ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 06月 06日

通訳案内士の新しい動きに注目! 東京建築案内ユニットShowcase

前回、紹介した東京建築ツアーを催行している「Showcase」のメンバーは、英語通訳案内士の吉田優香さんや木原佳弓妃さん、松原智佳子さんたちで、結成は2014年末。現在、11人のメンバーが登録しています。「Showcase」は「Sense Harajuku Omotesando by Walking Come and See」の頭文字をとったのだそうです。
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銀座と表参道をめぐる東京建築ツアー(英語)が面白い
http://inbound.exblog.jp/25882521/

ところで、Showcaseでは、どういう経緯で東京建築ツアーを企画することになったのか。

木原佳弓妃さんによると「これまで外国人向け体験ツアーというと、すし握り体験のようなフードツアーや相撲部屋を訪ねるツアーが知られていたが、建築をテーマにしたツアーはなかった。代表の吉田優香が2012年春に表参道で始まったTokyo Grand Shopping Weekの事務局に関わったこともあり、表参道で外国人向けのウォーキングツアーができないかと考えていたところ、この街には魅力的な建築が点在していて、実際に外国人を案内すると反応が良かったことからコースを考えた」そうです。

さらに、「表参道周辺には、近代建築だけでなく、一般住居や団地もあり、多様な建築を歩きながら一度に見せることができる。目立たないディティールであっても、そこにデザイナーのこだわりや地域の歴史などのストーリーが込められている。その意味では、専門家ではない私たちでも、建築を通して日本文化のある側面を説明できると思う」と言います。

Showcaseのメンバーには、インテリアコーディネイターや商社勤務、書道家など、通訳案内士の有資格者でありながら、多彩な趣味や才能を持つ人たちが集まっているそうです。共通点は、建築好きであること。

今後は、表参道だけでなく、都内の別のエリアも加えたコースを増やしたいと考えており、そのトライ企画のひとつが、今回の銀座と表参道のツアーだったのでした。

彼女らが催行する東京建築ツアーには、3つの新しい特徴があると思います。

まず、日本ではまだ数少ない東京の現代的な側面を紹介する知的なカルチャーツアーであること。

たとえば、日本の大手旅行会社などが催行する外国人向けツアーをざっと見てもらうとわかると思いますが、これらにはないオリジナルな内容です。

JTB Sunrise Tour
http://www.jtb-sunrisetours.jp/
はとバス(外国語)ツアー
https://www.hatobus.com/
HIS go Japan
http://www.hisgo.com/n1/Contents

通訳案内士を多数登録しているユニークなインバウンド専門旅行会社もあります。でも、こちらは侍や忍者、書道、着物、お茶体験など日本の伝統文化に特化したツアー内容となっています。

日本文化体験交流塾
http://www.ijcee.com/

大手各社には当然のことながら、集客とコストの問題があり、コンテンツの専門性より大衆性を選ばざるをえない面があります。でも、伝統的なコンテンツだけでなく、もっと現代的なものを求める外国客もいるはず。だからといって、秋葉原に連れていけばいいのか。クールジャパンをもち出さずとも、東京の現代的な魅力をわかりやすく伝えられるツアーがもっとあっていいはずなのです。彼女らはそれにチャレンジしています。

ふたつめとして、一般の東京の外国人向け観光地の多くが東部(お台場、銀座、皇居、上野、浅草など)に偏るなか、表参道や青山といった西部地区の街歩きの新しいモデルをつくろうとしていること。これまでの東京のウォーキングツアーは、谷中や浅草方面の江戸情緒を味わうというものが多かった気がします。それはそれでいいのですが、東部(銀座)と西部(表参道)を銀座線という公共交通でつなぐウォーキングツアーであることも、ひとつのチャレンジだと思います。

3つめとしては、通訳案内士という語学のプロらが結成したユニットであり、自ら世界の旅行マーケットプレイスに名乗りを上げ、外国人からダイレクトブッキングを受けてツアーを催行していることです。
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Showcase Tokyo Architecture Tour(東京建築ツアー)
http://showcase-tokyo.com

これまで日本の通訳案内士たちは、旅行会社や通訳案内士団体から外国人ツアーのガイドを仕事として受けることが多く、営業は受身でした。しかし、今日世界には以下のようなツアーを扱うマーケットプレイスが存在し、直接外国客とガイドがマッチングできるプラットフォームがあります。

viator (世界最大の現地ツアーを扱う。最近、トリップアドバイザーの傘下に入る)
http://tourguides.viator.com/
Voyagin (2012年にサービス開始した日本発の旅行体験予約サイト。15年、楽天の傘下に)
https://www.govoyagin.com/?lang=ja
Triplelights (2013年にサービス開始した通訳案内士と外国客のマッチングサイト)
https://triplelights.com/

それぞれのサイトには特徴があり、得意分野も微妙に異なるようですが、訪日旅行市場の拡大にともない、通訳案内士自らこれらのプラットフォームに登録し、自己プレゼンテーションすることでガイディングの仕事を得られる時代になっているのです。Showcaseでも、自らのサイトに加え、Voyaginに登録して、集客しているそうです。

こうした取り組みは、これからもっと地域発のオリジナルで魅力的なツアーが生まれる可能性を示しています。一般に地元で企画されたツアーを「着地型ツアー」といいますが、ネットによるプラットフォームのない時代はそれを国内外の発地や旅行者に直接売り込むことができませんでした。しかし、いまは違います。今後は、全国でこういう動きが広がっていくことを期待したいと思います。

外国客に「娯楽サービス」は足りている?
http://inbound.exblog.jp/25886445/
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by sanyo-kansatu | 2016-06-06 14:00 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2016年 06月 06日

銀座と表参道をめぐる東京建築ツアー(英語)が面白い

ぼくの仕事場は東新宿にあります。先ごろ、2015年に都内を訪れた外国人旅行者が初めて1000万人を超えたと報じられましたが、東新宿はおそらく都内でも浅草に次ぐか、あるいはそれ以上の外国人出没エリアだと思われます。

都内訪問 外国人客1000万人超す(朝日新聞2016年5月30日)
http://www.asahi.com/articles/CMTW1605301300004.html

※2015年に都内を訪れた外国人旅行者が前年比34%増の1189万人。13年から3年連続で過去最多を更新。

エクスペディアで都内のホテルを予約した外国人の3人に1人は新宿を選ぶ
http://inbound.exblog.jp/25331847/
東新宿は新しい外国客向けホテル地区になりつつあります
http://inbound.exblog.jp/20672715/

理由は、日本観光のハイライトである富士山と箱根のゲートウェイであること。ゆえに、高級ホテルからビジネスホテル、ホステルまで(ついでにいうと、AirBnBの登録物件の多さも都内1、2を争う)、さまざまな層の旅行者のニーズに合わせた多彩な宿泊施設が集まっているからです。

仕事場への行き帰りやランチでオフィスの外に出るとき、通りは欧米系からアジア系まで外国人だらけです。個人やカップル、小グループが大半ですが、何を隠そう中国団体客を乗せたツアーバス専用食堂も数軒あるため、昼どきは中国人があふれているという多国籍的な様相を見せているのです。明治通りに近い場所に一軒のゲストハウスが昨年冬にできて以来、窓越しに見えるロビーのカフェにはいつも若い外国客がたむろしていて、ぼくもたまにお茶することがあります。

そんな彼らを日々眺めながら、ふと思うことがあります。

彼らはみんな、東京に来て何やって時間を過ごしているのだろう。本当に満足しているのだろうか?

