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2013年 09月 25日

圧倒的なにぎわいを見せたジャパンゾーン。その理由は?(TITF報告その2)

今回のタイのトラベルフェア(TITF)で最もにぎわいを見せていたのは、ジャパンゾーン(日本の出展ブース)だったといっていいと思います。なにもこんなところで日本を持ち上げても仕方ないのですが、他国のブースと比べても、日本は出展数が多く規模が大きいというだけでなく、力の入れよう、やる気がまるで違っているように見えました。日本の関係者の皆さんはいつも通りの生真面目さで、日本観光のPRにいそしんでおられました。
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では、ジャパンゾーンを見ていきましょう。まず、ジャパンゾーンを束ねている日本政府観光局(JNTO)の「VJブース」です。秋以降の日本ツアーのイメージを打ち出すということもあり、テーマは「祭り」だそうです。
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ここでは日本の特定の地域のPRをすることは基本的にありませんが、来場客からの日本旅行に関する質問に答えるためにタイ人のスタッフを多数常駐させています。
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今回ジャパンゾーンには、以下の24団体が参加しています。

1)日本国観光庁・日本政府観光局(JNTO)
2)北海道観光振興機構
3)北海道観光ブランド育成協議会
4)札幌市
5)仙台市/東北観光推進機構
6)群馬県みなかみ町
7)静岡県
8)北陸国際観光テーマ地区推進協議会
9)日本中部(岐阜県・長野県・名古屋観光コンベンションビューロー)
10)関西&大阪(Jプロデュース)
11)紀伊半島滞在型観光プロモーション事業実行委員会
12)九州観光推進機構
13)ツーリズムおおいた
14)沖縄観光コンベンションビューロー
15)東日本旅客鉄道(びゅうトラベルサービス)
16)東京急行電鉄
17)EDOWONDERLAND日光江戸村
18)ドン・キホーテ
19)東京ディズニーリゾート
20)さっぽろかに本家
21)いわさきグループ
22)JTBグローバルマーケティング&トラベル
23)ジャパニカンドットコム
24)ジャパンショッピング&トラベルガイド

会場をめぐりながら関係者にいくつかヒアリングをしましたが、タイ人が最近急増している北海道や、「昇龍道」という特設ルートを設定し、広域連携する中部や北陸、タイ人誘客を模索している九州、沖縄などのブースが目を引きました。
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北海道のブースでは本物の雪だるまを展示していました。タイの子供たちが寄ってきて、おそるおそる触れていました。ありがちな演出かもしれませんが、常夏の国タイの人たちにはウケるのでしょうね。
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札幌市のブースには日本語を話すタイ人女性が2名いました。「北海道でタイ人がよくツアーに行くのは道南です。札幌、小樽、函館を訪ね、登別温泉に泊まります。雪まつりが人気です」とのこと。
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宮城県仙台市のゆるキャラ「むすび丸」と一緒に記念撮影するタイの女子大生。 
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今年、世界遺産となった富士山はタイ人のツアーには絶対はずせないスポット(静岡県ブース)。
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中部や北陸が広域連携して企画した「昇龍道」。ゴールデンルートに代わる新しい定番ルートになるか?
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ステージで沖縄のエイサーを披露した皆さん。
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Japanレイルパスの販売にも力を入れている。今後増えるであろうタイの個人旅行者の必須アイテムとなるはずだ。
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日光江戸村は早くからタイ人客の誘致に力を入れていた。
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小売業者として唯一日本から出展していたドンキホーテ。
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東京ディズニーリゾートはタイ人にも人気。
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JTBグローバルマーケティング&トラベルの運営する訪日外国人向け宿泊&ツアーサイト「JAPANiCAN」http://www.japanican.com/thai/は今年3月、タイ語のトップページを構築した。
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さらに、ジャパンゾーンとは別の場所で、HISとJTBのバンコク支店のブースがツアー販売を行っていました。彼らは地元の旅行会社と競合しながら、日々タイで営業を行っている現地法人です。興味深いのは、この日本を代表する旅行大手2社が出展したブースの雰囲気とそこに集まる客層、接客スタイルなどを比べると、まるで日本における両社の特徴をそのまま反映しているように見えたことです。
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ひとことでいえば、JTBのブースに集まる客層は比較的裕福に見える中高年が多く、HISには若い客層が多いのです。これは日本でもそうなので、面白いものだと思いました。

タイではJTBもHISもブランド力という観点でみれば、大差はありません。知名度は両社ともまだないといっていい。では、扱う商品や営業スタイルが違うのか。それもあるでしょうが、重要なのは、両社の世界戦略の違いです。つまり、ローカル客に対してどこまで営業に注力しているか、という姿勢の違いでしょう(→「HIS、世界企業へ離陸 東南アジアで消費者開拓」【2013年上半期④HIS】)。

そのせいでしょうか、HISのブースのほうが圧倒的に勢いがありました。その理由については、このブログでも以前少し触れましたが(→「HISタイの訪日旅行の取り組みは要注目です」)、今回は同バンコク支店を取材したので、別の回であらためてもう少し詳しく紹介したいと思います。
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日系企業という意味では、イオンのブースにも興味を持ちました。同社は自社の発行するクレジットカードのPRのための大きなブースを出していたのです。海外旅行者が増えるとクレジットカード需要が増えるのは当然です。イオンはタイで小売分野だけでなく、金融分野でも勢力を伸ばそうとしていると聞きます。
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さて、TITFでは別会場を使った商談会やビジネスセミナーが行われます。今回日本側が強くアピールしたかったのは、8月16日の午後に行われた在タイ日本国大使館による査証免除に関するプレゼンテーションでした。今年7月1日よりタイ人に対する観光ビザの免除が実施されたことに対する広報PRが目的です。
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VJ(JNTO)ブースにも「日本観光に、ビザは不要となりました」とタイ語で書かれたパネルが掲げられていました。

JNTOバンコク事務所のスタッフによると、「今回は8月のTITFとしては日本から過去最大の出展(24団体)となりました。タイ人にとって日本は憧れの国です。ですからビザ免除は、現地メディアでも大きく報道されました。タイの人たちは、今回の決定で自分たちは日本に認められたと喜んでいます」とのことです。

同事務所がまとめた「TITF速報」によると、以下のような問い合わせ、質問があったそうです。

・ 訪問地に関する問い合わせでは、東京~大阪のゴールデンルートに含まれるエリアが最も多く、これに北海道、高山・白川郷が続くといった状況であった。但し、問い合わせは人気地域に集中している訳ではなく、これまで問い合わせの少なかった中国・四国地方などの地域に関する質問も寄せられ、前回2月のTITF旅行フェア同様、FIT旅行者を中心としてタイ人の興味が全国に拡大していることが実感された。

・ 旅行内容についての問い合わせでは、10月をターゲット時期とする旅行フェアのため、紅葉に関する質問が相次いだ。また、FIT層の増加に伴う鉄道パスやレンタカー等の移動手段やWiFi等の携帯電話利用に関する質問、さらには、温泉や食・レストランに関する問い合わせが寄せられた。

・ リピーター増加に連れて質問内容が深化する一方で、「日本のどこに、いつ行くべきか」といった訪日未経験者からの質問も多数寄せられ、訪日旅行市場のすそ野が拡大していることを感じられた。

・ 年末年始に関する問い合わせや、スノーレジャーに関する質問も目立っていた。

・ 査証カウンターでは、滞在可能日数や入国審査時の必要資料について質問を受けた。

(第13回Thai International Travel Fair(通称TTAA旅行フェア)出展についてのご報告(速報)より抜粋)

これらの報告を見る限り、タイの日本旅行客はずいぶん成熟しつつあることを実感します。質問内容からも、彼らが個人旅行の意欲にあふれていることもうかがえます。タイの消費者がこうした状況を迎えた中で実施された観光ビザ免除は、両国にとってきわめて好タイミングだったというべきでしょう。

今回会場で会った多くの関係者に共通していた声があります。それは、ジャパンゾーン(日本の出展ブース)が盛況だったのは「円安、ビザ緩和」が主な理由だろう、というものでした。たまたま2013年が「日本アセアン友好協力40周年」にあたり、「(アセアン客)訪日100万人プラン」という明快な政策目標が掲げられていたこともあるでしょう。しかし、日本側がこれほど積極的だったのは、昨年以降の中国に対する嫌厭感からにわかに進んだ日本経済の東南アジアシフトの機運と同調しているからだと思います。

JNTO関係者によると、来年2月のTITFの日本からの出展団体はさらに増えるだろうと予測しているそうです。

こうしてみると、今回のタイのトラベルフェアにおけるジャパンゾーンの盛況ぶりは、日本とタイ両国の双方のそれぞれの事情が、偶然であれ何であれ、うまく結びついた結果なのだろうと思います。このようなことは、いつでも、どこの国との間でも起こるとは限りません。だからこそ、タイとの関係は大切にすべきだといえるでしょう。
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by sanyo-kansatu | 2013-09-25 16:39 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 07月 12日

香港客大躍進の背景に「Rail & Drive」プロモーションあり !?

このところ、タイの訪日旅行について報告を続けていますが、日本政府観光局(JNTO)の報道資料によると、香港が5月の統計では対前年同月比82.2%増とトップです。タイは確かに1~5月の総数ではトップですが、5月単月でみると香港がすごい伸びです。

タイ人もそうですが、香港人もたくさん日本旅行に来ているんです。どうしてなのか?

日本政府観光局(JNTO)2013年6月19日報道資料
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/130619_mothly.pdf

実は、先日タイ人に人気の西新宿の焼肉店「六歌仙」を訪ねたとき、「タイ人の来店も多いですが、最近は香港のお客さまの来店も増えていますよ」と社長は話していました。いま東京では特に香港の個人客が多く出没しているようなのです。

JNTOは香港の訪日客大躍進の背景について以下のように分析しています。

「香港は、仏誕節(5月17日(金))により3連休となり、近距離の海外旅行をしやすい環境だったことや、先月から続く航空会社によるプロモーション料金の設定が訪日旅行客数の大幅増加の要因となった。訪日旅行は円高の是正により都市圏へのショッピングを目的とした旅行者の増加が目立った。さらに、鉄道旅行とドライブ旅行のトレンドを醸成し、訪日旅行の需要拡大を図っている」

要するにどういうことなのか--。JNTO香港事務所所長の平田真幸さんに直接お尋ねしたところ、以下のコメントをいただきました。

「(訪日客急増の背景には)円高是正で、今まで我慢していた人たちが一気に動き出したことがあります。4月頃から割安の航空券が出ていることも、それを後押ししています。さらに、我々JNTOが今年から進めている『Rail & Drive』プロモーションで新たな日本の魅力が効果的に打ち出せていることが大きいと思います」

「Rail & Drive」プロモーションって何でしょうか?

