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2015年 05月 22日

日本の家庭薬が“爆買い”される理由~台湾のドラッグストア研究家が書いた購入ガイドがスゴイ!

今年2月、上海で著作を手にして以来、台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんのことをあれこれ書いてきましたが、昨日やまとごころ.jpで記事にまとめたので、転載します。

http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_13.html

日本の家庭薬が“爆買い”される理由
台湾のドラッグストア研究家が書いた購入ガイドがスゴイ!


今年の春節や桜シーズンに、中国客が最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったという。その背後には、台湾のドラッグストア研究家の書いた購入ガイド書があった。同書は中国本土でも刊行され、それを持って来店する中国客も現れている。著者の鄭世彬氏が語る「台湾で日本のクスリが愛される理由」とは。

財務省が今月13日に発表した2014年度の国際収支によると、日本と海外のお金の出入りを示す経常収支の黒字幅が4年ぶりに増加。その要因のひとつが、訪日外国人旅行者の消費(朝日新聞2015年5月14日)だとメディアは報じている。

一方、春節や桜のシーズンの中国“爆買い”報道はもはや恒例だが、今年彼らが最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったと中国メディア(レコードチャイナ2015年3月25日)は指摘している。

その時期、都心のドラッグストアに連日大挙して押しかける外国人観光客の姿が見られた。彼らの“爆買い”ぶりはどれほどのものなのか。どんな商品が人気なのか。まずは関係者の話から始めよう。
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人気は日本の定番家庭薬

東京と関西を中心に店舗を展開するOSドラッグチェーンの國米実支社長によると、外国客が目立って増えてきたのは去年からという。

―昨年10月からの免税改正の影響でしょうか。増えたのは秋からですか。

「いや、どっと増えたのは去年の春先から。消費税導入前に3月特需があって、4月以降はドスンと売上が落ちるかと思っていたら、そうでもなかった。これは外国客のおかげ」。

―だとすれば、外客効果は本物ですね。どこの国の客が多いですか。

「うちの場合は、売上でいうと、いちばんは中国。全体の4割。次いで台湾客が2~3割、そして韓国、マレーシア、シンガポール、タイという順。欧米客も多いが、彼らはそんなに買わない。必要なものをちょこっと買う感じ。やっぱり買い物はアジア客。

最近ではキットカットが1日100ケース(12個入り)売れる。マレーシアの人に聞くと、向こうでは1個700円らしい。抹茶味やわさび味など、日本にしかないものを買っていく」。

―中国客はやはり“爆買い”?

「彼らは値段も聞かないで買っていく。たとえば、『救心』(救心製薬)。一度に2、3箱、お一人様お買い上げ3~4万円はよくある」。

―他にはどんな商品が人気ですか。

「肝油のドロップ。中国は一人っ子政策だから、子供が大事。風邪薬やかゆみ止めなど、子供用のクスリを買っていく。ベビー用品も多い。

大人向けなら、胃腸薬の『強力わかもと』(わかもと製薬)や『エビオス錠』(アサヒフードアンドヘルスケア)、疲労回復薬の『アリナミン』(武田薬品)など。人気は日本の定番家庭薬。みなさん商品の写真をコピーして何枚も束にして持ってくる。欲しい商品の画像をスマホで見せられることも多い」。

日本チェーンドラッグストア協会によると、全国のドラッグストアの総店舗数は1万7953店(2014年)。前年より390店舗増加し、総売上高も6兆679億円(前年比101.0%)と伸びは鈍化しつつも成長している。一方、1店舗当たりの売上高は3億3799万円(前年比98.7%)と微減傾向にある。それだけに、売上に貢献してくれる外国客の消費が注目されるのは当然だろう。

中国ネットに現れた「神薬」リスト

昨年秋、中国のネットに以下の記事が掲載されたという。

日本観光、この「神薬」は買うべし!中国人の心をつかんだ日本の優れもの―中国ネット(レコードチャイナ2014年9月5日)
http://www.recordchina.co.jp/a93733.html

そこには、頭痛薬の『EVE』(エスエス製薬)や『口内炎パッチ』(大正製薬)など、日本で購入すべき12種類のクスリが紹介されていた。ドラッグストアで販売されている市販薬である。でも、いったいこの情報元はどこから来たものなのか。

そのひとつの手がかりとなるのが、昨年刊行された『東京コスメショッピング全書』という中国書だ。日本の優れた医薬品や健康・美容商品、化粧品をジャンル別に選んでカタログ風に分類し、解説した案内書である。まさにいま訪日する中国人観光客が最も知りたい情報が一冊にまとめられているというのだから、驚きだ。

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『東京コスメショッピング全書(东京美妆品购物全书)』(中国軽工業出版社 2014年)

著者は台湾出身のドラッグストア研究家の鄭世彬氏。彼が台湾で書いた本が、中国の出版社の目にとまり、簡体字版として刊行されたものだ。ドラッグストア関係者の話では、同書を手にして来店する中国客の姿も見られるという。

「フリーの翻訳家だった私のもとへ日本で買ったクスリを持ってきて何が書いてあるか教えてほしいという問い合わせがよくあった。知り合いの出版社と相談し、2012年2月、日本のOTC医薬品を解説する購入ガイドを出版した」(鄭氏)。

その後、読者から化粧品のガイドもほしいとの声があり、同年11月に刊行したのが、中国版の原本である『東京藥妝美研購』だ。これが好評で、日本の5分の1以下の人口の台湾で約1万部売れた。
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『東京藥妝美研購』(晶冠出版社 2012年)

日本のクスリはよく効き見た目もおしゃれ

3月上旬、訪日していた鄭世彬氏に話を聞いた。

―この本の読者はどのような人たちですか。

「OTC医薬品の本は20~60代までの男女で、コスメガイドは20~40代の日本好きな女性たち。台湾では読者を集めて日本のコスメセミナーも開いている」。

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鄭氏が主催する台湾のコスメセミナー会場は若い女性であふれる

―本を書いたきっかけは、知り合いから日本のクスリに関する質問が多かったからだそうですが…。

「私が日本に行くというと、家族や知り合いから必ずクスリを買ってきてと頼まれる。台湾では、日本のクスリをお土産として配る習慣がある」。

―台湾の人たちは、どんなクスリをお土産に買うのですか?

「たとえば、かゆみ止めの『ムヒ』(池田模範堂)や『ウナクール』(興和)。台湾は日本に比べて暑いから、虫が多い。胃腸薬では『キャベジンコーワ』(興和)が人気。私の母は胃腸が悪いので、いつも買ってきてほしいと頼まれる。台湾のおばさんたちの間では『キャベジン』はすごい薬だという噂が口コミで広がっている」。

―なぜ日本のクスリは人気なのでしょうか。

「効き目もそうだが、日本のクスリはパッケージがおしゃれなこと。一見クスリに見えないのがいい。それに台湾で買うより断然安い。たとえば、目薬『サンテFX』(参天製薬)は台湾では350台湾元(約1000円)くらいだが、日本のドラッグストアなら300円前後で買える」。

―そんなに値段が違うのですか。まとめ買いにしてお土産としてみんなに渡せば、喜ばれそうですね。

「化粧品も日本では台湾の半額に近い気がする。もうひとつの理由は、台湾の薬事法の関係で、同じ日本のメーカーの商品でも、台湾製では一部の成分が添加されていないケースがけっこうある。

たとえば、台湾製の『キャベジンコーワ』には脂肪を分解する酵素のリパーゼが添加されていない。いちばん肝心な成分なのに、台湾では市販品に添加してはいけない。

頭痛薬の『EVE』に含まれているイブプロフェンも、ようやく今は台湾でも解禁されたが、少し前まで禁止だった。この成分はよく効くので、『EVE』は台湾の20代~30代の若いオフィスワーカーに人気がある。男女関係なく、オフィスのデスクの引き出しに入っていると思う」。

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『EVE』(エスエス製薬)は台湾の若い世代に人気

―クスリ以外ではどんなものがありますか。

「たとえば、『休足時間』。台湾人はバイクに乗る人が多く、ふだんあまり歩かない。でも日本に行くと地下鉄に乗るので、いつもの倍以上歩くから、足が疲れる。そんなとき、ホテルでひんやりしたシートを貼ると気持ちいい」。

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ドラッグストアの店頭に置かれる『休足時間』(ライオン)

台湾の都市部に暮らす人たちは、日本と同じような現代的な生活を送りながら、気候や風土、習慣が違うため、さまざまなニーズがあるようだ。パッケージがおしゃれなことのポイントが高いというのも、なるほどである。

台湾客が中国客を先導する

―鄭さんの本は中国でも刊行されましたが、日本のクスリに対する関心は中国でも高まっているようです。昨年中国のネット上に現れた「神薬」リストの商品の多くは、鄭さんの本で紹介されたものでした。

「中国のネットに広まる日本の商品情報の大半は、台湾や香港経由のもの。たいてい数年遅れで突然広まることが多い。しかし、いったん広まると、波及するスピードは速いので、彼らは都心の量販店に殺到し、まとめ買いする。それが“爆買い”の真相だ。

でも、団体客の多い中国人と台湾人では、日本に来ても足を運ぶエリアや購入商品が違う。台湾人は日本をよく理解しているので、私の本でもなるべく中国客が行かないスポットを紹介している。たとえば、吉祥寺や自由が丘などだ。台湾人は一般の日本人が買物をするのと同じ場所に行って買物したいと考えている」。

この話は、前述したOSドラッグチェーンの國米実支店長の以下の指摘と符合する。

「店の立地によって売上は違う。都内で売上が多いのは観光客の多い上野や新宿、渋谷、原宿など、大阪なら心斎橋、難波、黒門市場、船場くらいで、郊外店は必ずしも売上が伸びているわけではない」。

日本の事情をよく知る台湾客たちが、中国本土の旅行者の一歩先を訪れていることが見えてくる。しかし、結局中国客もそれに気づき、後追いする。鄭氏の発信する情報の影響力は計り知れないといえるだろう。

5月中旬、今年4回目となる鄭氏の訪日は「東京コスメガイド」の第3弾の執筆のための取材が目的だ。どんな企画を考えているのだろうか。

「現在制作中の第3弾では、リピーターの多い台湾人読者のために、東京以外のご当地コスメの企画を考えた。台湾人にも人気のある金沢の地元コスメを紹介する予定。また都内のスーパーの取材も進めている」。

鄭氏はいまや中華圏の訪日旅行者が見せる旺盛な購買シーンの先導役といえるだろう。だが、彼がスゴイのはそれだけではない。毎月のように日本を訪れ、ドラッグストアを自分の足で視察し、医薬品や化粧品のメーカーを直接取材するという地道な積み重ねの成果が、今年1月に台湾で上梓された最新刊『日本家庭藥』に結実しているからだ。
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『日本家庭藥』(帕斯頓出版)と著者の鄭世彬氏(1980年生まれ。台南市在住)

同書は100年以上の歴史を持つ日本の老舗家庭常備薬メーカー34社を紹介したムック本だ。

「日本の家庭薬がなぜ台湾の人たちに人気があるかというと、実際に使ってみてよく効くと実感しているからだが、その背景には古くは400年もの歴史をもつ日本の老舗医薬品メーカーの存在があることに気がついた。そこで各メーカーにご協力いただき、それぞれの定番商品の誕生秘話や創業者の努力、企業の発展の歴史を紹介した。いま日本で花開いているドラッグストア文化は、これら老舗企業の歴史があってこそだと私は思う。その素晴らしさを台湾の読者に伝えたかった」。

台湾出身の鄭氏は、我々日本人が当たり前と思ってそのありがたみを忘れていた家庭薬の価値を解き明かしてくれたのである。

おかしな中国語表示が氾濫している

そんな鄭氏は最近、日本に来て気になることがあるという。

全国の観光地や家電量販店、ドラッグストアも含めて、おかしな中国語の使われ方をした表示や商品コピーが氾濫していることだ。かつて日本人は海外、特にアジアの国でおかしな日本語表示を見つけ、脱力感を味わいつつ面白がっていたものだが、同じことがいまや日本でも起きているというのである。

鄭氏が見つけたおかしな中国語表示をいくつか紹介しよう。
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「从清晨到深夜 你可以购买便利店 上午7:00~2300(全年无休)」

この表示を見たとき、鄭氏は思わず声を上げたという。なぜなら、ここには「早朝から深夜まで、あなたはコンビニ店を購入できます」と書かれているからだ。購入できるのは商品であって、コンビニ店舗そのものではない。正しくは「可以在便利店买东西 7:00~2300(全年无休息日)」だろう。

次は某量販店の告知。「万引きは犯罪です。発見次第、警察に通報します」と日本語では書かれているが、中国語簡体字の表記はこうだ。
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「高是犯罪・找到在次序和警察通」

これでは中国人にはまったく意味がわからないという。こうした不可解な中国語表示が中国客の脱力感を誘い、好意的に解釈してもらえればいいのだが、鄭氏はこのままではいろいろ支障もあるのではないか、という。