もちろん、浅草に行けば、日本情緒を味わいに来ている彼らを大勢見かけますし、新宿でも伊勢丹などの商業施設に行けば、買い物にいそしむアジア系の人たちがわんさかいます。最近では、サムライや忍者といった日本の歴史文化をわかりやすく体験させるスポットも増えていて、人気を呼んでいます。

なぜサムライは外国人の心を惹きつけるのか?
http://inbound.exblog.jp/25864895/

訪日客が増えると、次々に新しいエンタメやアトラクションが生まれるのは自然の流れでしょう。これらはこれで面白いと思うのですが、もう少し知的で現代的な東京体験をしたいというニーズもあるのでは。自分がパリやニューヨークを訪ねるときは、そんなに小難しくなくていいけど、カルチャー系スポットに足を運びたくなります。それにやっぱり旅ですから、街歩きも楽しみたい。では、伝統系以外で、東京ではどんなカルチャー体験が楽しめるのか。それを誰がナビゲーションしてくれるのか……。

最近、知り合ったShowcaseという通訳ガイドのユニットは、都内のユニークな建築案内に特化したツアーを始めています。

Showcase Tokyo Architecture Tour(東京建築ツアー)
http://showcase-tokyo.com

4月中旬、ぼくはオランダで建築を学ぶ学生さんたちが参加したウォーキングツアーに同行しました。銀座と表参道にあるユニークな建築群を約5時間かけて歩くというものです。以下、その実況を報告します。

待ち合わせは、お昼12時に銀座の歌舞伎座にて。ツアーに参加するのは、オランダ・ユトレヒト大学(Institute of Building Engineering)の 学生19名と引率の教師2名の皆さんです。 今回は人数が多いので、2グループに分かれて前半2時間で銀座界隈を回り、休憩後、表参道へ移動して2時間ほど歩き、17時にゴール地点の明治神宮の第一鳥居前の広場で合流して解散という流れです。
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12時少し前に歌舞伎町に行くと、学生さんたちが待っていました。近くのコンビニで買ったのか、地べたに腰かけ、お寿司を食べている男子学生もいます。

オランダ人らしく、さすがに身長が高い人が多いです。女子学生も数名いますし、留学生らしいアジア系の学生もいました。
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このツアーでは5時間かけて20数ヵ所の個性的な建築を訪ねるのですが、以下印象に残ったスポットを紹介しましょう。

ぼくが同行したグループは、まず歌舞伎座の中に入ります。5階に歌舞伎座の歴史を解説するギャラリーと野外庭園があります。
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歌舞伎座
http://www.kabuki-za.co.jp/

これは銀座8丁目にある中銀カプセルタワーです。黒川紀章が設計した世界初の実用化されたカプセル型集合住宅です。
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銀座中央通りを歩いています。
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スウォッチ・グループ・ジャパンの本社「ニコラス・G・ハイエックセンター(NICOLAS G. HAYEK CENTER)も面白いですが、ビルの合間の路地裏に潜む豊岩稲荷神社へ向かう道はちょっとした冒険です。
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NICOLAS G. HAYEK CENTER
http://www.swatchgroup.jp/boutique/nicolas-g-hayek-center/
豊岩稲荷神社
http://www.tesshow.jp/chuo/shrine_ginza_toyoiwa.html
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ソニービルの隣の銀座エルメス本店に立ち寄り、今年3月末にオープンしたばかりの銀座東急プラザでひと休み。

銀座東急プラザ
http://ginza.tokyu-plaza.com/

屋上のキリコテラスから銀座を眺めると、松坂屋の後にできる建設中の観世能楽堂(今年11月完成予定)をはじめ、あちこちに建設クレーンが見られます。訪日旅行市場の拡大によって新たな国内投資が生まれている象徴的な光景といえるでしょう。
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【銀座】松坂屋跡地に東京最大級の商業施設と観世能楽堂ができる
http://matome.naver.jp/odai/2138726263386134701

さて、銀座線で表参道へ。表参道は知る人ぞ知る、街ごと建築博物館です。個別に触れているときりがないので、詳しくは以下のサイトなどを参照してください。

東京の観光公式サイト<GO TOKYO>おすすめ建築スポット
https://www.gotokyo.org/jp/tourists/attractions/attraction/art/harajuku.html
まるで「建築」博物館!表参道青山ショップをデザイン散歩
https://haveagood.holiday/plans/1426
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最後に、明治神宮の鳥居前で解散です。個人的にも、初めて知ったスポットも多く、とても面白かったです。今度海外から友人が来たとき、いろいろ案内したくなりますね。
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とはいえ、見ず知らずの外国人旅行者を相手にこれだけのスポットを案内するのは、素人にはとても無理。当然、さまざまな質問が飛び交うことになるでしょうから、彼らを納得させる説明を外国語でするのは、プロでなければ務まりません。

だから、いまこそ通訳案内士の出番なのです。次回は、このツアーを企画催行している通訳ガイドのユニット「Showcase」の皆さんに話を聞きたいと思います。

通訳案内士の新しい動きに注目! 東京建築案内ユニットShowcase
http://inbound.exblog.jp/25883449/
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by sanyo-kansatu | 2016-06-06 11:33 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2016年 06月 01日

あなたは日本の文化や歴史を外国人に説明できますか?

前回、オーストラリア出身のラジオDJで、サムライと日本のお城が大好きというクリス・グレンさんを紹介しました。
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なぜサムライは外国人の心を惹きつけるのか?
http://inbound.exblog.jp/25864895/

彼はそんな素朴な問いに対して「サムライやお城は日本にしかない独自の文化だから面白いのです」と明快に答えてくれます。

彼はいま「インバウンド観光アドバイザー」としても活躍しています。日本の観光PRをするうえで、いちばん大事なのが「外国人の視点を理解すること」だといいます。

これはどういうことでしょうか。

前回に引き続き、クリス・グレンさんへの一問一答です。

―まさかですが、いまでも日本にサムライがいると思っている外国人はいるものでしょうか? 

「もちろん、います。日本の人たちは「外国人」と一括りにしますが、外国人といっても多種多様です。欧米人だけが、外国人ではありません…。

子供たちの中には「サムライがいる」「忍者がいる」と思っている子もたくさんいると思います」

―クリスさんは日本の観光PRをするうえで、「外国人の視点」が大切と言っていますが、日本人の視点といちばん違うところはどこでしょう? 

「それは以下のポイントです。

日本に関する知識
当然のことですが、日本に関する知識は雲泥の差です。そのため、日本人の知識ベースで書かれた、観光施設などの紹介文を翻訳しただけでは、通じないことも多々あります。その視点が、完全に抜け落ちています。

曖昧さを嫌う
観光パンフレットなどでもそうですが、日本人は「曖昧」な表現や美しい言葉を並べることで、なんとなく良さげに体裁を整えるのが得意です。

なんとなく雰囲気で良さそうなことはわかるけど、どこがどうイイのかハッキリ伝えていないという文章が多いです。それを翻訳するときには本当に困ります。そのまま翻訳すると「ハッキリ、何が言いたいの?」と言いたくなるような文章になり、外国人にとっては、まったく魅力的ではないものになってしまいます。外国人を相手にするならば、もっとストレートな表現で伝える必要があります。

そのほか、当然のことながら、色、ビジュアル(写真)なども、国によって好みが変わりますので、そのあたりも意識をする必要があります」

実は、4月上旬、クリスさんが制作を担当した名古屋城本丸御殿英語版WEBサイトが立ち上がりました。このサイトも、外国人の知識や好みを考えた上で制作されたそうです。
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名古屋城本丸御殿
http://www.nagoya-info.jp/en/hommaru/

―では、「外国人の視点」を理解するために、日本人はどんなことに気をつければいいでしょうか。

「外国人視点を理解するためには、以下のことをトライしてみてください。

逆を考える
自分が海外に行った時に「困ること」「見たいモノ・コト」「事前に知りたい情報」「欲しいもの」「体験したいこと」「食べたいもの」を考えてみれば、日本に来た(来る)外国人が何を欲しがるかが理解できると思います。

外国人に聞いてみる
外国人のために作るWEBサイト、パンフレットなどの制作に、外国人が一人も携わっていない、外国人にリサーチもしない状態でつくられていることが多いということに本当に驚きます。

アドバイザーとして外国人の視点で、いろいろと足らない部分を指摘すると「目から、ウロコでした!」と言われることが多いです。でも、実はものすごく当たり前のことしか言っていません。それくらい、日本人と外国人のニーズは違うということです。

もっと外国人と話して、リアルな声を聞いて、ニーズをつかむという作業をすることをオススメします。そうすれば、もっと上手に情報発信をすることができるようになると思います」

クリスさんの提言を聞いていて、ふと思ったのは、彼からこう問われているような気がしたことです。

「あなたは日本の文化や歴史を外国人に説明できますか?」

たとえば、徳川家康って誰? どうして日本のお城には石垣があるの?

