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2015年 06月 07日

2015年北朝鮮は観光誘致を積極的に進めています(「共産主義テーマパーク観光」は実現するか?)

今年3月上旬、北朝鮮が唐突に外国人観光客の受け入れを開始して以来、北朝鮮が観光誘致を積極的に(?)進めている様子が報じられています。今年は朝鮮労働党結党70周年でもあり、多くの外国客を呼び込むことは至上命題なのでしょう。
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【速報】北朝鮮 外国人観光客受け入れをようやく再開!!(Daily NK 2015年3月4日)
http://dailynk.jp/archives/36660

その最初の観光目玉として北朝鮮が外国客の集客を働きかけたのが、故金日成主席の誕生記念日「太陽節」に合わせて4月12日に開催される「平壌国際マラソン」の募集でした。

平壌マラソン出場OK、活気を取り戻した丹東、エボラ措置解除に沸く北朝鮮関連ビジネス(Daily NK 2015年3月5日)
http://dailynk.jp/archives/36676

以下のロイターの記事も指摘するように、このところ欧米諸国の北朝鮮観光がちょっとしたブームとなっています。

焦点:北朝鮮観光ブーム、相次ぐ拘束にも米国人旅行者が増加(ロイター2014年6月14日)
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0EP03A20140614

ブームといっても、欧米人の渡航者数は年間数千人規模ですからたいしたことではないのですが、やはり21世紀最後の秘境ともいうべき北朝鮮に一度は訪ねてみたいという欧米人はいるものです。平壌マラソンにも600人の外国人が参加しているのです。

平壌国際マラソン開催 外国人も約600人参加(Daily NK 2015年4月14日)
http://dailynk.jp/archives/39673?krkj=144326

朝鮮側も、観光誘致を進めるための事業に着手し始めているようです。

「ドルを稼ごう」北朝鮮が外国人観光客に咸興を開放 (東亞日報2015年4月6日)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2010040664158

「北朝鮮が、外国人観光客を対象に海水浴場を初めて開放する方針であることが明らかになった。特に、今回北朝鮮が開放を決めた咸興(ハムフン)近くの麻田(マジョン)海水浴場は、近くに金正日(キム・ジョンイル)総書記の愛用の別荘や東海(トンヘ)艦隊司令部が構える北朝鮮の要衝地である。このような地域まで外国人に開放するというのは、北朝鮮が観光を通じた外貨獲得に目覚めただけでなく、今後外貨稼ぎとして非常に重視しているものと解釈できる」。

北朝鮮が外国人観光客誘致に注力 大型旅行社を新設 (聯合ニュース2015年4月30日)
http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2015/04/30/0300000000AJP20150430003400882.HTML

外国客を呼び込むためには、旅行会社による受け入れ態勢を整備しなければなりませんから、「大型旅行社」を新設するのだそうです。しかし、こうした動きは日本人の朝鮮観光が解禁された1980年代後半以降、日本客の取り込みのためにいくつかの旅行会社が新設されたという過去の事例があり、実のところ、特別斬新な動きであるとはいえません。

北朝鮮観光25年を振り返る
http://inbound.exblog.jp/20192588/

もっとも、北朝鮮が外国客を誘致するうえで桁違いの人口をもつ隣国の中国人観光客をどう受け入れるかは最優先事項です。中朝国境に位置する遼寧省丹東市からの鉄道ツアーも動き出すそうです。

(中国)瀋陽-北朝鮮の観光列車が運行開始、料金3.8万円から (ロイター2015年 5月 14日)
http://jp.reuters.com/article/TopicsComprehensiveAttentionEconomy/idJP00093300_20150514_00220150513

記事にはこうあります。「旅行者は瀋陽市を出発した後、北朝鮮との国境に位置する丹東市で、丹東発平壤行きの95次中朝国際列車に乗り換える。国際列車は鴨緑江を挟んで、丹東市と対岸の街、新義州市(北朝鮮)を経て、首都平壌市に到着する。旅行日程は4日間。平壌、開城、妙香山、板門店など名所を観光。羊角島国際ホテルなど平壌の有名ホテルに宿泊する。1人当たりの旅行費用は2000―3000人民元(3万8629円―5万7943円)に設定されている」。

これは一般的な中国東北三省から陸路で入る北朝鮮へのツアー料金と比べると、少し割高に感じます。中朝国境は丹東以外にもいくつかあり、複数の国境ゲートから入国する1泊2日や3泊4日の1000元(2万円)程度の安いツアーがたくさんあるからです。平壌に宿泊するからでしょうか。もっとも、このルートは外国客には許されておらず、中国人のみ参加可能です。

以下の写真は、昨年7月に訪ねた丹東駅や丹東から平壌への鉄道チケット売り場です。数年前までは中国からの北朝鮮への公務旅行が多かったそうです(実態は公費を使った観光旅行)。しかし、習近平政権になって以降の「ぜいたく禁止令」で丹東経由の朝鮮旅行は下火となっていました。この国際列車の乗客も一時に比べて激減していたのです。
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ぼくも一度この国際列車に乗って平壌に行ってみたいと思っていますが、いつ可能となるのでしょうか。

さて、朝鮮側の観光誘致の意気込みを伝える以下の記事もあります。

北朝鮮 観光開発に全力、2020年に観光客200万人を目指す(新華ニュース 2015年6月1日)
http://www.xinhuaxia.jp/social/70714

北朝鮮は「2017年までに、観光客数を今の10倍に増やし、2020年に200万人を超える目標」を掲げているそうです。

北朝鮮が外国客誘致を進めるうえでのキラーコンテンツは金剛山です。5月下旬、海外の関係者を集めて金剛山観光に対する投資説明会を現地で開いたようです。

北朝鮮・金剛山で投資説明会 日本企業も参加 「観光資源ある」(共同通信社2015年5月27日)
https://www.youtube.com/watch?v=aa9-UB4yj20
http://www.47news.jp/movie/general_politics_economy/post_12098/

「北朝鮮が日本海側の拠点都市・元山から景勝地の金剛山までの一帯に設置した「国際観光­地帯」への投資説明会が27日、金剛山で開かれた。日本を含む各国の企業関係者ら約130人が参加し、観光資源や投資環境などの説明を受けた。昨年6月の同地帯設置後、現­地での投資説明会は初めて」。

共同通信の動画によると、日本からは韓国観光の専門旅行社「三進トラベル」の社員が出席していたようです。

三進トラベル
http://www.sanshin-travel.com/

ぼくは2013年8月、金剛山を訪ねています。韓国の現代グループが投資しただけあって、北朝鮮国内で唯一といえる外国客の受入が可能なリゾートインフラがあることは確かです。ただし、韓国を追い出し、自前でどこまで運営できるのかは大いに疑問ですけれど。だからこそ、海外からの投資を促進したいのはわかります。

2013年、金剛山観光はどうなっているのか?
http://inbound.exblog.jp/22561895/

中止からはや6年。韓国から入る金剛山ツアーと残されたインフラについて
http://inbound.exblog.jp/22562596/

北朝鮮が進めようとしている観光誘致の行方がどうなるかについては、あげればきりがないほど疑問点が出てくるのですが、彼らが本気で外客を受け入れるとなれば、彼ら自身のあり方も問われることになるのは間違いありません。それで体制がどうこうなるとか単純な話ではないでしょうけれど、これまで3回北朝鮮を訪ねたぼくの感じ方としては、欧米客や日本客はともかく、圧倒的に多数派の中国客の訪朝が朝鮮の人たちに大きな影響を与えていることは確かだと思います。中国人は欧米人や日本人のように、北朝鮮の体制や異文化性を尊重する態度をまるで取りません。朝鮮の後進性についてもストレートな態度を示すため、彼らも逆に中国人に対しては、本音はともかく、黙り込むしかありません。その超然とした宗主国的ふるまいとそれを裏打ちする圧倒的な経済優位性に、少なくとも一般市民レベルでは抗うことができないのです。

こうした状況の中で、北朝鮮の観光誘致はどうなっていくのか。

北朝鮮観光に展望はあるのか…活路は「共産主義テーマパーク」(Daily NK 2015年05月26日)
http://dailynk.jp/archives/44326

同記事の中で、北朝鮮の観光誘致の可能性については「北朝鮮が観光で成功するには二つの要素が必要だ。一つは中国人、特に地理的に近い東北地方の中国人が気軽に行ける安いツアーの商品化。二つ目は北朝鮮を『共産主義テーマパーク』と考える西洋人向けに少々高価でも質が高くて多様なツアーを開発することだ」といっています。

中国人向けには北朝鮮と国境を接する東北三省の中国人向けのツアーの商品化、日本人を含めたその他外国人には高品質なツアーを開発することだと専門家は述べています。

しかし、中国から朝鮮への国際線がけっこう高いうえ、どこまで高品質なツアーを開発できるのか、ぼくが見た限りでは厳しいものがあります。

同記事でもこう書かれています。

「さらに、金正恩氏肝いりのあの「観光事業」に苦言を呈した。

「馬息嶺(マシンリョン)スキー場は成功しない。わざわざスキーをするため北朝鮮まで行く旅行客はいないだろう。北朝鮮は世界の需要がまったく読めていない」」

そんなの当たり前ではないですか。ぼくも馬息嶺スキー場の建設現場を視察したことがありますが、誰の対面のためにあんなものをつくったのか。駆り出された労働者の人たちの様子を見て、そう思ったものです。

外客誘致のためにインフラは必要でしょうが、それがスキー場なのか、という根本的な方向性の誤りがいまの北朝鮮の観光振興の進め方にはあると思います。

だからといって、外国人の話に耳を傾けるほどの柔軟性や精神的なゆとりがいまの彼らにあるかといえば、どうでしょう。ぼくは1980年代の中国の半ばなし崩し的な外国人観光客の開放の流れを見ているだけに、そのような度量がいまの朝鮮にあるとは思えないので、なかなか難しいなあと感じています。

それでも、金剛山はひとつの可能性ではあるので、うまくやってもらいたいものです。
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by sanyo-kansatu | 2015-06-07 19:26 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)
2015年 05月 24日

新宿は都内で外国客に最も人気なホテル地区(エクスペディア調べ)

エクスペディアでは、今年3月下旬、訪日外国人の集客に成功したホテルを表彰する「エクスペディアアワード2015」を発表しています。国内の外国客に人気のホテルや日本政府観光局(JNTO)などを招いて表彰式を行なったそうです。

