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2016年 06月 04日

ブラック免税店問題はもうずっと前からありました

前回、日本のブラッグ免税店問題に関する中国報道を紹介しました。

日本のブラック免税店が中国客を陥れる!?
http://inbound.exblog.jp/25875503/

この記事を教えてくれたのは、日本に住む通訳案内士の中国女性です。彼女はふだんは翻訳の仕事をするかたわら、通訳ガイドの仕事も最近は増えているようです。団体客をガイドすることはまずなく、ブラック免税店のこともよく知らなかったせいか、この報道を見て義憤をおぼえたようです。

でも、こうした問題は以前からずっとあったことでした。

日本のメディアも数年前から報じています。

たとえば、かの文春砲もすでに放たれていました。
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中国人が中国人をボッタクリ “日本観光”の醜悪現場 密着ルポ(週刊文春2013.3.7)
http://hello.ac/guide/bunshun2013.pdf

さらには、その前年にNHKも報じています。

NHK総合テレビ<追跡!真相ファイル>「中国人観光客訪日格安ツアーのカラクリ」(2012.8.21)
https://www.youtube.com/watch?v=jLeQfCrZg80

ある語学学校の経営者も、無資格ガイドに絡むこの問題を長く追及しています。

<「ALEXANDER & SUN」免税店」脱税事件>の真相と深層
https://www.facebook.com/Helloguideacademy/posts/433254933447543

一方、中国側からこの問題が初めて出てきたのは、おそらく在日華人紙「東方時報」2009年6月25日が報じた、悪質な旅行会社とガイドが結託したボッタリ免税店への上海人団体客の連れ込みの実態だったと思います。そう、2008、9年当時は、上海や北京などの団体客がブラック免税店に連れ込まれていたのです。

ボッタクリや無資格ガイド問題も浮上。日中双方が解決すべき中国人ツアーの課題
http://inbound.exblog.jp/iv/detail/?s=16998604&i=201111%2F20%2F53%2Fb0235153_13233726.jpg

こうした報道をうけ、ぼくも以下のような記事を書いたことがあります。

中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである(2011年)
http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column66/column_02_4.html
http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column68/column_02_2.html

この問題の語り方は、立場によって変わってくるところがありますが、ぼくの場合、当時は東日本大震災直後で、訪日客が大きく減るなか、それでも日本に来てくれる中国客に対して、せめて日本国内では日本人と同じように消費者として最低限度の保護すべきだという思いがありました。その頃の訪日中国市場はいまの5分の1の規模だったのです。また、中国客に対する免税店ボッタクリ問題は、2000年代に入るとすでに香港やタイで頻発していて、ツアー客とガイドが殴りあうとか、免税店に行くのを拒んだ客を置き去りする事件などがずいぶん報じられていたからです。こういうことが日本で起きるのは恥ずかしい。そう思っていたのです。

これらの騒動から、中国政府は2013年に「新旅游法」を施行し、この問題の解決にあたったはずでしたが、結局もとの木阿弥に近い結果で終わりました。というのも、本来ツアー客の望まない免税店への連れ込みをした旅行会社は罰則を受けるという内容だった「新旅游法」なのですが、中国の旅行会社はその後、消費者に免税店への連れ込みをやめる代わりにツアー代金を上げるしかないが、それがいやなら連れ込みを承諾するという誓約書にサインを求めることにしたのです。

その結果、中国の消費者は、ツアー料金を安くするためには、免税店への連れ込みはやむ得ないという従来どおりの姿を選んだのです。中国では国内旅行でも、お土産のコミッションでツアー代が安くなるという仕組みは同じで、広く知られているため、それが無理なく受け入れられてしまったのです。逆に、ツアー代を安くしてくれたのだから、免税店での買い物も少し付き合わないとガイドさんが困るだろうというような感覚も彼らにはあるのです。

だからといって、法外な金額でニセモノをつかまされるのは許せないというわけで、今回の報道となったのでした。

中国「新旅游法」は元の木阿弥―キックバックを原資としたツアー造成変わらず
http://inbound.exblog.jp/24166349/

こうして結局のところ、問題はなんら改善されることもなく、月日だけがたちました。そのうち、上海や北京などに住む経済先進地域の人たちは、日本を個人ビザで訪れるようになり、ブラック免税店に連れ込まれることはなくなったのですが、いまでは内陸都市の地方客が同じ目に遭っているというわけです。時代を変えて、この問題は温存されているのです。

そんなわけで、個人的には、この問題をまじめに考えるのが少し馬鹿馬鹿しい気もして、2011年当時のような「中国客を消費者として保護すべき」と声を上げる気分にはなれないところがあります。

とはいえ、今回の中国報道が指摘する日本政府の不作為については、決してこのままでいいとは思えません。

日本側にはおそらくこんな言い訳があるかもしれません。もしブラック免税店の摘発を本気で行うと、彼らからのコミッションで支えられている中国の団体ツアーが成立しなくなり、市場の混乱が起こりかねない。そもそも中国の旅行会社が不当に安いツアーで客を集めるため、日本国内での宿泊や交通、食事に至るまで、そのすべてを日本側の手配会社が負わなければならないわけで、そこに無理があるのだと。日本側としたら、あえてそのモデルをぶち壊すことで、予測不能な事態を引き起こすことはなるべく避けたいし、中国側の航空・旅行業界もそれを望んでいるとは思えない。

昨年くらいから中国発の日本路線が驚くほど増え、国内の地方空港への運航も拡充しているなか、こうした動きを止めたくないとの思いは両国の関係者に共通しているはずです。その実、日本側の本音は、自国の消費者にまったく影響のない世界だから、わざわざ手をつける理由は見当たらないというものでしょうけれど。

今日の中国団体客の状況は以下を参照してください。

中国「爆買い」の主役は内陸都市からの団体ツアー客
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/010400002/
中国沿海都市から新タイプの個人客、ニーズが多様化し新たな商機生まれる
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/011800003/
東アジア航空網に新時代、訪日客増大の本当の理由は地方路線の大拡充
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/022600007/

こうしたなか、中国側では高額商品の「爆買い」の失速が伝えられています。

コラム:失速する中国人観光客の「爆買い」、ブランド品を直撃(ロイター2016年 05月 18日)
http://jp.reuters.com/article/column-china-shopping-idJPKCN0Y90CX

であれば、コミッションモデルもそのうち成り立たなくなるのではないか。そうすれば、ブラック免税店も消えていくはず…。そんな安易で希望的な観測も日本側にはあるかもしれません。

おそらく中国側はそれらを承知のうえで、自国民の“爆買い”にいかに自制を効かせられるか、あの手この手で考えているのでしょう。確かに、状況はかなり進みつつありそうです。

中国が爆買い客に課税強化 空港で化粧品など廃棄も(Newsポストセブン2016.04.20)
http://www.news-postseven.com/archives/20160420_404278.html
アングル:中国が「国内爆買い」喚起、海南島を免税天国に(ロイター2016年 06月 1日)
http://jp.reuters.com/article/angle-china-duty-paradise-idJPKCN0YM028

であれば、今回の報道もこの問題を自国民がどう受けとめるかを探る観測気球のようなものかもしれません。はたしてブラック免税店問題は今後、中国側でどれほど盛り上がるでしょうか。それが訪日旅行市場になんらかの影響を与えることがあるのか。いつものことながら、中国の消費者の本音と建前、政府の顔色をうかがいながらも、そこに面子が絡むという独特の反応の行方を眺めていくほかありません。

ブラック免税店日中問答「それはおもてなしする側が解決すべき問題でしょ」
http://inbound.exblog.jp/25876810/
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by sanyo-kansatu | 2016-06-04 13:33 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 06月 01日

トリップアドバイザーで和風エンターテインメントが人気の理由

今年3月末に配信された世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の外国人による東京の人気観光地ランキングをみると、2位にサムライミュージアムが堂々ランキングされています。

2015年にトリップアドバイザーの日本の観光地に寄せられた口コミを分析(2016.3.31)
http://tg.tripadvisor.jp/news/wp-content/uploads/2016/03/20160331_TripAdvisorPressRelease.pdf

※このランキングには、トリップアドバイザ上の「観光情報」に登録されている旅行者が訪れるスポットを対象とし、(料理、お茶などの)教室やガイドツアー(通訳ガイドが企画したプライベートツアーなど)、地下鉄のような移動手段等はランキングから除いているそうです。

実は、京都府のランキングでも、サムライミュージアムに類似したスポットであるサムライ剣舞シアターが2位になっています。

こうしたことから、以前、新宿歌舞伎町の中にあるサムライミュージアムを訪ねた話を書きました。

トリップアドバイザーで人気のサムライミュージアムとふくろうカフェを覗いてみた
http://inbound.exblog.jp/25702798/

サムライミュージアムは、2015年7月にオープンしたばかりの施設で、館内には日本刀や鎧兜の展示があり、鎧兜を身につけて撮影できるスタジオがあります。外に広がる喧騒の歌舞伎町とは違い、館内は静寂なスポットだったことが印象に残りました。やはり、東京を訪れた外国人旅行者が必ず向かう最強デスティネーションである富士山と箱根へのゲートウェイとしての新宿というロケーションが圧倒的な強みになっていると思います。

サムライミュージアム
http://www.samuraimuseum.jp

では、なぜトリップアドバイザーのユーザーである外国人の間で和風エンターテインメントが人気なのでしょうか。

上記リリースを配信したトリップアドバイザーの広報担当者に聞きました。以下、その一問一答です。

-トリップアドバイザーに口コミを書く人たちの国籍または欧米、アジアなどの比率はどのくらいですか? やはりまだ欧米の割合が高いですか?