残念ながら、いまのぼくには、それをコンパクトにポイントを整理して、事情を何も知らない外国人相手にわかりやすく伝える自信はありません。これは語学力以前の問題です。そういうことを普段考えたことがなかったからです。でも、観光PRのキモとはこういうことなのですね。

こうした日本の文化や歴史の基本的な知識は、実は、通訳案内士試験で問われます。これらも含めて一般常識の試験もあるからです。通訳ガイドは、日々このような外国人の素朴な疑問に向き合っているのです。

やっぱりこの手のことは、専門家にまかせるしかない…!?

いえいえ、こういうのはちょっとした頭の体操として自分の地元を説明することから始めてみるといいのかもしれません。

クリス・グレンさんのインタビュー記事をネットで見つけました。よくまとめられた記事なので、こちらも参照してみてください。

オーストラリア人が提案する
世界目線の「NAGOYA」観光
https://digjapan.travel/blog/id=10531
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by sanyo-kansatu | 2016-06-01 17:34 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 05月 28日

日本最高齢の通訳ガイド、「ラストサムライ」ことジョー岡田さんに話を聞きました

通訳案内士制度の規制緩和の動きが進んでいるようです。同制度の設立は1949(昭和24)年。さすがに、時代は大きく変わり、通訳ガイドを取り巻く環境も当時とは相当違っていることでしょう。

今回紹介するのは、通訳案内士暦54年という異色の通訳ガイド(英語)、ジョー岡田さんです。現役では日本最高齢だそうです。

この方の型破りなガイディング作法は、海外から訪れた多くの観光客を魅了してきました。

岡田さんがガイドを始めたのは1962年。1ドル=360円の時代です。その後、90年代に入り、一時ガイドを休業されていたこともあるそうです。しかし、21世紀に入って状況は変わりました。訪日外国人が急増し、岡田さんは東日本大震災の翌年の2012年5月、ガイド業を再開します。20年ぶりのことでした。

なにしろ昨年(2015年)は、45年ぶり(1970年以来)に訪日外国人の数が出国日本人を超えた年でした。時代は再びジョー岡田のガイディングを必要としたのです。

御年87歳の岡田さんは、毎週土曜日、京都で外国客相手にユニークなウォーキングツアーを行っています。何がユニークかというと、そのいでたちとコースの中身。自らサムライに扮し、腰に日本刀を差し、京都の商店街や寺院を練り歩きます。そして、最後に「空中りんご斬り」をはじめとしたサムライショーを披露するというのです。

そんな岡田さんのツアーは地元でこう呼ばれています。

「京都観光に旋風を巻き起こす!ラストサムライショー」。
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いったいどんなツアーなのか。昨日、ジョー岡田さんに電話でお話を聞きました。

―ウォーキングツアーというのはどんな内容ですか。

「わしのやっている「クール京都ウオーキングツアー」では、有名どころはあんまり行かない。毎週土曜の9時45分に京都市役所に集合し、商店街やお寺を約4km、5時間かけて歩く。商店街で軽い食事もする」

※ツアーの概要については、岡田さんの公式HP「ジョー岡田のさむらい人生」を参照のこと。

ジョー岡田のさむらい人生
http://samurai-okada.com

Cool Kyoto Walking Tour

日 時:毎週土曜10時~15時
参加料: 3000円(軽いランチ付・12歳以下は無料)
定 員:21人(最少催行5人)
集 合:9:45 京都市役所前広場

主なスケジュール:
 京都御所を散策(土曜日特別公開の捨翠亭を見学)
 庶民の台所・出町商店街で交流(各店で試食を楽しみ、盛り上がりましょう)
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※ネットで見つけたウォーキングツアーの実例がこれ。

【寺町通】 ラストサムライといく、京都御苑から寺町通名店めぐり
~九条家の茶室・拾翠亭から商店街、サムライショーまで~(2013年5月7日)
http://www.maimai-kyoto.jp/program/machiaruki/13sp134/

この日のコースは以下のとおり。

地下鉄「丸太町」 → 1.拾翠亭 → 2.厳島神社 → 3.下御霊神社 → 4.行願寺(革堂) → 5.寺町通(丸太町~二条) → 6.サムライショー → 7.カフェでお茶(解散)

※数年前、ある報道番組が岡田さんのツアーの同行取材をしていました。これを見ると、どんな内容かよくわかります。

Joe OKADA 京都でジョー 岡田さん(84歳)が外国人をガイドする
https://www.youtube.com/watch?v=UAznHJPfjx4

岡田さんは京都府舞鶴市在住。毎週土曜は朝6時起床で、約90分かけて京都に来ます。京都市役所に着くのが9時頃なので、隣のホテルオークラの地下の喫茶店でモーニング(380円)を食べながら、ツアー開始時刻を待つそうです。

―外国客に人気の理由はどこにあると思いますか。みなさん、どんなところを楽しまれているのでしょうか。

「まあわしが落語しながら歩いてるみたいなツアーだからね。お客さんはずっと笑っていますよ。もう50年以上ガイドをやってるから、笑いのつぼはたいてい定型化されていて…、まあそういうもの」

-やはり圧巻は、サムライショーでしょうか。

「あれは38年前(1977年)、伏見桃山城で始まった。わしは当時、ガイドとして独立し、外国客相手に日本文化ショーを企画した。空手や忍者、居合い、お茶、お華、歌舞伎、京舞などの師匠を呼び集めた。90分間でひとり6000円取った。当時としても、けっこう高いでしょう。でも、城の天守閣を借りると、2時間で5万円かかった。これを13年間で1700回やった」
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-そこで岡田さんは居合いを見せたのですか。

「いや、わしは司会進行担当だった。ところが、ある日、居合いの先生が誤って自分の手を切ってしまった。そりゃ大変な騒ぎだった。以来、わしが居合いをするようになった」

-その師匠に教わったのですか。

「最初は、見よう見まねでね。でも、1700回やったから」

-えっ、そうなんですか。

「まあこれも人生の裏話」

岡田さんに「なぜ外国客にサムライショーはウケるのでしょうか」と素朴な疑問をぶつけたところ、一瞬、う~んとうなり、「そりゃ、日本人がアメリカに行ったら、ピストル手にして射撃したくなるのと同じじゃないの」と答えてくれました。確かに、これは愚問かもしれません。外国客がサムライや日本刀に惹かれる理由をもっともらしく言語化することに、あんまり意味はないかも。自国にない文化だから、面白いのですから。

―ところで、いつ頃から通訳ガイドをなさっているのですか。

「前の東京オリンピックの2年前だから、1962年。最初は旅行会社で専属ガイドをしていた。その後独立し、伏見桃山城でさっき言ったショーを始めた」

ジョー岡田こと、岡田逸雄さんは1929(昭和4)年、大阪生まれ。5歳のときに、父に連れられ、満洲国の奉天(現・瀋陽)に渡ったが、数年後に帰国。中学生のときに、学徒動員で尼崎市住友工場でゼロ戦戦闘機のプロペラ製造工となるが、B29の爆撃で全滅。半年後、敗戦を迎える。

中学卒業後は、米軍キャンプの雑役や消防士などで食いつなぐ。その後、来日中のアメリカ人農場主夫妻の運転手を務め、その農場主に招かれて渡米し、運転手として働きながら夜学で英語を習得。帰国後、3度目の挑戦で通訳案内士試験に合格した。そのとき32歳。最初の客の名前がジョーだったことから、「ジョー岡田」を名乗ることに。しばらく藤田観光の専属ガイドを務めたが、40代で独立した。

-どうして通訳ガイドになろうと思ったのですか。

「京都でね、通訳ガイドをやっている先輩の姿がかっこよくてねえ。自分もあんな風になりたいと思った。いまは亡くなられたけど、高橋さん。ずっとお付き合いしていましたよ」

