ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ

タグ:旅行会社・ランドオペレーター ( 51 ) タグの人気記事


2014年 02月 04日

今年の春節に中国客が戻った理由は、上海の訪日自粛がとけたから

日本経済新聞2014 年1月30日によると、「31日からの春節(旧正月)の期間中に、中国からの訪日客数が大幅に回復する見込み」となったそうです。
b0235153_14442798.jpg

「日本向け査証(ビザ)発給のほぼ半分を占める上海の日本総領事館では、個人観光ビザの発給が過去最高のペース」。「昨年12月に発給した個人観光ビザは約1万4400件」で「前年同月の3.6倍」。「今年1月に入ってからも順調に伸びている」(上海の総領事館)といいます。

「中国人の訪日客は反日デモが起きた2012年秋以降に落ち込み、昨年9月に1年ぶりにプラスに転じ」ていましたが、昨年末の安部総理の靖国参拝がどう影響するか、関係者はやきもきしていました。

なんといっても、背景には円安があります。「中国・人民元に対して日本円は年間で20%程度下がって」おり、中国客からすると、日本の割安感はハンパじゃないと思われます。先月上旬ぼくは北京を訪ねたのですが、1万円両替してもわずか550元。2年前なら800元近かったことを思えば、急激に人民元が強くなっていることを痛感しました。

同紙では、中国の個人ビザ客の実態として「私費旅行」が増えたと分析しています。「習近平指導部が進める綱紀粛正」により、「今年1月から共産党員や公務員を対象に公務を名目とする視察旅行を禁じ」ており、それでも訪日客数が増えたのは、「欧米よりも割安な日本に私費で旅行する人が増えたとみられる」からだといいます。

中国客の復調をふまえ、中国LCCの吉祥航空(上海)が1月31日から上海・那覇線週4便を就航しました。同キャリアは12年9月に就航を予定していたものの、尖閣問題で延期していました。

那覇―上海に就航 吉祥航空、週4往復の定期便(琉球新報2014年2月1日)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-218697-storytopic-4.html

同紙は、「訪日客1人あたりの買い物代金」の主要国比べのグラフを掲載し、「旅行中に飲食や買い物などに使う金額」のトップとして中国を挙げ、「高額消費に期待」をかけています。中国客を金づるとしか見ようとしない同紙の姿勢は相も変わらずですが、中国客が訪れる個別の量販店を除いて、実際どれほどの消費が期待できるのか、あやしい気がします。中国人観光客=経済効果といった単純な見方はそろそろやめにしてもらいたいものです。

もっとも、靖国参拝であれほど大騒ぎしていた中国から観光客が戻ってきたというのは、単なる円安のせいだけではなさそうです。東洋経済オンラインでは、以下のコラムが背景を解説しています。

反日に変化? 中国人観光客が大挙して来日中~春節で「肺をきれいにする」ツアーの側面も(東洋経済オンライン 2014.2.3)
http://toyokeizai.net/articles/-/29780

同コラムでは、訪日客が増えた理由を、中国人の立場からみた「福建省の老朋友(古い友人)」の話として、以下の6点を挙げています。

①中国は環境汚染がひどいのに、日本は「PM2.5」の心配をほとんどせずに済むので本当に安心だ。
②中国の食品は危ないものもあるが、日本で食べる食品はおおむね安全で新鮮で美味しい。
③中国の観光地に行くと混雑していてゴミも多い。だが日本はほとんどどこでも綺麗だ。
④中国で買い物をすると偽物が少なくない。だが日本人は正直なのでほとんど心配ない。
⑤中国では軍国主義の日本の話ばかりTVで放映しているが、全部ウソだとわかった。
⑥中国のサービスは金儲けが主体だが、日本のホテルや旅館の「おもてなし」は最高だ。

さらに、「客観的な」理由として、以下の6点も付け加えています。

①日本の外務省が、ビザの発給基準を緩和した。
②日本円が円安傾向のため、日本旅行は割安感が出た。
③欧州旅行よりも手軽で近いから、春節の旅行にはうってつけ。
④福島原発の危険性は、以前よりも少なくなった。
⑤東京オリンピック、富士山の世界遺産のニュースが後押しした。
⑥東南アジアは混雑する上に、タイの暴動などが旅客の足を日本に向けた。

ここで挙げられるポイントに特に間違った指摘はないと思われますが、なぜ昨秋頃から徐々に中国からの訪日客が回復してきたかという理由については、答えていないと思います。

ではその理由は何か。

ひとことでいえば、一昨年秋の尖閣問題以降、訪日旅行の最大マーケットだった上海に対する中国国内のバッシングが夏頃からようやく収まってきて、上海の消費者の訪日自粛がとけたからなのです。

ここでいうバッシングというのは、一昨年秋冬に起きた「春秋航空0円キャンペーン」や「上海発熊本へのクルーズ客」に対するネットなどで見られた執拗な批判のことです。「なぜ上海人は(尖閣問題が起きたばかりの)こんなときに、のこのこ日本に旅行に行ったりするのだ」と、まるで上海人に対するイジメのようなネガティブキャンペーンが中国国内で繰り広げられていたのです。そのため、上海の旅行関係者らはしばらく訪日旅行ビジネスを自粛するほかなかったのでした。上海の消費者も極力日本に行くことを避けていたのです。

昨年11月、上海を訪ねたとき、ある旅行関係者は、当時の状況について「中国では上海人はとことん嫌われていると感じた」と感想をもらしていました。経済的に恵まれた上海に対する妬みは、こんな形で現れてくるというのです。

そうしたトラウマからの自粛がほぼとけたのが、昨年9月でした。その頃からいっせいに新聞に訪日旅行の広告が掲載されるようになりました。結果的に、10月以降の訪日中国人数は回復したのです。

訪日中国人数
2013年10月 前年同月比74.1%増
    11月 前年同月比96.0%増
    12月 前年同月比84.8%増

JNTO報道資料(2014年1月17日)
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/pdf/140117_monthly.pdf

そういう意味では、今年の春節の訪日客が増えたことであんまり盛り上げすぎると、またもやバッシングが再開されるかもしれません。気をつけたいものです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-02-04 14:43 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2013年 12月 30日

HISのグローバル戦略の最前線がバンコクである理由

今年8月、タイのインターナショナル・トラベル・フェア(TITF2013)の視察の折、HISバンコク統括支店長の話を聞くことができました。今年、タイからの訪日客が増えた背景に、ビザ緩和や円高是正があったことは確かですが、民間企業の精力的な取り組みが大きく貢献していると思います。

なぜ同社のグローバル戦略の拠点はタイなのか。日本と同様、市内交通機関の中はスマホを手にした乗客であふれるバンコクで、あえて旅行店舗の出店を加速する意外な理由について。以下、今月中旬に刊行された産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」に掲載したインタビュー記事を採録します。
b0235153_9375287.jpg

日本を取り巻くグローバルな観光マーケットが急成長するなか、日本の旅行業はどこに向かうべきか。ひとつのカギは「ツーウェイツーリズム」にある。それを地道に実践しているのがHISだ。

2013年8月中旬、タイの首都バンコクで開催されたタイ・インターナショナル・トラベル・フェア(TITF)の会場で、同社のグローバル戦略の現在について中村謙志バンコク統括支店長に話をうかがった。

この国では我々の知名度はない

中村さんがバンコクに赴任し、タイのローカル市場に取り組んで13年で4年目。その手始めが、国内外の旅行会社が集まる展示即売会のトラベルフェアへの出展だった。「この国では我々の知名度はない。HISといってもタイ人は誰も何の会社か知らない。ゼロからのスタートでした」という。
b0235153_9385310.jpg

初年度は小さなブースで、扱ったのは航空券とJRパスだけ。その後、本格的にツアーを造成し、ブースもだんだん大きくした。今回の展示即売の目玉商品は、就航したばかりのチャーター航空会社アジア アトランティック エアラインズ(AAA)を利用した大阪・東京ゴールデンルート。「4泊6日・29999バーツ(約9万3000円)という破格の料金で売り出したところ、1000名が完売でした」。
b0235153_9393364.jpg

旗艦店となるトラベルワンダーランドで年間通じて売れているのは、航空券+ホテル(+JRパス)。自由旅行の商品だ。一方ソンクラーン(タイの旧正月)の4月とスクールホリデー(夏休み)の10月の年2回のピークシーズンは、添乗員同行の団体ツアーが人気だ。

売れ筋は、東京、富士山、箱根の5日間、東京・大阪ゴールデンルート、大阪・京都5日間、北海道(道南)の順。最近、北海道でレンタカーを利用するタイの個人客も現れたという。「タイ人は普段から日本車に乗り、左側車線の国ですからね」。

バンコクの出店を加速する理由

ネット予約の普及などビジネス環境の変化で、日本では旅行店舗の整理縮小が進んでいるが、バンコクで出店を加速するのはなぜか。そこには意外な理由があった。

「ローカルを取り込む戦略の軸は店舗展開です。なぜなのか。広告効果が大きいからです。場所はスカイトレインの駅構内やショッピングセンターなど、消費者に目につきやすい場所限定です。実は、バンコクでは一等地に広告を出すのと家賃にかかるコストはたいして変わらない。であれば、店舗を出そう。ただし、常駐スタッフは1、2名の『KIOSK店舗』。それを量産することで、我々の存在を知ってもらう」。
b0235153_9402574.jpg

店舗ではHISの海外旅行商品のパンフレットを大量に用意している。タイでは、日本のようなセールスカウンターのある旅行店舗は少なく、パンフレットは流通していない。誰もがスマホを手にする時代でも、細かく旅行日程が書かれた紙のパンフレットはタイ人に好評だという。

一方、タイには旅行業法や約款が存在しない。キャンセルチャージも個々の旅行会社の裁量に任されている。「震災のような有事にガイドラインがないと困るが、HISは日本の会社だから信用できるといってくださるお客様が増えている。タイにはメイド・イン・ジャパンへの信認がある」と中村さんはいう。

ローカル客を取り込むためには、タイ人を理解することが不可欠だ。

「タイのお客様がどんな旅を望んでいるか、日本人の私はどんなに勉強してもわからない。だから、添乗にもよく同行します。お客様が何を喜んでいるのか、おいしいと思うのか、どの風景をバックで写真を撮りたいのか。勘が鈍るのはいちばんまずい」。

いくつかわかってきたことがある。「タイ人はタバコが嫌い。ほとんどの人が吸いません。ところが、日本のホテルはタバコ臭い。ですから、ホテルの手配は禁煙ルームが絶対条件です。タバコを吸えるレストランも選びません。タイのお客様は日本食好きで、滞在中すべて日本食でもいいのですが、気をつけないといけないのは生もの。タイで出回っているお寿司のネタは限られています。お店が気を利かしたつもりで珍しいネタを出しても、生ダコなどは気持ち悪がって決して食べようとしない。全員残すこともよくある。もし本当にタイのお客様を受け入れたいと思うなら、タイ人を理解して細かい気配りが必要です」

