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2013年 07月 16日

「東南アジア客急増 中間層が拡大 円安も追い風」【2013年上半期②外客動向】

2013年に入り、新聞各紙は訪日外国人観光客が戻ってきたことを報じています。なかでも東南アジア客の動向に注目が集まっています。

「観光地 戻る外国客」(読売新聞2013年5月2日)はこう報じています。

「東日本大震災の影響で一時減った外国人観光客が戻ってきた。背景には、安部政権の経済政策『アベノミクス』による円安や、原発事故に伴う放射能の風評被害が収まってきたことなどがあるとみられる。商機とみて受け入れ態勢を強化する施設もある」

同記事では「円相場を見て5日前に(訪日を)決めた」という浅草を訪れたタイ人客に話を聞き、「アジアを中心に日本旅行は『お得だ』という感覚が広まっている。数か月前に予約が決まるツアー客中心の欧米も延びてきそうだ」(観光庁国際交流推進課)のコメントを紹介。「富士山河口湖町では4月上旬、英語・中国語表記だったガイドマップのタイ語版を2万4000部作成」したこと、「新横浜ラーメン博物館(横浜市港北区)も、今年1~3月の外国人客数は前年同期から6割増」「海外で広がる日本流ラーメンブームの影響もあるとみられる」と分析しています。

5月下旬になると、訪日客の主役は東南アジア客だとの報道が急増します。

「首都圏観光、東南アが主役」(日本経済新聞2013年5月25日)

「外国人観光客が急増している。日本政府観光局によると4月の訪日客数は92万人となり、単月で初めて90万人台に達した。特に伸びているのが、経済成長で所得の拡大する東南アジア。格安航空会社(LCC)の増便も追い風で、首都圏の観光地はタイなどからの観光客の姿が目立つ。東京スカイツリーや富士山といった名所ばかりでなく、銭湯やラーメンなども人気を集める」

さらに、日本政府観光局による5月の訪日外客数が発表された6月19日の翌日には、各誌が主役の来訪の動向を取り上げています。

2013年5月の訪日外客数(日本政府観光局)
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/130619_mothly.pdf

「観光 東南アジア客急増 中間層が拡大 円安も追い風」
(朝日新聞2013年6月20日)
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「東南アジアから日本を訪れる観光客が増えている。日本政府観光局が19日発表した5月の訪日外国人数では、タイ人客が昨年5月より7割近くも増えるなど、各国がのきなみ2ケタの伸びを記録。昨秋の尖閣問題をきっかけに低迷が続く中国人客の分を、カバーする勢いだ」

「円安で外国人客増 5月旅行者最多 百貨店『追い風に』」
(読売新聞2013年6月20日)

「最近の円安による割安感から外国人旅行者が増え、百貨店で免税売り上げが伸びるなど、国内経済にもプラス効果が出始めている。5月の百貨店の免税売上高はこれまでの最高水準で、百貨店業界は『業績の追い風にしたい』と期待を寄せている」

「5月の訪日客、31%増 アジアから航空便増、円安も貢献 北海道・九州にも広がる」 (日本経済新聞2013年6月20日)

「日本政府観光局が19日まとめた5月の訪日外国人数は87万5000人と前年同月比で31%増加した。2月から4ヵ月連続のプラスで、5月としては過去最高。円高の修正に加えて航空便の増加が追い風になり、地方のホテルや商業施設でもアジアの観光客が増えている」

各紙のポイントとしては、朝日が東南アジア客の急増で尖閣問題以降の中国客の減少をカバーしたこと。読売が百貨店の免税売上にアジア客が貢献していること。日経が新千歳空港の5月の国際チャーター便の前年同月比2割増や、福岡の商業施設「キャナルシティ博多」を訪れるバスの台数が増えていることなどから、大都市圏だけでなく地方へも訪日客が増えていることを指摘しています。

東南アジア客の急増をふまえ、アセアン3カ国の訪日旅行の背景を分析する記事もあります。

「ASEAN、日本食に関心 旅行先、比較対象1位は韓国」(日経MJ2013年5月1日)

「今年は日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力40周年にあたる。リクルートライフスタイルの調査によるとシンガポール、タイ、マレーシアの3カ国からの訪日旅行のきっかけは車や家電を抑えて日本食が1位だった。四季の景色や古都への満足度も高く、都市化が進むASEANの人々が高い関心を寄せている姿が浮かんだ」

この記事は、リクルートライフスタイルの観光調査研究部門、じゃらんリサーチセンターが過去3年間に訪日経験がある人を対象に実施した調査を解析したもの。その結果は以下のとおりです。

●ASEAN3カ国からの訪日旅行のきっかけ

1位 日本の食事
2位 自然や風景
3位 ライフスタイル
4位 伝統的な文化
5位 製品・電子機器
6位 日本人の気質や人柄
7位 芸術
8位 アニメや漫画
9位 建築
10位 経済・産業

●訪日旅行で同時に検討した国・地域

1位 韓国
2位 中国
3位 台湾
4位 香港・マカオ
5位 シンガポール

●訪日の満足度(非常に満足したという回答)

1位 花見、紅葉、雪景色など季節の風景を見る
2位 日本式旅館に泊まる
3位 農村風景や田園風景を見る
4位 ローカルフードを食べる
5位 海や山などの自然の景色を見る
6位 刺し身、寿司など、生ものの日本食を食べる
7位 和牛や豚肉の料理を食べる
8位 世界遺産に行く
9位 日本の城を見る
10位 アウトドアスポーツ

同記事は、上記の調査を以下の3つのポイントに整理しています。
①ASEANからの訪日旅行のきっかけは「日本製品・電子機器」を抑え「食事」が1位
②訪日旅行で同時に検討した国・地域は3カ国ともに「韓国」が1位
③日本旅行で満足したことは「季節の風景」「日本式旅館」「農村風景や田園風景」が上位

この結果は、もしかすると意外に思われたかもしれません。でも、東南アジア客が増えている背景に、日本の自然や食事、旅館など、飾ることのない素顔の日本的な要素が挙げられていることは、ちょっとうれしく思いませんか。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-16 19:31 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2013年 07月 16日

東京・大阪のホテル稼働率は震災前を大きく上回る水準に【2013年上半期①ホテル】

2013年に入り、インバウンドを取り巻く状況が変わってきたようです。今年上半期の新聞各紙から興味深い動きをピックアップしていきます。まずはホテルの動向から。
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「都市ホテルの稼働率が一段と上昇している。日本経済新聞社の調査によると、東京では4月の稼働率が9割を超すホテルが続出。円安による外国人客の増加に加え、景気回復基調で国内観光の客足も戻った。大阪でも稼働率は高水準。インターコンチネンタル大阪が5日開業するなど外資系を中心に新規開業が増えており、競争環境は今後激化する見通しだ」(日経MJ2013年6月7日)

同紙では「東京・大阪の主要都市ホテルの稼働率は震災前を大きく上回る水準に」「2013年4月の主要19ホテルの平均客室稼働率は88%と前年同月比5.7ポイント上昇」「ほぼ10年ぶりの高水準となった」「宿泊客に占める外国人比率が4~6割に達する例も目立った」としています。

以下、都内の主なホテルの①客室稼働率と②外国人比率の〔昨年4月→今年4月〕を公表しています。

京王プラザホテル ①86.7→92.8 ②60%台前半→60%台後半
ホテルニューオータニ ①61.8→72.8 ②42.7→40.1
セルリアンタワート東急ホテル ①83.4→91.5 ②53.5→56.9
ホテルオークラ東京 ①66.3→82.6 ②51.8→51.4
品川プリンスホテル ①87.6→90.7 ②21.2→23.5
ホテルメトロポリタン ①91.3→91.8 ②53.1→62.4
八重洲富士屋ホテル ①96.8→99.0 ②16.3→11.7
コートヤード・マリオット銀座東武ホテル ①92.7→95.2 ②71.7→67.8
ホテル日航東京 ①82.6→85.7 ②21.3→10.5
帝国ホテル ①79.7→87.6 ②約4割→約4割

