・ビューローのような会員組織で、会員としては全国の「州、市、銀行、交通業者、ホテル業者、商工業組合、其他雑貨、絹、時計、写真、美術品、菓子食料品等各種の商店等、殆ど其地の主なる団体個人を網羅」している。会費は「10フラン以上」で、各地の繁華街にインフォメーション・ビューロー(観光案内所)を設置し、「其處に二三の事務員が居て、旅行に関する各種の報道は勿論、其他のホテル、商店、素人下宿、商工業上のこと迄も、無料にて質問に応じ、店の窓には必ず人の目を惹くべき時々の写真印刷物等を飾り、室内には市内案内所、附近鉄道お汽船ホテルの案内記は申す迄も無く、国内各地の同業者の印刷物を無数に竝べてありまして、随意に與へるやうになっております。又場所によりて各国のダイレクトリー、新聞、雑誌、タイムテーブル等をも備へております」)

これを読む限り、当時からスイスでは外客誘致のために政府をはじめとしたツーリスト事業者たちがいかに協力して広報宣伝の推進と外客受入態勢の整備に努めていたかよくわかります。

こうしたインバウンドの最前線の姿を目撃した生野は大いに刺激を受けたことでしょう。その一方、スイスのホテル関係者の話として次のようなことも述べています。

「尚談話中にこの人は私に向て、漫遊外客を誘致するために広告其他各種の手段を採ることは必要ではあるが、来遊せる外客を満足して帰国せしむることは最大切である。(中略)ホテルは外客にとりて旅行中の吾家である。一日見聞の愉快を追想のも、旅の疲労を静に慰するのも、皆ホテル内のことである。さればホテルの待遇にして十分ならざる以上は、到底外客を満足せしむることは出来ぬ、最重大なる責任を有する者はホテルであると申しておりました。これは大に理由のあることと存じました」。

さらに、同報告の中には、スイスの周辺国との外客誘致の競争がきわめて激しいことも触れられています。ヨーロッパ各国との外客誘致競争に対抗するために、あるスイスの関係者は以下の取り組みを始めようとしていることを紹介しています。

「政府の一省中に外客奨励中央局の設立を以て焦眉の急務なりと述べ、更に其組織に言及し、最後に其事業として旅客交通に関して発布されたる法令規則の統一、新法令の発布をなし、外客交通上の保護を計ること、旅客交通が経済貿易上に及ぼす影響の研究、各種遊覧遊戯的設備の完成、遊戯的大会の開催、外国博覧会への参加、在外案内所の完成、国際的自動車旅行の研究、特に海外に於いて瑞西国内各種の機関が箇々別々の動作をなし、廣告紹介などを行ひつつあるものを統一し、更に有効なる手段を採ると同時に、冗費を除くこと等を述べております」。

ここには、今日の問題多き日本の外客誘致の現状からみても耳の痛い指摘がいくつもあります。たとえば、外客誘致のための法令(制度設計)の不備や、「海外に於いて瑞西国内各種の機関が箇々別々の動作をなし、廣告紹介などを行ひつつあるものを統一し、更に有効なる手段を採ると同時に、冗費を除くこと」などという指摘がそうです。

100年前のスイスでは、今日の日本がいまだに克服できていない(それ以前に、問題として広く認識されているかすらあやしい)数々の問題点が、すでに指摘されていたことにあらためて驚きます。その一方で、大正時代に一から外客誘致を学ぼうとした日本の先人の心意気を思うと、殊勝な気持ちになるものです。その尽力や知見を断絶することなく、きちんと受け継いでいく必要があると思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-02-23 16:56 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 02月 23日

100年前、日本は欧州から外客誘致のイロハをこうして学んだ

1912(明治45)年、日本はジャパン・ツーリスト・ビューローを創立し、国家として外客誘致を企図するのですが、当時の日本には西欧の国々から訪れる外国人を心地よく受け入れるためのインフラが、ハード、ソフトの両面でほとんど整備されていませんでした。

そのため、ツーリスト誌においても、外客誘致のために何が必要なのかについて啓蒙するため、西洋諸国をはじめ海外の事情の紹介に努めています。とりわけ創刊号から10号くらいにかけては毎回、外客誘致のための広報機関や宣伝方法、案内所の運営、ツーリスト業者の組合組織のあり方などが提言されています。

それらの海外レポートの多くを執筆しているのは、ジャパン・ツーリスト・ビューロー幹事の生野圑六です。生野は鉄道省の役人で、のちに京浜電気鉄道社長になる人物ですが、1912年夏、ヨーロッパ諸国を視察し、各国の外客誘致の現状について報告しています。彼は日本のインバウンド黎明期に最も積極的に啓蒙活動に取り組んだ論客といえそうです。
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以下、ツーリスト創刊号(1913年6月)「欧州各国に於ける外客誘致に関する施設」という生野の報告を紹介します。これを読むと、今日日本では当たり前になっている外客誘致のための施設や諸施策の導入に向けた取り組みが100年前にようやく始まろうとしていたことがわかります。ニッポンのインバウンドはこの時期、ヨーロッパをモデルに一から形成されていったことが生々しく伝わってきます。

生田圑六がシベリア鉄道経由でヨーロッパ視察に出かけたのは、1912年6月末から9月末にかけてです。ベルリンで開催された国際旅客交通会議に出席するためでした。その目的について、彼はこう記しています。

「欧州に於ける一般鉄道の視察旁々、漫遊外客誘致待遇に関する機関、組織、方法の研究、玆に現場における実況を視察致しましたのでありますが、可也廣くと思ひまして、各国に旅行して、漫遊客の集合するところを出来る丈見物しました。七月上旬には、丁度ストックホルムにオリンピック、ゲームが開会されるので、世界各国の人々が集合して、混雑致すところを見るのには、何よりの好機会と思ひまして、其地に出掛けました」。

その年のオリンピックには日本人選手はわずか2名しか参加していなかったそうですが、オリンピック開催都市となったストックホルムについて彼はこう書いています。

「兎に角、数万人の外国人が入り込んでいるに関はらず、市内秩序整然としているのには感心しました。特にホテル、商店、其他外人が接するのは、待遇上大に注意を払っておりました。日本などではかかる場合、動もすれば目前の利益のみを事として、永遠の利害を打算せず、暴利を貪ると云ふやうなことがあるやうでありますが、之は大に注意しなければならぬことと思ひます」。

生野はそのときスウェーデンのツーリスト・ビューロー本部を訪問し、「スカンジナビア半島では、夏季には外客を誘致することに大に力めて居ることを承知」したといいます。また、コペンハーゲンのチボリパークを訪ね、そこには「各種の音楽、遊戯、カフェ、レストラン等が多数ありまして、夕刻より夜半まで、非常に賑はつて」いること、「概して欧米人は夕食後散歩するとか、音楽を聴くとか、芝居を見るとか云ふような習慣があるので、欧米の遊覧地、海水浴場、其他のリゾートには必ずさう云ふものがあり、又一方にはローンテニス、ゴルフ、其他遊戯、運動の設備」があり、「此點は今後日本でも相当に考慮を要することと思ひます」と述べています。帰国後、彼はツーリスト誌上において、外客誘致のため、日本に西洋的な遊覧地を開発するよう呼びかけますが、このときの見聞がベースになっているものと考えられます。

