ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ

タグ:通訳・多言語化 ( 38 ) タグの人気記事


2016年 04月 28日

「るるぶ情報版」(中国語版)が上海の本屋で売られていた!(その意味を考えてみる)

先月、上海出張に行った折、現地の本屋で中国語版の「るるぶ情報版」が売られているのを見つけました。

そういうと、それ海賊版じゃないの? つっこみが入りそうですが、正真正銘、現地の出版社から発行されたものでした。中国旅游出版社は、数多くの旅行書を手がけている大手出版社です。
b0235153_11194245.jpg

中国旅游出版社
http://www.cttp.net.cn/
b0235153_11101978.jpg

同書を見つけたのは、地下鉄中山公園駅のそばにある新華書店です。そんなに大きな店ではありませんが、1階に旅行書籍のコーナーがあり、平積みにされていたのは「京都」「九州」「北海道」です。
b0235153_119382.jpg

このシリーズは、訪日中国客のために、もともと日本の読者向けにつくられたガイドブックをそのまま翻訳したものなのです。

3月中旬のことで、その書店では「春の旅行コーナー」というささやかなディスプレイがあり、いくつかのセレクトした旅行書を壁に並べています。そのなかに「るるぶ九州」や他の現地出版社がつくった東京ガイド書が2冊もあります。いま上海でいかに日本旅行がブームになっているか、よくわかる光景です。
b0235153_11105363.jpg
もともと「るるぶ情報版」は「見る」「食べる」「遊ぶ」を重視したガイドブックとして、1984年に誕生したものです。読者ターゲットは、当時最も積極的に旅を楽しんでいた20代後半から30代の女性。国内、海外のシリーズ版が続々発行され、2000年代以降は「練馬区」「港区」といったローカル版、「萌えるるぶ」というようなテーマ性の高い巻まで、さまざまな旅行ニーズを商品化してきました。いわばこの30年間の日本の若い女性の旅のトレンドを牽引してきた媒体といえるでしょう。2010年には「発行点数世界最多の旅行ガイドシリーズ」(Longest book series-travel guides)としてギネス世界記録™にも認定されています。

何より興味深いのは、創刊以来ターゲットとしてきた日本の若い女性向けの国内旅行のバイブルが、いまや中国の読者の手にも渡り、日本を旅する時代になってきたことを意味することです。

帰国後以下のリリースを見つけました。

るるぶ『OMOTENASHI Travel Guide』「北海道」「東京」「京都」「九州」「沖縄」
中国全土主要都市で12月15日より順次発売開始!
http://www.jtbpublishing.com/newsrelease/20151216255.pdf

これによると、「まずは12月15日に中国全土の主要都市にて「北海道」「東京」「京都」「九州」「沖縄」の5タイトルを発売」「同じく12月15日に台湾で「東京」「北海道」、12月28日に「京都」・「沖縄」を発売」しているそうです。

「るるぶ情報版」のような旅行メディアは、基本的に個人客向けのものです。団体ツアーでは、この本に載っているようなお店を自由に訪ねまわることは難しいからです。昨年中国から訪日する個人客がぐっと増えた時代にうまくはまった企画といえそうです。

ただし、ちょっと気になることもあります。「るるぶ情報版」のような「情報誌」は、きわめて日本に特有のメディアでもあるからです。1980年代にいっせいに花開いた「情報誌」は、いうまでもないことですが、「ネット以前」に生まれたものです。その特徴は、限られた誌面に写真とテキストを魅力的かつ、なるべくたくさん、しかも器用に詰め込むもので、日本人好みの職人芸といっていいほどの完成度です。日本の幕の内弁当的な世界観が見事なまでに体現された世界といってもいいでしょう。
b0235153_11162130.jpg

しかし、今日の大半のアジアの旅行者たちは、「ネット以後」に海外旅行を体験するようになった人たちです。情報は紙ではなく、ネットで得るというのが日常です。ゆえに、日本の「情報誌」を読み、活用することがどれほどできるかについては、疑問がないわけではありません。

こういっても、ピンとこないかもしれません。日本人は「ネット以前」から「以後」にいたる今日まで、情報誌を活用しながら、その後はネットも使うという両刀遣いで消費生活を送ってきたからです。しかし、彼らは情報はネットで取るというスタイルから始まっているために、読み方を知らないかもしれないのです。彼らにすれば、なぜ1ページにこんなにたくさんの情報がごちゃごちゃと詰め込まれなければならないのか、その理由が理解できません。文字が小さすぎて、見にくいと思う人もいるでしょう。

またネット情報では、特定の店の住所や地図がクリックひとつでわかりますが、紙媒体の場合、店と地図はたいてい別のページにあるため、探すのが面倒というだけでなく、そもそも探し方を知らない可能性があります。たとえば、日本人であれば、「MAP p●●-3C」という表記が「●●ページの地図の格子で分けられた3Cの位置にある」ことを理解していると思いますが、情報誌を未体験の人たちにとっては、そんな約束事を知らないかもしれないのです。

その意味で、上記リリースの冒頭の以下の文面を読んだとき、なるほどと思ったものです。

「るるぶ『OMOTENASHI Travel Guide』は、「九州日本」を2015年3月24日に台湾・香港・マレーシア・シンガポールで発売し、11月に台湾・香港では増刷するなど、ベストセラーを続けています」。

そう、この多言語版シリーズの第一弾は、いち早く昨年3月に台湾や香港などで発売されていたのです。実は、これらの地域は、早い時期から角川グループなどの日本の「情報誌」メディアが進出していました。この地域の人たちは情報誌を体験済みなのです。先行的にこの地域で発売するというのは利にかなっています。

では、中国本土で発売された「るるぶ情報版」の売れ行きはどうなのでしょうか?

実は、昨日発行元であるJTBパブリッシングの担当者に取材することができました。

その話は、別の媒体で記事化することが決まっています。同媒体の多言語版発行の狙いや現地における読者ターゲット、制作にあたっての苦労などについては、あらためてお伝えしたいと思います。

※日経BPネット
「るるぶ」多言語版がアジアで人気、日本人と同じ旅行書を手に日本を旅する(2016年5月11日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/051100012/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2016-04-28 11:08 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2016年 04月 09日

訪日客が増えて問題続出  通訳ガイド問題の解決の糸口は? 

3月末からのイースター(復活祭)休暇中、外国人観光客、特にキリスト教圏から来た欧米客が全国各地に多くの姿を見せた。桜の開花とも重なり、日本の春を楽しんだことだろう。

日本政府観光局(JNTO)によると、今年も訪日客数は前年比43.7%(1~2月の集計)の伸びを見せている。基本的に数が増えるのはいいことには違いないが、訪日客が増えると、当然問題も起こる。

大都市圏のホテル不足は国内のビジネス出張者を大いに悩ませていることから広く知られているが、それ以外にも国民が知らない多くの場所で、外国人観光客たちはさまざまな問題に直面している。

たとえば、空港で入国審査をするとき、外国人の長い列を見たことがないだろうか。混雑で出入国審査に時間がかかりすぎることは、訪日客の不満になっている。また不慮のケガや病気になったときの外国人向けの医療機関の情報提供が不十分なこともよく指摘される。

これらは比較的想像しやすいが、我々日本人がサービスの受益者でないため、その内実があまり知られていないのが、「通訳ガイド問題」である。
b0235153_22113580.jpg

中国語の通訳ガイドはわずか12%

3月上旬、中国発クルーズ客船が多数寄港する福岡市で、ツアー客の上陸観光のガイドとしてバスに同乗し、免税店を案内するかたわら、売り上げに応じたコミッションを得ていた中国人不法ガイドが摘発された。

報道によると、逮捕された中国人は「就労資格のないビザで日本に滞在し、買い物をする中国人観光客らをボランティア名目で案内。その見返りとして案内先の免税店から計約7500万円の報酬を受け取っていた」(日本経済新聞2016年3月4日付)とされる。そのため、彼らにコミッションを渡していた免税店や業務を委託した旅行会社の関係者も「不法就労助長」容疑で書類送検されている。

なぜこのようなことが起きたのだろうか? 背景には、日本の通訳ガイドを取り巻く特殊な状況がある。

そこで、まず日本の通訳ガイドをめぐる実情を整理しておきたい。

通訳ガイドは、訪日外国人に引率し、外国語を使って観光地の説明や広い意味でのガイディングを有償で行う職業のことだが、これには「通訳案内士」という国家資格の取得が法的に義務づけられている(通訳案内士法第2条、第3条、第18条及び第36条)。日本の文化や歴史を正しく外国人に伝えるには、語学力はもちろん、それ相応の知識を有していることが条件とされるからだ。通訳案内士は「日本文化の発信者」としての重要な役割を担っているのだ。

観光庁では、2008年から関係者を集めて「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」を続けている。なにしろ通訳案内士制度が創設されたのは1949年(昭和24年)。すでに60年以上が経過しており、訪日客の急増やニーズの多様化に応じた新たなあり方を検討するためだ。

同検討会では、今日における「通訳案内士制度の課題」として、「語学の偏在」「地理的偏在」「ガイドニーズの多様化」を挙げる。
b0235153_22122355.jpg

通訳案内士制度の課題(「通訳案内士を巡る状況及び今後の対応について」観光庁 2015年12月24日資料3より)

「語学の偏在」とは、10カ国の言語に分かれる通訳案内士のうち英語が67.8%と3分の2を占め、訪日客数トップの中国や台湾、香港らの中国語は12.0%しかいないことを指す。

「地理的偏在」は東京や神奈川など4分の3が都市部の在住者が占めること。地方にある観光地も、遠く離れた都市在住の通訳案内士が対応している現状を指す。

「ガイドニーズの多様化」は、訪日客の多様化に即した専門的な知識がこれまで以上に求められる現実に対し、現行のフルアテンドを前提とした通訳案内士資格でどこまでニーズをカバーしきれているかを問うものだ。

さらに、ここでは触れられていないが、観光庁の数年前の調査では、通訳案内士の資格を持ちながら実際の職業にしているのは、全体の4分の1に過ぎないこと。人材の高齢化が進み、若い世代が圧倒的に不足していることも課題といえる。

背景には、通訳ガイドの職業としての不安定さ、フリーランスとして生計を立てていかなければならない難しさがあると考えられる。

だが、それ以上に、政府が「観光立国」を掲げた2003年以降の時代の大きな変化に、制度が合わなくなってしまったことがある。市場と制度のギャップを埋め合わせる見直しが求められているのだ。

「業務独占」をめぐる議論

市場と制度のギャップを指摘する意見は、有識者を集めた観光庁の「検討会」の資料でも詳細に記されている(「規制改革会議の検討状況について」観光庁 2016年2月29日 資料2)。

代表的な意見を挙げると「資格や研修で得られる画一的な知識・体験では、食べ歩き、スポーツ大会時の周辺観光等、個人が有している生のユニークな知識・経験を有償でガイドしたい個人のニーズ及びこうしたユニークな体験をしたいという多様な旅行者のニーズに対応できない」「マッチングサイトを通じた口コミ情報などにより、質の悪いサービスは市場から淘汰されるので、国家資格による一定の品質確保に対するニーズに対応するには、名称独占で対応可能」というものだ。2020年の東京五輪開催やSNSによる情報収集が普及した時代のニーズを意識した内容となっている。