2014年、エクスペディア経由で外国人旅行者に予約された件数のランキングでトップとなったのは、ホテル部門で「ホテルサンルートプラザ新宿」、ホステル・ゲストハウス・旅館部門で「新宿区役所前カプセルホテル」でした。以下、10位までのランキングです。

1位 ホテルサンルートプラザ新宿(南新宿)
2位 新宿グランベルホテル(東新宿/歌舞伎町)
3位 新宿ワシントンホテル(西新宿)
4位 京王プラザホテル(西新宿)
5位 ホテルモントレ グラスミア大阪
6位 ホテル日航成田
7位 新宿プリンスホテル(東新宿)
8位 品川プリンスホテル(品川)
9位 新宿区役所カプセルホテル(東新宿/歌舞伎町)
10位 ホテル日航関西空港

エクスペディアのリリースによると、ホテル部門トップの「ホテルサンルートプラザ新宿」が人気の理由は、自社サイトのクチコミ返信を行なうなど、ネットを有効活用していること。ホステル・旅館部門の「新宿区役所前カプセルホテル」では女性専用フロアの設置や海外メディアの積極的な対応で、訪日外国人の関心を引き、差別化につながったといいます。

このランキングをみて興味深いのは、都内のホテルとしてランキングされた7軒中、6軒が新宿に立地していることです。

エクスペディアでは、主要8カ国・地域の都内の予約件数の多いエリアをランキングしています。これをみても、欧米(アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス)、アジア(韓国、香港、タイ、台湾)すべてにおいて新宿がトップになっています。
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一方、2位以下は欧米系は銀座や東京駅周辺、アジア系や池袋や上野と、人気のエリアが分かれています。また2014年に前年対比で伸びているのが上野(247%)、浅草(246%)、池袋(186%)であることから、アジア系の利用者が増えていることもうかがえます。

リリースでは、以下のような「国別人気宿泊エリアマップ」を作成しています。
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これをみても、東京の南半分(東京駅周辺、銀座、赤坂、渋谷)は欧米系に人気で、北半分(新宿、池袋、上野、浅草)はアジア系に人気であることがわかります。新宿は国を問わず外国人旅行者に人気です。

エクスペディアの利用者は、あくまで海外の個人旅行者(FIT)であることから、中国本土から来た団体客などは含まれていません。ですから、これだけで訪日外国人旅行者のホテル利用の実態をすべて説明することはできませんが、こうした都内のホテル地区の可視化は、ますます色濃くなっていくものと思われます。

※エクスペディアが配信する海外からの訪日ホテル予約の多い国などのリリースは以下参照のこと。

エクスペディアではアジア各国からの訪日ホテル予約が急増している
http://inbound.exblog.jp/24509107/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-24 10:25 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2015年 05月 23日

エクスペディアではアジア各国からの訪日ホテル予約が急増している

世界最大のオンライン旅行会社であるエクスペディアは2006年11月に日本法人を開設し、日本の消費者向けに海外ホテル予約サービスをスタートしています。

エクスペディア
http://www.expedia.co.jp/

もともと日本の旅行マーケットを対象に参入してきたエクスペディアですが、ここ数年海外からの外国人旅行者の国内ホテル予約が増えています。エクスペディアはマイクロソフトの旅行部門として設立された会社ですから、アメリカ市場の収益が最大で、訪日市場も現状ではアメリカ人の送客が大きいようですが、この2、3年でアジアからの送客もすごい勢いで増えているようです。

2015年3月24日付けの同社のニュースリリースによると、2014年のアジア各国の訪日ホテル手配件数の前年度比の数字は以下のような驚異的なものです。

1位 香港 740%
2位 タイ 416%
3位 マレーシア 288%
4位 台湾 281%
5位 フィリピン 253%

特に前年対比7倍以上となった香港、4倍以上のタイが注目されます。2014年の訪日外国人旅行者数の1位が台湾、5位香港、6位タイとくれば、その理由もわかるというものです。

現在、エクスペディアは日本やインド、オーストラリアなどの先行グループに加え、同上の国々などアジア11カ国に販売拠点を開設しています。その多くの国で2012~13年にかけて現地法人が設立されたため、アジアからの訪日予約が一気に増えたことが考えられます。

韓国、香港、台湾、タイのエクスペディアによる2014年の海外ホテル予約件数のランキングはすべて日本がトップです。
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またこの4カ国の人気海外都市(ホテル予約件数)のランキングも、台湾とタイで東京が1位、韓国と台湾で大阪が2位と上位を占めています。また他にも京都や沖縄、福岡などが10位までのランキングに入っており、地方都市への予約も動き出していることがわかります。

ちなみに2014年の日本の人気都市ランキング(ホテル予約件数)は以下のとおりです。

1位 東京
2位 大阪
3位 沖縄
4位 京都
5位 福岡
6位 札幌
7位 名古屋
8位 神戸
9位 長崎
10位 函館

言うまでもなく、エクスペディアを利用するアジア客は個人旅行者(FIT)です。彼らは格安なLCCなどを利用して訪日するリピーター層でもあります。前年対比でいうと、金沢(718%)、沖縄(515%)、長崎(462%)、名古屋(447%)、小樽/富良野/網走(436%)、高山(426%)、奈良(424%)、長野(362 %)、岐阜/富山(361%)、札幌(337%)などの地方都市が伸びているようです。

これからはアジア系の旅行者もどんどん地方都市へ個人旅行する時代になりそうです。ツアーバスで押し寄せる団体客とは違い、英語を話し、洗練されたアジア系個人旅行者が地方に増えると、外国客に対するイメージも変わっていくのではないでしょうか。

※エクスペディアが配信する都心の人気ホテルや地区については以下を参照のこと。

新宿は都内で外国客に最も人気なホテル地区(エクスペディア調べ)
http://inbound.exblog.jp/24510962/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-23 20:27 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 18日

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル

一般の日本人には見えにくい、中国語通訳案内士の信じられないような内情について、赤裸々に語ってくれた水谷浩さんですが、ご本人と中国との関わりは、大卒後に勤めたメーカー在籍中の1984年、中国政府が3000人の日本人青年を招いた交流イベントに参加したことに始まります。

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた
http://inbound.exblog.jp/24486566/

その後、水谷さんは上海、北京へと留学。帰国後は商社で中国市場への新商品の開発や展開を手がけてきました。2005年、中国語通訳案内士試験に合格。中国の訪日旅行市場は有望だと考え、翌年末勤務先を退社し、中国語通訳ガイドの道を歩き始めます。

「最初の仕事はいまでもよく覚えています。中国から来た社長のアテンドで、企業の工場視察に観光を加えた1週間の日程です。その後は翻訳の講師の仕事をしたり、ガイド業務も年々受注が増えていたのですが、2008年にリーマンショック、11年に東日本大震災が起こり、地獄を見ることになります」。

それでも、水谷さんは訪日旅行業界の将来に希望があることを確信していました。

「インバウンド後進国とか政府の失策とか非常にネガティブな話をしてきましたが、市場経済学的に見れば、発展の余地があるということで市場の将来に大いに希望が持てるということが言えます。これは私が現場で接待したお客様より直に市場のニーズを絶えず感じていたので、東日本大震災とか尖閣国有化といった絶望的なニュースがあっても、この仕事を続けてきた原因なのです。」(「驚くべきインバウンド後進国ニッポン」③果たしてここに市場は存在するのか!? より)

最初の数年間は、旅行会社や人材派遣会社からガイド業務を受託していた水谷さんですが、08年頃から日本観光通訳協会(JGA)の「通訳ガイド検索システム」に登録すると、ひきあいが来るようになったといいます。

通訳ガイド検索システム
http://www.guidesearch.info/

「海外のFIT、たとえば、マレーシアのご夫婦から直接メールが届く。ガイドだけでなく、旅行込みのガイドの依頼です。旅行代いくら、宿泊代いくら、交通費いくら、入場料いくらと見積もりを出すわけですが、最初のうちは、手配部分は旅行会社に投げていた。でも、旅行会社は個別の案件に対する対応が遅いんです。これでは自分でやらなあかんということで、旅行業務取扱管理者資格を取り、旅行業として起業することにしたんです」。

2014年4月に彩里旅遊株式会社として法人化、8月に第2種の旅行業となり、HPも開設。半年すると、少しずつ問い合わせが来るようになったといいます。

水谷さんが起業に至った理由として、同じ士業である弁護士と通訳案内士の置かれた状況が大きく違っていること。それゆえ「食えない」職業であることに強い問題意識がありました。この問題についてもネットメディアで熱弁を奮っています。

「通訳案内士と他の士業では、決定的な違いがあります。派遣が許されているか否かです。私も以前ある旅行ブローカーと口論をして「日雇い添乗員」と捨てぜりふを吐かれ頭にきたことがありました。弁護士や会計士は日雇いでなく、通訳案内士はなぜ日雇いできるのか、この意味には歴史があります。しかし日雇い派遣をやめれば、非常に多くの通訳案内士が路頭に迷うでしょう。そういう世界なのです。(中略)

奇妙に感じることは、所轄の役所に対する被害者意識や反感のようなものです。つまり観光庁に対して多くの通訳案内士は、われわれを守ってくれる役所であるとは思っておりません。それを証拠に観光庁からの依頼事項があると、どこの団体でも観光庁への批判や不満、悪口を言い続ける人がおり、観光庁と会員の間に入って事を進める時は必ず手間がかかります。根強い不信感があるのです。以前福祉事務所とケースワーカーの相互不信を取り上げたニュース番組がありましたが、この世界も同様なのです」。(⑪旧運輸省部局は業界が限界集落化する前に手を打て! より)

観光庁の「通訳案内士のあり方に関する検討会」についても、以下のように率直に感想を述べています。

「数年前に役所と民間の対立を象徴するような事件がありました。通訳案内士制度のあり方検討会が観光庁で開かれ、この制度を廃止するか継続するかの議論が交わされました。通訳案内士からは大規模団体代表2名、あと10数名は関連業界から出席しましたが、関連業界からは成果を上げられない通訳ガイド制度の廃止、業務独占の剥奪等の辛辣な意見も続出したように記憶しております。多くのベテラン通訳案内士が制度廃止による廃業を心配し、制度廃止時は訴訟を起こすと息巻いていた年配の方もおられました。結局数年の検討の結果、観光庁は通訳案内士制度を保持するとの見解を通訳案内士団体側に出すのと同時に、役所原案に沿って、通訳案内士団体に黙って「総合特区法案」の中に総合特区通訳案内士案を盛り込んで成立させました。