上記のデータから、ホテルによって外国人比率がずいぶん違うこと、どのホテルがインバウンド客への取り組みに積極的かがわかります。ホテルによって欧米系とアジア系の比率が異なる場合もあります。また外国人比率が減っても稼働率は上昇しているホテルも多いことから、景気は回復基調にあるといえそうです。

「外資系高級ホテル、都内に続々 外国人富裕層つかめ」(日本経済新聞2013年6月7日)という記事もあります。

「外資系高級ホテルが東京都心で相次ぎ開業する。港区虎ノ門で建設中の超高層ビルに米ハイアット・ホテルズのブランド『アンダーズ』が日本に初進出する。千代田区大手町のオフィス街にはシンガポールの有名リゾートホテル『アマン東京』が開業する。外国人富裕層のビジネス・観光客の受け皿増加は、東京の国際化を後押しする」

他にもホテルラフォーレ東京(東京・品川)を改装し、13年12月に東京マリオットホテルとして開業予定です。

こうなると「日系ホテル、改装で対抗」となるのは必至で、日系ホテルの取り組み事例を紹介しています。

・ザ・プリンス さくらタワー東京 今秋にリニューアルオープン。ダブルベッド部屋を6割増しに
・京王プラザホテル 4億円を投じ、南館28~33階の客室を改装。Wi-Fi完備

「既存の外資系も集客策続々投入」として、外資系の事例もあります。

・マンダリン オリエンタル 東京 6月フランス料理のシェフとメニューを刷新
・シャングリ・ラ ホテル東京 箱根など近郊への日帰りツアーを拡充
・ザ・ペニンシュラ東京 京都で文化体験できる独自のプログラム

さらに「米ヒルトン 5ホテル改装 外資、日本で攻勢 外国人客増 取り込み狙う」(日本経済新聞2013年7月9日)「2013年からの3年間で100億円超を投じて日本国内のホテルを改装する。東京や大阪など5つのホテルで飲食フロアや客室を刷新する」というヒルトングループの記事もあります。

「ヒルトンは日本で『ヒルトン』ブランドのホテルを9つ展開しており、外資系の都市型高級ホテルでのブランドでは最も多い。そのうち5つの改装に集中投資する」「ヒルトンが日本で過去に例のない集中投資をするのは、外資系を中心に大都市で高級ホテルの開業が相次ぎ、競争が激しくなっているため」です。

同記事では、背景として「タイヤマレーシアのビザ要件緩和などで東南アジアからの観光客の増加が見込める。観光スポットや話題の商業施設の増加で国内各地から日本人旅行者も増えており、大都市の高級ホテルに追い風になっている」と結んでいます。

●日本でこれから開業予定の外資系ホテル

東京マリオットホテル(2013年12月)http://www.tokyo-marriott.com/
アンダーズ(14年夏) http://www.andaz.hyatt.com/ja/andaz.html
アマン東京(14年) http://luxury-collection.jp/
ヒルトン沖縄北谷(14年)
フォーシーズンホテル京都(15年)

最後に、外資系ではないですが、「星野リゾート 東京・大手町に高級旅館」(日経MJ2013年3月18日)の記事を挙げておきます。

「旅館、ホテル運営の星野リゾート(、長野県軽井沢町)は三菱地所と組み、2016年をめどに東京・大手町で高級旅館の運営に乗り出す。84の純和風客室や日本食レストランなどを備え、訪日外国人を中心にビジネスから観光まで幅広い用途の利用客を取り込むほか、日本旅館の運営手法を世界に発信。同社の認知度を高めることで、将来的には海外でのホテルの運営の受託にもつなげる」

「星野リゾート、バリ島進出」(日本経済新聞2013年6月7日)、2014年に「現地企業が建てるホテルの運営を受託」するといいます。こうした精力的な同社の動きが、この時期相次いで報じられていることも注目です。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-16 17:41 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2013年 07月 11日

22回 うれしいことに、日本はタイの海外旅行先人気ナンバーワンだそうです

タイから日本を訪れる観光客が増えています。
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日本政府観光局(JNTO)が6月19日に発表した報道資料によると、2013年5月の訪日タイ人は前年同月比62.8%増を記録。1~5月までの総数では18万1000人と前年度比52.9%増でトップの伸びです。上半期ですでに2012年の総数26万人に迫る勢いです。

タイからの訪日客の旅行手配を行なうアサヒホリディサービスの和田敏男国際旅行部長によると、「タイからの客は今年の2月頃から急増しています。5月も多かったですが、3月の花見シーズンも弊社の取扱数は倍増しました。本来、タイの旅行シーズンは旧正月のソンクラーンのある4月と10月だといわれますが、今年は前倒しで来られた方が多かったようです」(※実際、3月の訪日タイ人は前年度比70.4%増)

こうした動向をふまえ、外務省は6月下旬、タイとマレーシアの訪日観光ビザを7月1日から免除することを発表しました。昨今の円高是正にビザ免除という相乗効果で、さらなるタイ人観光客の増加が期待されています。

タイ国民に対するビザ免除(外務省)2013年6月25日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000361.html

ツアーの目玉はカニ食べ放題とショッピング!?

訪日タイ人客の旅行手配を扱うランドオペレーターの関係者は「日本はタイの海外旅行先人気ナンバーワン」と口を揃えて言います。うれしいではありませんか。彼らの2大関心事は「食事とショッピング」だそうです。

では、いったいタイ人観光客はどんな訪日旅行を楽しんでいるのでしょうか。

タイの海外旅行市場が活況を呈してきたのは2008年頃からだそうで、まだ5年しかたっていません。海外旅行ブームの初期には、どこの国でも微笑ましい珍現象が見られることがあります。タイ人の日本ツアーでも、日本人の目から見るとちょっと意外なアトラクションが目玉となっています。「富士山のふもとの温泉旅館でカニ食べ放題」です。

たとえば、タイの旅行雑誌「TRAVEL GUIDE Magazine」2012年8月号に掲載された現地の旅行会社COMPAXWORLD社のツアー募集広告にふたつのプロモーション商品が紹介されています。それぞれ3つの目玉ポイントが書かれていますが、共通するのは「温泉旅館でカニ食べ放題」と「ショッピング」です。
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①Tokyo Promotion! 4泊6日(タイ航空利用) 37900バーツ(約12万円)
■東京で満足4泊6日、ホテルは4つ星以上
■お楽しみフリーショッピング2日間(オプショナルツアーもあり)
■温泉旅館泊とカニ食べ放題

②Yokoso Hi-light 東京―京都4泊7日(タイ航空利用) 52900 バーツ(約17万円)
■東京観光とフリーショッピング1日間
■世界遺産の京都、金閣寺、清水寺観光
■温泉旅館泊とカニ食べ放題

タイから日本へのフライトは約6時間かかるので、飛行中夜をまたぐため4泊6日が基本。東京滞在型のツアー①では、都内観光は1日、2日間は自由行動なので、ショッピングがたっぷり楽しめる内容です。東京ディズニーランドに行きたい人は、オプショナルツアーで参加できます。残りの1日は、富士山観光のあと河口湖などの温泉旅館に泊まり、カニの食べ放題が付くというものです。いわゆるゴールデンルートの②でも、それは同様です。
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アサヒホリディサービス国際旅行部のタイ人スタッフ、カウィワット氏によると、「タイ人は富士山のふもとの温泉旅館に泊まって温泉にゆっくりつかり、カニの食べ放題を楽しむというのが、日本旅行の醍醐味。これだけは欠かせないと思っているんです。旅行会社のツアーパンフレットにも、よく富士山とカニが合成されているイメージ写真が多いです」。

