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2013年 02月 23日

18回 春にはちょっぴり中国客が戻ってきそうな気配ですが……。中国の旅行会社のHPを読み解く

今年も春節がやってきました。昨年秋からすっかり姿を消してしまった中国団体ツアーバスは、1月下旬頃からわずかながらですが、姿を見せるようになっています。

先日(1月31日)もいつものように仕事の帰り道、新宿5丁目のツアーバス路駐スポットを通りかかると、1台のバスが停まっていました。

乗車扉の脇に「南湖国旅 豪华六天(デラックス6日間)」というプレートが貼られています。ツアーバスから特定の旅行会社名がわかることは珍しいのですが、南湖国旅といえば広東省の旅行会社。すぐに同社のホームページをチェックしてみました。

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南湖国旅 http://www.nanhutravel.com/








グーグルに日本語で「南湖国旅」と入れると、同社のホームページが最初に出てきます。トップページから「出境游(海外旅行)」→「日本」とたどると、2月9日発の4泊5日北海道ツアーや16日発の東京・大阪ゴールデンルートなど、春節から3月にかけての日本ツアーが何本か募集・催行されていることがわかりました。

ホームページにツアーが告知されているからといって、実際にツアーが催行されたかどうかわからないものです。でも、同社のホームページには、出発日ごとにツアーの募集定員に対して空きが何名あるかを表示しているので、集客状況がわかるようになっています。この感じでは、春には中国客がちょっぴり戻ってきそうな気配です。

広東地区では、昨年の尖閣事件以降もいち早く日本ツアーは再開されていましたが、中国海軍のレーダー照射問題で日中関係が緊張するこの時期、上海や北京ではどうなのか? ひとつの目安になるのが、中国の旅行会社のホームページに掲載される商品造成の状況です。今回は広州、上海、北京各社のホームページから、春以降の日本ツアーの動向を探ってみようと思います。

超低価格志向で代わり映えしない広東発

まずは南湖国旅から。広東省ではどんなツアーが造成されているのでしょうか。

2月上旬現在募集中の日本ツアーを探すと、2月23日と25日出発の「东京、富士山、河津川早樱、京都、大阪六天游超级贵宾团」がありました。

ツアー名では「超级贵宾团(VIP)」を謳っていますが、定番の5泊6日東京・大阪ゴールデンルート、しかも5199元(約7万8000円)という激安料金です。成田inで2日目に東京観光、3日目に富士山、4日目はここがこのツアー唯一のポイントなのですが、西伊豆の河津桜見物と清水市のちびまる子ちゃんランドを訪ね、豊橋泊。5日目に京都と大阪を回り6日目の午後便で帰国というもの。いつも思うことですが、広州と東京・大阪のオープンジョー航空券代や中国側の旅行会社の利益を差し引くと、日本国内の手配費用はいくら残るのでしょう?

宿泊ホテルは、「成田日航」「サンシャインシティプリンス」「富士五湖地区豪華ホテル(豪華? おそらく河口湖と山中湖にある某インバウンド専用ホテルでしょうけど……)」「ロワジールホテル豊橋」「関西エアポートワシントンホテル」と記載されていますが、ホテル名の隣に「或同級(同等)」と書かれてあり、確定されているわけではないようです。

2月下旬のこの時期しか見られない河津桜見物を加えるなど、新たな趣向がまったくないとはいえませんが、基本的には「弾丸バスツアー」です。先日ぼくが新宿5丁目で出会ったのも、こうしたツアーの1本だったのでしょう。3月以降には、関西周遊4泊5日5999元、北海道周遊5泊6日6899元、8999元、東京・大阪ゴールデンルート+北海道6泊7日8899元、9499元などが募集されていますが、ツアー行程を見る限り、広東発の日本ツアーは相変わらずの超低価格志向で、代わり映えしないといわざるを得ません。

ツアーの多様化が見られる上海発

次に、上海の錦江旅游のホームページを見てみましょう。

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錦江旅游 http://www.jjtravel.com/





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錦江旅游の日本ツアーの豊富なラインナップ








こちらはツアーの種類も数も豊富で、さすがは中国の最先端消費地である上海の旅行会社という印象です。春節期間中のツアーでは、2月11日発「日本精华特惠6日(全日空利用の東京・大阪ゴールデンルート)7800元」「迎春爱恋九州—乐活特惠4日之旅(福岡、熊本、大分周遊。主な訪問地は別府温泉と阿蘇山観光)5999元」、12日発「日本北海道札幌、小樽、函馆、登别、洞爷湖5日游(北海道周遊)13800元」など、すべて満席でツアーが催行されるようです。広東省に比べると、旅行ルートの新しさもそうですが、さまざまな付加価値を付けることで、価格帯もそれなりのバリエーションがあります。

なかでも面白いと思ったのは、2月13日発の「迎春『御享温泉•饕餮盛宴』日本九州大纵断5日之旅(独家私房)11999元」です。これまで中国からの九州ツアーは、クルーズを除けば福岡や長崎、大分方面に集中していたのですが、これは鹿児島、宮崎、熊本など南九州を周遊するコースです。指宿の砂風呂や桜島、阿蘇山を周遊し、各地の温泉旅館に宿泊。特に2日目の宿泊先は鹿児島県霧島市にある旅行人山荘で、ここは旅行作家の蔵前仁一さんのご親族が経営する温泉旅館です。

錦江旅游のホームページには、ツアー行程が詳細に書き込まれていることも特長です。ふだんから中国のツアーにケチをつけてばかりいるぼくですが、上海発のツアーに関しては、台湾市場の成熟度にだんだん近づきつつあることを実感します。2月上旬現在まだ定員は埋まっていないようですが、3月7日発の「日本深度探索系列—中部探幽6日游9999元」のように、以前台湾でヒットした立山黒部アルペンルートの雪の壁を歩くコースが約10年遅れとはいえ企画されているのを見ると、ゆっくりした歩みではあるけれど、上海に限っては日本ツアーの多様化が進んでいることがうかがえます。

残念としかいいようのない北京発

では、北京はどうでしょうか? 北京中国国際旅行社のホームページを見てみましょう。


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北京中国国際旅行社 http://www.citsbj.com/









最初に気づくのは、日本市場に対する消極的な姿勢です。広東や上海の旅行会社の「出境游(海外旅行)」コーナーでは「日本」は当然のように独立したページだったのに、北京中国国際旅行社では「日韓旅游」と日本と韓国がひと括りにされています。しかも、最初のページは韓国ツアーばかり。日中関係の悪化で、今年の春節は中国客が大挙して韓国に訪れるとは聞いていましたが、そうした市場の変化はホームページにも表れています。

それでも、掲載されている「日韓旅游」計61本のツアーのうち40本は日本行きで、ツアーコースも上海発の多様さには及ばないものの、広東発にはない沖縄ツアーや1万元を超える東京滞在型があるようです。たとえば、2月10日と13日発の「动漫乐园东京迪斯尼双园宫崎动漫5日11880元」では、初日に富士山、東京ディズニーランド&シーを2日かけて遊び、最終日に都内観光と三鷹の森 ジブリ美術館を訪ねるものです。

とはいえ、この種のツアーは何年も前からすでに催行されていたものですし、はっきり言ってやる気があるとはとても思えない保守的な商品ばかりです。政治の影響が強い土地柄だからなのでしょうが、これが首都の旅行会社かと思うと、残念としかいいようがありません。明らかに日本ツアーのマンネリ化が感じられます。

このように、中国の海外旅行市場の成熟度は北京、上海、広東で大きく異なっています。よく巷で中国経済に対する両極端の評価が聞かれますが、それは中国のどこの話をしているかで違うのであって、上海とそれ以外の中国を分ける必要性が自覚されていないせいだと思います。上海で起きていることは、中国ではかなり特殊で局地的な状況だと考えた方がいい気がします。その違いは各社のホームページを比較すると、つかめるのではないでしょうか。今後も定期的にチェックしてそれぞれの動向を検討する必要がありそうです。

ツアー代金は日本行きと変わらない国内旅行

せっかくですから、今年の春節期間中に延べ34億人の大移動があるというレジャー大国、中国の国内旅行の状況も少し見てみましょう。

中国でいちばん人気のある国内旅行先といえば、「中国のハワイ」と呼ばれる海南島でしょう。北京中国国際旅行社では、2月6日発の「环海深度游三亚往返双飞5日5780元」が催行されています。海南島の最南端にある三亜にはアジアンリゾート風のビーチホテルがあり、基本そこに滞在しながら南国体験をするものです。ツアー代金の内訳は往復の航空券+ホテル代+島内バス観光ですが、料金は東京・大阪ゴールデンルートと変わりません。

第2の人気先は世界遺産である雲南省の麗江でしょうか。春節期間中の北京発のツアーは、昆明まで飛行機で飛び、鉄道やバスで周遊する5泊6日のコースが一般的で、価格帯は1000元台から5000元台までと、それなりのバリエーションがあるようです。同じ目的地で価格帯に広がりがあることは商品の多様化を意味し、市場の成熟度の目安といえます。日本ツアーに必要なのは、まさにこうした価格のバリエーションでしょう。

最近は中朝国境にある長白山へのツアーも人気があるようです。ふだん雪を見ることのない広東省では冬季の東北旅行はもともと人気でしたが、南湖国旅の2月上旬現在の国内旅行で注目の商品となっているのが、2月19日発の「长白山北景区 长白山万达国际度假区 激情滑雪 中国雪乡 东北三大省会(哈尔滨、长春、沈阳)双飞六特惠贵宾5299元」です。このツアーは広州から飛行機で遼寧省の瀋陽に飛び、バスで吉林省の長春や長白山の山岳スキーリゾートを訪ね、黒龍江省のハルビンから戻る5泊6日のコースです。

実は、昨年ぼくは取材で長白山を訪ねているのですが、天池と呼ばれる美しいカルデラ湖があり、富士山に似たなだらかな山麓の広がる中国では珍しい休火山で、周辺にスキー場がいくつもできています。ここ2、3年で山岳リゾートホテルも続々と誕生しています。2008年にできた長白空港には北京からの直行便もあり、アクセスも飛躍的に向上しています。

ただし、このツアーではせっかくスキーリゾートを訪ねているのに、一泊しかしなく翌日から移動を続ける日程になっています。なぜなのか。実は、これは冬の北海道ツアーに参加する中国客に見られるのと同じ光景で、実際にスキーをするわけではなく、スキー場の入り口付近で雪とたわむれるだけというのがほとんどのケースだからです。

スキー人口はまだ少ないのに、スキー場だけがいくつも開発され、すぐにつぶれていくというような中国のゆがんだレジャー投資ブームの顛末をいくつも見てきただけに、苦笑するしかない話なのですが、これらのいくつものツアー行程をみていると、今日の中国の国内ツアーの多くが基本、「弾丸バスツアー」であることに気づかされます。

ゴールデンルートを旅する中国客を見ながら、「毎日バスに乗りどおしで面白いのかな?」とつい思ってしまいますが、いまの中国の人たちにとって、旅行とはそういう“欲張り”なイベントなのでしょう。「いろんな場所に行きたい」が最優先。これは「ロンパリローマ」と呼ばれた1970年代前期の日本人のヨーロッパツアーに似ているのだろうと思います。

