ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 01月 26日

だから嫌われる!? 今年の春節も観光を政治の取引に使う中国にうんざり

まもなく春節休みに入りますが、ロイター通信が以下の記事を配信しています。

中国旧正月休暇の観光客渡航先、外交関係が影響も(ロイター2017.1.23)
http://jp.reuters.com/article/lunar-newyear-china-tourism-idJPKBN1570NQ

[上海/北京 22日 ロイター] - 中国は1月27日から2月2日まで旧正月の長期休暇に入り、連休中に海外を訪れる中国人観光客は600万人に上ると予想されている。台湾の旅行会社を経営するLi Chi-yueh氏にとって、旧正月は非常に重要な時期となる。

同氏の会社は売り上げの3分の1を中国本土の観光客から得ているが、今年は大きな期待は寄せていない。昨年5月に台湾で蔡英文政権が発足して以降、本土からの観光客は36%減少した。

同氏は「中国は観光客を外交面での武器として使っている」とし、「現状が改善しなければこの業界は生き残れないという懸念は強い」と述べた。

昨年8月に韓国を訪問した中国人観光客は前年同月比70.2%増、9月は22.8%増だったが、11月には増加率がわずか1.8%に急減。これは中東呼吸器症候群(MERS)の流行を受けて32%減となった2015年8月以来、最悪の数字となる。

米国は昨年11月、THAADが8-10カ月以内に韓国に配備される予定だと明らかにした。

<フィリピンやマレーシアでは急増>

対照的に、フィリピンとマレーシアについては、渡航勧告の解除やビザ規制の緩和を背景に中国人観光客の伸びが顕著だ。両国はいずれも過去数カ月間で中国との外交関係が緊密化している。

昨年3─12月にマレーシアを訪れた中国人観光客は前年同期比83%増加した。

マレーシアのナジブ首相は昨年11月に訪中し、約340億ドル相当の契約を締結した。

南シナ海の領有権をめぐって中国と対立してきたフィリピンでは、ドゥテルテ大統領が米国と距離を置く一方、中国に近づく姿勢を示している。昨年1─10月の中国からフィリピンへの観光客は前年同期比40%増となった。

中国人観光客は海外での支出額が最も大きく、ユーロモニターのデータによると、今年の支出額は2100億ドルに達する見通し。中国企業による2016年の海外企業合併・買収(M&A)総額の2倍となる。

<観光業は外交の一部>

中国本土の旅行会社はロイターに対し、一部の国への観光客の数が変わってきていることは認めたものの、特定の旅行先への訪問を控えさせるよう政府から指示があったかどうかについてはコメントしなかった。

国営旅行会社大手の中青旅(CYTS)の最高ブランド責任者は、「観光客は、訪れても歓迎されない可能性のある国は避ける」と述べ、「観光業は多くの面で外交の一部であることから政治・外交上の問題も影響する」と指摘。ただその上で、「パッケージ旅行を企画する際に基本となるのは旅行者の需要だ」と述べた。

春秋航空(601021.SS)の親会社である上海春秋国際旅行社はロイターに対し、台湾ツアーの運行頻度は減り規模も縮小したと明らかにした。韓国への団体ツアーは20%減少したという。「よく知られている」理由から、中国人観光客が「より友好的な他の旅行先を選びつつある」との見方を示した。

中国国際航空(エア・チャイナ)(601111.SS) (0753.HK)によると、欧州や東南アジアへの旅行者は増加している。同社のマーケティング責任者は「市場の需要に基づき運航路線を調整している」と説明した。


これまで本ブログで何度も指摘してきた話です。中国の旅行関係者から「観光客は、訪れても歓迎されない可能性のある国は避ける」というもっともらしいコメントを引き出していますが、上からの通達で彼らがそうしていることはすでに知られています。

香港、台湾に続き韓国も。中国政府が訪韓中国人観光客を20%減らすよう通達を出したそうです
http://inbound.exblog.jp/26367228/
フィリピンでも「爆買い」!?  それは中国が観光を政治の取引に使ったという話にすぎない
http://inbound.exblog.jp/26418629/

いまの中国において相手が「友好的」な国かどうかを判断するのは国民ではなく政府です。「観光は外交の一部」という言葉じりだけとれば、そのとおりなのかもしれませんが、本来、民間レベルの国際親善や異文化交流など、さまざまな意義のある観光をここまで露骨に政治の取引に使ってばかりいると、逆に多くの国々の人たちが旅行先として中国を選ばなくなるだろうということです。ここ数年の統計をみるかぎり、中国を訪れる外国人の数は伸び悩んでいることがそれを証明しています。

【追記】
先日、中国の旅行関係者から聞いた話では、今年中国から韓国へのチャーター便を利用したツアーはすべて禁止するよう当局からの通達があったそうです。航空機の座席を丸ごと旅行会社が買い取り、集客を図るチャーター便は大量送客の最も有効なビジネスモデルです。それを政府が民間企業に禁じるお国柄であることを知っておくべきでしょう。

そんなこともあって、いま韓国の旅行業者は日本客の誘致に力を入れようとしています。なかなか難しいのではないでしょうか。(2017.2.5)

【追記その2】
こんな記事も出ました。訪台中国人数が初の前年割れしたようです。

台湾に2016年、中国から訪れた旅行客の数が前年より約16%減少した。08年に中国人客の旅行が解禁されて以来、前年割れは初めて。一方、日本や韓国などからの訪問は増加し、海外から台湾を訪れた旅行客全体は1千万人を超えて、過去最高を記録した。

台湾の行政院(内閣)が今月、統計をまとめた。中国は昨年1月に当選した台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統に対して、台湾は中国の一部であるという「一つの中国」原則を認めるよう圧力を強めている。中国側の台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室の報道官は先月、「台湾当局の政策変更により、両岸(中台)の交流の雰囲気が悪化し、台湾に向かう民衆の意欲に影響している」などと述べていた。

統計によると、昨年の旅行客は1069万人(前年比2・4%増)。最多は中国からの351万人(同16・1%減)で、減少したとはいえ全体では最大の3割以上を占める。日本は2番目の190万人(同16・5%増)、3番目の韓国は88万人(同34・3%増)だった。

蔡氏は9日、自身のツイッターで全体数の記録更新を報告。英語や中国で使われている簡体字、日本語、ハングルなどで、「ありがとうございました!」とつぶやいた


台湾への中国人客、初の前年割れ 全旅行客では過去最高(朝日新聞2017年2月9日)
http://www.asahi.com/articles/ASK2944RHK29UHBI00T.html
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by sanyo-kansatu | 2017-01-26 03:07 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 01月 23日

ついにVPN規制!? 外国人にSNSを使わせないようでは、誰も中国に行かなくなるぞ

中国では、LINEやFacebook、InstagramなどのSNSはもちろんのこと、GmailやYOU TUBE、ユーストリーム、ニコニコ動画をはじめ、YahooやExciteのブログなども閲覧不可です。

LINEやGmailが急に使えなくなったのは、2014年7月頃からでした。

LINEとGmailが使えない中国ってどうよ
http://inbound.exblog.jp/23696725/

いまの時代、海外旅行にとってSNSは欠かせないアイテムです。中国人も世界中を訪ね、旅先で撮った写真や動画を微信(WeChat)で送りまくっています。

自分たちが海外でいちばん楽しんでいることを、自国では外国人にやらせないのでは、誰も中国に足を運びたがらなくなるのではないでしょうか。こんなことでは、外国人は中国に来ることを歓迎されていないのだとみなされても仕方がありません。

外国客を呼びたいなら、中国はFacebookやLineを解禁すべきでは!
http://inbound.exblog.jp/25920704/

それでも、これまで中国でFacebookやTwitterを使うことが絶対できないわけではありませんでした。VPN(ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク)を通すことで、中国在住の日本人や日本語のわかる中国人はFacebookを利用してきたのです。

ところが、今日、以下のニュースを知りました。

ネット規制、さらに強化=VPNを許可制に-中国(時事通信2017.1.23)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017012300741&g=int

【北京時事】中国工業・情報化省は22日、当局の許可なくインターネットの仮想プライベートネットワーク(VPN)の提供を禁じる通知を出した。VPNは当局の検閲規制を乗り越えるもの。中国では、グーグルなどの規制対象サイトはVPNを通じて閲覧されてきたが、接続が一層困難となりそうだ。

中国では、当局に不都合な情報を規制する「グレート・ファイアウオール」という検閲システムが使われている。フェイスブック、ツイッターのほか、体制批判の記事を掲載する海外サイトなどの接続にVPNが利用されている。

今回の通知は、ネット情報の安全管理強化を名目に、来年3月末まで不正取り締まりを行うと定めている。

中国当局は海外からの情報流入に神経をとがらせ、これまでもVPNが機能しない状態になることがあった。今回の通知は、習近平指導部の2期目の人事を決める5年に1度の共産党大会を秋に控えた言論統制強化の一環とみられる。


先ごろ、中国の習近平国家主席はスイスのダボス会議で「保護主義」や「反グローバル化」を批判したそうです。

習近平、ダボス会議で主役 ――「鬼」のいぬ間に(Newsweek2017年1月18日)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/01/post-6748.php

「当局に不都合な情報」があっても、それを受けとめるのが為政者というもの。たかが海外のSNSを自国民や外国人が利用することすら警戒するなんて「保護主義」の極みではないか。どの口が言うのだろうか、と呆れてしまいますが、こういうことが平気で言えるわけですから、臆面もなくVPN規制を進めていくのでしょう。

これでは、外国人はますます中国に行かなくなってしまいますね。2022年には北京冬期五輪もあるのに、どうするつもりなのでしょう? 

中国の為政者というのは、きっと批判に打たれ弱いんでしょうね。
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by sanyo-kansatu | 2017-01-23 20:34 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 01月 17日

中国SNSでアパホテル炎上 春節はどうなる?