※タイ人の訪日旅行の2大関心事の詳細は、中村の個人blog「タイ人ツアーの目玉は、温泉旅館でカニ食べ放題とショッピング!?」を参照。

タイ人が日本食を好む理由

タイ人の日本食に対するこだわりはカニだけではありません。タイには約2000軒の日本料理店があり、普段から日本食に親しんでいるからです。

「タイ人の食は保守的です。珍しいものを食べたいという欲求より、普段食べているもので、もっとおいしいものが食べたいと考えています」と語るのは、タイの事情に詳しい旅行作家の下川裕治氏です。

「だから、日本食が人気なのです。バンコクには日本食屋があふれています。吉野家はもちろん、大戸屋、やよい軒、牛角、ココイチ、王将、丸亀製麺、フィンガーハット……その多くは日本でもおなじみの外食チェーン系。もうなんでもあるといってもいい。

タイ人に『日本で何食べたい?』と聞くと、『ラーメン』と答えたりします。その意味は、タイで食べたことのあるラーメンを日本に行って食べてみたい。そのほうがずっとおいしいに決まっているから。彼らはそう考えているのです」。

タイ人の日本のフルーツ好きも、関係者の間ではよく知られています。なかでも日本の大粒のイチゴは大好物です。よくタイ人客は、デパ地下でカットフルーツを買ってきてホテルの客室で食べているそうです。

※タイ人の日本食好きの背景は、中村の個人blog「タイ人はイチゴが大好き!? 旅行作家・下川裕治さんが語る『タイ人客はドーンと受け入れてあげるといい』」を参照。

タイ人客には焼肉にしゃぶしゃぶ、寿司、天ぷら、ラーメンという和食の基本アイテムが断然好まれるそうです。日本の味覚をそのまま提供して喜んでくれるのですから、なんてありがたいお客さんでしょう。

タイ人客がよく訪れる都内のレストランとして有名なのが、西新宿にある焼肉料理店「六歌仙」です。同店はタイのインラック首相もおしのびで何度も訪れており、訪日タイ人に広く知られています。人気メニューは6500円の焼肉食べ放題コースだそうです。
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※「六歌仙」については、中村の個人blog「タイ人観光客に西新宿の焼き肉店『六歌仙』が人気の理由」を参照。

現地メディアが訪日を後押し

今年に入って急増する訪日タイ客の背景について、日本政府観光局(JNTO)は次のように分析しています。

「3月末からの増便やチャーター便による座席供給量の拡大、また円高の是正に加えて、VJ事業だけでなく地方自治体による積極的な観光誘致策が露出拡大につながり、タイからの観光客の増加の要因となっている。またタイのメディアでは、訪日旅行がブームとして複数取り上げられ、日本への旅行の機運を後押ししている」(JNTOプレスリリース/2013年6月19日)

訪日タイ客急増に、タイのメディアの影響があるというのです。

タイを中心とした海外向けマーケティングを手がける株式会社Relation(http://www.relation-inc.jp)の加藤英代表取締役によると、「タイでは日本のテレビ番組が大量に放映されています。日本のテレビ局から版権を買って深夜枠でグルメ番組や旅行番組を毎日のように流しているからです。街にあふれる日本食レストランもそうですが、タイには生活の中に普段着の日本があります。だから、彼らは日本に安心、安全のイメージを持っています。日本では人は優しく、楽しく旅行できると思っているのです」

日本の番組がそのまま流れることも多いですが、自前の番組も制作されています。たとえば、タイのアイドルTikの出演する海外旅行バラエティ番組「Say Hi」は、チャンネル3(http://www.thaitv3.com/)で毎週金曜00:10より放映されています。彼女は世界各地を訪ね、買い物や食べ歩きを楽しみます。日本の温泉旅館でカニの食べ放題を体験するシーンも以前あったそうです。
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こうした事情は、テレビ番組を政府が規制管理する中国とはまったく違います。タイ人にとって日本はとても身近な国となっているのです。

タイで発行されている旅行雑誌でも、日本は多く取り上げられています。
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たとえば、タイの雑誌社Check Tourが発行する「Check Tour magazine」は、テーマ性の強い充実した特集記事が売りの月刊誌です。2012年は、札幌(1月号)、東京ディズニーランド(11月号)など、4回の日本特集を組んでいて、日本への関心の高さを感じます。

バンコク週報というタイの日本語新聞を発行する出版社が制作している現地のグルメ情報誌「Gozzo(ごっつぉ)」もユニークです。
Gozzo(http://www.facebook.com/GozzoThailand
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同誌は、バンコクにある日本食レストランのタイ人向けフリーペーパーです。日本食と旅行の雑誌と銘打たれていて、特に日本の食文化を詳しく紹介しているのが特徴です。

たとえば、2013年7月号では、焼肉特集が組まれています。焼肉の種類や細かい牛肉の部位の解説もしています。もともと宗教的な理由でタイ人の中には牛肉を食べない人も多いと聞きますが、最近は「和牛」ブームだそうです。こうしたきめの細かい現地での情報提供がタイ人の日本食に対する理解を深めているのでしょう。

このように、タイでは日本の情報が偏りなく、比較的まっすぐに紹介されていることがわかります。タイ人が素直に日本旅行を楽しんでくれる背景には、こうした現地での自由な情報流通があるのです。

※タイの旅行雑誌についての詳細は、中村の個人blog「タイの旅行雑誌には日本がこんな風に紹介されています」を参照。

ツアー代金は中国人ツアーの2倍近い

では、タイ人の日本ツアーはどんなコースが催行されているのでしょうか。現状では、以下の3コースが主流だそうです。

①東京・大阪ゴールデンルート4泊6日
②東京滞在(+富士山)3泊5日/4泊6日
③北海道周遊(札幌、小樽、登別、富良野など)4泊6日

すでに①と②は定着しており、この夏は③の北海道周遊が急増しそうとのこと。昨年10月に新規就航したタイ国際航空のバンコク・新千歳線は現在週4便ですが、秋から毎日運航になるそうですから、今年の冬は北海道を訪れるタイ人観光客がさらに増えそうです。

他にも、九州周遊(福岡、別府、阿蘇、熊本、長崎など)4泊6日も動き出しています。主流ではないけれど、東京・大阪ゴールデンルートの別バージョンとして、大阪か名古屋inで北陸や信州を周遊、東京outのコースも好評といいます。沖縄に行くツアーもあります。

次に、ツアーの価格帯について見ていきましょう。ツアー料金は日程やコースによって当然違います。以下、「Check Tour」2013年6月号に掲載された現地旅行会社のツアー募集広告から平均的な料金(7~8月出発のコース)をいくつか挙げてみましょう。

・東京・大阪ゴールデンルート4泊7日 50900バーツ(約16万5000円)
・北海道3泊5日 43900バーツ(約14万円)
・東京滞在(+富士山)3泊5日 39900 バーツ(約13万円)
・沖縄3泊5日 33900バーツ(約11万円)

前述のカウィワット氏によると、「タイ人の日本ツアーの価格帯は1日換算で約1万バーツ(約3万2000円)が目安」だそうです。

以前、本連載「18回 春にはちょっぴり中国客が戻ってきそうな気配ですが……。中国の旅行会社のHPを読み解く」の中で、北京、上海、広東の旅行会社のツアー料金を比較したことがありますが、この夏の中国本土発の平均的な日本ツアーの価格帯が1日換算で約1000元(1万6000円)が目安であるのに比べると、タイ人のツアーは2倍近いといえます(最近の円安で、円換算では価格差は以前より縮まっているようですが)。