JNTO香港の今年度のプロモーション方針によると、「『Rail & Drive』を活用した新しい訪日旅行のスタイルをテーマにプロモーションを『a different Japan Rail & Drive』と名づけて展開」しているそうです。

平成25年度 香港市場プロモーション方針・事業計画概要
http://www.jnto.go.jp/jpn/services/pdf/pp_hongkong.pdf

a different Japan Rail & Drive
http://www.welcome2japan.hk/differentjapan/
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地元香港経済新聞によると、「香港人で日本旅行に行く人は4人に1人が10回以上の渡航経験を持つ。75%がFITと呼ばれる個人旅行客で、最近では電車やレンタカーを駆使して旅行行程を組むパターンも多い。

日本人が観光するのと同じように、香港人が電車を使ったり、レンタカーを予約するなど高度な旅行プランを組めるようになったことで、これまで外国人観光客が訪れることが少なかった地域にも香港人が現れるケースはさらに増えそうだ」そうです。

レール&ドライブで渡航スタイル向上-香港人の日本旅行、過去最高の推移(香港経済新聞2013年5月13日)
http://hongkong.keizai.biz/headline/41/

要するに、我々日本人が鉄道や飛行機とレンタカーを組み合わせて国内旅行するのとまったく変わらないスタイルで香港の人たちが訪日旅行を楽しむようになったということなのです。それは日本人がハワイやアメリカでレンタカーを借りてドライブ旅行しているのと同じです。

香港の訪日客の約8割は、飛行機とホテルのみ予約を入れて来日し、自由旅行を楽しむFITです。日本人が3泊4日で香港グルメの旅に行くのと同じ気軽さで、日本を楽しみに旅行に来るのが香港人というわけです。

同記事の中には、香港客の受け入れをさらに進めるために日本側が努力しなければならない点として、前述の平田真幸JNTO香港支局長が以下の指摘をしています。

「香港人の渡航スタイルの成熟度を受けて、『訪日旅行をもっと増やすためには、日本の皆さんが海外をもっと経験する必要がある』と指摘。『ATMやWi-Fi(ワイファイ)・言語など日本はまだグローバルスタンダードに追いついていない点もある。外国人の求めるものを分かってこそ』」

香港から戻ってきた知り合いの多くが、東京ではWi-Fiが使えないとよく言います。この種のインフラ整備は、紙のパンフレットを量産するよりもっと優先しなければならないことを香港客は我々に教えてくれています。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-12 12:06 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 04月 02日

19回 ガラパゴス化した日本のプロモーションは伝わらない

今年は例年に比べずいぶん早い春が訪れようとしていますが、東南アジアの動きも含めて、アジアのインバウンド旅行市場に新しい展開が生まれてきそうでうれしい限りです。そこで、今回はアジア市場に対する訪日プロモーションと、そのベースになる紙媒体の情報発信のあり方についてあらためて考えてみたいと思います。

このテーマを考えるうえでふさわしい方として今回ご登場いただくのは、台湾と香港で日本の情報誌の編集を長く手がけてこられた鈴木夕未さんです。彼女は現在、台湾国際角川股份有限公司(http://www.kadokawa.com.tw/)で『Japan Walker』の編集に携わっています。彼女は1999年に台湾に渡り、日本の情報誌である角川書店の『東京ウォーカー』の台湾版を現地で立ち上げ、根付かせた功労者のひとりです。

先日彼女が帰国された折、久しぶりにお会いする機会があり、台湾や香港における都市情報誌の現状と日系メディアの置かれた立場について貴重な話を聞くことができました。

彼女が語ってくれた話は、訪日旅行プロモーションのために日本で大量に発行された外国人観光客向けの地図やパンフレット、フリーペーパーなどが現在抱える問題の本質をあぶりだしています。ありていにいうと、それらはほとんど彼らから支持されていないという現実です。なぜなのか。別の言い方でいえば、日本の「情報誌」文化がガラパゴス化していないだろうか、という問いかけでもあります。これは華人文化圏だけではなく、今後多くの関係者がプロモーションに注力していくだろう東南アジア市場にも共通の問題であるはずです。以下、彼女の話を聞くことにしましょう。

香港人は日本の情報誌のゴチャゴチャしたレイアウトが嫌い

――昨年まで香港にいたのですね。いまは昔いた『台北ウォーカー』に戻られたとか。

「私は2012年の春、『香港ウォーカー』のリニューアルのため、香港に呼ばれました。同誌は5年前に創刊されており、当初は日本や台湾と同じく、都市情報誌として隔週で発行されていました。

香港は雑誌の激戦区です。しかも、基本は週刊誌。旅行雑誌でさえ週刊で発行されているくらい。せっかちで新しいもの好きの香港人の気質に週刊誌文化が合っていて、しっかり根づいているのです。こうしたなか、『香港ウォーカー』は苦戦続きで、2年前から他誌との違いを明確に打ち出すため、訪日旅行のための情報をメインに発信する媒体に生まれ変わりました。

なにしろ香港はわずか700万人の人口なのに、毎年約50万人が訪日旅行するという土地柄です。香港人の日本旅行熱が高いこと、日本が好きで、興味を持っている香港人が多いこと、香港には日本の旅行をメインコンテンツにした雑誌がなかったことから、角川がこれまで培ってきた強みを活かし、香港の現地情報ではなく、日本の情報を発信する月刊誌に方向転換したのです」

――ところが、それでもなかなかうまくいかなかったようですね。なぜだと思いますか?

「ひとつは特集の問題です。たとえば、2013年1月号の第一特集『関西パワースポット』企画はまったくウケませんでした。日本では人気のある企画なのですが。

もちろん、うまくいったものもあります。2012年8月号の『北海道のアイヌ神話』特集は、企画のテーマと写真を大きく使ったデザインが好評でした。同じ8月号でやったアニメ特集も、私からみると中途半端な内容のように思いましたが、かなり人気があったようです。香港にはアニメ好きが多く、日本のアニメで育っている世代が『香港ウォーカー』のメイン読者ですから。要するに、日本人ウケがいいものと、香港人ウケがいいものは違うんですね」。

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『香港ウォーカー』2013年1月号の「関西パワースポット」特集は香港ではウケなかった

――取材や誌面づくりはどうしているのですか?

「当初は、日本各地で発行される地方版ウォーカーの記事とデザインをそのまま流用し、サイズを変更して翻訳していたそうです。でも、それではダメだということで、独自で取材陣を送り出すことになりました。雑誌以外にもガイドブックを制作したのですが、12月に発売した東京のガイドブックはよく売れているようです。これは東京ウォーカーの過去記事を流用し、デザインを香港人向けにアレンジして再編集したものと、香港人の編集スタッフが現地を取材してつくったものが半々です。

しかし、『香港ウォーカー』が苦戦しているいちばんの理由は、香港の一般読者が“日本の情報誌特有のゴチャゴチャした細かいレイアウトが嫌い”、ということではないかと思います」。

――それはどういうことですか?

「理由はとても単純です。彼らにいわせれば、とても窮屈な感じがするからだそうです。実際、香港で発行されている他の旅行雑誌は、写真を大きく使ったレイアウトがメインで、記事はほとんどありません。彼らにいわせると、写真を見て“行きたい!”という気持ちを喚起してくれないとダメなのだそうです。その場所に行かなくても行った気になれる、そんな誌面がいい。これは香港人の編集スタッフたちと何度も話し合ったことなので、間違いないと思います」。

日本のプロモーションはあらゆるものが情報過多

――なるほど。香港の読者は実用的な情報ではなく、まずは旅に出かけたくなるようなイメージを喚起してくれる媒体を求めているということでしょうか。

「その通りです。香港の人たちは、極端なことをいうと、雑誌には情報はいらないといいます。きれいな写真があればいいという感覚なんです」。

――同じことはぼくの知り合いの中国の旅行会社の人もいっていました。日本から送られてくる全国各地の旅行パンフレットを見ながら、「たくさんの情報はいらない。きれいで印象的な大きな写真が1点あればいい」「ひとつのページにこんなに写真と文章がいっぱいあると、どこをどう読んでいいのかわからない」。それを聞いて、そりゃそうだなあと思ったことがあります。彼らにとっては所詮外国の情報ですから、日本人相手と同じように、そんなに細かくいろいろ書かれても、おもしろさがわからないというのが正直なところではないでしょうか。

「それと香港人は地図が嫌いみたいなんですね(苦笑)。私が日本の情報誌の誌面づくりのルールに則して実用的な地図を入れようとすると、スタッフから反対されるんです。ガイドブックならあってもいいけど、雑誌では地図は誰も見ないから載せる必要がないというのです」。

――確かに、雑誌とガイドブックでは本来、用途が違いますものね。日本人なら『東京ウォーカー』や『るるぶ情報版』を持って旅に出かけたり、街歩きを楽しんだりするものですが、外国の人たちにはそんな習慣はない。

「香港の人たちは雑誌を持って街歩きをすることは基本的にありません。ガイドブックとは別物と考えているのです。そういう意味では、海外向けの日本のフリーペーパーは彼らのニーズに合っていないのかもしれませんね」

日本の訪日旅行プロモーションの紙媒体はあらゆるものが情報過多で、その情報の見せ方も相手のニーズに合っていない。あれこれ地元の魅力を伝えたい発信側の気持ちはわかるけど、日本人相手と同じようにぎっしり情報を詰め込んでも、外国の人たちにはどこからどう読んでいいのかわからないのです。この不幸なミスマッチが起こる背景について、ぼくは本連載の「第1回 震災は点検の絶好のチャンス!」の中で指摘していました。以下はその抜粋部分です。

――日本側の作る観光パンフレットの多くは、日本の消費者(中国のではない!)の嗜好に沿った実用ガイドに偏っています。これでは旅行先を決める前の段階で使えない。その豊富な情報を享受できるほど、大半の中国の消費者は日本の事情を理解しているわけではないからです。

さらに致命的なのは、そもそも中国の消費者が日本の過剰に洗練された情報誌の読み方を知らないという事情があります。限られた2次元のスペースにたくさんの写真と細かい情報がぎっしり書き込まれた、たとえば『東京ウォーカー』や『るるぶ情報版』のような情報誌を読んだことがないのです。だから、仮に中国客が日本のパンフレットを手にしても、どこからどう読めばいいのかわからない。掲載店舗のありかを探すために別ページにある地図を参照するという情報誌の基本的な約束事を知らないのです。しかし、彼らはネット通販の口コミサイトなら使える。ピンポイントの店舗や商品情報はわかるのです。

それは端的にいうと、彼らが『エイビーロード』を知らないままネット時代を迎えたことを意味します。このすでに休刊した情報誌の存在は、多様な商品の中身を詳細に比較検討できることで日本の海外旅行シーンの成熟化に大きな役割を果たしました。一方、中国の消費者はこうした比較検討メディアの時代を経験することなく、ネット時代に突入しました。おかげで我々の知っている情報化のプロセスがすっぽり抜け落ちているのです。――

「情報誌」文化も日本のガラパゴス化のひとつ

――そもそも香港の人たちは、『東京ウォーカー』やかつての『エイビーロード』のような情報誌に慣れていない。そのことが情報誌のデザインをそのまま踏襲した最近の日本の旅行パンフレットやフリーペーパーを受け付けなくさせている理由なんだろうと思います。

「地図の要不要もそうですが、当初日本の情報誌の翻訳から始まった『香港ウォーカー』の編集スタッフたちは、『日本の記事はキャッチがしつこすぎる』といいます。彼らには『日本人は同じことを繰り返し書いている』と感じるそうです。タイトル、サブタイトル、リード、キャッチ、本文、キャプションと、すべて同じことを書いているというんです。確かにそういわれると、そうですよねえ」

鈴木さんのいうように、日本の雑誌編集者たちは、タイトルやキャッチを本文の中から抽出して、なるべく読者の眼を引くよう短いセンテンスにまとめて表現することに腕を競っているようなところがあります。タイトルだけ読めば、何が書いてあるか大枠がつかめるようなうまいキャッチをつけて一人前。一種の言葉遊びのおもしろさもありますし、編集者のセンスが問われるところです。

こうした雑誌文化の背景には、本とは違って雑誌はすべてを通しで読まれるとは限らないため、なるべく数多くの情報を詰め込んで、各読者が眼を引いたものだけ読んでもらえばいい。そうしたゴチャ混ぜの情報の断片をまるで幕の内弁当のおかずのようにぎっしりと詰め込んでいるのが、日本の情報誌です。そのような情報誌の読み方が彼らにはわからないというわけです。大皿料理をみんなで取り分ける食文化の彼らに、幕の内弁当が合わないのは無理もないかもしれません。

こうしてみると、日本で独自に進化した「情報誌」文化はガラパゴス化といわれても仕方がないのではないでしょうか。もちろん、ガラパゴス化は自国の消費者のニーズに則して開発されたもので、それ自体悪いというわけではありません。ただし、海の向こうに市場を求めようとすると、支障が生まれる。日本の携帯が陥った状況と同じことだと思います。

