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2012年 05月 07日
残念ながら、今年の国慶節(10月の第一週)は期待したほど中国人客は戻ってきませんでした。 実は、ぼくの仕事場に近い新宿5丁目の伊勢丹パークシティを挟んだ明治通り沿いは、知る人ぞ知るインバウンドバスの路駐スポット。夕方になると、よく中国ツアー客を乗せたバスが夕食と歌舞伎町散策のために現れます。ぼくは仕事帰りにその様子を定点観測しているのですが、震災前の春節の頃は連日5~6台のバスが停車していたのに、国慶節は数日おきに1~2台という感じでした。客を降ろしてひと休みしている運転手さんに声をかけると、「まだ戻って来ないねえ」とのこと。 もっとも、それは国内外の事情を考え合わせると、想定内と考えるべきでしょう。原発事故の収拾の遅れと中国経済の変調の兆しが中国客の訪日マインドに大きく影響していることは確かなようです。だとすれば、いまは焦っても仕方がありません。この時期、慌ててやみくもにプロモーションを打つなんて見当違い。いまこそ、インバウンドのこれからのために、じっくりと中身を点検することにしましょう。 "想"と"要"の違いを知る ![]() 中国語のわかる店員がいなくても、ドラッグストアでの買い物は積極的。その理由は…… 前回ぼくは、中国客の"爆買い"伝説を生んだ背景にメディアを含めた日本側の強い思い込みがあったこと。この先"爆買い"は減少していくが、中国客の買い物には3つの世界があり、彼らの大半は買い物に満足しないまま帰国していると書いています。一見相反しているかに思えるこの話をどう考えたらいいのでしょうか? あくまで前者は大局の話、後者は現場の話と分けて考えてください。ぼくは現場の話にこだわります。そこで第3回は「中国ツアー客の買い物考現学」と題して、彼らが買い物をしているときの消費心理を理解するためのポイントを紹介しようと思います。 第一のポイントは、"想(xiang)"と"要(yao)"の違いを知ることです。 一般によく知られたマーケティング用語にニーズとウォンツがあります。ニーズは「必要性」でウォンツは「欲望」。漠然とした必要性を指すニーズより、ウォンツはもっとふみ込んだ願望、特定の商品やサービスで自分の願望を満たしたいことを意味します。顧客のニーズを発見し、そのニーズをウォンツに高めていくことがマーケティングの目標です。 しかし、一時的な滞在者にすぎない中国ツアー客の消費心理に、これをそのまま適用するのは無理がありそうです。代わって適用したいのが、中国語の"想"と"要"です。 中国語の"想"は「…したいと思う。希望する」、"要"は「ほしい。必要とする」という意味です。「I want~」「I need~」と同様に「我想~」「我要~」と使います。"想"がやんわりとした希望や願望だとすれば、"要"は強い意志や義務を含むことばです。そういう意味では、"要"はニーズに近いといえますが、"想"はウォンツとはちょっと違います。 実は、中国客の買い物の3つの世界は、"想"と"要"で大まかに分類できます。 「①女性客を中心に美容健康にまつわるメイド・イン・ジャパンの実用品」「③ブランド品」は"想"の世界。要するに自分のための買い物です。 一方、「②帰国後に渡す土産」は"要"の世界。友人・親族への義理と面子のための買い物です。 ![]() 事前に調べた購入商品リストの紙には、化粧水や乳液のメーカー・商品名、サイズまでぎっしり書かれている その違いが彼らの消費行動にどう表れてくるのでしょうか。"想"に比べて"要"の比率が著しく大きいのが今日の中国ツアー客の特徴です。"想"は満たされなくても時間がなかったと理由をつけて合理化できますが、"要"は面子に関わるだけに諦めるわけにはいかない。そのプレッシャーが引き起こすのが"爆買い"です。あんなに山のように買い物したというのに、彼らの大半が買い物に満足しないで帰国するというのは、"想"が満たされなかった心残りがあると考えられます。 中国ツアー客の皆さんは、自分のために"爆買い"しているわけじゃないのです。それが面子にこだわる中国人の人生というものですから、とやかく言う筋合いではないのでしょうけど、なんだか気の毒にすら思えてきますね。 