ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 04月 27日

世界の富裕層に日本の美食とアートをアピールしよう(ILTM2017報告)

GWが近づきましたが、最近少し時間の余裕が出てきたので、今年初旬以降に訪ねたインバウンド関係のイベントやセミナーの報告をぼちぼちしていこうと思っています。最初は都内で開催された富裕層旅行の商談会です。

富裕層旅行に特化した商談会「ジャパン・ラグジュアリー・トラベルマーケット(ILTM Japan)」が日本で初めて開催されたのが2013年。以来、毎年春に国内外から富裕層旅行の関係者たちが集まります。

今年は2月27日から3月1日まで、コンラッド東京で開かれました。商談会の様子については、これまで何度か書いてきたので、今回は初日に行われたセミナーについて簡単に報告します。いろんな情報が盛りだくさんなので、やたらとURLが多いですが、あくまで話題提供ということでご了承ください。

京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催(2013年 05月 20日)
http://inbound.exblog.jp/21590385/
富裕層旅行には先進国型と新興国型の2種類ある(ILTM2013 セミナー報告)(2013年 12月 20日)
http://inbound.exblog.jp/21681992/
「富裕層旅行市場」とは、どのような世界なのか?(日経BPネット2016年04月07日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/040600010/

今回のセミナーのテーマは日本の美食とアート。最初のテーマのタイトルは「Gastronomy-The Clincher for attracting Tourism(美食は観光客を惹きつける決め手)」で、登壇したのは美食家として知られ、「世界のベストレストラン50」の評議員のひとりでもある中村孝則氏。
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office nakamura(中村孝則氏の公式サイト)
http://www.dandy-nakamura.com/index.html
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中村氏は、まず今日の世界のグルメトレンドに大きな影響を与えている「世界のベストレストラン50」というランキングと「美食の追っかけ」とも呼ばれるフーディーズという一群のグルメマニアの話を始めます。

彼が言うには、「世界のベストレストラン50」に選ばれたレストランのあるヨーロッパの町は、年間200万人の人々が訪れるようになったとか。それほど、美食は世界から人を呼び込む力があるというのです。

「世界のベストレストラン50」について
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/092900021/?P=3
フーディーズが語る「皿の中身が世界に発信される美食の時代」(日経BPネット2016年09月30日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/092900022/

いま世界の美食シーンで注目されているのが、ちょっと意外かと思われるかもしれませんが、オーストラリアだそうです。オーストラリアでは、数年前から美食で観光誘致を進める戦略「レストラン・オーストラリア」というプロモーションを始めています。

Food and Wine - Campaigns - Tourism Australia
http://www.tourism.australia.com/campaigns/Food-Wine.aspx
Top 10 Restaurants of Australia
http://top10restaurants.com.au/

なぜオーストラリアがこのプロモーションを始めたかというと、同国を訪れる外国人客にオーストラリア旅行を選んだ理由についてアンケートを取ったところ、「食事とワイン」が3位になったこと。
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さらに、このプロモーションを続けていった結果、行く前と後の「perception gap」(行く前より行ってからの評価が上がった)の国別ランキングで、オーストラリアはフランスに次ぐ2位になったといいます。日本も4位にランクされているので決して悪くはないのですが、オーストラリアの人気はすごいのです。その理由が、かの国が美食のプロモーションに力を入れたことにあると中村氏はいうのです。
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もちろん、日本にも「世界のベストレストラン50」に選ばれるような名シェフはたくさんいます。なかでも有名なのは、土を素材にしたスープで知られ、世界第8位に輝いたレストラン『NARISAWA(ナリサワ)』のオーナーシェフの成澤由浩氏です。
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NARISAWA
http://www.narisawa-yoshihiro.com/

他にもいろんな方がいます。
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こうしたことから、もっと日本の美食を世界にアピールすべきだと中村氏は主張します。残念ながら、まだその価値が広く世界に知られていないとも。

そのひとつの試みとして紹介されたのが「ダイニングアウト」という食のイベントです。

ダイニングアウトとは、日本のどこかで数日だけオープンするプレミアムな野外レストランのこと。食を通じて地方に残された美しい自然や伝統文化、歴史、地産物などを再編集し新たな価値として顕在化させるイベントだといいます。

日本のどこかで数日間だけ開催するプレミアムレストラン「ダイニングアウト」とは?
http://macaro-ni.jp/26926

中村氏が関わっていた佐賀県有田市のダイニングアウトの事例は以下のとおりです。

3夜限りの幻の野外レストラン「DINING OUT ARITA& with LEXUS」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000020902.html
http://www.onestory-media.jp/post/?id=464

次のスピーカーは、世界で最も老舗の美術品オークション会社であるクリスティーズの日本・韓国美術部門ディレクターの山口桂氏です。テーマは「ZIPANGU REVIVED(蘇る日本美術)」。
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クリスティーズ
http://www.christies.com/features/welcome/japanese/overview
山口桂氏
http://artscape.jp/blogs/blog3/1603/
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山口氏によると、日本の古美術は、日本刀から鎧、陶器、書画など、種類が豊富で、世界の古美術の中でも決してひけを取らない価値があるといいます。NYのメトロポリタン美術館でも、日本美術のコーナーがこれほど充実しているのは、そのためだと。そのわりには、あまり国際的に広くその価値が知られていないのが残念で、「国家としてのアナウンスが足りない」せいだとも。なんだか日本の美食と同じようなところがあるようです。

山口氏に言わせれば「クールジャパンなんてダサすぎる!」。日本の古美術も、つくられた当初は「現代アート」だったわけで、美術品はいわば「タイムマシン」。日本のアートの価値を理解し、それをうまく活用することで、世界の富裕層を日本に呼ぶことができるはずといいます。

山口氏は、世界の富裕層が見つめる日本の美術シーンに関する話題として、以下の3つを挙げています。

1)大阪の藤田美術館の収蔵品のオークションがすごいことに!

藤田美術館
http://fujita-museum.or.jp/
明治に活躍した実業家、藤田傳三郎のコレクションを所蔵(国宝9件、重要文化財52件)。展覧会は春季、秋季の年2回。

この話は、その2週間後、以下の記事によって明らかになりました。この10年、中国富裕層による中国アンティークの買い戻し運動が起きています。それを物語る話題といえます。

藤田美術館の中国画に49億円=30点超の美術出品-NY(時事ドットコム2017/03/16)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017031600963&g=soc

藤田美術館(大阪市)が所蔵する中国美術30点以上が15日、米ニューヨークで競売商クリスティーズのオークションに掛けられ、中国宋代の画家・陳容による絵巻「六龍図巻」(13世紀)が4350万ドル(約49億円)で落札された。

1954年開設の藤田美術館は明治時代の実業家、藤田伝三郎とその息子が収集した美術品を展示している。クリスティーズによると、美術館の改装や所蔵品の保全のため出品した。日本の美術館がこれだけの数の所蔵品を海外のオークションに出品するのは珍しい。

六龍図巻は、龍や風景の水墨画などが約5メートルにわたり描かれた作品。清朝の乾隆帝のコレクションの一つで、美術商の山中商会経由で藤田に渡った。

このほか、殷・周時代の青銅器などが出品され、1000万ドル(約11億円)以上での落札が相次いだ。手数料込みの総売り上げは約2億6300万ドル(約298億円)だった。

2)美術家の杉本博司氏が設立した小田原文化財団がによる芸術文化施設「江之浦コンプレックス」が2018年にオープン

小田原文化財団 江之浦コンプレックス
http://openers.jp/article/22862

3)2019年に京都嵐山に新たな美術館が誕生

京都・嵐山に美術館構想 アイフル創業者が私財
http://www.kyoto-np.co.jp/local/article/20170329000059

個々の話を説明しだすとキリがないので、詳しくは各URLをご参照ください。また山口氏がわかりやすく解説してくれた世界の富裕層が注目するオークションビジネスの話については、別の機会に。
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by sanyo-kansatu | 2017-04-27 13:27 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2017年 03月 02日

【自家広告】「ポスト爆買い」時代のインバウンド戦略~日本人が知らない外国人観光客の本音(扶桑社)

