ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 11月 10日

香港、台湾に続き韓国も。中国政府が訪韓中国人観光客を20%減らすよう通達を出したそうです

昨日、中国黒龍江省から訪れた友人の旅行関係者に会ったのですが、突然こんなことを言い出しました。

「韓国はこれから大変ですね」
「朴大統領の支持率が急落し、デモが起きていること?」
「それもそうですが、11月上旬に政府から訪韓中国人観光客を20%減らすよう通達があったからです」。
「ハルビンからも多くの観光客が韓国に行っているんですか?」
「ええ、そうです。日本に行くより多いです」
「ハルビン・ソウル線も多いのですか」
「はい。でも、こうなると、減便になるかもしれません」

この話は、すでに韓国メディアで報じられていました。

中国政府「韓国に行く中国人観光客20%減らせ…ショッピングも1日1回だけ」(中央日報/中央日報日本語版2016年10月25日)
http://japanese.joins.com/article/987/221987.html

一部を抜粋します。

「中国政府が韓国を訪問する中国人観光客数を昨年より20%以上減らせという指針を各省の一線の旅行会社に出したことが確認された。

在中大使館および各地域総領事館・旅行業界によると、先週、上海・江蘇・浙江・安徽・陝西など現地政府が管轄地域内の旅行会社の幹部を招集したり電話をかけたりしてこうした内容を口頭で伝えた。通知内容の中には▼韓国に送る旅行客を減少させる方法と対策を今月末までに報告▼格安団体観光の販促中止▼韓国現地ショッピングは一日1回に制限▼これを犯した場合は30万中国元(約450万円)の罰金--などの内容がある」。

同じ通達が少し遅れて黒龍江省にも発せられたということでしょう。

このようなお上からの民間企業への通達は、中国ではよく行われるものです。今回は、国家旅游局の省の部局が現地旅行関係者を集め、口頭で伝えたようです。中国では自国民の海外旅行者の名簿は旅游局に提出が義務付けられています。ですから、たとえば今年2000名の訪韓客を扱った旅行会社は来年は上限1600名以上は許可を出さないということです。まったく市場経済とはほど遠い世界ですね。

「なぜいま頃になって急に?」と彼に聞くと、「THAADの影響でしょう」と迷わず答えます。そりゃそうでしょう。中国メディアは連日のように韓国のTHAAD配備決定を批判し続けていたからです。中国の一般国民からすれば、間違いなく報復措置だというのが認識のようです。

それでも、上記記事には「中国当局がなぜこうした決定をしたのかはまだ疑問だ。韓国関連機関・業界は高高度ミサイル防衛(THAAD)体系の韓国配備決定に対する報復措置である可能性と格安観光の弊害を減らすための対策である可能性を分析中だ。ソ・ヨンチュン韓国観光公社北京支社長は「中国当局が今回の決定を出した理由についてはっきりと説明していない。いかなる理由であれ中国人観光客の減少による打撃が懸念される」と話した」とあります。韓国側は、それを報復措置だとは受け取りたくないのでしょうか。現実から目を背けたいのでしょうね。

もっとも、「通知内容には格安旅行に対する規制が含まれている。格安商品はビラやインターネット・SNSを通じた一切の広告活動ができないようにし、これを犯した場合は30万元の罰金を科して行政監視も強化すると警告した。一部の地域は価格基準を2000元(約3万1200円)と明示したりもした」とあるように、土産の売上からコミッションを得て成立させているようなツアーの弊害を根絶することが狙いという説明もあるようです。

しかし、それは受け入れ側の韓国の問題だけでなく、送り出し側の中国の問題でもあるわけで、結果的には訪韓中国人観光客を減らすことにつながることは変わりありません。

これをうけ、韓国メディアは「韓国のホテルと免税店の打撃は避けられない」と言っています。

中国当局、「遊客」の韓国行きを制限...泣き面に蜂の旅行・流通業(MK NEWS2016-10-27)
http://japan.mk.co.kr/view.php?category=30600004&year=2016&idx=5246

表向き、消費者保護を謳いながら、その実、観光を政治の取引に使うやり口は、台湾や香港ですでに見られたものでした。

中国政府は相手が気に入らなければ観光客を減らす― 蔡英文当選後の台湾インバウンド事情
http://inbound.exblog.jp/25941821/

いまのところ、日本への中国人観光客の制限は出ていないようです。黒龍江省の彼からすれば、韓国方面が減る以上、タイや日本への送客は増えるだろうといいます。

もっとも、今回の措置、中国側の表向きのロジックは「格安旅行の弊害を減らすための対策」ということですから、いずれ日本国内の「ブラック免税店」問題などを持ち出す日がくるかもしれません。

日本のブラック免税店が中国客を陥れる!?
http://inbound.exblog.jp/25875503/

今回のような韓国に対する報復につながる通達は、政権上層部から直接出ているというより、中国の場合、各行政機関が政権の意に沿うように自発的に打ち出しているのではないか。政権のおぼえをよくすることは出世につながる。少々訪韓客が減っても、天秤にかければ利は残るという自分都合の発想から出てきたに違いないでしょう。これまでの経緯をみていると、そう思ってしまいます。

でも、こうした中国政府のやり口で影響を受けるのは周辺諸国だけではありません。実際には自国民への不利益をもたらすはずです。なぜなら、中国政府は相手が弱いとみると、容赦なく弱みを突いてくるけれど、そんなことばかりしていては、中国人観光客の受入国は彼らを尊重しようとする意欲を失いかねないからです。「中国人観光客縮小」カード(中央日報)の安易な持ち出しは、周辺諸国から警戒されるだけで、尊敬されることはありません。そんなことに、いつになったら気づくのでしょう。

【追記】
中国政府も、いよいよ日本にも物申してきたようです。北朝鮮に対する防衛のため、THAADの配備を日本が検討し始めたとたん、黙ってはいられないようです。

「慎重な対応を」=日本のTHAAD導入検討で-中国外務省(時事通信2016.11.28)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016112800714
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by sanyo-kansatu | 2016-11-10 16:04 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 10月 22日

ランオペ登録制は一歩前進。ガイドも登録制にできるだろうか

今朝の朝日新聞の一面に以下の記事が掲載されました。

「ランオペ」業者、登録制に 旅行会社に代わってバスなど手配 観光庁方針」(朝日新聞2016年10月22日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12619915.html

観光庁は、旅行業者に代わってツアーバスやガイドの手配などをしている仲介業者の規制に乗り出す方針を決めた。仲介業者は「ランドオペレーター(ランオペ)」と呼ばれ、全国に少なくとも864社あるが、安すぎる運賃でバスを手配したり、不適切なガイドを派遣したりするトラブルが相次いでいた。旅行業法の規制の対象外ログイン前の続きだったが、登録制を導入して指導・監督する。来年の法改正を目指す。

■訪日客、トラブルも

ランオペは、旅行業法で登録されている旅行会社の依頼を受けて、バスやホテル、ガイドを手配する業者。自前の調達能力に乏しい中小の旅行業者にとって、欠かせない存在だ。旅行客と直接契約を交わさないことから、旅行業法の規制の枠外とされてきた。国や自治体への登録も必要なく、観光庁も実態を把握できていなかった。
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今年1月、長野県軽井沢町で15人が死亡したスキーバス事故も、ランオペがツアー会社とバス会社を仲介していた。バス会社は道路運送法に基づき、安全な運行に最低限必要な下限運賃を国に申請している。事故を起こしたバスは、それより安い料金で手配されていたが、規制対象外のため、観光庁はランオペには行政処分を科すことができなかった。

観光庁はランオペの実態を探ろうと6月以降、国内の旅行業者やバス、宿泊業者など約1万社に、ランオペとの取引状況を尋ねた。その結果、少なくとも全国で864社のランオペが営業していることがわかった。そのうち、業務範囲について調査に応じたランオペ223社は、訪日外国人旅行の専業が68社(30・5%)、日本人国内旅行専業が57社(25・6%)、両方が98社(43・9%)だった。

ランオペが絡むトラブルについては、旅行業者812社のうち46業者が「キックバックを前提とした特定の土産店などへの連れ回しへのクレームがあった」と回答。宿泊施設やバスなどの関連事業者186社への問いでは、43社が「直前でのキャンセルがあった」と答え、32社が「バス事業者への最低価格割れ料金での手配があった」、18社が「料金未払いがあった」と回答した。

訪日外国人からは、ランオペが手配したとみられるガイドに対し「酵素や納豆を不当に高い価格で薦められた」「熱心に薬を薦められたが偽物だった」などの苦情が相次いでいた。

2020年に東京五輪・パラリンピックを控え、近年、日本を訪れる外国人観光客が増えている。悪質な業者を野放しにしてツアーの質が落ちれば、好調な誘客に水を差すとの懸念も指摘されていた。

観光庁はランオペを登録制にすることで、不正が起きないように監督、指導していく方針。具体的な監督や指導の手法は固まっていないが、旅行中の安全確保などランオペの責任を明文化し、違反した場合にペナルティーを科すことなどを検討している。年内に取りまとめて、ツアーの質や、バス運行の安全性向上につなげる意向だ。(伊藤嘉孝)


9月下旬には、読売新聞が「ニッポン観光の影」という全6回の連載をしていましたが、メディアがいわゆる「外国客の消費力による経済効果」ばかりを報じていた去年までと違い、訪日外国人旅行者の増加にともなう負の側面を伝えるようになったことを歓迎したいと思います。

この記事では、「旅行業者に代わってツアーバスやガイドの手配などをしている仲介業者」である「ランドオペレーター(ランオペ)」が全国に少なくとも864社あることを観光庁が調査し、今後は「登録制を導入して指導・監督」すると報じています。

ランドオペレーターは「旅行業法で登録されている旅行会社の依頼を受けて、バスやホテル、ガイドを手配する業者」であり、「旅行客と直接契約を交わさないことから、旅行業法の規制の枠外とされてきた」とあります。