一日中バスに揺られて過ごす団体ツアー客にとって、唯一主体的に行動できるのが買い物の時間です。普通に考えれば、旅の喜びや真の満足感につながるのは"想"でしょう。受け入れ側としても、"要"(=ニーズ)だけでなく、"想"(≒ウォンツ。しかし、もっとふみ込んだ願望につながる可能性はある)を満足させてあげたいものです。 "想"が満たされると、人は夢中になります。リピーターはこのとき生まれます。いかにリピーターを生み出すかは、今後のインバウンドの発展にとって大事な課題です。"要"だけでは取り替えがきくから、「日本でなくてもいいや」となる。震災後、多くのツアーが韓国や香港に流れたのはそのためです。 目の前にいる中国客の買い物が"要"なのか"想"なのかを見定めることは、どんな売り方や販促を打ち出せばいいかを考える手がかりになるはずです。 「賢く買えた」というストーリーがほしい ![]() 買い物がすんだら、用意していた空のスーツケースに商品を詰め込む 第二のポイントは、「賢く買えた」というストーリーをどう演出するか、です。中国の人たちがうまく値切ったときに見せる得意満面の表情は、人生至上の喜びに出くわしたとでもいいたげです。相手に「してやったり」と思えるのが、とびきりの快感なのです。たいてい値切りが成功したとか、同じものが中国より安く買えたという話になりがちですが、売り手と買い手の腹の据わった個人的な駆け引きこそ、彼らの人生を快活にするスパイスみたいなものかもしれません。 彼らは世界で最も猜疑心の強い人たちでもあります。前回紹介した瀋陽のツアー客と一緒に契約免税店を訪ねたとき、「ここの商品は本物ですか?」「この店は他の店より高いでしょう?」と質問攻めにあいました。その場にいた日本人はぼくだけでしたし、彼らはいつもそれを確かめずにはいられないのです。「いや、ここに来るのは初めてなので……」。ツアー造成上、営業妨害するわけにもいかないと日本人らしく気を遣ったぼくは、そうとぼけるほかなかったのですが、その免税店はツアー客しか利用しない、商品だけがズラッと並べられた殺風景な空間、全員中国系の販売員が待機しているという一種異様な世界です。これでは彼らの買い物意欲が高まらないのも当然でしょう。 中国とは商慣行の異なる日本や欧米で、そもそも彼らの求める「賢く買えた」というストーリーを満足させることは難しいといえます。香港が人気なのはそれが可能だからでしょう。その代わり、日本の小売店では、ポイント還元による割引などを使ってお得感を演出することに力を入れています。 その努力は素晴らしいと思いますが、国美電器や蘇寧電器などの中国大手家電量販店の過激なサービス合戦を知る彼らにしてみれば、物足りないと感じているかもしれません。でも、日本で同じことをやれといわれても困ります。だとしたら、せめて買い物に何らかの駆け引きの要素を加えれば、彼らは俄然本領を発揮し、買い物意欲も高まることでしょう。ポイントは、彼らに「してやったり」気分を味わせること。そんなゲーム性、もっといえばギャンブル性を取り入れた販売手法は考えられないものでしょうか。 実際には、ツアー客の訪れる家電量販店で駆け引きは日常的に行われています。レジの前に商品を山ほど置いたおばさんがガイドをそばに呼びつけ「これだけ買うといくらにしてくれる?」。場数をふんだベテラン販売員さんがそのお相手をする、という光景はもうおなじみでしょう。ただ、いつまでも彼らのペースに合わせるだけではつまらないので、こちらからもっと何かを仕掛けられたらおもしろいと思います。 日本人が普通に買い物している店で買いたい 幸い、中国の人たちは「日本では(中国のように)騙されることはない」と信用してくれているので、「安心して買い物できる」ことが訪日旅行の優位性となっているのは確かです。だからこそ、彼らはマツモトキヨシやドン・キホーテのような日本人が普通に買い物している店で自分たちも買いたいと思っています。 実際、彼らがマツモトキヨシに行くと、契約免税店で見せた疑心暗鬼の様子はありません。周囲に日本人客がいるからでしょう。同じものを買っているという安心感があるのです。たとえ中国語を話す店員がいなくても、事前に調べた購入商品リストの紙を広げ、精力的に棚を探し回っています。レジではドーンとまとめ買いしてくれる優良顧客です。 ![]() 中国の都市部では外資系のドラッグストアも進出していますが、見た目のディスプレイは似ていても、棚に並ぶ商品の多彩さや新コンセプト商品の豊富さでは日本にはかないません。「これは何ですか?」とずいぶんツアー客の女性に質問されました。店員さんに聞いて、その用途を説明してあげると、みんなおもしろがっていました。そこには、"要"でも"想"でもない、中国では見たことのない日本オリジナルの商品が持つ新奇な魅力や価値観を発見する楽しさがあったと思います。日本のドラッグストアはその宝庫なのです。 これが第三のポイントです。「日本には、自分たちが普段の生活でそこまで必要とは考えたこともなかった便利でおもしろい商品があふれている」というのが彼女らの感じたことでした。これこそ、本当の意味での日本の消費市場の優位性であるはずです。 来日経験のある中国の女性から「日本には安くてかわいくて便利なものがたくさんある」とよく言われます。でも、そう話してくれるのは、日本人社会となんらかの接点のある人たちに限られます。実際にそこまで気づいている中国ツアー客が全体のうちどれだけいるのだろうか、というのがいちばんの問題でしょう。せめて彼らが中国から日本に向かう飛行機の中で目を通せるような中国語のチラシ(立派な冊子は不要。新聞の折込広告レベルで十分。ただし割引券付!)を機内誌と一緒にシートボックスに忍ばせることができたら、多くの中国客が本物の日本の楽しさを発見するチャンスが増えるに違いありません。 なぜガイドの話にツアー客は食いつくのか 現状では、その楽しさを中国ツアー客に気づかせることができるかは、日本側のガイドの力量にかかっています。ツアーバスに同乗しているとき、こんなことがありました。 若い中国人ガイドが焦げつかないマーブルコートフライパンを買った話を始めたのです。「同じものを中国で買うと5倍はする。中国のお母さんに送ってあげたら喜ばれた」と言うと、バスの中は急に色めきだしました。「それどこに売っているの。連れて行ってくれる?」。バスは銀座のドン・キホーテに向かいました。そして、彼に案内された売り場のマーブルコートフライパンの在庫分はすべてお買い上げとなりました。 その一連の光景を見ながら思ったのは、なぜガイドの話にツアー客たちはこんなに簡単に食いつくのだろうか、という驚きでした。ひとりのツアー客は「彼がお母さんに買ってあげたという話が私たちの心をつかんだ」と話してくれました。う~ん、どういうこと? ![]() マーブルコートフライパンの在庫分すべてお買い上げの瞬間 1週間近くバスの中で一緒に過ごしていると、親しみが生まれるのは人情です。言葉もわからない日本で頼れる人間は彼ひとり。彼のことばが影響力を持つのは当然でしょう。 でも、理由はもっと別にありそうです。彼らがもともと日本でフライパンを買おうと考えていたわけではないでしょう。きっかけは何でもよかったのです。「親孝行」と「5分の1の値段」というわかりやすい動機づけができたことで、「自分がほしいものを買う」という"想"のストーリーがにわかに成立したのです。それまで買ったのは友人・親族に頼まれたお土産ばかり。本当は自分のために買いたいのに何も買えなかった。そもそも自分の買いたいものがわからなかった。"要"の務めは果たせても、"想"を満たせていなかった彼らは、ガイドのことばにいともあっさり飛びついてしまったのです。 実をいえば、これは消費者としての成熟度に関わる問題です。一般にツアーに参加する中国客は40代以上が圧倒的に多い。80后と呼ばれる消費社会に親しんだ若い世代は少ないのです。海外旅行ビギナーである彼らは"想"を満たす方法を知らないといえます。 にもかかわらず、その指南役であるべき日本側のガイドは圧倒的に役不足です。日本の楽しさを伝えるどころか、そもそも彼らは別の使命を帯びていたりもする。この問題は、多くのインバウンド関係者が実情を知りながら、見て見ぬふりをしています。次回はその問題を取り上げます。(2011年10月) http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column_64.html
by sanyo-kansatu
| 2012-05-07 20:08
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