ネットで嫌なニュースを見つけてしまいました。

「アパホテル」中国のSNSで“炎上”「南京大虐殺を否定するCEOの著書が客室に」 
告発動画「微博」で6800万再生(ITmediaニュース2017年01月17日)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1701/17/news088.html

日本のホテルチェーン・アパホテルが、中国のSNS「微博」で炎上状態になっている。「アパホテルCEOが執筆した、南京大虐殺を否定する内容を含む書籍が全客室に置かれている。中国人はこの事実を知った上で宿泊するかどうか決めるべき」と、米国人の学生が「微博」に動画を投稿して告発。この動画が2日で6800万再生を超え、中国ネットユーザーの批判を浴びている。

動画は、米ニューヨークに住む米国人女子大学生Katさんと中国人男子大学生Sidさんのコンビ「KatAndSid」が15日夕方に投稿したもの。2人は1月、東京に旅行に行った際、アパホテルに宿泊し、部屋にあった書籍を読んでショックを受けたという。

書籍は、アパグループ代表の元谷外志雄さんが「藤誠志」のペンネームで執筆した「理論近現代史学II」(英題は「THEORETICAL MODERN HISTORY II」)で、「南京大虐殺はねつ造だ」「従軍慰安婦の強制連行はなかった」などと主張している。

動画では、Katさんがアパホテルのフロントで書籍を購入し、ページを開いて英語版の内容を紹介。南京大虐殺を否定している部分などを読み上げ、「彼には、自分の本をホテルに置いたり自分が言いたいことを言う権利はあるが、彼の政治的思想を知らない中国人・韓国人客からお金を取っているのは不誠実だ。このホテルに支払ったお金は、CEOのこのような政治的思想をサポートすることになる」と話す。

2人は日本で素晴らしい時間を過ごしたといい、「日本の人達はとても親切で礼儀正しい」と称賛。アパホテルの書籍を批判する動画を公開するかは迷ったが、「このホテルにお金を払う人は真実を知るべき」と考え、公開に踏み切ったという。「これはこのホテルだけの問題で、この国やこの国の人々には関係ない。日本をディスるつもりはない」としている。

動画は17日午前11時半までに6800万再生を超えた。シェアは60万以上、「いいね」は32万以上、コメントは2万9000以上投稿されており、「客観的なリポートをありがとう」「このホテルには泊まらない」などの声が寄せられている。

中国共産党の機関誌「人民日報」国際版の「GlobalTimes」もこの問題を報道。記事によると、中国の旅行会社・黄光グループは、この問題を受けてアパホテルの予約受け付けを停止したという。アパホテルの公式サイトは17日午前10時現在、つながりづらい状態になっている。


この記事では、悪名高い中国のタブロイド紙「環球時報」の英語版でもこの問題を取り上げていることや、海外向けにはYOU TUBEも活用されていることを紹介しています。

Chinese outraged over books at Japanese hotels that deny Nanjing Massacre(南京虐殺を否定する日本のホテルの本に中国人は憤慨する) (Global Times Published: 2017/1/16)
http://www.globaltimes.cn/content/1029025.shtml

RIGHT-WING NATIONALIST HOTELS IN JAPAN 每个人都应该知道的事实(日本の右翼・国家主義者のホテル)(YOU TUBE)
https://www.youtube.com/watch?v=rmoTcP-G8r8

このように中国は、いつでも対日宣伝戦を用意しているんですね。たまたま今日配信されていたJBPressの以下の記事がそのテーマを扱っていたので、やっぱりなあという感じです。

無から有を創り出す中国のプロパガンダ戦略
『孫子』はいまも生き続けている(JBPress2017.1.17)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48918

今月1月28日は中国の旧正月(春節)ですから、この時期にこの一件を問題にしたのは、中国客の訪問を待つ日本のホテル業界をはじめとするインバウンド関係者とその背後にある世論に対する揺さぶりのためでしょう。もしこれで中国客のキャンセルが続出という事態にまで至るとしたら、「悪いのはアパグループだ」と責任を押しつけることで、同グループの評判を落とし、日本国内での立場を貶め、結果的に、自らの主張を認めさせることを迫るというわけです。そこまで波及することはなくても、アパグループに対して中国客の予約キャンセルを集中的に浴びせるよう自国民を誘導することで、同じ成果を手にすることを目的にしているのです。

※アパグループの客室稼働率は好調で、外国人利用比率も高いことで知られています。国籍的には必ずしも中国客の利用だけでなく、多国籍化が見られるようですが、地方都市では中国の団体客の利用も多そうです。

アパグループの都心出店攻勢は驚異的。今年も続々開業予定
http://inbound.exblog.jp/24543248/
今年4月、アパホテルの宿泊客の4人に1人が外国人だったことの意味
http://inbound.exblog.jp/24687702/
「ホテルは立地産業。五輪前のいまは攻めどころ」(元谷外志雄アパグループ会長)
http://inbound.exblog.jp/24688926/

中国の宣伝戦の特徴は、まず標的を決め、標的とそれ以外の民衆との間に敵対関係を演出し、お互いをいがみ合わせることにあります。最初にアメリカで火をつけ、中国国内に還流させるというやり方もよく計算されたものでしょう。

昨秋、中国政府は香港や台湾に続き、THAAD配備を決めた韓国への観光客を減らす通達を出したばかりです。その狙いは、これらの国々の経済に打撃を与え、中国の意向に従わないことは不利益をもたらすと悟らせることです。中国政府にとって観光は政治の取引に使う道具でもあるのです。

香港、台湾に続き韓国も。中国政府が訪韓中国人観光客を20%減らすよう通達を出したそうです
http://inbound.exblog.jp/26367228/

さすがに、この並びに日本を加えてしまうと、中国客を送る有望な海外旅行先が減ってしまい、困るのは中国の旅行産業ではないかという事情もありそうですが、中国政府としては、日本に対しても「いつでも観光客を減らすことはできるんだぞ」という脅しの意味はありそうです。

それでも、PM2.5苦にあえぐ中国都市部の中間層は、春節休みを使って海外逃避を図ろうとする動きは強いようです。その人気先は、タイと日本だそうです。

今年の春節休みも「肺を洗う旅」の中国客はどっと来るのだろうか?
http://inbound.exblog.jp/26552082/

さあ、これからどんな展開になるのか。

今回は特定の企業を標的にしましたが、こうしたことは対象を変えて今後も起こりうることでしょう。

それにしても、こんなことして、世界中に争いの種をふりまいてばかりでどうするのでしょう。わかりやすい敵を設定し、民衆同士を盲目的に対立させ、諍いの火を投げ込み、双方を怒りや憎しみで火だるまにすることで、自らへの批判が向かわないようにするというのは、中国の為政者の常套手段です。自国内で散々繰り返されてきた民衆間の対立を煽る「工作」を、彼らは国際社会に持ち込みます。でも、これを仕掛けられたら、文革のときに苦しめられた中国の人たちと同じように、海外の人たちも中国の為政者をますます警戒するようになってしまいますよね。少なくとも、アジアにおいては、逆効果を生み始めているように思います。

【追記】
翌日、中国からアパホテルのネット予約ができなくなりました。これで政府が関与していることがはっきりしましたね。

アパホテル、ネット予約できず=南京事件否定の書籍批判-中国(時事通信2017/01/18)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017011800833&g=soc

【北京時事】中国の複数の大手インターネット旅行代理店で18日、客室に旧日本軍による「南京事件」を否定する内容の書籍が置かれているとして、批判が出ているアパホテルの予約ができなくなった。中国は27日から春節(旧正月)の大型連休に入る。日本も人気の旅行先だが、影響が長引く可能性もある。

このうち、予約サイトの「携程(シートリップ)網」では、18日には検索しても同ホテルが表示されなくなった。

問い合わせ先の担当者は「南京大虐殺を否定するような書籍が置かれているため。国内の多くのサイトでも予約できない」と語った。

書籍はアパグループの元谷外志雄代表の著作で、中国が犠牲者30万人と主張する「いわゆる南京虐殺事件がでっち上げであり、存在しなかったことは明らか」と記述している。同グループは「事実に基づき本当の歴史を知ることを目的としている」として、客室から撤去しない方針を示している。

日本国内のアパホテルは155カ所。アパホテルの公式サイトがつながらない状態になっており、アパグループは「詳細は調査中だが、サイバー攻撃と思われる異常なアクセスが継続している」と指摘した。


【追記その2】
朝日新聞でもこの問題を取り上げています。

南京事件に否定的な本、中国でホテル批判(朝日デジタル2017年1月19日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12754217.html

この記事によると、(ホテルに)「何を置くかは自由」という識者の声がある一方、訪日外国客の受入れを担うインバウンド関係者の以下のようなコメントを載せています。

中国人観光客を受け入れる旅行会社(福岡市)の役員は「日本国内に歴史修正主義的な議論があることは中国人はよく知っている。『またか』と受け止めるのでは」。一方、ある大手旅行会社幹部は「中国の人たちが日本全体のおもてなし業界に不信感を持つことが心配だ」と話す。

記事に客観性を持たせるために、異なる意見を併記するということなのでしょうが、中国側の主張を直接受けとめざるを得ないのがインバウンド関係者であることから、こうしたコメントを引き出すこと自体、中国政府の狙いどおりともいえます。

こんな記事も出てきました。

アパホテルの南京大虐殺否定本に対抗、中国のホテルが「ラーベの日記」を客室に―中国メディア(2017年1月19日レコードチャイナ)
http://www.recordchina.co.jp/a161256.html

(一部抜粋)2017年1月19日、澎湃新聞によると、日本のビジネスホテル大手のアパホテルが客室内に南京大虐殺を否定する本を置いた問題で、中国浙江省台州市のホテルがこのほど、旧日本軍から南京市民を救ったとされるドイツ人、ジョン・ラーベの日記を客室に置くと発表した。

こういうお調子ノリが中国ではすぐ出てくるんですよね。これなど「わかりやすい敵を設定し、民衆同士を盲目的に対立」させる政府の狙いを忖度し、同調する動きといえるでしょう。

【追記その3】
ついに中国政府は表に立ってアパホテルの利用中止を国内業者に強制し始めました。ここまで騒ぎ立てなければ気がすまないやり口をみる限り、特定の企業を標的にした「対日宣伝戦」という見立てどおりでしたね。

アパホテルの利用中止要求 中国政府、国内旅行業者に(朝日新聞2017年1月24日)
http://www.asahi.com/articles/ASK1S5FTNK1SUHBI01G.html

要するに、中国政府は今回の仕掛けによって、毎度のことですが、中国の民衆が日本の「右翼」の「歴史認識」について怒りを持っているというメッセージを広く日本の一般国民に印象付けることが目的だったのです。結果、アパホテルの中国客の利用が減れば、それもまたなおよし。日本国内に波紋をもたらし、自国民の批判の矛先を回避させるというふたつの目的を一挙に達成できる。両国民の関係を険悪にさせることは、いまの中国の為政者にとっては好都合なのです。
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by sanyo-kansatu | 2017-01-17 14:59 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 01月 14日

北海道のローカル駅の線路に入る「危ない訪日客」が出没する理由がわかってしまいました

今朝、ネットで地方新聞のこんな記事を読みました。

線路から撮影 危ない訪日客 JR朝里駅へ映画ロケ地巡り(北海道新聞2017.1.13)
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/life-topic/life-topic/1-0357425-s.html

【小樽】JR函館線朝里駅(小樽市朝里)の周辺で、線路に入って写真を撮る外国人観光客が相次いでいる。昨年12月から列車の急停止や発車の遅れが6件発生。朝里でロケをした映画が中国と韓国で上映されたことを契機に、無人駅の同駅を訪れ、記念写真を撮る外国人観光客が増えていることが背景にあるようだ。JR北海道は朝里駅や小樽駅に注意を呼び掛けるポスターを張って再発防止に努めている。