タイでは旅番組の影響が大きいこともわかった。「いい例が、いまタイ人が多く訪れている白川郷や高山、富良野のラベンダー、岩国の錦帯橋、瀬戸内のしまなみ街道、指宿温泉の砂蒸し風呂など」。「ある日、局地的な人気が起こる」だけに、訪日プロモーションはテレビを活用するのが効果的だという。

なぜタイが拠点として選ばれたのか

では、HISの海外戦略においてなぜバンコクが最前線の拠点として選ばれたのか。中村さんはこう即答する。「タイには大きなコンペティターがいないからです」。

重要拠点を選ぶ条件は、これから伸びる市場。しかも、インバウンドからアウトバウンドに旅行マーケットが移り変わる時期で、大手エージェントが不在の国。それがタイ、インドネシア、ベトナムだという。 

日本の旅行業界は一見国際的なイメージがありながら、実はドメスティックな体質が残っている。早くから海外で売上を生み出してきた製造業に比べ、海外営業所がありながら、売上に貢献してはいなかった。

「海外拠点をつくり、日本のお客様をきちんとご案内する。これが第一ステップ。でも、その役目だけで終わらせてはもったいない。企業のグローバル化はローカルに根付かなければ意味がない。それぞれの国でHISを発展させる。私はタイを任されていますが、インドネシアやベトナムに赴任した同僚もそう思っている。いまではHISジャカルタ支店で集客したインドネシア客をバンコク支店がインバウンド業務として受ける。またシンガポール支店とも、という日本をまったく介さないビジネスも始まっています」。

これはもはやツーウェイではない。マルチウェイツーリズムとでもいえばいいのか。いまHISバンコク支店で起きている仕事の現場を通じて、新しい旅行業の未来が見えてくる。


中村謙志(なかむら・けんじ)
1996年入社。いくつかの国内支店を勤めた後、「グローバル化戦略の一期生」として2009年、トラベルワンダーランド立ち上げのためにバンコク赴任。初めての海外駐在だった。支店長として現在にいたる。「目標は、タイでナンバーワンのトラベルエージェンシーになることです」。 

※産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」p70~P73より抜粋http://sangakusha.jp/ISBN978-4-7825-3376-5.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-12-30 09:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 30日

日本滞在おひとり様100万円の富裕層旅行市場

今年3月、日本初の富裕層旅行に特化した商談会「ジャパン・ラグジュアリー・トラベルマーケット(ILTM Japan)」が京都で開催されたことで、海外からの「富裕層旅行市場」がひそかに注目されています。

※関連記事
京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催
http://inbound.exblog.jp/21590385/
ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー報告
http://inbound.exblog.jp/21681992/

では、「富裕層旅行市場」というのはどんな世界なのか。日本の旅行最大手であるJTBでは、ブティックJTBという富裕層旅行に特化したセクションを設け、市場の取り込みを進めています。以下、今月中旬に刊行された産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」に掲載した同室長へのインタビュー記事を採録します。
b0235153_1019471.jpg

日本の旅行業は長い間、パッケージツアーというマスツーリズムを前提にしたビジネスモデルに依存してきた。だが、旅行市場を取り巻く環境が変わり、グローバル化するなかで商品・チャネルが多様化し、富裕層市場も注目されている。その実態は? JTBグローバルマーケティング&トラベルの「ブティックJTB」室長、遠藤由理子さんに富裕層ビジネスの仕事の中身をうかがった。

富裕層マーケットは地上費100万円の顧客

訪日旅行事業のプロフェッショナルカンパニーとして知られる同社に、海外の富裕層向けブランド「ブティックJTB」事業が社内プロジェクトとして立ち上がったのが2007年。それまで国・地域別に訪日客に対応していた同社では、富裕層というセグメントを分ける認識はなかった。だが、同年12月にフランス・カンヌで開かれた「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット(ILTM2007 )」に出展。「海外には富裕層だけを専門に扱う業態があることを知り、日本を売る我々もその市場に正対した組織体制でやっていくべきと判断。08 年にグループとして発足した」と遠藤さんはいう。

では、富裕層とはどんなマーケットなのか? 

「明確な定義はないのですが、我々が目指す顧客像は、航空機を除く日本滞在の費用(地上費)として100万円くらい落とすお客様と定義しています。10日間の滞在で、1日おひとり様10万円程度使う計算です。その内訳は、宿泊は5つ星級ホテルで1泊5万円が相場。車とガイドを1日プライベートで手配すると10万円。さらに、食事や体験プランで5万円。おふたりでトータル20万円になります。ここでいう食事や体験とは、一般的なツーリスティックな内容ではなく、特別なプランになります」。

自分だけしか体験できない“本物”の旅

世界の富裕層は日本に何を求めているのだろうか? 

「国によって、お客様によって求めるものが違います。アメリカのお客様は比較的インテリの方が多く、リゾートには飽き飽きしているといいます。だから体験プランの場合も、一般に茶道や着付け、料理体験などが人気ですが、通常のパッケージコースに組み込まれるような場所でやるのは面白くないということで、たとえば、ミシュランの2つ星を取っているシェフのサロンを訪ね、個人レッスンを受けていただく。京都のお寺の一般公開の終わった後、VIPルームで住職さんから寺の歴史を説明していただき、本堂をご案内。篠笛と尺八の演奏と庭園を見ながら、茶会席のお食事をしていただく。日本の伝統芸能のバックステージを理解していただくために、歌舞伎役者の方にお願いして、お化粧や着付けのシーンを見せていただき、最後に簡単な演目を演じていただく。もちろん、そのお客様のためだけに、です」。

彼らが求めているのは、自分だけしか体験できないこと。「あなただけのための旅行をつくりました」というオーダーメイドのプランである。

だからといって、すべてが綿密につくり込まれたプランでなければならないというわけではない。たとえば、最近全米でヒットした映画『二郎は鮨の夢を見る』を観たアメリカ人から「すきやばし次郎に行きたいが、ブッキングはできるか?」といった問い合わせがくるそうだ。ミシュランの3つ星が付いたお寿司屋の主人の物語。飛行機に乗ってでも、それだけを食べに行きたいという。

14室のスィートしかない豪華列車、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」も話題である。鉄道旅行は海外でも人気が高く、今後の海外富裕層の動向が注目される。石川県にあるかよう亭という温泉旅館は、わずか10室の宿だが、ご主人が外国人客を近所の焼き物の工房や合鴨農法の農家に案内するなど心のこもった接遇をすることから、送客すると必ず「パーフェクト!」といわれるそうだ。

重要なのは“本物”であること。ストーリー性があることが大切で、なぜそれが素晴らしいかという物語=ヒストリーがあるものでなければ、彼らは納得しない。 
   

「難しいのは、どんなスペシャルな提案をしても、そのお客様の心に刺さらないと意味がないこと。また中国では万里の長城でパーティができるじゃないか。ドイツでは古城でできるのに、なぜ日本ではできないのかと、他国と比較されることもしばしば」。

公平を重んじる日本の社会は、VIPに対する特別な接待の提供が難しい面も多く、対応してくれるコネクションとの関係構築を日々進めているという。 

海外のバイヤーとのネットワークが不可欠

日本に富裕層を呼び込むためには、海外の富裕層専門のバイヤーとのネットワークが不可欠だ。北米や中南米、オセアニアの富裕層バイヤーを束ねるエージェント組織「VIRTUOSO」の関係者との商談会のため、先日遠藤さんはラスベガスを訪ねた。そこは、ひとりでも多くのバイヤーに会い、その場で顔を売っていくことでビジネスを広げていく世界だ。

「日本の旅行会社は規模が大きく安心安全なイメージがありますが、富裕層マーケットの場合、海外のバイヤーは個人で年間10名程度のお客様を扱うような世界。その代わり、一人ひとりのお客様とは友人のような親密な関係になる。だから、誰に頼むのか、顔が大事になる。組織はむしろ小さくて、あなただけのためにやりますよ、というのでなければ、仕事は来ないのです」

それは、これまでのマスツーリズムに注力することで成長してきた日本の旅行業のビジネスモデルとは、ある意味真逆の世界といえるかもしれない。

遠藤さんは「ブティックJTB」の目指すべきビジョンとして次のように語る。

「世界の富裕層が求める本物の和を伝えるプロフェッショナルとして、世界と日本の心を結び、訪日インバウンド富裕層事業の牽引役として日本ブランド価値向上とインバウンドビジネスの活性化に貢献する」。

残念ながら世界の富裕層市場での日本の認知度はまだ低い。もっとアピールすべきだし、伸びしろもあるはずだ。富裕層マーケットは、取り扱い人数は少なくても、世界の旅行業界に与える影響は大きい。世界の旅行シーンに新しいトレンドをつくり出すのは、実は富裕層なのだ。日本のブランド価値向上のため、「ブティックJTB」に与えられたミッションは大きいのである。

遠藤由理子(えんどう・ゆりこ)
1986年日本交通公社(現JTB )入社。2000年、国際旅行事業部。04年からエージェンシー営業部で米国マーケットを担当。08年よりJTBグローバルマーケティング&トラベルで「ブティックJTB」室長として現在にいたる。「富裕層ビジネスは、日本の価値の伝道師であるという気概を持つことが大事です」

※産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」p74~P77より抜粋http://sangakusha.jp/ISBN978-4-7825-3376-5.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-12-30 09:18 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 20日

富裕層旅行には先進国型と新興国型の2種類ある(ILTM2013 セミナー報告)

11月22日、青山学院大学IVY HALL「バンケットルーム・サフラン」で観光庁主催の「ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー~今、富裕層旅行市場を捉えるためには~」がありました。やまとごころの取材で、セミナーに出席し、関係者の話を聞くことができたので、報告します。

やまとごころ http://www.yamatogokoro.jp/event_report/index12.html

今年3月、日本初の富裕層旅行に特化した商談会「ジャパン・ラグジュアリー・トラベルマーケット(ILTM Japan)」が京都で開催されました。会場のザ・ソウドウ東山では、日本の富裕層旅行マーケットの開拓を目指し、国内外のバイヤーと出展者が商談を繰り広げました。次期開催は、2014年3月17日~19日に決定しています。では、富裕層旅行とはどのようなものなのか。今回は、国内外の有識者による富裕層旅行セミナーを報告します。

※京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催
http://inbound.exblog.jp/21590385/