-当時といまでは、通訳ガイドをめぐる状況は何が違いますか。

「インターネットが世界を変えた。当時の仕事の受注先は、旅行会社が40%、外国人のツアコン30%、国内の観光ガイド30%という比率だったが、いまでは予約はたいていインターネット(実際、ぼくは岡田さんとメールでやりとりしています)。

お客さんも変わった。40年前は、アメリカ3分の1、英語圏3分の1、その他ヨーロッパと東南アジアが3分の1。いまでは、70%がその他ヨーロッパと東南アジア。中国は団体ツアーが多いので、ほとんどない。わしは英語のガイドだからね」

― 一時期、ガイドを休業なさっていたそうですが、なぜ再開なさることにしたのですか。

「90年代に入り、円高で1ドル80円になった。これではもう続けられない。その間、土方でもなんでもやりましたよ。しかし、こうして再び外国客が増える時代になった。90歳まで続けようと思っていたら、2020年に東京オリンピックがあるというから、91歳までやることにした」

10年前(2006年)に岡田さんが知人に送った年賀状(サムライ現状報告)には、「以下の記録を更新するべく、その日暮らしです」と書いてあったそうです。

1.日本一最年長・現役土木作業員(年100日以上)
2.日本一最年長・現役通訳案内業
3.1988年・日本商工会議所商業英語Aクラス合格
4.ギネス世界記録第2回挑戦大会実施
  岡田流居合い道舞鶴青空道場・アメリカ支部より弟子8名参加・空中リンゴ斬り60秒で18個=第2位。1位は支部長のブラットの21個。
5.国内テレビ51回、海外14回出演
6.外人女性の腹上でスイカ斬り2000個(世界一)※手書きで「2016年には3500人となる」と書き足しあり。
7.海外に日本刀を書類なしで7回持ち出し ※おいおい
8.毎晩4時間飲食・ニッカウィスキー年130本・45年間
9.舞鶴市市民生涯教育・英会話講師(4年目)※手書きで「今年で16年目」と書き足しあり。

以下のテレビみてくださいね。
2006年1月9日 日本テレビ「イッテQ」の暗闇剣道「内村、インパルスvs.ジョー岡田」
     2月3日 テレビ東京「所さんの学校では教えてくれないそこんところ」

まいりました。さすがは昭和ひとケタ生まれというべきか。時代を無頼に、コミカルに駆け抜けた人生が伝わってきます。

そんな岡田さんですが、ふと電話口で「自分は体感的な人間でね」ともらします。そんなにあれこれ難しく考えて生きてきたわけじゃないとも。

でも、モットーは「わしの人生にはプライバシーはない」「他の人のできないことをやる」だそう。

「今度、京都に行く機会があったら、ぜひウォーキングツアーに外国人に混じって参加したいのですが…」と聞くと、「いいですよ。日本人はだいたい1%」。

岡田さんは、いまある本の出版を計画中です。実は、1965年、ご自身がつくった『This is your guide speaking』(同書はその後、版を重ね、91年の12版まで改訂され、12万部に至る)という通訳ガイドが話す日本案内(英語)の本を27年ぶりに再販したいのだそうです。

今度、その原本を送ってくださるそうなので、とても楽しみにしています。
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by sanyo-kansatu | 2016-05-28 09:56 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 05月 17日

資格不要の有償ガイドを認めるなら、せめて登録制にすべき

今朝、ネットで以下の報道を知りました。ついに政府は資格不要の通訳ガイドを認める方向に動き出すようです。

訪日旅行市場の実態にまったく合わなくなった通訳案内士制度を改正する動きは、すでに何年も前から地ならしが進んでいたのですが、2000万人時代を迎えた今年はひとつの節目といえるのでしょう。

以下、記事を転載します。

人手不足で規制緩和 保育士比率下げ・ガイド通訳資格不要(日本経済新聞2016.5.17)
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO02405380X10C16A5MM8000/


 政府は保育や観光の分野で深刻な人手不足の解消に向け、実態に合わなくなった規制の緩和に動く。国家戦略特区の公立保育所で正式な資格を持たない職員を雇いやすくするとともに、非正規で働く保育士の給料を引き上げる。観光では、国家資格がなくても有償で通訳ガイドをできるようにする。人手不足が日本経済の成長を妨げないように、人材確保に本腰を入れる。

 政府が19日に開く国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)や規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)で方針を示す。関連法の改正案を早ければ7月の参院選後の臨時国会に出す。

 保育分野では大阪府が認可保育所の設置要件の緩和を求めている。府によると、保育所の職員の3分の2以上は有資格の保育士にしなければならない規定がある。府はこの比率を引き下げれば、公的な資格はなくても経験豊富な保育ママや子育て支援員も活用できるようになるとみている。

 政府は要望を認める代わりに、公立保育所で働く正規職員と非正規職員の待遇格差をできるだけ減らすように府側に促す方向だ。大阪市は非正規保育士の処遇改善を進めてきたが、年齢など条件をそろえると年収ベースで正規保育士の5割にとどまるとの試算もある。

 政府は非正規職員の賃金をめぐり、職種に限らず「正規職員の7~8割に早期に引き上げる」との目標を掲げる方針だ。特区内でもこの水準が目安になるとみられる。

保育士は都市部を中心に人手不足が深刻だ。東京都内では3月の保育士の有効求人倍率が5.45倍だった。大阪府の2014年1月時点の調査では8割の保育園が「5年前より保育士の確保が難しくなった」と答えた。待遇改善で非正規を含め人材を雇いやすくする。

 観光分野では、訪日外国人に観光案内をする通訳ガイドの規制を緩和する。現在は国家資格がないと有償でのガイドはできないが、資格がない人にも認める方針だ。5月末に閣議決定する規制改革実施計画に盛り込む。

 現在、報酬を得る観光案内の通訳は「通訳案内士」の資格を持つ人に限っている。資格がなくても観光ガイドとして報酬を得られるようにする。

 政府は訪日外国人客を20年までに今の2倍の4000万人に増やす目標を掲げる。一方、通訳案内士の数は約1万9000人にとどまり、訪日客のニーズに応えきれていないとの指摘が多い。

 日本に先行して通訳ガイドの規制を撤廃した韓国では、観光客が不当に高額料金を請求されるケースなどが発生している。団体客向けのサービスは資格保有者に限定するなどの規制強化に踏み切った。政府は海外の事例も参考に通訳の質を確保するための具体策の検討を進める。


この記事は、このところ国会でも話題となった保育士問題とからめて観光分野の規制緩和を報じています。通訳案内士の関係者からすれば当然いろんな意見や不満はあるのでしょうが、公平に見て時代の趨勢であり、有資格者たちはこれで職域を奪われるなどとネガティブには考えずに、高い語学力を活かし、現状をふまえた新しい仕事のあり方を模索していくべきだと個人的には思います。能力的にいって、無資格者のできる仕事は限られているからです。訪日市場の急拡大によって、語学力は十分ではなくても外国客を接遇しなければならない場面が増えたのです。本来、有資格者たちが取り組むべき世界は、もっと重要かつ高度な領域なのですから。もはや旅行会社からガイドの仕事をもらうだけの時代ではないのです。

実際、若い世代の通訳案内士たちは、すでに新しい仕事のスタイルを実践しています。

たとえば、以下の通訳案内士ユニットは、東京都内のユニークな建築案内に特化したガイド活動を始めています。

Showcase Tokyo Architecture Tour
http://showcase-tokyo.com
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こうした新しい動きは、主に英語の通訳案内士たちが取り組むケースが多いようです。資格不要の有償ガイドが認められた時代は、有資格者たちはテーマ性や特色のあるガイド内容で自ら仕事を取りにいく動きを進めていくべきでしょう。こういうユニット応援したいと思います。

もうひとつ大事なことは、日本のインバウンドの中身を大きく変えたアジア市場において、これまでグレーゾーンとなっていた、海外からツアー客に同行する添乗員や、国内でツアーに合流する在日アジア系ガイドたちの実態をきちんと把握するためにも、ガイドを登録制にすべきではないでしょうか。