「たとえば、高額なブランド品や化粧品のコーナーでこうした間違い中国語表示を見かけると、なかには品質を疑いたくなる人も出てくるのではないか」。

でも、そんなに難しく考えることではないと鄭氏は言う。

「最近では外国客がよく利用するショッピング施設に中国人スタッフを置くことが多くなった。まずは彼らにチェックさせるといい。ただし、中国人は出身地によって方言もあり、言葉の使い方が異なるので、本当を言えば二重のチェックも必要。台湾人には中国人の使う中国語はかなり違和感がある。そうした両岸や地方による違いも理解している正式な中国語翻訳会社に発注するのがベストだと思う」。

安易に翻訳ソフトに頼るのは間違いのもとだという。もっとも、逆によく事情を理解していると感心したケースもあったそうだ。

「いま台湾では日本のオーブンレンジが人気だが、中国本土ではまだブームになっていない。先日、新宿のビックロに行ったとき、オーブンレンジのコーナーの商品表示に繁体字が使われていた。これを買うのは台湾客だけだから繁体字が使われていたわけで、この店はよくわかっているな、と思った」。

実際に、ビックロの免税品コーナーに行くと、オーブンレンジの表示は「過熱水蒸氣水波爐」と繁体字表記されていた。同店の販売スタッフは、中国本土客と台湾客の売れ筋商品の違いを理解したうえで、簡体字と繁体字を使い分けていたのだ。

外国客が増えると、これまで考えてもみなかったことが起こるものだ。彼らといかにフレンドリーなコミュニケーションを築いていけるかは販促の基本。そのためにも、こうした指摘には謙虚に耳を傾けていきたいものだ。

※鄭氏が指摘してくれたおかしな中国語表示のその他の実例については、中村の個人blogの以下の記事を参照してほしい。
「これはやばい!? 日本にはおかしな中国語表示があふれている」
http://inbound.exblog.jp/24370756/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-22 07:58 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2015年 04月 02日

台湾で日本のクスリと美容商品が人気の理由

台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんから聞いた話の続きです。前回、どうして彼が日本の医薬品や化粧品のガイド書を書くに至ったかについて、また彼の全著作も簡単に紹介しました。今回は「台湾で日本のクスリと美容商品が人気の理由」について話を聞こうと思います。

台湾で売れてる日本のドラッグストア購入ガイドが面白い
http://inbound.exblog.jp/24310398/
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『東京藥妝美研購』(2012年11月刊)p22-23より。


―鄭さんの本の中には日本のOTC(市販の)医薬品と美容商品がたくさん紹介されていますが、なぜ台湾の人たちの間で人気なのか、オススメの理由も含めてそれぞれ教えてもらえますか。そもそも無数にある日本の商品の中から、なぜこれらが選ばれているんでしょうか。

「ぼくが日本に遊びに行くとき、家族や知り合いから必ず頼まれるものがあって、それを中心に選んでいます。台湾では、日本の薬をお土産として配る習慣があるんですよ」。

―台湾の人たちは、どんな薬をよくお土産に買って帰るんですか?

「胃腸薬や虫刺されの薬でしょうか。たとえば、虫刺されでは『ムヒ』や『ウナクール』。台湾は日本に比べて暑いですから、虫は当然多いです。ところが、虫刺されのいい薬がそれまでなかったんです。メンソレータムの軟膏はあったけど、『ウナクール』のほうがかゆみによく効くことを誰かが発見し、すぐに爆発的な人気になりました」。

ウナクール(興和)
http://hc.kowa.co.jp/otc/359

―いつごろからのことなんですか?

「ぼくが初めて『ウナクール』を買ったのは10年ほど前ですが、当時から知られていたので、もっと前から人気だったと思います」。

―胃腸薬はどうですか?

「胃腸薬といえば『太田胃散』が有名ですが、台湾では『キャベジン』のほうが人気です。ぼくの母は胃腸が悪いので、いつも『キャベジン』を買ってきてほしいと頼まれます。台湾の田舎のおばさんたちの間では『キャベジン』はすごい薬だという噂が口コミで広がっているんです」。

キャベジン(興和)
http://hc.kowa.co.jp/otc/562

―でも、台湾には伝統的な漢方などいい薬もたくさんあるでしょう。

「漢方はあくまで体質の調整に役立つもの。症状が出たときには漢方では直らない。そのため、救急薬を家に常備しておきたいのです」。

―台湾には市販薬はないのですか。

「台湾にもありますが、効き目はもうひとつだし、何より日本の医薬品はパッケージがきれいです。見た目がいい。一般に女性は自分が薬を服用していることをあまり知られたくありません。でも、日本の薬はパッケージがおしゃれなので、一見薬に見えない。

ロート製薬の目薬『リセ』などがまさにそう。パッケージがかわいいし、色も女性らしい。たいていの台湾の女性はバッグの中に『リセ』をしのばせているんですよ。

リセ(ロート製薬)
http://jp.rohto.com/rohto-lycee/

台湾の薬はパッケージがダサいんです。いかにもクスリクスリしている。だったら病院で処方箋を出してもらってきたほうがいいと考える。

最近、台北に日薬本舗というドラッグストアチェーンができて、とても人気です。80%以上は日本製品を扱っています。日本のドラッグストアのような明るいイメージでチェーン展開しています。台北に10数店舗あります」。
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―それでも、やはり日本で買いたい?

「日本のほうが安いし、最新の薬を買いたいから。新発売の製品が出たら、すぐ買いたい。

たとえば、参天製薬の目薬『サンテFX』は台湾で350台湾元(約1000円)、日本のドラッグストアなら300円前後で買える。

サンテFX(参天製薬)
http://www.santefx.jp/

―そんなに値段が違うんですか。だから、日本で買ってきてみんなにあげたら喜ばれるんですね。

「化粧品も日本では台湾の半額に近い気がします。もうひとつの理由は、台湾の薬事法の関係で、同じ日本のメーカーの商品でも、台湾製では一部の成分が添加されていないケースがけっこうあります。

たとえば、台湾製の『キャベジン』には脂肪を分解する酵素のリパーゼが添加されていません。これがいちばん肝心の成分なのに。台湾では市販品に添加してはいけない成分なんです。

頭痛薬の『EVE』に含まれているイブプロフェンも、ようやく今は台湾でも解禁されましたが、少し前まで禁止でした。この成分はよく効くので、『EVE』は台湾の20代~30代の若いオフィスワーカーに人気があります。これは男女かかわりなく、誰でもオフィスのデスクの引き出しに入っていると思います。
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EVE(エスエス製薬)
http://www.ssp.co.jp/eve/

日本のOTC医薬品には子供にものみやすいよう顆粒状になっている製品が多い。たとえば、乳酸菌の入った『新ビオフェルミンS細粒』も台湾人に人気なのですが、実は顆粒タイプは台湾では製品化されていない。錠剤だけなんです。だから、顆粒タイプを日本で買ってくる。 

新ビオフェルミンS細粒(ビオフェルミン製薬)
http://www.biofermin.co.jp/products/biofermin_s/index.html

風邪薬の『パブロン』も粉末状でのみやすい。台湾では忙しく働いている人も多いので、風邪をひいてもなかなか病院に行く時間がない。そんな人たちは自分のデスクの引き出しに『パブロン』を常備しておきたいと考えるのです」。

パブロン(大正製薬)
http://www.taisho.co.jp/pabron/

―OTC医薬品を常備しておきたいという思いがあるんですね。まあそれは日本でも同じですが。

「台湾の習慣や風土に合っている薬というのもあります。たとえば、『大正漢方胃腸薬』は漢方ということで安心ですから、母からいつも『キャベジン』とこれを頼まれます。『大正漢方胃腸薬』は食前か食間に服用というのが特徴です。一般に日本の胃腸薬は食後に服用するタイプが多いように思いますが、台湾の漢方は食前服用のタイプが多い。台湾人の習慣に近いのでのみやすいのです。

大正漢方胃腸薬(大正製薬)
http://www.taisho.co.jp/kanpou/

『口内炎パッチ』という口内炎の薬も、台湾では大人気です。理由は台湾には口内炎に悩む人が多いからですが、台湾にはこういう薬はまったくないので、すぐ広まりました。大正製薬を取材したとき、面白い話を聞きました。日本ではこの薬があるとき急に売れ始めたので、誰が買っているのかドラッグストアの関係者に聞いたら、外国人が買っているというんです。実はそれが台湾人でした。今ではマツキヨなどに行くと、誰でもすぐわかる場所に置かれていると思います」。

口内炎パッチ(大正製薬)
http://www.catalog-taisho.com/01951.php

―そもそもこういう薬があることも知りませんでした。

「きっと台湾人の食習慣や風土とも関係がありそうです。

最後に、これはぼくが本で伝えたかったことのひとつでもあるのですが、これだけ台湾人の生活の中に日本のOTC医薬品が普及してきているのに、使い方を誤用されているケースがよくあることです。

たとえば、ロート製薬の『メンソレータムAD』は冬場の乾燥肌に効くかゆみ止めですが、日本製の人気が高い理由は、台湾製にはリドカインという麻酔剤が添加されていないため、かゆみ止めの効果が弱いからなんです。ところが、台湾人の中にはこれをハンドクリームとして使っている人がいます。日本の医薬品を仕入れて台湾で販売しているブローカーが多くいますが、彼らが誤ってハンドクリームとして使えると宣伝したからなんです。これは困ったことです。どんなにいい薬でも誤用されたら効き目がないどころか、問題が起こるかもしれない。先日もある台湾の日本旅行のガイドブックに『メンソレータムAD』がハンドクリームとして紹介されているのを見つけました。これを書いているのは、おそらく日本語が読めない人でしょう。基本的な知識がないので、こういう間違いも多いんです。 

メンソレータムAD(ロート製薬)
http://jp.rohto.com/ad/

ぼくが台湾でやっているセミナーでも、この話は必ずすることにしています。『メンソレータムAD』のパッケージには医薬品と記されています。つまり、ハンドクリームのようにボディケアとして使うのではなく、かゆみなどの症状のあるときだけ使うべきなんです」。

―なるほど、そういうことも起きているんですね。人気薬にはそれぞれ理由がある。常備薬として家庭やオフィスに置いておきたいという理由もよくわかりました。台湾人の生活にこれほど日本のOTC医薬品が浸透しているとは知りませんでした。
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『東京藥妝美研購』(2012年11月刊)p.24-25より。


では、次に人気の美容商品について教えてください。それにしても、鄭さんは男性ですよね。薬は男女ふつうに使うけど、美容商品に詳しくなったのはどういうわけだったんですか。

「一般に台湾の男性は日本の男性より美容商品や化粧品を使うことに抵抗がないように思います。ぼくの場合は、日本に行くたび、姉や姉の友だちからこの化粧品を買ってきてくれと頼まれるので、ドラッグストアの化粧品コーナーでお目当ての商品を探しているうちに、だんだん興味が出てきたんです。でも、この前取材である化粧品会社の人から『鄭さんは台湾のイッコウさんでしょ』と言われたので、『そうじゃないですよ。女装していませんし』なんてこともありました(笑)。

まずイチ押しの商品といえば、ライオンの『休足時間』でしょう。台湾では多くの人がバイクで移動するため、あまり歩かないんです。台北市内ならMRTもあるので、多少は歩くと思いますけど。そんな台湾人が日本に旅行に来ると、普段の倍以上は歩くので、足が疲れます。そんなとき、ホテルに帰ってひんやりと清涼感のあるジェルタイプの『休足時間』のシートを貼ったら、気持ちがいいんです。特に女性に人気です。
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休足時間(ライオン)
http://www.lion.co.jp/ja/seihin/brand/012/01.php

花王の『蒸気アイマスク』も人気です。パソコンや携帯の利用人口の多い台湾ですが、目の疲れが取れるこんな商品はなかったので、すぐに話題となりました。

蒸気アイマスク(花王)
http://www.kao.co.jp/megrhythm/eye/products/

ロート製薬の『アクネス日焼け止め』もそうです。アクネスニキビシリーズは、台湾製もあるのですが、以前は日焼け止めがなかったので、日本に来たら必買アイテムでした。おととしから台湾にも輸出されるようになり、買うことができますが、日本で買うほうがずっと安いでしょう。

アクネス日焼け止め(ロート製薬)
http://jp.rohto.com/acnes/uv-tint-milk/

同じくロート製薬の『肌研 極潤化粧水』のシリーズも台湾人に愛されています。やはり日本では台湾の半額以下で入手できるので、日本旅行時の必買アイテムです。

肌研 極潤化粧水(ロート製薬)
http://www.hadalabo.jp/products/gokujyun/g_001

DUPの『アイラッシュフィックサー』は付け睫毛の粘着剤です。数多くの類似商品の中で、これが最も評判がいいです。女性の友だちに聞いたところ、粘着性がよく、汗や皮脂に強いらしいです。