目次
セミナー報告
講演「富裕層旅行市場の現状と今後の動向」
講師:Alison Gilmore(Reed Travel Exhibitions社)
「アジアにおける富裕層旅行市場の中の日本」
講師:Stephen Junca(Seactet Retreat社)
パネルディスカッション「日本の地域性から見る富裕層旅行市場への取組み」
パネリスト:Alison Gilmore(Reed Travel Exhibitions社)
       Stephen Junca(Seactet Retreat社)
       遠藤 由理子(JTBグローバルマーケティング&トラベル ブティックJTB事業室長)
      Jens Moesker(シャングリ・ラ ホテル東京総支配人)
モデレーター:福永 浩貴(株式会社アール・プロジェクト・インコーポレイテッド)
Alison Gilmore 氏インタビュー
ILTM Japan 2014概要
<編集後記>


セミナー報告
「富裕層旅行市場の現状と今後の動向」 (Alison Gilmore/Reed Travel Exhibitions社)他
b0235153_74437.jpg

今日の世界の富裕層が好むのは、必ずしもプライベートジェットやクルーズ客船、ファイブスターホテルのスタイリッシュな客室などにイメージされる豪華な旅というわけではありません。では、「ラグジュアリー旅行」の定義とは何でしょうか。

「ラグジュアリー旅行」には、クラシックモデルとニューモデルの2つのタイプがあります。以下、それぞれのキーワードを書き出してみます。

●クラシックモデル
High level of comfort(ハイレベルの快適性)
Status symbol(ステイタスシンボル)
The best service(ベストなサービス)
Privacy Guaranteed(プライバシーの確保)
Exclusive location(独占的なロケーション)

これは従来型の「ラグジュアリー旅行」のイメージです。一方、今日主流となっているのは以下のようなものです。

●ニューモデル
Experiential travel(体験旅行)
Authentic experiences(“本物”の体験)
Ecotourism(エコツーリズム)
Voluntourism(ボランティア旅行)
Sustainability(持続可能性)
b0235153_7405034.jpg

両者を比較すると、以下のようなキーワードで対比できます。

クラシック   vs ニューモデル
Product(製品)   Experience(体験)
Place(場所) Everyplace(どこでも)
Price(価格)     Exchange(交換)
Promotion(プロモーション)Evangelism(福音主義)

今日の富裕層が求めているのは、“本物”の体験です。インドやブラジル、中国といった新興国ではまだクラシックモデルが一般的かもしれませんが、日本をはじめとした先進国ではニューモデルの旅が求められています。

日本には“本物”があります。日本のラグジュアリーのDNAと私が呼ぶキーワードは以下のようなものです。

Heritage(遺産)
Culture(文化)
Craftsmanship(熟練した職人の技能)
Service(サービス)
Prestige(信望)
Privacy(プライバシー)
b0235153_7411498.jpg

こうしたDNAをすべて兼ね備えた日本には、富裕層旅行マーケットとしての大きな可能性があります。でもまだ海外ではよく知られていません。ILTM Japanは、こうした日本の魅力を世界にアピールする場となるはずです。
b0235153_740221.jpg

“本物”の体験の重要性については、Seactet Retreat社のStephen Junca氏も「アジアにおける富裕層旅行市場の中の日本」と題された講演の中でも指摘されました。

パネルディスカッション「日本の地域性から見る富裕層旅行市場への取組み」の中で、JTBグローバルマーケティング&トラベル ブティックJTB事業室長の遠藤由理子氏は、同社の富裕層旅行者の受け入れ実績を通じて、彼らが求めるのは日本の文化や歴史に関する“本物”の体験であること。すべて顧客一人ひとりのリクエストに応じたテーラーメイドな旅程が組まれていること。今後重要となるのは、富裕層に“本物”の体験を提供してくれる日本各地の多様なサプライヤーとのネットワークであると述べています。


Alison Gilmore 氏インタビュー
「文化や伝統に富んだ日本は魅力的なディスティネーション」

ILTM Japanエキジビション・ディレクターのAlison Gilmore 氏は、過去20年間、富裕層旅行マーケットの現場で経験を積んできました。Gilmore 氏に話を聞きました。

――日本の富裕層旅行マーケットをどう捉えていますか。
「日本のポテンシャルはとても大きい。世界の富裕層旅行マーケットの潮流は、かつてのような豪華さを追求するだけでなく、本物志向の体験を大事にする旅行に変わりつつあります。文化や伝統に富んだ日本は魅力的なディスティネーションです」。

――日本では大手の旅行会社でも富裕層というセグメントを意識した顧客の取り込みを手がけたのは最近のことです。ヨーロッパでは富裕層旅行にも歴史がありますね。
「ヨーロッパでは19世紀にすでにグランドツーリズと呼ばれる富裕層旅行の歴史があります。富裕層旅行はもともとクローズドなマーケットなので、海外でも実際に手がけているのは、プライベート・コンシェルジュと呼ばれる、特定の顧客を持った小さなエージェントが多いです。ILTMはそうしたバイヤーたちが出会うプラットフォームを提供しているのです」。

――日本の富裕層旅行マーケットの現状についてどうお感じですか。
「日本の知名度はまだ低いと感じています。これまであまりインバウンドのプロモーションをしてこなかったこと。国内旅行客へのアピールが中心で、海外に対する情報発信ができていなかったと思います。しかし、世界の富裕層旅行のトレンドが豪華型から体験型に変わってきたため、日本の魅力が注目されています」。

――今春、日本でILTM Japanを開催した目的、経緯は?
「世界の富裕層旅行を扱うエージェントの多くが日本に興味を持っているのに、なかなか入っていくのが難しいマーケットと考えられていました。今回、京都市がとても協力的で、実現にたどりつけました」。

――手ごたえはどうでしたか。
「大成功だったと思います。今回参加いただいた海外のバイヤーの多くがすでにお客さまを日本に送っていただいています。何より彼らが日本について知ることができたのが大きいです。やはり、彼らに実際に日本を見てもらうことが重要です」。

――アジアからのバイヤーもいましたね。
「シンガポールや中国などですね。今回は初の開催でしたから、日本に近いアジアの国々のバイヤーが多かったですが、次回からは欧米諸国などもっとバランスをとることができると思います」。

――海外の富裕層は日本のどこに興味を持っているのでしょうか。
「やはり日本の文化や伝統です。海外から見て、日本は神秘的な国です。もっと誇っていいと思います」。

――海外に向けてプロモーションをするうえでのポイントは?
「言語は障害ではありません。日本は旅行のインフラも整っています。簡単に旅行できる国であることをもっとPRすべきでしょう。富裕層というとお金持ち相手というイメージが強いですが、ただ単にお金持ちをターゲットにしているわけではありません。日本には魅力的な素材がたくさんあるので、もっと映像やイメージを使って海外に情報発信すべきです。これ以上、なにか新しいものをつくるというのではなく、既存のものをアピールすることです」。

――商談会に参加するにあたって何か基準はあるのでしょうか。
「ILTMには独自の審査基準があって、それを満たした方のみご参加いただけます。それはこれまでの弊社の経験からその商品が富裕層にアピールするかどうかを判断するというものです。自分たちの商品に誇りをもってお話いただければ、ご相談に乗ります。私たちも商談に参加していただけるにふさわしいサプライヤーを独自で探しています」。

――来年のILTMについて教えてください。
「商談会の会場は今年と同じザ・ソウドウ東山ですが、パーティは来年2月にオープンするザ・リッツカールトン京都で開く予定です。もしこれから富裕層マーケットを手がけたいと考えていらっしゃる方は、ぜひ参加していただきたいです」。

ILTM Japan 2014概要

日時 2014年3月17日~19日
会場 ザ・ソウドウ東山(京都市)

ILTM Japanは、富裕層旅行の知識やネットワーク、ビジネスなどを国内外のバイヤーと出展者に対し提供する、日本で唯一のイベントです。来年で2回目の開催となります。

ILTM Japan日本事務局(株)アールプロジェクト内 
http://www.iltm.net/japan

※ILTMについて
International Luxury Travel Market (ILTM)は、毎年カンヌ(12月)と上海(6月)で開催され、主催者によって厳選された、世界の富裕層旅行のバイヤーやサプライヤーが一堂に会する商談会です。カンヌでは1300社以上の出展者と1300名のバイヤーが参加、上海でも500社以上の企業と500名のバイヤーが集います。出展者は高級ホテル、レストラン、リゾート、プライベートジェット、リムジン、クルーズ、カジノなど極上のラグジュアリー体験を提供できる上質なサプライヤーが選ばれています。

<編集後記>
これまで日本の旅行業界はマスツーリズムに傾注し、クローズドな富裕層旅行マーケットについてはPRも含め、経験不足だったことは否めません。こうしたなか、観光庁やILTM Japan関係者らが富裕層旅行マーケットの促進に取り組むのは、外国人富裕層がもたらす経済効果はもちろんですが、世界の旅行トレンドを先取りする富裕層の影響力に期待しているからでしょう。

日本人はどうも自分たちの魅力をよくわかっていないところがあるようです。価格に捉われず“本物”を追求する富裕層旅行者への取り組みは、日本のよさを再認識するいい機会にもなると思います。ILTM Japan事務局の福永浩貴氏によると、来年の開催に向けて、旅行会社やホテルだけでなく、伝統工芸の関係者からの問い合わせも増えているそうです。

今回のセミナーはかなりコンセプチュアルで啓蒙的な内容でしたが、今後は実際に富裕層の受け入れを行っている関係者の生の声を聞いてみたいと思いました。そういった方々こそ、海外の富裕層に喜ばれるポイントをいちばんご存知だと思うからです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-12-20 07:41 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 12月 05日

大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国(トラベルマート2013報告 その3)

トラベルマート会期中の11月28日の夜、一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)の総会がありました。

一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)
http://www.shadanaiso.net/index.html

そこでは恒例のセミナーがあります。アジア各国・地域にそれぞれ強いランドオペレーター関係者による「アジアインバウンドの最新動向」の報告です。

※今年6月上旬のセミナーについては「今年の夏、日本はアジア客でにぎわいそうです(社団法人AISO第1回総会報告)」)を参照。
b0235153_10455212.jpg

まず理事長の日本ワールドエンタープライズ株式会社の王一仁社長による開会の挨拶から始まりました。

「AISO創立から今年で7年目。震災から2年たち、今年はアジアインバウンドの流れが大きく変わった年といえるでしょう。円安効果も大きいですが、東京オリンピック開催決定や富士山の世界文化遺産登録など、さまざまな追い風が吹いています。

AISOの加盟企業は現在約160社。半分はランドオペレーターで、残りはホテルやテーマパーク、レストラン、運輸業者などの方々です。お互い協力して日本のインバウンドを盛り上げていきましょう」。

次に株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事による今年の総括です。

「今年のアジアインバウンドに弾みをつけたのは、7月のアセアン諸国に対するビザ緩和が大きかったといえます。このままいけば、今年は初の訪日外客1000万人を達成することでしょう。なかでも大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国だったように思います。