「具体的な比率は出していませんが、やはり欧米が多いです。アジアも近年ユーザーは増えてはきていますが、「口コミを書く」という文化はまだまだ欧米の方が主流のようです」

なるほど。だとすれば、和風エンターテインメントは、主に欧米の旅行者から支持されているといえそうですね。

-これらのスポットに関する口コミはどんな内容が多いのか。

「「ショーとして面白い」「見る価値のあるエンタテイメント」「日本の文化を体験できて興味深い」など」

これは誰もが思い浮かべる月並みなコメントにすぎない気もしますが、東京都のランキングをみると、3位は浅草、5位は明治神宮、6位は両国国技館、7位に東京都江戸東京博物館、8位は八芳園、9位はホテルニューオータニ庭園といった具合に、ほぼ和のスペースが選ばれていることからも、彼らにとって「日本の文化を体験」することが最重要関心事であることがあらためてわかります。

-和風エンタメはいつ頃から人気なのか? 人気ある施設に共通する特徴などあるか。

「ご指摘の通り、サムライミュージアムは最近非常に人気です。和の文化を体験できるところが、口コミで徐々に広まってきた面もありますが、同時にインバウンドの高まりを受け、全国的に和の体験を提供する施設自体も増えてきているように思います。

そういった施設は、上手にトリップアドバイザーのようなサイトやSNSを活用してインバウンド旅行者にアピールする術を知っているように思います。

人気のある和のエンタメ施設は外国人旅行者の「日本の文化を体験したい」というニーズを上手に汲み取って、その体験を提供しつつ、情報発信が非常に上手であると感じます。また、英語が話せるスタッフがいて、きちんと説明をしていることも重要なポイントのようです」

―彼らは情報をどのように発信しているのか。

「どんなに魅力的な施設であっても、そこがトリップアドバイザー上に掲載されていなければ、ユーザーの目には触れません。

たとえば、サムライミュージアムは、オープン当初からトリップアドバイザー上に施設の所在地、オフィシャルサイトへのリンク、メールアドレス、営業時間などの詳細を掲載し、館内ではトリップアドバイザー上に掲載されていることを告知しながら、口コミ投稿を促しているのだと思われます。

トリップアドバイザーのような口コミサイトやFacebook、InstagramのようなSNSは、いまや海外旅行する人たちにとって欠かせない情報源になっています。東京を訪れる外国人旅行者が自国で、あるいは訪日してホテルの中でリサーチをしているときに、しっかり目に留まるようにするには、まずはSNSに施設を掲載し、口コミを集めることが必要になってきます。

以下は、サムライミュージアムがFacebookとinstagram上で来場されたお客さんの写真を掲載したりして、外国人が楽しんでいる様子を積極的に発信している例です」
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https://www.facebook.com/samuraimuseum.jp/
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https://www.instagram.com/samuraimuseumtokyo/

こうしたことは、いまや施設の集客を図るうえで常識となっているような気もしますが、どこまで手を抜かず、徹底的にやるかということも大事なのかもしれません。やはり外国人旅行者の目を惹きつけるには、写真のインパクトは大きいですね。Facebookに載せられていた、西洋人の小さな男の子が兜を被っているような写真はとてもかわいくて、ぜひ行ってみたいとファミリー旅行者たちの心をつかみそうです。

-ところで、トリップアドバイザーの外国人による都道府県別口コミ数トップ3は東京、京都、大阪で、全体の58%を占めるそうです。その理由をどうお考えですか。

「東京は言わずもがな世界の大都市のひとつ、日本の首都であり、やはり日本を最初に訪れる人は東京に来るのだと思います。

そして東京から次に足を延ばす場所として京都があります。

また、東京にしか行かなかった2回目以降の訪問者は、大阪・京都と、関西を中心に旅行する人が多いのではないかと思います」

訪れる数がそのまま反映しているような結果であることは仕方がないですが、少し残念ですね。でも、このリリースには、地方のランキングも出ていて、興味深いです。
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by sanyo-kansatu | 2016-06-01 10:17 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 05月 30日

中国の富豪たちがショックを受ける町 「大阪・富田林」を歩く

現在発売中の「Forbes JAPAN」2016年07月号は「億万長者の謎」特集です。
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http://forbesjapan.com/magazines/detail/50

同誌に以下の中国人富豪についてのコラムを寄稿しました。転載します。

中国の富豪たちがショックを受ける町 
「大阪・富田林」を歩く


中国人観光客というと、すぐに「爆買い」のイメージと結びつけられるが、本物の中国人富豪たちの来日目的は少し異なるという。

「そもそも富裕層はドラッグストアで爆買いなんてしませんよ」

こう語るのは、中国からやってくる超VIPたちから直接指名を受ける通訳ガイドの水谷浩。彼の顧客リストには日本人でもメディアを通じてよく知る中国企業の大物幹部たちがズラリと並ぶ。

彼がアテンドする中国の上級富裕層の人たちは、どんな目的をもって日本にやってくるのだろう。ビジネス半分、観光半分の「視察」もあれば、プライベートな家族旅行もある。世代によってその目的は異なるし、いわゆる「爆買い」でもドラックストアで化粧品や医薬品を大量に買うのとは大きく違う。

例えば、中国の巨大グループ総帥夫人は、京都で明の時代の銀の香炉(650万円)をカードで一括購入した。前回の来日時に日本全国の骨董店を訪ね歩き、目星をつけていたらしい。そして、「朋友(友達)」と称するプロの鑑定家をわざわざそのために同行させて、真贋を確認したうえで購入したという。

中国には若くして成功し40代で巨万の富を築いたIT企業家たちも少なくないが、いつもはビジネスや投資の話に目ざとい彼らの異なる一面を見たこともある。グループ幹部を召集した京都での会議で、息抜きに鴨川沿いをサイクリングしながら観光案内した際、ふだんは見せない気さくな素顔を見せたという。

中国ではありえない「歴史の連続性」
 
さて、その水谷が、中国のハイクラスな富裕層を相手に「この町を案内してハズしたことはない」と断言するのが大阪の富田林だ。PL教団の大本庁や、同教団が主催する夏の花火で知られる富田林だが、実は大阪で唯一の、国が指定する重要伝統的建造物群保存地区がここにはある。

寺内町(じないまち)と呼ばれるこの地区は、400年以上前に織田信長と戦っていた「宗教自治都市」で、高台の上に要塞としてつくられ、古くは江戸時代から明治、大正、昭和前期までに建てられた寺院や民家が並び、いまもそこで人々が暮らしている。

南北6筋、東西8筋の道路で整然と区画された町内には、瓦ぶきの美しい町屋が連なる。日本人にとっても魅力的なのだが、とりわけ中国の人たちには強いカルチャーショックを与えるのだという。

中国の富裕層の人たちが富田林に魅せられる理由について水谷はこう説明する。

「中国の人たちは、改革開放以降、スクラップ&ビルドの世界で生きてきた。歴史ある古鎮もすべてつくり変えられ、テーマパーク化した。ところが、ここでは200年前の民家がいまも残り、しかもそこで生活している人がいる。それが信じられないのでしょう」

中国の人たちは概して日本の歴史には詳しくない。京都は確かに中国でも知られている古都だが、観光地化が進んでおり、中国人観光客があふれているのも気に入らない。特権意識の強い富裕層はそのような俗っぽい場所を避けたいと思うのだ。

一方富田林は、彼らの目には、明の時代(14 ~17 世紀)に栄えた中国江南地方の水郷古鎮の文化の影響を受けているように見えるらしい。すでに中国には残っていないものが、日本になぜあるのか? 中国ではありえない「歴史の連続性」に、彼らは虚を突かれたような思いがするのであろう。

日本を真剣に見たい

この2月に東京で開かれた富裕層向け旅行商談会「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット・ジャパン」で、エキジビション・ディレクターをつとめたアリソン・ギルモアは「世界の富裕層の旅行にはクラシックモデルとニューモデルの2タイプがある」という。

前者は多くが新興国の一代で富を築いた社会的成功者の人たちで、豪華さやステータスを求める旅であるのに対し、後者は先進国の成熟した富裕層が中心で、より精神的な価値を求める傾向にあるという。

中国の富裕層の特徴について水谷はこう語る。「彼らはまさに創業者世代。改革開放後の30年間を裸一貫でのし上がってきたパワフルな人たちで、日本に来ると、常に最高級でなければ満足しない。ホテルは5つ星クラスで、食事もミシュラン級。要望が細かく、無理難題も多いので、毎回が格闘だ」

その意味では中国の大半の富裕層旅行の内実はクラシックモデルに属するといえる。ただし、水谷がそれだけではないと思うのは、富田林の歴史的価値に気づくような深い洞察力を持ち、日本の姿を真剣に見てみたいという人たちが確かにいるからだ。

「彼らはほんの上澄みにすぎない。だが、それだけに自分の仕事はやりがいがある」

ある国営銀行の頭取夫人は、中学を卒業したばかりの息子を連れて日本へ旅行に来たとき、水谷の案内で富田林と高野山を訪ねた。夫人は「米国留学の決まった息子に、中国と違う日本を一度見せておきたかった」と語ったという。

いま、中国の富裕層の人たちの中にも、富田林に象徴されるような、精神的価値に重きを置くニューモデルの旅が現れつつある。

※この記事に出てくる水谷浩さんについては、以下参照のこと。

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル
http://inbound.exblog.jp/24489096/
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by sanyo-kansatu | 2016-05-30 21:55 | のんしゃらん中国論 | Comments(1)
2016年 05月 30日

中国人は自国の観光客マナー問題を煽る日本のテレビ番組に耐えられない!?

ある知り合いから、中国のSNSである微信(WeChat)上の一部で、5月23日に放映された「直撃コロシアム!ズバッとTV」(TBS)の「中国人50人と激論 酷すぎるマナー違反」が反響を呼んでいると聞きました。

直撃コロシアム ズバッとTV (TBS)
http://www.tbs.co.jp/chokugekicolosseum/

同番組では、近年急増している中国人観光客が日本で起こしているという驚きのエピソードが紹介されたそうです。

中国人観光客のマナーが世界中で問題となっていることは広く知られていますし、中国政府は海外旅行者向けに「やってはいけない行動」指南書を作成しています。そのせいか、以前ほどマナー違反は減っているという声もあります。
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たとえば、これは九州に多く寄航している中国発クルーズ客船の出発港である上海呉松口国際クルーズ港ではためく標語です。出国する自国民に対して「文明相伴 平安旅途 帯回美好印象 留下文明形象(マナーを守り、平安な旅路を。良い印象を携え、残して帰りましょう)」とPRしています。

しかし、この番組では以下のような「マナー違反」を挙げたそうです。これらの画像は、上記SNSから取りました。
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ここに出てくる事例は、中国の事情を知らない一般の日本人にはビックリ仰天でしょう。でも、ある程度事情を知る身としては、まあこんなことよくありそうな気がするし、確かに呆れちゃうとはいえ、言うほど深刻なものには思えないのですが、どうなんでしょう。やっぱり、許せませんか? 実際はもっとまずいこともいろいろあるけど、そっちは触れられていない気も。いえ、余計なことを言うのはやめましょう。

この種の番組を観るのは疲れるので、とてもYOU TUBE動画の内容をチェックする気にはなりませんでしたが、気になるのは、在日中国人を50人集めて意見を述べさせたという番組放映後、中国のSNS上で以下のようなエントリーが立ったことです。

难忍|在日中国人都在骂的日本某电视台(中国人をののしる日本のテレビ番組に耐えられない!) 原创 2016-05-23
http://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MjM5NDUzNjIyNA%3D%3D&mid=2656679608&idx=1&sn=f12482ad9c33603895524eee9e45ad1d&scene=2&srcid=0523ZTjQ3KYTPM4XjsLHlsGE&from=timeline&isappinstalled=0#wechat_redirect

この書き込みをめぐって、実際、いろんな意見が出ているようです。正直、こちらもあまり読む気にはなれないのですが、なぜ中国人たちはそんなに苛立っているのでしょうか。その理由について、少し考察してみたいと思います。