彼らの中には、海外から日本に観光ビザで来て、滞在期間中、ツアーをいくつも請け負い、免税店からのコミッションもそうですが、さまざまな営業活動をしておきながら、確定申告もせず、そのまま帰国してしまう「スルーガイド」もいます。また今後規制緩和される通訳案内士資格の有無はともかく、就労資格のないのにガイドを務める輩もいるからです。

今回の規制緩和は、要するに現状追認にすぎないわけですが、彼らの存在を本当に法的に認めていいのか。せめて登録制にして違反者を減らし、市場の実態をつかむことができなければ、監督官庁としては無責任すぎると思うからです。九州の中国発クルーズ客の上陸観光ガイドの就労資格をめぐる問題はいまだ解決できていないですし。

中国人不法ガイドが摘発された背景にあるものは? 訪日旅行市場に与える影響は?(2016年3月9日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/030800008/

通訳ガイドをめぐる問題については、以下の論考も参考にしてください。

通訳ガイド問題の解決の糸口は?
訪日客が増えて問題続出
http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_23.html

「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」って何?
http://inbound.exblog.jp/24445622/

メディアは「通訳案内士」問題をどう報じてきたか
http://inbound.exblog.jp/24446629/

通訳案内士になるには? 適性は?
http://inbound.exblog.jp/24449064/

通訳ガイドの働き方、海外ではどうなのか?
http://inbound.exblog.jp/24450294/

海外の観光ガイドサービスのモデルを日本に持ち込もう
http://inbound.exblog.jp/24460875/

通訳案内士制度をめぐる議論がかみ合わないのはなぜか
http://inbound.exblog.jp/24463450/

無資格ガイド問題とは何か?
http://inbound.exblog.jp/24472149/

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた
http://inbound.exblog.jp/24486566/

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル
http://inbound.exblog.jp/24489096/
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by sanyo-kansatu | 2016-05-17 12:55 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)
2016年 04月 28日

タイ語版の「るるぶ情報版」を入手。これはなんと斬新な日本だろうか

休暇をとって、以前からずっと訪ねてみたかった地方のまちを旅する楽しさというのは、かけがえのないものです。国内旅行ですから、忙しさにかまけ、関心のある見どころ以外の食事や遊びの情報などは、ネットで事前にあれこれ調べる時間がなくても、新幹線駅の書店でその土地の「るるぶ情報版」をとりあえず買っておけば、ひとまず大丈夫。移動中じっくり予習をする時間はあります。

現地に着くと、さっそく地図にここぞとマーキングした見どころやおいしいと評判のお店などを訪ねてみる。すると、いまどきたいていどこでも外国人の小グループをよく見かけます。

「どうして彼らはこの店を知っているのだろう?」

その理由は、前回書いたとおりです。「るるぶ情報版」の多言語版がいまや海外のふつうの書店で売られているからです。

「るるぶ情報版」(中国語版)が上海の本屋で売られていた!(その意味を考えてみる)
http://inbound.exblog.jp/25723467/

しかも、それは中国や台湾、香港などの中華系の人たちだけでなく、タイやマレーシア、インドネシア、シンガポールといった東南アジアの人たちにまでいえることなのです。

昨日、発行元のJTBパブリッシングに確認したところ、2016年3月現在、以下の国・地域で多言語化された「るるぶ情報版」が発行されています。

■中国本土/中国語簡体字版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2015年12月

■台湾/中国語繁体字版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2015年12月

■香港/中国語繁体字版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2015年12月

■タイ/タイ語版
 タイトル 京都、九州
 発売 2015年2月より随時

■シンガポール/英語版
 タイトル 九州
 2016年3月

■マレーシア/英語版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2016年3月

■インドネシア/インドネシア語版
 タイトル 北海道、東京、京都、九州、沖縄
 発売 2016年3月

驚いたことに、タイ語やインドネシア語版まで発行されているんです。実際、タイの出版社のサイトをみると、「new araival」のコーナーに確かに「るるぶ情報版 九州」が見つかりました(右から2番目の本)。タイ語版としては、京都もあります。
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Jamsai(タイの出版社)
http://www.jamsai.com/

JTBパブリッシングさんからタイ語版の「るるぶ京都」をいただきました。この表紙、えらくインパクトがありますね。派手な色使いもそうですが、ふだん見慣れぬタイ語がからむと、いったいここはどこなんじゃ? という気がしてきます。なにしろかの国のお寺はキンキラ金に輝いていますから、このくらいインパクトがあってこそ、彼らの旅心を刺激するということなのかもしれません。
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中もめくってみましょうか。

これは金閣寺のページです。
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これは祇園。
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こちらはグルメページで、京懐石でしょうか。
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最後のこれはお土産ページ。京小物のコーナーです。
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金閣寺や祇園、京料理の写真の合間をはうように綴られるタイ語がなんとも新鮮です。

2015年、約80万人のタイ人観光客が日本を訪れました。すごい勢いで増えています。タイは2013年以降、日本の観光ビザが免除されていますから、多くの場合、個人旅行でやって来ます。特に若い世代の大半はそうで、最近では全国各地で彼らの姿を見かけます。

これは3月末、京都駅で見かけたタイ人の若い女の子の小グループでした。彼女らの誰かひとりくらいは「るるぶ情報版」を手にしているかもしれません。
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タイ人というのは、男の子も女の子もシャイで控えめなところがあり、好感度が高いです。見ていてかわいいので、ぼくは電車の中でタイ人に隣り合わせると、つい声をかけてしまいます。「これからどこ行くの?」「明治神宮」「じゃああと4つめの駅だよ」……。そんなささやかな会話だけでも、ほっこり気分にさせてくれる人たちです。

そんな彼ら彼女たちが、いまや日本人と同じ内容が書かれた「るるぶ情報版」を手にしている、つまり同じ情報源をもとに旅しているのだとしたら、これからもいろんな場所で彼らと出会う機会は増えることになりそうです。

ひとつ気がかりなのは、先般の熊本の地震です。当時そこそこ多くのタイ人が熊本に個人旅行していたようです。タイ人の知り合いに聞くと、「本当に怖かった」「もう2度と日本には来たくない」とトラウマになってしまった人もいるそうです。

無理もありません。生まれてこのかた、彼らはあのように大地が激しく震える体験などしたことがないからです。

である以上、今後はただ「来てくれ」というメッセージだけでなく、もっと地震に対する外国人の心のケアを考えた情報発信に努めていく必要がありそうです。安全情報の出し方も、「もう大丈夫」といくら日本人が言っても、彼らは素直に受け取る気持ちにはなれないかもしれません。彼らにすれば、「あななたち(日本人)はなぜそんなに平気なの?」と、かえって不信感を募らせてしまうかもしれないからです。東日本大震災後の被災者の冷静なふるまいが世界的に賞賛されたのは事実ですが、それを外国人に求めるのはコクというものです。

外客向けの情報提供において、非常時の対策や心のケアをもっと充実して行かなければならないと思いました。
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by sanyo-kansatu | 2016-04-28 12:23 | “参与観察”日誌 | Comments(2)
2016年 04月 28日

「るるぶ情報版」(中国語版)が上海の本屋で売られていた!(その意味を考えてみる)

先月、上海出張に行った折、現地の本屋で中国語版の「るるぶ情報版」が売られているのを見つけました。

そういうと、それ海賊版じゃないの? つっこみが入りそうですが、正真正銘、現地の出版社から発行されたものでした。中国旅游出版社は、数多くの旅行書を手がけている大手出版社です。
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中国旅游出版社
http://www.cttp.net.cn/
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同書を見つけたのは、地下鉄中山公園駅のそばにある新華書店です。そんなに大きな店ではありませんが、1階に旅行書籍のコーナーがあり、平積みにされていたのは「京都」「九州」「北海道」です。
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このシリーズは、訪日中国客のために、もともと日本の読者向けにつくられたガイドブックをそのまま翻訳したものなのです。

