2013年 07月 27日
「富士山が世界遺産になるらしい」と最初に報道されたのは、今年4月末のことでした。 世界的な知名度からしても、富士山は日本で最初に世界遺産になってもおかしくないと多くの人が感じていたでしょう。それは、外国の人たちにとってもそうだったようです。以下、登録をめぐる報道を書き出してみます。 「富士山 世界遺産へ 信仰 芸術 日本文化育む」(朝日新聞2013年5月1日) 「国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に、『富士山』(山梨、静岡両県)が登録される見通しとなった。世界遺産委員会の諮問機関が勧告した。共に登録を目指している『武家の古都・鎌倉』(神奈川県)は、日本が単独で世界遺産に推薦したものでは初の『不登録』の勧告で明暗が分かれた。6月16日からカンボジアのプノンペンで開かれる世界遺産委員会で最終的に決まる」 同紙では、「富士山 積年の正夢 『日本人の心』感無量」と「20年にわたって市民らが進めてきた活動」が認められた関係者らの喜びを報じています。 それからしばらく後、プノンペンで開催された委員会で、ついに富士山の世界遺産登録が正式に発表されました。6月下旬のことです。 「富士 万感の絶景」(朝日新聞201年6月23日) 「土壇場の逆転劇だった。22日、正式に世界遺産入りが決まった富士山。事前の除外勧告を覆し、三保松原の登録も認められた」。 同紙では、各国の代表団が三保松原を登録に入れるよう応援演説してくれた様子をこう報じています。 「三保松原の逆転登録を導いたのは、20分に及ぶ各国からの応援演説だった。口火を切ったのはドイツ代表団だ。『三保松原はすばらしい景観。富士山と一体とみなすべきだ』。するとメキシコ、セネガル、タイが賛同。マレーシアの代表団が『富士山の精神文化を語るうえで三保松原は重要』と述べると、カンボジア、ロシア、フランス……と続いた。三保松原から望む富士の風景が画家にインスピレーションを与えた功績をたたえる意見陳述もあった。それぞれの代表団は、英語、仏語、スペイン語などで、たどたどしい発音ながら『ミホノマツバラ』を連呼し、登録に含めることを訴えた。賛同の意見は、日本を除く世界遺産委員会の委員国20カ国のうち19カ国からあり、登録を決定づけた」。 こうなると富士山観光が俄然注目されることになります。 「富士山ツアー有頂天 はとバス予約倍増」(毎日新聞2013年6月25日) 「世界文化遺産登録を機に、富士山(山梨、静岡県)の登山・周遊ツアーが好調だ。世界遺産の構成資産を巡るコースや、英語が話せる添乗員が付くプランを新設するなどツアー会社も知恵を絞る」 「首都圏発の富士登山ツアーを主催する『はとバス』(東京都大田区)。7月からの富士登山ツアーの予約は昨年の9割増し。広報担当者は『週末を中心に満席もある』と話す。7月からは、忍野八海→旧外川家住宅→白糸ノ滝→富士山本宮浅間神社の4カ所の構成資産を巡る新ツアーを実施する」 「富士山 路線バス売り込め 富士急『世界遺産めぐりルート』」(日本経済新聞2013年7月9日) 「富士急行は12日から『世界遺産めぐりルート』の統一名称で路線バスの需要拡大を目指す。全路線が2日間乗り放題となる切符を発売。富士急ハイランド(富士吉田市)を起点に5カ所の構成資産への立ち寄り可能な循環路線を新設した」 ちなみにぼくの地元のバス会社でも、富士急ハイランドへの往復の高速バスと入場券をパックにした「得Q PACK」のチラシを出していました。「世界遺産」をドーンと打ち出しています。 一方、登山者の急増による環境破壊や事故を懸念する声もあります。 「弾丸登山 富士悩む 徹夜登頂 事故の恐れ 入山制限の動き」(朝日新聞2013年6月26日) 「来月1日の山開きに向け、山梨、静岡両県などが『弾丸登山』(山小屋などに泊まらず徹夜で登り下りする0泊2日の登山者を指す)の自粛を呼びかけている」。 同紙によると、富士吉田口からの昨年7~8月の登山者は25万人でしたが、今年は30万人を超すと予測されているそうです。7合目以上の山小屋は14軒で宿泊可能なのは3000人。収容能力からすれば、夏山シーズン中の登山者は18万人余りが適正とする意見もあるそうです。そんなこといっても、確実に増えるであろう登山者をどう管理するか、これは大変そうです。 ところで、富士山の世界遺産登録は訪日外客にも確実に影響を与えています。先日、そう話してくれたのは、アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長です。 「この夏、東南アジア方面からの訪日客が増えてていすが、そのほとんどの人たちが世界遺産に登録された富士山に行きたいと考えているはずです。実際、私の会社でもシンガポール客向けの富士山1泊2日のオプショナルツアーを企画しています。日帰りにしないのは理由があります。彼らは、富士山に登りたいというより、富士山の見える温泉旅館でゆっくり一泊したいと思っているからです。 この夏、このままだと富士山周辺はバスで大混雑になることが予想される。せっかく訪ねた富士山のイメージが悪くなってしまうのが心配です。 特にバスが集中する五合目には、私の会社のツアーでは行かないことにしています。五合目からの眺めが必ずしもいいとはいえないからです。富士山はもっと遠くから眺めたほうが美しい。そういう眺めのいいポイントを選んでお客さんを案内する必要があると感じています」。 東南アジアの人たちは山歩き、いやそもそも外で歩くことがあまり好きではありません。だとすれば、場所や季節によってさまざまに異なる富士山のビューポイントを複数取り入れて案内するといいかもしれません。 プノンペンで富士登山に直接関係のない三保松原を世界遺産登録に導いてくれた世界各国の皆さんの評価から考えても、登山にこだわらず、外国人客向けに眺望に特化したツアーを企画するのは意味があることではないでしょうか。前述の25もあるという世界遺産の構成資産からそれぞれの国の人たちが好みそうなポイントを選んで周遊する特設コースを企画してみる、なんてのはどうでしょう。 どうやらそれは外国人客だけにいえることではないようです。混雑する頂上までの登山をやめて、「ふもと登山」を楽しむというスタイルもあるそうです。 「『山麓の魅力も楽しんで』と、富士吉田市がアピールするのは『ふもと登山』だ。市は7月に4回、富士山の標高に掛けて計223人限定の1人3776円のツアーを企画。山麓の史跡や原生林に親しみながら登り、5合目の山小屋で1泊、頂上には行かず、6合目でご来光を拝んで帰る。担当するJTBコーポレートセールス(東京都新宿区)は『問い合わせが多く、半分が予約で埋まった』と話す」(毎日新聞2013年6月25日) 今年の夏は富士山周辺が相当騒がしくなることは避けられないようですね。富士山観光の新しいスタイルやさまざまなバリエーションがこれからますます求められることになるのだと思います。
by sanyo-kansatu
| 2013-07-27 18:15
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