DUPアイラッシュフィックサー(DUP)
http://www.d-up.co.jp/fixer_ex/index2.html

台湾人はシートマスクが好きなので、クラシエの『肌美精』のような分包タイプはすごく人気があります。最近はさらに低価格のプレサ社のものが人気になっています。

肌美精マスク(クラシエ)
http://www.hadabisei.jp/mask/index.html

その他いろいろな商品を紹介していますが、その多くは単純に、ぼくが自分で使ってみてよかったと思うものを選んでいます」。

―お話を聞いていると、台湾の人たちのふだんの生活の様子が見えてくるようで面白かったです。現代的な生活を送りながら、日本とは気候や風土、習慣が違うので、日本人には気づかないニーズがあるのですね。パッケージがおしゃれなこともポイントが高いというのは、なるほどと思いました。

ところで、鄭さんは4月にまた東京に来て、東京コスメガイドの第3弾の取材をする予定ですね。どんな企画を考えているのですか。

「現在制作中の第3弾では、リピーターの多い台湾人読者のために、東京から一歩足を伸ばして、地方コスメの企画を考えました。台湾人にも人気の金沢の地元コスメを紹介する予定です」。

北陸新幹線が開通したばかりなので、今年は金沢が注目されています。鄭さんがどんな地元コスメを見つけてくるか、楽しみです。
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by sanyo-kansatu | 2015-04-02 11:51 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 04月 01日

台湾で売れてる日本のドラッグストア購入ガイドが面白い

今年2月、上海の書店で偶然著作を手にしたことで知り合うことになった台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんと、3月上旬、都内某所でお会いしました。

台湾のドラッグストア研究家、鄭世彬さんと知り合う
http://inbound.exblog.jp/24182824/

彼は台湾で日本の医薬品や美容商品、化粧品などに関する8冊の著作をすでに上梓しています。その一部は中国の出版社が版権を買い、簡体字版として出版されています。

その日、ぼくは彼の泊まっているホテルのそばの喫茶店で話を聞くことになりました。こちらは、事前にメールでやり取りした「どうして『东京美妆品购物全书(東京コスメショッピング全書)』(中国軽工業出版社 2014年)のような本を書くに至ったか」について、もう少し詳しくおうかがいしようと思っていたのですが、彼は自分の少年時代の話を始めました。

彼は1980年台南市生まれの台湾人です。彼の話からは、台湾の人たちの日本に対する想いが伝わってくるので、少々おつきあいください。

日本語との出会いと挫折

―あらためて鄭さんが日本の医薬品や化粧品の本を書くに至った経緯を教えてください。

「子供の頃からぼくは数学が苦手で、そもそも勉強があまり好きではありませんでした。でも、父は伝統的な考え方を持つ人で、男は手に技術をつけるようにと高専に進学させられました。一方、4歳年上の姉は日本語を勉強していました。父に言わせると、語学は女がやるものだ、というんです。

ぼくが小学校高学年の頃のある日、姉の机の上に置いてあった日本語の学習テキストを見つけました。本を開いてみると、漢字と一緒に並んでいたひらがなやカタカナのかたちがとてもきれいだな、と思ったんです。これがぼくの日本語との出会いでした。それ以後、ぼくは姉の本を勝手に持ち出し、意味もわからず眺めていたんです。

高専に通う頃から、ぼくは日本語の独学を始めました。4年生のとき、どうしても日本語を専門的に学びたいという思いがやまず、高専を中退しました。そして、高雄にある短期大学の日本語学科で、日本語を学ぶことになります。以来、父とは自分の進路をめぐって口論が絶えない日が続いています。

その後、1年間軍隊に行ってから大学院に進学しました。その頃から、短大時代の友人の勤める出版社で日本のマンガなどの翻訳のアルバイトを始めました。

2005年に大学院を修了。そのとき、初めて厳しい現実をつきつけられました。台湾に進出している日系企業に就職しようと100社あまりに履歴書を送ったのですが、まったく返事がきませんでした。台湾にはもともと日本語学習者が多いからですが、当時の日系企業は日本留学を採用の条件にしていたからです。仕方なくぼくは翻訳のアルバイトを続けながら就職浪人の身となりました」。

日本の医薬品ガイドの企画はこうして生まれた

―そういう挫折があったんですね。フリーランス翻訳家としての職業人生はこうして始まった。

「それからしばらくして知り合いの出版社でディアゴスティーニが日本で発刊していた医療雑誌を台湾でも出すことになり、ぼくはその翻訳を手伝うことになりました。このとき医療や薬品に関する日本語を勉強することができました。

この仕事を続けていくうちに、ぼくは日本の医薬品の購入ガイドの出版企画を考えるようになりました。先日メールでお伝えしたように、ふだんでも身近な人たちから日本の医薬品についてよく聞かれるようになっていたからです。面白いことに、台湾人というのは、誰か知り合いが日本から何かを買ってくると、自分も買いたくなるんです。だから、そういう本を出したら、売れるんじゃないかと思いました。

こうしてぼくの最初の本『東京小旅及保健採購地圖:外用藥篇』(2012年2月刊 大康出版社)は生まれました。同じ年の7月に続編の『内服藥篇』も出しました。
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東京小旅及保健採購地圖:外用藥篇 2012/02/05
http://www.books.com.tw/products/0010533628


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東京小旅及保健採購地圖:內服藥篇 2012/07/16
http://www.books.com.tw/products/0010550399

これらの本の内容は、タイトルにもあるように、東京観光のついでにドラッグストアに立ち寄り、そこで購入すべき人気の医薬品を紹介するというものです。

ところで、台湾の読者からこういう質問がよくあるんです。『私はドラッグストアで何を買えばいいんでしょうか?』。そんなこと聞かれても、と思いませんか(笑)。

―つまり、この人にとって日本のドラッグストアに行くことは大前提なんですね。ふつう人は何か買いたいものがあるから店に行くものです。でも、台湾の人たちにとって、日本に行くからには必ずドラッグストア行って、何かいいものを買ってこなければならない。まずそう考えるんですね。それをお土産として家族や友人に渡すことで、とてもいい気分になれるから。

「ぼくが初めて日本のドラッグストアを見たのは、確か2000年頃で、初めて日本に旅行に来たときでした。これまで台湾では薬局といえば、暗くて陰気なイメージでした。ところが、日本のドラッグストアは明るくてカラフルでキラキラしていて、医薬品だけでなく美容商品やコスメ、お菓子まで売っています。こんな楽しい場所があるんだなあと思ったんです」。

―でも、当時は台湾にも香港系のワトソンなどの似たようなチェーン店もあったでしょう。

「あそこはコスメ中心で、医薬品はあまり扱っていません。ぼくの中では別物なんです。何より日本の医薬品を買いたくなる理由は、パッケージのデザインです。およそ薬っぽくなくて、おしゃれな感じがする。多くの台湾人もそう感じているはずです」。

―なるほど。日本人はあまりそんな風に考えていなかったけど、そうかもしれませんね。

「こういう読者の方々が潜在的にいるわけですから、これらの本でぼくは台湾の人たちが必ず買いたくなるような医薬品や化粧品を厳選して紹介しました」。

鄭世彬さんの著作紹介

こうして彼は以下の日本の医薬品や化粧品を購入する方法を解説する本を次々に上梓していきました。刊行順に簡単に紹介します。
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東京藥妝美研購(彩圖版) 2012/11/20
http://www.books.com.tw/products/0010565761
これが第1弾の「東京コスメショッピングガイド」。これまで出した2冊と違うのは、化粧品や美容商品をメインに扱ったことです。台湾で約1万部売れたといいます。日本の人口の5分の1にすぎない台湾でこれだけ売れるとはかなりのものです。

ちなみにこれが簡体字版として中国の書店で売られていた本の原本です。中国の出版社から版権を買いたいという話があったのは刊行の翌年の13年で、発売は1年後の14年だったとか。「中国では海外の書籍を出版する場合、一文字一文字チェックするため、時間がかかるのです。なぜ中国の出版社がこの本に興味を持ったかですが、担当者はこう言っていました。『中国でも日本のドラッグストアの商品は人気があるが、それを中国人が書いても信用されない。台湾人であれば、日本のことをよく知っているから、読者もその内容を信用する』。」

なるほど、中国人というのはそのように考えるものなのですね。中国の書店には日本の小説など翻訳書がたくさん並んでいますが、必ずしも刊行まで時間がかかるとは限りません。刊行が遅れたのはきっと別の理由があったからだとぼくは思いますが、いずれにせよ、活字メディアの情報に対して疑り深いのは、お国柄ゆえ仕方がなさそうです。
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日本購藥指南:OTC醫藥品事典 2013/02/04
http://www.books.com.tw/products/0010574632
日本の優れたOTC(市販の)医薬品を紹介する本。彼はドラッグストアの魅力の語り手でもありますが、日本の医薬品そのものにも関心が強いようです。「この本があれば、台湾の人たちもドラッグストアで医薬品を買うとき、迷うことがないだろう」とのこと。
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首爾美研購:攻陷人氣榜的美妝就要這樣買(彩圖版) 2013/08/27
http://www.books.com.tw/products/0010597709
東京のコスメガイドを出したのだから、ソウル版も出してほしいとの話があり、つくったソウルコスメガイド書。「あんまり気乗りがしなかったけど、需要はありそうだったのでつくりました」。
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東京藥妝美研購2:東京藥妝搜查最前線 嚴選東京藥妝不可錯過的新掀貨!最夢幻!超逸品! 2013/12/31
http://www.books.com.tw/products/0010620812
「東京コスメショッピングガイド」の第2弾です。第1弾に比べて内容は一新。「基本的に、日本のドラッグストアやバラエティショップで売られる商品を紹介していますが、前回と同じパターンでは飽きられると思ったので、人気ブランドのたくさん入っているデパートが集まっている銀座を特集しました」。ほかにも、日本のコスメ口コミサイトの「@cosme」の担当者を取材しています。

「台湾でも、@cosmeは日本の化粧品情報を収集するための重要な情報源なんです。たとえ日本語が読めなくても、商品写真やランキングの結果などを参考にする」そうです。
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日本回遊:關東篇 Go!Japan Again!食+宿+遊+買+逛,日本旅遊回頭客私藏的60個定番提案! 2014/06/18
http://www.books.com.tw/products/0010636854
この本は、鄭世彬さんが日本在住の外国人によるインバウンド情報発信チーム「JAPANKURU」のメンバーと一緒につくった日本旅行ガイド。東京の細かい街ネタ的な情報が詳しく紹介されています。さすがは日本慣れしている台湾人読者向けの内容です。鄭さんをはじめ、制作チームの皆さんも写真で登場していますが、とても楽しそうです。

「ほとんどの内容が東京のネタなんですが、ぼくがいちばん印象に残っているのは那須高原の取材でした」。実際、この本の表紙は那須高原の写真が使われています。そこには雪をかぶった峰々と青空がどこまでも広がっています。「実は、台湾でもこんな青空は見たことがないんです。こんなに多くの台湾の人たちが日本各地を訪ねるのも、美しい山や自然が日本にはあるからだと思います」。

JAPANKURU
http://cometojapankuru.blogspot.jp/
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日本家庭藥:34家日本藥廠的過去與現在,老藥起源X歷史沿革X長銷藥品
Japanese Medical History 2015/01/10
http://www.books.com.tw/products/0010658803
今年1月の最新刊です。鄭さんはこれまでの仕事のひとつの集大成として、日本の医薬品メーカー数十社に取材してこの本をまとめました。簡単にいうと、日本の家庭薬の歴史を紹介する内容です。

「日本のOTC医薬品がなぜ台湾の人たちにこれほど人気があるかというと、実際に使ってみてよく効くと実感しているからですが、その背景には古くは400年もの歴史をもつ日本の老舗医薬品メーカーの存在があることに気がつきました。そこで各メーカーにご協力いただき、それぞれの定番商品の誕生秘話や創業者の努力、企業の発展の歴史を紹介しました。いま日本で花開いているドラッグストア文化は、これらの老舗企業の歴史があってこそなのだとぼくは思います。その素晴らしさを台湾の読者に伝えたかったんです」。

鄭さんは3月13日、幕張で開催されていた日本ドラッグストアショーの会場を視察していました。これはそのとき撮った鄭さんです。最新刊を手にしてもらっています。
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次回は、「台湾で日本のクスリや美容商品が人気の理由」について、具体的な商品名を挙げながら彼に解説してもらったので、それを紹介しようと思います。

台湾で日本のクスリと美容商品が人気の理由
http://inbound.exblog.jp/24314372/
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by sanyo-kansatu | 2015-04-01 11:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 02月 27日