今月8日、扶桑社より以下の単行本を上梓します。
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「ポスト爆買い」時代のインバウンド戦略
https://www.amazon.co.jp/dp/4594076238

2016年に日本を訪れた外国人観光客は2400万人。しかも、前年より20%も増えています。それに気を良くしたのか、政府は2020年に4000万人という目標を掲げています。

ところで、日本を訪れる外国人のうち、欧米人の比率は10人に1人にすぎないことをご存知でしょうか。では、アジアの人たちは? なんと85%を占めているんです。全国各地で外国人観光客の姿を見かけるようになりましたが、その全体像についてどこまで我々は把握しているでしょうか。

本書では「なぜこんなに外国人が増えたのか」について以下の8つの理由を挙げています。

①行政主導で始まった地道なPR活動
②オープンスカイ協定による航空自由化
③アジア各国へのビザ緩和施策
④メディアが伝えた「外国人客の消費力」の浸透
⑤東日本大震災がひとつの転機に
⑥アジアのグローバル観光人口の増大
⑦日本の長期デフレが外国人客に与えた割安感
⑧アジアの中間層の成長と富の平準化

それぞれの項目の中身については、本書をご一読いただくとして、このうち①から⑤までは、日本がインバウンド市場の拡大のために実施した成果といえますが、後半の⑥から⑧は、海の向こうで起きていた国際環境の変化がもたらした結果といえます。もしかしたら、日本がどうこうしたからというよりも、海外で起きていた変化が今日の事態をもたらしていると考えたほうがいいのかもしれません。

それにしても、いまあらためて考えなければならないのは、外国人観光客の数だけ増えればいいのだろうか、ということです。最近、我々は彼らの増加がもたらした負の側面も知るようになってきたからです。本書では、こうした日本人にとって不愉快な出来事がなぜ起こるのか、解説しています。

本書は当ブログが日々観察している日本のインバウンド市場の表と裏を、できるかぎりわかりやすく伝えるために書かれたものです。個々の記事だけでは見通しが利かない訪日旅行市場の全体像と個別の事象の因果関係を整理しています。その明暗も含めた日本の近未来に与える意味を、詳細なデータと長期にわたる観察をもとに分析し、彼らの活力をいかに社会に有効に使えるか提言しています。

ぜひご一読いただけるとさいわいです。
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by sanyo-kansatu | 2017-03-02 16:05 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 06月 01日

あなたは日本の文化や歴史を外国人に説明できますか?

前回、オーストラリア出身のラジオDJで、サムライと日本のお城が大好きというクリス・グレンさんを紹介しました。
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なぜサムライは外国人の心を惹きつけるのか?
http://inbound.exblog.jp/25864895/

彼はそんな素朴な問いに対して「サムライやお城は日本にしかない独自の文化だから面白いのです」と明快に答えてくれます。

彼はいま「インバウンド観光アドバイザー」としても活躍しています。日本の観光PRをするうえで、いちばん大事なのが「外国人の視点を理解すること」だといいます。

これはどういうことでしょうか。

前回に引き続き、クリス・グレンさんへの一問一答です。

―まさかですが、いまでも日本にサムライがいると思っている外国人はいるものでしょうか? 

「もちろん、います。日本の人たちは「外国人」と一括りにしますが、外国人といっても多種多様です。欧米人だけが、外国人ではありません…。

子供たちの中には「サムライがいる」「忍者がいる」と思っている子もたくさんいると思います」

―クリスさんは日本の観光PRをするうえで、「外国人の視点」が大切と言っていますが、日本人の視点といちばん違うところはどこでしょう? 

「それは以下のポイントです。

日本に関する知識
当然のことですが、日本に関する知識は雲泥の差です。そのため、日本人の知識ベースで書かれた、観光施設などの紹介文を翻訳しただけでは、通じないことも多々あります。その視点が、完全に抜け落ちています。

曖昧さを嫌う
観光パンフレットなどでもそうですが、日本人は「曖昧」な表現や美しい言葉を並べることで、なんとなく良さげに体裁を整えるのが得意です。

なんとなく雰囲気で良さそうなことはわかるけど、どこがどうイイのかハッキリ伝えていないという文章が多いです。それを翻訳するときには本当に困ります。そのまま翻訳すると「ハッキリ、何が言いたいの?」と言いたくなるような文章になり、外国人にとっては、まったく魅力的ではないものになってしまいます。外国人を相手にするならば、もっとストレートな表現で伝える必要があります。

そのほか、当然のことながら、色、ビジュアル(写真)なども、国によって好みが変わりますので、そのあたりも意識をする必要があります」

実は、4月上旬、クリスさんが制作を担当した名古屋城本丸御殿英語版WEBサイトが立ち上がりました。このサイトも、外国人の知識や好みを考えた上で制作されたそうです。
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名古屋城本丸御殿
http://www.nagoya-info.jp/en/hommaru/

―では、「外国人の視点」を理解するために、日本人はどんなことに気をつければいいでしょうか。

「外国人視点を理解するためには、以下のことをトライしてみてください。

逆を考える
自分が海外に行った時に「困ること」「見たいモノ・コト」「事前に知りたい情報」「欲しいもの」「体験したいこと」「食べたいもの」を考えてみれば、日本に来た(来る)外国人が何を欲しがるかが理解できると思います。

外国人に聞いてみる
外国人のために作るWEBサイト、パンフレットなどの制作に、外国人が一人も携わっていない、外国人にリサーチもしない状態でつくられていることが多いということに本当に驚きます。

アドバイザーとして外国人の視点で、いろいろと足らない部分を指摘すると「目から、ウロコでした!」と言われることが多いです。でも、実はものすごく当たり前のことしか言っていません。それくらい、日本人と外国人のニーズは違うということです。

もっと外国人と話して、リアルな声を聞いて、ニーズをつかむという作業をすることをオススメします。そうすれば、もっと上手に情報発信をすることができるようになると思います」

クリスさんの提言を聞いていて、ふと思ったのは、彼からこう問われているような気がしたことです。

「あなたは日本の文化や歴史を外国人に説明できますか?」

たとえば、徳川家康って誰? どうして日本のお城には石垣があるの?

残念ながら、いまのぼくには、それをコンパクトにポイントを整理して、事情を何も知らない外国人相手にわかりやすく伝える自信はありません。これは語学力以前の問題です。そういうことを普段考えたことがなかったからです。でも、観光PRのキモとはこういうことなのですね。

こうした日本の文化や歴史の基本的な知識は、実は、通訳案内士試験で問われます。これらも含めて一般常識の試験もあるからです。通訳ガイドは、日々このような外国人の素朴な疑問に向き合っているのです。

やっぱりこの手のことは、専門家にまかせるしかない…!?

いえいえ、こういうのはちょっとした頭の体操として自分の地元を説明することから始めてみるといいのかもしれません。

クリス・グレンさんのインタビュー記事をネットで見つけました。よくまとめられた記事なので、こちらも参照してみてください。

オーストラリア人が提案する
世界目線の「NAGOYA」観光
https://digjapan.travel/blog/id=10531
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by sanyo-kansatu | 2016-06-01 17:34 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 09月 03日

中国富裕層の壊れやすい自尊心の取り扱いには要注意!