規制改革会議の検討状況について
http://www.mlit.go.jp/common/001122871.pdf

ここで議論となっているのが、通訳案内士の「業務独占」をめぐる問題だ。

日本における国家資格制度には、有資格者以外に業務の従事を禁じる「業務独占」、有資格者以外は名称の使用を禁じる「名称独占」、事業者に公的資格を有する者の配置を義務づける「必置」の3つがある。

通訳案内士は、これまで弁護士らと同じ「業務独占」資格とされてきた。外国人を有償でガイドするには、国家資格を必要とするのはそのためだ。だが、昨年の訪日中国客が約500万人だったのに対し、中国語の通訳案内士は約2000名しかいないという現実に象徴されるように、訪日客が激増した今日、(通訳案内士制度の理念や目的からすると)有資格者の数がまったく足りないという事態となった。

業務独占のあり方について
http://www.mlit.go.jp/common/001122872.pdf

この議論をめぐって、当事者である通訳案内士団体からの反論がある。

「中国語や韓国語のガイドが無資格者に市場独占されているためで、数が足りないという意見は正しくない」「ガイドの質を担保するためには業務独占は必要」「訪日客に対する詐欺行為等を取り締まる観光警察を創設すべき」というものだ。

ただでさえさまざまな課題を抱えた通訳案内士のよりどころでもある「業務独占」を「規制改革」という錦の御旗を掲げ、断罪されるのは耐え難いという反発もあるだろう。彼らには高い語学能力を必要とする国家資格が担保する職業意識とプライドもあるからだ。

もっとも、市場の激変を最もよく知る中国語の通訳案内士は、これらの議論についてこう指摘する。

「業務独占廃止問題は、ボランティアガイドや欧米客の事情しか知らない関係者と、アジアのインバウンド市場をよく知る者の意見が衝突している。欧米客のみを相手にしてきた関係者は、業務独占が廃止されても構わないと考えているかもしれないが、アジアを知る者は、これをなくせば、福岡の不法ガイドのような問題が野放しにされ、外国人の資格外活動が常態化すると思われる。この懸念をどう考えるかという視点が議論に欠けている」。

在日中国人ガイドのマッチングサイトも登場

だが、通訳ガイドをめぐる新たな状況を知るとき、制度の迅速な見直しは迫られていると筆者は考える。

なぜなら、このままずるずると見直しを先延ばしにしておくと、さらに厄介な状況が起きることが心配されるからである。

たとえば、日本でも通訳案内士と外国人をネット上でマッチングさせる「トラベリエンス」のようなサービスも始まっているが、同じことは、在日中国人らがすでに始めているからだ。

トラベリエンス
http://www.travelience.com/

仙貝旅行は、留学生や若い在日中国人らが中国本土の訪日客のガイドを有償で請け負うマッチングサイトである。
b0235153_22144874.jpg

仙貝旅行
http://www.xianbei.cc
仙貝旅行のガイドたち
http://www.xianbei.cc/guide/list

問題は、このサイトに登録しているガイドが通訳案内士の資格を有しているとは思われないことだ。

こうした中国発のマッチングサービスの登場は、この1、2年法的規制をめぐって盛んに議論されている民泊市場において、本家と考えられていた米国系のAirBnBを凌駕する勢いで、中国系の民泊サイトを利用する中国の個人客が増えている動きとも軌を一にしている。

※中国の民泊サイトについては、中村の個人Blog「都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた」 参照。

今日の中国では、日本よりはるかに速いスピードでオンライン旅行化が進んでおり、さまざまなECサービスが次々と現れている。こうした中国市場の動きに対して、日本の監督官庁の対応は常に後手に回ってきたというのがこれまでの経緯だった。

いや、現実に即していうと、無為無策で状況を見過ごしてきたと指摘されても仕方がない面がある。

冒頭で述べた中国人不法ガイドの一件も、留学生という立場で就労資格がないことが直接の逮捕の理由とされるが、結局のところ、数年間で何倍にも急増したクルーズ客の上陸観光に充てる有資格ガイドを日本側が用意することができなかったこと。それを知りながら、当局がそのままスルーしてしまったために、事態が際限なく進んだのである。
b0235153_2216826.jpg

「違法・不当な旅行案内について」(「通訳案内士を巡る状況及び今後の対応について」観光庁 平成27年12月24日資料3より)

その意味でも、仙貝旅行のようなサービスの登場は、通訳案内士制度をさらに形骸化させる懸念を感じざるを得ないのだ。

実情に即したルールを設定し、随時修正していく

だからといって、「取締りを強化せよ」とだけいうのは見当違いだろう。

仙貝旅行は、中国の個人旅行化がようやく始まり、団体ではなく、自分の足で日本を旅してみたいという若い世代を中心にした新しい層が生まれている事実を反映しているからだ。

日本語を話せず、日本に知り合いがいなくても、このマッチングサービスを通じて知り合った同胞に日本を案内してもらいたいというニーズがあるのは理解できる。そこに金銭の授受があるとしたら、そこを当局が見逃さなければすむだけの話といえなくもない。

しかし、通訳案内士が業務独占資格である限り、それではすまない話である。有資格者しか有償でガイドをしてはいけないという法的な縛りがあるからだ。

ここで考えたいのは、市場の論理でもなく、事業者の保護のためだけでもなく、もっと長期的な視点に基づき、訪日旅行市場をより健全化するための制度の見直しの進め方である。

そのためには、中国に代表されるアジア市場と英語圏の市場の制度設計は、もはや分けて考えるべきではないか。そもそも1948年(昭和23年)に創設された通訳案内士制度は、英語圏の旅行者のために設計されたものといっていい。一方、アジア市場の歴史は浅く、内実も異なっている。まず、それぞれの市場ごとに現実に即した最適なルールを設定し、問題が起これば随時修正していくという臨機応変なスタンスが必要ではなかろうか。

ただし、ルール設定においては、あるべき理想の姿を追うのではなく、あってはならない最悪の事態を想定するという融通無碍な考え方が、特にアジア市場を対象にした制度設計には必要だろう。観光庁も指摘する「違法・不当な旅行案内」の常態化は、海外の旅行関係者からも不信を招いていることは自覚したほうがいい。

VIPに絞った企業化の取り組み

アジア市場の制度設計を考えるうえで、ひとつの先例といえるのが、中国語通訳案内士の水谷浩氏が率いる彩里旅遊株式会社の取り組みだ。

同社は2014年4月に設立された中華圏のVIP旅客を対象とした受注型旅行や手配旅行、募集型旅行の企画、販売を行う旅行会社だ。

彩里旅遊株式会社
http://www.ayasato.co.jp/

これまで通訳案内士自身が起業し、集客から旅行の企画、販売まで行う事例は多いとはいえなかった。これが可能となったのも、水谷氏の中国における広い人脈にある。

1980年代、北京と上海に留学した経験のある彼の顧客リストには、日本人ならメディアを通じて誰でも知っているような大企業の幹部も含まれる。2010年、日本政府が中国の個人ビザを解禁したことで、VIP層がお忍びで日本を訪れるようになり、中国語ガイドとして抜擢されたのだ。中国事情をよく知る彼は、中国のVIP層に信任され、口コミでその存在が知られるようになった。

水谷氏は、中国のVIP層についてこう語る。

「彼らは創業者世代が多く、とてもパワフルな人たちだが、日本に対する深い関心も持っている。だが、その中身は欧米客とは少し異なるようだ。彼らの関心のありかを深く洞察することが欠かせない」。

なぜ彼が選ばれたのか。顧客がVIP層だからこそ、生半可な知識しかない在日中国人では物足らず、水谷氏のような中国語のできる日本人に日本を案内してもらいたいからなのだ。

水谷氏は、若い中国語通訳案内士の育成にも力を入れている。企業化という道を選んだのも、後進の育成がこれからのインバウンドアジア市場にとって不可欠だと考えたからだ。

これまで通訳案内士は、旅行会社などのクライアントから仕事を発注してもらうというのが一般的だったかもしれない。だが、英語圏の市場ではそれが可能でも、現状の混沌としたアジア市場では、待っていても仕事が来るとは限らない。ならば自らで集客し、同業の志とのネットワークを活用し、事業化していくまでだ。

通訳案内士の新しいスタイルを切り拓く水谷氏の今後に注目したい。

※やまとごころ.jp
http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_23.html
[PR]

by sanyo-kansatu | 2016-04-09 22:19 | やまとごころ.jp コラム | Comments(0)
2016年 03月 09日

ここまでやるとあっぱれか!?  銀座Laox vs.ドンキお土産商戦の一幕(続き)

春節のころ、中国人観光客専用免税店のLaoxに対してドン・キホーテ銀座本店が「徹底対抗」宣言していた話を以前書きましたが、3月に入って再び銀座を訪ねてみると、さらに過激化の様相を見せていました。

銀座のドンキ、LAOXに徹底対抗!価格以外でも負けません!?
http://inbound.exblog.jp/25347932/
b0235153_9223084.jpg

これを見てください。ドン・キホーテ銀座本店の裏手の入り口に、中国客に人気といわれる日本のドラッグストア系商品のLaoxと同店の価格比較が貼り出されていたのです。
b0235153_9225554.jpg

b0235153_923795.jpg

たとえば、胃腸薬の「キャベジン」は「ドンキでは1980円+税だが、Laoxでは2500円+税」、風邪薬の「パブロンゴールドA」は「ドンキでは1480円+税だが、Laoxでは1980円+税」というのです。

いやいや、商魂逞しいとはこのことか。ビジネスモデルの関係で必ずLaoxに立ち寄らざるを得ない中国の団体ツアー客に向けた強烈アピールといえるでしょう。中国客こそ、そのカラクリをいちばんよく理解している客層だからです。

ここまでやると、あっぱれ!? というべきでしょうか。

もっとも、その隣のラックに多国籍語のチラシが置かれていて、中国語簡体字、繁体字、ハングルのみならず、タイ語まであることから、ドン・キホーテは中国人団体客のみならず、広く多国籍の客層を視野に入れて商売しようとしていることもわかります。
b0235153_9234657.jpg

こういうディティールにこそ、ニッポンのインバウンドの実態が透けて見えてくるところがありますね。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2016-03-09 09:24 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2016年 02月 08日

春節休みの渋谷は中国語簡体字表記であふれていた

2月6日(土)の昼下がり、ぼくは渋谷と表参道を訪ねました。春節休みのこの時期、渋谷と表参道で中華系の観光客をメインのターゲットとしたショッピングキャンペーンが繰り広げられていたからです。
b0235153_11165524.jpg