それでも、訪日外客の6割を占めるのは、韓国、台湾、中国本土です。韓国はいったん回復してきたかに見えましたが、秋口から伸び悩んでいます。一方、中国市場は概ね回復基調にあると思います。

今後は、アジアの個人客向けの商品、特に来日してから各自が参加する「着地型」のツアー商品の開発などに力を入れていくべきでしょう。ここにいらっしゃる関係者の皆様には、ぜひ我々ランドオペレーターに新しいコンテンツをご提案いただきたいと思います。それを海外の旅行会社につなげていくのが我々の仕事ですから」。

株式会社トライアングルの河村弘之常務理事からは、以下の3つの話題提供がありました。
b0235153_7262496.jpg

①ツアーオペレーター品質認証制度について

同制度は、「事業者(ツアーオペレーター)の品質を保証することにより、訪日旅行の品質向上と、訪日旅行者が安全、安心で良質な旅行を楽しんで頂くことを目的として作られ国からも推奨された品質認証制度」です。

ツアーオペレーター品質認証制度 http://www.tour-quality.jp/

株式会社トライアングルは最近、同制度の認証登録をすませたばかりですが、河村理事によると、中小企業の多いインバウンド業者にはかなりハードルが高いのが実感だといいます。認証の条件として、①旅行業登録していること、はともかく、②訪日ツアーにインバウンド旅行保険をかけること、そして何より③プライバシーマークの取得済み(1年以内に取得予定であること)が経営にとって大きな負担となるからです。

※プライバシーマーク(Pマーク)は、個人情報保護に関して一定の要件を満たした事業者(基本的には法人単位。ただし、医療関連については病院ごとなど例外あり)に対し、一般財団法人日本情報経済社会推進協会 (JIPDEC) により使用を認められる登録商標。

プライバシーマーク制度
http://privacymark.jp/

現在、AISO加盟企業の中で、認証登録をすませているのは、農協観光とアサヒホリディサービスの3社だそうです。

②タイからの訪日客の動向

「今年のタイ市場は、北海道が人気。ビザ免除で市場は活気づいています。ただし、募集ツアーは今後価格競争が激しくなることが予想されます。ですから、弊社はタイではインセンティブツアーを専門に営業しています。企業の社員旅行としての訪日ツアーの取り込みです。現在、タイに進出している日系企業は約3000社。そのうち、従業員数100名以上の企業は約半数。みなさん、現地の日本企業に営業に行かれたことはありますか。旅行博に行くのもいいですが、タイの場合、インセンティブ市場が大きいことを知っていただきたいと思います」。

※JETROによると、タイに進出した日系企業数:1,458社(2013年4月現在のバンコク日本人商工会議所会員数)ですが、実際は約3000社といわれます。

③シンガポールからの訪日客の動向

「震災後に韓国に次いで訪日客の戻りが遅かったシンガポール市場ですが、今年は北海道行きが7割を占めるほどの人気でした。もっと行きたいが、エアが取れないという話です。シンガポールの旅行業者は、中国などとは違い、日本のランドオペレーターとの関係を大切にしてくれます。シンガポール市場に商材を売りたいなら、AISOのランドオペレーターにまず声をかけていただきたいと思います。それが早道です」。

アメガジャパン株式会社の清水和彦理事からは、中国本土市場の話がありました。

「今年の弊社の中国本土客の取扱は、1~3月が前年比マイナス60%、4~6月がマイナス30%、7~9月でほぼ前年度の水準に戻り、9月はおそらく新旅游法の駆け込み需要で過去最高になりました。10月以降は、去年が尖閣問題でボロボロでしたから、前年度比ではプラスになると思います。そういう意味では、団体ツアーはほぼ回復したと考えています。

中国の訪日市場の動向は地域によって一様ではありません。広東省はすでに回復し、北京でもだいぶ戻ってきたようですが、最大のマーケットである上海の遅れが目立ちます。

新旅游法の背景には、中国の原価割れしたツアー商品の横行があります。オプショナルツアーや土産物店への連れ込み、ホテルの変更はすべてNGとなりました。その結果、弊社が多く扱う広東省の旅行会社のツアー料金の推移を見ていると、韓国や台湾、タイなどが軒並み2~3倍にアップしている一方、日本ツアーの価格上昇はそれほどでもないため、日本の割安感が出てきたと感じます。来年の春節がどうなるか、大いに期待したいと思いますが、依然日中間の政治問題が解決していないのが気がかりです」。

株式会社アサヒホリディサービスの和田敏男理事からは、マレーシア市場の話がありました。

「マレーシアの旅行業界は、タイなどと違い、大手数社が独占しているという市場です。東南アジアの中では訪日旅行市場は後発ですが、LCCも今後ますます就航するという話ですから、期待の持てるマーケットだと思います。最近、小グループの団体が増えてきました。以前なら30~40名の団体が多かったのですが、6~8名くらいのプライベートなツアーが多いのです。求められているのは、すでに定番のツアーコースではなく、個性的な旅です。

イスラム国ですから、ハラルを気にする方が多いと思いますが、一部の方を除くと、そこまで厳格に考えることはまだないのではと感じています。最近、六本木にハラル専門レストランができたと聞きますし、また東京大学にはハラル専門の学生食堂があるそうです。ハラル認証を取得するための協会も国内にいくつかできていますので、そこで研修を受けられることをおすすめします」。

最後に再び王理事長による香港とフィリピンの話がありました。

「今年は香港や台湾からの訪日客が激増しました。香港客の大半はリピーターです。航空券さえ安いものが出れば、必ず日本を訪れます。日本人のアジア旅行と一緒です。11月から香港エクスプレスの羽田便がデイリーとなりました。片道1万円と安いので、これからのクリスマスシーズン、たくさんの香港客が東京を訪れることと思います。
b0235153_10554661.jpg

フィリピンからの訪日客も増えてきています。12月からフィリピン航空が大幅に増便します。どうしてこんなに増便するのかというと、最近のフィリピンの台風被災地に対する日本の支援も影響があると思います。フィリピンから日本の自衛隊の視察ツアーもあると聞いています。フィリピンの人口は9000万人です。これからがチャンスです」

※フィリピン航空(PR)は12月15日から、成田発着のマニラ線とセブ線を増便。マニラ線は現在1日1便だが、これを1日3便に変更。セブ線は週6便のPR433便/434便に月曜日を加えてデイリー運航にした上で、さらに1日1便を追加しています。

関係者のみなさんの報告を聞きながら、今年は「アジアインバウンドの流れが変わった」ことをあらためて実感しました。何より市場の分散化が進んでいることがいい流れだと思います。

その一方で、こうした手放しの喜びようで、はたして来年本当にアジアインバウンドは順調に進展するのだろうか。中国政府の不穏な動きが続くなか、ひとたび何か起こればすべて吹き飛んでしまうのではないか、というあやうさもはらんでいるように思えてなりません。

また、今年は台湾やタイほかの東南アジアの国々のように、日本の文化的影響力が強い国々からの訪日客増加に大いに救われたところがありましたが、そうでない国々に対してどう訪日旅行をPRするべきか、という課題が印象付けられた年でもあったと思います。たとえば、インドやロシアといった未知の大市場に対してどう取り組むか。来年に向けて新しいチャレンジが必要ではないかと思った次第です。
b0235153_1056647.jpg

トラベルマート会場から桜木町駅に向かうみなろみらいの夜景はとてもきれいでした。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-12-05 10:58 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 08月 22日

23回 「アセアン向けFITパッケージとは何か?」(改題)

7月下旬、日本政府観光局(JNTO)は、今年度上半期(1月~6月)の訪日外国人客数が過去最高の495万5000人になったことを発表しました。これで訪日客1000万人という政府目標の達成もようやく視野に入ってきたといえるでしょう。

地域別には、東アジアの韓国、台湾、香港に加え、アセアン諸国の伸び率が顕著で、唯一中国だけが減少しているという興味深い結果が出ています。

なぜ訪日客は増加したのか。今回は、メディアの報道を中心にその理由を整理したうえで、国・地域ごとにそれぞれ異なる市場の特徴や攻略のヒントを見つけていきたいと思います。

アジアの中間層の増加とLCC路線網の拡大

新聞各紙は、今年訪日客が増加したいちばんの理由として、安倍政権の経済政策「アベノミクス」による円高是正を挙げています。身もふたもない話ですが、日本円が安くなったから観光客が増えたというわけです。さらに、東日本大震災から2年たち、ようやく海外でも原発事故に伴う風評被害が収まってきたことも指摘しています。

加えて、アセアン諸国の訪日客の急増で尖閣問題以降の中国客の減少をカバーしたこと。百貨店の免税品売上も、中国客に代わってアセアン客が貢献。東京や関西など大都市圏だけでなく、九州や北海道などの地方都市にアセアン客が増えていることを報じています。
b0235153_727356.jpg

この上半期に訪日客数の伸びで最も目立ったのはタイ(前年度比52.7%増)で、ベトナム(同52.1%増)、インドネシア(同50.1%増)とアセアン諸国が続き、次いで台湾(同49.4%増)、香港(同43.1%増)、韓国(同38.4%増)と東アジアの国・地域が並びます。

ただし、東アジアの国・地域とアセアン諸国では、昨年までの渡航者数が大きく違うため、全体の数でみれば訪日客の増加に実際に貢献しているのは、むしろ東アジアの国々であり、その勢いを見逃すことはできません。とはいえ、アセアン諸国からの訪日客の増加は、東アジアに比べて後発市場であったこの地域でも、海外旅行に出かけられるような可処分所得を手にした中間層が増加していることを意味します。そこに狙いを定めた政府によるアセアン諸国への観光ビザの緩和が続けざまに出されたことで、彼らの存在がニューカマーとして大きく注目されたのは当然のことでしょう。

※さらに詳しい分析については、中村の個人blog「「東南アジア客急増 中間層が拡大 円安も追い風」【2013年上半期②外客動向】」を参照。

訪日客増加のさらなる理由には、格安航空会社(LCC)の相次ぐ就航もありそうです。

「LCC元年」と呼ばれた2012年の国内格安航空会社3社の就航から1年を迎え、今年の大型連休のLCCの乗客数は順調に伸びてきたといわれています。欧米や東南アジアに比べると、LCCの利用はまだ少ない日本ですが、今後海外勢の参入によって競争激化が予想されます。なかでも訪日客数トップ2の韓国と台湾はすでにいくつかのLCCが就航し、訪日客の増加に結びついていると考えられます。
b0235153_7184677.jpg

※LCCの最新動向については、中村の個人blog「LCCはアジア客の訪日旅行の促進につながるか?【2013年上半期⑫LCC】」を参照。

今年に入って大都市圏のシティホテルの稼働率は上昇しているそうです。訪日客に加え、景気回復に伴う国内客の客足も戻ってきているからです。そのため、「週末の都内のホテルの客室確保が難しくなっており、特に土曜日は東京以外の場所に宿泊するようなツアーの旅程を組まざるを得ない」というアジア客を扱うランドオペレーターの声も出ているほどです。