これはどういうことかというと、訪日ツアーの場合、ここでいう「旅行会社」は海外の旅行会社のことで、彼らが集客した海外のお客さんの日本国内の旅行手配業務をランドオペレーターが請け負うことになるわけです。そのため、ランドオペレーターはお客さんとは直接契約を交わしていないことから、消費者保護をうたう旅行業法には抵触しない存在だったということです。これまで観光庁は、海外のお客さんの消費者保護については、彼らが契約を交わした海外の旅行会社の責任で、ランドオペレーターの業務を管理監督する立場にはないという(少々言いすぎかもしれませんけれど)のが言い分でした。

しかし、今年1月に軽井沢で起きたスキーツアーバス事故(これは海外の旅行会社は無関係)などが再発したことや本ブログでも扱った「日本のブラック免税店」とランドオペレーターの関係などが明るみに出たことから、「観光庁はランオペを登録制にすることで、不正が起きないように監督、指導していく方針」となったようです。

日本のブラック免税店が中国客を陥れる!?
http://inbound.exblog.jp/25875503/
「中国客を陥れる日本のブラック免税店」の隠れた舞台裏(日経BPネット2016.07.13)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/071200017/

記事では全国にランドオペレーターが「864社」あったと書かれていますが、実際のところ、これを調べるのは大変なことだったと想像します。でも、海外の旅行客に直接サービスを提供する存在であるランドオペレーターが誰だかよくわからなかったというのは、考えてみれば、困ったことでした。

これで一歩前進。ただし、この先もっと大変なことが待ち構えています。ランドオペレーターから仕事を請け負うツアーのガイドとは誰なのか。その実態を調べていくことが次の段階でしょう。つまり、ランオペの次は、ガイドの登録制に向けた取り組みです。

ランオペ経由で調べていくことになるのでしょうが、これは簡単なこととは思えません。しかし、これをやらないと、観光ビザで来日し、滞在有効日数内にガイド業務を繰り返し、そのまま所得申告もしないで帰国する外国籍のガイド、いわゆる「スルーガイド」問題の解決には至りません。

もっとも、それをどこまでやるかのさじ加減も問われるところがありそうです。現在のアジアの多くの国々から訪れる団体ツアーのビジネスモデルの根幹に関わることだからです。
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by sanyo-kansatu | 2016-10-22 09:28 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 05月 26日

HISが都内各地で訪日外客向けエンタメツアーを収集・開発・販売しています

原宿竹下通りは、いまや外国人のための撮影スポットのひとつになっているようです。
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原宿竹下通りは外国人の撮影スポットとなっていた
http://inbound.exblog.jp/25703031/

その入り口に向かって左側の道沿いに、HISの外国人向けインフォメーションセンターがあります。昨年8月31日にオープンしたそうです。
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あまり目立たない感じのスポットなのですが、所内には外国客を対応するカウンターや都内の観光スポットのチラシなどが置かれています。
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両替機もあります。
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実は、HISの外国人向け観光案内所は、同社の営業所内のものも含めると、すでに都内11ヵ所にあるそうです。
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独立した案内所は、渋谷や新宿、新宿3丁目、銀座、有楽町、上野、秋葉原にあるようです(六本木、品川、池袋は営業所内にある)。

エイチ・アイ・エス関東インバウンド推進グループの池村あずささんによると、原宿の観光案内所では、18言語に対応できるスタッフを揃えているそうです(常に全員常駐ではない)。いま同所が最も力を入れているのは、外国客向けの都内のアクティビティ(観光素材)の収集・開発・販売だそうです。

ここを訪れた外国人にHISが収集した都内のオプショナルツアーを紹介し、予約を入れてもらうためです。もちろん、ネットでも予約できます。

詳しい中身は、hisgoJAPANの「Tokyo Activity」をクリックすると、現在71種類のツアーが用意されていることがわかります。
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hisgoJAPAN
http://www.hisgo.com/n1/Contents/

そのうち、人気のあるツアーはチラシになっていました。左上にあるのが、本ブログでこれまで紹介してきた夢乃屋のサムライ体験ツアーです。

TBSテレビの「あさチャン」でも紹介されたサムライ体験ツアー(by夢乃屋)
http://inbound.exblog.jp/25840817/
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ほかにも「ラーメンづくり体験」や「お茶」「寿司にぎり」体験、相撲部屋見学、そしてうさぎやふくろうのカフェなどもあります。人気のロボットレストランやサムライミュージアムの予約もしてくれます。

池村さんによると、今後もどんどんこの種の体験ツアーを増やしていきたいそうです。夢乃屋もHISのおかげで認知度を獲得したといいます。

これまで都内には、日本政府観光局や都が運営する外国人観光案内所は、空港や都庁、東京駅くらいにしかありませんでした。しかし、訪日客が増えたことで商機と見たHISは、都内に独立した案内所を設置し、国内の旅行手配はもちろんのこと、体験モノを中心にしたエンタメ施設&ツアーの紹介および予約手配を行うようになったのです。

興味深いことに、これまで本ブログで紹介してきた都内のインバウンド体験スポットの数々(サムライミュージアム、夢乃屋、どすこい相撲茶屋、ふくろうカフェなど)は、すべて2015年にオープンしています。昨年は、訪日外客が爆発的に増えた年です。これらの動きを進めているのは、みな若い人たちで、彼らが一斉に訪日外国客向けエンタメ事業を始めたことは、いかにも時代を感じます。

トリップアドバイザーで人気のサムライミュージアムとふくろうカフェを覗いてみた
http://inbound.exblog.jp/25702798/

これからどんな新種のエンタメ施設が生まれるか、楽しみです。
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by sanyo-kansatu | 2016-05-26 16:36 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2016年 02月 29日

「重慶・東京5400円から」「日本旅行5泊6日6万3000円」~重慶、成都の街角にて

2月中旬、重慶と四川省の成都を訪ねたのですが、街でさまざまな日本旅行の情報を見かけました。

いま中国の内陸都市から日本に向かう航空路線が急増しています。重慶や成都でも、日本旅行が少しずつブームになり始めています。

東アジア航空網に新時代、訪日客増大の本当の理由は地方路線の大拡充
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/022600007/

街角で見かけた日本旅行の募集告知や案内版を紹介しましょう。

まず訪ねてみたのが、スプリングジャパンの就航で成田との直行便が実現した春秋国際旅行社です。
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春秋国際旅行社重慶支店
渝中区民生路268号
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旅行店舗の表に春秋航空の日本線が書かれています。

重慶=東京(火木土日) 5時間
重慶=大阪(月水度) 4時間
春秋航空 www.ch.com

そして、スプリングジャパンの就航で実現した「重慶・東京299元(5400円)より」が目を引きます。
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店舗に入ると、春節休暇も終わったばかりだというのに、けっこうにぎわっていました。やはり、日本旅行が一番人気のようです。ためしに客を装って、日本線やツアーの料金を尋ねてみたところ、2月18日発の重慶・成田便の片道は980元(1万8000円)、26日初の東京・大阪6泊7日のツアーが3500元(6万3000円)でした。
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これでわかるように、スプリングジャパンの片道299元(5400円)というのは最安値であって、通常は片道2万円相当のようです。春秋航空の茨城・上海線でも同様で、同社はよくキャンペーン料金を出すものの、時期と席数は限定です。だとしても、個人観光ビザを取得して、うまく日程を調整すれば、重慶の人たちも片道5000円相当で日本に来られるというわけです。

春秋国際旅行社では、今年も福岡など九州を訪れるクルーズ商品も販売しています。重慶市民の場合は、まず上海まで飛んで、そこからクルーズ船に乗船します。
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重慶に来て気がついたことがあります。中国の一定の所得層の人たちは、東シナ海のクルーズツアーの前段階として、重慶発の三峡クルーズを経験済みだろうということです。三峡クルーズもたいてい3泊4日から4泊5日ですから、東シナ海クルーズと日程的にも同じです。彼らはカジュアルなクルーズに慣れているといっていいでしょう。
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それにしても、これまで何度も指摘してきましたが、「日本旅行5泊6日3500元(6万3000円)」というのは呆れてしまいます。

実は、成都でも同じでした。街場の小さな旅行会社の店舗にこんな貼り紙があったからです。
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すべては免税店での“爆買い”を前提として成立させている、きわどい商品です。

もっとも、新しい動きも見つけました。重慶で最もにぎやかな繁華街の解放碑地区で見かけた電光掲示板です。

これはシンガポール旅行の案内です。
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次が、日本旅行。しかも、「日本自由行」。つまり、個人観光ビザ取得者だけが可能な自由旅行の意味です。
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興味深いことに、ずいぶん細かく料金が表示されています。個人旅行の場合、個々の手配を自分でしなければならないからです。

机票(エアチケット)2700元より
4星酒店(4つ星ホテル)400元より
JR交通卡(JRパス?※これがどのパスを指すのか不明)65元
WIFI 18元/天
本州机场接送机(空港からの送迎・片道)600元/趟

新亜国際旅行社
http://www.cqxygl.com
※同社のHPをみると、重慶発の日本ツアーがいくらくらいで売り出されているかわかります。またエアチケットの値段(2700元より)からすると、春秋航空ではなく中国南方航空利用のようです。春秋航空を利用できれば、もっと安くうたえるわけですが、春秋国際旅行社の独壇場なのでしょう。

中国の内陸都市発の訪日旅行市場がいま、どのようになっているのか。これら街場の広告はそれを理解するうえで手がかりになりそうです。
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by sanyo-kansatu | 2016-02-29 15:50 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 11月 27日

「爆買い」はいつまで続くのか? 500万人市場になった中国インバウンド大盛況の舞台裏

10月下旬、成田発鄭州行き中国南方航空の機内は、日本旅行を終えて帰国の途に就く中国人団体客であふれていた。

同航空が中国内陸部に位置する河南省の省都・鄭州と成田を結ぶ定期便を就航させたのは今年8月下旬のことだ。同機に搭乗していた山西省出身の公務員、李輝さん(31)は5泊6日の日本ツアーをこう振り返る。

「初めての日本の印象は、街が清潔で社会の秩序が安定していること。なかでも東京で訪ねた書店の静かで落ち着いた雰囲気が気に入った」。

同行した夫人や親戚の子連れの夫婦らは買い物三昧の日々だったと李さんは苦笑する。次回の訪日ではひとりで自由に街を歩いてみたいと話す。鄭州空港に着くと、自家用車で3時間かけて自宅のある太原に向かうという。
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河南省中国国際旅行社の東京・大阪ゴールデンルート5泊6日ツアーのチラシ