台湾のドラッグストア研究家、鄭世彬さんと知り合う

先日、上海の書店で面白い本を見つけました。

『东京美妆品购物全书』(中国軽工業出版社 2014年)という本です。「東京コスメショッピング全書」とでもいえばいいのでしょうか。
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内容をざっくりいうと、日本のドラッグストアで販売している医薬品や健康商品、化粧品、美容グッズなどから優れた商品をジャンル別に選んで分類し、紹介したガイドです。これは海外で刊行されている書籍という意味で、ある種、画期的なものではないでしょうか。訪日する中国人観光客がいま最も知りたい情報が一冊にまとめられているというわけですから。

同書は以下の6つの章に分かれています。

Part1 東京のドラッグストアの世界を紹介し、毎年3月に開催される日本ドラッグストアショーや10大人気商品(薬、化粧品)を写真入りで解説しています。

Part2 日本のドラッグストア業界は戦国時代にあると前置きし、都内の特色ある有名店を紹介しています。ぼくなど知らないような店(TOMOD'S東池袋店、OS DRUG渋谷店、AMERICAN PHARMACY、エッセンス池袋東口店、まかないこすめ神楽坂総店など)も出てきます。

PART3 これがメインコンテンツで、各効能・用途別の医薬品や化粧品、美容商品、健康食品、トイレッタリー商品などの図鑑形式の総目録です。これらの商品を著者がどうやってここまで詳しく調べ上げたのか、驚きを禁じ得ません。
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これは日本のドラッグストアで購入できるOCT医薬品ベスト10だそうです。
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こちらは化粧水・乳液のページです。

Part4 都内主要地区(新宿、渋谷、銀座、池袋、上野、川崎)のマップ

Part5 日本のコンビニで販売されている美容商品を紹介しています。

Part6 羽田と成田のショッピングエリアの紹介です。

とにかくやたらと詳しく、中国客が日本で間違いなく買いたいものを手にするための情報が満載した内容です。

誰がこんな本を書いたのだろうか……。もしや日本のドラッグストア業界がからんでいるのかなど、いろいろ考えてしまいましたが、奥付をみると、著者は台湾人の、しかも男性です。女性ではないのです。

いったいこの人物は何者なのか……。

帰国してしばらくして、googleで「鄭世彬」(最初は簡体字の「郑世彬」)検索してみました。すると、その人物の著作がいくつか中国のECブックサイトに出てきました。つまり、すでに台湾で刊行された彼の本を中国の出版社が版権を買い、簡体字版として刊行しているのです。奥付によると、この本の取材は2012年、台湾での刊行が13年、中国では14年のようです。

であれば、本家の台湾を調べようと、今度は繁体字の「鄭世彬」で検索すると、「日本薬粧研究家 鄭世彬」がすぐに見つかりました。ご本人とは別に彼の主宰する「日本薬粧研究所」のFacebookもあります。

日本GO! 藥品美妝購!
https://www.facebook.com/JAPAN.DRUGS.COSMETICS

ここまで調べると、ぼくはこういうときあまり躊躇しない人間なので、すぐに彼のfbを開き、メッセージを送りました。

「はじめまして。上海であなたの本を買いました。とても面白かったので、コンタクトを取りたいです」と、簡単に自己紹介も兼ねて友達申請したところ、わずか数分で彼から返信が届きました。

それが一昨日の午後のことです。

ぼくは鄭世彬さんに以下のような3つの質問を送りました。

①日本や韓国のドラッグストアの商品に関する書籍を執筆された動機やきっかけは何だったのですか。
②この本の読者はどのような人たちですか。台湾と中国で違いはありますか。どの内容にいちばん関心が強いですか。
③昨日、メールで日本のコスメメーカーのコンサルティングもしておられるとお書きでしたが、具体的にはどんなことですか。

以下が彼からの回答の概要です。

①日本や韓国のドラッグストアの商品に関する書籍を執筆された動機やきっかけは何だったのですか。

「これまで本は8冊出しています。以下は私が台湾で刊行したリストです。

鄭世彬著作リスト
http://search.books.com.tw/exep/prod_search.php?key=%E9%84%AD%E4%B8%96%E5%BD%AC&cat=all

前半の8冊が私の著作で、その下は私が翻訳した書籍です。

私は元々出版業界の人間でした。このような書籍を執筆するきっかけは、以前からよく家族や知り合いの人が日本で買ってきた薬のパッケージを持ってきて、翻訳してほしいと頼まれていたからです。きっと多くの台湾人にも同じ悩みがあると思い、翻訳を手伝っていた出版社に相談して、台湾初の日本OTC医薬品(処方箋の不要な市販の薬品のこと)を解説する買物ガイドを出版しました。

その後、読者から「コスメの本もほしい」といわれ、次にコスメガイドも作りました。ネットで拾った情報だけで本を作るのが嫌いなので、各メーカーにメールを出して、取材を申込みました。最初は相手されませんでしたが、最近では少しずつ私の存在が理解されるようになり、取材協力もしてもらえるようになりました。

実は、今まではずっと自腹取材だったので、出費が膨大で、新しいコスメガイドの制作は一時中断していました。しかし、今回多くの読者とメーカーの声に応えるべく、しかも一部のメーカーから取材経費をいただいたので、コスメガイド第三弾の制作を再開することになりました。3月初旬から、日本での取材がスタートします」。

②この本の読者はどのような人たちですか。台湾と中国で違いはありますか。どの内容にいちばん関心が強いですか。

「OTC医薬品の本でしたら、ターゲットはやや広く、20~60代までの読者がいて、性別は男女ほぼ5分5分です。コスメガイドのターゲットは20~40代の日本好きな人たちで、性別は女性が圧倒的です。台湾でときどき日本のコスメセミナーを行っています。その風景は↓の写真の通りです。やはり女性が多いですね。
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読者にとって関心が高い内容は、やはりコスメ・医薬品の解説です。買いたいけど、日本語が読めない! という方はかなり多いです。一部のメーカーは台湾のブロガーを採用し、情報発信していますが、ブロガーの中には日本語が読めない人も多いので、メーカーの提供した情報をそのままで紹介するケースが多いです。そのため、それが客観的な内容かどうかわからないという読者からの指摘もあります」。

③昨日、メールで日本のコスメメーカーのコンサルティングもしておられるとお書きでしたが、具体的にはどんなことですか。

「2013年に来日したときは、取材拒否されることが多かったのですが、14年の半ば頃から、急にインバウンドに関する相談が持ち込まれ、いくつかのメーカーからもオファーが来るようになりました。

そのコンサルの内容としては、台湾人がよく出没するエリア・店舗、台湾人の好み、台湾人向けの販促方法、景品のタイプなどです。

台湾人は中国人と違って日本にとても慣れていて、買物の習慣もより成熟していますから、実際に台湾人が訪れるショッピングエリアは中国人の場合とは大きな違いがあります。

最近になって日本の広告代理店とコラボして訪日外国人旅行(インバウンド)事業のお手伝いもさせていただいています。昨年秋の台北ITFでは、JAPANKURUというブースで、台湾の女性ECサイトのPAYEASYとコラボしましたが、これは私のセッティングでした」。

回答の中にもありましたが、3月上旬、彼は日本のコスメガイド執筆の取材のために来日するそうです。なんというタイミングでしょう。さっそく、東京でお会いすることになりました。

台湾には、鄭世彬さんのような日本のバリューをよく理解し、こちらから頼んでいるわけでもないのに、それを現地で伝えようとしてくれる人材がいるのです。本当にありがたいことです。

日本のドラックストア業界も、彼の存在に気づいたようで、今回は取材協力を惜しまないことでしょう。実際、台湾でならともかく、中国本土で日本の医薬品やコスメを販売するのは、法的な規制が大きく、相当難しいそうです。そのうえ、中国人はたとえ日本メーカーの商品でも、中国で製造されたものは好まず、日本で市販されているものが買いたいようなのです。

であれば、これからはこれだけ訪日客が増えているのだから、わざわざ中国に営業所を構え、販路を広げるようとするより、むしろ日本に来て買ってもらえばいい。日本の製薬メーカーも訪日客に絞った販促に切り替えようとしている動きがみられるという話を上海のPR会社の関係者からも聞きました。

ぼくも彼に「台湾人がよく出没するエリア・店舗、台湾人の好み、台湾人向けの販促方法、景品のタイプ」や「台湾客と中国客の違い」について、もっと詳しく話を聞いてみたいと思います。

彼の来日が楽しみになってきました。
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by sanyo-kansatu | 2015-02-27 10:09 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 12月 13日

中国客が増えても大歓迎といえないのは韓国、台湾でも同じらしい

今年、韓国を訪問する中国人旅行者が600万人を超えるそうです。

中国政府にとって自国の旅行者をある特定の国に大量に送り込み、多額の消費をさせることには、きわめて政治的な意味があります。端的に言えば、中国客の訪問が経済的な恩恵をもたらすことで、当該国・地域に政治的な譲歩を要求できると考えているのです。これは社会主義国の国策としての観光の位置付けからいって当然の考え方です(いまさら、中国を社会主義国なんていうのもなんですが、すべてを国家が管理しようとする体制ではそれがふつうの認識なのです。それがどれだけ可能かどうかはともかく)。同じことは、中国と微妙な関係にある香港や台湾、そして日本に対してもいえます。

ところが、中国と蜜月関係にあると思われていた韓国でも、中国客が増えても必ずしも大歓迎とはいえないようです。最近、ネットでこんな記事を見つけました。

韓国の旅行業界が苦境を訴える「中国人観光客を受け入れても儲けが出ない」FOCUS-ASIA.COM 12月2日
http://www.focus-asia.com/socioeconomy/economy/403056/

「韓国旅遊発展局によると、今年9月末現在の中国人観光客数は約468万人に達し、前年同期比36.5%増となった。だが、中国人客が支払う旅行代金はすべて中国の旅行会社に吸い取られ、韓国でも華僑や朝鮮族の経営する旅行会社がほぼ独占。儲けが少ないことを理由に、東南アジア客向けに切り替える韓国人経営の旅行会社もあるという。1日付で韓国紙・中央日報の中国語サイトの情報として、中国旅行新聞網が伝えた。

韓国人が経営する旅行会社は、中国人観光客増加の恩恵をほとんど受けていないのが現状だ。10数年前から外国人向けの旅行会社を経営する鄭さんもその1人。周りからは「中国人客が増えて、大儲けでしょう」と言われるが、実態は全く違う。「華僑や中国の朝鮮族が経営する旅行会社が大幅に増加している。とてもかなわないので、中国人客を取り扱うのを止めざるを得ない状況だ」という。

鄭さんによると、中国現地で中国人観光客を集める旅行会社は、客を送り出すだけで旅行費用を支払わない。こうしたスタイルがすでに定着している。中国人観光客が増えても、儲けはほとんどないため、鄭さんは「東南アジア客向けに切り替えようと思っている」と話している。

韓国旅行業協会(KATA)によると、韓国で中国人客の受け入れが最も多い旅行会社10社のうち、韓国人が経営するのは3社のみ。残りはすべて華僑と朝鮮族が占める。韓国企業は言葉の面で、華僑や朝鮮族にはかなわない。朝鮮族の旅行会社代表は「中国人客を受け入れるには、中国現地の旅行会社との協力が必要。お客様と接する際も、冗談を交えながらコミュニケーションをとることが大切だ。韓国人が中国語を使ってここまでやるのは大変だと思う」と指摘している」。

これを読んで、韓国でも事情は日本と変わらないことがわかりました。韓国で華僑や中国朝鮮族が中国客の手配を仕切っているように、日本でも中国団体客の手配を行っているのは、在日中国人を中心にしたアジア系外国人の業者だからです。彼らは薄利多売をものともせず、自国の観光客を受け入れていますが、日本の旅行会社は採算が合わないため、放棄しているのです。

同じことは、台湾でもいえるようです。

台湾では民進党から国民党に政権が移った08年7月から中国人観光客の受け入れが始まっていますが、10年以降、中国客の数はそれまで不動のトップだった日本客を上回り、12年には延べ259万人に達したそうです。

ところが、台湾の観光地はどこも中国人観光客で混み合ってはいるものの、彼らの手配を扱う旅行会社からすると「中国人観光客ビジネスは、やるほどに赤字」だそうです。

この点について、ジェトロの研究員が以下のレポートを書いています。

「中国人団体観光客ビジネス」の歪んだ構図
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1307_kawakami.html

なぜ中国客が増えても大歓迎とはならないのか? こう述べられています。

「台湾のメディアでは、中国人観光客の急増とともに、極端な低価格で団体ツアーを受け入れ、観光客を店から店へと連れ回す低品質のツアーが増加していること、商店から旅行業者へのリベート率が4-6割にも達していることが報じられている。また「中国からの観光客を受け入れるほど赤字になる」と嘆く旅行社の声や、「観光客にむりやり買い物をさせている」と悩む旅行ガイドの声も紹介されている」。