※ホテルの最新動向いついては、中村の個人blog「東京・大阪のホテル稼働率は震災前を大きく上回る水準に【2013年上半期①ホテル】」を参照。

その一方で、東日本大震災で被災した東北を訪れる外国人客は回復していないようです。

今年5月の大型連休の東北の宿泊予約数は震災前の2010年の水準を超えたことから、国内客の東北観光が本格的に回復してきたのとは対照的です。

アベノミクスによる円安が、訪日客の増加とは逆に、日本人の旅行需要の国内回帰をもたらし、それが東北観光の追い風となっている面があるようです。さらに、震災以降各地で続けられた被災地応援ツアーや、NHKの大河&朝ドラ効果(『八重の桜』『あまちゃん』)が結びついて、国内客がどっと東北を訪れているということです。こうした東北観光の盛り上がりが、外国人客にもっと伝播していかないものか……。それがちょっと残念です。

※東北の観光事情については、中村の個人blog「東北に外国人客は戻ったのか?【2013年上半期⑨震災2年後の東北観光】」を参照。

韓国、台湾、香港では「今行かなきゃ!」って感じ

次に、国・地域ごとに異なる市場の中身について見ていきましょう。

まず訪日客数トップの韓国から。実は、韓国では東日本大震災後、原発事故への警戒感が強く、訪日客の回復が最も遅れているといわれていました。それが今年に入って、ようやく動き出してきたようです。

その一方で、「韓流ブーム 冬の気配 竹島・円安で観光客急減」(朝日新聞2013年4月16日)と、韓国を訪れる日本人は急減という対照的な構図も報じられています。なんとも皮肉なものです。

ではなぜ訪日韓国人が増えたのか。日本のインバウンドにとって最大かつ先行市場である韓国は、アセアン市場と違って、旅行会社の催行するツアーに頼らないFIT(個人旅行者)が主役です。それだけに、LCC就航拡大の影響が大きいのです。円安ウォン高効果にLCCによる渡航費用の軽減が重なり、彼らの訪日意欲を高めたといえそうです。
b0235153_7471526.jpg
今年7月4日成田に就航した韓国のLCC、チェジュ航空

※訪日観光客の増加の背景については、中村の個人blog「「訪日韓国人 回復進む 円安ウォン高で拍車」【2013年上半期⑤韓国客】」を参照。

同じく台湾は、上半期の伸びも大きいですが、6月単月に限ると、なんと前年度同月比80%増という驚異的な伸びを見せています。すでに上半期で100万人超えも果たしました。この調子で台湾客が、夏以降も来訪してくれることを期待したいところです。

それにしても、6月というオフシーズンに、なぜこんなに台湾客が増えたのか。以前、本連載にも登場していただいた現地情報誌『ジャパンウォーカー』(台湾角川)の鈴木夕未さんに質問したところ、こんな返信をいただきました。

「訪日客が増えている理由はやはり、円安だから。これに尽きます。おかげさまで『ジャパンウォーカー』の売上は好調です。これは香港でも同じで、現地の人たちに聞いても『今行かなきゃ!』って感じ。みんなそう言っています。

もうひとつは、6月が日本の梅雨ということで、通常より相当安いツアーが出回ったせいだと聞きます。私の友人も東京ディズニーリゾートに行くツアーがとても安かったといって、元々予定していなかったのに、息子を連れて日本に行きましたよ」

何はともあれ、円安が起爆剤。東アジアではもはやFITが主人公です。韓国、台湾、香港では「今日本に行かなきゃ!」という気分が生まれているようです。それは円高だった昨年、日本人の海外旅行者数が過去最高になったのと同じ心理でしょう。

なかでも最も成熟しているのが、訪日客の7割以上がFITという香港市場です。アジアの中でも彼らほど海外渡航に慣れている人たちはありません。香港人の国際感覚は、我々一般の日本人の水準をはるかに超えているといってもいいでしょう。

そんな香港のFITをどう攻略するか。今年度、日本政府観光局(JNTO)香港事務所では、「『Rail & Drive』を活用した新しい訪日旅行のスタイルをテーマにしたプロモーションを『a different Japan Rail & Drive』と名づけて展開」しているそうです。
b0235153_7191437.jpg

『Rail & Drive』とは何か。現地日本語メディアの香港経済新聞では、以下のように解説しています。

「香港人で日本旅行に行く人は4人に1人が10回以上の渡航経験を持つ。75%がFITと呼ばれる個人旅行客で、最近では電車やレンタカーを駆使して旅行行程を組むパターンも多い。日本人が観光するのと同じように、香港人が電車を使ったり、レンタカーを予約するなど高度な旅行プランを組めるようになったことで、これまで外国人観光客が訪れることが少なかった地域にも香港人が現れるケースはさらに増えそうだ」

つまり、日本人が国内旅行するのと同じように、香港の人たちにも鉄道や飛行機とレンタカーを組み合わせて訪日旅行を楽しめるように情報提供していこうというのです。それは日本人がハワイやアメリカでレンタカーを借りてドライブするのと同じことです。

※香港の訪日客の動向については中村の個人blog「香港客大躍進の背景に「Rail & Drive」プロモーションあり !? 」を参照。

アセアン客向けの魅力的な富士山ツアーがない?

一方、後発市場のアセアン諸国ではシンガポールを除くと、まだ団体ツアーが主流です。

この夏、アセアン客の動向に確実に影響を与えているのが、富士山の世界遺産登録です。これまで彼らも団体ツアーで必ず富士山に立ち寄っていたのですが、こうして国際的にハクがついたことで、日本に旅行するのなら、これまで以上に必ず行かなければならない重要スポットになったといいます。ただし、ツアーバスで五合目に立ち寄るというような、ごく一般的な体験では物足りないとも感じているようです。

日本の旅行各社は、世界遺産登録を機に増加が見込まれる外国人客向けの多彩な富士山ツアー商品を企画しています。たとえば、4つある登頂経路のうち、最も一般的な富士吉田ルートではなく、南山麓の富士宮ルートを山岳ガイド付きでじっくり登るツアーなど。まさに本格的なFIT向けのツアーといえそうですが、英語ガイドがほとんどで、対象は旅慣れた欧米客に限られると思われます。アジアにも英語を話せる人は多いので、一部参加している人たちはいると思いますが、現状ではアジア客向けとはいえないようです。

この点について、一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁理事長は、「アセアン客向けの魅力的な富士山ツアーがない」とはっきり言います。これはどうしたことでしょう。

※外国人向けの富士山ツアーについては、中村の個人blog「富士山の世界遺産登録は訪日外客にも確実に影響を与えています【2013年上半期⑪富士山1】」、「外国人向け富士山ツアー、続々登場! ただし、欧米客向けがほとんどか【2013年上半期⑬富士山2】」を参照。

アセアン客向け「FITパッケージ」とは何か?

AISOの王一仁理事長は続けてこう説明します。

「この夏、東南アジアからの訪日客が増えていますが、彼らはアベノミクスで日本は変わったと感じています。ビザ緩和でこれまでの閉鎖的な印象が変わり、円安で行きやすくなったこともあるため、日本は自分たちに対してオープンになったと好意的に受けとめているのです。

東南アジアのほとんどの人たちが日本に来たら富士山に行きたいと考えています。確かに、団体ツアーでも五合目に立ち寄って、山中湖や河口湖の温泉旅館に泊まるコースが組み込まれています。しかし、最近弊社が関わっているシンガポール市場では、団体ツアーは人気がありません。彼らは香港ほど成熟していませんが、それでもFITを好むのです。日本政府観光局の調べでも、シンガポール市場はFITの比率がアセアン諸国の中で最も高いといわれています。

弊社はランドオペレーターですから、FIT客を直接扱うことはありません。ランドオペレーターはいわば海外の現地旅行会社のサポーター。彼らが現地でツアー客を集められるような企画を提案するのが本分です。ところが、先ほど言ったように、シンガポールではFITが多いため、旅行会社がツアー客を集めるのが以前よりずっと難しくなっているのです。

では、シンガポールのFITは日本に来て、本当に自由でリーズナブルな旅を楽しめるのか。それは無理というものです。たとえば、個人で富士山に行くには、ホテルの予約はできても移動手段の確保が大変です。彼らは日本へのフライトはLCCやマイレージを使って安く移動できても、日本の中では同じようにはできないのです。

そこで、私がシンガポールの旅行会社に提案しているのが『FITパッケージ』です。これは、ひとことで言えば、FITの乗り合いバスです。つまり、FITの人たちはフライト予約や東京のホテル手配は各自でやりたがるとしても、来日してからであれば、同じバスに乗って1泊2日のオプショナルツアーに参加することは厭わないのです。

たとえば、弊社が企画した富士山1泊2日のツアーでは、予約申し込み者の宿泊する都内のホテルを回って参加客を拾い、箱根、芦ノ湖、富士五湖を訪ね、山中湖の温泉旅館に泊まります。翌日は、山中湖花の都公園で初夏はラベンダー、夏はひまわりを鑑賞し、御殿場アウトレットで買い物して都内に帰るというものです。
b0235153_7275822.jpg

一般に日本の旅行会社が催行する富士山の外国人向けオプショナルツアーは日帰りコースが多いのですが、弊社のツアーでは1泊2日にするのは理由があります。東南アジア客の多くは、富士山に登りたいというより、富士山の見える温泉旅館でゆっくり一泊したいと思っているからです」

王理事長がシンガポールの旅行会社向けに提案した富士山1泊2日のオプショナルツアーの内容は、ぼくの目から見ると、通常の団体ツアーのコースとそれほど変わらないという印象でした。欧米客向けほど本格的でなくてもいいから、もう少し特別な場所を訪ねるとか従来にはないアイデアや付加価値が必要ではないのだろうか。失礼を承知で「ツアーの内容はわりと一般的なものですね。これでシンガポールのお客さんは満足するのでしょうか」と疑問をぶつけたところ、王理事長は次のように答えました。

「大事なのは、シンガポールのFITのニーズは何かを知り、それに合わせることです。弊社のツアーでは、富士山の五合目には行かないことにしています。この夏、五合目周辺はバスで大混雑になることが予想されます。せっかく訪ねた富士山のイメージが悪くなってしまうのが心配です。それに、五合目からの眺めが必ずしもいいとはいえないですから。富士山はもっと遠くから眺めたほうが美しいものです。眺めのいいポイントをいくつか選んで案内するほうがお客さんに喜んでもらえるんですよ」

確かに、熱帯で暮らす東南アジアの人たちは山歩き、いやそもそも外で歩くことがあまり好きではないそうです。だとすれば、見る場所や季節によって大きく変化する富士山のビューポイントを複数取り入れるとウケるのかもしれません。富士山ならまず五合目に行くものだという固定観念は不要と考えるべきなのです。