朝里駅を所管する小樽駅によると、線路内に入る外国人観光客が最初に確認されたのは昨年12月4日。遮断機が下りている同駅近くの踏切内にいた外国人を普通列車の運転士が発見。同駅を出発するのが5分遅れた。その後も1月12日までに外国人が線路内に入ったり、踏切内に入ったりして列車が急停止や遅れた事例が5件続いた。列車の乗客も含めけが人はなかった。

朝里駅は2015年1月、新婚夫婦がハネムーン先の小樽で繰り広げる人間模様を描いた台湾の監督の短編映画のロケ地となり、同8月に中国で公開された。また、韓国では1995年に日本で公開され、99年に韓国で大ヒットした映画「Love Letter(ラブレター)」が昨年1月に再上映された。ラブレターは小樽市朝里の中学校がロケ地の一つで、短編映画とラブレターの再上映によって、中国人や韓国人の間で朝里の人気が高まっているという。


このところ連日出てくる“人騒がせな外国人観光客”の新ネタがまた登場したかと思いながら読んだのですが、記事に出てくる2015年夏に中国で公開されたという「台湾の監督の短編映画」とはどんな作品なのか気になったので、ネットで調べてみました。

なんでも5人の若手監督によるラブストーリーを集めた中国のオムニバス映画『Cities in Love(恋愛する都市)』の一編として、台湾人監督の傅天余さんが撮った『蜜月』という作品だそうです。傅さんは1973年台中生まれの女性で、『Love Letter』の岩井俊二監督に影響を受けたといいます。岩井監督はこの映画の監修も務めています。

【参考】
恋爱中的城市 (2015)
https://movie.douban.com/subject/26263443/
傅天余 Fu Tien-yu
https://movie.douban.com/celebrity/1320962/
台湾の監督が小樽ロケ!(2015年1月に行われたロケの経緯について)
http://kitanoeizou.net/blog/?p=9740
中国映画のロケ撮影が茨木家中出張番屋でありました   
http://tanage.jp/info/?c=1&s=16491

いったいこの作品はどんなストーリーなのでしょうか。中国のネットで調べてみると、北海道を舞台にした中国人カップルのハネムーン旅行を描いた20分ほどの短編作品ということです。

(参考)
最爱北海道蜜月之行的那个故事
https://movie.douban.com/review/7594646/
《恋爱中的城市》北海道特辑 江一燕张孝全蜜月(人民網2015年07月31日)
http://ent.people.com.cn/n/2015/0731/c1012-27393427.html
《恋爱中的城市》曝特辑 江一燕张孝全“滚床单”
https://m.sohu.com/n/417908331/

実際に映画を観ることにしました。YOU TUBEで誰でも観ることができます。
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恋爱中的城市(YOU TUBE)※『蜜月』は1時間2分40秒頃から。
https://www.youtube.com/watch?v=JT6K7HyzAPE

とてもほのぼのしたいい映画でした。この作品に見られる日本人に対する温かいまなざしは、いかにも台湾人監督らしいと感じました。ハネムーンの話ということで、いまの若い台湾人や、おそらく中国人も、日本で体験したいことがすべて盛り込まれているような印象です。

本当はこんなネタバレ許されないことなのですが、いま彼らが日本でどんな旅行をしたいのかを理解するという観点から、作品のいくつかのシーンをストーリーに沿って紹介しようと思います。
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ふたりが窓の外の雪景色を見ながら温泉に入るシーンから始まります。
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部屋に戻ったふたりがそろそろ床に就こうとしていると、新郎の携帯が鳴ります。電話の相手は彼の会社のボスで、彼のスマホに北海道産のある干物屋の写真を送ってきます。要するに、土産に買ってこいというわけです。
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「磯松屋」とあります。

翌朝の朝食シーンです。少々抵抗を覚えつつ、納豆を食べてみるというのは中国人の日本旅行の定番シーンです。
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新婦は北海道で行きたいこと、食べたいもの、体験したいことを時間刻みにいっぱい計画していて、そんな話ばかりしています。ところが、彼は浮かない顔。その理由は、昨晩のボスからの電話で頼まれた「磯松屋」の干物を土産に買ってこなければならないことを彼女に告げなければならないからです。
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結局、そのためふたりはその日の温泉宿をキャンセルし、住所しかわからない「磯松屋」を訪ねることになります。

小樽駅で駅員に降りるべき駅を聞いているシーンです。
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そして、ふたりは朝8時7分発の長万部行きに乗り込みます。
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自分の立てていた計画をすっかり変更させられたことで、彼女は電車の中でそっぽを向いています。
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駅弁シーンも盛り込まれています。「本当は焼肉を食べるはずだったのに…」と彼女は不満げです。
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そして、ふたりが降りたのが問題のJR函館本線の朝里駅です。小樽駅から札幌方面に向かう2つめの駅です。
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この映画を観た中国客たちが「危ない訪日客」となってしまうのです。ここは無人駅です。彼らからすると、映画のようにふたりだけの世界になれる無人駅ほど気分を盛り上げてくれるスポットもないのだろうと思われます。だいたい無人駅だなんて中国では考えられないでしょうし。
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面白いのは、その後ふたりは路線バスに乗ることです。中国の人たちというより、特に台湾の人たちが、こういうことを体験したくてたまらないのでしょう。日本のテレビ局が予算をかけずに作れることから盛んに放映している路線バスの旅番組の影響もあるのかもしれません。バスの中ではふたりの気持ちはとうとう離れてしまったようです。「せっかくのハネムーンなのに、自分はどこに連れて行かれているのだろう…」。彼女の気持ちは理解できます。
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バスを降りて、雪道をどこにあるのかもわからない干物屋を探して歩いているうちに、ふたりは大喧嘩を始めてしまいます。そして、ついに彼女は彼を置き去りにして、ひとりで歩いていってしまいます。
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そして、日が暮れます。ところが、なぜか日本家屋の中で横たわっている彼女のシーンに変わります。隣の部屋では老夫婦が睦まじく食事をしています。奥さんがご主人の茶碗にたくわんを入れてあげようとしているところなど、実に演出が細かいというべきか。
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一方、彼は大雪の人通りのない路上でスーツケースの上に座って途方に暮れています。すると、先ほどやけになって雪の中に投げ込んだ携帯が鳴ります。彼は慌てて雪の中から携帯を取り出します。彼はその電話の相手をボスだと思いこんでいます。というのも、昨晩からうるさいくらい何度も掛かってきていたからです。
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ところが、相手は彼女でした。そして、彼女は言います。「本当に見つかったのよ(我真的找到了)」。この台詞がいいですね。でも、彼は最初、その意味がわかりません。
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そして、次に映し出されるのが干物の入った「磯松屋」の木のケースでした。詳しい経緯は語られませんが、彼女はすでに干物屋を見つけていて、家の中で休ませてもらっていたのです。
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「磯松屋」の老夫婦は不思議そうにふたりを見つめます。「新婚旅行?」「こんなところに?」「若い人たちが考えることはわからないわねえ」。
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そして、彼らは自分たちが新婚旅行でハワイに行った話を始めます。ご主人はその費用を会社の社長に借りて、返すまでに2年もかかったという話をします。
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もちろん、ふたりはそんな日本語がわかるはずもないのですが、熱燗を酌み交わします。
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この日、喧嘩ばかりしていたふたりが寄り添うところで終幕です。

さて、この作品には、以下のようなシーンが出てきます。

雪景色、温泉、納豆、ローカル線、駅弁、無人駅、ローカルバス、雪道を歩くこと、日本酒、ホームステイ(民泊)

一見なんの変哲もないシーンのようですが、これらはすべていまの若い中国人が日本で体験したいことのラインナップ(もちろん、一例ですけれど)だと解釈できるのではないかと思いました。

ここには、彼女が計画に入れていた和牛の焼肉やタラバガニの食事もそうですし、ドラッグストアや免税店の買い物といった一般の日本人がイメージする訪日中国客が日本でやってることは一切出てきません。彼女が「見つけた」ものの価値に比べれば、そんな誰でもできるようなものなんて、たいしたことではないのです。

(とはいいつつも、実際には、帰国の前日、彼らは札幌市内のドラッグストアと免税店に必ず行くことになるとは思いますけれど….。それじゃ物語が台無しですものね)。

最初にも書きましたが、日本人老夫婦のキャラ設定やその描き方は、台湾人監督ならではで、地方に住む日本人の雰囲気をよく理解していると思いました。この世代の老夫婦の新婚旅行先がハワイだった(おそらく1970年代)という台詞も、昔から日本のことをよく知っている台湾人だからわかる話で、最近になって海外旅行に行き始めたばかりの中国人にはちょっと想像がつかないことでしょう。

「危ない訪日客」はこの作品を観た人たちだったのです。まずこれを確認しておきましょう。

だからといって、線路に降りたり、踏切内に入ってしまうことは問題です。

では、どうやって彼らにそれをやめさせるか。そのための告知をどうするか。北海道新聞の記事にあるように、駅に外国語表示を付けるだけでは十分ではなさそうです。やはり、こういう場合は、日本にある中国国家観光局に申し入れをして、中国側にメディアなどを通じて伝えてもらうことではないでしょうか。

せっかくのいい映画なので、これが元でお互いが険悪になるのだけは避けたいものです。

ところで、オムニバス映画『Cities in Love(恋愛する都市)』の残りの4つの作品の舞台は、プラハ、パリ、上海、フィレンツェです。それぞれ監督も違い、作風もまちまちですが、『蜜月』ほど旅を誘ってくれる作品はないと思います。

【追記】
この北海道を舞台にしたラブコメ映画は、2008年に中国で公開された 『非誠勿擾』(馮小剛監督)と比べてみると、いろんな意味で、この間の時代の変化を感じさせます。

非誠勿擾公式サイト
http://feichengwurao.sina.com.cn/
非誠勿擾 (YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=F1MOIhEVluI

この作品については、すでに多くの解説が行われているので、詳しくは触れませんが、ひとことで言えば、「中国人が北海道を発見」するきっかけとなる映画でした。普段は「日本といえばニッポン兵」とばかりに抗日ドラマばかりを見せられていた彼らにとって、映像で目にした北海道の風景は日本のイメージを大きく変えたといわれています。

当時、中国人に対する個人ビザが解禁されていませんでしたから、カップルが自由に車で移動しながら北海道を旅行するということは、一般中国国民にはできないことであり、それゆえ大ヒットとなったのです。当時は、「団体ではなく、個人で日本を旅行する」ということが憧れだったのです。

※主人公の男性が「海亀」(海外で働いた後、帰国した中国人)という設定だから、この時期、個人旅行できたといえます。商務ビザで日本を訪ねる人たちと同じです。

その後、北海道は中国人の人気観光地になり、大挙して訪れたことは周知のとおりです。

そして、『蜜月』が公開された2015年、すでに多くの個人客が日本を訪れるようになっていました。特にこの年1月の個人マルチビザの緩和は訪日中国客を倍増させました(14年:240万人→15年:499万人)。

監督が台湾人であることを大きく差し引かなければならないとは思いますが、『Cities in Love(恋愛する都市)』はまがりなりにも中国映画ですから、いまの中国人の日本旅行のニーズを先取りし、体現しようとしているところはあると思います。『蜜月』のカップルは、当たり前のように、個人ビザで北海道を訪れ、雪景色の温泉旅館に泊まっています。でも、それだけでは普通すぎる。この作品では、ふたりが新郎の会社のボスの与えた難題に応えなければならなかったため、結果的に、ローカル鉄道や路線バスに乗り、知らない町で日本人夫婦と交流することになるのです。
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by sanyo-kansatu | 2017-01-14 14:12 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 01月 13日

今年の春節休みも「肺を洗う旅」の中国客はどっと来るのだろうか?