その理由に「超低価格のツアー」があるとして、以下のように説明されています。

【超低価格ツアーの “事業モデル”】
中国人団体客の台湾観光の標準旅程は、7泊8日での台湾一周旅行である。報道から得られる情報を整理すると、台湾向けツアーを扱う業者間の取引構造は以下の通りである。

中国側では、各市・省ごとに、中国旅游局から指定された旅行業者が台湾向けのツアーを組織する。この送り出し業務を行っているのは、いずれも国営系の旅行業者である。他方、台湾では、民間の旅行業者が、ツアーの受け入れを行う。

送り出し側(「組団社」)と受け入れ側(「接待社」)の交渉力は、圧倒的に後者に不利である。送り出し側が、各地域の旅行需要を寡占的に支配しているのに対して、台湾では約400社の旅行業者がツアー客の受け入れをめぐって激しい競争を行っている(林哲良[2013b])。「接待社」間での激しい競争により、中国の「組団社」が台湾の「接待社」に支払う費用は、かつてのツアー客一人当たり約1800元から、最近では300~700元にまで下がっているという(林倖妃[2012])。

だが、このような低予算で旅行者の宿泊費・食費・交通費等をまかなうことはほぼ不可能である。多くの「接待社」は、コスト割れを覚悟で中国側「組団社」に低価格を提示し、中国からの観光客の受け入れにしのぎを削っているのである。

※実は、この点については、2013年中国で「新旅游法」が施行され、若干の改善がされたことになっています。ただし、中国全域での実態はどうなっているかについては大いに疑問です。

ここで考えなければならないのは、中国客の訪問で誰にお金が落ちているか、ということです。

確かに、日本でも中国客がバスで訪れたり、個人客が足を運ぶ大都市圏の百貨店や量販店、ショッピングモールなどの小売業者の一部には落ちていることでしょう。ところが、中国客の宿泊や交通、観光の手配を担っている事業者たちにはそれほど利益をもたらしていない。そのため、韓国や台湾では中国客を敬遠する声が出てくるのです。面倒で手のかかる手配業務を一手に担わされているのに、おいしいところは一部の小売業者にみんな持っていかれているというわけです。

ここ数年、上海を中心に日本国内の旅行業者の手配を必要としない個人旅行客が増えており、その傾向はいいことだと思うのですが、中国の本当のポテンシャルは巨大な内陸にあるわけで、団体客が増えることはあっても減ることはないのです。団体客の存在がある限り、この問題は解決しないでしょう。

中国の台頭と東アジアの経済のグローバル化がもたらすひとつの典型的な現象として、日本や韓国、台湾は中国の業者と消費者に直接向き合わなければならない。そういう意味で、我々周辺国は同じ環境にあることを理解しなければならないようです。
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by sanyo-kansatu | 2014-12-13 14:51 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2013年 11月 21日

25回 過去最高200万人超えなるか!? 今年の訪日5人に1人が台湾客となった理由

8月のタイのトラベルフェア(Thai International Travel Fair #13)に続き、10月は台北国際旅行博(ITF2013)に行ってきました。日程は、10 月18 日(金)~21日(月)です。
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台北国際旅行博(ただし、サイトの内容はすでに来年の告知に更新)
http://www.taipeiitf.org.tw/

JNTOが10月23日に発表した訪日外客数統計によると、2013年1月~9月の訪日台湾人は前年比52.3%増の166万9900人。伸び率でみればタイ59.2%増、ベトナム49.8%増、香港49.5%増と並んで見えますが、母数が違います。台湾は香港の3倍、タイの6倍近い規模です。訪日外客全体の5人に1人(21%)を台湾が占めていることからも、今年いかに多くの台湾客が訪日旅行したかを物語っています。

【追記】
昨日(11月20日)、JNTOから10月の訪日外客統計が発表されました。それによると、台湾からの訪日客数は21万3500人と前年同月比58.0%増、1~10月の総計はすでに188万3400人となり、200万人超えは確実と思われます。

台湾からの訪日旅行者の大幅な増加の背景に何があるのでしょうか。その答えを探るべく、旅行博の会場に入ってみることにしましょう。

ツアーの叩き売りのような展示即売ブース

台北国際旅行博(ITF)は毎年10月に開かれます。1987年から始まり、今年で27回目。会場は、台湾を代表する超高層ビル「台北101」(高さ509.2m、地上101階)に隣接する台北世界貿易センター1号館と3号館です。午前10時から開門されるのですが、1時間前から行列ができるほどの盛況ぶり。主催者発表によると、今回の来場者数は31万5240人と過去最高になったそうです。

台湾滞在中に見たテレビニュースや新聞でも、ITFのことは報道されていました。台湾の年間出国者数は1000万人相当で、総人口2300万人の約40%にあたる高い出国率が知られています(日本は13%)。それだけに台湾の人たちにとって旅行博は、日本では想像できないほど話題性の高いビッグイベントなのです。
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広い会場の中で、活況を呈しているのは、やはり地元の旅行会社のツアー即売会でしょう。タイでもそうでしたが、台湾でも旅行博ではスペシャルプライスのツアー商品が多数販売されます。各旅行会社の担当者は、マイクを片手にステージに上がり、びっしり貼り出された会期中限定の商品を販売します。ツアーの叩き売りといってしまうと、少し言い過ぎかもしれませんが、日本ではちょっと見ることのない光景です。売れ行きを見ながら、スタッフはその場でチラシも書き直します。ブース内にはPC端末がいくつも用意されていて、来場者はスタッフの説明を聞きながら商品を検討しています。

※ITF会場についての詳細は、中村の個人blog「来場者数が過去最高となった台北国際旅行博(台北ITF報告その1)」を参照。

広域連携化と豊富なFIT向け商品

今回、日本の出展ゾーンのにぎわいはひときわ目立っていました。展示ブースの間の通りは、人ごみで身動き取れないほどでした。
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地方自治体のブースは、北は北海道から南は沖縄まで勢ぞろい。興味深いのは、各県単位のバラバラな出展ではなく、広域連携化が進んでいたことです。

なかでも注目は、中部広域観光推進協議会でしょうか。中部北陸9県を巻き込んだ「昇龍道」プロジェクトを展開していたからです。
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「昇龍道」プロジェクト
http://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/kikaku/syoryudo/index.html

関係者によると、「アルペンルートで人気を呼んだ富山県も、単独では集客に限界があるので石川県、福井県と横で連携し、さらに長野県、岐阜県、愛知県などとも縦で結び、『昇龍道』というネーミングをつけて一つのルートとして魅力付けした。日本は島国で、外国客は空から入ってくるしかないのだから、まず定期便の発着する空港同士を結ぶモデルコースをつくることが重要」とのこと。その点、台湾からは日本各地にフライトが多数就航しているぶん、モデルルートのバリエーションの可能性が広がっています。

自治体ブースがPR主体であるのに対し、企業グループはどれだけ旅行商品が販売できるかが勝負です。ITFでは、他の国の旅行博ではあまり見られない独特の販売スタイルとして、現地の旅行会社を自治体のブースの中に招き入れて、各地域のPRとツアー商品の販売を同時に行っています。これだけ競合相手がいると、価格競争が熾烈になるのは無理もなさそうです。

企業ブースで目に付いたのは、豊富なFIT向け商品が揃っていたことです。

なかでも近畿鉄道グループの中にある国内メディア販売大手のクラブツーリズムがFIT向けに販売しているバスツアーです。
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はとバスなどが催行する外国人向けバスツアーは、英語圏の利用者の比率が高いとされますが、クラブツーリズムの催行するツアーは、アジア客に好評です。最も人気があるのは富士山とフルーツ狩りを組み合わせたツアーだそうです。日本人向けと基本的に同じツアー内容で、最近では、日本人客とアジア客を混載する商品もあるといいます。

世界でいちばん目が肥えているといわれる日本の消費者を相手に長年練り上げられてきたクラブツーリズムのバスツアーが、アジアのFIT層にも受け入れられているというのです。日本人とアジア客が混載するバスツアーというのは、これからの新しい国内旅行のかたちを先取りしているといえるかもしれません。

ところで、異色のブースが日本の出版大手の角川書店です。同社では現地法人の台湾国際角川股份有限公司がローカル向け情報誌『台北ウォーカー』を発行していて、同誌の付録に日本旅行のための冊子『Japan Walker』があります。
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台湾国際角川股份有限公司 
http://www.kadokawa.com.tw/

近年、インバウンドビジネスにさまざまなメディア企業が参画していますが、長く現地に根付いて日本のコミックやライトノベルズ、情報誌などを発行してきた角川書店は、台湾の訪日旅行市場の下支えに大きく貢献してきたといえるでしょう。

※日本の出展ゾーンについては、中村の個人blog「地方自治体の広域連携化で活気づくジャパンゾーン(台北ITF報告その3)」、「FIT向け商品が続出する台湾市場(台北ITF報告その4)」を参照。

訪日客増加の背景にはオープンスカイがある

さて、そろそろ台湾からの訪日旅行者の大幅な増加の背景について、タネ明かししましょう。

それは、台湾と日本の間で結ばれた航空協定(オープンスカイ)です。

台湾と日本の航空協定は、2011年11月10日に調印されました。それによってチャイナエアライン(CI)とエバー航空(BR)の2社に加え、翌12年3月以降、マンダリン航空(AE)とトランスアジア航空(GE)を加えた4社が定期便を就航させています。

これに昨年以降、LCCが日本と台湾を結んでいます。日本のジェットスター・アジア(3K)やピーチ・アビエーション(MM)、そして元エアアジアのバニラエア(JW)、シンガポールのスクート航空(TZ)です。もちろん、これに日本航空と全日空が加わります。しかも、台湾のエアラインは日本の地方都市とも多く就航していることが特徴です。

台湾の訪日旅行は団体ツアーとFITが半々の割合だといいます。今回、台湾では、いわゆるスケルトン型といわれる航空券+ホテルのみの安いツアーが大量に販売されていることがよくわかりました。旅行会社はもちろんですが、エアラインも独自にツアーを販売しています。
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たとえば、今年9月に成田に就航したばかりのトランスアジア航空では、東京5日間のツアーが16900台湾ドル(約56000円)、大阪はなんと10999台湾ドル(約37000円)です。これなら軽い気持ちで日本に遊びにいこうと思えるでしょう。なにしろ台湾は2005年以降ビザが免除されていますから、前日でも予約できてしまうのです。

もちろん、日本側のプロモーションの成果も忘れてはいけないでしょう。もともと日台間には国交がないため、日本観光協会などが中心となって1990年代から細々と訪日PRを続けてきたそうですが、ビジットジャパンキャンペーンのスタートした2003年から本格的なプロモーションが始まっています。

関係者によると、台湾では新聞やテレビ、雑誌などあらゆるメディアを使った通常のプロモーションはすべて行っていますが、特に有効なのはFacebookだそうです。人口2300万人の台湾で1400万人がFacebookを利用しているからです。
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観光庁もFacebookのアカウントを持っていて、ブロガーの意見を載せたり、おすすめコースを紹介したり、新しいデスティネーションのショートムービーをつくって公開したりと、いろいろやっているようです。

日本政府観光局(台湾)公式サイト 
http://www.welcome2japan.tw/
日本旅遊活動 VISIT JAPAN NOW(Facebook) 
https://www.facebook.com/VisitJapanNow

現地で会った日本の関係者は台湾での訪日旅行プロモーションについてこう語ってくれました。「台湾というのはありがたいことに、何かやると必ず反応が返ってくるんです。レスポンスがすごくいい。やりたいことはだいたいできている。もともと台湾の人たちは日本に行く気があるので、うまく押してあげるといいんです」

では、この恵まれた台湾でのプロモーションは今後どうあるべきでしょうか。

「台湾の訪日旅行市場は多様化し、成熟化しているので、特定な地域を売ることも大事ですが、スポーツやグルメなど、新しい切り口を提案しながら呼び込むことではないでしょうか。たとえば、台湾国内ではマラソン大会が100近くあります。サイクリングも人気です。日本で走りたい人も多い。各種スポーツ団体と連携しながら、誘客を進めていくと面白いですね」

※訪日客増加の背景についての詳細は、中村の個人blog「過去最高200万人超えなるか!台湾客急増の背景にはオープンスカイがある(台北ITF報告その5)」を参照。

心温まる魅力いっぱいの訪日ツアーも続々

会場でお会いした現地の旅行関係者の話からも、台湾の訪日旅行市場の成熟ぶりを肌で実感できました。台湾の日本ツアーは実に多様化しています。以下、2つの例を紹介しましょう。

まず「日本輕井澤悠閒鐵馬泡湯自由行5日(軽井沢でのんびりサイクリングと温泉の旅)」です。長野県軽井沢で開催される「グランフォンド軽井沢」というサイクリング大会に参加し、温泉に浸かって過ごす4泊5日のツアーです。催行しているのは、台北の上順旅行社です。