鄭州市出身の元運転手、丁守現さん(70)夫婦も初めての日本旅行だった。「去年タイに行ったが、日本にも行ってみたかった。日本語がわからず、スケジュール表を見ても自分がどこにいるのかわからない。グループについていくだけだったが、楽しかった」と笑う。

今回のツアーは旅行会社に勤める娘が手配し、代金も出してくれた。東京・大阪ゴールデンルート5泊6日で3500元(7万円)という。

内陸都市が訪日客を送り出す

日本政府観光局(JNTO)の最新リリースによると、2015 年1~10 月の訪日外国人数(推計値)は1631 万人。なかでも中国本土客は前年比2倍増の428万3700人。年間で500万人規模の市場になることが見込まれている。

中国客激増の背景に成田・鄭州便のような内陸都市と日本を結ぶ定期便の大幅な拡充がある。中国からの定期路線が国内最多となる関西国際空港では、11月現在、約40都市からの定期便がある。日本ではそれほど知名度のない江蘇省の塩城や貴州省の貴陽などの地方都市からの定期便が増えていることも今年の大きな変化だ。
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関西国際空港に就航する東アジア路線マップ(関西国際空港のHPより)
http://www.kansai-airport.or.jp/flight/flight_nw/swf/index.html

河南省中国国際旅行社の張東昇日本部部長は「河南省からの訪日旅行は今年始まったばかり。いまは団体旅行が大半だが、日本との直行便ができて今後拡大するだろう」という。

JETROによると、河南省の人口は9406万人で、2014年の省内GDPは3兆4939億元(約70兆円)。台湾やタイなどアセアン諸国をすでに上回っている。1人当たりのGDPも1万ドル前後と中進国の水準だ。
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鄭州の新都心「CBD区」では人工湖の周辺に高層建築が立ち並ぶ

省都の鄭州では新都心の建設もほぼ完成している。今日、中国の主な地方都市に見られる光景は、ちょうど10年前の上海のようだといっていいかもしれない。内陸都市も訪日客を送り出せるだけの経済発展を達成しているのだ。これは今年の中国インバウンドを語るうえでのひとつの大きなトピックである。

「ニッポンヤスイネ(日本便宜)」の時代

さらによく知られたトピックは中国客による「爆買い」だろう。11月上旬、今年の流行語大賞に「爆買い」がノミネートされたが、観光庁の試算によると、2015年7~9月の訪日中国客の旅行消費額は4660億円と全体の半分近く(46.6%)を占め、1人当たりの平均消費額も28万788円とトップ。データからも「爆買い」ぶりが裏付けられている。

中国客激増の背景には、言うまでもなく円安がある。だが、その結果、日中の物価が逆転したことが大きい。

今日の中国都市部に住む一般市民の物価感覚を知るには、たとえば、彼らが朝の通勤タイムに手にしているスターバックスのカフェラテが27元(540円)だといえばわかりやすいかもしれない。これは日本の2倍近い感覚だ。

以下は、上海の観光施設の入場料を東京の類似した施設と比べた例だ。すべて東京より上海が高いことがわかる。

上海動物園 800円(40元)―上野動物園 600円
上海水族館 3200円(160元)―すみだ水族館 2050円
東宝明珠塔 3200円(160元)―東京タワー 1600円
環球金融中心(通称「上海ヒルズ」)展望台 3600円(180元)―東京スカイツリー 3090円(2060円(展望デッキ当日入場券)+1030円(展望回廊))
※すべて大人一般料金(2015年11月現在)。

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環球金融中心(通称「上海ヒルズ」)から眺める上海の夜景

個別に比べると交通運賃など日本のほうが高い例もあるが、大きな階層格差が存在する中国社会で、日本に旅行できるだけの経済力を有する特定の層は、日本よりコスト高の消費生活を送っているのである。だから、彼らにしてみれば、日本は何でも安い国だと感じられる。この機に日本に行かない手はない。そう考えるのは無理もないのだ。中国語が少しわかれば、全国のショッピングモールを訪れた中国客が口々に「ニッポンヤスイネ(日本便宜)」と声を上げる姿を見かけるだろう。

クルーズ激増で東シナ海がレジャーの海に

6月下旬、博多港に上海発の米国クルーズ会社ロイヤルカリビアンが運航する世界で2番目の大きさを誇る豪華客船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が初入港した。同客船は昨年11月にカリブ海でデビューしたばかりだが、世界最速で急拡大するクルーズ市場となった中国に今年から投入されたものだ。

福岡市によると、同船の乗客数は約4450名(中国 約4150名、台湾 約50名 アメリカ 約50名、その他 200名)。過去日本に寄港したクルーズ客船の中で最大規模(総トン数、乗客数)だ。この日、乗務員を含めて約5000人が博多に上陸した。

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カジノやプールもあるクァンタム・オブ・ザ・シーズの船内

中国発クルーズ客船の博多港初寄航は2007年。主な出航地は上海と天津で、今年は264回(11月1日現在 中国発以外も含む)の予定だ。上半期に韓国でMERSが発生した影響で増えたせいもあるが、昨年の115回に対して一気に倍増した。年間で約50万人の中国クルーズ客が上陸することになる。

博多港におけるクルーズ客船寄航回数の昨年までの推移(福岡市クルーズ課より)

2009 外航28 内航14 計42
2010 外航63 内航21 計84
2011 外航32 内航23 計55
2012 外航91 内航21 計112
2013 外航22 内航16 計38
2014 外航99 内航16 計115

いまや福岡市は中国発東シナ海クルーズラッシュの主要な舞台である。ではなぜ中国ではクルーズ旅行がこんなに人気なのか。その理由を中国旅行社総社(上海)日本部担当の武暁丹氏はこう説明する。

①4泊5日の標準的なクルーズ料金が空路のツアーより安い。
②船内の食事や遊興施設の利用は無料で、家族でのんびり過ごせる。
③買い物による持ち込みが無制限なこと。

これらの指摘は、血縁を大切にし、経済合理性に富み、買い物好き、ギャンブル好きという中国人の特性に驚くほどマッチしている。上海で訪日旅行のコンサルティングを行う上海翼欣旅游咨询有限公司の袁承杰総経理も「クルーズ客のメインは80后(1980年代生まれ)。彼らの多くは30代になり、結婚し、子供ができた。クルーズ旅行は航空旅行のような移動も少なく、船内で家族が一緒に過ごせるので、3世代旅行にぴったり。ハネムーナーにも人気」と世代動向から理由を分析する。

現地クルーズ関係者によると、来年も新規投入する大型客船が予定されていて、この勢いは続くという。いまや東シナ海は中国人にとってのレジャーの海になったといえるだろう。

ビザ緩和が日本旅行ブームに火をつけた

中国インバウンド大盛況の舞台裏を考えるうえで、日本のビザ緩和策も重要だ。今年中国客が激増した理由について、日本政府観光局(JNTO)上海事務所の山田泰史副所長は以下の3つの点を指摘する。

①円安の定着
②中国からの航空路線の拡充とクルーズ客船寄港の増加
③中国人に対する観光ビザ発給要件の緩和

このうち①と②についてはすでに触れたが、実は大きく市場を動かしたのが③「中国人に対する観光ビザ発給要件の緩和」なのだ。

今回の措置が運用されたのは今年の春節前の1月19日から。ポイントは「一定の経済力を有する過去3年以内に日本への短期滞在での渡航歴がある者とその家族」に対する個人観光数次ビザの発給要件の緩和である。要は、ここでいう「一定の経済力」の指す年収基準が下げられたのだが、これに本人を伴わない家族のみでの渡航も認めたことで、上海や北京などの沿海都市部に住む富裕層のみならず中間層まで含む日本への渡航が容易になった。

国土の広大な中国では、各地域の経済発展状況に準じ、8ヵ所ある日本総領事館の担当エリアごとにそれぞれ適用基準が異なっている。これまで日本政府は中国人に対する観光ビザの発給要件の緩和を小出しに進めてきたが、一定期間内にビザなしで何度でも入国できる今回の数次ビザの緩和が中国側に与えた心理的な影響は大きかったようだ。

今回の措置の発表は昨年11月8日に行われたが、その反響はすでに成熟市場となっていた沿海都市部だけでなく、訪日旅行市場が十分に形成されていなかった地方都市にも広がった。ビザ緩和で日本旅行へのハードルが下がるとの情報は中国国内に広まり、ブームに火がついた。昨年末の時点で中国の旅行関係者は「これで訪日旅行の次のステップが始まる」と期待を込めたという。2015年が日本旅行の飛躍の年になることは、中国側では早い時期から予測されていたのだ。それゆえ、精力的に航空路線を拡充し、クルーズ客船の大量投入を進めたのである。

訪日中国客には2つの異なる顔がある

訪日中国旅行市場が拡大し、多様化するなか、中国客には2つの異なる顔があることをあらためて確認する必要がある。特に近年登場してきた個人客の動向は注目だ。

9月下旬、上海発茨城行き春秋航空に搭乗していた米国系IT企業に勤める李淑雲さん(28)は、同僚の女性とふたりで国慶節休暇を使った初めての日本旅行を計画していた。ふたりはオンライン旅行社で航空便やホテルを手配し、今夏開業したばかりの二子多摩川エクセル東急ホテルに宿泊した。日本でのスケジュールを事前にほとんど決めておらず、『孤独星球 东京到京都』(世界的なガイドブックシリーズ『Lonely Planet』の中国語版 ゴールデンルート編)を機内で目を通しながら日本滞在中の予定を考えるという。

同機には、AKB48劇場に行きたいと話す20代半ばのいわゆる「オタク(宅男)」6人組の上海人男性グループもいた。上野のビジネスホテルに予約し、1週間東京に滞在するそうだ。

彼らは、スケジュールはすべてガイドにおまかせの団体客とはまったく異なり、目的を持って日本を自由に旅する個人客である。その行動半径やスタイル、旅の動機は、これまでの団体客には見られなかったものだ。中国では「自助游(個人旅行)」という。