その前にひとこと。番組で紹介された「マナー違反」のエピソードのひとつは、ぼくが去年の夏に書いた以下の都内某焼肉屋で中国人観光客が見せた光景によく似ています。

焼肉食べ放題「味仙荘」は今日も中国ツアーバス客であふれていました(2015年 08月 01日)
http://inbound.exblog.jp/24747719/

以下に出てくるエピソードなんて、テレビ局にパクられちゃったかな!? という気もしないではありません。…冗談ですよ。

中国内陸客の増加がもたらす意味を覚悟しておくべき(2015年 09月 01日)
http://inbound.exblog.jp/24845817/

上記の記事の最後で、ぼくはこう書いています。

「安いツアーに参加し、バスに乗って団体旅行しているような人たちが大半である中国の内陸客は、言ってみれば、10年、15年前の上海人であり、北京の人たちといえるでしょう。中国の発展は地域によるタイムラグがあるためで、沿海部の人たちが少しずつ成熟してきても、内陸部の人たちが後から来るようであれば、Oくんのいう「マナーの欠けた中国人」イメージは簡単には消えることはなさそうです。

そもそも銀座の百貨店を訪れるような個人客とバスツアーの団体客には、その行動様式や消費活動などの面で大きな落差があります。今後ますます中国内陸客が増えることを想定し、受け入れ側もこの落差を受けとめる覚悟が必要だと思います」。

そうなのです。いま日本には中国の内陸都市からの観光客が増えているのです。内陸都市は上海や北京などの沿海都市に比べ、経済発展が遅れており、そこに住む彼らは初めての日本旅行組が大半です。そのため、マナーに問題があるのも致し方ない面があるのです。こうした背景については、以下を参照ください。

中国「爆買い」の主役は内陸都市からの団体ツアー客
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/010400002/
中国沿海都市から新タイプの個人客、ニーズが多様化し新たな商機生まれる
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/011800003/
東アジア航空網に新時代、訪日客増大の本当の理由は地方路線の大拡充
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/022600007/

一方、番組に出演した中国人の多くは、こうした内陸都市に住む中国人とは違って、ある意味「意識高い系」の人たちです。日本社会のルールもそれなりに精通しているはずです。そのため、彼らは同胞がこうして小バカにされると、自分も同じように思われてしまうのではないかと焦り、憤りを隠せなくなるのでしょう。

ただし、日本に住む中国人の中には、自国に対する自虐的で偽悪的な言動を取る人たちもいます。この複雑な心理は、なかなか一筋縄には説明できませんが、在外中国人にはよくある無国籍者的な態度のひとつです。中国の体制や政府に対する批判が背景にあります。

そして、彼らが抱えるひときわ高い自尊心の問題があります。これは中国人特有の面子に関わるものです。さらにいうと、「新興国メンタリティ」というべきものもある。これは中国に限らず、短期間で発展した国の人たちによく見られるものです。ご本人の生活は豊かになったのでしょうけれど、社会における富の偏りは激しく、自国及び自国民がしばしば見せる困った現実が、自らの自尊心とつりあわなくなることが多い。今回のように、公開の場で笑いものにされてしまうと、過去の自分を思い出すところもあり、その傷がうずき、苛立ってしまいます。いち早くかつての姿から抜け出したつもりの本人としては、忘れたい過去なのです。この感覚自体は理解できないものではありません。

実は、これも昨年起きたことですが、ある在日中国人が都内でタクシーの乗車拒否にあったことで、SNS上で大騒ぎした一件です。ここにも最近の中国人の自尊心問題がよく表れています。

中国富裕層の壊れやすい自尊心の取り扱いには要注意!(2015年 09月 03日)
http://inbound.exblog.jp/24851796/

こうしたことから私たちは、ある教訓を読み取らなければならないと思います。

中国人の壊れやすい自尊心の取り扱いに要注意! です。

とはいえ、こうした彼らの訳あり内面事情は、中国とは縁のない一般の日本人には理解しにくいことでしょう。最近、一部の人たちが中国人の訪日旅行の志向が「モノからコトへ」変わってきたというようなもっともらしいことを言っています。確かに、2000年に解禁された中国人の訪日旅行はすでに15年の月日がたち、先行した上海や北京の人たちはずいぶん洗練されてきたことは事実です。しかし、繰り返しますが、最近は内陸部からの中国人観光客が増えていることで、国際的な常識の身についていない人たちも確実に増えています。これが中国人のマナー問題を複雑にしているのです。

ですから、メディアが中国人のマナー問題を扱う際、中国社会というのは、出身地や階層などにより、人間の落差が日本人の想像以上に大きいことを前提とすべきです。ひとからげに良し悪しを議論するのではなく、なぜそうなるかを視聴者に理解させることが必要ではないでしょうか。

ちょっと優等生すぎますか。…でも、この種の話題で口論することほどばかばかしく、後味の悪いものはないからです。その意味では、わざわざこういう番組を企画する日本のテレビ局はいかがなものか、という声が出るのももっともかと思います。たぶん、中国のSNS上では、それが話題になっていると思われます。
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by sanyo-kansatu | 2016-05-30 15:52 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(6)
2016年 05月 22日

「無許可のまま、ばれるまで続けた方が得」を続けてはいけない理由

今日もこんな記事が報じられています。要するに、現在の民泊市場の実態は「無許可のまま、ばれるまで続けた方が得」だということです。

民泊 35自治体、緩和せず フロント設置義務付け(毎日新聞2016年5月22日)
http://mainichi.jp/articles/20160522/ddm/041/010/126000c

個人宅を旅行者に有料で貸す「民泊」について、国が今年4月からフロント(玄関帳場)を設置しなくても営業許可が得られるよう規制緩和したにもかかわらず、47都道府県、20政令市、東京23区の約4割に当たる35自治体が今も条例でフロント設置を義務付けていることが、毎日新聞の調査で分かった。このうち都内の9区を含む17自治体は近隣トラブルの懸念などから当面は条例改正しないとしており、民泊の需要が高い都心部などで普及のめどが立っていない実態が浮かぶ。【熊谷豪、黒田阿紗子】

政府は、今後さらに民泊の規制緩和を進める構えだが、近隣トラブルの増加や既存の旅館・ホテルの反対を懸念して拡大に慎重な自治体が、国に歩調を合わせるかどうかは不透明だ。

空き家や空き部屋を利用した民泊は、これまで事実上放置されていたが、国は外国人観光客の増加などを見越したルール化を検討。4月から民泊を旅館業法が定める「簡易宿所」と位置付けて営業できる場所などを制限する一方、一般住宅にはないフロントの設置は許可要件から外すことを決め、営業許可を出す自治体に必要な条例改正などを促す通知を3月末に出した。

しかし、厚生労働省のまとめや、毎日新聞の5月中旬の調査によると、12道県、13政令市、都内の10区が、条例でフロント設置を求めていた。このうち約半数の18自治体は条例改正や弾力的な運用で要件を緩和する意向だったが、残りは義務化を当面続けるとし、9自治体(2県6市1区)が「条例改正するか検討中」、8区が「条例改正しない」と答えた。フロント設置義務があると、現行の無許可営業の民泊のほとんどは許可を得るのが難しいとみられる。

国は6月にも、住宅地での営業も認めるなど民泊のさらなる規制緩和策をまとめる方針で、大阪市などは「住民の安全が保てるのか、国の動向を見たい」としている。一方、世田谷区は「良好な住環境を悪化させる必要はない」、渋谷区は「民泊利用者の安全確保にも必要な規制だ」と指摘。台東区は国の通知と逆行する形で、3月末に条例改正してフロント設置要件を加えた。

また、都内各区に4月以降に民泊を簡易宿所として許可したケースがあったか聞いたところ実績はゼロだった。

■「無許可のまま営業が得」 条例で要件、改修の負担重く

4月から旅館業法に基づく合法的な営業が認められたはずの民泊だが、許可権限を持つ自治体の条例などが壁になり、違法営業が依然として横行している。東京都心部では、慎重姿勢を崩さない行政に業者も申請を尻込みし、民泊の「解禁」にはほど遠いのが実情だ。

「無許可のまま、ばれるまで続けた方が得」。今年3月から渋谷区の住宅地にある2階建て集合住宅(計9室)を仲介サイト「Airbnb」に登録した男性(35)は、違法を承知で旅行者に部屋を貸している。

シェアハウスだった物件を丸ごと借り、民泊を始めた。今月、所有者に促され、要件が緩和された「簡易宿所」の許可申請の相談に保健所に行った。だが、区はラブホテルの乱立を防ぐため、フロントの設置や会議室、食堂の整備など、条例で独自の要件を課している。これらを満たすには高額な設備投資が必要だ。窓口の職員からは「最低でも3カ月はかかる」「まずは近隣住民を集めて説明会を開いて」と言われ、申請をあきらめた。

「最大20人が集団で泊まれる」と人気の物件は、月の8割以上が予約で埋まり、許可が出るまで営業を中止するのは痛手という。男性は「お金のある大企業でないと民泊営業はできなくなるのでは」と悲観的だ。

浅草などの観光地を抱える台東区の条例も、3月の改正でフロント設置と営業中の従業員常駐が義務化された。マンションや集合住宅での民泊を事実上認めない措置だ。

区によると、2014年度に4件だった無許可民泊に関する苦情・相談は、15年度は25件に増えた。今もごみ捨てのマナーや騒音などの苦情が相次いでおり、斎藤美奈子・生活衛生課長は「住民の生活環境を守る対策が不十分。国は安全安心の確保を先にすべきだ」と指摘する。

ただし、こうしたトラブルは、民泊を合法化すればさらに増えるとは限らない。1月から国家戦略特区として独自の民泊制度を始めた大田区は、事前に近隣住民の理解を得ることを努力義務にした。今月17日までに一戸建て6軒とマンション8棟(30室)の計14物件が認定を受けたが、うち12物件を管理する業者によると、近隣からの具体的な苦情はないという。【黒田阿紗子、早川健人、柳澤一男】

フロント設置を義務化している自治体と今後の対応(○は条例改正などで要件緩和予定、△は検討中、×は改正予定なし)

<都道府県>
北海道○
群馬県○
神奈川県○
新潟県△
岐阜県○
愛知県○
三重県○
奈良県○
島根県△
徳島県○
高知県○
宮崎県○

<政令市>
札幌市△
仙台市△
さいたま市○
横浜市△
川崎市○
新潟市○
静岡市○
名古屋市○
京都市△
大阪市△
堺市○
北九州市△
福岡市○

<東京23区>
千代田区×
中央区×
新宿区×
文京区×
台東区×
大田区△
世田谷区×
渋谷区×
杉並区○
豊島区×


「無許可のまま、ばれるまで続けた方が得」。

これは、前にも言いましたが、中国人ツアーのガイド問題と同じです。今後規制緩和されるにせよ、現行においては違法となる就労資格や通訳案内士資格がなくても、ばれなければ気にせずガイドを続けている人たちが多数派を占めている問題のことです。