今回紹介した中国の国内ツアーはすべて東京・大阪ゴールデンルートと同じ5泊6日で、価格帯も5000元前後のものを選んでいます。今日の中国には、同じ日程でツアー代金も日本行きと変わらない国内旅行商品がたくさんある。本コラムでこれまで何度も書いてきたように、日本ツアーの不当な安さにはさまざまな背景や経緯があることは確かですが、少なくとも中国の消費者にとっては関係ないことです。安けりゃ安いに越したことはない。価格帯で見れば、中国の国内ツアーはすでに日本の競合相手となっているのです。

まずは日本の競合相手を知ること

競合相手を知るという意味では、日本以外の海外ツアーの事情も気になります。

錦江旅游の「出境游(海外旅行)」のトップページをみると、主なツアー商品のトレンドや価格帯がざっとわかります。

たとえば、激安ツアーの氾濫でトラブルが続出した香港にも、いまでは5000元台のツアーもあること。台湾での個人旅行がすでにはじまっていること。上海発の国際クルーズ商品が人気なこと。上海人の平均的なヨーロッパ周遊ツアーが12日間で15000元相当、アメリカ周遊が2週間で25000元相当であること。かつて日本人のビーチリゾートのメッカだったサイパンの主要客が中国にとって代わられようとしていること。激安商品の多い東南アジア方面でも、モルジブのビーチリゾートに限っては5泊6日で23000元という高額商品を造成していることなど、上海人の海外旅行の現在形がうかがえます。

一方、北京中国国際旅行社の「出境游(海外旅行)」には、欄外に「热点目的地(ホットな目的地)」として20の国名や都市名(ロンドン、ローマ、スイス雪山、北海道、済州島、ケニア、トルコ、南アフリカ、ハワイ、オーストラリア、ニュージーランド、モルジブ、サイパン、東南アジア、パタヤ、ロシア、スペイン、カンボジア、ドバイショッピング、ネパール)が雑然と並べられています。これが北京で旬の旅行先だということでしょう。日本からは東京や大阪ではなく、北海道がランキングしていることからも、北海道は日本で唯一、単独で中国客を呼べるブランドとしての地位を確立していることがわかります。第2、第3の北海道が出てきてほしいものです。

次に、海外旅行商品のエリア別カテゴリーを見てみましょう。錦江旅游では、「香港・マカオ」「台湾」「国際クルーズ」「自由旅行」「アメリカ・カナダ」「オセアニア」「サイパン」「日本」「ヨーロッパ」「東南アジア」「中東アフリカ」「韓国・朝鮮」(掲載順)に分けています。

この区分けは重要です。これがいまの上海人が海外旅行先を選ぶ際、頭に浮かべる世界地図だといえるからです。もっとも、それは固定化されたものではなく、常に新しいトレンドが登場することでこれから先も変化していくものです。

一方北京中国国際旅行社では、「ヨーロッパ」「東南アジア」「中東アフリカ」「アメリカ」「ビーチリゾート」「ロシア」「オセアニア」「日韓」「ネパール・インド」(掲載順)に分けています。上海と北京の市場の違いはエリアの区分けや掲載順にも表れていると見るべきです。

ともあれ、これらもまた「観光立国」を掲げる日本にとっての競合相手だということです。この中で、中国人消費者から日本が選ばれるためにはどうすればいいのか。まずは日本が相対的にどんな位置付けにあるのか。長所と短所は何か。それをふまえ、今後何を目指し、どう差別化を打ち出すべきか。こうしたことを明確に意識して戦略化する必要があります。

それを考えるうえで参考になるのが、ツアー検索のための目的別キーワードです。

たとえば、錦江旅游では2月上旬現在、「アウトドア」「ハネムーン」「健康診断」「親子旅行」「ディズニー」「ヘルスツーリズム」「桜見物」「名校游」「シルバー」「スキー」「温泉」「美容」「フラワーツーリズム」などのキーワードが挙げられています。ちなみに「名校游」というのは、主にアメリカでハーバードなどの有名大学のキャンパスを訪ねるもので、いかにも教育熱心な中国らしいですね。

また北京中国国際旅行社では、「親子旅行」「絶景の旅」「ビーチリゾート」「チャーター便利用」「映画の旅」「ディズニー」「春節特集」「神秘を訪ねる旅」「美食の旅」「自由旅行」「クルーズ」「ハネムーン」「サマーキャンプ(自然満喫の旅)」「Club Med」など。

さまざまなキーワードが入り混じっていますが、これがいまの上海と北京の消費者の海外旅行シーンを理解する鍵だと考えられます。それぞれのキーワードで検索される商品群からツアーの価格帯や、彼らが何を求めているのかが少しずつ見えてきます。

話をわかりやすくするために、同じことを日本の旅行会社の場合と比較してみましょうか。海外旅行大手のHISのホームページでも、ツアー選びがエリアと目的から検索できるようになっていますが、2月上旬現在の「目的から探す」には以下のキーワードがあります。

「間際出発」「家族旅行」「ゴールデンウィーク」「学生旅行」「ウェディング」「ハネムーン」「海外発航空券」「スポーツ」「留学」「鉄道」「世界遺産・秘境」「社会貢献」「音楽鑑賞」「登山・トレッキング」「バリアフリー」「クルーズ」「温泉」

日中双方には共通するキーワードもありますが、海外旅行商品のトレンドはもちろんのこと、ツアーを選ぶ際のポイントや目的についての認識も違っていることがわかると思います。たとえば、いまの中国の人たちが「留学」をお手軽な海外旅行商品と捉えることは少ないでしょうし、「社会貢献」や「バリアフリー」といったキーワードで差別化される商品群もまだないでしょう。それを市場の成熟度の違いといってしまえばそれまでですが、ここで考えなければならないのは、中国客に日本をPRする際、決して日本市場のトレンドに囚われてしまってはならず、中国市場が求める嗜好や目的に、日本側が合わせて訴求する必要があるということです。

ツアー価格の相場観とマンネリ化を打破するために

日本のインバウンドが今日抱える問題は、中国市場で定着した日本のツアー価格の低すぎる相場観と商品のマンネリ化です。どうすればこれを打破できるのでしょうか。

ひとつの方向としては、上海でモルジブ5泊6日23000元の高額ツアーが造成されていることをふまえ、日本でも超高級リゾート路線を打ち出すことが考えられます。ただし、その際の競合相手はインド洋に浮かぶ水上ヴィラが売りのモルジブです。ビーチリゾートでそれに打ち勝つだけの素材が日本にあるかどうか。またあるとしても必ずしもビーチリゾートである必要はなく、山岳リゾートでも都市観光でもジャンルは何でもありといえるのですが、相当インパクトのある斬新さでアピールできるかどうかが問われます。

というのも、いまの中国の消費者は、日本が得意とするきめの細かい商品の差別化に慣れておらず、とりわけ海外旅行のような形のない商品においてそれを理解することが難しいので、誰もが見てわかるようなド派手な仕掛けが必要なのです。これはバブル崩壊後、“まったり”と過ごしてきた日本人のセンスではなかなか難しい取り組みかもしれません。

もうひとつの路線は、コツコツと日本ツアーのバリエーションを増やしていくことに尽きるでしょう。そのための手本は台湾の訪日市場にあります。台湾の旅行業界が長年かけて日本全国をいくつかの広域に分けて造成してきたチャーター便のツアーのいくつかは、いま上海市場で地方空港やLCCを利用した集客がはじまろうとしています。ただし、「弾丸バスツアー」の時代を生きるいまの中国の消費者に対して、それらがどこまで支持されるかは、こちらが黙っていても日本を愛好してくれる台湾の消費者ほど簡単ではないでしょう。彼らの旅行意欲を焚き付ける新たな仕掛けが必要になると思います。

ここ数年、中国で欧米諸国への観光ビザが相次いで緩和されたことは、日本ツアーのマンネリ化に影響があったとぼくは思います。中国の消費者もそうですが、商品造成に関わる旅行業者の人たちも、次々と新しい旅行先が解禁されると、そちらに関心が向かうのは無理もないからです。また、宿泊施設や交通機関をはじめとした中国の国内旅行のクオリティがそれなりに向上したことで、相対的に日本ツアーのバリューが、我々の気がつかないうちに低く見積もられてしまっている面もありそうです。

それでも、上海市場に限っていえば、北海道に次ぐ旅行先として九州のツアーが増えており、新しい可能性も感じられます。中国映画のヒットで突如中国人に“発見”された北海道のようなラッキーなケースを望んでも仕方ありませんが、九州を単独で中国客を呼べるブランドに育てるための、いまは正念場といえるでしょう。

もともと九州には、戦前の上海・長崎航路を利用して雲仙温泉で避暑を楽しむ上海租界のロシア人や中国の富裕層がいたことが知られています。これは思いつきにすぎませんが、1930年代の雲仙温泉に中国客が訪れた当時の歴史を掘り起こし、九州の温泉地を中国人にとっての避暑地として美しくイメージ化して売り出すというのはどうでしょう。

日本人にとっての避暑地は箱根や軽井沢と相場が決まっていますが、ここは目をつぶりましょう。誰にとっての避暑地かということが問題なのです。その土地に住む人と旅する人の視点は違うのです。そういう発想の転換が大事です。中国の人たちが北海道の美しい自然というサプライズに魅せられたように、九州では温泉という素材を避暑という歴史的な縁とつなげてサプライズとして仕掛けるのです。

そのためには、歴史を巧みに落とし込んだ甘美なストーリーと魅力的なキャッチコピーも必要でしょう。中国の旅行会社のホームページには、世界各地の旅行先のキャッチコピーがあふれています。たとえば、錦江旅游だとこんな感じです。

「“峰”景如画瑞士自然之旅(絵画のようなスイス自然の旅)」

「花色夏威夷浪漫假期之旅(ロマンチックな色彩あふれるハワイの休暇)」

「西葡太阳海岸热情之旅(西ポルトガル太陽海岸情熱の旅)」

「巴厘甜蜜蜜(スィート・バリ)」

日本の旅行会社のツアー名ともよく似ていますが、中国語で表現されると独特の味わいがありますね。では、この並びで日本各地のツアーにどんなキャッチコピーを付ければ中国の消費者の心をつかめるのか。ツアーのマンネリ化を打破するには、こうした検討作業も必要でしょう。ただし、こればかりは中国のビジネスパートナーと時間をかけて取り組んでいくしかありません。

日中関係が政府間で緊迫するなか、この春節の時期、例年と比べて沈みがちな中国の訪日旅行市場の話題をあえて提供したのは、今回ぼくが新宿5丁目で1台のツアーバスに出会ったことをきっかけに、その旅行会社のホームページを覗いてみたことで多くの発見があったことをどうしてもお伝えしたかったからです。震災や尖閣問題で厳しい停滞を迫られた訪日市場ですが、少なくとも民間ベースでは中国側にもそれなりの動きがあることに、あらためて気づかされました。今後も雲行きはあやしく、どんな揺り戻しが起こるかわかりませんが、こんなときこそ、中国の旅行会社のホームページをご覧になってみられることをおすすめします。

やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/column/2013/column_113.html
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by sanyo-kansatu | 2013-02-23 06:55 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 05月 07日