その後、彼はいったんベルリンに戻り、7月下旬から約1か月間をかけてウィーン、ブダペスト、インスブルック、ベニス、フィレンツェ、ローマ、ポンペイ、そこで折り返してスイスに向かってしばらく滞在し、ニース、モンテカルロ、リオン、パリ、ロンドン、そして再びベルリンに戻り、シベリア鉄道で帰途についています。これはまさに20世紀初頭のヨーロッパに誕生しつつあったモダンツーリズムの最前線をくまなく訪ね歩いたという意味で、ニッポンのインバウンドの歴史にとって記念碑的な出来事といえるでしょう。

この視察で、生野は多くのことに「驚き」「感心」しています。以下、書き出してみます。

・当時のスイスはすでに外客受入態勢が完備していたこと。

「瑞西は何度参りましても實に心地善い處であります。外客に対する遊覧設備の完備せること、案内上の用意の行届いていること、廣告印刷物等の豊富なること、山水風光明媚なると共に、隅々まで清潔なること、停車場などに長さ数間の大写真などが掲げてあること、ホテルの空室の有無を停車場内に掲示する設備などもあること」。

・フランスのエビアンからニースまでモンブラン山脈付近を横断する約700㎞の自動車専用道路が作られていたこと。

「近時欧米に於ける自動車の発達は非常なもので、従て自動車で自国内のみならず、外国に旅行に出掛ける者は甚だ多いのであります。此道路の如きもツーリストを招致するのが目的であります。鉄道会社も夏期は乗合自動車を運転して、一定の賃金を以て旅客の需に応じております。吾国に於いても将来或地方には、自動車道路を設けることなども一の問題であろうと思ひます」。

日本では戦後を待たなくてはならなかった本格的なモータリゼーションによる観光市場の促進が、ヨーロッパではすでに戦前期から始まっていたことがわかります。

・パリには観光客を惹きつけるハードのインフラが充実していたこと。

「巴里には其近郊に風光明媚なる處や、名所旧蹟が沢山ありますが、外客を惹付けるには寧ろ人工的設備、或は人為的方法が興つて力あることと思ひます。即美術博物館の完備せる、公園の大規模なる、市内交通機関の便利なる、市街の美観を保つが為に用意周到なる、皆之であります。暇令ば、公設建造物、廣場、凱旋門、スタチュー、橋梁等一として美術的ならざるはなく、電柱などは一本もなく、電車も高架式は許されて居ません。ホテルの設備は完全にして、而も比較的低廉である。劇場には国立竝に準国立とも称すべきものも四ヶ所を始め、多数あり、名優少なからず、他の諸国に於いては夏時は大劇場は休業する例なるに、巴里は無休で、料理や葡萄酒は廉価にして、而も美味である。尚巴里人はコスモポリタンで、外国人を外国人扱ひせず、吾々の如き異人種でも、白人同様に扱ふ等、其他外国人の為に特に利便を計っていることは、列挙すれば沢山あることと思ひます。之等のことは必ずしも吾国に於いて総て模倣すべきでもないが、又中には大に学ぶべきことがあると思ひます」。

ほとんど手放しの称賛ぶりですが、これが100年前の日本人の正直な実感だったと思われます。

・ヨーロッパでは新聞広告による外客誘致が広く行われていたこと。

「(ヨーロッパ各地で発行される英国のデーリーメール新聞は)英米人の大陸旅行者に中々よく読まるるのでありますが、此新聞社は倫敦竝に巴里の中心に、立派なる案内所を持っておりまして、欧州のみならず世界各国の鉄道、汽船、ツーリスト・ビューロー、ホテル等は固より、静養地、遊覧地、シーズン、遊覧設備、自動車旅行、飛行、学校、貸家、貸別荘等に関する報告を與ふること」。

外客誘致のために、宣伝媒体(メディア)がいかに効果的であるかを生野は知ったのでした。

生野はこうして外客誘致のためのハード面、ソフト面でのインフラ整備やメディア活用のイロハを学んで帰国するのですが、一点のみ、イタリアでの「不快な」体験を反面教師的にこう指摘しています。

「伊太利では一方に流石美術国のこととて、絵画と云はず、彫刻と云はず、建築と云はず、其立派にして豊富なることに驚きましたが、一方には軽微なること乍ら、随分不快なる念を與へられたことがありました。夫は下級鉄道員の吾々に対する態度、行為、或は寺院其他にて付き纏ふ案内者のうるさきこと、馬車の御者の不正直なること等でありましたが、夫に付けて思ひ浮んだのは、我日本の現在漫遊外人に対する関係であります。直接外人に接するものの中には、随分不正直、不親切なるものがあるやう耳にします。是等は日本に於いてツーリストが風景其他より折角得た美威を傷けることがありはせぬか、是に対して吾がツーリスト、ビューローとしても大に注意して、相当の方法を講じなければなりませぬ」。

当時日本ではこういうことが多々あったろうと思います。なにしろ、ときは激動の明治がようやく終わったばかりで、訪日外客数は年間わずか2万人。日露戦争になんとか勝利したものの、まだまだ日本は貧しく、生野の啓蒙する中身が実現できるまでには、相当な時間が必要と考えられていたはずです。

さらにいうと、彼が訪れたわずか2年後、あれほど先進的で華やかに見えたヨーロッパが第一次大戦の戦火に包まれたという事実は、国際観光の歴史を考えるうえで無視できないことです。生野は、のちに「時局と外客誘致策」その他の論説で、当時の国際情勢とインバウンドの関係についてさまざまな提言をしていますが、それはあとで紹介します。

※「歴史から学ぶインバウンド」参照。http://inbound.exblog.jp/i38

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by sanyo-kansatu | 2014-02-23 16:36 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2013年 12月 30日

HISのグローバル戦略の最前線がバンコクである理由

今年8月、タイのインターナショナル・トラベル・フェア(TITF2013)の視察の折、HISバンコク統括支店長の話を聞くことができました。今年、タイからの訪日客が増えた背景に、ビザ緩和や円高是正があったことは確かですが、民間企業の精力的な取り組みが大きく貢献していると思います。

なぜ同社のグローバル戦略の拠点はタイなのか。日本と同様、市内交通機関の中はスマホを手にした乗客であふれるバンコクで、あえて旅行店舗の出店を加速する意外な理由について。以下、今月中旬に刊行された産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」に掲載したインタビュー記事を採録します。
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日本を取り巻くグローバルな観光マーケットが急成長するなか、日本の旅行業はどこに向かうべきか。ひとつのカギは「ツーウェイツーリズム」にある。それを地道に実践しているのがHISだ。

2013年8月中旬、タイの首都バンコクで開催されたタイ・インターナショナル・トラベル・フェア(TITF)の会場で、同社のグローバル戦略の現在について中村謙志バンコク統括支店長に話をうかがった。

この国では我々の知名度はない

中村さんがバンコクに赴任し、タイのローカル市場に取り組んで13年で4年目。その手始めが、国内外の旅行会社が集まる展示即売会のトラベルフェアへの出展だった。「この国では我々の知名度はない。HISといってもタイ人は誰も何の会社か知らない。ゼロからのスタートでした」という。
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初年度は小さなブースで、扱ったのは航空券とJRパスだけ。その後、本格的にツアーを造成し、ブースもだんだん大きくした。今回の展示即売の目玉商品は、就航したばかりのチャーター航空会社アジア アトランティック エアラインズ(AAA)を利用した大阪・東京ゴールデンルート。「4泊6日・29999バーツ(約9万3000円)という破格の料金で売り出したところ、1000名が完売でした」。
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旗艦店となるトラベルワンダーランドで年間通じて売れているのは、航空券+ホテル(+JRパス)。自由旅行の商品だ。一方ソンクラーン(タイの旧正月)の4月とスクールホリデー(夏休み)の10月の年2回のピークシーズンは、添乗員同行の団体ツアーが人気だ。