気になるのは、後者(中国人ガイド)の場合は、一般の日本人の預かり知らない場所で、よくわからないまま起きていることなのでピンとこない話だとしても、民泊の実態はいずれ広く一般の日本人の目にも明らかになると思われることです。

「民泊」の問題は、結局「非居住型」をどうするかにある
http://inbound.exblog.jp/25811104/

毎日新聞の調査のように、民泊の需要の高い東京などの大都市圏の自治体ほど、政府の規制緩和を受け入れようとしない背景には、「非居住型」民泊の増加が地元にもたらすであろう問題を避けたいと考えているからでしょう。もっとも、すでに新宿区や渋谷区などでは、無許可民泊が相当数あることがわかっている以上、規制緩和を受け入れないと言っていても、あまり意味がないともいえるわけですけれど。これらの区では、現状の市場をどう管理するかが問われています。

23区内でAirbnb物件が最も密集している新宿区が無法地帯になっている?
http://1manken.hatenablog.com/entry/2016/04/12/083740

地方自治体の取り組みとしては、京都市の事例が知られています。ただし、なかなか難しい問題もありそうです。なぜなら民泊サイトは海外に拠点があるからです。詳しくは以下をご参照ください。

外国の民泊仲介サイトに無視された「京都市民泊実態調査」
http://1manken.hatenablog.com/entry/2016/05/10/120000
違法民泊退治!京都市長・市議会あげての口コミ介入に成果?
http://1manken.hatenablog.com/entry/2016/05/12/120000

でも、もしこのまま何も手を打たずにいると、民泊のホストたちに対する世間の非難がいずれわき起こる日が来るかもしれません。なぜなら一般の地域住民は、小売店や飲食店の関係者とは違い、外国客との間に利害関係はないからです。彼らを受け入れなければならない理由はないのです。にもかかわらず、ホストたちが近隣住民の許可も得ず、「非居住型」民泊を始めたとしたら、いろんな声が出てくるのは当然でしょう。

違法民泊の監視は「近隣住民・宿泊者等からの通報」に頼らざるを得ない?
http://1manken.hatenablog.com/entry/2016/04/23/103713

これが未許可民泊の実態だ! 部屋をこっそり貸し出す入居者と管理会社の攻防を追った(産経新聞2016.5.2)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1605/02/news045.html

懸念するのは、こうした騒ぎが飛躍して、こんなことなら、もうこれ以上外国人観光客なんか誘致しなくてもいいではないか、という論調すら生まれるかもしれないことです。日本で多くの買い物をしてくれる外国人観光客なのだから、少々気になることはあっても歓迎すべきだろうとの国民的なコンセンサスが、これまではある程度共有されていたと思われますが、それが変わる可能性もあると思うのです。これは本来のインバウンド振興の意義からいって大変残念なことです。

※ぼくの考える日本のインバウンド振興の意義については以下のとおり。
戦前期も今も変わらない外客誘致の3つの目的(このブログの目的その4)
http://inbound.exblog.jp/22361086/

さらに別の視点でも、思うことがあります。この記事には触れられていませんが、そもそも地方では民泊の緩和よりも先にすべきことがあるのでは、と思います。

それは、地元旅館の外客受入を促進するための取り組みです。

以前、本ブログでも書きましたが、大都市圏のホテルをはじめとした宿泊施設の客室稼働率は高くなっていますが(それゆえ、民泊需要も高まっている)、地方に目を転じると、それほどでもないですし、旅館に関しては、おそろしく低い稼働率となっています。
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※2015年の全国の宿泊施設タイプ別の客室稼働率は、シティホテル(79・9%)、ビジネスホテル(75・1%)、リゾートホテル(57・3%)、旅館(37・8%)。加えて、都道府県別客室稼働率も見てください。地方によって稼働率が相当違います。

都道府県別延べ宿泊者数(2015年)
http://www.mlit.go.jp/common/001131278.pdf

中国人の旅館買収には理があり、背景には業界の長期低迷がある
http://inbound.exblog.jp/25808051/

なぜこうなるかという理由として、地方の場合、特に旅館業者らの間で、外国人を受け入れたくないという意向が未だ強いことが考えられます。ですから、このネット予約時代でも、外客も利用可能な宿泊サイトに登録していない施設も多そうです。民泊市場の急拡大は、AirBnBをはじめとしたマッチングサイト(事実上の予約サイト)がなければありえなかったことです。本当は地方の旅館こそ、宿泊予約サイトに登録すべきなのですが、そういったモチベーションがあまり感じられないケースが多そうです。いやむしろ、そんなことをして外国人が来られたら困るとすら考えている可能性があります。

ですから、地方では民泊を推進する前に、既存の旅館を外客に利用してもらうための手立てや支援策を打つべきだと思います。そうでないと、本末転倒の話だからです。自治体の関係者は、民泊市場が急拡大しているいまこそ、地元の旅館業界に働きかけて、外客の受入を促進すべきではないでしょうか。

旅館であれば、民泊の規制緩和でも問題になっていることなど、当たり前ですが、最初からクリアしています。こうした既存の施設をどう活用するかという議論ももっと必要だと思います。

【追記】
そんなことを思っていたら、6月に入り、こんな話になってきました。AirBnBが近隣問題の解決に向けて動き出そうとしたようですが、一方で政治的にはかなり厳しい裁定が下りそうなのです。

Airbnb、近隣民泊への苦情報告ツールを公開(2016.6.1)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1606/01/news095.html

民泊ビジネス終了か?「民泊180日以下」で閣議決定(2016.6.3)
http://airstair.jp/minpaku_180/

さあ、これからどうなるか。民泊推進派のため息が聞こえるようです。でも、もう少し状況を見ていきましょう。
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by sanyo-kansatu | 2016-05-22 16:18 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 05月 18日

「民泊」の問題は、結局「非居住型」をどうするかにある

今年に入り、メディアは訪日外国人市場の拡大にともなう政府の「規制緩和」をいくつも報じています。

資格不要の有償ガイドを認めるなら、せめて登録制にすべき (2016年 5月17日)
http://inbound.exblog.jp/25807497/

そして、今日は「民泊」の解禁です。以下、朝日のネット記事です。

民泊、住宅地で解禁へ 訪日客増にらみ新法 政府方針(朝日新聞2016年5月18日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12362375.html

空き部屋などに旅行者を有料で泊める「民泊」について、政府は住宅地でも一定の条件を満たせば営業を認め、本格的に解禁する方針を固めた。19日にまとまる規制改革会議の答申を受け、今月末に閣議決定する規制改革実施計画に盛り込み、今秋以降に「民泊新法」を国会に提出する。

民泊をめぐっては4月、旅館業法で許可を出す最低面積が5分の1に緩和されたが、都市計画法の「住居専用地域」では依然として営業は認められていない。

都市部で宿泊施設が不足する中、訪日観光客の増加に対応するため、政府は営業日数制限などを条件に対象地域を全面的に広げる。家主がいる場合だけでなく、ワンルームマンションなどで家主が不在でも騒音など近隣トラブルを防ぐ管理者が登録されれば、行政へ届け出ることで営業を可能にする。インターネット仲介サイトも登録制とし、取引条件の説明などを義務づける。

家主や新設される民泊管理者は、利用者名簿の作成保存のほか、マンションの管理規約や賃貸契約に違反しないことや、民泊営業の「表札」を掲げることなども義務化する。


民泊とは、一般住宅の空いている部屋を旅行者に貸し出すことで、近年の訪日外国人の急増で、大都市圏の客室不足や料金の高騰が背景にあることは広く知られるようになりました。米国系民泊サイトのAirBnBの日本法人の設立は2014年5月。空室を提供する登録数は急増し、2016年1月現在で約2万6000軒を超えたそうです。

実は、ぼくの仕事場の向かいにある一戸建てのお宅でも、数日おきに外国人ツーリストが入れ替わり来て、民泊している様子を窓越しに見かけます。たいてい西洋人のカップルで、彼らを迎え入れるホストであるその家のご夫婦が玄関先で若いツーリストたちと語らっている姿はとても楽しそうです。天気のよい日には、2階の物干しに白いシーツが干してあります。

一般に民泊には3つの類型があります。アイドルのコンサートが地方都市で開かれるときなどの大規模イベント時に臨時に部屋を貸し出す「イベント型」、ホストの自宅内の空いた部屋を提供する「ホームステイ型」、そしてホストの住んでいない賃貸マンションなどを貸し出す「非居住型」です。前述のご夫婦の場合は、「ホームステイ型」でしょう。

結局のところ、問題は「非居住型」民泊にあると思います。

ぼくの知り合いのひとりも、横浜の住人ですが、大阪の賃貸マンションを借りて民泊をやっています。こういうケースが、人ごとながら、とても心配なのです。

なぜなら、民泊を市場にまかせて運営していくうえでの課題を解決するための取り組みが圧倒的に足りないと思われるからです。これは日本に限った話ではなく、世界的にいえることです。

そのため、当然ホテル業界からの反発があります。「ホテルに義務付けられる環境・食品衛生・防火安全対策が(民泊のホストらに)免除されているのは不公平」だからです(実際は、民泊は「簡易宿所」という位置づけで、ホテルとまったく同じ基準ではないですけれど…)。

懸念事項の最たるものは、近隣住民へのケアがおざなりなことでしょう。もし自分の住むマンションの隣の部屋に、数日ごとに見ず知らずの外国人がやって来るとしたら、どう思いますか。

前述のぼくのご近所のケースのような「ホームステイ型」であれば、近隣住民へのケアはご本人たちの努力でそれなりに対処できると思いますが、「非居住型」の場合、旅行者と住民の間に何か問題が起きた場合、誰が対応するのか。

もともと「カウチサーフィン」のような無料で部屋を貸し合うSNSから始まったのが世界の民泊ムーブメントでしたが、AirBnBという金銭の授受を含む民泊サービスが登場してきて以来、状況は変わってきたといえます。要は、儲かるからと始めたホストたちが急増したことで、あやうげなことになってきたのです。彼らの目的ははっきりしているので、グレーゾーンなど気にしません。まずくなれば、すぐに手を引けばすむと考えているはずです。それは、中国人の団体ツアーのビジネスとよく似ています。彼らもまたグレーゾーンの存在をものともしないからです。そうこうするうちに、在日中国人による民泊ビジネスも相当な勢いでうごめき始めています。

都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた(2016年3月27日)
http://inbound.exblog.jp/25579904/

こうした「非居住型」民泊に対する懸念の解消は、実際には、最近次々に生まれている民泊運営代行業者が担うことになるのでしょうが、市場の拡大にどこまで追いついているのでしょうか。彼らの取り組みが、今後民泊市場が日本社会に受け入れられるかどうかを決めるのだと思います。でも、大丈夫かしら?