この冬も中国のPM2.5は猛威をふるっているようです。

北京の街が白く…PM2.5で大気汚染深刻(日テレNEWS24 2016年12月20日)
http://www.news24.jp/articles/2016/12/20/10349524.html

今年の春節は1月28日ですが、こんなニュースも届いています。

中国で「肺洗浄の旅」が人気 大気汚染まん延で需要増加(Forbes Japan2017.1.12)
http://forbesjapan.com/articles/detail/14845

中国は、2017年の始まりを、濃霧に対するものとしては同国史上初となる最高レベルの「赤色警報」と共に迎えた。1月4日には、濃霧によって視界が50メートル以下に悪化。航空便や地上交通に大きな混乱が生じた。

ハルビンから広州、成都から杭州にいたるまでの各都市ではスモッグに警戒を呼び掛ける「赤色警報」やその1段階下の「オレンジ警報」が発令され、私用車の交通が半分に制限された他、大気汚染の原因となっている工場の多くが操業停止を強いられた。

こうした中、中国のインターネット検索エンジンでは、大気汚染に関連する検索数が過去最多を記録。「どこに行くべきか」「洗肺(肺の洗浄)」「森」といった検索が相次いだ。また中国最大の旅行サイト、シートリップ(携程)は、「避霾(スモッグ回避)旅行」のトレンドに関する報告書を公開している。

同報告書によると、「避霾旅行」は近年、冬の観光において定番化している。2016年12月には15万人以上の中国人が大気汚染を逃れるため海外に渡航しており、新鮮な空気に対する欲求が中国の海外旅行需要の拡大における大きな要素となっていることを示しているという。

エール大学が毎年まとめる「環境パフォーマンス指数(EPI)」によると、空気の質が良い上位10か国は上からセーシェル、トリニダード・トバゴ、モルディブ、アイスランド、オーストラリア、ガイアナ、ニュージーランド、キューバ、モーリシャス諸島、ベリーズだった。

シートリップによると、新鮮な空気を求める中国人の旅行先として人気の上位10か国はタイ、日本、インドネシア、オーストラリア、モルディブ、ニュージーランド、米国、カナダ、モーリシャス諸島、セーシェルで、うち5か国はEPIのランキングでも上位10位内に入っていた。

日本を訪れる中国人観光客は、澄んだ空気を求めて北海道や九州、沖縄などの小さな村々を訪れているという。またオーストラリアとニュージーランドは夏冬が逆転する気候が、カナダは美しく広大な国立公園が人気となっている。

シートリップは、大気汚染レベルの上昇と旅行需要の増加には明確な相関性があると指摘している。避霾旅行が人気の都市には、大気汚染が特に深刻な北京と天津に加え、上海、成都、広州、深セン、重慶、西安、武漢、済南が上位10位に入った。また近年大気汚染レベルが上昇傾向にある長江デルタ地帯の江蘇省や浙江省でも、避霾旅行の需要が高まっているという。

今冬は、北欧でのオーロラ鑑賞ツアーの予約数が4倍に急増。また、「世界最後の浄土」である南極を訪れるツアーも、費用が高額にもかかわらず中国人の間で人気となっている。より経済的な旅行先としては、韓国の済州(チェジュ)島、タイのプーケット、インドネシアのバリ島、フィリピンのボラカイ島などが人気だという。

シートリップが集めたデータによると、旅行者の多くは旅行先を選ぶ際、まず空気の質と気候で絞り込み、その次に出発地からの距離や乗り継ぎの便利さなどを考慮していた。パッケージツアーもそうした需要に合わせて名前を変え、「きれいな空気と酸素で肺洗浄」や「乗り継ぎなし、スモッグなしの暖かい冬」といった宣伝文句で売り出しているのだという。


なかなか深刻ですね。この記事では「シートリップによると、新鮮な空気を求める中国人の旅行先として人気の上位10か国はタイ、日本、インドネシア」と伝えています。だとすれば、今月末に始まる春節で「肺を洗う旅」の中国客はどっと来るのでしょうか。

この記事を書いているドイツ人のWolfgang Georg Arlt氏は、2004年に自ら設立したCOTRI(中国出境旅游研究所)の代表として、中国の海外旅行市場に関する精力的で継続的な調査研究を行っている研究者です。

Wolfgang Georg Arlt
http://forbesjapan.com/author/detail/643
COTRI(China Outbound Tourism Research Institute)
http://china-outbound.com/
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数年前、ぼくは北京で彼の話を聞いたことがありますが、彼は中国の海外旅行市場の隆盛を国際社会に伝える第一人者です。

2012年、中国は米独を抜いて世界一の海外旅行大国になった(COTTM2013報告 その2)
http://inbound.exblog.jp/20499744/

さて、ここに出てくる「洗肺(肺の洗浄)」の旅については、いまから3年前のこの時期、中国のメディアで盛んに取り上げられ、流行語になっていました。中華網(www.china.com)によると、こういう意味だそうです。

「洗肺游」は、空気がきれいな場所へ旅行し、肺をきれいにすること。2013年の冬、中国では多く地域が深刻なスモッグに見舞われ、空気がきれいな場所へ行く「洗肺游」が観光市場の新しいトレンドになった。国内の多くの旅行社と観光ウェブサイトでは、この「洗肺游」を企画、販売している。人気の「洗肺」地は、国内は三亜、アモイ、麗江、桂林、昆明、長白山、シーサンパンナ、貴陽、大理、黄山など。海外では、プーケット、バリ島、モーリシャス、チェジュ(済州)島、モルジブなどが人気である。

中国の新人類は日本の青空に魅せられている
http://inbound.exblog.jp/24302307/

昨年末、大雪による欠航で新千歳空港で夜明かしした「中国客」がゲートに乱入した騒動がありました。

「「大雪欠航」でゲートに乱入、新千歳空港で中国人観光客大暴れ」の背景を考える
http://inbound.exblog.jp/26507044/

実は年末年始にも、今度はPM2.5のために多くの中国の空港が濃霧に覆われ、離発着ができないため羽田空港で夜明かしした中国客が出たことも伝えられたばかりでした。

大晦日に帰国予定の中国人観光客、スモッグ酷く羽田で年越し 快晴の初富士まで拝む羽目に・・・ (サーチナ2017-01-05)
http://news.searchina.net/id/1626473

年末年始も激しいスモッグに見舞われた中国国内では、航空便の欠航や大幅な遅延が相次いだ。東京の羽田空港では、大みそかに帰国するはずだった多くの中国人観光客が空港内で「越年」する事態となった。
「1月2日午前3時半、私が乗った飛行機は濃いスモッグが立ち込めた天津浜海国際空港に停止した。キャビンのドアが空いた瞬間、大半の乗客が激しい咳をし始めた」

中国メディア・斉魯晩報は4日、「スモッグのせいで東京に閉じ込められて越年 2度の遅延で帰国」とする記事を掲載した。記事は、年末に日本を訪れ旅行していた記者が昨年12月31日夜のオッケー航空(奥凱航空)便で羽田から天津に戻ろうとしていたところ、激しいスモッグにより遅延となり、出発が翌1月1日の午後以降にずれ込む見込みであるとの情報を得たと紹介。「乗客たちは空港で年越しの夜を過ごし、さらにその半日後にようやく帰国の途に就くこととなった」とした。

そして、スモッグにより遅延が発生したフライトはこの便だけではなく、羽田空港内の至る場所で中国北部地方へ向かう中国人観光客が充満していたことを伝えている。さらに、1月1日午前には「さらに残念な情報が国内から伝わってきた」とし、中国北部地域のスモッグが消えるどころかさらに酷くなり、目的地である天津などの空港では視界が50メートルにまで低下したと紹介した。

結局記者が乗る予定だった航空便はほぼ丸1日遅れて日本時間2日未明に出発、北京時間同午前3時半に天津に到着した。記事は最後に「天津から山東省の済南に向かう高速鉄道に乗った際、空はすでに明るくなっていたが、窓の外に見る華北平原は依然として濃い蒼白な色に覆われていた」とまさに「五里霧中」の状況であったことを伝えている。

冒頭に紹介した到着時の実況が、スモッグの激しさをリアルに物語っている。記事はまた「空気を吸っただけで帰って来たって分かったよ」と語った中年男性の話を「天津人特有のユーモアである」と紹介しているが、彼らに取ってみれば「ユーモアで済まされるレベルではない」といったところだろう。

皮肉なことに1月1日の東京は見事な快晴で、羽田空港からは富士山をはじめとする山々がはっきりと見えたという。運悪くして「めでたい風景」を拝むこととなった中国人観光客の心中は、さぞや複雑だったことだろう。


実は、ぼくも数年前に北京空港がPM2.5による濃霧に覆われ、帰国便が欠航になり、足止めを食ったことが2度あります。いつぞやこの国のリーダーは、国際会議の数週間前から北京周辺の工場の稼働を強制的に止めた挙句、記者会見場で「APEC Blue」などとうそぶいていたことを思い出します。本人はジョークのつもりだったようですが、会場の外国人を大いに引かせたことに気づいていないのが辛いところです。

中国政府は香港、台湾、韓国に対して自国の旅行客の渡航を制限する通達を出しています。

香港、台湾に続き韓国も。中国政府が訪韓中国人観光客を20%減らすよう通達を出したそうです
http://inbound.exblog.jp/26367228/

そうしたことから、この3ヵ国・地域を外したタイや日本、インドネシアなどが旅行先に選ばれることになりそうです。
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by sanyo-kansatu | 2017-01-13 07:17 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2017年 01月 11日

2016年の訪日外国人数は2400万人超ですが、もう数の増減だけの議論はやめてほしい

1月10日、石井国土交通大臣は記者会見で、2016年の訪日外国人数の推計値が2403万人であることを明らかにしました。日本政府観光局(JNTO)による各国別も含めた訪日外国人数(推計値)の公表は、来週の17日(火)の予定ですが、過去最高となる数値を政権与党としてはいち早く発表したかったものと思われます。日本の経済指標で二桁、しかも20%超で成長している分野は少ないことから、訪日外国人市場への取り組みを政権の看板政策のひとつとして見せたいのかもしれません。