売れ筋は、東京、富士山、箱根の5日間、東京・大阪ゴールデンルート、大阪・京都5日間、北海道(道南)の順。最近、北海道でレンタカーを利用するタイの個人客も現れたという。「タイ人は普段から日本車に乗り、左側車線の国ですからね」。

バンコクの出店を加速する理由

ネット予約の普及などビジネス環境の変化で、日本では旅行店舗の整理縮小が進んでいるが、バンコクで出店を加速するのはなぜか。そこには意外な理由があった。

「ローカルを取り込む戦略の軸は店舗展開です。なぜなのか。広告効果が大きいからです。場所はスカイトレインの駅構内やショッピングセンターなど、消費者に目につきやすい場所限定です。実は、バンコクでは一等地に広告を出すのと家賃にかかるコストはたいして変わらない。であれば、店舗を出そう。ただし、常駐スタッフは1、2名の『KIOSK店舗』。それを量産することで、我々の存在を知ってもらう」。
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店舗ではHISの海外旅行商品のパンフレットを大量に用意している。タイでは、日本のようなセールスカウンターのある旅行店舗は少なく、パンフレットは流通していない。誰もがスマホを手にする時代でも、細かく旅行日程が書かれた紙のパンフレットはタイ人に好評だという。

一方、タイには旅行業法や約款が存在しない。キャンセルチャージも個々の旅行会社の裁量に任されている。「震災のような有事にガイドラインがないと困るが、HISは日本の会社だから信用できるといってくださるお客様が増えている。タイにはメイド・イン・ジャパンへの信認がある」と中村さんはいう。

ローカル客を取り込むためには、タイ人を理解することが不可欠だ。

「タイのお客様がどんな旅を望んでいるか、日本人の私はどんなに勉強してもわからない。だから、添乗にもよく同行します。お客様が何を喜んでいるのか、おいしいと思うのか、どの風景をバックで写真を撮りたいのか。勘が鈍るのはいちばんまずい」。

いくつかわかってきたことがある。「タイ人はタバコが嫌い。ほとんどの人が吸いません。ところが、日本のホテルはタバコ臭い。ですから、ホテルの手配は禁煙ルームが絶対条件です。タバコを吸えるレストランも選びません。タイのお客様は日本食好きで、滞在中すべて日本食でもいいのですが、気をつけないといけないのは生もの。タイで出回っているお寿司のネタは限られています。お店が気を利かしたつもりで珍しいネタを出しても、生ダコなどは気持ち悪がって決して食べようとしない。全員残すこともよくある。もし本当にタイのお客様を受け入れたいと思うなら、タイ人を理解して細かい気配りが必要です」

タイでは旅番組の影響が大きいこともわかった。「いい例が、いまタイ人が多く訪れている白川郷や高山、富良野のラベンダー、岩国の錦帯橋、瀬戸内のしまなみ街道、指宿温泉の砂蒸し風呂など」。「ある日、局地的な人気が起こる」だけに、訪日プロモーションはテレビを活用するのが効果的だという。

なぜタイが拠点として選ばれたのか

では、HISの海外戦略においてなぜバンコクが最前線の拠点として選ばれたのか。中村さんはこう即答する。「タイには大きなコンペティターがいないからです」。

重要拠点を選ぶ条件は、これから伸びる市場。しかも、インバウンドからアウトバウンドに旅行マーケットが移り変わる時期で、大手エージェントが不在の国。それがタイ、インドネシア、ベトナムだという。 

日本の旅行業界は一見国際的なイメージがありながら、実はドメスティックな体質が残っている。早くから海外で売上を生み出してきた製造業に比べ、海外営業所がありながら、売上に貢献してはいなかった。

「海外拠点をつくり、日本のお客様をきちんとご案内する。これが第一ステップ。でも、その役目だけで終わらせてはもったいない。企業のグローバル化はローカルに根付かなければ意味がない。それぞれの国でHISを発展させる。私はタイを任されていますが、インドネシアやベトナムに赴任した同僚もそう思っている。いまではHISジャカルタ支店で集客したインドネシア客をバンコク支店がインバウンド業務として受ける。またシンガポール支店とも、という日本をまったく介さないビジネスも始まっています」。

これはもはやツーウェイではない。マルチウェイツーリズムとでもいえばいいのか。いまHISバンコク支店で起きている仕事の現場を通じて、新しい旅行業の未来が見えてくる。


中村謙志(なかむら・けんじ)
1996年入社。いくつかの国内支店を勤めた後、「グローバル化戦略の一期生」として2009年、トラベルワンダーランド立ち上げのためにバンコク赴任。初めての海外駐在だった。支店長として現在にいたる。「目標は、タイでナンバーワンのトラベルエージェンシーになることです」。 

※産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」p70~P73より抜粋http://sangakusha.jp/ISBN978-4-7825-3376-5.html
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by sanyo-kansatu | 2013-12-30 09:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 26日

26回 祝!訪日外客1000万人達成。その理由と来年の展望は?

12月20日、成田空港で訪日外国人旅行者1000万人の達成を記念するセレモニーがありました。太田昭宏国土交通省大臣は「東日本大震災もあり、政府目標だった2010年から3年遅れたが、東京オリンピックの開催される2020年には、さらなる高みの2000万人を目指したい」とコメント。インバウンド関係者のこれまでの努力が報われる日が来たことを心から喜びたいと思います。
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1000万人目となったのは、タイから来たパッタラプラーシットご夫妻。「今年来日するのは3回目。ニューヨークに留学した娘と日本で合流し、北海道でスキーをする予定です」とのこと。タイ人観光客の存在感が目立ったこの1年でした。
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今年は、富士山のユネスコ文化遺産登録やオリンピック開催決定、また今月に入り「和食」の無形文化遺産登録も決まり、訪日外客数の統計も毎月のように過去最高を更新。関係者を大いに勇気づけました。.

ポスト訪日外客1000万人時代を迎えたいま、2013年の総括とともに、今後の課題や展望について整理してみたいと思います。

1000万人達成、観光庁の公式見解は

まず今年の総括です。11月27日~29日、横浜みなとみらいのパシフィコ横浜で開かれた「Visit Japan Travel Mart 2013」の報告から始めましょう。トラベルマートは、海外の旅行会社やメディアを招聘して行う観光庁主催のB2B商談会です。

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トラベルマート2013開会式

主催者発表によると、今回海外から304社(21カ国・地域)の日本旅行を企画販売している「バイヤー」が来日。彼らに日本を売り込む国内の観光業者や自治体などの312社・団体が出展したそうです。

トラベルマートでは、毎回恒例の外国人記者を集めた会見があります。この日の報告は、観光庁参事官による「日本のインバウンドツーリズム促進のための対応措置」というものでした。

そこでは、今年訪日客が過去最高となった理由として以下の4つの点を挙げています。

①アセアン諸国を対象としたビザ緩和
②円高是正
③オープンスカイにともなう国際線フライトの増加
④日本の景気回復(Japan is back!)
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オープンスカイ協定によって羽田や成田の航空供給量が大幅に増加した

このうち①②はすでに指摘されているとおりですが、③については、特に台湾、香港、そして東南アジア諸国からの新規フライトが大幅に増えたことが大きかったといえます。島国である日本では航空供給量が拡大しなければ訪日客を増やすことはできないからです。それを後押ししたのが、台湾など近隣諸国と結んだオープンスカイ協定でした。