上順旅行社 
http://www.fantasy-tours.com/
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このツアーを企画運営している海外個人旅遊部(FIT担当)の高世軒さんによると、「このサイクリングツアーは2011年夏から始めています。台湾ではサイクリングが盛んで、国内でも大会は多く開かれていますが、海外のスポーツ大会に参加したいと思っている人がたくさんいます。私自身もスポーツが大好きで、軽井沢で毎年5月末に開催されている『グランフォンド軽井沢』を最初のツアー先として選びました。軽井沢の新緑の一本道をサイクリングするのは最高の気分です。マイ自転車を日本に運んで走る人もいますよ。もちろん、温泉やショッピングもツアーに組み込まれています。うちのような専門の旅行会社が企画しているので、お客様も安心して参加できるんです」。

もうひとつのツアーは「田舎に泊まろう(來去郷下住一晩)」です。日本の農家に民泊(ホームステイ)するツアーです。舞台となるのは山形県飯豊町。特に観光名所があるわけではない、ごくふつうの日本の山村です。そこを訪ねた台湾客たちは民泊する農家の仕事を手伝ったり、家族と一緒に食事をしたりして、一晩過ごします。2010年春からスタートし、東日本大震災後に一時休止しましたが、12年に再開。年間200名以上の台湾客がツアーに参加しているそうです。

山形県飯豊町観光協会(ようこそThe日本の田舎へ)
http://samidare.jp/iikanjini/note?p=log&lid=310581

ツアーを企画したYUKIさんこと、名生旅行社の女性社員に話を聞きました。ちなみに彼女は元日本留学生です。

名生旅行社(トップページに同ツアーのミニ動画があります)
http://www.msttour.com.tw/web/major.asp

――「田舎に泊まろう(來去郷下住一晩)」について教えてください――

「ツアーは4泊5日か5泊6日の2パターンがあります。前者の場合、台北から仙台空港に飛んで、初日は山形県の上山温泉に泊まり、2日目は蔵王などをめぐります。午後に飯豊町の農家にホームステイし、翌日午前10時には家族とお別れになります。その日は銀山温泉に泊まり、最終日は松島などを観光して仙台空港から帰国します。

ホームステイの翌朝、車でお客さんを迎えにいくと、皆さん必ず涙を流して別れを惜しむんです。台湾のお客さんだけでなく、民家の方も泣いてしまう。一晩一緒に過ごしただけなのに、感動で涙があふれてくるんです」

――このツアーはどのようにして企画されたのですか?――

「数年前から台湾では日本のバラエティ番組の『田舎に泊まろう』が人気でした。こういうツアーが実現できたらいいなと思ったのが2009年。それから1年かけて弊社の会長と一緒に全国を訪ね、民泊にふさわしい農村を探したところ、飯豊町がいいということになりました。飯豊町では、もともと学生のホームステイを受け入れていたこともあり、観光協会に話をしたところ、快く受け入れてくれました」
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同ツアーは、2012年に台湾観光協会から優れたツアーとして金賞(金質旅游奨)が授与されています。実は、彼女が日本留学していたとき、TBSの『世界ウルルン滞在記』をよく観ていたそうで、それがこのツアー企画の原点だったそうです。まさに台湾発日本行き「世界ウルルン滞在記」のツアー版といえるでしょう。

これらのツアーに共通するのは、小規模の専門旅行社が催行していること。初めから数で稼ぐことは考えていないこと。そして、何より日本と縁があり、ベースとなる感動体験の持ち主である台湾サイドのキーパーソンが企画運営していることでしょう。加えて、日本の受け入れ側の鷹揚でかつ、きめの細かい対応が鍵だといえそうです。

こうした心温まる魅力いっぱいの訪日ツアーが台湾の旅行関係者自らの手によって生まれています。こういう話を聞いていると、うれしくなってしまいますね。逆に我々日本サイドは台湾に対してどんな新しい提案ができるのか、あらためて考えてみなければならないと感じました。

※本稿で紹介した2つのツアーの詳細は、中村の個人blog「台湾だから実現できた軽井沢サイクリングツアー(台北ITF報告その7)」、「台湾発日本行き『ウルルン滞在記』ツアーはこうして生まれた(台北ITF報告その8)」を参照。また本稿では触れなかった台湾の訪日旅行市場の最新動向については、「台湾で中国本土ブースが不人気な理由(台北ITF報告その2)」、「台湾でいまホットな話題は『シニア旅行』と『自由旅行』(台北ITF報告その6)」を参照。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_143.html
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by sanyo-kansatu | 2013-11-21 10:07 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2013年 11月 08日

台湾発日本行き「ウルルン滞在記」ツアーはこうして生まれた(台北ITF報告その8)

軽井沢サイクリングツアーに続き、さらに手の込んだ台湾発のスペシャルなツアーがあります。
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ツアー名は來去郷下住一晩(「田舎に泊まろう)」。キャッチコピーは「体験日本山形農家的温馨感動」。だいたいの意味は漢字でわかるでしょう。「温馨」とは「家庭的な温かさ」という意味です。

日本の農家に民泊(ホームステイ)するツアーです。舞台となるのは山形県飯豊町。特に観光名所があるわけではない、ごくふつうの日本の山村です。そこを訪ねた台湾客たちは民泊する農家の仕事を手伝ったり、家族と一緒に食事をしたりして、一晩過ごします。2010年春からスタートし、東日本大震災後に一時休止しましたが、12年に再開。年間200名以上の台湾客がツアーに参加しているそうです。

山形県飯豊町観光協会(ようこそThe日本の田舎へ)
http://samidare.jp/iikanjini/note?p=log&lid=310581

ではどうしてそんな民泊が商品化されたのか。ツアーを企画したYUKIさんこと、台北にある名生旅行社の女性社員に話を聞きました。ちなみに彼女は元日本留学生です。
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名生旅行社(同社のトップページに同ツアーのミニ動画があります)
http://www.msttour.com.tw/web/major.asp

――「來去郷下住一晩(田舎に泊まろう)」についてもう少し詳しく教えてください。

「ツアーは4泊5日か5泊6日の2パターンがあります。前者の場合、台北から仙台空港に飛んで、初日は山形県の上山温泉に泊まり、2日めは蔵王などをめぐります。午後に飯豊町の農家にホームステイし、翌日午前10時には家族とお別れになります。その日は銀山温泉に泊まり、最終日は松島などを観光して仙台空港から帰国します」

――民泊するのは1日だけなんですね。

「はい、やはり旅行会社が催行するツアーといっても、見ず知らずの外国のお宅にホームステイするということですから、お互い1泊で十分なんです。学生のホームステイではないですから。ツアー客の皆さんには親子もいますが、基本的に大人の方たちです。だから、どうやってお客さんを出迎えるかが重要です。そこで考えたのが一緒に手作業すること。飯豊町に着くと、ツアー客と民家の方が公民館に集まり、まず花笠作りをやることになっているんです。初対面でいきなり民家を訪ねるのはお互いちょっと気まずいところもあるので、作業をしながら地元のおばあさんに民謡を歌ってもらったりしているうちに、言葉ができなくてもだんだん親しくなってくる。あとはそれぞれの民家にツアー客は振り分けられ、翌朝までガイドなしで民泊を体験します。

一家に4人くらいが泊まります。昼間は農家の仕事を手伝って、夕食も後片付けはお客さんがやるとかルールを決めて、とにかく一日家族として過ごすんです」
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――とても面白い設定ですね。

「翌朝車でお客さんを迎えにいくと、皆さん必ず涙を流して別れを惜しむんです。台湾のお客さんだけでなく、民家の方も泣いちゃいます。一晩一緒に過ごしただけなのに、お互い感動で涙があふれてくるんです」

――なるほど……確かに話を聞いているだけで、ぼくも涙腺がうるうるしてくる感じになりますね。やはりお互い言葉がわからない同士、一晩時間をともにするだけでいろんなドラマがあるのではないでしょうか。こういう非日常的な体験は、単なる観光ツアーでは得ることはできないものでしょう。ところで、このツアーの企画はどうやって生まれたのですか。

「数年前から台湾では日本のバラエティ番組の『田舎に泊まろう』がすごい人気だったんです。だから、こういうツアーが実現できたらいいなと思いました。それを思いついたのが2009年です。それから1年かけて弊社の会長と一緒に全国を訪ね、民泊にふさわしい農村を探したところ、飯豊町がいいということになりました。飯豊町では、もともと学生のホームステイを受け入れていたこともあり、観光協会に話をしたところ、快く受け入れてくれました」

『田舎に泊まろう』
http://www.tv-tokyo.co.jp/inaka/
2003年4月6日から10年3月28日までテレビ東京系列で放送されたバラエティ番組。

「実は、私が留学生だったとき、日本で放映されていた『世界ウルルン滞在記』が大好きだったんです。実際、日本に来たばかりのころ、国際交流会でたくさんの留学生が全国各地でホームステイを体験したのですが、私のステイ先は北海道の長万部の温泉旅館だったんです。でも、お客さんではなく、家族の一員として旅館の仕事を手伝ったり、着物を着て接客をしたり、本当に面白かった。だから、その家族と別れるとき、私は泣きながら帰ったんです。まさに『世界ウルルン滞在記』でした。今でもその家族とはお付き合いがあって、私の結婚式には台北まで来てくれました。長万部は私の第二の故郷なんです。こういう体験があったので、このツアーは必ず成功すると思っていました」

『世界ウルルン滞在記』
http://www.ururun.com/
1995年4月9日から2007年4月1日まで、TBS系列で放送されたドキュメンタリー紀行番組。

――台湾の観光協会から賞をいただいたそうですね。

「はい、2012年に台湾で催行されたツアーで金賞(金質旅游奨)をいただきました。でも、最初は同業の方たちから『そんなに手間がかかる割には儲からなそうなことよくやるね』と笑われたものです。人気が出たいまでは、うちもやりたいと考える旅行会社もあるようですが、実際やろうとすると大変なことがわかり、結局うちにお客さんを回してくれます」

――誰もが真似できる商品ではないからですね。お客さんを必ず泣かせてしまうほど感動いっぱいのツアーですが、逆にとてもデリケートな商品といえそうです。実際にツアーを運営する難しさやポイントはありますか。

「いくつかあります。たとえば、台湾のお客さんに民家の方に渡すお土産を用意してもらうことにしています。民家の方にも同じことをお願いして、プレゼント交換するんです。また必ず地元料理を作っていただくようにお願いしています。学生さん相手ならカレーライスでもいいですけど、やはりそこはお客さまですから。その代り、お皿洗いは台湾の方にやってもらう。あとお風呂だけは、車で近くの温泉に連れて行ってもらうことにしました。運転は民家の方にお願いしています。そして、最後にお別れのとき、『田舎に泊まろう』と同じように、家族と一緒に記念撮影をします。

ツアーの最後にアンケートをとると、『いちばん思い出に残るのは?』という問いに、必ず民泊がいちばんになります。次がお母さんの手料理かな。実際、このツアーでは民泊は1泊だけで、あとは高級な温泉旅館に泊まり、懐石料理を食べるのですが、やはり民泊にはかなわないようです。とてもうれしいですね」

――飯豊町以外の場所での民泊ツアーはありますか。

「今年6月から長崎県南島原の漁村の民泊を始めました。やはり1年前に地元に相談に行っていろいろ話し合いました。こちらでは出迎えは、流しソーメンをみんなでやることにしています。さらに、南島原では漁師体験もやります。漁船に乗って漁に出て自分たちで獲った魚を料理してもらうんです」

南島原ひまわり観光協会
http://himawari-kankou.jp/
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――日本各地からうちでもやらないかという問い合わせがあるそうですね。

「はい、たくさんいただきました。ありがたいことですが、今は民泊先を広げる考えはありません。やはり品質が大事ですから。観光協会や民家の方と、本当に外国客を受け入れる覚悟があるか、じっくり話し合いをしたうえでないと簡単には決められないからです」

――それにしても、どうしてみんな泣いちゃうんでしょうね。

「最初の頃、このツアーに添乗するガイドたちが、お客さんたちが泣く姿を見て、なぜなんだろうと思ったそうです。彼らは民泊しませんから。外国の見知らぬ人の家に泊まるなんて、怖くないのかなと。そこで、自分もお客さんになって民泊したら、その気持ちがよくわかったというんです。台湾のメディアを連れて何度か民泊体験してもらったことがありますが、彼らもやはり感動したといいます。
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冬の山形は本当にステキです。家の外の通りに雪の壁ができて、私のお世話になった家では、家族の方が雪の壁に穴をいくつもあけて、そこにろうそくの灯をともすんです。それを見ながら食事したときは感激しました。家族と一緒に雪かきするのも楽しかったです。こういう家族との一体感が思い出になって、皆さん泣いちゃうんじゃないかな」