先日、ある週刊誌の記者がぼくの事務所を訪ねてきました。なんでも7月下旬、都内で中国人富裕層のグループがタクシー乗車拒否に遭い、タクシー会社に謝罪させたという一件について意見を聞きたいということでした。

「事件」の経緯はこんなところです。
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日本で「中国人」を理由にタクシー乗車拒否 役員が謝罪に訪れ中国で話題(人民網日本語版2015年8月3日)
http://j.people.com.cn/n/2015/0803/c94475-8930489.html

「ある中国人が最近、日本でタクシーに乗ろうとしたところ、「中国人」であることを理由に乗車を拒否されたため、タクシー会社にクレームを出したところ、タクシー会社の役員らが謝罪文を持って謝罪しに来たとのエピソードを、微博(ウェイボー)に投稿した。会社側は運転手に対する厳しい処分と、すべての従業員に7月31日と8月1日の2日間、特別研修会を行い、乗車拒否をしないよう意識教育を徹底したという。海外網が報じた。

同投稿者は微博で、「日本で長年生活しているが、『中国人』を理由に乗車拒否されたのはこれが初めて」と怒りをあらわにしている。

当時、投稿者は中国から来た友人数人と夕食後にタクシーで有名ホテルに戻ろうとしたところ、運転手に「分からない」と言われ、詳しい住所を説明すると言っても、「知らない」と失礼な態度で答えられたという。投稿者は、「この運転手は、日本のサービス業に汚点を付けた」としている。

同エピソードに、中国のネットユーザーも注目し、「日本のサービス業も落ちぶれたもんだ」、「プロの運転手としてのレベル低すぎ」、「日本にも時々こういう人がいる」との声を寄せている。

一方で、「会社の役員が謝罪に訪れるなんて驚き」、「運転手は悪いけど、タクシー会社はなかなかのもの」などと、タクシー会社の対応を称賛する中国のネットユーザーもいる」。

中国メディアがなぜこんな話をニュースにしたかというと、乗車拒否に遭った当人が中国最大のミニブログ新浪微博(weibo)の東京支社長である蔡成平氏で、彼が微博上で「事件」の仔細を告発したからです。

日本出租拒载公司高管登门道歉始末(2015年8月2日)
http://www.weibo.com/p/1001603871185355293869

彼は一連の経緯を時系列に沿って述べています。まず事件の当夜、中国から来た友人と食事を終え、ホテルオークラに送ろうと新宿の路上でタクシーを拾おうとしたら、乗車拒否されます。彼は友人たちの手前、面子が立たなかったのではないでしょうか。友人には、中国の有名企業の幹部が含まれていたからです。

悲憤慷慨した彼はその一件をFacebookに投稿したところ、内容を見た日本の友人たちがタクシー運転手を非難したことから(それで調子に乗ってしまったのかもしれません)、タクシー会社にその日の夜遅く電話でクレームしました。翌日、タクシー会社から彼に電話があり、謝罪および運転手に対する処分を伝えました(ここまでは一連のマニュアル対応だったかもしれません)。

ところが、彼はそれでは納得せず、書面の謝罪文を要求し、ファックスで文面を受け取りましたが、内容が簡単すぎると許そうとはしません。それどころか、「日本のサービスは高いと言われるのに、なぜこんな運転手がいるのか」と電話口で責め立てます。慌てたタクシー会社の上層部は、事件から2日後の午後、都内の彼の会社を訪ね、謝罪をしました。

彼はその様子を写真に撮り、まるで勝ち誇ったかのように微博に載せました。その写真が中国の各種ネット記事として配信されたというわけです。中国のネット記事の中には、問題を起こした運転手らしきプロフィール写真を見つけてきて、載せているものもありました。まるで中国で悪名高い「人肉検索」です。

中国乘客遭日本出租司机拒载,为啥却又遭道歉(搜狐汽车 李特儿2015-08-03)
http://auto.sohu.com/20150803/n418080909.shtml

蔡氏は微博の中で「中国人を差別するな」「日本のサービス業は、中国メディアが報じるほど水準が高くない」とまくしたてます。一方「今回日本のタクシー会社が謝罪してきたことは評価できる。中国で外国人が乗車拒否に遭ったとき、タクシー会社は謝罪するだろうか」とも述べています。

ずいぶんご立腹のようですが、彼の一連の言動には、今日の中国の富裕層、あるいはエリート層のメンタリティが体現されているように思われます。

つまり、ここで考えるべきは、「中国富裕層の壊れやすい自尊心の取り扱いには要注意!」です。

それにしても、彼はなぜこんなにエスカレートしてしまったのでしょうか。今回の一件を単に自分だけの問題でなく、中国人の面子の問題と捉えたからです。そして、自分と同行した中国のエリートたちは、タクシー会社の役員を呼びつけ、謝罪をさせるだけの価値がある人物だと考えたからでしょう。

そう、これは彼らの自尊心に関わる問題なのです。彼らは普段から自分たちの価値をもっと世界に認めてほしいと考えているのです。気持ちはわからないではありませんが、ちょっとメンドウくさい話ですね。

たとえば、こうした不満は中国人に対する主要先進国のビザ発給要件の厳しさをめぐってよく話題になります。

世界一になったのに、なぜビザ緩和が進まないのか~中国の不満とその言い分(COTTM2013報告 その4)
http://inbound.exblog.jp/20514969/

近年日本では、東南アジア諸国を中心に観光ビザの要件緩和が進んでいます。もちろん、中国に対する緩和も以前に比べると進んでいますが、なぜタイやマレーシアはノービザなのに、中国人には適用されないのか、と彼らは不満に思っています。

多くの国家がなぜ中国に対してのみ、他の国々と同じように入国手続きの緩和を進められないかというのは、端的に言えば、中国の国情ゆえです。加えて、日本からみると、1980年代以降の中国人の不法就労問題や海外に閉じた華人ネットワークを形成しがちな生態など、これまでの彼らのふるまいに理由があるからだと思いますし、それは聡明な中国人なら頭の中ではわかっているはずです。

中国は短期間で経済成長し、世界第二の規模になったとはいえ、富は片寄っています。国家としてそれ相応に認められるためには、もっと全体の底上げが必要です。しかし、それは困難を極めることだというのは彼らがいちばんわかっています。

それだけに彼らはいらだっているのです。もろもろの事情は承知しているが、自分たちはエリートである以上、下々の中国人と同じ扱いをされるのは許せない。

特に中国の富裕層は、この5~10数年で資産を急拡大させた人たちが大半です。彼らはかつての自分のことをすっかり忘れた気になっています。過去のことは思い出したくもないし、なかったことにしたい。現在の自分がすべてだと思いたいし、人からもそう思われたいのです。ところが、海外の人たちはなかなかそう認めてくれない…。このような新興国特有のメンタリティは、彼らの身になってみれば、ある程度理解できるのではないでしょうか。

でも、この種の自尊心は、ときにささいなことで傷つきやすく、壊れやすい(fragile)ところがある。それが怒りに変わりやすい。彼らにとって「乗車拒否」は過去の自分を思い起こさせるきわめて不愉快な出来事ですし、普段から抱えている不満を強く刺激してしまいます。だから、今回のような事態に遭遇すると、つい大人げない言動となって現れがちなのです。

こうした彼らの訳あり内面事情は、中国とは縁のない一般の日本人には理解しにくいことだと思います。

最近、内陸部からの中国人観光客が増えていることで、10年~15年前の上海人のような「マナーに欠けた」中国人の訪日も増えています。これが今後問題をさらに複雑にしていくように思います。

中国内陸客の増加がもたらす意味を覚悟しておくべき
http://inbound.exblog.jp/24845817/

一般の日本人から見ると、富裕層も内陸部の人たちも同じ中国人です。その人物の貴賎を判断するのは、単にブランドを身に付けているかどうかといったことではありません。物腰であり、たたずまいでしょう。最近の中国には洗練さを身に付けた人物も多くいますが、富裕層だからといってそうでない人も多いです。

これからはますます洗練された中国人と「マナーに欠けた」中国人が同時に姿を見せ、我々を戸惑わせることになるでしょう。そのとき、相手に応じて賢く対応を変える必要がありますが、こういうことにはあまり日本人は慣れていません。分け隔てなく人を扱うべきだという考えが身についているからです。

両者の人間としてのとてつもない“落差”は、単に資産や権力の総量の問題だけではありませんが、「見えにくい」とされる日本社会の格差の実態と比べるとはるかにスケールを超えている場合も多い。それはこの30年間、中国で何が起きていたかを振り返ると、ある程度理解できるかもしれません。よくも悪くも日本は平準化された社会だといわれますが、中国は真逆の世界です。

はっきり言って、差別がなくてはうまく国が回らないのが中国です。中国の富裕層というのも、公正な富の再分配のしくみのない社会だからこそ生まれたといえなくもない。それを悪いとか、違和感を覚えることなく圧し殺して生きているのが現在の中国人です。こういう実態は、日本人の倫理観からすると許されないことです。日本人の対中感情が悪化した背景には、こういう事情もあると思います。