9回 香港で3000元以下の激安ツアーを停止させる動きが始まるか

東京では桜シーズンも終わりましたが、今年の春は中国インバウンド市場が回復基調にあることを実感した関係者も多かったと思います。

ぼくが中国インバウンドバスの路駐台数を定点観測している明治通り新宿5丁目付近の推移を見ても、東京で桜が開花した4月に入るとバスの台数が一気に増えたことがわかります(http://inbound.exblog.jp/18145846/)。そのピークは4月の第2週で、11日は過去最大の台数でした。明らかに今年1月の春節時を上回っていました。
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4月11日の夜、新宿5丁目付近には中国人観光客を乗せたバスが数多く見られた

震災から1年という節目を迎えたことが大きかったといえますが、日本の観光プロモーションの継続的な取り組みが実を結んできたことは確かでしょう。3月下旬から4月上旬にかけてぼくは北京出張に行っていたのですが、今回は現地での見聞や関係者から聞いた話の中から中国インバウンドに関する注目すべき動きをいくつか紹介したいと思います。

北京の地下鉄通路に日本の桜の全面広告
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北京の地下鉄では2月中旬から3月末まで日本の桜をPR

3月下旬、ぼくが北京で最初に目にしたのは、日本政府観光局の巨大な広告ポスターでした。地下鉄1号線と10号線をつなぐ国貿駅の地下通路を美しい桜の満開の写真が埋め尽くすという仕掛けです。通行人は桜に包まれているような感じがして、日本の花見を体感させる効果を出そうとしているようです。日本ではあまり見かけない地下通路を使った大掛かりな全面貸し切り広告は、視覚的にかなりインパクトのある宣伝手法といえるでしょう。さすがに中国は「宣伝の国」というべきか(政治プロパガンダが中心だった時代の伝統を受け継いでいるともいえます)。知人から聞いた話では、同じものが東直門駅でも見られたそうです。

もうひとつの興味深い取り組みは、日本国大使館や日本政府観光局が中国版ツイッターといわれる微博(ウェイボー)の活用を精力的に進めていることです。

微博(ウェイボー)については、昨年の中国高速鉄道事故をめぐる情報開示の影響力の大きさがメディアで報道されたことからご存知の方も多いと思います。いまや3億人を超える中国人が日常的に活用しているSNSで、中国進出している多くの日本企業や政府・自治体、個人がアカウントを取得し、双方向の情報発信を始めています。

4月初旬に刊行された『中国版ツィッター・ウェイボーを攻略せよ!』(ワニブックスPLUS新書)の著者で、北京在住の山本達郎さんによると、日本大使館のアカウントの開設は2011年2月1日で、同月14日からツイートをスタートさせています。その1カ月後、東日本大震災が発生。震災関連情報の発信に努めるとともに、中国人が日本に対して興味があるといわれる4つのテーマ(「食事」「文化」「政治」「日中交流」)を中心に平日は1日2本、土日は1本ずつツイートを行なったところ、開設から8ヵ月でフォロワー数(中国では「粉丝」といいます)が10万人に達し、2011年4月現在14万人を超えています。これは北京にある各国大使館のフォロワー数ランキングでみると、アメリカ、イギリス、フランスに次ぐ4位です。
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日本大使館の微博ページ


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日本政府観光局北京事務所の微博ページ

同じく日本の観光プロモーションの中軸をなす日本政府観光局北京事務所でも、2011年8月頃より本格的に微博によるツイートをスタートさせており、4月現在フォロワー数は3万3000人を超えています。日本大使館と連携しながら観光に特化した情報発信に努めているわけですが、大使館とスタンスの違うところとしては、なるべく中国人自身にリツイートしてもらえるよう働きかけていることです。この発想はインバウンドにとって重要です。

中国人によるツイートには、観光局からの一方的な情報発信にも勝る強い説得力があるからです。たとえば、同事務所では今年1月から3月にかけて、日本を訪れた中国人観光客による写真コンテストを企画し、微博で応募してもらい、人気投票を実施しています。微博の双方向性を活用し、プロモーションや今後のマーケティングにつなげていく取り組みはすでに始まっているのです。

2012年は大型周年事業の当たり年

北京在住の友人から聞いた今年ならではの話題に、2月16日から4日間、北京国際展覧中心で開催された日中国交正常化40周年記念行事「2012日中国民交流友好年」と「元気な日本」展示会があります。日本でも報道されたAKB48のコンサートをはじめ、アニメソング歌手のライブから神戸コレクションのファッションステージ、マグロの解体ショーまで。会場を取材した現地メディアによると「中国的な意味での派手さはないものの、日本の洗練された文化を伝えるうえで、綿密に企画制作されたイベントだった」(『Whenever BEIJING』持田吉彦氏)ようです。

ご存知のように、2012年は日中国交正常化40周年に当たります。外務省は、経済界を中心に立ち上げられた日中国交正常化40周年記念事業実行委員会(委員長・米倉弘昌日本経済団体連合会会長)と協力しながら、青少年交流と地域レベルでの相互理解を促進するための地域間交流に重点を置いているといいます。

もっとも、昨年11月、14年ぶりに上海航路が再開された長崎県の日中青少年交流など、一部地方での動きが見られるものの、全体としてみると、日本国内では機運はあまり盛り上がっているようには見えません。近年の日中関係を考えれば国民感情的にみても無理はない気もしますが、それ以上に、民間交流が40年にわたって実質的に進み、日常化したことがかえって無関心の背景になっているように思います。

クールジャパンと称される日本のポップカルチャーを中心に構成されるプロモーションは、いまや日本のお家芸といえますが、民間交流のためのわかりやすいツールであるポップカルチャーの中国に対する日本の圧倒的な優位性が日中両国民の相互理解に非対称ともいえるほどの偏りをもたらしていることも大きいでしょう。
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日中国交正常化40周年記念として、北京国際空港の出国ゲートに並ぶ日本の観光プロモーションボード

さらに言えば、2012年は日本政府がワシントンに桜を寄贈した日米親善100周年やインドとの国交樹立60周年、沖縄返還40周年など、大型周年事業の当たり年といえます。こうした場合、全方位外交を掲げるのが政府の立場でしょうから、日中40周年も数ある大型周年のひとつに過ぎません。今年の日中記念事業が30周年や35周年時に比べて盛り上がりに欠けるのは、政権交代と関係があるとの関係者の声も聞かれます。これまで記念事業の推進を関係官庁に強力に働きかけていた政治家が野党に下ったことが大きいというのです。

なんとも微妙な話ですが、今年の停滞ぶりをみる限り、観光振興にとっては大型周年事業を推進させる政治的なプレイヤーも重要な存在であることを認めざるを得ません。

中国で高品質ツアーの造成を阻む障害

ぼくは北京で毎回中国の旅行会社の関係者にヒアリングしています。中国インバウンドの現況を理解するうえで、彼らとの意見交換ほど貴重なものはありません。ここでは、日本のインバウンド関係者に示唆を与えるふたつの話を紹介しようと思います。

ひとつ目は、北京で高品質なオリジナルのツアー造成に取り組んでいる某旅行会社から聞いた話です。

中国の旅行関係者にとっての大きな悩みは、日本側と同様、日本行きのツアーが安すぎることです。いくら特色のあるツアーを企画しようとしても、日本の事情を知らない中国の消費者は、中身を比較検討できるほど商品知識がないため、値段だけで選んでしまう。

前述した微博をはじめ、中国には日本観光に関するネット情報があふれているではないかというかもしれませんが、それらは所詮ピンポイント情報に過ぎません。個別のショップやスポット情報、特定商品の内外価格差に彼らがいくら詳しくても、それで日本がわかったとはいえないのです。旅行は一般の小売商品のように手にとって比べることができないものですし、その国の交通機関や宿泊施設、人的資源など、さまざまな観光インフラや社会システム、ルールによって支えられて成り立っているものだからです。

東京都内のホテルとパンフレットに書かれていても、実際には千葉にあることを事前に理解しているツアー客がどれだけいるでしょうか(これは旅行業者も同じ)。一見豊富に見えるネット情報と中国の消費者の旅行商品に対する成熟度は別の次元の話なのです。もちろん、ここでぼくは情報発信に意味がないといっているのではなく、認知度アップのための不断の努力は欠かせないとして、もっと重要視されなければならないのは、中国の消費者が実際にツアーに集客されるビジネスの現場を知ることです。

中国で高品質なツアーの造成を阻む障害となっているのは次のような事情だといいます。仮に自社企画のオリジナルなツアーを募集しても、すぐに他社にパクられてしまうため、積極的な新規のツアー企画をためらう風潮が中国の旅行業界にあるというのです。たとえチャレンジするとしても、クローズドな市場に向けて用心深く告知し、ツアーの中身を他社に悟られないよう最大限の注意を払わなければならない。日本人の目から見れば、なんと異常な光景でしょう。同社のスタッフは吐き捨てるようにこう言いました。「中国では知的財産権の保護などありえないのです」。

ツアー企画のパクリというのは、中国に限らず日本でもあるように思うのですが、彼が言うには「中国ではパクったうえ、中身を低品質の素材にすり替え、安く販売しようとする」といいます。企画造成のための地道な努力を欠いた商品の乱造はオリジナルの商品までイメージダウンさせ、共倒れさせてしまう。これは旅行商品に限った話ではなく、中国の消費市場一般にいえると思いますが、まったくたちの悪い話です。

中国でのビジネスには日本人が通常考えにも及ばない苦労があるというのです。だとしたら、日本のインバウンド関係者は、彼らの事情を理解し、高品質なツアーを造成しようと努力している一部の優良な旅行会社とそうでない粗製濫造型の旅行会社をきちんと判別し、直接前者を支援することが必要なのではないでしょうか。こうした連携については、後日具体的な提案をしてみたいと思います。

上海市旅游局の取り組みに日本も連携できないか

ふたつ目の話は、別の担当者から聞いた中国の観光政策に関するニュースです。それは「Travel Link Daily(旅业链接)」という中国の旅行業界誌に掲載された以下の報道です。

「上海市旅游局全面整治3000 元以下低价港澳游(旅业链接2012月3月16日号)」

簡単にいうと、免税品店の連れ回しやツアー客の置き去りといったクレーム続きで中国の消費者から悪評高い香港・マカオ行き激安ツアーの停止に、いよいよ上海市旅游局が着手し、違反した旅行会社に罰則を下すというものです。注目すべきは、ツアー代金が3000元以下だと取り締まるという基準です。

この記事をぼくに教えてくれた北京の某旅行会社の女性主任はこう言います。「なにしろ安い香港ツアーでは旅行代金すべてを集客した旅行会社が懐に入れ、現地に客を送って終わりという無責任なケースがほとんど。香港側のランドオペレーターはツアー客からいかに金をむしり取るしか考えようとしない。さすがにこの状況を改善しなければならないと上海市旅游局が重い腰を上げたのです。とてもいいことだと思います」。

ただし、この施策がどれほど厳密に適用されるかについては、今後の行方を見守る必要があるようです。帰国後、この話を日本のアジアインバウンド界の重鎮であるNPO法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁理事長にしたところ、「これまでも何度か同じようなニュースが伝えられたことがあったが、状況が改善したとは思えない」と厳しいコメントをいただいたからです。

たとえそうだとしても、こうした報道を受けて、ツアーの激安化に悩む日本の監督官庁や業界関係者も行動を起こしてほしいとぼくは思います。端的にいうと、上海市旅游局の取り組みに日本も何らかの連携ができないか、ということです。