その結果、総合特区では通訳案内士試験なしで通訳案内士業務が可能になり、特区自治体の主催する講習を受けるだけで業務ができるようになったのです。これは中国から九州への豪華客船就航のための観光対策で九州の目玉政策でした。一方では難しい試験を課し、一方では試験なしの講習だけで同じ資格が取れるという、非常におかしい話です。加えて特に日本人のガイドからは、立場の弱い日本人の権利を取り上げて外国人に無条件で渡すという当時の過激系マスコミ論調を受けて、売国的外国人優遇政策であると非難していた人もおりました」。 (⑫役所と業界の対立のはざまで、日本の訪日政策を憂う! より)

しかし、その一方で水谷さんは通訳案内士自身にも問題があることを指摘しています。

「通訳ガイドが貧困な理由は、要するにアサインの仕事(配給)のみをあてにしているからです。蟹工船でしか働けないからです。自分で船を操船してカニを取りにゆかないのが原因です」。(⑬脱落した仲間の屍を越えて前進!前進!また前進! より)

「この世界に入って思うのですが、旅行業界に支配されているという感覚を持った方が非常に多い事です。確かに英語圏の世界は、ウォーキングガイド以外旅行業界に営業を握られているかもしれません。日本にはまだ男尊女卑の習慣が色濃く残っており、その為かもしれませんが、積極的に前に出て外客を直に受注しようとする人間は少ないようです」。(⑭通訳ガイドの社会は日本には珍しい女性社会 より)

通訳案内士が“絶滅危惧種”になる前に、稼げる仕事にしなければ。そうすれば、優秀な人材も集まってくるはず。水谷さんが起業を決意したのはそのためでした。

「通訳案内士で旅行会社を起業した人はまだ少ないですが、成功しようと思ったら、これがいちばん早い方法だろうと考えた。旅行会社として自らツアーを企画し、添乗、ガイド、これらを垂直統合する。このモデルしかないと」。

しかし、これまで見てきたように、訪日中国旅行市場の現状は、通訳案内士を必要としないツアーが大半です。それでも、水谷さんはこう言います。

「でもね、私の経験からいって、一度いいガイドにつくと、次もお願いしたいと言ってくる。これは中国客でも同じです」。

水谷さんには強い影響を受けたガイドがいたそうです。陳さんという台湾のカリスマ日本語ガイドでした。「いまはもうお亡くなりになったと聞いていますが、台北の故宮博物院で明の文物を説明するとき、『この壺はいつごろ作られたかわかりますか? 明智光秀が信長を討った頃ですよ』。退屈な歴史の説明もこれなら面白いでしょう。この人スゴイなと。自分もこうなりたいと思うんです」。

この仕事でいちばんうれしい瞬間は、お客さんから「この次来るときお前に連絡する」と言われること。そのお客さんから次のツアーの引き合いがあると、認めてもらったことを実感できるからです。「ツアーが終わってお客さん全員と握手するとき、握りしめた手にお札が入ってることもありますよ。エー何これ!? うれしいですよ」。

一般に中国客は買い物にしか興味がないと思われがちだが、水谷さんの話を聞いていると、通訳案内士として真剣に相手に向き合うことの大切さを教えられます。

訪日中国客が増えるなか、新しい悩みも生まれているそうです。

「中国語の方言です。中国では南方と北方では使われる言葉がまったく違う。外国語みたいなものです。基本的に私が学んだのは普通話ですが、地方から来たお客さんから『水谷の中国語はわからない』と言われる。でも、私はあなたの方言がわからない。

地方の中国人は必ずしも普通話ができるとは限らないのです。こういう悩みは中国語通訳案内士ならではかもしれません。特におばあちゃんの話を聞きとるのが難しい。娘が通訳してくれるからなんとかなるものの、これからは外国人と話したことのない中国客がやって来る。外国人の中国語を聞き慣れている中国人とそうでない人ではまったく違う。

日本人の通訳案内士は何を言うてるのかわからないとよく言われるのはそのためです。訪日客の増加にともない、方言しか話せない人が増えてくることを肝に銘じなければならない。これは大変なことです。

台湾客にも気を遣います。一般に台湾人は大陸の中国語に対する反感があり、私の話す中国語にクレームを食らったこともあります。これはたとえていうと、関西弁が嫌いな人に横山やすしがガイドに付いたようなもの。だから、台湾客の場合、最初に私は大陸で中国語を勉強したことを話すことにしています。すると『そうや、お前の話すのは大陸のことばや』と言われます」。

英語さえ話せれば、欧米諸国や東南アジアの国々の人たちならなんとかカバーできるという状況とはまったく違う話です。中国語通訳案内士に求められる能力とはなんと高度なものでしょう。それに対する水谷さんの答えはこうです。

「たとえ難しくても、だからこそやる価値がある。燕の巣を獲りに行く人間がいるのなら、そこで役立つ通訳ガイドになるべき。お客さんもそれを求めているはず。それが商売になる」。

そんな水谷さんに「これから通訳案内士を目指す人」にひとこと、と尋ねるとこう話してくれました。

「ぼくは野球好きです。将来、プロ野球選手になりたい。でも、実際そのうち何人なれますか。通訳案内士の世界も同じです。

通訳案内士試験はプロ野球でいえば、入団テストにすぎない。そこから先が問題。本当にこの仕事に向いているか。素質があるかどうか。生き残れるか。それは本人次第です。

通訳案内士は職人です。長年の鍛練なしでは務まらない。旅行商品は目に見えない。何時何分どこに行って…ではただの添乗にすぎない。旅という芸術作品はお客さんの心に刻まれるもの。私にとっての台湾の陳ガイドと過ごした1日のように。一生残るもの。

通訳案内士は、訪日旅行産業を構成する最も重要な成員です。コンシェルジェであり、道案内人であり、相談員であり、お客さんからいちばん信頼される存在になるべきです」。

さらに、業界への提言として以下のように話してくれました。

「今後の通訳案内士制度の設計において「業務独占」「名称独占」は個人的には強くこだわらないけれど、あってもいいと考えている。それは職人のプライドにかかわるものだから。職人は気難しいですから、「独占」廃止といわれると、カチンとくる。お前は能力がないと言われているような気がするから。ですから、制度を設計する側も、我々が職人であることを心得てうまく進めないとへそを曲げてしまう。

でも、食えないでしょう。そう言われるのがつらい。だからこそ、食うためのこういうシステムをつくるという話と一緒であれば、うまくいくのではないか。

訪日客が増えるなか、外国語を使った添乗(旅程管理)やガイド(案内)代をきちんと保証する仕組みをつくっていくべき。安売り競争ではなく、質が問われる仕事にしないと。それをお客さんが選んで買う。そこで勝負するという形にしていく。

だからこそ、業務の分業化ではなく垂直統合なのです。これからはトランスフォーマーで行かなければ。ネイティブ添乗員やスルーガイドを過去の遺物にするためにも」。
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インバウンド・コンサルタント(水谷さんが代表を務める中国語通訳案内士団体)
http://www.inbound-consultant.com/

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by sanyo-kansatu | 2015-05-18 09:57 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 17日

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた

本ブログでは、これまで通訳案内士を取り巻く現状と無資格ガイドに浸食される実情を紹介してきました。

なかでも中国からの訪日客は、数の上では今後最大市場となることは間違いないでしょうから、中国語通訳案内士の仕事の現場が大変なことになっているのだとしたら、これは看過できない話です。

この問題について、現場から発言しているひとりの中国語通訳案内士がいます。

現役の通訳案内士として働く傍ら、訪日外客コンサルティングとビジネスマッチングを行う会社を立ち上げた水谷浩さんです。
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http://www.inbound-consultant.com/

水谷さんはあるネットメディアに「驚くべきインバウンド後進国ニッポン」という連載タイトルで、15本の文章を書いておられます(2015年5月現在)。

ここには中国語通訳案内士を取り巻く驚くような内情が明かされています。水谷さんは自ら発言を行う理由について次のように書いています。

「私がなぜこのブログを書くかをご説明すると、黒船来襲から明治維新起こり近代国家が形成されたように、訪日外国人の増加により関連の産業が勃興・急成長して、日本の新産業になると思われるからです。(中略)

オリンピック誘致プレゼンでの滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」は有名になりましたが、諸外国からのお客さまへの「お・も・て・な・し」をどの様に具体化するのかが最大の課題です。そのソフト開発は多言語・多文化・多習慣の異文化理解から始まり、古き良き封建的で保守的な我国国民には、このシステム構築は複雑すぎて一朝一夕には不可能でしょう。まずは現状認識から始め、産業が発展してゆく予想を語りたく思います」。(<驚くべきインバウンド後進国ニッポン ①最大の課題は「お・も・て・な・し」の具体化より)

そして、水谷さんはこう問題提起します。

「訪日旅行はインバウンド後進国という不名誉なあだ花のもと細々と生き続けてきたと言えます。実際、訪日旅行は産業と呼べる代物にほど遠く、その実情は外国人ブローカーが跋扈する準アンダーグラウンドの世界でした」。(同上)

これはどういうことでしょうか。中国語通訳案内士から見た日本の訪日旅行市場の現状、課題について水谷さんはこう書きます。

「旅行業界は、国内旅行、海外旅行と訪日旅行の3種類より成り立っております。国内での業界シェア統計によれば、JTBグループがシェア50%を超えて、衆参両院の自民党状態になっており、2位以下の日本旅行やKNT(近畿日本ツーリスト)の野党を引き離しております。海外旅行ではJTB、HISと関西私鉄系2社(阪急とKNT)が3強となっております。しかしながら訪日観光分野を見ると全体の過半数以上を占める中華圏市場ではJTBグループでも団体10%強、個人15%強となり、大手3社でも団体で20%弱と圧倒的に弱者なのです。

ではこの市場のチャンピオンはどこか? 民族系と言われる中華系ランドオペレーターの群れです。中華系は商売数の多い会社でも雑居ビルで少数の運営でしのいでおります。悪い言い方をすれば中華圏旅行ブローカーが蠢く世界なのです」。(②中華圏旅行ブローカーが蠢く世界 より)

「中華圏旅行ブローカーが蠢く世界」とは何でしょうか。

水谷さんの実況報告は続きます。

「韓国からのお客様が約200万人、中華圏からは350万人、英語圏からは227万人という昨年(2013年)の統計ですが、通訳案内士の登録数は約1万6000人位ではないでしょうか。その内英語が1万1200人、中国語が1600人、韓国語が約600人となり、訪日客数と通訳案内士の数がアンバランスになっております。特にアンバランスになっている中国語と韓国語は、現地からの添乗員がガイドを兼ねて来日して、日本の通訳ガイド市場を業務独占しておりました。

