2013年 07月 18日
以前、HISのタイでの取り組みを簡単に紹介しましたが(→「HISタイの訪日旅行の取り組みは要注目です」)、ここでは今年上半期の新聞各紙に掲載された同社の記事をピックアップしたいと思います。 「HIS、世界企業へ離陸 東南アジアで消費者開拓 現地ニーズ、きめ細かく」(日経MJ2013年1月28日) 「日本人向けに格安航空券や割安な旅行商品の販売で成長していたエイチ・アイ・エス(HIS)がアジアを中心に販売網を着々と拡充しているほか、昨年末にはタイにチャーター便子会社を設立し、現地の消費者への売り込みに力を入れ始めた。日本企業から世界企業へ脱皮できるか」 同記事では、タイのバンコクでの動向を紹介しています。 「(今年)2月、HISはタイ・バンコクにある旗艦店舗『トラベルワンダーランド・バンコク』を約1.5倍の約390平方メートルに広げる。2010年に開いたばかりの同店だが、増える来店客に対応するため、拡張に踏み切ることにした」。 「タイではバンコクを中心に販売店舗を13年10月期中に現在の3店から10店前後に拡大」 「日本のように大々的なテレビCMは放映しないものの、タイでは昨年から空港と市街地を結ぶ列車にラッピング広告を掲載するなどして知名度向上を急いでいる」 「商品開発も現地のニーズに合わせ、日本ではなく、国・地域ごとに進める。現時点で世界46カ国・地域101都市138拠点が仕入れた宿泊施設や航空券などから、販売地域の消費者のニーズに合ったものを選び、作り上げていくというのが同社の手法だ」 こうしたHISの取り組みに欠かせないのが人材の育成です。 「昨年7月には、様々な海外企業がインターンシップ情報を載せることができるドイツ語サイトに同社も募集を出した。アジア・欧州の学生を中心に21カ国・地域から約50人が応募。選考を経て昨年11月から10人が、2カ月~1年の期間で日本で就業体験を始めている。13年度入社の新卒社員も約670人のうち約20人が外国人で、世界各地の拠点に配置していく計画だ」 「航空機・ホテル 自前で 垂直統合で商品差異化」(日経MJ同上)では、HISの世界戦略のビジネスモデルを次のように説明しています。 「HISが販売拠点を通じてアジアの消費者を開拓する上で切り札の一つにしようとしているのが『垂直統合モデル』だ。航空機からホテル、テーマパークまでをグループで保有。交通手段から宿泊施設まで自前でまかなえる商品を加えることで差異化を図り、収益拡大を目指す」 昨年12月、HISはタイにチャーター航空便の運航を目的とした子会社「アジア アトランティック エアラインズ(AAA)」を設立。7月下旬から9月下旬にかけて成田・関空とバンコクをつなぐチャーター便のフライトを開始します。「秋や年末年始は日本、国慶節や春節は中国、イスラム圏は断食明けと、各国の旅行シーズンにあわせて就航都市を決め、需要を取り込む」といいます。 同じことは、2010年に子会社化したハウステンボスについてもいえます。尖閣問題で運休に追い込まれたものの、長崎と上海をむすぶクルーズ会社「HTBクルーズ」も立ち上げています。 アジア アトランティック エアラインズ(AAA) http://www.his-j.com/airline/asia_atlantic_airlines.html HTBクルーズ http://htbc.co.jp/ HISがモデルとしているのは「ドイツにある世界最大手の旅行会社TUI」だそうです。同社は「傘下にはチャーター便会社やホテルを持つ。観光需要が見込めるシーズンにチャーター路線を飛ばすことで、定期路線ではまかないきれない地域に観光客を送り、需要を獲得している」 「成長事情を押さえ 大手追う 知名度向上課題に」(日経MJ同上)では、日本の海外旅行のシェアではトップのJTBとHISの海外戦略の違いを次のように指摘しています。 「JTBは日本での高い知名度と、得意とする法人・団体旅行事業を生かし、まず日系企業にアプローチ。企業の報奨旅行や従業員の旅行需要から取り込もうとしている。 HISは対照的に、最初から直接現地の消費者に販売する戦略を採る。課題は各国での知名度向上だ」 タイをはじめアジア各国での出店を加速させる背景には、知名度向上があるといいます。タイでの多店舗化による地元消費者へのアプローチが今後どのように進んでいくのか、とても興味深いといえます。 HISタイ http://www.his-bkk.com/th 同記事の中では、HISの平林朗社長の短いインタビューも掲載しています。 海外事業は東南アジアの開拓から力を入れている理由について、平林社長は「先行事業者がいない上に市場が拡大している。米同時多発テロまで海外旅行者が安定的に増えた日本のように同地域でも海外旅行者は増えていく。この3~4年でシェアを取れれば後は成長スピードが加速する」といいます。また、東南アジアに加え、今後は南米市場も開拓していくそうです。 平林社長はHISの海外展開について「3年後には海外での事業規模が日本を逆転させるようにさせたい」と答えています。 一方日本での事業の位置付けについては「まだまだ成長できる。シニア層の旅行需要があるからだ。格安航空券のHIS、学生の味方のHIS、海外旅行のHISという形で成長してきたが、コアコンピタンス(得意分野)は個人旅行だ。団体旅行を得意とする日本の旅行会社とはそこが異なる」と述べています。 同様の内容は「旅行需要、東南アで開拓 海外取扱高3500億円に」(日本経済新聞2013年2月23日)でも報じられています。 「旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)は東南アジアで現地消費者の旅行需要を開拓する。まずタイとインドネシアで今年から販売店の多店化に着手し、他の国にも順次取り組みを広げる。同社は海外での旅行取扱高を3~5年後に3500億円前後と現在の6倍弱に増やす計画を持つ。東南アジアでは多数の店舗を持つ現地資本の大手旅行会社がなく、増加している中高所得者層の旅行需要を取り込む」 バンコクにおける多店化として「人通りの多いターミナル駅構内やショッピングセンター内などに数十平方メートルの小型店を出しブランド知名度を上げる」。インドネシアでは「昨年9月に主力店を拡張したジャカルタで近く新店を追加。その後も順次店を増やす」といいます。 東南アジア開拓の背景には「アジアの旅行市場では中国は中国国際旅行社、韓国はハナツアーといった現地大手が強い。東南アジアは現地に大手がなくHISは市場開拓の余地が大きいとみる」ためだといいます。 さて、6月に入ると、13年4月期の同社の決算報告が報じられています。 「HIS、純利益最高 旅行事業は減益に」(日本経済新聞2013年6月8日) 「エイチ・アイ・エス(HIS)が7日に発表した2012年11月~13年4月期の連結純利益は、前年同期比13%増の46億円だった。テーマパーク事業の好調がけん引し、上期として過去最高益を更新した。主力の旅行事業は中国方面の旅客減や円安による海外ホテル代金の増加で不振だったが、これを補った」 旅行事業が減益となった背景として「領土を巡る対立を背景に中国や韓国向けの取扱人数は16万人程度減った。より単価の高いハワイやグアム向けが増えたほか、タイなど海外支店での旅行手配も伸ばし、旅行事業の売上高は4%増えたが、円安による採算悪化を補いきれなかった」と分析しています。 海外支店の売上が本体に貢献するという流れは、これからますます強まっていくのでしょうか。日本の旅行業界の新しい方向性としてHISの今後を大いに注目したいと思います。
by sanyo-kansatu
| 2013-07-18 13:24
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