中国の書店では、個人客のニーズに合わせた旅行書が流通している。今年2月に出版されたガイドブック『日本自助游』は、全国の交通機関の乗り方を中心に実用情報が載っており、若い個人客が初めて日本をひとり歩きするのに重宝する内容だ。

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中国の個人旅行者向けガイドブック『日本自助游』(人民郵電出版社 )
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同じく『搭地铁 游东京(地下鉄で歩く東京) 』(人民郵電出版社 )

もっとも、彼らの主な情報源はむしろネット上の口コミで、いわゆる旅行「攻略」サイトや微信(We Chat)などのSNSの利用が定着している。彼らがいま日本のどんなことに関心を持っているかについては、以下の「攻略」サイトをチェックしてみると面白いだろう。

穷游(貧乏旅行)
http://place.qyer.com/japan/
去哪儿(どこへ行く?)
http://travel.qunar.com/p-gj300540-riben

訪日客の動向に詳しい一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長は、中国に個人客が出現した背景についてこう語る。

「いま中国の旅行市場で注目すべきは、C-Tripに代表されるオンライン旅行社の勢いだ。同社の関係者によると、訪日市場の伸びは前年比で7倍増。上海市場では旅客のすでに半分、北京で30%をオンライン旅行社が占めるという。彼らの多くは個人客なので、個人向けの移動や宿泊、通信サービスなど新しい商機が生まれている」。

中国人の日本旅行が解禁されて15年目に当たる今年、2つの初めてがある。まず中国が国・地域別のランキングでトップになったこと(以下、韓国、台湾、香港、米国が続く)。訪日中国人の数が訪中日本人を逆転するのも、実は初めてだ。

この15年間で中国の海外旅行客は進化した。それをリードするのが上海などの沿海都市部から来る個人客である。一方、いま始まったばかりの内陸都市発の団体客もいる。彼らはいわば10年前の上海人である。中国インバウンドの実態は、こうした異なる2つの層が10年遅れのタイムラグをはらみながら同時に進化していく過程にある。当然受入側も、まったく異なる対応が求められるだろう。

静岡でツアーバス衝突事故発生

大盛況の中国インバウンドだが、この勢いに死角はないのだろうか。

新しく登場した中国の個人客は、日本人の旅行感覚にも近く、その動向に目が向かいがちだが、実際には旧来然とした内陸客の増加もあり、現場ではさまざまな問題が起きている。

今年のGW中、静岡県浜松市で中国客を乗せたツアーバス同士の衝突事故があった。千葉県のバス会社が運行する大型バスが信号待ちしていた別のバスに追突したのだ。28人の中国客が市内の病院に救急搬送されたという。事故の原因はバスの整備不良だった。

観光バス同士、追突 中国人客28人搬送 浜松(静岡新聞2015年4月28日)
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/45509.html

背景には、ここ数年の静岡空港への中国からの新規就航の激増がある。

富士山静岡空港のHPによると、11月現在の中国発静岡線は以下のとおり。地方空港としては国際線が多く、中国だけで12都市13路線。大半が内陸都市からの便である。

中国発静岡線(2015年11月現在)
 
 上海浦東(中国東方航空) 毎日
 杭州(北京首都航空) 月、木、土、日
 合肥(中国東方航空) 水、日
 南京(中国東方航空) 火、土
 南寧(中国南方航空) 月、金(11月は運休)
 寧波(中国東方航空) 火、水、金、日
 石家荘(北京首都航空) 水、土
 天津(天津航空) 火、金、土
 西安(天津航空)土
 温州(中国東方航空) 水
 武漢(中国東方航空) 毎日(11月は運休) 
 武漢(中国南方航空) 月、金
 塩城(北京首都航空) 木、日

中国の内陸都市から来る団体客の大半が東京・大阪ゴールデンルートのツアーに参加しているが、これまでゲートイン・アウトは成田と関空だった。そこに静岡空港が新たに加わったことがわかる。中国の地方都市から日本の地方都市へ直接定期便が飛び始めているのだ。

しかし、昨年本特集レポートで指摘したように、アジアからの団体客の急増で慢性的にツアーバス不足が問題になっている。その状況は改善されるどころか、今年のさらなる市場拡大で悪化していることが推測される。

(やまとごころ特集レポート1回)
バスの不足が国際問題に!~今春、訪日旅行の現場では何が起こっていたのか
http://www.yamatogokoro.jp/report/2014/report_01.html

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中国からの団体客を乗せたツアーバス。都内にて

実は、死傷者も出た2012年の関越高速バス事故もGW中だった。この時期、日本人の移動も多く、貸切バスの需給が逼迫し、運転手も休みが取れないという労働条件の中で、今回のような事故が起きたと考えられる。

追突事故を起こしたバス会社が、後日道路運送法違反で摘発されたことがそれを物語っている。千葉県に営業所を持つバス会社が「営業区域」外の静岡空港でツアー客を乗せたことが問題だったのだ。

中日新聞の取材によると、同社は中国の旅行会社からの依頼を受けて「営業区域」外での運送を常習的に行っていたようだ。逮捕された社長は「違法だとはわかっていても、断るに断れなかった。断ると仕事がなくなる」と話しているという。

「営業区域」問題は、成田や関空などの国際空港周辺に集中している中小貸切バス事業者にとってはいかんともしがたいところがある。そのためAISOなどのインバウンド団体はこれまで国土交通省運輸局に撤廃を求めてきた経緯がある。実際、桜シーズンなどに時限的に撤廃することもあった。しかし、それだけでは問題の根本的な解決に至らないだろう。

いま海外からの人の流れが多様化し、地方へと拡大している。今回のバス事故は、日本のシンボルである富士山のふもとに位置する静岡空港が激増する中国客を一気に呼び込んだことでやむなく起きてしまったといえるだろう。

バス不足と並んでホテルの客室不足も深刻だ。11月上旬、京都市右京区のマンションで中国人観光客向けの「民泊」を無許可で営業した旅行業者が書類送検されている。中国からの観光客約300人を宿泊させた疑いがあるという。

無許可で「民泊」容疑=中国人観光客300人-旅行業者ら2書類送検へ・京都府警(時事通信2015年11月5日)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201511/2015110500008

今年議論を呼んだ外国客の「民泊」とそのマッチングサイトであるAirbnbの運用ルールづくりをめぐる問題も、背景には訪日旅行市場の急激な拡大がある。ホテルの客室不足は、とりわけ団体客の比率の高い中国市場にとって影響は大きい。今後も市場が拡大する見込みの中で、外国客の足と宿という最も基本的なインフラをいかに構築していくか。いまや外国客の誘致ではなく、むしろ受入態勢の整備が喫緊の課題となっているのだ。

数が増えても赤字という現地旅行会社の嘆き

課題は中国側にもある。現地の旅行関係者が口を揃えて挙げるのが、訪日ツアーのショッピングに過度に依存したビジネスモデルである。

これは中国インバウンドの舞台裏の核心的部分といっていい。なぜ鄭州市の老夫婦が参加した5泊6日の日本ツアー(航空運賃、交通費、宿泊費、食事すべて込み)の料金がわずか3500元(7万円)にすぎないのか。それは日本国内でのバスやホテル、ガイドなどにかかる費用が特定の免税店などのショッピング施設からの売上に応じたキックバックで補填されているからだ。

これはクルーズ旅行についても同じである。上海のある旅行会社社員は「今年日本行きのクルーズ市場は急拡大したが、集客を担当した我々旅行会社はほぼすべて赤字だった。運航数の増加でかえってツアー単価が安くなりすぎたせいだ」と嘆く。

上海発日本行きの標準的なクルーズ料金は、昨年4泊5日で約5000元(10万円)だったが、今年は半分以下の2000元代に下がっているという。それだけに、数の勢いとショッピングに依存したツアー構造は持続可能なのかと現地でも危惧されているのだ。

実際、博多港のHPをみると、今年7月1日現在の博多に寄港する年間のクルーズ客船数の予定が286回だったのに、11月1日現在では264回と減少している。当初の見込みどおりクルーズ客の集客ができなかったためだろう。

同じことは航空路線についてもいえると、前述の王一仁AISO会長はいう。「今年すごい勢いで中国からの日本路線が増えて、特に10月以降、羽田路線は1日約20便になると聞いている。はたしてそれだけ増やして席が埋まるのか。ちょっと疑問だ」。

さらに、今夏の中国の株価暴落以降、国内外のメディアから中国経済の減速で海外旅行市場の活況もそんなに長くは続かないのではないかと指摘する声も出てきた。もしそうだとしたら、ショッピングに依存するビジネスモデルにも影響が出るはずだ。訪日中国人ツアーは「爆買い」によるキックバックでコストを補填している以上、購入金額が減少すればこれまでのような安いツアーで募集することはできなくなるからだ。以下のような悪循環が考えられるのである。

「爆買い」減少 →ツアー代金の上昇 →ツアー客の減少(市場の縮小)

来年以降もこの勢いは続くのか

ただし、これまで見てきたように、中国の旅行市場は広大かつまだらで一様ではない。沿海都市部と内陸都市では経済市況も異なり、一概にこうだと決めつけられないのだ。

筆者の個人的な見解では、来年は今年の2倍増のような飛躍的な伸びを続けるのは厳しいものの、中国インバウンドの勢いは続くと考えている。「爆買い」もすぐになくなるとは思えない。いまや中国人の「爆買い」は、単に訪日客のお土産購入シーンに見られるだけのものではなく、中国国内での日本商品のネット販売の領域にまで広がっているからだ。

確かに、多くの論者がいうように、マクロ的にみれば中国経済は減速しているようだが、だからといって年間500万人程度の訪日客数は、総人口からみると0.4%にも満たない規模で、桁違いの人口を有する中国ではたいした数字ではない。何より富の偏りの大きい社会だけに、海外旅行ができる特定の層の比率は周辺国に比べて低くても、それを全土からかき集めるだけでも相当なボリュームになるのだ。

中国には公的統計に捕捉されない膨大なアンダーグラウンド経済(「未観測経済」という)の存在がある。そもそも多くの中国客にとって「爆買い」の原資は、GDPに換算される表向きの収入ではなく、「未観測経済」によるものと考えた方が自然だろう。このように中国の動向を占うには、我々の社会とはあらゆる尺度が違うことを知らねばならない。

