2013年 06月 10日
6月6日、JA大手町カンファレンスで一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の第1回総会が開催されました。AISOは、訪日外客の4分の3を占めるアジアからの観光客の手配を担当するツアーオペレーター(ランドオペレーター)を中心に、ホテルやアミューズメント施設などの各種サプライヤー、自治体などを会員として構成される組織です。 一般社団法人アジアインバウンド観光振興会 http://shadanaiso.net/ 総会終了後 「アジアインバウンドの最新動向」というテーマで各エリアのツアオペ担当者による報告がありました。今年の夏は訪日アジア客で活況を呈することになりそうです。 ■「中国プライス」広まりへの危惧 まず、常務理事の株式会社トライアングルの河村弘之社長による全体挨拶からです。 河村氏は、日本旅行業協会(JATA)が今年3月に発表した「ツアーオペレーター品質認証制度」について話を始めました。 ツアーオペレーター品質認証制度 http://www.tour-quality.jp/ この制度が発足した背景には以下の状況認識があります。 「昨今ツアーオペレーター業者間で価格競争が激化し、その結果価格重視で低品質のツアーが数多く見受けられるようになり、また消費者保護、コンプライアンスなどを軽視する業者も散見されます。同制度の導入により、訪日旅行者が安全、安心で良質な旅行を楽しんでいただき、認証された事業者は顧客からの支持・信頼を得やすくなる効果を期待しています」(JATAニュースリリース2013年2月27日より) 6月3日、JATAは同制度の第1期認証23社を発表しています。今後年に2回認証申請を受け付けるとのことです。 第1期認証23社 http://www.tour-quality.jp/list/index.html 業界大手が並ぶ第1期の23社についてはともかく、河村氏はようやく業界としてツアオペの認証制度が開始されたことは評価すべきだといいます。中小企業の集まりであるAISOとしては、今後認証を得やすくなることを期待し、団結してセールスしようと呼びかけました。なぜなら、インバウンドにおいて本当のライバルは他国の業者だから、です。 最近「中国プライス」と呼ばれる訪日旅行の低価格化を、中国の旅行業者が東南アジア市場に持ち込もうとしていることに、河村氏は大いに危惧しているという話が気になりました。この点については、あらためて確認したいと思います。 ■中国マーケットの二極化への対応 次は、中国本土市場でビジネスを展開している株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事の報告です。 JNTOの統計によると、2013年4月の訪日外客数で唯一中国だけが前年度比33%減となっています。しかし、6月に入り、地域的にバラつきはあるとはいえ、中国客は戻りつつあるといいます。政治の中心、北京はまだ芳しくないものの、上海や広東では夏のツアー募集状況はいいようで、今年の夏は期待していいそうです。 ただし、中国のマーケットはすでに二極化していることを認識すべきだと石井理事は指摘します。確かに中国市場はパイが大きいけれど、どういう層のお客さまを取り込むかについては、よく考える必要があるというのです。やみくもに数だけ追っても、低価格化の圧力にさらされるだけだからです。その意味で、我々は試されている、といいます。 ■年間訪日客250万人のお隣の国、韓国 韓国市場についての報告は(株)四季の旅の鄭眞旭社長です。日本の旅行大手のインバウンド事業会社で経験をつみ、2010年11月北海道で創業した同社は、いきなり東日本大震災に見舞われ、苦労したそうです。しかも、震災の影響が過ぎ去ったかと思うと、今度は日韓関係の悪化で韓国客はさらに激減しました。 それでも、韓国は年間訪日客250万人のお隣の国です。鄭社長はそう会員に呼びかけます。 今年に入って、円安の影響もあり、徐々に韓国客が戻ってきたそうです。JNTOの統計でも、4月は前年度比33.7%増となっています。 ■訪日客は急増しているが、新興市場のタイには問題も タイ市場の報告は、株式会社アサヒホリディサービスの和田敏男国際旅行部長です。 