NHKは以下のように伝えています。

去年の訪日外国人旅行者 2400万人超 過去最高更新(NHK1月10日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170110/k10010833931000.html

去年(平成28年)1年間に日本を訪れた外国人旅行者はアジア各国との間で航空路線が増えたことなどから推計で2403万人余りとなり、過去最高を更新しました。

国土交通省の発表によりますと、去年1年間に日本を訪れた外国人旅行者は推計で2403万9000人となり、これまでで最も多かったおととし(平成27年)の1973万7409人より430万人余り、率にして21.8%増えて過去最高を更新しました。

これは、アジア各国との間で航空路線やクルーズ船が増えたことに加え、中国やベトナムからの旅行者向けのビザの発給要件が緩和されたこと、さらに外国人旅行者に対する免税制度が拡充されたことが主な要因です。

政府は、空港や港などのインフラ整備や地方の観光資源の掘り起こしなどを通じて日本を訪れる外国人旅行者を2020年に年間4000万人に増やすことを目標にしています。

石井国土交通大臣は閣議のあとの記者会見で「クルーズ船のさらなる受け入れに向けた環境整備や、富裕層などをターゲットとしたプロモーション活動などを戦略的に進め、目標の達成に向け政府一丸で取り組んでいきたい」と述べました。

官房長官「2020年に4000万人実現を」

菅官房長官は閣議の後の記者会見で「安倍内閣としては、観光を地方創生や成長戦略の切り札と位置づけ、ビザの戦略的緩和や免税制度の思い切った拡充など、大胆な取り組みをやつぎばやに実行しており、それが大台につながった。ことしも訪日外国人の勢いが止まることが無いよう、さまざまな対策をしっかり行って、2020年に4000万人を実現したい」と述べました。


朝日新聞も次のような記事を配信しています。

昨年の訪日客、2403万9千人 過去最多更新(朝日新聞2017年1月10日)
http://www.asahi.com/articles/ASK1B3CJBK1BULFA009.html

朝日の記事のポイントは「増加は5年連続だが、伸び率は15年(47%増)より鈍化」したと指摘していることでしょうか。ネット記事のタイトルは上記のとおりでしたが、11日の朝刊記事では「訪日2400万人 鈍る勢い 昨年最多 欧米富裕層にPRへ」となっているように、石井国交相の「目標に向かって堅調な伸びを示している」との認識を伝える一方、15年に比べ増え方が鈍ったことや1人あたりの消費額も前年割れする見通しを伝えています。また、とってつけたように「欧米の富裕層へのPRに力を入れる方針」にも触れています。

一方、日本経済新聞は前向きな捉え方をしています。

16年の訪日客2400万人超、最高を更新 5年連続の増加(日本経済新聞2017/1/10)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS07H0M_Z00C17A1MM8000/

(一部抜粋)中国や韓国からの観光客が堅調だった。ただ、全体の伸び率は、円安やビザ発給要件の緩和などで前年比約5割増だった15年に比べて緩やかになった。一時の円高傾向や熊本地震、中国経済の減速などが響いた。

一方、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど東南アジア各国からの観光客が大きく増えた。現地で実施した誘致のためのキャンペーンや新たな航空路線の開設などが寄与した。

政府は訪日客のさらなる増加に対応するため、受け入れ体制を整える。17年度予算案では、観光庁予算を過去最大の256億円としたほか、首相官邸主導で他省庁の予算でも観光関連分を拡充した。菅義偉官房長官は17年に取り組む重点施策の一つに観光分野を挙げており、特に地方経済の活性化につなげたい考え。

農林水産省は従来の農山漁村の振興交付金に50億円の「農泊」枠を新設した。政府は皇居や御所など全国の皇室関連施設の公開拡大も進める方針で必要な運営経費を新たに計上する。テロなど治安対策に向けては、国土交通省はボディースキャナーなど高性能な保安検査機器を19年までに国内の全ての主要空港に整備する。


東南アジア客の増加を強調しているところなど、朝日とは少し見方が違うようです。また受入態勢の整備への予算増や治安対策などについても触れています。

各国別推計値については、昨年12月に出た1~11月の訪日外国人数の推計値をみる限り、東南アジア各国からの観光客も増えていることは確かですが、トップ2の中国と韓国がダントツです(来週わかることですが、おそらく中国約650万人、韓国約500万人といったところ)。この政治関係の良好とはいえない二国がトップ2であることは、いつまでこの「堅調な伸び」が続くかを考えるうえで小さくない懸念材料です。

では、今年はどうなるのでしょうか。数日前の産経ニュースによると「旅行大手JTBは29年の訪日客数予想を2700万人とし、小幅な伸びにとどまると分析」していうようです。「小幅な伸び」(伸び率としては16年の半減)という現実的な数字を挙げているとはいうものの、昨年より300万人増加させるということですから、そんなに簡単ではないかもしれません。

28年の訪日客数は「2400万人前後に」 石井啓一国交相 前年比2割増 プロモーションやクルーズ船増で(産経ニュース2017.1.6 ) 
http://www.sankei.com/politics/news/170106/plt1701060037-n1.html

いずれにせよ、大手メディアは訪日旅行市場の数字について、政局とからめて論じたがるところがあるようなので、2400万人を達成しても「鈍る勢い」などと書きたくなるのでしょうけれど、もう増減をめぐる評価はいい気がします。またネット上でも、訪日中国客の伸びが昨年に比べて鈍化したことを「中国経済の減速」と結びつけて、大げさにもの言いする人をたまに見かけますが(要は、中国経済はもうダメだと言いたいだけ)、2015年が訪日旅行市場にとって特別の年であり、パイが増えれば伸び率が少し落ちるのも当然なのに、そういう全体像が見えていないがゆえのおっちょこちょいに思えてしまいます。

そもそも国際関係を含めた国内外のさまざまな要因が影響する訪日旅行市場は、時によって増えもすれば減りもします。特に今年は国際情勢の変化が気になります。である以上、政府もメディアも、そろそろ市場の具体的な中身や訪日客の増加がもたらす日本社会への影響などに議論を移してほしいものです。
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by sanyo-kansatu | 2017-01-11 09:08 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 12月 28日

実は香港客だった!?「新千歳空港で中国人観光客大暴れ」報道、中国側の反論

先日、新千歳空港で起きた「中国人観光客大暴れ」報道については、中国でも話題になっていたようです。

「「大雪欠航」でゲートに乱入、新千歳空港で中国人観光客大暴れ」の背景を考える
http://inbound.exblog.jp/26507044/

上海在住の友人はこう言います。

「中国のSNS上では、中国人の恥さらしだ、けしからん。そう嘆く人も多いのですが、一方で航空会社の不手際と空港側の対応を非難する声も多いです。事実かどうかわかりませんが、彼らの反論の主旨は「航空会社がホテルを手配せず、3日間も空港での缶詰め状態で、かつ中国だったら当然ある飲食の差し入れもなく、そして航空会社からの満足のいく説明がない。これなら乗客が怒って当たり前だ。これで黙っているのは、異常な忍耐力のある日本人だけだ。これでおもてなしとか、サービスが良いとか言ってる日本人が聞いて呆れる」というものです。

ここでのひとつのポイントは食事です。天候不順やよくわからない理由で航空機が遅延した際に航空会社の職員に詰め寄って、大声で抗議しまくるのは、中国大陸ではよくあることです。ニュースになるなんてありえないくらい、本当によくあることです。

ただそういった場合、中国の航空会社も慣れたもので、まずお詫びと誠意の印として弁当などの食事とミネラルウォーターを出してくれます。中国人の気を静めるのに「食事」が重要だということをわかっているからです。食への思い入れは、日本人には想像できないものがあります。だから、航空会社は乗客を絶対に空腹にさせないことをまず考えます。中国人に日本人のような忍耐力と自己犠牲を求めるのは不可能です。他のみんなも同じ状況なのだから、自分だけ不平不満をいうのはやめようなどとは、考えられない人たちです。

そういう事情をふまえて中国側の記事を読むと、少しでも中国事情に精通している人であれば、なるほど彼らが言いたいのはそういうこと(日本側にも落ち度があったに違いない)かと納得できます。そこがわからないと、また愚かで傲慢な中国人がバカをやらかしているという最近日本でよくある失笑誘いネタになってしまいます。

今後も、アジア、特に中華圏からの観光客が増えていくなかで、マナーうんぬんは別にして、空港など公共施設や交通機関は、リスク管理が必要だと思います。

ちなみに、今回トラブったのは、正確には中国大陸人ではなく香港人のようです。そのことに、日本のメディアがどこまで気がついていたのか。もしそれを承知で「中国人観光客」と書いているのだとしたら、最近の中国人を蔑んで喜んでる系の大衆迎合報道と受け取られても仕方がありません」。

そうなんです。騒ぎを起こしたのは、中国客ではなく、香港客だったというのです。あるいは、これでは中国報道をただうのみにしたことになるので、公平を期して言うと、香港便の乗客だったようなのです。ただし、香港便は広東省住民もよく利用するので、本当のところはわかりません。

※新千歳空港の香港便は、日本航空とキャセイパシフィック航空(共同運航)、そして中国の海南航空のグループ会社の香港航空です。

さらに、彼のいう「それを承知で「中国人観光客」と書く」という意味は、ちょっと込み入っています。中国では、香港も台湾も「ひとつの中国」として見ています。つまり、香港人も台湾人も中国人だというのが中国政府の主張です。一方、日本に限らず海外のメディアは、「ひとつの中国」という主張を一応受け入れながらも、実は香港も台湾も民主的な社会である以上、中国とは別物として見ています。実際、当の本人たちもそう考えている。ですから、今回日本のメディアが騒ぎを起こした香港客のことを「中国人観光客」と書くことは、中国政府の主張に立てば間違っていないのですが、中国のネットユーザーからみると、「普段は香港も台湾も中国とは別物」と言わんばかりの日本のメディアが、粗相をしたときに限って、香港客を「中国人観光客」と書くのは底意地が悪すぎる、というわけです(ああ、面倒臭さい)。

以下は、中国版SNSのWe Chat(微信)に転載された記事です。

100余名中国游客航班延误大闹日本机场?这些幕后细节你也要知道!(100名の中国客が日本の空港
で大騒ぎ? あなたはこの舞台裏の詳細を知らなければならない) (原创 2016-12-26)
http://mp.weixin.qq.com/s/m-9PhwJQNwt3RB5zhNlB4w

上海の友人の見解は、この記事を読んで書いたものでした。日本のメディアでは一方的に中国客が悪いと報じているけれど、日本の空港側にも不手際があったのではないか、という中国側の反論です。彼らがこのように言いたくなるのは、以下のような日本のテレビ番組に対しても見られたものと共通しています。彼らだって言われ放題ではたまらないと思うのは当然のことでしょう。

中国人は自国の観光客マナー問題を煽る日本のテレビ番組に耐えられない!? (2016.5.30)
http://inbound.exblog.jp/25834092/