我々は1枚のページに情報がコンパクトにまとまっていると便利だと考えがちですが、実のところ、華人文化圏の人たちがそう受け取るとは限りません。とりわけ中国のようなプロパガンダの国の住人は、タダでくれる情報であれば、何らかの誘導があるだろうとふつうに考えます。彼らは我々に比べてとてつもなく疑り深い人たちでもあるのです。

さらに、鈴木さんがさきほど語ったように、香港では「雑誌を持って歩く」という習慣が浸透していないことも、日本の海外向けフリーペーパーが受け入れられない理由といえます。彼らにとって雑誌はあくまで読むものなのです。そして、いまや持って歩くのはスマートフォンという時代です。

問題なのは、情報の送り手である日本の制作者たちが「情報誌」文化の作法に縛られたまま、外国人相手にきちんとコンテンツが伝わっていないにもかかわらず、無自覚のうちに情報発信を続けていることです。

鈴木さんが香港で学んだ「自己満足ではダメ」

鈴木さんは香港で情報誌編集に携わった悪戦苦闘の日々について、赤裸々に語ってくれました。

「私は香港の編集スタッフとうまくいっていませんでした。理由は、私の考えが“日本的すぎる”からでした。赴任当初は使命感もあるし、日本からわざわざ呼ばれたのだからと、企画もページ構成も日本人目線でやっていました。だから、彼らとぶつかりました。

でも、徐々に彼らのいうように『雑誌は読むもの』という考え方を受け入れ、日本の月刊誌や季刊のハイグレードな雑誌をイメージして柔軟に対応するようにしました。本当をいえば、日本の観光地を背景に芸能人を大きく見せるような現行の『香港ウォーカー』の表紙は、実際のコンテンツと合っていないと思うのですが、香港の人にはそれで構わないのです。ミュージシャンやタレントのインタビューなども、写真をできるだけ大きくしてくれという読者からのリクエストがありました。私からすると、それは違うだろうと思うのですが、香港では“写真を大きく使う”、これがいちばん重要なのです」。

――『香港ウォーカー』のこの1年間のバックナンバーを見せていただきましたけど、2012年の5月号くらいまでは日本の情報誌のように、細かいレイアウトやキャッチを多用した誌面づくりが見られますが、だんだんそれが減って誌面がすっきりしてきますね。

「海外で仕事をして勉強させられることがたくさんあります。日本にいては気づかないことばかりです。10年前、私たちが『台北ウォーカー』の立ち上げに成功したのは、そこが台湾だったからです。日本に片想いしている台湾だったから、私たちの思いが実現できたのだと、いまは思います。

そういう意味では、日本に恋する台湾と、最近中国かぶれになってきた香港ではまったく違いますね。 香港人はある意味、欧米人の感覚にも近いです」。

鈴木さんは、日本に片思いし、日本のやり方を受け入れてくれる台湾の特殊性に、いまさらながら気づいたといいます。と同時に、鈴木さんのように、時間をかけて日本の「情報誌」文化を根付かせた日本人がいたことで、台湾の消費社会の成熟に貢献した面もあったのではないかと思います。でも、台湾はきわめて例外的なケースで、そこで成功したことが、その他の華人文化圏やアジアの国々で通用するとは限らないのです。

「やはりその国と仕事をしていくなら、“郷には入れば郷に従え”じゃなければいけないと思います。その国の人たちの気質や好みを把握してやっていかないと、受け入れてもらえません。

自戒の意味も込めて感じたのは、日本人はお山の大将になっているんですよ。自分たちの技術がすごいと。でも、実際はそんなことばかりじゃないですよ。たとえば、街でのWi-Fiの普及度でいえば、日本は遅れています。それは香港から帰ってくると痛感します。日本だから日本のやり方が合っているだけで、外国に来たら日本のやり方は通用しません。香港では本当に悔しくて何度も泣きました。現地のデザイナーとのコミュニケーションも然り。私の意見をまったく聞こうとしないのですから(苦笑)。

でも、仕方ないですよね。雑誌を読むのはこちらの人です。私が香港でやろうとしていたのは、自己満足の世界だったと気づきました。台湾ではこの経験を無駄にしないようにと思います」。

自覚なく大量発行されている現状を変えよう

鈴木さんはいま、台湾で『Japan Walker』という訪日旅行情報を満載した『台北ウォーカー』の別冊附録(ブックレット)を出す仕事に取り組んでいます。

「毎月60ページほどのブックレットなので、旅行カバンにちょっと忍ばせてもらえたらと思っています」。

鈴木さんが香港で味わった葛藤は、海外向けの観光パンフレットを発行する自治体関係者やフリーペーパーの発行者のみなさんも自分の問題として大いに学ぶべきではないでしょうか。

「いま全国の自治体で大量につくっている観光パンフレットや地図は、そのほとんどが日本人用をただ翻訳しただけで、まったく外国人のニーズに合っていないんです。この無駄にはもうみんな気がつかないといけないと思います」。

なぜこのような無駄がいつまでもまかり通るのか。発行元の多くが費用対効果に責任を負わない自治体であることもそうですが、広告を集めれば、それで成立してしまうというフリーペーパーのビジネスモデルにもあると思います。実際に読まれなくても、発行だけはできてしまうからです。それが現場の制作者たちにとっても自らのガラパゴス化に対する無自覚を温存させている面があります。

最近でも、トラベルマートの会場などで多言語化された地元の旅行パンフレットを用意しただけで満足しているような自治体関係者を見ると、残念というほかありません。そりゃないよりはましかもしれませんけど、もうそんなことですまされる時代だとは思えません。自覚なく大量発行される現状を変えなければなりません。

日本の「情報誌」文化を脱却し、相手のニーズに近づくことで成功した例として、中国で発行される日系ファッション雑誌があります。もともと日本で発行していた女性誌を、中国でライセンス契約して発行してきたのですが、やはり最初は日本の翻訳記事が多かったそうです。誌面に出てくるのも日本のモデルばかり。しかし、それではうまくいかなかったといいます。

当然のことですが、中国の女性の好みやライフスタイルに合わせたオリジナルな内容でなければ、読まれ続けるはずはないのです。そのためには、彼女らのニーズを追い求める姿勢が必要でしたし、とりわけ中国人モデルの育成が重要だったそうです。それは、日本の出版界が欧米のスタイル雑誌や女性誌を日本のマーケットに根付かせたプロセスと基本的に同じことだったと思います。

同じことは、インバウンドの海外向け情報発信においてもいえることなのです。

台湾で新たにチャレンジする鈴木夕未さんの今後の活躍に期待したいと思います。

やまとごころ.jp 19回 本気でアジアを狙うなら、「情報誌」の発想を変えよう
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by sanyo-kansatu | 2013-04-02 08:30 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 01月 22日

17回【トラベルマート 2012報告 後編】「中国集中プロモーション」の挫折とその先にあるもの

本年最初のコラムは前回に引き続き、11月下旬(20日~21日)にパシフィコ横浜で開かれた訪日旅行市場の商談会「VISIT JAPAN トラベルマート2012」の報告(後編)です。

アジアからの訪日旅行市場に特化した業界団体として知られるNPO法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の総会で聞いたアジア各国市場の現状報告を中心に、2013年のインバウンドの展望について考えてみたいと思います。

現場からの声が続々-AISOセミナーにて

トラベルマート開催中に開かれる恒例のAISO総会には、毎回国内のアジアインバウンド関係者が多数集まります。今回興味深かったのは、香港、中国、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアなど、アジア各国のマーケット関係者による現状報告のセミナーでした。いまアジアインバウンド市場で何が起きているのか。現場を知る者のみが語る示唆に富んだ発言が多く聞かれました。以下、簡単に紹介します。

最初は、AISO会長の王一仁氏による香港市場の報告です。王会長は中国・香港市場を中心にした訪日客を扱うランドオペレーター業を営む総合ワールドトラベル株式会社(http://inbound.exblog.jp/17150936/)の代表取締役社長です。

10月末、香港を視察した王会長はこう報告します。

「香港の訪日団体ツアー客は減少傾向にあります。一方、FIT(個人旅行客)は増えている。香港の漁船が上陸したことで始まった今回の尖閣問題の影響はほとんど感じられないが、問題は円高。キャセイパシフィック航空が香港・成田線で驚くような激安運賃を出して需要を喚起しているので、クリスマスと旧正月シーズンに期待しています」

確かに、年末に入って新宿近辺で中国系の若いカップルがスーツケースを押しながらホテルを探して歩いている姿をよく見かけました。ためしに「どこから来たの?」と尋ねると、たいてい「香港」。東京でクリスマスを過ごすために来日した香港人カップルです。

先日も一組のカップルに会いましたが、話を聞くと、東新宿に最近オープンしたリーズナブルなシティホテル(いわゆる宿泊特化型ホテル)に宿をとっていました。彼らは中国本土客のように日本で“爆買い”はしませんが、地方在住の日本の若者が東京に遊びにくる感覚で滞在を楽しんでいます。香港がFIT市場であるというのは、まさにこういう観光客が主流という意味です。同じ華人でも、団体客が主流を占める中国本土客とはまったく別種の消費者たちです。JNTOの発表によると、11月に日本を訪れた香港からの旅行者数は3万6200人で前年同月比7.4%増えています(http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/121221_monthly.pdf)。

王会長は香港市場の特性を物語るこんなエピソードも話していました。香港のJNTOが今年ついに通訳案内士試験の募集を取りやめたというのです。試験の難易度が高くて合格者がここ数年現れないためだそうですが、そもそも欧米人観光客向けに設計された通訳案内士制度は今日のアジアインバウンド市場に合わないといえますし、団体ツアー客に欠かせない通訳案内士の存在が、今日の香港市場にとっていかにミスマッチであるかわかります。

回復の遅れが長引きそうな中国訪日市場

次は、中国市場。株式会社ジェイテック取締役の石井一夫氏が公務・商務・FIT市場について報告をしました。ポイントは「いつ中国客は戻ってくるか」です。石井氏は言います。

「2010年の尖閣諸島沖漁船衝突事件のときは、中国客への影響は3ヵ月ほどでしたが、今回は回復の遅れがかなり長引きそうです。中国政府は中国公民の訪日旅行を中止させるような通達は出していませんが、現地の旅行業者には訪日ツアーを積極的に募集する雰囲気はまだないようです。それでも渡航者はまったくゼロというわけではなく、商務客やFIT客は来るようになっています。ただ公務はさすがに無理。この状況では、旧正月に戻るのは難しい。桜シーズンか夏に戻ればいいのですが……」

興味深いのは、本土客の中からFITが戻りはじめているという指摘です。小売業界にとって本土客のFITこそ、最もターゲットにしたい存在でしょう。ところが、FITの誘客は簡単ではない。ランドオペレーターがバスに乗せてピンポイントで運んできてくれるわけではないからです。残念ながら、現状では一部の商業施設か量販店にしか本土客が姿を見せないのはそのせいです。

一方、ランドオペレーターにとってもFITというのはとりつくしまのない存在です。その点について石井氏は「FIT市場がいくら拡大しても、航空券とホテルをとってしまえばそれ以外の手配は不要という層なので、ランドオペレーターにとって実入りはなく扱いづらい存在」ときっぱり。これは送り出し側の中国の旅行会社にとっても同じことで、個人ビザや航空券手配の代行手数料しか売上の見込めないFITはおいしくないのです。ゆえに日中双方の旅行業者ともにあまり積極的になれない。これが中国のFIT市場の拡大にとって足かせになっているというのが現場の声です。「彼らをどんな市場に育てていくべきかが今後の中国市場の大きな課題となるでしょう」と石井氏は言います。

中国の団体旅行市場について報告してくれたのは、アメガジャパン株式会社の清水和彦氏でした。清水氏は言います。

「9月11日の『国有化』発表以降、地崩れ的にツアーのキャンセルが発生しました。国慶節はほぼゼロとなり、10月中もことごとくキャンセル。11月に入って広東省の大手旅行会社が数社共同で訪日ツアーの新聞広告を開始したことで、週に何本かツアーが来るようになりました。10月初旬の春秋航空『0円』キャンペーン航空券に対する中国国内での批判のようなことが起きなければと心配しましたが、それはありませんでした。もともと11~12月の中国市場はオフシーズン。初めの一歩という感じの動きが出てきたところですが、今後について中国側は日本の選挙の成り行き次第だと考えていると思います」