そんなに単純な話ではないことはわかっています。文字通りの連携は難しくても、上海市旅游局が取り組みを始めるに至った経緯や状況認識をヒアリングすることには意味があると思います。我々からみれば複雑怪奇に見える中国の旅行ビジネス市場において、当局がどこからどう手をつけるか、中国式の施策運用の実態を理解することも必要ではないか。

実際のところ、いったん定着した価格帯を引き上げることは、そんなにたやすいことではありません。激安ツアーの停止は短期的には集客を減らし、エアラインや香港側のホテル営業に直撃するからです。当然彼らは反発するでしょう。関連業界の利害調整が不可欠です。事情は日本だって同じです。日本の監督官庁がメイド・イン・チャイナ化した中国人の日本ツアーを野放しにしている背景には、エアラインをはじめとした一部の業界団体の利益を守ろうとする暗黙の了解が働いているはずです。

上海市旅游局が取り締まりに着手する錦の御旗は消費者保護でしょう。こうした課題解決に中国がいかに取り組むか。その手法や発想がたとえ我々と大きく違ったとしても、その道筋を知ることは日本の対中国インバウンド施策の立案に参考になります。来日中の中国ツアー客を日本の消費者と同様にいかに保護するかは、本来日本の国内問題でもあるはずです。彼らにお金を落としてもらうことを期待する以上、当然のことでしょう。野放しのままでいいわけがないのです。

前述の中国人主任は「日本政府も上海市にならって中国側に最低ツアー価格を打ち出してほしい」と言います。そこで、試しに「日本ツアー停止の基準を設けるとしたら、いくらにすべきだと思いますか」と尋ねたところ、「1万元、いや、せめて8000元」と答えてくれました。香港3泊4日の最低基準価格が3000元だとしたら、東京・大阪5泊6日が1万元(約13万円)というのが中国側からみれば妥当な価格帯なのかもしれません(日本側からみると、それでも十分とは思えませんが……)。

中国の日本ツアーのコストを無視した激安問題を解決することの難しさは、中国市場の著しい地域格差も大いに関係があります。上海市場ではすでに訪日旅行の主流は団体から個人に向かって進化していて、今後も引き続き激安化が問題となるのは、市場の成熟度が遅れた中国の2級都市や内陸都市からのツアーだからです。ツアー下限料金の取り締りは、現状では中国で最も消費者意識が高いとされる上海だけで、今後それ以外の地域にどこまで広がるかはまだわからないのです(北京でも今後始まるとは思いますが、上海に比べ消費者意識に沿ったというより、どこか権威主義的な運用になるような気もします)。

まったく難儀なものですね。でも、こうしたことは新興国市場から利益を得ようとすれば、誰もが避けられない現実でしょう。インバウンドは自分を知ると同時に、相手を知ることが欠かせません。今回紹介した「Travel Link Daily(旅业链接)」のような中国の旅行業界誌の報道にもこれからは目配りが必要だと思います。(2012年4月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/column_76.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 22:49 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 05月 07日

8回 震災から1年。いまだからこそ、インバウンドのビジネスモデルをおさらいしよう

東日本大震災から1年がたち、訪日中国旅行市場もようやく回復の兆しを見せ始めているようです。3月中旬のある夕刻、ぼくが定点観察している新宿5丁目明治通り沿いにある中国インバウンドバス路駐スポットで久しぶりに大型バスを発見しました。ローソンの前にバスを停め、ツアー客が食事から戻ってくるのを出迎えていた運転手さんに声をかけてみました。
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新宿5丁目明治通り沿いにある中国インバウンドバス路駐スポットにて

「どこから来たお客さんですか?」
「天津から」
「桜の時期はどうですか?」
「今年は戻って来そうだよ」

また数日前、北京の旅行会社の知り合いに電話で話を聞いたところ、春節後、MICE(企業視察や交流を兼ねたビジネス訪日旅行)の大口案件が次々と決まり、忙しい毎日だと話してくれました。おととし秋の尖閣諸島沖漁船衝突事件以降、「いい話はひとつもなかった」と渋い顔を見せていた北京の旅行業者も、久しぶりに明るい声を聞かせてくれたのです。

とはいえ、この春中国客が日本全国津々浦々に姿を見せることになるかというと、そういうものではありません。残念ながら、彼らが訪れる場所とそうでない場所については、残酷なほど明暗を分けることになるでしょう。中国客の来訪を待ち望むすべての観光地やホテル、小売店、飲食店、アミューズメント施設が公平に潤うことはまずあり得ないのです。

なぜなのか。日本人の眼から見ると、その違いがどこにあるのかわかりにくいかもしれません。でも、彼らが訪れる場所には必ず選ばれる理由があります。今回は、それを理解するための前提として、あらためてインバウンドのビジネスモデルをおさらいしたいと思います。

ランドオペレーターなくしてインバウンドビジネスは成り立たない

今回ぼくがビジネスモデルの話に立ち返る必要を感じたのは、3月7日に行なわれたやまとごころ主催の第25回インバウンド勉強会「観光の力が問われている復興の道のりと可能性」に出席したことにあります。そこでは震災後1年という時節柄をふまえ、被災地観光の可能性がテーマとなっていましたが、パネルディスカッションに登壇されたNPO法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の石井一夫さん(株式会社ジェイテック取締役営業部長)と河村弘之さん(株式会社トライアングル代表取締役)のおふたりの発言に触発されたからでした。

司会者から東北の被災地観光の可能性についてインバウンドの視点でのコメントを求められたとき、石井さんはこう発言されています。

「国によって温度差があります。台湾はひと通り東京から大阪のゴールデンルートは終わり、その後に北海道のブームが来て、九州、最後に東北という流れがあります。それに比べて中国はゴールデンルートが7割と、東北へ目を向けている人がまだ少ない状態です。また、放射能の心配から、東北に行く際に福島を通って大丈夫かという声があります。被災地でもコースを造成することは出来るかもしれませんが、売れる国とそうでない国に分かれると思います。日本全体に外国からのお客様が来ていただいてないという現状を考えると、まずは日本全体が良くなってから東北という順番があるのかなと思います」(やまとごころHPより抜粋)。

ここで石井さんが述べておられるのは、対象国・地域によって訪日旅行マーケットの成熟度がまったく異なっているという認識です。被災地としての東北地方への誘客は、台湾のような成熟したマーケットの旅行者であれば可能性はあるものの、中国のような後発マーケットでは難しいだろうということをリアリズムで語っておられます。

一方、河村さんからは昨年9月、香港から約100名の宗教関係者の四国お遍路めぐりを手配されたという興味深い報告がありました。「東北大震災の被災者を供養するための7泊8日の巡礼ツアー」だそうです。こうしたユニークなツアーが催行できたのも、香港が台湾同様、成熟したマーケットであることの証でしょう。そして、何より河村さんが海外客を相手に日本の旅行手配を長く手がけてこられた豊富な経験をお持ちだからです。

おふたりはインバウンド専業のランドオペレーターです。いまさらですが、ランドオペレーター(ツアーオペレーター)というのは、海外旅行(アウトバウンド)で観光案内やホテル、レストラン、現地の交通手段などの手配を専門に行う現地会社のことです。それがインバウンドでは、外国人の訪日旅行のための日本側の手配会社になります。もしこうした手配会社がなければ、今日の消費者が望むような旅行商品を誰もが等しく享受することはできません。いくつかの選別された旅行素材をまとめて仕入れることで安価な商品を造成するのが、旅行業の最も基本的なビジネスモデルです。
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世界は広く、マーケットも多様ですから、それぞれのランドオペレーターは国・地域別に専門が分かれている場合が一般的です。石井さんは中国本土市場、河村さんは東南アジア市場が専門です。当然、おふたりは専門とされるマーケットの事情に精通しておられますし、現地の旅行会社と強いパイプを持っています。情報とパイプがインバウンドビジネスにとっての肝であることは言うまでもありません。

インバウンドのビジネスモデルにおいて、ランドオペレーターは要の役割を果たしています。ランドオペレーターなくして本来、健全なインバウンドビジネスは成り立たないのです。ところが、これまで書いてきたように、とりわけ中国からの訪日旅行市場において、要となるはずのランド業務の大半が日系業者ではなく、日本手配経験の乏しい新興の在日中国系業者の手に渡ってしまったことで、中国人の日本ツアーがメイド・イン・チャイナ化してしまったのです。

日本のランドオペレーターともっと手を組もう

今回のやまとごころ勉強会で、ふたりのランドオペレーターの話を聞きながら、どれだけのインバウンド関係者がこうした実情を理解しているのだろうか、と疑問に思いました。

インバウンドに関連する業界は、宿泊施設や運輸交通といった観光産業だけではありません。小売や流通、金融、情報通信といったサービス産業に加え、製造業や不動産業、国・地方自治体まで広範囲にわたっています。もともと観光産業とは無縁だった異業種の方々からすれば、インバウンドのビジネスモデルにおけるランドオペレーターの役割をあまりご存知なかったとしても無理はないかもしれません。しかし、日本国内と誘致相手国・地域事情に精通した日系ランドオペレーターがキープレイヤーとして活躍できないようでは、日本のインバウンドビジネスはうまく機能するはずがないのです。

さまざまな異業種が参入し、海外のあらゆる地域の情報が入り乱れていることで、日本のアジアインバウンド市場は情報だけが先走りし、内実が追いついていないように見えます。各プレイヤーの方々も自分の果たすべき役割や本来取り組むべき課題が見えていないのではないかと感じます。
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2011年秋のトラベルマートの会場にて。世界各国の旅行会社と日本のサプライヤーによる商談が行なわれた

これまで多くのインバウンド関係者が個別に海外の旅行博覧会にブースを出展したり、自治体の首長と一緒に現地の旅行会社を表敬訪問したりしてきましたが、いったいどれほどの誘客効果があったでしょうか。海の向こうに出かける前に、まずは現地のマーケットと直接つながって日々外客を迎え入れているランドオペレーターに相談すべきだったのではないでしょうか。

実はランドオペレーターの側もそれを望んでいます。前述のおふたりもパネルディスカッションの中で、会場に集まった関係者に向けて「もっと皆さんの話を聞かせてほしい」と問いかけていました。

石井さんはこう語っています。
「外国人の目線で日本に求めているものは何かを理解し、旅行の食べる・寝る・遊ぶという要素を満足できるものにする必要があります。東北では和、温泉、祭りといった特色や良さをどうやって旅行商品に組み込んでいくのかが課題です。海外の現地旅行社が知りたいのは料金と特色とルートなので、皆さまには我々のような企画提案できる人間に情報を提供していただいて、協力しながらやっていければと思います」(やまとごころHPより抜粋)

ランドオペレーターは国内各地の旅行素材を海外マーケットの嗜好に即して商品となりうるかどうか日々吟味検討しています。アジアインバウンドの歴史は約30年といわれるように、彼らの海外マーケットに対する理解は深いものがあります。いまからでも遅くはありません。インバウンド関係者の皆さんは、日本のランドオペレーターともっと手を組むべきだと思います。

呼び込みたいのは誰ですか?