3月中旬のことで、その書店では「春の旅行コーナー」というささやかなディスプレイがあり、いくつかのセレクトした旅行書を壁に並べています。そのなかに「るるぶ九州」や他の現地出版社がつくった東京ガイド書が2冊もあります。いま上海でいかに日本旅行がブームになっているか、よくわかる光景です。
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もともと「るるぶ情報版」は「見る」「食べる」「遊ぶ」を重視したガイドブックとして、1984年に誕生したものです。読者ターゲットは、当時最も積極的に旅を楽しんでいた20代後半から30代の女性。国内、海外のシリーズ版が続々発行され、2000年代以降は「練馬区」「港区」といったローカル版、「萌えるるぶ」というようなテーマ性の高い巻まで、さまざまな旅行ニーズを商品化してきました。いわばこの30年間の日本の若い女性の旅のトレンドを牽引してきた媒体といえるでしょう。2010年には「発行点数世界最多の旅行ガイドシリーズ」(Longest book series-travel guides)としてギネス世界記録™にも認定されています。

何より興味深いのは、創刊以来ターゲットとしてきた日本の若い女性向けの国内旅行のバイブルが、いまや中国の読者の手にも渡り、日本を旅する時代になってきたことを意味することです。

帰国後以下のリリースを見つけました。

るるぶ『OMOTENASHI Travel Guide』「北海道」「東京」「京都」「九州」「沖縄」
中国全土主要都市で12月15日より順次発売開始!
http://www.jtbpublishing.com/newsrelease/20151216255.pdf

これによると、「まずは12月15日に中国全土の主要都市にて「北海道」「東京」「京都」「九州」「沖縄」の5タイトルを発売」「同じく12月15日に台湾で「東京」「北海道」、12月28日に「京都」・「沖縄」を発売」しているそうです。

「るるぶ情報版」のような旅行メディアは、基本的に個人客向けのものです。団体ツアーでは、この本に載っているようなお店を自由に訪ねまわることは難しいからです。昨年中国から訪日する個人客がぐっと増えた時代にうまくはまった企画といえそうです。

ただし、ちょっと気になることもあります。「るるぶ情報版」のような「情報誌」は、きわめて日本に特有のメディアでもあるからです。1980年代にいっせいに花開いた「情報誌」は、いうまでもないことですが、「ネット以前」に生まれたものです。その特徴は、限られた誌面に写真とテキストを魅力的かつ、なるべくたくさん、しかも器用に詰め込むもので、日本人好みの職人芸といっていいほどの完成度です。日本の幕の内弁当的な世界観が見事なまでに体現された世界といってもいいでしょう。
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しかし、今日の大半のアジアの旅行者たちは、「ネット以後」に海外旅行を体験するようになった人たちです。情報は紙ではなく、ネットで得るというのが日常です。ゆえに、日本の「情報誌」を読み、活用することがどれほどできるかについては、疑問がないわけではありません。

こういっても、ピンとこないかもしれません。日本人は「ネット以前」から「以後」にいたる今日まで、情報誌を活用しながら、その後はネットも使うという両刀遣いで消費生活を送ってきたからです。しかし、彼らは情報はネットで取るというスタイルから始まっているために、読み方を知らないかもしれないのです。彼らにすれば、なぜ1ページにこんなにたくさんの情報がごちゃごちゃと詰め込まれなければならないのか、その理由が理解できません。文字が小さすぎて、見にくいと思う人もいるでしょう。

またネット情報では、特定の店の住所や地図がクリックひとつでわかりますが、紙媒体の場合、店と地図はたいてい別のページにあるため、探すのが面倒というだけでなく、そもそも探し方を知らない可能性があります。たとえば、日本人であれば、「MAP p●●-3C」という表記が「●●ページの地図の格子で分けられた3Cの位置にある」ことを理解していると思いますが、情報誌を未体験の人たちにとっては、そんな約束事を知らないかもしれないのです。

その意味で、上記リリースの冒頭の以下の文面を読んだとき、なるほどと思ったものです。

「るるぶ『OMOTENASHI Travel Guide』は、「九州日本」を2015年3月24日に台湾・香港・マレーシア・シンガポールで発売し、11月に台湾・香港では増刷するなど、ベストセラーを続けています」。

そう、この多言語版シリーズの第一弾は、いち早く昨年3月に台湾や香港などで発売されていたのです。実は、これらの地域は、早い時期から角川グループなどの日本の「情報誌」メディアが進出していました。この地域の人たちは情報誌を体験済みなのです。先行的にこの地域で発売するというのは利にかなっています。

では、中国本土で発売された「るるぶ情報版」の売れ行きはどうなのでしょうか?

実は、昨日発行元であるJTBパブリッシングの担当者に取材することができました。

その話は、別の媒体で記事化することが決まっています。同媒体の多言語版発行の狙いや現地における読者ターゲット、制作にあたっての苦労などについては、あらためてお伝えしたいと思います。

※日経BPネット
「るるぶ」多言語版がアジアで人気、日本人と同じ旅行書を手に日本を旅する(2016年5月11日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/051100012/
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by sanyo-kansatu | 2016-04-28 11:08 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 04月 09日

訪日客が増えて問題続出  通訳ガイド問題の解決の糸口は? 

3月末からのイースター(復活祭)休暇中、外国人観光客、特にキリスト教圏から来た欧米客が全国各地に多くの姿を見せた。桜の開花とも重なり、日本の春を楽しんだことだろう。

日本政府観光局(JNTO)によると、今年も訪日客数は前年比43.7%(1~2月の集計)の伸びを見せている。基本的に数が増えるのはいいことには違いないが、訪日客が増えると、当然問題も起こる。

大都市圏のホテル不足は国内のビジネス出張者を大いに悩ませていることから広く知られているが、それ以外にも国民が知らない多くの場所で、外国人観光客たちはさまざまな問題に直面している。

たとえば、空港で入国審査をするとき、外国人の長い列を見たことがないだろうか。混雑で出入国審査に時間がかかりすぎることは、訪日客の不満になっている。また不慮のケガや病気になったときの外国人向けの医療機関の情報提供が不十分なこともよく指摘される。

これらは比較的想像しやすいが、我々日本人がサービスの受益者でないため、その内実があまり知られていないのが、「通訳ガイド問題」である。
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中国語の通訳ガイドはわずか12%

3月上旬、中国発クルーズ客船が多数寄港する福岡市で、ツアー客の上陸観光のガイドとしてバスに同乗し、免税店を案内するかたわら、売り上げに応じたコミッションを得ていた中国人不法ガイドが摘発された。

報道によると、逮捕された中国人は「就労資格のないビザで日本に滞在し、買い物をする中国人観光客らをボランティア名目で案内。その見返りとして案内先の免税店から計約7500万円の報酬を受け取っていた」(日本経済新聞2016年3月4日付)とされる。そのため、彼らにコミッションを渡していた免税店や業務を委託した旅行会社の関係者も「不法就労助長」容疑で書類送検されている。

なぜこのようなことが起きたのだろうか? 背景には、日本の通訳ガイドを取り巻く特殊な状況がある。

そこで、まず日本の通訳ガイドをめぐる実情を整理しておきたい。

通訳ガイドは、訪日外国人に引率し、外国語を使って観光地の説明や広い意味でのガイディングを有償で行う職業のことだが、これには「通訳案内士」という国家資格の取得が法的に義務づけられている(通訳案内士法第2条、第3条、第18条及び第36条)。日本の文化や歴史を正しく外国人に伝えるには、語学力はもちろん、それ相応の知識を有していることが条件とされるからだ。通訳案内士は「日本文化の発信者」としての重要な役割を担っているのだ。

観光庁では、2008年から関係者を集めて「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」を続けている。なにしろ通訳案内士制度が創設されたのは1949年(昭和24年)。すでに60年以上が経過しており、訪日客の急増やニーズの多様化に応じた新たなあり方を検討するためだ。

同検討会では、今日における「通訳案内士制度の課題」として、「語学の偏在」「地理的偏在」「ガイドニーズの多様化」を挙げる。
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通訳案内士制度の課題(「通訳案内士を巡る状況及び今後の対応について」観光庁 2015年12月24日資料3より)