来日人数が増え、本国からネイティブが添乗で来日すると、特に日本人通訳案内士はネイティブと語学面でガチンコ勝負しなければなりませんし、中国・台湾出身の通訳案内士は中国・台湾の基準で採用される傾向があります。つまり中国語や韓国語は、本国からのライセンスを持たないネイティブとの戦いを強いられているのです」。 (⑥通訳案内士の状況とオススメ言語 より)

訪日韓国、中国市場は「現地からの添乗員がガイドを兼ねて来日して、日本の通訳ガイド市場を業務独占」しているというのです。

水谷さんは、韓国や中国のネイティブガイドを『ハリー・ポッター』のヴォルデモート卿に例えてこう説明します。

「通訳案内士のライセンスを持たず仕事をしている外国人の中にはヴォルデモート一味は存在します。LCCという空飛ぶ箒とNOビザという透明マントでアジアを飛び回り荒稼ぎをするグローバル中華系闇ガイド(国際ノーライセンス・ガイド)の存在です。

その手下に白バスや白タクを含む運送を手配するブローカーや旅行登録が有るか無いか解らない様な旅行関係者、そして日本で暗躍する外人の土産物屋仕掛け人グループ。その一味のお友達が魔法省(黒度魔法省)幹部の中におられたのも事実です。

その分霊箱は旅行業や地上手配業を隠れ蓑にする闇ガイド、旧白バス系運送業や民族系土産物屋に分散して散らばっておりました。そしてかつては本国より旅行団を買って、中国をはじめとするアジア旅行客の銀聯カード等クレジット・デビッドカードや財布から金を吸って食い物にして生きてきました。一味の中の1人が日本の運輸業界に紛れ込んで格安ツアーバスの孫請けを行い、関越道で高速バスの大事故を起こしたのです。

この事件はインバウンドや闇ガイドとは別と考えられますが、根は繋がっているのです。この正体は何なのか? 政官軍共同体をもじって、多国籍の旅運土(旅行、運送、土産)共同体なのです。アジア的地縁血縁の世界に加え、日本と外国のグローバルアンダーグラウンドが一つの裏世界を形成して、日本の良貨駆逐とインバウンド業界の秩序のレベル低下を引き起こしてきました。これがインバウンド業界の闇の勢力(アジア黒魔術一味)の正体です。正統にインバウンドの商売をやっている者にとっては大迷惑な話です」。(⑦旅行業界の闇と高速バス大事故の関係 より)

ここでいう「バスの大事故」は、2012年4月29日に関越自動車道で起きた高速ツアーバス事故を指します。その件については以下を参照。

もし中国人ツアーバスが事故を起こしていたら……を真面目に考える
http://inbound.exblog.jp/18359541/

こうした商売のやり方を、水谷さんは「台湾式営業方法」と呼んでいます。

「通訳案内士のライセンスを持たず仕事をしている外国人のことを、今でこそ黒魔術師の一団だのヴォルデモート一味だとボロクソに言いますが、東日本大地震までは彼らこそがこのインバウンド業界をけん引していたのです。日本の観光業界のアウトロー的存在と異国の激烈なグローバル競争を生き抜いてきた猛者が組んだ。そして旅行社から旅行客を買うといういわば画期的な台湾式営業方法を確立したのです。

親しい台湾出身のガイド仲間によれば、ガイドは給料無料、基本ボランティアで長時間働きます、土産とオプションのみを売り、1週間で目標1ツアー100万円(すべて手取り現金、諸課税全く無し)。成田や関西に着いた団体をバスに閉じ込めて、指定の土産物屋の定置網に追い込んでからイルカ漁の如く水揚げタイムです。また、密室であるバスの中で催眠商法を駆使して納豆キナーゼとか深海ザメの油とかを高額で一本釣りをする。清水寺や富士山に行くときオプション費用として1人3000円を集金する。嫌な方は事前にどこかの駐車場で降りて貰う、「バスが帰って来なくても当局は一切関知しない、では安全を祈る」というとんでもない事をやっていたのです。

そういうイリーガルな営業の基本を実戦して売り上げを競う。参加する営業ガイドは生き甲斐ともいえる実戦競争販売を通じて、インバウンドの市場(貧バウンド市場)の基礎を作り上げたのです。日本人のほとんどが見向きもしなかった、呆れて物も言えない間にやってしまった。それも短時間で大勢の日本人の知らない間に市場を作ったのです」。(⑨貧バウンド時代のインバウンドと近未来の姿 より)

その結果、訪日中国旅行市場の大半は、通訳案内士が不要なマーケットとなってしまいました。

「現在、日本国内では訪日団体には通訳ガイドは必須ではありません。添乗員が一人でやってしまうか、無料の闇ガイド(物売り専門ガイド)が付く場合がほとんどなのです。添乗員さんには日本の旅程資格やガイド免許を持ってなくてもできる仕組みになっております。ところが中国でも欧州でも外国人がその国の通訳ガイドをすることは禁じております。多くの国がガイドに国籍制限を設けているのです。このような寛容な仕組みは極めて珍しい状態です。きわめて不適切と言わざるを得ない方法です。

中国も外国人ガイドを禁止しており、従って私は中国ではガイドをすることができません。最近、中連協(中華人民共和国訪日観光客受入旅行会社連絡協議会)の帰国報告書に通訳ガイド名を書く欄ができました。これによってびびっている海外の旅行会社もあるのですが、理想はやはり日本の通訳ガイドがすべての団体に付く事でしょう。これには時間がかなりかかると思いますが、地道に努力すべきだと思います」。(⑫役所と業界の対立のはざまで、日本の訪日政策を憂う! より)

先日本ブログで書いた「無資格ガイド問題とは何か」の実態とは、実はこのようなものだったのです。

このようなある種絶望的ともいえる状況の中で、中国語通訳案内士の方々は今後どう局面を打開していけばいいのでしょうか。次回、水谷さんにお会いしてお聞きした実践の日々を紹介したいと思います。

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル
http://inbound.exblog.jp/24489096/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-17 16:49 | “参与観察”日誌 | Comments(3)
2015年 05月 13日

無資格ガイド問題とは何か?

通訳案内士をめぐる問題を考えるうえで、避けては通れないのが無資格ガイド問題です。一般の日本人からすると、なんのことやらわからないと思いますが、観光庁の「検討会」では初期の頃からこの問題が討議されていました。

以下の表は、観光庁がまとめた訪日旅行者数のトップ4である韓国、台湾、香港、中国におけるガイドの手配状況を整理したものです。

アジア主要国別インバウンドにおけるガイド等の手配状況(「通訳案内士の制度と現状について」2009年6月より)
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この報告は、株式会社JTBエイティーシー(当時)、NPO法人アセアンインバウンド観光振興会(当時、現社団法人)、JTBGMTの資料をもとに作成したとあります。これらは日本を代表する訪日旅行の手配を行う企業と業界団体です。

ここから何がわかるでしょうか。まず4カ国にほぼ共通する特徴が在日ネットワークで完結するビジネスモデルであることです。つまり、日本側の旅行業者を介さず、自分たちで旅行の手配を行っているわけです。なぜこういうことになっているのでしょうか。その何が問題なのでしょうか。

アジアからの訪日旅行の解禁は、さかのぼること1970年代の香港に始まり、79年の台湾、90年代の韓国と続いて動き出していました。ところが、当時の日本には彼らを観光客として受け入れようという認識やコンセンサスがまったくなかったため、彼らも在日ネットワークに頼るほかなく、ある意味野放しのまま手配が行われていたのです。当然無資格ガイドが添乗するツアーが大半でした。

1990年代の訪日外国人旅行者数はいまほど多くなく、せいぜい300~450万人でしたから、アジアからの訪日客は日本人の国内レジャーの閑散期を埋める存在に過ぎませんでした。

これが2000年代に入って変わっていきます。2000年に476万人だった訪日客は、03年の小泉政権時の「観光立国」宣言とビジットジャパンキャンペーンの開始とともに上昇カーブを描いて成長していきます。

ところが、在日ネットワークで完結するビジネスモデルはそのまま温存されてしまいます。その理由は後で述べますが、ここで確認しておくべきは、無資格ガイドの存在はいまに始まった話ではなかったということです。誰もそれをとがめることもなく20年以上経過していたわけで、それをいまさらやめろといっても、そこには彼らにとってなんのインセンティブもないわけですから、変わりようがなかったといえます。

では、この報告にもよく出てくる「スルーガイド」とは何でしょうか? 

ひとことでいうと、海外から団体客を連れて訪日し、ガイディングまでやってしまう添乗員のことです。本来日本で有償で観光案内できるのは通訳案内士という国家資格を必要とするガイドと定められているのに、それを不要としてしまうのです。

しかし、さらに根の深い問題もあります。彼らがただの添乗員であればいいのですが、そうではない場合があるからです。

台湾人や香港人には入国時にノービザで90日間の日本の滞在許可が下ります(これは相互免除という意味で、日本人が相手国に行く場合も同様です)。その間、ガイドたちは日本に自由に滞在しながら、いくつもの訪日ツアーの添乗を受け持つのです。だから、彼らは毎回ツアー客と一緒にやってくるのではありません。最初のツアーだけのことで、その後はずっと日本にいて、次々と添乗を繰り返すわけです。彼らが日本の通訳案内士資格を有していれば、まだいいのですが、必ずしもそうではなさそうです。

またその際、問題となるのは、土産店や免税店からのキックバックやバスの車内販売などで得た売上からホテル代や食事、交通費などの諸経費を引いて、そのまま自分の報酬として持ち帰ってしまうことです。彼らは観光ビザで訪日しておきながら、事実上労働していることになるわけです。何本もツアーを掛け持ちすれば、売上額は相当な金額に上ると思われますが、彼らはその営業活動に対して確定申告することもなく、帰国してしまうのです。

これらに象徴される世界が「華僑系土産店とタイアップしたビジネスモデル」あるいは「華僑系旅行会社ネットワークで完結するビジネスモデル」なのです。

観光庁の「検討会」の初期の議事録をみると、通訳案内士団体はこうした無資格ガイドの取り締りを強く要求しています。彼らに仕事を奪われていると考えているからでしょう。

2010年2月22日 第4回「検討会」議事録
http://www.mlit.go.jp/common/000060637.pdf

これを読むと、かなり乱暴で厳しい発言も見られます。

興味深いことに、2010年3月、JTB九州は九州運輸局から厳重注意処分を受けています。

2010年3月30日(レコードチャイナ)
JTB系旅行会社を厳重注意処分に=通訳案内士法違反で初、中国人留学生バイト募集に問題―九州運輸局
http://www.recordchina.co.jp/a40879.html

急増する中国からのクル―ズ客船の上陸中のバスツアーで、無資格の留学生にガイド業務をさせたことが理由のようです。

これはちょうど「検討会」でこの問題が討議された時期と重なっているので、その影響を受けたのではないかと思えなくもありません。

さて、それでは実際、彼らをどこまで取り締まるべきなのか?