それをふまえたうえで、あらためて考え直さなければならないことがあります。自分たちが呼び込みたいのはどの国・地域の市場なのか。あるいは呼び込むのにふさわしい市場はどこかをはっきりさせることです。観光産業以外の業種から新規参入してきたインバウンド関係者の大半が絞り込みでつまずいているようにぼくは思います。
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世界にはたくさんの国があるが、市場の絞り込みが必要だ

しかし、一部の観光地やホテル、小売店、飲食店、アミューズメント施設の中にはすでに集客に成功している事例が見られるのも確かです。彼らに共通しているのは、自分の呼び込みたい市場が明確になっていることです。

たとえば、日光江戸村や新横浜ラーメン博物館のようにタイ人観光客の集客で知られるアミューズメント施設は、タイ市場に特化したさまざまな取り組みを続けていることで知られています。なぜタイ市場だったのかという検討も、さまざまな海外マーケットとの比較検討から導き出されています。こうした市場の絞り込み作業が実はいちばん重要なのです。当然、河村さんのような東南アジア専門のランドオペレーターとの協力連携も不可欠だったでしょう。

旅行とはいってみれば、線を描いて時間軸に沿って移動していく営みですから、石井さんのいうように「料金と特色とルート」をめぐって導線を結ぶ素材選びが必要であり、それを仕切り、アレンジしているのがランドオペレーターです。ですから、旅行素材の提供者(サプライヤー)が、もし自分の対象とするにふさわしい海外マーケットがどこなのかよくわからないのだとしたら、それぞれの国・地域を専門とする日本国内のランドオペレーターに個別に相談し、検討してもらうといいいでしょう。自前で海外に出向き、やみくもに現地の旅行会社を訪問するというコストのかかるわりには成果の見えにくいやり方に比べると、そのほうがずっと現実的で確実だと思います。

こうしたマッチングのための受け皿として期待しているのが、石井さんや河村さんらランドオペレーターを中心に結成されたNPO法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)です。彼らはアジア市場のインバウンドビジネスの豊富な経験と知見が集約された日本でもほとんど唯一の実践的な組織といえるでしょう。現在では、多くのサプライヤーも会員となっており、日本のインバウンドビジネスにおけるさまざまな課題のソリューションのために活動されています。

最後に提案があります。これからインバウンド市場に参入しようと考えておられる皆さんや自治体の方たちのために、AISOはインバウンド相談部門を設け、それをやまとごころが窓口となって国・地域別のマーケットごとに振り分け、マッチングさせるというしくみをつくってはいかがでしょうか。

ここでいうマーケットとは、日本政府観光局がインバウンドの重点市場と考えるアジア市場を中心に台湾、香港、タイ・マレーシア・シンガポール、その他の東南アジア、韓国、中国本土、極東ロシアなどを指します。中国本土に関しては、北京、上海、広東、東北三省、その他内陸地方(重慶)など、いくつかの地域別に分けるべきでしょう。中国は地域によってマーケットの成熟度が大きく異なるため、マーケット的にひとつの国だと考えると、うまくいかないと思います。インバウンドに参入するなら、まずはこれらのうちどこの市場が自分にふさわしいかを検討することから始めてほしいのです。

ぼくがこの連載で中国市場を中心に据えて書いているのは、人口規模は大きく、見かけの経済成長率は高いものの、最も後発で成熟度が遅れ、地域格差が大きく、しかも国家資本主義を採用し、政治が執拗にビジネスに介入してくるというきわめて難易度の高い特殊なマーケットであるからです。ですから、ビギナーである新規参入業者がいきなり難しいところから始めるというのは無謀といえるかもしれません。これまで少々辛口で中国インバウンドの実情を明らかにしてきたのは、そこに気づいていただきたいからです。もし検討の結果、自分にふさわしい市場でないとの結論が出れば、中国を選ぶ必要はないのです。(2012年3月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/column_74.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 22:33 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 05月 07日

5回 中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである【後編】

前回ぼくは中国人の日本ツアーをさんざん酷評しました。

対中国ビジネスにおいて、表向き語られていることと実態面が大きく違っていることはよくありますが、海の向こうの出来事ですから、多くの人の目に触れることはありません。しかし、中国インバウンドのビジネスの舞台は日中双方にあります。我々の目の前で起きている国内の実態を見て見ぬふりをしていては、市場の健全な発展は望めないと思います。

ぼくは中国が新興国と呼ばれる以前の1980年代の姿を知っている世代であり、彼らが改革開放以降の30年間にわたる経済成長によって、海外旅行に出かけられるまで豊かになったことを歓迎すべきだと考えています。それは誰が考えてもビジネスの好機です。

でも、どうやら我々は彼らの経済成長の中身を少し買いかぶりすぎたのかもしれません。中国の成長ぶりは見かけが派手なだけに、ジリ貧気味のわが身と比べてしまい、期待値をむやみに高めてしまったところがあったのではないでしょうか。

激安化はいつから始まったのか

そもそも中国人の日本ツアーの激安化はいつ頃から始まったのでしょうか。日経産業新聞2003年1月22日に以下の記事があります。

「訪日観光旅行(インバウンドツアー)の手配料金が下落している」「顕著なのは、2000年9月に日本向け団体観光旅行が解禁となった中国だ。(中略)ゴールデンコースの場合、国内4泊5日の手配料金は2年前の15~23万円から、現在は7万5000円前後と半額以下に下がった」「日本人の国内旅行が伸び悩むなか、旅行各社は潜在需要の大きいインバウンドへの関心を強めている。ただ『現状では採算性の低いツアーが多い』(近畿日本ツーリスト)こともあり、取扱量拡大や販促活動強化について消極的姿勢が目立っている」。

そうなのです。解禁からわずか2年で半値以下という激安化が起きていたのです。

数年前、ぼくは日本の旅行大手のインバウンド担当者にこう言われたことがあります。「中国団体客ひとりワンコイン(=500円)の利益でビジネスできると思いますか?」

返す言葉がありませんでした。これでは日本の旅行各社が中国インバウンドに消極的になるのも無理はありません。中国人の日本ツアーの価格があまりに安すぎて、日本企業のコスト構造に合わないというのです。

これは海外に進出する日本の輸出企業が抱える問題と同じです。新興国市場の消費者を対象にする以上、これは仕方がないことなのか。

日本政府が「観光立国」を掲げ、ビジット・ジャパン・キャンペーンを開始した2003年、すでに中国人の日本ツアーの採算を無視した激安化が起きていたことは、ひとまず確認しておきましょう。

アンタッチャブル化で暗躍したスルーガイドたち

その結果、何が起きたのか。本来自国の消費市場を担うべき日本の旅行関係者の中国本土客のアンタャッチャブル化であり、それに代わる在日アジア系インバウンド業者による中国人ツアー受け入れの独占でした。
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中国人ツアーが利用する免税店はたいてい繁華街のはずれにある

今日中国からの日本ツアーの手配を手がけるのは、在日アジア系外国人が経営する中小のランドオペレーターが大半というのが実情です。そこでは日本と異なるビジネス慣行がまかり通ることになります。端的にいえば、提携関係を結んだ家電量販店や免税店へのツアー客の連れ回しや、ガイドによるオプションや車内販売の利益から手配コストを補填するギャンブル的経営です。

どこの世界にも営業報酬をキックバックするという商慣行はあるものです。ランド業者が小売店から売上に応じて営業報酬を受け取るのは当然のことでしょう。小売店側も販促経費として計上するはずです。しかし、その利益を最初からコスト構造に原資として組み入れてしまっては危うすぎる。

中華圏では、こうした商慣行が日常的に行なわれています。問題なのは、そのやり方が持続可能といえるのか、ということです。

実際、震災後いくつかの中国系ランドオペレーターが廃業したようです。この半年仕事がないので中国の実家に戻っていたという中国人ガイドにも最近会いました。彼らの多くは専業ではないため(たいてい貿易業を兼業。商売になることはなんでもやる、というのが彼らです)、なんとかしのいでいるように見えますが、ここまで激安化した市場でこの先いつまで持ちこたえることができるのか。彼らの一部が淘汰されることは歓迎すべきだとの声も業界内にありますが、荒れ放題と化した市場だけが残されるというハタ迷惑この上ない現実もあるのです。

残念ながら、彼らのやり方がそのまま訪日旅行市場に持ち込まれたことが、ツアー料金の際限なき激安化に拍車をかけたことは間違いないでしょう。その流れを食い止めようにも、インバウンド市場の主なプレイヤーは中華圏の人たちしかいなかったのです。

こうした危ういビジネスを支えたのが、スルーガイドと呼ばれる人たちでした。彼らの多くは、台湾や香港で元日本客相手のガイドをしていた人たちです。

90日間のノービザ渡航を利用して自腹で来日、訪日中国人ツアーのガイドをハシゴしながら、オプションと車内販売で荒稼ぎしてきました。それが過去形なのは、震災後、団体ツアーが半減したことと、こうしたカラクリが東南アジアだけでなく日本でも常態化していることが中国全土で知れ渡ってしまったため、中国客も以前ほど"爆買い"しなくなったからです。

バスの運転手さんの話では、最盛時には1台のバスで1000万円近い売上を上げるガイドがいたそうです。彼らは車内販売の売上を源泉徴収することもなく帰国してしまいます。これでは中国客が来ても地元にお金が落ちないといわれるのは当然でしょう。

中国の旅行業界は人材育成より価格競争

もちろん、日本ツアーの激安化の張本人は送客元の中国の旅行会社であることは言うまでもありません。改革開放以降、彼らのビジネスの主力はインバウンド(訪中外国人旅行)市場でした。アウトバウンドが始まったのは1990年代末、せいぜい10年の経験しかありません。中国の海外旅行市場の多様化や成熟度はいまだに遅れており、価格競争ばかりが先行しているのが現状です。
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中国のツアー広告は料金以外で他社の商品との中身の差別化はまずできない

実際、中国の消費者向け旅行パンフレットやツアー広告は、見ていてかわいそうなものばかりです。目的地と料金とわずかな文言だけが並び、ツアーの詳細なスケジュールや宿泊ホテルなどの具体的な明記はありません。比較するのは中身ではなく価格のみ。

いまでこそ、悪評高い免税店の連れ回しに対する拒絶感から、ツアー行程表に記載された以外の店の立ち寄りを禁じるよう出発前に旅行会社と消費者が契約書を取り交わすようになっています。とはいえ、基本的に中国の大半の消費者は旅行商品の品質を比較検討するすべがありません。

なぜなら、中国の旅行会社の販売スタッフが海外の事情に通じていないため、正しい情報を伝えることなどできないからです。

日本の旅行会社で働く人たちであれば海外旅行経験は普通のことですが、中国ではそうではありません。外客受け入れのインバウンド人材から海外に通じたアウトバウンド人材への切り替えが遅れているのです。

その育成のためには本来コストがかかるものですが、中国の旅行業界はアウトバウンド解禁とともに価格競争に突入してしまったため、それもままならないようです。

日本のアウトバウンドの解禁は1964年。渡航の大衆化は1980年代以降です。解禁から10年後の1970年代初め、ヨーロッパ旅行の代金は70~80万円が一般的でした。1ドル=360円の時代です。その後、ドルショックとプラザ合意などを経てドラスティックな円の高騰が進み、日本人の海外ツアーの激安化が起こりますが、アウトバウンドを扱う人材を育成する時間はありました。