同ツアーのパンフレットには「一期一曾的感動 請您一同感受(一期一会の感動をどうぞご一緒に)」と手書き文字で書かれています。まいりました。

前回紹介したサイクリングツアーを企画した高世軒さんもそうですが、これらのスペシャル・インタレスト・ツアー(SIT)に共通するのは、小規模の専門旅行社が催行していること。初めから数で稼ぐことは考えていないこと。そして、何より日本と縁があり、ベースとなる感動体験の持ち主である台湾サイドのキーパーソンが企画運営していることでしょう。加えて、日本の受け入れ側の鷹揚で、きめの細かい対応が鍵となりそうです。でも、これらがすべて揃うことはそう簡単ではないでしょう。思いがあっても何かが欠けると実現するとは限らないからです。

名生旅行社は2003年の9月創業。会長の柯佳銘氏は、35年前に日本に留学し、レストランの店長や旅行会社の添乗員をやっていた方だそうです。企画運営者だけでなく、経営側にも日本に対する深い理解や思いがあってこそ、実現したツアーだといえるでしょう。
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by sanyo-kansatu | 2013-11-08 08:16 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 11月 07日

台湾だから実現できた軽井沢サイクリングツアー(台北ITF報告その7)

台北国際旅行博の視察を通して、台湾の訪日旅行市場の成熟ぶりを肌で実感できたことが今回の収穫でした。台湾の日本ツアーは多様化しています。その実例のひとつとして、台北のある旅行会社が企画した長野県軽井沢のサイクリングツアーを紹介しようと思います。
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そのツアーは「日本輕井澤悠閒鐵馬泡湯自由行5日(軽井沢でのんびりサイクリングと温泉の旅)」です。「グランフォンド軽井沢」というサイクリング大会に参加し、温泉に浸かって帰る4泊5日のツアーです。今年は6月1日に大会が開催され、それに合わせた日程が組まれていました。
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2013年5月下旬に催行されたツアー内容
http://www1.fantasy-tours.com/JpnBackpacker/japan-zitesya-karuizawa.html

グランフォンド軽井沢
http://www.fm-karuizawa.co.jp/granfondo/

ITFの会場で、同ツアーを企画した上順旅行社海外個人旅遊部(FIT担当)のKENさんこと、高世軒さんに話を聞くことができました。同社は、訪日旅行やビーチリゾートの個人旅行手配、サイクリング、ダイビング、スキー、登山などのアウトドアスポーツの専門旅行会社です。
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上順旅行社
http://www.fantasy-tours.com/

「このサイクリングツアーは2011年夏から始めています。台湾ではサイクリングが盛んで、国内でも大会は多く開かれていますが、海外のスポーツ大会に参加したいと思っている人がたくさんいます。私自身もスポーツが大好きで、軽井沢で毎年5月末に開催されている『グランフォンド軽井沢』を最初のツアー先として選びました。軽井沢の新緑の一本道をサイクリングするのは最高の気分です。マイ自転車を日本に運んで走る人もいますよ。もちろん、温泉やショッピングもツアーに組み込まれています。うちのような専門の旅行会社が企画しているので、お客様も安心して参加できるんです。

来年のサイクリングツアーも募集を始めています。軽井沢以外のサイクリング大会のツアーも現在企画中ですし、冬場は白馬でのスキーツアーを催行しています。これからもっと新しい企画に挑戦したいと思っています」

もしかしたら、日本国内のサイクリング大会には、すでに香港人あたりが個人で参加しているかもしれません。でも、旅行会社がこうした「スペシャル・インタレスト・ツアー(SIT)」と呼ばれるFIT向けの旅行商品を企画催行しているのは、アジアの中でも台湾だけではないでしょうか。それは、台湾が成熟市場であるからこそ実現できたといえるでしょう。同社の社長は李南山氏で、高さんの挑戦を支援してくれているそうです。彼のブログにもツアーの様子が詳しく紹介されています。

高世軒さんBlog.
http://blog.yam.com/gotokao/article/64136581
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by sanyo-kansatu | 2013-11-07 15:24 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 11月 06日

台湾でいまホットな話題は「シニア旅行」と「自由旅行」(台北ITF報告その6)

海外の旅行博で面白いのが「論壇(フォーラム)」です。そこで議論されるテーマや話題は、その国の旅行市場を理解するのに役立つ多くの示唆を与えてくれるからです。登壇してくる企業関係者やトレンドを代表する人物らがどんな発言をするかを通して、現在の市況はもちろん、今後のマーケットの見通しがそれなりにうかがえるからです。
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フォーラムは最終日の21日(月)にありました。テーマはふたつ。「シニア旅行」と「自由旅行」でした。これがいまの台湾の旅行関係者や消費者にとって最も関心の高い話題だというわけです。ちなみに、今年4月北京で開催された中国出境旅游交易会2013のフォーラムの主要なテーマも同じ「自由旅行」でしたが、議論の内容は少し違うものでした(→「世界一になったのに、なぜビザ緩和が進まないのか~中国の不満とその言い分(COTTM2013報告 その4)」)。

台北国際旅行博 旅游論壇(登壇者のPW資料をダウンロードできます)
http://www.taipeiitf.org.tw/Content/article2.aspx?Lang=1&SNO=02000042&TT=1

まず午前中に行われた「シニア旅行」に関するフォーラムから紹介しましょう。登壇者は以下のとおりです。
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司会進行:蘇成田(台湾国際旅行博主任委員)
基調コメント:Dr.Chuck Y.Gee(ハワイ大学ホテル管理学院名誉院長)
コメンテーター:沈方正(ホテルロイヤルグループ・ジェネラルマネジャー)、黄信川(雄獅旅行社総経理)、有村青子(指宿シーサイドホテルおかみ)

冒頭で、司会進行役の蘇成田ITF委員から、台湾のシルバー人口の増加に関する簡単な報告がありました。台湾でもシルバー世代の人口がふくらんでおり(2013年現在、11.3%)、2020年には65歳以上の人口が15%を超えるそうです。先進国で最も高齢化率の高い日本(2020年は25%超)に比べると台湾はまだ低いといえますが、現在の出生率は日本より低いため、40年代には日本とほぼ並び、30%を超えるといいます。

その一方、シルバー世代は時間とお金があり、旅行意欲は高い。だが、台湾ではまだシニア向けと若者向けの旅行商品は未分化で、今後は業界としていかにシルバー世代のニーズに対応するかが課題というわけです。こうした議論は、日本では1990年代から盛んに行われてきたものです。
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Chuck Y.Gee教授の基調コメントのタイトルは「The 21st Century Wave of Tourism :Surfing the Silver Tunami(21世紀のツーリズムの波:シルバー世代の“つなみ”を乗り越える」でした。教授は豊富な資料を駆使しつつ、今日のシルバー旅行について、以下のポイントを指摘します。
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①21世紀の高齢化の波は、台湾ではもちろん、世界中で起きている未曾有の経験であること。
②シルバー世代には時間はあるが、「なぜこんなに時計の針が早く進むのか」とも感じていること。現在のシルバー世代は「沈黙の世代(~1945年生まれ)」と「ベビーブーマー(1946~64年生まれ)に分けられ、前者が保守的であるのに対し、後者がこれまでのシニア像とは異なる新しいアクティブな世代であり、当然求められる旅のスタイルも異なること。
③シルバー世代の旅行にとって大切なのは金銭的問題とは別のハードやソフトの面にあること。旅行に求めるものも、単なるレジャーではなく、知的な好奇心や人とのコミュニケーションに重きを置くこと。

余談ですが、教授のなめらかな英語によるスピーチは、当初の25分という予定時間を1時間以上もオーバーしてしまいました。どうやら教授は自分の持ち時間を間違えておられたようで、スタッフが慌てて何度もその点をご本人に伝えたものの、ほとんど意に介せず、さながらハワイ大学の教室にいるかのような余裕綽々とした調子で講義を乗り切られたのでした。しかし、会場の誰もがそれを微苦笑しながら受けとめたのです。こういうのが、台湾ならではのおおらかさなんでしょうか。

おかげで、残りのコメンテーターたちは、すでにフォーラムの予定時刻を終了したところから、自分たちの話を始めなければなりませんでした。以後の登壇者のコメントについては、以下簡単に紹介します。

まずホテルロイヤルグループの沈方正ジェネラルマネジャーは、シルバー世代の旅の特質として、向学心や「有時間(時間のゆとりがあること)」「喜歓参興(参加すること)」とともに「好悪分明(好き嫌いがはっきりしていること)」などを挙げ、旅行業界は「需要傾聴(何を求められているか聞く姿勢が必要)」、とりわけ「需注意環境」「需注意個人身体状況」、すなはち個人によって異なるシルバー世代の体調に配慮したハード面の整備を進める必要があるといいます。そのうえで、バリアフリーの進んだ日本のホテルの事例を細かい写真を見せながら、台湾も学ぶべきだと指摘します。

台湾の旅行大手である雄獅旅行社の黄信川総経理は、台湾の年代別国内旅行の比較をしながら、シルバー世代は平日の旅行比率が高いことから、週末に偏りがちな宿泊旅行の分散化を図るうえで、大切な顧客と指摘します。いかにシルバー族の夢をかなえるかに貢献できるか、いくつかの事例を紹介しています(詳しくは上記サイトからPW資料をダウンロードしてください)。
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最後に登壇した指宿シーサイドホテルの有村青子さんは、シルバー世代に対する真心のこもった接待について語りましたが、会場からの大きな拍手が印象的でした。同じ日本人からすると、おかみは特別な話は何もしていないように思えるのですが、聴衆の多くは感心しながら聴いているようでした。台湾の人たちは、日本人の仕事に対する思いやまじめさをまっすぐ受けとめてくれるのだということをあらためて実感しました。
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結局午前中のフォーラムは13時に終わりました。一般にアジアの新興国の旅行者は若い世代が主役と思われがちですが、台湾のような成熟した市場が相手の場合、シルバー世代の訪日客に対するケアを配慮する必要があると思いました。また今回台北からの帰国が早朝便だったのですが、桃園空港の出発ロビーにシルバー世代のツアーグループがあふれかえっていたのが印象に残りました。

さて、午後2時からのテーマは「自由旅行のトレンドにいかに対応するか(How to respond to FIT trends)」。登壇者は以下のとおりです。
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司会進行:劉喜臨(台湾政府交通部観光局副局長)
基調コメント:何勇(中国C-Trip副総経理)
コメンテーター:平林朗(HIS代表取締役社長)、王春寶(台湾休閒農業発展協会顧問)、Cindy Tan(トリップアドバイザーアジア太平洋地区副総裁)

まず司会進行役の劉喜臨副局長から、自由旅行(FIT)は「バックパッカー」「家族旅行」「上班族(サラリーマン)」という3つの消費者像に分類されること。訪台市場のトップスリーが中国(35%)、日本(20%)、香港(14%)で、これから台湾も海外からのFIT客の受け入れ態勢を進めるべきだといい、コメンテーターにつなぎます。
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それを受けた基調コメントは、中国のネット旅行会社最大手C-Tripの何勇副総裁による「(中国の)自由旅行市場の展望」でした。何勇副総裁は「弊社では10年前からFITに関わってきた」と冒頭で語り、2003年同社で航空券+ホテルのいわゆるスケルトン型ツアーを利用した旅客数はわずか40名だったものの、10年後には100万人に達したといいます。その伸び率は毎年40%超で、同社の取り扱いはすでに85%がFITだそうです(ここでいう「FIT」はどうやら団体パッケージツアーに参加しない顧客すべてを指すようです)。今後中国でもFITのシェアは高まるだろうと指摘します。
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そして、中国のFITの旅行特性や志向性について解説が続きます。たとえば、「10大自由旅行出境地(海外目的地)」として、香港・マカオ、タイ、韓国、日本、モルジブ、インドネシア、シンガポール、カンボジア、マレーシア、アメリカ、フィリピンが挙げられます。また世代的には、25歳から45歳までが全体の70%を占めること(とりわけ30代前半に集中)、旅行期間の平均は4~5日と短いこと、男女比率では男性45%女性55%と女性が大きいこと(ただし、用意されたPW資料では逆になっていて、これは間違いだそうです)などを紹介しています。

同社では、ネット旅行会社の強みを活かしたFIT向けのさまざまな旅行サービスを開発中とのこと。テレビCMを打つよりはるかにSNSをはじめとしたネットによる情報やサービスの提供が効果的だといいます。また、同社では海外に営業店舗を出すのは人件費などのコストがかかるので、今後もITの技術力の活かしたサービス提供に注力するそうです。もちろん、C-Tripはネット専業ですから、日本の楽天トラベルと同様、「店舗より技術力」という発想になるのは当然なのでしょう(ただし、楽天トラベルはここ数年アジアを中心に海外営業拠点を増やしています)。