④については、その評価をめぐって議論はありますが、結局のところ、①②③の相乗効果によって、これまで敷居の高いと見られていた日本が行きやすい国になったというイメージがアジア各国に広く伝わったことが大きかったと思います。そのイメージを実感させる円安やビザ緩和が効果的に結びついたといえそうです。
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実は、「Visit Japan Travel Mart」は今年で最後の単独開催でした。来年からは、元海外旅行博の「JATA旅博」と国内旅行博にあたる「旅フェア日本」が統合され、「ツーリズムEXPOジャパン」(2014年9月25日~28日/東京ビッグサイト)となり、これにB2B商談会の「Visit Japan Travel Mart」も同時開催として加わることになるそうです。

ツーリズムEXPOジャパン
http://www.t-expo.jp

開会式の質疑応答で、観光庁長官はこれら3つの旅行イベントをひとつに統合する理由について「世界を代表する旅行博覧会であるITBベルリンやWTMロンドンに負けないよう、アウト/イン/ドメスティックの日本の旅行市場のさらなる発信力アップを図りたい」とコメントしています。

※トラベルマートについての詳細は、中村の個人blog「「普遍的な日本の魅力」って何だろう?(トラベルマート2013報告 その1)」、「実際、商談はどれほど進んでいるのか?(トラベルマート2013報告 その2)」を参照。

流れが大きく変わったアジアインバウンド市場

トラベルマート会期中の11月28日の夜、一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)の総会がありました。AISOはアジアからの訪日客の手配を担当するランドオペレーターを中心にしたインバウンド業者が加盟する団体です。

一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)
http://www.shadanaiso.net/

官の公式見解に対して、民間事業者は今年をどう振り返っているのでしょうか。AISO理事長である日本ワールドエンタープライズ株式会社の王一仁社長は最初にこう挨拶しました。

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王一仁AISO理事長

「AISO創立から今年で7年目。震災から2年たち、今年はアジアインバウンドの流れが大きく変わった年といえるでしょう。円安効果も大きいですが、東京オリンピック開催決定や富士山の世界文化遺産登録など、さまざまな追い風が吹いています。

AISOの加盟団体は現在約160社。半分はランドオペレーターで、残りはホテルやテーマパーク、レストラン、運輸業者などの方々です。お互い協力して日本のインバウンドを盛り上げていきましょう」。

次に株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事による今年のアジアインバウンド市場に関する報告がありました。

「今年のアジアインバウンドに弾みをつけたのは、やはり7月のアセアン諸国に対するビザ緩和の影響が大きかったといえます。なかでも大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国だったように思います。

それでも、現状でいえば、訪日外客の6割を占めるのは、韓国、台湾、中国本土です。韓国はいったん回復してきたかに見えましたが、秋口から伸び悩んでいます。一方、中国市場は概ね回復基調にあると思います。

今後は、アジアの個人客向けの商品、特に来日してから各自が参加する『着地型』のツアー商品の開発などに力を入れていくべきでしょう。ここにいらっしゃる関係者の皆様には、ぜひ我々ランドオペレーターに新しいコンテンツをご提案いただきたいと思います。それを海外の旅行会社につなげていくのが我々の仕事ですから」。

報告を聞きながら、今年は「アジアインバウンドの流れが変わった」ことをあらためて実感しました。何より一時期、中国本土に過度に集中していた訪日旅行市場の取り組みが世界各地に分散化してきたことは基本的にいい流れだと思います。逆にいま、その反動で中国離れが進んでいることは、ムードに流されやすい日本人の問題だと思いますけれど、いずれバランスを取り戻す動きも出てくるでしょう。

今年は台湾や香港、タイなどアセアンの国々のように、日本の文化的、経済的影響力の強い地域からの訪日客増加が顕著であった一方、中国や韓国という「近くて遠い」大市場は政治的な理由で萎縮してしまいました。その意味でも、日本の影響力が強くない国々の訪日旅行市場をいかに活性化すべきか、という課題が印象付けられた年でもあったと思います。さらに、インドやロシアといった未知の市場に対してどう取り組むか。来年に向けて新しいチャレンジが必要ではないかと思った次第です。AISOの関係者は、すでにこうした新規市場に対する開拓を始めており、心強い限りです。

※AISO総会でのアジア各国の市場動向については、中村の個人blog「流れが大きく変わった今年のアジアインバウンド市場(トラベルマート2013報告 その3)」を参照。

VJC10年の総括と課題

2003年に始まったビジットジャパンキャンペーン(VJC)は、昨年10年目を迎えています。平成25年版「観光白書」では、この10年間を総括し、いくつかの課題を挙げています。

平成25年版「観光白書」http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000183.html

「第3節 過去10年の国際観光振興政策の総括と課題」からその一部を抜粋して検討してみましょう。

「平成15年のVJの開始前後で訪日外国人旅行者数の推移を比較すると、近年は外的要因の影響を受けて増減の振幅が大きいものの、VJ開始後は、開始前と比べて目に見えて大幅な増加傾向を示している」「この10年の間に、国内の観光関係者の間のみならず、各地域でインバウンドへの取組の必要性についての意識が広まり、インバウンドが今後の日本の成長産業の一つであるという認識が国内で相当程度広がっている」とVJCの果たした役割を評価しています。

実際、10年前と比べると、インバウンド振興に対する認識が国内で広く共有されてきたことを実感します。北京オリンピックの開催された2008年がひとつのメルクマールとなり、中国をはじめアジア地域が訪日旅行の発地国として広く認知されたことが大きかったと思います。その一方で、「我が国は、“観光後進国”からようやく“観光新興国”になったに過ぎないのが現状である」とも白書は述べています。これはどういう意味でしょうか。その理由についてこう指摘します。

「外国人旅行者受入数について見ると、過去最高である861万人を記録した平成22年においても、日本は世界で30位、アジアで8位に過ぎない。また、同じく平成22年の国際観光収入を比較しても、日本は世界で19位、アジアで8位と低位に甘んじている」。

これはマスコミも好んで触れる外客数の国際比較の現状です。日本の総合的な経済力からみて、訪日外客数が近隣アジア諸国と比べても少ないことから、あえて「観光新興国」といった表現を採用したのかもしれません。

こうした「総括」をふまえ、白書は5つの「課題」を挙げています。

①訪日ブランドの構築
②外的要因の影響を受けにくい訪日外客構造の構築と戦略的なプロモーションの展開
③MICE分野の国際競争力の強化
④訪日外国人旅行者の受入環境の整備
⑤オールジャパン体制の更なる強化

ここで指摘された「課題」は、プロモーションに関するものと、受入環境の整備に関するものに大きく分けられます。

まずプロモーションに関する課題を簡単に見ていきましょう。①(訪日ブランドの構築)では「それぞれの関係者がばらばらに情報を発信することが多かったため、日本全体としてのイメージの訴求ができていなかった」「そのようなブランド確立がなされないまま、目先のプロモーションだけに力を注いでいる例が少なからず見られる」と指摘しています。

これは、本コラムで何回か紹介した海外のトラベルマートの現状からも感じられることです。各自治体・企業がそれぞれ自己の魅力をアピールするのは当然としても、「日本全体としてのイメージの訴求ができていなかった」としたら、世界の競合国の中から日本を選んではもらえない。国としての戦略があいまいだったという反省です。また、日本国内では有名でも、海外から見てブランドとしての認知のないまま「目先のプロモーション」に懸命になっても、集客につなげるのは難しいという現実があります。

②(外的要因の影響を受けにくい訪日外客構造の構築と戦略的なプロモーションの展開)では、前述の石井一夫AISO常務理事も指摘したように、今年いくらアセアン各国からの訪日客が増えたといっても、「東アジア4か国(韓国、中国、台湾、香港)で約65%」を占めるという訪日旅行市場の偏りは変わらないことを指摘しています。近年、一部の近隣諸国との政治的不和による訪日客の落ち込みから、「特定の市場に依存した訪日外客構造の脆弱性を身を以て学んだ」と白書は述べています。これまで多くの日本人は、国際理解や親善につながるはずの観光がこれほど政治の影響を受けるとは考えていなかったと思いますが、それが現実のものとなった今日、より高い戦略性が求められています。
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日本の訪日旅行市場は中韓台に偏重している

そうした「脆弱性」を克服する手立てとして挙げられるのが、市場の分散化に加え、政治的な影響を受けにくいFIT客への対応といえます。.