その後、東日本大震災が起き、いったんこの議論はヒートダウンします。それでも、時間の経過とともに訪日客は回復し、「検討会」も再開されます。

2014年12月24日の「検討会」資料=「過去の検討会における主な意見⑦(無資格ガイド・悪質ガイドへの対応)」では、以下のような無資格・悪質ガイド問題に対する意見が出ています。
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これをみると、業界関係者の中には、取締り一辺倒ではない意見も散見されます。通訳案内士の質の問題についても厳しいコメントが見られます。

なぜなのでしょうか。ひとつ考えられるのは、日本の旅行会社の姿勢にあります。2000年代に入り、訪日アジア客の受け入れを進めていくうえで本来担わなければならなかったはずの国内の旅行手配や通訳ガイドの領域を在日ネットワークに預けてしまったこと、いや預けざるを得なかった事情があったからです。もはや急増する中国団体客の受け入れはお手上げ状態になっていたなかで、取り締まりを叫んでみても詮無いことに思えたことでしょう。

では、なぜ預けざるを得なかったのか。

それが実際に起きていたのは、時をさかのぼること、2000年代初頭のことでした。この記事をみてください。

訪日観光旅行手配 中国発中心に下落進む(日経産業新聞2003年1月22日)


「訪日観光旅行(インバウンドツアー)の手配料金が下落している。インバウンドツアーは海外の旅行会社が企画し、日本の旅行会社が日本滞在部分の手配を請け負う形が主流。アジア地域の旅行会社を中心に手配料金の引き下げ要求が急速に強まっている。訪日外国人数は増加傾向にあるが、採算性の低さなどから取り扱いに消極的な旅行会社も目立つ。(中略)

顕著なのは、2000年9月に日本向け団体観光旅行が解禁となった中国だ。インバウンドツアーでは東京から箱根、京都、大阪を巡る通称「ゴールデンルート」という定番コースが一番の売れ筋商品。近畿日本ツーリストの場合、中国の旅行会社向けの同コース(4泊5日)の手配料金は、2年前の15万~23万円程度から、現在は7万5千前後と半額以下に下がった。(中略)

日本人の国内旅行が伸び悩むなか、旅行各社は潜在需要が大きいインバウンドへの関心を高めている。ただ「現状は採算性の低いツアーが多い」(近畿日本ツーリスト)こともあり、取扱量拡大や販促活動強化については消極姿勢が目立っている」。

これは中国の爆買い客が話題になるずっと前の話です。

2000年9月に解禁された中国からの団体ツアーのツアー代金がわずか1年で半額になってしまったこと。その結果、日本の旅行会社は一斉に中国側の旅行会社が主催する訪日中国団体客の手配から手を引いてしまいました。

いまでも忘れられないある旅行大手の幹部の当時の発言があります。

「なぜ中国からの団体ツアー客の手配を日本の旅行会社が請け負えないかというと、一人当たりワンコイン(500円)の利益ではどうしようもないんですよ」。

こうして引き受け手のいなくなった訪日中国客の国内手配を引き受けたのが、新興の在日華人系のランドオペレーターでした。当然、彼らはこれまでの在日ネットワークで完結するビジネスモデルを踏襲します。訪日中国ツアーの料金が下がったぶんは、免税店や土産店へのキックバックや車内販売の売上で補い、帳尻を合わせるやり方です。これが今日の無資格ガイド問題の起源といっていいでしょう。

その後も国交省は無資格ガイドの使用禁止を日本の旅行会社に呼びかけています。

有資格の通訳ガイドの使用の徹底について(周知依頼)[観国交第65号](2013年5月14日)

「平成25年2月に通訳案内士制度の周知強化の一環として、観光庁が実態調査を行ったところ、中国人旅行者向けのツアーの中には、通訳案内士法等に基づく資格を有さない一般の添乗員に通訳案内業務を行わせるなど、法令の遵守が徹底されていない場合が複数見受けられました」(一部)

これは訪日中国客の手配を行う日本の旅行会社の業界団体である中華人民共和国訪日観光客受入旅行会社連絡協議会(中連協)に宛てられたものです。以前出した「無資格通訳ガイドの使用禁止の徹底について」(2005年4月20日付け国土交通省国総旅振第32号)の要請に効力がないことから、再度周知徹底を促す内容です。

ところが、大半の日本の旅行会社は中国の旅行会社が主催した低価格の団体ツアーの手配を請け負っていないため、効き目はほとんどないわけです。実際には、誰が中国団体客の手配を請け負っているのか、捕捉できていないのか、できていても知らないことにしているのか。まあそういうことです。

※もっとも、ここでひとこと触れておきたいのは、すべてのアジア市場が在日ネットワークモデルに侵食されているかというと、そうではないことです。アジアの新興グループであるベトナムやインドネシアなど、華僑系旅行業者の影響が少ない国々の訪日ツアーはこれまで述べた話とは事情が違っていること(まだそれほど値下がりは起きていない)も知っておきたいと思います。

それにしても、なぜこんなことになる前に手を打たなかったのか。

こんな言い訳がよく使われます。アジア市場は成長が早く、FIT化や成熟化も進んでいるから、近い将来欧米市場と同じようになるだろう。そうすれば、いずれ通訳案内士との需給ギャップは埋まっていくはずだ。

ところが、実際には、上海など一部の成熟した市場が生まれても、次々と内陸からの初来日組も増えるので、いつまでたっても団体客は減りそうもありません。

国交省はずいぶん早い時期から訪日2000万人の目標を掲げていました。その内訳として中国本土からの観光客を600万人と見積もっていました。2014年には台湾、香港を含めた中華系はすでに600万人を超えています。取り締まることより、ビザの緩和などによる数の増加を優先したことは間違いありません。それはそれでひとつの決断だったでしょう。そう決めた以上、いまの問題は織り込み済みだったはずです。

なぜなら、現在の中華圏の訪日客600万人のうち、半分が団体として、通訳案内士制度の建前(有資格ガイドを使うこと)を通そうとするなら、どれだけの数の中国語通訳ガイドを育てる必要があったのか。そのために何かを緊急に着手したようには見受けられないからです。

そして、決め台詞はこうです。「もし本当にアジアの無資格ガイドを取り締まりを徹底するとしようものなら、市場の大混乱は避けられないだろう。外交関係にも影響が出かねない」。

この問題は、通訳案内士団体の主流が英語ガイドであることも、話をかみ合わなくさせている理由のひとつのように思われます。彼らはアジア市場の特殊性に対する理解は少なく、見方によっては偏見も感じられないではありません。

繰り返しますが、だからといって誰かを悪者に仕立て上げても始まりません。

訪日アジア客の増加は、一部の排外的な人たちを除けば、特に小売業界を中心に歓迎の世論が形成されていると思います。彼らは移民労働者ではありません。レジャー消費者です。ただ旅行の中身にお金を使うことより、買物に夢中なのです。だからこそ、本来あやうげな在日ネットワークで完結するビジネスモデルが成り立ってしまうのです。

そのあやうさは、やはり気がかりです。現実を直視し、受け入れつつ、立て直しのための方策を考えなければいけないと思っています。
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by sanyo-kansatu | 2015-05-13 16:14 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 10日

海外の観光ガイドサービスのモデルを日本に持ち込もう

海外の観光ガイドがどんな働き方をしているかという話は、国によって相当事情が違うため、それを掘り下げようとするとかなり専門的な内容になってしまいます。残念ながら、いますぐこの件を検討することは簡単ではありません。

通訳ガイドの働き方、海外ではどうなのか?
http://inbound.exblog.jp/24450294/

一方、我々も含め一般の旅行者が海外でどんなガイドサービスを受けられるかについては、いろんな事例を知ることはできそうです。

たとえば、ヨーロッパを中心とした18都市で実施されている地元ガイドによるガイドサービスとして知られるのが、new EUROPE です。
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New EUROPE
http://www.neweuropetours.eu/

※18都市は、アムステルダム、バルセロナ、ベルリン、ブリュッセル、コペンハーゲン、ダブリン、エジンバラ、エルサレム、ハンブルグ、リスボン、リバプール、ロンドン、マドリッド、ミュンヘン、ニューヨーク、パリ、プラハ、テルアビブ。

このサービスは、上記18都市でそれぞれ実施している地元ガイドによるウォーキングツアーなどにネットで予約すれば誰でも参加できるというもの。無料のツアーもあれば、有料で郊外の観光地などを訪ねるツアーもあります。

たとえば、これはドイツのミュンヘンのサービス内容です。面白いのは、このツアーを案内する地元ガイドが写真入りで紹介されており、さまざまなキャラクターが揃っていること。どこに行きたいかもそうですが、このガイドに案内してもらうと楽しそう、という選び方もできるわけです。
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New Munich
http://www.newmunichtours.com/

「ミュンヘンに滞在している外国人旅行者がこのサイトを見て集まってきて、ローカルガイドの案内で街歩きをしたり、ツアーに出かけたりします。ぼくはそのとき、ミュンヘン郊外にあるダッハウ(ナチスの強制収容所のあった町)を訪ねるツアーに参加しました。もちろん、自分ひとりでもバスに乗って行くことはできるけど、地元のガイドにしっかり説明してもらうことで、知的好奇心が大いに満たされた。日本でもこういう外国人向けのツアーをやれないものだろうか」
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こうした実体験をもとに新しい外国人向けツアーサービスを提供しようと2013年に起業したのが、株式会社トラベリエンスの代表・橋本直明さんです。
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トラベリエンス
http://www.travelience.com/

現在同社では、自社でオリジナルツアーを企画するtravelienceと、通訳ガイドと訪日外国人旅行者をマッチングさせるTripleLightsの両サイトを運営しています。