和田氏によると、今年の東南アジア市場における同社の取り扱いは、シンガポールが低迷、タイ、インドネシアは80%増と明暗がはっきり分かれるそうです。タイ市場急増の背景としては、中間層が増えてきたこと。タイ航空が訪日旅行に前向きで、驚くようなキャンペーン料金を打ち出したことも大きいそうです。もちろん、円安効果が絶大といえます。 タイ、マレーシアなど一部の東南アジア諸国に対する昨年6月の数次ビザ発給に続き、今年夏さらなるビザ発給要件の緩和が見込まれ、東南アジアの訪日客は激増することは必至。この夏、都内のホテルは“ひっちゃかめっちゃか”になりそうとも。 というのも、タイの観光行政はルールがあいまいで、ルート変更やキャンセルも多く、現地の旅行業界のスタッフもアウトバウンド客の取り扱いに慣れていないため、現場が混乱するケースが多いからだといいます。来日途中でのルートやホテル、食事の変更などが多発しているそうです。 それでも、タイには日本企業の工場も多く、社員の研修旅行などインセンティブツアーの需要も大きいこと。若い世代がアニメフェアやゲームショーといった文化的なイベントに合わせたツアー企画に対して食いつきがよく、企画次第で今後さまざまな可能性のある市場であることは確かだといいます。 ■マレーシアでもインセンティブが動き出した マレーシアとインドネシア市場については、AISCのミッキー・ガン氏が報告します。 4月の統計では、マレーシアは前年度比20.1%増、インドネシアは前年度比61.3%増。 「やっとこういう時代になってきた」と喜びの声を上げるミッキー・ガン氏ですが、その理由は「国によってインバウンドの中身は違うということに、ようやく多くの人が気づいてくれるようになったこと」だといいます。 マレーシアでもインセンティブツアーが動き出しているそうです。背景には自治体の誘致活動の成果があるといいます。 ■香港市場は新しい企画さえあれば売れる! 最後に、AISO理事長の王一仁日本ワールドエンタ-プライズ株式会社社長が、香港市場を中心に報告しました。 王氏はまずJNTOの4月の統計を読み上げます。「香港前年度比24.3%アップ、台湾前年度比42.5%アップ、フィリピン前年度比16.6%アップ、韓国前年度比33.7%アップ……」 JNTO2013年4月訪日外客数 http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/130522_monthly.pdf そして、「今年に入り、アジアインバウンドは絶好調です」。 なかでも香港市場は75%が個人旅行(FIT)。2年前、香港にセールスに言っても「日本は本当に安全なのか?」。そればかり聞かれましたが、今年は「新しい企画を持ってきてくれ。企画さえ新しければ売れる」と言われるそうです。なぜって、中国は空気が悪いし、鶏インフルがこわい。韓国は北朝鮮問題がある。香港人は日本に行きたいのです、とのこと。 最近、同社にはフィリピンからの問い合わせも増えているそうです。東京を中心にした魅力的なオプショナルコースの開発が求められているといいます。 問題は、土曜日のホテルの確保だそうです。週末は都内のホテルの日本人利用率が高いため、なるべく土曜日は東京を外した日程を組まなければならなくなるからです。 最後に、王理事長は今回の報告をこう総括しました。「アジア客に対しても中身で売る時代がついにやってきました。東京を中心にこれまでアジア客が利用してこなかったようなホテルやテーマパーク、アトラクションなどを組み合わせた多彩な周遊コースを提案していただきたい。我々がそれをアジアマーケットにセールスします」。 ※今年の夏、アジアインバウンドは盛り上がりそうです。中国市場も回復するとすれば、なおさらです。ただし、それぞれのエリアの報告者たちが語る国・地域による市場の成熟度の違い、また同じ国・地域においての市場の二極化の諸相をきちんと見極め、自分はどの層を取り込みたいのか、どこにアプローチしていくべきか、その判断が問われる時代になりそうです。
by sanyo-kansatu
| 2013-06-10 15:02
| “参与観察”日誌
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