さらにいえば、中国経済のバブルが崩壊しても、すぐに海外旅行者数が減るとは思えないのは、日本でもそうだったからだ。バブル崩壊直後の1990年代初頭、日本人の海外旅行者数は約1000万人。その後10年間伸び続け、頭打ちとなったのは2001年の米国同時多発テロの年だった。それ以降は1600万人前後で伸びは止まり、そうこうしているうちに、今年は1970年以降45年ぶりに訪日外国人の数が出国日本人を逆転する。

では、ポストバブル崩壊時代の日本の海外旅行のトレンドは何だったのか。それは「安近短」と呼ばれたアジア方面への市場の拡大だった。これと同様、中国の航空市場をみると、この秋以降、欧州や北米路線が減少する一方、アジア太平洋路線は増加を見せている。

一度バブルの味を知った国民はすぐにはその味を忘れられないものだ。ただし、そう遠くには行けないので近場を目指す。その恰好の旅行先のひとつが日本であることは間違いないなさそうだ。

とはいえ、11月13日に起きたパリ同時多発テロ事件が与えた世界的な衝撃と暗雲のように広がる不安が、新疆ウイグル自治区を抱える中国に今後どう波及するか。さらには、南シナ海における中国の覇権的な動きが周辺国との関係にどんな緊張を強いるかなど、来年の訪日旅行市場にとって気がかりな国際情勢の変調もある。これまで以上に海外の動向を気にかけねばならない年になるだろう。

やまとごころ.jp
http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_19.html
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by sanyo-kansatu | 2015-11-27 02:25 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2015年 10月 08日

ニッポンのインバウンドはここがおかしい!?(後編)AISO王会長、大いに語る

本稿は、9月中旬、インバウンドの裏も表も知り尽くした一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長にお聞きした話の続きです。

株価暴落は中国の訪日旅行市場にどんな影響を与えるか(前編)AISO王会長、大いに語る
http://inbound.exblog.jp/24963833/

王会長は上海生まれの香港育ち。日本でいえば団塊の世代にあたり、1970年代以降は日本に在住する香港人です。頭の回転が速く、そのぶんとりとめもなく話題があっちへこっちへと飛び交うような話をする方です。ですから、毎度話を聞いた後、あらためてその内容を整理する作業が必要です。でも、聞き取りメモを見返しながら、王会長の真意を探るのは、ちょっと楽しい作業でもあります。

そもそも今回中国の株価暴落に見られる経済の減速が訪日旅行市場にどのような影響を与えるか、という点について話を聞きにいったわけですが、誰もが簡単に答えることの難しいこの種の質問に対して、王会長は国内外のさまざまな状況をふまえつつ独自の観点を提供してくれました。さらには、今日大盛況を迎えた訪日旅行市場の現場で起きている問題点を率直に語っています。

インタビューの後半では、この点にしぼって内容を整理しようと思います。主に以下の5つが指摘されています。

①バスは本当に足りないのか?
②タイ人団体ツアーは問題多発中
③関空の入国審査に2時間はひどすぎる!?
④おかしな日本のTax Free
⑤日本の旅行会社の外国人取扱額1.8%は少なすぎるでしょう

それぞれ王会長の話をもとに説明しましょう。

①バスは本当に足りないのか?

近年アジアからの団体観光客の増加で、ランドオペレーターがバスを調達できないために、ツアーの受入をお断りしているケースが増えています。昨年ぼくもやまとごころ.jpの中でこの問題を取材したことがあります。

バスの不足が国際問題に!~今春、訪日旅行の現場では何が起こっていたのか
http://inbound.exblog.jp/22771778/

運輸局からも現場の事情をよく知るAISOに「本当にバスは足りないのか?」といった問い合わせがよくあるそうです。その際、王会長はこう答えることにしているといいます。

「バスが足りないのではない。ドライバーが足りないのです。外国客を乗せるインバウンドバスのドライバーのなり手が少なすぎることが問題なのです」。

王会長がこう話すと、たいてい誰もが「えっ、それどういうこと?」。そう問い返すそうです。

「バス会社や運転手の間で、インバウンドバスの評判が悪すぎるんです。夜遅くまで走らされるとか、運賃をダンピングされて賃金が安すぎるだとか。でも、昨年実施された貸切バスの制度変更は、運転手の労働環境の改善や安全対策を目的としたもので、これらの問題もかなり改善されたはずです。外国客を乗せて走るインバウンドバスの世界はやりがいもあるし、楽しいこともたくさんある。チップもけっこうもらえる。どうかもっと多くの関係者にインバウンドバスに取り組んでいただきたい」。

いまだに業界関係者の間にインバウンドバスに対する偏見や先入観があるのだそうです。外国人を相手にするのが苦手という意識もまだあるでしょう。

王会長はこんな話もします。最近、現場で1日8時間の労働時間を厳守するあまり、道路渋滞やフライトその他の遅延などで夕食の時間が遅くなった場合、当初ホテルまでお客さんを送る予定だったのに、時間が来るとバスは車庫に帰らなければならないため、置き去りにせざるを得ない。添乗員は仕方なく何台ものタクシーにお客さんを振り分け、ホテルまで送るしかなくなる。そういうケースがままあるそうです。

ちょっとひどい話ではないでしょうか。しかし、バス会社に労働時間を管理されている運転手には、やむを得ない事情なのだそうです。もっと現実に即した弾力的なルールが必要ですよね。バス問題は一筋縄ではいかないところがあります。

王会長は言います。「でも実際は、こんなことばかりじゃありません。もっとインバウンドバスの世界を広く知ってもらうようにしないといけない。よくホテルを舞台にしたテレビドラマがあるけれど、インバウンドバスの運転手を主人公にしたドラマを誰かつくってくれないものか」。

もう5年も前のことですが、ぼくはインバウンドバスに乗り込んで運転手にじっくり話を聞いたことがあります。このとき思ったのは、バスの運転手にもいろんなタイプがいて、合う人合わない人いるでしょうが、必ずしもネガティブな話ばかりではないということです。

ツアーバス運転手は見た! 悲しき中国人団体ツアー
http://inbound.exblog.jp/19743507

ただ、ドラマの制作者たちがこの世界の面白さに気づくには、もう少し時間がかかるかなあ…。

②タイ人団体ツアーは問題多発中

これは前述のバス問題につながりますが、タイ人団体ツアーは運転手とのトラブルが多いそうです。

理由はいくつか考えられます。これは以前から指摘されていたことですが、一般にタイ人団体ツアーはスケジュールの変更が多い。タイから来た旅行会社の添乗員がツアー客の声に弱すぎるためで、予約していたレストランや訪問先のキャンセルも多発しがちだというのです。

しかも、添乗員は日本語がそれほど堪能ではない。いまタイ人団体客を連れてくる添乗員は、かつてタイを訪ねた日本人相手にガイドをしていた人たちで、多少は日本語ができたとしても、実際の日本のことはそれほど精通していないといいます。そのため運転手とのコミュニケーションも問題が多いとか。

「タイ語の日本語通訳案内士が全国に何人いるかご存知ですか? 全体(約1万8000人)のうち、わずか0.1%です。これで(今年1~8月ですでに)50万人を超えるタイ人観光客の受入が可能といえるのでしょうか」(王会長)。

タイの訪日市場は、事実上通訳案内士制度不在のまま拡大しているのです。こういう話を聞くと、アセアン諸国のビザ緩和もいいけれど、受入態勢はどうなっているのか。そういう批判がいつ出てきてもおかしくなさそうです。

③関空の入国審査に2時間はひどすぎる!?

インバウンド業界でさらに問題となっているのが、アジア路線が激増している関西国際空港の入国審査の時間がかかりすぎることだそうです。

「平均2時間かかる。せっかく日本に来たのに、こんなに待たされてはたまらない。バスの時間制限も気になるし、入国審査官が足りないのです」(王会長)。

ぼくは以前、羽田空港の入国審査官に事情を聞いたことがあります。もちろん彼らは人員を増やす必要を痛感しており、またお一人おひとりは激務をこなしています。ですから、特定の誰かを責め立てる気にはなれないのですが、この問題ももっと広く知られていい話ですね。

訪日1300万人を達成したものの、気がかりな入国管理の話
http://inbound.exblog.jp/23928048/

④おかしな日本のTax Free

昨年10月日本の免税品枠の拡大が実施され、訪日外国客の購買意欲をかきたてることに成功しているようです。しかし、この制度についても、王会長は違和感がありそうです。

「昨年の免税品枠の拡大で、化粧品や食品など、いわゆる消耗品も免税対象となったのですが、本来帰国後に封を開けることを前提に店で袋閉じしても、お客さんはホテルで袋を開けてしまっている。目の前にお菓子があれば食べちゃうのは仕方がないけれど、ひとりのお客さんが免税枠の5000円分でまとめ買いして、あとでみんなで分けることも公然と行われている。そんなことで目くじら立てることはないかもしれません。でも、日本の、特にインバウンドに関わる制度設計は、すごくいいかげんで場当たり主義に見えてしまう。日本人はある方面では厳格にルールを守ろうとするのに、ある方面では目的と手段が噛み合っておらず、肝心なことが抜け落ちてしまっている。外国人からみると、すごくおかしく思う」。

おっしゃるとおりですね。ただこの問題に関しては、それで誰が被害を被っているのか、日本の納税者だなどと息巻いても仕方がない気がしますし、要はアジア客にたくさん買ってもらいたい、その一心で始めた制度には違いなく、どう改善すればいいのか、もう少し時間を経て考え直してもいいのかもしれません。

少し前まで香港で起きていたように、中国本土客が根こそぎ日用品を買いつくし、市民生活に影響が出るというような事態になれば話は別ですが、さすがにそこまでの話ではないと思うからです。

⑤日本の旅行会社の外国人取扱1.8%は少なすぎるでしょう

最後の指摘は、旅行業界内の問題ですので、あまり多くの方には関係ない話かもしれません。要するに、JTBグループを筆頭とした国内の旅行会社は、訪日外国人マーケットにおいて驚くほど売上が上がっていないという話です。