それに、王理事長のいう「FITパッケージ」には、旅本来の楽しみがありそうです。団体ツアーに参加すると、自国の空港で集合してから帰国するまで、ずっと同じ顔ぶれでツアーを続けることになりますが(シンガポールの人たちはそういうスタイルがもう嫌なのでしょう)、各自が日本に来て、1泊2日だけ同じオプショナルツアーに参加した仲間とつかのまの時間を共有する。それがお仕着せの旅ではない価値を生むことになるのではないでしょうか。

今後は参加する人たちの国籍も増えることでしょう。シンガポール、タイ、マレーシアなど、さまざまな国から来たFITたちが、つかの間の出会いを楽しみ、東京に戻れば、それぞれホテルに別れていく。そんな一期一会の世界が“乗り合いバス”です。この種のバスツアーは、はとバスなどが企画するツアーにもあるのですが、それをいかに現地で販売するかが鍵になります。そこで強みを発揮できるのは、現地の旅行会社でしょう。

これからの時代、東アジアだけでなく、アセアン諸国でもFIT化が進むことでしょう。でも、彼らが日本に来て個人で体験できることはまだ限られています。日本の国内旅行市場は成熟し、多彩な旅行商品があふれていますが、海外からの観光客にとって日本人と同じように、それを享受するのはたやすくはありません。日本はまだそれほど英語が通じる社会ではありませんし、そもそも日本人と彼らの求めるものは同じではないからです。

そういう意味でも、「FITパッケージ」という着想には虚をつかれたところがありました。正直に言えば、最初は「こんな程度の中身でいいのか?」と思ったのですが、王理事長の話を聞いていくうちに、実際の海外からの旅行者のそばにいて、彼らのニーズを常にうかがっていなければ、こういう商品は作れないと実感しました。実は、我々がいちばん苦手なのは、こうした作業なのではないかと思います。

しかし、東南アジアのFIT向けのオプショナルツアーは、富士山以外にもいろいろあってよいはずです。彼らが富士山の次に行きたいのはどこなのか。いまさらながらという気もしてしまいますが、実はそこから考えていかないとお客は集められないものだということを、今回は王理事長に教えられた次第です。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_136.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-08-22 07:24 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2013年 07月 18日

「HIS、世界企業へ離陸 東南アジアで消費者開拓」【2013年上半期④HIS】

以前、HISのタイでの取り組みを簡単に紹介しましたが(→「HISタイの訪日旅行の取り組みは要注目です」)、ここでは今年上半期の新聞各紙に掲載された同社の記事をピックアップしたいと思います。

「HIS、世界企業へ離陸 東南アジアで消費者開拓 現地ニーズ、きめ細かく」(日経MJ2013年1月28日)

「日本人向けに格安航空券や割安な旅行商品の販売で成長していたエイチ・アイ・エス(HIS)がアジアを中心に販売網を着々と拡充しているほか、昨年末にはタイにチャーター便子会社を設立し、現地の消費者への売り込みに力を入れ始めた。日本企業から世界企業へ脱皮できるか」

同記事では、タイのバンコクでの動向を紹介しています。

「(今年)2月、HISはタイ・バンコクにある旗艦店舗『トラベルワンダーランド・バンコク』を約1.5倍の約390平方メートルに広げる。2010年に開いたばかりの同店だが、増える来店客に対応するため、拡張に踏み切ることにした」。

「タイではバンコクを中心に販売店舗を13年10月期中に現在の3店から10店前後に拡大」

「日本のように大々的なテレビCMは放映しないものの、タイでは昨年から空港と市街地を結ぶ列車にラッピング広告を掲載するなどして知名度向上を急いでいる」

「商品開発も現地のニーズに合わせ、日本ではなく、国・地域ごとに進める。現時点で世界46カ国・地域101都市138拠点が仕入れた宿泊施設や航空券などから、販売地域の消費者のニーズに合ったものを選び、作り上げていくというのが同社の手法だ」

こうしたHISの取り組みに欠かせないのが人材の育成です。

「昨年7月には、様々な海外企業がインターンシップ情報を載せることができるドイツ語サイトに同社も募集を出した。アジア・欧州の学生を中心に21カ国・地域から約50人が応募。選考を経て昨年11月から10人が、2カ月~1年の期間で日本で就業体験を始めている。13年度入社の新卒社員も約670人のうち約20人が外国人で、世界各地の拠点に配置していく計画だ」

「航空機・ホテル 自前で 垂直統合で商品差異化」(日経MJ同上)では、HISの世界戦略のビジネスモデルを次のように説明しています。

「HISが販売拠点を通じてアジアの消費者を開拓する上で切り札の一つにしようとしているのが『垂直統合モデル』だ。航空機からホテル、テーマパークまでをグループで保有。交通手段から宿泊施設まで自前でまかなえる商品を加えることで差異化を図り、収益拡大を目指す」

昨年12月、HISはタイにチャーター航空便の運航を目的とした子会社「アジア アトランティック エアラインズ(AAA)」を設立。7月下旬から9月下旬にかけて成田・関空とバンコクをつなぐチャーター便のフライトを開始します。「秋や年末年始は日本、国慶節や春節は中国、イスラム圏は断食明けと、各国の旅行シーズンにあわせて就航都市を決め、需要を取り込む」といいます。

同じことは、2010年に子会社化したハウステンボスについてもいえます。尖閣問題で運休に追い込まれたものの、長崎と上海をむすぶクルーズ会社「HTBクルーズ」も立ち上げています。

アジア アトランティック エアラインズ(AAA)  http://www.his-j.com/airline/asia_atlantic_airlines.html
HTBクルーズ http://htbc.co.jp/

HISがモデルとしているのは「ドイツにある世界最大手の旅行会社TUI」だそうです。同社は「傘下にはチャーター便会社やホテルを持つ。観光需要が見込めるシーズンにチャーター路線を飛ばすことで、定期路線ではまかないきれない地域に観光客を送り、需要を獲得している」

「成長事情を押さえ 大手追う 知名度向上課題に」(日経MJ同上)では、日本の海外旅行のシェアではトップのJTBとHISの海外戦略の違いを次のように指摘しています。

「JTBは日本での高い知名度と、得意とする法人・団体旅行事業を生かし、まず日系企業にアプローチ。企業の報奨旅行や従業員の旅行需要から取り込もうとしている。

HISは対照的に、最初から直接現地の消費者に販売する戦略を採る。課題は各国での知名度向上だ」

タイをはじめアジア各国での出店を加速させる背景には、知名度向上があるといいます。タイでの多店舗化による地元消費者へのアプローチが今後どのように進んでいくのか、とても興味深いといえます。

HISタイ
http://www.his-bkk.com/th

同記事の中では、HISの平林朗社長の短いインタビューも掲載しています。

海外事業は東南アジアの開拓から力を入れている理由について、平林社長は「先行事業者がいない上に市場が拡大している。米同時多発テロまで海外旅行者が安定的に増えた日本のように同地域でも海外旅行者は増えていく。この3~4年でシェアを取れれば後は成長スピードが加速する」といいます。また、東南アジアに加え、今後は南米市場も開拓していくそうです。

平林社長はHISの海外展開について「3年後には海外での事業規模が日本を逆転させるようにさせたい」と答えています。

一方日本での事業の位置付けについては「まだまだ成長できる。シニア層の旅行需要があるからだ。格安航空券のHIS、学生の味方のHIS、海外旅行のHISという形で成長してきたが、コアコンピタンス(得意分野)は個人旅行だ。団体旅行を得意とする日本の旅行会社とはそこが異なる」と述べています。

同様の内容は「旅行需要、東南アで開拓 海外取扱高3500億円に」(日本経済新聞2013年2月23日)でも報じられています。
b0235153_13243771.jpg

「旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)は東南アジアで現地消費者の旅行需要を開拓する。まずタイとインドネシアで今年から販売店の多店化に着手し、他の国にも順次取り組みを広げる。同社は海外での旅行取扱高を3~5年後に3500億円前後と現在の6倍弱に増やす計画を持つ。東南アジアでは多数の店舗を持つ現地資本の大手旅行会社がなく、増加している中高所得者層の旅行需要を取り込む」

バンコクにおける多店化として「人通りの多いターミナル駅構内やショッピングセンター内などに数十平方メートルの小型店を出しブランド知名度を上げる」。インドネシアでは「昨年9月に主力店を拡張したジャカルタで近く新店を追加。その後も順次店を増やす」といいます。

東南アジア開拓の背景には「アジアの旅行市場では中国は中国国際旅行社、韓国はハナツアーといった現地大手が強い。東南アジアは現地に大手がなくHISは市場開拓の余地が大きいとみる」ためだといいます。

さて、6月に入ると、13年4月期の同社の決算報告が報じられています。

「HIS、純利益最高 旅行事業は減益に」(日本経済新聞2013年6月8日)

「エイチ・アイ・エス(HIS)が7日に発表した2012年11月~13年4月期の連結純利益は、前年同期比13%増の46億円だった。テーマパーク事業の好調がけん引し、上期として過去最高益を更新した。主力の旅行事業は中国方面の旅客減や円安による海外ホテル代金の増加で不振だったが、これを補った」

旅行事業が減益となった背景として「領土を巡る対立を背景に中国や韓国向けの取扱人数は16万人程度減った。より単価の高いハワイやグアム向けが増えたほか、タイなど海外支店での旅行手配も伸ばし、旅行事業の売上高は4%増えたが、円安による採算悪化を補いきれなかった」と分析しています。

海外支店の売上が本体に貢献するという流れは、これからますます強まっていくのでしょうか。日本の旅行業界の新しい方向性としてHISの今後を大いに注目したいと思います。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-07-18 13:24 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2013年 07月 06日

HISタイの訪日旅行の取り組みは要注目です

このところ、タイの訪日旅行マーケットについて取材しているのですが、いろいろ調べていると面白い動きを見せているのが、HISタイの取り組みです。
b0235153_1911138.jpg

HISタイ
http://www.his-bkk.com/th

タイ語が読めないので内容は詳細にはつかめないのですが、HPを見る限り、さすが日本の旅行会社だけに、多彩な日本ツアーが商品化されています。現地の旅行会社に比べて商品ラインナップが豊富であると同時に、驚くのはツアー価格の安さです。

たとえば、これはいわゆるキャンペーン料金の商品ですが、東京・大阪4泊6日で29999バーツ(約9万6000円)です。

SUPER SPECIAL TOUR OSAKA-TOKYO-B
http://www.his-bkk.com/th/pdf/ProgramSuperSpecialOsa-Tyo6D4N-A.pdf

大阪から東京までを4泊5日でバス旅行するゴールデンルートの商品ですが、今回調べたタイの旅行会社の平均的なツアー価格に比べると2万バーツ(約6万3000円)近く安そうです。

そのぶん宿泊ホテルをみると、中国人の日本ツアーでよく使われる新宿ニューシティホテル(同等)利用です。このホテルは、新宿中央公園の裏にあり、シャトルバスで新宿駅とつないでいますが、買い物や散策の便はいいとはいえません。つまり、他社のツアーに比べると、低価格のホテルを利用することなどを通してツアー代金を下げていると思われます。

HISはタイで訪日ツアーの価格破壊をやっているということでしょうか?