興味深いのは、次に登壇するHISの平林朗社長のコメントが何勇副総裁とはいかにも対照的だったことです。平林社長は、1980年に創業された同社のFIT向けの取り組みの歴史を紹介しながら、現在では海外157拠点の営業所(国内は280店舗)を持つこと。FIT向けには店舗をベースとしたコンサルティングや顧客ケアが重要で、今後は海外営業所同士の取引など、さらなるグローバル化を進めていくと話したからです。創業から歴史の浅いC-Tripが現状では海外に営業拠点をつくる余力がないことは確かでしょうが、そもそもその必要を感じていないと思われるところが、同じFIT市場への取り組みを語る場合でも、日中のビジネスに対する考え方の違いがこれほど鮮明に表れるところが面白いです。
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台湾休閒農業発展協会の王春寶顧問は、台湾と香港間の自由旅行の現状について報告しました。ここで面白かったのは、香港から台湾へのアグリツアー(農業観光:農業体験を目的とした旅行)が盛んになっていることです。実際、ITFの会場にもアグリツアーの大きなブースがありました。その顧客は台湾の国内客だけでなく、香港の旅行者も含まれるというわけです。あの狭い空間に高層ビルの林立する香港の人たちが自然に接する機会を尋常でなく求めているであろうことは容易に想像できますが、そのひとつの受け皿として台湾のアグリツアーがあることは、今後香港からの訪日客へのプロモーションや受け入れにも参考になる点が多いように思いました。日本は確かにアジアの最先端カルチャーの発信地なのでしょうが、それだけではないということでしょう。

最後の登壇者が、ホテルやレストラン、観光スポットなどの口コミをまとめたサイトを運営するトリップアドバイザーのCindy Tanアジア太平洋地区副総裁です。同サイトは他の類似サイトの追随を許していないことから、世界のFITの支持を勝ち得ています。実際、副総裁によると、年間書き込まれる1億件のコメントのうち、51%はホテルに関するものだといいます。膨大な口コミ情報をフィードバックできることが、同社のホテル業界に対するマーケティング・ビジネスを支えているようです。そして、「(FIT市場にとって重要なのは)割引ではなく価値だ」と、いかにも同社の関係者が言いそうだなと思われるすましたコメントを残しています。
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ちなみにトリップアドバイザーについては、以下のネット記事が参考になります。
http://wired.jp/2013/05/30/tripadvisor-ceo-interview/

フォーラムの登壇者たちのコメントを聞きながら、日本ではもうことさらFITの存在を強調して「自由旅行」について議論する時代ではないのですが(日本では、FITかパッケージツアー利用かというのは、消費者が目的によって好きに選べばいいというだけの話です)、いまの台湾や中国本土では「自由旅行」がホットな話題となっていることをあらためて感じました。

FIT化が進むと、パッケージツアーを造成してきた従来型の旅行会社の利益が減ることを懸念する業界からの問題提起(これはかつての日本、現在の中国本土で起きています)が出てくるものですが、今回のフォーラムではそうした議論はないようでした。すでに台湾ではエアライン主導のスケルトン型の安いツアーが多く出回っており、日本と同様もう決着のついた話なのかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2013-11-06 10:07 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 11月 01日

過去最高200万人超えなるか!台湾客急増の背景にはオープンスカイがある(台北ITF報告その5)

今年、訪日客の200万人超えが期待されている台湾。いまや訪日外客の5人に1人は台湾の人たちです。好調の背景には何があるのか。台北国際旅行博(ITF)会場でお会いした現地関係者にその理由を尋ねてみました。

――台湾の海外旅行は1979年の解禁。以来、30年以上の歴史をもつ成熟したインバウンド市場といえますね。

「台湾の訪日客は少しずつ増えていきました。当初は日本からの訪台客数のほうが多かったのですが、2000年前後一時逆転され、2005年以降はともに100万人を超えました。日台間には国交がないため、日本観光協会などが中心となって細々とPRを続けてきましたが、ビジットジャパンキャンペーンのスタートした2003年から本格的なプロモーションが始まりました。いまでも交流協会とJNTOで業務提携をしながら進めているのが現状です。

東日本大震災のあった2011年以降は、台湾からの訪日客のほうが日本の訪台客より多くなっています。昨年の訪日客数が146万人、そして今年200万人を超えそうな勢いです。ちょっとできすぎですかね」

――今年、台湾の訪日客がこんなに増えた背景には何があるのですか?

「最大の理由は、円安とオープンスカイが追い風になっていることです」

※台湾と日本の航空協定(オープンスカイ)改定は、2011年11月10日に調印されました。それによってチャイナエアライン(CI)とエバー航空(BR)の2社に加え、翌12年3月以降、マンダリン航空(AE)、トランスアジア航空(GE)の4社が定期便を就航させています。

現在、これに加えてLCCが日本と台湾を結んでいます。ジェットスター・アジア(3K)やピーチ・アビエーション(MM)、そして元エアアジアのバニラエア、シンガポールのスクート航空(TZ)です。もちろん、これに日本航空と全日空が加わります。しかも、台湾のエアラインは日本の地方都市とも多く就航していることが特徴です。

●オープンスカイ後、日台間に定期便を就航したエアライン
マンダリン航空
http://www.mandarin-airlines.com/index/index.html
トランスアジア航空(復興航空)
http://www.flytransasia.jp/
ピーチ・アビエーション
http://www.flypeach.com/jp/ja-jp/homeJP.aspx
バニラエア
http://www.vanilla-air.com/
スクート航空
http://www.flyscoot.com/index.php/ja/

――オープンスカイによる大幅な増便が背景にあることは当然として、JNTOでは早い時期からさまざまなプロモーションをしてこられたと思います。たとえば、1990年代、他の訪日マーケットに先駆けた北海道キャンペーンを打ち出し、ツアーを成功させたのも台湾市場でした。今回のITFでは、ジャパンゾーンを統括するJNTOブースはどんなテーマを掲げておられるのでしょうか。狙いや目的について一言教えてください。

「『日本で遊びまわろう』です。台湾の博覧会は即売会の意味合いが強いので、例年台湾の旅行会社を招き入れ、日本ツアーの販売増を目指しています」
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――台湾市場向けのプロモーションについてはどうですか。

「新聞やテレビ、雑誌などあらゆるメディアを使った通常のプロモーションはすべてやっていますが、台湾で特に有効なのはFacebookです。なにしろ人口2300万人の台湾で1400万人がFacebookを利用しているからです。若い世代はほぼ全員利用しているといっていい。
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日本の観光庁もFacebookのアカウントを持っています。ブロガーの意見を載せたり、おすすめコースを紹介したり、新しいデスティネーションのショートムービーををつくって公開したり、消費者の写真コンテストをやったりと、いろいろやっていますよ」

――そうしたSNSを活用した手法はいまや常道ともいえますが、仕掛けると最初に動き出すのが台湾市場なのでしょうね。

「台湾というのはありがたいことに、何かやると必ず反応が返ってくるんです。レスポンスがすごくいい。やりたいことはだいたいできている。もともと台湾の人たちは日本に行く気があるので、うまく押してあげるといいんです」

――同じことをやっても中国本土とは反応ずいぶん違うんですね。いちばん効くのは何でしょうか。

「やはりウエブ活用でしょう。最近は特に体験ものが人気があります。日本でサイクリングや農業体験、民泊をする。これといったキラーコンテンツがあるというより、目的が多様化しています。実際に体験した人がネットに書き込み、それを見て私もやりたいという動きがふつうに起きています。これからのプロモーションはFacebookやLINEが有効だと思います」

日本政府観光局(台湾)公式サイト
http://www.welcome2japan.tw/
日本旅遊活動 VISIT JAPAN NOW(Facebook)
https://www.facebook.com/VisitJapanNow

――それでも、台湾人の海外旅行は団体ツアーがかなりの割合を占めると聞きます。圧倒的にFIT化が進んだ香港とはどこが違うのですか。

「いまは台湾でも訪日旅行は団体とFITで五分五分です。香港の人たちは、考え方や行動スタイルが欧米化していて、何か気を引く情報があるとすぐに行ってみようとなるのですが、台湾の場合、最初はちょっとためらう人の割合が多いかもしれません。大丈夫かどうか、考えてから行動する慎重派が多い気がします。東京、大阪、北海道はFITでも大丈夫だけど、それ以外の地域はまだためらう人が多い。レンタカーもなかなか利用しない。中国語のナビがないからだといいます。香港人はとりあえず行って、あとで考えるという感じでしょうか。

ですから、プロモーションする側は彼らに安心感を与えてあげないといけない。後押しを丁寧にやってあげないといけません。ただ台湾の人たちはブームに弱いところもある。北海道やアルペンルートのツアーなどがそうでした。みんなが行くから私も行こう、となる」

――台湾の訪日旅行市場の特徴は他にもありますか。JNTOの重点五大市場に関する報告書によると、台湾は「M型社会」だと書かれていますね。

「それは台湾でも、中間層が減り、所得が両極端になって経済格差が起きているという話です。2000年代に入ってから言われていることです。富裕層専門の旅行会社もいくつかあります」

――鉄道旅行の可能性についても触れていますね。台湾では日本の鉄道旅行に関する雑誌の特集もよくあるようですね。
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「台湾には鉄道ファンが多いんです。九州の『ななつ星』がもし台湾でも買えれば必ず売れると思います。ジャパンレイルパスの売上がいちばん高いのは台湾でしょう。台湾は鉄道が発達していて、鉄道旅行に慣れています。だから、日本で鉄道旅をしてみたいという思いがあるのです。割引パスが普及してきたので、あとはポイントの情報をどう与えるかで、行き先が広がる。リピーターが多いのが台湾の特徴ですから、可能性はあります」

――今回のITFのフォーラムのテーマのひとつが「シルバー族」の海外旅行でした。

「台湾も少子高齢化が進んでいます。出生率は日本より低い。台湾も日本と同じで年寄りが多くて元気。これからはシニアを大事にしなければならないと思います」

――それにしても、ITFの会場を歩いて感じることは、台湾のツアーは驚くほど安いですね。その理由は何でしょうか。

「博覧会がなぜ人気があるか。割引して売ってくれるからです。香港に比べ台湾で団体ツアーの比率が高いのは、安いツアー商品が多いから。慎重派の台湾人にとってツアーは安心感があるのです」

――エアライン各社がFIT向けのスケルトンタイプ(航空券+ホテル)を破格の料金で売り出していますね。
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「台湾の場合、航空会社がキーエージェント制を敷いていて、特定の旅行会社に『座席買い取り制』に見られるようなビジネス慣行が通ってきたことが背景にあります。航空会社を頂点とした系列化で、優先的に席をあげるからと、押し売りもする。
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チャーター便は特に料金先払いで、売れないと旅行会社が損をするから、土壇場で叩き売りをする。まずいことに、消費者がそれを知ってしまったため、ぎりぎりまで待つ間際買いの傾向が出てしまった。いま日本にはビザがいらないから、前日でも申し込める。これには困っています。航空会社としては、飛ばせば飛ばすほど日本線は売れるからいいのですが、旅行会社は売り切れないと怖い」

――台湾の旅行業界は、日本のような大手は少なく小規模の会社が群雄割拠している感じでしょうか。それでもいくつか取扱規模の大きい企業はありますか。

「老舗は東南旅行社。北海道ツアーを最初に造成したのは同社です。取扱いでいうと、康福旅行社や雄獅旅行社、スタートラベルなどでしょうか」
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――今後、台湾の訪日旅行市場はどう発展していくと思われますか。

「いま台湾の海外旅行者数は年間1000万人程です。そのうち2割が日本というわけですが、これが4割や5割になることはちょっと考えられません。2~3割の間で落ち着くだろうと個人的には思います。これから先、欧米ツアーの料金が下がれば、そちらにずいぶん取られるかもしれません。

数もほしいが、質もほしい。それをどうやって実現できるか。(1990年代の日本人海外渡航者の急増を機に)アジアの安いツアーの造成のしくみを教えたのは日本です。コスト以下でランドに受けろという押し付けをやってきた。それをいまやり返されているんです。(インとアウトが拮抗してきた)ここらでお互い腹を割って話し合ういい時期になってきたかもしれませんね」

――これからの台湾向けプロモーションはどうあるべきでしょうか。

「これからはスター選手を次々作っていくことが大事だと思います。北海道の場合、東南旅行社と組んで造成したらよく売れた。すると2年後には他社もどんどん売り出し始めた。ひとつの成功事例をつくってしまえば、みんな売ってくれる。山形の蔵王もそう。どこでも売ろうと思えば売れるのが台湾です。

台湾の訪日旅行市場はますます多様化し、成熟化しているので、特別な地域を売ることも大事ですが、スポーツやグルメなど、いろんな新しい切り口での提案をすることではないでしょうか。たとえば、台湾国内ではマラソン大会が100近くあるんです。サイクリングも人気です。日本で走りたい人も多い。各種スポーツ団体と連携しながら、進めていくと面白いですね」
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by sanyo-kansatu | 2013-11-01 11:31 | “参与観察”日誌 | Comments(0)