「最初はNew MunichのFree Tourと同じモデルで、プロのガイドの案内による浅草のウォーキングツアーから始めました。それからだんだん有料のツアーも始めたのですが、必ずしも料金が安いからといって人が集まるとは限らない。むしろ、カップルや友人同士、ファミリーなどのプライベートなガイドの需要の方が大きかった。目的地も、浅草や築地、渋谷など東京のメジャーどころを案内してほしいというリクエストが多かった。知らない人と一緒になって気を遣うことなく、自分たちのペースで歩きたい、そういうニーズが多いことを知りました」。

同社の提供するツアーのうち、人気なのは、東京発日帰りの日光や富士山、鎌倉。京都も人気だそうです。でも、東京で起業したばかりの橋本さんには、京都に事務所を置いて、人を配置してというのはすぐには難しかったため、次に思いついたのが通訳ガイドと外国人旅行者のマッチングサービスであるTriplelightsだったそうです。

「こちらはお客さんを集めることに徹し、地元のガイドさんご自身にオリジナルなツアーを企画してもらおうと考えました」
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Triplelights
https://triplelights.com/

「プロとボランティアではガイディングのレベルがまったく違う。ですから、Triplelightsに登録していただくのは、通訳案内士の資格を持つ方のみです。

これまで通訳ガイドの方たちは、旅行会社などのツアーに派遣されていました。でも、旅行会社の手配する宿泊ありのツアーに参加できないガイドもいます。たとえば主婦の方。能力があるのに、就業できないのは残念です。

たとえば、朝9時から12時までの半日ツアーに参加したい外国客がいた場合、それなら主婦の方でも仕事ができる。外国人旅行者には多様なニーズがあるのだから、それに応えられるようなマッチングサービスを提供したいと考えました」。

Triplelightsでは、外国人旅行者の立場からより自分に合った通訳ガイドを選択できるようサイト上に通訳ガイドの紹介動画を用意しています。一方、それぞれの通訳ガイドは自分の企画したツアーをサイト上に紹介。そのツアーに興味を持ってくれた外国人からサイト経由でメールの問い合わせがあると、日程の調整などのやり取りをし、仕事を請けることになります。
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実際にTriplelightsを介して外国人旅行者から仕事を請けている通訳ガイドの方に話を聞いたところ、次のように答えてくれました。

「メールが届くと、お客さまの希望日に仕事が請けられるかどうか答えます。その場合、家族構成や人数、特別なリクエストがあれば確認。ツアーコースに築地が入っているのに、お寿司が苦手という人もいますから。ご家族にお子さまがいると、スケジュールも柔軟に考えなければならないなど、事前の情報があると助かります。また国籍については聞かないようにしています。もし先約があって仕事を引き受けられないとき、国籍で差別しているように思われてはいけないからです。

これまでと違うのは、お客さまと事前にやり取りしているので、ツアー当日には気心知れたお友だち感覚で会えること。これからは自分の強みを積極的にアピールしていかないといけないと実感しています」。

ある通訳案内士団体の役員もこう評価しています。

「橋本さんのコンセプトやビジネスモデルは非常に興味深く、いわゆる、一般的なエージェントのツアーの下請けというイメージの強い通訳ガイドに対して、新しい業務提供、あるいは顧客確保のメソッドを提供しようとしているスタイルは評価できます」。

これまで本ブログでも述べてきたように、通訳案内士を取り巻く状況は、さまざまな課題を抱えつつも、大きく変わりつつあります。特に若い世代の参入のためには、こうした海外で人気を得ているガイドサービスを日本に持ち込むことも必要でしょう。

一方、確かに訪日外国人旅行者は増えていますが、その訪問先が一部の都市や観光地に集中しているという問題があり、新しいガイドサービスを提供している橋本さんにとっても気になるところでした。その背景には、特に地方において英語による情報発信が決定的に不足していることがあると橋本さんは言います。だから、いまだにメジャーどころを案内してほしいというニーズに偏ってしまうというのです。

そこで、橋本さんは新しい旅行ガイドブック「Planetyze(プラネタイズ)」の提供を4月20日より開始しました。

Planetyze(プラネタイズ)
http://planetyze.com

どんなサービスかについては、こう説明されています。

「Planetyze」は、「旅行ガイドブックで気に入った場所を選ぶと、旅程表が作成でき、その場所に精通した通訳案内士に案内してもらえるツアーマーケットプレイスへつながる」という、外国人のための新しい日本の旅の提案をします。

●定番以外も外国人に紹介する旅行ガイドブック

トラベリエンスの経験で、訪日外国人が希望する観光地が東京・京都など定番ばかりになるのはなぜかと考えたら、気が付いたのは彼らにさまざまな観光地の情報が届いていないこと。日本のことは日本人のほうがもっと詳しい。外国人への情報提供の経験がある株式会社ジャパンタイムズ元出版部長笠原仁子氏を日本版編集長として迎え、「外国人が旅行したい場所を発見できる」工夫をした記事をオリジナルに執筆し、日本全国を細かく網羅していったガイドブックを作っています。訪日外国人旅行者向けの英語版、日本人向けの日本語版からスタートし、今後多言語展開していく予定です。東京・京都はもちろんのこと、地方の名所旧跡を細かく網羅し、全国各地へ訪日外国人を送客することを目指します。

●旅程表作成

「Planetyze」ではワンストップで旅程表を作成できます。ガイドブックに掲載されている記事を読み、気に入った場所を旅行カレンダーに追加し、旅程表として印刷・ダウンロードすることができます。また、旅程表を作るのが難しい旅行者のために、通訳案内士が旅程を提案するサービスを提供します。

●通訳案内士によるツアーマーケットプレイス
日本全国の通訳案内士によるオリジナルツアーを提供します。いままでのトラべリエンスの実績をもとに、訪日外国人のニーズをふまえ、ガイドの自己紹介動画を揃えています。ガイドの語学力や知識・人柄を知ったうえで納得してツアーを申し込むことができます。


これまで多くの地方自治体が多言語化した地元の観光地図やパンフレットをたくさん制作してきましたが、どれほどの効果があったか大いに疑問でした。いまの時代、ネット上に情報を載せなければ意味がないからです。

それにしても、全国の地域情報を英語化して発信するというのは、壮大なチャレンジです。ですが、実は誰かがやらなければならないことでした。こういう取り組みはもっとみんなで応援していかなければならないと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-05-10 16:49 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 06日

「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」って何?

前回、通訳案内士の実態について観光庁の報告書を頼りに簡単に解説してみました。

NHK報道をめぐり思う。通訳案内士って何だろう?
http://inbound.exblog.jp/24442716/

そこでは、4月22日のNHKの報道に対する若干の疑問も指摘しました。ある関係者も次のように語ってくれました。

「2020年の東京五輪に向けて、あるいは地方創生の一環として、通訳案内のできるガイドの数を増やしたい、そのために簡易な形のガイドの制度を作って普及させたいというのは、観光庁と地方自治体との共通認識だと思います。旅行業界も同調しているように思えます。その意味で、「地域限定」ガイドの新設は、確かに観光庁の検討会でもほぼその方向で合意に向けて動いているのは事実ですので誤報ではありませんが、法改正や新制度の法的対応には立法措置が必要な場合も多いので、そこまで具体化していない時点でここまで報道してしまうのはどうかと思いますし、既定路線で改革を進めたがっている政府当局の意思と焦りのようなもの感じます」。

NHKはこうした見方があることをどこまで承知のうえで報じたのかな? そうぼくも感じました。というのは、自分も数回ではありますが、観光庁の検討会を傍聴したことがあるからです。

ところで、ここでいう「有識者や旅行関係者などで作る会議で制度の改善を検討する会合(検討会)」とは何のことでしょうか。

観光庁のHPによると、その正式名称は「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」といいます。

「我が国に通訳案内士制度が創設されて60年以上が経過している中、訪日外国人旅行者数の増加及びニーズの多様化に的確に対応できるよう、中長期的な視野から、新たな通訳案内士制度を構築するための具体的な方策について検討を行うため、「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」を設置しました」。

http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/tsuyaku.html

「検討会」の主なメンバーは以下のような人たちです。

通訳案内士団体
旅行業者
ホテル業者
地方公共団体
ボランティアガイド団体
日本政府観光局(JNTO)

通訳案内士は基本的にフリーランスの個人事業者ですが、通訳ガイドの仕事は、上に挙げたさまざまな業界との関係の中で成り立っています。仕事を発注してくれるのは、たいてい旅行業者やホテル業者、場合によっては地方公共団体のこともあるでしょう。また通訳案内士試験の運営をしているのは、日本政府観光局(JNTO)です。通訳案内士制度がどうあるべきかについては、彼ら自身がどう考えるかだけではなく、関係者らとさまざまな課題について協議していく必要があるわけです。

ちなみに、通訳案内士団体については、観光庁のHPにこう説明されています。「通訳案内士法において「通訳案内士の品位の保持及び資質の向上を図り、併せて通訳案内に関する業務の進歩改善を図ることを目的とする団体は、観光庁長官に対して、国土交通省令で定める事項を届け出なければならない。(通訳案内士法第35条)」。実際には、社団法人や協同組合、NPO法人などさまざまな運営主体となっていますが、通訳案内士自身による業界団体です。

主な通訳案内士団体(観光庁HPより)
http://www.mlit.go.jp/common/001067295.pdf

さて、この「検討会」の立ち上げは、観光庁が設立された2008年の秋にまでさかのぼります(最初は「懇談会」として始まっています)。

以後の経緯については、観光庁のHPに詳しく掲載されています。関係者らの発言や主張は閲覧できますが、あまりに膨大な内容であるため、ひとまず昨年12月に観光庁がまとめた報告書「通訳案内士の現状及び制度見直しの検討経緯」の中から「過去の検討会の開催状況」という資料を紹介しましょう。
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これを見ると、昨年12月から最近まで実施されていた「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」以前にも、4つの「検討会」があったことがわかります。正直なところ、これほど多くの関係者の声を集め、東日本大震災後などに一時中断はあったものの、7年近く続けられてきた「検討会」であることに驚きすらおぼえます。

では、そこでどのような内容が議論されたのでしょうか。これについても、前述の報告書から「過去の検討会等における主な意見」の記述を紹介することにしましょう。

意見①通訳案内士に求められる役割
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ここでは、3つの役割が期待されていることがわかります。すなはち、「語学力・豊富な知識」「ホスピタリティ」「旅行者の旅程管理」です。これらをすべて兼ね備えるというのは、そんなに簡単なことではないように思います。

意見②通訳案内士の試験
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ここではふたつの若干対立して見える意見に分かれているようです。ガイドの質に関わる問題だけに、当事者も含め、関係者にとっても意見の分かれるところなのでしょう。