「近年、世界的に個人旅行が主流になりつつあり、多様な個人のニーズを的確に把握することが不可欠となりつつある。我が国の主要な市場である韓国、台湾、香港はもちろん、今後は、中国やタイも個人旅行が主流になることが見込まれる中、きめ細かなマーケティングがより一層欠かせなくなる。

プロモーションについても、そうした傾向を受け、これまで以上にきめ細かさが必要となってくる。市場類型や国・地域ごとに訴求対象を明確化した上で、より効果的な媒体を的確に活用しながら、個人旅行者に向けてはSNSを活用するなど、常に新しい手法を取り入れ、工夫していく必要がある」。

さらに、③(MICE分野の国際競争力の強化)や⑤(オールジャパン体制の更なる強化)が必要なことは言うまでもありませんが、東京オリンピック開催が決まったことで、④(訪日外国人旅行者の受入環境の整備)も喫緊の課題となっています。

JNTO(日本政府観光局)が実施した「訪日外国人個人旅行者が日本旅行中に感じた不便・不満調査」(平成21年)の結果は以下の図表のとおりです。
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訪日外国人旅行者が旅行中に感じた不便・不満(出典:平成25年版「観光白書」)

ここでは指摘されていませんが、昨今外客から不満の声として筆頭に挙げられるのが、Wi-Fi(無線LAN)整備の遅れです。今年ぼくは東南アジアを何度か訪ねましたが、海外に比べて日本の普及の遅れはウィークポイントであることを、身をもって感じました。それはこれまで訪日外客数が他国に比べ相対的に少なかったことに起因していると考えられます。そういう意味では、訪日客の増加は、日本の通信インフラの整備と進化を後押ししてくれると前向きに考えるべきだと思います。

期待したい民間の新しい取り組み

こうした「課題」をふまえ、国土交通省は「観光立国」に向けたアクション・プログラムに取り組んでいます。

「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」の取組状況について(2013年9月20日)
http://www.mlit.go.jp/common/001015986.pdf

東南アジア諸国における集中プロモーションや、欧州、ブラジル、トルコなどへの日本の認知度向上に向けた取り組みを行う「戦略的訪日拡大プラン」、大型クルーズ客船や空港における「出入国手続きの迅速化・円滑化」に加え、なかでも来年10月から実施される予定の「外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し」が注目されています。

外国人旅行者向け消費税免税制度の見直し
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000197.html

受入環境の整備は官の役割だとしても、実際にはインバウンドの推進役は民間です。

全国各地で日本のインバウンド市場を活性化する動きが起きています。

最初に挙げたいのが、FIT(個人旅行者)向けの旅行商品です。

たとえば、先日「やまとごころインタビュー」で紹介したクラブツーリズムの国内バスツアーは注目です。

いま海外のFIT客は航空券とホテルの予約はネットで入れるのが常識です。とはいえ、相当日本通のリピーターでもない限り、言葉がわからない外国人が日本でどれほど豊かな体験ができるでしょう? 多様化した外客のニーズに応えるFIT向け旅行商品やサービスが求められています。

もともと国内客向けに造成されたクラブツーリズムのバスツアーは、海外、とりわけアジアFIT客のニーズに直結したようです。いまや日本の国内客とアジアのFIT客が一緒にバスツアーに出かける時代になっています。

※FIT向けは、やまとごころインタビュー「アジアのFIT客が国内バスツアーに乗る時代になった」を参照。

外国人旅行者が集まる草の根スポットも各地に生まれています。面白いのは、必ずしも外客を意識していたわけでなかったのに、ピタリと彼らのツボにはまってしまうケースがあります。それが新宿歌舞伎町のロボットレストランでした。この少々ぶっ飛んだショーレストランは、結果的に、日本にまだ少ない外客向けナイトエンターテインメントのニーズを満たすことになったようです。

その一方で、これまでなかったタイプの宿泊施設をオープンさせる動きもあります。バックパッカー向けホステルの「カオサン東京」です。オーナーは豊富な海外旅行の経験をもとに、海外からの若いバジェット旅行者のニーズをくみ取り、低コストのサービスを提供しています。それが国際水準のもてなしといえるのは、外国人向け英字フリーペーパーでの高い評価からもうかがえます。

Khaosan World Asakusa Ryokan & Hostel
http://www.timeout.jp/en/tokyo/venue/23091/Khaosan-World-Asakusa-Ryokan-Hostel

※草の根スポットとしては、やまとごころインタビュー「歌舞伎町のロボットレストランになぜ外国客があふれているのか」、「ライバルはバンコクやクアラルンプール 世界水準のバックパッカー宿目指し」を参照。

さらに、新しい動きとして注目されるのが、富裕層旅行というこれまで認識されていなかったセグメントへの取り組みです。今年3月、京都で日本で初の富裕層旅行に特化した商談会「ILTM Japan」が開催され、この市場に対する関心が高まっています。

富裕層旅行は、実際には極めてクローズドで小さな市場なのですが、海外のVIPを日本のシンパにすることは、訪日旅行のスタイルに新しいインパクトを与える可能性があります。彼らが発見した日本の魅力が、世界の旅行トレンドに与える影響は大きいからです。海外の富裕層旅行者は、いわば広告塔となりうる存在なのです。ただし、我々はまだその誘致や受入ノウハウを十分に身に付けているとはいえません。このジャンルでも、新しいチャレンジが必要でしょう。

今後、訪日客が増えていくことで、このマーケットが持つ面白さや可能性がもっと理解されていくに違いありません。外国人観光客といっても、国籍や階層、年代によって求めるものは全く違いますから、個別のニーズごとにそれぞれを得意とする事業者の参入を呼び、多様なサービスを生み出すことになれば、市場は活気づくことでしょう。ポスト訪日外客1000万時代における日本ならではの新しいアイデア商品や旅行サービスが生まれていくことを期待したいと思います。

※ILTM Japanについては、やまとごころイベントレポート「ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー~今、富裕層旅行市場を捉えるためには~」 、中村の個人blog「京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催」を参照。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_146.html
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by sanyo-kansatu | 2013-12-26 12:34 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 12月 20日

今日、訪日外国人旅行者1000万人を達成しました

2013年12月20日、訪日外国人旅行者が史上初の1000万人を達成したようです。
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その日の夕刻5時半、成田空港第一ターミナルの出発ロビーで記念セレモニーがあったので、見物に行ってきました。ニッポンのインバウンドに関心を持つ人間のひとりとして、その場でどんなことが起こるのか見てみたかったのです。