確かに、ぼくが定点観測している新宿5丁目のインバウンドバス調査でも、11月に入るとたまにバスの姿を見かけるようになっていて、尋ねるとたいてい「広東省」からの団体客でした。北京から遠い所から先に動きがはじまるというのは、まさに中国市場の特性です。

清水氏によると、「国有化」後に起きたキャンセルに対して、今回中国系航空会社はツアー客にデポジットを請求しなかったそうです。いかにも中国企業らしいお上の意向に沿ったやり口で、日系航空会社との対応の違いをこの機に乗じて見せつけようとしたのでしょう。当時の中国では「いま中国人が日本を旅行して本当に安全をギャランティできるのか」という話題が大真面目に交わされていたことからもわかるように、中国メディアによる日本の実態を無視したあてつけ的な偏向報道がいかに蔓延していたかを物語っています。その結果は2012年11月の訪日外客数(JNTO)において、すべての国が前年度比でプラスというのに、中国だけが前年度比マイナス43.6%と激減という統計に表れています。まさに中国政府にとって観光は政治の道具です。

明暗が分かれた2012年のアジアインバウンド

ことほどさように、明暗が分かれた2012年のアジアインバウンド市場ですが、常に安定しているのが台湾市場といえるでしょう。新世界通商株式会社の原田世昆氏は言います。

「台湾では2005年9月に日本へのノービザ渡航が解禁となり、チャーター便による全国各地への多彩なツアーが定着しています。香港と違うのは、台湾では団体客も多いこと。日本で体験したいのは、自然、温泉、美食。リピーターも多いのが特徴です。来年の旧正月の日本行き定期便もほぼ満席となっています」

いつも思うことですが、台湾ほど我々にとってありがたい市場はないといえるでしょう。日本人がよかれと思って提供すること(=バリュー)をこれほどまっすぐ受けとめ、しかも喜んでくれる人たちは他にいないからです。

もっとも、こんな指摘もあります。JVS株式会社の林志行氏はこう言います。
「実は台湾でも尖閣問題の影響がまったくないわけではありません。また台湾の景気は決してよくはない。その影響が、最近の訪日ツアーの保守化、マンネリ化というかたちで表れています。たとえば、大陸客の増加によって日本のホテル価格は下げられましたが、台湾でも彼らと同じような安いホテルを使うツアーが増えています」

もともと中国客に比べはるかに成熟し、多様化していた台湾の訪日旅行市場が、中国業者のもたらした日本のランドオペレーター手配費の低価格化の影響を受け、質の低下が起きているというのです。これはとても残念なことです。ここ数年間、我々は中国客に目をかけてばかりで、台湾客のことを忘れていたのではないでしょうか。これからはもっと彼らのことを大切にするべきだと思います。

さて、2012年の訪日外客の前年度比の伸び率が最大だったのが、タイ市場です(1月~11月の統計で86.4%増)。一方、同じ東南アジア市場でも停滞気味なのがシンガポール市場(11年度比では伸びているが、震災前の10年度比では約マイナス20%減)だと語るのが、株式会社トライアングルの河村弘之代表取締役社長です。

河村氏は言います。
「東日本大震災以降、回復に向けて官民挙げたプロモーションにいち早く取り組んだのはタイ市場でした。4月下旬にはタイからエージェントを呼び、6月には観光ビザの緩和(3年間の数次ビザ発給)を行なっています。LCCの就航も追い風になっています。

一方、シンガポールでは、いまだに原発不安があることや円高の影響が大きい。シンガポールのチャンギ空港はアジアのハブなので、相対的にヨーロッパ方面へのフライトが割安になり、そちらに流れたことが考えられます」

河村氏によると、昨年シンガポールがSMAPのソフトバンクCMのロケ地になって日本からの観光客が増えたことで、訪日客のエアチケットが取りにくくなり、限られた航空便の客席数に占める訪日インバウンドのシェアが低下した影響もあるそうです(確かに2011年のシンガポールへの日本人訪問者数は前年度比24.1%増)。旅行マーケットというのは実にいろんなことが影響するものですね。

最後に、今年のトラベルマート会場でもよく関係者を見かけた東南アジアのイスラム圏マーケット(インドネシア、マレーシア、ブルネイ)について、AISCのMicky Gan社長のコメントを紹介します。

「震災や尖閣の問題で明らかになったように、インバウンドにはバランスが大事です。ムスリム市場が注目されてきたのはそのためでしょう。しかし、日本にはまだムスリム客の受け入れ態勢ができていません」

Micky Gan氏によると、今回のトラベルマートの商談会の前に行われた各国エージェントとプレスへのファムツアー(視察旅行)で、初めてムスリム関係者へのアテンドが行われたそうですが、日本側の提供した内容に「問題が多発」したそうです。その大半は日本側のイスラム文化に対する理解の欠如があったようです。

「たとえば、都内の外資系ラグジュアリーホテルではムスリム客が泊まる客室には聖書ではなくコーランを置くような配慮はありますが、別のホテルのレストランではシーザーサラダにベーコンを入れてしまい、問題になったことがあります。ハラルフードはもっと研究の必要がある。どこまで相手の文化を理解できるか。思いやりを示せるか。日本だからこそできるムスリム客に対するおもてなしはきっとあるはずです」

こういう話を聞くたび、インバウンドというのは本当に奥が深いなと思います。

AISO会長が語る「波乱万丈!インバウンド」

セミナーのあと、王会長に話を聞いたところ、こんな生々しい話もありました。王会長は9月中旬、反日デモが起きていたころ、上海にいて、現地の旅行関係者と会ったそうです。

「何が驚いたかといって、去年までは震災復興がんばれ、と言っていた人たちが、今回はまるで変わっていたことです。中国では尖閣問題について、日本の報道とはまったく真逆の報道が行なわれていたのです」

王会長によると、10月下旬上海から熊本に寄港したクルーズ船についても、日本側の報道では「尖閣問題後初の大型団体客」として「今後を期待」と楽観的だったのに対し、中国側では非難轟轟だったといいます。こうした話も上海生まれの香港育ちという王会長だからこそ、現地の関係者からストレートに伝えられたのだと思います。彼らも相手が日本人では遠慮してはっきり言わないことも多いでしょうが、同じ華人相手だと本音が出てくるものです。たとえ日本にとって都合が悪い内容でも、それを退けず、現地の空気を読むことは大切です。

それにしても、中国団体観光客の受け入れがはじまって10数年、数年おきにアップダウンが繰り返されるジェットコースターのような訪日中国市場。「いったいこれからどうなるのでしょう?」と尋ねたところ、王会長はこう言い放ちました。

「まったく何が起こるかわからない。波乱万丈! インバウンド」

……本当にそうですよね。いま短期的にどうこう言ってもはじまらないということですね。1980年代から長くアジアインバウンド市場に取り組んできた王会長のことばだけに重いと思わざるを得ませんでした。

「中国集中プロモーション」の挫折

2012年、ニッポンのインバウンドの世界で起きたのは、政治が民間交流の最大の障害になるという事態でした。その結果、「中国集中プロモーション」の挫折が決定的になりました。

これまで国土交通省はインバウンド振興を社会に啓蒙するため、訪日外客、とりわけ市場規模が圧倒的に大きい中国客による地域への経済波及効果を強調してきました。この10年間の「観光白書」をみると、毎年のように観光の経済効果について多くのページを割いています。ある年の「国際観光白書」には、中国の公務旅行の関係者が“まとめ買い”する様を喧伝するかのようなコラムすら書かれていました。1990年代、法務省との間で訪日中国団体ビザの解禁をめぐって議論があったことから、国土交通省は経済効果を錦の御旗にする必要もあったのでしょう。

ところが、面白いことに平成24年度版の「観光白書」には観光による経済効果に関する記述はほぼなくなっています。いったいどうしたのでしょうか。

もちろん、国民各層に「観光立国」の意義がある程度啓蒙されたことで、記述の必要がなくなったといえなくはありません。しかし、インバウンドの経済効果を強調すぎたことの弊害がむしろ問題になってきたからだとぼくは勝手に思っています。

要するに、訪日中国客による経済効果の“幻想”に多くの人たちがあおられすぎてしまった。「中国集中プロモーション」の合言葉に乗って、多くの自治体や事業者が勇んでインバウンドの世界に繰り出したのは、中国客の財布に群がろうとした結果でしょう。ここ数年、全国各地で流行した地方自治体の首長を先頭にした中国各地への「トップセールス」もそうです。果たしてどれほどの効果があったのか。

しかし、“メイド・イン・チャイナ”化した中国人の訪日ツアーの内実がだんだんわかってくるにしたがって“幻想”に気がつく人たちも出てきます。たとえば、朝日新聞2012年11月21日のように、尖閣問題の影響で百貨店の免税品売上高が4割減と予想したら、実際は4%減と中国客減少の影響は小さかったという報道もあります。「予想ほど減らなかったのは、個人客の減少幅が少なく、他の国からの客が増えたため」です。中国団体ツアー客が高額消費する時代はもう終わっているのです。

さらにいえば、尖閣問題以降、日本の中国客誘致を盛り上げようとする姿勢はかえって中国政府の情報戦に利用されてしまう始末です。「観光白書」が強調した中国客の個人消費額の高さを逆手にとって、「国有化」で中国客が減ったことがまるで日本経済に打撃を与えているかのように中国メディアの宣伝に使われるのです。常識的に考えれば、訪日外客の個人消費が個々の小売業者にはともかく、日本経済に影響を与えるほどの規模ではないことはわかりそうなものですが、事情に通じていない日本の一部のメディア関係者の中には、中国側の宣伝を受け売りしている人も見られます。なんという後味の悪さでしょう。

でも、いまとなってはこうしたこともかえって良かったのではないか、と思います。観光による経済効果だけを強調するインバウンド振興では、本来の国際観光の目的を見失っていると思うからです。これに目覚めてニッポンのインバウンドの転換期を迎えればいい。

では、これからニッポンはどんなインバウンド振興を目指すのか。これまでいちばん問題だったのは、受入国としての法制度の整備やルールづくりを先送りしてきたことでしょう。要は、外客受け入れのための制度設計を怠ってきたのです。整備することで、渡航者数を減らしかねないという懸念があったからでしょう。中身より数を優先したかったのです。これは2000年代の「観光立国」黎明期においては無理もなかったといえますが、いまや「脱中国」の時代、渡航者数至上主義はもういいのではないか。優先順位を変えるべきです。

なぜなら、アジアインバウンドの現状からみて、渡航者数が増えても日本の業者にとってはデフレをもたらすだけで、実際の旅行客の受け皿はアジア系業者になるだけという構造になっているからです。これは別に誰が悪いというわけではなく、サービス産業において新興国市場と取り引きするとそうなりがちなのです。日本の内需に貢献するための法整備やルールづくりに着手すべき段階に入っているのだと思います。

というのも、観光立国の先達であるヨーロッパから学べることは、インバウンド振興の本来の目的は地域の雇用創出、とりわけ若い世代の雇用を生むためのものだからです。「トップセールス」もたまにはいいのですが、それがいかに雇用を生むかという観点からインバウンドを考え直すことが本当は必要なはずです。

東南アジアの華人経由で本土にPR

ところで、最後にひとこと。挫折したからといって、中国本土客への取り組みをあきらめる必要はありません。現状の中国のビジネス環境では、ツアー商品の多様化や高品質化は難しそうですが、今後は、香港、台湾、東南アジアの華人向けのプロモーションをあらためて強化し、B to Cで華人マーケットの高品質化を進めることで、結果的に本土客にその存在を気づかせるというPRの考え方でいいのではないでしょうか。

