2024年 05月 02日
コロナが明け1年以上がたち、各メディアからインバウンドに関するコメントや執筆を申しつかる機会が増えましたが、いつも思うことがあります。
メディアの人たちの多くが、日本のインバウンドの全体像をつかんでいないと感じてしまうのです。
ここでいう「全体像」とは、そもそもいつ頃から、なぜこんなに日本を訪れる外国人観光客が増えたのか。そこには国内外の社会環境の大きな変化があるわけで、そうした背景についての理解をふまえ、インバウンドを振興することに、どんなメリットがあるのか。誰のための、何のための外客誘致なのか……といった本筋の理解です。
ぼやきというわけでもないのですが、そのへんが明確になっていないせいか、メディアの人たちはインバウンドの現場で起きている、そのときどきの個々のディティールを追いかけ、その現象をその場の思いつきのように、表層的に伝えることが多いと感じています。
たとえば、最近、増えているのがオーバーツーリズムに関する報道ですが、これについてはいろいろ思うところがあります。
実際、外国人客であふれる京都在住の方たちは大変だと思いますが、これはいまに始まったことではなく、コロナ前、2010年代半ばくらいからあったことで、メディアはそんなことすっかり忘れたかのように報じているように見えます。
進行する円安もあり、「フィリピンより物価が安い」などと海外からも揶揄され、少々被害妄想的になっているのではないでしょうか。その気持ちは理解できないわけではありませんが…。
オーバーツーリズムの問題は、基本、その地域の人たちが自分の頭で考え、やるべきこと、できる対策をひとまずは始めるしかないですよね。そのためには、先行する海外の事例を学ぶ必要があります。
それを外部からとやかく言うのは筋違いに思えます。地域の問題である以上、当然住民も商売人も立場によって意見は違うでしょうから、それらをいかに調整し、落としどころを見つけるかしかありません。
新たな規制を始めるのであれば(ぼくはそれを否定しません。地域の人が決めるべきです)、よりスマートに、賢く着手しないといけません。そこには国際的常識や適切な外国人理解も含め、総合的なセンスが問われます。
京都のオーバーツーリズム対策…連休中はバス増便、SNSで多言語の混雑情報表示 https://www.yomiuri.co.jp/national/20240427-OYT1T50176
なぜなら、先日、日経クロストレンドというネット媒体に以下の記事を書いたのですが、日本のインバウンドの特徴として、訪問者数の地域的な偏りがきわめて大きいことがあるからです。すなわち、オーバーツーリズムが問題としてよく取りざたされていますが、それは日本全国でいうと、ほんの一部に過ぎなくて、大半の地域に彼らが姿を現すことはないからです。
この記事では、都道府県別の訪日外国人による推計消費額(訪問数×1人当たりの消費単価)を比較、その背景を解説しました。
そのとき、日本のインバウンドの全体像をみると、東京、大阪、京都で全体の消費額の7割を占めるという極端な偏りぶりが実際のところなので、都道府県別で勝ち負けを語るのはあまり意味がないと編集部に話しました。
ではなぜそんな偏りが起こるのか。その理由を説明するのが自分の役割だと思い、記事では「国際空港と外国人にとっての知名度の指標のひとつとなる世界遺産」の有無という2つの観点から解説することに努めました。島国である日本に訪れるには、空路か海路しかないのですから、そうなるのは当然すぎる話です。多くの外国人にとって、日本は白地図のようなもので、一部を除き、ほとんど地名が知られていません。知名度がない場所に彼らが現れるはずはないのです。 なにも下位の県をディスりたいわけではなく、こうした島国である日本の特性をふまえ、「外国人は、日本人ではない」という基本認識を、まだ訪日外国人の少ない地方の人たちに理解してほしいと思っているのです。
今日の状況を受けて、もっと地方の人たちは発奮すべきではないでしょうか。それが京都のオーバーツーリズムの軽減にもつながる気がします。