必ずしもそうとはいえません。なぜなら、HISタイは個人旅行者(FIT)への取り組みを積極的に行っているからです。たとえば、日本の旅行会社の強みを活かして、国内でのさまざまな外国人向けオプショナルツアーやレイルパスなどを販売しています。いまやタイはビザ免除された国ですから、今後は航空券とホテルの予約だけで来日する旅行者は増えるでしょう。観光バスやガイドに頼ることなく、片言の英語しかできなくてもいいから安く日本に行ってみたいという若い世代や、商談や視察に行きたいと考えていたものの、これまで手続きが面倒で訪日のチャンスの少なかったビジネスマンらをターゲットにしていると思われます。

さらに、HISが設立した新航空会社「アジア アトランティック エアラインズ(AAA)」が7月下旬から9月下旬にかけて成田・関空とバンコクをつなぐチャーター便のフライトを始めます。同エアラインはいわゆる国際チャーター航空会社で、旅行需要のピークである夏休みに合わせた期間限定のフライトとなります。これもFIT向けの取り組みともいえますが、当然のように、AAAを利用した航空券とホテルだけのスケルトン型のフリーツアー商品も販売しています。その価格は、3泊5日でなんと2万バーツ相当というものです。

アジア アトランティック エアラインズ(AAA)
http://www.travelvision.jp/news/detail.php?id=57886

AAA利用の訪日格安ツアー
http://www.his-bkk.com/th/FIT_Tour/fit_package_japan.php

こうした取り組みは、1980年代に創業したHISが、日本のアウトバウンドに個人旅行のブームを巻き起こしたビジネスモデルを、そのままタイのアウトバウンドに持ち込んだものといえるでしょう。もちろん、いまはチャーター便を飛ばすにしても、タイと日本の両方から客を運べるわけで、まさにツーウェイツーリズム時代のビジネスといえます。

HISは2013年1月現在、世界46カ国・地域101都市138の支店を有しており、今後は日本での売上よりも海外での売上比率が大きくなることを見越して、積極的に海外展開してきました。その基幹支店のひとつがバンコクなのです。

HISタイの動向について、都内の旅行会社に勤めるタイ人のカウィワットさんに感想を求めてみたところ、彼はこんな風に話してくれました。

「HISのツアーは確かに安いですね。これなら予算が少ないお客さんでも日本に来られると思います。ビザも免除されていますし、これからますますターゲットが拡がっていきますね。

HISに限らず、タイの旅行会社はターゲットを分けて商品を造成しています。お客さんをABCのランクで分けるとしたら、HISはCランクのお客さんをターゲットにしようとしているかもしれないですね。Cランクというのは、学生や入社したばかりの若い会社員などです。

ツアー料金は、コースの内容や自由行動の時間、食事回数、ホテルのランクで決まります。若い人たちは内容やホテルのランクをそんなに気にしないので、安さは大きな魅力です。

その一方で、World Surprise Travelというタイの旅行会社はAランクのお客さんをターゲットにしているそうです。

World Surprise Travel
http://www.worldsurprise.com

この会社のツアーに参加すると、お客さんは空港や移動などで、自分のスーツケースを運ぶ必要がなく、ポーターが付くそうです。HPを見ると、北海道7日9日ツアーが113,900バーツ(約36万5000円)というデラックスなツアーもあります。同社のHPでは美しい海外の写真や動画を豊富に使っていて、見ているだけでも面白いです」

この旅行会社のHPを見ると、高額ツアーもある一方で、東京2泊4日15900バーツという航空券とホテルだけのスケルトン型商品もありました(ちなみに宿泊ホテルは池袋のメトロポリタンホテル)。

どうやら当初想像した以上に、タイでは訪日ツアーのバリエーションが豊かになりつつあるといえそうです。HISについては、後日あらためて正式に取材をするつもりです。

※その後の取材については以下参照。
HISバンコク中村謙志統括支店長に聞く「旅行業グローバル戦略の最前線がバンコクである理由」
http://inbound.exblog.jp/21753599/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-07-06 18:47 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 06月 10日

今年の夏、日本はアジア客でにぎわいそうです(「社団法人AISO第1回総会」報告)

6月6日、JA大手町カンファレンスで一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の第1回総会が開催されました。AISOは、訪日外客の4分の3を占めるアジアからの観光客の手配を担当するツアーオペレーター(ランドオペレーター)を中心に、ホテルやアミューズメント施設などの各種サプライヤー、自治体などを会員として構成される組織です。
b0235153_1501643.jpg

一般社団法人アジアインバウンド観光振興会 http://shadanaiso.net/

総会終了後 「アジアインバウンドの最新動向」というテーマで各エリアのツアオペ担当者による報告がありました。今年の夏は訪日アジア客で活況を呈することになりそうです。

■「中国プライス」広まりへの危惧

まず、常務理事の株式会社トライアングルの河村弘之社長による全体挨拶からです。

河村氏は、日本旅行業協会(JATA)が今年3月に発表した「ツアーオペレーター品質認証制度」について話を始めました。

ツアーオペレーター品質認証制度 http://www.tour-quality.jp/

この制度が発足した背景には以下の状況認識があります。

「昨今ツアーオペレーター業者間で価格競争が激化し、その結果価格重視で低品質のツアーが数多く見受けられるようになり、また消費者保護、コンプライアンスなどを軽視する業者も散見されます。同制度の導入により、訪日旅行者が安全、安心で良質な旅行を楽しんでいただき、認証された事業者は顧客からの支持・信頼を得やすくなる効果を期待しています」(JATAニュースリリース2013年2月27日より)

6月3日、JATAは同制度の第1期認証23社を発表しています。今後年に2回認証申請を受け付けるとのことです。

第1期認証23社 http://www.tour-quality.jp/list/index.html

業界大手が並ぶ第1期の23社についてはともかく、河村氏はようやく業界としてツアオペの認証制度が開始されたことは評価すべきだといいます。中小企業の集まりであるAISOとしては、今後認証を得やすくなることを期待し、団結してセールスしようと呼びかけました。なぜなら、インバウンドにおいて本当のライバルは他国の業者だから、です。

最近「中国プライス」と呼ばれる訪日旅行の低価格化を、中国の旅行業者が東南アジア市場に持ち込もうとしていることに、河村氏は大いに危惧しているという話が気になりました。この点については、あらためて確認したいと思います。

■中国マーケットの二極化への対応

次は、中国本土市場でビジネスを展開している株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事の報告です。

JNTOの統計によると、2013年4月の訪日外客数で唯一中国だけが前年度比33%減となっています。しかし、6月に入り、地域的にバラつきはあるとはいえ、中国客は戻りつつあるといいます。政治の中心、北京はまだ芳しくないものの、上海や広東では夏のツアー募集状況はいいようで、今年の夏は期待していいそうです。

ただし、中国のマーケットはすでに二極化していることを認識すべきだと石井理事は指摘します。確かに中国市場はパイが大きいけれど、どういう層のお客さまを取り込むかについては、よく考える必要があるというのです。やみくもに数だけ追っても、低価格化の圧力にさらされるだけだからです。その意味で、我々は試されている、といいます。

■年間訪日客250万人のお隣の国、韓国

韓国市場についての報告は(株)四季の旅の鄭眞旭社長です。日本の旅行大手のインバウンド事業会社で経験をつみ、2010年11月北海道で創業した同社は、いきなり東日本大震災に見舞われ、苦労したそうです。しかも、震災の影響が過ぎ去ったかと思うと、今度は日韓関係の悪化で韓国客はさらに激減しました。

それでも、韓国は年間訪日客250万人のお隣の国です。鄭社長はそう会員に呼びかけます。

今年に入って、円安の影響もあり、徐々に韓国客が戻ってきたそうです。JNTOの統計でも、4月は前年度比33.7%増となっています。

■訪日客は急増しているが、新興市場のタイには問題も

タイ市場の報告は、株式会社アサヒホリディサービスの和田敏男国際旅行部長です。

和田氏によると、今年の東南アジア市場における同社の取り扱いは、シンガポールが低迷、タイ、インドネシアは80%増と明暗がはっきり分かれるそうです。タイ市場急増の背景としては、中間層が増えてきたこと。タイ航空が訪日旅行に前向きで、驚くようなキャンペーン料金を打ち出したことも大きいそうです。もちろん、円安効果が絶大といえます。

タイ、マレーシアなど一部の東南アジア諸国に対する昨年6月の数次ビザ発給に続き、今年夏さらなるビザ発給要件の緩和が見込まれ、東南アジアの訪日客は激増することは必至。この夏、都内のホテルは“ひっちゃかめっちゃか”になりそうとも。

というのも、タイの観光行政はルールがあいまいで、ルート変更やキャンセルも多く、現地の旅行業界のスタッフもアウトバウンド客の取り扱いに慣れていないため、現場が混乱するケースが多いからだといいます。来日途中でのルートやホテル、食事の変更などが多発しているそうです。

それでも、タイには日本企業の工場も多く、社員の研修旅行などインセンティブツアーの需要も大きいこと。若い世代がアニメフェアやゲームショーといった文化的なイベントに合わせたツアー企画に対して食いつきがよく、企画次第で今後さまざまな可能性のある市場であることは確かだといいます。

■マレーシアでもインセンティブが動き出した

マレーシアとインドネシア市場については、AISCのミッキー・ガン氏が報告します。

4月の統計では、マレーシアは前年度比20.1%増、インドネシアは前年度比61.3%増。

「やっとこういう時代になってきた」と喜びの声を上げるミッキー・ガン氏ですが、その理由は「国によってインバウンドの中身は違うということに、ようやく多くの人が気づいてくれるようになったこと」だといいます。

マレーシアでもインセンティブツアーが動き出しているそうです。背景には自治体の誘致活動の成果があるといいます。

■香港市場は新しい企画さえあれば売れる!