なにしろ東南アジアは民間主導の経済です。本土客は政治に目をくもらせ、日本のバリューをまっすぐ見ようとしないところがありますが、彼らよりはるかに成熟していて政治から自由な東南アジアの華人であれば、日本の提供する品質の意味するところに気づいてくれるはずです。興味深いことに、彼らはある意味こてこての華人の顔とイングリッシュスピーカーの顔の二面性を併せ持っています。これまで本土ばかりを持ち上げ、軽視してきたきらいのある華人マーケットに対していかにアピールできるか。これからは英語による発信力も重要になると思います。

2013年は日本と中国との政治的関係においてさらなる緊張も予測されます。

ですから、逆に本土向けには、B to Cにはなるべくコストをかけずに、B to B、つまり旅行会社に対する情報提供を目立たぬよう、政治利用されぬように強化すればいいと思います。いますぐは無理でも、彼らが訪日ツアーを再開できるようになったとき、すぐにでも活用してもらえるよう、新しい情報をじっくり仕込んでおくのです。これを機に、これまでの「安かろう悪かろう」ツアーからの脱皮を図ってもらうための準備期間と考えてはどうでしょう。

結局のところ、中国国内でいくらインターネットが普及しても、どんなに日本のアニメが人気でも、それを享受する層の大半は日本旅行に行けないという厳しい中国社会の現実があるからです。B to Cの情報発信は中国インバウンドにとって現状では直接的には有効とはいえず、この状況はしばらく変わらないと思います(もちろん、ウェイボーなどの情報発信に意味がないと言っているわけではありません。集客には直接つながらないという意味です)。また日中関係が好転することは難しい状況が予測される中で、できることは限られているわけですから、誰をサポートすべきか、優先順位で考えるしかないでしょう。いまできることは、中国で日本行きのお客さまを集めてくれる唯一の存在、中国の旅行会社の親愛なる日本部の人たちを支援することだと思います。
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by sanyo-kansatu | 2013-01-22 16:24 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 12月 03日

16回【トラベルマート 2012報告 前編】 観光庁も「脱中国」。東南アジアシフトに転換か?

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訪日旅行市場の拡大に向けた日本最大の商談会「VISIT JAPAN トラベルマート2012」が11月20日、21日の両日、パシフィコ横浜で開かれました。

トラベルマートは、国土交通省(観光庁)が主催するB to Bのインバウンド商談会です。海外から日本ツアーを造成するバイヤー(旅行会社)やメディア関係者が来日、国内からは彼らに旅行素材を提供するセラー(ランドオペレーターやホテル、交通、観光地のアトラクション施設、全国の自治体など多彩)が集結。一堂に会して訪日旅行市場を盛り上げていこうという、年に一度のイベントです。国内外のインバウンド関係者の話を一度にまとめて聞ける、絶好の情報収集のチャンスです。

日中政府間のねじれた相互不信によって中国インバウンドの行方に依然暗雲が漂うなか、日本のインバウンドにいま何が起きているのか。今回は、会場での見聞や感じたこと、関係者からのヒアリングを通じた知見などを報告しながら、2013年のインバウンドの展望を占ってみたいと思います。

会場で目につくヒジャーブ(スカーフ)姿

トラベルマートの初日は、特設スペースで行なわれる恒例の開会式から始まります。最初に登壇するのは、今年4月に就任した井手憲文観光庁長官。日本のツーリズム産業は震災からいち早く回復したことを報告、インバウンド市場の拡大をアピールすべく、列席した海外の記者たちに呼びかけました。

開会式が終わると、商談会のスタートです。事前にアポイントした海外バイヤーと国内セラーの商談が始まります。

今年の会場は例年に比べ、こぢんまりした印象です。ホテル関係者ら訪日旅行に絶対欠かせない特定のセラーが商談に追われていたことを除けば、熱気や盛り上がりの点でもうひとつという気がしました。前回までは会場内を国内セラーの展示ブースと海外バイヤー専用席に仕切り、相互訪問しながら商談する仕組みになっていたのですが、今回からバイヤー席をなくしてしまったからです。昨年に比べ全体の出展数は減少しているわけではないのに、以前よく見かけたコスプレや着物姿のPRといった派手な演出も少なかったようです。

こうしたなか印象に残ったのは、イスラム女性が頭を覆うヒジャーブ(スカーフ)姿の関係者が目についたことです。事務局の報告した海外バイヤーの国別数をみると、その理由がわかります(トラベルマート公式サイトより。カッコ内は昨年の数)。

中国35(41)、韓国23(26)、香港12(9)、台湾12(14)、タイ24(23)、シンガポール19(16)、豪州15(14)、英国10(10)、フランス5(5)、ドイツ5(3)、米国17(8)、カナダ18(17)、マレーシア19(7)、インド12(1)、インドネシア18(1)、ベトナム18(0)、ロシア3(21)、オンライン系5(21)

上記のとおり、マレーシアやインドネシアなど東南アジアのイスラム圏のバイヤーが急増していました。激増したインドや今回初登場のベトナムも注目です。ここに見られるのは、招聘する側が明らかに東南アジアシフトを意図した結果といえそうです。

東南アジアシフトに転換した背景

開会式の後には、外国人記者会見があります。主催者である国土交通省(観光庁)が海外メディアに訪日旅行促進のための日本政府の考え方やプロモーション活動について広報する場です(昨年の外国人記者会見の様子)。

今回の記者会見で観光庁が強調したいポイントはふたつあったと思います。ひとつは、東日本大震災後、日本のインバウンド市場は予想以上に早い回復が見られたこと。これは確かにアピールすべきポイントでしょう。東日本大震災の前月に地震の被害を受けたニュージーランドでは未だに復興が遅れ、同国のインバウンド市場が低迷しているのに比べ、日本では官民の協働が早期回復に貢献した面は大きかったと思います。

もうひとつは、訪日プロモーションの最重点エリアが中国から東南アジアにシフトしたことです。

統計をみると、理由は明快です。国土交通省の担当者が用意した資料「Recent Situation Regarding Inbound Promotion」によると、2012年1月~10月までの国別訪日旅行者数のうち、震災の影響を受ていない2010年度比で最も伸びているのは、ベトナム(33.3%増)、次いでインドネシア(26.0%増)、タイ(19.5%増)、マレーシア(13.7%増)と、すべてが東南アジア諸国です。

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こうしたデータの裏づけをもとに、観光庁が今後の目標設定として掲げるのは、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアを中心にした東南アジアからの訪日旅行者数を現在の約50万人から3年後(2016年)までに200万人へと拡大させることです。そのための施策として、すでに今年7月からタイのマルチビザ発給、9月からマレーシアとインドネシアにも短期のマルチビザ発給を開始しています。2013年は日本アセアン友好協力40周年にあたるため、周年事業をインバウンド振興に活用することで東南アジア諸国に向けた重点プロモーションを展開することになりそうです。

こんなにあっさり転換して大丈夫?

ところで、今回インバウンド関係者をホッとさせた話のひとつに、今年9月日本の「旅博」をドタキャンし、11月の上海旅行博(CITM)では日本関係者の出展を断ってきたことで、日本に対する強硬な姿勢を見せてきた中国の旅行会社が予定どおりに来日していたことがあります。来日した35社(昨年は41社)をざっと見る限り、上海や広東などの沿海部が中心で、内陸部や東北地方は少ないようでした。国内で相変わらず続く「反日」的な雰囲気の中、商談のために来日した旅行業者がいたことで、中国という国を相手にする場合、政府と民間を分けて考える必要があることをあらためて確認したいと思います。

もっとも、ある大手旅行会社の関係者によると「来日した中国のビジネスパートナーと会ったが、お互いため息ばかり」だったとのこと。北京出張から戻ってきたばかりの彼は現地の旅行関係者の様子についても「今回は2010年のように当局が自国の旅行会社にツアー催行中止の通達を出しているわけではないけれど、民族感情を煽ることで未だに日本ツアーを集客しにくい社会のムードがある」と話してくれました。

国土交通省(観光庁)がこれほどあっさり「脱中国」に転換した背景には、今日の険悪な日中関係があるのはいうまでもないでしょう。

そもそも尖閣諸島沖で中国国家海洋局の監視船と直接向き合っている海上保安庁の巡視船は国土交通省の管轄です。たとえこの先、訪日客が再び動き出したとしても、ひとたび彼らが海上で何か起こせば、事態はすぐに逆戻りです。まったくくだらない話だとぼくは思いますが、中国政府は我々と同じようには考えてはいないので始末が悪いといえます。

日本人には思いがけないことですが、特定の個人や組織、団体に因縁をつけて攻撃対象とするのは、政治闘争の国である中国ではよく見られることです。彼らは標的とみなした相手にプレッシャーをかけることで自己の主張を通そうとします。本来民間交流にすぎない観光に政治の影響がこれほど出てくるのも、観光行政を担当する国土交通省が中国政府の標的のひとつにみなされているからだと思います。中国メディアによって悪者扱いにされている2010年秋当時の担当大臣に対するあてつけすら感じます。

表向き旅行会社に口を出していないといいながら、あの手この手で日本ツアーの集客を難しくさせるよう宣伝工作を行なう中国政府の子供じみたやり方も、彼らの考え方では自らが利を得るためのごく自然な行動原理にすぎず、我々がいくら道義を欠いていると非難したところで通じそうにもありません。

今回のトラベルマートが、例年に比べてどこか熱気を欠いた理由に、我々日本人の常識では思いもよらなかった中国政府のふるまいに対する拒絶感からくる「脱中国」の共時的な国民レベルでの承認と、その結果生まれた虚脱感があったと思わざるを得ません。日本の「観光立国」ブームを支えたのは、この10年の中国の経済発展に対する官民の過剰なまでの期待であったことは間違いなく、その取り込みを図るというのが産業界の合言葉だったため、その反動も大きかったといえます。

今回の尖閣問題をめぐる中国政府の思慮を欠いた対応によって、日本側の盲目的な中国市場に対する期待が裏切られたことで、時代は転機を迎えてしまいました。

ですから、観光庁が「脱中国」=東南アジアシフトに至った経緯というのも無理はないと思います。

その一方で、こんなにあっさり転換しても大丈夫なのだろうか、と思わないではありません。中国政府と民間の中国人の思いは同じではないからです。彼らは日本ともっとビジネスしたい。我々日中の民間人の利害は依然一致しているのです。

こうなった以上、我々は中国市場に対するアプローチを再考する必要があります。この連載で何度も指摘してきたような訪日中国人ツアーの数々の問題を改善していくうえで、これをいい転機にできないか。そのためには何をすればいいか、考えていきましょう。

所詮日本はインバウンドの新参者。やるべきことはある

ここから先は、今回のトラベルマートの会場で感じたことを思いつくまま書き出します。単なる批判ではなく、ぜひ前向きに検討していただきたいと思います。

まず開会式について。昨年まで観光長官だった溝畑宏氏のいささかオーバアクション気味のスピーチに比べ(昨年の開会式の様子)、今回の新長官の挨拶はかなり地味な印象でした。どちらのキャラがいい悪いの話ではありませんが、せっかくの開会式なのですから、スピーチの内容はともかく、列席している外国人たちの気分を盛り上げるような華のある演出がもっとあってもいいのではないか。なぜなら、ツーリズム産業は万国共通、エンターテインメントビジネスだからです。海外のバイヤーやメディア関係者の多くは、B to Bの商談会といえども、ワクワクするような旅行資源を発掘してやろうと意気込む、基本ノリのいいキャラの持ち主たちです。彼らの期待に応えるべく、コストをかけなくてもやれることはあるように思います。要はセンスの問題です。