だいたいAirBnBのサイト自体がお粗末なもので、自動翻訳でホストとゲストがやりとりするような世界でもあると聞くと、ゾッとしてしまいます。なぜそんなことで平気なのでしょう? こういうところに、日本のIT系の人たちの甘さを感じてしまいます。

熊本地震の直後、AirBnBが被災者に部屋を無料提供する募集をしていました。彼らとしては、非常時における民泊の意義をアピールし、イメージアップを図りたかったようですが、問題はそっちじゃないと感じた人も多かったのではないでしょうか。

熊本地震  被災者に家を無料提供 民泊サイトが募集(毎日新聞2016年4月16日)
http://mainichi.jp/articles/20160416/k00/00e/040/228000c

こうした客観情勢から、不動産業界でも民泊に対する姿勢は分かれるようです。

民泊、割れる不動産大手 規制緩和、商機狙う動き(朝日新聞2016年5月18日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12362264.html

「ライオンズマンション」を全国展開する不動産大手の大京が、戸建て住宅を使った「民泊」の事業化にこの夏にも乗り出す。政府が進める規制緩和が商機につながるとみる。一方で、新築の分譲マンションの管理規約で民泊を禁止する大手もある。

有料で自宅の空き部屋を旅行者に貸し出す「民泊」は、旅館業法で原則として規制されている。ただ、東京都大田区では1月、国家戦略特区の規制緩和を利用し、民泊が条件付きで認められることになった。

大京は7月にも、保有している大田区の2階建て中古住宅を使って民泊事業に乗り出す。羽田空港から乗り換え無しで行ける京急蒲田駅から徒歩10分。築17年で、ファミリー向けに賃貸していた。民泊ではより高い利益が見込めるという。

大田区の制度では1回の利用で7日以上の滞在が必要だが、周辺のビジネスホテルより割安な料金設定とすることで、「十分に稼げる」(青本隆担当部長)と自信をみせる。羽田、東京都心、横浜へのアクセスの良さが「売り」だ。

大京は、民泊は全国に広がるとみている。今年度には空き家になっている中古住宅100戸程度を買い取り、事業を拡大する計画を描いている。

■住民に配慮、禁止も

民泊の広がりは、不動産会社にとって良いことばかりではない。

管理会社は、マンションの住民たちから「うるさい」「ゴミが散らかっている」などの苦情を受けることが増えた。マンション販売の現場でも、「(民泊で使われると)防犯や衛生面で心配だ」「民泊に使われないマンションが欲しい」との声があがる。

東急不動産は1月下旬に売り出した大阪市内の二つのマンションの管理規約に、「対価を得て宿泊施設として使用することを禁止する」と明記し、民泊に使えないようにした。東京都大田区の物件(2月発売)と横浜市の物件(5月発売)でも、同様の対応をしたという。

野村不動産は、3月以降に販売開始の広告を出した分譲マンションのすべてで、あらかじめ民泊を禁止している。また、すでに分譲済みのマンションでも「専有部分は専ら住宅として使うこと」と定められている場合がほとんどで、民泊はできないと解釈するのが一般的だ。相談があれば明確に民泊を禁止するような管理規約の変更案を示して助言しているという。

マンション管理規約をめぐっては、国交省が現在の標準的な規約を改正しなければ民泊に使えない、と業界などに通達しようとしたところ、民泊を推進したい内閣府などから「待った」がかかった。現時点でも民泊に使えるかどうか、あいまいなままだ。

ニッセイ基礎研究所不動産市場調査室長の竹内一雅氏は、「不動産会社の住民への配慮は当然だ。不安をほぐせるルールが整備されなければ、民泊が大きな商機になるとは考えにくい」と指摘する。(下山祐治)

■民泊をめぐる不動産各社の対応

<大京>    東京都大田区の戸建てで7月にも民泊事業を開始。全国展開も検討
<東急不動産> 大田区や大阪市、横浜市で販売中の一部分譲マンションで民泊を禁止
<野村不動産> 3月以降に販売開始の広告を出した分譲マンションすべてで民泊を禁止
<三菱地所>  マンションの管理組合に対する相談体制の強化を検討
<三井不動産> 当面は大田区などの取り組み状況を見守る


日本には人口減にともなう深刻な空き家問題もあります。その対策として渡りに船ともいえる民泊だけに、政府も規制緩和を進めたいのでしょう。そのためには、民泊の存在を受容する社会のコンセンサスをいかにつくっていくか。いまの民泊をめぐる状況は、中国人団体ツアーのガイド問題にとてもよく似ています。グレーゾーンであることをいいことに、利益を得たい人たちだけが都合よく暗躍しているように見えるからです。

いろいろ気になることばかりではありますが、訪日外国人の増加が、これに限らず、国内へのさまざまな投資を生んでいることは確かです。それこそがインバウンド振興の意義のひとつといえるわけですから、個人的にはうまく進めてほしいと願うばかりです。

民泊の市場動向や問題について詳しい情報を発信しているのが、以下のサイトです。

マンション・チラシの定点観測
http://1manken.hatenablog.com/

このサイトを日々チェックしていると、「民泊」問題のさまざまな側面が見えてきます。

【追記】
あとで知ったのですが、この報道はすでに先週出ていたのですね。

民泊を全面解禁、住宅地で営業認める 政府原案 (日本経済新聞2016/5/13)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS29H3C_T10C16A5MM0000/

NHKでも以下の記事を配信していました。

民泊 管理者置けば届け出で営業可能に(NHKオンライン2016年5月13日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160513/k10010518831000.html

住宅の空き部屋などを有料で貸し出す「民泊」について厚生労働省と観光庁は家主が同居していなくても管理者を置くことを条件に都道府県への届け出を行えば営業を認める方針を決めました。

住宅やマンションの空き部屋を有料で貸し出す「民泊」を巡っては、外国人観光客の増加で宿泊施設の不足が深刻となる中厚生労働省と観光庁がルール作りを進めています。先月からは「民泊」をカプセルホテルなどと同様に旅館業法で「簡易宿所」と位置づけ、貸主が都道府県から許可を得れば営業が認められるようになりました。

このうち、一般の家庭で受け入れる「ホームステイ型」については家主がいるため宿泊者の安全管理がしやすいなどとして、今後、許可制ではなく都道府県への届け出だけで認める方針です。

さらに「民泊」を広げるため厚生労働省などは家主が同居していない場合でも管理者を置くことを条件に、旅館などと競合しないよう営業日数の制限を設けたうえで、「ホームステイ型」と同様に都道府県への届け出を行えば営業を認める方針を決めました。管理者は近隣とのトラブルの対応や宿泊者の名簿の作成などが義務づけられるということです。

厚生労働省と観光庁は今後、インターネットなどで仲介を行う業者への規制について検討することにしています。

ここで気になるのは「非居住型」民泊でも、「管理者」を置けば問題ないとのことのようですが、これはどのような存在を指しているのでしょうか。民泊運営代行業者でいいのでしょうか。もうひとつよくわからない内容です。
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by sanyo-kansatu | 2016-05-18 11:00 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(2)
2016年 04月 11日

中国おばさん軍団、日本のホテルロビーで踊り出し、顰蹙を買うとの噂?

上海出張で拾った話をもうひとつ。

(上海出張で拾った話その1)
上海で個人旅行化が進んだ理由は貧乏人だと思われたくないから!?
http://inbound.exblog.jp/25647061/

なんでも中国の団体ツアーに参加したおばさんの一群が日本のあるホテルのロビーで突然音楽をかけて踊り出したのだそうです。

真偽のほどは確かめようがないのですが、日本のホテル予約の仕事をしている上海人に聞いたので、ガセとは思いにくいところがあります。

でも、これはどういうことなのか? なぜ彼女たちはいきなり踊り出したのか?

ここでいう踊りというのは、以前本ブログでも紹介したこともある「広場舞」を指します。もう数年前から中国で起きていることですが、中高年のおばさんたちが公園や広場などで音楽をかけて一斉に踊りまくるという一大ブームのことです。

中国のダンス(広場舞)おばさんと改革開放30年の人生に関する考察
http://inbound.exblog.jp/24252593/
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2月に重慶に行ったときも、知り合いと夕食をすませ、ホテルに戻ろうと繁華街を歩いていたら、「広場舞」に出くわしました。これまで見た中国東北地方で見た踊りに比べると、少し垢抜けている印象です。動画もつい撮ってしまいました。

重慶の広場舞その1
https://youtu.be/MUoOkUIj1Tk
重慶の広場舞その2
https://youtu.be/y2jimBNmxUc
重慶の広場舞その3
https://youtu.be/BjNPaeObRqg

土地柄もあるのか、音楽もずいぶん軽快なテンポの曲調です。おばさんだけでなく、若い子たちも一部加わっていて、もしかしたらご本人たちは自分のことをずいぶんイケてるように思い込んでいそうです。

こうしたことから、先ほどの噂の真相は、観光客となって日本を訪れた中国のおばさんたちが、いつもの調子で「広場舞」をやってしまったのだと思われます。

ふつうに考えたら、そういうことを外国に来てやっちゃダメでしょう……という話です。しかも、ホテルのロビーだなんて。せめて場所を選ぶべきでした。

この噂がなぜガセとは思いにくいかというと、実は同じことが世界で起きていたからです。

これは中国のネット記事です。「中国のおばさん、世界各国の名所で広場舞を踊り、見得を切る」という表題がついています。

中国大妈广场舞亮相各国标志性景点(中国侨网2015年09月21日)
http://www.chinaqw.com/hqhr/2015/09-21/64918.shtml

記事によると、中国おばさん軍団が、ニューヨークのサンセットパーク、モスクワの赤の広場、パリのルーブル宮殿前などで「広場舞」をやり、顰蹙を買ったのだそうです。そりゃそうでしょう。あの大音響が問題にならないはずはありません。

中国国内でも、さすがに彼女らに対する批判はあります。以下の記事は「環球時報」という国際ネタを扱うタブロイド新聞のネット版で、「中国おばさんは国外で広場舞をすべきか?」という表題がついています。

中国大妈广场舞该不该跳到国外?
http://opinion.huanqiu.com/opinion_world/2014-06/5023566.html

ここでは、なぜ海外で「広場舞」をすることがよくないかについて論じていますが、どうしてそんなに当たり前に思えることをいまさら大真面目に説いているのか、いぶかしく思うほどです。要は、やりたいなら、やるべき場所を選んでやればいいだけの話。また事前に関係者に話をつけて、許可をもらえばいいわけで、勝手にやっちゃうから問題になるのです。

中国のいい歳したおばさんたちが、なぜこんなに常識がないかというと、中国の国情にも関係がありそうです。何事もそうですが、中国では法やルールはそのときどきの権力者が上から決めるもの。民衆には決定権はありません。その代わり、法に定められていないことであれば、たいてい何でも好きにやっていい、といようなところがある(ただし、権力によってストップをかけられるまでは……)。

ですから、このような「権威主義体制」の社会の特性に合わせた処世や考え方が自然に身についてしまっているのです。ある意味、とても「自由」な人たちです。他人のやることを「気にしない」文化というのは、こうした社会が背景にあります。

ところが、この一見鷹揚に見えなくもない彼らの行動は、海外では理解されません。

「広場舞」をめぐる中国のネット論考をみていると、こんなことも感じます。いまの中国人は、自分たちは世界で実力どおりに認められていないという不満を抱えています。だから、いつか自分たちの力を誇示したいという思いもあり、自分ではけっこうイケていると思っている「広場舞」を海外で披露したくなる……。

冗談のように聞こえるかもしれませんが、そういう思いも彼女らの心の中にあるような気がします。だって、わざわざ赤の広場やルーブル美術館の前でやる必要があるでしょうか?