ツアー行程を比較しても、当然とはいえ、中国人ツアーの内容はタイ人のツアーに比べ見劣りします。宿泊ホテルも観光や買い物には不便な場所にあったり、観光地もなるべく費用のかからない場所を選んだりと、「安かろう悪かろう」を地でいくケースが多いです。

とりわけ食事にかける費用が違います。広東省の南湖国旅(http://www.nanhutravel.com/)のHPには、「昼食代1000円、夕食代1500円」とはっきり書かれていますが、タイのツアー客はこんなに安い食事では満足しないでしょう。カウィワット氏は言います。

「タイ人は食事にこだわるので、とくに夕食は5000円以上かけるのがざらです。西新宿の『六歌仙』が人気なのもそのためです。弊社では、タイにある日本企業の関係者のインセンティブツアーの企画をよく担当するのですが、とにかく食事の要望は細かいです。ご案内しようとしているレストランのメニューを用意して、具体的にどんな料理が食べられるのか、タイのクライアントのツアー担当者にプレゼンテーションすることもあるほどです」

「タイ人は中国人に比べて日本旅行に対する思い入れが強い」というのは、タイ人客を扱うランドオペレーターに共通する声です。タイ人は「せっかく日本に行くのだから、いろんな体験をし、お金をかけてもおいしいものを食べたい」と素直に期待をふくらませているといいます。だから、食に限らずツアーの中身に対する関心が高いのです。そうした日本に対する期待値の高さが、中国人ツアーに比べてタイ人ツアーが比較的高い価格帯を維持している理由になっていると思われます。

※タイ人の日本ツアーの価格帯については、中村の個人blog「タイ人の日本ツアーの料金は中国人ツアーの2倍近いです」を参照。

今後の展望とツアー料金値崩れの懸念

これまでずいぶんいいことずくめの話をしてきましたが、訪日タイ客急増にはもっと大きな背景、すなわち近年の日本企業の東南アジアシフトがある、と前述の加藤英代表取締役は指摘します。

「2015年のアセアンの市場統合(ASEAN自由貿易地域<AFTA>)をにらんでインフラ整備の進むタイに日本企業の進出が加速し、タイ人社員の研修や視察のための日本へのインセンティブツアーの需要が大きくなっています。同じ東南アジアでもシンガポールやマレーシアに比べてタイがダントツの伸びを見せているのには、日本企業の存在があります」

実際、日本のランドオペレーターが受注するタイの団体客は、日本企業のインセンティブツアーであることが多いようです。それは現地の旅行会社が一般募集するパッケージツアーとは違って、個別のクライアントの要望に応じてツアーの中身を組み立てる手配旅行です。クライアントが日本企業なので、比較的安定した取引が可能といえます。

ところが、今回のビザ免除による客層の拡大で市場が荒れるのでは、という現場の懸念の声はすでにあります。

社団法人アジアインバウンド観光振興会理事で、訪日タイ人客のランドオペレーターでもある株式会社トライアングルの河村弘之代表取締役は、タイの旅行業界の現状をふまえた以下の点を指摘しています。

「タイ人は純粋でおとなしい、とてもいいお客さまなのですが、少々ワガママなところがある。ツアーの立ち寄り先だけでなく、来日後の宿泊ホテルやレストランの変更もしばしば。タイのガイドはお客さまの言いなりになりがちで、現場が混乱するケースも多い。

タイは海外旅行マーケットが動き出してまだ5年という国。旅行業界のルールも整備されていません。本来であれば、彼らはもっと海外の現状を知って、業務のマニュアル化を考えるべきなのだが、まだすぐには対応できないでしょう。

これから訪日タイ客が増えると、ガイド不足も顕在化するはずです。タイの日本ツアーはほぼスルーガイド、つまり現地タイ人が担っており、通訳案内士制度は機能していません。

さらに、今後いちばん懸念するのは『中国プライス』問題です。ここ数年、中国の旅行エージェントが日本の一部のホテルなど観光関連企業との間で結んだ過度に安い中国向けの仕入れ値を東南アジアの市場に持ち込もうとしています。せっかく定着している東南アジア発の日本ツアーの値崩れが起こるおそれがあります」

中国の訪日旅行市場で起きたのと同じ道を東南アジア市場でも繰り返すことになるとしたら、これは大きな問題です。それは避けねばなりません。誰のためにもならないからです。

もうひとつの懸念材料は、ビザ免除をめぐってタイではこれを歓迎するどころか、おかしな反応があることです。

日本の観光ビザ免除、タイ外相が不法就労者増に懸念(バンコク週報2013年6月14日)
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=2207

以前、ニュージーランドがタイ人の観光ビザ免除を実施したところ、観光で入国した後、失踪者が続出したため、免除が取り消された前例があったそうです。タイの外相は同じことが起こらないようにと国民に訴えたというのです。日本でも同じことが起きるのでしょうか?

※ビザ免除をめぐるタイ側の反応については、中村の個人blog「タイのビザ免除で、むしろタイ政府側に不法就労再発の懸念があるらしい」を参照。

もっとも、いまの段階でこうした懸念を言い出したらキリがありません。物事はすべてがきれいごとで進むはずもないのですから、今後の行方を見守っていくほかないでしょう。

最後にあらためて、タイ人の訪日旅行を盛り上げる話を書いておこうと思います。

それは、日本には確実にタイ人に喜んでもらえる自然の魅力があるということです。

タイと日本の風土や気候の違いが、来日する彼らを魅了しています。四季があることが、彼らをリピーターにするのを強く後押ししてくれるのです。たとえば、3~4月は桜、6~7月はラベンダー、秋は紅葉、冬は雪景色と、1年を通じてタイ人の目を喜ばせるのは、季節による風景の変化があるからです。実際、タイの旅行雑誌やパンフレットに描かれる日本にはあでやかな色味があふれています。我々は熱帯の国タイのほうが日本よりずっとカラフルだと思いがちですが、彼らにすれば日本は自分たちの知らない美しい色彩にあふれる国なのです。

常夏の国からわざわざ訪ねてくれるタイ人に対して、四季という1年を通して訴求できる日本の強みを生かさない手はないといえるでしょう。訪日タイ客の増加で、ニッポンのインバウンドに新しい風を吹かせることを期待したいと思います。

※すでにタイ側でも訪日旅行に積極的に取り組む動きは起きています。詳しくは、中村の個人blog「HISタイの訪日旅行の取り組みは要注目です」を参照。

やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_132.html
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by sanyo-kansatu | 2013-07-11 16:33 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 07月 10日

1934(昭和9)年初秋、72歳ベテラン編集者の「北鮮の旅」

坪谷水哉(つぼやすいさい 1862-1949)という明治、大正、昭和前期にわたって活躍した編集者がいます。当時の大手出版社である博文館で編集主幹を務めた人で、日本初の総合雑誌「太陽」の創刊時の編集長でした。

1934(昭和9)年9月下旬、坪谷水哉は京城発4泊5日の北鮮方面への鉄道旅行に出かけています。ここでいう「北鮮(ほくせん)」とは現在の北朝鮮ではなく、日本に併合された朝鮮半島の満州国と国境を接する北東部の辺域(現在の咸鏡北道)を意味しています。

彼の紀行文は、1935(昭和10)年2月に発行された某雑誌に「北鮮の旅」として掲載されています(この資料を入手したのはずいぶん前のことで、誌名を記録し忘れていました。機会をみつけて調べたいと思います)。
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昨年夏、ぼくは北朝鮮の羅先貿易特区を訪ねました。中国吉林省延辺朝鮮族自治州の豆満江(中国では図們江)沿いも何度か訪ねていますが、国境を隔てながらも坪谷が約80年前に訪ねた地域と重なります。当時そこはどんな状況だったのか。とても興味深いです。