以下は日本旅行業協会(JATA)の統計です。

主要旅行業者の旅行取扱状況速報 平成26年4月分~平成27年3月分(日本旅行業協会)
https://www.jata-net.or.jp/data/performance/2015/1_26042703.html

海外旅行 2,203,392,889千円(34.3%)前年度比98.4%
外国人旅行 112,515,653千円 (1.8%) 前年度比135.2%
国内旅行 4,103,644,939千円(64.0%)前年度比102.1%
合計 6,419,553,481千円   前年度比101.2%

日本の旅行会社の扱うマーケットは大きく「海外旅行」「外国人旅行」「国内旅行」の3つに分かれるのですが、その取扱額の内訳をみると「外国人旅行」、すなはちインバウンドの比率が全体の1.8%に過ぎないのです。

つまり、日本の既存の旅行会社はこれだけ訪日客が増えているのに、本業であるはずの国内の旅行手配サービスの分野で外国客の取り込みができていないのです。

なぜこんなことになってしまうのか。日本の旅行会社は、中国の団体ツアーに象徴されるような免税店へのキックバックを前提にした薄利多売のビジネスモデルを受け入れることができない。そうでなくてもアジア客が全体の8割近くを占める「外国人旅行」は利益が薄いため、参入できないなど、いろんな理由を指摘するのは簡単ですが、日本の旅行会社のサービスが外国人にとって、現状としては魅力的とは受け取られていないことは認めなければならないでしょう。

AISOのような団体に、従来の旅行業の垣根を越えたさまざまな業界の会員が集まることでインバウンドビジネスの新たな裾野を広げていること。その会長が香港人であることには、理由があるのです。
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さて、これらニッポンのインバウンドの数々の問題点は、王会長が5~6年前からずっと指摘していたことです。「でも、日本はなかなか変わらないことがよくわかった」と半分笑いながらおっしゃいます。

そして、最近の決まり文句はこうです。自ら鼓舞するようにこう語るのです。

「インバウンドは、昔はスキマ産業。リーマンショックがあり、震災があり、尖閣があり、それでもいまや王道となった。このマーケットは絶好のチャンスであることはかわらない。だから、皆さん、制度設計もそうだし、実際の運営もあまり杓子定規にならず、もっとうまく利益を上げることを考えましょう」。

これはランドオペレーターの社長でもある王会長の本音でしょう。

王会長、ぜひまた話をお聞かせください。
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by sanyo-kansatu | 2015-10-08 17:49 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 06月 07日

2015年北朝鮮は観光誘致を積極的に進めています(「共産主義テーマパーク観光」は実現するか?)

今年3月上旬、北朝鮮が唐突に外国人観光客の受け入れを開始して以来、北朝鮮が観光誘致を積極的に(?)進めている様子が報じられています。今年は朝鮮労働党結党70周年でもあり、多くの外国客を呼び込むことは至上命題なのでしょう。
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【速報】北朝鮮 外国人観光客受け入れをようやく再開!!(Daily NK 2015年3月4日)
http://dailynk.jp/archives/36660

その最初の観光目玉として北朝鮮が外国客の集客を働きかけたのが、故金日成主席の誕生記念日「太陽節」に合わせて4月12日に開催される「平壌国際マラソン」の募集でした。

平壌マラソン出場OK、活気を取り戻した丹東、エボラ措置解除に沸く北朝鮮関連ビジネス(Daily NK 2015年3月5日)
http://dailynk.jp/archives/36676

以下のロイターの記事も指摘するように、このところ欧米諸国の北朝鮮観光がちょっとしたブームとなっています。

焦点:北朝鮮観光ブーム、相次ぐ拘束にも米国人旅行者が増加(ロイター2014年6月14日)
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0EP03A20140614

ブームといっても、欧米人の渡航者数は年間数千人規模ですからたいしたことではないのですが、やはり21世紀最後の秘境ともいうべき北朝鮮に一度は訪ねてみたいという欧米人はいるものです。平壌マラソンにも600人の外国人が参加しているのです。

平壌国際マラソン開催 外国人も約600人参加(Daily NK 2015年4月14日)
http://dailynk.jp/archives/39673?krkj=144326

朝鮮側も、観光誘致を進めるための事業に着手し始めているようです。

「ドルを稼ごう」北朝鮮が外国人観光客に咸興を開放 (東亞日報2015年4月6日)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2010040664158

「北朝鮮が、外国人観光客を対象に海水浴場を初めて開放する方針であることが明らかになった。特に、今回北朝鮮が開放を決めた咸興(ハムフン)近くの麻田(マジョン)海水浴場は、近くに金正日(キム・ジョンイル)総書記の愛用の別荘や東海(トンヘ)艦隊司令部が構える北朝鮮の要衝地である。このような地域まで外国人に開放するというのは、北朝鮮が観光を通じた外貨獲得に目覚めただけでなく、今後外貨稼ぎとして非常に重視しているものと解釈できる」。

北朝鮮が外国人観光客誘致に注力 大型旅行社を新設 (聯合ニュース2015年4月30日)
http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2015/04/30/0300000000AJP20150430003400882.HTML

外国客を呼び込むためには、旅行会社による受け入れ態勢を整備しなければなりませんから、「大型旅行社」を新設するのだそうです。しかし、こうした動きは日本人の朝鮮観光が解禁された1980年代後半以降、日本客の取り込みのためにいくつかの旅行会社が新設されたという過去の事例があり、実のところ、特別斬新な動きであるとはいえません。

北朝鮮観光25年を振り返る
http://inbound.exblog.jp/20192588/

もっとも、北朝鮮が外国客を誘致するうえで桁違いの人口をもつ隣国の中国人観光客をどう受け入れるかは最優先事項です。中朝国境に位置する遼寧省丹東市からの鉄道ツアーも動き出すそうです。

(中国)瀋陽-北朝鮮の観光列車が運行開始、料金3.8万円から (ロイター2015年 5月 14日)
http://jp.reuters.com/article/TopicsComprehensiveAttentionEconomy/idJP00093300_20150514_00220150513

記事にはこうあります。「旅行者は瀋陽市を出発した後、北朝鮮との国境に位置する丹東市で、丹東発平壤行きの95次中朝国際列車に乗り換える。国際列車は鴨緑江を挟んで、丹東市と対岸の街、新義州市(北朝鮮)を経て、首都平壌市に到着する。旅行日程は4日間。平壌、開城、妙香山、板門店など名所を観光。羊角島国際ホテルなど平壌の有名ホテルに宿泊する。1人当たりの旅行費用は2000―3000人民元(3万8629円―5万7943円)に設定されている」。

これは一般的な中国東北三省から陸路で入る北朝鮮へのツアー料金と比べると、少し割高に感じます。中朝国境は丹東以外にもいくつかあり、複数の国境ゲートから入国する1泊2日や3泊4日の1000元(2万円)程度の安いツアーがたくさんあるからです。平壌に宿泊するからでしょうか。もっとも、このルートは外国客には許されておらず、中国人のみ参加可能です。

以下の写真は、昨年7月に訪ねた丹東駅や丹東から平壌への鉄道チケット売り場です。数年前までは中国からの北朝鮮への公務旅行が多かったそうです(実態は公費を使った観光旅行)。しかし、習近平政権になって以降の「ぜいたく禁止令」で丹東経由の朝鮮旅行は下火となっていました。この国際列車の乗客も一時に比べて激減していたのです。
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ぼくも一度この国際列車に乗って平壌に行ってみたいと思っていますが、いつ可能となるのでしょうか。

さて、朝鮮側の観光誘致の意気込みを伝える以下の記事もあります。

北朝鮮 観光開発に全力、2020年に観光客200万人を目指す(新華ニュース 2015年6月1日)
http://www.xinhuaxia.jp/social/70714

北朝鮮は「2017年までに、観光客数を今の10倍に増やし、2020年に200万人を超える目標」を掲げているそうです。

北朝鮮が外国客誘致を進めるうえでのキラーコンテンツは金剛山です。5月下旬、海外の関係者を集めて金剛山観光に対する投資説明会を現地で開いたようです。

北朝鮮・金剛山で投資説明会 日本企業も参加 「観光資源ある」(共同通信社2015年5月27日)
https://www.youtube.com/watch?v=aa9-UB4yj20
http://www.47news.jp/movie/general_politics_economy/post_12098/

「北朝鮮が日本海側の拠点都市・元山から景勝地の金剛山までの一帯に設置した「国際観光­地帯」への投資説明会が27日、金剛山で開かれた。日本を含む各国の企業関係者ら約130人が参加し、観光資源や投資環境などの説明を受けた。昨年6月の同地帯設置後、現­地での投資説明会は初めて」。

共同通信の動画によると、日本からは韓国観光の専門旅行社「三進トラベル」の社員が出席していたようです。

三進トラベル
http://www.sanshin-travel.com/

ぼくは2013年8月、金剛山を訪ねています。韓国の現代グループが投資しただけあって、北朝鮮国内で唯一といえる外国客の受入が可能なリゾートインフラがあることは確かです。ただし、韓国を追い出し、自前でどこまで運営できるのかは大いに疑問ですけれど。だからこそ、海外からの投資を促進したいのはわかります。

2013年、金剛山観光はどうなっているのか?
http://inbound.exblog.jp/22561895/

中止からはや6年。韓国から入る金剛山ツアーと残されたインフラについて
http://inbound.exblog.jp/22562596/

北朝鮮が進めようとしている観光誘致の行方がどうなるかについては、あげればきりがないほど疑問点が出てくるのですが、彼らが本気で外客を受け入れるとなれば、彼ら自身のあり方も問われることになるのは間違いありません。それで体制がどうこうなるとか単純な話ではないでしょうけれど、これまで3回北朝鮮を訪ねたぼくの感じ方としては、欧米客や日本客はともかく、圧倒的に多数派の中国客の訪朝が朝鮮の人たちに大きな影響を与えていることは確かだと思います。中国人は欧米人や日本人のように、北朝鮮の体制や異文化性を尊重する態度をまるで取りません。朝鮮の後進性についてもストレートな態度を示すため、彼らも逆に中国人に対しては、本音はともかく、黙り込むしかありません。その超然とした宗主国的ふるまいとそれを裏打ちする圧倒的な経済優位性に、少なくとも一般市民レベルでは抗うことができないのです。