それは、無意識のうちに民族的な示威行為となっているのではないでしょうか。

そういう意味では、今回の日本での噂は、他の海外のケースに比べれば、そんなに大そうな話ではなさそうです。団体ツアーで日本に来ると、毎日バスに揺られてばかりなので、たまには身体を動かしたくなったということではないでしょうか。いつも中国でしているように。

でも、それをやっちゃうところが、いろんな意味で、いまの中国人らしいともいえます。

以上は、かなりの部分、ぼくの想像で書いているところがあります。実際の光景を目撃した人がいたら、ぜひ教えていただきたいものです。

ところで、この写真は3月に上海の魯迅公園を歩いたときに、社交ダンスのおじさんおばさんグループがいたのを撮ったものです。「広場舞」おばさんたちより一回り年齢が上の世代のようです。
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これは四川省成都の太極拳をするおじいさんおばあさんたちです。社交ダンスの世代よりさらに上の年齢でしょう。
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いま中国人は国中どこでも、踊り、舞っています。一種の国民運動といってもいいかもしれません。

だとしたら、せめてホテルのロビーで披露するのは、社交ダンスか太極拳だったらよかったのにね、と思わないではありません。しかし、いま大量に出国しているのは、その世代ではなく、改革開放時代に青春を送った「広場舞」世代なのです。
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by sanyo-kansatu | 2016-04-11 14:17 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 04月 11日

2016年の外航クルーズ客船の動向を占うための客観情勢

3月上旬、中国発クルーズ客船が多数寄航する福岡で、中国人不法ガイドが逮捕されたニュースが報じられたばかりですが、今年も昨年以上の勢いで外航クルーズが日本にやって来るようです。

中国人不法ガイドの摘発は全国に波及するのか。訪日旅行市場に与える影響は?
http://inbound.exblog.jp/25461430/

これまで本ブログでも、沖縄や福岡、境港などのクルーズ寄港地を訪ね、現地の事情を報告してきました。

クルーズ寄港ラッシュで沸くインバウンド先進県、沖縄(日経ビジネスONLINE 2014年4月8日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140402/262219/
東シナ海クルーズラッシュの背景:博多港にいつ頃から現れていたのか?
http://inbound.exblog.jp/24665654/
4500人の中国クルーズ客が山陰の人口3000人の村に押し寄せ、住民を困窮させたというのは本当か?
http://inbound.exblog.jp/25247278/

こうした寄航数が増えている地域ばかりが話題になるのは無理もないことですが、日本全体に寄港する外航クルーズの客観情勢はどうなっているのでしょうか。

トラベルジャーナル2016年4月4日号の特集「激増する訪日クルーズ 恩恵を受けた地域、受けない地域」は、それを知る手がかりとなります。

ざっと同特集のポイントを整理してみましょう。

まず特集の冒頭で告げられる以下の一文に注目です。「訪日クルーズ旅客数が、昨年始めて100万人を突破した。20年に100万人の政府目標を5年も前倒しで達成した背景には、受け入れ環境整備の成果だけでなく、中国市場の急拡大がある。果たして、地域にはどのような影響を及ぼしているのか」。
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そうなんです。昨年日本を訪れた外国人旅行者のうち、約100万人はクルーズ客船で寄航し、上陸した人たちなのです。その数が多いかどうかはともかく、2015年の寄航数は昨年の1.5倍増(965回)、乗客数になると3倍増(111万6000人)に近い勢いで伸びたことがデータで示されます。

国土交通省が制作した以下のサイトをみると、クルーズ寄港地がわかります。2015年の寄航回数のランキングは以下のとおりです。

1位 博多(245回)
2位 長崎(128回)
3位 那覇(105回)
4位 石垣(79回)
5位 鹿児島(51回)
6位 神戸(42回)
7位 横浜(37回)
8位 佐世保(34回)
9位 広島(25回)
10位 大阪(18回)

CRUISE PORT GUIDE OF JAPAN
http://www.mlit.go.jp/kankocho/cruise/jp/

このランキングを見れば一目瞭然、上位を占めるのは九州と沖縄で、それぞれ中国発、台湾発のクルーズ客船が寄航回数を押し上げていることがわかります。

なかでもトップの博多港への外航クルーズ寄航回数のデータは以下のとおりです。

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東日本大震災の2011年と尖閣問題が再燃した2012年9月以降の影響で13年に数を減らしているものの、14年から15年にかけて2.5倍の伸びを見せています。福岡市では、「平成27年博多港寄港クルーズ船乗客実態調査」を実施していて、以下のような興味深い指摘をしています。

①乗客一人当たりの平均消費額 10万7000円
②福岡での購入品目 1位化粧品 2位健康食品 3位お菓子 4位医薬品 5位電化製品
③乗客の女性比率が61%と高く、30代と50代が多い。
④乗客の在住都市は上海が4割と最大だが、地方都市も増えている。
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15年博多港寄港クルーズ船乗客実態調査
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/52066/1/cruise.pdf

この調査からうかがえるのは、10万円超という買い物購入額がクルーズ旅行商品を成り立たせていること。購入品目の大半がドラッグストア系商品であること。30代と50代が多いということは、1980年代生まれの「80后」世代とその親の世代のファミリー旅行がメインの客層として想定されること。そして、すでに半分以上は、上海以外の地方都市の住人であることがわかります。

ところで、同特集は次のようにも述べています。

「16年の寄航予定数は400回は箱崎ふ頭も駆使した格好で、博多港のキャパシティーはほぼ飽和状態にあるといえよう。そんななか、福岡市はポートセールスでやみくもに寄航回数を増やすのではなく、ラグジュアリータイプの船や日本人の海外クルーズを伴う寄航を促進するなど、利用者の幅を広げる施策にシフトしている」。

福岡市のクルーズ関係者に今年初め、話を聞いたことがあるのですが、やはり中国発クルーズ客船の勢いはすざまじいものがあり、今年は400回の予約がすでにあり、来年は700回などといわれているそうです。しかし、中国人不法ガイドに代表されるさまざまな問題をはらんだ中国発クルーズがこのままいつまで持続可能性のあるビジネスとしてあり続けるのか、中国側の事情もよく見ていく必要があるように思います。

さて、同誌では、逆に寄航回数が減少している北海道の事例も紹介しています。

同誌によると、北海道に寄航するクルーズ客船数は14年に過去最高の157回となりましたが、15年に半数以下の69回に落ち込みました。急増・急落の要因は、外国船社の寄航数の増減によるものだといいます。九州でこれだけ増えている中国発クルーズ客船は、長くても1週間程度のカジュアルクルーズがメインであるため、北海道は距離的に遠く、寄港地の候補からはずされているといいます。
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同誌はさらに次のような面白い指摘をしています。

「訪日クルーズ拡大は、日本人のクルーズ市場にも少なからぬ影響を及ぼしている。華やかな大型客船の寄航によるクルーズ旅行への関心の高まりが期待される一方で、日本人の乗船機会が奪われるとの懸念もある」。

これはどういうことでしょうか。
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実は、日本人のクルーズ旅行市場は、2000年代からずっと伸び悩んでいます。日本人にとってクルーズ旅行は「高価な贅沢旅行」「退屈」「船酔い」といったネガティブなイメージを引きずっているのだといいます。

中国発クルーズの増加は、日本人にクルーズ旅行は必ずしも「贅沢」とは限らないことを教えてくれたという功績はある一方、一部とはいえ寄航回数の激増した港のキャパが飽和状態だとしたら、日本人のクルーズ旅行にも支障が出るおそれがあるというわけです。同誌は触れていませんが、いくらカジュアルクルーズだからといって、中国客がたくさん乗船している客船には乗りたくないという気持ちも出てくる気もします。

日本のクルーズ市場を取り巻く客観情勢をざっと眺めてきましたが、寄港地でのさまざまな取り組みがもっと注目されてもいいと思います。もし機会があったら、長崎や鹿児島、北陸などを訪ねてみたいものです。
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by sanyo-kansatu | 2016-04-11 09:02 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 03月 28日

日本より進んでいる中国ECサービス 支えているのは誰か?

「上班买, 下班收 当日达, 当日用(出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える)」。
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3月中旬、上海の地下鉄車両内で見かけた中国のECサイト「天猫」の広告のコピーです。これは単なる煽り文句ではありません。いまの上海では、ECによる宅配サービスが社会に浸透していて、文字通り、「出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える」状況が実現しているからです。

上海の地下鉄には、ホームも通路も車両内も、さまざまなECサイトの広告であふれていて、政府広報を除くと、かつては大半を占めていたアップルやサムソン、高級ブランド系などの海外メーカーの広告よりも数の上では多そうです。7割がたそうではないでしょうか。

たとえば、これは「京東商場」(JD.com)というECサイトの広告です。
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またこれは「1号店」(Yhd.com)というサイトです。
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なかでも圧倒的な広告スペースを誇っているのが「天猫」です。3月はちょうど長い春節休みが終わったばかりの時期だったため、「新学期向け」商品の割引をうたう広告が出ていました。
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全車両「天猫」でラッピングされた地下鉄も走っているほどです。
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「天猫」とは、中国最大のネット企業「アリババ」が運営する越境ECサイト「天猫国際(Tモールグローバル)」のことです。
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天猫国際(Tモールグローバル)
https://www.tmall.com/

「越境EC」については、先週発売された日経ビジネスの以下の特集で次のように説明されています。

個人輸入を含む、国境を越えて商品が取引されるECのこと。中国では、政府がECを使って海外製商品の個人輸入を促進する枠組みを2013年から段階的に制度化。一般貿易と比べて税率が低い、個人輸入の際に課せられる「行郵税」が越境ECにも課せられる。

越境ECサイトの運営会社が上海の自由貿易試験区などの「保税区」に倉庫を設置。そこに海外製商品を在庫し、ECサイトからの注文に応じて中国内の消費者に出荷する。海外から個別に消費者に直送する場合と比べて、保税区の倉庫への一括納入で輸送コストを抑えられる。中国国内の倉庫から出荷するため、配達時間も短縮できる。

課税逃れの並行輸入業者を締め出したり、品質の悪い中国製品に対する消費者の不満をガス抜きしたりするために導入されたと言われる。リスクは突然の税率変更。実際、2016年4月から一部の商品について税率が引き上げられると言われている
」(p30)