概要はこちらで(トラベルビジョン12月22日)
http://www.travelvision.jp/news/detail.php?id=60020

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セレモニーは、それほど特別なこともなく、30分ほどで終了。まず太田昭宏国土交通省大臣による達成宣言ののち、くす玉割りが行われました。そして、1000万人目の訪日客というタイ人のパッタラプラーシットご夫妻が登場し、観光庁長官らから記念品の贈呈がありました。
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今年7月、観光ビザが免除され、訪日客数の伸び率が最も高かったタイ人がこの場に登場するであろうことは、関係者も予想していたことでしたが、ご主人のパッタラプラーシットさんのスピーチがちょっと面白かったです。なんでも今年の来日はすでに3回目で、ニューヨークに留学しているお嬢さんと東京で落ち合い、親子3人で明日から北海道にスキーに行くそうです。アジアの富裕層の日本の旅というのは、こんな感じなのでしょうか。団体ツアーで百貨店や量販店に押しかけ、買い物している層とは明らかに違います。
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12月11日に行われた観光庁の記者会見で、1000万人の達成は可能の見込みという話は聞いていましたが、(1000万人達成の)Xデイはいつなのか。関係者らは気にしていたようです。1~11月までの累計が約950万人だったことから、もっと早いんじゃないか、と思う人が多かったようです。

当初は19日がその日だという情報がぼくにも届き、成田に駆けつける準備をしていたのですが、結局1日延期。セレモニーの会場が成田空港のどこなのかというのも、前日の夜になってようやく伝えられました。
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セレモニーのあと、大臣を囲んで、いわゆる「ぶら下がり」記者会見がわずかな時間ですが、ありました。そこではとりたてて新しい話はなかったのですが、少しだけ印象に残ったことがありました。まず、大臣は日本のインバウンドの弱点としてのWi-Fi整備の遅れを口にしていたこと(よくご存知ですね、といったら失礼でしょうか。でも、こういうインフラ整備はぜひ早急に進めてもらいたいです)。

また、これは冒頭のスピーチでの話ですが、「東京オリンピック開催の2020年に2000万人達成というさらなる高みを目指したい」という政府目標のお約束コメントのあとに、小さな声で「そうできたらいいなあと思う」といった控えめかつ素直な言葉をぽろっとこぼしていたことです。2000万人という数字が、そんなにたやすいものではないことを、大臣はご存知のようです。

何はともあれ、1000万人達成はひとつの弾みになることは間違いないでしょう。さて、来年はどうなることやら……。実際のところ、2000万人達成のためには、中国と韓国という近隣の巨大市場からの訪日客を換算に入れないことには、とてもじゃないけれど難しいことは、関係者はみんな知っているわけですけれど、こればかりは相手あってのこと。
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そういえば、成田空港のエレベーターに、“観光立国ナビゲーター”の肩書きをもつ嵐の「Thanks for visiting Japan!」のポスターが貼られていました。ネットなどで記事を見ていたのですが、意外に小さくて地味な感じでした。
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by sanyo-kansatu | 2013-12-20 23:50 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 20日

富裕層旅行には先進国型と新興国型の2種類ある(ILTM2013 セミナー報告)

11月22日、青山学院大学IVY HALL「バンケットルーム・サフラン」で観光庁主催の「ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー~今、富裕層旅行市場を捉えるためには~」がありました。やまとごころの取材で、セミナーに出席し、関係者の話を聞くことができたので、報告します。

やまとごころ http://www.yamatogokoro.jp/event_report/index12.html

今年3月、日本初の富裕層旅行に特化した商談会「ジャパン・ラグジュアリー・トラベルマーケット(ILTM Japan)」が京都で開催されました。会場のザ・ソウドウ東山では、日本の富裕層旅行マーケットの開拓を目指し、国内外のバイヤーと出展者が商談を繰り広げました。次期開催は、2014年3月17日~19日に決定しています。では、富裕層旅行とはどのようなものなのか。今回は、国内外の有識者による富裕層旅行セミナーを報告します。

※京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催
http://inbound.exblog.jp/21590385/

目次
セミナー報告
講演「富裕層旅行市場の現状と今後の動向」
講師:Alison Gilmore(Reed Travel Exhibitions社)
「アジアにおける富裕層旅行市場の中の日本」
講師:Stephen Junca(Seactet Retreat社)
パネルディスカッション「日本の地域性から見る富裕層旅行市場への取組み」
パネリスト:Alison Gilmore(Reed Travel Exhibitions社)
       Stephen Junca(Seactet Retreat社)
       遠藤 由理子(JTBグローバルマーケティング&トラベル ブティックJTB事業室長)
      Jens Moesker(シャングリ・ラ ホテル東京総支配人)
モデレーター:福永 浩貴(株式会社アール・プロジェクト・インコーポレイテッド)
Alison Gilmore 氏インタビュー
ILTM Japan 2014概要
<編集後記>


セミナー報告
「富裕層旅行市場の現状と今後の動向」 (Alison Gilmore/Reed Travel Exhibitions社)他
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今日の世界の富裕層が好むのは、必ずしもプライベートジェットやクルーズ客船、ファイブスターホテルのスタイリッシュな客室などにイメージされる豪華な旅というわけではありません。では、「ラグジュアリー旅行」の定義とは何でしょうか。

「ラグジュアリー旅行」には、クラシックモデルとニューモデルの2つのタイプがあります。以下、それぞれのキーワードを書き出してみます。

●クラシックモデル
High level of comfort(ハイレベルの快適性)
Status symbol(ステイタスシンボル)
The best service(ベストなサービス)
Privacy Guaranteed(プライバシーの確保)
Exclusive location(独占的なロケーション)

これは従来型の「ラグジュアリー旅行」のイメージです。一方、今日主流となっているのは以下のようなものです。

●ニューモデル
Experiential travel(体験旅行)
Authentic experiences(“本物”の体験)
Ecotourism(エコツーリズム)
Voluntourism(ボランティア旅行)
Sustainability(持続可能性)
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両者を比較すると、以下のようなキーワードで対比できます。

クラシック   vs ニューモデル
Product(製品)   Experience(体験)
Place(場所) Everyplace(どこでも)
Price(価格)     Exchange(交換)
Promotion(プロモーション)Evangelism(福音主義)

今日の富裕層が求めているのは、“本物”の体験です。インドやブラジル、中国といった新興国ではまだクラシックモデルが一般的かもしれませんが、日本をはじめとした先進国ではニューモデルの旅が求められています。

日本には“本物”があります。日本のラグジュアリーのDNAと私が呼ぶキーワードは以下のようなものです。

Heritage(遺産)
Culture(文化)
Craftsmanship(熟練した職人の技能)
Service(サービス)
Prestige(信望)
Privacy(プライバシー)
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こうしたDNAをすべて兼ね備えた日本には、富裕層旅行マーケットとしての大きな可能性があります。でもまだ海外ではよく知られていません。ILTM Japanは、こうした日本の魅力を世界にアピールする場となるはずです。
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“本物”の体験の重要性については、Seactet Retreat社のStephen Junca氏も「アジアにおける富裕層旅行市場の中の日本」と題された講演の中でも指摘されました。

パネルディスカッション「日本の地域性から見る富裕層旅行市場への取組み」の中で、JTBグローバルマーケティング&トラベル ブティックJTB事業室長の遠藤由理子氏は、同社の富裕層旅行者の受け入れ実績を通じて、彼らが求めるのは日本の文化や歴史に関する“本物”の体験であること。すべて顧客一人ひとりのリクエストに応じたテーラーメイドな旅程が組まれていること。今後重要となるのは、富裕層に“本物”の体験を提供してくれる日本各地の多様なサプライヤーとのネットワークであると述べています。