一方、中国では人民元高基調にあるとはいえ、対日本円では近年人民元安が続いていますから、ツアー価格の値崩れは自らの首を絞めるはずです。ところが、社会の変動が激しい中国では、いつ何が起こるかわからないと誰もが考えていますから(現状がこのまま続くとは考えていない)、常に目先の利益を優先してしまいます。

客を集めてツアー料金の中からいくばくかの利益を抜けば、あとは適正コストがどうかなどおかまいなしに日本に客を送り出して終わり。あとは日本側のランドオペレーターにお任せです。これでは人材の育成は進みようがありません。

ある北京の旅行会社の販売スタッフからこんなことを言われたことがあります。「いまの中国人にとって5000元(約62000円)のツアーは高くないです」。彼は数年前まで日本客のインバウンド(訪中旅行)担当でしたが、会社の経営方針の転換で中国客のアウトバウンド担当になりました。これまで日本人はお金持ちだと思っていたけど、いまでは中国人も負けていない。お金持ちがたくさんいる。彼はそうぼくに訴えているわけです。

その切ないまでの愛国的心情は理解できますが、彼は末端の販売スタッフで、日本語教育は受けていても、日本に行った経験はありません。5000元では日本側のコスト構造に合わないことを理解していないのです。

厳しい言い方になりますが、現状の中国の旅行業者の実力からすれば、それ相応のツアーしか催行できないのは仕方がないといえます。

メイド・イン・チャイナを甘受する中国客
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震災後、中国系免税店の経営も悪化している

未成熟という意味では、同じことは、中国の消費者であるツアー客にもいえます。ぼくは日本ツアーの激安化の最大の被害者は中国人客だといいましたが、実は彼らはそれを甘受している面もあるようです。

ある親しい中国人ガイドはこう明かしてくれました。
「中国のお客さんだって、ツアー料金がこれだけ安いのだから免税店の連れ込みも承知の上。仕方がないと思っているのよ。言葉もわからないし、自分ひとりでは何もできない海外旅行先で1週間も寝起きを共にしていると、ガイドさんに対しても情が出てくるから、車内販売でも協力してあげようかという気持ちになるんです」

オプションと車内販売に明け暮れる中国人ツアーバスが、狼に囲われた子羊たちのような殺伐とした世界であるかというと、必ずしもそうではない。彼らだって物事には道理があることを知っている。車内販売でガイドが高く売りつけていることに薄々気づいていても、自分が納得できる範囲と思えば受け入れる。それが中国の消費者でもあるのです。

ただし、あこぎなことが後で判明したら大変な騒ぎです。よくあるのが、中国製をメイド・イン・ジャパンとして騙して売ること。中国ではよくこの手の話題でネットが盛り上がります。もっとも、最近北海道の業者が中国客にニセ松坂牛を食べさせたとの報道がありました。これじゃ日本人も偉そうに言えませんし、情けない限りですが、中国側では「騙されたほうが悪い」という声も半数近かったとか。「騙し、騙される」という関係が日常的に繰り広げられているのが中国の消費社会であることは確か。彼らの物事の判断基準は我々とはずいぶん違うようです。

こうした事情を知悉(ちしつ)した中国系ガイドであれば、アメとムチを使い分けることで、中国客を納得させながらツアーを切り盛りできるのでしょう。結局のところ、中国人の日本ツアーがメイド・イン・チャイナだというのは、舞台は日本でありながら、すべてを取り仕切っているのが中華圏の人たちだったから、そうなってしまったといえます。

「奪われた10年」を取り戻すために

これまでの中国インバウンドを振り返ると、日本企業がコストに合わないと手をこまぬいているうちに、主導権を中華圏の人たちに「奪われた10年」だったといえます。

やむを得ないところはあったと思いますけれど、繰り返しますが、問題はツアーの激安化がもたらす日本のバリューの破損であり、「日本はお金をかけて行くような国ではない」というイメージが中国の消費者に定着してしまうことです。

そして、残念なことに、半ばそうなっています。ツアー料金を見れば明らか。東京・大阪5泊6日の料金はバリ島5泊6日の料金より安いのです。移動経費や適正なガイド代などを考えれば、日本のコストがはるかに高いにもかかわらず。日本はすでに激安ツアー圏として位置付けられているのです。

このままでいいのでしょうか。アンタッチャブル化した訪日中国旅行市場を日本の手に取り戻す必要があります。

そのためには、彼ら新興国市場の消費者の実像とビジネス慣行を理解することなくして、対策の立てようがない。

いかにすれば正当な収益を確保できるビジネスモデルを再構築できるか。これは今となっては難事業といえますが、頭を切り替えてビジネスを組み立て直していかなければならないと思います。

そのためには、もうひとつ考えなければならないことがあります。

これらの問題は彼らのせいだけだったのか。日本側に非がなかったといえるのか――。次回は我々の内なる問題について検討したいと思います。(2011年12月)
http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_68.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 20:45 | やまとごころ.jp コラム | Comments(1)
2012年 05月 07日

4回 中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである【前編】

2011年7月1日からスタートした中国人向けの個人観光マルチビザの発給は、従来に比べてかなり大胆な緩和策です。初回の訪問時に沖縄県を1泊以上滞在することを条件に、有効期間の3年間何度でも訪日でき、1回の滞在期間は最長90日間。しかも対象者の「2親等までの家族」の発給を認めているからです。日本側は中国の高所得者層の訪日を親族まで含めて促進する効果を期待していますが、中国側からすれば、長年の懸案だった日中両国のビザ協定をめぐる不平等の解消を不十分ながら一歩前進させたものと言えるでしょう。

その後、外務省から正式な発給数は公開されていませんが、関係者らは一様に順調に伸びているといいます。ただ今回の緩和措置に関して、なぜ最初の訪問地が沖縄なのか(なぜ北海道ではなかったか)という声があることや、外務省のプレスリリースのいうように「これにより沖縄県を訪問する中国人観光客が増加し、沖縄県のさらなる観光振興につながる」(2011年5月28日)のかどうかは、今後の推移を見ていく必要がありそうです。

もっとも、訪日旅行者数の増減や観光ビザの発給数が行政機関の事業成果や評価基準のようにみなされるのだとしたら大いに疑問です。大局的にみれば、すでに韓国、台湾、香港などでノービザ化が実現している以上、中国本土客への限定付き適用(国情の違いゆえまったく同じことは不可能だとしても)は時間の問題かと思われます。むしろこうした日本政府の措置が今日の中国のビジネス界や旅行者の動向に実態面でどう現れてくるかについてもっと注目すべきでしょう。

「日本はお金をかけて旅行に行くような国ではない」

というのも、10月下旬に北京を訪ねたぼくの耳に入ってきたのは、マルチビザ解禁後の中国人の沖縄ツアーの現状に対する懸念の声ばかりだったからです。日本の関係者だけでなく、中国側の旅行関係者らも同じ意見でした。それはこういうことです。

「沖縄ツアーの安いイメージがこれ以上先行されては困る」

ビザ緩和をビジネスチャンスとみた海南航空の北京・那覇線が7月28日、初就航しました。同社はいま中国の航空業界で最も勢いがあるとされるエアラインです。ところが、ツアー販売を独占したのは、海南航空傘下のcaissa社でした。ここは欧州方面のツアーを中心に、ツアー価格の12回分割払い料金を載せて目を引くというメディア広告で伸びてきた激安系。沖縄4泊5日ツアーの料金はわずか4000元(約5万円)。本来なら市場を一社が独占すれば価格は高止まりすると思いきや、中国ではそんな常識は通じないようです。わずか週数便のフライトですし、今後は中国国際航空などの新規就航で市場の開放が進むのでしょうが、問題は最初の時点で沖縄に激安ツアーの烙印が捺されてしまったことです。

受け入れ側の沖縄県の実情を確かめていないぼくからは、これ以上ふみ込んだことはいえませんが、「これではまた"同じ轍"をふんでいるのではないか」という失望が、少なくとも中国側の旅行関係者からひしひしと伝わってきます。
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中国の旅行会社向けに沖縄県が作った個人観光マルチビザ発給の広報資料。沖縄を世界有数のビーチリゾートとうたっているが、中国人にはピンとこないのが実情のようです。競合相手は海南島やプーケットですが、沖縄の優位性は「マルチビザ取得だけ」との声も。沖縄に魅力がないわけではないと思う。彼らに届かないだけ。ノービザ化で中国客誘致を図ったものの問題続出の韓国済州島の二の舞にならないためには、どんな手を打つべきか

コストを無視したギャンブル的な激安ツアーの横行

"同じ轍"とは何か?

それは、中国の旅行会社が催行するコストを無視したギャンブル的な激安ツアーの横行と、その常態化によって市場が荒れてしまうことです。

そもそも震災後、中国からの日本ツアーの価格が末期的状態に陥っているのは、インバウンド関係者の多くはご存知でしょう。5月から6月にかけて集中的に打ち出された市場回復のためのキャンペーン料金で、いったん東京・大阪5泊6日3000元(約4万円。もちろん、航空運賃、ホテル、バス、食事、ガイド代すべて込み)にまで転落してしまったことで、夏以降従来の価格にしても客は戻ってこない。国慶節で中国からのツアーが回復しなかった理由はいくつも考えられますが、相場観の下落が大きいことは確かでしょう。

何より恐ろしいのは、中国の高所得者層の間で「日本はもうお金をかけて旅行に行くような国ではない」とささやかれ始めていることです。日本のインバウンド関係者らが主力を向けて取り込みたいはずの中高所得者を中心とした中国個人ビザ客の認識が、もしこのように日本を低く見積もる傾向を強めているのだとすれば、今後大きな障害になることが予測されます。中国人の日本ツアーの激安化は、日本というバリューの地盤沈下を結果的に広めてしまい、そこにいちばん大きな問題があるのです。単に訪日旅行者数が増えたと喜んでいればよかった時代はもう終わったと認識すべきでしょう。

それにしても、なぜこんなことになってしまったのか。何ごとも背景と経緯があります。それを語る前に、あらためて実態を総括しておきたいと思います。

悪質な車内販売と契約免税店への連れ込み
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中国ツアーご用達のバイキング料理店は在日中国系オーナーが経営することも多い

ここ数年ぼくは、日中両国のインバウンド関係者へのヒアリングやツアーの同行取材、主要な観光地、ホテル、お土産屋、飲食店などへの取材を続けてきました。なかでも中国人ツアーの内実をいちばんよく知っていたのは、日本滞在中の大半を占める移動を客と一緒に過ごすバスの運転手さんでした。彼らは一部始終を目撃しているからです。

これまでのヒアリングや同行取材を通じて見えてきた中国人の日本ツアーの特徴を挙げると、以下のとおりです。

①食事はいつもバイキング
②バスの中ではもっぱら車内販売
③オプション買わなきゃ置き去り
④キックバックを原資としたコスト構造

それぞれ簡単に説明しましょう。まず①はツアー中の食事の話ですが、運転手さんに聞くと「ほぼ連日バイキング」だそうです。「たまに回転寿司やしゃぶしゃぶの店にも行くけど、予算がないから食べ放題メニュー。子供連れの家族ならいいけど、ツアー客は50代が多いんだから、もっとマシなものを食べさせてあげればいいのに」と感じるようです。