渋谷駅を降り、109方面に向かう道玄坂の両サイドには、中国のデビットカードである銀聨カードのキャンペーン旗がぎっしりと並び、はためいていました。
b0235153_111786.jpg

b0235153_11172647.jpg

一方、公園通り方面には、別の旗がひらめいています。こちらは「Tokyo Prime Shopping 2016 in Shibuya」というキャンペーンの旗です。同じ渋谷で、道玄坂と公園通り商店街ではまったく別のキャンペーンを繰り広げているというのも不思議ですが、共通するのは、中国の旧正月(春節)に向けたものであることです。
b0235153_11174935.jpg

公園通りの旗に書かれた簡体字の「幸运摇出来」は、同商店街が主催する「ラッキーシェイクイベント」のことで、キャンペーン期間中(1月2日~2月29日)、外国人観光客が所定の場所(参加店など)で中国版ツィッターこと「微信(WeChat)」を起動し、携帯端末をシェイクすると、アプリ画面上でくじ引きできるというものです。商品総額は200万円、それ以外に参加店舗からの商品券や景品などが当たるそうです。
b0235153_1118587.jpg

b0235153_11181755.jpg

東急デパートにも「銀聨カード」の大きな垂れ幕が見られました。
b0235153_11184871.jpg

それにしても、渋谷の街がこれほど中国語簡体字表記であふれたのは初めてのことではないでしょうか。ちょっと驚きました。

もっとも、渋谷を行き交う多くの人たちのうち、このキャンペーンの存在を知っている人はどれほどいたことでしょう。そこが気になるところです。

さて、渋谷のタワーレコードの脇を抜け、キャットストリートを歩いて表参道にも足を伸ばしてみました。

表参道には、一斉に2枚の旗が並んでいました。渋谷と違い、表参道ではVISAカードが協賛するキャンペーンが繰り広げられているようです。
b0235153_11192868.jpg

ただし、こちらは中国語簡体字表記だけでなく、ハングル表記も含まれています。
b0235153_11195219.jpg

そして、この地区のキャンペーン名は「Tokyo Shopping Week 2016 at Harajuku/Omotesando」というものです。つまり、原宿と表参道がタッグを組んだショッピングキャンペーンというわけです。
b0235153_1120999.jpg

外国人観光客向けのスクラッチキャンペーンが実施され、2000名に1000円分の現金が当たるそうです。ラルフローレンの前に小さなテントがあって、外国人観光客は着物姿の女の子と一緒に記念撮影できます。
b0235153_11202489.jpg

渋谷との違いは、銀聨カードではなく、VISAカードが協賛していることもあり、必ずしも中国系の観光客だけがターゲットではないようです。とはいえ、この時期、中国本土以外の台湾、香港、東南アジア華人なども多く訪日するわけですから、本土客向けに簡体字を前面に出すのは控え、広い対象に向けてキャンペーンを実施したというのが、原宿・表参道の考え方だったのでしょう。

もっとも、こちらでも思うことは、表参道を行き交う人たちのうち、どれだけの人が……、でしょう。

この日は土曜でしたが、昨年のイースター(4月上旬)に渋谷や表参道を訪ねたときのほうが圧倒的に人通りは多かったと思いますし、外国人観光客ももっと目に付いた記憶があります。

イースターも近い原宿では非英語圏の言葉があちこちで聞かれた
http://inbound.exblog.jp/24322287/

イースター休みに渋谷スクランブル交差点に出没した外国人をシューティング
http://inbound.exblog.jp/24348359/

はたして渋谷と表参道のキャンペーン、どれだけの効果があるものでしょうか。

実は、例の「ラッキーシェイクイベント」、外国人でもないぼくはこっそりやらせてもらいました。その話は次の機会に。

渋谷公園通りの「ラッキーシェイクキャンペーン」を体験してみた
http://inbound.exblog.jp/25340545/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2016-02-08 11:22 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)
2015年 08月 06日

このたび『観光ガイドになるには』(ぺりかん社)を出しました

自家広告ですいません。このたび『観光ガイドになるには』(ぺりかん社)という本を出しました。
b0235153_1711882.jpg

「観光ガイドになるには」(ぺりかん社)
http://www.perikansha.co.jp/Search.cgi?mode=SHOW&code=1000001699&type=&flg=

基本的には、中高大学生向けのキャリア学習本のシリーズの一冊です。

今年上半期の訪日外国人旅行者数は914万人。このままいくと、45年ぶりに訪日外国人が出国日本人を越える象徴的な年になりそうです。当然、彼らを接遇し、案内する人材を社会は必要とします。その専門職が、通訳ガイドであり、添乗員です。

彼らのもともとの仕事は、前者は外国語でガイディングをすることで、後者は日本人を国内外のツアーに案内することでした。それぞれ仕事に就くには資格が必要です。通訳ガイドは国家資格の通訳案内士、添乗員は旅程管理主任者を取得する必要があります。語学を専門とする通訳ガイドと、ツアーの案内人だった添乗員は、訪日外国人が増加していくなかで、だんだん仕事の領域が重なり合うようになってきました。

この世界には、世間ではあまり知られていない気になる実態があります。たとえば、通訳案内士の資格を持ちながら職業にしているのは、全体の4分の1に過ぎないこと。訪日外客の5人に4人はアジア系なのに、7割が英語の通訳案内士で、市場とマッチしていないこと。人材の高齢化が進んでいて、若い世代が圧倒的に不足していることも指摘されています。

職業としての不安定さ、フリーランスとして生計を立てていかなければならなかったことが、これらの背景にあるといわれます。しかし、状況はずいぶん変わりつつあります。こんなに多くの外国人が日本を訪れる時代になったのですから。

この本には、その最前線で働いている人たちのインタビュー&なるにはノウハウ集が書かれています。どんな仕事でもそうですが、現場の話は面白いです。

たとえば、初めて日本を訪れた外国人を案内するのに、東京タワーとスカイツリーのどちらが喜ばれるのか?

答えは、東京タワーです。その理由は、東京タワーから見える景色にあります。お寺や学校、オフィスや港など、身近にいろいろ見えるぶん、日本についていろんな話題が提供できるからです。学校を見れば生徒の制服の話もできるし、お寺やお墓を見て日本人の宗教観を話すこともできる。でも、スカイツリーはあまりに高すぎて、見えるのは富士山とか東京の全景。これで何の話をすればいいのでしょうか。

これはある通訳ガイドから聞いた話です。

彼らが「日本文化の発信者」といわれるのはわけがあります。なぜなら、一般に通訳の仕事は相手のことばを正しく翻訳して伝えることですが、通訳ガイドは自分のことばで日本のあらゆる事象や文化を紹介しなければならないからです。

ある関係者がこんなことを話していました。
「靖国神社の前で、中国の無資格ガイドがツアー客にどんな説明をしているかと思うと、ゾッとする」。

だから、通訳ガイドには国家資格が必要なのです。日本について正しい知識がない人間は務まらないし、本来はやってはいけないことなのです。これは歴史認識に関する個人の信条とは別の話です。

この本を書きながら、いろんな人たちに会ったのですが、お世辞抜きで、みなさん魅力的な人たちでした。

べつに専門職として通訳ガイドや添乗員になる気はなくても、今後どんな仕事に就いても外国人をアテンドしたり、案内したりする機会は増えると思います。ですので、もしこの世界についてちょっと知りたいと思う人は、手にとっていただけると幸いです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-08-06 17:11 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 07月 09日

多言語化に取り組む楽天トラベル。宿泊プランは外国客に支持されるか?

エクスペディアやBooking.comなどの海外ホテル予約サイトの参入によって、日本の国内宿泊マーケットは変わりつつあります。それは単に外国客の利用が増える(国内客の減少を補てんしてくれる)というだけではなく、これまでの宿泊サービスのありように新しい刺激を与えてくれていると思います。

ホテルが外国客を受け入れるメリットは何か(エクスペディアの取材から)
http://inbound.exblog.jp/24669753/

もっとも、外資が参入する以前に、日本にもオンライン旅行会社は存在しました。楽天トラベルやじゃらん、一休などは広く普及しています。

なかでも楽天トラベルは、2001年3月に楽天の旅行部門として立ち上がり、02年に独立。05年には旅行業一種を取得し、本格的なオンライン総合旅行サイトとなりますが、早くとも10年にはJTBに次ぐ国内旅行市場取扱額2位にまで成長しました(その後、近畿日本ツーリストに再び2位の座を明け渡したり、取り戻したりといった状況が続いています。同社が急速に取扱額を拡大できたのは、店舗を持たず、ユーザーと宿泊施設の双方の便宜を追求するオンライン旅行会社の特性を消費者が支持したからでしょう)。

先日、楽天トラベルの関係者に話を聞くことができました。

訪日外客が増えるなか、楽天トラベルはインバウンドに対してどんな取り組みを始めているのか。海外客に人気の宿泊施設にはどんな特徴があるのか。以下、関係者とのやりとりです。

―楽天トラベルでは、訪日外客の取り込みに向けてどんな取り組みを始めているのですか。

「2014年7月、楽天トラベルは多言語化サイトの大幅なリニューアルを行いました。10ドメイン、7言語(英語、フランス語、中国繁体字、中国簡体字、タイ語、韓国語、インドネシア語)のサイトとなり、2020年の東京オリンピックに向けて海外訪日客を取りにいきます」
b0235153_11421014.jpg

―利用者の伸びはどうですか。どこの国が多いですか。

「おかげさまで前年度比60~70%増です。米国、香港、台湾などが多いです。利用者は基本的にFITですから、日本に興味があって、リピーターの多い国や地域が多くなると思います。また楽天グループでは海外拠点づくりを進めていて、特に台湾では楽天のECサイトがあり、台湾楽天カードも発行しています。弊社の場合、トラベル単体ではなく、グループのシナジーを活かしてプロモーションしていくというのが基本の考え方です」。

―確かに、旅行もショッピングも同じプラットフォームで商取引されるのですから、結局、日本のファンを増やしていくことがシナジー効果を生むということですね。日本が好きで旅行に行きたい人たちと、日本の商品をショッピングしたい人たちを分けて考える必要はない。

ところで、御社は海外客の予約件数の多いホテルの情報を有しておられると思います。海外客に人気のホテルを教えていただけますか。

「楽天トラベルでは、全国約2万9500施設の中から、毎年顕著な宿泊実績や高い顧客評価を得られた宿泊施設に対して『楽天トラベルアワード』を表彰しています。いくつかのジャンルに分かれるのですが、海外客に人気という意味では、『インバウンド賞』を受賞されたホテルがそれに当たります」。

楽天トラベルアワード2014
http://travel.rakuten.co.jp/award/2014/

―ここ数年の「インバウンド賞」受賞の施設をみると、エリア的には関東・甲信越が多いようですが、やはり全体でみると、外国客の楽天経由の予約件数はやはりこのエリアが多いといえますか。

「『インバウンド賞』は宿泊施設単位で受賞しているものですが、エリア単位で見た場合は、上記エリア以外でもご予約は多数いただいております。実際、楽天トラベルが全国を約300のエリアに分けているなか、すでに95%のエリアで外国客の予約が入っています」。