ざっと坪谷の4泊5日の行程を書き出してみます。坪谷が鉄道を降りて歩いた場所だけでなく、行程上出てくる鉄道の通過駅も入れてみました。

1日 1934年9月20日
   17:25 京城(ソウル)駅発急行乗車。朝鮮総督府線を北上
   日暮れ 鐵原駅(金剛山鉄道分岐点)
   以後、元山駅、咸興駅、新北青駅
2日 9月21日
   城津駅、朱乙駅(以後、普通列車になる)、羅南駅
   8:51 輸城駅着(総督府線の終点)。満鉄「北鮮線」に乗り換え会寧へ
   (「約四時間を費やし」と本文にあるが?)会寧駅着(満洲国側対岸は三合鎮)
   以後、豆満江沿いを列車は走る
   11:49 上三峰駅(対岸は開山屯)着。「咸北線」に乗り換え。
   以後、高陽駅(現在の南陽。対岸は図們)、穏城駅、訓戒駅、四会駅
   17:15 雄基駅着(大和旅館に宿泊)
3日 9月22日
   8:00 朝一番の乗合自動車で清津へ(約四時間半)。富居という駐車場で休憩
   12:30 清津着(再びバスで郊外の朱乙温泉へ向かい、温泉旅館泊)
4日 9月23日
   正午 バスで清津に戻り、雞林館泊。清津市内散策
   20:15 清津駅発急行乗車
5日 9月24日
   正午過ぎ 京城駅着

今回登場する場所に関する坪谷の記述を抜き書きしてみます。

●輸城から会寧に向かう車窓の描写(輸城は総統府線の終点かつターミナル駅。清津へは別線で9km)
「輸城以西の鉄路の両側は、連山近く迫って、人煙稀疎なる山峡を、紆余曲折して走るに、眼に入る風物はすべて原始的で、車窓はるかに白頭連山の支脈が灰色をした雲の漂ふ間に隠見するのみだ」

※朝鮮側から白頭山(長白山)がどのように見えるのか、見てみたいものです。

●会寧(対岸は三合鎮)について
「(会寧は)豆満江の右岸なる国境の一都会で、対岸の間島から、以前は屡しば匪賊に襲われた土地で、国防の最前線ゆえ、今は歩兵一連隊、工兵一大隊、その他の兵営も多く、人口も今は二萬五千余で其内に内地人が四千余人居る相だ」

※写真は現在の会寧。中国側から撮影したものです。当時日本人が4000人もいたことが書かれています。
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※現在の姿については「過去のにぎわいを忘れたふたつの国境―開山屯と三合鎮【中朝国境シリーズ その9】」http://inbound.exblog.jp/20466441/

●会寧から上三峰に至る豆満江沿い(中朝国境)の描写
「対岸に満洲を眺めつつ走るに、此邊の豆満江は、水色青く、流れ急に、時々筏を流し下すが、渡津場の外には船の上下は見えぬ。金生、高嶺鎮、鶴浦、新田、間坪などといふ諸駅を過ぐる間、何所までも流れに添ひ、朝鮮川には護岸工事も備はり、開修せられたる路傍に、アカシヤも茂って居るのは我が併合以来の功績らしい」

※この鉄路は、中国側から図們江越しに眺めたことがあります。東ベルリンの地下鉄車両が転用されて走っているのを見ました。

●上三峰駅(対岸は開山屯)について
「此所は北満への連絡地点で、豆満江を鉄橋で渡り、新京に通じて居る」

※写真は現在の上三峰の鉄橋を中国側から撮影したものです。
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●高陽駅(現在の南陽。対岸は図們)について
「高陽は現今雄基から満洲の新京へ直通する主要駅で、鉄橋を越えれば対岸は間島の図們駅だ。聞けば図們から百九十キロの敦化までは従来狭軌の敦図線があったのを、新たに広軌に改めて吉林まで延長し、一方には豆満江に架橋して、北鮮鉄道の高陽と連絡せしめたので、此新京図們間の線を京図線と称し、延長五百二十八キロだ。されば高陽駅は今工事中で、純満洲風の壮大なる建築を頻りに急いで居る」

※写真は現在の南陽の鉄橋で、中国側から撮影したものです。当時は国際ターミナル駅だったことを思うと、さびれてしまったなあと思わずにはいられません。
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※現在の姿については「高速で素通りされ、さびれゆく図們【中朝国境シリーズ その10】」http://inbound.exblog.jp/20498623/

●高陽から雄基までの描写
「豆満江も此邊まで下ると間島の諸流を併せて次第に大きくなり、洋々として緩く流れ、船も時々上下して、流石に朝鮮五大河の一と首肯せらる。高陽から二三駅を過ぎ穏城駅から、今まで東に流れた豆満江は急角度に東へ方向を転じ、其れにしたがって鉄道線路も東へ屈曲し、やがて訓戒といふが、かなりの巨駅で、サイダー、牛乳、キャラメルなどと呼んで売って居る。私が隣の某氏に、対岸に露西亜領はまだ見えませんかと尋ねると、まだです。モウ二時間も経つと、四会といふ駅から見えますとて、更に十ばかり駅を過ぎて、四会駅で、向こふに見える山が露西亜ですと教えて呉れた。此邊の豆満江は河幅一里もあるべく、其間に島があったり、岸には湖水があったりして、鉄道も江岸を漸く離れた」

※写真は現在の穏城大橋を中国側から撮影したものです。断橋となって途中で折れています。朝鮮側に当時の鉄道らしき鉄路が見えますが、現在ほとんど運行されていないようです。
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※現在の姿については「図們江、野ざらしにされた断橋の風景【中朝国境シリーズ その8】」http://inbound.exblog.jp/20457456/

●雄基(現在の先峰)について
「今は咸北線の終端なる雄基湾は、鮮満連絡の咽喉で、最近に非常なる躍進を続け、日露戦役当時は僅かに十数戸の漁村だった相だが既に五千戸二萬五千人に激増し、三方に山を負うて一方は海に臨み、港の東に龍水湖が、近く海と連なりて、市街は尚も日々に広がりつつある。当初北満洲の貨客呑口を、何所に定めんかと決せざるとき、北鮮の三港といふ城津、清津、雄基の間で盛んに競争したのが、やがて城津は落伍して、最近まで清津と雄基の競争となったが、結局は雄基より南へ四里の羅津と定まり、今は雄基から羅津まで頻りに鉄道工事を急ぎ、来年八月には竣工の予定」

※写真は現在の雄基線の鉄路。北朝鮮領内の雄基と羅津の間で撮ったものです。この状況では鉄道は運行は難しいと思われます。
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●羅津について
「東北西の三方に山をめぐらし、開けたる南方に大草、小艸の二島が防波堤の如くに横たはり、湾内広く、陸上に市街となすべき平地も多い。成程将来北満の咽喉と決定せられたのも道理である。最近に決定したといふ此地の都市計画によれば、第一期設備として、土地六十萬坪に、人口五六萬を収容し、満鉄埠頭も直ちに着手し、羅津停車場敷地地均し工事と憲兵隊兵営は、請負入札が大倉組に落札したが、停車場建築工事は、何人の手に帰するか未定といふ。但し其等の工事請負や、土地の売買や、利権の探索に、多数の人が入り込み、定住人口二萬の外に、旅客の数は分らぬが、一日に家屋が何十戸づつ建つとか言うて、市街は混雑を極めて居る」

※写真は現在の羅津駅と羅津港。坪谷が訪ねたころにはまだ駅も港もできていませんでした。しかし、羅津の開発のため多くの日本人がこの地にいたことがわかります。
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※現在の姿については「羅先(北朝鮮)はかつての「日満最短ルート」の玄関口」http://inbound.exblog.jp/19752579/