しかし、今後訪日中国客を受け入れるには(あるいは、一般論として中国と向き合うという意味でも)、この“落差”の存在を、ひとまず想像力を働かせることで、理解しなければならないと思います。そして、相手に合わせて対応を使い分ける必要があります。そうでないと、今回のようなつまらぬ「事件」を引き起こしてしまうでしょう。

ところで、この「事件」はその後、興味深い進展をみせます。中国のネット記事によると、今回の蔡氏の乗車拒否をめぐる一連の言動に対して、比較的冷静な声が聞かれていたからです。

中国人が日本でタクシーに乗車拒否される!「タクシー会社の謝罪をあなたはどう思いますか?」中国でネットアンケート(2015年8月2日)
http://www.recordchina.co.jp/a115485.html

「記事は、「中国では、乗車拒否のニュースはよく報じられる。では、あなたは日本のタクシー会社の謝罪をどのように見ますか?あなたはタクシーの乗車拒否に遭ったことがありますか?」とし、アンケートを行っている。

アンケートは4つの選択肢から1つ選ぶもので、1日午後の時点で9051人が回答。最も多いのが「中国ではよく乗車拒否される」で42%、次いで「謝罪したのは日本のタクシー業界の素質が高いことを示している」が39%、「日本人なら乗車拒否したかと聞いてみたい」が11%、「当然、謝るべき」が8%となっている。

コメント欄には、「どっちにしても、中国のタクシー会社は謝らない」「こんなのが話題になるのか?おれは何十回も拒否されてる」「駅前のタクシーは(目的地が)近すぎても遠すぎても拒否する」「日本人は生まれつき中国人を敵視してる。顔では笑ってるがな」「恥を知っており、勇気がある行為」「日本でもこういうことがあるってことがわかった」などの声が寄せられた」。

やはり、誰の目から見ても、蔡氏のクレーマーとしての言動にはやりすぎ感が漂っています。彼は何年日本で暮らしたかわかりませんが、日本社会ではなく、中国社会に向けて告発しているところも、ちょっと卑怯な感じがします。タクシー会社の側も、まさか中国全土にネットで報じられるとは思っていなかったに違いないので、「そこまでするか」と中国のネットユーザーに同情されたのかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2015-09-03 12:51 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 24日

都心の外資系ラグジュアリーホテルはまるで時代の先祖返りのよう

近年、都心で本格化しているのが、外資系を含む大型高級ホテルの新規開業です。先日、東京駅周辺に集中している外資系ラグジュアリーホテルを訪ねて歩いてみました。

一般に富裕層が顧客とされるこれらのホテルの宿泊料金は、最低でも一泊約5万円から。いや、客室不足の昨今はもっと上がっているとも聞きます。こうなると、もはや誰でも気軽に宿泊できる価格帯ではないですが、東京五輪の開催が決定し、新たな開業ラッシュが始まっているのです。

なかでも最近の目玉は、14年12月、丸の内に一部営業を開始した個性派ラグジュアリーリゾートチェーンのアマンリゾーツによる「アマン東京」でしょうか。客室数を絞り込んだ極上のリゾートホテルチェーンとして国際的に評価の高い同グループが手がける初の都市型ホテルというふれこみで、巨大な和紙で覆われたガーデンレセプションなど日本の伝統素材が使われた館内の優雅な意匠の数々は、海外からも注目されています。
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アマン東京 http://www.amanresorts.com/amantokyo
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場所は大手町タワー(千代田区)にあります。地下鉄丸ノ内線「大手町」を降りると、大手町タワーにつながっていますが、ホテルの玄関は「隠れ家リゾート」らしく、見えにくい場所にあります
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大手町タワーからJR東京駅方面に向かって歩くと、日本橋口にホテルメトロポリタン丸の内が見えますが、その向かって左手奥にこっそりとシャングリ・ラ東京の玄関が見えます。シャングリ・ラ東京は2009年3月に東京駅に隣接する丸の内トラストタワー本館27~37階に開業した中国系のラグジュアリーチェーンです。上海浦東地区の外灘に面した最も眺望のいい場所に立地しているシャングリ・ラ上海は国際的にも有名です。
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そこから八重洲口に向かって歩いていくと、有楽町方面にフォーシーズン丸の内が入ったパシフィックセンチュリープレイスが見えます。フォーシーズン丸の内の開業は2002年10月です。これを皮切りに、グランドハイアット東京(2003年4月 六本木)、コンラッド東京(2005年10月 浜松町)、マンダリンオリエンタル東京(2005年12月 日本橋)、ザ・リッツ・カールトン東京(2007年3月 六本木)、ザ・ペニンシュラ東京(2007年9月 有楽町)、そして前述のシャングリ・ラ東京と、2000年代の都心の外資ラグジュアリーホテルの開業が続きました。
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そして、2010年代に入り、新たな開業ラッシュを迎えています。

そのうちのひとつが、14年4月に開業したコートヤード・バイ・マリオット東京ステーションです。八重洲口から京橋方面に歩くとあります。
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コートヤード・バイ・マリオット東京ステーション http://www.cytokyo.com/

東京駅周辺には、丸の内口に東京ステーションホテルもあります。東京駅周辺は、いまや東京を代表する最高級ホテル地区へと変貌しているのです。
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これまで東京では、1990年代(パークハイアット東京、ウェスティン東京など)、2000年代(グランドハイアット東京、コンラッド東京、マンダリンオリエンタル東京、ザ・リッツ・カールトン東京、ザ・ペニンシュラ東京など)と外資系の進出が散発的に続いていましたが、五輪を控えた10年代はその第3期に入ったといえそうです。

一般に海外の富裕層は安心できる宿泊先として国際的に知られるホテルチェーンを選ぶ傾向があるといいます。どんなに日本国内で有名なホテルや高級旅館でも、宿泊先として選ばれるまでのハードルは高いものです。むしろ知名度の高い外資系ほど、東京五輪は商機といわれるのはそのためです。

しかし、こうした外資の相次ぐ進出で、日本の老舗高級ホテルは生まれ変わりを迫られています。たとえば、「御三家」のひとつ、ホテルオークラ東京は現在、本館の建て替えに着手しています。前回の東京五輪の2年前(1962年)に開業した同ホテルは老朽化が長く課題となっていましたが、約1000億円を投じて高さ200mと80mの2棟のビルを新設するようです。地上38階建ての高層棟をホテルとオフィスの複合施設にする計画です。
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旧赤坂プリンスホテル跡地でも再開発計画が進行中で、新たな高級ホテルが誕生します。アマン東京が進出したばかりの大手町では、「都市型(温泉)旅館」という日本ならではのカテゴリーを掲げる「星のや東京」も進出予定です。天然温泉を完備して外資との差別化を図るそうです。これらの連動した動きは、多様な外国客のニーズに応えることで、日本のホテルシーンの活性化をもたらすものと思われます。

2010年代の都内の主な大型ホテル開発

14年4月 コートヤード・バイ・マリオット東京ステーション
14年6月 アンダーズ東京 
14年12月 アマン東京 
15年4月 ホテルグレイスリー新宿
16年夏 旧赤坂プリンスホテル
16年中 星のや東京
19年春 ホテルオークラ東京リニューアル
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虎の門ヒルズに入居しているアンダーズ東京は昨年4月に開業

一般に外資系ラグジュアリーチェーンは、ホテル物件を所有せず、運営に特化する経営スタイルや、都心の再開発地区の超高層複合ビルの上層階に入居していること、そして客室数を極力絞り込んでいることが特徴です。アマン東京は84室、アンダーズ東京は164室。客室数だけみれば一般のビジネスホテル並みです。

ところで、外資系ラグジュアリーホテルなんて格差社会の象徴、自分には関係ない話と思ってしまうところがないとはいえませんが、ふとこんなことも思います。

いま起きていることは、時代の先祖返りなのではないだろうか。

前回の東京五輪(1964年)が開催された昭和のある時期まで、外資に限らず日本のホテルは一般庶民が足を踏み入れることのない世界でした。だって、当時の庶民は「駅前旅館」を利用していたのです。ビジネスホテルだって生まれてなかったのですから。