こんなことを思うのも、海外のトラベルマートをぼくは何度か視察してきたからです。特にヨーロッパ各都市で開催されるトラベルマートのお祭り騒ぎのようなにぎわいを知っているだけに、日本のトラベルマートは物足りないと思わざるを得ないのです。「観光立国」としての歴史と蓄積がヨーロッパとは違うのですから、新参者の日本とかの地を比較するもの言いに無理があることは承知ですが、そもそも会場となった横浜市民は、わが街でトラベルマートが開催されていたことをどれだけ知っていたのでしょうか(この意味を主催者が理解しているかどうかは大事だと思います)。ヨーロッパでは、トラベルマートは開催地を挙げたイベントであり、市民を巻き込んで海外から来た旅行関係者を歓待する光景が見られることを思うと、残念に思ってしまうのです。こちらは認識レベルの問題です。

もうひとつ気になったのは、海外バイヤー席がなくなったこと。商談というのは事前にアポ入れして行なうものですから、とくに支障はないのでしょうが、第三者には特定のバイヤーがどこにいるのかわからない。日本のセラーにとって受身の商談しかできないのでは、もったいない気がします。バイヤー席があれば、アポの入っていない時間帯を見計らって積極的にアプローチすることができるからです。

その点についてある海外バイヤーの知り合いに聞いたところ、必ずしもセラーに多く会えば会うほど商談が成立するというものでもないらしく、お互いに求めるものをある程度事前にすり合わせておかなければ効果がないとのこと。来日する前に、日本のセラーとどれだけ情報を共有できているかが鍵だと彼らはいいます。

だとしたら、出展者同士が情報交換できるようなマッチングの場を事前にネット上に提供するサービスがあってもいいのではないでしょうか。つまり、リアルな商談会を前提としたB to Bのためのプラットフォームを用意することが求められているのでないか。

以前からウェイボーのようなB to C向けの情報発信の重要性について指摘してきましたが、トラベルマートのような業界関係者との商談会の場にいると、やはり大事なのはB to Bの情報交流をもっと活性化することがインバウンド促進にとって重要だと実感します。相手国の市場の成熟度にもよりますが、消費者向けの情報に力を入れるより、海外の業界関係者に情報の優位性を与えてこそ、ビジネスは動き出すものだからです。この点については、今後もっと具体的な提案を今後してみたいと思います。

次回は、トラベルマートに出展していたアジアからの訪日旅行市場に特化した業界団体として知られるアジアインバウンド観光振興会(AISO)の総会で聞いた生々しい報告を中心に2013年のインバウンドの展望について紹介したいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2012-12-03 13:31 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 07月 31日

12回 日本情報の窓口=ウェイボーは肩の力を抜いて始めよう

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先ごろ発表された日本政府観光局(以下JNTO)の2012年上半期の訪日外客統計は、国別の浮き沈みはあるものの、インバウンド市場が震災前の水準にほぼ回復したことを告げています。一方、近ごろの日中関係を見ていると、尖閣をめぐる応酬で日中国交正常化40周年記念どころではない雲行きです。

いつの時代もそうであるように、次元の異なる現象が同時多発的に起きていて、市場にさまざまな影響を与えるものです。

中国版ツイッター=ウェイボーに見られるような、日中の民間レベルに生まれた新しい交流の諸相も注目すべきひとつの動向です。

中国のソーシャルメディアであるウェイボーについては、中国に進出した日本企業はすでに当たり前のように販促ツールとして活用。訪日旅行市場を活性化したい全国の自治体や関係者が次々と公式アカウントを取得し、情報発信を始めています。

一方、中国政府によるメディア管理のなりふりかまわぬ乱暴さや、何かにつけて日本を攻撃したくてたまらない輩による炎上の不安、そして何より中国語による運用というハードルの高さから、ウェイボーの取り組みに尻込みするケースも多いようです。

それでも、これまで多くのウェイボーの運営担当者に話を聞いてきた経験からいうと、「そんなに怖れることはない。もっと肩の力を抜いて始めませんか」と思います。

今回は7月上旬に北京でお会いした訪日プロモーションの最前線にいるひとりのウェイボー運営担当者の話をお伝えします。

※ウェイボーについてもっと知りたい方は、拙稿「中国版ツイッター微博の底力」(ダイヤモンド・オンライン)をご参照ください。
1)ユーザー数は3億人超! ウェイボー(中国版ツイッター)は、なぜこれほどまでに加熱しているのか?
2)AKB前田敦子の卒業宣言への反応は? 中国人は日本について何をつぶやいているのか。
3)ウェイボーはビジネスに使えるのか? 資生堂、JALなど先行企業に学ぶ意外な活用法

ウェイボーで訪日旅客のフォトコンテスト実施

話を聞いたのは、JNTO北京事務所の佐藤仁さんです。
以前このコラムでも少し触れましたが、同事務所では2011年からウェイボーに取り組んでいます。7月現在、フォロワー数は約4万30000人。4月末で約3万3000人だったことから、この3ヵ月で1万人と着実に増えています。
数だけ比べてもあまり意味がないですが、北京より市場規模が大きいとされる上海事務所のフォロワー数が約2万8000人。
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日本政府観光局北京事務所のウェイボー

訪日旅行に関心のある中国の人たちにとって公式の情報窓口であるJNTO北京事務所では、これまでどんな独自の取り組みをしてきたのでしょうか。

――今年に入ってウェイボーを使ったいくつかのキャンペーンを行ったそうですね。

「1月から3月末までの期間、実際に訪日旅行に行った人からウェイボー上にさまざまな日本の情報を発信してもらったところ、約6万件が寄せられました。情報を寄せてくださった方の中から5名にiPad2をプレゼントしました(「春游日本」企画)。同時に日本で撮影した写真を投稿してもらいフォトコンテストを実施したところ、4200枚の応募がありました。その写真をウェイボー上で人気投票してもらい、受賞作となったのが以下の刺身盛りの写真です」(「东瀛纵览摄影大赛」企画)。
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フォトコンテスト受賞作品

――こうした企画をローコストで手軽に実施できるところがウェイボーの魅力ですね。実際にどんな投稿があったのですか。

「我々では普段気がつかないような内容も多かったです。たとえば、京都のレンタル着物はどこでいくらで借りられるか。着物を着て街を歩いたら、みんなから写真を撮られてうれしかったとか。
三鷹の森ジブリ美術館のチケット予約はローソンでできるから、日本にいる知人に頼むといいとか」。

――中国客にとって何が貴重な情報なのか、投稿を見ていると彼らのニーズに対する理解が深まりそうですね。

「ウェイボーにはアンケート機能もあるので、どんな賞品がほしいかについてもフォロワーの声で決めました。こうしたやりとりは、中国の一般の人たちがいま何を見ているかを知る手がかりになります。我々観光局としても今後、何をプロモーションしていけばいいのかを見極めるうえで参考になります。

たとえば、訪日キャンペーンのキャッチコピーをどうするか、PRのヴィジュアルは何が好まれるか。打ち出すべき方向性を一般消費者の生の声を参考に練り上げていくことができると思います。今後も継続的に同様のウェイボーを活用した情報拡散キャンペーンを続けていくつもりです」。

ウェイボーの取り組みに至るまで

北京事務所がこのようなウェイボーを使ったプロモーションを始めるまでには、いくつかのプロセスがあったようです。佐藤さんはJNTO香港事務所を経て2007年から北京事務所へ赴任したのですが、当時からすでに成熟していた香港の旅行マーケットに比べ、北京の市場は相当遅れていると感じたといいます。

彼によると、中国でJNTO事務所のある香港(華南)、上海(江南)、北京(華北)の3つのマーケットの違いは以下のように表現されることになります。(ここでは香港ではなく、広東省について語ってくれています)。

●成熟した香港市場の影響が強い――広東省
「華僑の多い土地柄で、海外出国に抵抗がなく、最も開けた市場。旅行や遊興費に金をかける気質。旅行市場として先行している香港市場の旅行商品情報が常に入ってくるため、新しいルートや商品が生まれやすい」

●市場は大きいが、競争も激しい――上海
「市場規模は最大だが、訪日旅行に関して金銭感覚は渋い。旅行業界も発達しているが、価格競争が熾烈で、新しい旅行商品が次々に生まれるもののすぐに消えていく傾向あり」

●保守的でまだ団体が主流――北京
「消費者が保守的で、いまだに訪日旅行の7割は団体のゴールデンルートが現状。旅行業界も新規開拓の意欲が他地域と比べ低く、新しい商品を定着させるのが難しい」

(※これらはあくまで、市場特性を地域別にトータルに捉えた分析です。格差の激しい中国社会に出現した富裕層市場については、地域に縛られないまったく別個の市場として存在しますが、ここでは触れていません)

こうしたことから、北京事務所のミッションは、保守的な北京の訪日旅行市場をいかに成熟させるかでした。

旅行先がいまだにゴールデンルートと北海道だけというのでは、数だけ増やしても現地は混み合うだけ。安さが売りの商品だけでは、地元は潤いません。旅行ルートの地方への分散化、高品質化が課題です。とはいえ、2000年代のプロモーションはB to Bが基本でした。
まずは旅行業界の人たちに訪日市場の多様性を理解してもらうことに注力するほかなかったといえます。

転機を迎えたのは、08年の正月映画『非誠勿擾』のヒットからでした。

「おそらく初めて中国の消費者が主導的に、自分からここに行きたいという動きが生まれた」(佐藤さん)といいます。その後、中国で北海道ブームが生まれ、ツアー訪問地として定番化されたのはご存知のとおりです。

こうして北京事務所でも、一般消費者を意識したプロモーションが始まります。

しかし、ウェイボーの登場以前は、その手法は王道ともいえる、マスコミや旅行業界のキーパーソンを日本に招聘し、メディアやネットを使って一般消費者にアピールしてもらうことが中心でした。

昨年3月の東日本大震災後、JNTOはビジット・ジャパン緊急対応事業として5~6月にかけて約100名の関係者を招聘し、日本の状況を中国人目線で伝えてもらうよう精力的に働きかけています。こうした素早い対応がその後の訪日客回復につながっていったことは大いに賞賛すべきです。と同時に、ウェイボーの存在が背後で大きな役割を果たしていたことに多くの関係者が気づくことになります。

「口コミ大国」という市場特性を活用しよう

同じ頃、北京事務所でのウェイボーの取り組みが始まっています。

――ウェイボーを始めるにあたってどんな経緯があったのですか。

「北京事務所では、新浪微博の公式アカウント自体は、2010年春に取得していたものの、マンパワーの問題もあり、10年当時はほとんど取り組みができていませんでした。
その後、あっという間にウェイボーのユーザーが1億人を超えた(2010年末頃。2012年7月現在3億といわれる)といわれるようになり、すごいメディアに成長しているなと実感しました。そこで、遅ればせながら11年初夏に運営を始めたのです」。

――最初からフォロワー数がすぐに増えたわけではないでしょう。現在につながるきっかけは何かあったのですか。

「昨年6月、北京国際旅游博覧会(BITE2011)の会場で、ウェイボーを使ってフォロワーの皆さんのインタビューにリアルタイムで答えるという1時間限定のイベントがありました。

まだ震災の影響が色濃い時期で、『北海道に行きたいけど、震災の影響はないだろうか?』といった生々しい質問に対し、会場からチャット方式で応対するというものでしたが、このイベントの反響が大きかった。フォロワー数を獲得していくきっかけになったと思います」。

実は、このイベントはウェイボー運用会社の新浪微博の働きかけで実現したといいます。2009年、中国ではフェイスブックやツイッターといった欧米系ソーシャルメディアがアクセス不能となり、それに代わるように複数のウェイボー運営会社が立ち上がりました。

その最大手が新浪微博ですが、各社はしのぎを削って大手企業や著名人の公式アカウントの取り込みのため営業攻勢をかけていました。なかでも海外の有名企業や芸能人を取り込み、フォロワー数を獲得させることは、彼らの当時の市場拡大戦略にとって正攻法の営業手法でした。海外の政府観光局も、彼らから見ればブランド価値があったと考えられます。

ウェイボーは確かに政府に管理されたメディアに違いありませんが、いつでも日本を目の敵にしているわけではない。運営会社は日々、市場原理に基づくサービス合戦を繰り広げているのです。だから、JNTOのフォロワー獲得を熱心にサポートしてくれたのです。

そもそもウェイボーを運営する目的は、なるべく多くの人たちに日々発信する情報の断片を拾ってもらうことで、情報元のサイトやブログに誘導し、ビジネスにつなげていくことにあります。

興味深いのは、その情報がフォロワーたちに有用で面白いと判断されると、次々と転載されていくことです。

誰もが予測不能なまま、どこまでも情報が拡散していくのがウェイボーの醍醐味です。
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日本政府観光局中国語簡体字ホームページ※同事務所のウェイボーの目的も、ひとまずこのサイトに誘導すること。

こうした中国特有のソーシャルメディア事情をふまえ、北京事務所で立案されたのが、「口コミ大国という市場特性を活用しよう」という戦略でした。
実際に日本を訪れた人たちにアプローチすれば、彼らが広告塔になってウェイボー等を通じて日本を宣伝してくれるはずだ、というものです。

でも、炎上したらどうしよう?