最後に、AISO理事長の王一仁日本ワールドエンタ-プライズ株式会社社長が、香港市場を中心に報告しました。
b0235153_15152413.jpg

王氏はまずJNTOの4月の統計を読み上げます。「香港前年度比24.3%アップ、台湾前年度比42.5%アップ、フィリピン前年度比16.6%アップ、韓国前年度比33.7%アップ……」

JNTO2013年4月訪日外客数 http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/130522_monthly.pdf

そして、「今年に入り、アジアインバウンドは絶好調です」。

なかでも香港市場は75%が個人旅行(FIT)。2年前、香港にセールスに言っても「日本は本当に安全なのか?」。そればかり聞かれましたが、今年は「新しい企画を持ってきてくれ。企画さえ新しければ売れる」と言われるそうです。なぜって、中国は空気が悪いし、鶏インフルがこわい。韓国は北朝鮮問題がある。香港人は日本に行きたいのです、とのこと。

最近、同社にはフィリピンからの問い合わせも増えているそうです。東京を中心にした魅力的なオプショナルコースの開発が求められているといいます。

問題は、土曜日のホテルの確保だそうです。週末は都内のホテルの日本人利用率が高いため、なるべく土曜日は東京を外した日程を組まなければならなくなるからです。

最後に、王理事長は今回の報告をこう総括しました。「アジア客に対しても中身で売る時代がついにやってきました。東京を中心にこれまでアジア客が利用してこなかったようなホテルやテーマパーク、アトラクションなどを組み合わせた多彩な周遊コースを提案していただきたい。我々がそれをアジアマーケットにセールスします」。
b0235153_1524364.jpg

※今年の夏、アジアインバウンドは盛り上がりそうです。中国市場も回復するとすれば、なおさらです。ただし、それぞれのエリアの報告者たちが語る国・地域による市場の成熟度の違い、また同じ国・地域においての市場の二極化の諸相をきちんと見極め、自分はどの層を取り込みたいのか、どこにアプローチしていくべきか、その判断が問われる時代になりそうです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-06-10 15:02 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2013年 05月 30日

中国の海外不動産投資ブームをいかにビジネスチャンスとするべきか(COTTM2013報告 その5)

COTTM2013で開催されたフォーラムの最後のテーマは、「中国の旅行業界は海外不動産投資ブームをいかにビジネスチャンスとするか」というものでした。
b0235153_1139971.jpg

こういうストレートなテーマをビジネスフォーラムで討議するというのは、日本の旅行業界ではあまり考えられない気がします。個人投資家を集めた海外不動産投資セミナーを企画するのは異業種の領域だと信じられているからでしょう。日本の旅行業界人の多くは、消費者とともに一途に “旅のロマン”を追い求めることが業界としての使命なのだという自画像を好んでいるように見えます。

これは別に皮肉ではなく、実は中国の旅行業界の人たちも同じなのです。今回B2Bの商談会であるCOTTMの展示会場で見かけた中国の旅行業界人の顔だちを見ていると、これは直感的な言い方にすぎませんが、日本の旅行業界人と同じ人種だと思ったのです。そうそう、こういう顔だちの人、ファッションセンスの人、日本にもいるいる。たとえていえば、育ちがよくて、子供のころから両親に連れられ海外に出かける機会に恵まれ、留学もしたから英語もそこそこじゃべれるのだけど、バリバリビジネスをやる気もないので、つい知り合いのつてで海外の観光局で働くことになった……というようなタイプとでもいいましょうか。中国の対外開放の歴史は30年ですから、日本に比べると、その種のタイプが業界に集まる傾向はより強いといえるのかもしれません。ある意味、“中国人”離れしたタイプ、香港や東南アジアの華僑の資産家の子弟に近い感じといえばおわかりになるかもしれません。

もっとも、その種のタイプが多い業界といえども、ここは中国。“旅のロマン”だけを追いかけても生き延びてはいけない世界です。しかも、これまで述べてきたとおり、「新型旅客」の登場で、従来型のビジネスモデルでは立ち行かなくなりつつある。そんなこの国の業界人にとって“福音”となるのが、中国人の海外不動産投資家のニーズに業界としていかに貢献できるか、という話だというわけです。
b0235153_11403815.jpg

登壇したのは、司会進行のProf. Dr. Wolfgang Georg Arlt、CBN China Business Network(中国商務集団)総裁のDr.Adam Wu,Coo、そしてスペインのカナリア諸島で一戸建てヴィラなどの不動産販売を手がけるM&S Fred Olsen SAのCamilla von Guggenbergさんです。

CBN China Business Network(中国商務集団)
http://www.chinabn.org/

M&S Fred Olsen SA
http://fis.com/fis/companies/details.asp?l=e&filterby=companies&=&country_id=&page=1&company_id=11802

まず、おなじみProf. Dr. Wolfgang Georg Arlt(以下、教授)による趣旨説明から始まりました。なぜ中国の旅行業界は海外不動産投資ビジネスに関心を持つべきなのか、という話です。

教授はこんな話から始めます。先月(2012年3月)、ヨーロッパの主要な都市のいくつかの商工会議所で中国人観光客をテーマとしたワークショップが開かれたそうです。そこでは、いかに中国人観光客を呼び込み、ショッピングをしてもらうか。さらには、中国の投資家にどのようにプロモーションしていくべきか、といった内容が話し合われたといいます。それだけヨーロッパ諸国では、中国の観光客の来訪を歓待しているというメッセージが告げられます。

この話を聞きながら、ぼくは2008~10年頃の日本を思い出していました。その頃、日本ではいまのヨーロッパのような機運が盛り上がっていたからです。この約4年のタイムラグは、ヨーロッパ諸国が中国人団体観光ビザ(ADSビザ)の解禁を日本(2000年)に遅れること、2004年に実施したことを思うと、なるほどという感じもします。

次に、教授は中国の富裕層(high net worth individuals)の海外志向性について触れます。すなはち、1000万人民元以上の個人資産を持つ中国人富裕層の44%は、移住を考えていること。さらに85%が子弟の海外留学を計画している、と指摘します。
b0235153_11422737.jpg

そして、中国経済の成長は近年鈍化しているものの、海外旅行は依然拡大基調にあることが説明されます。なんだかバブルが崩壊した1990年代以降も、海外旅行市場が拡大し続けた日本と似ていますね。
b0235153_1142206.jpg

いよいよ本題です。中国の旅行業界は、なぜ海外不動産投資ブームをビジネスチャンスとみなすべきなのか。その理由は、ひとことでいえば、業界として顧客のニーズに応えるべきだから、というものです。わかりやすいですね。

教授は説明を続けます。

中国の個人投資家にとって、海外旅行は休暇や買い物を楽しむだけでなく、投資の機会と結びつけて考えられているのがふつうである。彼らは海外の高級な宿泊施設やサービスを体験するだけでなく、投資の機会を狙っている。なぜなら、中国の富裕層は、欧米と違ってすべて自らが起業した第一世代。海外の不動産投資情報についても、代理人に委託するよりも、自分の目で見極め考えるタイプが多い。それが中国の企業家の特性である。

彼らのサポートをするのが旅行業界の役割で、これはビジネスの好機といえる。中国の投資会社も、顧客のために海外の正確な投資情報を入手したいので、海外の事情に通じた旅行業界と協力したいと考えている。近年、中国でも投資家を集めた会員制クラブがいくつもできており、今後彼らを世界に案内する機会は増えるだろう。

実をいえば、中国の不動産投資ブームはいまに始まったものではありません。一般に「旅游地产(Tourism real estate)」と呼ばれ、1990年代にはすでに海南島や広東省などでリゾートホテル開発として進められていました。その動きが進化していくのが2000年代以降です。単なるホテルではなく、一戸建ての別荘やゴルフ場などがまずは国内各地に開発され、2007年のリーマンショック以降、海外に触手が伸びていったのです。

ですから、その動きに旅行業界も貢献するべくビジネスチャンスとしようという話は、ある意味、ごく自然な流れといえるのです。

さて、教授の講釈が終わると、座談会に移りました。登壇者のひとり、Camilla von Guggenbergさんは、欧米の観光客でにぎわうスペインのカナリア諸島でヴィラの投資を呼びかけるため、中国に来たといいます。一方、CBN China Business Network(中国商務集団)総裁のDr.Adam Wu,Cooは、いかにも1980年代早期の海外留学組といった感じの人物で、中国の旅行関係者に向かって投資ビジネスに関心を持つよう語りかけます。

これは日本でもそうですが、中国の大手旅行会社などは、これまで自ら投資して、国内に多数のホテル物件を開発し、運営してきました。しかし、ここで話題となっているのは、自らオーナーとなることではなく、富裕層の海外投資のサポート役となることが、新しいビジネスの可能性なのだということです。薄利多売で大量送客するだけの団体ツアービジネスでは、今後生き延びることは難しいため、富裕層を対象にビジネスを再構築しようという話ですから、それはそれで理にかなっているとは思います。さて、観衆の反応はどうだったでしょうか。

質疑応答の時間はたっぷり用意されていました。この種のイベントでは、中国の人たちは旺盛な好奇心と物怖じしない性格で、どんどん質問が出てくるというのが一般的な光景ですが、さすがに今回ばかりは挙手する人がなかなか出てきません。

そんな息苦しい雰囲気を気にしてか、ある女性が思い立って挙手しました。質問の内容は、Camilla von Guggenbergさんが紹介したヴィラ物件の広さと価格を問うものでした。いきなりカナリア諸島のヴィラに投資しませんか、と言われても、「それっておいくらくらいするものですか?」と聞くのがせいぜいというものでしょう。
b0235153_1143673.jpg

その質疑応答が無事すんで、その場もなんとなくホッとしていたところに、突然後ろの席のほうからひとりの男性が立ち上がりました。ちょっと聞き取りにくい英語でしたが、要するに、「カナリア諸島のヴィラにどれだけの投資価値があるのか。もっと詳しく説明しろ」という、かなり詰問調の質問でした。

おそらく彼は本気でその質問をしているのではなかったと思います。むしろ、そんな誰も知らない海の向こうの投資話をここですることに、どんな意味があるのか。もっと現実的で、業界のビジネスに直結する話をするべきではないか、というワークショップの主催者に対する異議申し立てのように感じました。その気持ち、わかりますよね。なぜなら、観衆としてここにいるのは、投資家の人たちではないからです。

こうして最後はちょっと気まずい雰囲気のまま、「詳しい物件の話は、あとで個人的にご質問ください」という教授のことばで締めくくられたという次第ですが、いかにもいまどきの中国らしい光景だと思いました。

中国で不動産投資を目的に海外に出かけようと考えている個人投資家はずいぶんいると考えられます。実際、彼らは日本にもやって来ています。

最近では、中国の投資家もただ海外の物件を購入し、資産価値を担保したうえで、家賃収入で儲けようという従来通りのタイプだけではなく、中国にはまだないさまざまな優良施設の運営ノウハウを取り入れ、自国で投資したいというニーズもあるようです。

彼らの存在をどう扱うかという話は、実のところ、我々にとっても新しいインバウンドビジネスの可能性のひとつとして、決して遠い話とは言えないのです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2013-05-30 11:44 | “参与観察”日誌 | Comments(0)