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2013年 07月 27日

東北に外国人客は戻ったのか?【2013年上半期⑨震災2年後の東北観光】

「東北観光もっと来て 昨年の6県宿泊客 10年比で8割」(朝日新聞2013年3月9日)
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「東北6県を2012年に観光で訪れ、宿泊した人の数が、東日本大震災前の10年より2割ほど少ない水準にとどまったことが8日、わかった。全国的には震災前の水準にほぼ戻っているのとは対照的だ。震災や原発事故の影響が残るが、県によっても差は大きい」といいます。

●東北6県と全国の観光宿泊客(観光庁調べ)

          2012年     10年比    11年比
全国     2億1285万人  ▼1.6%      2.6%
東北6県     1708万人  ▼19.0%   ▼5.9%
青森県       142万人  ▼8.9%    ▼8.2%
岩手県       288万人  ▼0.2%     1.6%
宮城県       369万人  ▼13.8%    0.8%
秋田県       142万人  ▼45.6%   ▼26.9%
山形県       293万人  ▼13.3%   ▼3.5%
福島県       472万人  ▼25.6%   ▼7.7%

観光庁の統計によると、2012年の観光宿泊客は東北6県で延べ約1708万人で、震災前の10年比で19.0%少ないことがわかります。県によってばらつきがあり、特に秋田県の回復の遅れが目立ちます。

「東北の回復の遅れは、東京電力福島第一原発事故による風評被害が続いているとの見方が強い」とのこと。まあそうでしょうね。

ところが、GWが近づくころになると、報道のトーンが大きく変わっていきます。

「東北 観光客戻る 福島・宮城、連休の宿泊2~3割増 復興応援・歴史ツアー人気」(産経新聞2013年4月26日)

「東日本大震災で被災した東北の観光が本格的に回復してきた。5月の大型連休の予約宿泊数は福島県や宮城県で前年を2~3割上回り、震災前の2010年の水準を超える可能性もある。人気を取り込もうとツアーバスを増やす企業もある。円安による旅行需要の国内回帰を追い風に、被災地ツアーや歴史ブーム、格安航空会社(LCC)がけん引役になっている」というのです。

●2013年GW東北各県の宿泊予約数前年度比(楽天トラベル調べ)

青森県 5%増
岩手県 10%増
秋田県 5%増
山形県 15%増
宮城県 21%増
福島県 33%増

けん引役として挙げられるのが「被災地を視察するツアー」です。

「東日本旅客鉄道は東京から宮城県の石巻・女川などへ行く3コースの復興応援バスツアーを4月から増発。月1回の実施だったのを毎週末に増やしたが、すぐに満席になる状態だ。エイチ・アイ・エスは宮城県南三陸町でワカメなどの養殖作業を体験するツアーが好調で、バスの台数を増やした」そうです。

さらに、東北を舞台にした歴史ドラマの人気も観光客を集めているようです。

「観光再生 『八重』が後押し 会津若松盛況」(日本経済新聞2013年4月27日)

「東京電力福島第1原子力発電所事故の風評被害に悩む福島県に観光客が戻ってきた。事故から2年が過ぎ、放射線への過度な懸念が和らいでいることに加え、1月にスタートしたNHK大河ドラマ『八重の桜』の誘客効果により、舞台である会津若松市に観光客が押し寄せている。福島県は2013年、観光立県としての復活を目指す」

同紙では「日銀福島支店の試算によると、NHK大河ドラマ『八重の桜』の県内経済への波及効果は113億円に上る」「実際、誘客効果は県内各地に及ぶ。福島県が県内9カ所を独自に調査したところ、昨年9月以降の観光客数はおおむね8~9割に達した。会津若松市では1月、2月と震災前を上回っており、この数字が県全体をけん引していることを考慮しても、かなりの回復ぶりといえる」と解説しています。

●福島県で集客が回復する県内施設と7月までの行事

【会津若松市】
・鶴ヶ城天守閣…3月の来場者数は5万人超
・大河ドラマ館…1月オープン、10万人突破
【福島市】
・東北六魂祭…6月1、2日に開催
【相馬市・南相馬市】
・相馬野馬追…7月27、28、29日に開催
【いわき市】
・アクアマリンふくしま…入場者数は震災前の6~7割に回復

ドラマ効果は大河だけではないようです。

「じぇじぇ! 観光客倍増 『あまちゃん』舞台 岩手・久慈へGW11万人」(東京新聞2013年5月10日)

「NHK連続テレビ小説『あまちゃん』のロケ地となっている岩手県久慈市でゴールデンウィーク中、市内の観光施設などの利用者数が前年比二倍の約十一万五千人に上ったことが市の調べで十日、分かった」

「『あまちゃん』効果で、北海道や沖縄など全国から観光客が押し寄せたためで、ロケ地の一つ、海女センター周辺では車の乗り入れ規制を実施した。市の担当者は『海女の実演がある夏にはさらに増えそう』と予想」しています。

同じことは 「岩手観光 朝ドラ効果」(読売新聞2013年5月14日)でも報じられていました。この時期、NHKの大河と朝ドラ効果で観光客急増だなんて、そりゃ毎度のことかもしれませんが、愉快な話です。こうやってみんなで東北を訪ね、旅を楽しむことが復興を応援していることになるのだとしたら……、同じ日本人としてちょっといい気分ですからね。

このように「円安による旅行需要の国内回帰を追い風」に「復興応援」やドラマ効果が結びついて、今年の上半期は東北観光の回復が顕著に見られるようになったとの報道が相次ぎましたが、外国人客は東北に戻ってきたのでしょうか。

冒頭の朝日新聞2013年3月9日によると、「外国人の落ち込みはさらに大きい。東北6県では震災前より7割近く少ない。宿泊客に占める外国人の割合は10年の1.6%から12年は0.6%に下がった」とあります。

「山形市の蔵王温泉は、韓国人や中国人を中心とする外国人観光客が、震災前より9割減った。リゾートホテル従業員で台湾出身の周依静さん(29)は『よく知らない外国人には、東北は全部一緒に見える』。別のホテルの支配人吉原昌次さん(48)は『きっかけは原発事故だが、領土問題の影響もある』と指摘する。

海外からの誘客の厳しさは、仙台空港の利用状況にも表れている。復興需要で好調の国内線とは対照的に、国際線の利用者は震災前から3割減った。昨夏にはいったん全路線が再開したが、日中関係が悪化した昨秋から中国と結ぶ2路線が再び運休した」

「政府の東北観光の振興策も不発に終わっている。中国人観光客を増やそうと、外務省は昨年7月、中国人観光客に対して、岩手、宮城、福島の被災3県で1泊以上することを条件に、数次ビザ(査証)を出し始めた。3年間なら何度でも日本を訪問できる。しかし、2月までの発給数は662件にとどまる。同じビザを出している沖縄県向けの同時期の10分の1に満たない」。

この施策は、中国人にとっての弱みともいえるビザ発給を逆手にとって被災地訪問と引き換えにするように見えるところから、当初から評判はよくありませんでした。最初から結果はわかっていたことではないかと思います。

それにしても、国内客による東北観光の盛り上がりとは対照的に、この夏も外国人客の姿がまだ東北に見られないのだとしたらちょっと残念です。

by sanyo-kansatu | 2013-07-27 12:44 | 気まぐれインバウンドNews


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