2011年 10月 27日
北京ラビオン社の周社長と会食しました。同社は中国の富裕層約1000名を抱える会員制旅行会社で、スイスのアンチエイジングツアーをはじめ、高品質な少人数制の海外ツアーを催行して注目されています。 北京名仕优翔国际旅行社(ラビオン社) 同社では、2009年より大阪の聖授会OCATクリニックと提携し、がん検診と観光を組み合わせたツアーで実績を上げています。ツアー価格は1名200万円相当といいますから、一般に中国の旅行会社が催行している激安ツアー(東京・大阪5泊6日5000元)の世界とは大違いです。ホテルも大阪ならリッツカールトンか帝国ホテル、東京はペニンシュラかシャングリラという5つ星外資が当たり前。検診を1日ですませると、京都や東京、北海道などで観光とショッピングを楽しんで帰るというラグジュアリーなツアーです。 ぼくは、去年ビジネス誌『プレジデント』の医療観光取材で同社を訪ねて以来、北京に立ち寄ると、たいてい一度は同社のスタッフに会うことにしています。富裕層を顧客に持つ同社の動向は、とても気になるからです。 多忙な周社長に今回会えたのはラッキーでした。彼に会うのは2度目です。案内された中国料理店のテーブルにつくやいなや、彼は言いました。「なんでも聞いてください」。 ぼくが聞きたかったのは、今後のラビオン社の日本での医療観光の新たな展開と、今年7月1日からスタートした沖縄1泊を条件にしたマルチビザ発給が富裕層の訪日旅行の促進にどれだけ効果がありそうか、ということでした。 前者については、震災後一時ストップしたがん検診ツアーも、夏ごろから再会しているとのこと。今後は検診だけでなく、治療も行なえる病院との提携をじっくり検討していきたいよう。ただし、ぼくが思うに、中国の富裕層は独特の価値観を持ち、好みもうるさいため、一般的な民間病院では提携はなかなか難しそうです。 一方、沖縄マルチビザ発給による訪日促進の効果について、彼はこうきっぱり言いました。 「沖縄マルチビザは、ラビオン社の顧客のような富裕層にはまったく関係ない。もともと彼らにはビザの問題などないからだ(簡単に取得できるため)。むしろ中流層やビジネス客にとってありがたいことなのだろう」。 「御社は沖縄をツアー先として考えるつもりはないのか」との問いに対しても、次のような厳しいひと言。「中国人にとって沖縄は魅力がない。沖縄のリゾートホテルはそれほど豪華ではない。うちの顧客は世界の5つ星クラスのビーチリゾートを体験しているため、沖縄は彼らが満足できる水準にはありません」。 どうやらこれが中国富裕層の本音らしいです。なんにもわかっちゃいないなあ……、沖縄にはローカルなカルチャーの魅力や世界的に知られるダイビングスポットなど、いろいろあるのに、とぼくは思いますが、まだぶっちゃけ成金=中国富裕層に成熟した旅の楽しみ方を満喫せよなんて無理な話かもしれません。 彼らの大半は、わずかな時間で個人資産が100倍から1000倍に急上昇して(それはスゴイことですけど)、まだ10年たったかどうかという人たちが大半です。香港の資産家とは違うのです。 問題なのは、北京で催行されている一般の沖縄ツアーが4泊5日4000元という激安ツアーしかないことです。ビザ取得が目的の参加者も多いと聞きます。すでに沖縄は「安かろう悪かろう」のデスティネーションとして位置づけられてしまいました。競合先は海南島やプーケットだそうです。これではまた同じ轍をふんでいると思わざるを得ませんでした。 そもそもこの沖縄マルチビザ発給をめぐって、当初中国の一部からイチャモンがありました。日本の政府高官が「ビザ発給を沖縄の地域振興につなげたい」という主旨の発言したことに対し、「なぜ日本の地域振興のために我々が沖縄に行かなければならないんだ」というわけです。 わざわざ中国側がそう言いたくなるのは、日中のビザ協定における不平等があるからでしょう(日本人はノービザだが、中国人はビザが必要)。そうはいっても、中国の都市部と農村の格差などの国情を考えれば対等なんて無茶だということは彼ら自身も知っています。ただ自己主張したいさかりですからね、最近の中国の皆さんは。国内問題はともかく、インバウンド関連の施策に関しては、政府も国内向けだけではなく、海外での受けとめ方も目配りした発言をしないといけないと思います。
by sanyo-kansatu
| 2011-10-27 18:00
| “参与観察”日誌
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