彼のメールを読みながら改めて思ったのは、不測の事態に陥った中国人にケアする際の「食事」の重要性の認識です。このあたりは、日本人にはまったくわからないですよね。日本人なら、物事には優先順序があり、まず重要なのは正確な情報で、こんなときに食事のことなんて言ってる場合じゃない。それが普通の感覚でしょう。

でも、彼らはそうではないのです。ひとまず落ち着かせるためには、食事に最も気を使うべきだった、というわけです。だとしても、3日3晩も夜明かしした人がいたとしたら、それどころの話ではなかったでしょうけれど。

要は、彼が言いたいのは、これだけ中国客が増えた以上、中国客専用の「取り扱い説明書」をつくり、その内容を空港関係者も把握しておかなければ、今回のようなことがまた起きるということです。

空港側が実際に夜明かし客にどのような対応したか具体的に知らないのに、あれこれ書くのは気が引けますが、考えられることは、空港側と外国客との間のコミュニケーションが十分とはいえなかっただろうということです。

基本的に日本人には中国人のモノの考え方がよくわからないので、日常的にもコミュニケーション不全に陥りやすいわけです。である以上、こういう特殊な状況ではなおさら、マニュアル的な対応だけでは、中国の人たちに対して、こちらの配慮も届かないことをまずは知るべきなのでしょう。

一方、香港のような亜熱帯に暮らす人たちは、大雪で欠航という事態を頭ではわかっても、現実的に受けとめることは簡単ではないことが考えられます。彼らにとって大雪とは天変地異と変わらないでしょうから。それだけ彼らは精神的に追い詰められていたということでもあります。

日本人の感覚では、空港の滑走路を覆う大雪を見ながら「こういう状況なんだから、しょうがないでしょう」と暗黙のうちに、言葉をかけなくても、相手も理解してくれるだろうと期待するかもしれません。しかし、それが以心伝心で伝わるのは、国内客とサハリンから来たロシア客だけだったかもしれません。

まったく難しいものです。

【追記】
その後、この件の真相を解き明かす検証記事が出てきました。

興味深いことに、以下の記事では、中国側が指摘する「騒動を起こしたのは、中国客ではなく、香港客(正確にいうと、香港線の乗客)」は誤りのようで、「13:50発予定の北京行の中国国際航空のCA170便」の乗客であるかのように書かれています。

「新千歳空港で暴れた中国人乗客」騒動の真相(Wedge2017年1月17日)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8701

えっ、騒動を起こしたのは、やっぱり中国客だった? 

一方、この記事を受けて、ひとりの在日中国人の論客が以下の記事を書いています。

中国人観光客による新千歳空港での「暴動」、真相はこうだった(ダイヤモンドオンライン2017.1.19)
http://diamond.jp/articles/-/114700

これによると、「新千歳空港で3日間も足止めされた香港の女優ミッシェル・リー(李嘉欣)もいよいよ我慢できなくなったのか、12月25日未明の3時頃、SNSの微博にキャセイパシフィック航空を名指して、私たちは新千歳空港で3日間も待たされていたのに、キャセイパシフィック航空から情報の連絡や手配の一つも提供されていない。一方、他の航空会社は次々と運航を再開した、と批判の書き込みをした」とあり、おそらくこれに中国側が反応して、「騒動を起こしたのは香港客」という判断が生まれたでのはないか、という気がしないではありません。
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by sanyo-kansatu | 2016-12-28 20:40 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(3)
2016年 12月 27日

「「大雪欠航」でゲートに乱入、新千歳空港で中国人観光客大暴れ」の背景を考える

年の瀬にこんな話を書きたくないのですが、また訪日中国客の騒ぎが報じられました。TBSが伝えています。

「大雪欠航」でゲートに乱入、新千歳空港で中国人観光客大暴れ(TBS系(JNN) 12/26(月) 14:10配信)
https://www.youtube.com/watch?v=3Og11ZvYUrM


大雪の混乱が続いた北海道の新千歳空港で、飛行機が欠航したことに腹を立てた中国人が、警察官に激しく詰め寄る騒動がありました。

中国人観光客がゲートを勝手に越え、駆け付けた警察官に激しく詰め寄ります。撮影されたのは24日午後8時ごろ、新千歳空港の国際線ターミナルで、大雪のため飛行機が欠航したことに腹を立て、100人ほどの中国人が騒ぎ出しました。さらに、数人がゲートを勝手に越えたため、警察官と小競り合いになりました。この騒ぎによるけが人はいませんでしたが、2人が気分が悪くなり病院に運ばれました。

新千歳空港では大雪の影響で、22日から24日の3日間で、1万1600人が空港で寝泊りしました。


いったいなぜこんなことが起きてしまったのか。現場で取材することはできないので、ネットなどで知りうる限りの情報から考えてみたいと思います。

まず北海道の天気から。確かに、今月22日(木)、23日(金)と札幌は大雪だったようです。

札幌の過去の天気(2016年12月)
http://weather.goo.ne.jp/past/412/

NHKも大雪による欠航や「新千歳空港では23日に284便が欠航し、空港で夜を明かした人がこれまでで最も多い6000人に上」るとすでに報じていました。「50年ぶりの大雪」ともなれば、夜明かしも無理はないことでしょう。

北海道で50年ぶりの大雪 交通への影響続く(NHK12月24日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161224/k10010818641000.html

北海道では各地でまとまった雪が降り、札幌市では12月としては50年ぶりの大雪となりました。JRが札幌駅を発着する24日午前中のすべての列車を運休するなど、影響が続いています。

札幌管区気象台によりますと、北海道の各地は23日、日本海側の南部を中心に大荒れの天気となり、雪が降り続きました。

札幌市では23日午後9時すぎに96センチの積雪を観測し、12月としては昭和41年以来50年ぶりの大雪となりました。

札幌市では24日午前中から除雪に追われる人たちの姿が多く見られました。このうち札幌市北区の住宅街では、住民が道路に出て、シャベルなどを手に、家の前に降り積もった雪を次々に片づけていました。

除雪された雪は場所によっては2メートルほどの高さにまで積み上げられ、山のようになっています。

雪の山が車道にはみ出して、車1台がやっと通れる幅しかないため、行き交う車が道を譲り合う様子などが見られました。

70歳の男性は「雪かきの作業を始めて2時間くらいたちます。今月は珍しいくらいに次々に降るので、除雪も大変です」と話していました。

また、28歳の男性は「クリスマスイブに雪があるということは、ロマンチックでいいことなのでしょうが、雪の量があまりにも多いので、半分くらいがちょうどいいですね」と話していました。

気象台によりますと、24日は冬型の気圧配置が緩み、天気は回復していますが、気象台は積もった雪による雪崩や交通への影響に注意するよう呼びかけています。

新千歳空港 混雑続き遅れも

23日に欠航が相次いだ北海道の新千歳空港は、24日もキャンセル待ちの人などで混雑し、発着便に遅れが出ています。

国土交通省新千歳空港事務所などによりますと、新千歳空港では23日に284便が欠航し、空港で夜を明かした人がこれまでで最も多い6000人に上りました。

24日も航空会社のカウンターの前にはキャンセル待ちをする人などで長い列ができています。

搭乗手続きに時間がかかっているほか、JRが運休している影響で、発着する多くの便に遅れが出ています。また、空港のバスの乗車券売り場は、JRが運休している影響で、バスで札幌などに向かおうと長い列ができていました。

空港事務所によりますと、24日は1日を通してまとまった雪は降らない見通しで、機材繰りで欠航となっている一部の便以外は運航する予定です。航空各社は、今後も発着に遅れが出るおそれがあるとして、最新の運航状況を確認するよう呼びかけています。


さて、この事件の背景がだんだん見えてきました。

問題は、すっかり晴れたという24日(金)になっても、乗れない人たちが続出したことだと考えられます。乗客たちの多くは当然、飛行機に乗れるだろうと思ったのに、そうならなかったこと。これが一部の中国客の混乱を呼んだものと思われます。

しかし、空港の除雪作業もあったでしょうし、何より3日間で「1万1600人」が空港で夜明かししたわけですから、当日客もいる以上、どんなに機材をやりくりしても、全員が乗れると考えるほうが無理があったと思われます。

空港で夜明かしした人は、国内客も含め、中国客ばかりではなかったことでしょう。新千歳空港の国際線は、中国線以外にも、ユジノサハリンスク(ロシア)やソウル、プサン、大邱、台北、高雄、香港、バンコク、クアラルンプール、シンガポール(ホノルルとグアムはアウトバウンド路線なので外国客は少ない)があります。

ちなみに中国路線は以下のとおりです。

北京
中国国際航空CA170(全日本空輸 NH5757) 13:50発 火・水・金・土・日曜運航(12月19日から毎日運航)
天津
天津航空GS7972 20:05発 金・日曜運航
上海
中国東方航空MU280(日本航空JL5633) 13:30発 毎日運航
春秋航空9C8792 13:50発 毎日運航

新千歳空港HP
http://www.new-chitose-airport.jp/ja/

これをみると、北京、天津、上海のすべてが木・金いずれかが運航日になっているので、中国客の多くが空港で夜明かししたことがわかります。

一般に天候などの理由で国際線が欠航した場合、乗客は航空会社が宿泊ホテルを手配し、そこで一夜を明かし、翌日便に振り返られます。実は、ぼくは北京空港で2年連続欠航の憂き目に遭い、航空会社が手配した空港に近いホテルに泊められたことがあります。

ただし、北京で欠航になったのは、大雪ではなく、PM2.5による視界不良で航空機の発着が不可能になったためでした。最近も改善していないようです。

北京の街が白く…PM2.5で大気汚染深刻(日テレNEWS24 2016年12月20日)
http://www.news24.jp/articles/2016/12/20/10349524.html

中国・北京で20日朝、大気汚染物質PM2.5の値が上昇するなど状況が悪化している。

16日から大気汚染警報としては最も重い「赤色警報」が発令されている北京では、20日朝、PM2.5の値が日本の環境基準の10倍以上になった。警報を受け、北京では車のナンバーによる車両規制を行ったり、一部の工場で操業を停止したりするなどの緊急措置がとられている。

市民「気持ち悪い気がするが、マスクをするとだいぶマシになる」

来年2月からは排ガス規制の基準を満たさない乗用車の中心部への乗り入れ禁止などが決まっているが、対策が追いついていないのが現状。


中国の新人類は日本の青空に魅せられている
http://inbound.exblog.jp/24302307/

そのとき、ぼくはチェックインをする前から遅延だと言われ、空港で5時間近く待たされましたが、結局、夕方になってようやく欠航だと告げられました。北京空港の空の事情ゆえに、日本から航空機を本当に飛ばして大丈夫なのか、決めかねていたものと思われます。大雪とか台風といった理由ならわかりやすいのですが、PM2.5による視界不良という事態は、中国ならではの特殊な事情だからです。実際、空港は深い霧に覆われたような世界でした。空港に向かうタクシーも50m先くらいしか見えない状態でした。