「語学の偏在」とは、10カ国の言語に分かれる通訳案内士のうち英語が67.8%と3分の2を占め、訪日客数トップの中国や台湾、香港らの中国語は12.0%しかいないことを指す。

「地理的偏在」は東京や神奈川など4分の3が都市部の在住者が占めること。地方にある観光地も、遠く離れた都市在住の通訳案内士が対応している現状を指す。

「ガイドニーズの多様化」は、訪日客の多様化に即した専門的な知識がこれまで以上に求められる現実に対し、現行のフルアテンドを前提とした通訳案内士資格でどこまでニーズをカバーしきれているかを問うものだ。

さらに、ここでは触れられていないが、観光庁の数年前の調査では、通訳案内士の資格を持ちながら実際の職業にしているのは、全体の4分の1に過ぎないこと。人材の高齢化が進み、若い世代が圧倒的に不足していることも課題といえる。

背景には、通訳ガイドの職業としての不安定さ、フリーランスとして生計を立てていかなければならない難しさがあると考えられる。

だが、それ以上に、政府が「観光立国」を掲げた2003年以降の時代の大きな変化に、制度が合わなくなってしまったことがある。市場と制度のギャップを埋め合わせる見直しが求められているのだ。

「業務独占」をめぐる議論

市場と制度のギャップを指摘する意見は、有識者を集めた観光庁の「検討会」の資料でも詳細に記されている(「規制改革会議の検討状況について」観光庁 2016年2月29日 資料2)。

代表的な意見を挙げると「資格や研修で得られる画一的な知識・体験では、食べ歩き、スポーツ大会時の周辺観光等、個人が有している生のユニークな知識・経験を有償でガイドしたい個人のニーズ及びこうしたユニークな体験をしたいという多様な旅行者のニーズに対応できない」「マッチングサイトを通じた口コミ情報などにより、質の悪いサービスは市場から淘汰されるので、国家資格による一定の品質確保に対するニーズに対応するには、名称独占で対応可能」というものだ。2020年の東京五輪開催やSNSによる情報収集が普及した時代のニーズを意識した内容となっている。

規制改革会議の検討状況について
http://www.mlit.go.jp/common/001122871.pdf

ここで議論となっているのが、通訳案内士の「業務独占」をめぐる問題だ。

日本における国家資格制度には、有資格者以外に業務の従事を禁じる「業務独占」、有資格者以外は名称の使用を禁じる「名称独占」、事業者に公的資格を有する者の配置を義務づける「必置」の3つがある。

通訳案内士は、これまで弁護士らと同じ「業務独占」資格とされてきた。外国人を有償でガイドするには、国家資格を必要とするのはそのためだ。だが、昨年の訪日中国客が約500万人だったのに対し、中国語の通訳案内士は約2000名しかいないという現実に象徴されるように、訪日客が激増した今日、(通訳案内士制度の理念や目的からすると)有資格者の数がまったく足りないという事態となった。

業務独占のあり方について
http://www.mlit.go.jp/common/001122872.pdf

この議論をめぐって、当事者である通訳案内士団体からの反論がある。

「中国語や韓国語のガイドが無資格者に市場独占されているためで、数が足りないという意見は正しくない」「ガイドの質を担保するためには業務独占は必要」「訪日客に対する詐欺行為等を取り締まる観光警察を創設すべき」というものだ。

ただでさえさまざまな課題を抱えた通訳案内士のよりどころでもある「業務独占」を「規制改革」という錦の御旗を掲げ、断罪されるのは耐え難いという反発もあるだろう。彼らには高い語学能力を必要とする国家資格が担保する職業意識とプライドもあるからだ。

もっとも、市場の激変を最もよく知る中国語の通訳案内士は、これらの議論についてこう指摘する。

「業務独占廃止問題は、ボランティアガイドや欧米客の事情しか知らない関係者と、アジアのインバウンド市場をよく知る者の意見が衝突している。欧米客のみを相手にしてきた関係者は、業務独占が廃止されても構わないと考えているかもしれないが、アジアを知る者は、これをなくせば、福岡の不法ガイドのような問題が野放しにされ、外国人の資格外活動が常態化すると思われる。この懸念をどう考えるかという視点が議論に欠けている」。

在日中国人ガイドのマッチングサイトも登場

だが、通訳ガイドをめぐる新たな状況を知るとき、制度の迅速な見直しは迫られていると筆者は考える。

なぜなら、このままずるずると見直しを先延ばしにしておくと、さらに厄介な状況が起きることが心配されるからである。

たとえば、日本でも通訳案内士と外国人をネット上でマッチングさせる「トラベリエンス」のようなサービスも始まっているが、同じことは、在日中国人らがすでに始めているからだ。

トラベリエンス
http://www.travelience.com/

仙貝旅行は、留学生や若い在日中国人らが中国本土の訪日客のガイドを有償で請け負うマッチングサイトである。
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仙貝旅行
http://www.xianbei.cc
仙貝旅行のガイドたち
http://www.xianbei.cc/guide/list

問題は、このサイトに登録しているガイドが通訳案内士の資格を有しているとは思われないことだ。

こうした中国発のマッチングサービスの登場は、この1、2年法的規制をめぐって盛んに議論されている民泊市場において、本家と考えられていた米国系のAirBnBを凌駕する勢いで、中国系の民泊サイトを利用する中国の個人客が増えている動きとも軌を一にしている。

※中国の民泊サイトについては、中村の個人Blog「都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた」 参照。

今日の中国では、日本よりはるかに速いスピードでオンライン旅行化が進んでおり、さまざまなECサービスが次々と現れている。こうした中国市場の動きに対して、日本の監督官庁の対応は常に後手に回ってきたというのがこれまでの経緯だった。

いや、現実に即していうと、無為無策で状況を見過ごしてきたと指摘されても仕方がない面がある。

冒頭で述べた中国人不法ガイドの一件も、留学生という立場で就労資格がないことが直接の逮捕の理由とされるが、結局のところ、数年間で何倍にも急増したクルーズ客の上陸観光に充てる有資格ガイドを日本側が用意することができなかったこと。それを知りながら、当局がそのままスルーしてしまったために、事態が際限なく進んだのである。
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「違法・不当な旅行案内について」(「通訳案内士を巡る状況及び今後の対応について」観光庁 平成27年12月24日資料3より)

その意味でも、仙貝旅行のようなサービスの登場は、通訳案内士制度をさらに形骸化させる懸念を感じざるを得ないのだ。

実情に即したルールを設定し、随時修正していく

だからといって、「取締りを強化せよ」とだけいうのは見当違いだろう。

仙貝旅行は、中国の個人旅行化がようやく始まり、団体ではなく、自分の足で日本を旅してみたいという若い世代を中心にした新しい層が生まれている事実を反映しているからだ。

日本語を話せず、日本に知り合いがいなくても、このマッチングサービスを通じて知り合った同胞に日本を案内してもらいたいというニーズがあるのは理解できる。そこに金銭の授受があるとしたら、そこを当局が見逃さなければすむだけの話といえなくもない。

しかし、通訳案内士が業務独占資格である限り、それではすまない話である。有資格者しか有償でガイドをしてはいけないという法的な縛りがあるからだ。

ここで考えたいのは、市場の論理でもなく、事業者の保護のためだけでもなく、もっと長期的な視点に基づき、訪日旅行市場をより健全化するための制度の見直しの進め方である。

そのためには、中国に代表されるアジア市場と英語圏の市場の制度設計は、もはや分けて考えるべきではないか。そもそも1948年(昭和23年)に創設された通訳案内士制度は、英語圏の旅行者のために設計されたものといっていい。一方、アジア市場の歴史は浅く、内実も異なっている。まず、それぞれの市場ごとに現実に即した最適なルールを設定し、問題が起これば随時修正していくという臨機応変なスタンスが必要ではなかろうか。