意見③通訳案内士の研修
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訪日外国人旅行者の急増にともない、通訳ガイドに求められるニーズも多様化しており、試験合格後にもさまざまな研修が必要とされている実態がよくわかります。

意見④通訳案内士の地域・言語面での偏在
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前回述べた「都市」と「英語」への偏在が、訪日旅行市場の現場でどんな支障をきたしているのか、見えてきます。

意見⑤地域限定通訳案内士・特例ガイド
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2008年頃から進めてきた地域限定通訳案内士・特例ガイドの育成が思ったようには進展していないことがわかります。一般国民からみると、通訳案内士の実態すらよく見えない現状において、新設された通訳ガイドの存在とそれをめぐる議論の内容は、どこに落としどころがあるのか、よくわからないというのが正直な印象です。

意見⑥通訳ガイド料金、ボランティアの活用
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ここでは前回触れた通訳案内士の就業実態の背景を物語る意見が見られます。たとえば「ガイド料金の価格破壊」「旅行者が急増しているアジア諸国」などに関するものです。ボランティアの問題についても、現場からは厳しい声が聞こえてくるようです。

意見⑦無資格ガイド・悪質ガイドへの対応
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これが日本のインバウンドにとって実に悩ましい海外の「無資格ガイド・悪質ガイド」問題です。この件については、別の機会で実態も含め述べるつもりです。

意見⑧通訳案内士の活動機会の拡大 等
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ここでは外国人旅行者と通訳案内士をマッチングするシステムの構築や制度そのものに対する疑問などが触れられています。

これまでメディアは急増する外国人旅行者がもたらす「消費」や「経済効果」について多く報じてきました。ところが、現場の関係者の認識はそれほど単純なものではないことが、通訳案内士をめぐる「検討会」を通じて見えてきます。実際に、訪日外国人に接して旅行の案内をしている彼らだからこそ、抱えざるを得ない問題があるのです。

またこの問題は、それぞれの関係者ごとに見え方も違っているようです。これらの意見を集約して、新制度を立ち上げていくことは確かに簡単ではないでしょう。

ひとまずできることは、一般国民には見えにくい通訳案内士の現場をめぐる状況を広く知ってもらうことだと考えています。ここに至っては、関係者だけで解決できる問題ばかりではないことも多くの人にわかってもらうことが大事かと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-05-06 11:49 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 10月 08日

訪日外客1300万人超えなるか?(AISO臨時総会報告)

ツーリズムexpoジャパンの会期直前の9月24日の夜、東京ビッグサイト会議室で一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の臨時総会がありました。

AISOはアジアからの訪日客の旅行手配を扱う観光業者の団体です。国内ツアー手配を行う旅行会社(ランドオペレーター)をはじめ、ホテルやレジャー施設、自治体関係者らが会員で、アジアインバウンド市場の拡大に伴い、会員数は年々増えています。

AISO
http://shadanaiso.net

冒頭のあいさつで王一仁会長はこう語りました。「円安が続き、インバウンド(訪日外国旅行市場)にとって絶好のチャンスが訪れています」

続いて、石井一夫AISO理事(株式会社ジェイテック)が今年の訪日外国人旅行者の動向を以下のように報告しました。

「今年は毎月のように単月の訪日外客数が過去最高を更新し、1300万人超えなるか? という状況です。1~8月までで863万人と前年比25.8%増。伸び率が最大なのが中国で前年比84%増、タイやフィリピン、マレーシア、ベトナムなどアセアン諸国の伸びも大きいです。訪日客数のトップは台湾の190万人で、韓国、中国と続きます。訪日全体にアジア11カ国が占める割合は8割となっています。今後、バスやホテルなどの供給が厳しさを増してくることが予想されます。秋の紅葉のシーズンが心配されます。地方も含め、いかに供給量を増やすかが求められています」

各国市場別でそれぞれの関係者がこう言っています。

まず中国。「好調な勢いで伸びできた中国客ですが、8月末から9月にかけての予約状況でみると、団体客は若干ペースダウンが起きています。今年7月からのバス運賃改訂によって料金アップが起きていることも影響しているようです。中国の海外旅行市場はタイの混乱もあり、東南アジア方面は減少しているぶん、韓国に集中していますが、訪日はまあまあという感じでしょうか」

次に韓国「他国に比べると、訪日客は伸びていないが、最近沖縄が韓国市場で人気となっている」

そして香港「7月から始まった反中国デモの影響もあり、6月まで伸びていた訪日客の伸びが落ちてきた。ただし、香港客の8割は個人客(FIT)なので、円安が効いている」

アセアン最大の訪日客を誇るタイ「8月まで伸びてきた勢いが、9月は減速しそうな気配。バス不足や運賃アップが影響しているもよう」

好調な勢いを見せていたタイ以外のアセアン諸国からの訪日客も、秋以降減速していくのではないか、という声も聞かれました。

その理由について、王会長は言います。
「実は、最近海外の旅行業者から苦情が続出しています。苦情の中身は、貸切バスの不足と料金アップ。日本に送客しても、本当にバスが手配できるのか? 貸切バス運転手が1日10時間しか勤務できないのでは、ツアーに使えないのでは? それならドライバー2名制にすればいいではないか、などと海外の業者は言うのですが、日本のバス運転手は不足し、安全基準もそれを許さないため、対応できないことが増えているのです」

これが一見好調に見える訪日旅行市場の受け入れ態勢の現状です。このままで、本当に1300万人超えなるのか? 

今後を考えると本当に現在の好調さが続くのか、明るい見通しばかりではなさそうです。
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by sanyo-kansatu | 2014-10-08 17:16 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2014年 07月 29日

31回 中国客の訪問地の分散化に期待。中国ナンバーワン旅行会社、春秋国際旅行社のビジネス戦略に注目

拡大する中国の訪日旅行市場の今後の動向を占う上で注目すべきは、春秋国際旅行社の果敢なビジネス戦略です。2012年9月、日本で4番目の格安航空会社(LCC)の春秋航空日本を設立。今年に入り、上海以外の地方都市からの日本路線も続々就航させています。彼らの描く訪日旅行戦略とはどのようなものなのか。関係者らのインタビューをもとに、同グループのユニークな取り組みをお伝えします。
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日中関係が最悪といわれるなか、中国からの訪日客が増えています。

こうした事態に戸惑いを感じるむきもあるかもしれませんが、中国の消費者の立場で考えれば、これだけ航空路線の拡充と円安基調が定着すると、訪日旅行意欲がかきたてられるのは無理もないことです。

中国メディアがどんなに騒ごうと、政治と民間交流は別次元の話。個人レベルでは日本に行ってみたいというわけです。

そんな中国の訪日旅行市場の今後の動向を占う上で注目すべきは、春秋国際旅行社の果敢なビジネス戦略です。

5月に開かれた上海旅游博覧会(WTF2014)でも、同グループの出展ブースが最も活況を呈していたことは、前回報告したとおりです。
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いったい春秋国際旅行社とはどんな会社なのでしょうか。

取扱・売上ともに中国ナンバーワンの旅行会社

春秋旅行社の創業は1981年。87年に海外インバウンド客の受入を開始。春秋国際旅行社と改称しました。
その後、全国に販売ネットワークを広げ、現在、全国39都市に支店を開設。2000店舗を超える代理店を持っています。
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国内・海外を合わせた旅行取扱人数と売上は、15年間連続1位(2013年)という中国のナンバーワン旅行会社なのです。

同社は自前のエアラインを所有していることが最大の特徴です。春秋国際旅行社を母体として、2004年春秋航空を設立。これは中国で現在唯一の格安航空会社(LCC)です。

国内においては上海、瀋陽、石家庄の3拠点をハブと位置付けし、全国主要都市への路線網を拡げています。

国際線においても、日本以外に、ベトナムのダナン、マレーシアのコタ・キナバル、カンボジアのセムリアップ(アンコール・ワット)、タイのバンコク、チェンマイ、プーケット、シンガポールなど東南アジアのレジャー路線を中心に、着々と新規路線を開拓しています。
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すでに国内106路線、海外41路線(2014年6月現在)と路線網を持っています。

春秋航空は積極的な広告戦略でも知られています。

上海市内の地下鉄駅構内や車両に随時、新規就航路線を告知する広告を打ち出しています。近年、中国経済の減速が指摘されるように、ここ一、二年地下鉄構内の派手な広告が姿を消しているなか、春秋航空の存在感は圧倒的です。
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何より注目すべきは、初めての国際線就航地として茨城空港(2010年)を選んだことに象徴されるように、日本市場へのあくなき挑戦です。

さらに、春秋グループは、2012年9月、日本で4番目の格安航空会社(LCC)として春秋航空日本を設立。この夏国内線の運航を開始する予定です。

今年3月には上海・関空線も就航。7月以降、関空線を大幅に拡充し、天津、重慶、武漢、大連からの就航も予定されています。

中国・春秋航空、関空路線を大幅拡充(日本経済新聞2014年5月28日)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ280AR_Y4A520C1TJ2000/

訪日路線網の拡大で新しいツアー造成を

では、春秋グループが描く訪日旅行戦略とはどのようなものなのでしょうか。

上海旅游博覧会(WYF)閉幕の翌日(5月12日)、春秋国際旅行社本社で日本出境部経理の唐志亮氏に話を聞くことができたので、以下紹介します。

― 今回のWTFで御社は最大規模のブースを展開、多数のスタッフを会場に送り込み、即売にも力を入れていました。何をいちばん売りたかったのですか?

「会期中限定のキャンペーン料金を打ち出し、海外ツアーを販売するのが目的でした。販売コーナーの周囲には、クルーズや航空(春秋航空)、ビーチリゾート、自由旅行、都市観光バスなどのブースを個別に整え、プロモーションにも努めましたが、メインは販売です」

― 訪日旅行商品としてはどんなものがありますか?

「現在、春秋航空は上海から茨城、高松、佐賀、関空と4つの日本路線があり、それらの都市を組み合わせたツアーです。これから夏にかけて、北海道やファミリー向けにUSJやTDRを付けた本州のツアーも、市場のニーズに合わせて販売します」

— 御社の特長は自前の航空会社を持っていることですね?