その後、かつて高嶺の花だったホテルで供されたサービスや食が大衆化され、特に1970年代以降、日本の社会に普及していきます。帝国ホテルで昭和30年代に始まったバイキングなんてのもそのひとつです。

こうした大衆化こそ、いまアジア客の“爆買い”の対象となっている日本の衣食住に関わるさまざまな消費財やサービスが生まれた原点だったといえるのではないか。昭和の時代の“ラグジュアリー”施設の代表だったホテルで提供されたコンテンツとその発展形が、今日多くのアジア客をひきつけるベースとなっているのだと思うのです。

これから東京にはどんな新しいホテルシーンが生まれていくのでしょう。かつてと同様、外資系ラグジュアリーホテルには、未来を先取りする役割を果たしてくれることを期待したいものです。

はたしていまの日本にそれをかつてのように大衆化させるだけの活力が残されているだろうか、そう否定的に見る向きもあるかもしれません。でも、そこに日本らしさがあると信じたい気がします。

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by sanyo-kansatu | 2015-05-24 10:35 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2014年 06月 01日

85年前にすでに話題となっていた巨大クルーズ客船「コロムバス」号

近年、海外から寄港するクルーズ客船を誘致する動きが全国で広がっていますが、実は昭和の初めごろの日本でも同じことが起きていました。

外客誘致の専門誌「ツーリスト」1930(昭和5)年3月号には、ニューヨーク発の巨大クルーズ客船の来航のニュースが紹介されています。
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「巨船コロムバス」

「大き過ぎて横濱桟橋への繋累が問題となり各方面の心配の種となったコロムバス号がいよいよレーモンド・ホイットコム社主催の観光団を満載して来月二日神戸、四日横浜へ入港する。この汽船は北独逸ロイドに属し、『ヨーロッパ』、『ブレーメン』に次ぐ巨船で、總噸數三萬二千五百噸、長さ七百七十五尺、幅八十五尺で。我國第一の汽船浅間丸に較べ噸數に於いて一萬五千噸、長さに於いて百九十一尺大きい。定員は一、二等各四百名、ツーリスト・キャビン二百名、三等六百五十名計千六百五十名で、外に乗務員七百三十名、總計二千三百八十名となる。

同船は一月廿一日紐育出帆、歐州から地中海かけての主要都市及マニラ、香港、臺灣、支那、朝鮮等を歴訪し内地では四月一日宮島が最初の寄港地となっている。宮島では一行歓迎の為燈篭流しを行ふ豫定である」

いまから約85年前の話です。面白いのは、当時もクルーズ客船が大きすぎるため、横浜港の寄港が危ぶまれたという話です。今年3月、英国のクルーズ船「クイーン・エリザベス号」が横浜港に初寄港する際、高さ55mの横浜ベイブリッジを干潮時にぎりぎりの高さで入港したというニュースが伝えられましたが、当時はベイブリッジこそないものの、日本の桟橋の規格が海外の大型クルーズ客船仕様になっていないため、大変だったという話は、いまもって変わらないことがわかります。

日本各地の港湾の桟橋の規格が小さすぎるため、先ごろの世界の大型クルーズ客船のトレンドに合っていないことから、クルーズ市場において大きくアジアの港湾都市に差を付けられていることはよく指摘されます。

また乗客数1650名、乗務員730名の総計2380名が一度に上陸するという規模は、今日のクルーズ客船とほとんど変わりません。これだけの数の欧米客が一斉に上陸するのは、当時の日本人にとっては、かなりインパクトのある光景だったに違いありません。当時日本を代表する港湾都市であった横浜や神戸はともかく、最初の寄港地となった宮島では、その日どんな光景が見られたのか、想像するだけでも楽しくなります。海の中に屹立する宮島の厳島神社の鳥居は、外国客にとってとても神秘的な光景に映るのでしょうね。いまはそれほどでもないようですが、当時のツーリスト誌を読んでいると、欧米客の厳島神社の人気の高さがうかがわれます。コロムバス号の3番目の寄港地として宮島が選ばれたのは、理由があったと思います。

※戦前期、外国客はどこから入国したか? http://inbound.exblog.jp/22097926/

最後の「宮島では一行歓迎の為燈篭流しを行ふ豫定である」という一文も、日本人の考えるおもてなしというのは、いまも昔も変わらないものだと微笑ましく思えてきます。

※【後編】台湾発クルーズ客船、那覇寄港の1日ドキュメント http://inbound.exblog.jp/20365044/
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by sanyo-kansatu | 2014-06-01 11:19 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 03月 15日

ニッポンの観光地は外客の存在を意識して大正期に近代化された

外国人観光客の増加は、国内の観光地にいろんな影響を与えます。その端緒となったのが、1912年のジャパンツーリストビューローの設立を機に、国として外客誘致を始めたことにありますが、それから5年後。国内外の旅客が著しく増加したことが、「遊覧地に對する提案」(ツーリスト28号(1917年11月))という論考の中で述べられています。

ビューローきっての論客、生野圑六はこんな風に書いています。

「斯く旅客増加の原因は勿論交通機関の発達、商工業の隆盛、国民経済の好況其他種々なる理由に基く事でもあらうが、近来我が國民間に健全なる旅行趣味が著しく普及され来たつた事も其主なる理由の一として挙げなければならぬ。殊に今年の夏の如き登山旺盛熱を極め、富士、日本アルプス、木曽御嶽等の登襻者激増し、之が為め中央線の各列車は登山期中殆ど連日白衣の登山者を以て満たされてあつた。而して如上の旅客を呑吐する新宿飯田町两驛に於ける七八月中乗客は九十二萬五千餘名にも達し、昨年の同期に比し實に十六萬八千名の増加であつた」

この記述から、大正期に入ると、近代交通を利用した登山などのレジャーの大衆化が日本で始まったことがうかがえます。当時の登山者はお遍路みたいに白装束だったのですね。こうしたレジャーブームは内地だけ話ではありませんでした。どういうことでしょう。

「従って是等旅客を吸収する地方遊覧地温泉等に於てもこの夏は未曽有の好景気を示し、相当信用ある旅館の如き悉く満員にして一、二週間前豫約し置くにあらざれば到底其客室も得難き有様であつた。単に其は我が内地ばかりではなく満洲に於ても青島に於ても同様であった。外人避暑客も亦日光箱根鎌倉輕井澤温泉(うんぜん)等に避暑せる以外北海道に或は山陰北陸に涼を趁ふて赴けるもの不尠、我が國に於ける主要遊覧地に就き調査せる所に由れば其夏期滞在外人數は昨年に比し今年は約三割の増加であった」

この時期、日本の周縁に「外地」という植民地空間が広がりつつあり、多くの日本人が海外に足を運び始めました。一方、外国人も全国各地の観光地に繰り出していました。おそらく日本の歴史上、これほど多くの人々が一斉にレジャーに出かけるという光景は初めてのことだったに違いありません。

ところが、こうした盛況にもかかわらず、生野はこう言っています。

「我が國民間に旅行趣味の普及され来つた事、實に斯くの如くであるが、一方是等旅客を歓迎収容す可き遊覧地は現在果たして之に對應する丈の進歩発達をなしたであろうか、はた又設備施設を有するであろうか」

そして、「遊覧地に對する提案」として以下の6つを挙げるのです。

イ)半公半私の案内所又は適当旅客斡旋機関を設くる事
ロ)簡単にして且実用向の案内記を作る事
ハ)簡易図書館を設くる事
ニ)物産陳列館を設くる事
ホ)運動娯楽に関する施設を為すこと
ヘ)戦利品陳列に對する注意