―そうですか。楽天経由でほぼ全国の宿泊施設に予約が入っているのですね。

「もちろん、実際に多いのはゴールデンルートとなる東京→富士山→関西エリアと、沖縄県、北海道です。しかし、楽天トラベルはFIT、特にリピーターとなって日本に複数回こられているだろうお客様の予約も多いため、九州エリアの福岡県・大分県・熊本県・鹿児島県や、中部の岐阜県・愛知県・長野県、北陸の石川県、中国四国の広島県や香川県などさまざまなエリアの予約が増えており、全国への分散化が見られます」。

―個別の施設でいうと、上野のノンスモーカーズホテル(元キューブホテル)はここ数年連続して受賞しているようですね。この圧倒的な強さはどこにあるとお考えですか。禁煙は外客受入にとって重要なファクターといえるのでしょうか。

「日本に比べて海外では禁煙文化が浸透しているため、「禁煙」「喫煙」の区別に関しては日本よりも敏感になっているようです。

(参考) 
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_smoking_bans_in_the_United_States
http://www2u.biglobe.ne.jp/~MCFW-jm/tobacco.htm

ノンスモーカーズホテル(元キューブホテル)は、インバウンドだけではなく、国内のお客様も含めて「非喫煙ポリシー」を徹底しています。これが圧倒的な強さにつながっていると考えられます。また、浴室はシャワールームにして外国人の方も満足のいく最低限の設備にすることで、その他のスペースを広げた点や価格帯がマッチしていることも選ばれる理由になっているかと思います」。
b0235153_11482814.jpg

b0235153_11484082.jpg

ノンスモーカーズホテル(元キューブホテル)
http://www.nonsmokers.jp/nosmoking/

―アパホテルグループの受賞も多いですね。渋谷道玄坂店と京都駅前堀川通店。これらの人気の理由は何でしょうか。

「アパホテルはビジネスホテルのカテゴリーに入りますが、シングルでも横120cmの広いベッドやシャワー、アメニティなどゲストのための細かいサービスが行き届いていて、中級ホテルとしてはサービスレベルが高いと評価されていることが考えられます。また駅に近いことも外国客にとってはホテル選びをするうえでのポイントになっていると思います」。

―受賞施設以外にも、最近外国客に人気が出ているホテルはありますか。

「たとえば、「休暇村 大久野島」(香川県)や「高野山の宿坊」(和歌山県)でしょうか。

全国の休暇村でいま積極的に外国客の受け入れに力を入れています。なかでも集客に成功しているのが大久野島です。
b0235153_11491985.jpg

休暇村 大久野島
http://www.qkamura.or.jp/en/ohkuno/rooms/

魅力は大自然を満喫できる宿で、瀬戸内海の離島にあることでしょうか。ネットを通じて予約されるFITのお客様はリピーターも多く、東京や大阪のような大都市圏ではなく、自然の豊かなローカルなエリアへの宿泊が増えています。

同じく、高野山の宿坊も、日本の自然と文化を体験できることで人気が上がっています」。

高野山の宿坊
http://www.shukubo.net/contents/stay/

―これら西日本のローカルな人気宿はどこの国の人たちが多いのですか。

「香港や台湾に加え、欧米の比率が高いです。大阪や広島などの都市部を拠点にしながら、1泊の予約をピンポイントで取り、これらの宿に泊まって地元をゆっくり観光されている傾向が見られます」。

―ところで、ここで少し話を変えますが、現在海外のホテル予約サイトが続々参入し、訪日客の国内予約の取り込みが急ピッチで進んでいます。それに対し、国内オンライン旅行会社(OTA)の雄である楽天トラベルは、どう立ち向かおうとしているのでしょうか。海外サイトに負けないサービスは何でしょうか。

「現在、海外のお客様を受け入れることに同意いただいた1万8000施設が外国語ページを持っています。日付を指定した検索結果には、海外のお客様向けに宿泊プランを作成され、在庫のご登録を頂いた施設が表示されます。

エリア的な偏りは、多少は見られるものの、全国津々浦々までカバーできているのが楽天トラベルの大きな特徴だといえると思います。

例えば、東京、大阪、京都などのインバウンドのメジャーエリアで検索をした際に、他のOTAさんとくらべ楽天は少し多いくらいですが、四国、東北、前述の高野山を含む和歌山などのローカルエリアを検索すると、大きな差が出ます。検索結果が数件では、ユーザーはそのエリアでの宿泊を選べませんので、ある一定以上の施設の数を各エリアで持つことが、インバウンド需要を伸ばすうえで重要なことだと考えています。

全エリアをしっかりカバーできていることが、楽天トラベルの強みであると同時に、日本のOTAとして担っていくべきところである。そうした結果が、先の高野山や大久野島での予約に繋がっていると考えています」。

―確かに「宿泊プラン」というサービスは日本オリジナルなもので、海外サイトにはあまりないですね。しかし、国内客には好評の「宿泊プラン」も、海外客には少し複雑に見えるかもしれません。こういうサービスを知らない海外客に支持してもらうには、少しわかりやすく打ち出す必要があるように思います。

「おしゃるとおりで、外国語サイトでは、なるべく簡単でわかりやすい選択肢を付けることにしています。たとえば。『(客室から)富士山が見える』『世界遺産のまち』『しゃぶしゃぶが食べられる』などです。

(例)[ Features ]
- Wonderful cuisine - Mt. Fuji-viewing - Nice view room - Japanese-style room

たとえば、『富士山』の例はこれです。
b0235153_11565072.jpg

Fuji New Kawaguchiko Onsen Hotel New Century
http://travel.rakuten.com/hotel/info/49256/

こちらの施設は、施設紹介やプランの詳細で、富士山へのアクセスや客室から富士山が見られることをしっかりPRしており、予約が増えています。

また『しゃぶしゃぶ』については、以下のプランがひとつの例です。
b0235153_1157373.jpg

Ryori Ryokan Karaku
http://travel.rakuten.com/hotel/Japan-Kyoto-Kyoto_Ryori_Ryokan_Karaku/1849/

Yufuin Onsen Yufu no Irodori Yadoya Ohashi
http://travel.rakuten.com/hotel/Japan-Oita-Yufu_Yufuin_Onsen_Yufu_no_Irodori_Yadoya_Ohashi/78074/

外国語版では、このようにプラン名に入れて紹介しています。詳しく画像や料理について説明することで、予約に繋がっていると考えています」。

―他にも、日本のOTAならではの仕掛けはありますか。

「たとえば、『楽天朝ごはんフェスティバル』です。旅における「朝ごはん」の大切さに注目し、日本全国のホテル・旅館で提供している美味しい「朝ごはん」を旅のきっかけにしていただきたい! という願いを込め、2010年からスタートしました。2014年には過去最大の宿泊施設様にご参加をいただき、約1000の朝ごはんの中からから日本一の朝ごはんを決定いたしました。

朝ごはんフェスティバルとは?
http://travel.rakuten.co.jp/special/asafesta/about.html

楽天トラベルとして、さまざまなベネフィットをオプションとして付け加えることによってより、宿泊施設の単価や価値を上げることができるのではないかと考えております。その付加価値となるものとして、宿が最大限のおもてなしをもって提供している「朝ごはん」を宿泊施設様ご自身にも再認識(おもてなしのこもった朝ごはんの価値を認識)してもらうきっかけにできればと考えています。実際、お客様の声を見ていると、「夕食よりも朝ごはんが楽しみ」や「朝ごはんが良かった」というお声も見受けられました。

また、お客様に対しては朝ごはんをきっかけに旅に出るという新たな旅行需要の創出やより満足度の高い旅行につなげていきたいと考えております。

なかでも2014年、西日本大会で準優勝した京都センチュリーホテルについては、実際に朝ごはん会場にて朝ごはんフェスティバル受賞を大々的に打ち出していただいています。

京都センチュリーホテル
http://www.kyoto-centuryhotel.co.jp

同朝ごはんページ
http://www.kyoto-centuryhotel.co.jp/restaurant/lajyho/post_95.php

同ホテルには、海外メディアからの取材も来ています。

SUGOI JAPAN - สุโก้ยเจแปน ตอนที่30 "เทศกาลอาหารเช้า" Japanese breakfast (Tokyo)
https://www.youtube.com/watch?v=Yrz6z2x713Q

SUGOI JAPAN - สุโก้ยเจแปน ตอนที่31 "เทศกาลอาหารเช้า 2" Japanese Breakfast (Tokyo)
https://www.youtube.com/watch?v=uAzxjH3StEo

この番組はタイのテレビ放送(チャンネル5)やYOUTUBEでの公開が行われています」。

実は、先月ぼくは京都に行く機会があり、噂の朝ごはんを食べに、わざわざ京都センチュリーホテルに早起きして訪ねてみました。2階ロビーにあるビュッフェレストラン「オールデイダイニング ラジョウ」には、アジアからのツアー客であふれていました。朝食に2600円もかけることはめったにありませんでしたが、自家製ローストビーフはわざわざ食べにくる人がいるというのもうなづけました。宿泊客ならこれがフリーというわけですから、前の晩の夕食は軽めにすませておきたいものです。

国内外に限らず、たいていのホテルで朝食を提供しているわけですから、それが美味しいと評判になれば、集客に活かせることは確かでしょう。

こうした日本流のサービスをベースに訪日客の取り込みを図る楽天トラベルのやり方は、エクスペディアなどの海外サイトとはさまざまな点で違うところがあり、これがかえって興味深いといえます。この際、どちらが正しいとかいう必要はなさそうです。訪日客は多様化しており、それに応じたサービスの領域が拡大していくことに意味があると思うからです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-07-09 11:58 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 18日

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル

一般の日本人には見えにくい、中国語通訳案内士の信じられないような内情について、赤裸々に語ってくれた水谷浩さんですが、ご本人と中国との関わりは、大卒後に勤めたメーカー在籍中の1984年、中国政府が3000人の日本人青年を招いた交流イベントに参加したことに始まります。

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた
http://inbound.exblog.jp/24486566/

その後、水谷さんは上海、北京へと留学。帰国後は商社で中国市場への新商品の開発や展開を手がけてきました。2005年、中国語通訳案内士試験に合格。中国の訪日旅行市場は有望だと考え、翌年末勤務先を退社し、中国語通訳ガイドの道を歩き始めます。

「最初の仕事はいまでもよく覚えています。中国から来た社長のアテンドで、企業の工場視察に観光を加えた1週間の日程です。その後は翻訳の講師の仕事をしたり、ガイド業務も年々受注が増えていたのですが、2008年にリーマンショック、11年に東日本大震災が起こり、地獄を見ることになります」。

それでも、水谷さんは訪日旅行業界の将来に希望があることを確信していました。

「インバウンド後進国とか政府の失策とか非常にネガティブな話をしてきましたが、市場経済学的に見れば、発展の余地があるということで市場の将来に大いに希望が持てるということが言えます。これは私が現場で接待したお客様より直に市場のニーズを絶えず感じていたので、東日本大震災とか尖閣国有化といった絶望的なニュースがあっても、この仕事を続けてきた原因なのです。」(「驚くべきインバウンド後進国ニッポン」③果たしてここに市場は存在するのか!? より)