ただし、ルール設定においては、あるべき理想の姿を追うのではなく、あってはならない最悪の事態を想定するという融通無碍な考え方が、特にアジア市場を対象にした制度設計には必要だろう。観光庁も指摘する「違法・不当な旅行案内」の常態化は、海外の旅行関係者からも不信を招いていることは自覚したほうがいい。

VIPに絞った企業化の取り組み

アジア市場の制度設計を考えるうえで、ひとつの先例といえるのが、中国語通訳案内士の水谷浩氏が率いる彩里旅遊株式会社の取り組みだ。

同社は2014年4月に設立された中華圏のVIP旅客を対象とした受注型旅行や手配旅行、募集型旅行の企画、販売を行う旅行会社だ。

彩里旅遊株式会社
http://www.ayasato.co.jp/

これまで通訳案内士自身が起業し、集客から旅行の企画、販売まで行う事例は多いとはいえなかった。これが可能となったのも、水谷氏の中国における広い人脈にある。

1980年代、北京と上海に留学した経験のある彼の顧客リストには、日本人ならメディアを通じて誰でも知っているような大企業の幹部も含まれる。2010年、日本政府が中国の個人ビザを解禁したことで、VIP層がお忍びで日本を訪れるようになり、中国語ガイドとして抜擢されたのだ。中国事情をよく知る彼は、中国のVIP層に信任され、口コミでその存在が知られるようになった。

水谷氏は、中国のVIP層についてこう語る。

「彼らは創業者世代が多く、とてもパワフルな人たちだが、日本に対する深い関心も持っている。だが、その中身は欧米客とは少し異なるようだ。彼らの関心のありかを深く洞察することが欠かせない」。

なぜ彼が選ばれたのか。顧客がVIP層だからこそ、生半可な知識しかない在日中国人では物足らず、水谷氏のような中国語のできる日本人に日本を案内してもらいたいからなのだ。

水谷氏は、若い中国語通訳案内士の育成にも力を入れている。企業化という道を選んだのも、後進の育成がこれからのインバウンドアジア市場にとって不可欠だと考えたからだ。

これまで通訳案内士は、旅行会社などのクライアントから仕事を発注してもらうというのが一般的だったかもしれない。だが、英語圏の市場ではそれが可能でも、現状の混沌としたアジア市場では、待っていても仕事が来るとは限らない。ならば自らで集客し、同業の志とのネットワークを活用し、事業化していくまでだ。

通訳案内士の新しいスタイルを切り拓く水谷氏の今後に注目したい。

※やまとごころ.jp
http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_23.html
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by sanyo-kansatu | 2016-04-09 22:19 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2016年 03月 09日

ここまでやるとあっぱれか!?  銀座Laox vs.ドンキお土産商戦の一幕(続き)

春節のころ、中国人観光客専用免税店のLaoxに対してドン・キホーテ銀座本店が「徹底対抗」宣言していた話を以前書きましたが、3月に入って再び銀座を訪ねてみると、さらに過激化の様相を見せていました。

銀座のドンキ、LAOXに徹底対抗!価格以外でも負けません!?
http://inbound.exblog.jp/25347932/
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これを見てください。ドン・キホーテ銀座本店の裏手の入り口に、中国客に人気といわれる日本のドラッグストア系商品のLaoxと同店の価格比較が貼り出されていたのです。
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たとえば、胃腸薬の「キャベジン」は「ドンキでは1980円+税だが、Laoxでは2500円+税」、風邪薬の「パブロンゴールドA」は「ドンキでは1480円+税だが、Laoxでは1980円+税」というのです。

いやいや、商魂逞しいとはこのことか。ビジネスモデルの関係で必ずLaoxに立ち寄らざるを得ない中国の団体ツアー客に向けた強烈アピールといえるでしょう。中国客こそ、そのカラクリをいちばんよく理解している客層だからです。

ここまでやると、あっぱれ!? というべきでしょうか。

もっとも、その隣のラックに多国籍語のチラシが置かれていて、中国語簡体字、繁体字、ハングルのみならず、タイ語まであることから、ドン・キホーテは中国人団体客のみならず、広く多国籍の客層を視野に入れて商売しようとしていることもわかります。
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こういうディティールにこそ、ニッポンのインバウンドの実態が透けて見えてくるところがありますね。
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by sanyo-kansatu | 2016-03-09 09:24 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2016年 02月 08日

春節休みの渋谷は中国語簡体字表記であふれていた

2月6日(土)の昼下がり、ぼくは渋谷と表参道を訪ねました。春節休みのこの時期、渋谷と表参道で中華系の観光客をメインのターゲットとしたショッピングキャンペーンが繰り広げられていたからです。
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渋谷駅を降り、109方面に向かう道玄坂の両サイドには、中国のデビットカードである銀聨カードのキャンペーン旗がぎっしりと並び、はためいていました。
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一方、公園通り方面には、別の旗がひらめいています。こちらは「Tokyo Prime Shopping 2016 in Shibuya」というキャンペーンの旗です。同じ渋谷で、道玄坂と公園通り商店街ではまったく別のキャンペーンを繰り広げているというのも不思議ですが、共通するのは、中国の旧正月(春節)に向けたものであることです。
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公園通りの旗に書かれた簡体字の「幸运摇出来」は、同商店街が主催する「ラッキーシェイクイベント」のことで、キャンペーン期間中(1月2日~2月29日)、外国人観光客が所定の場所(参加店など)で中国版ツィッターこと「微信(WeChat)」を起動し、携帯端末をシェイクすると、アプリ画面上でくじ引きできるというものです。商品総額は200万円、それ以外に参加店舗からの商品券や景品などが当たるそうです。
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東急デパートにも「銀聨カード」の大きな垂れ幕が見られました。
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それにしても、渋谷の街がこれほど中国語簡体字表記であふれたのは初めてのことではないでしょうか。ちょっと驚きました。

もっとも、渋谷を行き交う多くの人たちのうち、このキャンペーンの存在を知っている人はどれほどいたことでしょう。そこが気になるところです。

さて、渋谷のタワーレコードの脇を抜け、キャットストリートを歩いて表参道にも足を伸ばしてみました。

表参道には、一斉に2枚の旗が並んでいました。渋谷と違い、表参道ではVISAカードが協賛するキャンペーンが繰り広げられているようです。
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ただし、こちらは中国語簡体字表記だけでなく、ハングル表記も含まれています。
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そして、この地区のキャンペーン名は「Tokyo Shopping Week 2016 at Harajuku/Omotesando」というものです。つまり、原宿と表参道がタッグを組んだショッピングキャンペーンというわけです。
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外国人観光客向けのスクラッチキャンペーンが実施され、2000名に1000円分の現金が当たるそうです。ラルフローレンの前に小さなテントがあって、外国人観光客は着物姿の女の子と一緒に記念撮影できます。
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渋谷との違いは、銀聨カードではなく、VISAカードが協賛していることもあり、必ずしも中国系の観光客だけがターゲットではないようです。とはいえ、この時期、中国本土以外の台湾、香港、東南アジア華人なども多く訪日するわけですから、本土客向けに簡体字を前面に出すのは控え、広い対象に向けてキャンペーンを実施したというのが、原宿・表参道の考え方だったのでしょう。

もっとも、こちらでも思うことは、表参道を行き交う人たちのうち、どれだけの人が……、でしょう。

この日は土曜でしたが、昨年のイースター(4月上旬)に渋谷や表参道を訪ねたときのほうが圧倒的に人通りは多かったと思いますし、外国人観光客ももっと目に付いた記憶があります。

イースターも近い原宿では非英語圏の言葉があちこちで聞かれた
http://inbound.exblog.jp/24322287/

イースター休みに渋谷スクランブル交差点に出没した外国人をシューティング
http://inbound.exblog.jp/24348359/

はたして渋谷と表参道のキャンペーン、どれだけの効果があるものでしょうか。

実は、例の「ラッキーシェイクイベント」、外国人でもないぼくはこっそりやらせてもらいました。その話は次の機会に。

渋谷公園通りの「ラッキーシェイクキャンペーン」を体験してみた
http://inbound.exblog.jp/25340545/
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by sanyo-kansatu | 2016-02-08 11:22 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)