以下、簡単に説明しましょう。

イ)半公半私の案内所又は適当旅客斡旋機関を設くる事

「各遊覧地に案内所を設くる事は先づ第一に必要である。欧米の各遊覧地には大抵案内所があつて該遊覧地竝附近の見物散歩に関するインフォメーションを與ふるは勿論、旅館貸家貸室の斡旋をなし、遊覧地の地図や案内書などを無代で配布している。我が國でも已に道後温泉大原海水浴場其他二三のところでは温泉事務所や旅館組合で夫夫斡旋しているやうであるが、是非之は一般遊覧地にも普及さしたい」

まずは観光案内所の設置。これが外客受入の第一歩というわけです。現在どんな小さな町にもある案内所は、この時期に広まっていったのですね。

ロ)簡単にして且実用向の案内記を作る事

「遊覧客誘致上案内記の必要且有効な事は本誌に於ても屡々繰り返し唱道している次第であるが、猶未だ充分とは謂はれぬ。尤も長崎県温泉(うんぜん)の如き懸賞を以て英文露文案内を発行し、別府箱根の如きも町やホテルで英文案内を発行して遠く海外に迄配布しているが、相当名ある遊覧地で未だ案内記を持たぬ所が澤山ある」

国内の一部先進的な観光地では、すでに英文の観光案内書が用意されていました。生野はその内容についてこんなことを書いています。

「案内記の発行といっても多額の費用を投ずる必要は毫もない。半紙一枚乃至二枚大の洋紙に表面に簡単なスケッチマップでも印刷し裏面に交通状態遊覧箇所旅館車馬料金其他を掲載して置けば事たることである。温泉ならば其泉質温度効能入浴上の心得などを記す可きは謂ふまでもない」

内容は簡単でよいが、旅行者にとって必要な情報に絞り込むべし、とのこと。また配布場所や費用の捻出法など細かい提案をしています。

「而して是等は各旅館又は前述の案内所に供へ置き宿泊者に之を與ふる以外、各主要地の旅館或は停車場に配布して旅客誘致の具と為さば一層効果ある事と信ずる。其費用に関しては旅館組合の出資或は町村費を以て作製する事」

さらに、外客誘致のための具体的な提案もあります。

「差当り東洋在住外人竝露人浴客誘致の為め英露文案内記を発行し関係各方面に配布するなど最も時宜に適した遣り方であらう。若し出来得るならば箱根温泉(うんぜん)別府有馬伊香保等少くも外人浴客を収容し得る設備を有する温泉場が共同して相当出資の上、外国文温泉案内乃至ポスターを発行し、更に進んで海外の新聞雑誌へ浴客歓迎の聯合廣告を出す様な方法を取る迄に奮発して貰ひたい」

ハ)簡易図書館を設くる事

「簡易図書館乃至巡回文庫の設置は遊覧客の為めにもなれば又其町村の為めにもなる」「場所は特殊の建物を有せざる遊覧地に於ては学校の一隅乃至物産陳列館の一部或は倶楽部の一部を利用するも可」

スイスでの視察を通し、欧米のリゾート客たちがホテルのカフェなどで読書する姿を見ていたであろう生野は、観光地に簡易図書館が必要であることを提案しています。そこにどんな本を置けばいいかについてもこう言っています。

「而して緃覧せしむ可き書冊は一般娯楽的のものも必要であるが、主として其土地の地理歴史に関したもの、竝に寫眞帖絵葉書地図等附近遊覧の参考となるものを網羅したい。出来るならば参考室を置き其土地の素封家に依頼し所蔵美術品の出品を乞ふとか或は其土地特有の動植物鉱石類の標本、漁具農具等を陳列するとか温泉地ならば其鉱泉の分析表其他各種統計表を掲出し一見して其土地の状況を知り得る様であれば甚だ興味あり且有益であらうと信じる。出品物にはローマ字若しくは英語を以て簡単な説明を附し外人でも利用し得る様にする事」

ニ)物産陳列館を設くる事

図書館に加え、「其土地竝附近の特産物を陳列して一般遊覧客の観覧に供する」物産陳列館も設けるべきだとの提案です。その理由はこうです。

「これがあれば客が散歩の序でに見物し、一瞥して其土地の商況を知る事も出来、又容易に土産物の調達も出来る。一方から見れば又之に由て多少地方商業の改良発達を促す事が出来やふと思ふ。又此処に各商店の廣告を美術的に綜合して掲示し置く事なども有利な廣告法であらう。但しこの陳列所の出品物には必ず算用数字で正札を附け置く事」

ホ)運動娯楽に関する施設を為すこと

「遊覧地に於ける旅客の足止め策として遊覧的設備娯楽機関の必要なるは謂ふ迄もない事である。海外の遊覧地に於ては有名な山岳には登山鉄道架空索道の設備があり又湖上には遊覧船を浮かべ、大抵の所にはゴルフ、テニス、ベースボール、クリケット等運動遊戯に関する設備があって長期滞在客と雖毫も倦む事がない」

今日当たり前に存在する観光地の娯楽設備やスポーツ施設などの設置もこの時期に企画されたことがわかります。

ヘ)戦利品陳列に對する注意

最後の提案は、いかにも100年前の日本人の精神状況を物語っているといえるものです。生野はこう書いています。

「我が國は日清日露の二大戦役を経、近くは青島戦に大勝を得た結果、戦利品豊富にして国内至る所に行亘り少しく著名なる神社公園其他公開の場所に於て殆ど其陳列を見ざるなしといふ有様である。是れは我が先輩の武勇を顕彰し、國民に尚武的精神を涵養せしむる上に甚だ有益な事ではあるが、公園遊覧地等に於てはこれあるが為めに屡々其の風致を害し感興を殺ぎ、殊に外人観光客に不快を感ぜしむる事決して尠なくない」

中国遼寧省の旅順への訪問が外国人に開放された2010年、ぼくはその地を取材で訪れたことがあります。日露戦争の激戦区だった旅順は、すでに中国の町となっていましたが、戦前期の旅順に関する資料や地図などを読むと、当時の旅順のあちこちに、乃木将軍に関連する記念碑やさまざまな「戦利品陳列」物が並べられていたことを知りました。同じことは、日本国内でも起きていたのです。たとえばこうです。

「例へば陸中中尊寺の寶庫には古色掬す可き宋代の名畫がアノ有名な一時金輪佛や舎利寶塔と共に澤山陳列されてある。然るに其名畫の下に日露戦役戦利品たる不格好な錆び果てた小銃其他の戦利品が置かれてある為め兎角の名畫も引立たず観覧者の興趣を殺ぐ事甚しい。又鎌倉八幡宮境内の老梅の下に日露戦役記念たる巨砲が据付けられてあるが、アレなども確かに境内の風致を減殺しているものである。嘗て露国の観光団が来朝した時、某陳列館を見物し、偶ま日露戦役記念品を陳列しある一室に至るや、何れも申合わした如く頭痛と称し早々にして立ち去ったといふ話もある」

生野はこの状況に対して、以下のように述べています。

「斯くの如きは彼等に徒に敵愾心を起こさしむるもので国際的倩誼よりするも恰もミリタリズムを標榜するが如くで甚だ穏かならぬ事であると思ふ。殊に最近露国人竝支那人旅客の増加せる折柄一層本問題に對し注意を佛ふ事が肝要である。余の理想を謂へば公園遊覧地等の如き場所より是等戦利品を撤去し第二の國民を養成する学校内の一部に陳列するか或は特に神社の一部の如き場所にでも纏めて陳列する様にしたい」

生野の提案は、当時の日本人がほとんど気づいていなかった外客の目線を意識した具体的な内容でした。今日その多くの提案は実現していますが、我々が学ぶべきは彼の外客に対する細やかなまなざしというべきでしょう。

ニッポンの観光地は、こうして外客の存在を意識して大正期に近代化されていったのです。もし生野が今日生きていたら、我々にもたくさんの注文がつけられるかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2014-03-15 11:02 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 02月 21日

100年前の夏、外国人は日本のどこに滞在していたのか?