最初の数年間は、旅行会社や人材派遣会社からガイド業務を受託していた水谷さんですが、08年頃から日本観光通訳協会(JGA)の「通訳ガイド検索システム」に登録すると、ひきあいが来るようになったといいます。

通訳ガイド検索システム
http://www.guidesearch.info/

「海外のFIT、たとえば、マレーシアのご夫婦から直接メールが届く。ガイドだけでなく、旅行込みのガイドの依頼です。旅行代いくら、宿泊代いくら、交通費いくら、入場料いくらと見積もりを出すわけですが、最初のうちは、手配部分は旅行会社に投げていた。でも、旅行会社は個別の案件に対する対応が遅いんです。これでは自分でやらなあかんということで、旅行業務取扱管理者資格を取り、旅行業として起業することにしたんです」。

2014年4月に彩里旅遊株式会社として法人化、8月に第2種の旅行業となり、HPも開設。半年すると、少しずつ問い合わせが来るようになったといいます。

水谷さんが起業に至った理由として、同じ士業である弁護士と通訳案内士の置かれた状況が大きく違っていること。それゆえ「食えない」職業であることに強い問題意識がありました。この問題についてもネットメディアで熱弁を奮っています。

「通訳案内士と他の士業では、決定的な違いがあります。派遣が許されているか否かです。私も以前ある旅行ブローカーと口論をして「日雇い添乗員」と捨てぜりふを吐かれ頭にきたことがありました。弁護士や会計士は日雇いでなく、通訳案内士はなぜ日雇いできるのか、この意味には歴史があります。しかし日雇い派遣をやめれば、非常に多くの通訳案内士が路頭に迷うでしょう。そういう世界なのです。(中略)

奇妙に感じることは、所轄の役所に対する被害者意識や反感のようなものです。つまり観光庁に対して多くの通訳案内士は、われわれを守ってくれる役所であるとは思っておりません。それを証拠に観光庁からの依頼事項があると、どこの団体でも観光庁への批判や不満、悪口を言い続ける人がおり、観光庁と会員の間に入って事を進める時は必ず手間がかかります。根強い不信感があるのです。以前福祉事務所とケースワーカーの相互不信を取り上げたニュース番組がありましたが、この世界も同様なのです」。(⑪旧運輸省部局は業界が限界集落化する前に手を打て! より)

観光庁の「通訳案内士のあり方に関する検討会」についても、以下のように率直に感想を述べています。

「数年前に役所と民間の対立を象徴するような事件がありました。通訳案内士制度のあり方検討会が観光庁で開かれ、この制度を廃止するか継続するかの議論が交わされました。通訳案内士からは大規模団体代表2名、あと10数名は関連業界から出席しましたが、関連業界からは成果を上げられない通訳ガイド制度の廃止、業務独占の剥奪等の辛辣な意見も続出したように記憶しております。多くのベテラン通訳案内士が制度廃止による廃業を心配し、制度廃止時は訴訟を起こすと息巻いていた年配の方もおられました。結局数年の検討の結果、観光庁は通訳案内士制度を保持するとの見解を通訳案内士団体側に出すのと同時に、役所原案に沿って、通訳案内士団体に黙って「総合特区法案」の中に総合特区通訳案内士案を盛り込んで成立させました。

その結果、総合特区では通訳案内士試験なしで通訳案内士業務が可能になり、特区自治体の主催する講習を受けるだけで業務ができるようになったのです。これは中国から九州への豪華客船就航のための観光対策で九州の目玉政策でした。一方では難しい試験を課し、一方では試験なしの講習だけで同じ資格が取れるという、非常におかしい話です。加えて特に日本人のガイドからは、立場の弱い日本人の権利を取り上げて外国人に無条件で渡すという当時の過激系マスコミ論調を受けて、売国的外国人優遇政策であると非難していた人もおりました」。 (⑫役所と業界の対立のはざまで、日本の訪日政策を憂う! より)

しかし、その一方で水谷さんは通訳案内士自身にも問題があることを指摘しています。

「通訳ガイドが貧困な理由は、要するにアサインの仕事(配給)のみをあてにしているからです。蟹工船でしか働けないからです。自分で船を操船してカニを取りにゆかないのが原因です」。(⑬脱落した仲間の屍を越えて前進!前進!また前進! より)

「この世界に入って思うのですが、旅行業界に支配されているという感覚を持った方が非常に多い事です。確かに英語圏の世界は、ウォーキングガイド以外旅行業界に営業を握られているかもしれません。日本にはまだ男尊女卑の習慣が色濃く残っており、その為かもしれませんが、積極的に前に出て外客を直に受注しようとする人間は少ないようです」。(⑭通訳ガイドの社会は日本には珍しい女性社会 より)

通訳案内士が“絶滅危惧種”になる前に、稼げる仕事にしなければ。そうすれば、優秀な人材も集まってくるはず。水谷さんが起業を決意したのはそのためでした。

「通訳案内士で旅行会社を起業した人はまだ少ないですが、成功しようと思ったら、これがいちばん早い方法だろうと考えた。旅行会社として自らツアーを企画し、添乗、ガイド、これらを垂直統合する。このモデルしかないと」。

しかし、これまで見てきたように、訪日中国旅行市場の現状は、通訳案内士を必要としないツアーが大半です。それでも、水谷さんはこう言います。

「でもね、私の経験からいって、一度いいガイドにつくと、次もお願いしたいと言ってくる。これは中国客でも同じです」。

水谷さんには強い影響を受けたガイドがいたそうです。陳さんという台湾のカリスマ日本語ガイドでした。「いまはもうお亡くなりになったと聞いていますが、台北の故宮博物院で明の文物を説明するとき、『この壺はいつごろ作られたかわかりますか? 明智光秀が信長を討った頃ですよ』。退屈な歴史の説明もこれなら面白いでしょう。この人スゴイなと。自分もこうなりたいと思うんです」。

この仕事でいちばんうれしい瞬間は、お客さんから「この次来るときお前に連絡する」と言われること。そのお客さんから次のツアーの引き合いがあると、認めてもらったことを実感できるからです。「ツアーが終わってお客さん全員と握手するとき、握りしめた手にお札が入ってることもありますよ。エー何これ!? うれしいですよ」。

一般に中国客は買い物にしか興味がないと思われがちだが、水谷さんの話を聞いていると、通訳案内士として真剣に相手に向き合うことの大切さを教えられます。

訪日中国客が増えるなか、新しい悩みも生まれているそうです。

「中国語の方言です。中国では南方と北方では使われる言葉がまったく違う。外国語みたいなものです。基本的に私が学んだのは普通話ですが、地方から来たお客さんから『水谷の中国語はわからない』と言われる。でも、私はあなたの方言がわからない。

地方の中国人は必ずしも普通話ができるとは限らないのです。こういう悩みは中国語通訳案内士ならではかもしれません。特におばあちゃんの話を聞きとるのが難しい。娘が通訳してくれるからなんとかなるものの、これからは外国人と話したことのない中国客がやって来る。外国人の中国語を聞き慣れている中国人とそうでない人ではまったく違う。

日本人の通訳案内士は何を言うてるのかわからないとよく言われるのはそのためです。訪日客の増加にともない、方言しか話せない人が増えてくることを肝に銘じなければならない。これは大変なことです。

台湾客にも気を遣います。一般に台湾人は大陸の中国語に対する反感があり、私の話す中国語にクレームを食らったこともあります。これはたとえていうと、関西弁が嫌いな人に横山やすしがガイドに付いたようなもの。だから、台湾客の場合、最初に私は大陸で中国語を勉強したことを話すことにしています。すると『そうや、お前の話すのは大陸のことばや』と言われます」。

英語さえ話せれば、欧米諸国や東南アジアの国々の人たちならなんとかカバーできるという状況とはまったく違う話です。中国語通訳案内士に求められる能力とはなんと高度なものでしょう。それに対する水谷さんの答えはこうです。

「たとえ難しくても、だからこそやる価値がある。燕の巣を獲りに行く人間がいるのなら、そこで役立つ通訳ガイドになるべき。お客さんもそれを求めているはず。それが商売になる」。

そんな水谷さんに「これから通訳案内士を目指す人」にひとこと、と尋ねるとこう話してくれました。

「ぼくは野球好きです。将来、プロ野球選手になりたい。でも、実際そのうち何人なれますか。通訳案内士の世界も同じです。

通訳案内士試験はプロ野球でいえば、入団テストにすぎない。そこから先が問題。本当にこの仕事に向いているか。素質があるかどうか。生き残れるか。それは本人次第です。

通訳案内士は職人です。長年の鍛練なしでは務まらない。旅行商品は目に見えない。何時何分どこに行って…ではただの添乗にすぎない。旅という芸術作品はお客さんの心に刻まれるもの。私にとっての台湾の陳ガイドと過ごした1日のように。一生残るもの。

通訳案内士は、訪日旅行産業を構成する最も重要な成員です。コンシェルジェであり、道案内人であり、相談員であり、お客さんからいちばん信頼される存在になるべきです」。

さらに、業界への提言として以下のように話してくれました。

「今後の通訳案内士制度の設計において「業務独占」「名称独占」は個人的には強くこだわらないけれど、あってもいいと考えている。それは職人のプライドにかかわるものだから。職人は気難しいですから、「独占」廃止といわれると、カチンとくる。お前は能力がないと言われているような気がするから。ですから、制度を設計する側も、我々が職人であることを心得てうまく進めないとへそを曲げてしまう。

でも、食えないでしょう。そう言われるのがつらい。だからこそ、食うためのこういうシステムをつくるという話と一緒であれば、うまくいくのではないか。

訪日客が増えるなか、外国語を使った添乗(旅程管理)やガイド(案内)代をきちんと保証する仕組みをつくっていくべき。安売り競争ではなく、質が問われる仕事にしないと。それをお客さんが選んで買う。そこで勝負するという形にしていく。

だからこそ、業務の分業化ではなく垂直統合なのです。これからはトランスフォーマーで行かなければ。ネイティブ添乗員やスルーガイドを過去の遺物にするためにも」。
b0235153_9571847.jpg

インバウンド・コンサルタント(水谷さんが代表を務める中国語通訳案内士団体)
http://www.inbound-consultant.com/

[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-05-18 09:57 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 17日

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた

本ブログでは、これまで通訳案内士を取り巻く現状と無資格ガイドに浸食される実情を紹介してきました。

なかでも中国からの訪日客は、数の上では今後最大市場となることは間違いないでしょうから、中国語通訳案内士の仕事の現場が大変なことになっているのだとしたら、これは看過できない話です。

この問題について、現場から発言しているひとりの中国語通訳案内士がいます。

現役の通訳案内士として働く傍ら、訪日外客コンサルティングとビジネスマッチングを行う会社を立ち上げた水谷浩さんです。
b0235153_9193852.jpg


http://www.inbound-consultant.com/

水谷さんはあるネットメディアに「驚くべきインバウンド後進国ニッポン」という連載タイトルで、15本の文章を書いておられます(2015年5月現在)。

ここには中国語通訳案内士を取り巻く驚くような内情が明かされています。水谷さんは自ら発言を行う理由について次のように書いています。

「私がなぜこのブログを書くかをご説明すると、黒船来襲から明治維新起こり近代国家が形成されたように、訪日外国人の増加により関連の産業が勃興・急成長して、日本の新産業になると思われるからです。(中略)