●雄基から清津に向かう道路事情
「道路は東側に日本海を眺めつつ丘陵起伏の間を走るに、仲々よく改修せられて居る」

●清津について
「さて清津を見物する方法はと聞くと、高抹山に上って、清津神社の背後から、港と市街を一と目眺めなさいと教へられ、其の高抹山に上る。成程清津市街は巴の如き高抹山の半島に依り湾内に擁せられ、北端の高抹山と南端の天馬山との間に、夕実の如くに連なる市街で、近年約一千萬円の巨費を投じた防波堤が、湾の左右より出て、岸壁には、四五千トンの船が数隻繋がる相で、折しもそこへ上がってきた高等普通学校、内地ならば中学校の生徒を呼んで説明を聞くと、天馬山腹が無線電信局、その隣りが僕等の学校で、其のしたの茶色の洋館が近頃出来た国際ホテル、今防波堤の外へ出て行く汽船は大阪商船会社の船(中略)。(人口は)昭和七年に二萬五千が今年は四萬人に上ったといふ」

※ぼくは清津にまで行くことはできませんでしたが、当時多くの日本人が住んでいたことがわかります。ここで書かれている高抹山からの日本海と清津市街地の眺めは素晴らしいものだったようです。

ここに描かれる世界が1930年代半ばの“躍進著しい”北鮮でした。現在の姿と比べると、この80年間の停滞ぶりは何だったのだろうか。なぜそうなってしまったのか。そう思わざるをえません。

当時、坪谷がこの地域を視察した理由について、冒頭ではこう書かれています。

「『朝鮮と支那の境の鴨緑江』と所謂鴨緑江ぶしで歌ふ鴨緑江は何人も知るが、反対の国境なる、満洲の間島や、露西亜とも境を接する、豆満江及其沿岸を走る北鮮鉄道は余り知られて居ない。然るに今は北満洲から朝鮮の北方に通じて、鉄道線は頭を日本海の岸に出し、其所に第二の大連港を建設せんとして、着々工事を進めて居り、現に北鮮の雄基からも清津からも、新京まで直通列車が往来して居る。私は最近に其の北鮮の鉄道全線を巡った故、いかに略ぼ之を紹介しようと思ふ」

日本と大陸をつなぐルートとして大連や安東(現在は丹東)のことは知られていたものの、日本海ルートは当時もまだマイナーだったことがわかります。その開発が着手されていよいよこれからというときに敗戦を迎えてしまったわけです。

その年、坪谷は72歳でした。戦前を代表する総合雑誌「太陽」の編集長を経て、その後海外をずいぶん訪ね歩いた坪谷は「世界漫遊案内」(1919)など、明治人らしく海外雄飛を説く多数の著書もあるベテラン編集者ですが、老いてもなお意気軒昂だったようですね。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-10 18:16 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2013年 07月 01日

タイのビザ免除で、むしろタイ政府側に不法就労再発の懸念があるらしい

本日7月1日より、タイとマレーシアの訪日観光ビザが免除されることになりました。

タイ国民に対するビザ免除(外務省)2013年6月25日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000361.html

ところが、タイではこれを歓迎するどころか、おかしな反応があります。

日本の観光ビザ免除、タイ外相が不法就労者増に懸念
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=2207

以前、ニュージーランドがタイ人の観光ビザ免除を実施したところ、観光で入国した後、失踪者が続出したため、免除が取り消された前例があったからです。タイの外相は同じことが起こらないようにと国民に訴えたというのです。

通常、ビザ免除協定は両国の交渉の中で進められるものではないかと思うのですが、タイ側からこうした反応が出るのはどうしたことか。

もしかしてタイのビザ免除は少々勇み足ではなかったか? そんな疑問も出てきます。

一般のタイ人も、1980年代以降の不法就労問題で、日本はビザの厳しい国だという認識が定着していただけに、逆に驚いている様子です。もちろん、これでタイの観光客は増えるでしょうが、それだけの話に終わるかどうか、少し気がかりといえなくもありません。

先日、旅行作家の下川裕治さんに会いました(→「タイ人はイチゴが大好き!? 旅行作家・下川裕治さんが語る『タイ人客はドーンと受け入れてあげるといい』」)。下川さんは1990年代当時、不法就労のタイ人を支援する活動を個人的に続けていました。そこで、今回のビザ免除について尋ねたところ、もちろん基本的には歓迎すべきこととしながらも、「今回のことで、タイ人がたくさん来日すると、また警察から電話がかかってきたり、いろいろ大変になるんじゃないか」と苦笑交じりで話していました。仮に大変になったとしても、これまでどおり受けとめていこうという、いかにも下川さんらしいコメントでした。

そのトークイベントには下川さんの古いタイの友人の女性もいました。興味深いことに、タイ人である彼女も不法就労問題の再発を懸念していました。彼女は1990年代当時のことをよく知っている在留タイ人のひとりです。イベントには、タイの事情に詳しい関係者も多くいて、タイ側ではすでに若い女性を日本に送ろうとするブローカーがいるらしいことも話していました。

一方で、日本の宿泊施設はデフレが進みすぎて、タイ人の感覚でも安いと感じるはずだという声もありました。たとえば、タイの王室保養地であるファヒンのビーチリゾートに一泊すると食事なしで4000B(約1万2000円)はするのに、熱海は2食付の温泉旅館一泊8000円がざら。これならタイ人は日本に行くほうが安いと思うだろうと。

またノービザとなることで、草の根レベルの商務渡航が増えるだろうという指摘もありました。航空券を買うだけで、2週間日本に自由に滞在できるというのは、これまで考えられなかったことなので、タイのビジネスマンが喜んで来日するだろうというのです。

ところで、これは個人的な見解にすぎませんが、今回のタイ人のビザ免除の背景には、尖閣問題以降の中国人観光客の減少をカバーしようとしたことが表向きの理由でしょうが、安部政権の東南アジアシフト政策の一環として後押しされたことも確かでしょう。

ただし、それは中国軽視という外交姿勢上のメッセージを中国側に与えただろうことが想像されます。

なぜなら、いまの中国人ほど、ビザ問題に敏感な国民はいないからです。端的にいうと、彼らは世界から差別されているという認識を強く持っています。中国が不法移民大国であることは間違いないので、そのジレンマを抱える彼らを尻目に、タイやマレーシアが先にビザ免除されたことは、中国側からすると、あてつけ的な施策に映るのではないかと思われます。

中国人のビザをめぐる不満に関しては、以下参照。
http://inbound.exblog.jp/20514969/

ビザという外国人流入の調整弁をどうコントロールするかについては、立場によって見解が異なるのは言うまでもありません。

いずれにせよ、ビザ免除によってタイからの渡航者は増えることでしょう。すべてがきれいごとで進むはずもないのですから、今後の行方を見守っていくほかありません。タイ人客の増加で、ニッポンのインバウンドに新しい風が吹くことを期待したいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2013-07-01 15:07 | “参与観察”日誌 | Comments(4)
2013年 05月 20日

京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催

3月上旬、京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催されたので、視察に行ってきました。以下は、「月刊宝島」2013年6月号に寄稿したレポートです。


3月11日~13日、京都市で日本初の富裕層向け旅行の商談会「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット・ジャパン(以下、ILTMジャパン)が開催された。

ILTMは毎年カンヌで開催され、世界各国から1300社以上の観光業者が集まる商談会だ。2007年からアジアでは上海でも開催されている。世界の富裕層旅行市場の重心が欧米からアジアに移行するなか、世界で二番目に富裕層が多く、観光資源に恵まれた日本がILTMを誘致した背景には、「富裕層旅行者の取り込みを強化したい」観光庁と、日本を代表する世界遺産都市・京都の連携があった。