Alison Gilmore 氏インタビュー
「文化や伝統に富んだ日本は魅力的なディスティネーション」

ILTM Japanエキジビション・ディレクターのAlison Gilmore 氏は、過去20年間、富裕層旅行マーケットの現場で経験を積んできました。Gilmore 氏に話を聞きました。

――日本の富裕層旅行マーケットをどう捉えていますか。
「日本のポテンシャルはとても大きい。世界の富裕層旅行マーケットの潮流は、かつてのような豪華さを追求するだけでなく、本物志向の体験を大事にする旅行に変わりつつあります。文化や伝統に富んだ日本は魅力的なディスティネーションです」。

――日本では大手の旅行会社でも富裕層というセグメントを意識した顧客の取り込みを手がけたのは最近のことです。ヨーロッパでは富裕層旅行にも歴史がありますね。
「ヨーロッパでは19世紀にすでにグランドツーリズと呼ばれる富裕層旅行の歴史があります。富裕層旅行はもともとクローズドなマーケットなので、海外でも実際に手がけているのは、プライベート・コンシェルジュと呼ばれる、特定の顧客を持った小さなエージェントが多いです。ILTMはそうしたバイヤーたちが出会うプラットフォームを提供しているのです」。

――日本の富裕層旅行マーケットの現状についてどうお感じですか。
「日本の知名度はまだ低いと感じています。これまであまりインバウンドのプロモーションをしてこなかったこと。国内旅行客へのアピールが中心で、海外に対する情報発信ができていなかったと思います。しかし、世界の富裕層旅行のトレンドが豪華型から体験型に変わってきたため、日本の魅力が注目されています」。

――今春、日本でILTM Japanを開催した目的、経緯は?
「世界の富裕層旅行を扱うエージェントの多くが日本に興味を持っているのに、なかなか入っていくのが難しいマーケットと考えられていました。今回、京都市がとても協力的で、実現にたどりつけました」。

――手ごたえはどうでしたか。
「大成功だったと思います。今回参加いただいた海外のバイヤーの多くがすでにお客さまを日本に送っていただいています。何より彼らが日本について知ることができたのが大きいです。やはり、彼らに実際に日本を見てもらうことが重要です」。

――アジアからのバイヤーもいましたね。
「シンガポールや中国などですね。今回は初の開催でしたから、日本に近いアジアの国々のバイヤーが多かったですが、次回からは欧米諸国などもっとバランスをとることができると思います」。

――海外の富裕層は日本のどこに興味を持っているのでしょうか。
「やはり日本の文化や伝統です。海外から見て、日本は神秘的な国です。もっと誇っていいと思います」。

――海外に向けてプロモーションをするうえでのポイントは?
「言語は障害ではありません。日本は旅行のインフラも整っています。簡単に旅行できる国であることをもっとPRすべきでしょう。富裕層というとお金持ち相手というイメージが強いですが、ただ単にお金持ちをターゲットにしているわけではありません。日本には魅力的な素材がたくさんあるので、もっと映像やイメージを使って海外に情報発信すべきです。これ以上、なにか新しいものをつくるというのではなく、既存のものをアピールすることです」。

――商談会に参加するにあたって何か基準はあるのでしょうか。
「ILTMには独自の審査基準があって、それを満たした方のみご参加いただけます。それはこれまでの弊社の経験からその商品が富裕層にアピールするかどうかを判断するというものです。自分たちの商品に誇りをもってお話いただければ、ご相談に乗ります。私たちも商談に参加していただけるにふさわしいサプライヤーを独自で探しています」。

――来年のILTMについて教えてください。
「商談会の会場は今年と同じザ・ソウドウ東山ですが、パーティは来年2月にオープンするザ・リッツカールトン京都で開く予定です。もしこれから富裕層マーケットを手がけたいと考えていらっしゃる方は、ぜひ参加していただきたいです」。

ILTM Japan 2014概要

日時 2014年3月17日~19日
会場 ザ・ソウドウ東山(京都市)

ILTM Japanは、富裕層旅行の知識やネットワーク、ビジネスなどを国内外のバイヤーと出展者に対し提供する、日本で唯一のイベントです。来年で2回目の開催となります。

ILTM Japan日本事務局(株)アールプロジェクト内 
http://www.iltm.net/japan

※ILTMについて
International Luxury Travel Market (ILTM)は、毎年カンヌ(12月)と上海(6月)で開催され、主催者によって厳選された、世界の富裕層旅行のバイヤーやサプライヤーが一堂に会する商談会です。カンヌでは1300社以上の出展者と1300名のバイヤーが参加、上海でも500社以上の企業と500名のバイヤーが集います。出展者は高級ホテル、レストラン、リゾート、プライベートジェット、リムジン、クルーズ、カジノなど極上のラグジュアリー体験を提供できる上質なサプライヤーが選ばれています。

<編集後記>
これまで日本の旅行業界はマスツーリズムに傾注し、クローズドな富裕層旅行マーケットについてはPRも含め、経験不足だったことは否めません。こうしたなか、観光庁やILTM Japan関係者らが富裕層旅行マーケットの促進に取り組むのは、外国人富裕層がもたらす経済効果はもちろんですが、世界の旅行トレンドを先取りする富裕層の影響力に期待しているからでしょう。

日本人はどうも自分たちの魅力をよくわかっていないところがあるようです。価格に捉われず“本物”を追求する富裕層旅行者への取り組みは、日本のよさを再認識するいい機会にもなると思います。ILTM Japan事務局の福永浩貴氏によると、来年の開催に向けて、旅行会社やホテルだけでなく、伝統工芸の関係者からの問い合わせも増えているそうです。

今回のセミナーはかなりコンセプチュアルで啓蒙的な内容でしたが、今後は実際に富裕層の受け入れを行っている関係者の生の声を聞いてみたいと思いました。そういった方々こそ、海外の富裕層に喜ばれるポイントをいちばんご存知だと思うからです。
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by sanyo-kansatu | 2013-12-20 07:41 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 05日

大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国(トラベルマート2013報告 その3)

トラベルマート会期中の11月28日の夜、一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)の総会がありました。

一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)
http://www.shadanaiso.net/index.html

そこでは恒例のセミナーがあります。アジア各国・地域にそれぞれ強いランドオペレーター関係者による「アジアインバウンドの最新動向」の報告です。

※今年6月上旬のセミナーについては「今年の夏、日本はアジア客でにぎわいそうです(社団法人AISO第1回総会報告)」)を参照。
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まず理事長の日本ワールドエンタープライズ株式会社の王一仁社長による開会の挨拶から始まりました。

「AISO創立から今年で7年目。震災から2年たち、今年はアジアインバウンドの流れが大きく変わった年といえるでしょう。円安効果も大きいですが、東京オリンピック開催決定や富士山の世界文化遺産登録など、さまざまな追い風が吹いています。

AISOの加盟企業は現在約160社。半分はランドオペレーターで、残りはホテルやテーマパーク、レストラン、運輸業者などの方々です。お互い協力して日本のインバウンドを盛り上げていきましょう」。

次に株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事による今年の総括です。

「今年のアジアインバウンドに弾みをつけたのは、7月のアセアン諸国に対するビザ緩和が大きかったといえます。このままいけば、今年は初の訪日外客1000万人を達成することでしょう。なかでも大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国だったように思います。