震災という大ピンチを迎えた訪日旅行市場にとって、ウェイボーという恰好のメディアを活用しない手はない。その一方で、炎上したらどうしよう? そんな懸念もよぎります。今日の中国社会において「日本」は常に標的とされる存在。誰もが気になるところです。

――以前、日本旅行に行ったある中国人女性が放射能汚染のため不妊症になったというデマが中国のネット上で一時盛り上がりましたね。

「友人の友人が……というお決まりのストーリーですね。ウェイボー上では『そいつが浴びたという測定値と不妊症の因果関係を証明してくれる優秀な病院を紹介してほしい』といった返しも見られました。
デマをジョークで切り返してくれる冷静さが中国のネットにあることを発見したとき、ホッとしたものです。

この1年ウェイボーの運営を担当してきて実感したのは、こうしたさまざまな嫌がらせから守ってくれるのがファンの人たちだということでした。

実は、私も炎上したときの管理をどうするべきか、とずっと考えていました。でも、心配してばかりいても始まらない。私の書き込む中国語の間違いも含めて、みんなが温かく見守ってくれる。彼らは日本に関心があり、我々の情報発信を好意的に見ようとしてくれているから、たとえ反日的なコメントが出ても、スルーしてくれるし、逆に気にするなと励ましてくれる。だから、そんなに悩む必要はない。いまはそう思っています」。

中国ではフォロワーのことを「ファン(粉丝)」と呼ぶように、JNTOのフォロワーは文字通り「日本ファン」を意味するといっていいでしょう。そんな彼らが自分たちの大切にしているコミュニケーション空間を荒らされたくないと考えるのは当然です。

こうしてみると、ウェイボーというソーシャルメディアは、社会に対する“開かれ方”が日本や欧米と違って独特というか、ある意味中国に見られる「内に優しく外に厳しい」個人と社会の関係に似ているのかもしれません。

一方、マーケティング用語で「ファンを囲い込め」といいますが、運営側の思惑とは別に、ファンたちによって勝手にどんどん情報が「転載」され、外の世界につながっていく面があります。ときにお調子ノリが過ぎると思うときもありますが、それを支えているのもやはり“ファン意識”でつながったコミュニティ空間であるわけです。

それだけに、彼らの“ファン意識”の取り扱いには神経を遣う必要がありそうです。その点について、佐藤さんは「返しが大事」といいます。

発信した情報に対するファンからのリアクションに対して、誠意をもって回答する姿勢を見せることが大切だというのです。

もっとも「フォロワー数が3万人を超えたあたりから、一つひとつ丁寧に返すことができなくなった」とも。ある数を超えた段階で、それまで作り上げていたネット上のパーソナルな人格をハンドリングしていくのが難しくなる面が出てくるというのは、多くのウェイボー関係者が共通して語っていることです。

同事務所のウェイボーの運営はこれまで佐藤さんがほぼおひとりで担当していたそうです。

日々発信する情報は、JNTOの賛助会員(ホテルや観光関連のサプライヤー)が提供するPRニュースを中心に、日本のテレビを見ながら気づいたこと、ヤフーのヘッドラインのニュースなどを参考にしながら、出社後、昼休み、退社前と1日3本を目標に情報発信することに努めてきたといいます。

「観光PRはある意味、どんな切り口でもいい。発信した情報がどう転載されるかを想定しながらネタを選んでいるところはありますが、PRばかりでは飽きられるし、何がフォロワーの心をつかむか、こればかりは何とも言えません。要は日本に関心を持ってもらうための情報の窓口であればいい。幸いなことに、観光情報は中国でも規制がないのですから」。

ウェイボーはそれ自体ビジネスに直結する万能のツールではありません。

日本情報を愛好するファンたちが訪日旅行に行ける経済力を有する階層とそのまま重なるとは限らないという中国社会のシビアな現実があるのも確かです。ひとたび政治的なコンフリクトが起これば、当局によって情報を即座に遮断されてしまうのも、この国の日常です。

それでも、ウェイボーはいまや「口コミ大国」である中国に定着した社会インフラのひとつであるといわれています。

佐藤さんの話を聞いていると、ウェイボーの取り組みを継続することによって中国社会に対して一定の影響力をもちうる可能性も感じられます。

「13億の市場とつながろう」などと大風呂敷を広げる必要はありません。ビジネスツールのひとつと割り切りつつ、肩の力を抜いてウェイボーを始めてみることをおすすめします。

http://www.yamatogokoro.jp/column/column_84.html
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by sanyo-kansatu | 2012-07-31 12:35 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 05月 10日

「中国版ツイッター微博の底力」(ダイヤモンド・オンライン)

ダイヤモンド・オンラインで「中国版ツイッター微博の底力」というコラムを書きました。


1)ユーザー数は3億人超! ウェイボー(中国版ツイッター)は、なぜこれほどまでに加熱しているのか?

2)AKB前田敦子の卒業宣言への反応は? 中国人は日本について何をつぶやいているのか。

3)ウェイボーはビジネスに使えるのか? 資生堂、JALなど先行企業に学ぶ意外な活用法
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by sanyo-kansatu | 2012-05-10 12:54 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2012年 05月 07日

1回 震災は点検の絶好のチャンス!

最初に質問です。中国からの訪日団体ツアーが初めて来日したのは、いつのことだったかご存知でしょうか。

中国人団体観光ビザが解禁された2000年9月のことです。それから10年という節目を迎え、さらなる飛躍に期待をふくらませたインバウンド関係者をどん底に突き落としたのが、昨年9月の尖閣諸島沖漁船衝突事件であり、3.11東日本大震災でした。

この10年間、日本と中国を往来しながらインバウンドの現場を訪ね歩いてきたぼくも、まるでドラマの世界にでもいるような衝撃と徒労感を味わうことになりました。

しかし、だからこそ思うことがあります。潮が引くようにツアー客が去ったいまこそ、中国インバウンドの中身を点検するための絶好のチャンスではないか。

いったいこれまで我々は何をやってきたのだろうか。どんな目標を掲げ、成果はあったのか。見直すべきことはないのか。もちろん多くの方がそう自問されてきたことと思いますが、これらの問いにどれだけ明確に答えることができるでしょうか。

この連載では、中国インバウンドのさまざまな現場を、中国側、日本側の実情を対比しながら点検していきたいと思います。少々辛口ですが、前向きに意見していくつもりです。

日本の観光案内は読まれているか
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ここ数年たくさんの中国語観光パンフレットがつくられたのだが……

第1回は、中国語の観光案内パンフレットの点検です。日本政府観光局をはじめ全国の自治体、商工会議所、観光協会、小売店、商店街、さらには出版社やコンサルティング会社などが独自に広告クライアントを集めた小冊子や地図、フリーペーパーが、この数年間膨大な量発行されました。当初は日本人向けに作られた地図を中国語に翻訳しただけのものが多かったのですが、最近では外客向けにオリジナルに作られたものも増えています。
はたして、これらは実際の中国人訪日客に読まれているのでしょうか?そもそも本当に彼らの手に渡っているのか?

結論から言うと、残念なことですが、ほとんど読まれていません。
なぜなのか。

ぼくの事務所では中国の旅行ガイドブックを制作している関係で、多くの現地旅行会社と提携しています。この10年で彼らのビジネスの比重が、インバウンド(日本人の訪中旅行)からアウトバウンド(中国人の訪日旅行)へと急転換していくプロセスを見てきました。中国の旅行業界で日本市場のビジネスモデルがインからアウトに大きくシフトしたのは、地域によって時間差がありますが、概ね2007年頃だったのではないかと思います。

そんなわけで、ぼくはよく中国の旅行会社の店舗を訪ねるのですが、カウンターに日本のパンフレットが置かれていることはほとんどありません。そういうと、「そんなはずはない。うちでは各社に置いてもらう約束で毎回送っている」と反論する方がいるかもしれません。でも、実態は違います。ある旅行会社のスタッフがこう打ち明けてくれました。
「数年前より日本各地から大量に中国語資料が届くようになりました。最初はありがたかったのですが、いまでは多すぎて置き場所がないほどです。そのため、一定期間を過ぎると使いようのない山のような資料を処分している」
と申し訳なさそうに言うのです。

なぜこうなってしまうのでしょうか。以下の3つの理由が考えられます。
①中国の旅行会社ではカウンター販売は一般的でない
②日本のパンフレットはセールスツールとして使えない
③中国人は情報誌の読み方を知らない

未成熟なのにオンライン旅行50%超の市場

日本ではレジャーシーズンが近づくと旅行会社のカウンターに消費者が並ぶ光景が見られますが、中国ではいわゆるカウンター販売はそれほど一般的ではありません。ツアー商品の売られ方が日本とは同じではないのです。この認識は重要です。それは日中における旅行市場の発展のプロセスが異なるためですが、中国の消費者は旅行会社がツアー商品の中身を懇切丁寧に説明してくれるなどと期待していません。中国で海外旅行が一般化したのはたかだか10年、旅行会社のスタッフは海外事情に精通しておらず、単なる販売員です。インからアウトへの転換に人材育成が追いついていないのです。

その一方で、オンライン旅行販売率は50%を超える勢いです。後の回で説明しますが、中国では消費者、業界ともに未成熟なままオンライン化が進んだことで、かえってツアー商品の多様化、差別化を阻んでいる面があります。商品の中身が豊かになる前に、不条理ともいえる料金競争に突入してしまったのも、こうした事情に起因しています。

紙媒体とネットを組み合わせた多様なチャネルを使って旅行情報を消費者が手に入れるという日本で日常化した光景を中国で期待するのは無理というものです。せっかく作った中国語の観光案内が旅行会社のスタッフから中国の消費者の手に直接渡ることがほとんどないのはそのためです。せめてセールスツールとして使いやすければ、中国の旅行会社のスタッフも活用しない手はないと考えるのでしょうが、実態はそうではない。日本側の作る観光パンフレットの多くは、日本の消費者(中国のではない!)の嗜好に沿った実用ガイドに偏っています。これでは旅行先を決める前の段階で使えない。その豊富な情報を享受できるほど、大半の中国の消費者は日本の事情を理解しているわけではないからです。

中国人は情報誌の読み方を知らない

さらに致命的なのは、そもそも中国の消費者が日本の過剰に洗練された情報誌の読み方を知らないという事情があります。限られた2次元のスペースにたくさんの写真と細かい情報がぎっしり書き込まれた、たとえば「東京ウォーカー」や「るるぶ情報版」のような情報誌を読んだことがないのです。だから、仮に中国客が日本のパンフレットを手にしても、どこからどう読めばいいのかわからない。掲載店舗のありかを探すために別ページにある地図を参照するという情報誌の基本的な約束事を知らないのです。しかし、彼らはネット通販の口コミサイトなら使える。ピンポイントの店舗や商品情報はわかるのです。
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中国で今人気の旅行ガイドブック

それは端的にいうと、彼らが「エイビーロード」を知らないままネット時代を迎えたことを意味します。このすでに休刊した情報誌の存在は、多様な商品の中身を詳細に比較検討できることで日本の海外旅行シーンの成熟化に大きな役割を果たしました。一方、中国の消費者はこうした比較検討メディアの時代を経験することなく、ネット時代に突入しました。おかげで我々の知っている情報化のプロセスがすっぽり抜け落ちているのです。
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「食べる」「遊ぶ」「買う」に分かれた構成だが、写真が大きく、文字は少ない。このくらいの感じがいいらしい

そのことは、中国の書店で売られる旅行ガイドブックの中身を点検するとよくわかります。ここ数年、ぼくは中国の海外旅行書籍の変遷をつぶさに眺めてきましたが、現状では(あくまで日本との比較ですが)驚くほど稚拙な内容といわざるを得ません。ある出版社の担当者に中国のガイドブックを見せたことがあるのですが、彼は「トータルなデザインもそうだし、実用書としての機能性や体裁の不備など、真っ赤になるくらい赤字を入れたくなる」と感じたようです。確かにプロの目から見れば、日本の30年前の表現力です。それが中国の消費者の目線であることを我々は理解しなければならないのです。

情報の絞込みと手渡す手間をかける

ではどうすればいいのでしょうか?