いまから100年前の大正2(1913)年の訪日外客数は約2万人でしたが、彼らは日本のどこを訪ね、滞在を楽しんでいたのでしょうか。

当時は国内を数日間で移動できるような鉄道網や自動車道は発達してなかったため、今日のような東京・大阪5泊6日コースのような短期間の周遊旅行はありえませんでした。そのため、多くの外国人客は東京や京都といった大都市以外は、国内各地の温泉地や避暑地、また鎌倉や日光、宮島など主要な観光地の周辺に生まれつつあった外国人経営の洋式ホテルや温泉旅館に滞在していたようです。移動型ではなく、滞在型の旅行形態が一般的だったと思われます。

ツーリスト3号(1913年10月)では、この年の7、8月「避暑地、温泉及び都会等に滞在せる外人旅客数」を国籍別に調査しています。同調査に挙げられた滞在地は以下のとおりです。

東京、横浜、鎌倉、熱海、伊東、修善寺、京都、神戸、宝塚、有馬、宮島、道後、別府、長崎、小浜、温泉(雲仙)、伊香保、草津、日光、中宮祠、湯本、鹽原(塩原)、松島、大沼公園、登別温泉
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なかでも外客数のトップは、日光6256人。次いで鎌倉3368人、京都3008人、東京1738人、中宮祠1593人、横浜1127人、湯本1067人、小浜1039人、神戸878人、雲仙765人と続きます。

調査の結果、この年の7、8月中に日本に滞在していた外国人客数は、24736人でした。国籍別にみると、トップが英国人9225人、次いで米国5992人、支那3001人、ドイツ2866人、フランス1440人、ロシア1044人と続きます。

ただし、この調査において「唯外人滞在数最も多き箱根及び軽井沢の調査未だ判明せざるは、甚だ遺憾とする所也」とあり、これが国内のすべての外国人客を捉えきれていないことも正直に明かされています。

その理由として「されど此種の調査は、事頗る煩累を極め、絶対に正確を期せんこと容易に非ざるべく、殊に外人経営のホテルには宿帳を其筋に提出せざるものもあるとのことなれば、愈々其困難なるを察するに足ると共に、詳細なる回答を送られた警察署に対しては玆に感謝の意を表す」とあるように、当時は外国人経営のホテルも多く、調査が難しかったことがうかがえます。

それをふまえたうえで、同誌は当時の外国人の日本の滞在状況について、こう書いています。

「外人旅客頗る多数なるものの如しと雖も、其大部分は従来より滞在せる外人にして、実際漫遊外客は一小部分なりと推すべき事情あり、若し従来の滞在者と漫遊者とを判然区別し得ば、一層有益なる統計を作り得べしと雖も、暫く如上の統計を以て吾人の参考に資せん」。

確かに、当時すでに在留外国人が多くいたため、国内の避暑地や観光地に滞在する外国人の多くが実は彼らであって、その時期海外から訪れた外客(漫遊外客)の比率はまだ少なかったようです。とはいえ、当時から外国人に国内の温泉地や観光地が人気だったこともよくわかります。
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by sanyo-kansatu | 2014-02-21 08:45 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2014年 02月 19日

100年前(1913年)の訪日外客数は2万人、消費額は1300万円

いまでこそ「インバウンド」ということばや「訪日外国人の旺盛な消費への期待」から外客誘致に対する理解が広まってきましたが、歴史を振り返ると、日本の外客誘致はいまからちょうど100年前に始まっています。

それは、1912年3月に創立されたジャパン・ツーリスト・ビューロー(現在のJTBの前身)の活動によってスタートしました。今日の「観光立国」政策や外客誘致のためのプロモーション活動も、すでに戦前期にひな型があったのです。

では、戦前期の外客誘致とはどんなものだったのか。

それを知るうえで格好の資料となるのが、ジャパン・ツーリスト・ビューローが発行した「ツーリスト」(1913年6月創刊)です。JTBのグループサイトによると、同誌は当時の外国人案内所として国内外に次々と設立されたツーリストビューロー間の連絡を密にし、事業進展を図ることを目的として創刊された隔月刊の機関誌で、1943年まで発行されていました。

JTB100年のあゆみ
http://www.jtbcorp.jp/jp/100th/history/

そもそも100年前のジャパン・ツーリスト・ビューローは、今日の日本を代表する旅行会社のJTBとは創立の目的も実態もかなり異なるものでした。むしろ現在の日本政府観光局(JNTO)に近い存在でした。

「ツーリスト」創刊号(1913年6月刊)の巻頭には、「ジャパン、ツーリスト、ビューロー設立趣旨」なる以下の文章(一部抜粋)が寄せられています。
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「日本郵船会社、南満州鉄道会社、東洋汽船会社、帝国ホテル及我鉄道院の有志聯合の上『ツーリスト、ビューロー』を設立せんことを期し、諸君の御会合を請ひたるに、斯く多数其趣旨を賛成して、御参集を辱ふしたるは、我々発起人一同の感謝とするところである。抑も漫遊外客は、我日本の現状に照らし、各種の方面より大いにこれを勧誘奨励すべきは、今更贅言を要せない次第である、外債の金利支払及出入貿易の近況に対し、正貨出入の均衡を得せしめんが為め、外人の内地消費を多からしむるに努め、又内地の生産品を廣く外人の耳目に触れしめて、我輸出貿易を発達せんが為め、国家経済上の見地より、外国漫遊旅客の発達を促すは、刻下焦眉の急たること申す迄もなく、更に一方により考ふれば、東西交通の利便開け、東西両洋の接触日に頻繁を加ふるの際、我国情を洽く海外に紹介し、遠来の外客を好遇して国交の円満を期すべきは、国民外交上忽にすべからざる要点である。随って外客好遇の問題は、国家の重要なる問題であるが、尚我々交通業者、ホテル業者、外人関係商店等の従事者としては、如上の必要と共に、其業務の営利的感念よりするも、廣く遠来の珍客を好遇することは、一層の急を感ずるのである。然るに目下の状態を以てすれば、未だ我日本の風土事物を世界に紹介するの施設も全たからざれば、又一方に渡来の外客を好遇するの設備も乏しく、余は最近萬国鉄道会議に臨席せんが為め、我政府を代表して瑞西国に遊びたるが、彼国に於ける外客待遇設備の完備せるを見て、大に彼に学ぶこと多きを考へ、又帰朝後朝野各方面の人士よりも、此事業の必要なることを勧誘せらるるあり玆に於いて原総裁とも相談の上、今日諸君へ連名御案内したる在京有志と会合し、我々当業者進んで此任に当るの決心を以て、本会設立を申出たる次第である」。

ここには、今日の外客誘致の必要を提唱する基本的な考え方(「外人の内地消費」「内地の生産品を廣く外人の耳目に触れしめて、我輸出貿易を発達せんが為め」「遠来の外客を好遇して国交の円満を期す」など)とほぼ変わらない内容が書かれています。

さらに、ジャパン・ツーリスト・ビューローの事業として以下の点を挙げています。

「一、漫遊外人に関係ある当業者業務上の改良を図ると共に、相互営業上の連絡利便を増進すること。
 二、外国に我邦の風景事物を紹介し、且つ外人に対して旅行上必要なる各種の報道を与ふるの便を開くこと。
 三、我邦に於ける漫遊外人旅行上の便宜を増進し、且つ関係業者の弊風を矯正すること。
右三項の外、總て外客を我国に誘致し、是等外客に対し諸般の便利を図るため各種の事業を計画実行せんとするの希望である」

現在の日本政府観光局(JNTO)や観光庁がやっていることは、すでに100年前に企画され、実施されていた事業だったのです。

ところで、当時の訪日外客の規模はどのくらいのものだったのでしょうか。同誌の創刊を告げる「発刊之辭」でこう述べられています。

「想ふにツーリスト、ビューローの事業たる、欧米諸国にありては早く業に其必要を認め、今や各国其設備整はざるなしと雖も、本邦にありては其規模誠に小さく、世上一般は之に対して殆ど知るところないものの如し。然れども漫遊外客の来遊するもの年々二萬人内外を有し、其費す金額も一年大略一千三百萬圓を下らずと云ふに至りては、是を国家経済上より見るも亦決して軽々に看過すべからざる事實たらずんばあらず」。