オリンピック誘致プレゼンでの滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」は有名になりましたが、諸外国からのお客さまへの「お・も・て・な・し」をどの様に具体化するのかが最大の課題です。そのソフト開発は多言語・多文化・多習慣の異文化理解から始まり、古き良き封建的で保守的な我国国民には、このシステム構築は複雑すぎて一朝一夕には不可能でしょう。まずは現状認識から始め、産業が発展してゆく予想を語りたく思います」。(<驚くべきインバウンド後進国ニッポン ①最大の課題は「お・も・て・な・し」の具体化より)

そして、水谷さんはこう問題提起します。

「訪日旅行はインバウンド後進国という不名誉なあだ花のもと細々と生き続けてきたと言えます。実際、訪日旅行は産業と呼べる代物にほど遠く、その実情は外国人ブローカーが跋扈する準アンダーグラウンドの世界でした」。(同上)

これはどういうことでしょうか。中国語通訳案内士から見た日本の訪日旅行市場の現状、課題について水谷さんはこう書きます。

「旅行業界は、国内旅行、海外旅行と訪日旅行の3種類より成り立っております。国内での業界シェア統計によれば、JTBグループがシェア50%を超えて、衆参両院の自民党状態になっており、2位以下の日本旅行やKNT(近畿日本ツーリスト)の野党を引き離しております。海外旅行ではJTB、HISと関西私鉄系2社(阪急とKNT)が3強となっております。しかしながら訪日観光分野を見ると全体の過半数以上を占める中華圏市場ではJTBグループでも団体10%強、個人15%強となり、大手3社でも団体で20%弱と圧倒的に弱者なのです。

ではこの市場のチャンピオンはどこか? 民族系と言われる中華系ランドオペレーターの群れです。中華系は商売数の多い会社でも雑居ビルで少数の運営でしのいでおります。悪い言い方をすれば中華圏旅行ブローカーが蠢く世界なのです」。(②中華圏旅行ブローカーが蠢く世界 より)

「中華圏旅行ブローカーが蠢く世界」とは何でしょうか。

水谷さんの実況報告は続きます。

「韓国からのお客様が約200万人、中華圏からは350万人、英語圏からは227万人という昨年(2013年)の統計ですが、通訳案内士の登録数は約1万6000人位ではないでしょうか。その内英語が1万1200人、中国語が1600人、韓国語が約600人となり、訪日客数と通訳案内士の数がアンバランスになっております。特にアンバランスになっている中国語と韓国語は、現地からの添乗員がガイドを兼ねて来日して、日本の通訳ガイド市場を業務独占しておりました。

来日人数が増え、本国からネイティブが添乗で来日すると、特に日本人通訳案内士はネイティブと語学面でガチンコ勝負しなければなりませんし、中国・台湾出身の通訳案内士は中国・台湾の基準で採用される傾向があります。つまり中国語や韓国語は、本国からのライセンスを持たないネイティブとの戦いを強いられているのです」。 (⑥通訳案内士の状況とオススメ言語 より)

訪日韓国、中国市場は「現地からの添乗員がガイドを兼ねて来日して、日本の通訳ガイド市場を業務独占」しているというのです。

水谷さんは、韓国や中国のネイティブガイドを『ハリー・ポッター』のヴォルデモート卿に例えてこう説明します。

「通訳案内士のライセンスを持たず仕事をしている外国人の中にはヴォルデモート一味は存在します。LCCという空飛ぶ箒とNOビザという透明マントでアジアを飛び回り荒稼ぎをするグローバル中華系闇ガイド(国際ノーライセンス・ガイド)の存在です。

その手下に白バスや白タクを含む運送を手配するブローカーや旅行登録が有るか無いか解らない様な旅行関係者、そして日本で暗躍する外人の土産物屋仕掛け人グループ。その一味のお友達が魔法省(黒度魔法省)幹部の中におられたのも事実です。

その分霊箱は旅行業や地上手配業を隠れ蓑にする闇ガイド、旧白バス系運送業や民族系土産物屋に分散して散らばっておりました。そしてかつては本国より旅行団を買って、中国をはじめとするアジア旅行客の銀聯カード等クレジット・デビッドカードや財布から金を吸って食い物にして生きてきました。一味の中の1人が日本の運輸業界に紛れ込んで格安ツアーバスの孫請けを行い、関越道で高速バスの大事故を起こしたのです。

この事件はインバウンドや闇ガイドとは別と考えられますが、根は繋がっているのです。この正体は何なのか? 政官軍共同体をもじって、多国籍の旅運土(旅行、運送、土産)共同体なのです。アジア的地縁血縁の世界に加え、日本と外国のグローバルアンダーグラウンドが一つの裏世界を形成して、日本の良貨駆逐とインバウンド業界の秩序のレベル低下を引き起こしてきました。これがインバウンド業界の闇の勢力(アジア黒魔術一味)の正体です。正統にインバウンドの商売をやっている者にとっては大迷惑な話です」。(⑦旅行業界の闇と高速バス大事故の関係 より)

ここでいう「バスの大事故」は、2012年4月29日に関越自動車道で起きた高速ツアーバス事故を指します。その件については以下を参照。

もし中国人ツアーバスが事故を起こしていたら……を真面目に考える
http://inbound.exblog.jp/18359541/

こうした商売のやり方を、水谷さんは「台湾式営業方法」と呼んでいます。

「通訳案内士のライセンスを持たず仕事をしている外国人のことを、今でこそ黒魔術師の一団だのヴォルデモート一味だとボロクソに言いますが、東日本大地震までは彼らこそがこのインバウンド業界をけん引していたのです。日本の観光業界のアウトロー的存在と異国の激烈なグローバル競争を生き抜いてきた猛者が組んだ。そして旅行社から旅行客を買うといういわば画期的な台湾式営業方法を確立したのです。

親しい台湾出身のガイド仲間によれば、ガイドは給料無料、基本ボランティアで長時間働きます、土産とオプションのみを売り、1週間で目標1ツアー100万円(すべて手取り現金、諸課税全く無し)。成田や関西に着いた団体をバスに閉じ込めて、指定の土産物屋の定置網に追い込んでからイルカ漁の如く水揚げタイムです。また、密室であるバスの中で催眠商法を駆使して納豆キナーゼとか深海ザメの油とかを高額で一本釣りをする。清水寺や富士山に行くときオプション費用として1人3000円を集金する。嫌な方は事前にどこかの駐車場で降りて貰う、「バスが帰って来なくても当局は一切関知しない、では安全を祈る」というとんでもない事をやっていたのです。

そういうイリーガルな営業の基本を実戦して売り上げを競う。参加する営業ガイドは生き甲斐ともいえる実戦競争販売を通じて、インバウンドの市場(貧バウンド市場)の基礎を作り上げたのです。日本人のほとんどが見向きもしなかった、呆れて物も言えない間にやってしまった。それも短時間で大勢の日本人の知らない間に市場を作ったのです」。(⑨貧バウンド時代のインバウンドと近未来の姿 より)

その結果、訪日中国旅行市場の大半は、通訳案内士が不要なマーケットとなってしまいました。

「現在、日本国内では訪日団体には通訳ガイドは必須ではありません。添乗員が一人でやってしまうか、無料の闇ガイド(物売り専門ガイド)が付く場合がほとんどなのです。添乗員さんには日本の旅程資格やガイド免許を持ってなくてもできる仕組みになっております。ところが中国でも欧州でも外国人がその国の通訳ガイドをすることは禁じております。多くの国がガイドに国籍制限を設けているのです。このような寛容な仕組みは極めて珍しい状態です。きわめて不適切と言わざるを得ない方法です。

中国も外国人ガイドを禁止しており、従って私は中国ではガイドをすることができません。最近、中連協(中華人民共和国訪日観光客受入旅行会社連絡協議会)の帰国報告書に通訳ガイド名を書く欄ができました。これによってびびっている海外の旅行会社もあるのですが、理想はやはり日本の通訳ガイドがすべての団体に付く事でしょう。これには時間がかなりかかると思いますが、地道に努力すべきだと思います」。(⑫役所と業界の対立のはざまで、日本の訪日政策を憂う! より)

先日本ブログで書いた「無資格ガイド問題とは何か」の実態とは、実はこのようなものだったのです。

このようなある種絶望的ともいえる状況の中で、中国語通訳案内士の方々は今後どう局面を打開していけばいいのでしょうか。次回、水谷さんにお会いしてお聞きした実践の日々を紹介したいと思います。

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル
http://inbound.exblog.jp/24489096/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-05-17 16:49 | “参与観察”日誌 | Comments(3)
2015年 05月 13日

無資格ガイド問題とは何か?

通訳案内士をめぐる問題を考えるうえで、避けては通れないのが無資格ガイド問題です。一般の日本人からすると、なんのことやらわからないと思いますが、観光庁の「検討会」では初期の頃からこの問題が討議されていました。

以下の表は、観光庁がまとめた訪日旅行者数のトップ4である韓国、台湾、香港、中国におけるガイドの手配状況を整理したものです。

アジア主要国別インバウンドにおけるガイド等の手配状況(「通訳案内士の制度と現状について」2009年6月より)
b0235153_1651287.jpg

この報告は、株式会社JTBエイティーシー(当時)、NPO法人アセアンインバウンド観光振興会(当時、現社団法人)、JTBGMTの資料をもとに作成したとあります。これらは日本を代表する訪日旅行の手配を行う企業と業界団体です。

ここから何がわかるでしょうか。まず4カ国にほぼ共通する特徴が在日ネットワークで完結するビジネスモデルであることです。つまり、日本側の旅行業者を介さず、自分たちで旅行の手配を行っているわけです。なぜこういうことになっているのでしょうか。その何が問題なのでしょうか。

アジアからの訪日旅行の解禁は、さかのぼること1970年代の香港に始まり、79年の台湾、90年代の韓国と続いて動き出していました。ところが、当時の日本には彼らを観光客として受け入れようという認識やコンセンサスがまったくなかったため、彼らも在日ネットワークに頼るほかなく、ある意味野放しのまま手配が行われていたのです。当然無資格ガイドが添乗するツアーが大半でした。

1990年代の訪日外国人旅行者数はいまほど多くなく、せいぜい300~450万人でしたから、アジアからの訪日客は日本人の国内レジャーの閑散期を埋める存在に過ぎませんでした。

これが2000年代に入って変わっていきます。2000年に476万人だった訪日客は、03年の小泉政権時の「観光立国」宣言とビジットジャパンキャンペーンの開始とともに上昇カーブを描いて成長していきます。

ところが、在日ネットワークで完結するビジネスモデルはそのまま温存されてしまいます。その理由は後で述べますが、ここで確認しておくべきは、無資格ガイドの存在はいまに始まった話ではなかったということです。誰もそれをとがめることもなく20年以上経過していたわけで、それをいまさらやめろといっても、そこには彼らにとってなんのインセンティブもないわけですから、変わりようがなかったといえます。

では、この報告にもよく出てくる「スルーガイド」とは何でしょうか? 