「春秋グループが他社と違うのは、自前の航空会社を持つだけではなく、旅行会社と航空会社が対等な関係にあることです。

一般にこの業界では、航空会社が旅行会社の上位にあり、路線開拓に合わせてツアーを造成させるという主従関係にある場合が多いですが、弊社は母体が旅行会社でもあり、ともに協力しながら発展していくというのがビジネスモデルです。

春秋航空の路線計画はレジャー市場に合わせて展開されます。日本の航空会社が中国路線ではビジネス路線に注力しているのとは対照的です。もちろん、我々もビジネス客の動向も合わせて考えていますが、メインはレジャー市場です」

― 自前のエアラインを持つことで、他の旅行会社にはない、どんな訪日ツアーが商品化されているのでしょうか?

「そうはいっても、お客様のニーズに合わせた商品造成が基本となりますから、東京・大阪のゴールデンルートがいちばん人気であることは、実は変わりません。

そこで、弊社の場合は、春秋航空の乗り入れている高松や茨城を起点としてゴールデンルートに新しい変化を加え、3月15日から就航している関空+X、それ(X)は九州(佐賀out)であり、中部であり、鳥取(2012年9月、同社は米子空港へのチャーター便を計画するが、中止された)であり、四国(香川out)であるといったさまざまな組み合わせが可能となります」

― 関空就航の意味は大きいですね。さらに、まもなく春秋航空日本が国内線の運航を開始します。

「それ以後は国際線に加えて、成田―高松、佐賀、広島の国内線も組み合わせることができるようになります。それだけでなく、たとえば、佐賀inで福岡から他社便を利用し、人気の北海道に行くというツアーも考えています。

実は、春秋航空は今後さらに新千歳や那覇など日本各地に就航する考えを持っています」

― とはいえ、昨今の日中関係の悪化は気になるところですね。中国からの訪日客は増えていますが、日本からの訪中客は減少の一途をたどっています。

「確かに、政治的にはそうかもしれませんが、私には何とも言いようがありません。でも、はっきり言えるのは、日中間の民間交流は止まらないということです。

弊社の役割は、そのためのベースづくりをすることだと考えています。2011年5月、東日本大震災後、中国から初めて東北を訪ねる旅行関係者のツアーを実施したのも弊社です。上海・茨城線を利用したものですが、その後も茨城線は運航を続けました。

これからは中国からの訪日だけでなく、日本からの訪中の双方向の交流を進めたいと考えています。

そのためにはさまざまな手を打たなければなりません。また就航地を増やしたからといって、すぐにツアーのバリエーションが増えるかというと、そんなに簡単ではない。

新しいツアーコースの造成においても、東京や大阪は外せないと考えています。中国の消費者は、やはり日本に旅行に行く以上、東京や大阪には絶対立ち寄りたいのです。お客様のニーズがそうである以上、いきなり東京や大阪なしの新しいデスティネーションだけのツアーの造成は難しいと考えています。

佐賀線があるので、なんとか九州を売りたいと考えていますが、九州だけのツアーではまだなかなか売れない。そこで、佐賀inで春秋航空日本の国内線を利用して成田に飛び、東京に立ち寄り、茨城outとなるコースや、佐賀inで九州と中国地方を周遊し、関空outとなるコースなどを仕掛けたいと思います。

ツアー企画を成功させるためのポイントは『人気の場所+新しいデスティネーション』の組み合わせなのです」

― なるほど、明確な戦略を持ちつつも、あくまで現実的な戦術をとるわけですね?

「もちろん、今後はFITも増えていきますから、着地型の商品(日本国内で造成される中国客向け商品)も作っていくことになると思います」

唐志亮さんは1983年上海生まれの「80后」世代。福岡、京都(大学)、東京(就職)と8年間日本で暮らしたそうです。春秋旅行社入社は2年半前。「まだ経験が足りませんが、日本の事情には通じているので、それを活かしたい」とのこと。上海人の若い世代らしく、とても明快なビジネス戦略を言葉にしてくれました。

春秋航空日本を設立した理由

先頃、春秋航空日本の国内線の運航開始が6月末から8月上旬に延期となったことが報じられました。それ以前に他の国内LCCも減便を迫られる事態が伝えられていたばかりでしたから、日本のLCCの抱える課題が浮き彫りにされた面がありました。

春秋航空日本、8月に就航延期、高松線減便も−最大1万席に影響(トラベルビジョン2014年6月8日)
http://www.travelvision.jp/news-jpn/detail.php?id=61885

それでも、春秋航空が日本路線を拡充する動きは止まりません。その目的は何なのか。彼らは日本におけるLCC設立をどう位置づけているのでしょうか。

昨年11月、春秋航空日本市場開発部の孫振誠部長に話を聞いています。以下、その内容です。

― 中国の旅行会社で自前の航空会社を持っているのは春秋旅行社だけだそうですね。なぜ航空会社を所有しようと考えたのですか?

「航空会社を設立する前から、春秋旅行社ではチャーター便ビジネスを積極的に手がけてきました。中国は団体客が多く、ツアーコストを下げられるチャーター便利用のツアーは人気があるのです。1997~2004年までの7年間で約3万便。こんなに飛ばせるなら、自社で航空会社を持ったほうがいいと考えるのは当然です。ドイツの旅行大手TUIが航空会社を持っていることから、我々も学んだのです。

国内線の申請は2004年、就航は05年6月18日からです。最初は便数が多くないため、運営は苦しかったです。1日10機以上飛ばないと赤字になる。それでも、コストを下げるためのあらゆる工夫をして1年目から黒字となりました。中国では、それまでLCCの運営は不可能と言われていましたが、我々は不可能を実現したのです」

― 黒字になった理由をどうお考えですか?

「以下の5つの理由があります。
①チケットはすべてネット販売
②1機あたりの1日の運航時間を11時間とすること(通常は9時間)
③座席数は180とする(通常は157)
④オフィスビルは質素にするなど、できるだけ余計なコストをかけない
⑤搭乗率が高い(05年以来、平均95%を維持)

春秋航空の方針は、これまで飛行機に乗ったことのない人に乗ってもらおう。バスのように気軽に使ってもらおう、というものです。だから、席が余ったら1円でも乗ってくださいと。それをやったら、2012年秋の上海・茨城線で失敗しましたが(笑)。中国国内で反発が出たんです。発売後、3日目で中止となりました」

春秋航空、佐賀・高松~上海の「1円航空券」中止(2012年10月19日)
http://www.j-cast.com/2012/10/19150671.html

― 日本を最初の就航地に選んだ理由は何だったのですか?

「国際線は2008年頃から計画を始めました。これから中国は海外旅行客が増大するだろう。弊社が使うエアバスは運航効率から考えて5時間圏内が最適だったので、東南アジアの一部や韓国、日本の中から最初はどこに飛ばすか考えました。

当時は日本からの訪中客が多かった。経済交流も進み、双方の国の人的往来が頻繁でした。また中日路線は利益率がいいという経済的な理由もありました」

― そして、2012年10月に春秋航空日本株式会社を設立されました。その目的は?

「日本で航空会社を設立した目的は、現状では中国からの乗り入れの難しい成田や羽田から国際線を中国に向けて飛ばすことです。

実は、LCCである春秋航空は中国でも北京になかなか乗り入れできないのです。でも、日本の航空会社であれば、成田や羽田を利用できる。これは茨城線就航後、すぐに考えたことです。

今後は中国の地方都市からも日本路線を増やす予定です。

中国は人口が多いので、1%でも1300万人、大きいですよ。最近、中国人は年に何回も海外旅行に行きます。日本は近いし、1990年代からたくさんの中国人が日本に留学したり、仕事をしたり、つながりが多い。日本の良さをよく知っているんです」

春秋航空、関空拠点化へ−7月に武漢、天津、重慶線開設、上海線増便も(トラベルビジョン2014年5月28日)
http://www.travelvision.jp/news/detail.php?id=61719

民営企業ゆえの徹底した顧客目線のビジネス

春秋グループの歩みを見ていると、国際標準に即した明確な戦略を持ち、一つひとつ市場を着実に開拓していけば、結果がついてくるということを教えられます。

そもそも新規路線の就航のための努力は、中国でも日本でも基本的に変わらない。いかに地元に受け入れられ、協力してもらえるかにかかっている。

日本路線の開設や日本法人の立ち上げも、これまでずっと中国国内で経験してきたことの積み重ねだったといえます。

ところで、取扱人数・売上ともに中国ナンバーワンの旅行会社とはいうものの、実際に訪ねた春秋旅行社本社の店舗は実に質素でささやかなものでした。カウンターの前に客が座り、スタッフが対面して静かに接客している光景は、ほとんど日本の旅行会社の店舗と変わらない印象でした。
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同社のコスト削減の姿勢は徹底していることで知られています。

これは春秋航空本社ビルでも同じでしたが、昼間オフィス内は基本的に電気や冷房は付けないそうです。コスト引き下げのために関係各社や自治体に協力を求める以上、自らも姿勢を正すべきというトップの意向によるものです。

実は、先日成田の春秋航空日本のオフィスを訪ねたのですが、冷房を使わず、そこでも大きな扇風機が回っていたのは印象的でした。

ビジネスのあらゆる局面で政治に翻弄されがちな中国で、国営企業に比べ立場の弱い民営企業が生き残るには、マーケットのニーズにとことん忠実であること。徹底した顧客目線でビジネスを展開していくことが、ある意味日本以上に求められる面があるのに違いありません。

春秋グループの関係者と話をしていると、日本から学びたいという謙虚な姿勢も明快です。JTBとの提携や春秋航空日本の設立も、日本のサービスや安全基準を自社に取り入れることが強く意識されています。

確かに、中国を取り巻く国際情勢の行方は見通しが立てにくいと考えるむきは多いでしょう。しかし、重要なのは、個別の企業が具体的に何をやっているか、それで判断するしかない。春秋グループのブレない取り組みを見ていると、その思いを強くします。「国進民退」といわれる中国にも、こうした良質な民営企業があることを知っておくことは、時代のムードに安易に流されないためにも大切だと思います。

国内外のレジャー市場に注力し、茨城や高松、佐賀といった日本の地方都市にあえて路線を築いてきた春秋航空の取り組みは、東アジアにおけるLCCのビジネスモデルのひとつの先駆けといえるのではないでしょうか。

春秋航空と春秋航空日本の路線網の拡充がもたらすのは、中国客の訪問地の分散化です。

新たに就航する国際線と国内線を組み合わせることで、これまで実現できなかった多数の周遊ルートが考えられるからです。近年、過度な集中が懸念されている東京・大阪のゴールデンルート一辺倒だった中国客のツアーコースに新しいバリエーションが生まれていくことを期待したいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-07-29 12:48 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)