100年前(1913年)の訪日外客数は2万人、消費額は1300万円でした。つまり、2013年に訪日外客数が1000万人を超えたということは、この100年で500倍になったということになります。

これから何回かに分けて「ツーリスト」の約30年の軌跡を追いながら、戦前期の外客誘致の姿について見ていきたいと思います。当時と現在では大きく違うこと(当時の外客は客船で来日。航空機時代を迎えた戦後の輸送量の飛躍的拡大)があるものの、基本的な誘致に対する考え方はそれほど違わないことがわかり、とても興味深いです。そこには、今日から見ても学べる多くの知見があります。

また最初にいってしまうと、1913年に始まった日本の外客誘致の努力に対して、その10年後、20年後を見る限り、戦前期における外客数の大きな増加は、結果として統計的には見られなかったという事実があります。いったいそれはなぜだったのか。これも検討してみようと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-02-19 11:15 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)
2013年 12月 30日

日本滞在おひとり様100万円の富裕層旅行市場

今年3月、日本初の富裕層旅行に特化した商談会「ジャパン・ラグジュアリー・トラベルマーケット(ILTM Japan)」が京都で開催されたことで、海外からの「富裕層旅行市場」がひそかに注目されています。

※関連記事
京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催
http://inbound.exblog.jp/21590385/
ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー報告
http://inbound.exblog.jp/21681992/

では、「富裕層旅行市場」というのはどんな世界なのか。日本の旅行最大手であるJTBでは、ブティックJTBという富裕層旅行に特化したセクションを設け、市場の取り込みを進めています。以下、今月中旬に刊行された産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」に掲載した同室長へのインタビュー記事を採録します。
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日本の旅行業は長い間、パッケージツアーというマスツーリズムを前提にしたビジネスモデルに依存してきた。だが、旅行市場を取り巻く環境が変わり、グローバル化するなかで商品・チャネルが多様化し、富裕層市場も注目されている。その実態は? JTBグローバルマーケティング&トラベルの「ブティックJTB」室長、遠藤由理子さんに富裕層ビジネスの仕事の中身をうかがった。

富裕層マーケットは地上費100万円の顧客

訪日旅行事業のプロフェッショナルカンパニーとして知られる同社に、海外の富裕層向けブランド「ブティックJTB」事業が社内プロジェクトとして立ち上がったのが2007年。それまで国・地域別に訪日客に対応していた同社では、富裕層というセグメントを分ける認識はなかった。だが、同年12月にフランス・カンヌで開かれた「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット(ILTM2007 )」に出展。「海外には富裕層だけを専門に扱う業態があることを知り、日本を売る我々もその市場に正対した組織体制でやっていくべきと判断。08 年にグループとして発足した」と遠藤さんはいう。

では、富裕層とはどんなマーケットなのか? 

「明確な定義はないのですが、我々が目指す顧客像は、航空機を除く日本滞在の費用(地上費)として100万円くらい落とすお客様と定義しています。10日間の滞在で、1日おひとり様10万円程度使う計算です。その内訳は、宿泊は5つ星級ホテルで1泊5万円が相場。車とガイドを1日プライベートで手配すると10万円。さらに、食事や体験プランで5万円。おふたりでトータル20万円になります。ここでいう食事や体験とは、一般的なツーリスティックな内容ではなく、特別なプランになります」。

自分だけしか体験できない“本物”の旅

世界の富裕層は日本に何を求めているのだろうか? 

「国によって、お客様によって求めるものが違います。アメリカのお客様は比較的インテリの方が多く、リゾートには飽き飽きしているといいます。だから体験プランの場合も、一般に茶道や着付け、料理体験などが人気ですが、通常のパッケージコースに組み込まれるような場所でやるのは面白くないということで、たとえば、ミシュランの2つ星を取っているシェフのサロンを訪ね、個人レッスンを受けていただく。京都のお寺の一般公開の終わった後、VIPルームで住職さんから寺の歴史を説明していただき、本堂をご案内。篠笛と尺八の演奏と庭園を見ながら、茶会席のお食事をしていただく。日本の伝統芸能のバックステージを理解していただくために、歌舞伎役者の方にお願いして、お化粧や着付けのシーンを見せていただき、最後に簡単な演目を演じていただく。もちろん、そのお客様のためだけに、です」。

彼らが求めているのは、自分だけしか体験できないこと。「あなただけのための旅行をつくりました」というオーダーメイドのプランである。

だからといって、すべてが綿密につくり込まれたプランでなければならないというわけではない。たとえば、最近全米でヒットした映画『二郎は鮨の夢を見る』を観たアメリカ人から「すきやばし次郎に行きたいが、ブッキングはできるか?」といった問い合わせがくるそうだ。ミシュランの3つ星が付いたお寿司屋の主人の物語。飛行機に乗ってでも、それだけを食べに行きたいという。

14室のスィートしかない豪華列車、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」も話題である。鉄道旅行は海外でも人気が高く、今後の海外富裕層の動向が注目される。石川県にあるかよう亭という温泉旅館は、わずか10室の宿だが、ご主人が外国人客を近所の焼き物の工房や合鴨農法の農家に案内するなど心のこもった接遇をすることから、送客すると必ず「パーフェクト!」といわれるそうだ。

重要なのは“本物”であること。ストーリー性があることが大切で、なぜそれが素晴らしいかという物語=ヒストリーがあるものでなければ、彼らは納得しない。 
   

「難しいのは、どんなスペシャルな提案をしても、そのお客様の心に刺さらないと意味がないこと。また中国では万里の長城でパーティができるじゃないか。ドイツでは古城でできるのに、なぜ日本ではできないのかと、他国と比較されることもしばしば」。

公平を重んじる日本の社会は、VIPに対する特別な接待の提供が難しい面も多く、対応してくれるコネクションとの関係構築を日々進めているという。 

海外のバイヤーとのネットワークが不可欠

日本に富裕層を呼び込むためには、海外の富裕層専門のバイヤーとのネットワークが不可欠だ。北米や中南米、オセアニアの富裕層バイヤーを束ねるエージェント組織「VIRTUOSO」の関係者との商談会のため、先日遠藤さんはラスベガスを訪ねた。そこは、ひとりでも多くのバイヤーに会い、その場で顔を売っていくことでビジネスを広げていく世界だ。

「日本の旅行会社は規模が大きく安心安全なイメージがありますが、富裕層マーケットの場合、海外のバイヤーは個人で年間10名程度のお客様を扱うような世界。その代わり、一人ひとりのお客様とは友人のような親密な関係になる。だから、誰に頼むのか、顔が大事になる。組織はむしろ小さくて、あなただけのためにやりますよ、というのでなければ、仕事は来ないのです」

それは、これまでのマスツーリズムに注力することで成長してきた日本の旅行業のビジネスモデルとは、ある意味真逆の世界といえるかもしれない。

遠藤さんは「ブティックJTB」の目指すべきビジョンとして次のように語る。

「世界の富裕層が求める本物の和を伝えるプロフェッショナルとして、世界と日本の心を結び、訪日インバウンド富裕層事業の牽引役として日本ブランド価値向上とインバウンドビジネスの活性化に貢献する」。

残念ながら世界の富裕層市場での日本の認知度はまだ低い。もっとアピールすべきだし、伸びしろもあるはずだ。富裕層マーケットは、取り扱い人数は少なくても、世界の旅行業界に与える影響は大きい。世界の旅行シーンに新しいトレンドをつくり出すのは、実は富裕層なのだ。日本のブランド価値向上のため、「ブティックJTB」に与えられたミッションは大きいのである。

遠藤由理子(えんどう・ゆりこ)
1986年日本交通公社(現JTB )入社。2000年、国際旅行事業部。04年からエージェンシー営業部で米国マーケットを担当。08年よりJTBグローバルマーケティング&トラベルで「ブティックJTB」室長として現在にいたる。「富裕層ビジネスは、日本の価値の伝道師であるという気概を持つことが大事です」

※産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」p74~P77より抜粋http://sangakusha.jp/ISBN978-4-7825-3376-5.html
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by sanyo-kansatu | 2013-12-30 09:18 | “参与観察”日誌 | Comments(0)