ひとことでいうと、海外から団体客を連れて訪日し、ガイディングまでやってしまう添乗員のことです。本来日本で有償で観光案内できるのは通訳案内士という国家資格を必要とするガイドと定められているのに、それを不要としてしまうのです。

しかし、さらに根の深い問題もあります。彼らがただの添乗員であればいいのですが、そうではない場合があるからです。

台湾人や香港人には入国時にノービザで90日間の日本の滞在許可が下ります(これは相互免除という意味で、日本人が相手国に行く場合も同様です)。その間、ガイドたちは日本に自由に滞在しながら、いくつもの訪日ツアーの添乗を受け持つのです。だから、彼らは毎回ツアー客と一緒にやってくるのではありません。最初のツアーだけのことで、その後はずっと日本にいて、次々と添乗を繰り返すわけです。彼らが日本の通訳案内士資格を有していれば、まだいいのですが、必ずしもそうではなさそうです。

またその際、問題となるのは、土産店や免税店からのキックバックやバスの車内販売などで得た売上からホテル代や食事、交通費などの諸経費を引いて、そのまま自分の報酬として持ち帰ってしまうことです。彼らは観光ビザで訪日しておきながら、事実上労働していることになるわけです。何本もツアーを掛け持ちすれば、売上額は相当な金額に上ると思われますが、彼らはその営業活動に対して確定申告することもなく、帰国してしまうのです。

これらに象徴される世界が「華僑系土産店とタイアップしたビジネスモデル」あるいは「華僑系旅行会社ネットワークで完結するビジネスモデル」なのです。

観光庁の「検討会」の初期の議事録をみると、通訳案内士団体はこうした無資格ガイドの取り締りを強く要求しています。彼らに仕事を奪われていると考えているからでしょう。

2010年2月22日 第4回「検討会」議事録
http://www.mlit.go.jp/common/000060637.pdf

これを読むと、かなり乱暴で厳しい発言も見られます。

興味深いことに、2010年3月、JTB九州は九州運輸局から厳重注意処分を受けています。

2010年3月30日(レコードチャイナ)
JTB系旅行会社を厳重注意処分に=通訳案内士法違反で初、中国人留学生バイト募集に問題―九州運輸局
http://www.recordchina.co.jp/a40879.html

急増する中国からのクル―ズ客船の上陸中のバスツアーで、無資格の留学生にガイド業務をさせたことが理由のようです。

これはちょうど「検討会」でこの問題が討議された時期と重なっているので、その影響を受けたのではないかと思えなくもありません。

さて、それでは実際、彼らをどこまで取り締まるべきなのか?

その後、東日本大震災が起き、いったんこの議論はヒートダウンします。それでも、時間の経過とともに訪日客は回復し、「検討会」も再開されます。

2014年12月24日の「検討会」資料=「過去の検討会における主な意見⑦(無資格ガイド・悪質ガイドへの対応)」では、以下のような無資格・悪質ガイド問題に対する意見が出ています。
b0235153_16142286.jpg

これをみると、業界関係者の中には、取締り一辺倒ではない意見も散見されます。通訳案内士の質の問題についても厳しいコメントが見られます。

なぜなのでしょうか。ひとつ考えられるのは、日本の旅行会社の姿勢にあります。2000年代に入り、訪日アジア客の受け入れを進めていくうえで本来担わなければならなかったはずの国内の旅行手配や通訳ガイドの領域を在日ネットワークに預けてしまったこと、いや預けざるを得なかった事情があったからです。もはや急増する中国団体客の受け入れはお手上げ状態になっていたなかで、取り締まりを叫んでみても詮無いことに思えたことでしょう。

では、なぜ預けざるを得なかったのか。

それが実際に起きていたのは、時をさかのぼること、2000年代初頭のことでした。この記事をみてください。

訪日観光旅行手配 中国発中心に下落進む(日経産業新聞2003年1月22日)


「訪日観光旅行(インバウンドツアー)の手配料金が下落している。インバウンドツアーは海外の旅行会社が企画し、日本の旅行会社が日本滞在部分の手配を請け負う形が主流。アジア地域の旅行会社を中心に手配料金の引き下げ要求が急速に強まっている。訪日外国人数は増加傾向にあるが、採算性の低さなどから取り扱いに消極的な旅行会社も目立つ。(中略)

顕著なのは、2000年9月に日本向け団体観光旅行が解禁となった中国だ。インバウンドツアーでは東京から箱根、京都、大阪を巡る通称「ゴールデンルート」という定番コースが一番の売れ筋商品。近畿日本ツーリストの場合、中国の旅行会社向けの同コース(4泊5日)の手配料金は、2年前の15万~23万円程度から、現在は7万5千前後と半額以下に下がった。(中略)

日本人の国内旅行が伸び悩むなか、旅行各社は潜在需要が大きいインバウンドへの関心を高めている。ただ「現状は採算性の低いツアーが多い」(近畿日本ツーリスト)こともあり、取扱量拡大や販促活動強化については消極姿勢が目立っている」。

これは中国の爆買い客が話題になるずっと前の話です。

2000年9月に解禁された中国からの団体ツアーのツアー代金がわずか1年で半額になってしまったこと。その結果、日本の旅行会社は一斉に中国側の旅行会社が主催する訪日中国団体客の手配から手を引いてしまいました。

いまでも忘れられないある旅行大手の幹部の当時の発言があります。

「なぜ中国からの団体ツアー客の手配を日本の旅行会社が請け負えないかというと、一人当たりワンコイン(500円)の利益ではどうしようもないんですよ」。

こうして引き受け手のいなくなった訪日中国客の国内手配を引き受けたのが、新興の在日華人系のランドオペレーターでした。当然、彼らはこれまでの在日ネットワークで完結するビジネスモデルを踏襲します。訪日中国ツアーの料金が下がったぶんは、免税店や土産店へのキックバックや車内販売の売上で補い、帳尻を合わせるやり方です。これが今日の無資格ガイド問題の起源といっていいでしょう。

その後も国交省は無資格ガイドの使用禁止を日本の旅行会社に呼びかけています。

有資格の通訳ガイドの使用の徹底について(周知依頼)[観国交第65号](2013年5月14日)

「平成25年2月に通訳案内士制度の周知強化の一環として、観光庁が実態調査を行ったところ、中国人旅行者向けのツアーの中には、通訳案内士法等に基づく資格を有さない一般の添乗員に通訳案内業務を行わせるなど、法令の遵守が徹底されていない場合が複数見受けられました」(一部)

これは訪日中国客の手配を行う日本の旅行会社の業界団体である中華人民共和国訪日観光客受入旅行会社連絡協議会(中連協)に宛てられたものです。以前出した「無資格通訳ガイドの使用禁止の徹底について」(2005年4月20日付け国土交通省国総旅振第32号)の要請に効力がないことから、再度周知徹底を促す内容です。

ところが、大半の日本の旅行会社は中国の旅行会社が主催した低価格の団体ツアーの手配を請け負っていないため、効き目はほとんどないわけです。実際には、誰が中国団体客の手配を請け負っているのか、捕捉できていないのか、できていても知らないことにしているのか。まあそういうことです。

※もっとも、ここでひとこと触れておきたいのは、すべてのアジア市場が在日ネットワークモデルに侵食されているかというと、そうではないことです。アジアの新興グループであるベトナムやインドネシアなど、華僑系旅行業者の影響が少ない国々の訪日ツアーはこれまで述べた話とは事情が違っていること(まだそれほど値下がりは起きていない)も知っておきたいと思います。

それにしても、なぜこんなことになる前に手を打たなかったのか。

こんな言い訳がよく使われます。アジア市場は成長が早く、FIT化や成熟化も進んでいるから、近い将来欧米市場と同じようになるだろう。そうすれば、いずれ通訳案内士との需給ギャップは埋まっていくはずだ。

ところが、実際には、上海など一部の成熟した市場が生まれても、次々と内陸からの初来日組も増えるので、いつまでたっても団体客は減りそうもありません。

国交省はずいぶん早い時期から訪日2000万人の目標を掲げていました。その内訳として中国本土からの観光客を600万人と見積もっていました。2014年には台湾、香港を含めた中華系はすでに600万人を超えています。取り締まることより、ビザの緩和などによる数の増加を優先したことは間違いありません。それはそれでひとつの決断だったでしょう。そう決めた以上、いまの問題は織り込み済みだったはずです。

なぜなら、現在の中華圏の訪日客600万人のうち、半分が団体として、通訳案内士制度の建前(有資格ガイドを使うこと)を通そうとするなら、どれだけの数の中国語通訳ガイドを育てる必要があったのか。そのために何かを緊急に着手したようには見受けられないからです。

そして、決め台詞はこうです。「もし本当にアジアの無資格ガイドを取り締まりを徹底するとしようものなら、市場の大混乱は避けられないだろう。外交関係にも影響が出かねない」。

この問題は、通訳案内士団体の主流が英語ガイドであることも、話をかみ合わなくさせている理由のひとつのように思われます。彼らはアジア市場の特殊性に対する理解は少なく、見方によっては偏見も感じられないではありません。

繰り返しますが、だからといって誰かを悪者に仕立て上げても始まりません。

訪日アジア客の増加は、一部の排外的な人たちを除けば、特に小売業界を中心に歓迎の世論が形成されていると思います。彼らは移民労働者ではありません。レジャー消費者です。ただ旅行の中身にお金を使うことより、買物に夢中なのです。だからこそ、本来あやうげな在日ネットワークで完結するビジネスモデルが成り立ってしまうのです。

そのあやうさは、やはり気がかりです。現実を直視し、受け入れつつ、立て直しのための方策を考えなければいけないと思っています。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-05-13 16:14 | “参与観察”日誌 | Comments(0)
2015年 05月 11日

通訳案内士制度をめぐる議論がかみ合わないのはなぜか

本ブログではここ数日、通訳案内士をめぐる問題を扱っていますが、ずっと疑問に思っていたことがありました。特に「「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」って何?」(5月6日)を書くため、観光庁のHPに大量に掲載されている業界関係者らの主張や議論の中身を検討しながら、思ったことです。

すでにずいぶん長い時間をかけて議論されているようなのに、いつまでこの話し合いは続くのだろうか?