ILTMジャパンには、国内外のラグジュアリーホテルや高級旅館などの出展者と、バイヤーである旅行会社の約120社が集い、海外と日本それぞれの富裕層旅行者獲得のための商談会が繰り広げられた。
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会場は、出展者でもあるコンサルティング会社のプラン・ドゥ・シーが運営するThe SODOH Higashiyama Kyoto。京都画壇を代表する竹内栖鳳の旧邸宅を改装した高級結婚式場だ。

初日に観光庁主催で外国人富裕層受入に関心のある宿泊・観光業者を対象としたセミナーが開かれたが、テーマは「富裕層旅行とは何か」。俗に個人資産100万ドル、年収30万ドルで、プライベートジェットを乗りこなすといわれる富裕層旅行について、ILTMジャパン日本地区代表の福永浩貴氏は「『本物』の価値を理解し、さらなる豊かさを追い求める人たち」と定義する。彼らが求めているのは「一生に一度の体験」という。

ILTMディレクターのアリソン・ギルモア氏は「日本にはポテンシャルがある。しかし、世界に知られていない」と指摘する。

相変わらず「アピール下手」とされる日本だが、海外バイヤー30社中、中国7社、シンガポール4社など、中華系が半数を占めるように、日本の高品質の旅行資源に対する近隣諸国の関心は高い。マスを対象としない富裕層旅行市場だが、米国帰りの中国人富裕層の婚活ラブコメ映画『非誠勿擾』のヒットが中国客の北海道旅行を急増させたように、新たなビジネストレンドを生み出す起爆剤となる。商談会を通じて多くの関係者が語っていたように、日本をどうアピールするか、今問われている。

ILTM Japan日本事務局
http://www.iltm.net
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初日夜に建仁寺で開催されたオープニングパーティ。中央の着物姿の女性はILTMディレクター、アリソン・ギルモア氏
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by sanyo-kansatu | 2013-05-20 12:56 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 03月 24日

ドラマ『朱蒙』の物語が身近に感じられる五女山城博物館

五女山城の西門の登り口に、五女山城博物館があります。ここでは高句麗建国の歴史を中心にしたこの地域(中国遼寧省桓仁満州族自治県)の古代史を展示しています。
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紀元前37年に朱蒙がこの地に高句麗を建国し、34年に五女山城を築いたとあります。
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王宮の復元模型だそうです。韓国歴史ドラマ『朱蒙』の中に出てきた高句麗の王宮の規模や壮麗さと違ってえらく貧相なものです。五女山城の山頂で見た城門や住居跡の遺跡も解説しています。
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五女山城周辺では鉄の武具が多数出土しています。ドラマに出てくる朱蒙に最後まで忠実だった鍛冶頭モパルモを思わせるような蝋人形が展示されていました。高句麗の2番目の都である集安(中国吉林省)にある古代の墓室の復元模型も展示されています。
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五女山城博物館がオープンしたのはわりと最近のことで、2008年5月。『朱蒙』の放映より後のことです。五女山城の遺跡の発掘も1990年代の後半に始まったそうで、山頂までの石段を造り、遺跡跡を有料で公開するようになったのも2000年だとか。その後、2004年に五女山城は世界遺産の一部になります。

蓮池薫さんは『私が見た、「韓国歴史ドラマ」の舞台と今』(2009 講談社)の中でこう書いています。

「韓国で高句麗ブームに火がついたのは、もう一つの理由があった。

2002年から2007年にかけて中国社会科学院の辺疆史地研究センターが行った『東北辺境の歴史と現状系列研究工程』(以下、『東北工程』)と呼ばれる5ヵ年プロジェクトが韓国人を刺激したのだ。(略)中国人研究者たちは古代歴史に関する研究の結果として、『高句麗は独自の国ではなく、中国の一部であった』という結論を出したのだった」。

「高句麗が中国の一部だったという中国の公式見解は、漢民族と55の少数民族からできている多民族国家の現代中国の構図をそのまま過去に当てはめたもの、つまり少数民族を『大中国』の構成要素と考える現代の骨組みを遠い昔にそのまま適用したものなのだ。多くの学者たちは中国の『東北工程』が純粋な研究というより『中国が自国の領土と安定を維持するための行動』だったと考えている」。

このように韓国で歴史ドラマが盛んに制作された背景に、中国の「東北工程」への強い反発があったことを蓮池さんは指摘しています。

現地の旅行会社によると、五女山城のふもとにある桓仁には、毎年2~3万人の韓国人が観光に来るそうです。ドラマで朱蒙を演じた俳優のソン・イルグクも、この地を3回訪れたとか。それだけならいいのですが、2011年に高句麗史の研究者や運動家たちが来て、講演会を開き、会場で「東北工程」に反対するスローガンを掲げるという計画があり、それを事前に知った市の安全局が取りやめさせたということもあったそうです。

ぼくには中韓いずれも似た者同士で、「現代の骨組みを遠い昔にそのまま適用」しようと争っているようにしか見えません。北東アジアのナショナリズムは、古代史とのからみで火がつくところが特徴といえそうです。正直そんなことどうでもいいとぼくなどは思ってしまいますが、蓮池さんも書いているように、彼らの独特の歴史観に対して「相手の主張に従うということではなく、相手の主張に耳を傾け、その背景を知ろうとする姿勢が相互間に必要だろう」ということなのでしょう。

そのうえで、「相手の歴史観を知る上では、韓国の時代劇ドラマが素晴らしい『材料』になる」と蓮池さんは書いています。今回、五女山城を訪ねて、『朱蒙』の物語が身近に感じられたのは確かなので、本当にそのとおりだなと思ったものです。
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五女山城博物館 http://www.wnsjq.com
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by sanyo-kansatu | 2013-03-24 11:27 | 北東アジア未来形:満洲の今 | Comments(0)
2012年 12月 29日

高級車を連ねて経済特区を爆走 中国の観光客と北朝鮮に行ってみた(「週刊東洋経済」2012.9.29号)

b0235153_2111215.jpg6月下旬、中国吉林省の延吉(延辺朝鮮族自治州)を起点に、北朝鮮咸鏡北道の羅先を訪ねた。

 
中朝国境の陸の出入国ゲートとして丹東(遼寧賞)に次ぐ存在である圏河の税関は、日本海に近い図們江下流の琿春市にある。そこで筆者が見たのは、自家用車が何十台も列をなす渋滞だった。周辺は集落さえない中国最辺境のどんづまりで、最初は何事かと思ったが、後に中国人観光客の一行とわかった。

北朝鮮側に入ると、そこは海外資本に開かれた羅先(羅津、先鋒)経済亜貿易特区という地帯だ。ここでは1996年から外国人旅行客を受け入れているが、今年から朝鮮国際旅行社の手配する団体バスではなく、新しいツアー形態としてマイカーでのドライブ旅行が採用されたのだ。

図們江を渡り、北朝鮮側で入国手続きを済ませると、接待役(監視役)が現れた。筆者ら「日本人観光団」は従来どおりバスに乗せられた。

農村の1本道を約45分走ると、先鋒の町が見えた。表通りは積み木のような団地、その裏手に朝鮮家屋が続く。街中はこぎれいで清掃が行き届いている。行き交う車はない。

土ぼこりを上げつつバスを抜き去ったのは、20数台からなる中国マイカー軍団だった。その後、筆者らは終始彼らの後を追うことになる。訪問地は基本的に同じだからだ。


最初に案内されたのは先鋒の国際商品展示会。北朝鮮産品の販売所だ。日本海のカニや昆布などの海産物、地酒、工芸品、平壌医科大学の漢方薬のブースもある。陳列された商品の質や会場のそっけない雰囲気は、中国の80年代改革開放初期の商品展覧会を思い起させた。販売員はその頃の中国女性に似て清楚な印象だが、派手なチマチョゴリに身を包み、外国人の接客にずいぶん慣れていた。