こうした状況の中で、北朝鮮の観光誘致はどうなっていくのか。

北朝鮮観光に展望はあるのか…活路は「共産主義テーマパーク」(Daily NK 2015年05月26日)
http://dailynk.jp/archives/44326

同記事の中で、北朝鮮の観光誘致の可能性については「北朝鮮が観光で成功するには二つの要素が必要だ。一つは中国人、特に地理的に近い東北地方の中国人が気軽に行ける安いツアーの商品化。二つ目は北朝鮮を『共産主義テーマパーク』と考える西洋人向けに少々高価でも質が高くて多様なツアーを開発することだ」といっています。

中国人向けには北朝鮮と国境を接する東北三省の中国人向けのツアーの商品化、日本人を含めたその他外国人には高品質なツアーを開発することだと専門家は述べています。

しかし、中国から朝鮮への国際線がけっこう高いうえ、どこまで高品質なツアーを開発できるのか、ぼくが見た限りでは厳しいものがあります。

同記事でもこう書かれています。

「さらに、金正恩氏肝いりのあの「観光事業」に苦言を呈した。

「馬息嶺(マシンリョン)スキー場は成功しない。わざわざスキーをするため北朝鮮まで行く旅行客はいないだろう。北朝鮮は世界の需要がまったく読めていない」」

そんなの当たり前ではないですか。ぼくも馬息嶺スキー場の建設現場を視察したことがありますが、誰の対面のためにあんなものをつくったのか。駆り出された労働者の人たちの様子を見て、そう思ったものです。

外客誘致のためにインフラは必要でしょうが、それがスキー場なのか、という根本的な方向性の誤りがいまの北朝鮮の観光振興の進め方にはあると思います。

だからといって、外国人の話に耳を傾けるほどの柔軟性や精神的なゆとりがいまの彼らにあるかといえば、どうでしょう。ぼくは1980年代の中国の半ばなし崩し的な外国人観光客の開放の流れを見ているだけに、そのような度量がいまの朝鮮にあるとは思えないので、なかなか難しいなあと感じています。

それでも、金剛山はひとつの可能性ではあるので、うまくやってもらいたいものです。
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by sanyo-kansatu | 2015-06-07 19:26 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2015年 05月 24日

新宿は都内で外国客に最も人気なホテル地区(エクスペディア調べ)

エクスペディアでは、今年3月下旬、訪日外国人の集客に成功したホテルを表彰する「エクスペディアアワード2015」を発表しています。国内の外国客に人気のホテルや日本政府観光局(JNTO)などを招いて表彰式を行なったそうです。

2014年、エクスペディア経由で外国人旅行者に予約された件数のランキングでトップとなったのは、ホテル部門で「ホテルサンルートプラザ新宿」、ホステル・ゲストハウス・旅館部門で「新宿区役所前カプセルホテル」でした。以下、10位までのランキングです。

1位 ホテルサンルートプラザ新宿(南新宿)
2位 新宿グランベルホテル(東新宿/歌舞伎町)
3位 新宿ワシントンホテル(西新宿)
4位 京王プラザホテル(西新宿)
5位 ホテルモントレ グラスミア大阪
6位 ホテル日航成田
7位 新宿プリンスホテル(東新宿)
8位 品川プリンスホテル(品川)
9位 新宿区役所カプセルホテル(東新宿/歌舞伎町)
10位 ホテル日航関西空港

エクスペディアのリリースによると、ホテル部門トップの「ホテルサンルートプラザ新宿」が人気の理由は、自社サイトのクチコミ返信を行なうなど、ネットを有効活用していること。ホステル・旅館部門の「新宿区役所前カプセルホテル」では女性専用フロアの設置や海外メディアの積極的な対応で、訪日外国人の関心を引き、差別化につながったといいます。

このランキングをみて興味深いのは、都内のホテルとしてランキングされた7軒中、6軒が新宿に立地していることです。

エクスペディアでは、主要8カ国・地域の都内の予約件数の多いエリアをランキングしています。これをみても、欧米(アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス)、アジア(韓国、香港、タイ、台湾)すべてにおいて新宿がトップになっています。
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一方、2位以下は欧米系は銀座や東京駅周辺、アジア系や池袋や上野と、人気のエリアが分かれています。また2014年に前年対比で伸びているのが上野(247%)、浅草(246%)、池袋(186%)であることから、アジア系の利用者が増えていることもうかがえます。

リリースでは、以下のような「国別人気宿泊エリアマップ」を作成しています。
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これをみても、東京の南半分(東京駅周辺、銀座、赤坂、渋谷)は欧米系に人気で、北半分(新宿、池袋、上野、浅草)はアジア系に人気であることがわかります。新宿は国を問わず外国人旅行者に人気です。

エクスペディアの利用者は、あくまで海外の個人旅行者(FIT)であることから、中国本土から来た団体客などは含まれていません。ですから、これだけで訪日外国人旅行者のホテル利用の実態をすべて説明することはできませんが、こうした都内のホテル地区の可視化は、ますます色濃くなっていくものと思われます。

※エクスペディアが配信する海外からの訪日ホテル予約の多い国などのリリースは以下参照のこと。

エクスペディアではアジア各国からの訪日ホテル予約が急増している
http://inbound.exblog.jp/24509107/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-24 10:25 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2015年 05月 23日

エクスペディアではアジア各国からの訪日ホテル予約が急増している

世界最大のオンライン旅行会社であるエクスペディアは2006年11月に日本法人を開設し、日本の消費者向けに海外ホテル予約サービスをスタートしています。

エクスペディア
http://www.expedia.co.jp/

もともと日本の旅行マーケットを対象に参入してきたエクスペディアですが、ここ数年海外からの外国人旅行者の国内ホテル予約が増えています。エクスペディアはマイクロソフトの旅行部門として設立された会社ですから、アメリカ市場の収益が最大で、訪日市場も現状ではアメリカ人の送客が大きいようですが、この2、3年でアジアからの送客もすごい勢いで増えているようです。

2015年3月24日付けの同社のニュースリリースによると、2014年のアジア各国の訪日ホテル手配件数の前年度比の数字は以下のような驚異的なものです。

1位 香港 740%
2位 タイ 416%
3位 マレーシア 288%
4位 台湾 281%
5位 フィリピン 253%

特に前年対比7倍以上となった香港、4倍以上のタイが注目されます。2014年の訪日外国人旅行者数の1位が台湾、5位香港、6位タイとくれば、その理由もわかるというものです。

現在、エクスペディアは日本やインド、オーストラリアなどの先行グループに加え、同上の国々などアジア11カ国に販売拠点を開設しています。その多くの国で2012~13年にかけて現地法人が設立されたため、アジアからの訪日予約が一気に増えたことが考えられます。

韓国、香港、台湾、タイのエクスペディアによる2014年の海外ホテル予約件数のランキングはすべて日本がトップです。
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またこの4カ国の人気海外都市(ホテル予約件数)のランキングも、台湾とタイで東京が1位、韓国と台湾で大阪が2位と上位を占めています。また他にも京都や沖縄、福岡などが10位までのランキングに入っており、地方都市への予約も動き出していることがわかります。

ちなみに2014年の日本の人気都市ランキング(ホテル予約件数)は以下のとおりです。

1位 東京
2位 大阪
3位 沖縄
4位 京都
5位 福岡
6位 札幌
7位 名古屋
8位 神戸
9位 長崎
10位 函館

言うまでもなく、エクスペディアを利用するアジア客は個人旅行者(FIT)です。彼らは格安なLCCなどを利用して訪日するリピーター層でもあります。前年対比でいうと、金沢(718%)、沖縄(515%)、長崎(462%)、名古屋(447%)、小樽/富良野/網走(436%)、高山(426%)、奈良(424%)、長野(362 %)、岐阜/富山(361%)、札幌(337%)などの地方都市が伸びているようです。

これからはアジア系の旅行者もどんどん地方都市へ個人旅行する時代になりそうです。ツアーバスで押し寄せる団体客とは違い、英語を話し、洗練されたアジア系個人旅行者が地方に増えると、外国客に対するイメージも変わっていくのではないでしょうか。

※エクスペディアが配信する都心の人気ホテルや地区については以下を参照のこと。

新宿は都内で外国客に最も人気なホテル地区(エクスペディア調べ)
http://inbound.exblog.jp/24510962/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-23 20:27 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 18日

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル

一般の日本人には見えにくい、中国語通訳案内士の信じられないような内情について、赤裸々に語ってくれた水谷浩さんですが、ご本人と中国との関わりは、大卒後に勤めたメーカー在籍中の1984年、中国政府が3000人の日本人青年を招いた交流イベントに参加したことに始まります。

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた
http://inbound.exblog.jp/24486566/

その後、水谷さんは上海、北京へと留学。帰国後は商社で中国市場への新商品の開発や展開を手がけてきました。2005年、中国語通訳案内士試験に合格。中国の訪日旅行市場は有望だと考え、翌年末勤務先を退社し、中国語通訳ガイドの道を歩き始めます。

「最初の仕事はいまでもよく覚えています。中国から来た社長のアテンドで、企業の工場視察に観光を加えた1週間の日程です。その後は翻訳の講師の仕事をしたり、ガイド業務も年々受注が増えていたのですが、2008年にリーマンショック、11年に東日本大震災が起こり、地獄を見ることになります」。

それでも、水谷さんは訪日旅行業界の将来に希望があることを確信していました。

「インバウンド後進国とか政府の失策とか非常にネガティブな話をしてきましたが、市場経済学的に見れば、発展の余地があるということで市場の将来に大いに希望が持てるということが言えます。これは私が現場で接待したお客様より直に市場のニーズを絶えず感じていたので、東日本大震災とか尖閣国有化といった絶望的なニュースがあっても、この仕事を続けてきた原因なのです。」(「驚くべきインバウンド後進国ニッポン」③果たしてここに市場は存在するのか!? より)

最初の数年間は、旅行会社や人材派遣会社からガイド業務を受託していた水谷さんですが、08年頃から日本観光通訳協会(JGA)の「通訳ガイド検索システム」に登録すると、ひきあいが来るようになったといいます。