「いったい、どうなるの? まさか、ホテルを手配してくれないってことはないよね」。

こういうときに、どう適切に乗客に対応するかが航空会社のサービスの評価になるのですが、たとえ日系航空会社の便だとしても、北京線は中国系との共同運航も多く、実際は中国系と変わらない場合も多い。

で、当然のように、きちんとした説明もなく、いきなり数人の職員が現れ、「これからホテルに移動します」と声をかけられ、バスに乗ることになりました。特に欠航の理由を説明されたわけでもなく、まあひどい対応です。こういうとき、中国人はすぐに官僚的になり、サービスのことなど考える余裕すらないようです。実は、ぼくは同じことを2年連続で経験したため、2度目のときは、市内に戻り、昨日まで泊まっていたホテルに頼んで連泊扱いにしてもらいました。

あてがわれたホテルとそこで供された食事がひどかったせいもありますが、せっかく滞在が延びたので、友人と一緒に食事をするほうがずっと楽しいと思ったからです。

結局、こういう場合、地元客は自宅に帰って待機すればすむ話なのですが、外国客はそうはいきません。ぼくの場合も、通い慣れていた北京だったので、しかも同じことを2度も経験したことから、それなりの対処法をとることができたわけです。

でも、そうはいかないケースがほとんどでしょう。これは特に中国線にいえることですが、北京、天津、上海線のどれも大半の乗客は、日本客ではなく、中国客だからです。つまり、欠航した航空会社が彼らのためにホテルを用意できたかというと、(これは事実確認できない以上、よけいなことは書けませんが)当然難しかったでしょう。空港周辺のホテルの客室には限りがありますし、クリスマスシーズンを北海道で楽しみたいと訪れたいた外国客はハンパなく多かったからです。

また、はっきり言えば、海南航空のグループ企業にすぎない天津航空やLCCの春秋航空では、最初から対応することは考えていなかったでしょう。LCCは安価と引き換えに自己責任が伴うのは世界の常識です。

ところで、このニュースをぼくは最初、ヤフーで知ったのですが、コメント欄をみると、あるジャーナリストの以下のような書き込みがありました。

「こうした出来事によって、日本人の中国人全体に対する悪感情が強まるだろうと思うと、とても残念です。多くの日本人は「ああ、やっぱり中国人は・・・」と思うことでしょう。でも以前、私の上海の友人も新千歳空港でまったく同じ出来事に遭遇して、悲しい思いをしたことがあったと話してくれたことを思い出しました。その人は日本語ができるので、暴れる中国人たちを制止して、厳しく注意した上、日本のマナーを教えてあげるとともに、このような出来事によって、他のちゃんとした中国人が日本の旅行先で、どんなにつらい思いをしているかわかるか、と涙ながらに語った、と話してくれました。今回、現場がどのような状況だったかわかりませんが、暴れた中国人たちが、日本人の係員や空港関係者に迷惑を掛けただけでなく、中国人観光客全体のイメージも大きく下げていることに気づいてほしい、と願うばかりです」

う~ん、これどうなんでしょう。

これまでぼくは本ブログでも、訪日中国客の増加に伴いメディアなどでも扱われるようになったこの種の騒ぎについて書いてきました。特に今年に入ってその回数は増えています。

中国人不法ガイドの摘発は全国に波及するのか。訪日旅行市場に与える影響は? (2016.3.5)
http://inbound.exblog.jp/25461430/
中国人は自国の観光客マナー問題を煽る日本のテレビ番組に耐えられない!? (2016.5.30)
http://inbound.exblog.jp/25834092/
韓国メディアが教えてくれた銀座のツアーバス駐停車90秒ルール (2016.6.15)
http://inbound.exblog.jp/25913731/
中国個人客の増加で電車内でのトラブルが増える予感 (2016.11.15)
http://inbound.exblog.jp/26380202/
〔TBS・Nスタ〕中国人観光客はなぜ民家に侵入して自撮りをするのか? (2016.11.16)
http://inbound.exblog.jp/26383490
中国客が挙動不審に見えてしまう理由(すでに個人比率54%というけれど) (2016.11.19)
http://inbound.exblog.jp/26390881/
じわじわ増えている医療観光だが、盲点を突くあの手この手の不正も明らかに (2016.12.9)
http://inbound.exblog.jp/26442310/
中国クルーズ客の失踪と不法就労摘発報道 なぜ彼らはそこまでやるのか (2016.12.16)
http://inbound.exblog.jp/26479516

この種の報道があるとき、いつも思うことですが、件のジャーナリストのような情に訴えるようなもの言いは、広く共感されるようには思えません。もちろん、ネットに安易に書き込まれる悪意のこもった文面をみると、そんな正義感もわいてくるのかもしれませんが、大半の日本人は中国の現状を知る限り、自分には関係ないし、彼らとは関わりたくはないと思うだけで、わざわざ罵声を浴びせたいとすら考えていないと思われます。事情をよく知る者としては、こうした状況をどう受けとめるべきか客観的な判断を示し、さらに悪化しないためにどうすればいいかという対処を考えるべきでしょう。

残念なことですが、中国ではこの種の騒ぎはままあるものです。そうはっきり言うべきです。

特に中国の国内線に乗ったとき、遅延などあろうものなら、今回のケースほど深刻でなくても、日本では考えられないことはよくあります。あるときなど、航空機が搭乗ゲートを離れ、出発準備態勢に入ったというのに、何らかの理由で管制塔から離陸の許可がなかなか出なかったため、乗客はシートベルトをしたまま滑走路の上で1時間近く待たされていたのですが、機内はもう大騒ぎ。隣の席の子供がトイレに行きたいというので、親が客室乗務員にそう伝えたところ、「いつ離陸許可が出るかわからないので、この段階でトイレに行ってはならない」と回答。「では子供が席でおもらししたらどうするのだ」と親が言うので、その男性客室乗務員は「これにおしっこを入れてください」と空のペットボトルを持ってくる始末です。呆れて眺めていると、親は安心したように、座席で子供におしっこをさせていました。

子供のせいだから仕方がない……。この感覚をよしとする風潮がいまの中国社会にはあります。国際社会の感覚とはかなりズレていることは疑いようがありません。こうした彼らのズレた感覚の実例とその背景については、上記のブログ記事で実情に即して説明してあります。

もちろん、説明を読んだところで、なるほどそうかと受けとめることができない面も多々あるでしょう。それが証拠に、実際もし今回と同じことが欧米の空港で起こった場合、逮捕者が出ていたかもしれません。日本は何事も穏便にすませたいと処理するのが普通です。

そうしたすべてのことを差し引いても、今回のケースは、誰であれ、イライラが極限まで高まる状況にありました。その際、国内客であればまだ対処のしようがあったことも、日本に慣れていない外国客は、いかんともし難かった。彼らの多くには、なんの救いの手もなく、別の選択肢もなかったわけですから。なにしろ「50年ぶりの大雪」です。本来、いちばん同情されるべきは、夜明かし客の皆さんだったのに、それをぶち壊しにしてしまったことは、なんとも後味の悪い結末といえます。

実際、新千歳空港の職員も、さぞ大変だったことでしょう。今後、中国客をめぐるリスク管理から関係者は逃れることはできないという事実は静かに受け入れるしかありません。逆にいえば、中国客を相手にする際は、日本では起こりえないこの種のことは想定内と考えなければならないでしょう。

というのも、中国では人が多く集まる場所(空港や駅はもちろん、広場や公園、商業地などもそう)には必ず公安警察やときには武装警察まで多数配置されています。いついかなるとき、騒ぎが起こるかわからない社会であることをいちばん理解しているのは中国政府です。

ですから、観光庁はそろそろ中国国家観光局とのこの点についてもっと積極的かつ冷静に話し合いを持つべきではないでしょうか。

中国国家観光局 
http://www.cnta.jp/
http://www.cnta-osaka.jp/

【追記】
この一件について、中国側から反論が出ているようです。

実は香港客!?だった「新千歳空港で中国人観光客大暴れ」報道、中国側の反論
http://inbound.exblog.jp/26510740/
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by sanyo-kansatu | 2016-12-27 10:10 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 12月 19日

「未開期」「増加期」「過多期」など、地域によってインバウンドのステージは違う

今年1年間の訪日旅行市場に関する報道を振り返ってみながら思うのは、2015年に2000万人という訪日外国人数をほぼ達成し、その後も20%という伸びを見せてはいるものの、国内には外国人観光客の訪れていない「未開地」がまだまだたくさんあるということです。一方、政府が2003年にVJC(ビジットジャパンキャンペーン)を打ち出し、外国人観光客の誘致を行政主導で始めてから早13年。すでに多くの観光客が訪れ、むしろその増加が地域社会にとって問題を生み始めている場所もあります。

インバウンド市場には「未開期」「黎明期」「増加期」「隆盛期」「成熟期」「過多期」「減少期」とでもいうべき、いくつものステージがあり、どの段階にあるかは地域によって異なります。

「未開期」海外市場における知名度がなく、訪れる外国人も少ない時期
「黎明期」海外で知名度が生まれ、外国人が現れ始めた時期
「増加期」外国人が前年比で大きく伸び始めた時期
「隆盛期」国内外で外国人が多く訪れる地域として知られるようになった時期
「成熟期」訪れる外国人数と地域の受入キャパシティがほぼ飽和し、観光の内実が多様化していく時期
「過多期」外国人が多く訪れることで、地域社会に問題が発生する時期
「減少期」外国人からネガティブな評価が生まれ、減少傾向がみられる時期

※実は、これはインバウンドの時代を迎える以前の1960年代~90年代にかけて、日本の国内観光地で起きていたことでもあります。

それぞれの段階で課題ややるべきことは違うため、地域によってPRの手法は違って当然です。ところが、メディアはそれぞれの地域で起きていることを、国全体の話に乗せて(地域固有の現状や前述のステージについてはあまり触れないで)のっぺりと一様に報じてしまうことが多いように思います。

以下は、昨年春の北陸新幹線開通でいったん盛り上がったかと思われた北陸の旅行市場に「一服感」があるなか、新たに進めている外国客誘致について報じたものです。

外国人目線で北陸再発見 3県、集客へ留学生や海外雑誌活用(日本経済新聞2016/10/8)
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO08144440X01C16A0LB0000/

北陸3県で外国人の視点や知恵を取り入れたインバウンド(訪日外国人)の集客策が広がってきた。福井県はSNS(交流サイト)で留学生らにお薦めの観光情報の発信を依頼。和倉温泉(石川県)の宿泊施設は米国の雑誌を活用し、サイクリングの魅力をアピールする。北陸新幹線の金沢開業効果に一服感があるなか、外国人目線で隠れた観光資源を掘り起こす。

観光庁によると2015年の北陸3県の外国人宿泊者数は計約78万人と全国の約1%にとどまる。海外からみた知名度の低さは否めない。県別では石川県の52万人、富山県の21万人に対し、福井県は約6万人。同県は巻き返しを狙い、県内の留学生や在住外国人から応援団「Fukui レポーターズ」を募る。