それでも、訪日外客の6割を占めるのは、韓国、台湾、中国本土です。韓国はいったん回復してきたかに見えましたが、秋口から伸び悩んでいます。一方、中国市場は概ね回復基調にあると思います。

今後は、アジアの個人客向けの商品、特に来日してから各自が参加する「着地型」のツアー商品の開発などに力を入れていくべきでしょう。ここにいらっしゃる関係者の皆様には、ぜひ我々ランドオペレーターに新しいコンテンツをご提案いただきたいと思います。それを海外の旅行会社につなげていくのが我々の仕事ですから」。

株式会社トライアングルの河村弘之常務理事からは、以下の3つの話題提供がありました。
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①ツアーオペレーター品質認証制度について

同制度は、「事業者(ツアーオペレーター)の品質を保証することにより、訪日旅行の品質向上と、訪日旅行者が安全、安心で良質な旅行を楽しんで頂くことを目的として作られ国からも推奨された品質認証制度」です。

ツアーオペレーター品質認証制度 http://www.tour-quality.jp/

株式会社トライアングルは最近、同制度の認証登録をすませたばかりですが、河村理事によると、中小企業の多いインバウンド業者にはかなりハードルが高いのが実感だといいます。認証の条件として、①旅行業登録していること、はともかく、②訪日ツアーにインバウンド旅行保険をかけること、そして何より③プライバシーマークの取得済み(1年以内に取得予定であること)が経営にとって大きな負担となるからです。

※プライバシーマーク(Pマーク)は、個人情報保護に関して一定の要件を満たした事業者(基本的には法人単位。ただし、医療関連については病院ごとなど例外あり)に対し、一般財団法人日本情報経済社会推進協会 (JIPDEC) により使用を認められる登録商標。

プライバシーマーク制度
http://privacymark.jp/

現在、AISO加盟企業の中で、認証登録をすませているのは、農協観光とアサヒホリディサービスの3社だそうです。

②タイからの訪日客の動向

「今年のタイ市場は、北海道が人気。ビザ免除で市場は活気づいています。ただし、募集ツアーは今後価格競争が激しくなることが予想されます。ですから、弊社はタイではインセンティブツアーを専門に営業しています。企業の社員旅行としての訪日ツアーの取り込みです。現在、タイに進出している日系企業は約3000社。そのうち、従業員数100名以上の企業は約半数。みなさん、現地の日本企業に営業に行かれたことはありますか。旅行博に行くのもいいですが、タイの場合、インセンティブ市場が大きいことを知っていただきたいと思います」。

※JETROによると、タイに進出した日系企業数:1,458社(2013年4月現在のバンコク日本人商工会議所会員数)ですが、実際は約3000社といわれます。

③シンガポールからの訪日客の動向

「震災後に韓国に次いで訪日客の戻りが遅かったシンガポール市場ですが、今年は北海道行きが7割を占めるほどの人気でした。もっと行きたいが、エアが取れないという話です。シンガポールの旅行業者は、中国などとは違い、日本のランドオペレーターとの関係を大切にしてくれます。シンガポール市場に商材を売りたいなら、AISOのランドオペレーターにまず声をかけていただきたいと思います。それが早道です」。

アメガジャパン株式会社の清水和彦理事からは、中国本土市場の話がありました。

「今年の弊社の中国本土客の取扱は、1~3月が前年比マイナス60%、4~6月がマイナス30%、7~9月でほぼ前年度の水準に戻り、9月はおそらく新旅游法の駆け込み需要で過去最高になりました。10月以降は、去年が尖閣問題でボロボロでしたから、前年度比ではプラスになると思います。そういう意味では、団体ツアーはほぼ回復したと考えています。

中国の訪日市場の動向は地域によって一様ではありません。広東省はすでに回復し、北京でもだいぶ戻ってきたようですが、最大のマーケットである上海の遅れが目立ちます。

新旅游法の背景には、中国の原価割れしたツアー商品の横行があります。オプショナルツアーや土産物店への連れ込み、ホテルの変更はすべてNGとなりました。その結果、弊社が多く扱う広東省の旅行会社のツアー料金の推移を見ていると、韓国や台湾、タイなどが軒並み2~3倍にアップしている一方、日本ツアーの価格上昇はそれほどでもないため、日本の割安感が出てきたと感じます。来年の春節がどうなるか、大いに期待したいと思いますが、依然日中間の政治問題が解決していないのが気がかりです」。

株式会社アサヒホリディサービスの和田敏男理事からは、マレーシア市場の話がありました。

「マレーシアの旅行業界は、タイなどと違い、大手数社が独占しているという市場です。東南アジアの中では訪日旅行市場は後発ですが、LCCも今後ますます就航するという話ですから、期待の持てるマーケットだと思います。最近、小グループの団体が増えてきました。以前なら30~40名の団体が多かったのですが、6~8名くらいのプライベートなツアーが多いのです。求められているのは、すでに定番のツアーコースではなく、個性的な旅です。

イスラム国ですから、ハラルを気にする方が多いと思いますが、一部の方を除くと、そこまで厳格に考えることはまだないのではと感じています。最近、六本木にハラル専門レストランができたと聞きますし、また東京大学にはハラル専門の学生食堂があるそうです。ハラル認証を取得するための協会も国内にいくつかできていますので、そこで研修を受けられることをおすすめします」。

最後に再び王理事長による香港とフィリピンの話がありました。

「今年は香港や台湾からの訪日客が激増しました。香港客の大半はリピーターです。航空券さえ安いものが出れば、必ず日本を訪れます。日本人のアジア旅行と一緒です。11月から香港エクスプレスの羽田便がデイリーとなりました。片道1万円と安いので、これからのクリスマスシーズン、たくさんの香港客が東京を訪れることと思います。
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フィリピンからの訪日客も増えてきています。12月からフィリピン航空が大幅に増便します。どうしてこんなに増便するのかというと、最近のフィリピンの台風被災地に対する日本の支援も影響があると思います。フィリピンから日本の自衛隊の視察ツアーもあると聞いています。フィリピンの人口は9000万人です。これからがチャンスです」

※フィリピン航空(PR)は12月15日から、成田発着のマニラ線とセブ線を増便。マニラ線は現在1日1便だが、これを1日3便に変更。セブ線は週6便のPR433便/434便に月曜日を加えてデイリー運航にした上で、さらに1日1便を追加しています。

関係者のみなさんの報告を聞きながら、今年は「アジアインバウンドの流れが変わった」ことをあらためて実感しました。何より市場の分散化が進んでいることがいい流れだと思います。

その一方で、こうした手放しの喜びようで、はたして来年本当にアジアインバウンドは順調に進展するのだろうか。中国政府の不穏な動きが続くなか、ひとたび何か起こればすべて吹き飛んでしまうのではないか、というあやうさもはらんでいるように思えてなりません。

また、今年は台湾やタイほかの東南アジアの国々のように、日本の文化的影響力が強い国々からの訪日客増加に大いに救われたところがありましたが、そうでない国々に対してどう訪日旅行をPRするべきか、という課題が印象付けられた年でもあったと思います。たとえば、インドやロシアといった未知の大市場に対してどう取り組むか。来年に向けて新しいチャレンジが必要ではないかと思った次第です。
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トラベルマート会場から桜木町駅に向かうみなろみらいの夜景はとてもきれいでした。
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by sanyo-kansatu | 2013-12-05 10:58 | “参与観察”日誌 | Comments(0)