一般に中国の人たちは日本の会席スタイルより、中華料理と同じように自分が好きなものを好きなだけ食べられるバイキングを好んでいるとも聞きます。問題は「オプションといって、事前に注文をとってズワイガニや和牛などに法外な追加料金をとること。これがクセモノで、ひどいときは2000円くらいの刺身盛りを1万円とか平気で取っている」。なんだかひどい話ですね。しかも、中国人ツアーが食事に連れていかれるのは、中国系の店が多い。実はぼくも一度銀座で見かけたツアー客が某北海道料理店に入っていくので、後を追ったら(酔狂ですいません。これも取材です)、フロアと厨房にいたのは全員中国人スタッフでした。ツアー客の皆さんは食事の前に大きなズワイガニを両手に持って記念撮影。とても和やかでしたけど、これが中国人の日本ツアーの実情なんだなと思ったものです。

ここまでは苦笑いですむ話かもしれませんが、②の「バスの中ではもっぱら車内販売」以降はちょっとシリアスです。運転手さんは声を荒らげてこう言います。「バスが走り出すと、すぐに車内販売が始まる。観光案内はそこそこにしてガイドが客にあれこれ売りまくる。その売り物がとんでもない。日本じゃ見たことのないようなバッタモンを1万円とか2万円で売っている」。
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中国人の日本ツアーは大半の時間をツアーバスの移動で過ごす。運転手さんは目撃証人といえる

もう3年前の話ですが、こうした悪質な車内販売に加え、特定の契約免税店への連れ込みの実態が、都内で発行されている在日中国人向け週刊新聞『東方時報』2009年6月25日で報じられ、中国の大手メディア『北京法制晩報』にも転載されたため、日本ツアーの内情と悪評が中国全土に広まり、大きな反響を呼んだことがあります。もともとこれはだいぶ前から中国人の香港や東南アジアツアーで問題となっていたことですが、日本でも同様のことが起きてしまっていたのです。

ツアー中に客を置き去りというありえない世界
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中国ツアー客の置き去りが増えて一時問題になった富士ビジターズセンター(山梨県富士河口湖町)

③の「オプション買わなきゃ置き去り」になると、もう義憤を覚えてしまうような話です。

先ほど食事の話で出てきた「オプション」ですが、これが観光にも適用されるのです。たとえば、富士山5合目は人気スポットですが、ツアー客をバスでそこまで運ぶのにガイドは1名3000円相当の追加料金を要求するといいます。もし払わなければ、その客だけバスからわざわざ降ろして麓に置き去りにする。日本人の感覚ではありえない世界ですが、その置き去り場所として有名なのが、富士ビジターセンターだそうです。

「ここで3時間待ってろ、とガイドは客に言う。そこは無料施設だからカネはかからないけど、とても見ちゃあいられない。『乗せてやんなよ』って俺は言うんだけど、ガイドは『いいから』と」。さすがに運転手さんもこればかりは許せないと感じたそうです。

なぜガイドたちはここまで非情にならなければならないのか――。その理由が④の「キックバックを原資としたコスト構造」にあるのです。

日中の関係者の証言をまとめると、真相はこうです。中国で一般に販売される「ゴールデンルート」と呼ばれる東京・大阪5泊6日のツアー代金は震災前でも5000元(約6万円)相当。ところが、中国側の旅行会社から日本国内の手配をするランドオペレーターに渡るのは往復航空券代と営業利益を差し引いたせいぜい2000元(約2万5000円)といいます。これだけで滞在中のホテル代やバス、食事、ガイド費用を支払えるはずがなく、その埋め合わせのためにガイドによる「オプション」販売と車内販売、さらには契約免税店への連れ込みが必要となるわけです。つまり、中国人の日本ツアーはガイドによるキックバックを原資に成立しており、その背景には中国側でツアー客を集客する旅行会社のコストを無視したギャンブル的なビジネス体質があるといえます。

他にも言い出したらキリがありません。日本に観光に来ていながら、食事も買い物(契約免税店)も中国系経営店で。パンフレットではホテルは東京とうたっていても実際は幕張や成田、箱根とあっても石和温泉や河口湖周辺というのは当たり前。別の回で詳しく触れますが、このシステムを支えるガイドもきわめてグレーな存在です。

これらの実態から、ぼくはこう結論せざるを得なくなりました。
「中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである」。

※さらに詳しい実情や背景に関して、今年2月に刊行した以下のムックに書いています。
「ツアーバス運転手は見た!
悲しき中国人団体ツアー
押し売り、キックバック、置き去り……訪日中国人旅行の驚くべき実態!」
『データでわかる日本の未来 観光資源大国ニッポン』(洋泉社MOOK)

最大の犠牲者は中国のツアー客

これまで他人事のように中国人の日本ツアーの内情を明かしてきましたが、実際にこれが起きているのは日本なのです。同じ問題はアジア各地で2000年初め頃から始まり、日本に飛び火したわけですが、中国で販売されているヨーロッパ行きツアーの価格帯を見るかぎり、当然彼の地でも同じことが起きていると考えられます。

ここで我々が考えなければならないのは、中国の旅行会社のコストを無視したギャンブル的なビジネス体質の最大の被害者は誰かということです。それは中国のツアー客自身でしょう。

こうした事情を知るだけに、ある在日中国系インバウンド業者の知り合いは「自分の友人や親族には絶対中国の旅行会社のツアーはすすめない」と話してくれたほどです。
これでは「日本はお金をかけて旅行に行くような国ではない」と言われても仕方がないではありませんか。

こんな「安かろう悪かろう」ツアーが常態化したままでは、いくら訪日旅行者数が増えても誰も報われない。その現実からどう脱却すればいいのか。いったい日本を「安かろう悪かろう」の国にしてしまったのは誰なのか? それは中国の旅行会社だけのせいなのか。

次回はなぜこんなことになってしまったかについて、検討していきます。(2011年11月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_66.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 20:33 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2012年 05月 07日

1回 震災は点検の絶好のチャンス!

最初に質問です。中国からの訪日団体ツアーが初めて来日したのは、いつのことだったかご存知でしょうか。

中国人団体観光ビザが解禁された2000年9月のことです。それから10年という節目を迎え、さらなる飛躍に期待をふくらませたインバウンド関係者をどん底に突き落としたのが、昨年9月の尖閣諸島沖漁船衝突事件であり、3.11東日本大震災でした。

この10年間、日本と中国を往来しながらインバウンドの現場を訪ね歩いてきたぼくも、まるでドラマの世界にでもいるような衝撃と徒労感を味わうことになりました。

しかし、だからこそ思うことがあります。潮が引くようにツアー客が去ったいまこそ、中国インバウンドの中身を点検するための絶好のチャンスではないか。

いったいこれまで我々は何をやってきたのだろうか。どんな目標を掲げ、成果はあったのか。見直すべきことはないのか。もちろん多くの方がそう自問されてきたことと思いますが、これらの問いにどれだけ明確に答えることができるでしょうか。

この連載では、中国インバウンドのさまざまな現場を、中国側、日本側の実情を対比しながら点検していきたいと思います。少々辛口ですが、前向きに意見していくつもりです。

日本の観光案内は読まれているか
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ここ数年たくさんの中国語観光パンフレットがつくられたのだが……

第1回は、中国語の観光案内パンフレットの点検です。日本政府観光局をはじめ全国の自治体、商工会議所、観光協会、小売店、商店街、さらには出版社やコンサルティング会社などが独自に広告クライアントを集めた小冊子や地図、フリーペーパーが、この数年間膨大な量発行されました。当初は日本人向けに作られた地図を中国語に翻訳しただけのものが多かったのですが、最近では外客向けにオリジナルに作られたものも増えています。
はたして、これらは実際の中国人訪日客に読まれているのでしょうか?そもそも本当に彼らの手に渡っているのか?

結論から言うと、残念なことですが、ほとんど読まれていません。
なぜなのか。

ぼくの事務所では中国の旅行ガイドブックを制作している関係で、多くの現地旅行会社と提携しています。この10年で彼らのビジネスの比重が、インバウンド(日本人の訪中旅行)からアウトバウンド(中国人の訪日旅行)へと急転換していくプロセスを見てきました。中国の旅行業界で日本市場のビジネスモデルがインからアウトに大きくシフトしたのは、地域によって時間差がありますが、概ね2007年頃だったのではないかと思います。

そんなわけで、ぼくはよく中国の旅行会社の店舗を訪ねるのですが、カウンターに日本のパンフレットが置かれていることはほとんどありません。そういうと、「そんなはずはない。うちでは各社に置いてもらう約束で毎回送っている」と反論する方がいるかもしれません。でも、実態は違います。ある旅行会社のスタッフがこう打ち明けてくれました。
「数年前より日本各地から大量に中国語資料が届くようになりました。最初はありがたかったのですが、いまでは多すぎて置き場所がないほどです。そのため、一定期間を過ぎると使いようのない山のような資料を処分している」
と申し訳なさそうに言うのです。

なぜこうなってしまうのでしょうか。以下の3つの理由が考えられます。
①中国の旅行会社ではカウンター販売は一般的でない
②日本のパンフレットはセールスツールとして使えない
③中国人は情報誌の読み方を知らない

未成熟なのにオンライン旅行50%超の市場

日本ではレジャーシーズンが近づくと旅行会社のカウンターに消費者が並ぶ光景が見られますが、中国ではいわゆるカウンター販売はそれほど一般的ではありません。ツアー商品の売られ方が日本とは同じではないのです。この認識は重要です。それは日中における旅行市場の発展のプロセスが異なるためですが、中国の消費者は旅行会社がツアー商品の中身を懇切丁寧に説明してくれるなどと期待していません。中国で海外旅行が一般化したのはたかだか10年、旅行会社のスタッフは海外事情に精通しておらず、単なる販売員です。インからアウトへの転換に人材育成が追いついていないのです。

その一方で、オンライン旅行販売率は50%を超える勢いです。後の回で説明しますが、中国では消費者、業界ともに未成熟なままオンライン化が進んだことで、かえってツアー商品の多様化、差別化を阻んでいる面があります。商品の中身が豊かになる前に、不条理ともいえる料金競争に突入してしまったのも、こうした事情に起因しています。

紙媒体とネットを組み合わせた多様なチャネルを使って旅行情報を消費者が手に入れるという日本で日常化した光景を中国で期待するのは無理というものです。せっかく作った中国語の観光案内が旅行会社のスタッフから中国の消費者の手に直接渡ることがほとんどないのはそのためです。せめてセールスツールとして使いやすければ、中国の旅行会社のスタッフも活用しない手はないと考えるのでしょうが、実態はそうではない。日本側の作る観光パンフレットの多くは、日本の消費者(中国のではない!)の嗜好に沿った実用ガイドに偏っています。これでは旅行先を決める前の段階で使えない。その豊富な情報を享受できるほど、大半の中国の消費者は日本の事情を理解しているわけではないからです。

中国人は情報誌の読み方を知らない

さらに致命的なのは、そもそも中国の消費者が日本の過剰に洗練された情報誌の読み方を知らないという事情があります。限られた2次元のスペースにたくさんの写真と細かい情報がぎっしり書き込まれた、たとえば「東京ウォーカー」や「るるぶ情報版」のような情報誌を読んだことがないのです。だから、仮に中国客が日本のパンフレットを手にしても、どこからどう読めばいいのかわからない。掲載店舗のありかを探すために別ページにある地図を参照するという情報誌の基本的な約束事を知らないのです。しかし、彼らはネット通販の口コミサイトなら使える。ピンポイントの店舗や商品情報はわかるのです。
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中国で今人気の旅行ガイドブック

それは端的にいうと、彼らが「エイビーロード」を知らないままネット時代を迎えたことを意味します。このすでに休刊した情報誌の存在は、多様な商品の中身を詳細に比較検討できることで日本の海外旅行シーンの成熟化に大きな役割を果たしました。一方、中国の消費者はこうした比較検討メディアの時代を経験することなく、ネット時代に突入しました。おかげで我々の知っている情報化のプロセスがすっぽり抜け落ちているのです。
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「食べる」「遊ぶ」「買う」に分かれた構成だが、写真が大きく、文字は少ない。このくらいの感じがいいらしい

そのことは、中国の書店で売られる旅行ガイドブックの中身を点検するとよくわかります。ここ数年、ぼくは中国の海外旅行書籍の変遷をつぶさに眺めてきましたが、現状では(あくまで日本との比較ですが)驚くほど稚拙な内容といわざるを得ません。ある出版社の担当者に中国のガイドブックを見せたことがあるのですが、彼は「トータルなデザインもそうだし、実用書としての機能性や体裁の不備など、真っ赤になるくらい赤字を入れたくなる」と感じたようです。確かにプロの目から見れば、日本の30年前の表現力です。それが中国の消費者の目線であることを我々は理解しなければならないのです。

情報の絞込みと手渡す手間をかける

ではどうすればいいのでしょうか?