まじめに議論に参加されている方には失礼な言い方かもしれませんが、やはりこの問題で7年以上も議論を続けているというのは、外から見ていると不思議でなりません。ここ数年の訪日外国人旅行市場の激変ぶりから考えると、そんなに悠長な話ではないように思うからです。実際はそうでもないのでしょうか。

こうした疑問を解くうえで、ひとつの示唆を与えてくれたのが、現役の通訳ガイド(英語)の河村輝夫氏でした。河村氏は、現在ある通訳案内士団体の役員を務める傍ら、旅行会社のマネージャーでもあるという方です。

以下、河村氏とのやり取りを紹介します(あくまで河村氏の個人的な見解で、所属する団体・企業の考え方を代表するものではありません)。

―河村さんは観光庁主催の「検討会」をずっと傍聴されておられるそうですが、ご自身も通訳ガイドという当事者の立場からみて、議論のあり方についてどうお感じになっていますか。

「さまざまな関係者が集まる検討会ですから、それぞれ主張があるのはわかるのですが、全体として議論が十分にかみ合っていないと感じています。その理由を私はこう考えます。

通訳案内士制度のあり方を検討するうえで、以下の3つの次元を明確に分けて考えなければならないと思います。

A:「通訳案内士」(法制度あるいは資格)
B:「プロ通訳ガイド」(通訳案内を業務とする職業または職業人)
C:「通訳ガイド行為」(通訳案内を何らかの形で行う社会活動)

ところが、「検討会」を傍聴している限り、それらがごちゃ混ぜになって同じ場で議論されていると感じています。まずはこの3つの次元を明確に切り分けて、整理することから始めるべきではないでしょうか。

―それはどういうことでしょうか。

たとえば、野球を例に考えてみましょう。野球という社会活動(あえてここではこういう言い方をしますが)は、プロ選手の世界と大学や高校、リトルリーグ、町内会の野球大会のようなアマチュアの世界に分けられます。この場合、職業人としてのプロ野球選手のあり方や求められる能力レベルの問題と、アマチュア選手の問題を同じ場で議論するのはおかしいことはわかりますよね。アマチュア選手が増えすぎるとプロ選手は困るから、社会活動としての野球を規制しようというような議論は起こりません。

ところが、通訳案内士の議論になると、なぜかこれらをごちゃ混ぜにしてしまい、議論が迷走しがちです。

この「検討会」では、「通訳案内士のあり方を見直す」「新たな地域限定、特区ガイドの制度を作る」「現行の特区、特例制度を拡充する」「新たな試験対象言語増やす」「いや、現行制度を維持すべき」といった本来区別して行うべき議論が同じ場で進められているのですから、論点がぼやけてしまいますね。

―なるほど。議論がかみ合わないのは、3つの異なる次元を区別するという基本的な共通認識ができていないからというわけですね。いまどの次元の議論をしているのか自覚されないまま、それぞれが発言しているためだと。そもそもプロのガイドをどうすべきかという話とボランティアガイドの話が同じ場で話題に上るというのはおかしいということですね。

先ほどの野球の話であれば誰でもわかるのに、なぜ通訳案内士の話になるとこうした議論のやり方がおかしいことに気づきにくいのか。通訳ガイドという職業の置かれた社会的地位や安定性、認知度などにも関係があるのではないでしょうか。そもそも日本社会で通訳ガイドという職業が広く認知されているとはいいがたい気がします。また登録者の4分の1しか就業していないという国家資格というのは、外からみるとかなり驚きです。

日本では通訳ガイド業に対する職業としての観念があいまいなのかもしれません。一般に観光ガイドとしてイメージされるのはバスガイドでしょうか。彼女たちの場合は、バス会社に勤務し、職業的訓練を受けて仕事をしているということは承知されているでしょう。他にも山岳ガイドやネイチャーガイド、トレッキングガイドなど、いろいろなガイド業が存在し、彼らも専門的な知識やスキルを有していることは知られています。

しかし、通訳案内士という国家資格を取得しなければ従事できないのが通訳ガイドです。外国人相手に外国語で旅行を案内するガイド業であるゆえに、語学力も含めた特別な知識やスキルを必要とする職業であるからです。そう説明されれば、漠然とはわかると思いますが、残念ながら、その社会的な役割や意義などまで含めて広く認知されているとはいいがたいですね。

実際、通訳案内士というのは資格名であって、職業に対する呼称ではありません。一般に通訳案内士団体では、自らの職業を「ガイド」あるいは「通訳ガイド」と呼んでいます。海外では「ガイド」といえば、外国語を使って外国人を案内する仕事という認知が一般的で、それがスタンダードな呼称だからというわけですが、日本ではそうではない。

―そうしたことは職業人としての自尊心にも関わることでしょうね。

一方、通訳案内士資格を取得する目的として、英検やTOEICなどと同じく、一種の語学力や歴史知識などの「能力証明」手段として利用する人もいます。特に少数言語の場合、適当な語学力証明手段や検定などがないため、検定代わりに利用して履歴書に記載する人も多いようです。

この制度を「能力証明」手段と考えるのならば、通訳案内士の「名称独占」さえ守られれば事足りるでしょう。これに対して「プロ通訳ガイドとして就労するため」または「通訳案内活動を行うため」に必要な知識や技術を確認するための手段と考えれば、当然「業務独占(通訳案内士しか外国人に対する有償の通訳ガイドはできない)」を守ることが重要と考えるでしょう。

さらにいえば、「プロ通訳ガイド」という職業を「食べてゆける職業」として確立、維持してゆくためにはどうしたらよいか、ということを議論するのであれば、それは社会政策の問題です。

それとも「プロ通訳ガイドとは、常に他の職業をセット(兼業)でなければやってゆけない副業専門の業種」と捉えるのかでも、議論の方向性は変わってきます。

農家といえば、現代日本社会では兼業農家を意味するといった感覚に近いかもしれません。「日本の農業を守るために、いかにして専業農家を保護するか」という問題と、「いかにプロ通訳ガイドを独立した生計を維持できるように職業環境を改善してゆくかどうか」という話は同次元の問題だと思いますね。

―通訳ガイドをひとつの職業として確立、維持できるかどうかということは、若い世代が参入できるかどうかの鍵になりますね。その意味では、現在の就業者に若い世代が少ないのは、これまでそこが保証されているとは思えなかったからでしょう。だからこそ、これ以上「規制緩和」してもらっては困るという議論になるのでしょうね。

ところが、ボランティア通訳ガイドや特区ガイドの議論については、通訳案内活動を「任意の社会活動」として捉えると、憲法上、基本的に誰でも何をしてもよいのが日本社会の大原則ですから、「通訳案内という活動の自由に対して法規制がかかっているのか」(案内士法の解釈の問題)、「通訳案内活動をどこまで規制すべきか」(法規制に関する立法論)という問題が出てきます。

これは憲法論でいうところの「経済的自由に関する人権制約の警察目的と政策目的の問題」とも絡んできます。弁護士のように「法制度先行、実体後行型」の資格や制度と、医師と医者のように「実体先行、法制度後行型(医療の実態は古くからあり、医者も存在したが、医師免許を国家資格としたのは明治以降のこと。通訳案内士も基本的に同じ)」の制度との違いという問題もあり、通訳ガイドという職業人のあり方を後行の法制度である通訳案内士がフォローして規定しているのが原則です。

それを国家政策の観点から制度を改変して職業や職業人たちのあり方を変化させようとするかどうかが問題です。そして職業上の対応とは別に、通訳案内活動という社会活動をどこまで規制する必要があるのか。そこを2020年や地方創生などの社会の要請により、規制緩和してゆくべきかどうか、といったことが論ぜられるべきです。

―確かに、「数が足りないから増やそう」となるのはわかりますが、本来そういう根本的な議論があるべきですよね。おかげさまで、もやもやが少しすっきりしてきたような気がします。

ぼくが通訳案内士をめぐる問題に関心を持つ理由のひとつは、日本のインバウンド市場が抱えるさまざまな矛盾や課題、可能性といったものまで含めて象徴的に見られる領域だと考えるからです。この際、誰かを悪者にしても仕方がない。これまでの議論を見ていても、どちらか一方の立場から議論を押し通そうとすると、かえって事態は膠着するという印象があります。

たとえば、メディアは「通訳案内士」問題をどう報じてきたかを少し調べてみると、全国紙レベルで扱われたのは数少ないながら、2010年が比較的多かったようです。この時期、観光庁の「通訳案内士のあり方に関する検討会」(2009~11)が始まっていて、一部メディアに「通訳案内士資格の見直し議論が波紋を呼んでいる」という論調が見られました。「規制緩和」を進める観光庁に対して、現役の通訳案内士が「無資格ガイドの容認につながり、仕事を奪われかねない」と反発するという構図で描かれていました。

2010年1月21日(東京新聞)
中国人ツアーが激増 無資格ガイドを容認?
「日本を訪れる中国人観光客が激増している。本来は「通訳案内士」の国家資格を持ったガイドが観光案内するはずなのだが、格安ツアーは無資格の添乗員がガイド代わりだという。そんな中、国の検討会で「通訳案内士の業務独占や名称独占の廃止」が持ち上がり、通訳案内士らが反発している」(一部)

2010年4月2日(産経新聞)
通訳案内士資格 見直し議論波紋
「国が進めている外国人向けの有償ガイド「通訳案内士」資格の見直し議論が波紋を呼んでいる。中国人などアジアからの観光客急増に対応するため、観光庁の有識者会議で、ボランティアや留学生を有効活用する規制緩和策が浮上。「無資格ガイドの容認につながり、仕事を奪われかねない」と現役の案内士が猛反発している」(一部)

2010年7月13日(日本経済新聞)
「通訳ガイド」国家資格不要、中・韓国語など対応しやすく
「観光庁は来年度をメドに、国家資格を持たない人でも有料の外国人向け通訳ガイドができるように規制を緩和する。現行の「通訳案内士」制度がアジアからの観光客急増に対応できていないためだ。現在無料で通訳している日本人のほか、留学生や現地旅行会社のガイドといった外国人にも解禁される。同庁は一定の質を確保するため、研修ガイドラインを作成し、自治体や企業が認定する仕組みを検討中だ」(一部)。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1502L_S0A710C1CR8000/
※日経のみこの点に触れていないのが面白いですね。

ここで出てくる「無資格ガイド」の問題は、急増するアジアからの訪日客の受入をどうするかという問題に直結していたため、新たな制度設計を準備してこなかった観光庁にとっては最も痛いところを突かれた格好で、議論を押し返すことは難しかったでしょう。

しかし、2010年当時といまでは状況もかなり変わってきています。なにしろこの5年間で500万人近い訪日客の増加が見られるわけです。そして、今年は、戦後日本人出国者数が初めて訪日外国人数を上回った1970年から45年後にあたり、もしかしたらその再逆転が起こるかもしれないといわれています。時代の大きな変わり目を迎えているといってもいいでしょう。

通訳ガイドの関係者と話をしていると、「我々は絶滅危惧種だ」というような自嘲的な発言を聞くことがあります。確かに、これまではそうだったのかもしれません。でも、これからは通訳ガイドの社会的な役割が広く注目される時代へと変わっていくのではないでしょうか。

そんな無責任なことは部外者だからいえると言われればそれまでですが、せめてもっと若い世代が参入できるような業界にするためにはどうすればいいか、といった発想で議論を進められないものか。そのためにも、河村氏が指摘するように、まずは「資格」と「職業」と「社会活動」の切り分けから始めることが大事なのではないかと思います。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-05-11 09:18 | “参与観察”日誌 | Comments(0)