まずはパンフレットの中身を総点検しなければならないと思います。そこに書かれた情報が使えるかどうかは、利用者がどういう観光形態や行動パターンを取るかによります。初来日の団体ツアー客に日本の情報誌を手渡しても活用できません。彼らに見合った情報の絞込みが必要です。

そのためには、中国の旅行会社にヒアリングがもっと必要です。彼らがほしいのは、どんな情報なのか。もしセールスツールにするなら、どんな内容のものが有効なのか。

ある北京の旅行会社のスタッフは、「文字は少なくていいので、写真を大きくしてほしい」と言います。「中国のお客さんは日本のことを何も知らないので、地図を見せてもよくわからない。ひと目で見て、ああ行きたいと思えるような美しく印象的な写真が大きく載っていると、彼らの目を引くし、セールスにも使いやすい」からです。

我々が中国のガイドブックを見たときに感じる「こんなもので満足できるのだろうか?」という"ゆるさ"を逆に参考にすべきでしょう。求められているのは、多彩で細かい実用情報ではなく、彼らの心をつかむ厳選されたキラーコンテンツなのです。

我々は紙媒体を作ると、つい何かを成し遂げたような気になりがちですが、それがきちんとターゲットの手に届くかどうかも点検しなければなりません。現状のパンフレットのままでは旅行会社経由でツアー客の手に届かないのだとすれば、旅行会社のニーズに沿ったセールスツール用の内容に作り変えるべきでしょう。旅行会社のスタッフに何らかのインセンティブを与えるようなしくみも必要かもしれません。あくまで消費者に届けたいなら、出発前のツアー客に空港で直接手渡しするという算段も考えるべきでしょう。そこまで手間とコストをかけないと、紙媒体を作る費用対効果は望めないのです。

これらのパンフレットの多くは、ホテルや小売店などインバウンド関係者の捻出する広告料や自治体の予算から発行されているはずです。であればこそ「来てもらいたい」側と現在の中国側のニーズがどこまでマッチしているか念入りな検討が必要です。世間でよくいう「中国の市場を理解する」とは、こうした現場の具体的な点検をふまえて初めていえることなのです。次回は別の現場に移ります。(2011年8月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_60.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 16:30 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2011年 11月 28日

日本の景観は値踏みされている(トラベルマート2011 その4)

トラベルマートの初日を終え、その日は横浜に泊まることになったのですが、パシフィコ横浜の外に広がるみなとみらいと横浜港の夜景がとてもきれいでした。
b0235153_21164341.jpg観覧車の前で記念撮影に興じる外国人バイヤーの姿も見られます。その瞬間、ぼくはハッとしました。昼間繰り広げられていたインバウンド商談会では、ぼくの目の前にある横浜の夜景もそうですが、自然景観から食、伝統文化、都市の魅力、サブカルチャーに至るまで、あらゆる日本のバリューが外国人の目によって値踏みされているという現実にあらためて気づいてしまったからでした。

観光庁長官もアピールしたように、横浜の夜景は悪くないとぼくも思いますが、外国人記者やバイヤーの頭の中では、他の国々の都市の夜景と比較され(たとえば、シドニーや香港、シンガポールと比べるとどうかしら?)、同時にコスト面や交通の利便性、付帯するショッピングやアミューズメントの質などの観点から検討され、横浜の優位性は何なのか、自国の消費者の嗜好や特性を勘案しながら品定めされているのです。

そういう目で日本の景観が見られていると考えると、インバウンドってなんて残酷な世界なのだろうと思います。地元の人間にしてみれば、自分の愛する街のよさは自分がいちばん知っている。よその土地との比較なんてどうでもいい話でしょう。ところが、観光客は「あそこはよかった、ここは悪かった」と無邪気に評定し、すべてが比較の対象となるのです。それは自分が観光客になったとき、無意識のうちにしていることでもあるわけです。

ただし、その比較検討の基準や観点はそれぞれの国によって違いますから、絶対的な評価はありえないともいえる。ある国と比べて優位性となることが、他の国からみればかえって弱点になることもある。外客誘致を始めるということは、そんな相対的な価値の比較の世界に自らを投げ込むことにほかならないことをある程度覚悟しなければなりません。

トラベルマートが招請するのは、ビジット・ジャパン・キャンペーン事業の対象15市場(韓国、台湾、中国、香港、タイ、シンガポール、インド、マレーシア、米国、カナダ、フランス、英国、ドイツ、ロシア、オーストラリア)のバイヤーです。その業者の選定と承認は日本政府観光局が行っています。

本ブログでは行きがかり上、中国インバウンドの動向を中心に追いかけていますが、日本の自治体やサプライヤーにとっては、何も中国ばかりが商談相手ではありません。自分に見合った相手探しをすることが本来あるべき姿です。相手は常に我々のバリューを品定めしているのですから、こちらも受身ではなく、相手を知り、我々の価値をどう認めてくれるのか、探っていく姿勢が必要でしょう。
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by sanyo-kansatu | 2011-11-28 21:17 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2011年 11月 28日

マルチビザ発給後の沖縄現地事情

今回のトラベルマートでは、沖縄のインバウンド関係者と面会することができました。今年7月1日より沖縄1泊が条件という変則的なルールで始まった中国人の個人観光マルチビザ(3年間有効)発給後の沖縄への中国人観光客の動向が気になるところでしたから、実際に現地で何が起きているのか、担当者に直接話を聞いてみたかったのです。
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中国の旅行会社向けに沖縄県が作った個人観光マルチビザ発給の広報資料


以下が沖縄のインバウンド関係者とのやりとりです。

――7月以降中国の個人ビザ客は増えていますか?
「これについては公式の見解と本音の部分の話があります。2009年7月に始まった中国人の個人観光ビザ発給は昨年の条件緩和をへて今年のマルチビザ発給に至るわけですが、沖縄に来る個人ビザ客は前年度の20倍以上になりました。これだけ聞けば、順調に伸びているといえる。しかし、いかんせん母数が小さい。昨年まで毎月50名程度だったのが、1000名を超えるようになったという話です。本音でいえば、ビザ効果でもっと爆発的に増えるだろうと思っていたが、それほどでもなかったといえます」

――7月末に海南航空の北京・那覇線(週2便)が新規就航したものの、傘下のCAISSA社による独占販売で、いきなり沖縄4泊5日4000元という激安ツアーが登場。中国側の関係者からも、沖縄が激安観光地に位置付けられることを懸念する声がありました(やまとごころ.jp)「中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである【前編】」沖縄側の反応はどうですか?

「我々もなぜそんなに安く売るのかとCAISSA社に申し入れましたが、聞き入れられませんでした。当初は同社を支援するつもりだったのですが、やめました。ただ来年1月から中国国際航空の北京・那覇線(週2便)が就航するため、市場が開放されることを期待しています。また上海・那覇線はすでに週6便飛んでいます。

沖縄はリピーターに支えられているという統計があります。国内客の80%以上はリピーター。一方現在中国客の大半は団体ツアーです。彼らの占めるシェアは全体から見ればまだとても小さいのですが、今後リピーターになってもらうことが大事だと考えています」

――ただせっかくマルチビザ発給の条件というインセンティブを得たのに、激安ツアーしか来ないというのでは、東京・大阪ゴールデンルートと同じ轍をふんでしまったのではないかという気もしますが……。

「外客受け入れという観点でいうと、沖縄には中国客の前に台湾客の問題があったんです。かつて台湾の方にとって初めての海外団体ツアーは沖縄という位置づけで、やはり激安だった。それを変えていくためにいろんな手を講じてきた経緯があるんです。まず『台北ウォーカー』などの若者向け情報誌で沖縄のビーチリゾートとしての側面をPRしました。台湾の方が沖縄でレンタカーを利用してもらうプランも打ち出しました。団体ではなく、個人客を増やしたかったのです。現在、台湾客の個人旅行は一般化しています。中国客にも今後同じような手を打っていくことになると思います」
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「アジアと日本文化が融合したリゾートアイランド沖縄」と題された沖縄県の映画やテレビドラマの誘致を図る広報資料。2011年は日中台合作のテレビドラマ『陽光天使』のロケが沖縄で行なわれたばかり


――なるほど、沖縄はすでにアジア客受け入れの初期段階に起こる苦い経験を、台湾客を通して知っているわけですね。アジアインバウンド市場は、団体客中心の時代から個人客へというプロセスをたどるのが常ですが、沖縄以外の自治体や観光業者をみていると、台湾からのツアーが今日の中国ツアーと同じように問題とされていた1980~90年代の事情を知っている人は少ないようです。当時は観光立国としてインバウンド振興を進めるという時代ではなかったからでしょうが、やはり沖縄は外客受け入れの難しさをよく知っているという意味でも、インバウンド先進県ですね。

「沖縄には観光しかないですからね。それでずっとやってきたのです。しかし、いま我々は強い危機感を持っています。内地からの旅行者が減少しているからです。

今回の個人マルチビザをめぐっても、いくつかの問題があります。沖縄1泊という条件も、実際どこまで守られているのか。関空経由で沖縄に寄って帰るツアーもありますが、ビザ発給時点で沖縄に立ち寄るスケジュールを組んでいたとしても、本当にその人が沖縄に立ち寄ったのかチェックする公的機関はないからです」

――えっ、私は勘違いしていました。今回の条件では最初の入国地を沖縄にしなければならないのでは?

「違います。1泊立ち寄るだけでいいんです。今回のマルチビザ発給は政府の急ごしらえの施策で、中国にある日本領事館では膨大な発給数を処理するだけでも大変な作業、対応に苦慮していると聞きます。近い将来、個人マルチビザの沖縄1泊という条件ははずされることでしょう。つまり、全国に解禁される。沖縄はそれまでが勝負といえます」

沖縄のインバウンド関係者の話からもわかるように、沖縄に立ち寄ったかどうかチェックを云々というような問題が起こること自体、今回のマルチビザ発給がいかに「急ごしらえ」の施策であったかを物語っています。

今回の施策をめぐって、当初中国側の一部から「どうして日本の地域振興のために沖縄に1泊しなければならないのか」というイチャモンがあったそうです。彼らにすれば、もっともな話ではないでしょうか。こうした中国側の受けとめ方と、かの国の富裕層の沖縄に対する認識については、以前「北京ラビオン社周社長の語る沖縄マルチビザ発給の訪日促進効果について」で書いています。

これは別の機会に考えるつもりですが、こうした「急ごしらえ」の施策も、日本のインバウンド市場の法整備に関わる政策担当者の圧倒的な経験の不足が背景にあると思います。もっとも、経験がないのは政策担当者に限った話ではなく、日本の大半の人たちがアジアインバウンドの時代を経験するのは初めてのことですから、無理もないといえる。そういう意味でも、沖縄の経験は貴重です。これからももっと耳を傾けていきたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2011-11-28 21:11 | “参与観察”日誌 | Comments(0)