10月下旬からSNSを通じ、お薦めの観光地や飲食店、商品を週1回程度発信してもらう。英語と中国語で情報発信し、それ以外の言語を使う場合には英語か日本語の併記を求める。活動内容は基本的に自由。県は今後「県や市町の施設を入場無料にするなどして活動を促す」考えだ。

半年に数回程度、観光地ツアーや企業訪問も企画する。三方五湖(若狭町など)、アウトドア施設「ツリーピクニック アドベンチャー いけだ」(池田町)など、公共交通機関でのアクセスが不便な場所が候補になる。これらの施策によって19年度までに県内の外国人宿泊客数を10万人に増やす計画だ。

富山県を代表する宇奈月温泉。7つの宿泊施設が7月、台湾とタイの大学からインターンシップの受け入れを始めた。

海外の若者の声を接客の改善やSNSでの情報発信に生かして誘客を強化する。「客層が多様化するなか、外国人の『気づき』をサービスに生かしたい」と、宇奈月杉乃井ホテル(富山県黒部市)の後藤倫総支配人は説明する。

富山県の15年の外国人宿泊者数は前年比46%増えた。海外の口コミサイトでは立山黒部アルペンルートが国内観光地ランキングの上位に入った。県は外国人客を呼び込める観光地をさらに増やし、19年に外国人宿泊者数56万人を目指す。

海外メディアの活用に乗り出したのは和倉温泉旅館協同組合(石川県七尾市)。今月23日から、米国で年間3万部を発行する無料の自転車専門誌の記者らを七尾市周辺に招く。レンタサイクルで走行した体験や魅力を年明けの誌面で紹介してもらう。

今年度中に複数設定するサイクリングコースに米国人記者のアドバイスを反映するほか、英語版のコースマップも作製する。欧米への情報発信を強化し、17年度には外国人観光客を3万6000人に引き上げる計画だ。

石川県では外国人客の宿泊が金沢市に集中しがちで、和倉温泉での滞在時間は2~3時間というケースが多い。まず能登地方の自然を短時間で楽しめるサイクリングを知ってもらい「最終的には宿泊客増加につなげる」(同組合の担当者)。


この記事を読む限り、北陸地方はインバウンドの「未開期」あるいは「黎明期」にいることがわかります(一部地域を除く)。それは地域にとって不名誉というような話ではありません。日本海側という海外からのアクセスの不便さが太平洋側に比べて圧倒的な弱みになるがゆえです。インバウンドというのは残酷なもので、アクセスで大きく明暗が分かれるのが常です。さらにいうと、「国内観光地ランキングの上位に入る」立山黒部アルペンルートには観光客が集中しても、その近辺の観光地は素通りされてしまうというのも、インバウンドの残酷性といえます。

では、こうした弱みを抱えた地域の人たちは、どうずれば訪日客を誘致できるのか。上記記事は、そのために地元が考え出した取り組みがいくつも例示されています。ただし、この文面だけでは、それらにどれだけの効果があるのか。「集客へ留学生や海外雑誌活用」「SNSでの情報発信(強化)」「サイクリングコース」などの個々の事例をみる限り、他の地域で5年前くらいに行われた取り組みと変わらない気がしますが、それは北陸が「未開期」にあるゆえといえるかもしれません。むしろ、気になるのは、北陸の強みがどう打ち出されているのか、もうひとつわからないことでしょうか。

最近、岐阜県の観光関係者と知り合い、同県が自分たちの弱みを自覚し、逆に強みを徹底的に調べ上げ、PRにつなげてきたことを知りました。後日、その話を紹介したいと思います。

※先日、日経BPネットにその話を書きました。

知名度がなくアクセスも悪い観光地をどうプロモーションするか
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/122600027/
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by sanyo-kansatu | 2016-12-19 13:55 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 12月 16日

中国クルーズ客の失踪と不法就労摘発報道 なぜ彼らはそこまでやるのか

今日の午後、上海在住の友人が以下のニュースをメールで教えてくれました。

中国クルーズ客の失踪と不法就労摘発報道です。これは、いわばクルーズ市場の制度の裏をついた密入国です。なにしろ、クルーズ客には、観光ビザは不要だからです。

クルーズ客 上陸後帰船せず不法就労 入国審査簡略化あだ(毎日新聞2016年12月16日)
http://mainichi.jp/articles/20161216/k00/00e/040/250000c

クルーズ船客を対象に入国審査を簡略化した「船舶観光上陸許可」を使って来日した外国人客が、寄港中に相次いで失踪していることが法務省入国管理局への取材で分かった。2015年の制度導入以降、今年11月末までに全国で53人に上り、大半が中国人だった。半数近くは今も行方不明で、国内に滞在し働いている疑いがある。兵庫県警が11月に不法残留の中国人を逮捕すると、就労をあっせんするブローカーの存在や入国審査の甘さを突かれた背景が浮かび上がった。

兵庫県篠山市の山あいにあるキノコ園。11月下旬、県警の捜査員らが家宅捜索に入ると、中国人の男女15人が働いていた。県警は在留期間が過ぎていた7人を出入国管理法違反(不法残留)の疑いで現行犯逮捕した。

捜査関係者によると、うち男2人組と夫婦の計4人はそれぞれ中国からクルーズ船で来日。船舶許可による在留期間は2日間だけで、寄港した博多港(福岡市)で姿を消していた。

10月17日に上陸した山東省の男(34)は「船に乗り遅れ、途方に暮れていたら声をかけられた」と弁明したが、一緒に来た男(53)は「仕事をするため船で来た」と就労目的を認めた。ブローカーの手引きで車に乗せられ、港から480キロ離れたキノコ園にたどり着いたという。

11月4日に入国した遼寧省の夫婦は中国版ツイッター「微博」を使って船上でブローカーと連絡を取り、働き口を見つけたという。JR新大阪駅で関係者と合流したとみられ、妻(36)は「子どもの学費を短期間で稼ぎたかった」と供述した。

関係者によると、キノコ園はここ数年で何度も経営者が代わり、最近は休業しているように見えたという。近くの男性は「見慣れない車が出入りし、不審だった」と話す。

中国人らはプレハブ小屋で共同生活し、月給18万円でシイタケ栽培の作業をしていた。中はベニヤ板で仕切られただけの個室で、食事は自炊。ほとんど外出できず、1日12時間以上の労働が常態化していたという。

県警と入管当局は、園の経営者や中国人とみられるブローカーの捜査も進めている。捜査関係者は「就労目的で、審査が甘いクルーズ船を狙ったのだろう。今後も警戒が必要だ」と話す。【矢澤秀範】

大半が中国人、2年で53人

クルーズ船の乗客を対象にした船舶観光上陸許可は、インバウンド(訪日外国人)の増加を目指して2015年1月に導入された。入国審査が大幅短縮され、利用する外国人客が激増している。

船舶許可による上陸はビザが不要で、1寄港地につき最長7日の滞在が認められる。出入国記録の記入も簡略化された。顔写真の撮影も省略され、手続きは1時間ほど短くなった。

クルーズ船の訪日客は14年は約41万人だったが、船舶許可の制度ができた15年は3倍近い約111万人に。今年は既に160万人を超えている。寄港地では乗客がバスや電車で自由に観光に出かけるため、集合時間に現れず姿を消す客が後を絶たない。

入国管理局などによると、船舶許可を受けて失踪した外国人は15年が21人、今年は11月までで32人に上る。博多港(福岡市)や長崎港(長崎市)などからの入国が多いという。

うち27人は国内で見つかり、強制退去になった。観光中に規定の日数を超え、自身で帰国手続きを取った例もあったが、行方が分からないままの外国人も多い。

入管は「クルーズ船の運航会社には入念な乗客の管理を求める。厳格に手続きし、警察当局と協力して不法残留の摘発にあたりたい」としている。


同じことは、朝日でも報じています。

クルーズ船で入国、中国人は姿を消した キノコ園に潜伏(朝日新聞2016年12月16日)
http://www.asahi.com/articles/photo/AS20161215004491.html

すでに9月下旬に読売新聞が「クルーズ船訪日客の失踪、福岡・長崎で計34人」(読売新聞2016年9月26日)と報じていたので、失踪者が摘発されるのは時間の問題かと思っていました。

中国事情についてある程度、精通している人なら、いまの中国、こんなことが起きてもなんら不思議はないと感じることでしょう。ぼく自身も、頭ではそう思いはするものの、なぜ彼らはそこまでやるのか、理解を超えたところがあります。

中国には、自分の住む村にいても、このままでは一生うだつが上がらない。だったら、密入国してでも金を稼いでやろう…。このように考える人間がいるのでしょう。このニュースを教えてくれた上海の友人も「いまの中国は、制度の網の目をかいくぐってでも、人を出し抜こうとする競争社会。この人たちも、まさにそういうことなんですかねえ」とぼやいていました。

興味深いのは、不法就労する彼らがスマホを手にして中国版SNSのWeChat(微信)で日本国内のブローカーたちと船上で連絡を取っていたことです。不法就労が多発した1990年代とは、通信事情という面でも隔世の感があります。もっとも、それが可能となるのは、在日華人という受け皿があるからです。

中国側の旅行会社は、今回のような失踪者を出すと、ペナルティとして一定期間、日本への送客ができなくなるはずですが、失踪予備軍からすれば、そこがダメなら別の会社に手配を頼めばすむことなので、この問題がすぐになくなるとは思えません。

もっとも、日本を訪れる大半の中国人観光客は、彼らのことをとんでもないヤツだと、まるで人ごとのように罵ることでしょう。彼らの存在が中国の足を引っ張っていることは確かだからです。しかし、自分とはまったく関係ない存在とみなすだけで、自らの属する社会の問題とは考えたがらないのが、たいていの中国人です。

先日も、ある在日上海人が大学時代の友人が日本に遊びに来たので、車で岐阜県の白川郷を案内した話を聞かせてくれました。彼によれば「友人たちは富裕層。金はいくらでもある。1年に2~3回は日本に来る。好きなときにいつでも来られるのは、2015年1月以降、取得要件が緩和された個人マルチビザのおかげだ」と言います。

その話を聞きながら、ぼくは思いました。2009年、中国で大ヒットしたラブコメ映画『非誠匆擾』(邦題「狙った恋の落とし方」)の世界を、いまの上海の富裕層なら誰でも実現できるようになったのだなと。

この映画では、主人公の中年男性が北海道を彼女と訪ね、日本在住の中国人の友人に運転させた車で道東を中心に旅するストーリーでした。

その一方、不法就労目的でクルーズ客船に乗って訪日する輩もいる。全体からみれば、わずかな人たちとはいえ、中国ではこの種のことが必ず起きてしまい、それを誰も止めることはできないようです。
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by sanyo-kansatu | 2016-12-16 15:15 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)