北朝鮮観光ではお約束の、地元少年少女による歓迎の舞踊公演もあった。その日の晩には、羅先を訪問中の外国人約400名が羅先劇場に集められた。わずかの日本人とフランス人を除けば、みな中国人だ。

道路を改修したのも走るのも中国人

外国へのドライブ旅行という新趣向は、中国の中間層の嗜好にマッチしている。今回出会ったのは遼寧省瀋陽からのグループだが、彼らは自慢の高級外車で中国内の高速道路を約8時間走った後、北朝鮮に入国した。そこから羅津港までは50数キロの一本道。ドライブとしては、さぞ物足りなかったことだろう。

国境から羅津港までの道路は、日本海へのアクセスを手に入れたい中国が改修した。北朝鮮は特区のインフラを中国に無償で作らせているが、その道路をわが物顔で走るのもまた中国人。この構図は、今の両国の関係を表している。

中国人ツアー客にとって北朝鮮は「文化大革命が終わった頃のよう」と過去を振り返り、自国の経済成長を実感、自尊心を満たすには格好の場所である。高級車の団体旅行などは大幹部の来訪でもなければありえない。それを一般の中国人が楽しむ姿には、強い無力感を覚えるに違いない。それはまさに30年前、中国人が味わった思いでもあるのだが。

翌日は朝から雨。当初朝ロ国境の豆満江駅に行く予定だったが、ロシア方面から市内に至る道路は舗装されていない悪路のため断念。代わりに香港資本で99年に開業したエンペラーホテル&カジノを訪ねた。

2004年に延辺の地方政府幹部がここで公金を使い果たす事件が発生。一時カジノは撤去されたが、07年に再開された。顧客の99%は中国人。従業員の多くは北朝鮮人だが、一般人民は入館禁止だ。ミャンマーやベトナムの国境地帯にある中国人専用カジノと同様の存在だが、館内は閑散としていた。

この地域の問題は、インフラの絶対的な立ち遅れである。今回の羅先滞在中、日中はずっとどこも停電だった。日本統治下の36年に開港された羅津港からは、近年中国企業が上海に向けて石炭を数回積み出した。だが、市内の道路や中朝間の鉄道輸送に支障があり、今春を最後に再開されていない。

羅先へのドライブ旅行に参加したことがある延吉在住の朝鮮族ビジネスマンは、「羅先は1930年代からまったく変わっていません」と言う。日本の敗戦後に新しくできたのは、地元の発展に直接つながらないソ連製の化学プラントとカジノだけ。日本時代に投資された港湾施設や鉄道などのインフラは老朽化するに任されており、中朝が今進めているのはその再活用なのである。

中国という投資者を得て、北朝鮮はゆっくりと開放に向けて動いている。だが、高句麗の時代から続く長い不信の歴史があるだけに、北朝鮮が中国に向ける視線は複雑だ。そこにロシアの思惑も絡む。この地域の先行きを占うのは簡単ではない。

「週刊東洋経済」2012.9.29号より

上から、圏河イミグレ-ション、中国人マイカードライブ、地元少年少女による舞踊公演、、羅津港、エンペラーホテル&カジノ、勝利化学工場

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by sanyo-kansatu | 2012-12-29 21:00 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2011年 11月 26日

外国人記者説明会(トラベルマート2011 その2)

トラベルマートの初日午前には決まって外国人記者を集めた説明会があります。主催者である観光庁が外国メディアに向かって訪日旅行促進のための日本政府の考え方やプロモーション活動について広報する場です。
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今回外国人記者たちが注目していたのは、今年10月観光庁が打ち出した外国人1万人の訪日無料チケットの提供(Fly to Japan事業)に関する詳細でした。日本政府が本当に無料航空券を提供してくれるとなれば、外国人記者たちが「次号のトップページの見出しはこれだな」と期待をこめるのも当然です。

外国人1万人に無料航空券…観光庁11億円予算
ところが、説明会の担当者である観光庁国際交流推進課の課長さんの口は実に重かったのでした。本来であれば、外国人記者の最大の関心事である「無料チケット」情報の発表は、この説明会を成功裏に終えるための格好のアピールポイントだったはずです。ドカーンと鳴り物入りで発表したっていいくらいの大ネタです。

それなのに、担当官氏はその実施時期をめぐって「12月の国会審議が通って、うまくいけば来年4月にプロモーションが始まるだろう」などと内輪の事情を真正直に明かしてしまったのです(そんなこと、外国の皆さんに知らせる必要があったでしょうか)。本来広報とは相手に伝えなければならないメッセージをどこまで明快かつ印象的に伝えられるかが勝負のはずです。

担当官氏の英語力に関しては、同じ日本人として追及するのは控えたいと思いますけど、せめて説明会で想定される質問にどう答えるべきか事前にシュミレーションするなり準備はしてほしいものです。今回呆れたのは、事前に外国人記者から用意してもらった質問を、氏は順番に読み上げ、それに答えるという一人芝居を始めてしまったことです。

なぜその場であらためて質問記入者に声をかけ、質問の意図を披露してもらった後で、それに答えるというようなインタラクティブな演出ができなかったのか。

ここ何年か、外国人記者説明会に出席しているぼくからすると、観光庁側の準備不足が目に余ります。せっかくのPRの場が台無しです。

こんな無味乾燥な説明会がさして問題とならないのは、理由があります。観光庁側のスピーチ担当者は毎年コロコロ変わりますが、来日する外国人記者の半分くらいは常連なので、説明会の中身のなさについては、彼らも想定内だからです。

ぼくはすでに何人かの外国人記者とは顔見知りで、彼らとは冗談を言い合ったりする関係です。ひとりの日本人として、日本のお役人さんの仕事ぶりに情けない思いをしていることを、いつの日か気がついてもらいたいものです。
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by sanyo-kansatu | 2011-11-26 18:21 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2011年 11月 15日

日経NBonline 「NBO新書レビュー」

中国に関する書籍が巷にあふれる時代です。さすがに、そろそろ一服という感じもしますが、こんなにたくさん出版されたのは、ちょっと唐突ですが、もしかしたら日中戦争の頃以来ではないでしょうか。

昭和10年代は、支那(中国)モノの出版点数がひとつのピークを迎えた時代といえます。大陸では戦闘行為が続いていた一方で、国内では支那文化の魅力を紹介したり、「日支親善」を提唱したりするなど、中国理解のための多彩な書籍が数多く出版されていました。

これに気づいたとき、最初は意外な気がしましたが、日中の人的交流が深まる時代になると、日本人は「中国とは何か」「中国人とはいかなる人たちなのか」と問わすにはいられなくなるのだと思います。

自分は読書家とはとてもいえませんが、中国関連の本やたまに観る映像作品などについて、気になったことをちょこちょこ書いてみたいと思います。

日経NBonline「NBO新書レビュー」
同サイトの書評コーナーで、以前中国関連の新書について少しだけモノ申したことがあります。

2008 年当時、ぼくは北京オリンピック開幕式における究極の時代遅れともいうべき、演出された国威発揚の光景を見てしまったことで、中国の独善的なナショナリズムに対する強い生理的な拒絶反応が高まっていたようです。その嫌悪感はいまも変わりませんが、中国の国情、そして彼らの生きる時代に対する理解も一方で深める必要があると感じています。

それなりに幸せな「格差社会」~『不平等国家 中国』 園田茂人著 中公新書
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080619/162798/


オリンピックは早すぎた
『変わる中国 変わるメディア』 渡辺浩平著 講談社現代新書



「中国を信じる」「信じたい」「信じさせてくれよ…」
『加油(ジャアヨウ)……!』 重松清著 朝日新書



「誠意が“分からない”」人と付き合うには
『日本と中国──相互誤解の構造』 王敏著 中公新書

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by sanyo-kansatu | 2011-11-15 19:47 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)