日経ビジネス2016.03.21 特集「100兆円市場 中国にはネットで売れ」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/031500264

つまり、いま上海では「天猫」を使えば、日本のドラッグストアで販売されているような商品などが、ECで手軽に購入できるというわけです。

同誌の特集では、中国のEC市場のランキングを載せていますが、「天猫」を運営するアリババが「2位以下を圧倒」しています。
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こうした中国のECビジネスの盛況ぶりについて、コンパクトにまとめられている記事をネットで拾ったので、全文を紹介します。筆者はジェトロの研究員です。

ECビジネス普及で再編期到来 中国流通業界の戦略とは(2015年12月19日 大西康雄(日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・上席主任調査研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5758


中国で流通業界再編の新しいうねりが起こっている。その直接的な契機となったのは、第1にインターネットの普及=ECビジネスの急成長である。

マクロ経済統計では、製造業が軒並み不振な中、全社会小売総額は二桁増を続けているが、その内容を見ると、デパートやコンビニ、スーパー、専門店など伝統的小売業態の売り上げ増加率は次第に低下している。

これに対してインターネット小売市場(Eコマース)売り上げ額は前年比で40%以上の急増ぶりを示し、15年上半期の売り上げ額は1兆6140億元で全商品小売額の11%となった。中でも携帯電話などの移動通信デバイス使った移動Eコマースがその4分の1近くを占めている。

第2には、消費者行動の大きな変化がある。特に都市部では、日用品に至るまでネットで注文するというライフスタイルが日常の光景となりつつある。

再編の間接的契機となったのは流通業界自身が、消費需要の把握や業態の近代化で出遅れたことである。確かに家電などの量販店、コンビニなどの先進国型業態が急速に普及したが、規模拡大で利益額を拡大する旧態依然な戦略が主流を占めてきた。消費者の要求が多様化する中で利益率が縮小し、15年上半期には、大手小売企業101社中42社がマイナス成長となった。

業界の対応は様々だ。第1は、店舗数縮小による「損切り」タイプの対応で、健康・美容商品の採活(VIVO)、高級スーパーOleなどを展開している華潤グループが代表例である。

第2は、逆に経営悪化の他店を買収し規模拡大を図るタイプで、チェーンストア大手の北京物美グループがその代表例。同グループは、廉美、新華百貨、江蘇時代スーパーなどを傘下に収め、売り上げを伸ばしている。

第3は、Eコマースを取り入れた新業態を模索するタイプで、これは上記の例を含め業界全体で採用されている。ネット上に取扱い商品を展示し、実体店舗にその実物を置いて消費者に体験させ、注文を受けると宅配で届けるというO2O(Online to Offline)方式はその典型例である。すでにウォルマートは「速購」、華潤は「e万家」というサイトを立ち上げている。

中国の世界に例を見ない規模で進む都市化や消費の高度化は止まることがない。流通業界の挑戦も終わることはないであろう。


ここでも、中国の都市部で「日用品に至るまでネットで注文するというライフスタイルが日常の光景」となっていることが指摘されています。

それが可能となった背景には、アリババが提供する「支付宝(アリペイ)」やテンセントの微信(WeChat)に組み込まれている「微信支付(ウイチャットペイメント)」などの決済サービスの普及があります。
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中国では国際的なクレジットカードを持っている人は多いとはいえませんが、こうした独自の決済サービスを広めたことで、ECの利用が日常化していったわけです。

コンビニなどはもちろん、ジュースの自動販売機などでも一部対応しているのを見かけました(これは余談ですが、上海では日本のように街中に販売機はほぼ置かれていませんが、地下鉄駅構内やホームにのみ置かれています)。
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しかも、その普及ぶりは、海を越えた銀座のドン・キホーテでも使えるほどなのです。

銀座のドンキ、LAOXに徹底対抗!価格以外でも負けません!?
http://inbound.exblog.jp/25347932/

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実際、上海人の「ライフスタイル」にECは定着していて、高価な外国製コスメや靴、電化製品だけでなく、お弁当やトイレットペーパーなどの日用品まで宅配で届けられているようです。

それを実感する場面として印象的だったのが、上海の知り合いに案内してもらった大学で、学生寮のそばにECで購入した商品を受け取るための特設施設があったことでした。中国の大学生は、基本的に寮住まいです。1部屋に数人が共同生活している環境です。ところが、豊かになった彼らは、ECを使って日常的に買い物をしているのです。
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その大学は、毛沢東の像がいまも鎮座する華東師範大学でした。女子学生が多いことで知られる名門大学です。
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さらに、「饿了吗(おなかすいた?)」というサイトがあり、これは市内のどこにいても近所の飲食店からお弁当や飲み物などを宅配してもらえるECサービスです。今回知人のオフィスを訪ねたとき、このサービスでお弁当を宅配してもらって、一緒に食事をしました。これは中国国内の他の都市部でもかなり普及していて、いまや中国は「出前パラダイス」といえそうです。

饿了吗
https://www.ele.me/home/

同じような話は、前述の「日経ビジネス」の特集でも書かれていました。

上海市の高級住宅地に住む専業主婦の滕綺達さん(45歳)の自宅には、1日に7~8回、宅配便が届く。段ボール箱の中身は、洋服から生活用品、家電から生鮮食品まで様々。どれも滕さんがECで購入した商品だ。

滕さんは11歳と7歳の2人の子供を育てている。忙しい生活の合間にも、スマートフォンを使ってアリババやJD.comなどのECサイトで買い物ができる。中国のECでは、既に5割強はスマートフォンなどのモバイル端末経由の購入。2019年にはこれが7割に達する見込みだ。支払いには、アリババの「支付宝(アリペイ)」などの決済サービスを使用。現金で物を買う機会はほとんどないという。滕さんは、「そのうち、リアルの店舗なんてどこにもなくなるんじゃない」と笑う
」(p30)

この記事は、海外事情をよく知らない読者向けの、ある一面のみを調子よく取り上げた印象がぬぐえませんが、エピソード自体はいまの上海では特別なことではありません。

冒頭の「出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える」状況というのも、彼らが自分の勤めるオフィスに日用品の宅配を届けてもらっていることと関係あります。日本ではこうしたプライベートを職場に持ち込むようなことはちょっと考えにくいですが、彼らはそういうことを“気にかけない”文化といえます。つまり、そのような人が職場にいても、他人事として受け流すのが中国人社会なのです。これも中国でECが普及する背景のひとつでしょう。

こうしたことから、いまの上海では(中国では、とまではいえません)、日本に比べてはるかにECが身近なものとなっていることがわかります。

でも、話はそこで終わりません。

こうしたEC化の過度の促進は中国のリアル経済にとって良いこととはいえないと指摘する声は多いと聞きます。実際、前述のジェトロ研究者の記事でも「デパートやコンビニ、スーパー、専門店など伝統的小売業態の売り上げ増加率は次第に低下している」と指摘しています。ECがもらたす市場環境の変化から、これら巨大な売り場を必要とする業態が苦戦しているというのは世界的な現象ですが、中国は2000年代以降、いわば国を挙げた「不動産立国」と化してハコモノを量産し、GDPを増やしてきた国ですから、現状のように、全国どこでも高級ショッピングモールが閑古鳥という状況は、やはり心配なわけです。マクロ経済が不振となった根本的な問題が解決されているのではないからです。

それに、今回上海のECサービスのさまざまな便利さを体験し、その実情を垣間見てきたぼくがいちばん感じたのはこれです。

いったいECサイトで注文した商品を誰か運んでいるのか?

そりゃそうです。社会が便利になるためには、誰かがそれを支えているわけですから。そしてそれは、宅配便のバイク兄ちゃんたちなのです。 

実際、いまの上海の路上は、バイク便だらけです。彼らの多くは、建設労働が一段落したこの都市に居残ったと思われる上海戸籍を持たない地方出身者であることは間違いないでしょう。なぜなら、驚くほど安価でバイク便が運営されているからです。

この写真を見てください。いったい一度に何個の荷物を運ぼうとしているのでしょう。
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中国のECサイトを見ると、宅配手数料はわずか5~15元(100~200円)程度です。それで、利益を上げるためには一度にひとりが多くの荷物を運ばなければならないでしょう。ちなみに、日本のバイク便の料金相場をネットでみると、距離や重さで細かく料金が分かれていましたが、上海の10~30倍です。もちろん、ひとり1個が基本でしょう。人間ひとりの人件費で考えれば当然のことです。
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もちろん、中国にはたくさんの宅配業者があり、バイクだけが荷物を運んでいるわけではありません。問題はバイク便の彼らがどのような雇用条件で働いているかです。
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日本でもアマゾンの躍進は宅配手数料を引き下げています。しかし、それがどこまで可能かは、結局、荷物を運ぶ人たちの労働環境がどこまで担保されるかにかかっていると思われます。

それを考えると、中国のような地方出身者を外国人労働者同然に使える特異な階層社会でしか、現在上海で実現しているようなECサービスはありえないのでは、と思ったのも事実です。彼らのやることなすこと、持続可能性がどこまで考慮されているのか。それとも、彼らの存在はドローン宅配便が実現化するまでの時間つなぎということなのでしょうか?


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by sanyo-kansatu | 2016-03-28 09:52 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)
2016年 03月 27日

都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた

上海から戻ってきた翌週、地下鉄の中吊り広告で目にしたのが、『ウェッジ』(4月号)の「中国民泊」の特集でした。
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特集「訪日外国人を囲い込む中国民泊」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6347

今年に入ってぼくは内陸都市の重慶や成都、そして上海を訪ね、現地の旅行関係者らにヒアリングを続けてきました。そのポイントは、中国では訪日客の個人旅行化のスピードが想像以上に早く進んでいるということでした。

その背景には、日本政府によるビザ緩和の推進があります。詳しくは以下参照。

ビザ緩和とLCC日本路線の拡充が日本旅行ブームをもたらした(日経BPネット2016.3.22)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/031800009/

で、その結果、何が起こるかというと、AirBnBを超える勢いの「中国民泊」市場の拡大だったのです。

同特集をざっと読みました。冒頭のレポート「日本でAirBnBを猛追する中国民泊」を執筆しているのは、現代中国事情の専門家の富坂聡さんです。さすがに情報が早いですね。

同記事は、上海に本社を置く中国最大の海外民泊サイト「自在客」の紹介から始まっています。「同社の提供している部屋は、台湾で21都市、韓国で27都市、中国大陸に46都市、そして日本に40都市、さらにアメリカにも4都市」。なかでも「予約の多い都市として挙げられた10都市のうち6都市が日本」「自在客のホームページで「日本」と入力すると、2090件、1万2760室と表示される」。これは「現在日本で2万6000室を提供しているAirBnBが1年前は1万件にも満たなかったことを勘案するとその存在感は既に甚大だ」といいます。