通訳ガイド検索システム
http://www.guidesearch.info/

「海外のFIT、たとえば、マレーシアのご夫婦から直接メールが届く。ガイドだけでなく、旅行込みのガイドの依頼です。旅行代いくら、宿泊代いくら、交通費いくら、入場料いくらと見積もりを出すわけですが、最初のうちは、手配部分は旅行会社に投げていた。でも、旅行会社は個別の案件に対する対応が遅いんです。これでは自分でやらなあかんということで、旅行業務取扱管理者資格を取り、旅行業として起業することにしたんです」。

2014年4月に彩里旅遊株式会社として法人化、8月に第2種の旅行業となり、HPも開設。半年すると、少しずつ問い合わせが来るようになったといいます。

水谷さんが起業に至った理由として、同じ士業である弁護士と通訳案内士の置かれた状況が大きく違っていること。それゆえ「食えない」職業であることに強い問題意識がありました。この問題についてもネットメディアで熱弁を奮っています。

「通訳案内士と他の士業では、決定的な違いがあります。派遣が許されているか否かです。私も以前ある旅行ブローカーと口論をして「日雇い添乗員」と捨てぜりふを吐かれ頭にきたことがありました。弁護士や会計士は日雇いでなく、通訳案内士はなぜ日雇いできるのか、この意味には歴史があります。しかし日雇い派遣をやめれば、非常に多くの通訳案内士が路頭に迷うでしょう。そういう世界なのです。(中略)

奇妙に感じることは、所轄の役所に対する被害者意識や反感のようなものです。つまり観光庁に対して多くの通訳案内士は、われわれを守ってくれる役所であるとは思っておりません。それを証拠に観光庁からの依頼事項があると、どこの団体でも観光庁への批判や不満、悪口を言い続ける人がおり、観光庁と会員の間に入って事を進める時は必ず手間がかかります。根強い不信感があるのです。以前福祉事務所とケースワーカーの相互不信を取り上げたニュース番組がありましたが、この世界も同様なのです」。(⑪旧運輸省部局は業界が限界集落化する前に手を打て! より)

観光庁の「通訳案内士のあり方に関する検討会」についても、以下のように率直に感想を述べています。

「数年前に役所と民間の対立を象徴するような事件がありました。通訳案内士制度のあり方検討会が観光庁で開かれ、この制度を廃止するか継続するかの議論が交わされました。通訳案内士からは大規模団体代表2名、あと10数名は関連業界から出席しましたが、関連業界からは成果を上げられない通訳ガイド制度の廃止、業務独占の剥奪等の辛辣な意見も続出したように記憶しております。多くのベテラン通訳案内士が制度廃止による廃業を心配し、制度廃止時は訴訟を起こすと息巻いていた年配の方もおられました。結局数年の検討の結果、観光庁は通訳案内士制度を保持するとの見解を通訳案内士団体側に出すのと同時に、役所原案に沿って、通訳案内士団体に黙って「総合特区法案」の中に総合特区通訳案内士案を盛り込んで成立させました。

その結果、総合特区では通訳案内士試験なしで通訳案内士業務が可能になり、特区自治体の主催する講習を受けるだけで業務ができるようになったのです。これは中国から九州への豪華客船就航のための観光対策で九州の目玉政策でした。一方では難しい試験を課し、一方では試験なしの講習だけで同じ資格が取れるという、非常におかしい話です。加えて特に日本人のガイドからは、立場の弱い日本人の権利を取り上げて外国人に無条件で渡すという当時の過激系マスコミ論調を受けて、売国的外国人優遇政策であると非難していた人もおりました」。 (⑫役所と業界の対立のはざまで、日本の訪日政策を憂う! より)

しかし、その一方で水谷さんは通訳案内士自身にも問題があることを指摘しています。

「通訳ガイドが貧困な理由は、要するにアサインの仕事(配給)のみをあてにしているからです。蟹工船でしか働けないからです。自分で船を操船してカニを取りにゆかないのが原因です」。(⑬脱落した仲間の屍を越えて前進!前進!また前進! より)

「この世界に入って思うのですが、旅行業界に支配されているという感覚を持った方が非常に多い事です。確かに英語圏の世界は、ウォーキングガイド以外旅行業界に営業を握られているかもしれません。日本にはまだ男尊女卑の習慣が色濃く残っており、その為かもしれませんが、積極的に前に出て外客を直に受注しようとする人間は少ないようです」。(⑭通訳ガイドの社会は日本には珍しい女性社会 より)

通訳案内士が“絶滅危惧種”になる前に、稼げる仕事にしなければ。そうすれば、優秀な人材も集まってくるはず。水谷さんが起業を決意したのはそのためでした。

「通訳案内士で旅行会社を起業した人はまだ少ないですが、成功しようと思ったら、これがいちばん早い方法だろうと考えた。旅行会社として自らツアーを企画し、添乗、ガイド、これらを垂直統合する。このモデルしかないと」。

しかし、これまで見てきたように、訪日中国旅行市場の現状は、通訳案内士を必要としないツアーが大半です。それでも、水谷さんはこう言います。

「でもね、私の経験からいって、一度いいガイドにつくと、次もお願いしたいと言ってくる。これは中国客でも同じです」。

水谷さんには強い影響を受けたガイドがいたそうです。陳さんという台湾のカリスマ日本語ガイドでした。「いまはもうお亡くなりになったと聞いていますが、台北の故宮博物院で明の文物を説明するとき、『この壺はいつごろ作られたかわかりますか? 明智光秀が信長を討った頃ですよ』。退屈な歴史の説明もこれなら面白いでしょう。この人スゴイなと。自分もこうなりたいと思うんです」。

この仕事でいちばんうれしい瞬間は、お客さんから「この次来るときお前に連絡する」と言われること。そのお客さんから次のツアーの引き合いがあると、認めてもらったことを実感できるからです。「ツアーが終わってお客さん全員と握手するとき、握りしめた手にお札が入ってることもありますよ。エー何これ!? うれしいですよ」。

一般に中国客は買い物にしか興味がないと思われがちだが、水谷さんの話を聞いていると、通訳案内士として真剣に相手に向き合うことの大切さを教えられます。

訪日中国客が増えるなか、新しい悩みも生まれているそうです。

「中国語の方言です。中国では南方と北方では使われる言葉がまったく違う。外国語みたいなものです。基本的に私が学んだのは普通話ですが、地方から来たお客さんから『水谷の中国語はわからない』と言われる。でも、私はあなたの方言がわからない。

地方の中国人は必ずしも普通話ができるとは限らないのです。こういう悩みは中国語通訳案内士ならではかもしれません。特におばあちゃんの話を聞きとるのが難しい。娘が通訳してくれるからなんとかなるものの、これからは外国人と話したことのない中国客がやって来る。外国人の中国語を聞き慣れている中国人とそうでない人ではまったく違う。

日本人の通訳案内士は何を言うてるのかわからないとよく言われるのはそのためです。訪日客の増加にともない、方言しか話せない人が増えてくることを肝に銘じなければならない。これは大変なことです。

台湾客にも気を遣います。一般に台湾人は大陸の中国語に対する反感があり、私の話す中国語にクレームを食らったこともあります。これはたとえていうと、関西弁が嫌いな人に横山やすしがガイドに付いたようなもの。だから、台湾客の場合、最初に私は大陸で中国語を勉強したことを話すことにしています。すると『そうや、お前の話すのは大陸のことばや』と言われます」。

英語さえ話せれば、欧米諸国や東南アジアの国々の人たちならなんとかカバーできるという状況とはまったく違う話です。中国語通訳案内士に求められる能力とはなんと高度なものでしょう。それに対する水谷さんの答えはこうです。

「たとえ難しくても、だからこそやる価値がある。燕の巣を獲りに行く人間がいるのなら、そこで役立つ通訳ガイドになるべき。お客さんもそれを求めているはず。それが商売になる」。

そんな水谷さんに「これから通訳案内士を目指す人」にひとこと、と尋ねるとこう話してくれました。

「ぼくは野球好きです。将来、プロ野球選手になりたい。でも、実際そのうち何人なれますか。通訳案内士の世界も同じです。

通訳案内士試験はプロ野球でいえば、入団テストにすぎない。そこから先が問題。本当にこの仕事に向いているか。素質があるかどうか。生き残れるか。それは本人次第です。

通訳案内士は職人です。長年の鍛練なしでは務まらない。旅行商品は目に見えない。何時何分どこに行って…ではただの添乗にすぎない。旅という芸術作品はお客さんの心に刻まれるもの。私にとっての台湾の陳ガイドと過ごした1日のように。一生残るもの。

通訳案内士は、訪日旅行産業を構成する最も重要な成員です。コンシェルジェであり、道案内人であり、相談員であり、お客さんからいちばん信頼される存在になるべきです」。

さらに、業界への提言として以下のように話してくれました。

「今後の通訳案内士制度の設計において「業務独占」「名称独占」は個人的には強くこだわらないけれど、あってもいいと考えている。それは職人のプライドにかかわるものだから。職人は気難しいですから、「独占」廃止といわれると、カチンとくる。お前は能力がないと言われているような気がするから。ですから、制度を設計する側も、我々が職人であることを心得てうまく進めないとへそを曲げてしまう。

でも、食えないでしょう。そう言われるのがつらい。だからこそ、食うためのこういうシステムをつくるという話と一緒であれば、うまくいくのではないか。

訪日客が増えるなか、外国語を使った添乗(旅程管理)やガイド(案内)代をきちんと保証する仕組みをつくっていくべき。安売り競争ではなく、質が問われる仕事にしないと。それをお客さんが選んで買う。そこで勝負するという形にしていく。

だからこそ、業務の分業化ではなく垂直統合なのです。これからはトランスフォーマーで行かなければ。ネイティブ添乗員やスルーガイドを過去の遺物にするためにも」。
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インバウンド・コンサルタント(水谷さんが代表を務める中国語通訳案内士団体)
http://www.inbound-consultant.com/

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by sanyo-kansatu | 2015-05-18 09:57 | “参与観察”日誌 | Comments(0)