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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 07月 01日

タイのビザ免除で、むしろタイ政府側に不法就労再発の懸念があるらしい

本日7月1日より、タイとマレーシアの訪日観光ビザが免除されることになりました。

タイ国民に対するビザ免除(外務省)2013年6月25日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000361.html

ところが、タイではこれを歓迎するどころか、おかしな反応があります。

日本の観光ビザ免除、タイ外相が不法就労者増に懸念
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=2207

以前、ニュージーランドがタイ人の観光ビザ免除を実施したところ、観光で入国した後、失踪者が続出したため、免除が取り消された前例があったからです。タイの外相は同じことが起こらないようにと国民に訴えたというのです。

通常、ビザ免除協定は両国の交渉の中で進められるものではないかと思うのですが、タイ側からこうした反応が出るのはどうしたことか。

もしかしてタイのビザ免除は少々勇み足ではなかったか? そんな疑問も出てきます。

一般のタイ人も、1980年代以降の不法就労問題で、日本はビザの厳しい国だという認識が定着していただけに、逆に驚いている様子です。もちろん、これでタイの観光客は増えるでしょうが、それだけの話に終わるかどうか、少し気がかりといえなくもありません。

先日、旅行作家の下川裕治さんに会いました(→「タイ人はイチゴが大好き!? 旅行作家・下川裕治さんが語る『タイ人客はドーンと受け入れてあげるといい』」)。下川さんは1990年代当時、不法就労のタイ人を支援する活動を個人的に続けていました。そこで、今回のビザ免除について尋ねたところ、もちろん基本的には歓迎すべきこととしながらも、「今回のことで、タイ人がたくさん来日すると、また警察から電話がかかってきたり、いろいろ大変になるんじゃないか」と苦笑交じりで話していました。仮に大変になったとしても、これまでどおり受けとめていこうという、いかにも下川さんらしいコメントでした。

そのトークイベントには下川さんの古いタイの友人の女性もいました。興味深いことに、タイ人である彼女も不法就労問題の再発を懸念していました。彼女は1990年代当時のことをよく知っている在留タイ人のひとりです。イベントには、タイの事情に詳しい関係者も多くいて、タイ側ではすでに若い女性を日本に送ろうとするブローカーがいるらしいことも話していました。

一方で、日本の宿泊施設はデフレが進みすぎて、タイ人の感覚でも安いと感じるはずだという声もありました。たとえば、タイの王室保養地であるファヒンのビーチリゾートに一泊すると食事なしで4000B(約1万2000円)はするのに、熱海は2食付の温泉旅館一泊8000円がざら。これならタイ人は日本に行くほうが安いと思うだろうと。

またノービザとなることで、草の根レベルの商務渡航が増えるだろうという指摘もありました。航空券を買うだけで、2週間日本に自由に滞在できるというのは、これまで考えられなかったことなので、タイのビジネスマンが喜んで来日するだろうというのです。

ところで、これは個人的な見解にすぎませんが、今回のタイ人のビザ免除の背景には、尖閣問題以降の中国人観光客の減少をカバーしようとしたことが表向きの理由でしょうが、安部政権の東南アジアシフト政策の一環として後押しされたことも確かでしょう。

ただし、それは中国軽視という外交姿勢上のメッセージを中国側に与えただろうことが想像されます。

なぜなら、いまの中国人ほど、ビザ問題に敏感な国民はいないからです。端的にいうと、彼らは世界から差別されているという認識を強く持っています。中国が不法移民大国であることは間違いないので、そのジレンマを抱える彼らを尻目に、タイやマレーシアが先にビザ免除されたことは、中国側からすると、あてつけ的な施策に映るのではないかと思われます。

中国人のビザをめぐる不満に関しては、以下参照。
http://inbound.exblog.jp/20514969/

ビザという外国人流入の調整弁をどうコントロールするかについては、立場によって見解が異なるのは言うまでもありません。

いずれにせよ、ビザ免除によってタイからの渡航者は増えることでしょう。すべてがきれいごとで進むはずもないのですから、今後の行方を見守っていくほかありません。タイ人客の増加で、ニッポンのインバウンドに新しい風が吹くことを期待したいと思います。

by sanyo-kansatu | 2013-07-01 15:07 | “参与観察”日誌


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