まずはパンフレットの中身を総点検しなければならないと思います。そこに書かれた情報が使えるかどうかは、利用者がどういう観光形態や行動パターンを取るかによります。初来日の団体ツアー客に日本の情報誌を手渡しても活用できません。彼らに見合った情報の絞込みが必要です。

そのためには、中国の旅行会社にヒアリングがもっと必要です。彼らがほしいのは、どんな情報なのか。もしセールスツールにするなら、どんな内容のものが有効なのか。

ある北京の旅行会社のスタッフは、「文字は少なくていいので、写真を大きくしてほしい」と言います。「中国のお客さんは日本のことを何も知らないので、地図を見せてもよくわからない。ひと目で見て、ああ行きたいと思えるような美しく印象的な写真が大きく載っていると、彼らの目を引くし、セールスにも使いやすい」からです。

我々が中国のガイドブックを見たときに感じる「こんなもので満足できるのだろうか?」という"ゆるさ"を逆に参考にすべきでしょう。求められているのは、多彩で細かい実用情報ではなく、彼らの心をつかむ厳選されたキラーコンテンツなのです。

我々は紙媒体を作ると、つい何かを成し遂げたような気になりがちですが、それがきちんとターゲットの手に届くかどうかも点検しなければなりません。現状のパンフレットのままでは旅行会社経由でツアー客の手に届かないのだとすれば、旅行会社のニーズに沿ったセールスツール用の内容に作り変えるべきでしょう。旅行会社のスタッフに何らかのインセンティブを与えるようなしくみも必要かもしれません。あくまで消費者に届けたいなら、出発前のツアー客に空港で直接手渡しするという算段も考えるべきでしょう。そこまで手間とコストをかけないと、紙媒体を作る費用対効果は望めないのです。

これらのパンフレットの多くは、ホテルや小売店などインバウンド関係者の捻出する広告料や自治体の予算から発行されているはずです。であればこそ「来てもらいたい」側と現在の中国側のニーズがどこまでマッチしているか念入りな検討が必要です。世間でよくいう「中国の市場を理解する」とは、こうした現場の具体的な点検をふまえて初めていえることなのです。次回は別の現場に移ります。(2011年8月)

http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_60.html
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by sanyo-kansatu | 2012-05-07 16:30 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2011年 12月 01日

総合ワールドトラベルとAISOのこと(トラベルマート2011 その6)

中国本土客の“爆買い”ぶりが話題になったことで、いまでこそ中国人観光客の存在が注目されていますが、もともとアジア系外国人の訪日旅行は1980年代に始まっています。その主役は、台湾や香港、韓国の旅行者でした。

ところが、当時の日本はバブル期に向かう絶頂期で、自分たちの海外旅行のことで頭がいっぱいでしたから、アジア系外国人の訪日旅行の実態を知る人は少なかったようです。実際のツアーの手配を手がけたのも、日本の旅行会社ではなく、在日アジア系外国人が経営する手配業者でした。つまり、日本のアジアインバウンド業界を支えてきたのは、最初からアジア系の業界人たちだったのです(今日もそれは基本的に変わっていません)。

総合ワールドトラベル株式会社の王一仁社長も、アジアインバウンド業界を支えた草分けのひとり。1948年上海生まれの王社長は、新中国建国時にご両親とともに香港に渡り、68年来日。東京工業大学で学んだ後、アメリカ留学を経て、81年に日本で旅行会社を立ち上げています(王一仁氏の略歴についてはやまとごころ.jpのインタビュー参照)。
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総合ワールドトラベル株式会社の王一仁社長とスタッフの皆さん

中国インバウンドの実態を知るうえで、王社長をはじめとした在日アジア系ランドオペレーターの関係者の話はとても示唆に富んでいます。ぼくは数年前に王社長と知り合って以来、懇意にさせていただいています。

王社長たちは、2000年の中国本土客の訪日団体旅行解禁を受けて、アジアインバウンド市場の拡大がもたらすビッグチャンスに期待を寄せていました。ところが、ふたを開けてみると、中国側旅行会社によるコストを無視した激安ツアーの乱発で、とてもまともなビジネスのできない市場であることを思い知らされました。

しかし、こうした中国による激安ツアーの乱発を許したのは日本側にも非があります。なぜなら、日本には、他国では当たり前のインバウンド市場に関わる法整備やルールがまったくといっていいほど存在していないからです。

そこで、王社長をはじめとした在日アジア系経営者や日本のインバウンド業者ら有志が立ち上げたのが、アジアインバウンド観光振興会(AISO)です。

※2013年、AISOは「一般社団法人 アジアインバウンド観光振興会」として生まれ変わりました。

王社長たちは、日本のインバウンド市場の健全化を訴えています。訪日市場の主導権を外国勢力にすっかり奪われてしまっているいま、日本はそれ取り戻すべきだ、というのが基本的な主張です。在日外国人である彼らが先頭に立って日本のインバウンド市場をよくするために活動している姿には、日本人としては情けないやら、頭が下がります。

彼らの主張の具体的な中身については、今後少しずつ紹介していきたいと思います。

※同社は2013年に日本総合ワールド株式会社と社名変更しています。
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by sanyo-kansatu | 2011-12-01 13:36 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2011年 10月 27日

北京ラビオン社周社長の語る沖縄マルチビザ発給の訪日促進効果について

北京ラビオン社の周社長と会食しました。同社は中国の富裕層約1000名を抱える会員制旅行会社で、スイスのアンチエイジングツアーをはじめ、高品質な少人数制の海外ツアーを催行して注目されています。

北京名仕优翔国际旅行社(ラビオン社)

同社では、2009年より大阪の聖授会OCATクリニックと提携し、がん検診と観光を組み合わせたツアーで実績を上げています。ツアー価格は1名200万円相当といいますから、一般に中国の旅行会社が催行している激安ツアー(東京・大阪5泊6日5000元)の世界とは大違いです。ホテルも大阪ならリッツカールトンか帝国ホテル、東京はペニンシュラかシャングリラという5つ星外資が当たり前。検診を1日ですませると、京都や東京、北海道などで観光とショッピングを楽しんで帰るというラグジュアリーなツアーです。

ぼくは、去年ビジネス誌『プレジデント』の医療観光取材で同社を訪ねて以来、北京に立ち寄ると、たいてい一度は同社のスタッフに会うことにしています。富裕層を顧客に持つ同社の動向は、とても気になるからです。

多忙な周社長に今回会えたのはラッキーでした。彼に会うのは2度目です。案内された中国料理店のテーブルにつくやいなや、彼は言いました。「なんでも聞いてください」。

ぼくが聞きたかったのは、今後のラビオン社の日本での医療観光の新たな展開と、今年7月1日からスタートした沖縄1泊を条件にしたマルチビザ発給が富裕層の訪日旅行の促進にどれだけ効果がありそうか、ということでした。

前者については、震災後一時ストップしたがん検診ツアーも、夏ごろから再会しているとのこと。今後は検診だけでなく、治療も行なえる病院との提携をじっくり検討していきたいよう。ただし、ぼくが思うに、中国の富裕層は独特の価値観を持ち、好みもうるさいため、一般的な民間病院では提携はなかなか難しそうです。

一方、沖縄マルチビザ発給による訪日促進の効果について、彼はこうきっぱり言いました。
「沖縄マルチビザは、ラビオン社の顧客のような富裕層にはまったく関係ない。もともと彼らにはビザの問題などないからだ(簡単に取得できるため)。むしろ中流層やビジネス客にとってありがたいことなのだろう」。

「御社は沖縄をツアー先として考えるつもりはないのか」との問いに対しても、次のような厳しいひと言。「中国人にとって沖縄は魅力がない。沖縄のリゾートホテルはそれほど豪華ではない。うちの顧客は世界の5つ星クラスのビーチリゾートを体験しているため、沖縄は彼らが満足できる水準にはありません」。

どうやらこれが中国富裕層の本音らしいです。なんにもわかっちゃいないなあ……、沖縄にはローカルなカルチャーの魅力や世界的に知られるダイビングスポットなど、いろいろあるのに、とぼくは思いますが、まだぶっちゃけ成金=中国富裕層に成熟した旅の楽しみ方を満喫せよなんて無理な話かもしれません。

彼らの大半は、わずかな時間で個人資産が100倍から1000倍に急上昇して(それはスゴイことですけど)、まだ10年たったかどうかという人たちが大半です。香港の資産家とは違うのです。

問題なのは、北京で催行されている一般の沖縄ツアーが4泊5日4000元という激安ツアーしかないことです。ビザ取得が目的の参加者も多いと聞きます。すでに沖縄は「安かろう悪かろう」のデスティネーションとして位置づけられてしまいました。競合先は海南島やプーケットだそうです。これではまた同じ轍をふんでいると思わざるを得ませんでした。

そもそもこの沖縄マルチビザ発給をめぐって、当初中国の一部からイチャモンがありました。日本の政府高官が「ビザ発給を沖縄の地域振興につなげたい」という主旨の発言したことに対し、「なぜ日本の地域振興のために我々が沖縄に行かなければならないんだ」というわけです。

わざわざ中国側がそう言いたくなるのは、日中のビザ協定における不平等があるからでしょう(日本人はノービザだが、中国人はビザが必要)。そうはいっても、中国の都市部と農村の格差などの国情を考えれば対等なんて無茶だということは彼ら自身も知っています。ただ自己主張したいさかりですからね、最近の中国の皆さんは。国内問題はともかく、インバウンド関連の施策に関しては、政府も国内向けだけではなく、海外での受けとめ方も目配りした発言をしないといけないと思います。
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by sanyo-kansatu | 2011-10-27 18:00 | “参与観察”日誌 | Comments(0)