では、実際に「中国民泊」サイトにはどのようなものがあるのでしょうか。上海の旅行関係者に聞いたところ、海外民泊を扱う代表的なものは以下の3つです。
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自在客 http://www.zizaike.com/
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住百家 http://www.zhubaijia.com/
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途家 http://www.tujia.com/

実は、他にもいろいろあるのですが、以下の2つは中国国内の民泊がメインだそうです。
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游天下 http://www.youtx.com/
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蚂蚁短租 http://www.mayi.com/

いまの中国には数多くの民泊サイトがあります。前述の旅行関係者は「人気の理由は、ホテルより安くて、利用者の個別のニーズに応えられること。ホテルが取りにくいオンシーズンに役に立つサービスです。個人旅行の増加で、特に日本の民泊が大人気になっている」といいます。

では、もう少し「ウエッジ」4月号の記事を見ていきましょう。同誌の記事の一部はネットでも閲覧できます。

日本市場に吹き荒れる「中国民泊」旋風
最大手「自在客」CEO独占インタビュー
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6403

ここでは、同サイトの張CEOによるいくつかの興味深いコメントが載っています。一部抜粋してみます。

― 日本でのサービス開始はいつか? 現在どれぐらいの部屋数を提供しているのか?
張 日本では14年12月にサービスを開始した。現在、約2000人のホストがいて、約1万2000室を提供しているが、日々増加しており、1年後にはまったく違った数字になっているはずだ。

― 日本にいるホストは中国人が多いのか?
張 中国人、日本人、その他の国籍の人が、それぞれ3分の1ずつというイメージだ。以前は中国人ホストが多かったが、最近は日本人ホストが急増している。日本のホストのうち7割程度はAirbnbとの重複登録だと思う。

― 「自在客」以外にも、中国系民泊仲介事業者である「途家」や「住百家」なども日本市場へ参入している。
張 中国系民泊事業者のなかで比較すると、当社が日本でのシェアがもっとも高い。途家は中国国内での民泊に強く、住百家は富裕層に強いという特徴をもっている。当社はFIT(Free Individual Travel、個人手配の自由旅行)に強い。


AirBnBのホストたちの多くも、「自在客」に部屋を提供しているのですね。何人かのホストをしている知人がぼくにもいますが、部屋の回転率を上げたい彼らにすれば、窓口は多ければ多いほどいいということでしょう。実際、AirBnBでも中国本土客の利用が増えているからです。

張CEOはこんなことも言っています。

―― 現行の日本の法律では、特区等を除いて民泊は禁止されている。
張 その点は認識している。だが、中国では既に政府が民泊を許可しているなど、世界各国では合法化の流れがある。それに比べると、日本はやや法整備が遅れている印象をもっている。


この発言には少し違和感があります。確かに、中国では自国民を相手にした民泊ビジネスは盛んなのかもしれませんが、はたして外国人の受入は可能なのでしょうか。なぜなら、中国のホテルに泊まったことのある人なら誰でも知っていると思いますが、この国の宿泊施設では外国人のパスポートコピーを地元の公安に提出する義務があります。それは民泊でも同じはずです。そもそも中国では外国人を泊めていいホテルとそうでないホテルがいまだに存在します。それほど外国人の管理にうるさい国なのです。この状況を知る以上、張CEOの発言はずいぶん都合がよすぎる言い分だと思うからです。

さらに、彼はこうも発言しています。

Airbnbはホストとゲストの両方から手数料を取る仕組みだが、当社はゲストからは一銭も取らず、ホストから手数料10%を取る仕組みだ。中国の旅行者はホテルの仕組みに慣れており、「ゲストが手数料を徴収される」ということに慣れていない(笑)

おいおい、これは民泊本来の相互扶助の精神から逸脱するものではないでしょうか。ホテルと民泊は別物であるという感覚が麻痺しているように感じないではありません。経営者がこんな考え方で大丈夫なのでしょうか…。

そもそもAirBnBが登場する前から国を超えた個人同士が無料で部屋を貸し借りするというSNSは存在していました。カウチサーフィンといいます。
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カウチサーフィン
https://www.couchsurfing.com/
http://find-travel.jp/article/4012

上記サイトは、このサービスについて「直訳するとカウチ(ソファ)でサーフィンの意味。カウチゲスト(旅人)がカウチホスト(宿泊地提供者)を見つけることで旅が手軽になります。お金のやりとりはなく、無料でソファーに寝かせてもらうイメージ」と説明しています。

上海に住む友人のカメラマンもよくこのサービスを利用するといいます。地方出張に行くとき、カウチサーフィンに登録している中国人の家に泊まったり、地方から上海に遊びに来た中国人を部屋に泊めてあげたりするそうです。このサービスは2000年代の早い時期から存在していました。

ところが、AirBnBという金銭の授受を含む民泊サービスが登場してきて以来、状況は変わってきたといえます。

「中国民泊」について気になることは他にもいろいろあります。

上海でC-Tripのホテル予約を担当している関係者に話を聞いたところ、同サイトをよく利用する香港人と中国人ではホテル選びの考え方がまったく違うといいます。香港人は「要求がとても細かい。ロケーションはもちろん、部屋は何平米で、ベッドサイズはどうかなど、いろいろ聞いてくる。料金が少々高くても、自分の好みの部屋を探す傾向がある」のだとか。

一方、中国人が追求するのは安さのみだというのです。

これはひとことでいうと、香港と中国の消費者の成熟度の違いからくるものだといえるでしょう。海外のホテルの利用に慣れている香港人と、自分では慣れているつもりでも、実際はたいしてよくわかっていない中国人との違い。安さしか求めないというのは、残念ながら、それ以外の選択の基準を知らないからなのです。細かいリクエストを伝えることが身についていないわけです。

こうした中国人の消費感覚は、民泊市場の拡大につながっていると考えられます。いま東京や大阪のホテルは予約が取りにくいだけでなく、価格は高騰し、彼らが考える宿泊相場とは乖離が生まれています。だったら、どんな部屋でもかまわないから、安いところを見つけたい。

では、彼らはいくらくらいで泊まっているのか。

知り合いに池袋のマンションを数室借りて「住百家」で民泊ビジネスを始めた在日中国人がいます。彼は昨年、勤めていた会社をやめ、この商売に乗り換えました。彼によると、ワンルームマンション一部屋を1日800元(約1万5000円)相当で提供しているそうです。

ただし、たいてい家族4人、多い場合は6人くらいが1部屋に泊まるそうです。みんなで雑魚寝のイメージですが、かなり安上がりといえます。最低2泊以上を条件にしているようですが、実際、中国人の個人旅行は、カップルというより5~6人の小グループや家族が多いので、民泊は訪日中国市場に合っているという言い方もできそうです。

なにしろ100万人に近い在日中国人がいるので、できれば知人や親戚の家に泊まって安く上げたい、というのが彼らの本音なのです。本来AirBnBなどの民泊サービスは、海外のふつうの家に泊まって、現地で暮らすように滞在を楽しみたいというニーズから市場が拡大したはずですが、大半の中国人のニーズはそういうことではなさそうです。

実際、1泊800元ではホストである彼も、それほどの利益にはなりません。そこで、彼が始めたのは「空港からの送迎」です。家族や小グループで来日した中国個人客は、東京の交通機関に慣れていません。タクシーは片道数万円と法外な高さだし、香港人や台湾人には可能なレンタカーも利用できない。それゆえ、送迎サービスにはそれなりの需要があり、確実に利益も取れるからというわけです。

前述の富坂さんは記事の中で、在日中国人企業家の民泊ビジネスの実態について、「マンション丸ごと買い取るケースが多い」「外国人向けの寮、さらにはシェアハウスを買い取るか借り上げてしまうパターン」があると指摘しています。確かに、薄利とはいえ、今後も数の増加が見込める中国客相手に利益を上げようとすると、そういう発想になって当然かとは思いますが、彼らだって誰もがそんな資本力を持っているとは限りません。C-Tripや春秋国際旅行社などの中国の旅行会社が日本のホテルや宿泊に利用できる施設を買い上げる動きは起きていますが、民泊用に買い上げることがどれほど進むか、ちょっと疑問です。そもそも安く上げたい人向けのサービスだからです。

それに、言うまでもありませんが、民泊の法的規制の問題はまったく解決していないからです。これは日本に限った話ではなく、全世界的にいえることですが、ホテル業界の反発があります。彼らにしてみれば「ホテルに義務付けられる環境・食品衛生・防火安全対策が(民泊のホストらに)免除されているのは不公平」(「ウエッジ」4月号p31 英国のホテル業界のロビー活動の事例)だからです。

もうひとつは、近隣住民へのケアがおざなりなことです。自分の住むマンションの隣の部屋に、数日ごとに見ず知らずの外国人がやって来ることを、誰しも心よく思わないからです。

こうしたこともあり、富坂さんの記事でも、日本における「中国企業不在の民泊ルールづくり」を批判しており、これには大いに同意します。数の上では、いずれAirBnBを追い抜くかもしれない中国民泊の関係者らが、これまで政府の法規制のルールづくりの会合に呼ばれたことはなかったからです。彼らが外国人であったとしても、日本国内で事業を営む以上、本来は関係ないではすまされません。

中国民泊の話は今月初旬、九州で逮捕された中国人不法ガイドの問題と重なってきます。これほど訪日中国市場が拡大しているのに、団体ツアーの国内手配を実際に手がけている在日中国人関係者らは、日本の旅行業界の蚊帳の外、アンタッチャブルな存在として放置されてきたからです。だから、彼らは気兼ねなく中国式ビジネスを日本国内で続けてこれたわけです。

中国人不法ガイドの摘発は全国に波及するのか。訪日旅行市場に与える影響は?
http://inbound.exblog.jp/25461430/

もっとも、民泊に関してはAirBnBのホストの多くが日本人でもあるように、ガイド問題とは少し事情が違うのも確かです。市場が拡大し、儲かるとわかっていて、在日中国人らがこのビジネスに手を出さないわけがありませんが、それは日本人も同じなのですから。

いずれにせよ、訪日旅行市場の拡大をうまく仕かけたわりには、この領域に関する日本政府の法制度の整備を進める態度は、あまりに初心でおっかなびっくりという印象がぬぐえません。確かに、年間2000万人の外国人が訪れるということは、日本列島の歴史上初めてのことでしょうから、前例がなく、適正かつ果断な判断が難しいという面はあると思います。でも、これだけ外国人観光客を呼び込むことに成功した以上、それを日本社会の利益になるよう運営していかなければ、何のためにやってるの? という話になりかねません。AISOの王会長ら、外国人関係者ほど、この問題に関する政府の姿勢に首をかしげています。

お役所任せではもうどうにもならないのが、いまの日本なのかもしれせん。だとしたら、残念なことです。
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by sanyo-kansatu | 2016-03-27 14:40 | “参与観察”日誌 | Comments(0)