もちろん、実際にはそれだけでは解決できないわけですが、地方はもっとやる気を出せと言いたい気がします。そもそも地方誘客の取り組み方が間違っているのだと思います。
そうなってしまう背景には、メディア自身が日本のインバウンドの全体像がつかめていないことがあると思います。地方のメディアは特にひどいですね。
いま起こっていることの全体像が見えていないと(そりゃこれだけ増えればいろいろ起こるのは当然で)、それに振り回されてしまいがちになります。
そこでひとこと。(自分でいうのも僭越ではありますが)ぜひとも拙著「間違いだらけの日本のインバウンド」(扶桑社)を読んでいただきたいと思います。
同書では、なぜこれほど外国人観光客が増えてきたのか、その理由と背景について、20世紀末前夜から今日に至るまでの“インバウンド20年史”のあらましと、そこから得られる教訓について書いています。
全体の構成は次のような内容です。
まえがき 誰のための外客誘致なのか 序章 なぜこんなに外国人観光客が増えたのか 第1章 訪日外国人の増加がもたらす不愉快な出来事 第2章 日本人が知らない外国客の事情と胸の内 第3章 訪日外国人の大半はアジアの中間層 第4章 インバウンドは地域の生き残りのためにある 終章 オリンピックでの観光客の受け入れはどうなる? あとがき 我々は彼らの変化にどこまで気づいているか
この本の奥付の発行日は2020年1月1日。なんと不幸なタイミングでの刊行となってしまったことでしょう。
発売とほぼ同時に世界的なパンデミックが起きたことから、国際的な人的移動がストップしてしまったことで、インバウンドが完全消滅してしまったのですから。20世紀初頭に第一次世界大戦やスペイン風邪などのパンデミックが起きたのもそうでしたが、こうした世紀の変わり目ともいうべき時期に見舞われたコロナやウクライナ戦争のような災厄は、起こるべくして起こったといえるのかもしれません。
同書はパンデミックや戦争といった事態を想定して書かれたものではありませんから、内容を一部更新する必要もありますが、基本構図と認識、すなわち「誰のための、何のための外客誘致なのか」という本筋の問いと、それに対する回答の部分は今日においても、まったく変わることはありません。
最後に、今年に入ってぼくが書いた日本のインバウンドの課題やその見方について紹介しておきます。
まず今日の日本のインバウンドの課題。またインバウンドを振興させるべき理由について。 コロナ後に中国人観光客が激減していた…!2024年インバウンドの課題は「人材不足と移動難民」(現代ビジネス)
課題については記事を読んでいただくとして、インバウンドを振興させるべき理由に関するぼくの見解は以下の通りです。
「日本の社会インフラは他国に比べ優れているところも多いが、国際標準に達していない点もかなりある。その意味で、インバウンドの活力を借りながら、遅れたインフラを国際標準まで引き上げる努力が必要だ。これからは数を増やすためのプロモーションだけではなく、人材育成や受入れ態勢の整備に予算を使うべきではないか。」
百貨店の免税売上がどうしたこうしたといった「経済効果」うんぬんに誰もが踊らされがちだと思いますが、むしろ重要なのは、これほど後れを取ってしまったインフラの更新のためにインバウンドを活用すべき。また観光予算の使い方を変えるべきという話です。今日、PRよりやらなければならないことがあるのです。 そして、先日も近い将来、地方の4割の自治体が消滅するとの報道がありましたが、なによりインバウンドは「地域の生き残り」のために活用すべきであるということです。 「刺身1パック6000円」の衝撃…!2024年新春、にぎわいは日本最強か!? 大阪インバウンド最前線 大阪・西成あいりん地区に起こった劇的変化…海外バックパッカーたちを魅了する「納得の理由」
もうひとつは外国人の受け入れに東京より先見の明がある大阪にもっと学ぼうということでしょうか。 詳しくは拙著を読んでいただけるとよくわかると思います。 #
by sanyo-kansatu
| 2024-05-02 10:19
| “参与観察”日誌
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